説明

制動制御装置

【課題】
簡易な手法でブレーキフィーリングを向上させる制動制御装置を提供することにある。
【解決手段】
制動操作検出手段によって運転者のブレーキペダルに対する制動操作の有無を検出し、この制動操作検出手段によって運転者によるブレーキペダルへの制動操作が検出された場合に、シート本体制御手段によって運転者が着座するシート本体を前後方向に駆動するシート本体駆動機構を制御して当該シート本体を前方向に移動させる。このシート本体の前方向の移動によって、運転者のブレーキペダルへの操作を足し込み、運転者の足の移動量を低減するとともに減速感を付加し、フィーリングを向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制動時のフィーリング向上、とりわけブレーキペダルのストロークを短縮する制動装置としては、ブレーキシステムにおけるブレーキペダルの比率を調整するものや、マスタシリンダ径を大きくするものや、コーナーブレーキをサイズアップするものがある(例えば、特許文献1)。また、パッドμ、あるいは各コンポーネントの機構によってアイドルストロークを短縮するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3269239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ブレーキシステムの機構によってストロークを短縮し、ブレーキフィーリングの向上を実現させるためには、コスト・重量の面で不利になる。また、フィーリング以外の性能(ブレーキ鳴き、ブレーキ効き)が低下するので制約が多い。
【0005】
本発明の目的は、簡易な手法でブレーキフィーリングを向上させる制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る制動制御装置は、制動操作検出手段によって運転者のブレーキペダルに対する制動操作が検出されると、シート本体制御手段によってシート本体駆動機構を制御し、運転者が着座するシート本体を前方向に移動させる。このシート本体の前方向の移動により、運転者のブレーキペダルへの操作が足し込まれるので運転者の足の移動量を低減することが可能になると同時に、減速感を付加することによってフィーリングを向上させることが可能になる。
【0007】
このとき、操作状態検出手段にて検出される運転者のブレーキペダルに対する制動操作によって発生するブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値に基づいてシート本体制御手段がシート本体を前方向に移動させると、運転者のブレーキペダルに対する操作状態に応じて足の移動量を低減、または減速感を付与することが可能になる。
【0008】
さらに、操作状態検出手段にて検出されるブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値に加え、変化勾配検出手段にて検出される運転者のブレーキペダルに対する制動操作によって発生するブレーキ液圧、若しくは踏力の変化勾配を示す値に基づいてシート本体制御手段がシート本体を前方向に移動させると、より運転者のブレーキペダルに対する操作状態に応じて足の移動量を低減、または減速感を付与することが可能になる。
【0009】
また、運転者のブレーキペダルに対する制動操作が戻されて、操作状態検出手段にて検出されるブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値が所定値以下になった場合に、前方向に移動させたシート本体を後方向に移動させる。これによって、停止時に発生する揺り戻しを抑制することが可能となり、スムーズな車両停止を実現することが可能になる。
【0010】
このとき、前方向に移動させる移動量と後方向に移動させる移動量を同量とすれば、制動操作前後のシート本体の位置を同一にすることができるので、制動後のドライブフィーリングや、車両乗降時に違和感が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用される制動制御装置の構成を示した構成図
【図2】ブレーキECUに記憶される特性データを示した線図
【図3】ブレーキECUにて実行される処理内容を示したフローチャート
【図4】シートECUにて実行される処理内容を示したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明が適用される制動制御装置100の構成を示した構成図である。同図において、制動制御装置100は、車両用のシート装置10と、シートECU20と、ブレーキECU30とを有している。車両用のシート装置10は、リクライニングの角度が調整可能に構成されるシートバック11、ヘッドレスト12、および、運転者が着座する着座面を有するシート本体1等を有し、シート本体1を車両の前後方向にスライドさせるスライド機構2を備える。このスライド機構2が本発明に係るシート本体駆動機構に対応する。本実施形態のシート装置10は、シート本体1のスライドを電動で行う、所謂、パワーシートである。
【0013】
スライド機構2は、シート本体1の位置を設定するシートECU20と、車両の床に対して固定されている一対のロアレール22と、ロアレール22に沿って車両の前後方向に移動自在な一対のアッパレール23とを有する。シートECU20は、シート本体1の位置を記憶する記憶手段24、シート本体1を前後方向に位置調節する動力となるモータ25、モータの駆動を制御する制御手段26等を備える。このシートECU20が本発明に係るシート本体制御手段に対応する。
【0014】
ブレーキECU30は、入力手段31と、演算手段32と、記憶手段33とを有している。入力手段31は、ブレーキペダル3に対する制動操作の有無を示すブレーキペダルスイッチBPのON/OFF信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサS1の出力信号、ブレーキペダル3に対する制動操作の踏力を検出する踏力センサS2の出力信号を入力する。演算手段32は、入力手段31にて入力したブレーキ液圧センサS1の出力信号に基づいて、ブレーキ液圧の絶対値、及びブレーキ液圧の変化勾配を演算する。上述したブレーキ液圧は、マスタシリンダ液圧でも良いし、ホイールシリンダ液圧でも良い。
【0015】
また、演算手段32は、入力手段31にて入力した踏力センサS2の出力信号に基づいて、踏力の絶対値、及び踏力の変化勾配を演算する。記憶手段33は、図2に示すブレーキ液圧(例えば、マスタシリンダ液圧)の絶対値及びブレーキ液圧(例えば、マスタシリンダ液圧)の変化勾配、あるいは踏力の絶対値及び踏力の変化勾配で決定される制動操作状態パラメータに対する目標ストローク値ST(設計が狙う設計ストローク値)、及び実ストローク値SA(達成し得るストローク値)を予め規定した特性データを記憶している。この制動操作状態パラメータは、演算手段32にて演算されて決定される。このブレーキECU30が本発明に係る制動操作検出手段、操作状態検出手段、変化勾配検出手段に対応する。
【0016】
上述した制動操作状態パラメータは、上述した通り、ブレーキ液圧の絶対値及びブレーキ液圧の変化勾配、あるいは踏力の絶対値及び踏力の変化勾配で決定しても良いし、ブレーキ液圧の絶対値、又はブレーキ液圧の変化勾配の何れか一方に基づいて決定されても良い。あるいは、踏力の絶対値、又は踏力の変化勾配の何れか一方に基づいて決定されても良い。また、何れかの組み合わせで決定されても良い。
【0017】
本実施形態では、ブレーキシステムの構成は開示しないが、本発明が適用されるブレーキシステムは特に限定されるものではなく、上述したブレーキペダルスイッチBP、ブレーキ液圧センサS1、踏力センサS2を有するものであれば特に限定されない。また、後述するシート制御処理の態様に応じて、ブレーキ液圧センサS1、踏力センサS2の何れか一方を有するものであっても良い。
【0018】
次に、上述した構成において実行される本発明に係る制動制御処理の処理内容を説明する。この制動制御処理は、シートECU20にて実行される処理と、ブレーキECU30にて実行される処理とにより実現される。図3はブレーキECU30にて実行される処理内容を示したフローチャートである。
【0019】
同図においては、先ず入力手段31にて入力されたブレーキペダルスイッチBPの状態がON状態であるか否かを判別する(ステップS10)。ステップS10にてブレーキペダルスイッチBPがON状態であると判別した場合は、入力手段31にて入力されたブレーキ液圧センサS1、踏力センサS2の信号に基づいてブレーキ液圧の絶対値及び変化勾配を演算する(ステップS20)。そして、このブレーキ液圧の絶対値及び変化勾配に基づいて制動操作状態パラメータを演算する(ステップS30)。制動操作状態パラメータの演算は、ブレーキ液圧の絶対値に所定の係数を乗算したものと、ブレーキ液圧の変化勾配に所定の係数を乗算したものとを加算して演算する手段が挙げられる。この場合、適宜係数を重み付けしても良い。また、絶対値と変化勾配を乗算又は除算した値を用いるようにしても良い。
【0020】
ステップS30にて制動操作状態パラメータを演算結果に基づいて、記憶手段33に記憶されている特性データから当該制動操作状態パラメータに対応する目標ストローク値STと実ストローク値SAとを取得する(ステップS40)。そして、目標ストローク値STに対する実ストローク値SAの乖離分に相当するシート移動制御量を演算し(ステップS50)、各演算結果をシートECU20が入力可能に出力する(ステップS60)。この出力は、シートECU20とブレーキECU30との相互に配線された信号線に出力するようにしても良いし、シートECU20及びブレーキECU30が接続されるCAN通信用の回線に出力するようにしても良い。
【0021】
次に、図4を用いてシートECU20にて実行される処理内容を説明する。同図においては、ブレーキECU30から出力された演算結果を制御手段26にて入力する(ステップS100)。そして、制御手段26はモータ25によってシート本体1の位置制御を実行して、この演算結果に含まれるシート移動制御量に基づいて当該シート本体1を前方向に移動させる(ステップS110)。このシート本体1の前方向の移動により、運転者のブレーキペダル3への操作が足し込まれるので運転者の足の移動量を低減することが可能になると同時に、減速感を付加することによってフィーリングを向上させることが可能になる。
【0022】
移動させた後、入力した演算結果に含まれるブレーキ液圧の絶対値が所定のしきい値Th以下になるか否かを判定する(ステップS120)。ブレーキ液圧の絶対値がしきい値Th以下になったと判定すると、制御手段26はモータ25よってシート本体1の位置制御を実行して、ステップS110にて前方向に移動させたシート移動制御量に基づいて当該シート本体1を後方向に移動させる(ステップS130)。このように、前方向に移動させたシート移動制御量だけ後方向に移動させるため、制動操作前後のシート本体の位置を同一にすることができるので、制動後のドライブフィーリングや、車両乗降時に違和感が発生しない。
【0023】
上述した実施形態では、ブレーキ液圧の絶対値がしきい値以下と判定された場合にシート本体1を後方向に移動させるようにしたが、踏力の絶対値がしきい値以下と判定された場合にシート本体1を後方向に移動させるようにしても良いことは言うまでもない。
【0024】
上述した実施形態では、ブレーキペダルスイッチBPがON状態となった場合にブレーキECU30にてブレーキ液圧の絶対値・変化勾配、踏力の絶対値・変化勾配、及び目標ストローク値STと実ストローク値SAとの乖離分に基づいてシート本体1のシート移動制御量を演算し、それらの演算結果をシートECU20に対して出力する態様を採用したが、これに限定されるものではない。ブレーキペダルスイッチBP、ブレーキ液圧センサS1、踏力センサS2をシートECU20にて入力可能とするとともに、シートECU20の記憶手段24に特性データを記憶させておき、ブレーキECU30にて実行される処理をシートECU20にて実行させるようにしても良いことは言うまでもない。
【0025】
上述した実施形態を採用することによって、ブレーキのストロークに対する減速度の特性、全性能に影響を与えることなく、シート(運転者の足)とブレーキペダルとの間の距離を調整する制御のみにより、フィーリング(アイドル、低、中、高G)を自由に設定可能になる。また、パワーシート搭載の車両において、シートECU20、ブレーキECU30のプログラムを変更するだけで良いため、簡易にストロークを短縮(剛性向上)することが可能になるとともに、停止時の揺り戻しを抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0026】
100・・・制動制御装置
10・・・シート装置
20・・・シートECU
30・・・ブレーキECU












【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキペダルに対する制動操作の有無を検出する制動操作検出手段と、
前記制動操作検出手段によって運転者によるブレーキペダルへの制動操作が検出された場合に、前記運転者が着座するシート本体を前後方向に駆動するシート本体駆動機構を制御して当該シート本体を前方向に移動させるシート本体制御手段とを具備することを特徴とする制動制御装置。
【請求項2】
前記運転者のブレーキペダルに対する制動操作によって発生するブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値を検出する操作状態検出手段さらに備え、
前記シート本体制御手段は、前記操作状態検出手段にて検出されたブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値に基づいて前記シート本体を前方向に移動させることを特徴とする前記請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記運転者のブレーキペダルに対する制動操作によって発生するブレーキ液圧、若しくは踏力の変化勾配を示す値を検出する変化勾配検出手段をさらに備え、
前記シート本体制御手段は、前記操作状態検出手段にて検出されるブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値、及び前記変化勾配検出手段にて検出されるブレーキ液圧、若しくは踏力の変化勾配を示す値、に基づいて前記シート本体を前方向に移動させることを特徴とする前記請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記シート本体制御手段は、前記運転者のブレーキペダルに対する制動操作が戻されることによって前記操作状態検出手段にて検出されるブレーキ液圧、若しくは踏力を示す値が所定値以下になった場合に、前記前方向に移動させたシート本体を後方向に移動させることを特徴とする前記請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記シート本体制御手段は、前記前方向に移動させる移動量と前記後方向に移動させる移動量を同量とすることを特徴とする前記請求項4に記載の制動制御装置。









【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−213274(P2011−213274A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84683(P2010−84683)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】