制御パラメータ適合装置
【課題】適合データの信頼性を向上させることができる制御パラメータ適合装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリングシステムの機械的な構成要素が持つ粘性摩擦及びクーロン摩擦等の動的特性の製品間のばらつきを加味して、ハンドルの自励振動等の特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなる検証用モデルを備えた。そして当該検証用モデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて電動パワーステアリングシステムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する。これにより、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。ひいては、適合データの信頼性が高められる。
【解決手段】電動パワーステアリングシステムの機械的な構成要素が持つ粘性摩擦及びクーロン摩擦等の動的特性の製品間のばらつきを加味して、ハンドルの自励振動等の特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなる検証用モデルを備えた。そして当該検証用モデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて電動パワーステアリングシステムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する。これにより、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。ひいては、適合データの信頼性が高められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムにおける制御パラメータの適合作業を行う制御パラメータ適合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両の電子制御装置は、車両各部の状態を検出する各種のセンサから取り込まれる検出信号に基づき演算を実行し、その検算結果に基づきアクチュエータの制御を通じて制御システムを制御する。電子制御装置は、様々な状況下でエンジン、自動変速機及び電動パワーステアリング等の各種のシステムが最適な性能を発揮できるよう動作する。この電子制御装置により実行されるソフトウエアは、パラメータ(定数)を使用することにより柔軟性を持たせた構造とされている。これにより、同じシステムのパラメータを変更して別の車に使用すること等も容易になる。このパラメータは、所望のシステム特性が得られるように適合作業を通じて最適化が図られる。
【0003】
例えば電動パワーステアリングシステムを車両に搭載する際には、車両毎の特性及び車両メーカの要求する操舵フィーリング等に応じて適合作業、すなわち当該システムで行われる各種制御の制御パラメータの調整が行われる。この適合作業は、制御パラメータの適合プログラムに従って動作する適合装置を使用して、当該システムを搭載する車両において所望の操舵フィーリングが得られるまで繰り返し行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
具体的には、適合装置を電動パワーステアリングシステムの電子制御装置に通信線を介して接続した上で、当該適合装置において制御パラメータが設定される。当該制御パラメータは、通信線を介して電子制御装置に転送されてその記憶装置に書き込まれる。この電子制御装置によるモータの制御を通じて、設定後の制御パラメータを反映した操舵補助の実行が可能となる。この状態で、当該システムを搭載した車両の実際の走行を通じて操舵フィーリングが確認される。この実際の操舵フィーリングに基づき、制御パラメータの変更作業が再び行われる。このような手順の繰り返しを通じて、制御パラメータが最適な値に設定されることにより、所望の操舵フィーリングが得られる。
また、例えば特許文献2に記載されるように、適合作業により設定される制御パラメータの妥当性を実機により評価するのではなく、ソフトウエアによるシミュレーションにより評価することも従来提案されている。すなわち、制御システムの制御系及び機械系の各要素をモデル化し、これらモデルを使用して制御システム全体の動作をシミュレーションする。こうしたシミュレーション技術を利用することにより、実機による実験を行うことなく、事前に操舵特性等の各種の車両特性を確認することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−178706号公報
【特許文献2】特開2008−197899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記従来の適合作業には、次のような問題があった。すなわち、各種の制御システムが量産された場合、各機械的要素(粘性摩擦及びクーロン摩擦等の動的特性)には製品間でばらつきが発生する。そしてこれら要素のばらつきの度合い、及びばらつき要素の組み合わせ等についても製品毎に異なる。このため、適合作業の段階では最適な値であった各種の制御パラメータが、特定の製品においては最適な値とはいえなくなる状況の発生が懸念される。したがって、当該特定の製品においては、制御システムの安定性を好適に確保することができないおそれがある。この問題は、特に前述した電動パワーステアリングシステムのように、粘性摩擦及びクーロン摩擦等の多数の機械的な要素を含む制御システムにおいて顕著であると想定される。例えば電動パワーステアリングシステムにおいては、製品間の機械的な要素のばらつきに起因して、異音又はステアリングホイールの自励振動等の発生が懸念される。
【0007】
なお、シミュレーション技術を利用して、設定した制御パラメータ(適合値)を評価する場合であれ、その評価手順及び内容については実機を使用して評価する場合の手順及び内容を踏襲するものである。このため、製品を量産した場合における各機械的要素のばらつきに起因する問題の発生については同様に懸念される。このように、最適化が図られた制御パラメータである適合データの信頼性の点において、未だ改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、適合データの信頼性を向上させることができる制御パラメータ適合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する制御パラメータ適合装置において、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなることをその要旨とする。
【0010】
本発明によれば、制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルを使用して制御システムの動作をシミュレーションすることにより、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。このため、適合された制御パラメータである適合データの信頼性が高められる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制御パラメータ適合装置において、前記シミュレーションモデルは、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなることをその要旨とする。
【0012】
本発明によれば、特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルを使用したシミュレーションを通じて、適合データの信頼性がいっそう高められる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制御パラメータ適合装置において、前記制御システムが有する動的特性は、前記機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦を含んでなることをその要旨とする。
【0013】
粘性摩擦及びクーロン摩擦は、制御システムの安定性に大きく影響する。そしてこれら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきが発生するばかりか、経年的に値が変化する。このため、本発明のように、これら粘性摩擦及びクーロン摩擦の製品間でのばらつきを考慮してなるシミュレーションモデルを使用して制御システムの動作をシミュレーションすることにより、適合データの妥当性の判定の精度が高められる。適合データの信頼性も高められる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、前記検証手段による検証結果を報知する報知手段を備えてなることをその要旨とする。
【0015】
本発明によれば、検証結果に基づき適合作業を行うことが可能になる。例えば適合作業者は、自身が適合した制御パラメータが妥当か否かを認識可能になるため、必要に応じて制御パラメータの調整を再度行うことも容易になる。このように、適合作業の効率化が図られる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の制御パラメータ適合装置において、前記報知手段による報知は、制御パラメータの適合に関するガイダンスを含むことをその要旨とする。
【0017】
本発明によれば、適合の作業者は、ガイダンスに従い適合作業を行うことが可能になる。このため、適合作業の効率の向上が図られる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、前記制御システムは、電動パワーステアリングシステムであることをその要旨とする。
【0018】
電動パワーステアリングシステムは、機械的な構成要素が多く複雑である。このようなシステムの適合作業に請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置は好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、量産の際に発生する制御システムの機械的要素のばらつきを考慮した上で制御パラメータを適合させることができる、このため、適合データの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】適合装置の使用の態様を示す構成図。
【図2】(a)は、適合装置の構成を示すブロック図、(b)は表示装置の表示例を示す画面の正面図。
【図3】電動パワーステアリングシステムのモデルの概略を示す構成図。
【図4】検証用シミュレーションモデル(ベース)の構成図。
【図5】(a)はハンドルのモデル化に際して設定される運動方程式の各要素を示すブロック図、(b)はハンドルの運動方程式に基づき求められるハンドルのモデルを示すブロック図。
【図6】機械系モデルの各要素を示す構成図。
【図7】トルク制御部モデルの構成図。
【図8】電流制御部モデルの構成図。
【図9】負荷状態を示す検証用モデルの構成図。
【図10】検証用モデルの構成図。
【図11】自励振動検証用の基本アシスト制御部のマップを示すグラフ。
【図12】(a)はボード線図のゲイン線図を示すグラフ、同じく(b)はボード線図の位相線図を示すグラフ。
【図13】検証処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、電動パワーステアリングシステムの制御に使用される制御パラメータの適合装置に具体化した一実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
まず、本例において適合作業の対象となる電動パワーステアリングシステムの概略的な構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、電動パワーステアリングシステム1において、ハンドル2(ステアリングホイール)と一体回転するステアリングシャフト3は、ハンドル2側からコラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9及びピニオンシャフト10の順に連結されてなる。ピニオンシャフト10はこれに直交して設けられるラック軸5のラック部分5aに噛合されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ピニオンシャフト10及びラック部分5aからなるラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルアームに伝達されることにより、転舵輪12の舵角が変更される。
【0023】
また、電動パワーステアリングシステム1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置(パワーアシストユニット)13、及び操舵力補助装置13の作動を制御する電子制御装置(ECU)14を備えてなる。
【0024】
操舵力補助装置13の駆動源であるモータ15は、ウォーム及びウォームホイールからなる減速機構16を介してコラムシャフト8に作動連結されている。モータ15の回転力は減速機構16により減速されてこれがアシスト力として操舵系、正確にはコラムシャフト8に伝達される。電子制御装置14は、このアシスト力を次のようにして制御する。すなわち、電子制御装置14は、転舵輪12等に設けられる車速センサ17を通じて車速Vを取得する。また、電子制御装置14は、コラムシャフト8に設けられるトルクセンサ18を通じて、ハンドル2に印加される操舵トルクτを取得する。そして電子制御装置14は、これら車速V及び操舵トルクτに基づき目標アシスト力を算出し、この算出される目標アシスト力を発生させるべくモータ15の給電制御を行う。このモータ15の給電制御を通じて操舵系に印加されるアシスト力が制御される。
【0025】
なお、本例では、モータ15として、DCブラシ付きモータの採用を想定しているものの、ブラシレスモータを採用してもよい。また、本例では、トルクセンサ18は、コラムシャフト8の途中に設けられる図示しないトーションバーの捩れ角に基づき操舵トルクτを検出するタイプのものが採用されている。すなわち、コラムシャフト8は、正確には、トーションバーの両端に連結される2つのシャフトからなる。
【0026】
<適合装置の概要>
前述のように構成された電動パワーステアリングシステムにおいては、当該システムが所望の性能を発揮できるように、その電子制御装置において使用される制御パラメータが最適な値に設定される。図1に示されるように、この適合作業は、制御パラメータの適合プログラムに従って動作する適合装置21を使用して行われる。適合装置21において設定された制御パラメータは、当該装置上においてシミュレーションが行われてその妥当性が確認された後に、通信線22を通じて電子制御装置14へ転送される。この通信線22は、電子制御装置14及び適合装置21に対して着脱自在である。なお、適合装置21に設けられる後述する表示装置の画面上には、適合作業の対象となる各種の制御パラメータ(適合データ)、これらパラメータをグラフ化したマップ(適合マップ)、及びシミュレーションによる制御パラメータの妥当性の検証結果等が表示される。作業者は、これら画面の表示を目視しながら適合作業を行う。
【0027】
<適合装置の構成>
次に、適合装置21の構成について説明する。図2(a)に示すように、適合装置21は、制御装置31、表示装置32、補助記憶装置33、及び入力装置34を備えてなる。
【0028】
補助記憶装置33としては、ハードディスク装置あるいは不揮発性メモリ等が採用される。この補助記憶装置33には、制御装置31において実行される各種の制御プログラム及びデータ等が格納されている。補助記憶装置33に格納されるデータとしては、例えば電動パワーステアリングシステム1及びこれが搭載される車両の諸元、並びに電動パワーステアリングシステム1の数学的なモデル51等がある。当該モデル51は、適合装置21によるソフトウエアの実行を通じて生成される。なお、当該モデル51については後に詳述する。
【0029】
また、入力装置34としては、キーボード35及びマウス36等が採用される。この入力装置34を通じて、適合装置21が有する各種の機能の実行、及び各種のデータの入力等が行われる。
【0030】
制御装置31は、CPU(中央処理装置)41、主記憶装置42、LAN(ローカルエリアネットワーク)用のインタフェース部43、表示制御部44、補助記憶装置用のインタフェース部45、入力装置用のインタフェース部46、及び電子制御装置14との接続用のインタフェース部47を備え、これらがバス48を通じて相互に接続されてなる。主記憶装置42は、揮発性メモリ等から構成される。
【0031】
表示制御部44には、ブラウン管(CRT)及び液晶ディスプレイ等の表示装置32が接続されている。表示制御部44は、CPU41からの表示指令に基づき表示装置32の表示を制御する。
【0032】
補助記憶装置用のインタフェース部45には補助記憶装置33が接続されている。入力装置用のインタフェース部46には、キーボード35及びマウス36等の入力装置34が接続されている。電子制御装置14との接続用のインタフェース部47には、通信線22を介して電子制御装置14が接続される。また、適合装置21は、LAN用のインタフェース部43を介してLAN49に接続可能とされている。
【0033】
適合装置21は、補助記憶装置33から主記憶装置42に読み込んだプログラムをCPU41が実行することによって、電動パワーステアリングシステムの制御パラメータの適合装置として機能する。また、適合装置21は、通信線22を介して電子制御装置14に接続することにより、電子制御装置14に記憶された各種の制御パラメータを読み込んだり、最適化が図られた調整後の制御パラメータを電子制御装置14に転送したりすることが可能とされている。
【0034】
<適合装置の機能>
次に、適合装置21の各種の機能について説明する。適合装置21の各機能は補助記憶装置33に格納される各種のプログラムに基づく各種の演算機能により実現される。
【0035】
適合装置21(正確には、CPU41)は、補助記憶装置33に格納された車両諸元及びシステム諸元に基づき、車両に応じた各種制御の制御パラメータの初期設定を行う初期設計機能を有している。そして適合装置21は、この初期設計に対して、操舵フィーリングの調整を行う。すなわち、適合装置21は、所望の操舵フィーリングが実現されるように、初期設定された各種の制御パラメータの変更(調整)を行う制御パラメータ変更機能を有する。この制御パラメータの変更は、キーボード35及びマウス36等の入力装置34からの入力に応じて行われる。この入力される制御パラメータは、主記憶装置42に一時的に格納される。
【0036】
また、適合装置21は、設定された制御パラメータに基づき、電子制御装置14による電流指令値の演算等を含む電動パワーステアリングシステム1の動作を模擬するシミュレーション機能を有するとともに、当該シミュレーションの結果に基づきシステムが不安定となる状況の発生の有無(不安定性の有無)を検証する検証機能を有している。当該シミュレーションは、補助記憶装置33に格納された電動パワーステアリングシステム1のモデル51(正確には、後述する検証用モデル71)を使用して行われる。そして適合装置21は、モデル51を使用したシミュレーションによる検証結果を、表示制御部44を通じて表示装置32の画面に表示する。適合装置21は、システムが不安定となる状況が発生するおそれがある旨判定した場合には、その不安定となる状況の内容及び当該状況の発生を回避するための対策案を、表示装置32等を通じて報知するガイダンス機能を有している。
【0037】
適合装置21は、適合作業の結果、すなわち設定後の制御パラメータを電子制御装置14に反映させるために、主記憶装置42に格納されている設定後の制御パラメータ群を電子制御装置14に転送する。これら設定後の制御パラメータが電子制御装置14に格納されることにより、当該電子制御装置14によるモータ15の制御を通じて、設定後の制御パラメータを反映した操舵補助の実行が可能となる。
【0038】
<表示装置の画面表示>
ここで、表示装置32の画面表示について説明する。図2(b)に示されるように、表示装置32の画面には、適合作業の対象となる各種の制御パラメータ(適合データ)、これらパラメータをグラフ化したマップ(適合マップ)、及びシミュレーションによる制御パラメータの妥当性の検証結果等が表示される。すなわち、表示装置32の画面は、これらが表示される領域が分割して形成される。同図では、画面の左側には、アシストトルク等の特定の適合項目に対応する制御パラメータが表示される第1の表示画面32aが形成されている。同じく画面の中央には、第1の表示画面32aに表示される制御パラメータに基づきグラフ化されたマップが表示される第2の表示画面32bが形成されている。同じく画面の右側にはシミュレーションによる制御パラメータの検証結果が表示される第3の表示画面32cが形成されている。なお、これら表示画面の数、あるいは画面に表示させる項目等は、入力装置34を通じて適宜変更することができる。
【0039】
また、表示装置32の画面の上部には、検証ボタンBguiが設けられている。入力装置34を通じた検証ボタンBguiの押下を契機として、シミュレーションによる制御パラメータの検証処理の実行が開始される。なお、検証ボタンBguiは、プッシュボタンとしての機能のグラフィカルな表現である。
【0040】
<システムモデルの概略構成>
次に、電動パワーステアリングシステム1のモデル51について説明する。本例では、電動パワーステアリングシステム1の構成要素の全てがモデル化されてなる。すなわち、図3に示すように、当該モデル51は、電動パワーステアリングシステム1の機械的な要素の全てがモデル化されてなる機械系モデル52、及び電子制御装置14により実行される操舵補助制御の全ての制御ロジック等がモデル化されてなる制御系モデル53からなる。
【0041】
機械系モデル52は、ハンドル2、ステアリングシャフト3(コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9及びピニオンシャフト10)、ラック軸5、及びトルクセンサ18等の電動パワーステアリングシステム1における機械的な構成の全てが抽出され、これらがモデル化されてなる。また、制御系モデル53は、電子制御装置14により実行されるモータ15の制御に係る全ての制御ロジックがモデル化されてなる。当該制御系モデル53におけるアウトプットは、モータ15の出力軸15aとされる。
【0042】
なお、同図に示されるモデル51は、設定した制御パラメータの妥当性を検証する際に使用される検証用モデル71の基礎(ベース)となる。この検証用モデル71については、後に詳述する。
【0043】
<システムモデルの動作>
次に、前述した電動パワーステアリングシステム1のモデル51の動作について説明する。図4に示されるように、機械系モデル52には、シグナルジェネレータ52bにより生成される操舵トルク信号の代替信号が、操舵トルクτとして与えられる。機械系モデル52は、操舵トルクτに応じてトーションバーに発生するトーションバートルクTa、図示しない回転角センサを通じて検出されるモータ15の回転角(電気角)θ、及び当該回転角θに基づき算出されるモータ15の回転速度ωを算出し、これら算出結果を制御系モデル53へ出力する。また、機械系モデル52は、検出されるラック軸5の変位Xra、及び当該変位Xraを微分することにより得られるラック軸5の変位速度dXraを算出する。また、機械系モデル52では、ラック軸5に作用する機械的な負荷からの荷重Lがフィードバックされる。当該荷重Lは、ラック軸5の変位Xra及び変位速度dXraの値に応じて決まる。本例では、ラック軸5の両端に連結されるタイロッド11と転舵輪12との間が負荷装置52aとして設定されている。
【0044】
なお、この機械系モデル52が有するクーロン摩擦(動摩擦)、及び粘性摩擦等のパラメータ(定数)は、電動パワーステアリングシステム1を量産した際に、それら製品間でばらつきが発生する。また、これらパラメータは経年的に変化もする。そこで、適合作業を通じて適合される制御パラメータの妥当性を検証する際には、クーロン摩擦及び粘性摩擦等の機械的な要素の製品間のばらつき、あるいは経年変化を考慮して行われる。すなわち、適合した制御パラメータの妥当性の検証は、これら機械的な要素のばらつき等を加味した検証用モデル71を使用して行われる。この検証用モデル71は、クーロン摩擦(動摩擦)及び粘性摩擦等の値として、想定される各種の問題(例えばステアリングホイールの自励振動)について最も条件が厳しい下限値のデータを基礎となるモデル51(正確には、機械系モデル52)に入力することにより生成される。なお、この機械系モデル52が有する各種の機械的な要素については、後に詳述する。
【0045】
図4に示されるように、制御系モデル53は、トルク制御部54及び電流制御部55を備えてなる。トルク制御部54は、操舵トルクτ、モータ15の回転角θ及び車速V等の情報に基づき、モータ15に対するアシストトルク(電流)の指令値である電流指令値I*を演算する。電流制御部55は、トルク制御部54により演算されるアシストトルク指令値(電流指令値I*)に基づき、トルク制御部54からの指令通りのアシストトルク(電流)をモータ15に対して供給するべく通電制御を実行する。なお、電流制御部55は、トルク制御部54を通じて取得される電流指令値I*、機械系モデル52を通じて取得されるモータ15の回転角θ及び回転速度ωに基づき、モータ15の電流制御に係る各種の演算を実行する。
【0046】
なお、適合作業では、このトルク制御部54が有する制御パラメータの値(適合値)が変更される。すなわち、後述する電動パワーステアリングシステム1の検証用のモデルに対して適合した制御パラメータを与えて、その妥当性の検証が行われる。
【0047】
<機械系モデルの詳細>
次に、機械系モデル52の生成処理について詳細に説明する。機械系モデル52は、ばね、慣性(質量、イナーシャ)及び摩擦(粘性摩擦、クーロン摩擦)等の各種の機械的な要素からなる系として、これら要素が基本的な運動方程式で構成される。そして各運動方程式に基づき機械系モデル52が生成される。
【0048】
例えばハンドル2のモデル化は次のようにして行われる。すなわちまず、図5(a)に示されるように、ハンドル2に作用するトルク(慣性トルク、操舵トルク、剛性による捻れトルク、摩擦トルク)を考慮して運動方程式を立てる。当該運動方程式は、同図に示されるように、ハンドル2とコラムシャフト8の上部(図中では、「コラム上部」と記載する。)との関係に基づき求められる。
【0049】
そして次に当該運動方程式に基づき、図5(b)に示されるようなシミュレーションモデルを生成する。すなわち、当該モデルでは、ハンドル2の操作角度であるハンドル角θstとコラムシャフト8の上部の回転角θcuとの差の値に、トルク係数Kstを乗算することによりコラムシャフト8の上部の剛性による捻れトルクを算出する。そして、ハンドル2を通じて入力される操舵トルクTstから捻れトルク、ハンドル2の粘性摩擦及びクーロン摩擦を減算することにより、ハンドル2の慣性トルクを算出する。そしてこの算出される慣性トルク及びハンドル2のイナーシャJstに基づきハンドル2の角加速度を算出するとともに、当該角加速度を積分することによりハンドル2の角速度を算出する。なお、当該モデルでは、このハンドル2の角速度に粘性摩擦係数Cstを乗算することにより前述したハンドル2の粘性摩擦を算出する。また、このハンドル2の角速度にクーロン摩擦係数Rstを乗算することにより前述したハンドル2のクーロン摩擦を算出する。そしてさらに、当該モデルでは、この算出される角速度を積分することによりハンドル2のハンドル角θstを算出する。このように、図5(b)に示されるハンドル2のモデルは、図5(a)に示される運動方程式を反映したものとなる。
【0050】
電動パワーステアリングシステム1の機械的な構成要素において、ハンドル2以外の部分、すなわちコラムシャフト8の上部及び下部、並びに操舵力補助装置13(モータ)、並びにインターミディエイトシャフト9の上部及び下部、並びにピニオンシャフト10(ピニオン)、並びにラック軸5(ラック5a)についても、ハンドル2と同様にモデル化が実行される。そして、これら各モデルから電動パワーステアリングシステム1の全体のシミュレーションモデル(機械系モデル52)が構成される。
【0051】
<機械系モデルのパラメータ>
次に、機械系モデル52の各要素について説明する。機械系モデル52の各要素は次のようにして定義づけられて設定される。
【0052】
すなわち、図6に示すように、ハンドル2のモデルは、前述したように、操舵トルクTst、イナーシャJst、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cst)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rst)、及びハンドル2とコラムシャフト8の上部との間の剛性(トルク係数Kst)により定義付けられて設定される。
【0053】
コラムシャフト8の上部のモデルは、イナーシャJcu、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ccu)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rcu)、トーションバーの剛性(トルク係数Ktb)により定義付けられて設定される。
【0054】
コラムシャフト8の下部のモデルは、イナーシャJcl、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ccl)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rcl)、及びインターミディエイトシャフト9との間のジョイントの剛性(トルク係数Kj)により定義付けられて設定される。
【0055】
操舵力補助装置13(モータ部)のモデルは、ウォームギヤのイナーシャJw、モータシャフトのイナーシャJms、モータ15部分の粘性摩擦(粘性摩擦係数Cm)、モータ15部分のクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rm)、ウォームギヤとモータシャフトとの間のジョイントの剛性(トルク係数Kwm)、及びモータトルクTmoにより定義付けられて設定される。
【0056】
インターミディエイトシャフト9の上部のモデルは、イナーシャJiu、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ciu)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Riu)、及びインターミディエイトシャフト9の剛性(トルク係数Ki)により定義付けられて設定される。
【0057】
インターミディエイトシャフト9の下部のモデルは、イナーシャJil、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cil)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Ril)、及びインターミディエイトシャフト9とピニオンシャフト10との間の剛性(トルク係数Kip)により定義付けられて設定される。
【0058】
ピニオンシャフト10(ピニオン部分)のモデルは、イナーシャJp、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cp)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rp)により定義付けられて設定される。
【0059】
ラック軸5(ラック5a)のモデルは、ラック軸5の質量Mra、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cra)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rra)、ラックガイドの摩擦(摩擦係数Frg)、及びばね負荷装置の剛性(トルク係数Ksp)により定義付けられて設定される。
【0060】
これら各機械系の要素のうち、各部の粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきがある。また、これらは経年変化により値が低下する。このため、後述する検証用モデル71では、これらの値は、電動パワーステアリングシステム1に発生し得る特定の問題に対して、最も厳しい条件となる値が設定される。例えばハンドル2の自励振動に対する検証を行う際の検証用モデル71では、各部の粘性摩擦及びクーロン摩擦の値として、これらが取り得る値の範囲における下限値が設定される。なお、自励振動とは、振動と無関係な現象により振動が引き起こされる現象をいう。
【0061】
<トルク制御部モデル>
次に、トルク制御部54のモデルについて詳細に説明する。
図7に示すように、トルク制御部54のモデルは、基本アシスト制御部61及び補償制御系62を備えてなる。
【0062】
基本アシスト制御部61は、位相補償部61aにより位相補償処理が施された操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び車速Vに応じて、基本アシスト電流指令値Ia*を算出する。この基本アシスト電流指令値Ia*は、最終的に生成される電流指令値I*の基本的な成分となるものである。基本アシスト電流指令値Ia*は、操舵トルクτ(正確には、その絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど、絶対値の大きな値として算出される。なお、基本アシスト制御部61は、基本アシストトルクマップに基づき基本アシスト電流指令値Ia*を算出する。当該アシストトルクマップは、車速V、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び基本アシスト電流指令値Ia*が関連付けられた特性マップである。なお、適合作業時には、このアシストトルクマップを規定する操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び基本アシスト電流指令値Ia*が適合データとして適合される。
【0063】
補償制御系62は、微分演算部62a及びトルク微分制御部62bを備えてなる。微分演算部62aは、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)の微分値T′を算出する。トルク微分制御部62bは、微分演算部62aにより算出される微分値T′に基づき、操舵トルクτの補償成分となる補正電流指令値Ib*を算出する。トルク微分制御部62bは、補正トルクマップに基づき補正電流指令値Ib*を算出する。当該補正トルクマップは、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)の微分値T′及び補正電流指令値Ib*が関連付けられた特性マップである。なお、この補正電流指令値Ib*は、電動パワーステアリングシステム1に独特な慣性、粘性及びハンドル2の戻り性を補償するべく算出される。なお、適合作業時には、この補正トルクマップを規定する操舵トルクτの微分値T′及び補正電流指令値Ib*が適合データとして適合される。
【0064】
そして、基本アシスト制御部61により算出される基本アシスト電流指令値Ia*と、トルク微分制御部62bにより算出される補正電流指令値Ib*との加算値が、最終的な電流指令値I*として算出される。
【0065】
<電流制御部モデル>
次に、電流制御部55のモデルについて詳細に説明する。
図8に示すように、電流制御部55のモデルは、CPUの演算(ソフトウエア)により実現される機能部分と、モータ15等のハードウエアにより実現される機能部分とからなる。
【0066】
電流制御部55(ソフトウエア)は、トルク制御部54により生成される電流指令値I*に基づきPI演算を実行する。すなわち、電流制御部55は、電流指令値I*と、モータ15の実電流Iとの差ΔIを算出する。そして電流制御部55は、差ΔIの値の積分値に所定の積分ゲインを乗じた値と、差ΔIの値に所定の比例ゲインを乗じた値とを加算することにより、モータ15へ印加する電圧V*(電圧指令値)を算出する。電流制御部55は、算出した電圧V*を図示しないモータ駆動回路を通じてモータ15に印加する。モータ15は、モータインピーダンス及びトルク定数Kt並びに回転速度ωに逆起電圧定数Keを乗じた値に応じたモータトルクTmoを発生する。なお、本例では、モータ15として、DCブラシ付きモータを想定している。
【0067】
<適合データの検証処理>
次に、前述のように構成した適合装置21を使用して適合されたパラメータの妥当性を検証する検証処理について説明する。本例では、電動パワーステアリングシステム1に発生し得る問題として、ハンドル2の自励振動の発生の有無を検証する場合について説明する。ハンドル2の自励振動が発生する要因としては、次のようなことが考えられる。すなわち、適合装置21を通じて適合した各パラメータの評価を行う制御システム(実機又はモデル)が、摩擦(粘性摩擦及びクーロン摩擦)等の機械的な要素について、そのすべての値が下限値である等の最悪条件ではない場合には、自励振動等の問題が発生することはない。しかし、例えば摩擦等の機械的な要素について、そのすべての値が下限値である等の最悪条件の製品が生産された場合には、例えば基本アシスト制御部61における基本アシストトルクマップのアシスト勾配が大きすぎることにより、制御システムが不安定となり、自励振動が発生するおそれがある。この場合、自励振動の発生に関係するパラメータは、基本アシスト制御部61の有する基本アシストトルクマップのアシスト勾配である。したがって、自励振動の発生を未然に抑制するためには、機械系の各要素の摩擦(粘性摩擦及びクーロン摩擦)を下限の値としたときに制御システムが不安定になっていないかどうかの検証が必要となる。
【0068】
当該検証は、前述した電動パワーステアリングシステム1のモデル51をベースとした自励振動の検証用モデル71を使用して行われる。当該検証用モデル71は、基本的には前述したモデル51と同一の構成とされている。したがって、モデル51と同一の構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0069】
当該検証用モデル71では、前述した機械系モデル52の各要素のクーロン摩擦及び粘性摩擦の値として、自励振動が最も発生しやすいと想定される下限値に設定されている。また、図9に示されるように、負荷条件として、ラック軸5の両端は自由端(フリー)、またハンドル2は固定状態とされている。さらに、図10に示すように、当該検証用モデル71は、トルクオープンループを構成したモデルとされている。すなわち、トルクセンサ18により検出されるトーションバートルクTaは、トルク制御部54ではなく、自励振動判定部72へ供給される。トルク制御部54には、トーションバートルクTaに代えて、SinSweep信号Tin(正弦波信号)が供給される。このSinSweep信号Tinは、自励振動判定部72にも供給される。自励振動として最も厳しい車速条件は、0km/hであるため、車速Vは0km/hに設定する。
【0070】
また、当該検証用モデル71では、基本アシスト制御部61の基本アシストトルクマップは、自励振動検証用のマップとされる。すなわち、図11に示されるように、適合作業を通じて適合した基本アシストトルクマップにおいて最もアシスト勾配が大きい傾きを有し、且つ原点を通るマップとなるように、マップデータ(トーションバートルクTa及び基本アシスト電流指令値Ia*)が設定されている。
【0071】
自励振動判定部72は、トーションバートルクTa及びSinSweep信号Tinに基づきシステムの安定性を判定する。すなわち、自励振動判定部72は、入力信号であるSinSweep信号Tinと、出力信号であるトーションバートルクTaとの伝達関数G(s)を演算する。伝達関数G(s)は、出力信号及び入力信号のラプラス変換の比で表される。トーションバートルクTa(信号)のラプラス変換をTa(s)、SinSweep信号Tinのラプラス変換をTin(s)としたとき、伝達関数G(s)は、次のように表される。
【0072】
・G(s)=Ta(s)/Tin(s)
伝達関数G(s)の周波数特性を表すボード線図は、図12(a)に示されるゲイン線図と、図12(b)に示される位相線図との組合せで示される。ゲイン線図は、対数周波数軸を横軸として周波数(Hz)毎のゲイン(dB)の対数値を縦軸にプロットしたグラフである。また、位相線図は、周波数と位相との関係を表したグラフである。位相線図は、ゲイン線図と同様に周波数は対数軸で表す。ゲイン線図と併用することにより、周波数についての位相変位の量を評価するために使用される。
【0073】
ここで一般に、システムの安定度にかかわる尺度(基準)として、ゲイン余裕gm及び位相余裕φmが知られている。
図12(a)に示されるように、ゲイン余裕gmは、0dBまでにどれだけの余裕を有しているかを示す。換言すれば、ゲイン余裕gmは、位相が−180°のとき、ゲインが0dBから何dBの余裕を有しているかを示す。位相が反転した周波数でのゲインを示すともいえる。
【0074】
図12(b)に示されるように、位相余裕φmは、ゲインが0dbのとき、位相が−180°までに(すなわち、反転するまでに)何度の余裕を有しているかを示す。
そしてこれらゲイン余裕gm及び位相余裕φmが大きいほど安定性が保証されるとともに、パラメータの変動に対して不安定になりにくいことが知られている。通常、ゲイン余裕gmは10db以上、位相余裕φmは40°以上が好ましいとされる。
【0075】
そして自励振動判定部72は、伝達関数G(s)のボード線図を利用してゲイン余裕gm及び位相余裕φmを求め、それらの値が所定値以上だけ確保できているかどうかにより、問題の発生の有無を判定する。
【0076】
自励振動判定部72は、以下の2つの条件式(A),(B)が成立する旨判断される場合には、システムは安定性が確保されている旨判定する。いずれかの条件が不成立である旨判断される場合には、システムは不安定である旨判定する。
【0077】
・ゲイン余裕gm≧ゲイン余裕判定閾値gmh ・・・(A)
・位相余裕φm≧位相余裕判定閾値φmh ・・・(B)
ゲイン余裕判定閾値gmhはシステムの安定度を判定する一つの基準となる値である。本例では、ゲイン余裕判定閾値gmhは10dBとされている。
【0078】
位相余裕判定閾値φmhはシステムの安定度を判定する一つの基準となる値である。本例では、ゲイン余裕判定閾値gmhは40度とされている。
<検証処理手順>
次に、適合装置21によるパラメータの検証処理の手順を図13のフローチャートに従って説明する。当該フローチャートは、補助記憶装置33に格納された各種の制御プログラムに従ってCPU41により実行される。
【0079】
さて、当該検証処理は、入力装置34を通じて表示装置32の画面上に設けられた検証ボタンBguiの押下を契機として実行される。
検証ボタンBguiが押下されたことを検出すると、CPU41は補助記憶装置33に格納された検証用モデル71を読み込む(ステップS101)。次に、CPU41は、適合作業を通じて適合された制御パラメータ(適合値)を検証用モデル71に設定して(ステップS102)、シミュレーションを実行する(ステップS103)。すなわち、SinSweep信号Tinをトルク制御部54(モデル)へ印加する。そしてCPU41は、入力信号であるSinSweep信号Tinと、出力信号であるトーションバートルクTaとの伝達関数G(s)を演算し、この伝達関数G(s)に基づきシステムの安定性を評価、すなわちシステムが不安定となる状況の発生の有無(不安定性の有無)を判定する(ステップS104)。
【0080】
CPU41は、先の2つの条件式(A),(B)が成立する旨判断される場合には、システムが不安定となる状況の発生はないとして(ステップS104でNO)、その旨表示装置32の画面、正確には第3の表示画面32cに表示し(ステップS105)、処理を終了する。
【0081】
これに対して、CPU41は、先の2つの条件式(A),(B)のうち少なくとも一方が成立しない旨判断される場合には、システムが不安定となる状況の発生のおそれがあるとして(ステップS104でYES)、その旨表示装置32の画面、正確には第3の表示画面32cに表示し(ステップS106)、処理を終了する。
【0082】
例えば警告内容として、例えば次のような警告文が表示される。すなわち、当該警告が自励振動に係る検証の結果である場合には、先の図2(b)に示されるように、「警告!本適合値では量産時に「自励振動」が発生する可能性があります。」というシステムが不安定となる状況の内容を示す警告文が第3の表示画面32cに表示される。なお、同図に示されるように、警告文だけではなく、その不安定となる状況の発生を解消するために、どの制御パラメータを、どのように設定すればよいのか等の対策を表示するようにしてもよい。例えば、「対策はアシスト勾配を○○Nm/Nm以下になるようにマップ形状を見直してください。」というガイダンスが第3の表示画面32cに表示される。また、これら警告及びガイダンスは、聴覚に訴えて行うようにすることも可能である。この場合には、適合装置21にスピーカ等の報知手段を設ける。警告及びガイダンスの内容を示す情報は、補助記憶装置33に予め格納される。
【0083】
複数の不安定性に係る検証対象が存在する場合には、連続的にそれぞれの検証用シミュレーションモデルをシミュレーションして検証することも可能である。この場合には、図13のフローチャートにおけるステップS101〜S106の処理が自動的に繰り返される。電動パワーステアリングシステム1において発生が懸念される問題毎に検証用のシミュレーションモデルが作成され、これらは補助記憶装置33に予め格納される。
【0084】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性(粘性摩擦及びクーロン摩擦)の製品間のばらつきを加味してなる検証用モデル71に、適合された制御パラメータである適合データを与えて電動パワーステアリングシステム1の動作をシミュレーションするようにした。そして当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証するようにした。このため、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。したがって、適合された制御パラメータである適合データの信頼性が高められる。
【0085】
(2)検証用モデル71は、電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題(例えばハンドル2の自励振動)が最も発生しやすい条件を有してなる。このため、特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルを使用したシミュレーションを通じて、適合データの信頼性がいっそう高められる。
【0086】
また、システムとして最悪条件の場合(システムが不安定となる状況)を想定したシミュレーションを通じて適合作業を行うことにより、動的特性の製品間におけるばらつき、あるいは経年的な値の変化等に起因するシステムの安定性の低下を抑制することができる。電動パワーステアリングシステム1においては、制御量が過剰となることによるハンドル2の自励振動が発生する等の問題が量産後の市場で発生することが抑制される。
【0087】
(3)電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性としては、例えば当該システムの機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦等がある。これら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、電動パワーステアリングシステム1の安定性に大きく影響する。そしてこれら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきが発生するばかりか、経年的に値が変化する。このため、本例のように、これら粘性摩擦及びクーロン摩擦の製品間でのばらつきを考慮してなるシミュレーションモデルを使用して電動パワーステアリングシステム1の動作をシミュレーションすることにより、適合データの妥当性の判定の精度が高められる。適合データの信頼性も高められる。
【0088】
(4)シミュレーションによる適合データの検証結果を、表示装置32を通じて報知(表示)するようにした。この構成によれば、検証結果に基づき適合作業を行うことが可能になる。例えば適合作業者は、自身が適合した制御パラメータが妥当か否かを認識可能になるため、必要に応じて制御パラメータの調整を再度行うことも容易になる。したがって、適合作業の効率化が図られる。
【0089】
(5)適合した制御パラメータが妥当でない旨判断される場合には、表示装置32を通じて制御パラメータの適合に関するガイダンスを報知するようにした。適合の作業者は、ガイダンスに従い再度の適合作業を行うことが可能になる。このため、適合作業の効率の向上が図られる。
【0090】
(6)電動パワーステアリングシステム1は、機械的な構成要素が多く複雑である。このようなシステムの適合作業に本例の適合装置21は好適である。
(7)最悪条件をすべて網羅するようにして実車評価することも考えられるものの、この場合には、想定される全ての問題、及びそれら問題の発生の原因となる全ての要素について反映された制御システムを用意する必要がある。しかし、これは費用及び工数の観点から現実的ではない。本例では、シミュレーション技術を利用することにより、費用及び工数を低減しつつ、最悪条件をすべて網羅して評価することができる。
【0091】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例では、システムが不安定となる状況が発生するおそれがある旨の検証結果が得られる場合にのみ表示装置32の画面に当該不安定となる状況の発生を解消するためガイダンスを行うようにしたが、通常の適合作業時にもガイダンスを表示させるようにしてもよい。
【0092】
・補助記憶装置33に格納される適合プログラムを含む各種のプログラムは、CDROM等の記憶媒体に格納して流通させることも可能である。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワークを通じて流通させることも可能である。
【0093】
・LAN49を通じて外部データベース等に接続することによりデータを共有し、車両毎あるいは他の適合作業者のデータを利用可能としてもよい。また、開発等の工程の進捗状態を共有して作業を効率的に分担する車両開発システムを構築することも可能である。
【0094】
・本例では、電動パワーステアリングシステム1の適合作業に適用したが、車両のエンジン、ブレーキ、VGRS(ギヤ比可変ステアリング)、サスペンション及び四輪駆動車のカップリング(駆動力伝達装置)等の他の制御システムの適合作業に適用してもよい。また、車載される制御システムに限らず適用することができる。
【0095】
・本例では、検証用の機械系モデル52において、各構成要素の摩擦等の機械的な要素については、そのすべての値を下限値として設定したが、適切な最小限の要素についてのみ下限値を設定して適合値の評価を行うようにしてもよい。この場合であれ、製品間における摩擦等の機械的な要素のばらつきを考慮して、制御パラメータの適合作業及び適合したパラメータの検証を行うことができる。したがって、適合値(適合データ)の信頼性を向上させることができる。また、この場合には、モデル化も適切な要素のみを抽出すればよい。
【0096】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
・電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する適合装置において、
前記制御システムの持つ動的特性の製品間のばらつきを加味して特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【符号の説明】
【0097】
1…電動パワーステアリングシステム(制御システム)、14…電子制御装置、21…適合装置、32…表示装置(報知手段)、41…CPU(検証手段)、71…検証用モデル(検証用のシミュレーションモデル)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムにおける制御パラメータの適合作業を行う制御パラメータ適合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両の電子制御装置は、車両各部の状態を検出する各種のセンサから取り込まれる検出信号に基づき演算を実行し、その検算結果に基づきアクチュエータの制御を通じて制御システムを制御する。電子制御装置は、様々な状況下でエンジン、自動変速機及び電動パワーステアリング等の各種のシステムが最適な性能を発揮できるよう動作する。この電子制御装置により実行されるソフトウエアは、パラメータ(定数)を使用することにより柔軟性を持たせた構造とされている。これにより、同じシステムのパラメータを変更して別の車に使用すること等も容易になる。このパラメータは、所望のシステム特性が得られるように適合作業を通じて最適化が図られる。
【0003】
例えば電動パワーステアリングシステムを車両に搭載する際には、車両毎の特性及び車両メーカの要求する操舵フィーリング等に応じて適合作業、すなわち当該システムで行われる各種制御の制御パラメータの調整が行われる。この適合作業は、制御パラメータの適合プログラムに従って動作する適合装置を使用して、当該システムを搭載する車両において所望の操舵フィーリングが得られるまで繰り返し行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
具体的には、適合装置を電動パワーステアリングシステムの電子制御装置に通信線を介して接続した上で、当該適合装置において制御パラメータが設定される。当該制御パラメータは、通信線を介して電子制御装置に転送されてその記憶装置に書き込まれる。この電子制御装置によるモータの制御を通じて、設定後の制御パラメータを反映した操舵補助の実行が可能となる。この状態で、当該システムを搭載した車両の実際の走行を通じて操舵フィーリングが確認される。この実際の操舵フィーリングに基づき、制御パラメータの変更作業が再び行われる。このような手順の繰り返しを通じて、制御パラメータが最適な値に設定されることにより、所望の操舵フィーリングが得られる。
また、例えば特許文献2に記載されるように、適合作業により設定される制御パラメータの妥当性を実機により評価するのではなく、ソフトウエアによるシミュレーションにより評価することも従来提案されている。すなわち、制御システムの制御系及び機械系の各要素をモデル化し、これらモデルを使用して制御システム全体の動作をシミュレーションする。こうしたシミュレーション技術を利用することにより、実機による実験を行うことなく、事前に操舵特性等の各種の車両特性を確認することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−178706号公報
【特許文献2】特開2008−197899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記従来の適合作業には、次のような問題があった。すなわち、各種の制御システムが量産された場合、各機械的要素(粘性摩擦及びクーロン摩擦等の動的特性)には製品間でばらつきが発生する。そしてこれら要素のばらつきの度合い、及びばらつき要素の組み合わせ等についても製品毎に異なる。このため、適合作業の段階では最適な値であった各種の制御パラメータが、特定の製品においては最適な値とはいえなくなる状況の発生が懸念される。したがって、当該特定の製品においては、制御システムの安定性を好適に確保することができないおそれがある。この問題は、特に前述した電動パワーステアリングシステムのように、粘性摩擦及びクーロン摩擦等の多数の機械的な要素を含む制御システムにおいて顕著であると想定される。例えば電動パワーステアリングシステムにおいては、製品間の機械的な要素のばらつきに起因して、異音又はステアリングホイールの自励振動等の発生が懸念される。
【0007】
なお、シミュレーション技術を利用して、設定した制御パラメータ(適合値)を評価する場合であれ、その評価手順及び内容については実機を使用して評価する場合の手順及び内容を踏襲するものである。このため、製品を量産した場合における各機械的要素のばらつきに起因する問題の発生については同様に懸念される。このように、最適化が図られた制御パラメータである適合データの信頼性の点において、未だ改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、適合データの信頼性を向上させることができる制御パラメータ適合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する制御パラメータ適合装置において、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなることをその要旨とする。
【0010】
本発明によれば、制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルを使用して制御システムの動作をシミュレーションすることにより、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。このため、適合された制御パラメータである適合データの信頼性が高められる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制御パラメータ適合装置において、前記シミュレーションモデルは、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなることをその要旨とする。
【0012】
本発明によれば、特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルを使用したシミュレーションを通じて、適合データの信頼性がいっそう高められる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の制御パラメータ適合装置において、前記制御システムが有する動的特性は、前記機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦を含んでなることをその要旨とする。
【0013】
粘性摩擦及びクーロン摩擦は、制御システムの安定性に大きく影響する。そしてこれら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきが発生するばかりか、経年的に値が変化する。このため、本発明のように、これら粘性摩擦及びクーロン摩擦の製品間でのばらつきを考慮してなるシミュレーションモデルを使用して制御システムの動作をシミュレーションすることにより、適合データの妥当性の判定の精度が高められる。適合データの信頼性も高められる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、前記検証手段による検証結果を報知する報知手段を備えてなることをその要旨とする。
【0015】
本発明によれば、検証結果に基づき適合作業を行うことが可能になる。例えば適合作業者は、自身が適合した制御パラメータが妥当か否かを認識可能になるため、必要に応じて制御パラメータの調整を再度行うことも容易になる。このように、適合作業の効率化が図られる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の制御パラメータ適合装置において、前記報知手段による報知は、制御パラメータの適合に関するガイダンスを含むことをその要旨とする。
【0017】
本発明によれば、適合の作業者は、ガイダンスに従い適合作業を行うことが可能になる。このため、適合作業の効率の向上が図られる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、前記制御システムは、電動パワーステアリングシステムであることをその要旨とする。
【0018】
電動パワーステアリングシステムは、機械的な構成要素が多く複雑である。このようなシステムの適合作業に請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置は好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、量産の際に発生する制御システムの機械的要素のばらつきを考慮した上で制御パラメータを適合させることができる、このため、適合データの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】適合装置の使用の態様を示す構成図。
【図2】(a)は、適合装置の構成を示すブロック図、(b)は表示装置の表示例を示す画面の正面図。
【図3】電動パワーステアリングシステムのモデルの概略を示す構成図。
【図4】検証用シミュレーションモデル(ベース)の構成図。
【図5】(a)はハンドルのモデル化に際して設定される運動方程式の各要素を示すブロック図、(b)はハンドルの運動方程式に基づき求められるハンドルのモデルを示すブロック図。
【図6】機械系モデルの各要素を示す構成図。
【図7】トルク制御部モデルの構成図。
【図8】電流制御部モデルの構成図。
【図9】負荷状態を示す検証用モデルの構成図。
【図10】検証用モデルの構成図。
【図11】自励振動検証用の基本アシスト制御部のマップを示すグラフ。
【図12】(a)はボード線図のゲイン線図を示すグラフ、同じく(b)はボード線図の位相線図を示すグラフ。
【図13】検証処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、電動パワーステアリングシステムの制御に使用される制御パラメータの適合装置に具体化した一実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
まず、本例において適合作業の対象となる電動パワーステアリングシステムの概略的な構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、電動パワーステアリングシステム1において、ハンドル2(ステアリングホイール)と一体回転するステアリングシャフト3は、ハンドル2側からコラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9及びピニオンシャフト10の順に連結されてなる。ピニオンシャフト10はこれに直交して設けられるラック軸5のラック部分5aに噛合されている。ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ピニオンシャフト10及びラック部分5aからなるラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルアームに伝達されることにより、転舵輪12の舵角が変更される。
【0023】
また、電動パワーステアリングシステム1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置(パワーアシストユニット)13、及び操舵力補助装置13の作動を制御する電子制御装置(ECU)14を備えてなる。
【0024】
操舵力補助装置13の駆動源であるモータ15は、ウォーム及びウォームホイールからなる減速機構16を介してコラムシャフト8に作動連結されている。モータ15の回転力は減速機構16により減速されてこれがアシスト力として操舵系、正確にはコラムシャフト8に伝達される。電子制御装置14は、このアシスト力を次のようにして制御する。すなわち、電子制御装置14は、転舵輪12等に設けられる車速センサ17を通じて車速Vを取得する。また、電子制御装置14は、コラムシャフト8に設けられるトルクセンサ18を通じて、ハンドル2に印加される操舵トルクτを取得する。そして電子制御装置14は、これら車速V及び操舵トルクτに基づき目標アシスト力を算出し、この算出される目標アシスト力を発生させるべくモータ15の給電制御を行う。このモータ15の給電制御を通じて操舵系に印加されるアシスト力が制御される。
【0025】
なお、本例では、モータ15として、DCブラシ付きモータの採用を想定しているものの、ブラシレスモータを採用してもよい。また、本例では、トルクセンサ18は、コラムシャフト8の途中に設けられる図示しないトーションバーの捩れ角に基づき操舵トルクτを検出するタイプのものが採用されている。すなわち、コラムシャフト8は、正確には、トーションバーの両端に連結される2つのシャフトからなる。
【0026】
<適合装置の概要>
前述のように構成された電動パワーステアリングシステムにおいては、当該システムが所望の性能を発揮できるように、その電子制御装置において使用される制御パラメータが最適な値に設定される。図1に示されるように、この適合作業は、制御パラメータの適合プログラムに従って動作する適合装置21を使用して行われる。適合装置21において設定された制御パラメータは、当該装置上においてシミュレーションが行われてその妥当性が確認された後に、通信線22を通じて電子制御装置14へ転送される。この通信線22は、電子制御装置14及び適合装置21に対して着脱自在である。なお、適合装置21に設けられる後述する表示装置の画面上には、適合作業の対象となる各種の制御パラメータ(適合データ)、これらパラメータをグラフ化したマップ(適合マップ)、及びシミュレーションによる制御パラメータの妥当性の検証結果等が表示される。作業者は、これら画面の表示を目視しながら適合作業を行う。
【0027】
<適合装置の構成>
次に、適合装置21の構成について説明する。図2(a)に示すように、適合装置21は、制御装置31、表示装置32、補助記憶装置33、及び入力装置34を備えてなる。
【0028】
補助記憶装置33としては、ハードディスク装置あるいは不揮発性メモリ等が採用される。この補助記憶装置33には、制御装置31において実行される各種の制御プログラム及びデータ等が格納されている。補助記憶装置33に格納されるデータとしては、例えば電動パワーステアリングシステム1及びこれが搭載される車両の諸元、並びに電動パワーステアリングシステム1の数学的なモデル51等がある。当該モデル51は、適合装置21によるソフトウエアの実行を通じて生成される。なお、当該モデル51については後に詳述する。
【0029】
また、入力装置34としては、キーボード35及びマウス36等が採用される。この入力装置34を通じて、適合装置21が有する各種の機能の実行、及び各種のデータの入力等が行われる。
【0030】
制御装置31は、CPU(中央処理装置)41、主記憶装置42、LAN(ローカルエリアネットワーク)用のインタフェース部43、表示制御部44、補助記憶装置用のインタフェース部45、入力装置用のインタフェース部46、及び電子制御装置14との接続用のインタフェース部47を備え、これらがバス48を通じて相互に接続されてなる。主記憶装置42は、揮発性メモリ等から構成される。
【0031】
表示制御部44には、ブラウン管(CRT)及び液晶ディスプレイ等の表示装置32が接続されている。表示制御部44は、CPU41からの表示指令に基づき表示装置32の表示を制御する。
【0032】
補助記憶装置用のインタフェース部45には補助記憶装置33が接続されている。入力装置用のインタフェース部46には、キーボード35及びマウス36等の入力装置34が接続されている。電子制御装置14との接続用のインタフェース部47には、通信線22を介して電子制御装置14が接続される。また、適合装置21は、LAN用のインタフェース部43を介してLAN49に接続可能とされている。
【0033】
適合装置21は、補助記憶装置33から主記憶装置42に読み込んだプログラムをCPU41が実行することによって、電動パワーステアリングシステムの制御パラメータの適合装置として機能する。また、適合装置21は、通信線22を介して電子制御装置14に接続することにより、電子制御装置14に記憶された各種の制御パラメータを読み込んだり、最適化が図られた調整後の制御パラメータを電子制御装置14に転送したりすることが可能とされている。
【0034】
<適合装置の機能>
次に、適合装置21の各種の機能について説明する。適合装置21の各機能は補助記憶装置33に格納される各種のプログラムに基づく各種の演算機能により実現される。
【0035】
適合装置21(正確には、CPU41)は、補助記憶装置33に格納された車両諸元及びシステム諸元に基づき、車両に応じた各種制御の制御パラメータの初期設定を行う初期設計機能を有している。そして適合装置21は、この初期設計に対して、操舵フィーリングの調整を行う。すなわち、適合装置21は、所望の操舵フィーリングが実現されるように、初期設定された各種の制御パラメータの変更(調整)を行う制御パラメータ変更機能を有する。この制御パラメータの変更は、キーボード35及びマウス36等の入力装置34からの入力に応じて行われる。この入力される制御パラメータは、主記憶装置42に一時的に格納される。
【0036】
また、適合装置21は、設定された制御パラメータに基づき、電子制御装置14による電流指令値の演算等を含む電動パワーステアリングシステム1の動作を模擬するシミュレーション機能を有するとともに、当該シミュレーションの結果に基づきシステムが不安定となる状況の発生の有無(不安定性の有無)を検証する検証機能を有している。当該シミュレーションは、補助記憶装置33に格納された電動パワーステアリングシステム1のモデル51(正確には、後述する検証用モデル71)を使用して行われる。そして適合装置21は、モデル51を使用したシミュレーションによる検証結果を、表示制御部44を通じて表示装置32の画面に表示する。適合装置21は、システムが不安定となる状況が発生するおそれがある旨判定した場合には、その不安定となる状況の内容及び当該状況の発生を回避するための対策案を、表示装置32等を通じて報知するガイダンス機能を有している。
【0037】
適合装置21は、適合作業の結果、すなわち設定後の制御パラメータを電子制御装置14に反映させるために、主記憶装置42に格納されている設定後の制御パラメータ群を電子制御装置14に転送する。これら設定後の制御パラメータが電子制御装置14に格納されることにより、当該電子制御装置14によるモータ15の制御を通じて、設定後の制御パラメータを反映した操舵補助の実行が可能となる。
【0038】
<表示装置の画面表示>
ここで、表示装置32の画面表示について説明する。図2(b)に示されるように、表示装置32の画面には、適合作業の対象となる各種の制御パラメータ(適合データ)、これらパラメータをグラフ化したマップ(適合マップ)、及びシミュレーションによる制御パラメータの妥当性の検証結果等が表示される。すなわち、表示装置32の画面は、これらが表示される領域が分割して形成される。同図では、画面の左側には、アシストトルク等の特定の適合項目に対応する制御パラメータが表示される第1の表示画面32aが形成されている。同じく画面の中央には、第1の表示画面32aに表示される制御パラメータに基づきグラフ化されたマップが表示される第2の表示画面32bが形成されている。同じく画面の右側にはシミュレーションによる制御パラメータの検証結果が表示される第3の表示画面32cが形成されている。なお、これら表示画面の数、あるいは画面に表示させる項目等は、入力装置34を通じて適宜変更することができる。
【0039】
また、表示装置32の画面の上部には、検証ボタンBguiが設けられている。入力装置34を通じた検証ボタンBguiの押下を契機として、シミュレーションによる制御パラメータの検証処理の実行が開始される。なお、検証ボタンBguiは、プッシュボタンとしての機能のグラフィカルな表現である。
【0040】
<システムモデルの概略構成>
次に、電動パワーステアリングシステム1のモデル51について説明する。本例では、電動パワーステアリングシステム1の構成要素の全てがモデル化されてなる。すなわち、図3に示すように、当該モデル51は、電動パワーステアリングシステム1の機械的な要素の全てがモデル化されてなる機械系モデル52、及び電子制御装置14により実行される操舵補助制御の全ての制御ロジック等がモデル化されてなる制御系モデル53からなる。
【0041】
機械系モデル52は、ハンドル2、ステアリングシャフト3(コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9及びピニオンシャフト10)、ラック軸5、及びトルクセンサ18等の電動パワーステアリングシステム1における機械的な構成の全てが抽出され、これらがモデル化されてなる。また、制御系モデル53は、電子制御装置14により実行されるモータ15の制御に係る全ての制御ロジックがモデル化されてなる。当該制御系モデル53におけるアウトプットは、モータ15の出力軸15aとされる。
【0042】
なお、同図に示されるモデル51は、設定した制御パラメータの妥当性を検証する際に使用される検証用モデル71の基礎(ベース)となる。この検証用モデル71については、後に詳述する。
【0043】
<システムモデルの動作>
次に、前述した電動パワーステアリングシステム1のモデル51の動作について説明する。図4に示されるように、機械系モデル52には、シグナルジェネレータ52bにより生成される操舵トルク信号の代替信号が、操舵トルクτとして与えられる。機械系モデル52は、操舵トルクτに応じてトーションバーに発生するトーションバートルクTa、図示しない回転角センサを通じて検出されるモータ15の回転角(電気角)θ、及び当該回転角θに基づき算出されるモータ15の回転速度ωを算出し、これら算出結果を制御系モデル53へ出力する。また、機械系モデル52は、検出されるラック軸5の変位Xra、及び当該変位Xraを微分することにより得られるラック軸5の変位速度dXraを算出する。また、機械系モデル52では、ラック軸5に作用する機械的な負荷からの荷重Lがフィードバックされる。当該荷重Lは、ラック軸5の変位Xra及び変位速度dXraの値に応じて決まる。本例では、ラック軸5の両端に連結されるタイロッド11と転舵輪12との間が負荷装置52aとして設定されている。
【0044】
なお、この機械系モデル52が有するクーロン摩擦(動摩擦)、及び粘性摩擦等のパラメータ(定数)は、電動パワーステアリングシステム1を量産した際に、それら製品間でばらつきが発生する。また、これらパラメータは経年的に変化もする。そこで、適合作業を通じて適合される制御パラメータの妥当性を検証する際には、クーロン摩擦及び粘性摩擦等の機械的な要素の製品間のばらつき、あるいは経年変化を考慮して行われる。すなわち、適合した制御パラメータの妥当性の検証は、これら機械的な要素のばらつき等を加味した検証用モデル71を使用して行われる。この検証用モデル71は、クーロン摩擦(動摩擦)及び粘性摩擦等の値として、想定される各種の問題(例えばステアリングホイールの自励振動)について最も条件が厳しい下限値のデータを基礎となるモデル51(正確には、機械系モデル52)に入力することにより生成される。なお、この機械系モデル52が有する各種の機械的な要素については、後に詳述する。
【0045】
図4に示されるように、制御系モデル53は、トルク制御部54及び電流制御部55を備えてなる。トルク制御部54は、操舵トルクτ、モータ15の回転角θ及び車速V等の情報に基づき、モータ15に対するアシストトルク(電流)の指令値である電流指令値I*を演算する。電流制御部55は、トルク制御部54により演算されるアシストトルク指令値(電流指令値I*)に基づき、トルク制御部54からの指令通りのアシストトルク(電流)をモータ15に対して供給するべく通電制御を実行する。なお、電流制御部55は、トルク制御部54を通じて取得される電流指令値I*、機械系モデル52を通じて取得されるモータ15の回転角θ及び回転速度ωに基づき、モータ15の電流制御に係る各種の演算を実行する。
【0046】
なお、適合作業では、このトルク制御部54が有する制御パラメータの値(適合値)が変更される。すなわち、後述する電動パワーステアリングシステム1の検証用のモデルに対して適合した制御パラメータを与えて、その妥当性の検証が行われる。
【0047】
<機械系モデルの詳細>
次に、機械系モデル52の生成処理について詳細に説明する。機械系モデル52は、ばね、慣性(質量、イナーシャ)及び摩擦(粘性摩擦、クーロン摩擦)等の各種の機械的な要素からなる系として、これら要素が基本的な運動方程式で構成される。そして各運動方程式に基づき機械系モデル52が生成される。
【0048】
例えばハンドル2のモデル化は次のようにして行われる。すなわちまず、図5(a)に示されるように、ハンドル2に作用するトルク(慣性トルク、操舵トルク、剛性による捻れトルク、摩擦トルク)を考慮して運動方程式を立てる。当該運動方程式は、同図に示されるように、ハンドル2とコラムシャフト8の上部(図中では、「コラム上部」と記載する。)との関係に基づき求められる。
【0049】
そして次に当該運動方程式に基づき、図5(b)に示されるようなシミュレーションモデルを生成する。すなわち、当該モデルでは、ハンドル2の操作角度であるハンドル角θstとコラムシャフト8の上部の回転角θcuとの差の値に、トルク係数Kstを乗算することによりコラムシャフト8の上部の剛性による捻れトルクを算出する。そして、ハンドル2を通じて入力される操舵トルクTstから捻れトルク、ハンドル2の粘性摩擦及びクーロン摩擦を減算することにより、ハンドル2の慣性トルクを算出する。そしてこの算出される慣性トルク及びハンドル2のイナーシャJstに基づきハンドル2の角加速度を算出するとともに、当該角加速度を積分することによりハンドル2の角速度を算出する。なお、当該モデルでは、このハンドル2の角速度に粘性摩擦係数Cstを乗算することにより前述したハンドル2の粘性摩擦を算出する。また、このハンドル2の角速度にクーロン摩擦係数Rstを乗算することにより前述したハンドル2のクーロン摩擦を算出する。そしてさらに、当該モデルでは、この算出される角速度を積分することによりハンドル2のハンドル角θstを算出する。このように、図5(b)に示されるハンドル2のモデルは、図5(a)に示される運動方程式を反映したものとなる。
【0050】
電動パワーステアリングシステム1の機械的な構成要素において、ハンドル2以外の部分、すなわちコラムシャフト8の上部及び下部、並びに操舵力補助装置13(モータ)、並びにインターミディエイトシャフト9の上部及び下部、並びにピニオンシャフト10(ピニオン)、並びにラック軸5(ラック5a)についても、ハンドル2と同様にモデル化が実行される。そして、これら各モデルから電動パワーステアリングシステム1の全体のシミュレーションモデル(機械系モデル52)が構成される。
【0051】
<機械系モデルのパラメータ>
次に、機械系モデル52の各要素について説明する。機械系モデル52の各要素は次のようにして定義づけられて設定される。
【0052】
すなわち、図6に示すように、ハンドル2のモデルは、前述したように、操舵トルクTst、イナーシャJst、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cst)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rst)、及びハンドル2とコラムシャフト8の上部との間の剛性(トルク係数Kst)により定義付けられて設定される。
【0053】
コラムシャフト8の上部のモデルは、イナーシャJcu、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ccu)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rcu)、トーションバーの剛性(トルク係数Ktb)により定義付けられて設定される。
【0054】
コラムシャフト8の下部のモデルは、イナーシャJcl、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ccl)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rcl)、及びインターミディエイトシャフト9との間のジョイントの剛性(トルク係数Kj)により定義付けられて設定される。
【0055】
操舵力補助装置13(モータ部)のモデルは、ウォームギヤのイナーシャJw、モータシャフトのイナーシャJms、モータ15部分の粘性摩擦(粘性摩擦係数Cm)、モータ15部分のクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rm)、ウォームギヤとモータシャフトとの間のジョイントの剛性(トルク係数Kwm)、及びモータトルクTmoにより定義付けられて設定される。
【0056】
インターミディエイトシャフト9の上部のモデルは、イナーシャJiu、粘性摩擦(粘性摩擦係数Ciu)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Riu)、及びインターミディエイトシャフト9の剛性(トルク係数Ki)により定義付けられて設定される。
【0057】
インターミディエイトシャフト9の下部のモデルは、イナーシャJil、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cil)、クーロン摩擦(クーロン摩擦係数Ril)、及びインターミディエイトシャフト9とピニオンシャフト10との間の剛性(トルク係数Kip)により定義付けられて設定される。
【0058】
ピニオンシャフト10(ピニオン部分)のモデルは、イナーシャJp、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cp)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rp)により定義付けられて設定される。
【0059】
ラック軸5(ラック5a)のモデルは、ラック軸5の質量Mra、粘性摩擦(粘性摩擦係数Cra)、及びクーロン摩擦(クーロン摩擦係数Rra)、ラックガイドの摩擦(摩擦係数Frg)、及びばね負荷装置の剛性(トルク係数Ksp)により定義付けられて設定される。
【0060】
これら各機械系の要素のうち、各部の粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきがある。また、これらは経年変化により値が低下する。このため、後述する検証用モデル71では、これらの値は、電動パワーステアリングシステム1に発生し得る特定の問題に対して、最も厳しい条件となる値が設定される。例えばハンドル2の自励振動に対する検証を行う際の検証用モデル71では、各部の粘性摩擦及びクーロン摩擦の値として、これらが取り得る値の範囲における下限値が設定される。なお、自励振動とは、振動と無関係な現象により振動が引き起こされる現象をいう。
【0061】
<トルク制御部モデル>
次に、トルク制御部54のモデルについて詳細に説明する。
図7に示すように、トルク制御部54のモデルは、基本アシスト制御部61及び補償制御系62を備えてなる。
【0062】
基本アシスト制御部61は、位相補償部61aにより位相補償処理が施された操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び車速Vに応じて、基本アシスト電流指令値Ia*を算出する。この基本アシスト電流指令値Ia*は、最終的に生成される電流指令値I*の基本的な成分となるものである。基本アシスト電流指令値Ia*は、操舵トルクτ(正確には、その絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど、絶対値の大きな値として算出される。なお、基本アシスト制御部61は、基本アシストトルクマップに基づき基本アシスト電流指令値Ia*を算出する。当該アシストトルクマップは、車速V、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び基本アシスト電流指令値Ia*が関連付けられた特性マップである。なお、適合作業時には、このアシストトルクマップを規定する操舵トルクτ(トーションバートルクTa)及び基本アシスト電流指令値Ia*が適合データとして適合される。
【0063】
補償制御系62は、微分演算部62a及びトルク微分制御部62bを備えてなる。微分演算部62aは、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)の微分値T′を算出する。トルク微分制御部62bは、微分演算部62aにより算出される微分値T′に基づき、操舵トルクτの補償成分となる補正電流指令値Ib*を算出する。トルク微分制御部62bは、補正トルクマップに基づき補正電流指令値Ib*を算出する。当該補正トルクマップは、操舵トルクτ(トーションバートルクTa)の微分値T′及び補正電流指令値Ib*が関連付けられた特性マップである。なお、この補正電流指令値Ib*は、電動パワーステアリングシステム1に独特な慣性、粘性及びハンドル2の戻り性を補償するべく算出される。なお、適合作業時には、この補正トルクマップを規定する操舵トルクτの微分値T′及び補正電流指令値Ib*が適合データとして適合される。
【0064】
そして、基本アシスト制御部61により算出される基本アシスト電流指令値Ia*と、トルク微分制御部62bにより算出される補正電流指令値Ib*との加算値が、最終的な電流指令値I*として算出される。
【0065】
<電流制御部モデル>
次に、電流制御部55のモデルについて詳細に説明する。
図8に示すように、電流制御部55のモデルは、CPUの演算(ソフトウエア)により実現される機能部分と、モータ15等のハードウエアにより実現される機能部分とからなる。
【0066】
電流制御部55(ソフトウエア)は、トルク制御部54により生成される電流指令値I*に基づきPI演算を実行する。すなわち、電流制御部55は、電流指令値I*と、モータ15の実電流Iとの差ΔIを算出する。そして電流制御部55は、差ΔIの値の積分値に所定の積分ゲインを乗じた値と、差ΔIの値に所定の比例ゲインを乗じた値とを加算することにより、モータ15へ印加する電圧V*(電圧指令値)を算出する。電流制御部55は、算出した電圧V*を図示しないモータ駆動回路を通じてモータ15に印加する。モータ15は、モータインピーダンス及びトルク定数Kt並びに回転速度ωに逆起電圧定数Keを乗じた値に応じたモータトルクTmoを発生する。なお、本例では、モータ15として、DCブラシ付きモータを想定している。
【0067】
<適合データの検証処理>
次に、前述のように構成した適合装置21を使用して適合されたパラメータの妥当性を検証する検証処理について説明する。本例では、電動パワーステアリングシステム1に発生し得る問題として、ハンドル2の自励振動の発生の有無を検証する場合について説明する。ハンドル2の自励振動が発生する要因としては、次のようなことが考えられる。すなわち、適合装置21を通じて適合した各パラメータの評価を行う制御システム(実機又はモデル)が、摩擦(粘性摩擦及びクーロン摩擦)等の機械的な要素について、そのすべての値が下限値である等の最悪条件ではない場合には、自励振動等の問題が発生することはない。しかし、例えば摩擦等の機械的な要素について、そのすべての値が下限値である等の最悪条件の製品が生産された場合には、例えば基本アシスト制御部61における基本アシストトルクマップのアシスト勾配が大きすぎることにより、制御システムが不安定となり、自励振動が発生するおそれがある。この場合、自励振動の発生に関係するパラメータは、基本アシスト制御部61の有する基本アシストトルクマップのアシスト勾配である。したがって、自励振動の発生を未然に抑制するためには、機械系の各要素の摩擦(粘性摩擦及びクーロン摩擦)を下限の値としたときに制御システムが不安定になっていないかどうかの検証が必要となる。
【0068】
当該検証は、前述した電動パワーステアリングシステム1のモデル51をベースとした自励振動の検証用モデル71を使用して行われる。当該検証用モデル71は、基本的には前述したモデル51と同一の構成とされている。したがって、モデル51と同一の構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0069】
当該検証用モデル71では、前述した機械系モデル52の各要素のクーロン摩擦及び粘性摩擦の値として、自励振動が最も発生しやすいと想定される下限値に設定されている。また、図9に示されるように、負荷条件として、ラック軸5の両端は自由端(フリー)、またハンドル2は固定状態とされている。さらに、図10に示すように、当該検証用モデル71は、トルクオープンループを構成したモデルとされている。すなわち、トルクセンサ18により検出されるトーションバートルクTaは、トルク制御部54ではなく、自励振動判定部72へ供給される。トルク制御部54には、トーションバートルクTaに代えて、SinSweep信号Tin(正弦波信号)が供給される。このSinSweep信号Tinは、自励振動判定部72にも供給される。自励振動として最も厳しい車速条件は、0km/hであるため、車速Vは0km/hに設定する。
【0070】
また、当該検証用モデル71では、基本アシスト制御部61の基本アシストトルクマップは、自励振動検証用のマップとされる。すなわち、図11に示されるように、適合作業を通じて適合した基本アシストトルクマップにおいて最もアシスト勾配が大きい傾きを有し、且つ原点を通るマップとなるように、マップデータ(トーションバートルクTa及び基本アシスト電流指令値Ia*)が設定されている。
【0071】
自励振動判定部72は、トーションバートルクTa及びSinSweep信号Tinに基づきシステムの安定性を判定する。すなわち、自励振動判定部72は、入力信号であるSinSweep信号Tinと、出力信号であるトーションバートルクTaとの伝達関数G(s)を演算する。伝達関数G(s)は、出力信号及び入力信号のラプラス変換の比で表される。トーションバートルクTa(信号)のラプラス変換をTa(s)、SinSweep信号Tinのラプラス変換をTin(s)としたとき、伝達関数G(s)は、次のように表される。
【0072】
・G(s)=Ta(s)/Tin(s)
伝達関数G(s)の周波数特性を表すボード線図は、図12(a)に示されるゲイン線図と、図12(b)に示される位相線図との組合せで示される。ゲイン線図は、対数周波数軸を横軸として周波数(Hz)毎のゲイン(dB)の対数値を縦軸にプロットしたグラフである。また、位相線図は、周波数と位相との関係を表したグラフである。位相線図は、ゲイン線図と同様に周波数は対数軸で表す。ゲイン線図と併用することにより、周波数についての位相変位の量を評価するために使用される。
【0073】
ここで一般に、システムの安定度にかかわる尺度(基準)として、ゲイン余裕gm及び位相余裕φmが知られている。
図12(a)に示されるように、ゲイン余裕gmは、0dBまでにどれだけの余裕を有しているかを示す。換言すれば、ゲイン余裕gmは、位相が−180°のとき、ゲインが0dBから何dBの余裕を有しているかを示す。位相が反転した周波数でのゲインを示すともいえる。
【0074】
図12(b)に示されるように、位相余裕φmは、ゲインが0dbのとき、位相が−180°までに(すなわち、反転するまでに)何度の余裕を有しているかを示す。
そしてこれらゲイン余裕gm及び位相余裕φmが大きいほど安定性が保証されるとともに、パラメータの変動に対して不安定になりにくいことが知られている。通常、ゲイン余裕gmは10db以上、位相余裕φmは40°以上が好ましいとされる。
【0075】
そして自励振動判定部72は、伝達関数G(s)のボード線図を利用してゲイン余裕gm及び位相余裕φmを求め、それらの値が所定値以上だけ確保できているかどうかにより、問題の発生の有無を判定する。
【0076】
自励振動判定部72は、以下の2つの条件式(A),(B)が成立する旨判断される場合には、システムは安定性が確保されている旨判定する。いずれかの条件が不成立である旨判断される場合には、システムは不安定である旨判定する。
【0077】
・ゲイン余裕gm≧ゲイン余裕判定閾値gmh ・・・(A)
・位相余裕φm≧位相余裕判定閾値φmh ・・・(B)
ゲイン余裕判定閾値gmhはシステムの安定度を判定する一つの基準となる値である。本例では、ゲイン余裕判定閾値gmhは10dBとされている。
【0078】
位相余裕判定閾値φmhはシステムの安定度を判定する一つの基準となる値である。本例では、ゲイン余裕判定閾値gmhは40度とされている。
<検証処理手順>
次に、適合装置21によるパラメータの検証処理の手順を図13のフローチャートに従って説明する。当該フローチャートは、補助記憶装置33に格納された各種の制御プログラムに従ってCPU41により実行される。
【0079】
さて、当該検証処理は、入力装置34を通じて表示装置32の画面上に設けられた検証ボタンBguiの押下を契機として実行される。
検証ボタンBguiが押下されたことを検出すると、CPU41は補助記憶装置33に格納された検証用モデル71を読み込む(ステップS101)。次に、CPU41は、適合作業を通じて適合された制御パラメータ(適合値)を検証用モデル71に設定して(ステップS102)、シミュレーションを実行する(ステップS103)。すなわち、SinSweep信号Tinをトルク制御部54(モデル)へ印加する。そしてCPU41は、入力信号であるSinSweep信号Tinと、出力信号であるトーションバートルクTaとの伝達関数G(s)を演算し、この伝達関数G(s)に基づきシステムの安定性を評価、すなわちシステムが不安定となる状況の発生の有無(不安定性の有無)を判定する(ステップS104)。
【0080】
CPU41は、先の2つの条件式(A),(B)が成立する旨判断される場合には、システムが不安定となる状況の発生はないとして(ステップS104でNO)、その旨表示装置32の画面、正確には第3の表示画面32cに表示し(ステップS105)、処理を終了する。
【0081】
これに対して、CPU41は、先の2つの条件式(A),(B)のうち少なくとも一方が成立しない旨判断される場合には、システムが不安定となる状況の発生のおそれがあるとして(ステップS104でYES)、その旨表示装置32の画面、正確には第3の表示画面32cに表示し(ステップS106)、処理を終了する。
【0082】
例えば警告内容として、例えば次のような警告文が表示される。すなわち、当該警告が自励振動に係る検証の結果である場合には、先の図2(b)に示されるように、「警告!本適合値では量産時に「自励振動」が発生する可能性があります。」というシステムが不安定となる状況の内容を示す警告文が第3の表示画面32cに表示される。なお、同図に示されるように、警告文だけではなく、その不安定となる状況の発生を解消するために、どの制御パラメータを、どのように設定すればよいのか等の対策を表示するようにしてもよい。例えば、「対策はアシスト勾配を○○Nm/Nm以下になるようにマップ形状を見直してください。」というガイダンスが第3の表示画面32cに表示される。また、これら警告及びガイダンスは、聴覚に訴えて行うようにすることも可能である。この場合には、適合装置21にスピーカ等の報知手段を設ける。警告及びガイダンスの内容を示す情報は、補助記憶装置33に予め格納される。
【0083】
複数の不安定性に係る検証対象が存在する場合には、連続的にそれぞれの検証用シミュレーションモデルをシミュレーションして検証することも可能である。この場合には、図13のフローチャートにおけるステップS101〜S106の処理が自動的に繰り返される。電動パワーステアリングシステム1において発生が懸念される問題毎に検証用のシミュレーションモデルが作成され、これらは補助記憶装置33に予め格納される。
【0084】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性(粘性摩擦及びクーロン摩擦)の製品間のばらつきを加味してなる検証用モデル71に、適合された制御パラメータである適合データを与えて電動パワーステアリングシステム1の動作をシミュレーションするようにした。そして当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証するようにした。このため、量産時における製品間の動的特性のばらつきを考慮した制御パラメータの設定が可能となる。したがって、適合された制御パラメータである適合データの信頼性が高められる。
【0085】
(2)検証用モデル71は、電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題(例えばハンドル2の自励振動)が最も発生しやすい条件を有してなる。このため、特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルを使用したシミュレーションを通じて、適合データの信頼性がいっそう高められる。
【0086】
また、システムとして最悪条件の場合(システムが不安定となる状況)を想定したシミュレーションを通じて適合作業を行うことにより、動的特性の製品間におけるばらつき、あるいは経年的な値の変化等に起因するシステムの安定性の低下を抑制することができる。電動パワーステアリングシステム1においては、制御量が過剰となることによるハンドル2の自励振動が発生する等の問題が量産後の市場で発生することが抑制される。
【0087】
(3)電動パワーステアリングシステム1が有する動的特性としては、例えば当該システムの機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦等がある。これら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、電動パワーステアリングシステム1の安定性に大きく影響する。そしてこれら粘性摩擦及びクーロン摩擦は、製品間でのばらつきが発生するばかりか、経年的に値が変化する。このため、本例のように、これら粘性摩擦及びクーロン摩擦の製品間でのばらつきを考慮してなるシミュレーションモデルを使用して電動パワーステアリングシステム1の動作をシミュレーションすることにより、適合データの妥当性の判定の精度が高められる。適合データの信頼性も高められる。
【0088】
(4)シミュレーションによる適合データの検証結果を、表示装置32を通じて報知(表示)するようにした。この構成によれば、検証結果に基づき適合作業を行うことが可能になる。例えば適合作業者は、自身が適合した制御パラメータが妥当か否かを認識可能になるため、必要に応じて制御パラメータの調整を再度行うことも容易になる。したがって、適合作業の効率化が図られる。
【0089】
(5)適合した制御パラメータが妥当でない旨判断される場合には、表示装置32を通じて制御パラメータの適合に関するガイダンスを報知するようにした。適合の作業者は、ガイダンスに従い再度の適合作業を行うことが可能になる。このため、適合作業の効率の向上が図られる。
【0090】
(6)電動パワーステアリングシステム1は、機械的な構成要素が多く複雑である。このようなシステムの適合作業に本例の適合装置21は好適である。
(7)最悪条件をすべて網羅するようにして実車評価することも考えられるものの、この場合には、想定される全ての問題、及びそれら問題の発生の原因となる全ての要素について反映された制御システムを用意する必要がある。しかし、これは費用及び工数の観点から現実的ではない。本例では、シミュレーション技術を利用することにより、費用及び工数を低減しつつ、最悪条件をすべて網羅して評価することができる。
【0091】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例では、システムが不安定となる状況が発生するおそれがある旨の検証結果が得られる場合にのみ表示装置32の画面に当該不安定となる状況の発生を解消するためガイダンスを行うようにしたが、通常の適合作業時にもガイダンスを表示させるようにしてもよい。
【0092】
・補助記憶装置33に格納される適合プログラムを含む各種のプログラムは、CDROM等の記憶媒体に格納して流通させることも可能である。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワークを通じて流通させることも可能である。
【0093】
・LAN49を通じて外部データベース等に接続することによりデータを共有し、車両毎あるいは他の適合作業者のデータを利用可能としてもよい。また、開発等の工程の進捗状態を共有して作業を効率的に分担する車両開発システムを構築することも可能である。
【0094】
・本例では、電動パワーステアリングシステム1の適合作業に適用したが、車両のエンジン、ブレーキ、VGRS(ギヤ比可変ステアリング)、サスペンション及び四輪駆動車のカップリング(駆動力伝達装置)等の他の制御システムの適合作業に適用してもよい。また、車載される制御システムに限らず適用することができる。
【0095】
・本例では、検証用の機械系モデル52において、各構成要素の摩擦等の機械的な要素については、そのすべての値を下限値として設定したが、適切な最小限の要素についてのみ下限値を設定して適合値の評価を行うようにしてもよい。この場合であれ、製品間における摩擦等の機械的な要素のばらつきを考慮して、制御パラメータの適合作業及び適合したパラメータの検証を行うことができる。したがって、適合値(適合データ)の信頼性を向上させることができる。また、この場合には、モデル化も適切な要素のみを抽出すればよい。
【0096】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
・電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する適合装置において、
前記制御システムの持つ動的特性の製品間のばらつきを加味して特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【符号の説明】
【0097】
1…電動パワーステアリングシステム(制御システム)、14…電子制御装置、21…適合装置、32…表示装置(報知手段)、41…CPU(検証手段)、71…検証用モデル(検証用のシミュレーションモデル)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記シミュレーションモデルは、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなる制御パラメータ適合装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムが有する動的特性は、前記機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦を含んでなる制御パラメータ適合装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記検証手段による検証結果を報知する報知手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【請求項5】
請求項4に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記報知手段による報知は、制御パラメータの適合に関するガイダンスを含む制御パラメータ適合装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムは、電動パワーステアリングシステムである制御パラメータ適合装置。
【請求項1】
電子制御装置による制御を通じて動作する機械的な構成要素を含んでなる制御システムに要求性能を発揮させるべく当該制御システムの制御パラメータを適合する制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきを加味してなるシミュレーションモデルに、適合された制御パラメータである適合データを与えて前記制御システムの動作をシミュレーションするとともに、当該シミュレーションの結果に基づき前記適合データの妥当性を検証する検証手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記シミュレーションモデルは、前記制御システムが有する動的特性の製品間のばらつきをすべて加味することにより特定の問題が最も発生しやすい条件を有してなる制御パラメータ適合装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムが有する動的特性は、前記機械的な構成要素の粘性摩擦及びクーロン摩擦を含んでなる制御パラメータ適合装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記検証手段による検証結果を報知する報知手段を備えてなる制御パラメータ適合装置。
【請求項5】
請求項4に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記報知手段による報知は、制御パラメータの適合に関するガイダンスを含む制御パラメータ適合装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の制御パラメータ適合装置において、
前記制御システムは、電動パワーステアリングシステムである制御パラメータ適合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−63130(P2011−63130A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215762(P2009−215762)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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