説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の予期せぬ失火の発生を抑制する。
【解決手段】内燃機関の制御装置100は、気筒11と、気筒に夫々接続された吸気通路12及び排気通路13と、排気通路に配置された触媒14と、一端が排気通路に接続され、他端が吸気通路に接続されたEGR通路151を有し、気筒から排出された排気ガスの少なくとも一部を吸気通路側に再循環可能なEGR装置15と、気筒に燃料を供給可能な燃料供給手段16と、を備える内燃機関1の制御装置である。制御装置は、触媒の温度に応じて、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御する制御手段21を備える。該制御手段は、更に、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御できない燃料カット不可時には、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御可能な燃料カット時に比べて、EGR率が低くなるようにEGR装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部EGR(Exhaust Gas Recirulation)装置を有する内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、排気通路に設けられている触媒装置の温度が設定温度以上となった時には再循環させる排気ガス量を減量し、機関減速時に多量の排気ガスが再循環されないようにして極低負荷運転を実施し、該触媒装置の温度が設定温度未満の時には、機関減速時にフューエルカットを実施する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−013947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の背景技術によれば、内燃機関の予期せぬ失火が発生する可能性があるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の予期せぬ失火の発生を抑制することができる内燃機関の制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の制御装置は、上記課題を解決するために、気筒と、前記気筒に夫々接続された吸気通路及び排気通路と、前記排気通路に配置された触媒と、一端が前記排気通路に接続され、他端が前記吸気通路に接続されたEGR通路を有し、前記気筒から排出された排気ガスの少なくとも一部を前記吸気通路側に再循環可能なEGR装置と、前記気筒に燃料を供給可能な燃料供給手段と、を備える内燃機関の制御装置であって、前記触媒の温度に応じて、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、更に、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御できない燃料カット不可時には、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御可能な燃料カット時に比べて、EGR率が低くなるように前記EGR装置を制御する。
【0007】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、内燃機関は、気筒と、該気筒に夫々接続された吸気通路及び排気通路と、該排気通路に配置された、例えば三元触媒等の触媒と、EGR装置と、例えばガソリン等の燃料を供給可能な燃料供給手段と、を備える。
【0008】
ここで、「気筒」は、一つに限らず、複数個(例えば、4個、6個、8個等)であってよい。また、「燃料供給手段」は、気筒内に直接燃料を供給可能(所謂、直噴)に構成されていることに限らず、吸気通路等を介して気筒に燃料を供給可能に構成されていてよい。
【0009】
EGR装置は、一端が排気通路に接続され、他端が吸気通路に接続されたEGR通路を有している。EGR通路には、該EGR通路内を流れる排気ガスの流量を調整可能なEGR弁が設けられている。EGR装置の動作時に、該EGR弁の開度が調節されることによって、排気通路から吸気通路に再循環される排気ガスの量が定められる。
【0010】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる制御手段は、触媒の温度に応じて、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御する。具体的には例えば、制御手段は、触媒の温度が、第1所定温度より高く、且つ第2所定温度より低い場合に、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御する。
【0011】
尚、「第1所定温度」は、経験的若しくは実験的に、又はシミュレーションによって、例えば、触媒の温度と、触媒の浄化効果との関係を求め、所定の浄化効果を得られる触媒の温度範囲の下限温度、又は該下限温度から所定値だけ高い温度として、設定すればよい。「第2所定温度」は、経験的若しくは実験的に、又はシミュレーションによって、例えば、触媒の温度と、触媒の劣化の程度との関係を求め、触媒の劣化の程度が許容範囲を超える温度よりも所定値だけ低い温度として、設定すればよい。
【0012】
ここで、本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、EGR装置により排気ガスの少なくとも一部を再循環させることにより、NOx量の抑制、及び燃費の向上を図ることができる。このような効果を十分に得るためには、比較的多量の排気ガスを再循環させることが望ましい。他方で、燃料供給手段から燃料が供給されている場合(即ち、内燃機関の燃焼時)に、再循環させる排気ガスの量(即ち、EGR率)が過剰になると内燃機関が失火する。このため、燃料が供給されている場合は、内燃機関が失火しない範囲内で可能な限り多量の排気ガスを再循環させるように、EGR装置が制御されることが多い。
【0013】
ところで、例えば、EGR通路や吸気通路の形状、EGR通路におけるEGR弁の位置、等に起因して、EGR弁の開度が制御されてから目標通りのEGR率となるまでには、一定期間を要する(即ち、応答遅れが生じる)。つまり、EGR率を制御できない期間が生じる。すると、応答遅れに起因して意図した以上の排気ガスが再循環され、内燃機関の予期せぬ失火を招く可能性がある。
【0014】
そこで本発明では、制御手段により、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御できない燃料カット不可時には、燃料を供給しないように燃料供給手段を制御可能な燃料カット時に比べて、EGR率が低くなるようにEGR装置が制御される。ここで、燃料カット不可時におけるEGR率を、応答遅れに起因するEGR率の変動を考慮して設定すれば、仮に、応答遅れに起因して意図した以上の排気ガスが再循環されたとしても、内燃機関が失火すること(更には、失火に起因する内燃機関の停止)を防止することができる。
【0015】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【図3】触媒床温と、燃料カットの可否と、の関係の一例を示す概念図である。
【図4】EGR率の時間変動の一例を示す概念図である。
【図5】EGR率の時間変動の予測結果の一例を示す概念図である。
【図6】EGR率の時間変動と燃料カットのタイミングとの関係の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0018】
(エンジンの構成)
先ず、本発明に係る「内燃機関」の一例としての、エンジンの構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。尚、図中の矢印は、気体が流れる方向を示している。
【0019】
図1において、エンジン1は、複数の気筒11と、各気筒11に夫々接続された吸気通路12及び排気通路13と、排気通路13に配置された触媒14と、一端が排気通路13に接続され、他端が吸気通路12に接続されたEGR通路151、及び該EGR通路151内を流れる排気ガスの流量を調節可能なEGR弁152を有するEGR装置15と、各気筒11に燃料を供給可能な、本発明に係る「燃料供給手段」の一例としての、燃料噴射弁16と、を備えて構成されている。
【0020】
EGR通路151によって、各気筒11から排出された排気ガスの少なくとも一部を、吸気通路12側に再循環させれば、排気ガスの主成分である不活性ガスが比較的大きな熱容量を有するので、燃焼温度を低下させてNOx生成量を低減することができる。加えて、再循環させて排気ガスの分だけ新気が気筒11内へ流入しにくくなるので、スロットル弁(図示せず)の開度を比較的大きくすることができ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させることができる。
【0021】
制御装置100は、本発明に係る「制御手段」の一例としての、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)21と、触媒14の温度を検出する温度センサ22と、を備えて構成されている。ECU21は、温度センサ22により検出された触媒14の温度に応じて、EGR弁152の開度を制御したり、供給される燃料量を変更するように燃料噴射弁16を制御したりする。本実施形態では、車両(図示せず)の各種電子制御用のECU21の機能の一部を、本実施形態に係る制御装置100の一部として用いている。
【0022】
(エンジン制御処理)
以上のように構成されたエンジン1の制御装置100が、実施するエンジン制御処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。このエンジン制御処理は、主に、車両の走行中に、定期的に又は不定期的に実施される。
【0023】
図2において、先ず、制御装置100の一部としてのECU21は、温度センサ22を介して、触媒14の触媒床温を取得する(ステップS101)。尚、触媒床温は、間接的に検出されてもよい。即ち、触媒床温と関連する物理量又はパラメータが検出され、該検出された物理量又はパラメータから触媒床温を特定又は推定してもよい。続いて、ECU21は、その他、燃料カットを実行するか否かを決定するために必要な条件(例えば、要求トルク、車速等)を取得する(ステップS102)。
【0024】
次に、ECU21は、EGR率の目標値の変更条件が成立したか否かを判定する(ステップS103)。具体的には例えば、ECU21は、図3に示すようなマップ、及び取得された触媒床温に基づいて、燃料カット可能か否かを判定し、燃料カット可能であると判定された場合に、ECU21は、目標値の変更条件が成立したと判定する。
【0025】
図3は、触媒床温と、燃料カットの可否と、の関係の一例を示す概念図である。尚、図3における温度T1未満である場合は、例えば触媒14の暖機が不十分であり、触媒暖機のために燃料カットが禁止される。他方、温度T2以上である場合は、例えば触媒14の劣化を防止するために燃料カットが禁止される。
【0026】
目標値の変更条件が成立したと判定された場合(ステップS103:Yes)、ECU21は、図4に示すように、例えばEGR率の導入限界値よりも所定値だけ低い値に、EGR率の目標値を変更する(ステップS104)。図4に示すように、燃料カット不可時には、燃料カット可能時に比べて、EGR率の目標値が低く設定される。
【0027】
図4は、EGR率の時間変動の一例を示す概念図である。尚、図4における「マージン」は、例えばEGR弁152のアクチュエータの応答速度等から算出すればよい。このような「マージン」を設けることにより、エンジン1の予期せぬ失火を抑制する事が出来ると共に、排気ガスを再循環させることによる効果を得ることができる。
【0028】
上記ステップS104の処理の後、又は、目標値の変更条件が成立しないと判定された場合(ステップS103:No)、ECU21は、現時点よりも将来の一時点から任意の期間におけるEGR率の変動を予測する(ステップS105)。具体的には例えば、ECU21は、図5に示すような、EGR率の時間変動を予測する。
【0029】
図5は、EGR率の時間変動の予測結果の一例を示す概念図である。図5における「矢印a」のように、EGR率が、EGR導入限界を超えるような領域が、予測区間内に存在する場合、ECU21は、該領域を制約領域として認定する。制約領域が存在する場合、ECU21は、例えば、制約領域において燃料の供給を停止するように燃料噴射弁16を制御する(即ち、燃料カットを実行する)、或いは、予めEGR率を下げるようにEGR弁152を制御してEGR率がEGR導入限界を超えないようにする。他方、「矢印b」のように、EGR率が、EGR導入限界を超えないような場合、ECU21は、制約領域は存在しないと判定する。
【0030】
ステップS105の処理の後、ECU21は、予測されたEGR率の時間変動に基づいて、制約領域が存在するか否かを判定すると共に、制約領域が存在すると判定された場合に、制約領域に係る情報(例えば、期間等)を取得する(ステップS106)。
【0031】
次に、ECU21は、燃料カット実行条件が成立したか否かを判定する(ステップS107)。燃料カット実行条件は、例えば、触媒床温が所定範囲内、EGR率がEGR導入制限以上、等である。
【0032】
燃料カット実行条件が成立したと判定された場合(ステップS107:Yes)、ECU21は、所定のタイミングで燃料の供給を停止するように燃料噴射弁16を制御する(ステップS108)。具体的には例えば、ECU21は、図6に示すように、上記ステップS106の処理で取得された制約領域に相当する期間だけ燃料カットを実行する。
【0033】
図6は、EGR率の時間変動と燃料カット(F/C)のタイミングとの関係の一例を示す概念図である。尚、図6は、時刻t1において、スロットル弁(図示せず)の閉じタイミングと同期してEGR弁151(図1参照)を閉じた場合のEGR率の時間変動を示している。
【0034】
本実施形態では、上述の如く、EGR率の時間変動が予測されるので、過渡的な状況下においても、EGR率の設定及び/又は燃料カット、を適切に実行することができる。
【0035】
ステップS107の処理において、燃料カット実行条件が成立していないと判定された場合(ステップS107:No)、ECU21は、例えば取得された触媒床温等に基づいて、触媒14の暖機条件が成立したか否かを判定する(ステップS109)。触媒14の暖機条件が成立していないと判定された場合(ステップS109:No)、ECU21は、一旦処理を終了する。
【0036】
他方、触媒14の暖機条件が成立したと判定された場合(ステップS109:Yes)、ECU21は、上述したステップS106の処理で取得された制約領域に想到する期間において、燃料の供給量を変更するように燃料噴射弁16を制御する(ステップS110)。
【0037】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…エンジン、11…気筒、12…吸気通路、13…排気通路、14…触媒、15…EGR装置、16…燃料噴射弁、21…ECU、22…温度センサ、100…制御装置、151…EGR通路、152…EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、前記気筒に夫々接続された吸気通路及び排気通路と、前記排気通路に配置された触媒と、一端が前記排気通路に接続され、他端が前記吸気通路に接続されたEGR通路を有し、前記気筒から排出された排気ガスの少なくとも一部を前記吸気通路側に再循環可能なEGR装置と、前記気筒に燃料を供給可能な燃料供給手段と、を備える内燃機関の制御装置であって、
前記触媒の温度に応じて、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、更に、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御できない燃料カット不可時には、前記燃料を供給しないように前記燃料供給手段を制御可能な燃料カット時に比べて、EGR率が低くなるように前記EGR装置を制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36337(P2013−36337A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170301(P2011−170301)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】