説明

処理液供給装置

【課題】筐体間の隙間からの処理液流出を防止することができる処理液供給装置を提供する。
【解決手段】処理液供給ノズル1は、所定間隔の隙間2を隔てて上下に対向配置された上部筐体10および下部筐体20を備える。上部筐体10および下部筐体20のそれぞれの側壁面には処理液供給部12,22および処理液排出部15,25が付設されている。処理液供給部12,22が隙間2の一方側から処理液を供給して処理液排出部15,25が他方側から吸引することによって隙間2に処理液流が形成され、ガラス基板GSはその隙間2中を搬送される。下部筐体20の上面21には、ガラス基板GSの先端部が支持コロ50に接触して跳ね上がりが生じた場合であっても、隙間2の基板入口側に形成された処理液のメニスカスを維持できるようなピッチにて複数の支持コロ50が配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、カラーフィルタ等の表示用パネル、或いは太陽電池等の各種用途に用いられるガラス基板等のエッチング、洗浄、現像、剥離などの表面処理に使用される節液型の処理液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用パネル等を製造する工程には、ガラス基板の洗浄、膜形成、エッチング、現像、膜剥離等の多数の表面処理工程が含まれている。これらの諸処理のうち処理液を使用する湿式処理の手法として、特許文献1および特許文献2には節液型の処理液供給ノズルを使用する技術が提案されている。この節液型の処理液供給ノズルは、所定間隔の隙間を隔てて上下に一対の筐体を対向配置し、その隙間の一方側から処理液を供給するとともに他方側から処理液を吸引排液することによって当該隙間に処理液の流れを形成し、その処理液流が形成された隙間内にガラス基板を通すことによって洗浄やエッチング等の表面処理を行うものである。
【0003】
また、表示用パネル等を製造するときのエッチング工程としては、アルミニウム膜のエッチング工程やITO膜(透明電極膜)のエッチング工程などが含まれている。一般に、エッチング処理は、薬液による腐食のための相応の処理時間を要するものである。一方、表示用パネル等を製造するときには、プロセス全体としての効率を維持するために各工程の処理時間を一定にすることが求められる。すなわち、エッチング工程に要する時間も一定にする必要があり、ガラス基板をコロ搬送によって搬送しつつ処理を進行させる場合には、搬送速度を一定にする必要がある。上記のような節液型の処理液供給ノズルを使用する場合において、搬送速度を一定に維持しつつ必要なエッチング処理時間を得るためには処理液供給ノズルのユニット長をある程度長くしなければならない。また、製造工程全体のスループットを向上させるべく、搬送速度を増加させるときには、処理液供給ノズルのユニット長をさらに長くする必要がある。
【0004】
ところが、ノズルのユニットの長さが長くなるほど、ガラス基板がユニット内を通過するときに撓んだり蛇行したりという問題が生じやすくなる。このため、特許文献1および特許文献2に開示されている装置では、ノズルのユニット内に支持コロを設け、ガラス基板がユニット内を通過するときに該支持コロによってガラス基板を支持することにより、搬送を安定させている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−280340号公報
【特許文献2】特開2005−313014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
処理液供給ノズルのユニット内に支持コロを設けることによってガラス基板の搬送については安定するものの、ノズルユニットのガラス基板入口側に形成されているメニスカスが破壊されることがあった。すなわち、上記節液型の処理液供給ノズルにおいては、筐体間の隙間の両端(基板入口側および出口側)に処理液の表面張力によってメニスカスと称される液面が形成されるのであるが、ノズルユニット内をガラス基板が通過しているときにその液面が破れることがあったのである。
【0007】
節液型の処理液供給ノズルを使用してエッチング処理を行っているときにメニスカスの破壊が発生すると、ガラス基板上面の搬送元側(搬送の上流側)にエッチング液が流出して不均一な液流出パターンを呈し、その流出領域においては余分なエッチングが行われることとなる。その結果、ガラス基板のエッチング処理が不均一になるという問題が発生していた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、筐体間の隙間からの処理液流出を防止することができる処理液供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、所定間隔の隙間を隔てて上部筐体と下部筐体とを上下に対向配置するとともに、前記上部筐体および前記下部筐体のそれぞれの側壁面の相対向する面に処理液供給部および処理液排出部を付設し、前記処理液供給部が前記隙間の一方側から処理液を供給して前記処理液排出部が他方側から吸引排液することによって前記隙間に処理液流を形成しつつ基板を当該隙間に通す処理液供給装置において、前記下部筐体の上面に、基板の搬送方向に沿ってピッチpにて配列された複数の回転支持体を備え、前記ピッチpは、前記隙間を搬送される基板の先端が前記複数の回転支持体のいずれかに接触して基板先端の跳ね上がりが生じた場合にも、前記隙間の基板入口側に形成されたメニスカスを保つように規定されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る処理液供給装置において、vを基板の搬送速度、θを基板の先端が接触した回転支持体の接触点と上端点とを結ぶ線が水平方向となす角度としたときに、(p・v・tanθ)/2が基板先端の跳ね上がりによって基板上面に生じる見かけの流量であって前記メニスカスが維持される臨界値qrよりも小さくなるように前記ピッチpを規定している。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係る処理液供給装置において、前記処理液は、純水または水溶液であり、見かけの流量の臨界値qrは1.93×10-23/min.以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、隙間を搬送される基板の先端が複数の回転支持体のいずれかに接触して基板先端の跳ね上がりが生じた場合にも、隙間の基板入口側に形成されたメニスカスを保つようにピッチpが規定されているため、該メニスカスが破壊されることはなく、筐体間の隙間からの処理液流出を防止することができる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、(p・v・tanθ)/2が基板先端の跳ね上がりによって基板上面に生じる見かけの流量であってメニスカスが維持される臨界値qrよりも小さくなるようにピッチpを規定しているため、該メニスカスが破壊されることはなく、筐体間の隙間からの処理液流出を防止することができる。
【0014】
また、請求項3の発明によれば、処理液が純水または水溶液であり、筐体間の隙間からの純水または水溶液の流出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る処理液供給装置たる処理液供給ノズル1の全体構成を示す側断面図である。本実施形態の処理液供給ノズル1は、いわゆる節液型の処理液供給ノズルであって、ガラス基板GSに処理液としてエッチング液を供給する。
【0017】
処理液供給ノズル1は、所定間隔の隙間2を隔てて上下に対向配置された上部筐体10および下部筐体20を備える。上部筐体10と下部筐体20との間の間隔は、ガラス基板GSが通過可能であって、かつメニスカスを維持できる範囲のものであり、ガラス基板GSの板厚と処理液の表面張力とによって規定される。例えば、ガラス基板GSの板厚が0.7mmで処理液が水溶液(希釈薬液)、オゾン水、水素水、純水等のように濃度の希薄な液である場合には上部筐体10と下部筐体20との間の間隔は概ね6〜8mmである。下限の6mmは、ガラス基板GSと上部筐体10および下部筐体20とのクリアランスがそれぞれ2.65mmであることに基づいており、搬送精度の向上によって若干小さくすることができる。また、上限の8mmは、ガラス基板GSが上部筐体10と下部筐体20との間に存在しないときにメニスカスを維持できる限界であり、処理液の物性値である表面張力によって定まっている。
【0018】
上部筐体10は、直方体形状を有しており、その下面11が隙間2の天井面となる。上部筐体10の側壁面の相対向する面には処理液供給部12および処理液排出部15が付設されている。すなわち、基板搬送方向に沿った下流側(図面右側)の外側壁面には処理液供給部12が付設され、上流側(図面左側)の外側壁面には処理液排出部15が付設されている。処理液供給部12は、供給配管13から供給された処理液を下部に形成された開口14を介して隙間2に供給する。また、処理液排出部15は、下部に形成された開口17を介して隙間2を流れてきた処理液を吸引して排出配管16へと排出する。なお、開口14および開口17の下端の高さ位置は上部筐体10の下面11と略面一となるように設定されている。
【0019】
下部筐体20は、上部筐体10と概ね同一の直方体形状を有しており、その上面21が隙間2の床面となる。但し、下部筐体20の上面21には複数の支持コロ50を配設するための凹部が形成されており、上面21は面一の平面ではない。下部筐体20の側壁面の相対向する面には処理液供給部22および処理液排出部25が付設されている。すなわち、基板搬送方向に沿った下流側(図面右側)の外側壁面には処理液供給部22が付設され、上流側(図面左側)の外側壁面には処理液排出部25が付設されている。処理液供給部22は、供給配管23から供給された処理液を上部に形成された開口24を介して隙間2に供給する。また、処理液排出部25は、上部に形成された開口27を介して隙間2を流れてきた処理液を吸引して排出配管26へと排出する。なお、開口24および開口27の上端の高さ位置は下部筐体20の上面21と略面一となるように設定されている。
【0020】
処理液供給部12,22が隙間2の一方側から処理液を供給して処理液排出部15,25が他方側から吸引排液することによって隙間2に処理液流が形成される。このときに、処理液供給部12,22から隙間2に処理液を供給する供給圧と処理液排出部15,25が隙間2から処理液を吸引する吸引圧とのバランスをとることによって、隙間2の両端開放部分にメニスカスを形成して処理液が処理液供給ノズル1の側方に流れ出ないように構成されている。より具体的には、供給配管13,23は図外の加圧ポンプを介して処理液タンクに連通接続されており、該加圧ポンプの駆動によって処理液供給部12,22から隙間2に処理液を供給する。一方、排出配管16,26も図外の減圧ポンプを介して回収タンクに連通接続されており、該減圧ポンプの駆動によって処理液排出部15,25から隙間2の処理液を吸引回収する。そして、加圧ポンプの正圧レベルおよび減圧ポンプの負圧レベルを図示省略の圧制御部が圧調整することによって、隙間2の両端開放部分に処理液のメニスカスが形成される。
【0021】
また、下部筐体20の上面21には、ガラス基板GSの搬送方向に沿って所定のピッチにて複数の支持コロ50が配設されている。支持コロ50は、ガラス基板GSの搬送方向に垂直な水平方向に平行な回転軸周りにて従動回転可能に軸支された回転支持体である。これらの支持コロ50は、隙間2を通過するガラス基板GSを下方から支持搬送するものであり、ガラス基板GSが撓むことに起因した基板破損等を防止するものである。なお、下部筐体20には、支持コロ50の回転によって生じるパーティクルを排出するための図示を省略する液抜き路が形成されている。
【0022】
この処理液供給ノズル1によってガラス基板GSのエッチング処理を行うときには概略以下のようにして行われる。まず、上述のようにして処理液供給部12,22が隙間2の一方側から処理液を供給するとともに、処理液排出部15,25が他方側から隙間2の処理液を吸引排液することによって、隙間2に上記一方側から他方側へと向かう(紙面右側から左側へと向かう)処理液流が形成される。続いて、ローラコンベア5によってガラス基板GSが所定速度で水平方向に搬送され、上記他方側から隙間2内に挿入される。ガラス基板GSは隙間2内を通る間にその表面が処理液によってエッチングされ、やがて隙間2の上記一方側からノズル外部へと送り出される。エッチング処理後のガラス基板GSは再度ローラコンベア5によって次の工程へと搬送される。
【0023】
図2は、処理液供給ノズル1の隙間2を通過するガラス基板GSの先端部の挙動を示す図である。処理液供給部12,22からの処理液供給および処理液排出部15,25による処理液吸引によって隙間2には矢印AR21に示す向きの処理液流が形成されている。一方、ガラス基板GSはローラコンベア5によって隙間2内を矢印AR22にて示す向きに搬送されている。すなわち、ガラス基板GSの搬送方向の下流側から上流側に向かって(ガラス基板GSの搬送の向きとは逆向きに)処理液が流れている。
【0024】
また、隙間2を通過するガラス基板GSは支持コロ50によって下方から支持されている。これにより、隙間2を通過する際にガラス基板GSが大きく撓むことは防止され、搬送が安定するとともに、ガラス基板GSの先端部が下部筐体20に接触して破損することも防がれる。
【0025】
ところが、支持コロ50は基本的には点接触にてガラス基板GSを支持するものであるため、隣接する支持コロ50間におけるガラス基板GSの若干の撓みは避けられない。特にガラス基板GSの先端部近傍は1つの支持コロ50による片持ち状態となるため、当該先端部が垂れるような撓みが生じる。すなわち、図2(a)に示すように、隙間2に進入したガラス基板GSの先端部が複数の支持コロ50のうちの一つ(図2の紙面左側の支持コロ50であり、以降、これを「第1の支持コロ50」とする)を通過してから次の支持コロ50(図2の紙面右側の支持コロ50であり、以降、これを「第2の支持コロ50」とする)に到達するまでの間、当該先端部から第1の支持コロ50による支持点までの長さが長くなるにつれて、ガラス基板GSの自重によって該先端部が下方に垂れるような撓みが生じる。
【0026】
ガラス基板GSの先端部が更に進むと、やがて該先端部が第2の支持コロ50に接触する。このとき、ガラス基板GSの先端部近傍が撓んだ状態で接触するため、図2(b)に示すように、先端部は第2の支持コロ50の上端点ではなく、それよりも手前に接触する。そして、ガラス基板GSの先端部は第2の支持コロ50に接触した時点から、図2(c)に示すように第2の支持コロ50の回転に沿って上端点にまで瞬間的に上方に押し上げられる。図2(b)に示す状態から図2(c)に示す状態への移行時間は短く、言うなれば下方に撓んだガラス基板GSの先端部が第2の支持コロ50によって跳ね上げられることとなる。
【0027】
このとき、ガラス基板GSの先端部が急激に押し上げられたことによって、隙間2内のガラス基板GSよりも上方の容積が瞬間的に少なくなり、ガラス基板GSの上面側において図2(c)の矢印AR23にて示すような処理液の流れが発生する。なお、矢印AR23とは逆向きの流れも発生するのではあるが、このような向きの流れは隙間2に形成されている処理液全体の流れ(処理液供給部12,22および処理液排出部15,25によって形成される矢印AR21に示す流れ)によって打ち消されるため実質的な影響は無い。
【0028】
処理液供給部12,22および処理液排出部15,25によって隙間2内に形成される通常の処理液流(矢印AR21にて示す処理液流)に、ガラス基板GSの先端部が急激に押し上げられることによって生じた矢印AR23にて示す処理液流が加わると、ガラス基板GSの搬送方向の下流側から上流側へと向かう大きな流れとなり、その流れが隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスを破壊する原因となりうる。処理液供給ノズル1によってガラス基板GSのエッチング処理を行っているときにメニスカスが破壊されると、処理結果が不均一になることは既述した通りである。
【0029】
かかる問題を解決するためには、定性的には複数の支持コロ50の配列ピッチを小さくしてガラス基板GSの先端部の撓みを少なくすれば良い。その結果、ガラス基板GSの先端部が押し上げられることによって生じる流れも小さくなり、メニスカスの破壊が防がれることとなる。以下、隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスを維持しうる支持コロ50の配列のピッチについてさらに説明する。なお、支持コロ50の配列ピッチが多少大きかったとしても(例えば、ローラコンベア5と同程度のピッチであったとしても)、ガラス基板GSの搬送安定性という観点では全く問題ない。
【0030】
図3は、メニスカスを維持しうる支持コロ50の配列のピッチを算定するための模式図である。まず、ガラス基板GSの先端部が押し上げられたときに、ガラス基板GSが処理液を押しのける容積Vは、ガラス基板GSの幅W、支持コロ50の配列のピッチpおよびガラス基板GSの撓みδによって以下のように近似される。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、撓みδは、ガラス基板GSが第2の支持コロ50に接触した時点でのガラス基板GS先端部の鉛直方向変位量である。すなわち、図3から把握されるように、ガラス基板GSの押しのけ容積Vは、第1の支持コロ50の上端点P1、ガラス基板GSの先端部と第2の支持コロ50との接触点P2、第2の支持コロ50の上端点P3によって形成される三角形を底面とし、ガラス基板GSの幅Wを高さとした仮想三角柱の体積である。
【0033】
次に、ガラス基板GSによって押しのけられた容積Vの処理液は、図2(c)の矢印AR23にて示すような処理液流を形成する。なお、上述したように矢印AR23とは逆向きの流れも発生するのではあるが、このような向きの流れは隙間2に形成されている処理液全体の流れに押し返されるため、ここではガラス基板GSによって押しのけられた容積Vの処理液が全て図2(c)の矢印AR23にて示すような処理液流に変換されるものとする。
【0034】
図2(c)の矢印AR23にて示される処理液流は、隙間2内に形成される通常の処理液流(矢印AR21にて示す処理液流)と同じ向きに流れるものであり、実際にはこれらが合わさって流れるため両者を識別することはできない。このため、本明細書においては、図2(c)の矢印AR23にて示される処理液流を特に「見かけの処理液流」と称する。
【0035】
ガラス基板GSの先端部が跳ね上げられることによってガラス基板GSの上面に生じる見かけの処理液流の流量q(ガラス基板GSの単位幅当たりの流量)は以下のように表される。なお、以降においては、見かけの処理液流の流量qを単に「見かけの流量q」とする。言い換えれば、「見かけの流量」とは、ガラス基板GSの先端部が跳ね上がることによって押しのけられた処理液が形成する流れの流量である。
【0036】
【数2】

【0037】
ここで、Δtは、ガラス基板GSの先端部が第2の支持コロ50に接触してから第2の支持コロ50の上端点P3に押し上げられるまでに要する時間であり、つまり図2(b)に示す状態から図2(c)に示す状態への移行時間である。押し上げに要する時間Δtは第2の支持コロ50の接触点P2と上端点P3との間の直線距離Xおよび第2の支持コロ50によって押し上げられるガラス基板GSの先端部の速度v’によって、次のように表される。
【0038】
【数3】

【0039】
また、支持コロ50は従動回転するものであるため、ガラス基板GSの先端部の速度v’は、ローラコンベア5によって搬送されるガラス基板GSの搬送速度vに依存する。すなわち、ガラス基板GSの先端部の速度v’は、ガラス基板GSの先端部が接触した第2の支持コロ50の接触点P2と第2の支持コロ50の上端点P3とを結ぶ線が水平方向(ローラコンベア5による搬送方向)となす角度θおよびガラス基板GSの搬送速度vによって、次のように表される。
【0040】
【数4】

【0041】
よって、ガラス基板GSの押し上げに要する時間Δtは以下のように表される。
【0042】
【数5】

【0043】
以上より、ガラス基板GSの先端部が跳ね上げられることによってガラス基板GSの上面に生じる見かけの流量qは以下のように表される。
【0044】
【数6】

【0045】
ここで、δ/X=sinθであるため、結局見かけの流量qは次の式(1)ように表される。
【0046】
【数7】

【0047】
このようにして算定される見かけの流量q、すなわちガラス基板GSの先端部が跳ね上げられることによってガラス基板GSの上面に生じる見かけの流量qが隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスを維持しうる臨界値qrより少なければ該メニスカスの破壊は発生せず、筐体間の隙間2からの処理液流出を防止することができる。これを数式にて表現すれば、次の条件式(2)が満たされれば、メニスカスの破壊を防止することができる。
【0048】
【数8】

【0049】
一方、本発明者等は、隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスが破壊される処理条件について鋭意検討を行った結果、処理液として純水を使用した場合であれば、支持コロ50の半径r=8mm、支持コロ50の配列のピッチp=64mm、ガラス基板GSの搬送速度v=1.6m/分、第2の支持コロ50に接触した時点でのガラス基板GSの撓みδ=2mmのときにメニスカスが破壊されることを究明した。これらの条件を式(1)に適用したときの見かけの流量qは1.93×10-23/min.となる。なお、図3から理解されるように、式(1)のtanθ=δ/xであり、長さxは次式(3)によって求められる。
【0050】
【数9】

【0051】
また、本発明者等は、処理液として純水以外の液、例えばフッ酸の水溶液(希釈液)や塩酸とフッ酸との混酸の水溶液(これらは本実施形態の処理液供給ノズル1が供給する一般的なエッチング液)を使用した場合であれば、純水とほぼ同じであるが、リン酸水溶液などを使用した場合は純水の場合よりもメニスカスが破壊されやすいことも究明した。これは、希薄溶液のメニスカス形成は液体の表面張力に大きく依存しており、純水の表面張力が他の水溶液よりも大きいことによるものと考えられる。なお、主体的ではないものの、処理液の比重にも依存していることが分かっている。よって、処理液として純水以外の液(水溶液、オゾン水、水素水)を使用した場合であれば、メニスカスが破壊される見かけの流量qは1.93×10-23/min.よりも小さくなる。
【0052】
これらのことより、メニスカスを維持しうる見かけの流量の臨界値qrは、処理液が純水の場合であれば1.93×10-23/min.であり、純水以外の液である場合には1.93×10-23/min.よりも小さい。つまり、メニスカスを維持しうる見かけの流量の臨界値qrは、1.93×10-23/min.以下である。そして、支持コロ50の配列のピッチpを算定するに際して、次の条件式(4)が満足されれば、隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスの破壊は発生せず、筐体間の隙間2からの処理液流出を防止することができる。
【0053】
【数10】

【0054】
次に、上の条件式(4)に基づいて、支持コロ50の配列のピッチpを算定する具体的な手法について説明する。まず、条件式(4)において、ガラス基板GSの搬送速度vは既定のパラメータ(定数)である。なお、搬送速度vを小さくすることによっても条件式(4)を満たすこと、つまりメニスカスの破壊を防止することは可能であるが、処理のスループットが低下するため現実的ではない。
【0055】
次に、条件式(4)におけるtanθについては、上記の通りtanθ=δ/xと表せる。ここで、第2の支持コロ50に接触した時点でのガラス基板GSの撓みδは次式(5)から推定できる。この式(5)は、ガラス基板GSの先端部近傍を第1の支持コロ50によって支持される片持ち梁であるとみなし、既知であるガラス基板GSの自重の等分布荷重w、第1の支持コロ50の上端点P1と第2の支持コロ50の接触点P2との距離L(梁の長さ)、既知であるガラス基板GSのヤング率Eおよびガラス基板GSの断面2次モーメントIから撓みδを算定するものである。
【0056】
【数11】

【0057】
ガラス基板GSの断面2次モーメントIは、既知のガラス基板GSの幅Wおよび既知のガラス基板GSの板厚hから次式によって求められる。
【0058】
【数12】

【0059】
よって、式(5)による撓みδの算定に際して不明なパラメータとなるのは、第1の支持コロ50の上端点P1と第2の支持コロ50の接触点P2との距離Lである。これについてはピッチpを適当な値(例えば、上記の64mm)に仮決めするとともに、一旦仮の梁の長さとしてL=pとおいて、ガラス基板GSの撓みδを式(5)から算定する。撓みδが求まれば、支持コロ50の半径rは既知であるため、式(3)から長さxを算定することができる。
【0060】
実際には、撓んだガラス基板GSの先端部は第2の支持コロ50の上端点P3よりも手前の接触点P2にて第2の支持コロ50に接触するため、L<pである。このため、算定された長さxから新たな仮の梁の長さをL’=p−xとおいて、再度式(5)から撓みδを算定するとともに、式(3)から長さxを算定する。この計算過程を繰り返すことによって梁の長さLおよび長さxを収束させる。なお、収束計算の手法としてはニュートン法等の公知の種々の手法を用いることが可能である。
【0061】
このような収束計算の結果求められた撓みδおよび長さxからtanθを算定することができる。そして、求められたtanθ、既定値であるガラス基板GSの搬送速度vおよび仮決めした支持コロ50の配列のピッチpが条件式(4)を満たしているか否かを判定する。その結果、条件式(4)が満足されている場合には、上記仮決めしたピッチpにて複数の支持コロ50を配列したとしても、隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスの破壊は発生せず、筐体間の隙間2からの処理液流出を防止することができる。一方、条件式(4)を満たさない場合には、上記のピッチpを小さくして再度長さLおよび長さxの収束計算を行ってtanθを算定する。そして、条件式(4)を満たしているか否かを再判定する。それでもなお、条件式(4)を満たさない場合には、ピッチpを段階的に小さくするとともに、その都度上述の工程を条件式(4)が満足されるまで繰り返すことによって、条件式(4)を満たすピッチpを求める。
【0062】
以上のようにして求められたピッチpは、隙間2を搬送されるガラス基板GSの先端部が第2の支持コロ50に接触して当該先端部の跳ね上がりが生じた場合にも、隙間2の基板入口側に形成されたメニスカスを保つように規定されているものである。よって、求められたピッチpにて下部筐体20の上面21にガラス基板GSの搬送方向に沿って複数の支持コロ50を配列すれば、隙間2の基板入口側に形成されているメニスカスが支持コロ50によるガラス基板GS先端部の跳ね上げによって破壊されることはなく、筐体間の隙間2からの処理液流出を防止することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、処理液供給ノズル1がガラス基板GSに処理液としてエッチング液を供給するものであったが、これに限定されるものではなく、処理液供給ノズル1は節液型の処理液供給ノズルであれば良く、例えば処理液として純水を供給してガラス基板GSの洗浄を行うものであっても良いし、現像液や剥離液を供給するものであっても良い。
【0064】
また、処理液供給ノズル1が供給する処理液は純水、水溶液、オゾン水、水素水に限定されるものではなく、他の種類の液であっても良い。もっとも、メニスカスの形成が表面張力に依存する程度に濃度の希薄な液(水に近い液)の方が条件式(4)による判定の信頼性が高い。
【0065】
また、本発明に係る技術は、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、カラーフィルタ等の表示用パネル、或いは太陽電池等の各種用途に用いられるガラス基板GSの処理に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る処理液供給装置の全体構成を示す側断面図である。
【図2】処理液供給ノズルの隙間を通過するガラス基板の先端部の挙動を示す図である。
【図3】メニスカスを維持しうる支持コロの配列のピッチを算定するための模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 処理液供給ノズル
2 隙間
5 ローラコンベア
10 上部筐体
12,22 処理液供給部
15,25 処理液排出部
20 下部筐体
50 支持コロ
GS ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔の隙間を隔てて上部筐体と下部筐体とを上下に対向配置するとともに、前記上部筐体および前記下部筐体のそれぞれの側壁面の相対向する面に処理液供給部および処理液排出部を付設し、前記処理液供給部が前記隙間の一方側から処理液を供給して前記処理液排出部が他方側から吸引排液することによって前記隙間に処理液流を形成しつつ基板を当該隙間に通す処理液供給装置であって、
前記下部筐体の上面に、基板の搬送方向に沿ってピッチpにて配列された複数の回転支持体を備え、
前記ピッチpは、前記隙間を搬送される基板の先端が前記複数の回転支持体のいずれかに接触して基板先端の跳ね上がりが生じた場合にも、前記隙間の基板入口側に形成されたメニスカスを保つように規定されていることを特徴とする処理液供給装置。
【請求項2】
請求項1記載の処理液供給装置において、
前記ピッチpは、次の数1を満たすように規定されていることを特徴とする処理液供給装置。
【数1】

ただし、vは基板の搬送速度、θは基板の先端が接触した回転支持体の接触点と上端点とを結ぶ線が水平方向となす角度、qrは基板先端の跳ね上がりによって基板上面に生じる見かけの流量であって前記メニスカスが維持される臨界値である。
【請求項3】
請求項2記載の処理液供給装置において、
前記処理液は、純水または水溶液であり、
見かけの流量の臨界値qrは1.93×10-23/min.以下であることを特徴とする処理液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−88510(P2008−88510A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271679(P2006−271679)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(502266320)株式会社フューチャービジョン (73)
【Fターム(参考)】