内燃機関の可変バルブタイミング制御装置
【課題】内燃機関の可変バルブタイミング装置において、保持デューティ学習値のずれがバルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減する。
【解決手段】可変バルブタイミング装置(VCT)の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域の両側にVCT応答速度が大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、低応答領域に本当の保持デューティが存在する。本当の保持デューティは、カムトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在する。このため、保持デューティの学習値が少しでも進角側にずれると、オーバーシュート等が発生する可能性がある。そこで、保持デューティを低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習する。この際、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内の値となるように保持制御量のオフセット量を設定する。
【解決手段】可変バルブタイミング装置(VCT)の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域の両側にVCT応答速度が大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、低応答領域に本当の保持デューティが存在する。本当の保持デューティは、カムトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在する。このため、保持デューティの学習値が少しでも進角側にずれると、オーバーシュート等が発生する可能性がある。そこで、保持デューティを低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習する。この際、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内の値となるように保持制御量のオフセット量を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実バルブタイミング(実VCT位相)を一定に保持するのに必要な保持制御量(保持デューティ)を学習する機能を備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、出力向上、燃費節減、エミッション低減等を目的として、内燃機関の吸気バルブや排気バルブのバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を搭載したものが増加しつつある。この油圧駆動式の可変バルブタイミング装置は、特許文献1(特開2007−224744号公報)、特許文献2(特開2004−251254号公報)に記載されているように、可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する油圧制御弁の制御量(制御デューティ)を演算する際に、目標バルブタイミング(目標VCT位相)と実バルブタイミング(実VCT位相)との偏差に応じたフィードバック制御量と、実バルブタイミングを一定に保持するのに必要な保持制御量(保持デューティ)とに基づいて油圧制御弁の制御量を設定し、この制御量で油圧制御弁を駆動して可変バルブタイミング装置の進角室や遅角室に供給する作動油の流量(油圧)を変化させることで、バルブタイミングを進角又は遅角させるようにしている。
【0003】
この際、可変バルブタイミング装置や油圧制御弁の製造ばらつきや経時変化によって保持制御量が変動することを考慮して、保持制御量を学習するようにしている。従来の保持制御量の学習処理は、実バルブタイミングが目標バルブタイミングにほぼ一致して安定しているときに(両者の偏差が所定値以内の状態が続くときに)、その時点の油圧制御弁の制御量を保持制御量として学習(更新記憶)するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224744号公報
【特許文献2】特開2004−251254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、可変バルブタイミング装置の応答速度向上に対する要求が益々強くなってきている。例えば、アトキンソンサイクルの手段として可変バルブタイミング装置を用いる場合、定常走行時には、吸気バルブタイミングを最遅角位相で制御し、加速要求時には、吸気バルブタイミングを速やかに進角させて吸入空気量を速やかに増加させることが要求されるため、吸気バルブの可変バルブタイミング装置では、特に進角方向の応答速度向上が要求されるようになってきている。
【0006】
しかし、可変バルブタイミング装置の応答速度向上を追及すると、必然的に応答速度の変化が急峻になり、僅かな保持制御量の学習値のずれでも、オーバーシュートやハンチングが発生しやすくなって可変バルブタイミング制御の安定性が低下してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、保持制御量の学習値のずれがバルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減できる内燃機関の可変バルブタイミング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、実VCT位相を目標VCT位相に一致させるように前記可変バルブタイミング装置の制御量を制御する可変バルブタイミング制御手段と、所定の保持制御量学習実行条件が成立しているときに前記可変バルブタイミング装置の制御量に基づいて前記実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持制御量を学習する保持制御量学習手段とを備え、前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量学習実行条件が成立しているときの前記可変バルブタイミング装置の制御量(本当の保持制御量)を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習するようにしたものである。
【0009】
この構成では、保持制御量を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習するため、VCT応答速度(可変バルブタイミング装置の制御量に対する実VCT位相の変化速度)が小さい方に保持制御量をオフセットさせて学習することが可能となり、VCT応答速度が大きい方に保持制御量学習値がずれてオーバーシュートやハンチングが発生することを防止できて、保持制御量の学習値のずれが可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0010】
この場合、請求項2のように、可変バルブタイミング装置の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域(不感帯)と、VCT応答速度が前記低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に保持制御量が存在し、前記保持制御量を前記低応答領域内で所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習するようにすれば良い。要するに、保持制御量のオフセット量を保持制御量学習値が低応答領域内に収まるように設定すれば良い。保持制御量学習値が低応答領域内に収まれば、保持制御量学習値が本当の保持制御量から多少ずれていても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0011】
また、請求項3のように、可変バルブタイミング装置の制御特性は、低応答領域の両側にVCT応答速度が異なる2つの高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在し、前記保持制御量を前記2つの保持制御量の中間側に所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習するようにしても良い。このようにすれば、低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在する場合でも、1つの保持制御量学習値で対応することが可能となり、2つの保持制御量が存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化することができる。
【0012】
また、請求項4のように、前記2つの高応答領域のうちの一方の高応答領域で実VCT位相の変化をばね力で補助するように構成された可変バルブタイミング装置に本発明を適用しても良い。この場合、ばね有り領域の保持制御量とばね無し領域の保持制御量との間に保持制御量学習値が位置するように保持制御量をオフセットさせれば良い。
【0013】
また、請求項5のように、保持制御量学習値が前記低応答領域の中央付近の所定範囲内に収まるように保持制御量のオフセット量を設定すれば良い。このようにすれば、保持制御量学習値が多少ずれても、保持制御量学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0014】
更に、本発明は、請求項6のように、可変バルブタイミング装置を前記保持制御量学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差(定常偏差)を小さくする方向に前記可変バルブタイミング装置の制御量を徐々に補正する目標追従制御を実行する目標追従制御手段を備えた構成とすると良い。このようにすれば、保持制御量学習値が本当の保持制御量からずれることで発生する実VCT位相と目標VCT位相との定常偏差を目標追従制御によって徐々に小さくして最終的に実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0015】
この場合、請求項7のように、可変バルブタイミング制御手段による制御量と保持制御量と目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて前記目標追従制御手段による補正量をリセットするか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、可変バルブタイミング制御手段による制御量と保持制御量と目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御手段による補正量が不要であるか否かを監視して、目標追従制御手段による補正量が不要と判断されるときに、目標追従制御手段による補正量をリセットすることができる。
【0016】
具体的には、請求項8のように、(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合、(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合、(3) 可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモードで制御されている場合のうちの少なくとも1つの条件が満たされたときに前記目標追従制御手段による補正量をリセットするようにしても良い。例えば、目標VCT位相が所定量以上変化した場合には、可変バルブタイミング制御手段により実VCT位相と目標VCT位相との偏差が小さくなるように制御されるため、保持制御量学習値に対する目標追従制御による補正量は不要である。また、目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合には、保持制御量学習値に対する目標追従制御による補正量が実VCT位相を目標VCT位相から離す方向に働いてしまうため、目標追従制御による補正量は不要である。また、可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合には、目標追従制御による補正量は不要である。
【0017】
また、請求項9のように、保持制御量学習手段による保持制御量の学習が禁止されている領域に実VCT位相が位置する場合は、保持制御量の学習を行わずに目標追従制御を実行するようにしても良い。このようにすれば、保持制御量の学習が禁止されている領域でも、目標追従制御によって実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0018】
また、請求項10のように、保持制御量学習実行条件は、少なくとも、実VCT位相が安定し、且つ、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以上であることを条件とし、目標追従制御の実行条件は、少なくとも、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が前記第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内であることを条件とすると良い。このようにすれば、保持制御量学習値を更新してから目標追従制御を開始して実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0019】
尚、保持制御量学習実行条件や目標追従制御実行条件は、上記以外の条件を追加しても良い。例えば、内燃機関の油温又は冷却水温が所定の温度領域(例えば暖機完了後の温度領域)であること、自己診断機能によりVCT制御系の異常が検出されていないこと等、可変バルブタイミング制御の実行条件が成立していることを条件としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の実施例1を示す制御システム全体の概略構成図である。
【図2】図2は実施例1の可変バルブタイミング装置と油圧制御回路の構成を説明する縦断側面図である。
【図3】図3は実施例1の可変バルブタイミング装置の縦断正面図である。
【図4】図4は実施例1の可変バルブタイミング装置のVCT応答特性と本当の保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図5】図5は目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した場合の制御例を示すタイムチャートである。
【図6】図6は実施例1の保持デューティ学習制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、目標VCT位相と実VCT位相との偏差と保持デューティ学習実行領域と目標追従制御実行領域との関係を説明する図である。
【図8】図8は実施例1の目標追従制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は実施例2のばね有り領域Aとばね無し領域Bと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図10】図10は実施例2の可変バルブタイミング装置のVCT応答特性と本当の保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図11】図11は実施例2の保持デューティ学習制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した2つの実施例1,2を説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1を図1乃至図8に基づいて説明する。
図1に示すように、内燃機関であるエンジン11は、クランク軸12からの動力がタイミングチェーン13により各スプロケット14,15を介して吸気側カム軸16と排気側カム軸17とに伝達されるようになっている。但し、吸気側カム軸16には、クランク軸12に対する吸気側カム軸16の進角量(VCT位相)を調整する可変バルブタイミング装置18(VCT)が設けられている。
【0023】
また、吸気側カム軸16の外周側には、気筒判別のために特定のカム角でカム角信号パルスを出力するカム角センサ19が設置され、一方、クランク軸12の外周側には、所定クランク角毎にクランク角信号パルスを出力するクランク角センサ20が設置されている。これらカム角センサ19及びクランク角センサ20の出力信号は、エンジン制御回路21に入力され、このエンジン制御回路21によって吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)が演算されると共に、クランク角センサ20の出力パルスの周波数(パルス間隔)に基づいてエンジン回転速度が演算される。また、エンジン運転状態を検出する各種センサ(吸気圧センサ22、水温センサ23、スロットルセンサ24等)の出力信号がエンジン制御回路21に入力される。
【0024】
このエンジン制御回路21は、上記各種センサで検出したエンジン運転状態に応じて燃料噴射制御や点火制御を行うと共に、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)を行い、吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)を目標バルブタイミング(目標VCT位相)に一致させるように可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧をフィードバック制御する。
【0025】
次に、図2及び図3に基づいて可変バルブタイミング装置18の構成を説明する。
可変バルブタイミング装置18のハウジング31は、吸気側カム軸16の外周に回動自在に支持されたスプロケット14にボルト32で締め付け固定されている。これにより、クランク軸12の回転がタイミングチェーン13を介してスプロケット14とハウジング31に伝達され、スプロケット14とハウジング31がクランク軸12と同期して回転する。
【0026】
一方、吸気側カム軸16の一端部には、ロータ35がボルト37で締め付け固定されている。このロータ35は、ハウジング31内に相対回動自在に収納されている。
【0027】
図3に示すように、ハウジング31の内部には、複数の油圧室40が形成され、各油圧室40が、ロータ35の外周部に形成されたベーン41によって進角室42と遅角室43とに区画されている。少なくとも1つのベーン41の両側部には、ハウジング31に対するロータ35(ベーン41)の相対回動範囲を規制するストッパ部56が形成され、このストッパ部56によって実VCT位相(カム軸位相)の調整可能範囲の最遅角位相と最進角位相が規制されている。
【0028】
可変バルブタイミング装置18には、VCT位相をその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックする中間ロック機構50が設けられている。この中間ロック機構50の構成を説明すると、いずれか1つ又は複数のベーン41にロックピン収容孔57が設けられ、このロックピン収容孔57に、ハウジング31とロータ35(ベーン41)との相対回動をロックするためのロックピン58が突出可能に収容され、このロックピン58がスプロケット14側に突出してスプロケット14のロック穴59に嵌り込むことで、VCT位相がその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックされる。この中間ロック位相は、エンジン11の始動に適した位相に設定されている。尚、ロック穴59をハウジング31に設けた構成としても良い。
【0029】
ロックピン58は、スプリング62によってロック方向(突出方向)に付勢されている。また、ロックピン58の外周部とロックピン収容孔57との間には、ロックピン58をロック解除方向に駆動する油圧を制御するためのロック解除用の油圧室が形成されている。ハウジング31には、進角制御時にロータ35を進角方向に相対回動させる油圧をばね力で補助するねじりコイルばね等のばね55(図2参照)が設けられている。
【0030】
本実施例1では、可変バルブタイミング装置18及びロックピン58を駆動する油圧を制御する油圧制御装置は、可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧を制御する位相制御用の油圧制御弁25と、ロックピン58を駆動する油圧を制御するロック制御用の油圧制御弁26とを個別に有する構成となっている。位相制御用の油圧制御弁25は、例えば5ポート・3ポジション型のスプール弁により構成され、ロック制御用の油圧制御弁26は、例えば3ポート・2ポジション型のスプール弁により構成されている。
【0031】
エンジン11の動力によって駆動されるオイルポンプ28により、オイルパン27内のオイルが汲み上げられて各油圧制御弁25,26に供給され、位相制御用の油圧制御弁25によって可変バルブタイミング装置18の進角室42と遅角室43に供給する油圧(オイル量)が制御され、ロック制御用の油圧制御弁26によってロックピン58をロック解除方向に駆動する油圧(オイル量)が制御される。位相制御用の油圧制御弁25の入口ポート側には、オイルの逆流を防止する逆止弁29が設けられている。
【0032】
尚、位相制御用の油圧制御弁25とロック制御用の油圧制御弁26とを一体化した油圧制御弁を用いても良い。
【0033】
エンジン制御回路21は、特許請求の範囲でいう可変バルブタイミング制御手段として機能し、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)中に、エンジン運転条件に基づいて目標VCT位相(目標バルブタイミング)を演算して、吸気側カム軸16の実VCT位相(吸気バルブの実バルブタイミング)を目標VCT位相(目標バルブタイミング)に一致させるように位相制御用の油圧制御弁25の制御デューティ(制御量)を例えばPD制御等によりフィードバック制御して可変バルブタイミング装置18の進角室42と遅角室43に供給する油圧をフィードバック制御する。更に、エンジン制御回路21は、所定の保持デューティ学習実行条件(保持制御量学習実行条件)が成立しているときに、位相制御用の油圧制御弁25の制御デューティに基づいて実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持デューティ(保持制御量)を学習する保持制御量学習手段としても機能し、可変バルブタイミング制御中は、保持デューティ学習値(保持制御量学習値)にフィードバック制御量を加算して制御デューティを求める。
【0034】
制御デューティ=保持デューティ学習値+フィードバック制御量
フィードバック制御量=Kp ・ΔVT+Kd ・d(ΔVT)/dt
d(ΔVT)/dt=[ΔVT(i) −ΔVT(i-1) ]/dt
【0035】
ここで、Kp は比例ゲイン、Kd は微分ゲイン、ΔVTは目標VCT位相と実VCT位相との偏差、ΔVT(i) は今回の偏差、ΔVT(i-1) は前回の偏差、dtは演算周期である。
【0036】
次に、図4を用いて、可変バルブタイミング装置18の制御デューティに対する実VCT位相の変化速度(VCT応答速度)と保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する。
【0037】
可変バルブタイミング装置18の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域(不感帯)の両側にVCT応答速度が低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、低応答領域に本当の保持デューティが存在する。本当の保持デューティは、低応答領域の中央付近には存在せず、吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在する。このため、保持デューティの学習値が少しでも進角側にずれると、オーバーシュートやハンチングが発生しやすくなって可変バルブタイミング制御の安定性が低下してしまう可能性がある。
【0038】
そこで、本実施例1では、保持デューティ学習実行条件が成立しているときの制御デューティ(本当の保持デューティ)を低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリ(エンジン制御回路21の電源オフ中でも記憶データが保持される書き換え可能な記憶手段)に更新記憶するようにしている。
【0039】
この際、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内の値となるように保持デューティのオフセット量を設定するようにしている。このようにすれば、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。保持デューティ学習値が低応答領域内に収まれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから多少ずれても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0040】
更に、エンジン制御回路21は、特許請求の範囲でいう目標追従制御手段としても機能し、所定の目標追従制御実行条件が成立しているときに、可変バルブタイミング装置18を保持デューティ学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差(定常偏差)を小さくする方向に制御デューティ(保持デューティ学習値)を補正デューティで徐々に補正する目標追従制御を実行するようにしている。
【0041】
目標追従制御時の制御デューティ=保持デューティ学習値+補正デューティ
このようにすれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティからずれることで発生する実VCT位相と目標VCT位相との定常偏差を目標追従制御によって徐々に小さくして最終的に実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0042】
次に、図5を用いて、本実施例1の保持デューティ学習制御と目標追従制御の一例を説明する。図5は、目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した場合の制御例を示すタイムチャートである。
【0043】
図5の例では、目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した時点t1 で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がステップ状に拡大されるため、その偏差に応じて制御デューティが進角側の高応答領域にステップ状に変化する。これにより、実VCT位相が急速に進角して、時刻t2 を経過する頃から実VCT位相がほぼ一定となる。実VCT位相が進角するに従って、制御デューティが徐々に保持デューティに近付いていき、実VCT位相がほぼ一定となる頃には、制御デューティが保持デューティでほぼ一定となる。この状態が暫く続くと、保持デューティ学習実行条件が成立して、その時点の制御デューティ(本当の保持デューティ)を遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0044】
保持デューティ学習値を更新した時点t3 で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がまだ残っているため、再び、その偏差に応じて制御デューティが進角側の高応答領域にステップ状に変化する。これにより、実VCT位相が急速に進角して、やがて実VCT位相がほぼ一定となるが、この段階では、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから遅角方向に所定量オフセットさせた値となっているため、目標VCT位相と実VCT位相との間に定常偏差が生じる。
【0045】
そこで、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以内になって目標追従制御実行条件が成立した時点t4 で、目標追従制御を開始して、制御デューティ(保持デューティ学習値)を補正デューティで徐々に進角側に補正して、実VCT位相を徐々に目標VCT位相に近付けていく。これにより、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第2所定値以内になった時点で、実VCT位相が目標VCT位相に収束(ほぼ一致)したと判断して目標追従制御を終了する。ここで、図7に示すように、上記第2所定値は、上記第1所定値よりも小さい値に設定されている。
【0046】
以上説明した本実施例1の保持デューティ学習制御と目標追従制御は、エンジン制御回路21によって図6及び図8の各ルーチンに従って実行される。以下、各ルーチンの処理内容を説明する。
【0047】
[保持デューティ学習制御ルーチン]
図6の保持デューティ学習制御ルーチンは、エンジン運転中(エンジン制御回路21の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、実VCT位相が安定しているか否かを、実VCT位相の所定時間当たりの変化量が所定値以内であるか否かで判定し、実VCT位相が安定していないと判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していないと判断して、以降の処理を行わずに本ルーチンを終了する。
【0048】
これに対して、上記ステップ101で、実VCT位相が安定していると判定されれば、ステップ102に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していると判断して、ステップ103に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)に所定のオフセット量を加算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。これらステップ101〜103の処理が特許請求の範囲でいう保持制御量学習手段としての役割を果たす。
【0049】
これに対し、上記ステップ102で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値未満であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が不成立となり、ステップ104に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上と判定された場合、つまり偏差の絶対値が第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内である場合には、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ105に進み、図8の目標追従制御ルーチンを実行する。
【0050】
一方、上記ステップ104で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値未満と判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立となり、図8の目標追従制御ルーチンを実行せずに、本ルーチンを終了する。
【0051】
[目標追従制御ルーチン]
図8の目標追従制御ルーチンは、上記図6の保持デューティ学習制御ルーチンのステップ105で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう目標追従制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、目標追従制御の補正デューティリセット条件が成立しているか否かを、次の3つの条件(1) 〜(3) のうちの少なくとも1つの条件を満たすか否かで判定する。
【0052】
(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合
(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御による補正方向とが反対の場合
(3) VCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合
【0053】
例えば、目標VCT位相が所定量以上変化した場合には、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)により実VCT位相と目標VCT位相との偏差が小さくなるように制御されるため、保持デューティ学習値に対する目標追従制御による補正デューティは不要である。また、目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合には、保持デューティ学習値に対する目標追従制御による補正デューティが実VCT位相を目標VCT位相から離す方向に働いてしまうため、目標追従制御による補正デューティは不要である。また、VCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合には、目標追従制御による補正デューティは不要である。
【0054】
従って、上記3つの条件(1) 〜(3) のいずれか少なくとも1つの条件を満たせば、目標追従制御の補正デューティリセット条件が成立していると判断して、ステップ202に進み、補正デューティをリセットして、補正デューティ=0とする。
【0055】
これに対し、上記3つの条件(1) 〜(3) が1つも満たされていなければ、上記ステップ201で、目標追従制御の補正デューティリセット条件が不成立と判定されて、ステップ203に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内であるか否かを判定する。その結果、偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内でないと判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立と判断して、以降の処理を行うことなく本ルーチンを終了する。
【0056】
一方、上記ステップ203で、偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内であると判定されれば、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ204に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がプラス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも進角側)であるか否かを判定する。その結果、偏差がプラス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも進角側)であると判定されれば、ステップ205に進み、前回の補正デューティから所定量を差し引いた値を新たな補正デューティとし、この補正デューティをエンジン制御回路21のRAM等の揮発性メモリ又はバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶する。
補正デューティ=補正デューティ(前回値)−所定量
【0057】
上記ステップ204で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がマイナス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも遅角側)であると判定されれば、ステップ206に進み、前回の補正デューティに所定量を加算した値を新たな補正デューティとし、この補正デューティをエンジン制御回路21のRAM等の揮発性メモリ又はバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶する。
補正デューティ=補正デューティ(前回値)+所定量
【0058】
尚、目標追従制御の補正デューティリセット条件は、上記条件(1) 〜(3) に限定されず、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の制御デューティと本当の保持デューティと目標追従制御による補正デューティのうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御による補正デューティをリセットするか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の制御デューティと本当の保持デューティと目標追従制御による補正デューティのうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御による補正デューティが不要であるか否かを監視して、目標追従制御による補正デューティが不要と判断されるときに、目標追従制御による補正デューティをリセットすることができる。
【0059】
また、保持デューティ学習実行条件や目標追従制御実行条件は、上記以外の条件を追加しても良い。例えば、エンジン11の油温又は冷却水温が所定の温度領域(例えば暖機完了後の温度領域)であること、自己診断機能によりVCT制御系の異常が検出されていないこと等、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の実行条件が成立していることを条件としても良い。
【0060】
以上説明した本実施例1によれば、低応答領域に存在する本当の保持デューティがカムトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在することを考慮して、本当の保持デューティを低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしたので、保持デューティ学習値が進角側に多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。保持デューティ学習値が低応答領域内に収まれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから多少ずれていても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【実施例2】
【0061】
上記実施例1では、可変バルブタイミング装置18のハウジング31に、進角制御時にロータ35を進角方向に相対回動させる油圧をばね力で補助するねじりコイルばね等のばね55(図2参照)が設けられていることを説明したが、図9乃至図11に示す本発明の実施例2では、ばね55が作用する範囲は、最遅角位相から中間ロック位相直前までの範囲に設定され、エンジンストール等の異常停止後の再始動時のフェールセーフを想定して、ロックピン58がロックピン収容孔57から外れた状態で中間ロック位相より遅角側の実VCT位相で始動した場合に、スタータ(図示せず)によるクランキング中に、ばね55のばね力により実VCT位相を遅角側から中間ロック位相へ進角させる進角動作を補助してロックピン58をロックピン収容孔57に嵌まり込ませてロックできるように構成されている。
【0062】
尚、中間ロック位相より進角側の実VCT位相で始動した場合は、クランキング中に吸気側カム軸16のトルクが遅角方向に作用するため、吸気側カム軸16のトルクにより実VCT位相を進角側から中間ロック位相へ遅角させてロックピン58をロックピン収容孔57に嵌まり込ませてロックさせることができる。
【0063】
本実施例2のように、実VCT位相の可変範囲の一部のみにばね55のばね力を作用させる構成では、図10に示すように、ばね有り領域AのVCT応答速度特性とばね無し領域BのVCT応答速度特性とが相違し、ばね無し領域BのVCT応答速度特性における保持デューティは、前記実施例1と同様に、吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在するが、ばね有り領域AのVCT応答速度特性における保持デューティは、ばね55のばね力の影響で遅角側の高応答領域に近いところに存在する。
【0064】
このように、本実施例2では、低応答領域に異なる2つの保持デューティが存在することを考慮して、保持デューティを2つの保持デューティの中間側に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしている。この場合、ばね有り領域Aの保持デューティとばね無し領域Bの保持デューティとの間に保持デューティ学習値が位置するように保持デューティをオフセットさせると共に、保持デューティのオフセット量を、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収まるように設定している。このようにすれば、低応答領域に異なる2つの保持デューティが存在する場合でも、1つの保持デューティ学習値で対応することが可能となり、2つの保持デューティが存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化できると共に、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0065】
また、図9に示すように、ばね有り領域Aとばね無し領域Bとの間には、保持デューティの学習を禁止する学習禁止領域が存在する。ばね55の製造ばらつき・組付ばらつきやばね力の経時変化等によって、ばね55のばね力が作用する範囲の限界位相がばらつくため、本実施例2では、ばね55の製造ばらつき・組付ばらつきやばね力の経時変化があっても、これらの影響を受けずにばね55のばね力が確実に作用する範囲をばね有り領域Aに設定している。従って、このばね有り領域Aに隣接する学習禁止領域では、実際にばね55のばね力が作用しているのか否か不明であり、この学習禁止領域では、本当の保持デューティが進角側と遅角側のどちらの方向に偏倚しているか不明であるため、保持デューティの学習を禁止し、目標追従制御のみを実行して実VCT位相を目標VCT位相に収束させて保持するようにしている。
【0066】
以上説明した本実施例2の保持デューティ学習制御と目標追従制御は、エンジン制御回路21によって図11の保持デューティ学習制御ルーチンに従って実行される。
【0067】
図11の保持デューティ学習制御ルーチンは、エンジン運転中(エンジン制御回路21の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まずステップ301で、実VCT位相が安定しているか否かを、実VCT位相の所定時間当たりの変化量が所定値以内であるか否かで判定し、実VCT位相が安定していないと判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していないと判断して、以降の処理を行わずに本ルーチンを終了する。
【0068】
これに対して、上記ステップ301で、実VCT位相が安定していると判定されれば、ステップ302に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していると判断して、ステップ303に進み、実VCT位相がばね有り領域Aに位置するか否かを判定し、実VCT位相がばね有り領域Aに位置すると判定されれば、ステップ305に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)から所定のオフセット量αを減算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0069】
要するに、図10に示すように、実VCT位相がばね有り領域Aに位置する場合は、保持デューティがばね55のばね力の影響で遅角側の高応答領域に近いところに存在するため、保持デューティを進角方向に所定量αだけオフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習することで、保持デューティ学習値を低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収める。
【0070】
一方、上記ステップ303で、実VCT位相がばね有り領域Aに位置しないと判定されれば、ステップ304に進み、実VCT位相がばね無し領域Bに位置するか否かを判定し、実VCT位相がばね有り領域Bに位置すると判定されれば、ステップ306に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)に所定のオフセット量αを加算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0071】
要するに、図10に示すように、実VCT位相がばね無し領域Bに位置する場合は、保持デューティが吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在するため、保持デューティを遅角方向に所定量αだけオフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習することで、保持デューティ学習値を低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収める。
【0072】
上記ステップ303とステップ304で、いずれも「No」と判定されれば、実VCT位相が学習禁止領域に位置すると判断して、保持デューティの学習を行わずに、ステップ308に進み、目標追従制御を実行する。この目標追従制御は、前記実施例1と同じ図8の目標追従制御によって実行される。
【0073】
また、上記ステップ302で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値未満であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が不成立となり、ステップ307に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上と判定された場合、つまり偏差の絶対値が第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内である場合には、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ308に進み、前記実施例1と同様の目標追従制御を実行する。
【0074】
一方、上記ステップ307で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値未満と判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立となり、目標追従制御を実行せずに、本ルーチンを終了する。
【0075】
以上説明した本実施例2では、ばね有り領域Aとばね無し領域Bに、異なる保持デューティが存在することを考慮して、保持デューティを2つの保持デューティの中間側に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしたので、異なる2つの保持デューティが存在する場合でも、1つの保持デューティ学習値で対応することが可能となり、2つの保持デューティが存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化できると共に、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0076】
しかも、本実施例2では、ばね有り領域Aとばね無し領域Bとの間に学習禁止領域を設定し、実VCT位相が学習禁止領域に位置する場合は、保持デューティの学習を行わずに目標追従制御を実行するようにしたので、実際にばね55のばね力が作用しているのか否か不明な領域である学習禁止領域でも、目標追従制御によって実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0077】
尚、上記実施例1,2は、いずれも本発明を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した実施例であるが、排気バルブの可変バルブタイミング制御装置に適用して実施しても良い。
【0078】
その他、本発明は、可変バルブタイミング装置18の構成や、油圧制御弁25,26の構成等を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
11…エンジン(内燃機関)、12…クランク軸、13…タイミングチェーン、14,15…スプロケット、16…吸気カム軸、17…排気カム軸、18…可変バルブタイミング装置(VCT)、19…カム角センサ、20…クランク角センサ、21…エンジン制御回路(可変バルブタイミング制御手段,保持制御量学習手段,目標追従制御手段)、25…位相制御用の油圧制御弁(油圧制御装置)、26…ロック制御用の油圧制御弁(油圧制御装置)、28…オイルポンプ、31…ハウジング、35…ロータ、40…油圧室、41…ベーン、42…進角室、43…遅角室、50…中間ロック機構、55…ばね、58…ロックピン、59…ロック穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、実バルブタイミング(実VCT位相)を一定に保持するのに必要な保持制御量(保持デューティ)を学習する機能を備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、出力向上、燃費節減、エミッション低減等を目的として、内燃機関の吸気バルブや排気バルブのバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を搭載したものが増加しつつある。この油圧駆動式の可変バルブタイミング装置は、特許文献1(特開2007−224744号公報)、特許文献2(特開2004−251254号公報)に記載されているように、可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する油圧制御弁の制御量(制御デューティ)を演算する際に、目標バルブタイミング(目標VCT位相)と実バルブタイミング(実VCT位相)との偏差に応じたフィードバック制御量と、実バルブタイミングを一定に保持するのに必要な保持制御量(保持デューティ)とに基づいて油圧制御弁の制御量を設定し、この制御量で油圧制御弁を駆動して可変バルブタイミング装置の進角室や遅角室に供給する作動油の流量(油圧)を変化させることで、バルブタイミングを進角又は遅角させるようにしている。
【0003】
この際、可変バルブタイミング装置や油圧制御弁の製造ばらつきや経時変化によって保持制御量が変動することを考慮して、保持制御量を学習するようにしている。従来の保持制御量の学習処理は、実バルブタイミングが目標バルブタイミングにほぼ一致して安定しているときに(両者の偏差が所定値以内の状態が続くときに)、その時点の油圧制御弁の制御量を保持制御量として学習(更新記憶)するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224744号公報
【特許文献2】特開2004−251254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、可変バルブタイミング装置の応答速度向上に対する要求が益々強くなってきている。例えば、アトキンソンサイクルの手段として可変バルブタイミング装置を用いる場合、定常走行時には、吸気バルブタイミングを最遅角位相で制御し、加速要求時には、吸気バルブタイミングを速やかに進角させて吸入空気量を速やかに増加させることが要求されるため、吸気バルブの可変バルブタイミング装置では、特に進角方向の応答速度向上が要求されるようになってきている。
【0006】
しかし、可変バルブタイミング装置の応答速度向上を追及すると、必然的に応答速度の変化が急峻になり、僅かな保持制御量の学習値のずれでも、オーバーシュートやハンチングが発生しやすくなって可変バルブタイミング制御の安定性が低下してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、保持制御量の学習値のずれがバルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減できる内燃機関の可変バルブタイミング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、実VCT位相を目標VCT位相に一致させるように前記可変バルブタイミング装置の制御量を制御する可変バルブタイミング制御手段と、所定の保持制御量学習実行条件が成立しているときに前記可変バルブタイミング装置の制御量に基づいて前記実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持制御量を学習する保持制御量学習手段とを備え、前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量学習実行条件が成立しているときの前記可変バルブタイミング装置の制御量(本当の保持制御量)を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習するようにしたものである。
【0009】
この構成では、保持制御量を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習するため、VCT応答速度(可変バルブタイミング装置の制御量に対する実VCT位相の変化速度)が小さい方に保持制御量をオフセットさせて学習することが可能となり、VCT応答速度が大きい方に保持制御量学習値がずれてオーバーシュートやハンチングが発生することを防止できて、保持制御量の学習値のずれが可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0010】
この場合、請求項2のように、可変バルブタイミング装置の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域(不感帯)と、VCT応答速度が前記低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に保持制御量が存在し、前記保持制御量を前記低応答領域内で所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習するようにすれば良い。要するに、保持制御量のオフセット量を保持制御量学習値が低応答領域内に収まるように設定すれば良い。保持制御量学習値が低応答領域内に収まれば、保持制御量学習値が本当の保持制御量から多少ずれていても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0011】
また、請求項3のように、可変バルブタイミング装置の制御特性は、低応答領域の両側にVCT応答速度が異なる2つの高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在し、前記保持制御量を前記2つの保持制御量の中間側に所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習するようにしても良い。このようにすれば、低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在する場合でも、1つの保持制御量学習値で対応することが可能となり、2つの保持制御量が存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化することができる。
【0012】
また、請求項4のように、前記2つの高応答領域のうちの一方の高応答領域で実VCT位相の変化をばね力で補助するように構成された可変バルブタイミング装置に本発明を適用しても良い。この場合、ばね有り領域の保持制御量とばね無し領域の保持制御量との間に保持制御量学習値が位置するように保持制御量をオフセットさせれば良い。
【0013】
また、請求項5のように、保持制御量学習値が前記低応答領域の中央付近の所定範囲内に収まるように保持制御量のオフセット量を設定すれば良い。このようにすれば、保持制御量学習値が多少ずれても、保持制御量学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0014】
更に、本発明は、請求項6のように、可変バルブタイミング装置を前記保持制御量学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差(定常偏差)を小さくする方向に前記可変バルブタイミング装置の制御量を徐々に補正する目標追従制御を実行する目標追従制御手段を備えた構成とすると良い。このようにすれば、保持制御量学習値が本当の保持制御量からずれることで発生する実VCT位相と目標VCT位相との定常偏差を目標追従制御によって徐々に小さくして最終的に実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0015】
この場合、請求項7のように、可変バルブタイミング制御手段による制御量と保持制御量と目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて前記目標追従制御手段による補正量をリセットするか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、可変バルブタイミング制御手段による制御量と保持制御量と目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御手段による補正量が不要であるか否かを監視して、目標追従制御手段による補正量が不要と判断されるときに、目標追従制御手段による補正量をリセットすることができる。
【0016】
具体的には、請求項8のように、(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合、(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合、(3) 可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモードで制御されている場合のうちの少なくとも1つの条件が満たされたときに前記目標追従制御手段による補正量をリセットするようにしても良い。例えば、目標VCT位相が所定量以上変化した場合には、可変バルブタイミング制御手段により実VCT位相と目標VCT位相との偏差が小さくなるように制御されるため、保持制御量学習値に対する目標追従制御による補正量は不要である。また、目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合には、保持制御量学習値に対する目標追従制御による補正量が実VCT位相を目標VCT位相から離す方向に働いてしまうため、目標追従制御による補正量は不要である。また、可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合には、目標追従制御による補正量は不要である。
【0017】
また、請求項9のように、保持制御量学習手段による保持制御量の学習が禁止されている領域に実VCT位相が位置する場合は、保持制御量の学習を行わずに目標追従制御を実行するようにしても良い。このようにすれば、保持制御量の学習が禁止されている領域でも、目標追従制御によって実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0018】
また、請求項10のように、保持制御量学習実行条件は、少なくとも、実VCT位相が安定し、且つ、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以上であることを条件とし、目標追従制御の実行条件は、少なくとも、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が前記第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内であることを条件とすると良い。このようにすれば、保持制御量学習値を更新してから目標追従制御を開始して実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0019】
尚、保持制御量学習実行条件や目標追従制御実行条件は、上記以外の条件を追加しても良い。例えば、内燃機関の油温又は冷却水温が所定の温度領域(例えば暖機完了後の温度領域)であること、自己診断機能によりVCT制御系の異常が検出されていないこと等、可変バルブタイミング制御の実行条件が成立していることを条件としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の実施例1を示す制御システム全体の概略構成図である。
【図2】図2は実施例1の可変バルブタイミング装置と油圧制御回路の構成を説明する縦断側面図である。
【図3】図3は実施例1の可変バルブタイミング装置の縦断正面図である。
【図4】図4は実施例1の可変バルブタイミング装置のVCT応答特性と本当の保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図5】図5は目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した場合の制御例を示すタイムチャートである。
【図6】図6は実施例1の保持デューティ学習制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、目標VCT位相と実VCT位相との偏差と保持デューティ学習実行領域と目標追従制御実行領域との関係を説明する図である。
【図8】図8は実施例1の目標追従制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は実施例2のばね有り領域Aとばね無し領域Bと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図10】図10は実施例2の可変バルブタイミング装置のVCT応答特性と本当の保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する図である。
【図11】図11は実施例2の保持デューティ学習制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した2つの実施例1,2を説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1を図1乃至図8に基づいて説明する。
図1に示すように、内燃機関であるエンジン11は、クランク軸12からの動力がタイミングチェーン13により各スプロケット14,15を介して吸気側カム軸16と排気側カム軸17とに伝達されるようになっている。但し、吸気側カム軸16には、クランク軸12に対する吸気側カム軸16の進角量(VCT位相)を調整する可変バルブタイミング装置18(VCT)が設けられている。
【0023】
また、吸気側カム軸16の外周側には、気筒判別のために特定のカム角でカム角信号パルスを出力するカム角センサ19が設置され、一方、クランク軸12の外周側には、所定クランク角毎にクランク角信号パルスを出力するクランク角センサ20が設置されている。これらカム角センサ19及びクランク角センサ20の出力信号は、エンジン制御回路21に入力され、このエンジン制御回路21によって吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)が演算されると共に、クランク角センサ20の出力パルスの周波数(パルス間隔)に基づいてエンジン回転速度が演算される。また、エンジン運転状態を検出する各種センサ(吸気圧センサ22、水温センサ23、スロットルセンサ24等)の出力信号がエンジン制御回路21に入力される。
【0024】
このエンジン制御回路21は、上記各種センサで検出したエンジン運転状態に応じて燃料噴射制御や点火制御を行うと共に、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)を行い、吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)を目標バルブタイミング(目標VCT位相)に一致させるように可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧をフィードバック制御する。
【0025】
次に、図2及び図3に基づいて可変バルブタイミング装置18の構成を説明する。
可変バルブタイミング装置18のハウジング31は、吸気側カム軸16の外周に回動自在に支持されたスプロケット14にボルト32で締め付け固定されている。これにより、クランク軸12の回転がタイミングチェーン13を介してスプロケット14とハウジング31に伝達され、スプロケット14とハウジング31がクランク軸12と同期して回転する。
【0026】
一方、吸気側カム軸16の一端部には、ロータ35がボルト37で締め付け固定されている。このロータ35は、ハウジング31内に相対回動自在に収納されている。
【0027】
図3に示すように、ハウジング31の内部には、複数の油圧室40が形成され、各油圧室40が、ロータ35の外周部に形成されたベーン41によって進角室42と遅角室43とに区画されている。少なくとも1つのベーン41の両側部には、ハウジング31に対するロータ35(ベーン41)の相対回動範囲を規制するストッパ部56が形成され、このストッパ部56によって実VCT位相(カム軸位相)の調整可能範囲の最遅角位相と最進角位相が規制されている。
【0028】
可変バルブタイミング装置18には、VCT位相をその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックする中間ロック機構50が設けられている。この中間ロック機構50の構成を説明すると、いずれか1つ又は複数のベーン41にロックピン収容孔57が設けられ、このロックピン収容孔57に、ハウジング31とロータ35(ベーン41)との相対回動をロックするためのロックピン58が突出可能に収容され、このロックピン58がスプロケット14側に突出してスプロケット14のロック穴59に嵌り込むことで、VCT位相がその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックされる。この中間ロック位相は、エンジン11の始動に適した位相に設定されている。尚、ロック穴59をハウジング31に設けた構成としても良い。
【0029】
ロックピン58は、スプリング62によってロック方向(突出方向)に付勢されている。また、ロックピン58の外周部とロックピン収容孔57との間には、ロックピン58をロック解除方向に駆動する油圧を制御するためのロック解除用の油圧室が形成されている。ハウジング31には、進角制御時にロータ35を進角方向に相対回動させる油圧をばね力で補助するねじりコイルばね等のばね55(図2参照)が設けられている。
【0030】
本実施例1では、可変バルブタイミング装置18及びロックピン58を駆動する油圧を制御する油圧制御装置は、可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧を制御する位相制御用の油圧制御弁25と、ロックピン58を駆動する油圧を制御するロック制御用の油圧制御弁26とを個別に有する構成となっている。位相制御用の油圧制御弁25は、例えば5ポート・3ポジション型のスプール弁により構成され、ロック制御用の油圧制御弁26は、例えば3ポート・2ポジション型のスプール弁により構成されている。
【0031】
エンジン11の動力によって駆動されるオイルポンプ28により、オイルパン27内のオイルが汲み上げられて各油圧制御弁25,26に供給され、位相制御用の油圧制御弁25によって可変バルブタイミング装置18の進角室42と遅角室43に供給する油圧(オイル量)が制御され、ロック制御用の油圧制御弁26によってロックピン58をロック解除方向に駆動する油圧(オイル量)が制御される。位相制御用の油圧制御弁25の入口ポート側には、オイルの逆流を防止する逆止弁29が設けられている。
【0032】
尚、位相制御用の油圧制御弁25とロック制御用の油圧制御弁26とを一体化した油圧制御弁を用いても良い。
【0033】
エンジン制御回路21は、特許請求の範囲でいう可変バルブタイミング制御手段として機能し、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)中に、エンジン運転条件に基づいて目標VCT位相(目標バルブタイミング)を演算して、吸気側カム軸16の実VCT位相(吸気バルブの実バルブタイミング)を目標VCT位相(目標バルブタイミング)に一致させるように位相制御用の油圧制御弁25の制御デューティ(制御量)を例えばPD制御等によりフィードバック制御して可変バルブタイミング装置18の進角室42と遅角室43に供給する油圧をフィードバック制御する。更に、エンジン制御回路21は、所定の保持デューティ学習実行条件(保持制御量学習実行条件)が成立しているときに、位相制御用の油圧制御弁25の制御デューティに基づいて実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持デューティ(保持制御量)を学習する保持制御量学習手段としても機能し、可変バルブタイミング制御中は、保持デューティ学習値(保持制御量学習値)にフィードバック制御量を加算して制御デューティを求める。
【0034】
制御デューティ=保持デューティ学習値+フィードバック制御量
フィードバック制御量=Kp ・ΔVT+Kd ・d(ΔVT)/dt
d(ΔVT)/dt=[ΔVT(i) −ΔVT(i-1) ]/dt
【0035】
ここで、Kp は比例ゲイン、Kd は微分ゲイン、ΔVTは目標VCT位相と実VCT位相との偏差、ΔVT(i) は今回の偏差、ΔVT(i-1) は前回の偏差、dtは演算周期である。
【0036】
次に、図4を用いて、可変バルブタイミング装置18の制御デューティに対する実VCT位相の変化速度(VCT応答速度)と保持デューティと保持デューティ学習値との関係を説明する。
【0037】
可変バルブタイミング装置18の制御特性は、VCT応答速度が小さい低応答領域(不感帯)の両側にVCT応答速度が低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、低応答領域に本当の保持デューティが存在する。本当の保持デューティは、低応答領域の中央付近には存在せず、吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在する。このため、保持デューティの学習値が少しでも進角側にずれると、オーバーシュートやハンチングが発生しやすくなって可変バルブタイミング制御の安定性が低下してしまう可能性がある。
【0038】
そこで、本実施例1では、保持デューティ学習実行条件が成立しているときの制御デューティ(本当の保持デューティ)を低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリ(エンジン制御回路21の電源オフ中でも記憶データが保持される書き換え可能な記憶手段)に更新記憶するようにしている。
【0039】
この際、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内の値となるように保持デューティのオフセット量を設定するようにしている。このようにすれば、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。保持デューティ学習値が低応答領域内に収まれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから多少ずれても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【0040】
更に、エンジン制御回路21は、特許請求の範囲でいう目標追従制御手段としても機能し、所定の目標追従制御実行条件が成立しているときに、可変バルブタイミング装置18を保持デューティ学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差(定常偏差)を小さくする方向に制御デューティ(保持デューティ学習値)を補正デューティで徐々に補正する目標追従制御を実行するようにしている。
【0041】
目標追従制御時の制御デューティ=保持デューティ学習値+補正デューティ
このようにすれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティからずれることで発生する実VCT位相と目標VCT位相との定常偏差を目標追従制御によって徐々に小さくして最終的に実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0042】
次に、図5を用いて、本実施例1の保持デューティ学習制御と目標追従制御の一例を説明する。図5は、目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した場合の制御例を示すタイムチャートである。
【0043】
図5の例では、目標VCT位相が進角側にステップ状に変化した時点t1 で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がステップ状に拡大されるため、その偏差に応じて制御デューティが進角側の高応答領域にステップ状に変化する。これにより、実VCT位相が急速に進角して、時刻t2 を経過する頃から実VCT位相がほぼ一定となる。実VCT位相が進角するに従って、制御デューティが徐々に保持デューティに近付いていき、実VCT位相がほぼ一定となる頃には、制御デューティが保持デューティでほぼ一定となる。この状態が暫く続くと、保持デューティ学習実行条件が成立して、その時点の制御デューティ(本当の保持デューティ)を遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0044】
保持デューティ学習値を更新した時点t3 で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がまだ残っているため、再び、その偏差に応じて制御デューティが進角側の高応答領域にステップ状に変化する。これにより、実VCT位相が急速に進角して、やがて実VCT位相がほぼ一定となるが、この段階では、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから遅角方向に所定量オフセットさせた値となっているため、目標VCT位相と実VCT位相との間に定常偏差が生じる。
【0045】
そこで、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以内になって目標追従制御実行条件が成立した時点t4 で、目標追従制御を開始して、制御デューティ(保持デューティ学習値)を補正デューティで徐々に進角側に補正して、実VCT位相を徐々に目標VCT位相に近付けていく。これにより、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第2所定値以内になった時点で、実VCT位相が目標VCT位相に収束(ほぼ一致)したと判断して目標追従制御を終了する。ここで、図7に示すように、上記第2所定値は、上記第1所定値よりも小さい値に設定されている。
【0046】
以上説明した本実施例1の保持デューティ学習制御と目標追従制御は、エンジン制御回路21によって図6及び図8の各ルーチンに従って実行される。以下、各ルーチンの処理内容を説明する。
【0047】
[保持デューティ学習制御ルーチン]
図6の保持デューティ学習制御ルーチンは、エンジン運転中(エンジン制御回路21の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、実VCT位相が安定しているか否かを、実VCT位相の所定時間当たりの変化量が所定値以内であるか否かで判定し、実VCT位相が安定していないと判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していないと判断して、以降の処理を行わずに本ルーチンを終了する。
【0048】
これに対して、上記ステップ101で、実VCT位相が安定していると判定されれば、ステップ102に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していると判断して、ステップ103に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)に所定のオフセット量を加算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。これらステップ101〜103の処理が特許請求の範囲でいう保持制御量学習手段としての役割を果たす。
【0049】
これに対し、上記ステップ102で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値未満であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が不成立となり、ステップ104に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上と判定された場合、つまり偏差の絶対値が第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内である場合には、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ105に進み、図8の目標追従制御ルーチンを実行する。
【0050】
一方、上記ステップ104で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値未満と判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立となり、図8の目標追従制御ルーチンを実行せずに、本ルーチンを終了する。
【0051】
[目標追従制御ルーチン]
図8の目標追従制御ルーチンは、上記図6の保持デューティ学習制御ルーチンのステップ105で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう目標追従制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、目標追従制御の補正デューティリセット条件が成立しているか否かを、次の3つの条件(1) 〜(3) のうちの少なくとも1つの条件を満たすか否かで判定する。
【0052】
(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合
(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御による補正方向とが反対の場合
(3) VCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合
【0053】
例えば、目標VCT位相が所定量以上変化した場合には、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)により実VCT位相と目標VCT位相との偏差が小さくなるように制御されるため、保持デューティ学習値に対する目標追従制御による補正デューティは不要である。また、目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合には、保持デューティ学習値に対する目標追従制御による補正デューティが実VCT位相を目標VCT位相から離す方向に働いてしまうため、目標追従制御による補正デューティは不要である。また、VCT位相制御モード以外のモード(例えば実VCT位相をロック位相に制御するロックモード、最遅角位相に制御する最遅角モード、最進角位相に制御する最進角モード)で制御されている場合には、目標追従制御による補正デューティは不要である。
【0054】
従って、上記3つの条件(1) 〜(3) のいずれか少なくとも1つの条件を満たせば、目標追従制御の補正デューティリセット条件が成立していると判断して、ステップ202に進み、補正デューティをリセットして、補正デューティ=0とする。
【0055】
これに対し、上記3つの条件(1) 〜(3) が1つも満たされていなければ、上記ステップ201で、目標追従制御の補正デューティリセット条件が不成立と判定されて、ステップ203に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内であるか否かを判定する。その結果、偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内でないと判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立と判断して、以降の処理を行うことなく本ルーチンを終了する。
【0056】
一方、上記ステップ203で、偏差の絶対値が第1所定値と第2所定値との範囲内であると判定されれば、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ204に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がプラス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも進角側)であるか否かを判定する。その結果、偏差がプラス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも進角側)であると判定されれば、ステップ205に進み、前回の補正デューティから所定量を差し引いた値を新たな補正デューティとし、この補正デューティをエンジン制御回路21のRAM等の揮発性メモリ又はバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶する。
補正デューティ=補正デューティ(前回値)−所定量
【0057】
上記ステップ204で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差がマイナス値(つまり目標VCT位相が実VCT位相よりも遅角側)であると判定されれば、ステップ206に進み、前回の補正デューティに所定量を加算した値を新たな補正デューティとし、この補正デューティをエンジン制御回路21のRAM等の揮発性メモリ又はバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶する。
補正デューティ=補正デューティ(前回値)+所定量
【0058】
尚、目標追従制御の補正デューティリセット条件は、上記条件(1) 〜(3) に限定されず、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の制御デューティと本当の保持デューティと目標追従制御による補正デューティのうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御による補正デューティをリセットするか否かを判定するようにしても良い。このようにすれば、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の制御デューティと本当の保持デューティと目標追従制御による補正デューティのうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて目標追従制御による補正デューティが不要であるか否かを監視して、目標追従制御による補正デューティが不要と判断されるときに、目標追従制御による補正デューティをリセットすることができる。
【0059】
また、保持デューティ学習実行条件や目標追従制御実行条件は、上記以外の条件を追加しても良い。例えば、エンジン11の油温又は冷却水温が所定の温度領域(例えば暖機完了後の温度領域)であること、自己診断機能によりVCT制御系の異常が検出されていないこと等、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)の実行条件が成立していることを条件としても良い。
【0060】
以上説明した本実施例1によれば、低応答領域に存在する本当の保持デューティがカムトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在することを考慮して、本当の保持デューティを低応答領域内で進角側の高応答領域から離れる方向である遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしたので、保持デューティ学習値が進角側に多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。保持デューティ学習値が低応答領域内に収まれば、保持デューティ学習値が本当の保持デューティから多少ずれていても、目標VCT位相と実VCT位相との間の定常偏差が少し大きくなる程度で、オーバーシュートやハンチングの発生を防止することができ、可変バルブタイミング制御の安定性に及ぼす影響を低減することができる。
【実施例2】
【0061】
上記実施例1では、可変バルブタイミング装置18のハウジング31に、進角制御時にロータ35を進角方向に相対回動させる油圧をばね力で補助するねじりコイルばね等のばね55(図2参照)が設けられていることを説明したが、図9乃至図11に示す本発明の実施例2では、ばね55が作用する範囲は、最遅角位相から中間ロック位相直前までの範囲に設定され、エンジンストール等の異常停止後の再始動時のフェールセーフを想定して、ロックピン58がロックピン収容孔57から外れた状態で中間ロック位相より遅角側の実VCT位相で始動した場合に、スタータ(図示せず)によるクランキング中に、ばね55のばね力により実VCT位相を遅角側から中間ロック位相へ進角させる進角動作を補助してロックピン58をロックピン収容孔57に嵌まり込ませてロックできるように構成されている。
【0062】
尚、中間ロック位相より進角側の実VCT位相で始動した場合は、クランキング中に吸気側カム軸16のトルクが遅角方向に作用するため、吸気側カム軸16のトルクにより実VCT位相を進角側から中間ロック位相へ遅角させてロックピン58をロックピン収容孔57に嵌まり込ませてロックさせることができる。
【0063】
本実施例2のように、実VCT位相の可変範囲の一部のみにばね55のばね力を作用させる構成では、図10に示すように、ばね有り領域AのVCT応答速度特性とばね無し領域BのVCT応答速度特性とが相違し、ばね無し領域BのVCT応答速度特性における保持デューティは、前記実施例1と同様に、吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在するが、ばね有り領域AのVCT応答速度特性における保持デューティは、ばね55のばね力の影響で遅角側の高応答領域に近いところに存在する。
【0064】
このように、本実施例2では、低応答領域に異なる2つの保持デューティが存在することを考慮して、保持デューティを2つの保持デューティの中間側に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしている。この場合、ばね有り領域Aの保持デューティとばね無し領域Bの保持デューティとの間に保持デューティ学習値が位置するように保持デューティをオフセットさせると共に、保持デューティのオフセット量を、保持デューティ学習値が低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収まるように設定している。このようにすれば、低応答領域に異なる2つの保持デューティが存在する場合でも、1つの保持デューティ学習値で対応することが可能となり、2つの保持デューティが存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化できると共に、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0065】
また、図9に示すように、ばね有り領域Aとばね無し領域Bとの間には、保持デューティの学習を禁止する学習禁止領域が存在する。ばね55の製造ばらつき・組付ばらつきやばね力の経時変化等によって、ばね55のばね力が作用する範囲の限界位相がばらつくため、本実施例2では、ばね55の製造ばらつき・組付ばらつきやばね力の経時変化があっても、これらの影響を受けずにばね55のばね力が確実に作用する範囲をばね有り領域Aに設定している。従って、このばね有り領域Aに隣接する学習禁止領域では、実際にばね55のばね力が作用しているのか否か不明であり、この学習禁止領域では、本当の保持デューティが進角側と遅角側のどちらの方向に偏倚しているか不明であるため、保持デューティの学習を禁止し、目標追従制御のみを実行して実VCT位相を目標VCT位相に収束させて保持するようにしている。
【0066】
以上説明した本実施例2の保持デューティ学習制御と目標追従制御は、エンジン制御回路21によって図11の保持デューティ学習制御ルーチンに従って実行される。
【0067】
図11の保持デューティ学習制御ルーチンは、エンジン運転中(エンジン制御回路21の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まずステップ301で、実VCT位相が安定しているか否かを、実VCT位相の所定時間当たりの変化量が所定値以内であるか否かで判定し、実VCT位相が安定していないと判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していないと判断して、以降の処理を行わずに本ルーチンを終了する。
【0068】
これに対して、上記ステップ301で、実VCT位相が安定していると判定されれば、ステップ302に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値以上であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が成立していると判断して、ステップ303に進み、実VCT位相がばね有り領域Aに位置するか否かを判定し、実VCT位相がばね有り領域Aに位置すると判定されれば、ステップ305に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)から所定のオフセット量αを減算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0069】
要するに、図10に示すように、実VCT位相がばね有り領域Aに位置する場合は、保持デューティがばね55のばね力の影響で遅角側の高応答領域に近いところに存在するため、保持デューティを進角方向に所定量αだけオフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習することで、保持デューティ学習値を低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収める。
【0070】
一方、上記ステップ303で、実VCT位相がばね有り領域Aに位置しないと判定されれば、ステップ304に進み、実VCT位相がばね無し領域Bに位置するか否かを判定し、実VCT位相がばね有り領域Bに位置すると判定されれば、ステップ306に進み、現在の制御デューティ(本当の保持デューティ)に所定のオフセット量αを加算した値を保持デューティ学習値として学習し、この保持デューティ学習値をエンジン制御回路21のバックアップRAM等の書き換え可能な不揮発性メモリに更新記憶する。
【0071】
要するに、図10に示すように、実VCT位相がばね無し領域Bに位置する場合は、保持デューティが吸気側カム軸16のトルクの影響で進角側の高応答領域に近いところに存在するため、保持デューティを遅角方向に所定量αだけオフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習することで、保持デューティ学習値を低応答領域の中央付近の所定範囲内(狙いの保持デューティ学習範囲内)に収める。
【0072】
上記ステップ303とステップ304で、いずれも「No」と判定されれば、実VCT位相が学習禁止領域に位置すると判断して、保持デューティの学習を行わずに、ステップ308に進み、目標追従制御を実行する。この目標追従制御は、前記実施例1と同じ図8の目標追従制御によって実行される。
【0073】
また、上記ステップ302で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第1所定値未満であると判定されれば、保持デューティ学習実行条件が不成立となり、ステップ307に進み、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上(図7参照)であるか否かを判定する。その結果、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値以上と判定された場合、つまり偏差の絶対値が第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内である場合には、目標追従制御実行条件が成立していると判断してステップ308に進み、前記実施例1と同様の目標追従制御を実行する。
【0074】
一方、上記ステップ307で、目標VCT位相と実VCT位相との偏差の絶対値が第2所定値未満と判定されれば、目標追従制御実行条件が不成立となり、目標追従制御を実行せずに、本ルーチンを終了する。
【0075】
以上説明した本実施例2では、ばね有り領域Aとばね無し領域Bに、異なる保持デューティが存在することを考慮して、保持デューティを2つの保持デューティの中間側に所定量オフセットさせた値を保持デューティ学習値として学習するようにしたので、異なる2つの保持デューティが存在する場合でも、1つの保持デューティ学習値で対応することが可能となり、2つの保持デューティが存在する場合の可変バルブタイミング制御の演算処理を簡単化できると共に、保持デューティ学習値が多少ずれても、保持デューティ学習値を確実に低応答領域内に収めることができる。
【0076】
しかも、本実施例2では、ばね有り領域Aとばね無し領域Bとの間に学習禁止領域を設定し、実VCT位相が学習禁止領域に位置する場合は、保持デューティの学習を行わずに目標追従制御を実行するようにしたので、実際にばね55のばね力が作用しているのか否か不明な領域である学習禁止領域でも、目標追従制御によって実VCT位相を目標VCT位相に収束させることができる。
【0077】
尚、上記実施例1,2は、いずれも本発明を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した実施例であるが、排気バルブの可変バルブタイミング制御装置に適用して実施しても良い。
【0078】
その他、本発明は、可変バルブタイミング装置18の構成や、油圧制御弁25,26の構成等を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
11…エンジン(内燃機関)、12…クランク軸、13…タイミングチェーン、14,15…スプロケット、16…吸気カム軸、17…排気カム軸、18…可変バルブタイミング装置(VCT)、19…カム角センサ、20…クランク角センサ、21…エンジン制御回路(可変バルブタイミング制御手段,保持制御量学習手段,目標追従制御手段)、25…位相制御用の油圧制御弁(油圧制御装置)、26…ロック制御用の油圧制御弁(油圧制御装置)、28…オイルポンプ、31…ハウジング、35…ロータ、40…油圧室、41…ベーン、42…進角室、43…遅角室、50…中間ロック機構、55…ばね、58…ロックピン、59…ロック穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、
実VCT位相を目標VCT位相に一致させるように前記可変バルブタイミング装置の制御量を制御する可変バルブタイミング制御手段と、
所定の保持制御量学習実行条件が成立しているときに前記可変バルブタイミング装置の制御量に基づいて前記実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持制御量を学習する保持制御量学習手段とを備え、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量学習実行条件が成立しているときの前記可変バルブタイミング装置の制御量を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習することを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記可変バルブタイミング装置の制御特性は、前記可変バルブタイミング装置の制御量に対する実VCT位相の変化速度(以下「VCT応答速度」という)が小さい低応答領域と、前記VCT応答速度が前記低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に前記保持制御量が存在し、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量を前記低応答領域内で所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記可変バルブタイミング装置の制御特性は、前記低応答領域の両側に前記VCT応答速度が異なる2つの高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在し、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量を前記2つの保持制御量の中間側に所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記可変バルブタイミング装置は、前記2つの高応答領域のうちの一方の高応答領域で実VCT位相の変化をばね力で補助するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項5】
前記保持制御量学習値が前記低応答領域の中央付近の所定範囲内に収まるように前記保持制御量のオフセット量が設定されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項6】
前記可変バルブタイミング装置を前記保持制御量学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差を小さくする方向に前記可変バルブタイミング装置の制御量を徐々に補正する目標追従制御を実行する目標追従制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項7】
前記可変バルブタイミング制御手段による制御量と前記保持制御量と前記目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて前記目標追従制御手段による補正量をリセットするか否かを判定する手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項8】
(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合、(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と前記目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合、(3) 前記可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモードで制御されている場合のうちの少なくとも1つの条件が満たされたときに前記目標追従制御手段による補正量をリセットする手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項9】
前記保持制御量学習手段による保持制御量の学習が禁止されている領域に実VCT位相が位置する場合に前記保持制御量の学習を行わずに前記目標追従制御手段による目標追従制御を実行する手段を備えていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項10】
前記保持制御量学習実行条件は、少なくとも、実VCT位相が安定し、且つ、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以上であることを条件とし、
前記目標追従制御の実行条件は、少なくとも、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が前記第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内であることを条件とすることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項1】
内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置を駆動する油圧を制御する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、
実VCT位相を目標VCT位相に一致させるように前記可変バルブタイミング装置の制御量を制御する可変バルブタイミング制御手段と、
所定の保持制御量学習実行条件が成立しているときに前記可変バルブタイミング装置の制御量に基づいて前記実VCT位相を一定に保持するのに必要な保持制御量を学習する保持制御量学習手段とを備え、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量学習実行条件が成立しているときの前記可変バルブタイミング装置の制御量を進角方向又は遅角方向に所定量オフセットさせた値を保持制御量学習値として学習することを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記可変バルブタイミング装置の制御特性は、前記可変バルブタイミング装置の制御量に対する実VCT位相の変化速度(以下「VCT応答速度」という)が小さい低応答領域と、前記VCT応答速度が前記低応答領域と比べて大きい高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に前記保持制御量が存在し、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量を前記低応答領域内で所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記可変バルブタイミング装置の制御特性は、前記低応答領域の両側に前記VCT応答速度が異なる2つの高応答領域を有する非線形の制御特性であって、前記低応答領域に異なる2つの保持制御量が存在し、
前記保持制御量学習手段は、前記保持制御量を前記2つの保持制御量の中間側に所定量オフセットさせた値を前記保持制御量学習値として学習することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記可変バルブタイミング装置は、前記2つの高応答領域のうちの一方の高応答領域で実VCT位相の変化をばね力で補助するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項5】
前記保持制御量学習値が前記低応答領域の中央付近の所定範囲内に収まるように前記保持制御量のオフセット量が設定されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項6】
前記可変バルブタイミング装置を前記保持制御量学習値で制御したときの実VCT位相と目標VCT位相との偏差を小さくする方向に前記可変バルブタイミング装置の制御量を徐々に補正する目標追従制御を実行する目標追従制御手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項7】
前記可変バルブタイミング制御手段による制御量と前記保持制御量と前記目標追従制御手段による補正量のうちの少なくとも1つ又はそれらの組み合わせに基づいて前記目標追従制御手段による補正量をリセットするか否かを判定する手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項8】
(1) 目標VCT位相が所定量以上変化した場合、(2) 目標VCT位相と実VCT位相との偏差を小さくする方向と前記目標追従制御手段による補正方向とが反対の場合、(3) 前記可変バルブタイミング制御手段によるVCT位相制御モード以外のモードで制御されている場合のうちの少なくとも1つの条件が満たされたときに前記目標追従制御手段による補正量をリセットする手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項9】
前記保持制御量学習手段による保持制御量の学習が禁止されている領域に実VCT位相が位置する場合に前記保持制御量の学習を行わずに前記目標追従制御手段による目標追従制御を実行する手段を備えていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項10】
前記保持制御量学習実行条件は、少なくとも、実VCT位相が安定し、且つ、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が第1所定値以上であることを条件とし、
前記目標追従制御の実行条件は、少なくとも、目標VCT位相と実VCT位相との偏差が前記第1所定値とそれよりも小さい第2所定値との範囲内であることを条件とすることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−255497(P2010−255497A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105723(P2009−105723)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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