説明

制動制御装置

【課題】ブレーキ操作力が倍力限界点を越える場合に、ブレーキ操作力の変化に対する剛性感の不足及び減速度の大きな変化を抑制する。
【解決手段】アシスト液圧PAが加わらない状態におけるブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係として、ブレーキ操作力増大時における第1相関関係S1と、ブレーキ操作力減少時におけるヒステリシスを付与した後の第2相関関係S2とを有し、倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された際に、アシスト液圧PAが加えられ、ブレーキ操作力減少時に、ヒステリシスが付与され、アシスト液圧PAが減少して、アシスト液圧PAが解消するときのブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係が第2相関関係S2になるように、アシスト液圧制御手段がアシスト液圧PAを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倍力装置がブレーキ操作力を所定の倍力比で増幅しなくなる倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、アシスト液圧をマスタシリンダ液圧に加えるアシスト液圧制御手段を備えた制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制動制御装置では、マスタシリンダが、ブレーキ操作力を倍力装置にて増幅した力によりマスタシリンダ液圧を発生し、そのマスタシリンダ液圧が各ホイールシリンダに付与される。しかしながら、倍力装置がブレーキ操作力を所定の倍力比で増幅しなくなる倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されると、目標とするホイールシリンダ圧力に対してマスタシリンダ液圧が不足することになる。
そこで、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合には、アシスト液圧制御手段が、マスタシリンダ液圧に加圧するアシスト液圧をブレーキ操作力検出手段の検出情報に基づいて演算し、当該アシスト液圧をマスタシリンダ液圧に加えるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図7は、従来の制動制御装置におけるホイールシリンダ圧力PWCとブレーキ操作力Fとの関係を示している。倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与されたときのマスタシリンダ液圧PMCの変化を図中点線にて示している。
倍力限界点T1に達する前のブレーキ操作力が付与された場合には、アシスト液圧が加わらない。このときのブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係として、ブレーキ操作力増大時における第1相関関係S1と、ブレーキ操作力減少時におけるヒステリシスを付与した後の第2相関関係S2と、第1相関関係S1と第2相関関係S2との間を繋ぐ中間相関関係S3とを有している。中間相関関係S3は、例えば、第1相関関係S1よりも緩慢にホイールシリンダ圧力が低下するように構成している。
【0004】
第1相関関係S1の途中でブレーキ操作力が減少するときには、中間相関関係S3におけるブレーキ操作量の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係と同一の関係でホイールシリンダ圧力が減少したのち、第2相関関係S2に基づいてホイールシリンダ圧力が低下するように構成している。第2相関関係S2の途中でブレーキ操作力が増大するときには、ホイールシリンダ圧力を一定に維持したのち、第1相関関係S1に基づいてホイールシリンダ圧力が増大するように構成している。
【0005】
倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された際に、アシスト液圧制御手段が、まず、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを求め、その求めたホイールシリンダ圧力PWCとマスタシリンダ液圧PMCとの差に基づいてアシスト液圧PAを演算し、その演算したアシスト液圧PAを加える。アシスト液圧の制御については、ブレーキ操作力増大時に、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が第1相関関係S1を維持するように、第1相関関係S1を延長した第1相関関係延長部分S1aに基づいてアシスト液圧制御手段がアシスト液圧を制御する。また、ブレーキ操作力減少時にも、ブレーキ操作力増大時と同様に、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が第1相関関係S1を維持するように、第1相関関係S1を延長した第1相関関係延長部分S1aに基づいてアシスト液圧制御手段がアシスト液圧を制御する。
【0006】
【特許文献1】特開2006−192945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の制動制御装置では、ブレーキ操作力が増大から減少に移行したときのブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が、倍力限界点T1に達する前のブレーキ操作力が付与された場合と倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された場合とで異なる。倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された場合には、第1相関関係延長部分S1aであるのに対して、倍力限界点T1に達する前のブレーキ操作力が付与された場合には、第1相関関係S1よりも緩慢にホイールシリンダ圧力が低下する中間相関関係S3である。したがって、ブレーキ操作力のふらつき等によりブレーキ操作力が増大から減少に移行した場合に、倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与されたときの方が、倍力限界点T1に達する前のブレーキ操作力が付与されたときに比べて、ホイールシリンダ圧力が大きく変化する。その為に、倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与されたときには、ブレーキ操作力の変化に対して機敏にホイールシリンダ圧力が変化し易くなり、ブレーキ操作力の変化に対する剛性感が不足する虞がある。
【0008】
また、従来の制動制御装置では、倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された場合のブレーキ操作力減少時には、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が、アシスト液圧が解消するまでは第1相関関係延長部分S1aとなり、アシスト液圧が解消した後は中間相関関係S3となり、更にその後第2相関関係S2となる。したがって、ブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係が、アシスト液圧が解消する前後で変化し、更にアシスト液圧が解消した後にも変化するので、大きく変化することになる。その為に、減速度が大きく変化して運転者に違和感を与えてしまう虞がある。
【0009】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときに、ブレーキ操作力の変化に対する剛性感が不足するのを抑制できるとともに、減速度が大きく変化するのを抑制できる制動制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係る制動制御装置の特徴構成は、ブレーキ操作力を倍力装置により増幅してマスタシリンダ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダ液圧を各車輪のホイールシリンダに付与する液圧回路と、前記ブレーキ操作力を検出するブレーキ操作力検出手段と、前記倍力装置が前記ブレーキ操作力を所定の倍力比で増幅しなくなる倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、前記マスタシリンダ液圧に加圧するアシスト液圧を前記ブレーキ操作力検出手段の検出情報に基づいて演算し、当該アシスト液圧を前記マスタシリンダ液圧に加えるアシスト液圧制御手段とを備え、前記アシスト液圧が加わらない状態におけるブレーキ操作力と前記ホイールシリンダに付与するホイールシリンダ圧力との関係として、ブレーキ操作力増大時における第1相関関係と、ブレーキ操作力減少時におけるヒステリシスを付与した後の第2相関関係とを有する制動制御装置であって、前記倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された際に、前記アシスト液圧制御手段によってアシスト液圧が加えられ、ブレーキ操作力減少時に、ヒステリシスが付与され、前記アシスト液圧が減少して、前記アシスト液圧が解消するときの前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第2相関関係になるように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する点にある。
【0011】
本構成によれば、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、ブレーキ操作力減少時には、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係に、ブレーキ操作力増大時よりもブレーキ操作力の変化量に対するホイールシリンダ圧力の変化量を小さくするようにヒステリシスが付与されている。したがって、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された際に、ブレーキ操作力が増大から減少に移行した場合に、ブレーキ操作力の減少量に対するホイールシリンダ圧力の減少量を小さくできる。その結果、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときに、ブレーキ操作力のふらつき等によりブレーキ操作力が増大から減少に移行した場合に、ホイールシリンダ圧力が大きく変化するのを抑制でき、ブレーキ操作力の変化に対する剛性感が不足するのを抑制できる。
【0012】
また、本構成によれば、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合のブレーキ操作力減少時には、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が、アシスト液圧が解消するときに第2相関関係になり、アシスト液圧が解消した後は第2相関関係に維持される。したがって、ブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係を、アシスト液圧が解消する前後で滑らかに変化させることができ、しかもアシスト液圧が解消した後は一定にできる。その結果、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときに、ブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係が大きく変化するのを抑制でき、減速度が大きく変化するのを抑制できる。
【0013】
本発明に係る制動制御装置の更なる特徴構成は、前記アシスト液圧が解消するときには、前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第2相関関係を維持しながら前記アシスト液圧が減少したのち、前記アシスト液圧が解消するように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する点にある。
【0014】
本構成によれば、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合のブレーキ操作力減少時には、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係が、アシスト液圧が解消する以前から第2相関関係になり、その第2相関関係を維持したままアシスト液圧が解消する。したがって、ブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係を、アシスト液圧が解消する前後で一定にでき、減速度の変化を効果的に抑制できる。
【0015】
本発明に係る制動制御装置の更なる特徴構成は、前記倍力限界点を越えてブレーキ操作力が付与された際に、ブレーキ操作力が増大するときには、前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第1相関関係を維持するように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する点にある。
【0016】
本構成によれば、ブレーキ操作力増大時には、ブレーキ操作力が倍力限界点を越えない場合も、ブレーキ操作力が倍力限界点を越える場合も、ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係を第1相関関係に維持する。したがって、アシスト液圧を加える前後でのブレーキ操作力の増加に対するホイールシリンダ圧力の増加の関係を一定に保つことできる。その結果、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときに、ブレーキ操作力増大時にも、減速度が大きく変化するのを抑制できる。
【0017】
本発明に係る制動制御装置の更なる特徴構成は、前記アシスト液圧制御手段によって付与されるヒステリシスにおいて、当該ヒステリシスが有する前記ブレーキ操作力の減少に対する前記ホイールシリンダ圧力の減少の関係を、ブレーキ操作力が前記倍力限界点を超えない場合に付与されるヒステリシスの前記関係と等しく設定している点にある。
【0018】
本構成によれば、ヒステリシスが有するブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係を、ブレーキ操作力が倍力限界点を越えない場合も、ブレーキ操作力が倍力限界点を越える場合も、同一の関係としている。したがって、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときも、倍力限界点に達する前のブレーキ操作力が付与されたときも、ブレーキ操作力に対する減速度の感覚として同じ感覚を運転者に与えることができる。
【0019】
本発明に係る制動制御装置の更なる特徴構成は、前記ブレーキ操作力検出手段として、前記ブレーキ操作力に基づく前記マスタシリンダ液圧を検出するマスタシリンダ液圧検出手段を設けている点にある。
【0020】
マスタシリンダ液圧はブレーキ操作力に応じて変化するので、マスタシリンダ液圧検出手段によって、ブレーキ操作力に基づくマスタシリンダ液圧を検出できる。したがって、アシスト液圧を演算するためとマスタシリンダ液圧を検出するためとの両方でマスタシリンダ液圧検出手段を用いることができ、構成の簡素化を図ることができる。
また、既にマスタシリンダ液圧検出手段を設けているものもある。したがって、既設のマスタシリンダ液圧検出手段を用いてアシスト液圧を演算することもでき、ブレーキ操作力検出手段としての新たな部材の追加を抑制できる。
【0021】
本発明に係る制動制御装置の更なる特徴構成は、前記ブレーキ操作力検出手段として、ブレーキペダルにかかる踏力を検出する踏力検出手段を設けている点にある。
【0022】
本構成では、踏力検出手段にてブレーキ操作力としての踏力を検出する。踏力検出手段を用いることにより、アシスト液圧制御手段が、単に、第1相関関係及び第2相関関係を設定しておくだけでアシスト液圧を演算できる。したがって、アシスト液圧を演算するために、第1相関関係及び第2相関関係に対応する別の関係を設定しておく必要がなく、構成の簡素化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る制動制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
この制動制御装置は、図1に示すように、ブレーキ操作力を倍力装置1により増幅してマスタシリンダ液圧を発生するマスタシリンダ2と、マスタシリンダ液圧を各車輪のホイールシリンダ3に付与する液圧回路4とを有している。
車輪は、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RLの4輪設けてあり、各車輪FR,FL,RR,RLにホイールシリンダ3FR,3FL,3RR,3RLを設けている。液圧回路4は、マスタシリンダ2にて発生したマスタシリンダ液圧を各ホイールシリンダ3に付与するように構成している。
【0024】
マスタシリンダ2は、2つの液圧室5を設けたタンデム型のシリンダである。マスタシリンダ2は、2つの液圧室5の夫々において、マスタシリンダ液圧を発生する。マスタシリンダ2の2つの液圧室5の夫々と連通するマスタリザーバ7を設けている。マスタリザーバ7は、マスタシリンダ2にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ2の余剰のブレーキ液を貯留する。
【0025】
倍力装置1は、エンジンの吸気負圧を利用したバキュームブースタにて構成している。図示は省略するが、倍力装置1は、2つの室を有しており、ブレーキペダル6によりブレーキ操作力が付与されると、一方の室を大気圧室とし且つ他方の室をエンジンの吸気負圧を利用して負圧室とするように構成している。そして、倍力装置1は、大気圧室と負圧室との圧力差により、ブレーキ操作力を増幅した力でマスタシリンダ2のピストンロッドを押圧するように構成している。
【0026】
液圧回路4は、マスタシリンダ2の一方の液圧室5aと右側後輪RRのホイールシリンダ3RR及び左後輪RLのホイールシリンダ3RLとを連通する第1液圧回路4aと、マスタシリンダ2の他方の液圧室5bと右前輪FRのホイールシリンダ3FR及び左前輪FLのホイールシリンダ3FLとを連通する第2液圧回路4bとから構成している。
【0027】
第1液圧回路4aには、連通位置と差圧位置との2位置に切換自在な比例差圧弁8aが設けられている。比例差圧弁8aは、差圧位置において、マスタシリンダ2側の液圧よりもホイールシリンダ3側の液圧の方が高い液圧となるように、マスタシリンダ2側の液圧とホイールシリンダ3側の液圧との間に差圧を発生させるように構成している。比例差圧弁8aは、差圧位置においてその開度を調整することにより、マスタシリンダ2側の液圧とホイールシリンダ3側の液圧との圧力差を調整自在に構成している。比例差圧弁8aに対して並列に、マスタシリンダ2側からホイールシリンダ3側へのブレーキ液の流れを許容し且つ逆方向の流れを禁止する差圧用逆止弁9aを設けている。差圧用逆止弁9aは、比例差圧弁8aが閉じ状態であっても、マスタシリンダ2側からホイールシリンダ3側へのブレーキ液の流れを許容してマスタシリンダ液圧をホイールシリンダ3に付与するようにしている。
【0028】
第1液圧回路4aは、比例差圧弁8aよりもホイールシリンダ3側が第1分岐路10aと第2分岐路11aとに分岐され、第1分岐路10a及び第2分岐路11aの夫々がホイールシリンダ3RR,3RLの夫々に接続されている。第1分岐路10aには、連通位置と遮断位置との2位置に切換自在で常開の第1常開制御弁12aを設けている。第1常開制御弁12aに対して並列に、ホイールシリンダ3側からマスタシリンダ2側へのブレーキ液の流れを許容し且つ逆方向の流れを禁止する第1逆止弁13aを設けている。第2分岐路11aには、第1分岐路10aと同様に、第1常開制御弁10aに対応する第2常開制御弁14aと第1逆止弁13aに対応する第2逆止弁15aとを設けている。
【0029】
第1分岐路10aの第1常開制御弁12aよりもホイールシリンダ3側から分岐された流路部分と第2分岐路11aの第2常開制御弁14aよりもホイールシリンダ3側から分岐された流路部分とが合流する分岐合流路16aを設けている。分岐合流路16aにおいて第1分岐路10aから分岐された流路部分には、連通位置と遮断位置との2位置に切換自在で常閉の第1常閉制御弁17aを設けている。また、第2分岐路11aから分岐された流路部分にも、連通位置と遮断位置との2位置に切換自在で常閉の第2常閉制御弁18aを設けている。分岐合流路16aの合流部分には、液圧ポンプ19a、第3逆止弁20a、ダンパ21aを順に設け、第1液圧回路4aにおける比例差圧弁8aと第1常開制御弁12a及び第2常開制御弁14aとの間に接続している。液圧ポンプ19aは、モータ23により回転駆動されて、ブレーキ液を所定の圧力に加圧して吐出するように構成している。分岐合流路16aにおいて、第1常閉制御弁17a及び第2常閉制御弁18aと液圧ポンプ19aとの間にはリザーバ22aを設けている。リザーバ22aは、第1液圧回路4aにおけるマスタシリンダ2と比例差圧弁8aとの間に接続している。
【0030】
以上、液圧回路4における第1液圧回路4aの構成について説明したが、第1液圧回路4aと第2液圧回路4bとは同様の構成としており、第2液圧回路4bにも、第1液圧回路4aと同様の部材を設けている。つまり、第2液圧回路4bにも、比例差圧弁8b、第1常開制御弁12b、第2常開制御弁14b、第1常閉制御弁17b、第2常閉制御弁18b、液圧ポンプ19b等の各部材を設けている。同一の部材については、第1液圧回路4aに設けた部材に対して算用数字の後に「a」を付しており、第2液圧回路4bに設けた部材に対して算用数字の後に「b」を付している。
以下、第1液圧回路4aに設けた部材と第2液圧回路4bに設けた部材との両方を示す場合には、算用数字の後の「a」及び「b」を省略して説明する。
【0031】
モータ23については、単一のモータ23により第1液圧回路4aに設けた液圧ポンプ19aと第2液圧回路4bに設けた液圧ポンプ19bとを回転駆動するように構成している。
車輪の車輪速度を検出する車輪速センサ25と、ブレーキペダル6にかかる踏力を検出する操作状態検出センサ26と、マスタシリンダ液圧を検出する液圧センサ27とを設けている。車輪速センサ25は、右前輪FRに対応する車輪速センサ25FR、左前輪FLに対応する車輪速センサ25FL、右後輪RRに対応する車輪速センサ25RR及び左側後輪RLに対応する車輪速センサ25RLから構成してあり、各車輪速センサ25にて各車輪の車輪速度を各別に検出している。この実施形態では、液圧センサ27を第1液圧回路4aに設けているが、第2液圧回路4bに設けることもできる。
【0032】
図2に示すように、電子制御ユニット24には、車輪速センサ25、操作状態検出センサ26、液圧センサ27の夫々の検出信号が入力されるように構成している。電子制御ユニット24は、CPU、ROM、RAM、入出力部を備えたマイクロコンピュータにて構成している。電子制御ユニット24は、車輪速センサ25、操作状態検出センサ26、液圧センサ27の夫々の検出信号に基づいて、比例差圧弁8、第1常開制御弁12、第2常開制御弁14、第1常閉制御弁17、第2常閉制御弁18、モータ23の夫々の作動を制御することにより、各ホイールシリンダ3に付与するホイールシリンダ圧力を制御するように構成している。
【0033】
例えば、右後輪RRのホイールシリンダ3RRに付与するホイールシリンダ圧力を制御する場合について説明する。
ホイールシリンダ圧力を増圧するときには、電子制御ユニット24が、モータ23の作動により液圧ポンプ19aを作動させ且つ比例差圧弁8aを制御するとともに、図1に示すように、第1常開制御弁12aを連通位置とし且つ第1常閉制御弁17aを遮断位置とする。ホイールシリンダ圧力を保持するときには、電子制御ユニット24が、第1常開制御弁12aを遮断位置に切り換え且つ第1常閉制御弁17aを遮断位置とする。ホイールシリンダ圧力を減圧するときには、電子制御ユニット24が、第1常開制御弁12aを遮断位置に切り換え且つ第1常閉制御弁17aを連通位置に切り換える。
【0034】
液圧回路4においてマスタシリンダ液圧に加圧するアシスト液圧を発生するアシスト液圧発生手段Dが、モータ23、液圧ポンプ19及び比例差圧弁8から構成しており、加圧装置を液圧ポンプ19にて構成している。
電子制御ユニット24が、モータ23により液圧ポンプ19を回転駆動した状態において、比例差圧弁8を差圧位置に切り換えることにより、マスタシリンダ2側の液圧よりもホイールシリンダ3側の液圧の方を高い液圧として、マスタシリンダ液圧にアシスト液圧を加圧するように構成している。液圧ポンプ19の回転速度及び差圧位置に切り換えた比例差圧弁8の開度を調整することにより、アシスト液圧の大きさを調整自在に構成している。
【0035】
図3は、ホイールシリンダ3に付与するホイールシリンダ圧力PWCとブレーキ操作力Fとの関係を示している。倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与されたときのマスタシリンダ液圧PMCの変化を図中点線にて示している。
ここで、倍力限界点T1とは、倍力装置1がブレーキ操作力を所定の倍力比で倍力できなく限界点である。倍力限界点T1に達する前のブレーキ操作力Fにおいては、倍力装置1がブレーキ操作力Fを所定の倍力比で増幅した力によりマスタシリンダ液圧を発生し、そのマスタシリンダ液圧がホイールシリンダ圧力として各ホイールシリンダ3に付与している。
【0036】
アシスト液圧が加わらない状態におけるブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係として、ブレーキ操作力増大時における第1相関関係S1と、ブレーキ操作力減少時におけるヒステリシスを付与した後の第2相関関係S2と、第1相関関係S1と第2相関関係S2との間を繋ぐ中間相関関係S3とを有している。この実施形態では、中間相関関係S3を、第1相関関係S1よりも緩慢にホイールシリンダ圧力が低下するように構成している。
第1相関関係S1、第2相関関係S2、中間相関関係S3の夫々は、倍力装置1及びマスタシリンダ2の特性により一義的に設定している。
【0037】
第1相関関係S1の途中でブレーキ操作力Fが減少するときには、中間相関関係S3におけるブレーキ操作量Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配と同一の勾配でホイールシリンダ圧力PWCが減少したのち、第2相関関係S2に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが低下するように構成している。第2相関関係S2の途中でブレーキ操作力Fが増大するときには、ホイールシリンダ圧力PWCを一定に維持したのち、第1相関関係S1に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが増大するように構成している。
【0038】
電子制御ユニット24は、倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、マスタシリンダ液圧に加圧するアシスト液圧を演算し、その求めたアシスト液圧をマスタシリンダ液圧に加えるアシスト液圧制御手段28を備えている。
倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力Fが付与された場合に、アシスト液圧制御手段28は、まず、ブレーキ操作力Fに基づいて目標とするホイールシリンダ圧力PMCを演算し、次に、その演算したホイールシリンダ圧力PMCに対してマスタシリンダ液圧PMCが不足するアシスト液圧PAを演算する。そして、アシスト液圧制御手段28は、演算したアシスト液圧PAを発生させるべく、アシスト液圧発生手段Dの作動を制御する。アシスト液圧制御手段28は、モータ23により液圧ポンプ19を回転駆動させてその回転速度を調整するとともに、比例差圧弁8を差圧位置に切り換えてその開度を調整することにより、演算したアシスト液圧PAを発生する。ちなみに、アシスト液圧制御手段28が、液圧ポンプ19を一定の回転速度で回転駆動させた状態で、比例差圧弁8を差圧位置に切り換えてその開度を調整することにより、演算したアシスト液圧PAを発生することもできる。
【0039】
電子制御ユニット24は、例えば、倍力限界点T1における倍力限界圧を記憶しており、マスタシリンダ液圧PMCがその倍力限界圧に達することにより、倍力限界点T1を検出している。アシスト液圧制御手段28は、倍力限界点T1を検出することにより倍力限界点T1を越えるブレーキ操作力が付与されたとして、目標とするホイールシリンダ圧力及びアシスト液圧の演算を行い、その演算したアシスト液圧を発生する。アシスト液圧制御手段28は、演算したアシスト液圧PAがゼロになると、アシスト終了点T2に達したとして、アシスト液圧発生手段Dを作動停止させてアシスト液圧の付与を解消する。
【0040】
図3に基づいてアシスト液圧PAについて説明する。
図3において、S1aは第1相関関係S1を延長した第1相関関係延長部分であり、S2aは第2相関関係S2を延長した第2相関関係延長部分である。また、第1相関関係延長部分S1aと第2相関関係延長部分S2aとの間を繋ぐ緩慢相関関係S4を有している。この実施形態では、緩慢相関関係S4を第1相関関係延長部分S1aよりも緩慢にホイールシリンダ圧力が低下するように構成している。
【0041】
ブレーキ操作力が増大するときには、アシスト液圧制御手段28が、第1相関関係延長部分S1aに基づいてアシスト液圧を制御する。このように、ブレーキ操作力が増大するときには、ブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係が第1相関関係S1を維持するように、アシスト液圧制御手段28がアシスト液圧を制御する。ブレーキ操作力増大時には、ブレーキ操作力が倍力限界点T1を越えない場合も、ブレーキ操作力が倍力限界点T1を越える場合も、ブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係を第1相関関係S1に維持している。したがって、アシスト液圧を加える前後でのブレーキ操作力Fの増加に対するホイールシリンダ圧力PWCの増加の勾配を一定に保つことができ、減速度の変化を抑制できる。
【0042】
ブレーキ操作力が減少するときには、アシスト液圧制御手段28が、緩慢相関関係S4に基づいてアシスト液圧を制御したのち、第2相関関係延長部分S2aに基づいてアシスト液圧を制御する。このように、ブレーキ操作力が減少するときには、ブレーキ操作力増大時よりもブレーキ操作力の変化量に対するホイールシリンダ圧力の変化量を小さくするようにヒステリシスが付与され、ブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係が第2相関関係S2を維持しながらアシスト液圧が減少したのち、アシスト液圧が解消するように、アシスト液圧制御手段28がアシスト液圧を制御する。
【0043】
ブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係にヒステリシスを付与することによりブレーキ操作力Fが増大から減少に移行した場合に、ブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量を小さくできる。したがって、ブレーキ操作力Fのふらつき等によりブレーキ操作力Fが増大から減少に移行しても、ホイールシリンダ圧力PWCの変化量を極力抑えることができ、ブレーキ操作力Fの変化に対する剛性感が不足するのを防止できる。しかも、ブレーキ操作力減少時には、ブレーキ操作力Fとホイールシリンダ圧力PWCとの関係が、アシスト液圧が解消する以前から第2相関関係S2になり、その第2相関関係S2を維持したままアシスト液圧が解消し、アシスト液圧が解消した後も第2相関関係S2に維持される。したがって、ブレーキ操作力Fの減少に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少の勾配を、アシスト液圧が解消する前後で変化がなく、しかもアシスト液圧が解消した後も一定にできる。その結果、ブレーキ操作力Fの減少に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少の勾配が大きく変化せず、減速度の変化を確実に抑制できる。
【0044】
また、緩慢相関関係S4におけるブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配を、中間相関関係S3におけるブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配と同一に設定している。このように、アシスト液圧制御手段29によって付与されるヒステリシスにおいて、当該ヒステリシスが有するブレーキ操作力Fの減少に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少の関係を、ブレーキ操作力Fが倍力限界点T1を超えない場合に付与されるヒステリシスの前記関係と等しく設定してある。ヒステリシスが有するブレーキ操作力の減少に対するホイールシリンダ圧力の減少の関係を、ブレーキ操作力が倍力限界点を越えない場合も、ブレーキ操作力が倍力限界点を越える場合も、同一の関係としている。したがって、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときも、倍力限界点に達する前のブレーキ操作力が付与されたときも、ブレーキ操作力に対する減速度の感覚として同じ感覚を運転者に与えることができる。
【0045】
以下、アシスト液圧PAの演算について説明する。
アシスト液圧制御手段28は、まず、ブレーキ操作力Fに基づいて目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。アシスト液圧制御手段28は、ブレーキ操作力増大時には、第1相関関係延長部分S1aに基づいてホイールシリンダ圧力PWCが増大し、ブレーキ操作力減少時には、緩慢相関関係S4に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが低下したのち第2相関関係延長部分S2aに基づいてホイールシリンダ圧力PWCが低下するように、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。
【0046】
アシスト液圧制御手段28は、第1相関関係延長部分S1aの途中でブレーキ操作力Fが減少するときには、図3中一点鎖線で示すように、緩慢相関関係S4におけるブレーキ操作量Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配と同一の勾配でホイールシリンダ圧力PWCが減少したのち、第2相関関係S2に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが低下するように、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。また、第2相関関係延長部分S2aの途中でブレーキ操作力Fが増大するときには、ホイールシリンダ圧力PWCを一定に維持したのち、第1相関関係延長部分S1aに基づいてホイールシリンダ圧力PWCが増大するように、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。
【0047】
このようにして、アシスト液圧制御手段28は、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算すると、その演算したホイールシリンダ圧力PWCとマスタシリンダ液圧PMCとの差によりアシスト液圧PAを演算する。
【0048】
この実施形態では、ブレーキ操作力Fを検出するブレーキ操作力検出手段として、ブレーキ操作力Fに基づくマスタシリンダ液圧を検出するマスタシリンダ液圧検出手段を設けている。このマスタシリンダ液圧検出手段を液圧センサ27にて構成している。
そこで、アシスト液圧を加える際の目標とするホイールシリンダ圧力PWCの演算については、アシスト液圧制御手段28は、図4に示すように、液圧センサ27の検出情報に基づいて、第1相関関係延長部分、緩慢相関関係及び第2相関関係延長部分の夫々に対応するマスタシリンダ液圧PMCとホイールシリンダ圧力PWCとの相関関係の夫々により目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。
図4において、第1マップM1が第1相関関係延長部分S1aに対応し、第2マップM2が第2相関関係延長部分S2aに対応し、緩慢マップM4が緩慢相関関係S4に対応する。緩慢マップM4の勾配は、第1マップM1及び第2マップM2以外におけるマスタシリンダ液圧PMCとホイールシリンダ圧力PWCとの相関関係の勾配と同一の勾配となるように設定している。
【0049】
アシスト液圧制御手段28は、マスタシリンダ液圧PMC増大時には、第1マップM1に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが増大し、マスタシリンダ液圧PMC減少時には、緩慢マップM4に基づいてホイールシリンダ圧力PWCが低下したのち第2マップM2に基づいてホイールシリンダ圧力が低下するように、目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。
【0050】
アシスト液圧制御手段28は、ホイールシリンダ圧力PWC及びアシスト液圧PAの演算を所定周期で繰り返し行うように構成している。以下、図5のフローチャートに基づいて説明する。
アシスト液圧制御手段28は、液圧センサ27の検出信号からマスタシリンダ液圧PMCを取得し、その取得したマスタシリンダ液圧PMCに基づいて、第1マップ演算値K1及び第2マップ演算値K2を演算する(ステップ1,2)。
【0051】
図4において、第1マップ演算値K1は、マスタシリンダ液圧PMCから演算した第1マップM1上におけるホイールシリンダ圧力である。第2マップ演算値K2は、マスタシリンダ液圧PMCから演算した第2マップM2上におけるホイールシリンダ圧力である。
【0052】
第1マップ演算値K1については、アシスト液圧制御手段28が、マスタシリンダ液圧PMC、第1マップM1の第1マップ勾配E1及び倍力限界点T1における倍力限界圧G1により下記〔数1〕を用いて、第1マップ演算値K1を演算する。アシスト液圧制御手段28は、第1マップ勾配E1及び倍力限界圧G1を記憶している。第1マップ勾配E1は、図3において、第1相関関係S1の第1勾配を、倍力限界点T1を越えてブレーキ操作力Fが付与されたときのブレーキ操作力Fとマスタシリンダ液圧PMCとの相関関係の勾配(図3中点線の勾配)にて割った値である。
【0053】
〔数1〕
K1=E1×(PMC−G1)+G1
K1は第1演算値であり、E1は第1マップ勾配であり、PMCはマスタシリンダ液圧であり、G1は倍力限界圧である。
【0054】
第2マップ演算値K2については、アシスト液圧制御手段28が、マスタシリンダ液圧PMC、第2マップM2の第2マップ勾配E2及びアシスト終了点T2におけるアシスト終了圧G2により下記〔数2〕を用いて、第2マップ演算値K2を演算する。アシスト液圧制御手段28は、第2マップ勾配E2及びアシスト終了圧G2を記憶している。第2マップ勾配E2は、図3において、第2相関関係S2の第2勾配を、倍力限界点T1を越えてブレーキ操作力Fが付与されたときのブレーキ操作力Fとマスタシリンダ液圧PMCとの相関関係の勾配(図3中点線の勾配)にて割った値である。
【0055】
〔数2〕
K2=E2×(PMC−G2)+G2
K2は第2マップ演算値であり、E2は第2マップ勾配であり、PMCはマスタシリンダ液圧であり、G2はアシスト終了圧である。
【0056】
図5のフローチャートに戻り、アシスト液圧制御手段28は、第2マップ演算値K2が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)以下であると、第2マップM2に基づいてホイールシリンダ圧力PWCを低下させているとして、第2マップ演算値K2を今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)として演算する(ステップ3,4)。
アシスト液圧制御手段28は、第1マップ演算値K1が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)以上であると、第1マップM1に基づいてホイールシリンダ圧力PWCを増大させているとして、第1マップ演算値K1を今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)として演算する(ステップ5,6)。
【0057】
アシスト液圧制御手段28は、第2マップ演算値K2が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)よりも大きく、且つ、第1マップ演算値K1が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)より小さいときには、緩慢マップM4に基づいてホイールシリンダ圧力PWCを低下させているとして、前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)からマスタシリンダ液圧PMCの変化量ΔPMCだけ引き算した値を今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)として演算する(ステップ7)。
【0058】
このようにして、アシスト液圧制御手段28は、今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)を演算すると、今回演算したホイールシリンダ圧力(今回のPWC)とマスタシリンダ液圧PMCとの差によりアシスト液圧PAを演算し、その演算したアシスト液圧を出力する(ステップ8)。
【0059】
〔第2実施形態〕
この第2実施形態は、上記第1実施形態においてアシスト液圧PAを演算する構成についての別実施形態である。その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0060】
ブレーキ操作力を検出するブレーキ操作力検出手段として、ブレーキペダル6にかかる踏力を検出する踏力検出手段を設けている。この踏力検出手段を操作状態検出センサ26にて構成している。操作状態検出センサ26が検出する踏力は、そのままブレーキ操作力Fとすることができる。そこで、ホイールシリンダ圧力PWCの演算については、アシスト液圧制御手段28が、図3に示すように、操作状態検出センサ26の検出情報に基づいて、第1相関関係延長部分S1a、緩慢相関関係S4及び第2相関関係延長部分S2aにより目標とするホイールシリンダ圧力PWCを演算する。
【0061】
図6のフローチャートに基づいて説明する。
アシスト液圧制御手段28は、液圧センサ27の検出信号からマスタシリンダ液圧PMC及び操作状態検出センサ26の検出信号からブレーキ操作力Fを取得し、その取得したブレーキ操作力Fに基づいて、第1相関関係演算値L1及び第2相関関係演算値L2を演算する(ステップ11,12)。
【0062】
図3において、第1相関関係演算値L1は、ブレーキ操作力Fから演算した第1相関関係延長部分S1a上におけるホイールシリンダ圧力である。第2相関関係演算値L2は、ブレーキ操作力Fから演算した第2相関関係延長部分S2a上におけるホイールシリンダ圧力である。
【0063】
第1相関関係演算値L1については、アシスト液圧制御手段28が、ブレーキ操作力F、第1相関関係延長部分S1aの第1相関関係勾配H1、倍力限界点T1における倍力限界ブレーキ操作力J1及び倍力限界点T1における倍力限界圧N1により下記〔数3〕を用いて、第1相関関係演算値L1を演算する。アシスト液圧制御手段28は、第1勾配H1及び倍力限界ブレーキ操作力J1を記憶している。
【0064】
〔数3〕
L1=H1×(F−J1)+N1
L1は第1相関関係演算値であり、H1は第1相関関係勾配であり、Fはブレーキ操作力であり、J1は倍力限界ブレーキ操作力であり、N1は倍力限界圧である。
【0065】
第2相関関係演算値L2については、アシスト液圧制御手段28が、ブレーキ操作力F、第2相関関係延長部分S2aの第2相関関係勾配H2、アシスト終了点T2におけるアシスト終了ブレーキ操作力J2及びアシスト終了点T2におけるアシスト終了圧N2により下記〔数4〕を用いて、第2相関関係演算値L2を演算する。アシスト液圧制御手段28は、第2相関関係勾配H2及びアシスト終了ブレーキ操作力J2を記憶している。
【0066】
〔数4〕
L2=H2×(F−J2)+N2
L2は第2相関関係演算値であり、H2は第2相関関係勾配であり、Fはブレーキ操作力であり、J2はアシスト終了ブレーキ操作力であり、N2はアシスト終了圧である。
【0067】
図6のフローチャートに戻り、アシスト液圧制御手段28は、第2相関関係演算値L2が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)以下であると、第2相関関係延長部分S2aに基づいてホイールシリンダ圧力PWCを低下させているとして、第2相関関係演算値L2を今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)として演算する(ステップ13,14)。
アシスト液圧制御手段28は、第1相関関係演算値L1が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)以上であると、第1相関関係延長部分S1aに基づいてホイールシリンダ圧力PWCを増大させているとして、第1相関関係演算値L1を今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)として演算する(ステップ15,16)。
【0068】
アシスト液圧制御手段28は、第2相関関係演算値L2が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)よりも大きく、且つ、第1相関関係演算値L1が前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)より小さいときには、緩慢相関関係S4に基づいてホイールシリンダ圧力PWCを低下させているとして、前回演算したホイールシリンダ圧力(前回のPWC)、緩慢相関関係S4の緩慢相関関係勾配H3、今回取得したブレーキ操作力(今回のブレーキ操作力)、前回取得したブレーキ操作力(前回のブレーキ操作力)により下記〔数5〕を用いて、今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)を演算する(ステップ17)。
【0069】
〔数5〕
PWC=PWC1−H3×(F1−F2)
PWCは今回のホイールシリンダ圧力であり、PWC1は前回演算したホイールシリンダ圧力であり、H3は緩慢相関関係勾配であり、F1は前回取得したブレーキ操作力であり、F2は今回取得したブレーキ操作力である。
【0070】
このようにして、アシスト液圧制御手段28は、今回のホイールシリンダ圧力(今回のPWC)を演算すると、今回演算したホイールシリンダ圧力(今回のPWC)とマスタシリンダ液圧PMCとの差によりアシスト液圧PAを演算し、その演算したアシスト液圧を出力する(ステップ18)。
【0071】
〔別実施形態〕
(1)上記第1及び第2実施形態において、緩慢相関関係S4におけるブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配を、中間相関関係S3におけるブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配と異なる勾配に設定することもできる。
また、緩慢相関関係S4をブレーキ操作力Fの減少に関わらずホイールシリンダ圧力を一定に維持するように構成することもできる。
【0072】
(2)上記第1及び第2実施形態において、緩慢相関関係S4におけるブレーキ操作力Fの減少量に対するホイールシリンダ圧力PWCの減少量の勾配について、直線となるように設定しているが、例えば、曲線となるように設定することもできる。
【0073】
(3)上記第2実施形態において、操作状態検出センサ26を、ブレーキペダル6にかかる踏力を検出する構成に代えて、ブレーキペダル6の操作量を検出する構成とし、操作状態検出センサ26にて検出するブレーキペダル6の操作量がブレーキ操作力Fに相当するとして、ホイールシリンダ圧力及びアシスト液圧を演算することもできる。
【0074】
(4)上記第1及び第2実施形態において、例えば、第1液圧回路4aにて右前輪FR及び左後輪RLに設けたホイールシリンダ3FR,3RLにマスタシリンダ液圧を付与し、第2液圧回路4bにて左前輪FL及び右後輪RRに設けたホイールシリンダ3FL,3RRにマスタシリンダ液圧を付与するように、液圧回路4を構成することもできる。つまり、液圧回路4にてマスタシリンダ液圧をどのホイールシリンダに付与するように構成するかは適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、倍力装置がブレーキ操作力を所定の倍力比で増幅しなくなる倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、アシスト液圧をマスタシリンダ液圧に加えるアシスト液圧制御手段を備え、倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与されたときに、ブレーキ操作力の変化に対する剛性感が不足するのを抑制できるとともに、減速度が大きく変化するのを抑制できる各種の制動制御装置に適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】制動制御装置の概略構成図
【図2】制動制御装置の制御ブロック図
【図3】ブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係を示すグラフ
【図4】マスタシリンダ液圧とホイールシリンダ圧力との関係を示すグラフ
【図5】第1実施形態におけるアシスト液圧を演算するときの動作を示すフローチャート
【図6】第2実施形態におけるアシスト液圧を演算するときの動作を示すフローチャート
【図7】従来の制動制御装置におけるブレーキ操作力とホイールシリンダ圧力との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0077】
1 倍力装置
2 マスタシリンダ
3 ホイールシリンダ
4 液圧回路
26 ブレーキ操作力検出手段としての踏力検出手段(操作状態検出センサ)
27 ブレーキ操作力検出手段としてのマスタシリンダ液圧検出手段(液圧センサ)
28 アシスト液圧制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作力を倍力装置により増幅してマスタシリンダ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダ液圧を各車輪のホイールシリンダに付与する液圧回路と、
前記ブレーキ操作力を検出するブレーキ操作力検出手段と、
前記倍力装置が前記ブレーキ操作力を所定の倍力比で増幅しなくなる倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された場合に、前記マスタシリンダ液圧に加圧するアシスト液圧を前記ブレーキ操作力検出手段の検出情報に基づいて演算し、当該アシスト液圧を前記マスタシリンダ液圧に加えるアシスト液圧制御手段とを備え、
前記アシスト液圧が加わらない状態におけるブレーキ操作力と前記ホイールシリンダに付与するホイールシリンダ圧力との関係として、ブレーキ操作力増大時における第1相関関係と、ブレーキ操作力減少時におけるヒステリシスを付与した後の第2相関関係とを有する制動制御装置であって、
前記倍力限界点を越えるブレーキ操作力が付与された際に、前記アシスト液圧制御手段によってアシスト液圧が加えられ、ブレーキ操作力減少時に、ヒステリシスが付与され、前記アシスト液圧が減少して、前記アシスト液圧が解消するときの前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第2相関関係になるように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する制動制御装置。
【請求項2】
前記アシスト液圧が解消するときには、前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第2相関関係を維持しながら前記アシスト液圧が減少したのち、前記アシスト液圧が解消するように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記倍力限界点を越えてブレーキ操作力が付与された際に、ブレーキ操作力が増大するときには、前記ブレーキ操作力と前記ホイールシリンダ圧力との関係が前記第1相関関係を維持するように、前記アシスト液圧制御手段が前記アシスト液圧を制御する請求項1又は2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記アシスト液圧制御手段によって付与されるヒステリシスにおいて、当該ヒステリシスが有する前記ブレーキ操作力の減少に対する前記ホイールシリンダ圧力の減少の関係を、ブレーキ操作力が前記倍力限界点を超えない場合に付与されるヒステリシスの前記関係と等しく設定してある請求項1〜3の何れか1項に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキ操作力検出手段として、前記ブレーキ操作力に基づく前記マスタシリンダ液圧を検出するマスタシリンダ液圧検出手段を設けてある請求項1〜4の何れか1項に記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記ブレーキ操作力検出手段として、ブレーキペダルにかかる踏力を検出する踏力検出手段を設けてある請求項1〜4の何れか1項に記載の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−23440(P2009−23440A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187166(P2007−187166)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】