説明

処理装置及び半導体製造装置

【課題】処理室内においてガスが生成される処理装置において、副生成物がハウジング等に堆積することを無くすことにより、軸部材等の損傷を防止し、長寿命を達成し、さらに温度制御でなく圧力制御により副生成物の発生を防止することにより、ハウジングその他の要素機器を高温に耐え得る構造にする必要を無くす。
【解決手段】外部領域A内に配置されており、固相化温度が圧力によって変化するガス(塩化アンモニウム)を収容しており、室内の圧力がP1である処理室Bと、処理室Bに取付けられたハウジング6と、ハウジング6の中を通って処理室Bの中に出ている軸部材9と、ハウジング6の中であって軸部材9の周りに設けられており処理室Bと空間的につながっている減圧室Cと、減圧室C内の圧力P2が処理室B内の圧力P1よりも低く(P1>P2)なるように制御するクリアランスシール11とを有する処理装置、例えば半導体製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温よりも高温状態であって大気圧よりも減圧状態にある処理室内において2種類以上のガスの反応により薄膜を形成する等といった機能を有する処理装置及び半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記処理装置及び半導体製造装置においては、処理室の内外にわたって軸部材(例えば、回転軸)が設けられ、その軸部材の運動(例えば、回転動)によって処理室内で所定の処理が実行される。例えば、半導体製造装置であれば、処理室内において半導体用基板に薄膜形成処理が行われる。
【0003】
この処理装置において、処理室の内部の圧力(P1)が外部領域の圧力(P3)よりも低く設定されることがある。例えば、半導体製造装置において、大気圧(約100kPa(キロパスカル)程度)の外部領域内で処理室内圧力P1が1〜1000Pa(パスカル)程度に設定されることがある。このような装置においては、軸部材の周囲で試料室内圧力P1と外部領域圧力P3との圧力差を保持するための付帯装置であるシール装置が、処理室に付設される。
【0004】
上記処理装置において、処理室内においてガスを発生させるような処理が行われることがある。このような処理装置において、処理室内で発生したガスがシール装置の内部に侵入し、さらに冷えることによって固化して軸部材の外周面やシール装置の内部に副生成物として付着することがある。この副生成物が限界量以上に堆積すると、軸部材の適正な運動(例えば、適正回転数の回転)が阻害されたり、正常なシール機能が得られなくなったりするおそれがある。
【0005】
例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置のような処理装置においては、室温(20℃〜25℃)で大気圧(約100kPa)の雰囲気中に設置された処理室の内部が所定温度(例えば700℃〜1000℃)で所定の減圧状態(例えば、20Pa)に設定され、その処理室内において半導体装置用の基板上に窒化シリコン(Si)膜を形成する処理等が行われる。
【0006】
この処理においては、所定の複数の原料ガスの反応によって窒化シリコン膜を形成するが、その際、副生成物として塩化アンモニウム(NHCl)ガスが生成される。そして、この塩化アンモニウムガスはシール装置内に侵入し、そこで冷却されて固化して、運動軸外周面やシール装置の内部に付着することがある。
【0007】
このようにガスが軸部材に付着することを防止できる技術を備えた装置として、従来、特許文献1に開示された装置が知られている。この装置は、基板保持手段によって基板を支持し、軸部材である回転軸によって基板保持手段を回転させる構成を有しており、さらに、回転軸近傍に副生成物が付着するのを防止するための加熱部材が設けられている。この装置では、加熱部材によって回転軸近傍の温度を高く維持することにより、ガスの冷却による固化を防止して副生成物の生成及び付着を防止している。
【0008】
また、ガスが軸部材に付着することを防止できる技術を備えた装置として、従来、特許文献2に開示された装置も知られている。この装置は、軸部材である回転シャフトを包囲したハウジングの部分領域に取り付けられた冷媒ジャケットを有している。そして、この冷媒ジャケットのハウジングに対する取付け位置は、軸部材の軸方向に沿って変更可能となっている。この装置では、ハウジングに対する冷媒ジャケットの取付け位置を変えることにより、ハウジング内のシール部の温度を制御している。
【0009】
また、特許文献3には、図4に示すように、外部領域A中に置かれた処理室Bの壁105に取り付けられる回転導入装置101が開示されている。この装置101は、処理室Bの内部を磁気シール装置102によって高真空に維持しつつ、外部領域Aと処理室B内との間に配置された回転軸103によって、処理室Bの外部から内部へと回転動力を導入するものである。外部領域Aの圧力は、例えば100kPa程度の大気圧であり、処理室B内は1×10−8〜1×10Pa程度の高真空状態である。
【0010】
この回転導入装置101は、処理室Bと外部領域Aとの間に中間排気室104を有している。そして、中間排気室104内は、処理室B内を不純ガス成分を含まないきれいな高真空状態に維持するために設けられている。
【0011】
【特許文献1】特開2002−184769号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開2005−076758号公報(第4〜5頁、図1)
【特許文献3】特開平4−321882号公報(第3〜4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
回転軸近傍を高温状態にするという特許文献1に開示された装置においては、回転軸やシール装置を耐高温性を備えた構造にしなければならず、さらにその構造に耐久性を持たせなければならないという問題があった。
【0013】
他方、冷媒ジャケットの取付け位置を調整することによりシール部の温度を調節することにした特許文献2に開示された装置においては、同様に回転軸等に耐高温性を持たせなければならず、さらに耐久性を持たせなければならないという問題があった。
【0014】
他方、中間排気室を用いた特許文献3に開示された回転導入装置は高真空状態に設定された処理室内を如何にきれいな状態のままに維持するかを課題としており、処理室で何等かのガスが発生したり、そのガスが回転導入装置内で冷却されて固化したりすることは、全く考慮されていない。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、処理室内においてガスが生成される処理装置において、副生成物がハウジング等に堆積することを無くすことにより、軸部材等の損傷を防止し、長寿命を達成することを1つの目的とする。
さらに、温度制御により副生成物の発生を防止するのではなく、圧力制御により副生成物の発生を防止することにより、ハウジングや軸部材やそれらに付随する要素機器を高温に耐え得る構造にする必要を無くし、その結果として長寿命を達成することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る処理装置は、外部領域内に配置されており固相化温度が圧力によって変化するガスを収容しており室内の圧力がP1である処理室と、該処理室に取り付けられたハウジングと、該ハウジングの中を通って前記処理室の中に出ている軸部材と、前記ハウジングの中であって前記軸部材の周りに設けられており前記処理室と空間的につながっている減圧室と、該減圧室内の圧力P2が前記処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)なるように制御する圧力制御手段とを有することを特徴とする。
【0017】
この処理装置においては、軸部材の動きを利用して処理室内で所望の処理が行われる。軸部材はハウジングに支持されて処理室の内外にわたって設けられているので、処理室内で発生したガスがハウジングの内部へ侵入して固化し、その固化物が軸部材やハウジングに付着して、軸部材の動きに支障が出たり、軸部材やハウジングが損傷したりするおそれがある。
【0018】
しかしながら、本発明では、処理室内で発生したガスがハウジング内で冷えて固化することを、ハウジングの温度制御によって防止するのではなく、ハウジング内に設けた減圧室内の圧力制御によって防止することにした。具体的には、減圧室内の圧力P2を処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)することにより、ガスの固相化温度を下げることで、ガスの固化を防止するようにした。
【0019】
このため、ハウジング、軸部材及びそれらに付属する要素機器は高温にする必要がなく、高温に耐え得る構造を構築する必要がなくなった。また、ハウジング内及びハウジング近傍におけるガスの固化による軸部材の損傷等を防止でき、それ故、処理装置の長寿命化を達成できた。
【0020】
次に、本発明に係る処理装置において、前記圧力制御手段は、前記処理室と前記減圧室との間に設けられたクリアランスシールを有し、該クリアランスシールによってコンダクタンスを下げて前記減圧室内の圧力P2と前記減圧室内の圧力P1との圧力差を保持することができる。クリアランスシールは、一般に、非接触で狭い隙間(例えば、同心円隙間)によりコンダクタンスを小さくする目的のシールである。
【0021】
次に、本発明に係る処理装置において、前記圧力制御手段は、前記減圧室内のガスを外部へ排出する排気手段を有することができる。この構成により、ハウジング内のガスを減圧室を介して外部へ排出できる。
【0022】
次に、本発明に係る処理装置において、前記ガスは塩化アンモニウムであり、前記処理室内の圧力P1は1〜1000Paであり、前記減圧室内の圧力P2は1×10−1Pa以下であることが望ましい。この構成は、半導体製造装置を処理装置とする場合に好適な条件である。
【0023】
次に、本発明に係る処理装置において、前記軸部材は前記外部領域、前記減圧室、前記処理室にわたって設けられており、前記外部領域の圧力はP3であり、前記処理室内圧力P1、前記減圧室内圧力P2及び前記外部領域圧力P3の関係は、
P3>P1>P2
であり、前記減圧室と前記外部領域との間にシール手段が設けられており、該シール手段は前記外部領域圧力P3と前記減圧室内圧力P2との圧力差を保持することができる。
【0024】
この構成は、外部領域と減圧室との圧力が異なる構成であり、特に、外部領域の圧力が減圧室及び処理室のいずれの圧力よりも高い場合である。
【0025】
次に、減圧室と外部領域との間にシール手段を配設した構成を有する本発明に係る処理装置において、前記シール手段は磁性流体を用いた磁性流体シール装置であることが望ましい。磁性流体は、例えば、キャリア流体に界面活性剤と強磁性体粒子を分散させて作製されている。キャリア流体は、例えば、水、ハイドロカーボン、パーフロロポリエーテル等である。界面活性剤は、例えば脂肪酸である。そして、強磁性体粒子はマグネタイト、フェライト等である。
【0026】
磁性流体シール装置は、ポールピース(磁極片)と軸部材との間に磁性流体膜を形成し、軸部材が運動(例えば回転)する場合でも磁性流体膜の形成を維持し、この磁性流体膜によって圧力差を保持するものである。
【0027】
次に、本発明に係る処理装置において、前記処理室内の温度t1と、前記処理室と前記減圧室との間の部分の前記ハウジングの温度t2と、前記外部領域の温度t3との関係は、
t1>t2≧t3
であることが望ましい。この構成により、ハウジング内及びハウジング近傍でガスが固化して付着することを効果的に防止できる。
【0028】
次に、本発明に係る処理装置は、前記処理室と前記減圧室との間に在る部分の前記ハウジングを加熱する加熱手段を有することが望ましく、さらに、その加熱手段は前記処理室内に在るガスの固相気相特性線図上の固相気相境界線に従って、前記処理室と前記減圧室との間に在る部分の前記ハウジングの温度を、前記外部領域の温度(t3)よりも高くすることが望ましい。固相気相特性線図上の固相気相境界線は、ある圧力下に在るガスが固化する際の温度、すなわち固相化温度を規定するものであり、ハウジングの温度をこの固相気相境界線に従って設定しておけば、ハウジングでのガスの固化を確実に防止できる。
【0029】
次に、本発明に係る半導体製造装置は、外部領域内に配置されており固相化温度が圧力によって変化するガスを収容しており室内の圧力がP1である処理室と、該処理室内に設けられており半導体用の基板を支持する基板支持手段と、該処理室に取り付けられたハウジングと、該ハウジングの中を通って前記処理室の中に出ており前記基板支持手段に連結された軸部材と、該軸部材を回転駆動する回転駆動手段と、前記ハウジングの中であって前記軸部材の周りに設けられており前記処理室と空間的につながっている減圧室と、該減圧室内の圧力P2が前記処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)なるように制御する圧力制御手段とを有し、前記処理室内圧力P1、前記減圧室内圧力P2及び前記外部領域圧力P3の関係は、
P3>P1>P2
であり、前記減圧室と前記外部領域との間にシール手段が設けられており、該シール手段は前記外部領域圧力P3と前記減圧室内圧力P2との圧力差を保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、処理室内で発生したガスがハウジング内で冷えて固化することを、ハウジングの温度制御によって防止するのではなく、ハウジング内に設けた減圧室内の圧力制御によって防止することにした。具体的には、減圧室内の圧力P2を処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)することにより、ガスの固相化温度を下げることで、ガスの固化を防止するようにした。このため、ハウジング、軸部材及びそれらに付属する要素機器は高温にする必要がなく、高温に耐え得る構造を構築する必要がなくなった。また、ハウジング内及びハウジング近傍におけるガスの固化により軸部材等が損傷することを防止でき、さらに軸部材及びそれに付属する要素機器の長寿命化が達成できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る処理装置を実施形態に基づいて説明する。本実施形態では、処理装置の一例である半導体製造装置に本発明を適用するものとする。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0032】
図1は、本発明に係る半導体製造装置の正面断面図である。図2は、図1に示す半導体製造装置の主要部であるシール部を構成する磁性流体シール部の拡大図である。図1において矢印Y0−Y0方向が上下方向(すなわち、重力方向)である。図1において、全体を符号1で示す処理装置としての半導体製造装置は、隔壁2によって外部領域Aから隔離されている処理室Bと、隔壁2に取り付けられたシール装置3とを有している。外部領域Aは大気圧P3の領域であり、処理室Bの内部は圧力P1である。
【0033】
シール装置3は、フランジ4を備えたハウジング6と、ハウジング6の内部に設けられた軸受7a,7bと、シール部を構成する磁性流体シール部8とを有している。なお、シール部は磁性流体を用いないシール構造とすることもできる。シール装置3はフランジ4をボルト5その他の締結具によって隔壁2の固定することによって処理室Bに付設されている。ハウジング6は非磁性材料(すなわち、磁界で磁性を帯びない材料)、例えば非磁性ステンレス鋼によって形成されている。
【0034】
なお、図示はしていないが、シール装置3には磁性流体シール部8内の磁性流体が過剰な高温になることを防止するために、冷却装置が設けられる。この冷却装置はハウジング6の全体を冷却するものではないが、しかし、ハウジング6の温度はこの冷却装置による冷却作用の影響を受けて低くなる傾向にある。
【0035】
軸部材としての回転軸9が自身の中心軸線X0を中心として回転(いわゆる、軸回転)可能に、しかし軸方向移動不能に、軸受7a及び7bによって支持されている。回転軸9には回転駆動装置10が連結されている。回転駆動装置10は回転軸9に回転動力を付与する装置であり、例えば、サーボモータ、パルスモータ等といった回転速度を制御可能な電動モータや、ギヤ、ベルト等といった動力伝達要素等を含んで構成されている。
【0036】
ハウジング6の内部であって、磁性流体シール部8と処理室Bとの間の回転軸9の周囲に、空間領域である減圧室Cが軸線X0を中心としたリング状に形成されている。減圧室Cは、排気されることによって差圧が形成されるように動作する室、すなわち差動排気室として機能する。ハウジング6は、減圧室Cと処理室Bとの間で壁厚が厚くなっており、その内周面が回転軸9の近傍まで膨出している。これにより、ハウジング6の内周面によって回転軸9の周囲にクリアランスシール(すなわち、非接触シール)11が形成されている。
【0037】
クリアランスシール11は、ハウジング6の内周面と回転軸9の外周面との間隙を所定の軸方向長さにわたって一定の微小間隙に設定したものであり、処理室Bと減圧室Cとの間でコンダクタンスを小さくして(1/10〜1/10000の圧力比)圧力差を図る機能を奏する。
【0038】
クリアランスシール11を形成しているハウジング6の外周面にヒータ15が設けられている。ヒータ15は通電によって発熱してハウジング6を加熱する。このヒータ15の発熱温度は温度制御回路20によって制御される。磁性流体シール部8を冷却するための冷却装置(図示せず)の影響によってクリアランスシール11の部分のハウジング6の温度が低くなる傾向にあることは既述の通りであるが、ヒータ15はこのようなハウジング6の温度低下を防止するためのものである。なお、場合によっては、ヒータ15は設けなくても良い。
【0039】
減圧室Cは、ハウジング6の内部圧力、特に処理室Bと減圧室Cとの間の部分であるクリアランスシール11部分の圧力を制御するための空間である。
【0040】
回転軸9は磁性材料、すなわち磁界において磁性を帯びる材料、例えば磁性ステンレス鋼によって形成されている。回転軸9は、外部領域A、減圧室C、そして処理室Bにわたって設けられており、その一方の先端部が隔壁2に設けられた開口12を通って処理室B内へ臨出している。そして、その回転軸9の先端に基板支持部材としての支持板13が固定される。支持板13の上には、必要に応じて処理の対象物である半導体装置用の基板14が載置される。
【0041】
減圧室Cの一部には通気管16が設けられており、この通気管16に排気装置17が接続されている。排気装置17はハウジング6の内部のガスを排気する。排気装置17は、本実施形態では、気体搬送管18によって通気管16に接続された排気ポンプであるドライ回転ポンプ19を有する。通気管16から排気ポンプ19へ至る気体搬送管18上にバルブ21及びコールドトラップ22が設けられている。
【0042】
ドライ回転ポンプ19は、油や液体を用いずに内蔵するロータの回転によって排気を行うポンプである。もちろん、必要に応じて他の構造のポンプを用いることができる。バルブ21は、必要に応じて気体搬送管18を開閉する。コールドトラップ22は、気体搬送管18を流れるガスを冷却して固化させて捕獲する機器である。コールドトラップ22は、排気ポンプ19に副生成物が堆積することを防止する。
【0043】
次に、磁性流体シール部8は、図2に示すように、複数(本実施形態では3つ)のポールピース(磁極片)23a,23b,23cと、それらのポールピース間に設けられた磁石(本実施形態では永久磁石)24a,24bと、回転軸9とポールピース23a,23b,23cとの間に充填された磁性流体26とを有する。ポールピース23a,23b,23cは、軸線X0を中心とするリング形状を有する。磁石24a,24bも軸線X0を中心とするリング形状を有する。
【0044】
磁石24a,24bはリング状ではなく、複数のボタン状(すなわち、単体状)のものを回転軸9の断面域内でリング状に配置するようにしても良い。磁石24a,24bは回転軸9の軸方向に沿った片面がN極であり、反対面がS極であり、磁石24aと磁石24bとでは同極が互いに向かい合っている。
【0045】
ポールピース23a,23b,23cの内周面、すなわち回転軸9の外周面に対向する面は、先端が鋭角形状である断面三角形状の多数のエッジ27となっている。エッジ27の軸線X0方向の先端幅は例えば0.2〜0.3mmである。エッジ27の数は中央の最も幅が広いポールピース23bにおいて6〜20個である。すなわち、エッジ27の軸線X0に沿った段数は6〜20段である。エッジ27の先端と回転軸9の外周面との間隔δは、例えば約50μmである。この間隔δ内に磁性流体26がディスペンサによって適量、充填されている。
【0046】
磁性流体26は、例えば、キャリア流体に界面活性剤と強磁性体粒子を分散させて作成されている。キャリア流体は、例えば、水、ハイドロカーボン、パーフロロポリエーテル等である。界面活性剤は、例えば脂肪酸である。そして、強磁性体粒子はマグネタイト、フェライト等である。
【0047】
磁石24a,24bは軸線X0方向の一端面がN極に着磁され、反対面がS極に着磁されている。このため、N極から出た磁力線は、ポールピース23a,23b,23cの片側内部を通り、回転軸9の内部を通り、そしてポールピース23a,23b,23cの他の片側内部を通ってS極へ到達する。これにより、ポールピース23a,23b,23cと回転軸9とにわたって磁気回路が形成され、従って、ポールピース23a,23b,23cと回転軸9との間に磁界が形成される。
【0048】
ポールピース23a,23b,23cのエッジ27と回転軸9との間に充填された上記の磁性流体26は上記の磁界の作用により、エッジ27及び回転軸9表面に磁気的に吸着し、これにより、両者間に磁性流体膜が形成されている。本明細書では、磁性流体及び磁性流体膜の両方を符号26によって示すことにする。エッジ27の先端部は鋭角形状となっているので、エッジ27と回転軸9との間にはエッジ27ごとに磁束が集中しており、これらの集中磁束ごとに磁性流体膜26が形成される。
【0049】
これらの磁性流体膜26は回転軸9が回転する場合でもエッジ27と回転軸9の表面との間に形成され続ける。そして、これらの磁性流体膜26の作用により、減圧室C内の雰囲気すなわち環境(例えば圧力)と、外部領域A内の雰囲気すなわち環境(例えば圧力)との間で回転軸9がシール、すなわち密封、すなわち封止される。例えば、減圧室C内の圧力がP2で外部領域A内の圧力が大気圧P3にそれぞれ維持され、さらに外部領域A内の塵等が減圧室Cへ侵入することが防止される。
【0050】
ポールピース23a,23b,23cのエッジ27と回転軸9は非接触であるので、ポールピース23a,23b,23c、回転軸9及び磁性流体膜26によって形成された磁性流体シール部は長期間にわたって所望のシール機能を維持する。つまり、長寿命のシール機能が達成される。
【0051】
以下、上記構成よりなる半導体製造装置1の動作を説明する。
本実施形態では、図1の半導体製造装置がCVD(Chemical Vapor Deposition)装置として機能するものとする。この場合、外部領域Aの温度は室温、一般的には20℃〜25℃である。外部領域Aの圧力P3は大気圧、すなわち約100kPaである。
【0052】
処理室B内の温度は、図示しない温度制御装置の働きによって、基板14を処理するのに適した700℃〜1000℃に設定される。また、処理室B内の圧力P1は、図示しない減圧装置の作用によって、基板14を処理するのに適した数パスカル、例えば20Paに設定される。
【0053】
クリアランスシール11の周囲の温度は、温度制御回路20によるヒータ15の発熱制御により、室温以上の適宜の温度、例えば120℃以上の温度に設定される。減圧室C内の温度も、ほぼクリアランスシール11の部分と同じである。
【0054】
減圧室C内の圧力P2はクリアランスシール11及び排気装置17の作用により、1×10−1Pa以下に設定される。つまり、半導体製造装置1に関する圧力は、大気圧P3が約100kPa、処理室Bの圧力P1が約0〜1000Pa、そして減圧室Cの圧力P2が約10−1Pa以下であるから、
P3>P1>P2
に設定されている。
【0055】
上記の環境条件の下、回転駆動装置10によって駆動されて回転軸9が所定の回転速度で回転する。これにより、回転軸9に固定された支持板13上に載置された複数の基板14が回転する。処理室Bの内部には、原料ガスとして、SiHとNHの組合せ、又はSiHClとNHの組合せが供給され、基板14上に窒化シリコン(Si)膜が成膜される。
【0056】
以上の処理が行われている間、排気装置17は減圧室C内のガスを外部へ排出すると共に、減圧室C内の圧力を所定の圧力P2に維持する。クリアランスシール11は処理室Bと減圧室Cの圧力差(1/10〜1/10000の圧力比)を維持する。また、磁性流体シール部8内の複数の磁性流体膜26(図2参照)は回転軸9をシール、すなわち軸封して、大気圧P3と減圧室C内の圧力P2との圧力差を維持する。
【0057】
処理室B内において窒化シリコン(Si)膜が成膜されるときには、副生成物として塩化アンモニウム(NHCl)が生成される。この塩化アンモニウムはクリアランスシール11の部分やシール部8にガス状に流れ出る。
【0058】
図3は塩化アンモニウムの固相気相特性図を示している。このデータは「Chemistry and Physics」のCRCハンドブックから入手できるものである。この特性図の横軸は塩化アンモニウムの温度(℃)を示し、縦軸は圧力(Pa)を示している。
【0059】
図3の特性図内に描かれた直線Lが、塩化アンモニウムの固相と液相との境界線を示している。例えば、塩化アンモニウムの周囲圧力が10Paであれば温度120℃付近に気相と液相の境界があり、温度がそれ以下であれば塩化アンモニウムは固相を呈し、温度がそれ以上であれば塩化アンモニウムは気相を呈する。また、塩化アンモニウムが固化する温度は、圧力が0.1Paであれば58℃であり、圧力が0.01Paであれば34℃である。
【0060】
本実施形態においては、図1の排気装置17の作用により、減圧室C内の圧力P2が1×10−1Pa以下程度になるように制御される。つまり、クリアランスシール11の部分や磁性流体シール部8が1×10−1Pa以下の圧力に維持される。そして、シール装置3は磁性流体を冷却するための図示しない冷却装置によって冷却されることがあるが、その場合でもシール装置3は高温である処理室Bに取り付けられていることもあり、シール装置3の全体の温度は固相温度よりも高い温度に保持される。
【0061】
従って、図3の特性図に従えば、シール装置3に流れ出た塩化アンモニウムのガスは、気相状態を維持し、固化しない。そして、このガスは減圧室Cの所で排気装置17によって引かれてハウジング6の外部へ排出される。以上により、処理室B内にあった塩化アンモニウムのガスは冷却によって固化されることなく、従って、クリアランスシール11や、その他のハウジング6の内部に付着することなく、外部へ排出される。
【0062】
以上のように本実施形態によれば、塩化アンモニウムガスが冷えて固化するのを防止することを、シール装置3の温度制御によって行うのではなく、ハウジング6の内部、例えば減圧室C内の圧力を図3に示す固相気相特性線図に基づいて固相圧力以下に制御することにより、ガスの固相化温度を下げることによって達成できる。このため、ハウジング6、軸部材9、及びそれらに付属する要素機器である磁性流体シール部8は高温にする必要がなく、それらを耐高温性の構造として構築する必要がなくなった。また、ハウジング6内及びその近傍におけるガスの固化による軸部材9の損傷等の防止、及び軸部材9及び磁性流体シール部8の長寿命化ができるようになった。
【0063】
なお、図1において、隔壁2の温度が低い場合には、ハウジング6の温度が固相化温度より下がってしまうおそれもある。クリアランスシール11を形成するハウジング6の外周面に設けたヒータ15は、ハウジング6の温度が低くなり過ぎることを防止して、ガスの固化を防止するためのものである。
【0064】
ヒータ15は、ハウジング6の温度を、外部領域Aの温度(すなわち、室温)より高い温度、例えば120℃以上の適宜の温度となるように制御する。120℃というのは、図3の特性図から分かるように、処理室B内の圧力である10Paに対応した塩化アンモニウムガスの固相化温度であり、従って、ハウジング6の温度をこの温度以上に保持すれば、ガスの固化、従ってハウジング6等への固化物の付着を確実に防止できる。
【0065】
(他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では、処理室B内の圧力が10Paであることを勘案して図3の境界線Lに従ってハウジング6の温度を120℃以上に調整することにしたが、これに代えて、処理室Bと減圧室Cとの間の部分であるクリアランスシール11部分に在るガスの固相気相特性が図3の固相気相特性線図上の気相領域(GAS PHASE)に入るように、減圧室C内の圧力P2をクリアランスシール11によって調整し、さらにハウジング6の温度をヒータ15及び温度制御回路20によって調整するように構成できる。
【0066】
また、本発明は半導体製造装置以外の処理装置にも適用できる。図1において、ヒータ15は必ずしも用いなくても良い。シール部8は磁性流体を用いない構成のシール装置によって形成することもできる。図1では外部領域Aが大気圧領域であったが、外部領域Aは大気圧以外の圧力領域である場合もある。図1では軸部材9が回転軸であったが、場合によっては直動軸であることもある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る処理装置の一実施形態を示す正面断面図である。
【図2】図1の処理装置の要部であるシール部を拡大して示す図である。
【図3】図1の処理装置の処理室で発生する塩化アンモニウムの固相気相特性線図を示す図である。
【図4】従来の回転導入装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1.半導体製造装置(処理装置)、 2.隔壁、 3.シール装置、 4.フランジ、
5.ボルト、 6.ハウジング、 7a,7b.軸受
8.磁性流体シール部(シール部)、 9.回転軸(軸部材)、
11.クリアランスシール(非接触シール)、 12.開口、
13.支持板(基板支持手段)、 14.基板、 15.ヒータ、 16.通気管、
17.排気装置、 18.気体搬送管、 19.排気ポンプ、 21.バルブ、
22.コールドトラップ、 23a,23b,23c.ポールピース、
24a,24b.磁石、 26.磁性流体、 27.エッジ、 X0.軸線 δ.間隙、
A.外部領域、 B.処理室、 C.減圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部領域内に配置されており、固相化温度が圧力によって変化するガスを収容しており、室内の圧力がP1である処理室と、
該処理室に取り付けられたハウジングと、
該ハウジングの中を通って前記処理室の中に出ている軸部材と、
前記ハウジングの中であって前記軸部材の周りに設けられており前記処理室と空間的につながっている減圧室と、
該減圧室内の圧力P2が前記処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)なるように制御する圧力制御手段と、
を有することを特徴とする処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の処理装置において、
前記圧力制御手段は、前記処理室と前記減圧室との間に設けられたクリアランスシールを有し、
該クリアランスシールによって前記減圧室内の圧力P2と前記処理室内の圧力P1との圧力差が保持される
ことを特徴とする処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の処理装置において、前記減圧室内のガスを外部へ排出する排気手段を有することを特徴とする処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の処理装置において、前記ガスは塩化アンモニウムであり、前記処理室内の圧力P1は1〜1000Paであり、前記減圧室内の圧力P2は1×10−1Pa以下であることを特徴とする処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の処理装置において、
前記軸部材は前記外部領域、前記減圧室、前記処理室にわたって設けられており、
前記外部領域の圧力はP3であり、
前記処理室内圧力P1、前記減圧室内圧力P2及び前記外部領域圧力P3の関係は、
P3>P1>P2
であり、
前記減圧室と前記外部領域との間にシール手段が設けられており、該シール手段は前記外部領域圧力P3と前記減圧室内圧力P2との圧力差を保持する
ことを特徴とする処理装置。
【請求項6】
請求項5記載の処理装置において、前記シール手段は前記外部領域と前記減圧室とを磁性流体によって遮蔽する磁性流体シール部であることを特徴とする処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の処理装置において、
前記処理室内の温度t1、前記処理室と前記減圧室との間の部分の前記ハウジング内の温度t2、外部領域の温度t3との関係は、
t1>t2≧t3
であることを特徴とする処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の処理装置において、
前記処理室と前記減圧室との間の部分の前記ハウジングを加熱する加熱手段を有し、
該加熱手段は前記処理室内に在るガスの固相気相特性線図上の固相気相境界線に従って、前記処理室と前記減圧室との間に在る部分の前記ハウジングの温度を、前記外部領域の温度よりも高くする
ことを特徴とする処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の処理装置において、
前記処理室と前記減圧室との間の部分の前記ハウジングを加熱する加熱手段を有し、
前記圧力制御手段及び前記加熱手段は、前記処理室と前記減圧室との間の部分に在るガスの固相気相特性が前記固相気相特性線図上の気相領域に入るように、それぞれ、前記減圧室内の圧力P2及び前記ハウジングの温度を調整する
ことを特徴とする処理装置。
【請求項10】
外部領域内に配置されており、固相化温度が圧力によって変化するガスを収容しており、室内の圧力がP1である処理室と、
該処理室内に設けられており半導体用の基板を支持する基板支持手段と、
前記処理室に取り付けられたハウジングと、
該ハウジングの中を通って前記処理室の中に出ており、前記基板支持手段に連結された軸部材と、
該軸部材を回転駆動する回転駆動手段と、
前記ハウジングの中であって前記軸部材の周りに設けられており前記処理室と空間的につながっている減圧室と、
該減圧室内の圧力P2が前記処理室内の圧力P1よりも低く(P1>P2)なるように制御する圧力制御手段とを有し、
前記処理室内圧力P1、前記減圧室内圧力P2及び前記外部領域圧力P3の関係は、
P3>P1>P2
であり、
前記減圧室と前記外部領域との間にシール手段が設けられており、該シール手段は前記外部領域圧力P3と前記減圧室内圧力P2との圧力差を保持する、
ことを特徴とする半導体製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−98164(P2010−98164A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268460(P2008−268460)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】