説明

内燃機関の冷却装置

【課題】 最適なオイル噴射量でピストンヘッドの小端対向面を効果的に冷却すること。
【解決手段】 ピストン11とクランク軸9を連結するコンロッド22の小端部52からピストンヘッドの小端対向面11Aにオイルを噴射し、ピストン11を冷却する内燃機関の冷却装置において、コンロッド22の大端側オイル口58から小端部先端65までオイル通路を形成するオイル孔57と、小端部先端65に形成されピストン11の排気側に指向するオイルジェット67とを備えた。クランク軸9側の油孔31とコンロッド22側のオイル孔は、燃焼行程時はピストン中心部をオイルジェット67が指向した位置で連通し、排気工程時はピストン排気側をオイルジェット67が指向した位置で連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンとクランク軸を連結するコンロッドの小端部からピストンヘッドの小端対向面にオイルを噴射し、ピストンを冷却する内燃機関の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動二輪車等に用いられるエンジンでは、混合気を燃焼させて得られる熱エネルギによりピストンを往復動させ、このピストンの往復動をコネクティングロッドを介してクランク軸の回転運動に変換する。
そして、このようなエンジンの冷却装置として、コンロッド小端部からピストンヘッドの小端対向面にオイルを噴射することにより、ピストンを冷却する構造のものが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−004463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている構造では、ピストンの吸排気バルブ配置による熱分布が考慮されておらず、所望の冷却性能を得るためには、大量のオイルを噴射しなくてはいけないため、オイルによる損失増加に伴い出力の向上を阻害してしまう、という課題がある。
また、オイルを全体的にピストンに拡散させて噴射させるため、上記同様、オイルによる損失増加に伴い出力の向上を阻害してしまう、という課題がある。
【0004】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、最適なオイル噴射量でピストンヘッドの小端対向面を効果的に冷却することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、ピストン(例えば、後述する実施の形態におけるピストン11)と、クランク軸(例えば、後述する実施の形態におけるクランク軸9)と、これらピストンとクランク軸を連結するコンロッド(例えば、後述する実施の形態における22)と、前記クランク軸内に形成された第1オイル通路(例えば、後述する実施の形態における油孔30〜32)と、コンロッド大端部(例えば、後述する実施の形態における大端部51)の内周側に開口しジャーナル部(例えば、後述する実施の形態におけるジャーナル部28)からのオイルが供給される大端側オイル口(例えば、後述する実施の形態における大端側オイル口58)とを備えた内燃機関の冷却装置において、前記コンロッドの大端側オイル口から小端部先端(例えば、後述する実施の形態における小端部先端65)までオイル通路を形成する第2オイル通路(例えば、後述する実施の形態におけるオイル孔57)と、前記小端部先端に形成され前記ピストンの排気側に指向するオイルジェット(例えば、後述する実施の形態におけるオイルジェット67)とを備えたことを特徴とする。
このように構成することにより、ジャーナル部からのオイルは大端部側よりコンロッドに供給された後、第2オイル通路を通って小端部側に達し、オイルジェットよりピストンヘッドの小端対向面排気側に向けて噴射される。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の内燃機関の冷却装置において、前記コンロッドはH断面形状であり、該H断面形状における突状部(例えば、後述する実施の形態における突状部61)を前記オイル通路部分よりも外方に形成したことを特徴とする。
このように構成することにより、コンロッドにオイルジェット用のオイル通路を形成しながらも、その剛性を高めることができる。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の冷却装置において、前記コンロッド大端部に、長孔(例えば、後述する実施の形態における長孔63)を有する平軸受(例えば、後述する実施の形態における平軸受62)を配置したことを特徴とする。
このような構成によれば、オイルジェットの噴射期間を長時間かつ任意の期間に設定することが可能となる。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の内燃機関の冷却装置において、前記オイル通路(例えば、後述する実施の形態における油孔31、オイル孔57等)は、燃焼行程時はピストン中心部を前記オイルジェットが指向した位置で連通し、排気工程時はピストンの排気側を前記オイルジェットが指向した位置で連通することを特徴とする。
このように構成することにより、燃焼行程時は熱負荷の最も高いピストン中心部を冷却し、排気工程時は熱負荷の最も高いピストン排気側を冷却することが可能となる。
【0009】
請求項5に係る発明は、ピストン(例えば、後述する実施の形態におけるピストン71)と、クランク軸(例えば、後述する実施の形態におけるクランク軸9)と、これらピストンとクランク軸を連結するコンロッド(例えば、後述する実施の形態におけるコンロッド91)と、前記クランク軸内に形成された第1オイル通路例えば、後述する実施の形態における油孔30〜32)と、コンロッド大端部(例えば、後述する実施の形態における大端部51)内周側に開口しジャーナル部(例えば、後述する実施の形態におけるジャーナル部28)からのオイルが供給される大端側オイル口と(例えば、後述する実施の形態における大端側オイル口58)を備えた内燃機関の冷却装置において、前記コンロッドの大端側オイル口から小端部(例えば、後述する実施の形態における小端部92)までオイル通路を形成する第2オイル通路(例えば、後述する実施の形態におけるオイル孔57)を設ける一方、前記ピストンのピンボス部(例えば、後述する実施の形態におけるピンボス部74)に内側に凹む凹部(例えば、後述する実施の形態における凹部77)を形成すると共に、前記ピンボス部の前記凹部側にピン穴(例えば、後述する実施の形態におけるピン穴76)に接続するスリット(例えば、後述する実施の形態におけるスリット79)を設け、このスリットに小端部潤滑用オイルの一部を導くようにしたことを特徴とする。
このように構成することにより、荷重のかかるピンボス部を裏側からオイルによって積極的に冷却することができ、また、オイルを噴射することなくピストンヘッド側まで冷却オイルをまわすことができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、熱負荷の高い排気側にオイルジェットを指向させたので、最適なオイル噴射量でピストンヘッドの小端対向面を効果的に冷却することができる。
請求項2に係る発明によれば、コンロッドにオイルジェット用のオイル通路を形成しながらも、その剛性を高めることができるので、エンジンの軽量化を図ることができる。
請求項3に係る発明によれば、オイルジェットの噴射期間を長時間かつ任意の期間に設定することが可能になるので、冷却を必要とする時期に適切な冷却を行うことができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、燃焼行程時は熱負荷の最も高いピストン中心部を冷却し、排気工程時は熱負荷の最も高いピストン排気側を冷却することが可能となり、ピストンの熱均衡を保ちつつ適切な冷却を行うことができる。
請求項5に係る発明によれば、荷重のかかるピンボス部を裏側からオイルによって積極的に冷却することができると共に、オイルを噴射することなくピストンヘッド側まで冷却オイルをまわすことができるので、少量のオイルによる効果的な冷却が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図6は、第1の実施の形態による内燃機関の冷却装置が適用されるエンジンの全体構成を概略的に示すもので、このエンジンは例えば自動二輪用の直列4気筒エンジンである。
【0013】
図6に示すように、エンジン本体1は、そのシリンダ本体2の主要部品であるシリンダブロック3及びシリンダヘッド4と、クランクケース5とを備えている。クランクケース5はアッパーケース6とロアケース7とに分割構成され、ロアケース7の下にはオイルパン8が取り付けられている。クランクケース5内には、車体幅方向に平行な軸線Cを有するクランク軸9が配設されている。
シリンダブロック3には、例えば四つのシリンダ10が車体幅方向に並んで形成され、これらシリンダ10内にピストン11が摺動可能に嵌装されている。
【0014】
シリンダヘッド4には各燃焼室内に臨ませるように点火プラグ(図示略)が螺着され、かつ各燃焼室と外部とを連通する吸気通路12及び排気通路13が各々形成されている。各吸気通路12の外部側の開口部にはスロットルボディ14が接続され、各排気通路13の外部側の開口部には排気管15が接続されている。
また、各吸気通路12の燃焼室側の開口である吸気ポートにはこれを開閉する吸気バルブ機構16が設けられ、各排気通路13の燃焼室側の開口である排気ポートにはこれを開閉する排気バルブ機構17が設けられている。
【0015】
各ピストン11には、ピストンピン21を介して、コンロッド22がその小端部52にて回転自在に連結されていると共に、コンロッド22の大端部51がクランク軸9のクランクピン25に回転自在に連結されている。各クランクピン25は、図7に示すように、一対のクランクアーム24で支持され、各クランクアーム24のクランクピン25と反対側の部位にはカウンタウェイト24aが一体形成されている。
クランク軸9の両端部及び各クランクアーム24間であって軸線C上に設けられたジャーナル部28は、クランクケース5に設けられた軸受29に回転自在に支持されており、ピストン11の往復運動が軸線Cを中心とした回転運動に変換される。
【0016】
ここで、各軸受29におけるジャーナル部28の周面を支持する受け面には、軸線C方向略中央に油溝(図示略)が形成されている。
また、ロアケース7におけるクランク軸9の下方には、クランク軸9の両端近傍に亘って車体幅方向に延びるメインオイルギャラリ41が形成される。メインオイルギャラリ41と各軸受29の油溝は互いに連通しており、メインオイルギャラリ41から各軸受29にエンジンオイルが供給される。
【0017】
また、ジャーナル部28には、軸受29の油溝に対向する部位をその径方向で貫通する油孔(第1オイル通路)30が形成されている。同様に、クランクピン25にはその軸方向の略中央部分を径方向で貫通する油孔(第1オイル通路)31が形成されている。油孔30のジャーナル部28の径方向での略中央部と、油孔31のクランクピン25の径方向での略中央部とは、各クランクピン25を支持する右側のクランクアーム24の側部から軸線Cに対して斜めに穿設された連通油孔(第1オイル通路)32により連通され、軸受29の油溝に供給されたエンジンオイルの一部が油孔30、連通油孔32、及び油孔31を介して各クランクピン25の周面に供給される。
【0018】
クランクケース5の下部には、エンジン本体1内の適宜箇所にエンジンオイルを圧送するためのオイルポンプ42が配設されている。ロアケース7の下部に固定されたオイルパン8内にはエンジンオイルが貯留され、貯留されたエンジンオイル中にオイルストレーナ43が浸漬されている。
そして、クランク軸9の回転に伴いオイルポンプ42が作動すると、オイルストレーナ43から吸引されたエンジンオイルは、図7の矢印で示すように、第1の油路44に圧送される。
【0019】
第1の油路44に圧送されたエンジンオイルは、オイルフィルタ45で濾過された後、第2の油路46からメインオイルギャラリ41を含むエンジン本体1内のオイルギャラリ等を流通し、エンジン本体1内に供給される。
エンジン本体1内に供給されたエンジンオイルは、クランク軸9、ピストン11等の潤滑を行うと共に、エンジン本体1の緩衝、気密、及び冷却等にも作用し、自然滴下等によりオイルパン8内に戻って繰り返しエンジン本体1内を循環する。
メインオイルギャラリ41においては、導入されたエンジンオイルが各オイル経路及び油溝から各軸受29に供給される。
【0020】
コンロッド22は、図1および図2に示すように、コンロッド本体53にキャップ54がボルト55で結合されてなるもので、キャップ54が結合された側の端部がクランクピン25を貫通させる大端部51とされ、他側がピストンピン21を貫通させる小端部52とされる。
コンロッド本体53には、大端部51に供給されたジャーナル部28からのエンジンオイルを小端部52側へ流通させるためのオイル孔(第2オイル通路)57が長手方向に沿って貫通形成されている。このオイル孔57の一端は、大端部51におけるクランクピン25との摺動側内周面に開口する大端側オイル口58とされ、他端は、小端部52内に挿入されたブッシュ56bにおけるピストンピン21との摺動側内周面に開口している。
【0021】
コンロッド22は、その幅方向両端部分が表裏いずれの面においても他の部分(軸方向中央部分)よりも突出するH断面形状をなしており、これらH断面形状を構成する幅方向両端部分における突状部61は、オイル孔57の幅方向外方に位置している。
大端部51側の内周部には、図4および図5反割円筒状をなす一対の平軸受62(図11,12参照)が嵌装される。これら各平軸受62には、その周方向に長い長孔63が形成されており、これら各長孔63は、各平軸受62の大端部51内への装着状態において、互いに周方向に180°位相がずれるように配置される。なお、図11,12中符号62aは、平軸受62の周方向での位置を規制する回り止めを示す。また、図4,5では図示の都合上、1つの長孔63のみを記載している。
これら長孔63のうち小端部52側に位置する一方の長孔63は、大端側オイル口58と対向する位置、すなわち、連通する位置に配置されており、その周方向に沿う長さは大端側オイル口58の直径よりも長大とされている。
【0022】
他方、小端部52側のブッシュ56bの内面には、その幅方向中央部分に全周に亘って延びるリング状の油溝64が形成されており、この油溝64は、小端部後端(図1では、小端部52のうち図示下側の部分)66に開口するオイル孔57と連通している。
小端部先端(図1では、小端部52のうち図示上側の部分)65には、コンロッド22の長手方向に対して所定の角度をもって延びるオイルジェット67が形成されている。この角度は、燃焼行程時にあっては、オイルジェット67がピストン中心部を指向したときに、コンロッド22側のオイル孔57とクランク軸9側の油孔31とが連通し、排気工程時にあっては、オイルジェット67がピストンの排気側を指向したときに、コンロッド22側のオイル孔57とクランク軸9側の油孔31とが連通するように設定されている。
【0023】
なお、コンロッド本体53にキャップ54を結合するためのコンロッド締結用ボルト55の先端部には、その先端面に開口し軸線方向内方に所定長凹むテーパ状の止まり穴68が形成されており、ボルト締結後は、その先端部がコンロッド本体53から一部露出する。
このように構成することにより、コンロッド大端部51における応力集中を緩和することが可能になるので、強度確保のためのコンロッド22の厚肉化を抑制し、軽量化を図ることができる。
【0024】
次に、図4および図5を参照しながら、上記構成からなる内燃機関の冷却装置の作用を説明する。なお、図4,5中矢印Fは、エンジン運転時におけるクランク軸9の回転方向を示す。
図4に示す燃焼行程において、実線は、上死点から若干進角した状態であって、クランクピン25の油孔31と、平軸受62の長孔63およびコンロッド22の大端側オイル口58との連通が開始される直前の状態を示しており、二点鎖線はこの実線で示す状態から所定角度進角した状態であって、クランクピン25の油孔31と、平軸受62の長孔63およびコンロッド22の大端側オイル口58との連通が解除された直後の状態を示している。
【0025】
これら連通開始直前の状態から連通解除直後の状態に至るまでの間(クランク軸9の一回転中、図4にH1で示す範囲)は、油孔31と長孔63および大端側オイル口58とが一部ないし完全に連通するので、ジャーナル部28からのエンジンオイルは大端部51側よりコンロッド22に供給され、オイル孔57を通って小端部52側に圧送される。小端部52に圧送されたエンジンオイルは、ブッシュ内面の油溝64を通って小端部先端65に達し、オイルジェット67よりピストンヘッドの小端対向面11Aにおける中心部に向けて噴射される。
このように、燃焼行程時には、その時に最も熱負荷の高いピストン中心部を冷却するようにしているので、ピストンヘッドの小端対向面11Aをピストン11の熱均衡を保ちつつ最適なオイル噴射量で効果的に冷却することができる。
【0026】
他方、図5に示す排気行程において、実線は下死点から若干進角した状態であって、クランクピン25の油孔31と、平軸受62の長孔63およびコンロッド22の大端側オイル口58との連通が開始される直前の状態を示しており、二点鎖線はこの実線で示す状態から所定角度進角した状態であって、クランクピン25の油孔31と、平軸受62の長孔63およびコンロッド22の大端側オイル口58との連通が解除された直後の状態を示している。
【0027】
これら連通開始直前の状態から連通解除直後の状態に至るまでの間(クランク軸9の一回転中、図5にH2で示す範囲)は、油孔31と長孔63および大端側オイル口58とが一部ないし完全に連通するので、ジャーナル部28からのエンジンオイルは大端部51側よりコンロッド22に供給され、オイル孔57を通って小端部52側に圧送される。小端部52に圧送されたエンジンオイルは、ブッシュ内面の油溝64を通って小端部先端65に達し、オイルジェット67よりピストンヘッドの小端対向面11Aにおける排気側に向けて噴射される。
このように、排気行程時には、その時に最も熱負荷の高いピストン排気側を冷却するようにしているので、ピストンヘッドの小端対向面11Aをピストン11の熱均衡を保ちつつ最適なオイル噴射量で効果的に冷却することができる。
【0028】
以上に加え、本実施の形態では、コンロッド22の大端部51に配置した平軸受62に長孔加工を施しているので、オイルジェット67の1回あたりの噴射期間を長く設定することが可能になると共に、噴射期間を任意の期間、つまり、熱負荷の高い燃焼行程時と排気工程時に限定して設定することが可能になるので、コンロッド22の肉厚を低減しつつ、冷却を必要とする時期に適切な冷却を行うことができる。
さらに、コンロッド22のH断面形状における突状部61をオイル孔57部分よりも幅方向外方に形成しているので、コンロッド22にオイルジェット67用のオイル通路を形成しながらも、その剛性を高めることが可能となり、エンジンの軽量化を図ることもできる。
【0029】
次に、この発明の第2実施形態について、図8〜図10を参照しながら説明する。
以下、第1実施形態と共通する構成要素には同一の符号を付してその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0030】
ピストン71は、図10に示すように、全体として略有底円筒形状をなしており、その天井部分を構成する略円板状のピストンヘッド72と、このピストンヘッド72の外周側からピストン軸線方向に延出する筒状のピストンスカート73とを有している。
ピストンスカート73はこれと一体化してピストン軸線方向に延出する一対のピンボス部74を有しており、これらピンボス部74のそれぞれには、ピストンピン75を支持するためのピン穴76が互いに同軸をなしてピストン軸直交方向に形成されている。
【0031】
ピンボス部74の基部、つまり、ピンボス部74のピストンヘッド72に連なる側の端部には、ピンボス部74の内周面を更に内側(ピストン軸直交方向外方)に凹ませてなる凹部77が形成されている。
そして、ピンボス部74の凹部77側、より具体的には、コンロッド小端部52に対向するリング状対向面(図10中、多数の点を付したリング状領域)78の凹部77側には、ピン穴76と凹部77の双方に接続して両者を連通させるスリット79が、径方向に沿って形成されている。このスリット79は、小端部52の径方向外方(図10では上方)に向かうに従い漸次内側に凹むように、言い換えれば、リング状対向面78から離間するように形成されることにより、図8に示すような、ピンボス部74の凹部77へ向かう傾斜面または断面弧状の案内面を構成している。
【0032】
他方、コンロッド91の小端部92側の内周面には、図8および図9に示すように、その幅方向中央部分に全周に亘って延びるリング状の油溝64に加えて、該油溝64と交差(例えば直交)するように厚さ方向一端から他端に延びる第2油溝80が小端部52の先端側部分(図8,9では、図示上側)に形成されている。
この第2油溝80の開口端は、いずれもピンボス部74に形成されたスリット79の下端部に臨まされている。なお、図9中、多数の点を付したリング状領域は、図10のリング状対向面78に対向する面である。
【0033】
本実施の形態によれば、コンロッド22の大端部51側からオイル孔57を介して小端部52の第2油溝80に供給された小端部潤滑用のエンジンオイルのうち、その一部は、第2油溝80に沿ってピストン軸直交方向に噴出された後、ピンボス部74のスリット79に沿って凹部77へと円滑に導かれ、ピストンヘッド72の小端対向面吸気側および排気側に向けて供給される。
これにより、荷重のかかるピンボス部74を裏側からエンジンオイルによって積極的に冷却することができると共に、エンジンオイルを噴射することなくピストンヘッド72側まで冷却オイルをまわすことができるので、少量のオイルによる効果的な冷却が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の第1の実施形態による内燃機関の冷却装置に用いられるコンロッドの一部破断平面図である。
【図2】同コンロッドの断面図である。
【図3】同コンロッドをピストンに組み付けた状態を示す断面図である。
【図4】燃焼行程における動作説明図である。
【図5】排気行程における動作説明図である。
【図6】エンジン周辺の断面図である。
【図7】エンジンオイルの潤滑系統図である。
【図8】この発明の第2の実施形態の要部拡大図である。
【図9】同実施形態に係るコンロッド小端部の拡大図である。
【図10】同実施形態に係るピストンの断面図である。
【図11】大端部内の平軸受の正面図である。
【図12】図11におけるA矢視図である。
【符号の説明】
【0035】
9 クランク軸
11、71 ピストン
22 コンロッド
28 ジャーナル部
30 油孔(第1オイル通路)
31 油孔(第1オイル通路)
32 連通油孔(第1オイル通路)
51 コンロッド大端部
57 オイル孔(第2オイル通路)
58 大端側オイル口
61 突状部
62 平軸受
63 長孔
65 小端部先端
67 オイルジェット
74 ピンボス部
76 ピン穴
77 凹部
79 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、クランク軸と、これらピストンとクランク軸を連結するコンロッドと、前記クランク軸内に形成された第1オイル通路と、コンロッド大端部の内周側に開口しジャーナル部からのオイルが供給される大端側オイル口とを備えた内燃機関の冷却装置において、
前記コンロッドの大端側オイル口から小端部先端までオイル通路を形成する第2オイル通路と、
前記小端部先端に形成され前記ピストンの排気側に指向するオイルジェットとを備えたことを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
前記コンロッドはH断面形状であり、
該H断面形状における突状部を前記オイル通路部分よりも外方に形成したことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
前記コンロッド大端部に、長孔を有する平軸受を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
前記オイル通路は、燃焼行程時はピストン中心部を前記オイルジェットが指向した位置で連通し、排気工程時はピストンの排気側を前記オイルジェットが指向した位置で連通することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項5】
ピストンと、クランク軸と、これらピストンとクランク軸を連結するコンロッドと、前記クランク軸内に形成された第1オイル通路と、コンロッド大端部の内周側に開口しジャーナル部からのオイルが供給される大端側オイル口とを備えた内燃機関の冷却装置において、
前記コンロッドの大端側オイル口から小端部までオイル通路を形成する第2オイル通路を設ける一方、
前記ピストンのピンボス部に内側に凹む凹部を形成すると共に、前記ピンボス部の前記凹部側にピン穴に接続するスリットを設け、このスリットに小端部潤滑用オイルの一部を導くようにしたことを特徴とする内燃機関の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−104954(P2006−104954A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289270(P2004−289270)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】