説明

冷却装置及びプロジェクター

【課題】安定して熱源を冷却することができる冷却装置及びプロジェクターを提供する。
【解決手段】冷却装置は、ピストン又は可動壁を駆動することによって容積が変更可能なポンプ室と、ポンプ室へ流体を流入させる入口流路と、ポンプ室から流体を流出させる出口流路と、入口流路とポンプ室との間に、入口流路を開閉する流体抵抗要素と、を備えるポンプ20と、出口流路から入口流路へ流体を循環させる循環流路18と、循環流路18の出口流路より入口流路に近い箇所に、ポンプ室に流入する流体の圧力を調整させる第2流路19と、を備え、第2流路19の調整容量は、循環流路18の流体の圧力増分をΔP、その時の循環流路18の体積増分をΔV、流体を循環させたときの循環流路18の出口流路側の圧力をPSとしたときに、式
【数1】


を満たす調整容量VBである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置及びプロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発熱するデバイスや加温されたデバイスの熱量を液体の冷却媒体によって吸熱することによってデバイス等の冷却対象物を冷却する小型の冷却装置が提案されている。
【0003】
例えば、供給される信号に対する応答性が高く調光に優れた固体発光光源を備えるプロジェクターが提案されている。このような固体発光光源(発熱体)は、電流の供給量に比例して発光量が増加するが、同じように発熱量も増加するため、大きな電流を供給した場合には、自らの熱によって破損したり、短命化したりしてしまう。このため、上述の冷却装置によって固体発光光源を冷却することによって、固体発光光源の破損を抑止しかつ長寿命化を図ることが提案されている。
【0004】
ところで、このような冷却装置は、具体的には、固体発光光源等の発熱源を冷却するための冷却媒体と、発熱源が発熱した熱量を吸熱することによって高温化された冷却媒体を冷却する冷却媒体冷却手段を備えている。そして、このような冷却装置においては、冷却の低騒音化及び省電力化の観点から、発熱体の発熱量に見合った分だけ冷却媒体冷却手段を駆動することが好ましい。
【0005】
例えば、特許文献1には、冷却用液体(冷却媒体)が循環機構によって常時循環され、その結果、冷却槽内の温度のムラが解消される技術が開示されている。このような技術によれば、固体発光光源の破壊を気にすることなく、固体発光光源にかける電流・電圧を大幅に上げることができるようになり、その結果、スクリーン輝度を大幅に上げることができる。また、プロジェクター装置の大型化を招くことがなく、また、冷却用液体の液量を増加させることができる。さらに、冷却機構により、加熱された冷却用液体の熱を効率良く外部に放熱することができ、冷却用液体の冷却効率の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−242463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電子機器などに設けられる半導体モジュールを冷却する上記特許文献1のような液冷ジャケットは、冷却水の漏洩を防止するために密閉系に形成されている(図7(A)参照)。しかし、密閉系循環流路は、図7(B)に示すように、ポンプが動作すると密閉系循環流路の構成要素が流路の流体抵抗によって増加した圧力で変形し容積が拡大する。その拡大の度合いは上流側ほど下流側の流路抵抗の影響が加味されるため大きくなる。したがって、そのまま駆動を続けると供給側圧力が負圧となりポンプ特性が低下する。その結果、ポンプは冷却水を安定して循環させることができなくなり、発熱する機器を安定的に冷却することが困難になる虞がある。
この拡大の度合いは、以下に示すとおりである。
まず循環流路系全体に一定圧ΔPを印加したときの流路系全体の容積増加量をΔVとする。
次に、循環流路系に所望の流量を流す場合におけるポンプ出口流路側の圧力とポンプ入口側流路の圧力差をPsとする。循環流路にそって下流に行くにしたがって循環流路内の圧力は減少し、ポンプ入口側流路ではPs=0となる。このとき、循環流路全体の流体量が一定だとすると、循環流路の上流側すなわちポンプ出口流路側では、循環流路が変形し体積がVd増加する。それに伴って、下流側では流体の不足が生じて負圧になるのである。
この負圧を発生させずに、ポンプ入口側流路の圧力をポンプ駆動前と同じに保つには、式1のような条件を満たす容積調整室が必要である。式に1/2が乗ぜられているのは、下流側に行くにしたがって循環流路の圧力は減少し変形による容積の増加が少なくなるからである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]ピストン又は可動壁を駆動することによって容積が変更可能なポンプ室と、前記ポンプ室へ流体を流入させる入口流路と、前記ポンプ室から流体を流出させる出口流路と、前記入口流路と前記ポンプ室との間に、前記入口流路を開閉する流体抵抗要素と、を備えるポンプと、前記出口流路から前記入口流路へ流体を循環させる循環流路と、前記循環流路の前記出口流路より前記入口流路に近い箇所に、前記ポンプ室に流入する流体の圧力を調整させる第2流路と、を備え、前記第2流路の調整容量は、前記循環流路の流体の圧力増分をΔP、その時の該循環流路の体積増分をΔV、流体を循環させたときの該循環流路の前記出口流路側の圧力をPSとしたときに、式
【0010】
【数1】

を満たす調整容量VBであることを特徴とする冷却装置。
【0011】
これによれば、第2流路を循環流路の入口流路側に取り付けることで、入口流路と出口流路とのポンプ駆動による圧力がほぼ同一となるため、循環流路系の構成要素の変形によるポンプ前後の循環流路中の流体体積の偏りが発生しないので、安定して流体を循環させることができるため、安定して熱源を冷却することができる。
【0012】
[適用例2]上記冷却装置であって、前記循環流路及び前記第2流路は、互いに連結されていることを特徴とする冷却装置。
【0013】
これによれば、循環流路と第2流路とを互いに連結させることで、容易に安定して液体を循環させることができる。
【0014】
[適用例3]上記冷却装置であって、前記第2流路の少なくとも1つの他端は、流路内の流体圧力と大気圧との圧力差に対応して移動することが可能な可動部を備えることを特徴とする冷却装置。
【0015】
これによれば、可動部の位置により、循環流路内の流量(圧力)を測定できる。
【0016】
[適用例4]上記冷却装置であって、前記流体が第1液体であって、前記可動部は、前記第1液体と相分離可能な第2液体と、該第2液体を封止する封止材とを備えることを特徴とする冷却装置。
【0017】
これによれば、封止材により第2流路からの第1流体の漏れを防止できる。
【0018】
[適用例5]上記冷却装置であって、前記可動部の可動位置をセンシングするセンサーをさらに備えることを特徴とする冷却装置。
【0019】
これによれば、可動部の可動位置をセンシングするセンサーにより、循環流路内の流量(圧力)を容易に測定できる。
【0020】
[適用例6]上記に記載の冷却装置を備えることを特徴とするプロジェクター。
【0021】
これによれば、固体発光光源の破壊を気にすることなく、固体発光光源にかける電流・電圧を大幅に上げることができるようになり、その結果、スクリーン輝度を大幅に上げることができる。また、冷却機構により、加熱された冷却用液体の熱を効率良く外部に放熱することができ、冷却用液体の冷却効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す模式図。
【図2】第1の実施形態に係る冷却システムの概略構成を示す模式図。
【図3】第1の実施形態に係る分岐流路を示す断面図。
【図4】第1の実施形態に係るポンプを示す断面図。
【図5】第2の実施形態に係る冷却システムの概略構成を示す模式図。
【図6】変形例に係る分岐流路を示す断面図。
【図7】従来の冷却システムを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る冷却装置、プロジェクター、及び冷却方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0024】
(第1の実施形態)
(プロジェクターの構成)
図1は、本実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す模式図である。本実施形態に係るプロジェクター2は、光源から射出される光束を画像情報に応じて変調して光学像を形成し、形成した光学像をスクリーン(図示略)上に拡大投射するものである。このプロジェクター2は、外装筐体4と、光学装置6と、冷却システム(冷却装置)8とで大略構成されている。
【0025】
なお、図1において、図示は省略するが、外装筐体4内において、光学装置6及び冷却システム8以外の空間には、プロジェクター2の構成部材に電力を供給する電源ユニットや、プロジェクター2全体を制御する制御装置等が配置される。
【0026】
外装筐体4は、光学装置6及び冷却システム8等を内部に収納配置する筐体である。なお、図示は省略するが、この外装筐体4には、プロジェクター2外部の空気を内部に導入するための吸気口や、プロジェクター2内部で温められた空気を排出するための排気口が形成されている。
【0027】
光学装置6は、光源から射出された光束を光学的に処理して画像情報に対応した光学像(カラー画像)を形成し、形成したカラー画像を拡大投射する。この光学装置6は、図1に示すように、発熱体としての光源装置10と、光変調装置としての3つの液晶ライトバルブ12と、色合成光学装置としてのクロスダイクロイックプリズム14と、投射光学装置としての投射レンズ16等を備える。
【0028】
光源装置10は、前記制御装置による制御の下、点灯し、液晶ライトバルブ12に向けて光束を射出する。これら光源装置10は、図1に示すように、R色光を射出するR色光用LED(Light Emitting Diode)モジュール10Rと、G色光を射出するG色光用LEDモジュール10Gと、B色光を射出するB色光用LEDモジュール10Bとで構成される。
【0029】
これらLEDモジュール10R,10G,10Bは、略同様の構成であり、具体的な図示は省略するが、Si基板上に固体発光素子である複数のLED素子が配列形成されている。なお、LEDモジュール10R,10G,10Bを構成するLED素子は、結晶の種類及び添加物等が異なるように形成されたものであり、それぞれR色光、G色光、B色光を発する。
【0030】
なお、光源装置10としては、上述したLEDモジュールに限らず、その他の構成、例えば、レーザーダイオードや、有機EL(Electro Luminescence)素子、シリコン発光素子等の各種固体発光素子を採用してもよい。
【0031】
3つの液晶ライトバルブ12は、透過型の液晶パネルであり、前記制御装置からの駆動信号に基づいて、液晶セル(図示略)に封入された液晶分子の配列を変化させ、各LEDモジュール10R,10G,10Bから射出された各色光を、それぞれ透過若しくは遮断することにより画像情報に応じた各光学像をクロスダイクロイックプリズム14に射出する。
【0032】
クロスダイクロイックプリズム14は、各液晶ライトバルブ12から射出された色光毎に変調された光学像を合成してカラー画像を形成する光学素子である。このクロスダイクロイックプリズム14は、4つの直角プリズムを貼り合わせた平面視略正方形状をなし、直角プリズム同士を貼り合わせた界面には、2つの誘電体多層膜が形成されている。これら誘電体多層膜は、互いに対向する各液晶ライトバルブ12から射出された各色光を反射し、投射レンズ16に対向する液晶ライトバルブ12から射出された色光を透過する。このようにして、各液晶ライトバルブ12にて変調された各色光が合成されてカラー画像が形成される。
【0033】
投射レンズ16は、複数のレンズが組み合わされた組レンズとして構成される。そして、この投射レンズ16は、クロスダイクロイックプリズム14から射出されたカラー画像を図示しないスクリーン上に拡大投射する。
【0034】
なお、光源装置10と液晶ライトバルブ12との間に、他の光学素子、例えば、光源装置10から射出された色光の偏光方向を略一方向の直線偏光に揃える偏光変換素子や、光源装置10から射出された色光の面内照度を均一化するロッドインテグレーターや複数の小レンズがマトリクス状に配設されたレンズアレイ等の均一照明光学素子等を配設しても構わない。
【0035】
冷却システム8は、具体的には後述するが、冷却媒体(流体)Xを循環させ、該冷却媒体Xにより各LEDモジュール10R,10G,10Bを冷却する装置である。なお、本実施形態では、LEDモジュール10R,10G,10Bを冷却する構成としているが、これに限らず、液晶ライトバルブ12等のプロジェクター2内部の他の構成部材を冷却する構成としても構わない。
【0036】
また、冷却システム8は、図1に示すように、各LEDモジュール10R,10G,10Bに対応して、3つで構成されている。なお、3つの冷却システム8は、同様の構成であるので、以下では、1つの冷却システム8のみを説明する。
【0037】
(冷却システムの構成)
図2は、本実施形態に係る冷却システム8の概略構成を示す模式図である。本実施形態の冷却システム8は、冷却媒体Xを介して発熱体Hを冷却するためのものであり、図2に示すように、流体流動部材(チューブ)(循環流路)18、分岐流路(第2流路)19、ポンプ20、受熱部22、放熱部24、冷却媒体冷却部26、モーター制御部28、温度センサー30、及び温度管理部32を備えて構成されている。なお、本実施形態の冷却媒体Xとしては、液体が用いられている。
【0038】
流体流動部材18は、冷却媒体Xの循環流路を形成するものであり、環状に形状設定されている。そして、流体流動部材18の途中部位にポンプ20、受熱部22、及び放熱部24が配置されている。流体流動部材18は出口接続管路48cから入口流路50aへ流体を循環させる。
【0039】
分岐流路19は、流体流動部材18の入口流路50a側に設けられている。分岐流路19は、ポンプ室48aに流入する冷却媒体Xの圧力を一定に保つ。
【0040】
ポンプ20は、流体流動部材18内の冷却媒体Xに対して流れを付与するものである。
【0041】
受熱部22は、発熱体Hに対して接触配置されるものであり、金属等の熱伝達率の高い材料によって形成されている。そして、この受熱部22において発熱体Hの熱量が冷却媒体Xに吸熱されることで、発熱体Hが冷却される。
【0042】
放熱部24は、発熱体Hの熱量を吸熱することによって高温化された冷却媒体Xを放熱させるためのものであり、本実施形態においては、ラジエタとして構成されている。
【0043】
冷却媒体冷却部26は、冷却媒体Xを冷却するためのものであり、本実施形態においては、ファン駆動モーター34及びファン36を備える冷却ファンによって構成されている。
【0044】
ファン駆動モーター34は、ファン36を駆動するためのモーターであり、このファン駆動モーター34によってファン36が回転駆動されることによって、風が生じ、放熱部24を介して冷却媒体Xの熱量が放熱されることで、冷却媒体Xが冷却される。
【0045】
モーター制御部28は、発熱体Hに供給される信号である所定信号に基づく信号に基づいて冷却媒体冷却部26を制御するものであり、具体的には、ファン駆動モーター34を制御することによって、ファン36の回転数を制御する。
【0046】
温度センサー30は、発熱体Hの近傍に配置され、発熱体Hの温度を測定可能に配置されており、温度管理部32に接続されている。
【0047】
そして、温度管理部32は、温度センサー30から供給される測定信号に基づいて、信号としてモーター制御部28に供給する。
【0048】
次に、上述のように構成された本実施形態に係る冷却システム8の動作(冷却方法)について説明する。まず、前提として、本実施形態に係る冷却システム8においては、ポンプ20が一定駆動されており、一定の流速で冷却媒体Xが流体流動部材18内を循環しているものとする。その際、分岐流路19は、ポンプ室48aに流入する冷却媒体Xの圧力を調整させている。
【0049】
そして、冷却媒体Xは、流体流動部材18内を循環する過程で、受熱部22において発熱体Hから熱量を吸熱し、放熱部24において発熱体Hから吸熱した熱量を放熱することによって冷却された後、再び循環して、受熱部22において発熱体Hから熱量を吸熱する。
【0050】
このような一連の流れの中で、温度管理部32には、発熱体Hの現在の温度状況が温度センサー30を介して入力される。そして、信号としてモーター制御部28に供給される。
【0051】
(分岐流路)
図3は、本実施形態に係る分岐流路を示す断面図である。入口流路50a側に、分岐した分岐流路19が設けられている。これにより、大気圧を利用して入口流路50a側のポンプ特性が負圧になることを防止する。分岐流路19の材質は、気密性が高く、内部の冷却媒体が揮散しない材質が望ましい。分岐流路19は、透明部材であってもよい。これにより内部の視認性がよくなる。分岐流路19内の水頭の位置は、ポンプ20より高い位置にあってもよい。分岐流路19はポンプ20に近い方がよい。これにより小型化できる。
【0052】
分岐流路19はポンプ吐出側の体積増加分以上の容積が望ましい。分岐流路19の調整容量は、流体流動部材18(全体)の流体の圧力増分をΔP、その時の流体流動部材18(全体)の体積増分をΔV、流体を循環させたときの流体流動部材18の出口接続管路48c側の流体の圧力をPSとしたときに、式
【0053】
【数2】

を満たす調整容量VBである。
【0054】
分岐流路19には、冷却媒体(第1液体)Xと、冷却媒体Xの界面と接触して可動部21と、が収容されている。可動部21は第2液体23と、高粘度ゲル状流体(封止材)25を備えている。高粘度ゲル25は、分岐流路19からの冷却媒体Xの漏れ及び蒸発防止のために封入されている(水性ボールペンの液栓と同様)。分岐流路19には、高粘度ゲル25が冷却媒体Xに溶解防止のため、高粘度ゲル25と冷却媒体Xとの間に第2液体23が設けられている。冷却システム8は、可動部21の可動位置をセンシングするセンサー27を備えている。これにより、循環流路18内の流量(圧力)を容易に測定できる。
【0055】
分岐流路19は空気流通路としての通気孔29が形成されており、分岐流路19内の高粘度ゲル25の後部に外気を連通させている。分岐流路19の内壁面は、高粘度ゲル25の移動を円滑なものとなるように、また、高粘度ゲル25の層が移動するに際して壁面に付着して残存してしまう高粘度ゲル25を極力少なく、ただし、内壁面との間に層の切れ目が形成されない程度のものとしている。
【0056】
第2液体23及び高粘度ゲル25は、分岐流路19内を移動することで、マーカーとして使用できる。
【0057】
高粘度ゲル25は、平均分子量630のポリブテンを基材とし、粘弾性を付与し透明性を有するものであるが、基材として、平均分子量300〜3700で低分子量のポリブテンやαオレフィンなどが好適に使用できる。
【0058】
また、高粘度ゲル25は、実質的に冷却媒体Xと相溶しないものであることが望ましいので、冷却媒体Xに油性冷却媒体を使用する場合には、水を媒体とした水性系の高粘度ゲル25を使用することができる。ただし、水性系の高粘度ゲル25は気体透過性が高くなったり、乾燥しやすかったりするので、さらにその上に有機溶剤を媒体とした油性系の逆流・透過・乾燥防止剤組成物の層を形成してもよく、両者の間に板状の蓋部材を配置するなどすることもできる。なお、可動部21はプラスチックであってもよい。
【0059】
次に、上述した分岐流路19の動作を説明する。入口流路50a側に分岐した分岐流路19が設けられている。分岐流路19の内部は冷却媒体Xで満たされている。ポンプ20を駆動をすると循環流路18の体積変化分、分岐流路19内の冷却媒体Xの水頭が下がる(図3(A)から図3(B)に変化する)。
【0060】
本実施形態では、ポンプ20の入口流路50aの圧力がポンプ動作後も負圧にならず、安定して冷却媒体Xを循環させることができるため、安定して熱源を冷却することができる。その他、例えば高粘度ゲル25の位置により、循環流路18内の流量(圧力)を測定する効果を期待できる。つまり、分岐流路19の高粘度ゲル25の移動量=体積の減少分は、出口接続管路48c側(高圧側)の循環流路18の圧力による変形量に等しいと考えることができる。循環流路18の変形量や冷却媒体Xの圧縮量と、圧力との相関を取るのは容易である。したがって、高粘度ゲル25の移動量から、出口接続管路48c側の圧力を求めることができる。さらに、出口接続管路48c側の圧力が求まれば、循環流路18の流路抵抗から循環流路18を流れる流量を求めることができる。
【0061】
また、長期間の使用時、何らかの原因によって循環流路18内部の冷却媒体Xが失われるような現象が起こる場合、駆動前の水頭位置で冷却媒体Xの補充、またはポンプ20の交換の目安等が指示できる。
【0062】
(ポンプの構成)
図4は、本実施形態に係わるポンプ20を示す断面図である。積層型圧電素子の保持部材である圧電素子ケース38の下部には、ケース底板40が溶接によって堅固に固定されている。ポンプの駆動源である積層型圧電素子42の上面には端板44が予め接着され、積層型圧電素子ユニットを構成し、前記圧電素子ケース38内部に固定される。この固定は、積層型圧電素子42の下面と前記ケース底板40上面の接着による。
【0063】
積層型圧電素子42の固定後、圧電素子ケース38の上面と端板44の上面は研削加工によって、同一平面に加工している。この加工の際に、積層型圧電素子42には、駆動時における積層型圧電素子42の駆動電圧の中心値が印加される。したがって、積層型圧電素子42と端板44との上面には、積層型圧電素子42への電圧がかけられていない状態では段差が発生する。
【0064】
研削加工後、端板44と圧電素子ケース38との双方に、ダイアフラム46が接着される。ダイアフラム46は、厚さ20μmのステンレス鋼薄板で形成されているが、端板44と圧電素子ケース38とに接着した下面とは反対側にあたる上面は樹脂皮膜を付けてある。このダイアフラム46を圧電素子ケース38との間に挟む形でポンプ室部材48が取り付けられている。圧電素子ケース38とポンプ室部材48のダイアフラム46の外周固定部の内周部の形状とは、圧電素子ケース38の方が若干大きくなっている。
【0065】
ポンプ室部材48は、ポンプ室48a、細管部48b、出口接続管路(出口流路)48cがその内部に形成されている。圧電素子ケース38とポンプ室部材48との固定は、図示しないビスで行われている。ポンプ室部材48の上部には、入口流路部材50が嵌合され、図示しないビスによって固定されている。ポンプ室48aはダイアフラム46が駆動されることによって容積が変更される。出口接続管路48cはポンプ室48aから流体を流出させる。
【0066】
開放されている入口流路部材50の上面は、柔軟かつガスバリア性の高い圧力調整板(圧力調整要素)52によって封止されている。圧力調整板52はバッファーである圧力調整室50bの容積を調整させる。圧力調整板52はその形状を変化させることで圧力調整室50bの容積を調整させる。圧力調整板52は、柔軟性を有する部材で形成されている。圧力調整板52の材質としては、柔軟性とガスバリア性とを両立するために、金属(例えばステンレス、アルミニウム等)薄膜と樹脂との複合材料等が好ましい。また、PVCフィルムを圧力調整室50bの天井に貼り付けたもの又はシリコン樹脂等、柔らかいチューブでもよい。圧力調整板52の表面は伸縮自在な折り目或いは同心円状の波状が付いていてもよいし、蛇腹構造に形成されていてもよい。蛇腹構造は螺旋状であっても夫々が独立した蛇腹であってもよい。
【0067】
リード弁54は入口流路50aとポンプ室48aとの間に設けられ、入口流路50aを開閉させる。
【0068】
入口流路50aはポンプ室48aへ流体を流入させる。入口流路50aが設けられた入口流路部材50の突出部には図示しない入口管路が接続され、同様にポンプ室部材48の突出部には図示しない出口管路が接続される。この入口管路と出口管路とは、適当な柔軟性を持った樹脂チューブ等で構成されている。
【0069】
次に、本実施形態のポンプ内部の流路について説明する。図示しない入口管路から流入した流体は、圧力調整室50bからポンプ室48aに流入する。圧力調整室50bのポンプ室48aへの流路は、徐々に縮小され約φ0.5mmの穴となりポンプ室48aへ連通している。この圧力調整室50bとポンプ室48aとの境界部には、15μmのステンレス鋼薄板で形成されたリード弁(流体抵抗要素)54がチェック弁として設置され、ポンプ室48aから圧力調整室50bへの逆流を防止している。
【0070】
ポンプ室48aは、細管部48bが開口する接続部分と、ダイアフラム46上部の扁平形状の圧縮部分で構成される。ポンプ室48aから出た流体は、細管部48b、出口接続管路48cを通り、図示しない接続管路に送出される。
【0071】
(ポンプの動作)
次に、本実施形態のポンプ20の動作について説明する。まず、流路のイナータンス値Lを定義する。イナータンス値Lは、流路の断面積をS、流路の長さをl、作動流体の密度をρとした場合に、L=ρ×l/Sで与えられる。流路の差圧をΔP、流路を流れる流量をQとした場合に、イナータンス値Lを用いて流路内流体の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
【0072】
つまりイナータンス値Lとは、単位圧力が流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンス値Lが大きいほど流量の時間変化が小さく、イナータンス値Lが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
【0073】
また、複数の流路の並列接続や、複数の形状が異なる流路の直列接続に関する合成イナータンス値は、個々の流路のイナータンス値を、電気回路におけるインダクタンスの並列接続、直列接続と同様に合成して算出すればよい。具体的には、複数の流路を並列接続した場合の合成イナータンス値は、電気回路におけるインダクタンスの並列接続と同様に合成して求められる。また、複数の形状が異なる流路の直列接続した場合の合成イナータンス値は、電気回路におけるインダクタンスの直列接続と同様に合成して求められる。
【0074】
また、流路に柔軟部等の圧力調整要素がある場合は、合成イナータンス値は圧力調整要素まで考慮すればよい。したがって本実施形態のポンプにおいて、入口流路の合成イナータンス値は、圧力調整要素である圧力調整板52からリード弁54までの合成イナータンス値となる。一方、出口流路の合成イナータンス値は、細管部48bと出口接続管路48cのイナータンス値の合計となる。出口流路は入口流路に比較して、流路の長さも長く、流路の断面積も小さいため、出口流路の合成イナータンス値は入口流路よりはるかに大きくなっている。
【0075】
(第2の実施形態)
(冷却システムの構成)
図5は、本実施形態に係る冷却システム9の概略構成を示す模式図である。本実施形態の説明においては第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0076】
本実施形態の冷却システム(冷却装置)9は、冷却媒体Xを介して発熱体Hを冷却するためのものであり、図5に示すように、流体流動部材(チューブ)(循環流路)18、分岐流路(第2流路)19、ポンプ20、及び受熱部22を備えて構成されている。これは第1の実施形態における放熱部、冷却媒体冷却部、モーター制御部、温度センサー、及び温度管理部を省略した構成である。すなわち、流体流動部材18、分岐流路19、及びポンプ20の熱を自然冷却により放熱する構成である。この場合には、流体流動部材18、分岐流路19、及びポンプ20をプロジェクター内部における通風状態の良いところに設置することが好ましい。
【0077】
(変形例1)
図6(A)は、本変形例に係る分岐流路を示す断面図である。本変形例は、上記実施形態の分岐流路19を循環管路18に沿って這わした構成である。これにより、分岐流路19のレイアウトが循環管路18に沿って平らになるので、プロジェクターの小型化が図れる。
【0078】
(変形例2)
図6(B)は、本変形例に係る分岐流路を示す断面図である。本変形例は、上記実施形態の分岐流路19をポンプ20周りに巻いた構成である。これにより、分岐流路19のレイアウトがポンプ20周りに沿って近づくので、プロジェクターの小型化が図れる。
【0079】
(その他変形例)
上記実施形態では、透過型の液晶パネル(液晶ライトバルブ12)を採用していたが、これに限らず、反射型の液晶パネルを採用してもよく、あるいは、ディジタル・マイクロミラー・デバイス(テキサス・インスツルメント社の商標)を採用してもよい。
【0080】
上記実施形態では、液晶ライトバルブ12を3枚設けた構成としていたが、これに限らず、1枚のみの液晶ライトバルブ12を設ける構成としてもよい。
【0081】
上記実施形態では、スクリーンを観察する方向から投射を行うフロントタイプのプロジェクターの例のみを挙げたが、本発明は、スクリーンを観察する方向とは反対側の投射を行うリアタイプのプロジェクターにも適用可能である。
【0082】
上記実施形態では、プロジェクターを採用したが、これに限らず、その他の電子機器、例えばCPU(Central Processing Unit)等を備えたパーソナルコンピューター、プリンター、あるいは医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置)等に本実施形態に係る冷却システムを採用してもよい。
【0083】
上記実施形態においては、冷却媒体冷却部26がファン駆動モーター34及びファン36から構成されているものとして説明した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されるものではなく、冷却媒体冷却部26としてペルチェ素子等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0084】
2…プロジェクター 4…外装筐体 6…光学装置 8,9…冷却システム(冷却装置) 10…光学装置 10R…R色光用LEDモジュール 10G…G色光用LEDモジュール 10B…B色光用LEDモジュール 12…液晶ライトバルブ 14…クロスダイクロイックプリズム 16…投射レンズ 18…流体流動部材(チューブ)(循環流路) 19…分岐流路(第2流路) 20…ポンプ 21…可動部 22…受熱部 23…第2液体 24…放熱部 25…高粘度ゲル状流体(封止材) 26…冷却媒体冷却部 27…センサー 28…モーター制御部 29…通気孔 30…温度センサー 32…温度管理部 34…ファン駆動モーター 36…ファン 38…圧電素子ケース 40…ケース底板 42…積層型圧電素子 44…端板 46…ダイアフラム 48…ポンプ室部材 48a…ポンプ室 48b…細管部 48c…出口接続管路(出口流路) 50…入口流路部材 50a…入口流路 50b…圧力調整室 52…圧力調整板(圧力調整要素) 54…リード弁(流体抵抗要素)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン又は可動壁を駆動することによって容積が変更可能なポンプ室と、前記ポンプ室へ流体を流入させる入口流路と、前記ポンプ室から流体を流出させる出口流路と、前記入口流路と前記ポンプ室との間に、前記入口流路を開閉する流体抵抗要素と、を備えるポンプと、
前記出口流路から前記入口流路へ流体を循環させる循環流路と、
前記循環流路の前記出口流路より前記入口流路に近い箇所に、前記ポンプ室に流入する流体の圧力を調整させる第2流路と、
を備え、
前記第2流路の調整容量は、前記循環流路の流体の圧力増分をΔP、その時の該循環流路の体積増分をΔV、流体を循環させたときの該循環流路の前記出口流路側の圧力をPSとしたときに、式
【数1】

を満たす調整容量VBであることを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却装置において、
前記循環流路及び前記第2流路は、互いに連結されていることを特徴とする冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷却装置において、
前記第2流路の少なくとも1つの他端は、流路内の流体圧力と大気圧との圧力差に対応して移動することが可能な可動部を備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷却装置において、
前記流体が第1液体であって、
前記可動部は、前記第1液体と相分離可能な第2液体と、該第2液体を封止する封止材とを備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の冷却装置において、
前記可動部の可動位置をセンシングするセンサーをさらに備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の冷却装置を備えることを特徴とするプロジェクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67613(P2012−67613A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210523(P2010−210523)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】