説明

光電変換素子の製造方法

【課題】吸収スペクトルをシャープにし且つ暗電流を低くすることが可能な光電変換素子を提供する。
【解決手段】一対の電極11,13と、一対の電極11,13の間に配置された光電変換層12aとを含む光電変換部を有し、一対の電極11,13間にバイアス電圧を印加して光電流を取り出す光電変換素子Aの光電変換層12aを、特定波長域の光を吸収して前記光に応じた電荷を発生する1種類の光電変換材料(例えばスズフタロシアニン)と、前記特定波長域を含む前記特定波長域よりも広い範囲の波長域の光に対して透明で且つ前記光電変換材料で発生した電荷の輸送性を有するマトリックス材料(例えばTMM−1)とを、真空中で気化させた後に混合して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層とを含む光電変換部を有し、前記一対の電極間にバイアス電圧を印加して信号を取り出す光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD型やCMOS型のイメージセンサに代表される単板式カラー固体撮像素子では、光電変換する受光部の配列上に3種または4種の色フィルタをモザイク状に配置している。これにより、各受光部から色フィルタに対応した色信号が出力され、これ等の色信号を信号処理することでカラー画像が生成される。
【0003】
しかし、モザイク状に色フィルタを配列したカラー固体撮像素子は、原色の色フィルタの場合、およそ入射光の2/3が色フィルタで吸収されてしまうため、光利用効率が悪く、感度が低いという問題がある。また、各受光部で1色の色信号しか得られないため、解像度も悪く、特に、偽色が目立つという問題もある。
【0004】
そこで、斯かる問題を克服するために、半導体基板の上に3層の光電変換層を積層する構造の積層型固体撮像素子が研究・開発されている(例えば、下記の特許文献1,2)。この積層型固体撮像素子は、例えば、光入射面から順次、B,G,Rの光に対して電荷(電子,正孔)を発生する光電変換層を重ねた受光部構造を備え、しかも各受光部毎に、光電変換層で発生した電荷を蓄積する電荷蓄積部が設けられ、この電荷蓄積部に蓄積された電荷に応じた信号を読み出すことができる信号読み出し回路が設けられる。各光電変換層は一対の電極で挟まれ、一対の電極の一方と電荷蓄積部が電気的に接続されることで、光電変換層で発生して該一方の電極に移動した電荷が電荷蓄積部に蓄積されるようになっている。
【0005】
斯かる構造の撮像素子の場合、入射光が殆ど光電変換されて読み出され、可視光の利用効率は100%に近く、しかも各受光部でR,G,Bの3色の色信号が得られるため、高感度で高解像度(偽色が目立たない)の良好な画像が生成できる。このような積層型固体撮像素子に用いる光電変換層には、吸収スペクトルをシャープにすることと、暗電流を少なくすることが性能として要求されている。
【0006】
一般に、溶液状態の光電変換材料を蒸着等によって薄膜化した場合、分子の会合により、薄膜化後の光電変換材料の吸収スペクトルは、溶液状態のそれよりもブロード化することが知られている。このため、積層型固体撮像素子に用いる光電変換層を、1種類の光電変換材料を成膜して形成するだけでは、要求された吸収スペクトルを実現することが困難である。
【0007】
そこで、光電変換層の吸収スペクトルをよりシャープにするために、光電変換層を、1種類の光電変換材料からなる光電変換材料層と光電変換機能を持たない1種類の電荷輸送層との積層構造で実現する技術が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
又、光電変換層を2種類の材料を混合して形成する技術として、従来、太陽電池の作製において、p型光電変換材料とn型光電変換材料の2種類の光電変換材料を混合して光電変換層を形成するバルクへテロ法が報告されている(特許文献4、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002−502120号公報
【特許文献2】特開2002−83946号公報
【特許文献3】特開2006−93691号公報
【特許文献4】特開2002−76391号公報
【非特許文献1】M.Hiramto,H.Fujiwara,M.Yokoyama,ジャーナル オブ アプライドフィジックス(J.Appl.Phys.) 1992年 72巻 3781頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に開示された技術は、透明な電荷輸送層と光電変換材料層とを積層して光電変換層を形成するものであるが、光電変換材料層自体の吸収スペクトルが光電変換材料の溶液状態のそれよりもブロード化してしまっているため、例えば、薄膜化によって吸収スペクトルのブロード化が顕著となるような光電変換材料を用いた場合には、光電変換層の吸収スペクトルを撮像素子に求められる要求を満たす程度にシャープ化することが難しい。
【0011】
又、バルクヘテロ法は、太陽電池のように広い範囲の光を吸収させたい場合に有効であり、吸収スペクトルを撮像素子に適用できるほどシャープなものにすることは難しい。2種類の光電変換材料の吸収スペクトルが完全に一致すれば、光電変換層の吸収スペクトルをシャープにすることは可能だが、このようなことは考えられないため、2種類の光電変換材料を混ぜることにより、ほとんどの場合、吸収スペクトルはブロード化してしまう。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、吸収スペクトルをシャープにし且つ暗電流を低くすることが可能な光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光電変換素子の製造方法は、一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層とを含む光電変換部を有し、前記一対の電極間にバイアス電圧を印加して信号を取り出す光電変換素子の製造方法であって、近赤外域の光を吸収し、この光に応じた電荷を発生する有機半導体からなる1種類の光電変換材料と、前記近赤外域を含む前記近赤外域よりも広い範囲の波長域の光に対して透明で且つ前記光電変換材料で発生した電荷の輸送性を有する少なくとも1種類のマトリックス材料とを、真空中で気化した後に混合して前記光電変換層を形成するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸収スペクトルをシャープにし且つ暗電流を低くすることが可能な光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である光電変換素子の概略構成を示す断面模式図
【図2】図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図
【図3】図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図
【図4】図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図
【図5】図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の3画素分の断面模式図
【図6】実施例1の素子と比較例1の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図
【図7】実施例2の素子と比較例2の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図
【図8】実施例3の素子と比較例3の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態である光電変換素子の概略構成を示す断面模式図である。
図1に示す光電変換素子Aは、下部電極11と、下部電極11に対向する上部電極13と、下部電極11と上部電極13との間に設けられた光電変換層12aと、下部電極11と光電変換層12aとの間に設けられた電子ブロッキング層12bと、上部電極13と光電変換層12aとの間に設けられた正孔ブロッキング層12cとを含む光電変換部を少なくとも備える。光電変換素子Aは、上部電極13上方から光を当て、光を当てた状態で下部電極11と上部電極13の間にバイアス電圧を印加することで、光電変換層12aで発生した電荷を下部電極11又は上部電極13で捕集して、捕集した電荷に応じた信号を外部に取り出すことが可能になっている。
【0018】
上部電極13は、波長400nm〜2500nmの波長域の光に対して透明な導電性材料で構成された透明電極であり、例えばITOで構成される。本明細書において「ある波長の光に対して透明」とは、その波長の光を約70%以上透過することをいう。上部電極13には図示しない配線によってバイアス電圧が印加される。このバイアス電圧は、光電変換層12aで発生した電荷のうち、電子が上部電極13に移動し、正孔が下部電極11に移動するように、その極性が決められている。もちろん、光電変換層12aで発生した電荷のうち、正孔が上部電極13に移動し、電子が下部電極11に移動するように、バイアス電圧を設定しても良い。又、バイアス電圧は、その値を下部電極11と上部電極13間の距離で割った値が1.0×105V/cm〜1.0×107V/cmの範囲になるように、その値を決めておくことが望ましい。
【0019】
下部電極11は、導電性材料で構成された電極であれば良いが、後述するように、その下方にも入射光を透過させる場合もあるため、上部電極11と同様に透明電極を用いることが望ましい。下部電極11は例えばITOで構成される。
【0020】
光電変換層12aは、その吸収スペクトルをシャープ化するために、主として特定波長域の光を吸収し、この光に応じた電荷を発生する1種類の光電変換材料と、前記特定波長域を含む前記特定波長域よりも広い範囲の波長域の光に対して透明で且つ前記光電変換材料で発生した電荷の輸送性を有する1種類のマトリックス材料との混合層で構成されている。
【0021】
溶液状態でシャープな吸収スペクトルを持つ特定波長域の光を吸収する光電変換材料を、その特定波長域の光に対して透明な電荷輸送性を持つマトリックス材料と混合する(以下では、この混合手法をマトリックスブレンド法という)ことで、光電変換材料の分子同士の会合体形成が抑制される。又、マトリックス材料は特定波長域の光に対して透明であるため、光電変換材料の吸収スペクトルへの影響は少ない。したがって、光電変換層12aをマトリックスブレンド法で形成することで、溶液状態の光電変換材料が持つ吸収スペクトルと同等の吸収スペクトルを実現することができる。尚、マトリックス材料に電荷輸送性を持たせている理由は、光電変換材料で発生した電荷を下部電極11及び上部電極13に移動させる必要があるからである。
【0022】
マトリックスブレンド法は、例えば、塗布法などを用いて、光電変換材料の結晶微粒子をポリマーバインダー等のマトリックス材料に分散させるだけでも効果を得ることができるが、このような方法では、その効果は小さい。そこで、光電変換材料とマトリックス材料を真空中で気化させて分子同士の会合がない状態にしておき、その後、これらの気化した材料同士が基板上で吸着される直前に混ざるように条件を決めることで、光電変換材料の分子同士の相互作用が小さい光電変換層を形成することができ、上記効果を大きくすることができる。
【0023】
光電変換素子Aは、撮像素子に適用するものであるため、光電変換層12aに用いる光電変換材料としては、主として青色(B)の波長域(波長約400nm〜500nm)の光(B光)を吸収するB光電変換材料、主として緑色(G)の波長域(波長約500nm〜600nm)の光(G光)を吸収するG光電変換材料、主として赤色(R)の波長域(波長約550nm〜700nm)の光(R光)を吸収するR光電変換材料、主として近赤外(IR)の波長域(波長約700nm〜2500nm)の光(IR光)を吸収するIR光電変換材料等が挙げられる。又、これらの光電変換材料は光電変換効率等を考慮すると、有機半導体であることが好ましい。
【0024】
B光電変換材料には、例えばメロシアニン系化合物やポルフィリン系化合物を用いることができる。G光電変換材料には、例えばキナクリドン系化合物やメロシアニン系化合物を用いることができる。R光電変換材料には、例えばスクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、及びメロシアニン系化合物を用いることができる。IR光電変換材料には、例えばスズフタロシアニン(SnPc)を用いることができる。
【0025】
尚、マトリックスブレンド法で光電変換材料に混合するマトリックス材料は1種類に限らず、複数種類としても同様に効果を得ることができる。マトリックスブレンド法に用いる光電変換材料がp型半導体の場合、マトリックス材料はn型半導体を用いることが好ましく、逆に光電変換材料がn型半導体の場合、マトリックス材料はp型半導体を用いることが好ましい。特に、マトリックス材料として、p型マトリックス材料と、n型マトリックス材料と、p型マトリックス材料及びn型マトリックス材料のいずれかとを合わせた合計3種類を用いることが好ましい。
【0026】
マトリックス材料としては、上述した条件を満たす有機半導体又は無機半導体であれば良いが、B光電変換材料、G光電変換材料、R光電変換材料、及びIR光電変換材料の全てに混合可能にすることを考えると、基板上に100nmの厚みで薄膜形成した際に、その薄膜が約400nm〜約2500nmまでの波長域の光に対して透明であり、且つ、正孔もしくは電子もしくはその両方の輸送が可能な材料であることが好ましい。このような条件を満たす材料を以下の化1〜化11に列挙した。
【0027】
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】

【0028】
電子ブロッキング層12bは、下部電極11と上部電極13間にバイアス電圧を印加したときに、下部電極11から光電変換層12aに電子が注入されてしまうことで暗電流が増加してしまうのを抑制するために設けられている。
【0029】
電子ブロッキング層12bには、電子供与性有機材料を用いることができる。具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アニールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。
【0030】
電子ブロッキング層12bの厚みは、10nm以上200nm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは50nm以上100nm以下である。この厚みが薄すぎると、暗電流抑制効果が低下してしまい、厚すぎると光電変換効率が低下してしまうためである。
【0031】
実際に電子ブロッキング層12bに用いる材料は、隣接する電極の材料および隣接する光電変換層の材料により、選択の幅が規定される。隣接する電極の材料の仕事関数(Wf)より1.3eV以上電子親和力(Ea)が大きく、かつ、隣接する光電変換層の材料のイオン化ポテンシャル(Ip)と同等のIpもしくはそれより小さいIpを持つものがよい。
【0032】
正孔ブロッキング層12cは、下部電極11と上部電極13間にバイアス電圧を印加したときに、上部電極13から光電変換層12aに正孔が注入されてしまうことで暗電流が増加してしまうのを抑制するために設けられている。
【0033】
正孔ブロッキング層12cには、電子受容性有機材料を用いることができる。電子受容性材料としてはC60、C70をはじめとするフラーレンやカーボンナノチューブ、及びそれらの誘導体や、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘導体、トリアゾール化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール化合物などを用いることができる。
【0034】
正孔ブロッキング層12cの厚みは、10nm以上200nm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以上150nm以下、特に好ましくは50nm以上100nm以下である。この厚みが薄すぎると、暗電流抑制効果が低下してしまい、厚すぎると光電変換効率が低下してしまうためである
【0035】
実際に正孔ブロッキング層12cに用いる材料は、隣接する電極の材料および隣接する光電変換層の材料により、選択の幅が規定される。隣接する電極の材料の仕事関数(Wf)より1.3eV以上イオン化ポテンシャル(Ip)が大きく、かつ、隣接する光電変換層の材料の電子親和力(Ea)と同等のEaもしくはそれより大きいEaを持つものが良い。
【0036】
尚、光電変換層12aで発生した電荷のうち、正孔が上部電極13に移動し、電子が下部電極11に移動するように、バイアス電圧を設定する場合には、電子ブロッキング層12bと正孔ブロッキング層12cの位置を逆にすれば良い。又、電子ブロッキング層12bと正孔ブロッキング層12cは両方設けなくてもよく、いずれかを設けておけば、ある程度の暗電流抑制効果を得ることができる。
【0037】
以下、図1の光電変換素子Aを用いた固体撮像素子の構成例について説明する。
【0038】
(第一の構成例)
図2は、図1に示す光電変換素子Aを用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図であり、第一の構成例を示す図である。図2において図1と同様の構成には同一符号を付してある。この固体撮像素子100は、図2に示す1画素が同一平面上でアレイ状に多数配置されたものであり、この1画素から得られる信号によって画像データの1つの画素データを生成することができる。
【0039】
図2に示す固体撮像素子100は、p型シリコン基板1上方に、絶縁層7を介して、図1に示す光電変換部を、下部電極11をp型シリコン基板1側に向けて積層した構成となっている。ただし、この光電変換部は、光電変換層12aで発生した電子が上部電極13に移動し、正孔が下部電極11に移動するように下部電極11にバイアス電圧が印加されるようになっている。又、光電変換層12aの光電変換材料はG光電変換材料としている。又、上部電極13は、電子取り出し用の電極となるため、画素毎に分割された構成となっているが、光電変換部の上部電極13以外の構成要素は全画素で共通の一枚構成となっている。又、下部電極11は、その下方に光を透過させる必要があるため、透明電極となっている。
【0040】
光電変換層12aの光電変換材料として有機半導体を用いた場合、光電変換層12aで発生する電子の多くは上部電極13近傍で発生するため、下部電極11で電子を取り出そうとすると、電子の移動距離が長くなってしまい、再結合等によって取り出せる電子の量が減ってしまう。そこで、電子を長い距離移動させないために、固体撮像素子100では、上部電極13を電子捕集用の電極としている。このようにすることで、電子の移動距離を短くして外部量子効率を上げることができ、感度向上が可能となる。
【0041】
上部電極13上には遮光膜14が形成され、その上には透明な保護膜15が形成されている。p型シリコン基板1内には、その浅い方からn型半導体領域(以下、n領域と略す)4と、p型半導体領域(以下、p領域と略す)3と、n領域2がこの順に形成されている。n領域4の遮光膜14によって遮光されている部分の表面部には、高濃度のn領域(n+領域という)6が形成され、n+領域6の周りはp領域5によって囲まれている。
【0042】
n領域4とp領域3とのpn接合面のp型シリコン基板1表面からの深さはB光を吸収する深さ(約0.2μm)となっている。したがって、n領域4とp領域3は、B光を吸収してそれに応じた電子を発生し、これを蓄積するフォトダイオード(Bフォトダイオード)を形成する。Bフォトダイオードで発生した電子は、n領域4に蓄積される。
【0043】
n領域2とp型シリコン基板1とのpn接合面のp型シリコン基板1表面からの深さは、R光を吸収する深さ(約2μm)となっている。したがって、n領域2とp型シリコン基板1は、R光を吸収してそれに応じた電子を発生し、これを蓄積するフォトダイオード(Rフォトダイオード)を形成する。Rフォトダイオードで発生した電子は、n領域2に蓄積される。
【0044】
n+領域6は、アルミニウム等の導電性材料からなる接続部9によって上部電極13と電気的に接続されており、接続部9を介して、上部電極13で捕集された電子を蓄積する。接続部9は、上部電極13とn+領域6以外とは絶縁膜8によって電気的に絶縁される。
【0045】
n領域2に蓄積された電子は、p型シリコン基板1内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n領域4に蓄積された電子は、p領域3内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n+領域6に蓄積された電子は、p領域5内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換されて、固体撮像素子100外部へと出力される。これらのMOS回路が特許請求の範囲の信号読み出し部を構成する。各MOS回路は配線10によって図示しない信号読み出しパッドに接続される。尚、n領域2、n領域4に引き出し電極を設け、所定のリセット電位をかけると、各領域が空乏化し、各pn接合部の容量は限りなく小さい値になる。これにより、接合面に生じる容量を極めて小さくすることができる。
【0046】
このような構成により、光電変換層12aでG光を光電変換し、p型シリコン基板1中のBフォトダイオードとRフォトダイオードでB光およびR光を光電変換して、カラー撮像を行うことができる。尚、p型シリコン基板1上方の光電変換部の上に更にもう1つ光電変換部を積層し、この光電変換部で発生した電子を蓄積するn+領域をシリコン基板1内に形成しておき、この光電変換部の光電変換材料を、波長400nm〜700nmの可視光に対して透明なIR光電変換材料(例えばSnPc)にすることで、赤外撮像とカラー撮像とを同時に行うことが可能となる。このような固体撮像素子は内視鏡に用いることができる。
【0047】
尚、図2に示す1画素によって画像データの1画素データ分の信号が得られるため、この1画素を1つの光電変換素子ということができる。
【0048】
(第二の構成例)
第二の構成例では、図2に示した固体撮像素子において、p型シリコン基板1内で2つのフォトダイオードを積層するのではなく、入射光の入射方向に対して垂直な方向に2つのフォトダイオードを配列して、p型シリコン基板1内で2色の光を検出するようにしたものである。
【0049】
図3は、図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図であり、第二の構成例を示す図である。図3において図2と同じ構成には同一符号を示してある。
【0050】
図3に示す固体撮像素子200の1画素は、上部電極13上に開口の設けられた遮光膜34が形成されており、この遮光膜34によって光電変換層12aの受光領域が制限されている。
【0051】
遮光膜34の開口下方のp型シリコン基板1表面には、p領域19とn領域18からなるBフォトダイオードと、p領域21とn領域20からなるRフォトダイオードとが、p型シリコン基板1表面に並んで形成されている。p型シリコン基板1表面上の任意の方向が、入射光の入射方向に対して垂直な方向となる。
【0052】
p領域19とn領域18からなるBフォトダイオードの上方には、透明な絶縁膜7を介してB光を透過するカラーフィルタ28が形成され、その上に下部電極11が形成されている。p領域21とn領域20からなるRフォトダイオードの上方には、絶縁膜7を介してR光を透過するカラーフィルタ29が形成され、その上に下部電極11が形成されている。カラーフィルタ28,29の周囲は絶縁膜で覆われている。
【0053】
p領域19とn領域18からなるBフォトダイオードは、カラーフィルタ28を透過したB光を吸収してそれに応じた電子を発生し、発生した電子をn領域18に蓄積する。p領域21とn領域20からなるRフォトダイオードは、カラーフィルタ29を透過したR光を吸収してそれに応じた電子を発生し、発生した電子をn領域20に蓄積する。
【0054】
p型シリコン基板1表面の遮光膜34によって遮光されている部分に、n+領域6が形成され、n+領域6の周りはp領域5によって囲まれている。
【0055】
n領域18に蓄積された電子は、p型シリコン基板1内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n領域20に蓄積された電子は、p型シリコン基板1内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n+領域6に蓄積された電子は、p領域5内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換されて、固体撮像素子200外部へと出力される。各MOS回路は配線35によって図示しない信号読み出しパッドに接続される。
【0056】
尚、MOS回路の代わりにCCDとアンプによって信号読み出しを行っても良い。つまり、n領域18、n領域20、及びn+領域6に蓄積された電子をp型シリコン基板1内に形成した電荷転送チャネルに読み出し、これをアンプまで転送して、アンプからその電子に応じた信号を出力させるような構成であっても良い。
【0057】
このような構成により、図2の固体撮像素子100と同様に、光電変換層12aでG光を光電変換し、p型シリコン基板1中のBフォトダイオードとRフォトダイオードでB光およびR光を光電変換して、カラー撮像を行うことができる。尚、p型シリコン基板1内に、BフォトダイオードとRフォトダイオードと、G光を検出するGフォトダイオードを同一平面上に並べ、シリコン基板1上方の光電変換部の光電変換材料を、可視光に対して透明なIR光電変換材料(例えばSnPc)にすることで、赤外撮像とカラー撮像とを同時に行うことが可能となる。
【0058】
尚、図3に示す1画素によって画像データの1画素データ分の信号が得られるため、この1画素を1つの光電変換素子ということができる。
【0059】
(第三の構成例)
第三の構成例では、図2のシリコン基板1上方に積層された光電変換部を複数(ここでは3つ)にした構成となっている。
図4は、図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の1画素分の断面模式図であり、第三の構成例を示す図である。図4において図2と同じ構成には同一符号を付してある。
図4に示す固体撮像素子300は、シリコン基板1上方に、絶縁膜7を介して1つ目の光電変換部が下部電極11を基板1側にして積層され、その上に絶縁膜60を介して2つ目の光電変換部が下部電極11を基板1側にして積層され、その上に絶縁膜61を介して3つ目の光電変換部が下部電極11を基板1側にして積層された構成となっている。3つ目の光電変換部の上部電極13上には遮光膜68が形成され、その上に透明な保護膜67が形成されている。
【0060】
図4の例では、1つ目の光電変換部の光電変換材料をR光電変換材料とし、2つ目の光電変換部の光電変換材料をG光電変換材料とし、3つ目の光電変換部の光電変換材料をB光電変換材料としている。以下、1つ目の光電変換部をR光電変換部、2つ目の光電変換部をG光電変換部、3つ目の光電変換部をB光電変換部という。尚、R光電変換部、G光電変換部、B光電変換部の積層順序は図4に示したものに限らない。
【0061】
シリコン基板1表面の遮光膜68によって遮光されている部分には、n+領域43,45,47が形成され、それぞれの周りはp領域42,44,46によって囲まれている。
【0062】
n+領域43は、アルミニウムやタングステン等の金属からなる接続部54を介してR光電変換部の上部電極13と電気的に接続されており、接続部54を介して、上部電極13で捕集された電子を蓄積する。接続部54は、上部電極13とn+領域43以外とは絶縁膜51によって電気的に絶縁される。
【0063】
n+領域45は、アルミニウムやタングステン等の金属からなる接続部53を介してG光電変換部の上部電極13と電気的に接続されており、接続部53を介して、上部電極13で捕集された電子を蓄積する。接続部53は、上部電極13とn+領域45以外とは絶縁膜50によって電気的に絶縁される。
【0064】
n+領域47は、アルミニウムやタングステン等の金属からなる接続部52を介してB光電変換部の上部電極13と電気的に接続されており、接続部52を介して、上部電極13で捕集された電子を蓄積する。接続部52は、上部電極13とn+領域47以外とは絶縁膜49によって電気的に絶縁される。
【0065】
n+領域43に蓄積された電子は、p領域42内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n+領域45に蓄積された電子は、p領域44内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換され、n+領域47に蓄積された電子は、p領域46内に形成されたnチャネルMOSトランジスタからなるMOS回路(不図示)によってその電荷量に応じた信号に変換されて、固体撮像素子300外部へと出力される。各MOS回路は配線55によって図示しない信号読み出しパッドに接続される。尚、信号読み出しは、MOS回路ではなくCCDとアンプによって行っても良い。つまり、n+領域43,45,47に蓄積された電子をシリコン基板1内に形成した電荷転送チャネルに読み出し、これをアンプまで転送して、アンプからその電子に応じた信号を出力させる構成としても良い。
【0066】
このような構成によればカラー撮像が可能となる。尚、図4のB光電変換部と遮光膜68との間に更にもう1つ光電変換部を設け、この光電変換部の光電変換材料を可視光に対して透明なIR光電変換材料とすることで、赤外撮像とカラー撮像とを同時に行うことが可能となる。
【0067】
尚、図4に示した1画素によって画像データの1画素データ分の信号が得られるため、この1画素を1つの光電変換素子ということができる。
【0068】
(第四の構成例)
図5は、図1に示す構成の光電変換素子を用いた固体撮像素子の3画素分の断面模式図であり、第四の構成例を示す図である。
【0069】
n型シリコン基板101上にはpウェル層102が形成されている。以下では、n型シリコン基板101とpウェル層102とを併せて半導体基板という。半導体基板上方の同一面上の行方向とこれに直交する列方向には、主としてR光を透過するカラーフィルタ113rと、主としてG光を透過するカラーフィルタ113gと、主としてB光を透過するカラーフィルタ113bとの3種類のカラーフィルタがそれぞれ多数配列されている。
【0070】
カラーフィルタ113rは、公知の材料を用いることができるが、このような材料は、R光の他にIR光の一部も透過する。カラーフィルタ113gは、公知の材料を用いることができるが、このような材料は、G光の他にIR光の一部も透過する。カラーフィルタ113bは、公知の材料を用いることができるが、このような材料は、B光の他にIR光の一部も透過する。
【0071】
カラーフィルタ113r,113g,113bの配列は、公知の単板式固体撮像素子に用いられているカラーフィルタ配列(ベイヤー配列や縦ストライプ、横ストライプ等)を採用することができる。
【0072】
カラーフィルタ113r下方のpウェル層102内には、カラーフィルタ113rに対応させてn型不純物領域(以下、n領域という)103rが形成されており、n領域103rとpウェル層102とのpn接合によって、カラーフィルタ113rに対応するRフォトダイオードが構成されている。
【0073】
カラーフィルタ113g下方のpウェル層102内には、カラーフィルタ113gに対応させてn領域103gが形成されており、n領域103gとpウェル層102とのpn接合によって、カラーフィルタ113gに対応するGフォトダイオードが構成されている。
【0074】
カラーフィルタ113b下方のpウェル層102内には、カラーフィルタ113bに対応させてn領域103bが形成されており、n領域103bとpウェル層102とのpn接合によって、カラーフィルタ113bに対応するBフォトダイオードが構成されている。
【0075】
n領域103r,g,bの各々の上方にはカラーフィルタ113r,113g,113bの各々に対応して分割された下部電極11が形成されている。下部電極11は、透明電極であり、例えばITOで構成される。
【0076】
下部電極11の上には、電子ブロッキング層12b、光電変換層12a、正孔ブロッキング層12c、及び上部電極13がこの順に積層されている。光電変換層12bを構成する材料はIR光電変換材料である。図6の固体撮像素子では、光電変換層12aで発生した電子が下部電極11に移動し、正孔が上部電極13に移動するように、上部電極13にバイアス電圧が印加されている。
【0077】
カラーフィルタ113rに対応する下部電極11と、それに対向する上部電極13と、これらに挟まれる光電変換層12aの一部とにより、カラーフィルタ113rに対応する光電変換素子が形成される。以下では、この光電変換素子を、半導体基板上に形成されたものであるため、R基板上光電変換素子という。
【0078】
カラーフィルタ113gに対応する下部電極11と、それに対向する上部電極13と、これらに挟まれる光電変換層12aの一部とにより、カラーフィルタ113gに対応する光電変換素子が形成される。以下では、この光電変換素子を、半導体基板上に形成されたものであるため、G基板上光電変換素子という。
【0079】
カラーフィルタ113bに対応する下部電極11と、それに対向する上部電極13と、これらに挟まれる光電変換層12aの一部とにより、カラーフィルタ113bに対応する光電変換素子が形成される。以下では、この光電変換素子を、半導体基板上に形成されたものであるため、B基板上光電変換素子という。
【0080】
pウェル層102内のn領域103rの隣には、R基板上光電変換素子の光電変換層12aで発生した電荷を蓄積するための高濃度のn型不純物領域(以下、n+領域という)104rが形成されている。尚、n+領域104rに光が入るのを防ぐために、n+領域104r上には遮光膜を設けておくことが好ましい。
【0081】
pウェル層102内のn領域103gの隣には、G基板上光電変換素子の光電変換層12aで発生した電荷を蓄積するためのn+領域104gが形成されている。尚、n+領域104gに光が入るのを防ぐために、n+領域104g上には遮光膜を設けておくことが好ましい。
【0082】
pウェル層102内のn領域103bの隣には、B基板上光電変換素子の光電変換層12aで発生した電荷を蓄積するためのn+領域104bが形成されている。尚、n+領域104bに光が入るのを防ぐために、n+領域104b上には遮光膜を設けておくことが好ましい。
【0083】
n+領域104r上にはアルミニウム等の金属からなるコンタクト部106rが形成され、コンタクト部106r上に下部電極11が形成されており、n+領域104rと下部電極11はコンタクト部106rによって電気的に接続されている。コンタクト部106rは透明な絶縁層107内に埋設されている。
【0084】
n+領域104g上にはアルミニウム等の金属からなるコンタクト部106gが形成され、コンタクト部106g上に下部電極11が形成されており、n+領域104gと下部電極11はコンタクト部106gによって電気的に接続されている。コンタクト部106gは絶縁層107内に埋設されている。
【0085】
n+領域104b上にはアルミニウム等の金属からなるコンタクト部106bが形成され、コンタクト部106b上に下部電極11が形成されており、n+領域104bと下部電極11はコンタクト部106bによって電気的に接続されている。コンタクト部106bは絶縁層107内に埋設されている。
【0086】
pウェル層102内のn領域103r,103g,103b、n+領域104r,104g,104bが形成されている以外の領域には、Rフォトダイオードで発生してn領域103rに蓄積された電荷に応じた信号及びn+領域104rに蓄積された電荷に応じた信号をそれぞれ読み出すための信号読み出し部105rと、Gフォトダイオードで発生してn領域103gに蓄積された電荷に応じた信号及びn+領域104gに蓄積された電荷に応じた信号をそれぞれ読み出すための信号読み出し部105gと、Bフォトダイオードで発生してn領域103bに蓄積された電荷に応じた信号及びn+領域104bに蓄積された電荷に応じた信号をそれぞれ読み出すための信号読み出し部105bとが形成されている。信号読み出し部105r,105g,105bは、それぞれ、CCDやMOS回路を用いた公知の構成を採用することができる。尚、信号読み出し部105r,105g,105bに光が入るのを防ぐために、信号読み出し部105r,105g,105b上には遮光膜を設けておくことが好ましい。
【0087】
上部電極11上には保護層112が形成され、保護層112上にカラーフィルタ113r,113g,113bが形成され、カラーフィルタ113r,113g,113bの各々の上には、各々に対応するn領域103r,103g,103bに光を集光するためのマイクロレンズ114が形成されている。
【0088】
以上のような構成の固体撮像素子400では、入射光のうちのカラーフィルタ113rを透過した光のうちのIR光が光電変換層12aで吸収され、ここでIR光に応じた電荷が発生する。同様に、入射光のうちのカラーフィルタ113gを透過した光のうちのIR光が光電変換層12aで吸収され、ここでIR光に応じた電荷が発生する。同様に、入射光のうちのカラーフィルタ113bを透過した光のうちのIR光が光電変換層12aで吸収され、ここでIR光に応じた電荷が発生する。
【0089】
下部電極11と上部電極13に所定のバイアス電圧を印加すると、R基板上光電変換素子を構成する光電変換層12aで発生した電荷がn+領域104rに移動し、ここに蓄積される。そして、n+領域104rに蓄積された電荷に応じた信号が、信号読み出し部105rによって読み出され、固体撮像素子400外部に出力される。同様に、G基板上光電変換素子を構成する光電変換層12aで発生した電荷がn+領域104gに移動し、ここに蓄積される。そして、n+領域104gに蓄積された電荷に応じた信号が、信号読み出し部105gによって読み出され、固体撮像素子400外部に出力される。同様に、B基板上光電変換素子を構成する光電変換層12aで発生した電荷がn+領域104bに移動し、ここに蓄積される。そして、n+領域104bに蓄積された電荷に応じた信号が、信号読み出し部105bによって読み出され、固体撮像素子400外部に出力される。
【0090】
又、カラーフィルタ113rを透過して光電変換層12aを透過したR光は、Rフォトダイオードに入射し、入射光量に応じた電荷がn領域103rに蓄積される。同様に、カラーフィルタ113gを透過して光電変換層12aを透過したG光は、Gフォトダイオードに入射し、入射光量に応じた電荷がn領域103gに蓄積される。同様に、カラーフィルタ113bを透過して光電変換層12aを透過したB光は、Bフォトダイオードに入射し、入射光量に応じた電荷がn領域103bに蓄積される。n領域103r,103g,103bに蓄積された電荷は、信号読出し部105r,105g,105bによって読み出され、固体撮像素子400外部に出力される。
【0091】
n領域103r,103g,103bから読み出された信号の配列は、ベイヤー配列の単板式カラー固体撮像素子から出力される信号の配列と同様となるため、単板式カラー固体撮像素子で用いられる信号処理を行うことで、1つの画素データにR,G,Bの3つの色成分のデータを持たせたカラー画像データを生成することができる。又、n+領域104r,104g,104bから読み出されて出力された信号により、1つの画素データに赤外の色成分のデータを持たせた赤外画像データを生成することができる。
【0092】
このように、固体撮像素子400は、Rフォトダイオードで発生した電荷に応じたR成分の信号と、Gフォトダイオードで発生した電荷に応じたG成分の信号と、Bフォトダイオードで発生した電荷に応じたB成分の信号と、R基板上光電変換素子で発生した電荷に応じたIR成分の信号と、G基板上光電変換素子で発生した電荷に応じたIR成分の信号と、B基板上光電変換素子で発生した電荷に応じたIR成分の信号とを外部に出力することができる。このため、固体撮像素子400を用いれば、1回の撮像で、カラー画像データと赤外画像データの2種類の画像データを得ることができる。したがって、この固体撮像素子400を、例えば、人体の検査対象となる部位の外観映像と、その部位の内部映像とが必要となる内視鏡装置の撮像素子として利用することができる。
【0093】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0094】
(実施例1)
25mm角のITO電極付ガラス基板を、アセトン、セミコクリーン、イソプロピルアルコール(IPA)でそれぞれ15分超音波洗浄した。最後にIPA煮沸洗浄を行った後、UV/O3洗浄を行った。その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATA(tris(-(2-naphthyl)--phenyl-amino)triphenylamine)を抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したスズフタロシアニン(アルドリッチジャパン株式会社製)と昇華精製を行ったTMM-1を抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら合計700Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。このとき、スズフタロシアニンとTMM-1の蒸着速度の比率は1:1とした。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。次に、この基板を、真空中を保ちながらスパッタ室に搬送した。その後、室内を1×10-4Pa以下に保ったまま、正孔ブロッキング層上に、上部電極としてITOを厚み50Åとなるように蒸着した。また、下部電極と上部電極とが形成する光電変換領域の面積は2mm×2mmとした。この基板を大気に曝すことなく、水分、酸素をそれぞれ1ppm以下に保ったグローブボックスに搬送し、UV硬化性樹脂を用いて、吸湿剤を張ったガラスで封止を行った。
【0095】
このようにして作製した素子を、オプテル製定エネルギー量子効率測定装置(ソースメータはケースレー6430を使用)を用いて、上部電極と下部電極間に対し、上部電極を正バイアスとして5.0×105V/cmの外部電界を与えた場合の、光非照射時に流れる暗電流値と光照射時に流れる光電流値を測定しIPCEを算出した。光電変換領域の面積は2mm×2mmのうち1.5mmφの領域に対して上部電極側から光照射を行った。照射した光量は50μW/cmとした。吸収スペクトルについては、石英上に蒸着した光電変換層について、日立分光光度計U-3310を用いて測定を行った。
【0096】
(実施例2)
実施例1と同じ条件で基板洗浄を行い、その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATAを抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したキナクリドン(DOJINDO社製)と昇華精製を行ったTMM-2を抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら合計700Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。このとき、キナクリドンとTMM-2の蒸着速度の比率は1:1とした。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。この上に実施例1と同様の条件でITOを成膜し、さらに封止をした上で実施例1と同様の測定をおこなった。吸収スペクトルについても同様に測定を行った。
【0097】
(実施例3)
実施例1と同じ条件で基板洗浄を行い、その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATAを抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したスクアリリウムと昇華精製を行ったTMM-3を抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら合計700Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。このとき、スクアリリウムとTMM-3の蒸着速度の比率は1:1とした。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。この上に実施例1と同様の条件でITOを成膜し、さらに封止をした上で実施例1と同様の測定をおこなった。吸収スペクトルについても同様に測定を行った。
【0098】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で基板洗浄を行い、その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATAを抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したスズフタロシアニン(アルドリッチジャパン)を単独で抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら膜厚が350Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。この上に実施例1と同様の条件でITOを成膜し、さらに封止をした上で実施例1と同様の測定をおこなった。吸収スペクトルについても同様に測定を行った。
【0099】
(比較例2)
実施例1と同じ条件で基板洗浄を行い,その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATAを抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したキナクリドン(DOJINDO)を単独で抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら膜厚が350Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。この上に実施例1と同様の条件でITOを成膜し、さらに封止をした上で実施例1と同様の測定をおこなった。吸収スペクトルについても同様に測定を行った。
【0100】
(比較例3)
実施例1と同じ条件で基板洗浄を行い,その基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10-4Pa以下に減圧した。その後、基板ホルダーを回転させながら、基板上に電子ブロッキング層として2-TNATAを抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secで厚み1000Åとなるように蒸着した。次に、2回以上昇華精製したスクアリリウムを単独で抵抗加熱法により蒸着速度0.5〜1Å/secに保ちながら膜厚が350Åとなるように蒸着して光電変換層を形成した。続いて、昇華精製を行ったAlqを蒸着速度1〜2Å/secで厚み150Åとなるように蒸着して正孔ブロッキング層とした。この上に実施例1と同様の条件でITOを成膜し、さらに封止をした上で実施例1と同様の測定をおこなった。吸収スペクトルについても同様に測定を行った。
【0101】
図6は、実施例1の素子と比較例1の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図である。
図6に示したように、スズフタロシアニンだけを蒸着して光電変換層を形成した場合よりも、スズフタロシアニンとTMM−1とを混合して光電変換層を形成した場合の方が、吸収スペクトルがシャープになっており、マトリックスブレンド法によって吸収スペクトルをシャープ化できることが証明された。又、実施例1の暗電流値は9.1×10−9A/cm,波長730nmにおけるIPCEは31%となり、比較例1の暗電流値は7.2×10−7A/cm,波長720nmにおけるIPCEは30%となった。この結果から、マトリックスブレンド法を採用することで、IPCEを維持したまま、暗電流値を低くできることが分かった。
【0102】
図7は、実施例2の素子と比較例2の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図である。
図7に示したように、キナクリドンだけを蒸着して光電変換層を形成した場合よりも、キナクリドンとTMM−2とを混合して光電変換層を形成した場合の方が、吸収スペクトルがシャープになっており、マトリックスブレンド法によって吸収スペクトルをシャープ化できることが証明された。又、実施例2の暗電流値は1.2×10−9A/cm,波長540nmにおけるIPCEは27%となり、比較例2の暗電流値は3.4×10−8A/cm,波長560nmにおけるIPCEは27%となった。この結果から、マトリックスブレンド法を採用することで、IPCEを維持したまま、暗電流値を低くできることが分かった。
【0103】
図8は、実施例3の素子と比較例3の素子の吸収スペクトル測定結果を示した図である。
図8に示したように、スクアリリウムだけを蒸着して光電変換層を形成した場合よりも、スクアリリウムとTMM−3とを混合して光電変換層を形成した場合の方が、吸収スペクトルがシャープになっており、マトリックスブレンド法によって吸収スペクトルをシャープ化できることが証明された。又、実施例3の暗電流値は2.3×10−9A/cm,波長660nmにおけるIPCEは37%となり、比較例3の暗電流値は1.1×10−8A/cm,波長680nmにおけるIPCEは36%となった。この結果から、マトリックスブレンド法を採用することで、IPCEを維持したまま、暗電流値を低くできることが分かった。
【符号の説明】
【0104】
11 下部電極
12a 光電変換層
12b 電子ブロッキング層
12c 正孔ブロッキング層
13 上部電極
A 光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された光電変換層とを含む光電変換部を有し、前記一対の電極間にバイアス電圧を印加して信号を取り出す光電変換素子の製造方法であって、
近赤外域の光を吸収し、この光に応じた電荷を発生する有機半導体からなる1種類の光電変換材料と、前記近赤外域を含む前記近赤外域よりも広い範囲の波長域の光に対して透明で且つ前記光電変換材料で発生した電荷の輸送性を有する少なくとも1種類のマトリックス材料とを、真空中で気化した後に混合して前記光電変換層を形成する光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の光電変換素子の製造方法であって、
前記近赤外域は、波長700nm〜2500nmの範囲である光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光電変換素子の製造方法であって、
前記マトリックス材料が有機半導体もしくは無機半導体である光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−191222(P2012−191222A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115618(P2012−115618)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2007−49244(P2007−49244)の分割
【原出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】