制御装置
【課題】出力側係合装置の車輪側の回転速度に基づいて回転電機の目標回転速度を決定し、回転速度制御を行う際に、車輪側の回転速度に重畳する振動により、回転速度制御系の安定性の悪化や、操作量の増大を抑制できる制御装置の実現。
【解決手段】回転電機と車輪との間に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御する制御装置は、出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、回転電機の回転速度を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、回転速度制御部は、出力回転速度として、回転速度の検出値に表れる車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる制御装置。
【解決手段】回転電機と車輪との間に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御する制御装置は、出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、回転電機の回転速度を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、回転速度制御部は、出力回転速度として、回転速度の検出値に表れる車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。特許文献1の技術では、内燃機関と回転電機との間に配置された入力側係合装置を係合して内燃機関の始動を行っている間は、出力側係合装置を滑り係合状態に制御し、内燃機関の始動が完了した後に、出力側係合装置を直結係合状態に移行するような始動制御が行われている。特許文献1の技術では、出力側係合装置よりも車輪側の回転速度に目標スリップ量を加算した値を、回転電機の目標回転速度に決定し、回転電機の回転速度制御を行うように構成されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術では、車輪側の回転速度に振動が重畳した場合は、車輪側の回転速度に基づいて決定される回転電機の目標回転速度にも振動が重畳する。目標回転速度に重畳した振動が、回転電機の回転速度制御系に対する外乱となり、回転速度制御系の安定性が悪化したり、回転速度制御系の操作量が大きくなり過ぎたりする恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−99141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、出力側係合装置の車輪側の回転速度に基づいて回転電機の目標回転速度を決定し、回転速度制御を行う際に、車輪側の回転速度に重畳する振動により、回転速度制御系の安定性の悪化や、操作量の増大を抑制できる制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の特徴構成は、前記出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、前記動力伝達経路において前記出力側係合装置よりも前記車輪側の回転部材の回転速度である出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、前記回転電機の回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記回転電機を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、前記回転速度制御部は、前記出力回転速度として、当該出力回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる点にある。
【0007】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0008】
上記の特徴構成によれば、出力回転速度に基づいて回転電機の目標回転速度が決定する際に、出力回転速度の検出値に表れる車両用駆動装置の共振周波数の振動が低減された回転速度が用いられる。よって、回転電機の目標回転速度に重畳する車両用駆動装置の共振周波数の振動を低減することができる。従って、振動が低減された目標回転速度に基づいて回転速度制御を行うことができ、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0009】
ここで、内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから前記入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させ、その後前記出力側係合装置を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部と、を更に備え、前記回転速度制御部は、前記係合状態移行制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行すると好適である。
【0010】
この構成によれば、内燃機関のトルクを車輪に伝達可能とすべく入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させるに際して、出力側係合装置が滑り係合状態となっているので、入力側係合装置を係合することによるトルクショックが車輪に伝達されることを抑制できる。また、入力側係合装置を係合することによるトルクショックに起因して、出力回転速度に車両用駆動装置の共振周波数の振動が重畳しやすくなるが、本発明の構成によれば、このような振動を低減した目標回転速度を決定することができる。従って、係合状態移行制御を実行する際にも、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0011】
ここで、内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置及び前記入力側係合装置の双方を滑り係合状態としつつ前記車輪の回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部と、を更に備え、前記回転速度制御部は、前記滑り加速制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行すると好適である。
【0012】
この構成によれば、滑り加速制御中に出力側係合装置及び入力側係合装置の係合状態を制御することによるトルクショックに起因して、出力回転速度に車両用駆動装置の共振周波数の振動が重畳しやすくなるが、本発明の構成によれば、このような振動を低減した目標回転速度を決定することができる。従って、滑り加速制御を実行する際にも、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0013】
ここで、前記出力回転速度の検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数は、前記出力回転速度を検出する回転速度検出装置が固定されるケース側の弾性系の共振周波数、及び前記出力側係合装置よりも前記車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方であると好適である。
【0014】
出力回転速度には、上記のケース側の弾性系の共振周波数及び車輪側の弾性系の共振周波数の振動が重畳しやすい。上記の構成によれば、ケース側の弾性系の共振周波数及び車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方を含む所定の周波数帯域の振動を低減した回転速度が用いられるので、出力回転速度の検出値に重畳した振動を効果的に低減することができる。よって、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0015】
また、前記直結係合判定部は、バンドストップフィルタを用いて、前記所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出すると好適である。
【0016】
この構成によれば、バンドストップフィルタを用いているので、効果的に、所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転速度制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るエンジン始動制御の処理を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置の弾性系のモデルを示す図である。
【図6】本発明の実施形態とは異なる比較例の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図10】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図11】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図12】本発明のその他の実施形態に係る滑り加速制御の処理を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。車両用駆動装置1は、回転電機MGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に第二係合装置CL2を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置1は、車両の駆動力源としてエンジンEと回転電機MGを備えており、車両用駆動装置1を備えた車両は、ハイブリッド車両とされている。車両用駆動装置1は、エンジンEに駆動連結されたエンジン出力軸Eoと、当該エンジン出力軸Eoと回転電機MGとを結ぶ動力伝達経路2に設けられた第一係合装置CL1と、を備えている。ここで、第二係合装置CL2は、その係合状態に応じて、回転電機MGと車輪Wとの間の駆動連結を断接する。第一係合装置CL1は、その係合状態に応じて、エンジンEと回転電機MGとの間の駆動連結を断接する。
本実施形態に係わる車両用駆動装置1には、回転電機MGと車輪Wとの間の動力伝達経路に変速機構TMが備えられている。そして、第二係合装置CL2は、変速機構TMに備えられた複数の係合装置の中の1つとされている。
なお、第二係合装置CL2が、本発明における「出力側係合装置」であり、第一係合装置CL1が、本発明における「入力側係合装置」であり、エンジン出力軸Eoが、本発明における「入力部材」である。
【0019】
ハイブリッド車両には、車両用駆動装置1を制御対象とする制御装置30が備えられている。本実施形態に係わる制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2の制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31も備えられている。
【0020】
制御装置30は、図2及び図3に示すように、回転速度制御部47を備えている。回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合に、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する。
そして、回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0021】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、中間軸Mに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度ωmを変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0022】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、第一係合装置CL1を介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素である第一係合装置CL1を介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、エンジン出力軸Eoには、ダンパDPが備えられており、エンジンEの間欠的な燃焼による出力トルク及び回転速度の変動を減衰して、車輪W側に伝達可能に構成されている。
【0023】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、入力軸I及び中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸I及び中間軸MにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力を、インバータを介してバッテリに蓄電する。
【0024】
中間軸Mには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置とを備えている。本実施形態では、複数の係合装置の中の一つが、出力側係合装置としての第二係合装置CL2である。この変速機構TMは、各変速段の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する中間軸Mの回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、中間軸Mの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、中間軸Mから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0025】
本例では、変速機構TMの複数の係合装置(第二係合装置CL2を含む)、及び第一係合装置CL1は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素である。これらの摩擦係合要素は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0026】
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0027】
各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0028】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0029】
2.油圧制御系の構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、機械式や電動式の油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TM、並びに第一係合装置CL1や第二係合装置CL2の各摩擦係合要素等に供給される。
【0030】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及びエンジン制御装置31の構成について、図2を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜47などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜47の機能が実現される。
【0031】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se3を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及びエンジン制御装置31に入力される。制御装置30及びエンジン制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力回転速度センサSe1は、入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸I及び中間軸Mには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度ωm(角速度)、並びに入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。エンジン回転速度センサSe3は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン制御装置31は、エンジン回転速度センサSe3の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度(角速度)を検出する。本実施形態では、出力軸Oの回転速度が、本発明における「出力回転速度」であり、出力回転速度センサSe2が、本発明における「回転速度検出装置」である。
【0032】
3−1.エンジン制御装置31
エンジン制御装置31は、エンジンEの動作制御を行うエンジン制御部41を備えている。本実施形態では、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御装置31は、エンジン始動要求があった場合は、エンジンEの燃焼開始が指令されたと判定して、エンジンEへの燃料供給及び点火を開始するなどして、エンジンEの燃焼を開始する制御を行う。
【0033】
3−2.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TMの制御を行う変速機構制御部43と、第一係合装置CL1の制御を行う第一係合装置制御部44と、エンジンEを始動させるための制御であるエンジン始動制御中に第二係合装置CL2の制御を行う第二係合装置制御部45と、を備えている。
【0034】
3−2−1.変速機構制御部43
変速機構制御部43は、変速機構TMに変速段を形成する制御を行う。変速機構制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた複数の係合装置に供給される油圧を制御することにより、各係合装置を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各係合装置に供給する。
【0035】
3−2−2.第一係合装置制御部44
第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の係合状態を制御する。本実施形態では、第一係合装置制御部44は、車両制御ユニット34から指令された指令圧に基づいて、油圧制御装置PCを介して第一係合装置CL1に供給される油圧を制御する。
【0036】
3−2−3.第二係合装置制御部45
第二係合装置制御部45は、エンジン始動制御中に第二係合装置CL2の係合状態を制御する。本実施形態では、第二係合装置CL2は、変速機構TMの変速段を形成している複数又は単数の係合装置の一つとされる。本実施形態では、第二係合装置制御部45は、車両制御ユニット34から指令された指令圧に基づいて、油圧制御装置PCを介して第二係合装置CL2に供給される油圧を制御する。
【0037】
3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、車両制御ユニット34から指令された回転電機要求トルクを出力トルク指令値に設定し、回転電機MGが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。
【0038】
3−4.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
【0039】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、中間軸M側から出力軸O側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクを算出するとともに、エンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定する。そして、車両制御ユニット34は、エンジンEに対して要求する出力トルクであるエンジン要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、第一係合装置CL1の指令圧、及び第二係合装置CL2の指令圧を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及びエンジン制御装置31に指令して統合制御を行う機能部である。
本実施形態では、車両制御ユニット34は、エンジン始動制御を行う始動制御部46、及び出力基準回転速度制御を行う回転速度制御部47を備えている。
以下、始動制御部46及び回転速度制御部47について詳細に説明する。
【0040】
3−4−1.始動制御部46
本実施形態では、後述する回転速度制御部47の処理はエンジン始動制御中に実行されるため、まず、回転速度制御部47の処理の前提となる始動制御部46によるエンジン始動制御について、図4に示すタイムチャートを参照して説明する。本実施形態では、始動制御部46は、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の係合状態を制御する係合状態移行制御を実行することにより、回転電機MGのトルクをエンジンEに伝達してエンジンEの回転を上昇させ、エンジンEを始動させる。すなわち、本実施形態におけるエンジン始動制御は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから第二係合装置CL2を解放状態から係合状態へ移行させ、その後第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を含んでいる。
すなわち、この始動制御部46は、係合状態移行制御を実行する機能部である係合制御部を含むと共に、エンジンE、回転電機MG、第二係合装置CL2、第一係合装置CL1などを統合して、エンジンEの始動制御を実行する機能部である。
【0041】
始動制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態であって、回転電機MGが回転駆動されている状態から、第一係合装置CL1を係合させて、エンジンEの回転速度を上昇させる。
また、本実施形態では、始動制御部46は、エンジン始動制御中に、第二係合装置CL2が係合部材間に回転速度差を有しつつ、トルクを伝達する滑り係合状態となるように制御する出力側スリップ制御の実行を指令する。第二係合装置CL2が滑り係合状態に制御されることにより、第一係合装置CL1の係合及びエンジンEの始動により生じるトルクショックが、第二係合装置CL2から車輪W側に伝達されないようにすることができる。
【0042】
始動制御部46は、エンジンEが燃焼を停止しており、回転電機MGが回転している状態で、アクセル開度が増加する、又はバッテリの充電量が低下するなどして、エンジンEの始動条件が成立した場合に、一連のエンジン始動制御を開始する(時刻t01)。
【0043】
本実施形態では、車両制御ユニット34は、第一係合装置CL1が解放状態である場合は、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値を設定する。
そして、始動制御部46は、エンジン始動制御を開始した場合に、出力側スリップ制御を開始する。すなわち、始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態である場合は、滑り係合状態にするため、第二係合装置CL2に供給される油圧の指令圧を減少させる。図4に示す例では、第二係合装置CL2の指令圧を、完全係合圧からステップ的に減少させた後、連続的に次第に減少させている。ここで、完全係合圧とは、駆動力源から第二係合装置CL2に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持できる油圧である。
なお、本実施形態では、第二係合装置CL2は、変速機構TMの変速段を形成している複数又は単数の係合装置の1つであり、変速段に応じて設定される。
【0044】
始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間に回転速度差が生じた場合に、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定し、第二係合装置CL2の指令圧の減少を終了するとともに、出力基準回転速度制御を開始し、第二係合装置CL2における回転電機MG側の係合部材の回転速度が車輪W側の係合部材の回転速度より高くなるように制御する。
【0045】
本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差が所定値以上になった場合に、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定する。そして、回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定された場合に、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を開始する。
すなわち、回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態であると判定されている期間(時刻t02から時刻t05)は、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する。本実施形態では、出力回転速度ωoutは、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて検出される出力軸Oの回転速度とされている。目標回転速度ωobjは、出力回転速度ωoutに基づいて算出された基準回転速度ωbより目標回転速度差Δωだけ高い回転速度に設定される。なお、出力回転速度ωout(基準回転速度ωb)として、当該回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度が用いられる。
【0046】
本実施形態では、基準回転速度ωbは、出力軸Oの回転速度(出力回転速度ωout)を回転電機MG側の回転速度相当に換算した回転速度であり、出力軸Oの回転速度(出力回転速度ωout)に変速機構TMの変速比Rを乗算した回転速度となる。なお、基準回転速度ωbと回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が、第二係合装置CL2の回転速度差相当となる。
【0047】
本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御している間に、車両要求トルクに応じて、第二係合装置CL2の指令圧を設定するように構成されている。これにより、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合にも、第二係合装置CL2のスリップトルクにより、車両要求トルクに相当するトルクを車輪W側に伝達することができる。本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定されてから第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定されるまで(時刻t02から時刻t04まで)の期間は、第二係合装置CL2の指令圧を車両要求トルクに応じて設定するトルク容量制御を実行する。そして、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定されてから第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定されるまで(時刻t04から時刻t05まで)の期間は、第二係合装置CL2の指令圧を、車両要求トルクに応じて設定された値に対して回転電機MGの回転速度変化に応じた補正を加えた値に設定する容量決定制御を実行する。
【0048】
また、始動制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定した場合に、第一係合装置CL1の係合を開始する(時刻t02)。本実施形態では、始動制御部46は、第一係合装置CL1に供給される油圧の指令圧を増加させる。指令圧の増加により第一係合装置CL1の伝達トルク容量が増加し、当該伝達トルク容量のトルクが第一係合装置CL1からエンジンE側に伝達されると、エンジンの回転速度が上昇を開始する。
始動制御部46は、エンジンの回転速度が燃焼開始速度まで上昇した場合に、エンジン制御装置31に指令して、エンジンEの燃焼(点火)を開始させる(時刻t03)。エンジンの回転速度が、回転電機MGの回転速度ωmまで上昇して、第一係合装置CL1の回転速度差がなくなった場合(時刻t04)に、第一係合装置CL1は直結係合状態になる。始動制御部46は、第一係合装置CL1の回転速度差が所定値以下まで減少した場合に、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定して、第一係合装置CL1の指令圧を完全係合圧まで次第に増加させるスイープアップ制御を開始する(時刻t04)。
【0049】
また、始動制御部46は、第一係合装置CL1が直結係合状態となったと判定した場合に、車両要求トルクに基づいて設定したエンジン要求トルクを、エンジン制御装置31に指令し、エンジンEのトルク制御を開始する(時刻t04)。
第一係合装置CL1が直結係合状態になると、エンジンEの出力トルクが、エンジンE側から回転電機MG側に伝達されるようになる。このエンジンEの出力トルクの伝達に対して、回転電機MGの回転速度ωmを目標回転速度ωobjに維持するために、回転電機MGの出力トルクがフィードバック的に低下している(時刻t04から時刻t05)。
【0050】
回転速度制御部47は、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定された後、回転電機の目標回転速度ωobjを次第に減少させ、回転電機MGの回転速度ωmを基準回転速度ωbまで低下させる。
始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差が所定値以下まで減少した場合に、第二係合装置CL2が直結係合状態となったと判定する(時刻t05)。
始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定された場合に、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧まで次第に増加させるスイープアップ制御を開始する(時刻t05)。また、始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定された場合に、車両要求トルクに基づいて設定した回転電機要求トルクを、回転電機制御ユニット32に指令し、回転電機MGのトルク制御を開始する(時刻t05)。始動制御部46は、回転電機要求トルクを、エンジン要求トルクと回転電機要求トルクの合計が車両要求トルクに一致するように設定する。
そして、始動制御部46は、第二係合装置CL2の指令圧が完全係合圧まで増加された場合に、一連の始動制御を終了する(時刻t06)。
【0051】
3−4−2.回転速度制御部47
次に、回転速度制御部47について詳細に説明する。
回転速度制御部47は、上記したように、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合に、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する機能部である。
回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる。
本実施形態では、回転速度制御部47は、上記したエンジン始動制御のように、係合状態移行制御の実行中に出力基準回転速度制御を行うように構成されている。
【0052】
3−4−2−1.車両用駆動装置1の弾性系
まず、車両用駆動装置1の弾性系について説明する。図5に、車両用駆動装置1の弾性系のモデルを示す。
上記のように、出力基準回転速度制御が行われる係合状態移行制御中は、第二係合装置CL2は滑り係合状態であり、第一係合装置CL1は滑り係合状態又は直結係合状態である。
このため、車両用駆動装置1の動力伝達経路2の弾性系は、第二係合装置CL2に対して回転電機MG側と車輪W側とで別の弾性系になる。
第二係合装置CL2よりも車輪W側の弾性系(以下、出力弾性系と称す)は、車輪Wを介して車軸AXに作用する車両の慣性モーメントと変速機構の慣性モーメントとを有し、車両の慣性モーメントと変速機構の慣性モーメントとの間が弾性を有する車軸AX及び出力軸Oなどにより連結された、2慣性の軸ねじれ振動の弾性系にモデル化できる。
一方、第二係合装置CL2よりも回転電機MG側の弾性系(以下、入力弾性系と称す)は、エンジンの慣性モーメントと回転電機の慣性モーメントとを有し、第一係合装置CL1が直結係合状態である場合は、エンジンの慣性モーメントと回転電機の慣性モーメントとの間が弾性を有するダンパDPなどにより連結された、2慣性の軸ねじれ振動の弾性系にモデル化できる。
【0053】
また、車両用駆動装置1は、円筒状の駆動装置ケースCSを備えており、駆動装置ケースCSは、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、入力軸I、中間軸M、及び係合装置CL1、CL2などの回転部材を内部に収容すると共に回転可能に支持している。また、駆動装置ケースCSは、回転速度センサSe1、Se2を内部に収容すると共に回転速度センサSe1、Se2の非回転部材側を固定している。
駆動装置ケースCSは、弾性を有するブッシュなどの取付部材52を介して車体BDに取り付けられている。よって、駆動装置ケースCSは、中間軸Mなどの車両用駆動装置1の回転部材と同軸周りに、車体BDに対してねじれ振動を生じる弾性系(以下、ケース弾性系と称す)にモデル化できる。
なお、出力弾性系が、本発明における「車輪側の弾性系」であり、ケース弾性系が、本願における「ケース側の弾性系」である。
【0054】
各弾性系は、各部材の慣性モーメントの大きさ、ばね定数の大きさに応じて定まる共振周波数を有する。よって、各弾性系の共振周波数は通常、互いに異なる周波数となる。
例えば、ケース弾性系は、次式(1)で表せるような共振周波数Fcを有する。
Fc=1/(2π)×√(Kb/Jc) ・・・(1)
ここで、Kbは、取付部材52のねじりばね定数であり、Jcは、駆動装置ケースCSの慣性モーメントである。
【0055】
回転速度センサSe1、Se2の非回転部材側は、駆動装置ケースCSに固定されているため、駆動装置ケースCSがねじれ振動した場合、各回転速度センサSe1、Se2の検出値に当該ねじれ振動が重畳する。よって、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて検出される出力回転速度ωoutには、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が生じやすくなる。また、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて検出される回転電機MGの回転速度ωmにも、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が生じやすくなる。
更に、出力回転速度ωoutには、上記のように、出力弾性系の共振周波数Foの振動が生じやすくなる。
【0056】
従って、出力回転速度ωoutの検出値には、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foのねじれ振動が重畳しやすくなる。このため、出力回転速度ωoutに基づいて決定される目標回転速度ωobjにも、これらのねじれ振動が重畳されやすくなり、回転速度制御系に対する外乱となる。
また、回転電機MGの回転速度ωmの検出値には、ケース弾性系の共振周波数Fcのねじれ振動が重畳しやすくなる。このケース弾性系のねじれ振動は、実際の回転電機MGの回転速度ωmに生じた振動ではなく、センサの固定部材が振動することにより生じる検出誤差であり、回転速度制御系に対する外乱となる。
よって、ケース弾性系の共振振動、及び出力弾性系の共振振動が、回転速度制御系に対する外乱となり、回転速度制御系の安定性が悪化したり、回転速度制御系の操作量が不要に増加したりする恐れがある。
【0057】
3−4−2−2.エンジン始動制御中の共振振動
エンジン始動制御により、駆動装置ケースCSが支持しているエンジンE及び回転電機MGなどの非回転部材にトルクショックが伝達され、ケース弾性系の共振周波数Fcのねじれ振動が励起されやすくなる。
図6に、第一係合装置CL1が滑り係合状態である場合のエンジン始動制御中のタイムチャートの例を示している。図6に示す例は、エンジン始動制御中のタイムチャートであり、図4における時刻t02から時刻t05までの期間に対応している。
図6に示すように、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutに、ケース弾性系の共振周波数Fc(周期1/Fc)の振動が重畳している。また、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmにも、図6に示す例では判別しにくいが、同じケース弾性系の共振周波数Fc及び同じ振幅の振動が重畳している。
【0058】
第二係合装置CL2の伝達トルク容量の変化などにより、出力弾性系にトルクショックが伝達され、出力弾性系の共振周波数Foの軸ねじれ振動が励起される。これにより、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutに、当該共振周波数Fo(周期1/Fo)の振動が重畳している。
従って、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutには、出力弾性系の共振周波数Fo及びケース弾性系の共振周波数Fcのいずれか一方又は双方の振動が重畳しやすい。
【0059】
また、図6の例には示されていないが、第一係合装置CL1の直結係合及びエンジンEの始動などにより、入力弾性系にトルクショックが伝達され、入力弾性系の共振周波数の軸ねじれ振動が励起される。これにより、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmに、当該共振周波数の振動が重畳する。
よって、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmには、ケース弾性系の共振周波数Fc及び入力弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方の振動が重畳しやすい。
【0060】
3−4−2−3.目標回転速度ωobjの振動
回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutに基づいて、目標回転速度ωobjを決定する。本実施形態では、回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutに変速機構TMの変速比Rを乗算した基準回転速度ωbに基づいて、目標回転速度ωobjを決定するように構成されている。
図6の例に示すように、変速機構TMの変速比Rが1より大きい(例えば、R=3)場合は、基準回転速度ωbは、出力回転速度ωoutより大きくなる。エンジン始動制御は、低車速で行われる頻度が高いため、変速機構TMの変速比は、1より大きく設定される頻度が高くなる。
このため、図6の例に示すように、出力回転速度ωoutに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅が増幅されて、基準回転速度ωbの振動の振幅となる。従って、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅は、出力回転速度ωoutに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅よりも大きくなっている。
【0061】
このように、図6に示す例では、基準回転速度ωbには、比較的大きい振幅のケース弾性系及び出力弾性系の共振振動が重畳している。
本実施形態に係わる回転速度制御部47とは異なり、出力回転速度ωoutに対して共振周波数の振動を低減させていない回転速度に基づいて、目標回転速度ωobjを決定するように構成した比較例の場合は、図6の例に示すように、出力回転速度ωoutに重畳している振動により、目標回転速度ωobjが振動している。このため、回転電機MGの回転速度ωmに振動が生じ、回転電機MGの出力トルクに振動が生じている。
【0062】
3−4−2−4.振動に対する回転速度制御部47
ケース弾性系及び出力弾性系の共振振動による目標回転速度ωobjの振動を抑制するため、本実施形態に係わる回転速度制御部47は、上記したように、出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定するに際して、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いるように構成されている。
本実施形態では、出力回転速度ωoutの検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数は、出力回転速度ωoutを検出する出力回転速度センサSe2が固定されるケース弾性系の共振周波数Fc、及び第二係合装置CL2よりも車輪W側の出力弾性系の共振周波数Foのいずれか一方又は双方である。
また、本実施形態では、回転速度制御部47は、バンドストップフィルタを用いて、所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、バンドストップフィルタは、ノッチフィルタ、バンドカットフィルタとも称される。
【0063】
図3に、本実施形態に係わる回転速度制御部47の構成を示す。
回転速度制御部47は、目標回転速度設定部60及び回転フィードバック制御部61を備えている。
目標回転速度設定部60は、上記したように、出力回転速度ωoutに変速比Rを乗算した値を、基準回転速度ωbとして設定するように構成されている。
目標回転速度設定部60は、基準回転速度ωbに対して所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行って、フィルタ後基準回転速度ωb_fltを算出するバンドストップフィルタ62を備えている。
【0064】
バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域は、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foの一方又は双方を含む所定の周波数帯域に設定されている。
なお、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域は、各弾性系が有する複数の異なる共振周波数に対応して複数の異なる周波数帯域に設定されても良く、或いは、振幅が最大になる1つの共振周波数に対応した1つの周波数帯域に設定されても良い。バンドストップフィルタ62の周波数帯域が、複数の異なる周波数帯域に設定される場合は、バンドストップフィルタ62が、各周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタを複数備えるように構成されてもよい。
【0065】
本実施形態では、目標回転速度設定部60は、フィルタ後基準回転速度ωb_fltに、目標回転速度差Δωを加算した値を、目標回転速度ωobjに設定するように構成されている。なお、目標回転速度差Δωは、一定値とされてもよいし、可変値とされてもよい。可変値の場合は、例えば、基準回転速度ωbに応じて異なる値や、変速比Rに応じて異なる値などに設定されるように構成してもよい。
そして、回転フィードバック制御部61は、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように、回転電機要求トルクを変化させるように構成されている。回転フィードバック制御部61には、比例積分制御器など、公知の各種制御器が用いられる。
以下で、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fcのみを含む場合、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foの双方を含む場合の各制御挙動を説明する。また、回転速度制御部47が、更に、回転電機MGの回転速度ωmに対しても、ケース弾性系の共振周波数Fcを含む所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行うように構成された場合の制御挙動を説明する。
【0066】
3−4−2−5.ケース弾性系の共振周波数Fcの振動低減
まず、図7に示す例を用いて、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fcのみを含む場合の制御挙動について説明する。
すなわち、バンドストップフィルタ62は、基準回転速度ωbに対して、ケース弾性系の共振周波数Fcを含み、出力弾性系の共振周波数Foを含まない所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、図7は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0067】
図7に示すように、フィルタ後基準回転速度ωb_fltは、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の内、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が低減された回転速度となる。
従って、基準回転速度ωbに重畳している共振振動の内、最も振幅が大きいケース弾性系の共振振動を低減することができている。このため、図6に示した比較例の場合と比べ、目標回転速度ωobjの振幅が、大幅に低減している。よって、回転電機MGの回転速度ωmの振動が大幅に低減し、回転電機MGの出力トルクの振動が大幅に低減している。
【0068】
一方、図7に示すように、回転電機MGの回転速度ωmにも、ケース弾性系の共振振動が重畳している。回転電機MGの回転速度ωmに重畳しているケース弾性系の振動によっても、回転電機MGの出力トルクに振動が生じている。
しかし、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系の共振振動の振幅は、回転電機MGの回転速度ωmに重畳しているケース弾性系の共振振動の振幅より、変速比Rが乗算されて増幅された分だけ大きくなっている。よって、ケース弾性系の共振振動の低減を、回転電機MGの回転速度ωmに対して行うよりも、基準回転速度ωbに対して行う方が、効果的にケース弾性系の共振振動を低減することができる。よって、回転電機MGの出力トルクの振動低減幅を大きくすることができる。
【0069】
3−4−2−6.ケース弾性系及び出力弾性系の共振周波数の振動低減
次に、図8に示す例を用いて、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foを含む場合の制御挙動について説明する。
すなわち、バンドストップフィルタ62は、基準回転速度ωbに対して、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foを含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、図8は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0070】
図8に示すように、フィルタ後基準回転速度ωb_fltは、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系の共振振動及び出力弾性系の共振振動の双方が低減されている回転速度となる。
また、基準回転速度ωbに重畳している共振振動の内、最も振幅が大きいケース弾性系の共振振動、及び2番目に振幅が大きい出力弾性系の共振振動を低減することができている。このため、図7に示した場合と比べ、目標回転速度ωobjの振幅が、更に低減している。よって、回転電機MGの回転速度ωmの振動が更に低減し、回転電機MGの出力トルクの振動が更に低減している。
【0071】
3−4−2−7.回転電機MGの回転速度ωmの振動低減
次に、図9に示す例を用いて、回転電機MGの回転速度ωmに対しても、ケース弾性系の共振周波数Fcを含む所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行うように構成された場合の制御挙動について説明する。
すなわち、回転速度制御部47は、回転電機MGの回転速度ωmとして、当該回転電機MGの回転速度ωmの検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いるように構成されている。
なお、図9は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0072】
図9に示すように、バンドストップフィルタ後の回転電機MGの回転速度ωmであるフィルタ後回転電機回転速度ωm_fltは、回転電機MGの回転速度ωmの検出値に重畳しているケース弾性系の共振周波数Fcの振動が低減された回転速度となる。
回転フィードバック制御部61は、フィルタ後回転電機回転速度ωm_fltが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機要求トルクを変更するので、図8に示した場合と比べ、更に回転電機MGの出力トルクの振動が低減している。
【0073】
なお、回転電機MGの回転速度ωmに対するバンドストップフィルタは、ケース弾性系の共振周波数Fcに加えて、入力弾性系の共振周波数も含む所定の周波数帯域の振動を低減するように構成されてもよい。
【0074】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0075】
(1)上記の実施形態では、車両用駆動装置1が、エンジンEに駆動連結された入力部材(エンジン出力軸Eo)及び第一係合装置CL1を備えたハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1が、エンジンEに駆動連結された入力部材(エンジン出力軸Eo)及び第一係合装置CL1を備えない電動車両用の駆動装置として構成されても好適である。
【0076】
(2)上記の実施形態においては、変速機構TMの複数の係合装置の中の1つが、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御され、回転速度制御部47による直結係合判定の対象となる第二係合装置CL2とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1は、図10に示すように、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路に更に係合装置を備え、当該係合装置が、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御される第二係合装置CL2とされてもよい。或いは、図10に示す車両用駆動装置1において、変速機構TMが備えられないように構成されてもよい。
【0077】
或いは、車両用駆動装置1は、図11に示すように、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路に更にトルクコンバータTCを備え、トルクコンバータTCの入出力部材間を直結係合状態にするロックアップクラッチが、第二係合装置CL2とされてもよい。この場合、第二係合装置CL2は、エンジン始動制御中に滑り係合状態又は解放状態に制御される。
【0078】
(3)上記の実施形態においては、変速機構TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機構TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置など、有段の自動変速装置以外の変速装置にされるように構成されてもよい。この場合も、変速機構TMに備えられた係合装置が、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御される第二係合装置CL2とされ、或いは変速機構TMとは別に設けられた係合装置が第二係合装置CL2とされてもよい。
【0079】
(4)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜47を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜47の分担も任意に設定することができる。例えば、回転速度制御部47が、回転電機制御ユニット32に備えられてもよい。
【0080】
(5)上記の実施形態において、出力回転速度ωoutが、出力軸Oの回転速度とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、出力回転速度ωoutは、第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度であれば、何れの回転部材の回転速度でもよく、例えば、変速機構TM内の回転部材の回転速度、或いは車輪Wの回転速度であってもよい。
【0081】
(6)上記の実施形態において、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbに目標回転速度差Δωを加算した値に決定される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば車両の減速中には、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbに目標回転速度差Δωを減算した値に決定され、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbより小さい値に決定されるように構成されてもよい。
【0082】
(7)上記の実施形態において、出力基準回転速度制御は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから第二係合装置CL2を解放状態から係合状態へ移行させ、その後第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御の実行中に行われる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。
例えば、エンジン始動制御に際して、第一係合装置CL1を直結係合した後にエンジンEの燃焼(点火)を行う場合にも、図4の例と同様に実施できる。また、車両用駆動装置1がエンジン始動用のスタータモータを備える場合には、当該スタータモータによるエンジンEの始動制御と共に第二係合装置CL2を滑り係合状態に移行させてから第一係合装置CL1を係合状態へ移行させ、その後第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させる場合に、出力基準回転速度制御を行うように構成されてもよい。また、出力基準回転速度制御は、例えば、上記の係合状態移行制御において第一係合装置CL1の係合がエンジンEの始動(燃焼開始)を伴わずに実行される場合、変速機構TMの変速段の変更制御において変速機構TMの係合装置を断接する際など、上記のエンジン始動制御以外の際にも、行われるように構成されてもよい。
【0083】
(8)また、車両制御ユニット34は、第二係合装置CL2及び第一係合装置CL1の双方を滑り係合状態としつつ車輪Wの回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部を備えるように構成され、回転速度制御部47は、滑り加速制御の実行中に出力基準回転速度制御を実行するように構成されてもよい。
【0084】
図12に滑り加速制御中のタイムチャートの一例を示す。
本例では、滑り加速制御部は、第二係合装置CL2が解放状態に制御され、第一係合装置CL1が直結係合状態に制御されていると共に、車両が停止し、エンジンE及び回転電機MGが回転駆動されている状態で、車両の加速要求があった場合に、一連の滑り加速制御を開始する(時刻t11)。
滑り加速制御部は、第二係合装置CL2の指令圧を車両要求トルクに応じて設定するトルク容量制御を実行し、第二係合装置CL2を解放状態から滑り係合状態に移行させると共に、車両要求トルクに相当する大きさのトルクを車輪W側に伝達させて出力軸O(車輪W)の回転速度を上昇させる(時刻t11から時刻t15)。
滑り加速制御部は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態に移行させるために、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧から次第に減少するスイープダウンを実行する。滑り加速制御部は、第一係合装置CL1の係合部材間に回転速度差が生じた場合に、第一係合装置CL1が滑り係合状態になったと判定し、第一係合装置CL1の指令圧の減少を終了するとともに、エンジンEの回転速度が目標回転速度に近づくように第一係合装置CL1の指令圧を変化させる回転速度制御を開始する(時刻t12)。
【0085】
滑り加速制御部は、第一係合装置CL1が滑り係合状態になったと判定した場合に、回転速度制御部47に回転速度制御を開始させる(時刻t12)。回転速度制御部47は、エンジンEの回転速度に基づいて目標回転速度ωobjを設定する(時刻t12から時刻t13)。図12に示す例では、目標回転速度ωobjは、エンジンEの回転速度から所定値だけ低い値に設定されている。
回転速度制御部47は、出力軸Oの回転速度が上昇し、基準回転速度ωbと、回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が、目標回転速度差Δω以下になった場合に、出力基準回転速度制御を開始する(時刻t13)。すなわち、回転速度制御部47は、目標回転速度ωobjを、出力回転速度ωoutに基づいて決定する。目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbのフィルタ値よりも目標回転速度差Δωだけ高く設定される。よって、回転電機MGの回転速度ωmは、基準回転速度ωbの上昇と共に上昇する。
【0086】
滑り加速制御部は、エンジンEの回転速度と回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が所定値以下になった場合に、第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態に移行させるために、第一係合装置CL1の係合圧を次第に増加するスイープアップを開始する(時刻t14)。滑り加速制御部は、第一係合装置CL1が直結係合状態になった場合に、第一係合装置CL1の指令圧を完全係合圧までステップ的に増加する共に、第二係合装置CL2の指令圧を次第に増加するスイープアップを開始する。また、回転電機MGの出力基準回転速度制御を終了し、回転電機MGの出力トルク指令値をトルク制御のためのトルク指令値まで次第に変化させるスイープ制御を開始する(時刻t15)。
第二係合装置CL2が直結係合状態になった場合に、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧までステップ的に増加すると共に、回転電機MGのスイープ制御を終了し、トルク制御を開始して、一連の滑り加速制御を終了する(時刻t16)。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
Δω :目標回転速度差
ωb :基準回転速度
ωb_flt:フィルタ後基準回転速度
ωm :回転電機の回転速度
ωm_flt:フィルタ後回転電機回転速度
ωobj :目標回転速度
ωout :出力回転速度
1 :車両用駆動装置
2 :動力伝達経路
30 :制御装置
31 :エンジン制御装置
32 :回転電機制御ユニット
33 :動力伝達制御ユニット
34 :車両制御ユニット
41 :エンジン制御部
42 :回転電機制御部
43 :変速機構制御部
44 :第一係合装置制御部
45 :第二係合装置制御部
46 :始動制御部
47 :回転速度制御部
52 :取付部材
60 :目標回転速度設定部
61 :回転フィードバック制御部
62 :バンドストップフィルタ
AX :車軸
BD :車体
CL1 :第一係合装置(入力側係合装置)
CL2 :第二係合装置(出力側係合装置)
CS :駆動装置ケース
DP :ダンパ
E :エンジン(内燃機関)
Eo :エンジン出力軸(入力部材)
Fc :ケース弾性系の共振周波数
Fo :出力弾性系の共振周波数
I :入力軸
M :中間軸
O :出力軸
MG :回転電機
PC :油圧制御装置
R :変速比
Se1 :入力回転速度センサ
Se2 :出力回転速度センサ(回転速度検出装置)
Se3 :エンジン回転速度センサ
TM :変速機構
W :車輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。特許文献1の技術では、内燃機関と回転電機との間に配置された入力側係合装置を係合して内燃機関の始動を行っている間は、出力側係合装置を滑り係合状態に制御し、内燃機関の始動が完了した後に、出力側係合装置を直結係合状態に移行するような始動制御が行われている。特許文献1の技術では、出力側係合装置よりも車輪側の回転速度に目標スリップ量を加算した値を、回転電機の目標回転速度に決定し、回転電機の回転速度制御を行うように構成されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術では、車輪側の回転速度に振動が重畳した場合は、車輪側の回転速度に基づいて決定される回転電機の目標回転速度にも振動が重畳する。目標回転速度に重畳した振動が、回転電機の回転速度制御系に対する外乱となり、回転速度制御系の安定性が悪化したり、回転速度制御系の操作量が大きくなり過ぎたりする恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−99141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、出力側係合装置の車輪側の回転速度に基づいて回転電機の目標回転速度を決定し、回転速度制御を行う際に、車輪側の回転速度に重畳する振動により、回転速度制御系の安定性の悪化や、操作量の増大を抑制できる制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の特徴構成は、前記出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、前記動力伝達経路において前記出力側係合装置よりも前記車輪側の回転部材の回転速度である出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、前記回転電機の回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記回転電機を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、前記回転速度制御部は、前記出力回転速度として、当該出力回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる点にある。
【0007】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0008】
上記の特徴構成によれば、出力回転速度に基づいて回転電機の目標回転速度が決定する際に、出力回転速度の検出値に表れる車両用駆動装置の共振周波数の振動が低減された回転速度が用いられる。よって、回転電機の目標回転速度に重畳する車両用駆動装置の共振周波数の振動を低減することができる。従って、振動が低減された目標回転速度に基づいて回転速度制御を行うことができ、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0009】
ここで、内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから前記入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させ、その後前記出力側係合装置を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部と、を更に備え、前記回転速度制御部は、前記係合状態移行制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行すると好適である。
【0010】
この構成によれば、内燃機関のトルクを車輪に伝達可能とすべく入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させるに際して、出力側係合装置が滑り係合状態となっているので、入力側係合装置を係合することによるトルクショックが車輪に伝達されることを抑制できる。また、入力側係合装置を係合することによるトルクショックに起因して、出力回転速度に車両用駆動装置の共振周波数の振動が重畳しやすくなるが、本発明の構成によれば、このような振動を低減した目標回転速度を決定することができる。従って、係合状態移行制御を実行する際にも、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0011】
ここで、内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置及び前記入力側係合装置の双方を滑り係合状態としつつ前記車輪の回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部と、を更に備え、前記回転速度制御部は、前記滑り加速制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行すると好適である。
【0012】
この構成によれば、滑り加速制御中に出力側係合装置及び入力側係合装置の係合状態を制御することによるトルクショックに起因して、出力回転速度に車両用駆動装置の共振周波数の振動が重畳しやすくなるが、本発明の構成によれば、このような振動を低減した目標回転速度を決定することができる。従って、滑り加速制御を実行する際にも、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0013】
ここで、前記出力回転速度の検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数は、前記出力回転速度を検出する回転速度検出装置が固定されるケース側の弾性系の共振周波数、及び前記出力側係合装置よりも前記車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方であると好適である。
【0014】
出力回転速度には、上記のケース側の弾性系の共振周波数及び車輪側の弾性系の共振周波数の振動が重畳しやすい。上記の構成によれば、ケース側の弾性系の共振周波数及び車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方を含む所定の周波数帯域の振動を低減した回転速度が用いられるので、出力回転速度の検出値に重畳した振動を効果的に低減することができる。よって、制御系の安定性の悪化や、制御系の操作量の増大を適切に抑制できる。
【0015】
また、前記直結係合判定部は、バンドストップフィルタを用いて、前記所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出すると好適である。
【0016】
この構成によれば、バンドストップフィルタを用いているので、効果的に、所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転速度制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るエンジン始動制御の処理を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置の弾性系のモデルを示す図である。
【図6】本発明の実施形態とは異なる比較例の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係わる制御装置の制御挙動を説明するタイムチャートである。
【図10】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図11】本発明のその他の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図12】本発明のその他の実施形態に係る滑り加速制御の処理を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。車両用駆動装置1は、回転電機MGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に第二係合装置CL2を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置1は、車両の駆動力源としてエンジンEと回転電機MGを備えており、車両用駆動装置1を備えた車両は、ハイブリッド車両とされている。車両用駆動装置1は、エンジンEに駆動連結されたエンジン出力軸Eoと、当該エンジン出力軸Eoと回転電機MGとを結ぶ動力伝達経路2に設けられた第一係合装置CL1と、を備えている。ここで、第二係合装置CL2は、その係合状態に応じて、回転電機MGと車輪Wとの間の駆動連結を断接する。第一係合装置CL1は、その係合状態に応じて、エンジンEと回転電機MGとの間の駆動連結を断接する。
本実施形態に係わる車両用駆動装置1には、回転電機MGと車輪Wとの間の動力伝達経路に変速機構TMが備えられている。そして、第二係合装置CL2は、変速機構TMに備えられた複数の係合装置の中の1つとされている。
なお、第二係合装置CL2が、本発明における「出力側係合装置」であり、第一係合装置CL1が、本発明における「入力側係合装置」であり、エンジン出力軸Eoが、本発明における「入力部材」である。
【0019】
ハイブリッド車両には、車両用駆動装置1を制御対象とする制御装置30が備えられている。本実施形態に係わる制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2の制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31も備えられている。
【0020】
制御装置30は、図2及び図3に示すように、回転速度制御部47を備えている。回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合に、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する。
そして、回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0021】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、中間軸Mに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度ωmを変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0022】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、第一係合装置CL1を介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素である第一係合装置CL1を介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、エンジン出力軸Eoには、ダンパDPが備えられており、エンジンEの間欠的な燃焼による出力トルク及び回転速度の変動を減衰して、車輪W側に伝達可能に構成されている。
【0023】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、入力軸I及び中間軸Mと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸I及び中間軸MにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力を、インバータを介してバッテリに蓄電する。
【0024】
中間軸Mには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置とを備えている。本実施形態では、複数の係合装置の中の一つが、出力側係合装置としての第二係合装置CL2である。この変速機構TMは、各変速段の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する中間軸Mの回転速度の比であり、本願では中間軸Mの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、中間軸Mの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、中間軸Mから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0025】
本例では、変速機構TMの複数の係合装置(第二係合装置CL2を含む)、及び第一係合装置CL1は、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素である。これらの摩擦係合要素は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0026】
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0027】
各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0028】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0029】
2.油圧制御系の構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、機械式や電動式の油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TM、並びに第一係合装置CL1や第二係合装置CL2の各摩擦係合要素等に供給される。
【0030】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及びエンジン制御装置31の構成について、図2を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜47などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜47の機能が実現される。
【0031】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se3を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及びエンジン制御装置31に入力される。制御装置30及びエンジン制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
入力回転速度センサSe1は、入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸I及び中間軸Mには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度ωm(角速度)、並びに入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。エンジン回転速度センサSe3は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン制御装置31は、エンジン回転速度センサSe3の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度(角速度)を検出する。本実施形態では、出力軸Oの回転速度が、本発明における「出力回転速度」であり、出力回転速度センサSe2が、本発明における「回転速度検出装置」である。
【0032】
3−1.エンジン制御装置31
エンジン制御装置31は、エンジンEの動作制御を行うエンジン制御部41を備えている。本実施形態では、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御装置31は、エンジン始動要求があった場合は、エンジンEの燃焼開始が指令されたと判定して、エンジンEへの燃料供給及び点火を開始するなどして、エンジンEの燃焼を開始する制御を行う。
【0033】
3−2.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TMの制御を行う変速機構制御部43と、第一係合装置CL1の制御を行う第一係合装置制御部44と、エンジンEを始動させるための制御であるエンジン始動制御中に第二係合装置CL2の制御を行う第二係合装置制御部45と、を備えている。
【0034】
3−2−1.変速機構制御部43
変速機構制御部43は、変速機構TMに変速段を形成する制御を行う。変速機構制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた複数の係合装置に供給される油圧を制御することにより、各係合装置を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各係合装置に供給する。
【0035】
3−2−2.第一係合装置制御部44
第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の係合状態を制御する。本実施形態では、第一係合装置制御部44は、車両制御ユニット34から指令された指令圧に基づいて、油圧制御装置PCを介して第一係合装置CL1に供給される油圧を制御する。
【0036】
3−2−3.第二係合装置制御部45
第二係合装置制御部45は、エンジン始動制御中に第二係合装置CL2の係合状態を制御する。本実施形態では、第二係合装置CL2は、変速機構TMの変速段を形成している複数又は単数の係合装置の一つとされる。本実施形態では、第二係合装置制御部45は、車両制御ユニット34から指令された指令圧に基づいて、油圧制御装置PCを介して第二係合装置CL2に供給される油圧を制御する。
【0037】
3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、車両制御ユニット34から指令された回転電機要求トルクを出力トルク指令値に設定し、回転電機MGが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。
【0038】
3−4.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
【0039】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、中間軸M側から出力軸O側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクを算出するとともに、エンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定する。そして、車両制御ユニット34は、エンジンEに対して要求する出力トルクであるエンジン要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、第一係合装置CL1の指令圧、及び第二係合装置CL2の指令圧を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及びエンジン制御装置31に指令して統合制御を行う機能部である。
本実施形態では、車両制御ユニット34は、エンジン始動制御を行う始動制御部46、及び出力基準回転速度制御を行う回転速度制御部47を備えている。
以下、始動制御部46及び回転速度制御部47について詳細に説明する。
【0040】
3−4−1.始動制御部46
本実施形態では、後述する回転速度制御部47の処理はエンジン始動制御中に実行されるため、まず、回転速度制御部47の処理の前提となる始動制御部46によるエンジン始動制御について、図4に示すタイムチャートを参照して説明する。本実施形態では、始動制御部46は、第一係合装置CL1及び第二係合装置CL2の係合状態を制御する係合状態移行制御を実行することにより、回転電機MGのトルクをエンジンEに伝達してエンジンEの回転を上昇させ、エンジンEを始動させる。すなわち、本実施形態におけるエンジン始動制御は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから第二係合装置CL2を解放状態から係合状態へ移行させ、その後第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を含んでいる。
すなわち、この始動制御部46は、係合状態移行制御を実行する機能部である係合制御部を含むと共に、エンジンE、回転電機MG、第二係合装置CL2、第一係合装置CL1などを統合して、エンジンEの始動制御を実行する機能部である。
【0041】
始動制御部46は、第一係合装置CL1が解放状態であって、回転電機MGが回転駆動されている状態から、第一係合装置CL1を係合させて、エンジンEの回転速度を上昇させる。
また、本実施形態では、始動制御部46は、エンジン始動制御中に、第二係合装置CL2が係合部材間に回転速度差を有しつつ、トルクを伝達する滑り係合状態となるように制御する出力側スリップ制御の実行を指令する。第二係合装置CL2が滑り係合状態に制御されることにより、第一係合装置CL1の係合及びエンジンEの始動により生じるトルクショックが、第二係合装置CL2から車輪W側に伝達されないようにすることができる。
【0042】
始動制御部46は、エンジンEが燃焼を停止しており、回転電機MGが回転している状態で、アクセル開度が増加する、又はバッテリの充電量が低下するなどして、エンジンEの始動条件が成立した場合に、一連のエンジン始動制御を開始する(時刻t01)。
【0043】
本実施形態では、車両制御ユニット34は、第一係合装置CL1が解放状態である場合は、回転電機要求トルクに、車両要求トルクの値を設定する。
そして、始動制御部46は、エンジン始動制御を開始した場合に、出力側スリップ制御を開始する。すなわち、始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態である場合は、滑り係合状態にするため、第二係合装置CL2に供給される油圧の指令圧を減少させる。図4に示す例では、第二係合装置CL2の指令圧を、完全係合圧からステップ的に減少させた後、連続的に次第に減少させている。ここで、完全係合圧とは、駆動力源から第二係合装置CL2に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持できる油圧である。
なお、本実施形態では、第二係合装置CL2は、変速機構TMの変速段を形成している複数又は単数の係合装置の1つであり、変速段に応じて設定される。
【0044】
始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間に回転速度差が生じた場合に、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定し、第二係合装置CL2の指令圧の減少を終了するとともに、出力基準回転速度制御を開始し、第二係合装置CL2における回転電機MG側の係合部材の回転速度が車輪W側の係合部材の回転速度より高くなるように制御する。
【0045】
本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差が所定値以上になった場合に、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定する。そして、回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定された場合に、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を開始する。
すなわち、回転速度制御部47は、第二係合装置CL2が滑り係合状態であると判定されている期間(時刻t02から時刻t05)は、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する。本実施形態では、出力回転速度ωoutは、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて検出される出力軸Oの回転速度とされている。目標回転速度ωobjは、出力回転速度ωoutに基づいて算出された基準回転速度ωbより目標回転速度差Δωだけ高い回転速度に設定される。なお、出力回転速度ωout(基準回転速度ωb)として、当該回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度が用いられる。
【0046】
本実施形態では、基準回転速度ωbは、出力軸Oの回転速度(出力回転速度ωout)を回転電機MG側の回転速度相当に換算した回転速度であり、出力軸Oの回転速度(出力回転速度ωout)に変速機構TMの変速比Rを乗算した回転速度となる。なお、基準回転速度ωbと回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が、第二係合装置CL2の回転速度差相当となる。
【0047】
本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2を滑り係合状態に制御している間に、車両要求トルクに応じて、第二係合装置CL2の指令圧を設定するように構成されている。これにより、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合にも、第二係合装置CL2のスリップトルクにより、車両要求トルクに相当するトルクを車輪W側に伝達することができる。本実施形態では、始動制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定されてから第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定されるまで(時刻t02から時刻t04まで)の期間は、第二係合装置CL2の指令圧を車両要求トルクに応じて設定するトルク容量制御を実行する。そして、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定されてから第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定されるまで(時刻t04から時刻t05まで)の期間は、第二係合装置CL2の指令圧を、車両要求トルクに応じて設定された値に対して回転電機MGの回転速度変化に応じた補正を加えた値に設定する容量決定制御を実行する。
【0048】
また、始動制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態になったと判定した場合に、第一係合装置CL1の係合を開始する(時刻t02)。本実施形態では、始動制御部46は、第一係合装置CL1に供給される油圧の指令圧を増加させる。指令圧の増加により第一係合装置CL1の伝達トルク容量が増加し、当該伝達トルク容量のトルクが第一係合装置CL1からエンジンE側に伝達されると、エンジンの回転速度が上昇を開始する。
始動制御部46は、エンジンの回転速度が燃焼開始速度まで上昇した場合に、エンジン制御装置31に指令して、エンジンEの燃焼(点火)を開始させる(時刻t03)。エンジンの回転速度が、回転電機MGの回転速度ωmまで上昇して、第一係合装置CL1の回転速度差がなくなった場合(時刻t04)に、第一係合装置CL1は直結係合状態になる。始動制御部46は、第一係合装置CL1の回転速度差が所定値以下まで減少した場合に、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定して、第一係合装置CL1の指令圧を完全係合圧まで次第に増加させるスイープアップ制御を開始する(時刻t04)。
【0049】
また、始動制御部46は、第一係合装置CL1が直結係合状態となったと判定した場合に、車両要求トルクに基づいて設定したエンジン要求トルクを、エンジン制御装置31に指令し、エンジンEのトルク制御を開始する(時刻t04)。
第一係合装置CL1が直結係合状態になると、エンジンEの出力トルクが、エンジンE側から回転電機MG側に伝達されるようになる。このエンジンEの出力トルクの伝達に対して、回転電機MGの回転速度ωmを目標回転速度ωobjに維持するために、回転電機MGの出力トルクがフィードバック的に低下している(時刻t04から時刻t05)。
【0050】
回転速度制御部47は、第一係合装置CL1が直結係合状態になったと判定された後、回転電機の目標回転速度ωobjを次第に減少させ、回転電機MGの回転速度ωmを基準回転速度ωbまで低下させる。
始動制御部46は、第二係合装置CL2の係合部材間の回転速度差が所定値以下まで減少した場合に、第二係合装置CL2が直結係合状態となったと判定する(時刻t05)。
始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定された場合に、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧まで次第に増加させるスイープアップ制御を開始する(時刻t05)。また、始動制御部46は、第二係合装置CL2が直結係合状態になったと判定された場合に、車両要求トルクに基づいて設定した回転電機要求トルクを、回転電機制御ユニット32に指令し、回転電機MGのトルク制御を開始する(時刻t05)。始動制御部46は、回転電機要求トルクを、エンジン要求トルクと回転電機要求トルクの合計が車両要求トルクに一致するように設定する。
そして、始動制御部46は、第二係合装置CL2の指令圧が完全係合圧まで増加された場合に、一連の始動制御を終了する(時刻t06)。
【0051】
3−4−2.回転速度制御部47
次に、回転速度制御部47について詳細に説明する。
回転速度制御部47は、上記したように、第二係合装置CL2が滑り係合状態である場合に、動力伝達経路2において第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度である出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定し、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機MGを制御する出力基準回転速度制御を実行する機能部である。
回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる。
本実施形態では、回転速度制御部47は、上記したエンジン始動制御のように、係合状態移行制御の実行中に出力基準回転速度制御を行うように構成されている。
【0052】
3−4−2−1.車両用駆動装置1の弾性系
まず、車両用駆動装置1の弾性系について説明する。図5に、車両用駆動装置1の弾性系のモデルを示す。
上記のように、出力基準回転速度制御が行われる係合状態移行制御中は、第二係合装置CL2は滑り係合状態であり、第一係合装置CL1は滑り係合状態又は直結係合状態である。
このため、車両用駆動装置1の動力伝達経路2の弾性系は、第二係合装置CL2に対して回転電機MG側と車輪W側とで別の弾性系になる。
第二係合装置CL2よりも車輪W側の弾性系(以下、出力弾性系と称す)は、車輪Wを介して車軸AXに作用する車両の慣性モーメントと変速機構の慣性モーメントとを有し、車両の慣性モーメントと変速機構の慣性モーメントとの間が弾性を有する車軸AX及び出力軸Oなどにより連結された、2慣性の軸ねじれ振動の弾性系にモデル化できる。
一方、第二係合装置CL2よりも回転電機MG側の弾性系(以下、入力弾性系と称す)は、エンジンの慣性モーメントと回転電機の慣性モーメントとを有し、第一係合装置CL1が直結係合状態である場合は、エンジンの慣性モーメントと回転電機の慣性モーメントとの間が弾性を有するダンパDPなどにより連結された、2慣性の軸ねじれ振動の弾性系にモデル化できる。
【0053】
また、車両用駆動装置1は、円筒状の駆動装置ケースCSを備えており、駆動装置ケースCSは、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、入力軸I、中間軸M、及び係合装置CL1、CL2などの回転部材を内部に収容すると共に回転可能に支持している。また、駆動装置ケースCSは、回転速度センサSe1、Se2を内部に収容すると共に回転速度センサSe1、Se2の非回転部材側を固定している。
駆動装置ケースCSは、弾性を有するブッシュなどの取付部材52を介して車体BDに取り付けられている。よって、駆動装置ケースCSは、中間軸Mなどの車両用駆動装置1の回転部材と同軸周りに、車体BDに対してねじれ振動を生じる弾性系(以下、ケース弾性系と称す)にモデル化できる。
なお、出力弾性系が、本発明における「車輪側の弾性系」であり、ケース弾性系が、本願における「ケース側の弾性系」である。
【0054】
各弾性系は、各部材の慣性モーメントの大きさ、ばね定数の大きさに応じて定まる共振周波数を有する。よって、各弾性系の共振周波数は通常、互いに異なる周波数となる。
例えば、ケース弾性系は、次式(1)で表せるような共振周波数Fcを有する。
Fc=1/(2π)×√(Kb/Jc) ・・・(1)
ここで、Kbは、取付部材52のねじりばね定数であり、Jcは、駆動装置ケースCSの慣性モーメントである。
【0055】
回転速度センサSe1、Se2の非回転部材側は、駆動装置ケースCSに固定されているため、駆動装置ケースCSがねじれ振動した場合、各回転速度センサSe1、Se2の検出値に当該ねじれ振動が重畳する。よって、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて検出される出力回転速度ωoutには、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が生じやすくなる。また、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて検出される回転電機MGの回転速度ωmにも、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が生じやすくなる。
更に、出力回転速度ωoutには、上記のように、出力弾性系の共振周波数Foの振動が生じやすくなる。
【0056】
従って、出力回転速度ωoutの検出値には、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foのねじれ振動が重畳しやすくなる。このため、出力回転速度ωoutに基づいて決定される目標回転速度ωobjにも、これらのねじれ振動が重畳されやすくなり、回転速度制御系に対する外乱となる。
また、回転電機MGの回転速度ωmの検出値には、ケース弾性系の共振周波数Fcのねじれ振動が重畳しやすくなる。このケース弾性系のねじれ振動は、実際の回転電機MGの回転速度ωmに生じた振動ではなく、センサの固定部材が振動することにより生じる検出誤差であり、回転速度制御系に対する外乱となる。
よって、ケース弾性系の共振振動、及び出力弾性系の共振振動が、回転速度制御系に対する外乱となり、回転速度制御系の安定性が悪化したり、回転速度制御系の操作量が不要に増加したりする恐れがある。
【0057】
3−4−2−2.エンジン始動制御中の共振振動
エンジン始動制御により、駆動装置ケースCSが支持しているエンジンE及び回転電機MGなどの非回転部材にトルクショックが伝達され、ケース弾性系の共振周波数Fcのねじれ振動が励起されやすくなる。
図6に、第一係合装置CL1が滑り係合状態である場合のエンジン始動制御中のタイムチャートの例を示している。図6に示す例は、エンジン始動制御中のタイムチャートであり、図4における時刻t02から時刻t05までの期間に対応している。
図6に示すように、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutに、ケース弾性系の共振周波数Fc(周期1/Fc)の振動が重畳している。また、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmにも、図6に示す例では判別しにくいが、同じケース弾性系の共振周波数Fc及び同じ振幅の振動が重畳している。
【0058】
第二係合装置CL2の伝達トルク容量の変化などにより、出力弾性系にトルクショックが伝達され、出力弾性系の共振周波数Foの軸ねじれ振動が励起される。これにより、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutに、当該共振周波数Fo(周期1/Fo)の振動が重畳している。
従って、出力回転速度センサSe2により検出される出力回転速度ωoutには、出力弾性系の共振周波数Fo及びケース弾性系の共振周波数Fcのいずれか一方又は双方の振動が重畳しやすい。
【0059】
また、図6の例には示されていないが、第一係合装置CL1の直結係合及びエンジンEの始動などにより、入力弾性系にトルクショックが伝達され、入力弾性系の共振周波数の軸ねじれ振動が励起される。これにより、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmに、当該共振周波数の振動が重畳する。
よって、入力回転速度センサSe1により検出される回転電機MGの回転速度ωmには、ケース弾性系の共振周波数Fc及び入力弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方の振動が重畳しやすい。
【0060】
3−4−2−3.目標回転速度ωobjの振動
回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutに基づいて、目標回転速度ωobjを決定する。本実施形態では、回転速度制御部47は、出力回転速度ωoutに変速機構TMの変速比Rを乗算した基準回転速度ωbに基づいて、目標回転速度ωobjを決定するように構成されている。
図6の例に示すように、変速機構TMの変速比Rが1より大きい(例えば、R=3)場合は、基準回転速度ωbは、出力回転速度ωoutより大きくなる。エンジン始動制御は、低車速で行われる頻度が高いため、変速機構TMの変速比は、1より大きく設定される頻度が高くなる。
このため、図6の例に示すように、出力回転速度ωoutに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅が増幅されて、基準回転速度ωbの振動の振幅となる。従って、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅は、出力回転速度ωoutに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の振幅よりも大きくなっている。
【0061】
このように、図6に示す例では、基準回転速度ωbには、比較的大きい振幅のケース弾性系及び出力弾性系の共振振動が重畳している。
本実施形態に係わる回転速度制御部47とは異なり、出力回転速度ωoutに対して共振周波数の振動を低減させていない回転速度に基づいて、目標回転速度ωobjを決定するように構成した比較例の場合は、図6の例に示すように、出力回転速度ωoutに重畳している振動により、目標回転速度ωobjが振動している。このため、回転電機MGの回転速度ωmに振動が生じ、回転電機MGの出力トルクに振動が生じている。
【0062】
3−4−2−4.振動に対する回転速度制御部47
ケース弾性系及び出力弾性系の共振振動による目標回転速度ωobjの振動を抑制するため、本実施形態に係わる回転速度制御部47は、上記したように、出力回転速度ωoutに基づいて目標回転速度ωobjを決定するに際して、出力回転速度ωoutとして、当該出力回転速度ωoutの検出値に対して当該検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いるように構成されている。
本実施形態では、出力回転速度ωoutの検出値に表れる車両用駆動装置1の共振周波数は、出力回転速度ωoutを検出する出力回転速度センサSe2が固定されるケース弾性系の共振周波数Fc、及び第二係合装置CL2よりも車輪W側の出力弾性系の共振周波数Foのいずれか一方又は双方である。
また、本実施形態では、回転速度制御部47は、バンドストップフィルタを用いて、所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、バンドストップフィルタは、ノッチフィルタ、バンドカットフィルタとも称される。
【0063】
図3に、本実施形態に係わる回転速度制御部47の構成を示す。
回転速度制御部47は、目標回転速度設定部60及び回転フィードバック制御部61を備えている。
目標回転速度設定部60は、上記したように、出力回転速度ωoutに変速比Rを乗算した値を、基準回転速度ωbとして設定するように構成されている。
目標回転速度設定部60は、基準回転速度ωbに対して所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行って、フィルタ後基準回転速度ωb_fltを算出するバンドストップフィルタ62を備えている。
【0064】
バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域は、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foの一方又は双方を含む所定の周波数帯域に設定されている。
なお、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域は、各弾性系が有する複数の異なる共振周波数に対応して複数の異なる周波数帯域に設定されても良く、或いは、振幅が最大になる1つの共振周波数に対応した1つの周波数帯域に設定されても良い。バンドストップフィルタ62の周波数帯域が、複数の異なる周波数帯域に設定される場合は、バンドストップフィルタ62が、各周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタを複数備えるように構成されてもよい。
【0065】
本実施形態では、目標回転速度設定部60は、フィルタ後基準回転速度ωb_fltに、目標回転速度差Δωを加算した値を、目標回転速度ωobjに設定するように構成されている。なお、目標回転速度差Δωは、一定値とされてもよいし、可変値とされてもよい。可変値の場合は、例えば、基準回転速度ωbに応じて異なる値や、変速比Rに応じて異なる値などに設定されるように構成してもよい。
そして、回転フィードバック制御部61は、回転電機MGの回転速度ωmが目標回転速度ωobjに近づくように、回転電機要求トルクを変化させるように構成されている。回転フィードバック制御部61には、比例積分制御器など、公知の各種制御器が用いられる。
以下で、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fcのみを含む場合、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foの双方を含む場合の各制御挙動を説明する。また、回転速度制御部47が、更に、回転電機MGの回転速度ωmに対しても、ケース弾性系の共振周波数Fcを含む所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行うように構成された場合の制御挙動を説明する。
【0066】
3−4−2−5.ケース弾性系の共振周波数Fcの振動低減
まず、図7に示す例を用いて、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fcのみを含む場合の制御挙動について説明する。
すなわち、バンドストップフィルタ62は、基準回転速度ωbに対して、ケース弾性系の共振周波数Fcを含み、出力弾性系の共振周波数Foを含まない所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、図7は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0067】
図7に示すように、フィルタ後基準回転速度ωb_fltは、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系及び出力弾性系の共振振動の内、ケース弾性系の共振周波数Fcの振動が低減された回転速度となる。
従って、基準回転速度ωbに重畳している共振振動の内、最も振幅が大きいケース弾性系の共振振動を低減することができている。このため、図6に示した比較例の場合と比べ、目標回転速度ωobjの振幅が、大幅に低減している。よって、回転電機MGの回転速度ωmの振動が大幅に低減し、回転電機MGの出力トルクの振動が大幅に低減している。
【0068】
一方、図7に示すように、回転電機MGの回転速度ωmにも、ケース弾性系の共振振動が重畳している。回転電機MGの回転速度ωmに重畳しているケース弾性系の振動によっても、回転電機MGの出力トルクに振動が生じている。
しかし、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系の共振振動の振幅は、回転電機MGの回転速度ωmに重畳しているケース弾性系の共振振動の振幅より、変速比Rが乗算されて増幅された分だけ大きくなっている。よって、ケース弾性系の共振振動の低減を、回転電機MGの回転速度ωmに対して行うよりも、基準回転速度ωbに対して行う方が、効果的にケース弾性系の共振振動を低減することができる。よって、回転電機MGの出力トルクの振動低減幅を大きくすることができる。
【0069】
3−4−2−6.ケース弾性系及び出力弾性系の共振周波数の振動低減
次に、図8に示す例を用いて、バンドストップフィルタ62のフィルタ周波数帯域が、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foを含む場合の制御挙動について説明する。
すなわち、バンドストップフィルタ62は、基準回転速度ωbに対して、ケース弾性系の共振周波数Fc及び出力弾性系の共振周波数Foを含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出するように構成されている。
なお、図8は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0070】
図8に示すように、フィルタ後基準回転速度ωb_fltは、基準回転速度ωbに重畳しているケース弾性系の共振振動及び出力弾性系の共振振動の双方が低減されている回転速度となる。
また、基準回転速度ωbに重畳している共振振動の内、最も振幅が大きいケース弾性系の共振振動、及び2番目に振幅が大きい出力弾性系の共振振動を低減することができている。このため、図7に示した場合と比べ、目標回転速度ωobjの振幅が、更に低減している。よって、回転電機MGの回転速度ωmの振動が更に低減し、回転電機MGの出力トルクの振動が更に低減している。
【0071】
3−4−2−7.回転電機MGの回転速度ωmの振動低減
次に、図9に示す例を用いて、回転電機MGの回転速度ωmに対しても、ケース弾性系の共振周波数Fcを含む所定の周波数帯域の振動を低減するバンドストップフィルタ処理を行うように構成された場合の制御挙動について説明する。
すなわち、回転速度制御部47は、回転電機MGの回転速度ωmとして、当該回転電機MGの回転速度ωmの検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いるように構成されている。
なお、図9は、図6の場合と同様のエンジン始動制御中の挙動を示している。
【0072】
図9に示すように、バンドストップフィルタ後の回転電機MGの回転速度ωmであるフィルタ後回転電機回転速度ωm_fltは、回転電機MGの回転速度ωmの検出値に重畳しているケース弾性系の共振周波数Fcの振動が低減された回転速度となる。
回転フィードバック制御部61は、フィルタ後回転電機回転速度ωm_fltが目標回転速度ωobjに近づくように回転電機要求トルクを変更するので、図8に示した場合と比べ、更に回転電機MGの出力トルクの振動が低減している。
【0073】
なお、回転電機MGの回転速度ωmに対するバンドストップフィルタは、ケース弾性系の共振周波数Fcに加えて、入力弾性系の共振周波数も含む所定の周波数帯域の振動を低減するように構成されてもよい。
【0074】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0075】
(1)上記の実施形態では、車両用駆動装置1が、エンジンEに駆動連結された入力部材(エンジン出力軸Eo)及び第一係合装置CL1を備えたハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1が、エンジンEに駆動連結された入力部材(エンジン出力軸Eo)及び第一係合装置CL1を備えない電動車両用の駆動装置として構成されても好適である。
【0076】
(2)上記の実施形態においては、変速機構TMの複数の係合装置の中の1つが、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御され、回転速度制御部47による直結係合判定の対象となる第二係合装置CL2とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1は、図10に示すように、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路に更に係合装置を備え、当該係合装置が、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御される第二係合装置CL2とされてもよい。或いは、図10に示す車両用駆動装置1において、変速機構TMが備えられないように構成されてもよい。
【0077】
或いは、車両用駆動装置1は、図11に示すように、回転電機MGと変速機構TMとの間の動力伝達経路に更にトルクコンバータTCを備え、トルクコンバータTCの入出力部材間を直結係合状態にするロックアップクラッチが、第二係合装置CL2とされてもよい。この場合、第二係合装置CL2は、エンジン始動制御中に滑り係合状態又は解放状態に制御される。
【0078】
(3)上記の実施形態においては、変速機構TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機構TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置など、有段の自動変速装置以外の変速装置にされるように構成されてもよい。この場合も、変速機構TMに備えられた係合装置が、エンジン始動制御中に滑り係合状態に制御される第二係合装置CL2とされ、或いは変速機構TMとは別に設けられた係合装置が第二係合装置CL2とされてもよい。
【0079】
(4)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜47を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜47の分担も任意に設定することができる。例えば、回転速度制御部47が、回転電機制御ユニット32に備えられてもよい。
【0080】
(5)上記の実施形態において、出力回転速度ωoutが、出力軸Oの回転速度とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、出力回転速度ωoutは、第二係合装置CL2よりも車輪W側の回転部材の回転速度であれば、何れの回転部材の回転速度でもよく、例えば、変速機構TM内の回転部材の回転速度、或いは車輪Wの回転速度であってもよい。
【0081】
(6)上記の実施形態において、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbに目標回転速度差Δωを加算した値に決定される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば車両の減速中には、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbに目標回転速度差Δωを減算した値に決定され、目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbより小さい値に決定されるように構成されてもよい。
【0082】
(7)上記の実施形態において、出力基準回転速度制御は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから第二係合装置CL2を解放状態から係合状態へ移行させ、その後第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御の実行中に行われる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。
例えば、エンジン始動制御に際して、第一係合装置CL1を直結係合した後にエンジンEの燃焼(点火)を行う場合にも、図4の例と同様に実施できる。また、車両用駆動装置1がエンジン始動用のスタータモータを備える場合には、当該スタータモータによるエンジンEの始動制御と共に第二係合装置CL2を滑り係合状態に移行させてから第一係合装置CL1を係合状態へ移行させ、その後第二係合装置CL2を直結係合状態へ移行させる場合に、出力基準回転速度制御を行うように構成されてもよい。また、出力基準回転速度制御は、例えば、上記の係合状態移行制御において第一係合装置CL1の係合がエンジンEの始動(燃焼開始)を伴わずに実行される場合、変速機構TMの変速段の変更制御において変速機構TMの係合装置を断接する際など、上記のエンジン始動制御以外の際にも、行われるように構成されてもよい。
【0083】
(8)また、車両制御ユニット34は、第二係合装置CL2及び第一係合装置CL1の双方を滑り係合状態としつつ車輪Wの回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部を備えるように構成され、回転速度制御部47は、滑り加速制御の実行中に出力基準回転速度制御を実行するように構成されてもよい。
【0084】
図12に滑り加速制御中のタイムチャートの一例を示す。
本例では、滑り加速制御部は、第二係合装置CL2が解放状態に制御され、第一係合装置CL1が直結係合状態に制御されていると共に、車両が停止し、エンジンE及び回転電機MGが回転駆動されている状態で、車両の加速要求があった場合に、一連の滑り加速制御を開始する(時刻t11)。
滑り加速制御部は、第二係合装置CL2の指令圧を車両要求トルクに応じて設定するトルク容量制御を実行し、第二係合装置CL2を解放状態から滑り係合状態に移行させると共に、車両要求トルクに相当する大きさのトルクを車輪W側に伝達させて出力軸O(車輪W)の回転速度を上昇させる(時刻t11から時刻t15)。
滑り加速制御部は、第一係合装置CL1を直結係合状態から滑り係合状態に移行させるために、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧から次第に減少するスイープダウンを実行する。滑り加速制御部は、第一係合装置CL1の係合部材間に回転速度差が生じた場合に、第一係合装置CL1が滑り係合状態になったと判定し、第一係合装置CL1の指令圧の減少を終了するとともに、エンジンEの回転速度が目標回転速度に近づくように第一係合装置CL1の指令圧を変化させる回転速度制御を開始する(時刻t12)。
【0085】
滑り加速制御部は、第一係合装置CL1が滑り係合状態になったと判定した場合に、回転速度制御部47に回転速度制御を開始させる(時刻t12)。回転速度制御部47は、エンジンEの回転速度に基づいて目標回転速度ωobjを設定する(時刻t12から時刻t13)。図12に示す例では、目標回転速度ωobjは、エンジンEの回転速度から所定値だけ低い値に設定されている。
回転速度制御部47は、出力軸Oの回転速度が上昇し、基準回転速度ωbと、回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が、目標回転速度差Δω以下になった場合に、出力基準回転速度制御を開始する(時刻t13)。すなわち、回転速度制御部47は、目標回転速度ωobjを、出力回転速度ωoutに基づいて決定する。目標回転速度ωobjは、基準回転速度ωbのフィルタ値よりも目標回転速度差Δωだけ高く設定される。よって、回転電機MGの回転速度ωmは、基準回転速度ωbの上昇と共に上昇する。
【0086】
滑り加速制御部は、エンジンEの回転速度と回転電機MGの回転速度ωmとの回転速度差が所定値以下になった場合に、第一係合装置CL1を滑り係合状態から直結係合状態に移行させるために、第一係合装置CL1の係合圧を次第に増加するスイープアップを開始する(時刻t14)。滑り加速制御部は、第一係合装置CL1が直結係合状態になった場合に、第一係合装置CL1の指令圧を完全係合圧までステップ的に増加する共に、第二係合装置CL2の指令圧を次第に増加するスイープアップを開始する。また、回転電機MGの出力基準回転速度制御を終了し、回転電機MGの出力トルク指令値をトルク制御のためのトルク指令値まで次第に変化させるスイープ制御を開始する(時刻t15)。
第二係合装置CL2が直結係合状態になった場合に、第二係合装置CL2の指令圧を完全係合圧までステップ的に増加すると共に、回転電機MGのスイープ制御を終了し、トルク制御を開始して、一連の滑り加速制御を終了する(時刻t16)。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
Δω :目標回転速度差
ωb :基準回転速度
ωb_flt:フィルタ後基準回転速度
ωm :回転電機の回転速度
ωm_flt:フィルタ後回転電機回転速度
ωobj :目標回転速度
ωout :出力回転速度
1 :車両用駆動装置
2 :動力伝達経路
30 :制御装置
31 :エンジン制御装置
32 :回転電機制御ユニット
33 :動力伝達制御ユニット
34 :車両制御ユニット
41 :エンジン制御部
42 :回転電機制御部
43 :変速機構制御部
44 :第一係合装置制御部
45 :第二係合装置制御部
46 :始動制御部
47 :回転速度制御部
52 :取付部材
60 :目標回転速度設定部
61 :回転フィードバック制御部
62 :バンドストップフィルタ
AX :車軸
BD :車体
CL1 :第一係合装置(入力側係合装置)
CL2 :第二係合装置(出力側係合装置)
CS :駆動装置ケース
DP :ダンパ
E :エンジン(内燃機関)
Eo :エンジン出力軸(入力部材)
Fc :ケース弾性系の共振周波数
Fo :出力弾性系の共振周波数
I :入力軸
M :中間軸
O :出力軸
MG :回転電機
PC :油圧制御装置
R :変速比
Se1 :入力回転速度センサ
Se2 :出力回転速度センサ(回転速度検出装置)
Se3 :エンジン回転速度センサ
TM :変速機構
W :車輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、前記動力伝達経路において前記出力側係合装置よりも前記車輪側の回転部材の回転速度である出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、前記回転電機の回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記回転電機を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、
前記回転速度制御部は、前記出力回転速度として、当該出力回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる制御装置。
【請求項2】
内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、
前記出力側係合装置を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから前記入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させ、その後前記出力側係合装置を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部と、を更に備え、
前記回転速度制御部は、前記係合状態移行制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置及び前記入力側係合装置の双方を滑り係合状態としつつ前記車輪の回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部と、を更に備え、
前記回転速度制御部は、前記滑り加速制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行する請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記出力回転速度の検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数は、前記出力回転速度を検出する回転速度検出装置が固定されるケース側の弾性系の共振周波数、及び前記出力側係合装置よりも前記車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方である請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記回転速度制御部は、バンドストップフィルタを用いて、前記所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出する請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項1】
回転電機と車輪とを結ぶ動力伝達経路に出力側係合装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記出力側係合装置が滑り係合状態である場合に、前記動力伝達経路において前記出力側係合装置よりも前記車輪側の回転部材の回転速度である出力回転速度に基づいて目標回転速度を決定し、前記回転電機の回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記回転電機を制御する出力基準回転速度制御を実行する回転速度制御部を備え、
前記回転速度制御部は、前記出力回転速度として、当該出力回転速度の検出値に対して当該検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数を含む所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を用いる制御装置。
【請求項2】
内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、
前記出力側係合装置を直結係合状態から滑り係合状態へ移行させてから前記入力側係合装置を解放状態から係合状態へ移行させ、その後前記出力側係合装置を滑り係合状態から直結係合状態へ移行させる係合状態移行制御を実行する係合制御部と、を更に備え、
前記回転速度制御部は、前記係合状態移行制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
内燃機関に駆動連結された入力部材と、当該入力部材と前記回転電機とを結ぶ動力伝達経路に設けられた入力側係合装置と、前記出力側係合装置及び前記入力側係合装置の双方を滑り係合状態としつつ前記車輪の回転速度を上昇させる滑り加速制御を実行する滑り加速制御部と、を更に備え、
前記回転速度制御部は、前記滑り加速制御の実行中に前記出力基準回転速度制御を実行する請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記出力回転速度の検出値に表れる前記車両用駆動装置の共振周波数は、前記出力回転速度を検出する回転速度検出装置が固定されるケース側の弾性系の共振周波数、及び前記出力側係合装置よりも前記車輪側の弾性系の共振周波数のいずれか一方又は双方である請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記回転速度制御部は、バンドストップフィルタを用いて、前記所定の周波数帯域の振動を低減させた回転速度を算出する請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−35417(P2013−35417A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173217(P2011−173217)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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