説明

共振クロック分配ネットワークの周波数スケール調整された作動のためのアーキテクチャ

共振クロック分配ネットワークのためのアーキテクチャが提示される。このアーキテクチャにより、選択的にイネーブルされるフリップフロップの導入によって、複数のクロック周波数での共振クロック分配ネットワークのエネルギ効率の良い作動が可能になる。提示されたアーキテクチャは、主として一体化インダクタを有する共振クロックネットワーク設計を目的としており、インダクタのオーバヘッドが出現しない。このようなアーキテクチャは一般に、複数のクロック周波数を有しマイクロプロセッサ、ASIC、及びSOC等の高性能かつ低電力のクロッキング要件の半導体デバイスに適用可能である。更に、達成可能な性能レベルの応じた半導体デバイスのビニングに適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本特許出願は、2009年11月12日出願の米国仮出願番号61/250,830「共振クロック集積回路」の優先権を主張するものであり、その全ての開示内容は本明細書に組み込まれている。本特許出願は、以下の特許及び出願に記載された技術に関連し、その全ての開示内容は本明細書に組み込まれている。
2007年5月23日出願の米国仮出願番号60/931,582「プログラム可能な論理デバイスのための共振クロック及び相互接続アーキテクチャ」の優先権を主張する、2009年11月12日出願の米国特許出願番号12/125,009「複数のクロックネットワークを備えるデジタルデバイスのための共振クロック及び相互接続用のアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,154「プログラム可能な駆動回路を備えた共振クロック分配ネットワークアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,158「クロック特性を制御するためのアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,163「インダクタオーバーヘッドなしで共振クロック分配ネットワークの固有周波数を選択する方法」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,166「共振クロック分配ネットワークの固有周波数を調整するためのアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,172「共振クロック分配ネットワークのシングルステッピングのためのアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,174「共振クロックネットワークを従来モードで作動させるアーキテクチャ」、
本出願と同時出願の米国特許出願番号12/903,188「従来のクロック分配ネットワークのパラメータ変動を追跡するための共振クロック分配ネットワークアーキテクチャ」。
【技術分野】
【0002】
本開示は、全体的には、マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、及びシステムオンチップ(SOC)デバイス等の複数のクロックネットワーク及び様々なクロック周波数を有するデジタルデバイスのためのクロック分配ネットワークアーキテクチャに関する。
【背景技術】
【0003】
同期デジタルシステムにおけるクロック信号のエネルギ効率の良い分配のために共振クロック分配ネットワークが提案されている。このネットワークでは、クロック分配ネットワークの寄生容量と共振させるための1つ又はそれ以上のインダクタを使用してエネルギ効率の良い作動が達成される。極端にジッターの少ないクロック分配は、クロックバッファ数の低減により達成される。更に、極端に少ないスキューは、比較的対称的な全メタル分配ネットワーク設計による分配クロック信号の間で達成される。ネットワーク全体の性能は、動作速度及びネットワークの全インダクタンス、抵抗、サイズ、及びトポロジーで決まり、低抵抗の対称ネットワークでは、適切なインダクタンスで設計される場合、結果的にジッター、スキュー、及びエネルギ消費が低減する。
【0004】
実際には、デジタルデバイスは、複数のクロック周波数で作動するように指定及び設計される場合が多い。例えば、高性能マイクロプロセッサは、100MHzから3GHzの範囲の複数のクロック周波数で作動するように設計できる。経時的に異なるクロック周波数のクロック信号で作動する技術は一般に周波数スケーリングと呼ばれており、半導体デバイスの消費電力を低減する必要性が動機になっている。デジタル半導体デバイスの消費電力は、各デバイスが各デジタル値の間で切り替わる速度に比例して増大する。性能要件が低くなると、クロック信号の周波数を低下させてこの速度を低下させることができるので、消費電力が低減する。
【0005】
また、単一の周波数以上でのクロック信号の作動は、デバイス・ビニングとの関連において起こり、換言すれば、製造のばらつきにより同一設計及び機能の他のデバイスよりも高いピーククロック周波数で作動できるプレミアム付きのデバイスの販売である。例えば、「高速の」半導体製造コーナーで作られたマイクロプロセッサ群は、最大3GHzのクロック周波数で作動可能なマイクロプロセッサを含むことができるが、「標準的な」半導体製造コーナーで作られた同一設計のマイクロプロセッサ群は、最大2GHzのクロック周波数で作動可能なマイクロプロセッサを含むことができる。同一の設計ではあるが、最初の「高速」群のマイクロプロセッサは高性能なのでかなり高額で販売できる。
【0006】
複周波数作動に関連する共振クロック分配ネットワーク配置の課題は、一般、これらのネットワークが、共振ネットワークの固有周波数近くを中心にした比較的狭い範囲のクロック周波数に対してその最大効率を達成することである。この狭い範囲外のクロック周波数ではエネルギ効率は著しく低下し、ある程度、共振クロッキングの固有エネルギメリットを上回る場合もある。例えば、目標周波数3GHzで設計されているマイクロプロセッサを検討すると、このデジタル論理は製造後にピーククロック速度2GHzを達成できるのみである。マイクロプロセッサの非共振クロックの実施において、クロックネットワークは2GHzで作動可能であり、消費電力は2GHz作動周波数に比例する。しかしながら、共振クロック設計において、共振クロックネットワークが固有周波数3GHzの代わりに2GHzで作動する場合、電力消費は、2GHzの非共振設計の電力消費をはるかに超える場合がある。
【0007】
過度の電力消費に加えて、共振クロックネットワークがその固有周波数から離れて作動する場合、固有周波数と作動周波数との間の不整合が非常に大きくなるに従って、クロック波形の形状は大きく変形される。極端な場合、製造後のピーククロック周波数が共振クロックネットワークの固有周波数から大きく離れる場合があり、ピーククロック周波数のクロック波形は、クロック素子の作動が不正確になりデバイス全体が不正確になる程度に変形される。
【0008】
いくつかの直接的ではあるが非現実的な手法で前述の課題を解決することは可能である。1つの方法は、共振クロックネットワークに容量を選択的に導入することで、固有周波数を調整可能にすることである。共振クロックネットワークのエネルギ効率は容量が大きくなるにつれて低減するので、容量の導入により固有周波数を調整すると、低い作動周波数では電力節減が損なわれる。更に、予備容量の面積オーバヘッドは非常に大きい。
【0009】
固有周波数調整の他の手法は、選択的に結合できる複数の別個のインダクタを直列的又は並列的に組み合わせて配置することである。しかしながら、一般に、複数の別個のインダクタを使用すると、潜在的に面積オーバヘッドが非常に大きくなる。
【0010】
前述の課題を解決する別の手法は、共振クロック駆動回路を従来(つまり、非共振)モードでも作動可能に設計することである。この手法において、共振クロックネットワークは、従来モードで任意のクロック周波数にて作動できる。しかしながら、これらの駆動回路は一般に、インダクタ及びクロック負荷に対して直列に、スイッチを導入することに依存するので、共振クロックネットワーク全体の抵抗が大きくなり共振モードで作動する場合にはエネルギ効率が低下する。
【0011】
共振クロック分配ネットワークのためのアーキテクチャは、いくつかの論文に説明され、実験的に評価されてきた。この論文としては、Ziesler C.他の2003年8月「225MHz共振クロックASICチップ」低電力電子回路設計の国際シンポジウム、Cooke M.他の2003年8月「エネルギリカバリクロックスキーム及び超低エネルギ用途のフリップフロップ」低電力電子回路設計の国際シンポジウム、Drake A.他の2004年9月「分配寄生容量を使用した共振クロック」半導体回路ジャーナル、Vol.39、No.9、Chueh J.−Y.他の2006年9月「プログラム可能な駆動回路及び負荷を備える900MHzから1.2GHzの二相共振クロックネットワーク」IEEE2006カスタム集積回路会議、Sathe V.他の2007年9月「0.8−1.2GHz周波数の調整可能な単相共振クロックFIRフィルタ」IEEE2007カスタム集積回路会議、Chan S.他の2009年1月「セルブロードバンドエンジンプロセッサ用の共振グローバルクロック分配」IEEE 半導体回路ジャーナル、Vol.44、No.1を挙げることができる。これら全ての論文において、共振クロック分配ネットワークは単一の固有周波数に限定されている。前述の課題を解決する方法で、共振クロックネットワークを作動させる試みは成されておらず、その方法も提示されていない。
【0012】
全体としては、本明細書のいくつかの従来又は関連システムの実施例、及びその関連の限定事項は例示的であり排他的でないことが意図されている。既存又は従来システムの他の限定事項は当業者には以下の詳細な説明を読むことで理解できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ziesler C.他の2003年8月「225MHz共振クロックASICチップ」低電力電子回路設計の国際シンポジウム
【非特許文献2】Cooke M.他の2003年8月「エネルギリカバリクロックスキーム及び超低エネルギ用途のフリップフロップ」低電力電子回路設計の国際シンポジウム
【非特許文献3】Drake A.他の2004年9月「分配寄生容量を使用した共振クロック」半導体回路ジャーナル、Vol.39、No.9
【非特許文献4】Chueh J.−Y.他の2006年9月「プログラム可能な駆動回路及び負荷を備える900MHzから1.2GHzの二相共振クロックネットワーク」IEEE2006カスタム集積回路会議
【非特許文献5】Sathe V.他の2007年9月「0.8−1.2GHz周波数の調整可能な単相共振クロックFIRフィルタ」IEEE2007カスタム集積回路会議
【非特許文献6】Chan S.他の2009年1月「セルブロードバンドエンジンプロセッサ用の共振グローバルクロック分配」IEEE 半導体回路ジャーナル、Vol.44、No.1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
共振クロック分配ネットワークのためのアーキテクチャが提示される。このアーキテクチャにより、選択的にイネーブルされるフリップフロップの導入によって、複数のクロック周波数での共振クロック分配ネットワークのエネルギ効率の良い作動が可能になる。提示されたアーキテクチャは、主として一体化インダクタを有する共振クロックネットワーク設計を目的としており、インダクタのオーバヘッドが出現しない。このようなアーキテクチャは一般に、複数のクロック周波数を有しマイクロプロセッサ、ASIC、及びSOC等の高性能かつ低電力のクロッキング要件の半導体デバイスに適用可能である。更に、達成可能な性能レベルの応じた半導体デバイスのビニングに適用可能である。
【0015】
共振モード又は非共振モードで選択的に作動可能なクロック駆動回路が開示され、クロック駆動回路は、クロック駆動回路のクロックノードに電気的に接続され、クロック駆動回路が共振モードで作動することを可能にするように構成された共振素子と、クロックノードに電気的に接続され、基準クロックと制御信号の論理結合である論理入力信号に基づいて、クロック分配ネットワークの基準クロックを受信して伝搬するように構成され、制御信号がアクティブ状態の場合に作動可能である駆動素子と、クロックノードに電気的に接続され、ゲート信号によりゲート制御されるクロッキング素子と、を備え、前記クロック駆動回路は、制御信号及びゲート信号の値に基づいて共振モード又は非共振モードで選択的に作動し、前記クロック駆動回路は、制御信号がアクティブ状態でゲート信号が非アクティブ状態の場合に共振モードで作動し、クロック駆動回路は、共振素子の固有共振周波数に関連する周波数で作動し、クロック駆動回路は、制御信号が非アクティブ状態でゲート信号がアクティブ状態の場合に非共振モードで作動し、クロック駆動回路は、ゲート信号のゲート周波数に関連する周波数で作動する。
【0016】
上記本発明の概要は、以下の詳細な説明に更に詳細に説明される概念の中から選択された内容を紹介するものである。この概要は、請求項に記載された主題の重要な特徴又は本質的な特徴を特定するようには意図されておらず、又は請求項に記載の主題の範囲を限定することは意図されていない。他の利点及び特徴点は、以下の記載及び請求項から明らかになるはずである。本明細書及び特定の実施例は例示目的に過ぎず本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解されたい。
【0017】
本発明の種々の目的、特徴、及び特性は、当業者であれば全て本明細書の一部である以下の詳細な説明を添付図面及び請求項と併せて検討することで理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一般的な共振クロック分配ネットワークのアーキテクチャを示す。
【図2】一般的な集中キャパシタとしてモデル化したクロック負荷を備える共振クロッキングの駆動回路設計を示す。
【図3】クロック負荷に並列に容量を選択的に導入することで固有周波数を調整する手法を示す。
【図4】元のインダクタに対して並列にインダクタンスを選択的に導入することで固有周波数を調整する手法を示す。
【図5】共振クロックネットワークの誘導素子に対して直列にスイッチを導入することで、複数のクロック周波数での作動をサポートする手法を示す。
【図6】複数のクロック周波数での作動のための、提示された共振クロック駆動回路の実施形態を示す。
【図7】複数のクロック周波数での作動のための、提示された共振クロック駆動回路の別の実施形態を示す。
【図8】複数のクロック周波数のための、提示されたクロックゲートの実施形態を示す。
【図9】複数のクロック周波数のための、提示されたフリップフロップの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書の表題は便宜上であり、必然的に請求項に記載の発明に影響を与えるものではない。
図面において、同じ参照符号及び何らかの頭文字は、同一の又は類似の構造又は機能をもつ構成要素又は作動を特定して理解及び便宜を容易にするためのものである。
【0020】
本発明の様々な実施例を以下に説明する。以下の説明は、本実施例を完全に理解するために具体的説明を行う。しかしながら、当業者であれば、本発明は、これらの詳細の大部分がなくても実施できることを理解できるはずである。同様に、当業者であれば、本発明は、本明細書では詳細に記載されていない他の多数の自明な特徴を含み得ることを理解できるはずである。更に、関連のある説明が不必要に曖昧になるのを避ける目的で、特定の公知の構造又は機能は以下には詳細に示されていないし、また説明されていない。
【0021】
以下に使用される用語は、本発明の特定の実施例の詳細な説明に関連して使用されるとしても、妥当な方法で最大限広く解釈されるべきである。実際には、特定の用語はまさにそのように以下に強調されるが、何らかの制限方法で解釈されることが意図される特定の用語は、詳細な説明の部分ではそのように明白に及び明確に定義されるであろう。
【0022】
図1は、一般的な半導体デバイスのための共振クロック分配ネットワークアーキテクチャを示す。このネットワークにおいて、バッファ付き分配ネットワークは、基準クロック信号を複数の共振クロック駆動回路へ分配するために使用され、基準クロック信号は、次に全メタルクロック分配ネットワークを横切ってクロック信号を駆動するために使用される。一般に、この全メタルネットワークは、ほぼ対称な接続形態であり、クロック信号を半導体デバイスのクロック素子(例えば、フリップフロップ及びクロックゲート)へ非常に歪みの少ない状態で供給する。各々の共振クロック駆動回路は、駆動回路に現れる負荷の寄生容量と共振させることで、低エネルギ消費で付加的な駆動強度を与えるために使用されるインダクタを含む。
【0023】
図2は、一般的な共振クロック駆動回路設計を示し、共振クロック駆動回路がサービスする全クロック分配ネットワークの一部が、集中抵抗Rに直列に接続された集中キャパシタCとしてモデル化されている。この駆動回路は、クロック分配ネットワークを駆動するためのプルアップPMOS及びプルダウンNMOSデバイスを備える。PMOSデバイスは、クロックノードと電源供給端子との間に接続される。NMOSデバイスは、クロックノードとアース端子との間に接続される。両デバイスは基準クロック信号で駆動される。インダクタLは、クロックノードとクロック信号振幅のほぼ中点での電圧をもつ供給ノードとの間に接続される。例えば、クロック信号が0Vと1Vとの間を振動する場合、中点供給電圧は約0.5Vである。図2の駆動回路において、中点は2つのキャパシタCdd及びCssを用いて実現される。キャパシタCddは、中点と電源供給端子との間に接続される。キャパシタCssは、中点とアース端子との間に接続される。エネルギ節約を最大にするために、インダクタの値は、おおよそクロックのインダクタ及び寄生容量によって設定されるLCタンクが基準クロック信号の周波数にほぼ等しい固有周波数をもつように選択される。
【0024】
共振クロック駆動回路のエネルギ効率は、様々な設計及び作動パラメータで決まる。共振システムの品質ファクタQはエネルギ効率の指標である。この係数は、(L/C)1/2/Rに比例する。一般に、抵抗Rを通って寄生クロック負荷Cを充放電する電流Iに関連するI2R損失により、エネルギ効率はクロック分配ネットワークの抵抗Rが大きくなるほど低下する。また、固定の固有周波数に関して、エネルギ効率は容量Cが大きくなると抵抗Rを流れる電流が増えるので低下する。
【0025】
共振LCタンクシステムの固有周波数と基準クロック信号の周波数との間の不整合は、共振クロックネットワークのエネルギ効率に影響を与える他の重要な要因である。共振クロック駆動回路を駆動する基準クロックの周波数が共振クロック駆動回路のLCタンクの固有周波数から大きく離れると、エネルギ効率は低下する。2つの周波数間の不整合が非常に大きくなる場合、共振クロック駆動回路のエネルギ消費が、過度に非現実的に大きくなる。更に、クロック波形の形状は大きく変形されるので、フリップフロップ又は他のクロック素子をクロック制御するために信頼性をもって使用できない。結果的に、共振クロック駆動回路が効率的に作動するロック周波数範囲は、周波数スケーリングを使用する半導体デバイスが一般にサポートするクロック周波数範囲より狭くなる傾向がある。実際には、周波数スケール調整された半導体デバイスがたまに使用する、広い範囲の作動周波数をサポートするために、共振クロックネットワークは1つ以上の周波数で作動できることが望ましい。
【0026】
図3は、クロック負荷に並列に容量を選択的に導入して第2の固有周波数をサポートすることで、共振クロックネットワークの作動周波数の範囲を拡大する手法を示す。スイッチPは、クロックネットワークの寄生容量Cに並列にキャパシタCpを選択的に接続するために使用される。制御信号ENPによりスイッチPがオフになると、クロックノードに現れる全容量はCであり、共振クロックネットワークの固有周波数f1は1/(LC)1/2に比例する。スイッチPがオンになるとクロックノードに現れる全容量はC+Cpに増大し、1/(L(C+Cp))1/2に比例する低い固有周波数f2がもたらされる。この手法の主な欠点は、付加容量Cp及びスイッチPがもたらす抵抗により、f2で作動するとf1の場合よりもQファクタが低下し、結果的に相対的なエネルギ節約が低下する。本手法の別の欠点は、一体化キャパシタを使用して容量Cpを導入するとかなりの面積オーバヘッドにつながる点である。例えば、f2=f11/2を得るためには、容量Cpはクロック分配ネットワークの容量Cにほぼ等しいことが必要である。
【0027】
図4は、第2の固有周波数をサポートすることで、共振クロックネットワークの作動周波数の範囲を拡大する別の手法を示す。本手法により、一対のスイッチP1及びP2を用いて共振クロック駆動回路の元のLに並列にインダクタLpを選択的に導入する。2つのスイッチがオフになると、共振クロックネットワークの全インダクタンスはLであり、共振クロックネットワークの固有周波数f1は1/(LC)1/2に比例する。2つのスイッチがオンになると、全インダクタンスはLLp/(L+Lp)に低下し、1/((L+Lp)C)1/2に比例する高い固有周波数f2が生じる。本手法の主たる欠点は、全インダクタンスの低減及びスイッチP1及びP2により導入される付加的な抵抗により、f2での作動はf1の場合に比べてQファクタが低下し、結果的に相対的なエネルギ節約が低下する。GHz周波数で作動するクロックネットワークにおいて、高い作動周波数f2での全抵抗は表皮効果によりf1の場合よりも高くなる可能性があることから、このエネルギ節約の低下は悪影響を及ぼす。本手法の別の欠点は、インダクタを使用してインダクタンスLpをLに並行に導入する必要がある点であり、かなりの面積オーバヘッドにつながる。例えば、f2=f11/2を得るためには、インダクタンスLpは共振クロック駆動回路の元のインダクタンスLにほぼ等しいことが必要である。
【0028】
図5は、複数のクロック周波数での作動をサポートする別の手法を示す。この場合、スイッチTは、共振クロックネットワークの誘導素子に直列に導入される。スイッチTは、中点供給からインダクタを選択的に切り離すために使用でき、従来(つまり、非共振)モードでクロックネットワークを駆動する選択肢を与える。制御信号ENがスイッチをオンにすると駆動回路は共振モードで作動する。スイッチがオフになると、駆動回路は基準クロックの周波数で従来モードにて作動する。このモードにおいて、クロックネットワークの容量は共振しないので、クロックネットワークは、基準クロックの周波数とLCタンクの固有周波数との不整合に関係なく、基準クロックの周波数で作動できる。図5において、スイッチは単一のNMOSトランジスタとして概念的に示されている。一般に、このスイッチは、NMOS及びPMOSトランジスタを含む伝送ゲートとして導入できる。
【0029】
図5に示す手法の主たる利点は、基準クロック信号の周波数で定まる任意の周波数で作動できる点である。しかしながら、この手法の欠点は、スイッチTが共振クロックネットワークの誘導素子に直列に接続して全抵抗を増加させるので、共振モードで作動する場合、クロックネットワークのエネルギ効率が著しく低下する。
【0030】
図6は、複数のクロック周波数での共振クロックネットワークの作動を可能にする、提示された手法の実施形態を示す。本実施形態において、制御信号Sは、図2の基本共振クロック駆動回路に導入され、基準クロック信号に無関係にクロックノードを選択的にHIGHレベルに引き上げる。図6において、この機能は、ANDゲートにより制御信号Sと基準クロック信号を結合させることで達成できる。ANDゲートの出力は共振クロック駆動回路のNMOS及びPMOSデバイスを駆動する。同じ機能をもたらす別の実施形態も可能である。
【0031】
提示された実施形態は、信号Sに加えて、ゲート信号を用いて選択的に無効にできるフリップフロップ構成を含む。図6は、このような代表的なフリップフロップを示し、信号gjでゲート制御される。ゲート信号が非アクティブである限り提示されたフリップフロップは有効であり、この状態はクロック入力の立ち上がり毎に最新の状態にされる。ゲート信号がアクティブである限り提示されたフリップフロップの状態は変わらないままである。また、提示されたフリップフロップの状態は、クロックがLOWの場合は変わらないままである。しかしながら、クロックがHIGHの場合、提示されたフリップフロップの状態は、ゲート信号がアクティブから非アクティブに遷移したときはすぐに最新の状態にされる。この特性は、複数のクロック周波数で共振クロックネットワークを作動するための提示された手法との関連において、提示されたフリップフロップの作動に重要である。
【0032】
図6の実施形態では、共振クロックネットワークは固有周波数で共振モードにおいて作動可能である。また、任意の他の周波数で従来モードにおいても作動できる。この特定の実施形態において、信号SがHIGHに設定されゲート信号が非アクティブの場合、共振クロックネットワークは共振モードで作動できる。この場合、高いエネルギ効率及び仕様に適合する大きなクロック波形を得るために、基準クロックの周波数はLCタンクシステムの固有周波数に比較的近いことが必要である。
【0033】
従来モードでは他のクロック周波数で作動する。特に、共振モードから従来モードに遷移する間に、ゲート信号はフリップフロップに記憶されるデータの完全性を保証するために最初にアクティブにされる。その後、信号SがHIGHからLOWに遷移して、クロックノードを供給電圧Vddに引き上げる。Vddのクロックノードにより、ゲート信号は、アクティブから非アクティブへ、及び元のアクティブへ目標作動周波数で周期的に作動される。アクティブから非アクティブへの各々の遷移に関し、フリップフロップは自身の状態を最新の状態にする。ゲート信号の遷移は、ゲート信号のネットワークは本来クロックネットワークとして作動するので、比較的相対歪みの少ない状態で行う必要がある。一般に、ゲート信号の歪みは、目標クロック周波数での正確な作動を保証するために十分に少ないことが必要である。一般に、ゲート信号は共振クロックネットワークの固有周波数よりも低いクロック周波数で作動するので、ゲート信号上の歪み要件は、共振クロックネットワーク上での要件ほどは厳しくないであろう。
【0034】
図7は、提示された手法の別の実施形態を示す。本実施形態において、NMOSデバイスは、PMOSデバイスからの別の基準クロックで駆動できる。更に、NMOS及びPMOSデバイスのサブセットは、制御信号EN1、・・・、ENnを用いて選択的にアクティブにできる。全てのNMOS及びPMOSデバイスは、基準クロック信号とは無関係にクロックノードを供給電圧Vddに引き上げるために使用できる信号Sで制御される。
【0035】
図6及び7に示す共振クロック駆動回路の別の実施形態において、制御信号Sは、ORゲートを使用して基準クロックと結合できる。この場合、信号SがHIGHに設定されると、クロックノードはLOWに駆動される。この実施形態はフリップフロップの実施形態と組み合わせる必要がある。クロックがHIGHの場合、状態は変わらないままであるが、クロックがLOWの場合、提示されたフリップフロップの状態は、ゲート信号がアクティブから非アクティブに遷移するとすぐに最新の状態にされる。
【0036】
図8は、提示された手法で使用可能なクロックゲートデバイスの実施形態を示す。本実施形態において、ゲート信号gjがアクティブ(つまり、LOW電圧レベル)の場合、共振クロック信号はクロックゲートデバイス出力に伝搬されず、この場合、出力ポートクロックは共振クロック信号のレベルに無関係にLOW電圧を示す。ゲート信号giが非アクティブ(つまり、HIGH電圧レベル)の場合、共振クロックはクロックゲート出力に伝搬され、ゲート信号gjが下降/上昇遷移を行うとすぐにポートクロックをLOW/HIGHに駆動する。共振クロックがLOW電圧レベルである限り、クロックゲート信号gjのレベルに無関係に、クロックゲート出力はLOWのままである。しかしながら、共振クロックがHIGH電圧レベルである限り、ゲート信号gjが下降/上昇遷移を行うとすぐにポートクロックはLOW/HIGHに駆動される。従って、共振クロック信号がHIGHの場合、クロックゲート信号gjは代替えのクロック信号として使用できる。
【0037】
図9は、提示された手法で使用可能なフリップフロップデバイスの実施形態を示す。本フリップフロップは、ゲート信号gjを含むように拡張されてきたセット−リセット・トポロジーの適応である。このフリップフロップがゲート制御(つまり、信号gjがLOW、信号ENがHIGH)の場合、クロック信号RCの立ち上がりエッジで自身の状態を最新の状態にする。フリップフロップの状態はクロスカップルを用いた一対のNANDゲートに記憶される。詳細には、クロック信号RCがLOWである限り、内部ノードXT及びXFはPMOSデバイスP3及びP4を介して供給電圧レベルVddにチャージされる。XT及びXFの両者がHIGH電圧レベルの場合、NANDゲートにおいて高い入力値は非結合なので、クロスカップルを用いた一対のNANDゲートが記憶する値は影響を及ぼさない。クロック信号RCの立ち上がりエッジにおいて、データ入力値DTに応じて内部ノードXT及びXFの一方はLOW電圧に駆動される。(DTがHIGH/LOWの場合、XTはLOW/HIGHに、XFはHIGH/LOWに設定される)。ノードXT及びXFの対の逆の値は、出力QT及びQFでの対の逆の値をもたらす。(DTがHIGH/LOWの場合、QTはHIGH/LOW、XFはLOW/HIGHに設定される)。この対の出力値は、クロスカップルトポロジーによって安定様式で一対のNANDゲートに記憶される。このフリップフロップがゲート制御(つまり、信号gjはHIGH、信号ENはLOW)される場合、PMOSデバイスP1及びP2は、クロック信号RCのレベルに無関係に、内部ノードXT及びXFを供給電圧レベルVddに保持する。
【0038】
一般に、共振クロックネットワークが共振モードで作動してクロック信号RCが全てのクロックサイクルでHIGHからLOWレベルに変化する場合、図9のフリップフロップはイネーブル状態になる(つまり、ゲート信号gjがLOWの場合に)。しかしながら、このフリップフロップは、共振クロックネットワークの固有周波数以外の周波数で作動可能にする別の方式でも作動可能である。この別の手法において、クロック信号RCは安定のままであるが、ゲート信号gjは、フリップフロップの状態を最新の状態にするために使用される。従って、信号gjは、本来、任意の目標クロック周波数で作動可能なクロック信号として使用される。特に、クロック信号RCをHIGH電圧レベルに保持することで、内部ノードXT及びXFは、ゲート信号gjをHIGHで駆動してチャージできる。クロック信号RCは、共振クロック駆動回路の制御信号SをLOWで駆動することでHIGH駆動できる。共振クロック駆動回路の例示的実施形態は、図6及び7に示されている。信号gjがLOW駆動される場合、データ入力値DTに応じて2つのノードXT及びXFの一方はLOW駆動される。(DTがHIGH/LOWの場合、XTはLOW/HIGHに、XFはHIGH/LOWに設定される)。ノードXT及びXFの対の逆の値は、出力QT及びQFの対の逆の値をもたらす。(DTがHIGH/LOWの場合、QTはHIGH/LOWに、XFはLOW/HIGHに設定される)。この対の出力値は、クロスカップルトポロジーによって安定様式で一対のNANDゲートに記憶される。
【0039】
図9のフリップフロップの別の実施形態も可能である。例えば、このフリップフロップは、スキャン及びセット/リセット機能を含むように直接的な方法で拡張できる。
【0040】
最も一般的な別の実施形態において、図9のフリップフロップは、ゲート信号gj及びクロック入力RCを含むことができる。クロック入力RCがいくつかの所定の固定値(HIGH又はLOW)のままの場合、ゲート信号gjの予め定められた遷移(HIGHからLOW、又はLOWからHIGH)を行うことでフリップフロップの状態を最新の状態にできる。
【0041】
文脈が明白に別の解釈を要求しない場合、明細書及び請求項全体もわたって、単語「備える(comprise)」、「備える(comprising)」等は、排他的又は網羅的意味とは対照的に、包括的な意味と解釈すべきである(つまり、言うまでもなく、「含むが限定しない」)。本明細書で使用する場合、用語「接続する(connected)」、「結合する(coupled)」、又はその何らかの変形は、2つ又はそれ以上の構成要素間の直接的又は間接的な何らかの接続又は結合を意味する。このような構成要素間の接続又は結合は、物理的、倫理的、又はこれらの組み合わせとすることができる。更に、用語「この中の(herein)」、(以上の(above)」、「以下の(below)」、及び同趣旨の単語は、本出願で使用する場合、本出願の一部の特定の箇所ではなく本出願全体を参照する。文脈が許す場合、前述の詳細な説明の単数又は複数を使用する単語は、同様に複数又は単数をそれぞれ含む。2つ又はそれ以上の要素リストに関して、単語「又は(or)」は、以下の単語の解釈をカバーする。つまり、リスト中の任意の要素、リスト中の全ての要素、及びリスト中の要素の任意の組み合わせである。
【0042】
前述の本発明の実施例の詳細な説明は、網羅的であること又は発明を前述の明確な形式に限定することが意図されていない。本発明の特定の実施例が例示目的で説明されるが、当業者であれば理解できるように、本発明の範疇で様々の均等な変更形態が可能である。本出願ではプロセス又はブロックは所定の順番で示されているが、別の実施例では異なる順番のステップを有するルーチンを実行でき、又は異なる順番のブロックを有するシステムを用いることができる。一部のプロセス又はブロックを削除、移動、追加、細分、結合、及び/又は変更して、代替手段又は準結合手段を提供することができる。また、プロセス又はブロックは、時には順番に実行されるように示されるが、これらのプロセス又はブロックは、並列に実行又は実施されること又は別の時間に実行されることが意図されている。更に、本明細書で言及する何らかの特定の数は例示である。別の実施例では別の値又は範囲が可能であることを理解されたい。
【0043】
また、本明細書の様々な説明及び教示は、前述のシステム以外のシステムにも適用可能である。前述の様々な実施例の構成要素及び作動は、組み合わせて本発明の別の実施例を提供できる。
【0044】
添付の出願書類に記載したものを含む前述の任意の特許及び出願、及び他の参考文献は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0045】
前述の及び他の変更は、本発明に対して前述の詳細な説明を考慮して行うことができる。前述の詳細な説明は、本発明の特定の実施例及び意図された最良の形態を説明するが、いかに詳細にテキストに記載されようが、本発明は多くの方法で実施できる。システムの詳細は、特定の実施ではかなり変わり得るが、依然として本明細書に開示される発明に包含される。前述のように、本発明の特定の特徴又は態様を説明する際に用いる特定の技術用語は、技術用語が本明細書において、技術用語が関連する本発明の何らかの特性、特徴、態様に対して限定的であると再定義されることを暗示すると考えてはいけない。一般に、添付の請求項に使用する用語は、前述の詳細な説明でこの用語が明確に定義されない限り、本発明を本明細書の特定の実施例に限定すると解釈すべきではない。従って、本発明の実際の範囲は、開示された実施例だけでなく、各請求項の下で本発明を実施又は実行する均等な全てのやり方を包含する。
【0046】
本発明の特定の態様は特定の請求様式に示されるが、本出願は、本発明のあらゆる請求様式の様々な態様を意図している。例えば、本発明の1つの態様だけが米国特許法(35.U.S.C.)第112条の第6パラグラフの「機能的クレーム(means−plus−function claim)」で記載されるが、他の態様が「機能的クレーム」又は、コンピュータ読み取り可能媒体等で具体化される他の様式で記載される。(米国特許法(35.U.S.C.)第112条の第6パラグラフの下で論じられることが意図される任意の請求項は、用語「する手段(means for)」で始まる)。従って、本出願は、本発明の他の態様のこのような追加の請求様式を追求するために、出願後に追加の請求項を追加する権利を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振モード又は非共振モードで選択的に作動可能なクロック駆動回路において、
前記クロック駆動回路のクロックノードに電気的に接続され、前記クロック駆動回路が共振モードで作動することを可能にするように構成された共振素子と、
前記クロックノードに電気的に接続され、基準クロックと制御信号の論理結合である論理入力信号に基づいて、クロック分配ネットワークの基準クロックを受信して伝搬するように構成され、制御信号がアクティブ状態の場合に作動可能である駆動素子と、
前記クロックノードに電気的に接続され、ゲート信号によりゲート制御されるクロッキング素子と、
を備え、
前記クロック駆動回路は、制御信号及びゲート信号の値に基づいて共振モード又は非共振モードで選択的に作動し、
前記クロック駆動回路は、前記制御信号がアクティブ状態で前記ゲート信号が非アクティブ状態の場合に共振モードで作動し、前記クロック駆動回路は、共振素子の固有共振周波数に関連する周波数で作動し、
前記クロック駆動回路は、前記制御信号が非アクティブ状態で前記ゲート信号がアクティブ状態の場合に非共振モードで作動し、前記クロック駆動回路は、前記ゲート信号のゲート周波数に関連する周波数で作動する、
ようになったクロック駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−507887(P2013−507887A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534305(P2012−534305)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2010/052397
【国際公開番号】WO2011/046981
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(509323163)サイクロス セミコンダクター, インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】CYCLOS SEMICONDUCTOR, INC.
【Fターム(参考)】