説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気中のCO抑制とNO抑制の両立を図る内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられた酸化触媒と、酸化触媒の下流側の排気通路に設けられ排気中の粒子状物質を捕集するフィルタであって、酸化能を有する触媒が担持されているフィルタと、酸化触媒の上流側で、該酸化触媒に流れ込む排気に還元剤を供給する還元剤供給手段と、を備える内燃機関の排気浄化装置において、酸化触媒は、該酸化触媒の本体の外周近傍部分に、該酸化触媒の上流側と下流側のそれぞれの排気通路に開口し該酸化触媒の軸方向に延在する貫通流路が一又は複数設けられる。そして、その貫通流路においては、その内部表面は酸化能を有しないように形成されるとともに、還元剤供給手段から供給される還元剤を吸着、放出可能とするように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関からの排気に含まれるNOxを浄化するために、排気通路に、酸化触媒、フィルタ、NOx触媒を上流側から順に設け、さらにフィルタとNOx触媒に還元剤を排気に添加する添加装置を設けることで形成される排気浄化装置が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。当該技術では、酸化触媒によりNOがNOに酸化され、そのNOによってフィルタ上の粒子状物質を酸化除去するとともに、余剰となったNOは下流にあるNOx触媒および添加装置からの還元剤により除去される。
【0003】
また、排気通路に設けられた酸化触媒、還元剤としての燃料を添加する燃料添加弁、触媒担持されたフィルタからなる排気浄化装置において、酸化触媒で生成されたNOを利用してフィルタ上の粒子状物質の酸化除去を行うとともに、フィルタ上で添加された燃料によるNOxの還元除去が行われる(例えば、特許文献2を参照)。一方で、排気通路に酸化触媒と排気浄化触媒とを配置して形成される排気浄化装置において、酸化触媒の上流側に還元剤である燃料を添加する燃料添加弁を設けると共に、添加された燃料の一部が酸化触媒によって酸化されずに排気浄化触媒に届くように酸化触媒に貫通流路を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−199423号公報
【特許文献2】特開2001−263046号公報
【特許文献3】特開2009−156164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排気通路の酸化触媒と酸化能を有する触媒が担持されたフィルタを配置して構成される排気浄化装置において、供給装置を酸化触媒の上流側に設け排気に還元剤を供給する場合、排気中のNOが酸素より酸化力が強いため、酸化触媒において供給された燃料がNOによって酸化されて消費されてしまい、下流側のフィルタに十分な還元剤としての燃料が供給されない可能性がある。その場合、排気中のNOがフィルタ側で十分に浄化されないだけでなく、排気中のNOが酸化されてNOとなるため、結果として、排気中のNOの占める割合が上昇してしまう。NOは光化学スモッグの主原因とされ、その割合が増加するのは好ましくない。
【0006】
一方で、排気中のCOを低減させるために、上流側に配置されている酸化触媒には比較的高い酸化能力が求められる。しかし、酸化触媒の酸化能力が上昇すると、NOによる酸化触媒での供給燃料の消費(酸化)が促進されるため、フィルタに届けられる還元剤としての燃料量が低下し、上記の通り排気中のNOの占める割合が上昇する結果となる。すなわち、従来技術では、排気中のCO抑制とNO抑制は相反するものであり、その両立は困難とされてきた。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、排気中のCO抑制とNO抑制の両立を図る内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記課題を解決するために、上流側に設けられる酸化触媒と、下流側に設けられる酸化能を有する触媒が担持されたフィルタとで排気浄化装置を形成するとともに、酸化触媒側に、その上流で排気に供給された還元剤を下流側に酸化することなく供給することを可能とする構造を採用することとした。当該構造の採用により、酸化触媒での排気中のCOの酸化を好適に維持しながら、排気浄化装置全体としてNOxの量を低減し、特にNOが占める割合が増加するのを抑制することを可能とした。
【0009】
そこで、詳細には、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられた酸化触媒と、前記酸化触媒の下流側の排気通路に設けられ排気中の粒子状物質を捕集するフィルタであって、酸化能を有する触媒が担持されているフィルタと、前記酸化触媒の上流側で、該酸化触媒に流れ込む排気に還元剤を供給する還元剤供給手段と、を備える内燃機関の排気浄化装置である。そして、前記酸化触媒は、該酸化触媒の本体の外周近傍部分に、該酸化触媒の上流側と下流側のそれぞれの排気通路に開口し該酸化触媒の軸方向に延在する貫通流路が一又は複数設けられ、前記一又は複数の貫通流路においては、その内部表面は酸化能を有しないように形成されるとともに、前記還元剤供給手段から供給される還元剤を吸着、放出可能とするように形成される。
【0010】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置において、排気通路の上流側に設けられる酸化触媒によって、排気に含まれるCOがCOに酸化されて、外気に放出されるのが抑制される。また、下流側に設けられたフィルタには酸化能を有する触媒が担持されており、還元剤供給手段によって排気に供給された還元剤の作用によって、排気中の粒子状物質が捕集、酸化除去されるとともにNOx除去も行われ得る。フィルタに担持される酸化能を有する触媒としては、排気中のNOx除去を考慮して該触媒が吸蔵還元型NOx触媒や選択還元型NOx触媒、三元触媒として機能し得る触媒であるのが好ましい。
【0011】
ここで、酸化触媒よりも上流側に位置する還元剤供給手段によって排気に供給された還元剤としては、内燃機関の燃料(HC)や尿素等が挙げられるが、フィルタ側でのNOx浄化に供される前に酸化触媒を通されることになる。ここで、酸化触媒により、排気中に含まれていたNOや該酸化触媒でNOから生成されたNOが、排気に供給された還元剤との反応に供されることになり、その結果、NOが還元され一部にNOが生成されるとともに、還元剤が消費されることになる。一方で、酸化触媒の下流側には酸化能を有する触媒が担持されたフィルタが配置されているため、還元生成されたNOが再びNOに酸化され、また、酸化触媒において還元剤が消費されてしまいフィルタ側には十分に供給できないと、フィルタ側でのNOの還元浄化が十分でなくなり、外部へのNO放出量が増加するおそれがある。
【0012】
しかし、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置においては、酸化触媒の本体の外周近傍部分に一又は複数の貫通流路が設けられることで、酸化触媒での還元剤の消費を抑制するとともに、フィルタ側への還元剤の供給を円滑に行うことが可能となる。そして、この貫通流路の内部表面は、還元剤が吸着されるように形成されていることから、酸化触媒の一部、すなわち貫通流路は、還元剤のバイパス手段として機能するばかりではなく、還元剤の貯留手段としても機能する。その結果、酸化手段の酸化能によって還元剤が消費されるのを回避し、フィルタに直接的に還元剤を供給し、また貯留手段として吸着した還元剤を遅れて放出することでフィルタに還元剤を供給することが可能となり、以て、フィルタ側でのNOx浄化、特にNOの還元浄化を好適に行うことができる。この結果、酸化触媒によるCO放出の抑制と、フィルタ側でのNO放出の抑制を両立することが可能となる。
【0013】
なお、酸化触媒における貫通流路での還元剤の吸着、放出は、酸化触媒の温度に応じて
行われるのが好ましい。一般的に、物理的には、酸化触媒の温度が低温であるときは還元剤を吸着し、その温度が高温となると吸着していた還元剤を温度に応じて放出する特性を示す。そこで、還元剤の吸着、放出を可能とする貫通流路が、酸化触媒の本体の外周近傍部分に設けられる。外周近傍分は、酸化触媒の外部への熱の移動が比較的速やかに生じる部分であることから、このように貫通流路を貫通流路近傍に設けることで、その温度変化を大きく発生させることができ、その温度変化を、還元剤の吸着、放出に利用しやすくなる。
【0014】
そこで、上記内燃機関の排気浄化装置において、前記一又は複数の貫通流路においては、その内部表面には酸化能を有する触媒が担持されていない状態であって、且つ前記還元剤を吸着可能な吸着材が塗布されてもよい。そして、その吸着剤は、その温度が低くなるに従いより多くの還元剤の吸着特性を示し、その温度が高くなるに従い吸着した還元剤の放出量が多くなる放出特性を示す。このような吸着剤を貫通流路の内部表面に塗布することで、貫通流路は、酸化触媒に流れ込む排気温度が比較的低い場合には排気中の還元剤を吸着する特性を示し、酸化触媒に流れ込む排気温度が比較的高い場合には吸着していた還元剤を放出し、下流側に位置するフィルタへ供給する特性を示すことになる。
【0015】
ここで、上述までの内燃機関の排気浄化装置において、前記酸化触媒は、該酸化触媒の本体がハウジングに収容されることで形成され、前記一又は複数の貫通流路は、前記酸化触媒本体の軸方向に沿って該酸化触媒の本体の側面側にも開口する溝部として形成され、前記酸化触媒の本体が前記ハウジングに収容された状態では、前記溝部の該酸化触媒本体の側面側は該ハウジングにより塞がれた状態となる構成を採用してもよい。すなわち、酸化触媒に設けられた貫通流路は、その開口部が、酸化触媒の上流側と下流側とを連通する形態であって、その内部表面を還元剤が吸着、放出可能となるように形成することができればよい。そのため、貫通流路は、酸化触媒の上流側と下流側とを連通する流路として形成されればよく、より具体的には貫通孔であってもよく、また貫通溝であってもよい。ただし、貫通流路が、貫通溝として形成される場合、一般的には、溝の開口部が、酸化触媒の本体の軸方向に沿って形成されるため、該溝の開口部から還元剤を含む排気が漏れ出てしまい、還元剤の吸着が効率的に行われない可能性がある。そこで、貫通流路を貫通溝の形態で形成する場合には、酸化触媒の本体がハウジングに収容された際に、該ハウジングによって本体の軸方向に沿った貫通溝の開口部が塞がれるようにするのが好ましい。
【0016】
ここで、上述までの内燃機関の排気浄化装置において、前記酸化触媒の温度に基づいて、該酸化触媒の有する前記一又は複数の貫通流路から放出される還元剤の量を推定する放出還元剤量推定手段を、更に備えてもよい。そして、前記還元剤供給手段は、前記放出還元剤量推定手段によって推定される還元剤量に基づいて、排気へ供給する還元剤量を調整するのが好ましい。放出還元剤量推定手段によって貫通流路に吸着されていた還元剤の放出量を推定し、その推定量に基づいて排気への還元剤供給量が調整されることで、CO低減、NOx低減等の排気浄化を図るにあたり、消費する還元剤量を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排気中のCO抑制とNO抑制の両立を図る内燃機関の排気浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る内燃機関の排気浄化装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す排気浄化装置に使用される酸化触媒の具体的な構造を示す第一の図である。
【図3】図1に示す排気浄化装置に使用される酸化触媒の具体的な構造を示す第二の図である。
【図4】図1に示す内燃機関の排気浄化装置において実行される、排気の浄化のための制御のフローチャートである。
【図5】図5に示す排気浄化制御が行われる際の、排気中のNO比率と、HC量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
<実施例>
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の実施例について、本願明細書に添付された図に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。内燃機関1は車両駆動用のディーゼルエンジンである。内燃機関1には排気通路2が接続されている。なお、図1においては、内燃機関1の吸気系の記載は省略している。排気通路2には、排気中のPMを捕集するパティキュレートフィルタ4(以下、単に「フィルタ」という。)が設けられている。このフィルタ4には、NOx浄化のための酸化能を有する触媒が担持されている。本実施例では、フィルタ4には、NOx吸蔵還元型触媒が担持されており、排気中の還元剤との反応によりNOx浄化を行うことが可能である。
【0021】
また、排気通路2におけるフィルタ4より上流側には前段触媒として酸化触媒3が設けられている。酸化触媒3は排気中に含まれるCOを酸化しCOとすることが可能であり、これにより有毒なCOが外気に放出されるのが抑制される。また、CO以外の排気に含まれる所定の物質、例えば、NOやHC等も酸化触媒3の酸化能により酸化される。なお、酸化触媒3の具体的な構成については、後述する。
【0022】
酸化触媒3の上流側に、該酸化触媒3に流れ込む排気に還元剤としての燃料(HC)を供給するHC供給弁5が設けられている。また、酸化触媒3に流れ込む排気の温度を測定する温度センサ6が、該酸化触媒3の直上流に設けられている。内燃機関1には電子制御ユニット(ECU)10が併設されており、該ECU10は内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。ECU10には、上述したHC供給弁5や温度センサ6の他、エアフローメータ(図示略)、クランクポジションセンサ11及びアクセル開度センサ12が電気的に接続されている。したがって、HC供給弁5は、ECU10からの指示に従い、排気へのHC供給を行う。また、クランクポジションセンサ11は内燃機関1のクランク角を検出し、アクセル開度センサ12は内燃機関1を搭載した車両のアクセル開度を検出し、ECU10へと送る。その結果、ECU10は、クランクポジションセンサ11の検出値に基づいて内燃機関1の機関回転速度を導出し、アクセル開度センサ12の検出値に基づいて内燃機関1の機関負荷を導出する。また、ECU10は、温度センサ6の検出値に基づいて酸化触媒3の温度を推定する。
【0023】
ここで、酸化触媒3の具体的な構成について、図2および図3に基づいて説明する。酸化触媒3は、排気の流れ方向に延在する概ね柱状の(すなわち、排気の流れ方向を軸方向として形成される)触媒本体33を有する。触媒本体33は、ハウジングに収容されて酸化触媒3を構成するものであり、図2および図3においては、このハウジングの記載は省略されている。先ず、図2に示す形態では、触媒本体33の一方の端面31(図2において左側に位置する端面)は、図1に示す構成における排気の上流側に位置する端面とし、触媒本体33の他方の端面32(図2において右側に位置する端面)は、図1に示す構成における排気の下流側に位置する端面とする。ここで、端面31と端面32とにそれぞれ開口し、触媒本体33の軸方向に沿って延在しその内部を貫通する貫通孔34が、該触媒
本体33の外周近傍の部分に複数個、同心円状に配置されている。この「触媒本体33の外周近傍の部分」とは、貫通孔34がその途中で触媒本体33の表面に露出しない程度に、触媒本体の33の外周部分に近い位置の部分をいう。そこで、触媒本体33の強度に支障がない限りにおいて、貫通孔34の各端面での開口部が、その端面の縁部分により近くに位置するのが好ましい。触媒本体33は上記の貫通孔34の内部表面を除いて酸化能を有する触媒が担持されているが、当該貫通孔34の内部表面には、当該触媒が存在しないように形成されている。そのため、貫通孔34の内部表面は、酸化能は有していない。
【0024】
一方で、貫通孔34の内部表面には、HC供給弁5によって排気に供給された還元剤としてのHCを吸着する能力を有するHC吸着材が塗布される。このHC吸着剤は、その温度が比較的低い場合には排気中のHCを吸着し、その温度が高くなるに従い、吸着していたHCを放出する特性を有する。具体的には、HC吸着剤としては、ゼオライト、活性炭などが挙げられるが、排気系に配設するには、耐熱性が必要であることから、ゼオライトを主成分とするものであることが好ましい。なお、HC吸着剤がHCを放出するHC放出温度は、HC吸着剤の種類や組み合わせ及び含有量等によって定まる。また、HC吸着剤としては、上記ゼオライトに加えて、さらに周期表のIB族元素(Cu、Ag、Au)のイオンを少なくとも1種類含ませることが、HC吸着性能向上の観点から好ましい。さらに、上記IB族元素のイオンに加えて、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ti、Ce、Mn、Fe、Cr、Ni、Znの各種イオンから選択される少なくとも1種のイオンをゼオライト中に含有させると、耐熱性が向上し望ましい。
【0025】
このように構成される酸化触媒3が、図1に示すように内燃機関1の排気通路2に組み込まれた場合の、排気浄化について説明する。HC供給弁5によってHCが供給された排気は、酸化触媒3に流れ込むことで、排気に含まれるCOが酸化されCOとなるとともに、排気中のNOが排気中のHCと反応し、HCを消費しながらNOがNOへと還元される。このとき、排気中のHCが全てNOの還元反応に供されるのではなく、貫通孔34の内部に流れ込んだ排気に含まれるHCについては、NOとの反応には供されない。一方で、上記のとおり、貫通孔34の内部表面にはHC吸着材が塗布されているため、触媒本体33の温度が比較的低い場合には、排気中のHCの一部は直接、下流側に位置するフィルタ4に供給されず、一度、貫通孔34の内部表面に吸着される。そして、触媒本体33の温度が比較的高温となると、そこに吸着されていたHCが放出されて、排気の流れに乗ってフィルタ4へと供給される。
【0026】
このように、本発明に係る内燃機関1の排気浄化装置においては、HC供給弁5により排気に供給されたHCを貫通孔34を通してフィルタ4側にバイパスさせる構成となっており、また、貫通孔34の内部表面でのHCの吸着、放出を行うことで、特に排気の高温時にフィルタ4側にHCを確実に供給することが可能となる。排気高温時には、一般的には、フィルタ4に担持された酸化能を有する触媒の温度も上がり、その酸化能力が活性化された状態にあること、また、排気温度の上昇により内燃機関から排出された排気におけるHC含有量は比較的低くなりやすいことから、下流側に位置するフィルタ4でのNOx浄化、特にNO浄化を確実にするためには、HC供給弁5からHC供給量を増加しなければならない。この点を踏まえると、排気高温時に貫通孔34の内部表面から吸着していたHCが放出される本発明に係る構成は、排気高温時のHC供給量を抑制しながらも、適切にNOx浄化を実現することが可能となる。もちろん、酸化触媒3およびフィルタ4の酸化能力により排気中のCOはCOに酸化され、COとしての放出は抑制される。
【0027】
次に、図3に基づいて、酸化触媒3の別の具体的な実施例について説明する。図3に示す酸化触媒3も、図2に示す実施例と同様に、排気の流れ方向に延在する概ね柱状の(すなわち、排気の流れ方向を軸方向として形成される)触媒本体33を有する。そして、端面31と端面32とにそれぞれ開口し、触媒本体33の軸方向に沿って延在し溝状に形成
される貫通溝35が、該触媒本体33の外周に複数個、同心円状に配置されている。この貫通溝35は、触媒本体33の側方外周面上に、触媒本体33の軸方向に延在するように開口している。触媒本体33は上記の貫通溝35の内部表面を除いて酸化能を有する触媒が担持されているが、当該貫通溝35の内部表面には、当該触媒が存在しないように形成されている。そのため、貫通溝35の内部表面は、酸化能は有していない。一方で、貫通溝35の内部表面には、上述したHC吸着材が塗布される。
【0028】
このように形成される触媒本体33は、ハウジングに収容された状態で、図1に示す内燃機関1の排気浄化装置の一部として組み込まれるが、その際は、触媒本体33の側方外周面上に、触媒本体33の軸方向に延在するように開口している部分については、ハウジングによって塞がれた状態となる。したがって、内燃機関1から排出された排気は、酸化触媒3に流れ込むにあたり、酸化能を有する部分か、もしくは酸化能を有さずにHC吸着能を有する部分の何れかに流れ込むことになる。そのため、図2に示す酸化触媒を採用する場合と同じように、排気中のCO低減もしくはフィルタ4側へのHCの確実な供給によるNOx低減が行われることになる。
【0029】
ここで、図2および図3に示す実施例のように貫通孔34もしくは貫通溝35(以下、「貫通孔等」という。)を、触媒本体33の外周近傍部分に設けることで、内燃機関の負荷状態が変動したときの貫通孔等の内部表面の温度変化をより顕著なものとすることができる。触媒本体33の外周近傍部分は、触媒本体33が収容されるハウジングを通して外部に熱が逃げやすい位置である。そのため、排気温度が比較的高い場合には、排気温度に応じて貫通孔等の温度も高くなるが、排気温度が低くなるとハウジングを通した放熱により、触媒本体の中央部分と比較して、外周近傍部分は温度は低下しやすくなる。貫通孔等の内部表面に塗布されたHC吸着剤は、物理的な特性として、低温時にはHCを吸着しやすく、高温時にはその吸着したHCを放出する特性があり、その温度が高くなるに従い、HC放出量は増加する傾向がある。そこで、上記の通り、貫通孔等を内燃機関の負荷状態に応じて温度変化が大きく現れる触媒本体33の外周近傍部分に配置することで、貫通孔等によるHCの吸着、放出をより好適に利用することができ、フィルタ4側へのHCの供給を確実なものとすることができる。
【0030】
ここで、酸化触媒の貫通孔34等でのHCの吸着および放出を踏まえた排気への燃料供給を行うことで、排気浄化を実現する排気浄化制御について、図4に基づいて説明する。図4は、本実施例に係る排気浄化制御の制御フローを示したフローチャートである。本ルーチンは、内燃機関の稼働に併せて、ECU10により所定の時間毎に繰り返し実行される。このECU10は、実質的にはCPU、メモリ、ハードディスク等を含むコンピュータに相当し、そこで制御プログラムが実行されることで図4に示すフローチャートに係る処理やその他の処理等が実行される。
【0031】
まず、S101では、内燃機関1の運転状態の検出が行われる。具体的には、クランクポジションセンサ11からの検出値に基づいて算出される内燃機関1の機関回転速度や、アクセル開度センサ12からの検出値に基づいて算出される内燃機関1の機関負荷等に基づいて、内燃機関1の運転状態が推定される。次にS102では、酸化触媒3の床温が取得される。具体的には、温度センサ6によって検出される酸化触媒3に流れ込む排気の温度に基づいて、該酸化触媒3の温度が推定される。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0032】
S103では、S101で推定された内燃機関1の運転状態とS102で取得された酸化触媒3の床温に基づいて、酸化触媒3の貫通孔等に吸着されているHC量が推定されている。このHC量は、HC吸着剤でのHCの吸着、放出を随時反映した累積量である。内燃機関の機関負荷が高くなるに従い排気温度が上昇するため排気中に含まれるHC量が低
下し、また、内燃機関の運転状態に応じてHC供給弁5からのHC供給量(後述するS107の処理で行われるHC供給)が変動する。これらのことを踏まえると、内燃機関の運転状態に応じて、酸化触媒3の貫通孔等のHC吸着剤が晒されるHC雰囲気が異なる。また、当該HC吸着剤においても、その温度が低いほど排気中のHCを吸着しやすく、その温度が高くなるに従い吸着されたHCが放出される傾向が強くなる。また、排気流速が高くなるに従い、HC吸着剤によるHC吸着効率が低下する。これらのことを踏まえると、HC吸着剤によるHCの吸着、放出特性は一定ではない。そこで、S103では、HC吸着剤によるHC吸着に関する上記のパラメータを考慮して、酸化触媒3に吸着されているHC量が推定される。具体的には、排気中のHC量が多くなるに従い、また酸化触媒3の床温が低くなるに従い、また排気流量が多くなるに従い、HCの吸着量が増加するように推定される。S103の処理が終了すると、S104へ進む。
【0033】
S104では、S102で取得された酸化触媒3の床温およびS103で推定されたHCの吸着量に基づいて酸化触媒3の貫通孔等から吸着されていたHCが放出されているか否かが判定される。具体的には、ある程度の量のHCが吸着されている状態で酸化触媒3の床温が予め実験等で決定された所定のHC放出温度より高い場合には、HCを放出中である、すなわち肯定判定する。S104で肯定判定されるとS105へ進み、否定判定されるとS106へ進む。
【0034】
S105では、酸化触媒3の貫通孔等から吸着されていたHCが放出されていることを考慮して、HC供給弁5からのHC供給を中止する。このように放出HCを利用することで、確実なNOx浄化を、より少量のHC消費量で実現することができる。S105の処理が終了すると、再びS101以降の処理が繰り返される。また、S106では、酸化触媒3の貫通孔等から吸着されていたHCが放出されていないことを考慮して、HC供給弁5からのHC供給の実行準備が行われる。具体的には、S101で検出された内燃機関1の運転状態に基づいて排気中に含まれるNOx量を推定し、その推定量に応じたHC供給量が算出される。そして、S107で、その算出量に応じた排気へのHC供給がHC供給弁5によって実行される。S107の処理が終了すると、再びS101以降の処理が繰り返される。
【0035】
上述した排気浄化制御によれば、内燃機関1の排気浄化装置においては、酸化触媒3の貫通孔等でのHCの吸着、放出を考慮して、HC供給弁5からのHC供給が制御されることから、還元剤であるHCを無駄に消費することなく、確実に排気中のNOx、特にフィルタ4側でのNO浄化を実現することができる。図5に示す、排気中のNO比率の推移と、HC量の推移を、図1に示す内燃機関1の排気浄化装置との相対的な位置関係に基づいて、上記排気浄化制御の効果を説明する。図5の上段は内燃機関1の排気浄化装置の概略構成を示し、中段は排気中のNO比率を示し、下段は排気中のHC量を示している。ここで、NO比率は、排気に含まれるNOx量に対するNO量の割合(=NO/NOx)で表わされる。そして、図中の位置X0は、内燃機関1から排気を排出する位置に対応し、位置X1は、HC供給弁5が配置されている位置に対応し、位置X2は、酸化触媒3の排気流入口の位置に対応し、位置X3は、該酸化触媒3の排気流出口の位置に対応し、位置X4は、フィルタ4の排気流入口の位置に対応し、位置X5は、該フィルタ4の排気流出口の位置に対応している。
【0036】
そして、NO比率の推移およびHC量の推移において、点線(L2、L4)が従来技術の排気浄化制御に従ったときの各推移の一例であり、実線(L1、L3)が図4に示す排気浄化制御に従ったときの各推移の一例である。図4に示す排気浄化制御に従った場合、酸化触媒3の貫通孔等およびそこに塗布された吸着剤により、酸化触媒3でのHCによるNOの還元反応が回避され、その分、より多くのHCがフィルタ4側に供給することができるようになるため、結果的には、供給されたHCが効率的にNO浄化に供される
ことになる。なお、図5には記載してはいないが、酸化触媒3とフィルタ4による酸化能によって、COの外部放出も適切に抑制され得る。
【0037】
また、上記の排気浄化制御では、酸化触媒3の貫通孔等からHCが放出されているときはHC供給弁5によるHC供給を中止したが、酸化触媒3の貫通孔等からのHC放出量ではNOx浄化に十分ではない場合もあり得る。そのような場合は、HC放出中であっても、そのHC放出量を踏まえて排気へのHC供給量を調整してもよい。例えば、仮にHC放出がなかったとしたときにHC供給弁5によって供給すべき供給量からHC放出量を差し引いた量のHCをHC供給弁5によって供給するようにしてもよい。これにより、無駄なHC消費を回避しながら、NOxの適切な浄化を実現することができる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・・内燃機関
2・・・・排気通路
3・・・・酸化触媒
4・・・・フィルタ
5・・・・燃料添加弁
6・・・・温度センサ
10・・・・ECU
11・・・・クランクポジションセンサ
12・・・・アクセル開度センサ
33・・・・触媒本体
34・・・・貫通孔
35・・・・貫通溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた酸化触媒と、
前記酸化触媒の下流側の排気通路に設けられ排気中の粒子状物質を捕集するフィルタであって、酸化能を有する触媒が担持されているフィルタと、
前記酸化触媒の上流側で、該酸化触媒に流れ込む排気に還元剤を供給する還元剤供給手段と、
を備える内燃機関の排気浄化装置であって、
前記酸化触媒は、該酸化触媒の本体の外周近傍部分に、該酸化触媒の上流側と下流側のそれぞれの排気通路に開口し該酸化触媒の軸方向に延在する貫通流路が一又は複数設けられ、
前記一又は複数の貫通流路においては、その内部表面は酸化能を有しないように形成されるとともに、前記還元剤供給手段から供給される還元剤を吸着、放出可能とするように形成される、
内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記一又は複数の貫通流路においては、その内部表面には酸化能を有する触媒が担持されていない状態であって、且つ前記還元剤を吸着可能な吸着材が塗布され、
該吸着剤は、その温度が低くなるに従いより多くの還元剤の吸着特性を示し、その温度が高くなるに従い吸着した還元剤の放出量が多くなる放出特性を示す、
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記酸化触媒は、該酸化触媒の本体がハウジングに収容されることで形成され、
前記一又は複数の貫通流路は、前記酸化触媒本体の軸方向に沿って該酸化触媒の本体の側面側にも開口する溝部として形成され、
前記酸化触媒の本体が前記ハウジングに収容された状態では、前記溝部の該酸化触媒本体の側面側は該ハウジングにより塞がれた状態となる、
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記酸化触媒の温度に基づいて、該酸化触媒の有する前記一又は複数の貫通流路から放出される還元剤の量を推定する放出還元剤量推定手段を、更に備え、
前記還元剤供給手段は、前記放出還元剤量推定手段によって推定される還元剤量に基づいて、排気へ供給する還元剤量を調整する、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−197738(P2012−197738A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63102(P2011−63102)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】