説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】PMの浄化を効率的に行うことが可能な内燃機関の排気浄化装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極30と、電極30にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段40と、内燃機関の始動時からの運転時間を検出するサイクル数検出手段48と、を具備し、電圧制御手段40は、サイクル数検出手段48により検出されたサイクル数がC1になった場合、印加電圧を、内燃機関の始動時の印加電圧よりも高くすることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の排気ガスに含まれるPM(Particular Matter:粒状物質)は、大気汚染の原因となり得る。車両の排気系には、PMを浄化するための排気浄化装置が搭載されることがある。
【0003】
排気浄化装置の中には、コロナ放電を利用してPMを帯電させて浄化する技術がある。例えば特許文献1には、コロナ放電により、PMを酸化燃焼させて浄化する技術が開示されている。特許文献2には、コロナ放電によりPMを帯電させ、帯電させたPMを静電気力によってフィルタに捕集する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−243419号公報
【特許文献2】特開2008−231932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コロナ放電によるPMの浄化効率は、エンジンの運転条件等により変動する。また、アーク放電が発生した場合、浄化効率は低下する。このため、従来の排気浄化装置では、PMの浄化効率が低下することがあった。本発明は、上記課題に鑑み、PMの浄化を効率的に行うことが可能な内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、前記内燃機関の始動時からの運転時間を検出する運転時間検出手段と、を具備し、前記電圧制御手段は、前記運転時間検出手段により検出された運転時間が第1の時間になった場合、前記印加電圧を、前記内燃機関の始動時の印加電圧よりも高くする内燃機関の排気浄化装置である。本発明によれば、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0007】
上記構成において、前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、前記内燃機関が備えるインジェクタによる燃料噴射を制御する噴射制御手段と、を具備し、前記噴射制御手段は、前記温度検出手段により検出された前記内燃機関の温度が第1の温度以下である場合、前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度が所定範囲内にある間は、前記インジェクタによる燃料噴射を停止させる制御を行う構成とすることができる。この構成によれば、燃料の噴射に伴うPMの発生を抑制し、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0008】
上記構成において、前記内燃機関の温度が前記第1の温度以下である場合、前記電圧制御手段は、前記印加電圧を前記内燃機関の温度が前記第1の温度より高い場合の印加電圧よりも高くする構成とすることができる。この構成によれば、大きな電圧を印加することにより、噴射時期が制限されていることによる浄化効率の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、前記内燃機関の自動停止及び自動始動を行う運転制御手段と、を具備し、前記運転制御手段による前記内燃機関の自動停止中に、前記電極はコロナ放電を行い、前記電流検出手段により検出された、前記自動停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流に基づいて、前記電圧制御手段は、前記運転制御手段による前記内燃機関の自動始動時の前記印加電圧を決定する内燃機関の排気浄化装置である。本発明によれば、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0010】
上記構成において、前記運転制御手段による前記自動停止を許可するための停止許可温度を決定する停止許可温度決定手段を備え、前記停止許可温度決定手段は、前記自動停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流が第1の電流以上である場合、前記停止許可温度を、前記電流が前記第1の電流より小さい場合の停止許可温度よりも高くする構成とすることができる。この構成によれば、PMの発生を抑制し、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0011】
上記構成において、前記電流が前記第1の電流以上である場合、前記電極は前記停止中にコロナ放電を行う構成とすることができる。この構成によれば、浄化効率を高めることができる。
【0012】
本発明は、内燃機関の吸気管に燃料を噴射する第1インジェクタと、前記内燃機関の気筒に燃料を噴射する第2インジェクタと、を有する内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、前記内燃機関の運転時間を検出する運転時間検出手段と、を具備し、前記運転時間検出手段により検出された、前記第1インジェクタによる噴射のみが行われた前記内燃機関の運転時間が第2の時間以上である場合、前記電極はコロナ放電を行う内燃機関の排気浄化装置である。本発明によれば、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0013】
上記構成において、前記第1インジェクタと、前記第2インジェクタとを制御する噴射制御装置を備え、前記第1インジェクタによる噴射のみが行われた前記内燃機関の運転時間が前記第2の時間以上である場合、前記噴射制御手段は、燃料の全噴射量に対する前記第1インジェクタの噴射量の比率を連続的に低下させ、前記第2インジェクタの噴射量の比率を連続的に増加させる構成とすることができる。この構成によれば、PMの急激な増加が抑制される。
【0014】
上記構成において、前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段を備え、前記第1インジェクタの噴射量の比率が低下することに応じて、前記電圧制御手段は前記印加電圧を低下させる構成とすることができる。この構成によれば、筒内噴射による燃費の改善と共に、PMの効率的な浄化が可能になる。
【0015】
本発明は、内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、前記内燃機関が備えるインジェクタによる燃料噴射を制御する噴射制御手段と、を具備し、前記噴射制御手段は、前記温度検出手段により検出された前記内燃機関の温度が第1の温度以下である場合、前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度が上死点の前後の所定範囲内にある間は、前記インジェクタによる燃料噴射を停止させる制御を行う内燃機関の排気浄化装置である。本発明によれば、燃料の噴射に伴うPMの発生を抑制し、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0016】
上記構成において、前記内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、を具備し、前記内燃機関の温度が前記第1の温度以下である場合、前記電圧制御手段は、前記印加電圧を前記内燃機関の温度が前記第1の温度より高い場合の印加電圧よりも高くする構成とすることができる。この構成によれば、大きな電圧を印加することにより、噴射時期が制限されていることによる浄化効率の低下を抑制することができる。
【0017】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、前記電極が行うコロナ放電に応じて流れる電流を検出する電流検出手段と、を具備し、前記内燃機関の停止中に前記電極はコロナ放電を行い、前記電流検出手段により検出された、前記停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流に基づいて、前記電圧制御手段は前記内燃機関の始動時に前記電極に印加される印加電圧を決定する内燃機関の排気浄化装置である。本発明によれば、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、PMの浄化を効率的に行うことが可能な内燃機関の排気浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置を適用したエンジンを例示する模式図である。
【図2】図2は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置を例示する機能ブロック図である。
【図3】図3は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。
【図4】図4(a)はサイクル数と印加電圧との関係を例示する図であり、図4(b)サイクル数とPM数との関係を例示する図であり、図4(c)はクランク角度と冷却水温との関係を例示する図である。
【図5】図5は実施例2に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。
【図6】図6は実施例2に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。
【図7】図7は実施例3に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。
【図8】図8(a)はサイクル数とPFIの比率との関係を例示する図であり、図8(b)はサイクル数と印加電圧との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
初めに、実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置の構成について説明する。図1は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置を適用したエンジンを例示する模式図である。
【0022】
図1に示すように、エンジンは、ECU2、エンジン本体4、吸気管18、排気管20、及びバッテリ24を備える。エンジン本体4には、吸気管18、排気管20、及び点火プラグ22が設けられている。エンジン本体4の気筒4a内には、クランクシャフト6、及びクランクシャフト6と接続されたピストン8が配置されている。クランク角度センサ10は、気筒4aに設けられており、クランクシャフト6のクランク角度θを検出する。水温センサ16(温度検出手段)は、エンジンの冷却水温度Tを検出する。バッテリ24は、排気浄化装置1が備える電極30に、コロナ放電を起こさせるための電圧を印加する。電流計26(電流検出手段)は、バッテリ24が電圧を印加することに応じて電極30に流れる電流を検出する。
【0023】
筒内インジェクタ12は、気筒4aに設けられており、気筒4aに燃料を噴射する。ポートインジェクタ14は、吸気管18に設けられており、吸気管18に燃料を噴射する。つまり図1に示すエンジンは、筒内インジェクタ12による筒内噴射と、ポートインジェクタ14によるポート噴射(PFI)との両方が可能である。
【0024】
排気管20に設けられたハウジング28内には、電極30及びフィルタ32が設けられている。ハウジング28は接地されている。電極30は、電流計26を介してバッテリ24と接続されており、バッテリ24による電圧の印加に応じて、コロナ放電を行う。電極30が行うコロナ放電により、PMは例えば負に帯電する。フィルタ32は、帯電したPMを捕集する。また、コロナ放電によりPMを酸化燃焼させることもできる。つまり、排気浄化装置1は、コロナ放電によって帯電したPMを捕集、又はコロナ放電によってPMを酸化燃焼させることで、エンジン本体4の排気ガスを浄化する。
【0025】
ECU2は、クランクシャフト6により検出されたクランク角度θ、水温センサ16により検出された冷却水温度T、電流計26により検出された電流、を取得する。またECU2は、筒内インジェクタ12による燃料噴射、ポートインジェクタ14による燃料噴射、バッテリ24による電圧の印加、及びエンジン本体4の運転を制御する。
【0026】
実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置1の構成についてさらに説明を続ける。図2は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置の構成を例示する機能ブロック図である。
【0027】
図2に示すように、ECU2は、電圧制御手段40、噴射制御手段42、運転制御手段44、停止許可温度決定手段46、及びサイクル数検出手段48(運転時間検出手段)として機能する。
【0028】
電圧制御手段40は、バッテリ24が電極30にコロナ放電を起こさせるために印加する印加電圧の大きさ、及び印加電圧のオン/オフを制御する。噴射制御手段42は、筒内インジェクタ12とポートインジェクタ14とを制御する。具体的には、噴射制御手段42は各インジェクタによる燃料噴射の噴射時期、及び噴射量等を制御する。運転制御手段44は、エンジンの温度に基づいて、エンジン本体4の運転の自動始動及び自動停止の制御を行う。エンジンの温度とは、例えば冷却水温度や気筒の温度である。停止許可温度決定手段46は、停止許可温度T0を決定する。停止許可温度とは、運転制御手段44が自動停止の制御を行うための条件の1つであり、自動停止を許可するための温度である。例えば冷却水温度Tが停止許可温度T0以上である場合に、運転制御手段44による自動停止の制御が可能となる。サイクル数検出手段48は、クランク角度センサ10により検出されたクランク角度に基づき、エンジンのサイクル数を検出する。サイクル数は、エンジンの運転時間を表すパラメータとして機能する。つまり、エンジンの始動から時間が経過するに従い、サイクル数は増加する。なお、サイクルとは、吸入、圧縮、膨張、排気の4行程が1巡するサイクルを表す。
【0029】
次に内燃機関の排気浄化装置の制御について説明する。図3は実施例1に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。なお、実施例1では、車両の運転が始動した場合であって、筒内インジェクタ12により筒内噴射が行われる場合を考える。
【0030】
図3に示すように、エンジンが始動すると、噴射制御手段42(図2参照)は、水温センサ16により検出されたエンジンの冷却水温度Tを取得する(ステップS1)。ステップS1の後、噴射制御手段42は、冷却水温度Tが第1の温度T1以下であるか判断する(ステップS2)。
【0031】
ステップS2においてNoの場合、噴射制御手段42は、燃料の噴射時期を、例えば成層始動時に設定する(ステップS3)。成層始動時とは、例えばクランク角度θがBTDC(Before Top Dead Center:上死点前)40°のときである。ステップS3の後、電圧制御手段40は、バッテリ24が電極30に印加する印加電圧VをV1に設定する(ステップS4)。ステップS4の後、制御はステップS7に進む。
【0032】
一方、ステップS2においてYesの場合、噴射制御手段42は、燃料の噴射時期を、クランク角度θがピストン8の上死点の前後60°(以下、TDC±60°とする)の範囲外となる時期に設定する(ステップS5)。言い換えれば噴射制御手段42は、クランク角度センサ10により検出されたクランク角度θがピストン8のTDC±60°の範囲内にある間は、燃料の噴射を停止するような制御を行う。噴射制御手段42は、TDC±60°の範囲外として、例えばBTDC280°等を噴射時期とする。ステップS5の後、電圧制御手段40は、印加電圧Vを、V1より高い電圧であるV2に設定する(ステップS6)。ステップS4におけるV1、ステップS6におけるV2が、それぞれの場合における始動時の印加電圧になる。ステップS6の後、制御はステップS7に進む。
【0033】
ステップS4の後、又はステップS6の後、サイクル数検出手段48はエンジン本体4の始動時からのサイクル数Cを検出し、Cがサイクル数C1以上であるか判断する(ステップS7)。
【0034】
Yesの場合、電圧制御手段40は、バッテリ24が印加する印加電圧の補正を行う(ステップS8)。印加電圧を補正するための補正係数は、始動後のサイクル数に基づいて、電圧制御手段40が決定する。後述するように、補正後の印加電圧は、例えばストイキメトリ状態において印加される電圧と、補正係数とをかけた電圧であり、始動時の印加電圧V1やV2より高い電圧となる。
【0035】
ステップS7においてNoの場合、又はステップS8の後、電圧制御手段40は、印加電圧を制御する(ステップS9)。具体的には、ステップS7においてNoの場合であれば、電圧制御手段40は印加電圧を、ステップS4で定めたV1又はステップS6で定めたV2とする。ステップS8の後であれば、電圧制御手段40は印加電圧をステップS8で定めたV3とする。ステップS9の後、制御は終了する。
【0036】
次に、内燃機関の排気浄化装置1について、より詳細に説明するため、サイクル数と排気ガス中のPM数、及び印加電圧との関係について説明する。図4(a)はサイクル数と印加電圧との関係を例示する図であり、図4(b)はサイクル数とPM数との関係を例示する図であり、図4(c)はクランク角度と冷却水温度との関係を例示する図である。
【0037】
図4(a)の横軸はサイクル数を、縦軸は印加電圧をそれぞれ表す。図4(b)の横軸はサイクル数を、縦軸はPM数をそれぞれ表す。横軸のゼロにおいて、エンジンが始動するものとする。なお、図4(b)中の点線は電極30に印加される印加電圧がゼロの場合、破線は印加電圧がサイクル数に応じて変化しない場合、実線は図4(a)に示す印加電圧が印加された場合、をそれぞれ示す。
【0038】
図4(a)に示すように、始動直後の印加電圧はV0である。なおV0は、図3のステップS4においてはV1、ステップS6においてはV2のそれぞれに対応する。始動時からのサイクル数がC1(第1の時間)に達すると(ステップS7においてYesの場合)、印加電圧はV0から徐々に増加する。サイクル数がC2に達すると、印加電圧は一定の電圧V3に収束する。これは、図3のステップS8で説明したように、始動後のサイクル数に基づいて、電圧制御手段40が印加電圧を補正するためである。言い換えれば、サイクル数がC1からC2に達するまでの期間に、印加電圧はV3まで増加する。ステップS8で算出される補正係数は図4(a)と同様の振る舞いをする。電圧制御手段40が、図4(a)と同様の振る舞いをする補正係数と、ストイキメトリ状態において印加される電圧とをかけることにより、印加電圧は図4(a)のようになる。補正係数、印加電圧V2及びV3は、例えば冷却水温度等のエンジンの温度や、燃料の噴射時期に基づいて定められる。
【0039】
図4(b)に示すように、排気ガス中に含まれるPM数は、エンジン本体4の始動直後に多くなる。始動からサイクル数が多くなるに伴い、すなわちエンジンの始動から時間が経過するに伴い、発生するPM数は減少する。
【0040】
PM数が多い場合に、図1に示した電極30が放電を行うと、コロナ放電ではなく、アーク放電が発生することがある。アーク放電が発生すると、PMの浄化効率が低下する。また、印加電圧が大きいほど排気浄化装置1の浄化効率は高くなるが、印加電圧が大きすぎるとアーク放電が発生してしまう。印加電圧をゼロにするとアーク放電の発生を抑制することができる。しかしながら、図4(b)に点線で示すように、印加電圧がゼロである場合、PM数は多くなる。つまり、排気ガスの浄化が困難になる。
【0041】
図4(b)に破線及び実線で示すように、電極30に電圧を印加することで、PM数は印加電圧がゼロの場合よりも少なくなる。破線で示す例では、印加電圧は一定の大きさを有する。上述のように、PM数が多い場合、印加電圧によりアーク放電が発生しやすい。従って、始動直後においては、アーク放電が発生しにくいように、印加電圧を低く保つことが好ましい。図4(b)の破線の例では、印加電圧が、始動直後の低い電圧のまま維持される。従って、浄化効率を高くすることは困難となり、PM数の減少幅も小さくなる。
【0042】
図4(b)に実線で示すように、図4(a)のような印加電圧を印加すると、サイクル数の増加に伴いPM数は減少する。PM数の減少幅は、実線の例の方が破線の例よりも大きい。図4(a)に示すように、始動直後は、印加電圧はアーク放電を抑制するように、低く保たれている。このため、図4(b)の実線と破線とでは、始動直後のPM数は同程度である。その一方、サイクル数の増加に伴い、言い換えれば始動から時間の経過に伴い、印加電圧は大きくなる。すなわち電圧制御手段40は、始動からの運転時間が第1の時間(サイクル数C1)以上になった場合に、電極30の印加電圧を始動時の電圧よりも高くする。これにより、コロナ放電による浄化効率は向上する。この結果、図4(b)の実線のように、PMの浄化を効率的に行うことができる。
【0043】
次にクランク角度と冷却水温度とについて説明する。図4(c)はクランク角度と、始動時における冷却水温度との関係を例示する図である。図4(c)の横軸はクランク角度を、縦軸は始動時の冷却水温度をそれぞれ表す。図4(c)の実線は、あるクランク角度と冷却水温度において決まる印加電圧を表す等値線である。クランク角度が0°である場合に、ピストン8はTDCにあるものとする。印加電圧は上側の線から順に高くなるものとする。
【0044】
図4(c)に示すように、始動時の冷却水温度が低下するほど印加電圧も低下し、冷却水温度が上昇するほど印加電圧も上昇する。これは、冷却水温度が高い場合は燃料の微粒化が促進され、PMの発生量が少なくなるため、浄化効率を維持するためには印加電圧を高くすることが好ましいからである。その一方、噴射時期がTDCに近づくほど印加電圧は低下し、噴射時期がTDCから遠ざかるほど印加電圧は上昇する。吸気行程では進角するほど、また圧縮行程では遅角するほど、PMの発生量は多い。つまり噴射時期がTDC付近の角度であるほどPMの発生量は多く、噴射時期がTDCから遠い角度であるほどPMの発生量が少ない。このため、浄化効率を維持するためには、噴射時期がTDCから遠ざかるほど印加電圧を高くすることが好ましい。また、アーク放電の抑制のためにも、PM発生量が多いTDC付近では印加電圧を低くすることが好ましい。
【0045】
冷却水温度TがT1より高い場合(図3のステップS2においてNo)、図4(c)のマップに基づいて、電圧制御手段40は印加電圧VをV1に決定する(図3のステップS4)。その一方で、冷却水温度TがT1以下である場合(ステップS2においてYes)、噴射制御手段42はTDC±60°の範囲内では、噴射を停止する。つまり、PMの発生が多くなるクランク角度では噴射を停止することで、燃料の噴射に伴うPMの発生を抑制することができる。しかし、PMの発生数が少なくなると、浄化効率も低下する恐れがある。そこで電圧制御手段40は、印加電圧Vを、噴射時期を制限しない場合の印加電圧V1より大きいV2とする(ステップS6)。大きな電圧を印加することにより、噴射時期が制限されていることによる浄化効率の低下を抑制することができる。
【0046】
実施例1によれば、始動からのサイクル数がC1以上、つまり経過時間が第1の時間以上になった場合、電圧制御手段40は、電極30の印加電圧を始動時の電圧よりも高くする。これにより、PMの浄化を効率的に行うことができる。また、冷却水温度TがT1以下である場合、噴射制御手段42はPMの発生が多くなるクランク角度での噴射を停止する。このことにより、燃料の噴射に伴うPMの発生を抑制することができる。また電圧制御手段40は、噴射時期を制限する場合には、噴射時期を制限しない場合よりも、印加電圧を大きくする。言い換えれば、電圧制御手段40は、冷却水温度TがT1以下である場合の印加電圧を、TがT1より高い場合の印加電圧よりも大きくする。このことにより、噴射時期が制限されていることによる浄化効率の低下を抑制することができる。
【0047】
図3のステップ7や図4(a)及び図4(b)に示すように、実施例1では、サイクル数検出手段48により検出されたサイクル数が始動時からの経過時間を表すパラメータとして機能する。しかし、例えば時計等を用いて、始動からの経過時間を検出してもよい。また、噴射を停止する時期は、TDC±60°に限定されず、例えばTDC±30°やTDC±45°等としてもよい。
【0048】
図3の制御では、冷却水温度Tが温度T1より高い場合、噴射制御手段42は噴射時期を成層始動時に設定するとしたが(ステップS3)、成層始動時以外の時期に設定してもよい。ただし、燃費の改善のためには、噴射時期を成層始動時とすることが好ましい。また冷却水温度TがT1より低い場合、噴射制御手段42は、噴射時期をステップS3で定められる噴射時期よりも、TDCから遠い角度とすればよい。また、電圧制御手段40は、ストイキメトリ状態における印加電圧に、補正係数をかけた電圧を補正後の印加電圧V3としているが、他の補正を行ってV3を算出してもよい。
【0049】
なお、ステップS1〜S6の噴射時期制限の制御を行わず、ステップS7〜S9の印加電圧補正の制御のみを行ってもよい。また、ステップS7〜S9の印加電圧補正の制御を行わず、ステップS1〜S6の噴射時期制限の制御のみを行ってもよい。
【実施例2】
【0050】
実施例2は、電極30の汚染度合いの推定を行う例である。内燃機関の大気浄化装置の構成は、図1及び図2に示したものと同じである。
【0051】
エンジンが運転することに伴い、電極30には、煤等の汚れが付着することがある。電極30が汚染されていると、アーク放電が発生しやすくなり、効率的な排気浄化が困難となる。また、車両の中には、エンジンの自動停止及び自動始動を行う車両がある。このような車両においても、図4(c)において説明したように、冷却水温度が低い状態で運転すると、PM数が増加する。
【0052】
次に、実施例2に係る内燃機関の排気浄化装置の制御について説明する。図5及び図6は実施例2に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。
【0053】
図5に示すように、ECU2はエンジン本体4が自動停止中であるか判断する(ステップS10)。Noの場合、制御は後述するステップS23に進む。なお、Noの場合、エンジン本体4は運転中であり、バッテリ24は電極30に電圧を印加している。ステップS10においてYesの場合については図6を参照して説明する。
【0054】
ステップS10においてYesの場合、制御は図6のステップS11に進む(図5及び図6の“A”参照)。ECU2はフラグがオンであるか判断する(ステップS11)。Noの場合、ECU2はフラグをオンにする(ステップS12)。ステップS12の後、制御は後述するステップS20に進む。
【0055】
ステップS11においてYesの場合、電圧制御手段40はバッテリ24による電圧印加をオンにし、電極30によるコロナ放電を実行する(ステップS13)。電流計26は、ステップS13において行われたコロナ放電により流れた電流を検出し、ECU2は電流計26により検出された電流Iを取得する(ステップS14)。
【0056】
ステップS14の後、ECU2は所得した電流Iが、第1の電流I1以上であるか判断する(ステップS15)。ECU2は、電流Iの大きさから、電極30の汚染度合いを推定することができる。ステップS15においてYesの場合、電極30の汚染度合いが大きいと判断される。電極30の汚染度合いが大きい場合、電圧制御手段40は、バッテリ24の電圧をオンにし、電極30によるコロナ放電を実行する(ステップS16)。ステップS16のコロナ放電によって、電極30の汚れを除去する。ステップS16の後、制御はステップS17に進む。
【0057】
一方、ステップS15においてNoの場合、つまり電極30の汚染度合いが小さい場合、コロナ放電は行われず、制御はステップS17に進む。電圧制御手段40は、冷却水温度Tや電流Iに基づき、バッテリ24が電極30に印加する印加電圧Vを設定する(ステップS17)。電流Iから推定される電極30の汚染度合いに基づき、電圧制御手段40は、印加電圧Vをアーク放電が発生しないような電圧に設定することが好ましい。
【0058】
ステップS17の後、停止許可温度決定手段46は、設定された印加電圧Vに基づき、停止許可温度T0を決定する(ステップS18)。冷却水温度Tが停止許可温度T0以上である場合に、運転制御手段44は自動停止をすることができる。TがT0より低い場合には、運転制御手段44は自動停止をすることが困難となる。
【0059】
電流IがI1以上である場合(ステップS15においてYesの場合)、停止許可温度決定手段46は停止許可温度T0を、電流IがI1より小さい場合(ステップS15においてNoの場合)の停止許可温度よりも高い温度に決定する。
【0060】
ステップS18の後、ECU2はフラグをオフにする(ステップS19)。ステップS19の後、又は上述のステップS12の後、運転制御手段44は、自動始動条件が成立しているか判断する(ステップS20)。自動始動条件とは、運転制御手段44がエンジン本体4の自動始動を行うための条件であり、例えば運転者によるブレーキペダルの踏み込みが解除されたこと等である。
【0061】
Noの場合、制御は終了する。Yesの場合、電圧制御手段40はバッテリ24による電圧印加をオンにして、電極30によるコロナ放電を実行する(ステップS21)。このとき、ステップS17において設定された印加電圧Vが印加される。ステップS21の後、運転制御手段44はエンジン本体4を始動させる(ステップS22)。ステップS22の後、制御は終了する(図5及び図6の“B”参照)。ここで図5に戻り、制御についてさらに説明する。
【0062】
上述したステップS10においてNoの場合、つまりエンジン本体4が自動停止中ではなく運転している場合、運転制御手段44は、水温センサ16により検出された冷却水温度Tが、停止許可温度T0以上であるか判断する(ステップS23)。Noの場合、制御は終了する。
【0063】
Yesの場合、運転制御手段44は、自動停止条件が成立しているか判断する(ステップS24)。自動停止条件とは、運転制御手段44がエンジン本体4の自動停止を行うための条件であり、例えば車両の速度がゼロであること、及び運転者によってブレーキペダルが踏み込まれていること等である。Noの場合、制御は終了する。
【0064】
Yesの場合、運転制御手段44は、エンジン本体4を停止させる(ステップS25)。ステップS25の後、電圧制御手段40は、バッテリ24による印加電圧の印加を停止させる(ステップS26)。ステップS26の後、制御は終了する。
【0065】
既述したように、電極30に、煤等の汚れが付着していると、アーク放電が発生しやすくなり、効率的な排気浄化が困難となる。実施例2によれば、コロナ放電に応じて流れる電流Iに基づき、電極30の汚染度合いを推定する(図5のステップS15)。また電極30の汚染度合いに基づき、印加電圧Vを設定する(ステップS17)。すなわち電圧制御手段40は、コロナ放電に応じて流れる電流Iに基づいて印加電圧Vを決定する。例えばIがI1以上となる場合のように汚染度合いが大きい場合、電圧制御手段40は印加電圧Vを、電流IがI1より小さい場合の印加電圧よりも小さくして、アーク放電の発生を抑制する。従って実施例2によれば、PMの浄化を効率的に行うことができる。
【0066】
また自動停止及び自動始動が可能なエンジンでは始動性を確保するために、自動始動時に噴射する燃料を増量することがある。燃料が増量されると、より多くのPMが発生する。PMが多いほどアーク放電は発生しやすい。従って、自動停止及び自動始動を行うエンジン本体4において、汚染度合いを考慮した電圧を設定することで、アーク放電の発生をより効果的に抑制することができる。
【0067】
また図4(c)において説明したように、冷却水温度が低くなるほど燃料の微粒化が悪化し、PMが発生しやすい。さらに、既述したように、電極30の汚染度合いが大きい場合、印加電圧Vが低く設定される(図6のステップS17)。印加電圧Vが低くなると、冷却水温度の低下に伴い増加したPMを十分に浄化できない可能性がある。停止許可温度決定手段46は、電極30の汚染度合いに応じて、停止許可温度T0を設定する。例えば、停止許可温度決定手段46は、電流IがI1以上であるように電極30の汚染度合いが大きい場合の停止許可温度T0を、IがI1より小さい場合の停止許可温度よりも高くする。これにより、冷却水温度Tが低い場合には車両は停止する。また車両走行時の冷却水温度Tは高くなる。このため、PMの発生を抑制することができる。従って、ステップS17において印加電圧Vが低く設定された場合でも、PMの浄化を効率的に行うことができる。
【0068】
汚染度合いが大きい場合、ステップS17のように汚染度合いに基づいて印加電圧Vを定めると、Vが小さくなり浄化効率が低下する恐れがある。そこで、汚染度合いが大きい場合、つまり図5のステップS15において電流IがI1より大きい場合、電極30はコロナ放電を行う(ステップS16)。これにより、電極30の汚れを除去することができる。この結果、汚れを除去する前よりも、印加電圧Vを高く設定することができ、浄化効率を高めることができる。
【0069】
実施例2では、自動始動及び自動停止を行う場合について説明したが、実施例2に係る内燃機関の排気浄化装置の適用例はこれに限定されない。例えばユーザがエンジンを始動及び停止させる場合においても、図5及び図6において説明した制御を行ってもよい。つまり、ユーザがエンジンを停止させたことに応じて、電極30はコロナ放電を行う(図6のステップS13に相当)。コロナ放電によって流れた電流に基づいて、電極30はコロナ放電を行い(ステップS16に相当)、電圧制御手段40は印加電圧Vを設定してもよい(ステップS17に相当)。
【0070】
実施例2では、停止許可温度としてエンジン本体4の冷却水温度を用いたが、他の温度でもよい。例えばエンジン本体4の気筒の温度や、燃料噴射量から推定される温度を停止許可温度として用いてもよい。
【実施例3】
【0071】
実施例3は、筒内直接噴射とポート噴射の両方を行う例である。内燃機関の大気浄化装置の構成は、図1及び図2に示したものと同じである。
【0072】
図1において既述したように、筒内インジェクタ12は気筒4aに燃料を噴射する筒内噴射を行う。ポートインジェクタ14は吸気管18に燃料を噴射するPFI(ポート噴射)を行う。図1のエンジンは筒内噴射とポート噴射の両方が可能である。図2に示した噴射制御手段42は、筒内インジェクタ12とポートインジェクタ14を制御し、筒内インジェクタ12及びポートインジェクタ14それぞれの噴射量を変更する。つまり噴射制御手段42は、燃料の総噴射量に対する筒内インジェクタ12の噴射量の比率(筒内噴射の比率)、及びポートインジェクタ14の噴射量の比率(PFIの比率)を変更する。
【0073】
次に実施例3に係る内燃機関の排気浄化装置の制御について説明する。図7は実施例3に係る内燃機関の排気浄化装置の制御を例示するフローチャートである。制御開始時点では、PFIのみが行われているとする。
【0074】
図7に示すように、サイクル数検出手段48はサイクル数Cを検出する。運転制御手段44は、PFIのみが行われている状態におけるサイクル数Cがサイクル数C3(第2の時間)以上であるか判断する(ステップS30)。Noの場合、制御は終了する。
【0075】
Yesの場合、電圧制御手段40はバッテリ24による電圧印加をオンにし、電極30によるコロナ放電を実行する(ステップS31)。ステップS31の後、運転制御手段44は、筒内噴射を行うか判断する(ステップS32)。例えば、エンジン本体4の回転数や負荷に基づき、筒内噴射により燃費が改善する場合や、排気エミッションが改善する場合には、ステップS32の判断はYesとなる。回転数はクランク角度センサ10により検出されたクランク角度に基づき検出され、負荷は水温センサ16により検出された冷却水温度に基づき検出される。ステップS32においてNoの場合、制御は終了する。
【0076】
Yesの場合、運転制御手段44は、エンジン本体4の回転数や負荷に基づき、実現すべき筒内噴射とPFIとの比率を算出し、算出した比率に基づいて、燃料噴射の比率を変更する(ステップS33)。このとき運転制御手段44は、サイクル数の増加に伴い、燃料の全噴射量に対するPFIの比率を100%から、100%より低い比率まで連続的に低下させ、かつ筒内噴射の比率を連続的に上昇させる。筒内噴射の比率は、例えば燃費が改善する比率や、排気エミッションが改善する比率とすることができる。
【0077】
電圧制御手段40は、バッテリ24が電極30に印加する印加電圧Vを低下させる(ステップS34)。より詳細には、PFIの比率が連続的に低下することに応じて、電圧制御手段40は印加電圧Vを連続的に低下させる。ステップS34の後、制御は終了する。
【0078】
ここで、内燃機関の排気浄化装置1の制御について、より詳細に説明するため、サイクル数とPFIの比率及び印加電圧との関係について説明する。図8(a)はサイクル数とPFIの比率との関係を例示する図であり、図8(b)はサイクル数と印加電圧との関係を例示する図である。図8(a)の縦軸は燃料噴射に占めるPFIの比率、図8(b)の縦軸は印加電圧を表す。図8(a)及び図8(b)において、横軸はサイクル数を表す。
【0079】
図8(a)に示すように、サイクル数検出手段48により検出されたサイクル数CがC3に達するまでは、全噴射量におけるPFIの比率は100%である。サイクル数がC3以上になると、PFIの比率は100%から徐々に低下し、サイクル数がC4に達すると、PFIの比率は、100%より低い比率αとなり、その後αを維持する(図7のステップS33)。なお、筒内噴射の比率は、低下したPFIの比率の分だけ上昇する。
【0080】
図8(b)に示すように、サイクル数がC3に達するまでは、印加電圧VはV4である。印加電圧VはV4から徐々に低下し、サイクル数がC4に達するとV4より低い電圧V5となり、その後V5を維持する(ステップS34)。
【0081】
PFIの比率が100%の状態でエンジン本体4が運転し続けると、エンジン本体4で発生する煤等により電極30が汚染されることがある。実施例3によれば、PFIのみが行われるサイクル数C(運転時間)がC3以上である場合、つまりPFIのみが行われる運転時間が第2の時間以上である場合に、電極30がコロナ放電を行うことで、電極30の汚れを除去することができる。電極30の汚れを除去することで、アーク放電の発生を抑制し、PMの浄化を効率的に行うことが可能となる。
【0082】
またPFIの比率が100%の状態でエンジン本体4が運転し続けると、筒内インジェクタ12の噴孔に異物が堆積することがある。噴孔に異物が堆積した状態で筒内噴射を行うと、噴霧が不安定になる。不安定な噴霧が行われると、気筒4aの内壁やピストン8に付着する燃料が増大することがあり、また燃料の微粒化が悪化することもある。この場合、PMが多く発生する。堆積物は、筒内インジェクタ12が筒内噴射を行うことで除去されるが、除去された異物からPMが発生する。特に、筒内噴射の比率を急激に上昇させると、噴孔から剥離した異物により、PMが急激に増加することがある。
【0083】
実施例3によれば、PFIのみが行われるサイクル数CがC3以上である場合、つまりPFIのみが行われる運転時間が第2の時間以上である場合、噴射制御手段42は、PFIの比率を低下させ、かつ筒内噴射の比率を上昇させる。言い換えれば、噴射制御手段42は、PFIによる噴射量を低下させ、筒内噴射による噴射量を増加させる。筒内噴射により、噴孔に堆積した異物は除去される。このため、異物が多く堆積した状態で、多くの燃料が筒内噴射されることが抑制される。従って、不安定な噴霧によるPMの増加を抑制することができる。また、噴射比率の変更は連続的に行われるため、筒内噴射による異物の除去も連続的に行われる。これにより、異物が原因となるPMの急激な増加が抑制される。
【0084】
つまり、燃料噴射におけるPFIの比率が100%の状態においては、運転時間に応じて定期的にコロナ放電を行うことで、電極30の汚れを除去することが可能である。またPFI及び筒内噴射の両方が行われる場合には、筒内噴射の比率を連続的に上昇させることで、異物を除去し、かつPMの急激な増加を抑制することが可能である。
【0085】
電圧制御手段40は、PFIの比率が低下することに応じて、印加電圧Vを低下させる。これにより、除去された異物によってPMが増加した場合でも、アーク放電を抑制することができる。すなわち、実施例3によれば、筒内噴射による燃費の改善と共に、PMの効率的な浄化が可能になる。また印加電圧の低下は、PFI比率の低下と同様に連続的に行われる。なお、PFIの比率の低下は連続的でなくてもよいが、PMの急激な増加を抑制するためには、PFIの比率を連続的に低下させることが好ましい。
【0086】
実施例1〜実施例3では、冷却水温度をパラメータとして用いているが、他の温度でもよい。例えばエンジン本体4の気筒の温度を用いてもよいし、燃料噴射量から推定される温度でもよい。
【0087】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
排気浄化装置 1
ECU 2
エンジン本体 4
気筒 4a
クランクシャフト 6
ピストン 8
クランク角度センサ 10
筒内インジェクタ 12
ポートインジェクタ 14
水温センサ 16
吸気管 18
排気管 20
バッテリ 24
電流計 26
電極 30
電圧制御手段 40
噴射制御手段 42
運転制御手段 44
停止許可温度決定手段 46
サイクル数検出手段 48

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、
前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、
前記内燃機関の始動時からの運転時間を検出する運転時間検出手段と、を具備し、
前記電圧制御手段は、前記運転時間検出手段により検出された運転時間が第1の時間になった場合、前記印加電圧を、前記内燃機関の始動時の印加電圧よりも高くすることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、
前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、
前記内燃機関が備えるインジェクタによる燃料噴射を制御する噴射制御手段と、を具備し、
前記噴射制御手段は、前記温度検出手段により検出された前記内燃機関の温度が第1の温度以下である場合、前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度が上死点の前後の所定範囲内にある間は、前記インジェクタによる燃料噴射を停止させる制御を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関の温度が前記第1の温度以下である場合、前記電圧制御手段は、前記印加電圧を前記内燃機関の温度が前記第1の温度より高い場合の印加電圧よりも高くすることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、
前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、
前記内燃機関の自動停止及び自動始動を行う運転制御手段と、を具備し、
前記運転制御手段による前記内燃機関の自動停止中に、前記電極はコロナ放電を行い、
前記電流検出手段により検出された、前記自動停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流に基づいて、前記電圧制御手段は、前記運転制御手段による前記内燃機関の自動始動時の前記印加電圧を決定することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記運転制御手段による前記自動停止を許可するための停止許可温度を決定する停止許可温度決定手段を備え、
前記停止許可温度決定手段は、前記自動停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流が第1の電流以上である場合、前記停止許可温度を、前記電流が前記第1の電流より小さい場合の停止許可温度よりも高くすることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記電流が前記第1の電流以上である場合、前記電極は前記停止中にコロナ放電を行うことを特徴とする請求項4又は5記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
内燃機関の吸気管に燃料を噴射する第1インジェクタと、前記内燃機関の気筒に燃料を噴射する第2インジェクタと、を有する内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、
前記内燃機関の運転時間を検出する運転時間検出手段と、を具備し、
前記運転時間検出手段により検出された、前記第1インジェクタによる噴射のみが行われた前記内燃機関の運転時間が第2の時間以上である場合、前記電極はコロナ放電を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記第1インジェクタと、前記第2インジェクタとを制御する噴射制御装置を備え、
前記第1インジェクタによる噴射のみが行われた前記内燃機関の運転時間が前記第2の時間以上である場合、前記噴射制御手段は、燃料の全噴射量に対する前記第1インジェクタの噴射量の比率を連続的に低下させ、前記第2インジェクタの噴射量の比率を連続的に増加させることを特徴とする請求項7記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段を備え、
前記第1インジェクタの噴射量の比率が低下することに応じて、前記電圧制御手段は前記印加電圧を低下させることを特徴とする請求項8記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項10】
内燃機関の温度を検出する温度検出手段と、
前記内燃機関のクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、
前記内燃機関が備えるインジェクタによる燃料噴射を制御する噴射制御手段と、を具備し、
前記噴射制御手段は、前記温度検出手段により検出された前記内燃機関の温度が第1の温度以下である場合、前記クランク角度検出手段により検出されたクランク角度が上死点の前後の所定範囲内にある間は、前記インジェクタによる燃料噴射を停止させる制御を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項11】
前記内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、
前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、を具備し、
前記内燃機関の温度が前記第1の温度以下である場合、前記電圧制御手段は、前記印加電圧を前記内燃機関の温度が前記第1の温度より高い場合の印加電圧よりも高くすることを特徴とする請求項10記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項12】
内燃機関の排気系に設けられ、コロナ放電を行う電極と、
前記電極にコロナ放電を起こさせるために印加される印加電圧を制御する電圧制御手段と、
前記電極が行うコロナ放電に応じて流れる電流を検出する電流検出手段と、を具備し、
前記内燃機関の停止中に前記電極はコロナ放電を行い、
前記電流検出手段により検出された、前記停止中に行われたコロナ放電に応じて流れる電流に基づいて、前記電圧制御手段は前記内燃機関の始動時に前記電極に印加される印加電圧を決定することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241703(P2011−241703A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112674(P2010−112674)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】