説明

円筒形処理槽の製造方法

【課題】円筒形合併処理浄化槽および円筒形ディスポーザ生ごみ排水処理槽等の円筒形処理槽の製造工程を低減し、成形型を複数個使用することなく、浄化槽本体が成形でき、更に、浄化槽本体の厚みを設置条件に応じた厚みに成形することができる円筒形処理槽の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維強化プラスチックよりなる浄化槽の上部槽と下部槽とを別々に成形する円筒形処理槽の製造方法であって、成形型として上部槽及び下部槽に共通の部分を成形するための共通型により、下部槽を成形する工程と、上部槽のみに設けられる点検口を成形するための形状部を備えた補助成形型を予め共通型に取り付けることより、上部槽を成形する工程と、前記上部槽と前記下部槽とにそれぞれフランジ部分を設け、該フランジ部分を接合する工程を有することで、製造工程の簡略化及び製造コストの低減が図れると共に、製品精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形処理槽の製造方法に関するものである。更に、詳しくは、円筒形合併処理浄化槽および円筒形ディスポーザ生ごみ排水処理槽等の円筒形処理槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
処理槽を製造する一般的な方法としては、プレス型にシートモールドコンパウンド(SMC)を充填してプレス成形する方法と、樹脂材料を機械吹き付け法(以下、「スプレイアップ成形法」と記載する)又は、手積み法(以下、「ハンドレアップ成形法」と記載する)で塗布して積層する方法がある。前者のプレス成形方法は、短時間に製造できるが、高価な成形型及び油圧プレス設備を用いるため、全長が概ね4m未満の小型処理槽の大量生産に適している。これに対して、後者の塗布・積層方法は、製造に長時間を要するが、前者に比べ安価な成形型及び製造設備を用いるため、全長が概ね4m以上の中、大型処理槽の多品種少量生産に適している。
【0003】
処理槽は、上部槽に複数個の点検口や流入口、放流口等を備えるのに対して、下部槽は、これらを備えないため、上部槽と下部槽との形状が異なる。そのため、従来の製造方法では、上部槽専用の型と下部槽専用の型とが必要とされる。そして、上部槽には点検口を成形するための開口部が設けられており、成形後に開口部を加工している。更に、開口部を設ける際に発生する廃材は、環境保護の見地から好ましいものでない。又、上記方法では、成形型を複数使用しなければならないなど、製造コストの面でも問題があつた。
【0004】
一例として、上部槽と下部槽とを共通型で成形した後に、上部槽にのみに設けられる複数個の点検口部材等を別の型で成形し、後で上部槽に接合する方法が提案されている(特許文献1を参照)。しかしながら、重ね合わせ部の接合に手間がかかり、且つ強度的にばらつきが生じやすいといった欠点があった。
【0005】
又、共通型とその補助型を用いて、処理槽の下部槽及び上部槽に点検口もあわせて成形できる処理槽の製造方法も知られている(特許文献2を参照)。しかしながら、これは、角形の合併処理浄化槽の製造方法を記載した発明である。
【0006】
処理槽の形は、上記特許文献1、2に記載の発明である角形の他に、丸形がある。丸形処理槽は、その形状から、埋めたときにかかる強度の分散が良好な形状である。処理槽は、通常、ガラス繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic、以下、「FRP」と記載する)で構成されている。従って、丸形処理槽のFRPの厚みは、8.0mm〜9.0mmである。一方、角形処理槽のFRPの厚みは、通常10〜12mm程度必要である。従って、丸形処理槽は、角形処理槽に比べてFRPの厚さを20%以上低減できる。その結果、製造コストの削減が可能となる。しかしながら、丸形処理槽は角形処理槽に比べて製造設備が高価である等の理由から、供給メーカーが少ないというのが現状である。
【0007】
以下、丸形処理槽の従来の製造方法について図6、図7を用いて説明する。
図6は、FRP本体901を成形するための従来の方法に用いられる装置を示した図である。まず、ここで使用される金型801の材料としては、通常、鉄が用いられる。金型801は、FRPを成形後、取り出し(脱型)易いように割り型構造となっている。又、金型801の内側には、FRPが剥離しやすいようにワックス等の離型剤が塗布される。
【0008】
金型801は、モーター802により駆動する回転ローラー803により回転する。この金型801の内側に、耐圧、耐溶剤性に優れた塩化ビニル等のホースによりSUS製パイプ804に、ポリエステル樹脂812が供給される。供給されたポリエステル樹脂812は、SUS製パイプ804に取り付けられた複数個の穴807から、金型内部に散布される。そして、所定の量散布されたポリエステル樹脂上に、チョッパー装置805によって25mm〜50mmにカットされたガラス繊維が散布される。
【0009】
なお、ガラス繊維をカットするチョッパー装置805は、ゴムロール809、刃が取り付けられたロール808と、ガラス繊維を束ねてロール状に捲いたロービングの糸を、チョッパー装置から抜けないように押える、押さえロール810で構成されている。ゴムロール809は、電動により駆動する。ガラス繊維は、刃が取り付けられたロール808とゴムロール809に押し付けられて、カットされる。この時、散布されるガラス繊維量は、金型801の回転数と予め供給されたポリエステル樹脂量により設定され、通常は、ガラス繊維含有量が30重量%程度になるように調整される。
【0010】
金型801内部には、脱泡ロール806が設置されている。脱泡ロール806は、例えば、アルミ筒などの金属に、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエステル(PE)樹脂等の耐溶剤性能をもつ樹脂製メッシュベルト又はSUS製メッシュベルトを巻きつけた構成となっている。脱泡ロール806は、金型801と連動して回転する。脱泡ロール806の自重と巻きつけたメッシュベルトの効果により、ガラス繊維とポリエステル樹脂が強制的に含浸され、かつ内包した空気泡が外へ押し出される。脱泡ロール806の自重が不足する場合は、空気加圧を行う。なお、樹脂供給SUS製パイプ804、脱泡ロール806およびチョッパー装置805とは金型内部を往復できるような構成となっている。
【0011】
上述の構成により、ポリエステル樹脂とガラス繊維は所定の厚みになるまで繰り返し散布することが可能である。又、積層樹脂層の表面をできるだけ滑らかにするために含浸・脱泡を繰りかえすことができる。所定量積層された後も、ポリエステル樹脂がゲル化する前まで、脱泡ロール806を金型801と共に回転させることにより、脱泡・含浸を更に行うことができる。
【0012】
樹脂が硬化した後、金型801を接合しているボルト813をゆるめ、中からFRP成形品901(以下、「FRP本体」と表現することがある)を取り出す。取り出したFRP本体901は所定の長さにカットされ、点検口を取り付ける箇所が切り取られる。この後、点検口、仕切り板、補強板、鏡部等がFRP本体901に取り付けられる。
【0013】
以下、図7を用いて、図6で得られたFRP成形品901に点検口905、仕切り板902、補強板903、上部槽又は下部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部909の取り付け工程を説明する。なお、以下、上部槽又は下部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部は、鏡部と省略して記載することがある。
【0014】
図7Aは、FRP本体901形成後に点検口905の取り付けを行う工程を示した図である。点検口905の成形は、次のように行う。まず、鉄又はFRP製の型をFRP本体用の成形型とは別に用意して、これにポリエステル樹脂とガラス繊維とを積層させた後、硬化する。硬化後、脱型、トリム処理して点検口905が形成される。こうして得られた点検口905は、FRP本体901の所定の位置に設置される。更に、点検口905はFRP本体の所定の設置位置にFRPで二次接着され、点検口905の設置が完了する。
【0015】
この時、FRP本体901と点検口905との接着部分をグラインダーで削り、表面をあらす。表面をあらすることで、ポリエステル樹脂硬化のために添加され、FRP表面に析出しているワックスを削り取ることができ、接着効果が向上する。この接着部分は、ガラス繊維製マット450目付け(450g/m)を3枚〜5枚、ポリエステル樹脂と共に積層、硬化させる。
【0016】
図7Bは、FRP本体901に仕切り板902、補強板903を挿設する工程を示した図である。仕切り板902、補強板903は鉄又はFRP製の型をFRP本体用の成形型とは別に用意して、ポリエステル樹脂とガラス繊維とを積層させて硬化させる。硬化後、脱型、トリム処理して、仕切り板902、補強板903は完成する。その後、仕切り板902、補強板903は、FRP本体901の所定の位置に挿設される。この際に、仕切り板902、補強板903は、本体の中心部から順次挿設される。更に、仕切り板902、補強板903は、FRP本体の所定の設置位置に、上記点検口905の二次接着の場合と同様にFRPで二次接着され、必要に応じてボルトで本体と接合される。
【0017】
図7Cは、処理槽の鏡部の取り付け工程を示した図である。処理槽の鏡部909は、鉄又はFRP製の型をFRP本体901用の成形型とは別に用意して、ポリエステル樹脂とガラス繊維とを積層、硬化させる。硬化後、脱型、トリム処理して鏡部909は完成する。得られた鏡部909は、FRP本体901の左右両端にセットされる。この後、点検口905、仕切り板902、補強板903と同様に、二次接着する。二次接着は、ガラス繊維製マット450目付け(450g/m)を6枚〜8枚ポリエステル樹脂と共に積層、硬化させて接着補強する。
【0018】
図7Dは、上述の工程により得られた円筒形処理槽910を示した図である。円筒形処理槽910は底面が丸形状のため、コンクリート定板に安定させて置くために足が必要である。図9Dの円筒形処理槽910に更に足をセットし、点検口905、仕切り板902、補強板903、鏡部909と同様に二次接着する箇所をグラインダーで削り取る。この部分には、ガラス繊維製マット450目付け(450g/m)を3枚〜6枚程度、ポリエステル樹脂と共に積層し硬化させて接着補強を行う。以上の工程により円筒形処理槽は、完成する。
【0019】
【特許文献1】特開平9−1169号公報
【特許文献2】特開平11−333479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来の円筒形処理槽の製造方法について図8、図9を用いて説明したが、上述の従来の方法では、以下のような欠点があった。
【0021】
すなわち、上述従来の方法では、点検口が本体と同時に成形できない。別途、鉄又はFRP製の型にスプレイアップ成形法又はハンドレイアップ成形法でポリエステル樹脂とガラス繊維を積層、硬化させた後、脱型しトリム処理してFRP部品を作り、本体に接着しなければならない。又、鏡部もFRP本体とは別に成形した後に本体に接着しなければならない等、工程が煩雑である。更に、仕切り板、補強板を本体に取り付ける際、FRP本体成形後にこのFRP本体の中心部から順次両端に向かって取り付けていかなければならないので、組み立てにも時間がかかる。又、本体の内径精度によって仕切り板、補強板のセット時に入りにくさが生じる。更に、グラインダーによる点検口等の削り取りが必要であり、環境保全上も問題がある。
【0022】
円筒形処理槽は、埋め立てた後に上部槽に比較して下部槽に圧力がかかるため、上部槽と下部槽とで、槽の厚みを調節する方が合理的である。しかしながら、従来の方法で成形した円筒形処理槽は、圧力に応じてFRPの厚みを変更することができないので、槽の厚みを調節できない。更に、本体と別に成形された鏡部を安定した状態で取り付けることは非常に難しい。又、埋め立て後にFRP本体と鏡部の接着部分に集中応力がかかるため、接着が不十分な場合は、鏡部が剥がれてしまうといった問題も起こる。
【0023】
又、多数本のガラス繊維を供給カットするが、一部のガラス繊維が抜け落ちるトラブルが生じた場合、均一な厚みと均一な強度を保持したFRP本体が成形できないといった問題もあった。
【0024】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、円筒形処理槽の製造工程を低減し、成形型を複数個使用することなく、FRP本体を成形でき、FRP本体の厚みを設置条件に応じた厚みに成形することができる円筒形処理槽の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、ガラス繊維強化プラスチックよりなる処理槽の上部槽と下部槽とを別々に成形する円筒形処理槽の製造方法であって、成形型として、上部槽及び下部槽に共通の部分を成形するための共通型により、下部槽を成形する工程と、上部槽のみに設けられる点検口を成形するための形状部を備えた補助成形型を予め共通型に取り付けることにより、上部槽を成形する工程と、前記上部槽と前記下部槽とにそれぞれフランジ部分を設け、該フランジ部分を接合する工程と、を有することを特徴とする円筒形処理槽の製造方法を提供する。なお、上述ガラス繊維強化プラスチックは、主成分としてのポリエステル樹脂に強化繊維としてのガラス繊維及び副資材を配合したものである。なお、以下、ガラス繊維強化プラスチックは、「FRP」と記載する。
【0026】
ここでいう共通型とは、上部槽、下部槽共に利用できる鉄、FRP等で成形する型である。又、補助成形型とは、共通型に後で点検口となる点検口用の型を仮設する型である。この補助成形型によれば点検口は、設置数や大きさ等を任意に変更することが可能である。又、点検口の形は必要に応じて、丸型にも角型にも成形することができる。下部槽の共通型は、上部槽にも使用でき、更に繰り返して利用することができる。又、共通型、補助成形型はそれぞれフランジ成形用部分も備えているので、上部槽、下部槽それぞれにフランジ部分を一体成形できる構成である。
【0027】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の上部槽及び下部槽の共通の部分を限定したものである。この共通の部分は、共通型により成形される型であり、下部槽においては、長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とフランジ部分が含まれ、上部槽においては、長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とフランジ部分が含まれるものである。これらの共通部分は、すなわち共通型で成形できる型を意味するものである。
【0028】
請求項3に係る発明は、FRPの厚みを限定したものである。上部槽、下部槽共に型は同一のものを使用するため高さは同じに構成される。FRPの厚みは、下部槽にかかる最大荷重は上部槽の倍になるが、各種ファクターを考慮し、下部槽は7mm〜10mm、上部槽は下部槽と同じ厚みもしくは下部槽よりも最大4mm程度まで厚みを薄く成形する。
【0029】
処理槽は、埋め立てた場合に、上部槽に比べて下部槽に圧力がかかる。そのため上下槽の厚みを調節する方が合理的である。
【0030】
請求項4に係る発明は、共通型を限定したものである。この共通型によれば、処理槽の下部槽と該下部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とを一体成形することができるようにしてある。
【0031】
請求項5に係る発明は、補助成形型を限定したものである。この補助成形型によれば、処理槽の上部槽と該上部槽のみに設けられる点検口と、該上部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とを一体成形できるようにしてある。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、円筒形処理槽の製造工程に共通型と補助成形型とを用いて、下部槽のみならず、上部槽のみに設けられる点検口も併せて成形することができる。従って、処理槽本体と別に型を用意して点検口を成形する、処理槽本体完成後に、点検口を後付けするといった必要がない。又、型製作費及び型保有のためのスペースも含めて、製造コストの低減が図れると共に、製品精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態の例(以下、「本例」という。)を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0034】
<実施形態>
本例について図1〜図3を用いて説明する。図1は本例の処理槽の上部槽の製造工程を説明する図であり、図2は本例の処理槽の下部槽の製造工程を説明する図である。又、図3は、図1、図2の工程により得られた円筒形処理槽の本体を説明する図である。
【0035】
まず、図1を用いて、上部槽のFRPで構成される本体(以下、FRP本体と略す)の成形工程を説明する。図1Aは、共通型101上の点検口を取り付ける所定位置に点検口用の型105を仮設することを示した図である。点検口105の仮設位置、点検口の数、大きさは、仕様によって変更することが可能である。又、共通型101は後にフランジ部分となるフランジ部102を備えている。
【0036】
更に、この共通型101には、本体を離型する際に行われるエアー吹き込みのためのエアーホース108がセットされており、そのための穴(以下、エアー吹き込み用穴と表現する)が、側面と平面の必要箇所にそれぞれ数箇所設けられている。エアー吹き込み用穴103は、後に説明する樹脂吹き付けの際に、樹脂がこの型101内部に吹き込むことを防ぐために、通常はガムテープ104等で塞がれている。
【0037】
次に、図1Bを用いて、点検口105を仮設した上にポリエステル樹脂とガラス繊維を積層させる工程を説明する。この時の積層方法は、ハンドレイアップ成形法(図面省略)又はスプレイアップ成形法により行う。この方法を用いることで、塗布するFRPの厚みの変更が可能となる。
【0038】
積層されたポリエステル樹脂には、硬化剤が添加されており室温で硬化するが、硬化を促進するために、例えば、30℃〜60℃の温風炉内に20分〜60分程度入れる場合もある。
【0039】
図1C、図1Dは、積層樹脂が硬化した後の積層樹脂層、すなわちFRP層(以下、FRP層と略す)107の脱型を行う工程を示した図である。脱型は、次のようにして行う。なお、上述のように積層樹脂を温風炉内に入れた場合は、樹脂層の温度が室温まで下がってから脱型工程に入る。まず、硬化したFRP層の四隅にホイストを吊り上げ用具として設置する。次に、エアー吹き込み用穴103に取り付けられた耐圧性に優れたゴム等のエアーホースにエアーを吹き込む。なお、エアーを吹き込む際に、吹き込み用穴103を塞いでいたガムテープ104は、自然に剥れる。FRP層は、エアー吹き込み等により離型後、ホイスト113でFRP層107を吊り上げて脱型する。以上の工程により、点検口105、鏡部111、上部槽本体フランジ部112を備えたFRPより構成される上部槽109が得られる。
【0040】
図1Eは、図1A〜図1Dに示した工程により得られた上部槽109(以下、上部槽と略すことがある)を示した図である。
【0041】
本発明で用いる共通型及び補助成形型としての型は、特に限定されるものでなく、通常処理槽の製造に用いられる鉄やFRP製の型が使用できる。
【0042】
次に、図2A〜図2Eを用いて下部槽210の成形方法を説明する。図2Aに示す共通型101は上述図1Aの型と同じものである。
【0043】
図2Bは、共通型101上にポリエステル樹脂とガラス繊維を積層させる工程を示す図である。樹脂の積層方法は、上部槽と同様にスプレイアップ成形法106又はハンドレイアップ成形法(図面省略)により行う。この方法を用いることで、塗布する樹脂の厚みの変更が可能となる。
【0044】
図2C、図2Dは、積層樹脂が硬化した後の積層樹脂層、すなわちFRP層209の脱型を行う工程を示した図である。脱型は、上部槽と同様に、次のようにして行う。なお、上述の上部槽の場合と同様に積層樹脂を温風炉内に入れた場合は、樹脂層の温度が室温まで下がってから脱型工程に入る。まず、硬化した積層樹脂層の四隅にホイスト113を吊り上げ用具として設置する。次に、エアー吹き込み用穴103に取り付けられた耐圧性に優れたゴム等のエアーホース108にエアーを吹き込む。なお、エアーを吹き込む際に、吹き込み用穴103を塞いでいたガムテープ104は、自然に剥れる。エアー吹き込み等により離型後、ホイスト113でFRP層209を吊り上げて脱型する。以上の工程により、点検口105、鏡部111、下部槽本体フランジ部112を備えたFRPよりなる下部槽210が得られる。
【0045】
図2Eは、図2A〜図2Dの工程により得られたFRPよりなる下部槽210(以下、下槽部と略すことがある)に、仕切り板201、補強板202を設置して完成した下部槽210を示す図である。
【0046】
仕切り板201及び補強板202は、処理槽本体210を成形するための型とは別に、仕切り板201成形用及び補強板202成形用の鉄、FRP製の型にガラス繊維とポリエステル樹脂を吹き付け、硬化、脱型、トリムして成形する。仕切り板202、補強板203ともに上下、左右にフランジを成形する。上下、左右にフランジを設けることで設置時の安定性が向上する。仕切り板202、補強板203を下槽部にガラス繊維とポリエステル樹脂で接着し且つボルトを使用して取り付ける。ボルトの両端は、漏水防止上FRPでカバーされる。又、上下槽のフランジ間には漏水防止上必要に応じ、ポリエステル樹脂等のシーリング剤が充填される。この後、フランジ部分はボルトにて処理槽本体210に接合される。
【0047】
図3は、上部槽109と下部槽210とを接合して完成した本例の処理槽本体301の正面図である。更に、図3の側面図が図4Aである。又、図3の平面図は、図4Bであり、図3の底面図が、図4Cである。更に、図5には、下部槽210に、仕切り板201、補強板202を設置して完成した下部槽210の内部構造を示した。図4A〜図4C及び図5から明らかなように、上述の工程により得られた処理槽本体は、仕切り板、補強板をそれぞれのフランジ部分で接合し、更に上部槽本体、下部槽本体のフランジで接合するといった二重接合となり、非常に安定した状態で取り付けられていることがわかる。
【0048】
本例のFRPの積層方法は、スプレーアップ成形法もしくはハンドレイアップ成形法である。これらの方法は、従来の回転成形法に比べて、設備、型費用が安価であるといった経済性の他、厚さも容易に変更可能であるといった利点がある。
【0049】
本例の円筒形処理槽の製造方法は、従来の回転成形法では困難であったFRPの厚みを容易に調節することができる。従って、埋め立て条件に応じて上下槽の厚みを調節できるものである。なお、FRPの厚みの調節は、樹脂とガラス繊維の量を調節することで適宜制御できる。円筒形処理槽は角形処理槽に比べて、埋めたときにその形状から圧力の分散が良好であり、角形に比べてFRPの厚さの薄層化が可能である。本発明の円筒形処理槽の製造方法によれば、FRPの厚みの薄層化が実現できる。又、処理槽を埋めた際にかかる圧力は上下槽で異なる。埋め立て深さ3mの場合で51×10−3N/mm程度の圧力となる。圧力等の各種ファクターを考慮してFRPの厚さは決められる。
【0050】
本例の円筒形処理槽の製造方法によれば、例えば、下部槽のFRPの厚さは7mm〜10mm、上部槽のFRPの厚さは、下部槽と同じ厚みもしくは下部槽よりも最大4mm程度まで厚みを薄く成形する等、設置条件に応じて上下槽のFRPの厚みを容易に調節できる。
【0051】
又、仕切り板、補強板を本体に取り付ける際、本体の接合と同時に取り付けできるので組立作業の迅速性及び安定性が向上した。更に、従来の方法の問題点であった、鏡部の剥がれの問題が、鏡部の一体成形により改善された。
【0052】
本例のFRPは、主成分のポリエステル樹脂に強化繊維としてのガラス繊維及び副資材を配合したものである。ポリエステル樹脂は、コスト上からオルソ系ポリエステル樹脂が用いられる。
【0053】
本例のガラス繊維は、ロービングを主として使用し、チョプドストランドマットを適量添加する。更に、部分補強用としてロービングクロスを適宜使用することでFRPの厚さを低減できる。
【0054】
本例のFRPに用いる副資材としては、硬化剤、促進剤、充填剤、離型剤、着色剤等がある。硬化剤としては、常温硬化剤の、メチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)が用いられる。本例では川口薬品株式会社製のメチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)、商品名「メポックス55」を用いた。配合率としては、樹脂量に対して0.5重量%〜1.5重量%配合する。促進剤としては、ナフテン酸コバルト等が用いられる。夏季の高温時には、遅延剤を使用する場合もある。充填剤としては、ポリエステル樹脂に炭酸カルシウムを30重量部〜50重量部、好ましくは40重量部配合したものを用いる。離型剤、着色剤は、通常使用されているものを適宜使用できる。
【0055】
本例の円筒形処理槽の製造方法によれば、長さについては、予め準備された型を所定の長さにつなぎ合わせ、成形することで達成できる。従って、大きさ1.5m程度の小型サイズの処理槽から大型トラックに対応するサイズまでの処理槽を成形できる。更には共通型によって型の数を低減でき、保管上の問題も改善できる。
【0056】
以上、本発明について発明を実施するための実施形態の例を説明したが、本発明は、上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他、本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(A)〜(E)は、本発明の実施形態の円筒形処理槽の上部槽の製造方法の説明図である。
【図2】(A)〜(E)は、本発明の実施形態の円筒形処理槽の下部槽の製造方法の説明図である。
【図3】本発明の実施形態の円筒形処理槽の上部槽と下部槽の接合図である。
【図4】(A)は、本発明の実施形態の円筒形処理槽の側面図である。(B)は本発明の実施形態の円筒形処理槽の平面図である。(C)は本発明の実施形態の円筒形処理槽の底面図である。
【図5】本発明の実施形態の円筒形処理槽の下部槽の内部構造の説明図である。
【図6】従来の円筒形処理槽の製造方法に用いられる装置の説明図である。
【図7】従来の円筒形処理槽の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
101.共通型、102.本体フランジ部、103.エアー吹き込み用穴、104.ガムテープ、105.点検口用補助成形型、106.FRPの吹きつけ装置、107.上部槽FRP層、108.ホース、109.上部槽、111.鏡部、113.ホイスト、201.仕切り板、202.補強板、209.FRP層、210.下部槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化プラスチックよりなる処理槽の上部槽と下部槽とを別々に成形する円筒形処理槽の製造方法であって、
成形型として、上部槽及び下部槽に共通の部分を成形するための共通型により、下部槽を成形する工程と、
上部槽のみに設けられる、点検口を成形するための形状部を備えた補助成形型を予め共通型に取り付けることにより、上部槽を成形する工程と、
前記上部槽と前記下部槽とにそれぞれフランジ部分を設け、該フランジ部分を接合する工程と、を有することを特徴とする円筒形処理槽の製造方法。
【請求項2】
前記上部槽及び前記下部槽に共通の部分は、前記共通型により成形される部分であって、
前記下部槽においては、該下部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部と、前記下部槽のフランジ部分を含み、
前記上部槽においては、該上部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部と、前記上部槽のフランジ部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の円筒形処理槽の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス繊維強化プラスチックの厚みは、前記下部槽が7mm〜10mmであり、前記上部槽は前記下部槽と同じ厚み、もしくは前記下部槽よりも最大4mm厚みを薄く成形することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円筒形処理槽の製造方法。
【請求項4】
前記共通型は、前記下部槽と該下部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とを一体成形することができるものである請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の円筒形処理槽の製造方法。
【請求項5】
前記補助成形型は、前記上部槽と該上部槽のみに設けられる点検口と、前記上部槽の長手方向の左右両端の湾曲した鏡部とを一体成形できるものである請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の円筒形処理槽の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−34587(P2009−34587A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199667(P2007−199667)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(507257390)エコロ・プラント株式会社 (1)
【Fターム(参考)】