説明

処理ガスの供給方法、処理ガスの供給システム及び被処理体の処理システム

【課題】HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御することが可能な処理ガスの供給方法を提供する。
【解決手段】被処理体Wに対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置4に向けて温度に依存して重合する処理ガスを流量制御しつつ供給する処理ガスの供給方法において、大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置34を用いて前記処理ガスの流量を制御する。これにより、HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体に対して例えばHFガス(フッ化水素ガス)等の処理ガスを供給するための処理ガスの供給方法、処理ガスの供給システム及び被処理体の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路等を製造するには、シリコン基板等よりなる半導体ウエハに対して成膜処理、エッチング処理、酸化処理、拡散処理、自然酸化膜の除去処理等の各種の処理が行われている。特に、シリコン基板の自然酸化膜を除去するエッチング処理や他の酸化膜を除去するエッチング処理、或いは処理装置に用いる処理容器の内壁面等に付着した不要な膜等を除去するクリーニング処理等においては、エッチングガス(クリーニングガス)としてHFガス(フッ化水素ガス)が多用されている。
【0003】
この場合、精度の良いエッチング処理(クリーニング処理も含む。以下同じ)を施すためには、上記HFガスの供給量を高い精度で且つ安定して制御しなければならない。このようなHFガスの流量を制御するためには、一般的には、差圧式の流量制御装置(特許文献1等)とマスフローコントローラのような質量流量制御装置(特許文献2等)が知られている。
【0004】
上記差圧式の流量制御装置は、オリフィスを通過するガスが、いわゆる臨界条件下にある場合には、その時のガスの流量がオリフィスの上流側の圧力で定まる、という特性を利用した装置である。これに対して、上記質量流量制御装置は、内部に弁体として屈曲可能になされた薄い金属板よりなるダイヤフラムを有し、ガス流の移動に伴って検出される移動熱量に基づいて上記ダイヤフラムを屈曲させて弁開度を制御するようにした装置である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−264881号公報
【特許文献2】特開2005−222173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、窒素ガスやHe等の不活性ガスと異なって、このHFガスは、温度 や圧力に依存して重合する性質(「クラスター化」とも称す)を有しており、例えば70℃以上ではHF分子が単独で存在するが、70℃より低い温度では(HF)〜(HF)程度の重合物の混合気体となり、分子量が異なるという性質 をもっている。
【0007】
まず、上記差圧式流量制御装置にあっては、流体流量がオリフィスの上流側の圧力に比例し、またフローファクタがガスの標準状態における密度に反比例する流量制御である。ところがHFガスは上述のようにクラスター化の性質を有することから、温度と圧力毎のフローファクタを前もって求めておき、それを差圧式流量制御装置の制御回路に記憶させておく必要がある。
【0008】
また、HFガスを供給するには、一般的には、液体状態で貯留されたガス源で気化した高圧のHFガスを大気圧(101kPa)程度に減圧して流し、その流路の途中で流量制御装置により流量を制御し、この流量制御されたHFガスを略真空状態の処理容器へ供給するようになっている。このとき、ガス供給圧力は実際には±20kPa程度の変動が生ずる。したがって、差圧式流量制御装置の制御が複雑化するとともに、圧力や温度が変化した場合に精密な流量制御を損なう虞がある。
【0009】
一方、ダイヤフラムを用いた上記質量流量制御装置にあっては、ガス流量のフィードバック制御系は正常に動作しているにもかかわらず、質量流量制御装置により流量制御されるHFガスの実流量が変動してしまい、HFガスの供給量(実流量)を高い精度で制御することが困難になる場合がある。この理由は、HFガスが上述したような重合物の混合気体となるので、ガス流量の検出に必要なガス比熱が変化し、流量検出部の熱移動量に影響を与え、この結果、質量流量の検出精度を劣化させるものと推測される。
【0010】
上記問題点の対策として、質量流量制御装置の全体をHFガスの重合が発生しない70℃以上に加熱状態にしておくとも考えられるが、この場合には、半導体製造装置の周辺の精密機器に熱的に悪影響を与える恐れもあり、採用するのはあまり好ましくない。
【0011】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御することが可能な処理ガスの供給方法、処理ガスの供給システム及び被処理体の処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、HFガスの供給方法について鋭意研究した結果、HFガスを大気圧よりもかなり低い供給圧力下で、ダイヤフラムを用いた低差圧型の質量流量制御装置で流量制御することにより、高い精度で供給量を制御することができる、という知見を得ることにより本発明に至ったものである。
請求項1に係る発明は、被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置に向けて温度に依存して重合する処理ガスを流量制御しつつ供給する処理ガスの供給方法において、大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置を用いて前記処理ガスの流量を制御するようにした処理ガスの供給方法である。
【0013】
このように、大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置を用いて処理ガスの流量を制御するようにしたので、HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御することができる。
【0014】
この場合、例えば請求項2に記載したように、前記適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内である。
また例えば請求項3に記載したように、前記質量流量制御装置の温度は30〜70℃未満の範囲内に設定されている。
また例えば請求項4に記載したように、前記処理ガスはHFである。
【0015】
請求項5に係る発明は、被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置に向けて温度に依存して重合する処理ガスを流量制御しつつ供給する処理ガスの供給システムにおいて、前記処理装置に接続されるガス供給通路と、前記ガス供給通路に介設されて大気圧より低い供給圧力が適正動作範囲となっている、ダイヤフラムを用いた質量流量制御装置と、前記質量流量制御装置よりも上流側の前記ガス供給通路に介設されて処理ガス源より供給される処理ガスを前記適正動作範囲内の圧力に制御する圧力制御機構と、を備えたことを特徴とする処理ガスの供給システムである。
【0016】
この場合、例えば請求項6に記載したように、前記適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内である。
また例えば請求項7に記載したように、前記質量流量制御装置の温度は30〜70℃未満の範囲内に設定されている。
また例えば請求項8に記載したように、前記処理ガスはHFである。
【0017】
請求項9に係る発明は、被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置と、前記いずれかに記載の処理ガスの供給システムと、を備えたことを特徴とする被処理体の処理システムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る処理ガスの供給方法、処理ガスの供給システム及び被処理体の処理システムによれば、次のような作用効果を発揮することができる。
大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置を用いて処理ガスの流量を制御するようにしたので、HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る処理ガスの供給方法、処理ガスの供給システム及び被処理体の処理システムの一実施麗を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る処理ガスの供給システムと処理装置とを有する被処理体の処理システムの一例を示す概略構成図、図2は本発明の処理ガスの処理システムに用いるダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置の一例を示す概略構成図である。尚、ここでは処理ガスとして、圧力や温度に依存して重合したり、重合の度合が変化するHFガスを用い、処理装置として被処理体に対してエッチング処理を施すエッチング処理装置を用いた場合を例にとって説明する。
【0020】
図1に示すように、この被処理体の処理システム2は、被処理体である例えば半導体ウエハWに対して減圧雰囲気中で所定の処理、例えばエッチング処理を施す処理装置4と、上記処理装置4に対して処理ガスであるHFガスを供給する処理ガスの供給システム6とにより主に形成されている。
【0021】
上記処理装置4は、例えばアルミニウム合金により筒体状に成形された処理容器8を有している。この処理容器8内には、例えば円板状に形成された載置台10が容器底部より起立させて設けられており、この上面に上記半導体ウエハWと載置し得るようになっている。この載置台10内には、例えば抵抗加熱ヒータよりなる加熱手段12が埋め込まれており、上記載置台10上のウエハWを加熱し得るようになっている。尚、上記加熱手段12として、上記抵抗加熱ヒータに代えて載置台10の下方に複数の加熱ランプを設けるようにしてもよい。
【0022】
また、この処理容器8の側壁には、この処理容器8内に対してウエハWを搬出入する際に開閉されるゲートバルブ14が設けられている。そして、この容器底部には排気口16が設けられ、この排気口16には真空排気系18が接続されて、上記処理容器8内を所定の減圧雰囲気に真空引きできるようになっている。具体的には、この真空排気系18は、上記排気口16に接続される排気通路20を有しており、この排気通路20の途中には、排気ガスの流れ方向に沿って圧力制御弁22及び真空ポンプ24等が順次介設されて、上述のように処理容器8内を真空引きするようになっている。
【0023】
また、この処理容器8には、この中に各種の必要とするガスを供給するガス導入部26が設けられている。ここでは、上記ガス導入部26として、処理容器8の天井部にシャワーヘッド28が設けられており、この下面に設けた多数のガス噴射孔28Aから各種のガスを処理容器8内へ向けて噴射し得るようになっている。尚、上記ガス導入部26としてシャワーヘッド28に限らず、例えばノズル等を設けてもよく、その形状は特に限定されない。
【0024】
一方、処理装置4に接続される上記処理ガスの供給システム6は、上記シャワーヘッド28のガス入口に接続されるガス供給通路30を有している。このガス供給通路30の基端部には、処理ガスとしてHFを例えば液体で、或いは圧縮気体で収容する処理ガス源32が接続されている。そして、上記ガス供給通路30には、ガス流の上流側から下流側に向けて、圧力制御機構33とダイヤフラムを用いた質量流量制御装置34とが順次介設されている。この質量流量制御装置34は、その上流側と下流側とに接続フランジ34A、34Bを有しており、この接続フランジ34A、34Bでもって上記ガス供給通路30の途中に接続されている(図2も参照)。
【0025】
この質量流量制御装置34は、大気圧より低い供給圧力が適正動作範囲となっており、例えばその適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内となるように設定されている。この質量流量制御装置34の構造については後述する。
そして、この質量流量制御装置34の全体は、例えば恒温槽36内に収容されており、上記質量流量制御装置34を所定の温度、例えば30〜70℃未満の温度範囲内に維持できるようになっている。また、この質量流量制御装置34の直ぐ上流側と直ぐ下流側のガス供給通路30には上流側開閉弁38と下流側開閉弁40とがそれぞれ介設されている。
【0026】
一方、上記質量流量制御装置34の上流側に設けられる上記圧力制御機構33は、ガス供給通路30に介設された真空減圧弁42と、この下流側に設けた例えばキャパシタンスマノメータ等よりなる圧力センサ44とを有している。そして、上記圧力センサ44からの出力に基づいて圧力制御部46が上記真空減圧弁42を制御することにより、上流側から大気圧以上の高い供給圧力で流れてくるHFガスを減圧して、上記適正動作範囲内となるように制御して下流側へ流すようになっている。
【0027】
また、上記シャワーヘッド28には、不活性ガス供給系50が接続されている。具体的には、この不活性ガス供給系50は、上記シャワーヘッド28に接続されるガス管52を有している。そして、このガス管52にマスフローコントローラのような流量制御器54及び開閉弁56が順次介設されており、例えばN ガスをパージガスや希釈ガスとして処理容器8内へ供給できるようになっている。尚、上記N に代えて、He、Ar等の希ガスを用いてもよい。
【0028】
そして、このように形成された処理システム2の全体の制御、例えば各ガスの供給の開始・停止、ガス流量、圧力、温度等の制御は例えばマイクロコンピュータ等よりなる制御手段60により行われる。そして、この制御手段60は、上記した装置全体の動作を制御するためのプログラムを記憶する例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、DVD、フラッシュメモリ等よりなる記憶媒体62を有している。
【0029】
ここで上記処理ガスの供給システム6で用いる低差圧型の質量流量制御装置34について図2も参照して説明する。この質量流量制御装置34は、上記ガス供給通路30に直接的に接続される、例えばステンレススチール製の流路64と、流体(ガス)の質量流量を検出する質量流量検出部66と、このガスの流れを制御する流量制御弁機構68と、上記制御手段60の支配下でこの質量流量制御装置34全体の動作を制御する制御部70とにより主に構成されており、上記制御手段60より入力される設定流量になるようにガスの流量制御が行われる。
【0030】
具体的には、上記質量流量検出部66は、上記流路64の上流側に設けられた複数のバイパス管を束ねてなるバイパス群72を有しており、この両端側にはセンサ管74が上記バイパス群72を迂回させて接続されている。この結果、上記センサ管74には、上記バイパス群72と比較して小量のガスを一定の比率で流すようになっている。
このセンサ管74には、一対の制御用の抵抗線R1、R2が巻回されており、これに接続されたセンサ回路76により検出した流量値を出力するようになっている。上記センサ回路76では、上記抵抗線R1、R2や図示しない2つの基準抵抗を用いたブリッジ回路が形成されている。
【0031】
これにより、上記センサ管74の上流側に位置する抵抗線R1の発熱によって暖められたガスが下流側に流れることによって熱移動が生じて下流側の抵抗線R2をその時のガス流量に応じた熱量で暖めることになり、従って、この時の下流側の抵抗線R2の抵抗変化を電位の変化として取り出すことにより、この時に流れているガス流量を測定することができることになる。
【0032】
一方、上記流量制御弁機構68は、上記バイパス群72の下流側に設けた流量制御弁78を有している。この流量制御弁78は、ガスの流量を直接的に制御するための弁体として屈曲可能になされた金属板製のダイヤフラム80を有しており、このダイヤフラム80には、断面半円弧形状になされたリング状の屈曲部81が形成されている。そして、このダイヤフラム80を弁口82に向けて適宜屈曲変形させることによって弁口82の弁開度を制御するようになっている。
【0033】
そして、このダイヤフラム80の反対側面には、例えば押し台83Aや剛球83Bよりなる連結部材83を介してアクチュエータ84が設けられており、このアクチュエータ84はバルブ駆動回路86からの駆動信号によってその伸縮のストローク量が制御される。このアクチュエータ84は例えば積層圧電素子等により形成される。上記バルブ駆動回路86は、上記制御部70からの駆動指令で動作し、これにより、フィードバックでガスの流量が制御されることになる。
【0034】
上述のように構成される質量流量制御装置34にあっては、上流側から流れてくるガスの供給圧力によって、その流量制御の精度が大きく変化することが知られており、多くの質量流量制御装置では、上流側からのガスの供給圧力が大気圧程度の圧力の時に、下流側へ流すガスの供給量を高い精度で制御できるように設計されている。すなわち、多くの質量流量制御装置では、供給圧力の適正動作範囲が大気圧程度となるように設計されている。これに対して、本発明で用いる上記質量流量制御装置34は、供給圧力の適正動作範囲が大気圧よりも低い供給圧力となるように設計されている。具体的には、この適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内、好ましくは10kPa〜30kPaの範囲内である。このように、供給圧力の適正動作範囲を大気圧よりも低く設定することにより、比較的低い温度でもHFガスに対して精度の高い流量制御を行うことが可能となる。
【0035】
このような供給圧力の適正動作範囲が上述したように大気圧よりも低い圧力となる質量流量制御装置は、例えば弁口82の直径、アクチュエータ84のストローク量(弁開度)、ダイヤフラム80の直径等を最適化することにより一般的に製造されている。この質量流量制御装置34としては、例えば日立金属(株)製のSFC1571シリーズにおけるSFC1571FAMO−4UGLN(機種名)等を用いることができる。
【0036】
ここで上記質量流量制御装置について従来の質量流量制御装置と比較しつつより具体的に説明する。図3は本発明の質量流量制御装置と従来の質量流量制御装置の具体例を示す構成図である。
【0037】
図3(A)は供給圧力の適正動作範囲が上述したように大気圧よりも低い圧力となる本発明の質量流量制御装置の一実施例を示している。尚、ここでは図2に示した構成部分と同一構成部分については同一参照符号を付している。また、図3(B)は図3(A)に示した本発明の質量流量制御装置と同一の流量レンジの従来の質量流量制御装置を示している。また図3(B)中には、本発明の構成部分と対応する部分に関しては、本発明で用いた参照番号の末尾に”0”を付して表している。
【0038】
図3(A)に示すように、質量流量制御装置34は、弁口82の直径がφ12.4mmであり、アクチュエータ84のストローク量を約30μmに設定しており、流量レンジは200cc/minである。
【0039】
一方、図3(B)に示す従来の質量流量制御装置340にあっては、流量レンジが200cc/minであって、本発明装置の場合と同一であるが、弁口820の直径がφ0.6mm、アクチュエータ840のストローク量が約20μmに設定されている。
【0040】
すなわち、従来の質量流量制御装置340においては、ガスの流れの下流側を真空に減圧したとしても、弁口820がオリフィスの役割をして、弁口820の上流側の圧力は必要な真空圧に到達することができない。その結果、HFガスは、単分子化することなく質量流量検出部を形成するバイパス群やセンサ管等を通過するために、精度の良い流量制御が困難であった。
【0041】
これに対して、本願発明に係る質量流量制御装置34は弁口の直径で約20倍、アクチュエータのストロークで約1.5倍に設けられているので、弁口82の上流側と下流側との差圧が生じにくく低差圧型の質量流量制御装置となっている。低差圧型では、弁口82の上流側まで必要な真空圧に設定することが可能であるために、HFガスが単分子化し、精度の良い流量制御が可能である。
【0042】
この場合、低差圧型の質量流量制御装置とするためには、上記弁82の直径は、少なくとも10mm以上の大きさに設定するのが良く、且つ、アクチュエータ84のストローク量を20μm以上に設定するのがよい。
【0043】
また、ダイヤフラム80は、大気圧よりも低い供給圧力で適正動作が可能な構成となっている。すなわち、流路64内が真空圧に設定されるとアクチュエータ84側の大気圧を受けダイヤフラム80は、弁口82側に押付けられる圧力を受けることとなる。これに対して、ダイヤフラム80は、屈曲部81が円状に突出しており、アクチュエータ84側への自己復元弾性力を有している。したがって、ダイヤフラム80に大気圧が加わったとしても弁口82側に変位することなく、精度良く弁開度を維持することができるので、真空圧下における流量制御に好適である。
【0044】
また、弁口82は、屈曲部81の近傍でダイヤフラム80と当接するように、図中上方向へ向けてテーパ状に拡大された弁口であって、屈曲部81の近傍であることによってダイヤフラム80の動作変位は更に安定したものとなる。
この実施例でダイヤフラム80は、屈曲部81を設けることによって大気圧よりも低い供給圧力で適正動作が可能としているが、例えば、図面上方向に凸となる部分球殻状とすることもできる。この場合、球殻の曲率を小さく設けたり、ダイヤフラムを複数枚設けたりすることによって、大気圧よりも低い供給圧力で適正動作が可能とすることができる。
【0045】
また、図2においては、非制御状態のときに弁が最大開度となる所謂ノーマリーオープン型を示しているが、図3(A)に示すように、非制御状態のときに弁が閉となる所謂ノーマリークローズ型とすることができる。
図3(A)に示した質量流量制御装置は、ダイヤフラム80の反対側に押し台83Aと剛球83Bが設けられ、剛球83Bは弁棒87に当接している。弁棒87は、内部に中空空間88が設けられ、また中空空間88と弁棒87の外表面とを貫通する貫通孔90が設けられている。
【0046】
弁棒87の貫通孔90を貫通し、両端を流量制御弁機構68の本体に固定されたブリッジ92が設けられており、ブリッジ92は、アクチュエータ84の下端を上下動不能に受けている。一方、アクチュエータ84の上端は、調整部材94を介して弁棒87に支持されている。また、弁棒87とブリッジ92との間には付勢手段であるコイルバネ96が設けられ、弁棒87を下方に付勢している。上記アクチュエータ84は、例えば、電圧を付加したときに伸張する積層圧電素子からなり、全長約20mmの積層圧電素子を3段重ね合わせている。
【0047】
したがって、アクチュエータ84に電圧を付加しない状態では、コイルバネ96の付勢力によって弁棒87が下方に押付けられ流量制御弁機構68は閉の状態となる。また、アクチュエータ84に電圧を付加すると、その電圧にほぼ比例してアクチュエータ84が伸張し、コイルバネ96の付勢力に抗して弁棒87を上方に動作させるので流量制御弁機構68の弁開度を調整することができ、流量を制御する。
【0048】
次に以上のように構成された被処理体の処理システム2を用いて行われるエッチング処理について説明する。
まず、例えば表面にシリコンの自然酸化膜等が付着した半導体ウエハWを処理装置4のゲートバルブ14を開いて処理容器8内へ搬入し、このウエハWを載置台10上に載置した後に、この処理容器8内を密閉する。
【0049】
次に、真空排気系18を駆動して処理容器8内の雰囲気を真空引きして所定のプロセス圧力を維持すると共に、加熱手段12によりウエハWを所定のプロセス温度まで昇温して維持する。これと同時に、処理ガスの供給システム6によりHFガスを流量制御しつつ供給し、このHFガスをシャワーヘッド28から処理容器8内へ導入して上記ウエハ表面の自然酸化膜を除去するエッチング処理を行うことになる。
【0050】
ここで上記処理ガスの供給システム6における具体的な動作について説明する。まず、処理ガス源32からは大気圧程度、或いはそれ以上の大きな圧力でHFガスがガス供給通路30内を流れ、このHFガスは、圧力制御機構33の真空減圧弁42で所定の圧力、すなわち質量流量制御装置34の供給圧力の適正動作範囲である5kPa〜40kPaの範囲内になるようにその供給圧力が減圧される。そして、供給圧力が適正動作範囲になったHFガスは質量流量制御装置34にて、その流量(供給量)が制御されて下流の処理装置4へ流れて行くことになる。
【0051】
この際、この質量流量制御装置34の全体を、必要ならば恒温槽36により、例えば30〜70℃未満の温度に、好ましくは40〜60℃の範囲内の温度に加熱する。上記質量流量制御装置34を70℃以上に加熱すると、周辺の電子機器等に悪影響を与える恐れがあるので好ましくない。また質量流量制御装置34の温度が30℃より低い場合には、HFガスの重合の程度が急激に増加し、このため流量制御の精度が大幅に低下する恐れがあるので、好ましくない。
【0052】
このように、大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置34を用いて処理ガスの流量を制御するようにしたので、HFガス等の温度に依存して重合する処理ガスの供給量(実流量)を精度良く、且つ安定して制御することができる。
【0053】
<本発明の処理ガスの供給システムの評価>
次に、本発明に係る処理ガスの供給システムを用いてHFガスを実際に流量制御しつつ流して評価を行ったので、その評価結果について説明する。
[適正動作範囲が大気圧程度の質量流量制御装置]
まず、比較例として、適正動作範囲が大気圧(101kPa)程度に設定された質量流量制御装置について供給圧力の依存性について評価を行った。図4は適正動作範囲が大気圧(101kPa)程度に設定された質量流量制御装置の供給圧力の依存性を示すグラフである。
【0054】
また比較のために、圧力や温度に依存して重合が生じないN ガスについても測定を行った。ここでは、横軸にガスの供給圧力をとっており、縦軸にHF・N ガス流量(実流量)をとっている。質量流量制御装置自体の温度は、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃にそれぞれ設定している。また、この時の流量設定値に関しては、HFが200sccm(弁開度100%)、N は281sccm(弁開度100%)である。
【0055】
図4から明らかなように、HFガスに関して供給圧力が100kPaの時には、40〜60℃においては、HFガス流量は設定値と同じ200sccmとなるが、供給圧力を40kPa〜135kPaの範囲内で変化させると、供給圧力が増加するに従って、HFガス流量(実流量)は直線状に次第に低下している。従って、流量制御の精度がHFガスの供給圧力の変化に依存して低下することを確認することができた。しかも、装置自体の温度を40℃、50℃、60℃に変えても、全て略同じ値であったが、温度が30℃の場合には、急激に且つ大きくガス流量が低下している。
【0056】
また、逆に温度が70℃の場合には、供給圧力が40kPaの時には温度40〜60℃の時のガス流量と略同じであるが、供給圧力が増加するに従って、上記温度40〜60℃の時の曲線から次第に大きく流量増加方向(+方向)へ流量差が変化していることを確認することができた。尚、ここでは供給圧力が大気圧程度になるように設定されているので、C.F.(コンバージョンファクタ)は”0.711”に設定されている。
これに対して、前述したように、圧力や温度に関係なく会合、或いは重合しないN ガスは40kPa〜130kPaの供給圧力の全範囲に亘って281sccm程度の実流量で精度良く適正に流量制御できることが判る。
【0057】
[コンバージョンファクタの評価]
次に、上記図4に示す数値に関してコンバージョンファクタを求めて評価を行ったので、その評価結果について説明する。図5は図4に示す数値に関して求めたコンバージョンファクタの変化を示すグラフである。ここでコンバージョンファクタ(C.F.)とは、下記式に示すようにHFガスとN ガスの流量比で表され、質量流量制御装置の使用ガス種に対する温度及び圧力の依存性を示す要素である。
C.F.=HFガス流量/N ガス流量
【0058】
図5に示すように、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃の各温度の曲線は、傾向としては図4に示した場合と略同じ傾向を示しており、供給圧力が低下するに従って、全体的にグラフ中の左上方向へ集まって行き、供給圧力が40kPa以下の領域X1の部分でC.F.が”1.0”のところに収束して行く傾向があることが判る。
このことは、ガスの供給圧力の低圧側、例えば40kPa以下の領域において、ガスの実流量がガスの供給圧力に対して純感な部分が存在すること、すなわちガスの実流量が供給圧力に依存しない部分、或いは依存してもその程度が非常に僅かになる部分が存在することを意味する。すなわち、C.F.=1の領域ではN ガスの供給量とHFガスの供給量とが同じになることを意味する。
【0059】
そこで、本発明では上述したようにガスの供給圧力の適正動作範囲が5kPa〜40kPaの範囲であってC.F.が”1”となるように設定された低差圧型の質量流量制御装置34を用いてHFガスの流量制御を行うようにしている。
【0060】
[適正動作範囲が5kPa〜40kPaの質量流量制御装置]
図6は適正動作範囲が5kPa〜40kPaの質量流量制御装置を用いて供給量の評価を行った時の状態を示すグラフであり、図6(A)は供給圧力とHFガス供給量(実流量)との関係を示すグラフ、図6(B)は図6(A)に示す数値を基に求めたコンバージョンファクタを示すグラフである。ここでの、HFの供給量の設定値は200sccm(弁開度100%)である。また質量流量制御装置34の温度については40℃、50℃、60℃の3種類について行った。
【0061】
図6(A)から明らかなように、HFガスの供給圧力を5kPa〜40kPaの範囲内で変化させてもHFガスの供給量(実流量)は40℃〜60℃の全てにおいて全体的に略200sccmを示しており、また、図6(B)に示すように、この時の各温度におけるC.F.は全体的に略”1”を示しており、HFガスの流量制御を精度良く、且つ安定的に行うことができることを確認することができた。
【0062】
この場合、ガスの供給圧力が5kPaよりも小さい場合には、単位時間当たりのガスの供給量が過度に少なくなって実用的でなくなり、また40kPaよりも大きくなれば、実流量の制御精度が低下してしまう。図6(A)に示すグラフより判断すれば、ガスの供給圧力の、より好ましい範囲は10kPa〜30kPa程度である。
尚、上記実施例では自然酸化膜を除去するエッチング処理を行う場合を例にとって説明したが、これに限定されず、本発明はHFガスを用いる全ての処理について適用することができる。
【0063】
また、使用するガスはHFガスに限定されず、本発明は、温度や圧力に依存して会合(重合)するようなガス種に対して全て適用することができる。
また、本実施例で説明した図1に示す、いわゆる枚葉式の処理装置は単に一例を示したに過ぎず、これに限定されないのは勿論であり、本発明は、一度に複数枚のウエハを同時に処理することができる、いわゆるバッチ式の処理装置にも適用することができる。
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る処理ガスの供給システムと処理装置とを有する被処理体の処理システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の処理ガスの処理システムに用いるダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の質量流量制御装置と従来の質量流量制御装置の具体例を示す構成図である。
【図4】適正動作範囲が大気圧(101kPa)程度に設定された質量流量制御装置の供給圧力の依存性を示すグラフである。
【図5】図4に示す数値に関して求めたコンバージョンファクタの変化を示すグラフである。
【図6】適正動作範囲が5kPa〜40kPaの質量流量制御装置を用いて供給量の評価を行った時の状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
2 被処理体の処理システム
4 被処理体の処理装置
6 処理ガスの供給システム
8 処理容器
10 載置台
12 加熱手段
18 真空排気系
30 ガス供給通路
32 処理ガス源
33 圧力制御機構
34 質量流量制御装置
42 真空減圧弁
44 圧力センサ
46 圧力制御部
50 不活性ガス供給系
60 制御手段
62 記憶媒体
66 質量流量検出部
68 流量制御弁機構
72 バイパス群
74 センサ管
80 ダイヤフラム
82 弁口
W 半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置に向けて温度に依存して重合する処理ガスを流量制御しつつ供給する処理ガスの供給方法において、
大気圧よりも低い供給圧力が適正動作範囲となっているダイヤフラムを有する低差圧型の質量流量制御装置を用いて前記処理ガスの流量を制御するようにした処理ガスの供給方法。
【請求項2】
前記適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の処理ガスの供給方法。
【請求項3】
前記質量流量制御装置の温度は30〜70℃未満の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の処理ガスの供給方法。
【請求項4】
前記処理ガスはHFであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の処理ガスの供給方法。
【請求項5】
被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置に向けて温度に依存して重合する処理ガスを流量制御しつつ供給する処理ガスの供給システムにおいて、
前記処理装置に接続されるガス供給通路と、
前記ガス供給通路に介設されて大気圧より低い供給圧力が適正動作範囲となっている、ダイヤフラムを用いた質量流量制御装置と、
前記質量流量制御装置よりも上流側の前記ガス供給通路に介設されて処理ガス源より供給される処理ガスを前記適正動作範囲内の圧力に制御する圧力制御機構と、
を備えたことを特徴とする処理ガスの供給システム。
【請求項6】
前記適正動作範囲は5kPa〜40kPaの範囲内であることを特徴とする請求項5記載の処理ガスの供給システム。
【請求項7】
前記質量流量制御装置の温度は30〜70℃未満の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項5又は6記載の処理ガスの供給システム。
【請求項8】
前記処理ガスはHFであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の処理ガスの供給システム。
【請求項9】
被処理体に対して減圧雰囲気中で所定の処理を施す処理装置と、
請求項5乃至8のいずれかに記載の処理ガスの供給システムと、
を備えたことを特徴とする被処理体の処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−146641(P2008−146641A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294002(P2007−294002)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】