説明

内燃機関の冷却装置

【課題】メイン冷却水経路のメインラジエータの容量とサブ冷却水経路のサブラジエータの容量を必要以上に増加させない内燃機関の冷却装置を提供する。
【解決手段】水冷式の排気マニホールド16が、互いに独立した冷却水経路であるメイン冷却水経路3とサブ冷却水経路5の双方に接続され、かつサブ冷却水経路5内においては排気マニホールド16とEGRクーラ13が並列に接続されている。EGRクーラ13において、EGRガスを冷却したい運転状態と、排気マニホールド16において排気ガスを冷却したい運転状態とは同じではない。よって、運転状態に応じてサブラジエータ4を効率的に使用することにより、メインラジエータ2の容量及びサブラジエータ4の容量を必要以上に増加させることなく最適化した状態で、排気マニホールド16を水冷式とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、内燃機関の失火防止及びドライバビリティの向上を図るために、EGRクーラに供給される冷却水を、内燃機関の高温部位に供給させられる冷却水を冷却するメインラジエータが設けられた経路とは異なる別経路の冷却水経路に設けられたサブラジエータにより冷却するようにした技術が開示されている。
【0003】
また、排気マニホールドを冷却水で冷却する水冷式とし、排気ガスと冷却水との熱交換によって高温となった冷却水を利用する技術が従来から知られている。例えば、特許文献2には、冷機時に、排気マニホールド内部もしくは排気マニホールド周辺部を冷却水が流れることが可能となるように冷却水通路を設定することによって、排気ガスの熱で冷却水を加熱し、この加熱された冷却水を温水ヒータに流入させることで、温水ヒーターの暖房性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−40141号公報
【特許文献2】特開昭59−68545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献2においては、暖機後、排気マニホールド内部もしくは排気マニホールド周辺部にエンジン冷却水を流すようにすれば、排気ガス温度を下げて排気通路に介装された触媒の熱劣化を回避しつつ内燃機関の出力向上を図ることが可能ではあるが、冷却水を冷却するラジエータが1つなので、このような使い方をする場合には、ラジエータの容量を大きくしなければならないという問題がある。
【0006】
またEGRガスを冷却するような運転領域は限られており、特許文献1のように、メインラジエータが設けられた経路とは異なる別経路にサブラジエータを単に設けた構成では、サブラジエータが使用されない運転領域が存在することになり、サブラジエータが有効に使用されないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、内燃機関に水冷式の排気マニホールドを適用する際に、メインラジエータが設けられたメイン冷却水経路とは別経路であるサブ冷却水経路に設けられたサブラジエータを効率よく使用することで、メイン冷却水経路のメインラジエータの容量と、サブ冷却水経路のサブラジエータの容量を必要以上に増加させることなく最適化した内燃機関の冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関の冷却装置は、水冷式の排気マニホールドが、互いに独立した冷却水経路であるメイン冷却水経路とサブ冷却水経路の双方に接続され、かつサブ冷却水経路内においては前記排気マニホールドとEGRクーラとが並列に接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
EGRクーラにおいて、EGRガスを冷却したい運転状態と、排気マニホールドにおいて排気ガスを冷却したい運転状態とは同じではない。そのため、水冷式の排気マニホールドが、メイン冷却水経路とサブ冷却水経路の双方に接続されていることと、サブ冷却水経路内に排気マニホールドとEGRクーラとを並列に接続し、運転状態に応じてサブラジエータを効率的に使用することにより、メインラジエータの容量及びサブラジエータの容量を必要以上に増加させることなく最適化した状態で、排気マニホールドを水冷式の排気マニホールドとすることが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用された内燃機関の冷却装置の概略を模式的に示した説明図。
【図2】高負荷時において拡大されて硫黄被毒解除可能な運転領域を模式的に示した説明図。
【図3】低負荷時において拡大されて硫黄被毒解除可能な運転領域を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明が適用された内燃機関の冷却装置の概略を模式的に示した説明図である。
【0012】
ディーゼルエンジンである内燃機関1は、メインラジエータ2によって経路内の冷却水を冷却するメイン冷却水経路3と、サブラジエータ4によって経路内の冷却水を冷却するサブ冷却水経路5と、を有している。メイン冷却水経路3とサブ冷却水経路5とは、互いに独立した冷却水経路となっており、メイン冷却水経路3内を循環する冷却水と、サブ冷却水経路5内を循環する冷却水とは互いに混じり合わないように形成されている。
【0013】
また、内燃機関1には、吸気通路6及び排気通路7が接続されている。排気通路7には、排気浄化用の触媒としての三元触媒8及びNOxトラップ触媒9と、排気微粒子フィルタ(DPF)10が直列に介装されている。
【0014】
三元触媒8は、空気過剰率が略「1」のとき、すなわち排気空燃比が略理論空燃比となるときに、流入する排気中のHC、CO、NOxの三成分を浄化するものである。NOxトラップ触媒9は、排気空燃比が理論空燃比よりリーンのときに排気ガス中のNOxを吸着し、排気空燃比が理論空燃比よりリッチのときにNOxを脱離還元して浄化する。NOxトラップ触媒9は、NOx以外に排気ガスに含まれる硫黄分もトラップする。DPF10は排気ガス中のPM(微粒子状物質)を捕集するものである。
【0015】
排気通路7には、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路6に還流するEGR通路11が接続されている。このEGR通路11には、EGR弁12及び水冷式のEGRクーラ13が介装されていると共に、EGRクーラ13をバイパスさせてEGRガスを吸気通路6に導入可能なバイパス通路14と、バイパス通路14を開閉するバイパス通路制御弁15が設けられている。
【0016】
バイパス通路14は、一端がEGRクーラ13のEGRガス入口側より排気通路7側でEGR通路11に接続され、他端がEGRクーラ13のEGRガス出口側より吸気通路6側でEGR通路11に接続されている。またバイパス通路制御弁15は、バイパス通路14の一端とEGR通路11との接続部分に設けられている。
【0017】
EGR弁12は、例えばステップモータを用いた電子制御式のものであり、その開度に応じて吸気側に還流する排気の量、すなわち内燃機関1に吸入されるEGR量を制御するものである。EGRクーラ13は、後述する排気マニホールド16の下流側の排気通路7から還流するEGRガスを冷却するものである。
【0018】
メイン冷却水経路3内を循環する冷却水は、内燃機関1のウォータジャケット(図示せず)を流れるものであり、シリンダブロック(図示せず)及びシリンダヘッド(図示せず)を冷却している。
【0019】
また、このメイン冷却水経路3には、メインラジエータ2の他に、水冷式でアルミニウム等の金属製の排気マニホールド16、この排気マニホールド16に流れる冷却水流量を調整する第1流量調整弁17と、ウォータポンプ(図示せず)等が介装されている。
【0020】
メイン冷却水経路3内において、排気マニホールド16は、内燃機関1のウォータジャケットに対して並列に接続されており、第1流量調整弁17を開くことで排気マニホールド16にメイン冷却水経路3内の冷却水が流れ込み、第1流量調整弁17を閉じることで排気マニホールド16にメイン冷却水経路3内の冷却水が流れ込まないようにすることが可能となっている。本実施形態においは、第1流量調整弁17の弁開度が大きくなるほど(全開に近づくほど)、排気マニホールド16に流れ込むメイン冷却水経路3内の冷却水流量が多くなっている。この第1流量調整弁17は、メイン冷却水経路3内において、メイン冷却水経路3内の冷却水の流れ方向で排気マニホールド16の下流側に配置されている。
【0021】
サブ冷却水経路5内を循環する冷却水は、EGRクーラ13及び排気マニホールド16を流れている。
【0022】
サブ冷却水経路5には、前述したサブラジエータ4の他に、EGRクーラ13、水冷式の排気マニホールド16、電動のウォータポンプ18、排気マニホールド16に流れる冷却水流量とEGRクーラ13に流れる冷却水流量との割合を調整する第2流量調整弁19とが介装されている。
【0023】
そして、排気マニホールド16とEGRクーラ13とが、このサブ冷却水経路5内に並列に接続されている。本実施形態においては、サブ冷却水経路5内の冷却水が、図1において反時計回りに循環しており、ウォータポンプ18から吐出した冷却水は、排気マニホールド16及びEGRクーラ13を経てサブラジエータ4に流れ込み、サブラジエータ4で冷却された後にウォータポンプ18に導入されている。また、サブ冷却水経路5内の冷却水温度は、メイン冷却水経路3内の冷却水温度よりも低くなるよう設定されている。
【0024】
第2流量調整弁19は、排気マニホールド16内を流れた冷却水とEGRクーラ13内を流れた冷却水とが合流する部分(排気マニホールド16及びEGRクーラ13の下流側)に配置された三方弁であって、0度(全閉)〜90度(全開)の間で開度が制御されている。本実施形態においては、全閉時には排気マニホールド16に冷却水が流れず、EGRクーラ13に全て冷却水が流れ込み、全開時にはEGRクーラ13に冷却水が流れず、排気マニホールド16に全ての冷却水が流れ込む設定となっている。
【0025】
第1流量調整弁17、第2流量調整弁19及びバイパス通路制御弁15は、例えばステップモータを用いた電子制御式のものであり、前述したEGR弁12を含め、ECU(エンジンコントロールユニット)20によって開閉制御されている。また、ウォータポンプ18の単位時間当たりの吐出量は、ECU20によって可変制御可能となっている。
【0026】
ECU20には、内燃機関1の制御のため、機関回転数を検出する回転数センサ21、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ22、吸入空気量を検出するエアフローメータ23、三元触媒8上流側の排気通路7内の排気ガス温度を検出する温度センサ24、NOxトラップ触媒9の温度を検出する温度センサ25、DPF10入口の排気圧力を検出する排気圧力センサ26、三元触媒8入口の排気空燃比を検出する空燃比センサ27、NOxトラップ触媒9出口の排気空燃比を検出する空燃比センサ28、EGRクーラ13の出口側のEGRガス温度を検出する温度センサ29、三元触媒8の触媒温度を検出する温度センサ30、メイン冷却水経路3内の冷却水温度を検出する温度センサ31、サブ冷却水経路5内の冷却水温度を検出する温度センサ32等の各種センサからの検出信号が入力されている。
【0027】
そして、ECU20は、これら各種センサからの検出信号に基づいて、燃料噴射量、噴射時期を設定して燃料噴射弁(図示せず)の駆動を制御すると共に、スロットル弁(図示せず)及びEGR弁12の開度制御を行う。特に、本発明に係る制御として、ECU20は、メイン冷却水経路3内に配置された第1流量調整弁17及びサブ冷却水経路5内に配置された第2流量調整弁19の開度を運転状態に応じて制御する。
【0028】
まず、内燃機関1の始動から三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化するまでは、排気マニホールド16の機能を確保する程度の冷却水が排気マニホールド16に流れるようにすると共に、EGRクーラ13におけるEGRガスの冷却要求は低く、EGRクーラ13に流れ込む冷却水流量も少なくしている。
【0029】
金属製の排気マニホールド16においては、冷却水を全く流さないと所期の機能を確保できなくなる虞があるので、所期の機能が確保される程度の流量の冷却水を流す必要がある。また、内燃機関1の始動から三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化するまでのシーンにおいては、EGRガスを吸気通路6に還流させるが、三元触媒8及びNOxトラップ触媒9を早期に活性化させる必要があるため、EGRガスに対する冷却要求は小さく、EGRクーラ13に流れ込む冷却水流量は少なくてもよい。
【0030】
そこで、内燃機関1の始動から三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化するまでは、メイン冷却水経路3において、第1流量調整弁17を閉弁し、排気マニホールド16へ冷却水が流れ込まないようにする。サブ冷却水経路5においては、第2流量調整弁19の開度が半開(45°)に設定されると共に、ウォータポンプ18の単位時間当たりの冷却水の吐出量が相対的に少なくなるように制御し、排気マニホールド16内に流れる冷却水流量が、排気マニホールド16内で冷却水が沸騰しない最低限の量となるようにする。このとき、バイパス通路制御弁15は開弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れるようになっている。
【0031】
これによって、排気マニホールド16及びEGRガスの双方の冷却を抑制することができ、触媒を早期に活性化させることが可能となる。
【0032】
尚、内燃機関1の始動から三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化するまでの状態において、メイン冷却水経路3においては第1流量調整弁17を閉弁し、サブ冷却水経路5においては排気マニホールド16内に流れる冷却水流量が、排気マニホールド16内で冷却水が沸騰しない最低限の量となるように第2流量調整弁19の開度を制御し、さらにバイパス通路制御弁15を開弁して、EGRガスがバイパス通路14を流れるようにすれば、ウォータポンプ18の単位時間当たりの冷却水の吐出量を制御することなく、排気マニホールド16及びEGRガスの双方の冷却を抑制することができる。
【0033】
次に、三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化してから内燃機関1の暖機が完了するまでは、排気マニホールド16の持つ熱を利用して内燃機関1が暖機されるように、排気マニホールド16に対して、メイン冷却水経路3側からは冷却水が流れ込むが、サブ冷却水経路5側からは冷却水が流れ込まないようにする。また、内燃機関1の暖機も完了していないので、EGRガスを吸気通路6に還流させるものの、EGRクーラ13におけるEGRガスの冷却要求は低く、EGRクーラ13に流れ込む冷却水流量も少なくしている。
【0034】
具体的には、メイン冷却水経路3においては、第1流量調整弁17を開弁(全開)し、排気マニホールド16へ冷却水が流れ込むようにする。サブ冷却水経路5においては、第2流量調整弁19の開度が全閉(0°)に設定されると共に、ウォータポンプ18の単位時間当たりの冷却水の吐出量が相対的に少なくなるように制御する。このとき、バイパス通路制御弁15は閉弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れないようになっている。また、このときのウォータポンプ18の単位時間当たりの冷却水の吐出量を相対的に少なくなるように制御するようにしてもよい。
【0035】
これによって、排気マニホールド16の持つ熱が、メイン冷却水経路3内を流れる冷却水を介して内燃機関1に渡されることになので、内燃機関1の暖機が効率よく促進され、内燃機関1のフリクション低減による燃費向上や暖房性能の向上を図ることができる。
【0036】
尚、三元触媒8及びNOxトラップ触媒9が活性化してから内燃機関1の暖機が完了するまでの状態において、メイン冷却水経路3においては第1流量調整弁17を開弁(全開)し、サブ冷却水経路5においては第2流量調整弁19の開度を全閉(0°)し、さらにバイパス通路制御弁15を開弁して、EGRガスがバイパス通路14を流れるようにしてもよく、この場合には、ウォータポンプ18の単位時間当たりの冷却水の吐出量を相対的に少なくなるようにあえて制御する必要はない。
【0037】
内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させるような運転状態においては、排気ガス中のNOxを低減する上で、EGRガスの温度を低下させる必要がある。そのため、サブ冷却水経路5においては、EGRクーラ13及び排気マニホールド16の双方に対して冷却水流量を増加させたい場面である。一方、メイン冷却水経路3においては、吸気通路6にEGRガスが還流し、燃焼温度の上昇が抑制されことになるため、メインラジエータ2でメイン冷却水経路3内の冷却水を冷却する上で、メインラジエータ2の冷却能力に余力がある。
【0038】
そこで、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させるような運転状態では、メイン冷却水経路3において、第1流量調整弁17を開弁(全開)し、排気マニホールド16へ冷却水が流れ込むようにする。サブ冷却水経路5においては、排気マニホールド16に流れる冷却水流量がEGRクーラ13に流れる冷却水流量より少なくなるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。換言すれば、大部分の冷却水がEGRクーラ13に流れるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。このとき、バイパス通路制御弁15は閉弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れないようになっている。尚、第2流量調整弁19の開度を全閉に設定し、サブ冷却水経路5内の冷却水が排気マニホールド16に流れないようにしてもよい。
【0039】
このように、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させるような運転状態においては、排気マニホールド16を主としてメイン冷却水経路3の冷却水によって冷却し、サブ冷却水経路5の冷却水が主としてEGRクーラ13でEGRガスを冷却することで、サブラジエータ4の容量を必要以上に増加させることなく最適化した状態で、EGRガスを効果的に冷却することができる。
【0040】
尚、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させるような運転状態においてEGRガスを最大限冷却する場合には、ウォータポンプ18は単位時間当たりの冷却水の吐出量が最大となるように運転されることになる。
【0041】
内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させない出力重視の運転状態においては、内燃機関1の出力向上のために、排気ガスの温度を低下させることが要求される。そのため、排気マニホールド16で排気ガスを冷却するために、排気マニホールド16に対して冷却水流量を増加させたい場面である。
【0042】
ここで、メイン冷却水経路3においては、内燃機関1が出力重視の運転状態となっており、内燃機関1のシリンダブロックやシリンダヘッドに対する冷却要求が高くなっているため、メイン冷却水経路3内の冷却水を排気マニホールド16に流してしまうと、メインラジエータ2の容量を予め増加させておかなければ、内燃機関1のシリンダブロックやシリンダヘッドが十分に冷却できなくなってしまう虞がある。一方、サブ冷却水経路5においては、EGRガスを冷却する必要がないため、サブラジエータ4でサブ冷却水経路5内の冷却水を冷却する上で、サブラジエータ2の冷却能力に余力がある。
【0043】
そこで、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させない運転状態においては、メイン冷却水経路3において、第1流量調整弁17を閉弁(全閉)し、排気マニホールド16へ冷却水が流れ込まないようにする。サブ冷却水経路5においては、排気マニホールド16に流れる冷却水流量がEGRクーラ13に流れる冷却水流量より多くなるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。換言すれば、大部分の冷却水が排気マニホールド16に流れるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。このとき、バイパス通路制御弁15は閉弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れず、EGRクーラ13を流れるようになっている。尚、第2流量調整弁19の開度を全開(90°)として、サブ冷却水経路5においては、EGRクーラ13に冷却水が流れず排気マニホールド16に全ての冷却水が流れ込むようにすることも可能である。
【0044】
このように、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させない運転状態においては、内燃機関1の出力向上のために排気ガスの温度を低下させるにあたって、サブ冷却水経路5の冷却水を効率よく使用することで、メインラジエータ2の容量を必要以上に増加させることなく最適化した状態で、排気ガスを効果的に冷却することができる。
【0045】
尚、内燃機関1の暖機終了後に吸気通路6にEGRガスを還流させないような運転状態において排気ガスを最大限冷却する場合には、ウォータポンプ18は単位時間当たりの冷却水の吐出量が最大となるように運転されることになる。
【0046】
次に、NOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除時においては、そのときの内燃機関1の負荷の状態(トルク)に応じて、第1流量調整弁及び第2流量調整弁19の開度を制御する。
【0047】
硫黄被毒解除可能運転領域(S被毒解除可能領域)は、基本的には、機関回転数とトルク(負荷)によって設定されるが、NOxトラップ触媒9の温度による制限を受けることになる。実際の硫黄被毒解除可能運転領域は、NOxトラップ触媒9の熱劣化保護のために、NOxトラップ触媒9のベッド温度が所定の上限温度(例えば750℃)以上とならないように制限される共に、NOxトラップ触媒9の温度が低すぎると硫黄被毒解除が行えないため、NOxトラップ触媒9のベッド温度が所定の下限温度(例えば650℃)以下とならないように制限される。すなわち、機関回転数とトルク(負荷)によって設定された硫黄被毒解除可能運転領域であっても、NOxトラップ触媒9のベッド温度が所定の上限温度(例えば750℃)以上となる領域や、NOxトラップ触媒9のベッド温度が所定の下限温度(例えば650℃)以下となるような領域では、硫黄被毒解除を行うことはできない。
【0048】
高負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合、排気ガス温度が上昇するためNOxトラップ触媒9のベッド温度が上昇することになる。そこで、高負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合には、NOxトラップ触媒9のベッド温度の上昇を抑制するために、排気マニホールド16において排気ガスの温度が低下させる。具体的には、高負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合、メイン冷却水経路3においては、第1流量調整弁17を開弁(全開)し、排気マニホールド16に冷却水が流れ込むようにする。サブ冷却水経路5においては、排気マニホールド16に流れる冷却水流量がEGRクーラ13に流れる冷却水流量より多くなるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。換言すれば、大部分の冷却水が排気マニホールド16に流れるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。このとき、バイパス通路制御弁15は閉弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れないようになっている。
【0049】
硫黄被毒解除時には、空燃比が理論空燃比となるように制御する必要があるためEGRガスを吸気通路6に還流させているが、EGRガスの還流量が多すぎると排気中のスモークが増加することになるため、吸気通路6に還流されるEGRガス量は、EGR率で5%〜10%程度の少量となるように設定されている。そのため、高負荷時に硫黄被毒解除可能な運転領域を拡大する上では、吸気通路6に還流するEGRガスの温度を冷やすよりも、排気マニホールド16において排気ガスを直接冷やしてやるほうが、排気ガス温度が低下してNOxトラップ触媒9の熱劣化保護に寄与することになる。
【0050】
そこで、排気マニホールド16に対して、メイン冷却水経路3及びサブ冷却水経路5の双方から多くの冷却水が流れ込むように、第1流量調整弁17及び第2流量調整弁19の開度を制御することによって、排気ガス温度を最大限低下させることができる。
【0051】
つまり、排気マニホールド16に流れる込む冷却水流量を増加させることによって、図2に示すように、トルク(負荷)と機関回転数との関係から推定されるNOxトラップ触媒9のベッド温度上限を示す特性線Aが、特性線A’となり、図2中の斜線で示す領域P1分、高負荷側、高回数側に硫黄被毒解除可能な運転領域を拡大することができる。
【0052】
尚、高負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする際に排気ガスを最大限冷却する場合には、ウォータポンプ18は単位時間当たりの冷却水の吐出量が最大となるように運転されることになる。
【0053】
低負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合、排気ガス温度が低下するためNOxトラップ触媒9のベッド温度が低下することになる。噴射時期リタードする等の排気ガス温度を高くする方法はあるが、内燃機関1の失火限界により、NOxトラップ触媒9のベッド温度が所定の下限温度(例えば650℃)以下なる場合ある。そこで、低負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合には、NOxトラップ触媒9のベッド温度の低下を抑制するために、排気ガスの温度低下を積極的に抑制する。
【0054】
具体的には、低負荷運転時にNOxトラップ触媒9の硫黄被毒解除をする場合、メイン冷却水経路3においては、第1流量調整弁17を閉弁(全閉)し、排気マニホールド16に冷却水が流れ込まないようにする。サブ冷却水経路5においては、排気マニホールド16に流れる冷却水流量がEGRクーラ13に流れる冷却水流量より少なくなるように第2流量調整弁19の開度が設定されている。このとき、バイパス通路制御弁15は開弁しており、EGRガスはバイパス通路14を流れ、EGRクーラ13をバイパスするようになっている。
【0055】
尚、上述したように、排気マニホールド16には、所期の機能が確保される程度の流量の冷却水を最低限流す必要があるため、第2流量調整弁19の開度は、排気マニホールド16内に流れる冷却水流量が排気マニホールド16内で冷却水が沸騰しない最低限の量となる開度以下には設定されないものとするが、排気ガスの温度低下を抑制する上では、排気マニホールド16内に流れる冷却水流量が排気マニホールド16内で冷却水が沸騰しない最低限の量となる開度に設定するのが最も有利である。そのため、ウォータポンプ18は単位時間当たりの冷却水の吐出量を制御する際には、単位時間当たりの冷却水の吐出量が相対的に少なくなるように制御するのほうがエネルギーロスが小さくなる。
【0056】
これによって、排気マニホールド16に流れ込む冷却水流量が減少し、排気ガス温度の低下が抑制される。また、吸気通路6に還流するEGRガスがバイパス通路14を流れることにより、EGRガスの温度低下が抑制され、このことも排気ガスの温度低下の抑制に寄与することになる。
【0057】
つまり、排気マニホールド16に流れ込む冷却水流量を減少させることによって、図3に示すように、トルク(負荷)と機関回転数との関係から推定されるNOxトラップ触媒9のベッド温度下限を示す特性線Bが、特性線B’となり、図3中の斜線で示す領域P2分、低負荷側、低回転数側に硫黄被毒解除可能な運転領域を拡大することができる。
【0058】
尚、硫黄被毒解除時には、空燃比が理論空燃比となるように制御されるため、空燃比が比較的にリッチとなりハイドロカーボン(HC)が発生しやすくなるが、EGR率も低いので、EGRクーラ13でEGRガスを冷却する高負荷時においても、EGRクーラ13内に排気ガス中のハイドロカーボンが詰まってしまうことも抑制される。また、低負荷時においては、そもそもEGRクーラ13をEGRガスがバイパスするので、排気ガス中のハイドロカーボンがEGRクーラ13内に詰まってしまうこともない。
【0059】
以上説明してきたように、EGRクーラ13において、EGRガスを冷却したい運転状態と、排気マニホールド16において排気ガスを冷却したい運転状態とは同じではない。そのため、水冷式の排気マニホールド16が、メイン冷却水経路3とサブ冷却水経路5の双方に接続されていることと、サブ冷却水経路5内に排気マニホールド16とEGRクーラ13とを並列に接続し、運転状態に応じて第1流量調整弁17及び第2流量調整弁19の弁開度を制御して、サブラジエータ4を効率的に使用することにより、メインラジエータ2の容量及びサブラジエータ4の容量を必要以上に増加させることなく最適化した状態で、排気マニホールドを水冷式の排気マニホールド16とすることが可能となる。
【0060】
また、サブ冷却水経路5は、排気ガス(EGRガス)の冷却を目的として設けられており、サブ冷却水経路5内の冷却水温度は、メイン冷却水経路3の冷却水温度よりも低く設定されているので、サブ冷却水経5内の冷却水により、排気マニホールド16及びEGRクーラ13を効率よく冷却することができ、EGRガスを吸気通路6に大量に還流させる上で有利な構成となっている。
【符号の説明】
【0061】
1…内燃機関
2…メインラジエータ
3…メイン冷却水経路
4…サブラジエータ
5…サブ冷却水経路
6…吸気通路
7…排気通路
8…三元触媒
9…NOxトラップ触媒
10…排気微粒子フィルタ
11…EGR通路
12…EGR弁
13…EGRクーラ
14…バイパス通路
15…バイパス通路制御弁
16…排気マニホールド
17…第1流量調整弁
18…ウォータポンプ
19…第2流量調整弁
20…ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの一部であるEGRガスを水冷式のEGRクーラを介して吸気通路に還流する排気還流手段と、
メインラジエータで冷却され、内燃機関のウォータジャケット及び水冷式の排気マニホールドを流れる冷却水が循環するメイン冷却水経路と、
サブラジエータで冷却され、前記排気マニホールド及び前記EGRクーラを流れる冷却水が循環するサブ冷却水経路と、を有し、
前記メイン冷却水経路と前記サブ冷却水経路とが互いに独立した冷却水経路となっていると共に、前記サブ冷却水経路内においては前記排気マニホールドと前記EGRクーラとが並列に接続され
前記メイン冷却水経路内には、前記排気マニホールドに流れ込む冷却水流量を調整する第1流量調整弁が介装され、
前記サブ冷却水経路内には、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量と、前記EGRクーラに流れる冷却水流量と、の割合を調整する第2流量調整弁が介装され、
運転状態に応じて、前記第1流量調整弁及び前記第2流量調整弁の弁開度を制御して前記排気マニホールド及び前記EGRクーラに流れる冷却水流量が調整されることを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
前記メイン冷却水経路内の冷却水温度に対して、前記サブ冷却水経路内の冷却水温度が低くなるよう設定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒と、
前記サブ冷却水経路内で冷却水を循環させる電動のウォータポンプと、を有し、
内燃機関の始動後、前記触媒が活性化するまでは、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに冷却水が流れないように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量及び前記EGRクーラに流れる冷却水流量の双方が少なくなるように、前記第2流量調整弁及びウォータポンプが制御され、
前記ウォータポンプは、単位時間当たりの冷却水の吐出量が相対的に少なくなるように制御されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒と、
前記EGRガスが前記EGRクーラをバイパスして吸気通路に還流するバイパス通路と、を有し
内燃機関の始動後、前記触媒が活性化するまでは、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに冷却水が流れないように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記EGRクーラに流れる冷却水流量が前記排気マニホールドに流れる冷却水流量よりも多くなるように前記第2流量調整弁の開度が調整され、
前記排気還流手段においては、前記EGRガスが前記バイパス通路を流れるように調整されることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項5】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒と、
前記サブ冷却水経路内で冷却水を循環させる電動のウォータポンプと、を有し、 前記触媒が活性化してから前記内燃機関の暖機が完了するまでは、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに多くの冷却水が流れ込むように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドには冷却水が流れず、かつ前記EGRクーラに流れる冷却水流量が少なくなるように、前記第2流量調整弁及び前記ウォータポンプが制御され、
前記ウォータポンプは、単位時間当たりの冷却水の吐出量が相対的に少なくなるように制御されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項6】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒と、
前記EGRガスが前記EGRクーラをバイパスして吸気通路に還流するバイパス通路と、を有し
前記触媒が活性化してから前記内燃機関の暖機が完了するまでは、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに多くの冷却水が流れ込むように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに冷却水が流れないように前記第2流量調整弁の開度が調整され、
前記排気還流手段においては、前記EGRガスが前記バイパス通路を流れるように調整されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項7】
前記内燃機関の暖機完了後に前記吸気通路に前記EGRガスを還流させる際には、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに多くの冷却水が流れ込むように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量が、前記EGRクーラに流れる冷却水流量より少なくなるように前記第2流量調整弁の開度が調整されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項8】
前記内燃機関の暖機完了後で、前記吸気通路に前記EGRガスを還流させない際には、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに冷却水が流れないように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量が、前記EGRクーラに流れる冷却水流量より多くなるように前記第2流量調整弁の開度が調整されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項9】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒としてNOxトラップ触媒を有し、
高負荷運転時に、前記NOxトラップ触媒における硫黄被毒解除を実施する場合に、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに多くの冷却水が流れ込むように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量が、前記EGRクーラに流れる冷却水流量より多くなるように前記第2流量調整弁の開度が調整されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項10】
排気通路に介装された排気浄化用の触媒としてNOxトラップ触媒を有し、
低負荷運転時に、前記NOxトラップ触媒における硫黄被毒解除を実施する場合に、
前記メイン冷却水経路においては、前記排気マニホールドに冷却水が流れないように前記第1流量調整弁の開度が調整され、
前記サブ冷却水経路においては、前記排気マニホールドに流れる冷却水流量が前記EGRクーラに流れる冷却水流量よりも少なくなるように前記第2流量調整弁の開度が調整されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82723(P2012−82723A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228079(P2010−228079)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】