説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】内燃機関の自着火を抑制するとともに、内燃機関の良好な始動性を確保し、さらには排気性能を向上させることができる内燃機関の始動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンECUのCPUは、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きいと判定し(ステップS2でYESの場合)、かつ、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいと判定した場合(ステップS3でYESの場合)に、吸気弁の閉じ時期を遅角させるための指令信号を出力し(ステップS5)、気筒の状態を判別すると(ステップS6でYESの場合)、吸気弁10の閉じ時期を進角させるための指令信号を出力する(ステップS7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御装置に関し、特に、内燃機関の始動時における自着火を抑制する内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、火花点火式の内燃機関においては、内燃機関が停止してから始動するまでの間に、燃料噴射弁から漏れた燃料が気化したり、クランクケースの下部に取り付けられたオイルパンに保持されているオイル中の燃料が気化して燃焼室内に侵入することにより、気筒内に燃料混合気が形成される。これらの燃料は、内燃機関の始動時に機関温度が高い場合には、振動や異常燃焼音を伴う自着火が発生する。特に、内燃機関の始動時におけるクランキング開始直後には、エンジン回転数が低いために吸入空気量が多く、さらに、吸入空気の圧縮期間も長いため、自着火が発生しやすくなる。
【0003】
上述した自着火を抑制する従来の内燃機関の始動制御装置としては、吸気弁の動弁特性を任意に変更可能な動弁機構と、内燃機関の始動を要求する始動要求手段と、内燃機関を始動させる始動手段と、内燃機関の始動時における最初の燃焼を検知する検知手段と、始動要求手段による内燃機関の始動要求時における内燃機関の自着火の可能性を判定する判定手段と、判定手段により内燃機関の自着火の可能性が所定のレベルよりも高いと判定した場合は、動弁機構により吸気弁の閉弁時期を遅角させて内燃機関の燃焼室内の圧力上昇を抑止し、最初の燃焼を検知した後に吸気弁の閉弁時期を進角させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この構成により、吸気弁の閉弁時期を変更して始動時における燃焼室内の圧力の上昇を抑えることで内燃機関の自着火を抑制しようとしている。
【特許文献1】特開2005−48718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された内燃機関の始動制御装置においては、最初の燃焼の検知まで吸気弁の閉弁時期を遅角させており、燃焼室内の圧力が上がりにくくなる。その結果、始動時の発生トルクが低いため、内燃機関の良好な始動性を確保できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、内燃機関の自着火を抑制するとともに、内燃機関の良好な始動性を確保し、さらには排気性能を向上させることができる内燃機関の始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えた構成を有している。
【0008】
この構成により、内燃機関の始動時に内燃機関の自着火の可能性がある場合に、吸気弁の閉弁時期を遅角させることにより、燃焼室内の圧力が上昇することを防止することができる。また、気筒の状態を判別して自着火の可能性がなくなった後に、吸気弁の閉弁時期を進角させることにより、最初の燃料噴射および点火時には燃焼室内の圧力を高い状態にすることができる。したがって、内燃機関の自着火を抑制するとともに、内燃機関の良好な始動性を確保することができる。
【0009】
また、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、上記(1)に記載の内燃機関の始動制御装置において、(2)前記自着火判定手段が、前記内燃機関の冷却水の温度および前記内燃機関が停止してからの経過時間の少なくともいずれか一つの情報に基づいて、前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する構成を有している。
【0010】
この構成により、内燃機関の自着火が発生する要因となる内燃機関の冷却水の温度や内燃機関が停止してからの経過時間により内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定するため、正確に内燃機関の自着火の可能性を判定することができる。
【0011】
また、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、上記(1)または(2)に記載の内燃機関の始動制御装置において、(3)前記閉弁時期制御手段が、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、異常燃焼音および振動を伴わない緩慢な自着火が発生するよう前記吸気弁の閉弁時期を遅角させる構成を有している。
【0012】
この構成により、異常燃焼音および振動を伴う内燃機関の自着火を抑制することができるとともに、燃焼室内に形成された混合気が燃焼に使われるため、排気HC(Hydro Carbon)を低減させることができる。さらに、緩慢な自着火を発生させることで、内燃機関の良好な始動性を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、(4)4気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁および2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁および前記第2の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えた構成を有している。
【0014】
この構成により、内燃機関の自着火の可能性がある気筒に対してのみ自着火を防止するための制御を行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、(5)6気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁、2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁および3番目に圧縮行程となる第3圧縮気筒に対応する第3の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁、前記第2の吸気弁および前記第3の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えた構成を有している。
【0016】
この構成により、内燃機関の自着火の可能性がある気筒に対してのみ自着火を防止するための制御を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、(6)8気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁、2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁、3番目に圧縮行程となる第3圧縮気筒に対応する第3の吸気弁および4番目に圧縮行程となる第4圧縮気筒に対応する第4の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁、前記第2の吸気弁、前記第3の吸気弁および前記第4の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えた構成を有している。
【0018】
この構成により、内燃機関の自着火の可能性がある気筒に対してのみ自着火を防止するための制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内燃機関の自着火を抑制するとともに、内燃機関の良好な始動性を確保することができる内燃機関の始動制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るエンジンおよびその制御装置の例を示す概略構成図である。
【0022】
まず、構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る内燃機関の始動制御装置は、例えば、自動車等の車両に搭載される4気筒のエンジン1によって構成される内燃機関を制御するようになっている。4気筒の一部を構成するエンジン1の気筒1aには、ピストン2で仕切られた燃焼室3が形成され、この燃焼室3に吸気通路4を通じて空気が吸入されるとともに、第1燃料噴射弁5および第2燃料噴射弁6から燃料が供給される。第1燃料噴射弁5は、気筒1a内に設けられ、燃焼室3に燃料を直接噴射するようになっている。第2燃料噴射弁6は、吸気通路4内に設けられており、吸気通路4を介して燃料を燃焼室3に供給するようになっている。なお、エンジン1は、第1燃料噴射弁5のみを搭載したエンジンでもよく、第2燃料噴射弁6のみを搭載したエンジンであってもよい。
【0024】
吸入された空気と供給された燃料からなる混合気に対して点火プラグ7により点火が行われると、混合気が燃焼してピストン2が往復運動し、エンジン1のクランクシャフト8が回転する。また、燃焼後の混合気は排気として燃焼室3から排気通路9に送り出される。
【0025】
また、エンジン1には、燃焼室3と吸気通路4との間を開閉する吸気弁10および燃焼室3と排気通路9との間を開閉する排気弁11が設けられている。吸気弁10の上方には、吸気弁10の開閉タイミングを変化させる第1可変弁タイミング機構12が設けられている。排気弁11の上方には、排気弁11の開閉タイミングを変化させる第2可変弁タイミング機構13が設けられている。
【0026】
エンジンECU14は、CPU15を中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPU15の他に、処理プログラムなどを記憶するROM16や一時的にデータを記憶するRAM17、A/D変換器等を含む入力インターフェース回路18および出力インターフェース回路19を有しており、第1燃料噴射弁5、第2燃料噴射弁6、点火プラグ7、第1可変弁タイミング機構12および第2可変弁タイミング機構13等を制御するようになっている。
【0027】
エンジンECU14には、水温センサ20、クランク角センサ21、カムポジションセンサ22およびイグニッションスイッチ23が接続されている。
【0028】
水温センサ20は、エンジン1の冷却水の温度(以下、「冷却水温度」という。)Twを検出し、検出した冷却水温度Twに応じた信号をエンジンECU14に出力するようになっている。
【0029】
クランク角センサ21は、クランクシャフト8の実クランク角CRを検出し、検出した実クランク角CRに応じた信号をエンジンECU14に出力するようになっている。
【0030】
カムポジションセンサ22は、吸気弁10の実カムシャフト角CAを検出し、検出した実カムシャフト角CAに応じた信号をエンジンECU14に出力するようになっている。
【0031】
イグニッションスイッチ23は、運転者によるエンジン1の始動要求を検出し、検出した始動要求に応じた信号をエンジンECU14に出力するようになっている。
【0032】
ROM16には、冷却水温度Twおよびエンジン1が停止してからの経過時間(以下、「エンジン停止時間」という。)tstpと自着火を完全に抑制することができる吸気弁10の閉じ時期の遅角量とが対応付けられた第1の遅角量マップが記憶されている。
【0033】
RAM17には、エンジン1が停止してからタイマによりカウントされたカウンタ値が記憶されている。このカウンタ値が、エンジン停止時間tstpを表す。
【0034】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る特徴的な構成について説明する。
【0035】
CPU15は、エンジン1の始動時にエンジン1の自着火の可能性があるか否かを判定するようになっている。具体的には、CPU15は、冷却水温度Twおよびエンジン停止時間tstpに基づいて、エンジン1の始動時にエンジン1の自着火の可能性があるか否かを判定するようになっている。すなわち、CPU15は、本発明の自着火判定手段を構成する。
【0036】
また、CPU15は、エンジン1の気筒1aの状態を判別するようになっている。具体的には、CPU15は、クランク角センサ21によって検出された実クランク角CRと、カムポジションセンサ22によって検出された実カムシャフト角CAとに基づいて、各気筒が吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程のどの行程にあるかを判別するようになっている。すなわち、CPU15は、本発明の気筒状態判別手段を構成する。なお、通常の始動では、この気筒1aの状態の判別後に燃料噴射、点火が始まることになる。
【0037】
また、CPU15は、自着火の可能性があると判定した場合に吸気弁10の閉弁時期を遅角し、気筒1aの状態を判別した後に吸気弁10の閉弁時期を進角させるために第1可変弁タイミング機構12を制御するようになっている。すなわち、CPU15は、本発明の閉弁時期制御手段を構成する。
【0038】
次に、動作について説明する。
【0039】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るCPUの動作を示すフロー図である。以下に説明する処理は、予めROM16に記憶されているプログラムによって実現される。なお、以下に説明する処理は、運転者によるエンジン1の始動要求がイグニッションスイッチ23により検出された場合に実行される。
【0040】
図2に示すように、まず、CPU15は、水温センサ20から冷却水温度Twを読み込み、RAM17からエンジン停止時間tstpを表すカウンタ値を読み込む(ステップS1)。
【0041】
次に、CPU15は、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きいか否かを判定し(ステップS2)、冷却水温度Twが予め定められた値Twini以下であると判定した場合(ステップS2でNOの場合)、処理を終了する。
【0042】
一方、CPU15は、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きいと判定した場合(ステップS2でYESの場合)、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいか否かを判定する(ステップS3)。ここで、CPU15は、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tmin以下であると判定した場合(ステップS3でNOの場合)、処理を終了し、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいと判定した場合(ステップS3でYESの場合)には、ステップS4へ移行する。
【0043】
ステップS2およびS3では、CPU15は、エンジン1に自着火の可能性があるか否かを判定している。すなわち、CPU15は、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きく、かつ、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいと判定した場合に自着火の可能性があると判定している。なお。冷却水温度Twが高い場合、燃焼室3内の温度が高いため、エンジン1の始動時において自着火が発生する可能性が高くなる。また、エンジン停止時間tstpが長い場合、第1燃料噴射弁5や第2燃料噴射弁6から漏れる燃料が多く、クランクケースの下部に取り付けられたオイルパンに保持されているオイル中の燃料が気化して燃焼室3内に侵入したりすることにより、混合気の可燃ガス濃度が高くなるため、エンジン1の始動時において自着火が発生する可能性が高くなる。
【0044】
次に、CPU15は、ROM16に記憶されている第1の遅角量マップを参照し、冷却水温度Twおよびエンジン停止時間tstpに基づいて、自着火を完全に抑制できる吸気弁10の閉じ時期の遅角量を決定する(ステップS4)。
【0045】
次に、CPU15は、決定した遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させるための指令信号を第1可変弁タイミング機構12に出力する(ステップS5)。
【0046】
次に、CPU15は、気筒1aの状態を判別したか否かを判定し(ステップS6)、気筒1aの状態を判別するまでこのステップを繰り返す。
【0047】
次に、CPU15は、気筒1aの状態を判別したと判定した場合(ステップS6でYESの場合)には、吸気弁10の閉じ時期を進角させるための指令信号を第1可変弁タイミング機構12に出力し(ステップS7)、処理を終了する。このときの進角量は、ステップS4で決定した遅角量と同じ大きさとする。
【0048】
次に、自着火を完全に抑制できる遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合の気筒1a内の筒内圧力の挙動について説明する。
【0049】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁および排気弁のリフト挙動および筒内圧力を示す図である。図4は、本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期を変化させた場合の最大筒内圧力を示す図である。
【0050】
図3に示すように、排気行程において排気弁11が開閉した後に吸気行程へ移行するが、吸気弁10の閉じ時期を遅角させない場合、気筒1a内の空気量が多いため、圧縮行程での圧力上昇が高く、自着火が発生する。この場合、図4に示すように、異常燃焼音や振動を伴う筒内圧力が高い自着火が発生することとなる。
【0051】
一方、図3に示すように、吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合、燃焼室3内の混合気が圧縮行程で圧縮されるが、その圧縮行程で吸気弁10が開いている時期が長いため、気筒1a内の筒内圧力の上昇が抑制される。この場合、図4に示すように、エンジン1の始動時に自着火が発生しない。
【0052】
次に、気筒1aの状態を判別した後に吸気弁10の閉じ時期を進角させた場合のエンジン1の始動性向上の効果について説明する。
【0053】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよびエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【0054】
図5に示すように、エンジン1の始動時におけるクランキング開始から吸気弁10を遅角させ、気筒1aの状態を判別した後に吸気弁10を進角させた場合、最初の燃焼を検知したときに吸気弁10を進角させた場合と比較して、エンジン回転数がより速く上昇して定常状態となるため、エンジン1の始動性が向上することになる。
【0055】
次に、本実施の形態に係るCPU15の制御対象となる気筒について説明する。
【0056】
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る気筒別の筒内圧力の時間変化および燃料噴射タイミングとエンジン回転数の時間変化を示す図である。なお、通常、気筒判別は、2つの基準信号により行われる。クランク角センサ21は、クランクシャフト8に取り付けられたタイミングローターの欠歯を検出(1信号/1回転)することにより実クランク角CRを把握し、クランクシャフト8が2回転する毎に出力される信号(例えば、カムポジションセンサ22による検出結果に応じた信号)により、各気筒がどの行程にあるかを判別する。図6は、各気筒の状態を判別するまでクランクシャフト8が1回転(360°)する必要がある場合を示している。
【0057】
図6に示すように、エンジン1の始動時におけるクランキング開始直後においては、エンジン回転数が低いことにより吸入空気量が多くなり、圧縮行程直後に筒内圧力が高くなるため、各気筒の状態を判別するまでクランクシャフト8が1回転(360°)する必要がある場合、最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒(#1気筒)および2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒(#3気筒)でエンジン1の自着火が発生しやすい。また、第3圧縮気筒(#4気筒)および第4圧縮気筒(#2気筒)については、クランキング開始後に排気行程を経るため、燃焼室3内の気化燃料は排気されることになり、エンジン1の自着火が発生する可能性は低い。つまり、自着火を起こす気筒数は、圧縮行程から吸気行程の間(360°)に、何れの気筒が停止しているかで決まることとなる。したがって、本実施の形態におけるエンジン1のように4気筒4サイクルエンジンで構成されている場合には、CPU15は、自着火の可能性があると判定した場合に、第1圧縮気筒に対応する吸気弁および第2圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を遅角させ、各気筒の状態を判別した後に第1圧縮気筒に対応する吸気弁および第2圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を進角させる制御を行えばよい。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係るCPU15によれば、エンジン1の始動時にエンジン1の自着火の可能性がある場合に、吸気弁10の閉じ時期を遅角させることにより、燃焼室3内の圧力が上昇することを防止することができる。また、気筒1aの状態を判別して自着火の可能性がなくなった後に、吸気弁10の閉じ時期を進角させることにより、最初の燃料噴射および点火時には燃焼室3内の圧力を高い状態にすることができる。したがって、エンジン1の自着火を抑制するとともに、エンジン1の良好な始動性を確保することができる。
【0059】
また、本実施の形態に係るCPU15によれば、エンジン1の自着火が発生する要因となるエンジン1の冷却水温度Twやエンジン停止時間tstpによりエンジン1の自着火の可能性があるか否かを判定するため、正確にエンジン1の自着火の可能性を判定することができる。
【0060】
また、本実施の形態に係るCPU15によれば、エンジン1の自着火の可能性がある気筒に対して自着火を防止するための制御を行うことができる。
【0061】
なお、本実施の形態においては、CPU15は、冷却水温度Twおよびエンジン停止時間tstpに基づいて、エンジン1の始動時において自着火の可能性があるか否かを判定しているが、これに限られない。例えば、CPU15は、冷却水温度Twのみに基づいて、エンジン1の始動時において自着火の可能性があるか否かを判定してもよく、エンジン停止時間tstpのみに基づいて、エンジン1の始動時において自着火の可能性があるか否かを判定してもよい。
【0062】
また、本実施の形態においては、エンジン1が4気筒4サイクルエンジンの場合を例示したが、これに限られず、エンジン1が6気筒4サイクルエンジンまたは8気筒4サイクルエンジンの場合であっても、本発明を適用することができる。
【0063】
エンジン1が6気筒4サイクルエンジンである場合、クランクシャフト8が120°回転する毎に一つの気筒が特定の行程(例えば、圧縮行程)に移行するため、圧縮行程直後に筒内圧力が高くなることによりエンジン1の自着火が発生しやすい気筒は、第1圧縮気筒、第2圧縮気筒および第3圧縮気筒である。したがって、CPU15は、自着火の可能性があると判定した場合に、第1圧縮気筒に対応する吸気弁、第2圧縮気筒に対応する吸気弁および第3圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を遅角させ、各気筒の状態を判別した後に第1圧縮気筒に対応する吸気弁、第2圧縮気筒に対応する吸気弁および第3圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を進角させる制御を行えばよい。
【0064】
また、エンジン1が8気筒4サイクルエンジンである場合、クランクシャフト8が90°回転する毎に一つの気筒が特定の行程(例えば、圧縮行程)に移行するため、圧縮行程直後に筒内圧力が高くなることによりエンジン1の自着火が発生しやすい気筒は、第1圧縮気筒、第2圧縮気筒、第3圧縮気筒および第4圧縮気筒である。したがって、CPU15は、自着火の可能性があると判定した場合に、第1圧縮気筒に対応する吸気弁、第2圧縮気筒に対応する吸気弁、第3圧縮気筒に対応する吸気弁および第4圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を遅角させ、各気筒の状態を判別した後に第1圧縮気筒に対応する吸気弁、第2圧縮気筒に対応する吸気弁、第3圧縮気筒に対応する吸気弁および第4圧縮気筒に対応する吸気弁の閉じ時期を進角させる制御を行えばよい。
【0065】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係るエンジンおよび制御装置は、第1の実施の形態に係るエンジンおよび制御装置と略同様な構成となっているため、同一の構成についてはその説明を省略する。以下、構成については、図1を用いて説明する。
【0066】
ROM16には、冷却水温度Twおよびエンジン停止時間tstpと異常燃焼音や振動を伴わない緩慢な自着火を発生させる吸気弁10の閉じ時期の遅角量とが対応付けられた第2の遅角量マップが記憶されている。
【0067】
以下、本発明の第2の実施の形態に係る特徴的な構成について説明する。
【0068】
CPU15は、自着火の可能性があると判定した場合に、異常燃焼音および振動を伴わない緩慢な自着火が発生するよう吸気弁10の閉じ時期を遅角させるために第1可変弁タイミング機構12を制御するようになっている。すなわち、CPU15は、本発明の閉弁時期制御手段を構成する。
【0069】
次に、動作について説明する。
【0070】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係るCPUの動作を示すフロー図である。以下に説明する処理は、予めROM16に記憶されているプログラムによって実現される。なお、以下に説明する処理は、運転者によるエンジン1の始動要求がイグニッションスイッチ23により検出された場合に実行される。
【0071】
図7に示すように、まず、CPU15は、水温センサ20から冷却水温度Twを読み込み、RAM17からエンジン停止時間tstpを表すカウンタ値を読み込む(ステップS1)。
【0072】
次に、CPU15は、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きいか否かを判定し(ステップS2)、冷却水温度Twが予め定められた値Twini以下であると判定した場合(ステップS2でNOの場合)、処理を終了する。
【0073】
一方、CPU15は、冷却水温度Twが予め定められた値Twiniより大きいと判定した場合(ステップS2でYESの場合)、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいか否かを判定する(ステップS3)。ここで、CPU15は、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tmin以下であると判定した場合(ステップS3でNOの場合)、処理を終了し、エンジン停止時間tstpが予め定められた値tminより大きいと判定した場合(ステップS3でYESの場合)、ステップS11へ移行する。
【0074】
次に、CPU15は、ROM16に記憶されている第2の遅角量マップを参照し、冷却水温度Twおよびエンジン停止時間tstpに基づいて、異常燃焼音や振動を伴わない緩慢な自着火を発生させる吸気弁10の閉じ時期の遅角量を決定する(ステップS4)。
【0075】
次に、CPU15は、決定した遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させるための指令信号を第1可変弁タイミング機構12に出力する(ステップS5)。
【0076】
次に、CPU15は、気筒1aの状態を判別したか否かを判定し(ステップS6)、気筒1aの状態を判別するまで繰り返す。
【0077】
次に、CPU15は、気筒1aの状態を判別したと判定した場合(ステップS6でYESの場合)には、吸気弁10の閉じ時期を進角させるための指令信号を第1可変弁タイミング機構12に出力し(ステップS7)、処理を終了する。このときの進角量は、ステップS11で決定した遅角量と同じ大きさとする。
【0078】
次に、緩慢な自着火を発生させる遅角量で吸気弁の閉じ時期を遅角させた場合の気筒1a内の筒内圧力の挙動について説明する。
【0079】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁および排気弁のリフト挙動および筒内圧力を示す図である。図9は、本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期を変化させた場合の最大筒内圧力を示す図である。
【0080】
図8に示すように、異常燃焼音や振動を伴わない緩慢な自着火を発生させる遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合、自着火を完全に抑制できる遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合より気筒1a内の筒内圧力の上昇は大きくなるが、吸気弁10の閉じ時期を遅角させない場合より気筒1a内の筒内圧力の上昇は抑制される。この場合、図9に示すように、自着火を完全に抑制できる遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合より気筒1a内の圧縮行程での筒内圧力が高いため、自着火は発生することになるが、吸気弁10の閉じ時期を遅角させない場合より気筒1a内の最大筒内圧力が低く抑えられ、その自着火は、異常燃焼音や振動を伴わない緩慢なものになる。
【0081】
次に、緩慢な自着火を行うことによる排気HCの低減効果について説明する。
【0082】
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよび排気HC濃度の時間変化を示す図である。
【0083】
図10に示すように、自着火を完全に抑制する遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合、燃焼室3内に形成された混合気は燃焼されずに排気されるため、排気HC濃度が高くなる。これに対して、緩慢な自着火が発生する遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合には、燃焼室3内に形成された混合気が燃焼に使われるため、排気HC濃度が低くなる。
【0084】
次に、緩慢な自着火を発生させて気筒1aの状態を判別した後に吸気弁10の閉じ時期を進角させた場合のエンジン1の始動性向上の効果について説明する。
【0085】
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよびエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【0086】
図11に示すように、緩慢な自着火が発生する遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合、自着火を完全に抑制する遅角量で吸気弁10の閉じ時期を遅角させた場合と比較して、緩慢な自着火によりエンジン回転数がより速く上昇して定常状態となるため、エンジン1の始動性が向上することになる。
【0087】
以上のように、本実施の形態に係るCPU15によれば、異常燃焼音および振動を伴うエンジン1の自着火を抑制することができるとともに、燃焼室3内に形成された混合気が燃焼に使われるため、排気HCを低減させることができる。さらに、緩慢な自着火を発生させることで、エンジン1の良好な始動性を確保することができる。
【0088】
以上、説明したように、本発明は、内燃機関の自着火を抑制するとともに、内燃機関の良好な始動性を確保し、さらには排気性能を向上させることができるという効果を有するものであり、内燃機関の始動時における自着火を抑制する内燃機関の始動制御装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るエンジンおよびその制御装置の例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るCPUの動作を示すフロー図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁および排気弁のリフト挙動および筒内圧力を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期を変化させた場合の最大筒内圧力を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよびエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る気筒別の筒内圧力の時間変化および燃料噴射タイミングとエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るCPUの動作を示すフロー図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁および排気弁のリフト挙動および筒内圧力を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期を変化させた場合の最大筒内圧力を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよび排気HC濃度の時間変化を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る吸気弁の閉じ時期のタイミングおよびエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 エンジン
1a 気筒
3 燃焼室
5 第1燃料噴射弁
6 第2燃料噴射弁
10 吸気弁
12 第1可変弁タイミング機構
14 エンジンECU
15 CPU(自着火判定手段、気筒状態判別手段、閉弁時期制御手段)
16 ROM
17 RAM
20 水温センサ
23 イグニッションスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、
前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、
前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記自着火判定手段が、前記内燃機関の冷却水の温度および前記内燃機関が停止してからの経過時間の少なくともいずれか一つの情報に基づいて、前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記閉弁時期制御手段が、前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、異常燃焼音および振動を伴わない緩慢な自着火が発生するよう前記吸気弁の閉弁時期を遅角させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
4気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、
前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、
前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁および2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁および前記第2の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項5】
6気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、
前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、
前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁、2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁および3番目に圧縮行程となる第3圧縮気筒に対応する第3の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁、前記第2の吸気弁および前記第3の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項6】
8気筒4サイクルエンジンで構成される内燃機関の始動時に前記内燃機関の自着火の可能性があるか否かを判定する自着火判定手段と、
前記内燃機関の気筒の状態を判別する気筒状態判別手段と、
前記自着火判定手段により自着火の可能性があると判定された場合に、前記内燃機関の始動時に最初に圧縮行程となる第1圧縮気筒に対応する第1の吸気弁、2番目に圧縮行程となる第2圧縮気筒に対応する第2の吸気弁、3番目に圧縮行程となる第3圧縮気筒に対応する第3の吸気弁および4番目に圧縮行程となる第4圧縮気筒に対応する第4の吸気弁の閉弁時期を遅角させ、前記気筒状態判別手段により気筒の状態が判別された後に前記第1の吸気弁、前記第2の吸気弁、前記第3の吸気弁および前記第4の吸気弁の閉弁時期を進角させる閉弁時期制御手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−97381(P2009−97381A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267987(P2007−267987)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】