説明

前輪アンチスキッド制御に制動力前後輪間配分制御を適合させた車輌用制動装置

【課題】制動力前後輪間配分制御手段と前輪に対するアンチスキッド制御手段とを有する車輌用制動装置に於いて、前輪のアンチスキッド制御により制動力前後輪間配分制御を修正するに当たって、車輌の速やかな制動性能と乗り心地の間のより適切な調和を図る。
【解決手段】制動力前後輪間配分制御手段の作動中に前輪に対するアンチスキッド制御手段が作動したとき、制動力の増大速度が大きいほどより速く制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌用制動装置に係り、特に車輌用制動装置の作動に於いて制動力前後輪間配分制御を前輪のアンチスキッド制御によりよく適合させることに係る。
【背景技術】
【0002】
車輌の走行が制動されると車輪の接地荷重が後輪より前輪へ移動することから、制動力の増大に伴って制動力の前後輪間配分を前寄りに変更することが行われており、特にそれを近年のコンピュータ制御により行うことがEBD(Electronic
Braking Force Distribution)として知られている。一方、車輪と路面の間に得られる摩擦力に比して車輪に掛かる制動力が強すぎると車輪のスリップ増大により車輪の転動軌跡維持能力が低下して車輌の走行が不安定となることから、そのとき制動を一旦弛めた後再度掛け直す制御を行う制御システムがアンチスキッド制御装置或はABS(Anti-lock
Braking System)して知られている。
【0003】
EBD制御とABS制御とを関連付けることについては、従来から種々の提案がなされており、その一つとして、下記の特許文献1には、EBD制御により後輪の制動圧の増大を規制しているときに後輪のABS制御を実行するとき、ABS制御の実行により制動距離が伸びるのを防止すべく、EBD制御による後輪の制動圧の増大規制の度合を緩和することが提案されている。下記の特許文献2には、少なくとも一方の後輪についてABS制御が開始されたときEBD制御を禁止すること、少なくとも一方の前輪についてABS制御が開始されたときEBD制御の開始を遅延させること、ABS制御を正常に行えないときにはEBD制御の遅延や禁止を行わないことが提案されている。下記の特許文献3には、後輪の制動力増大に上限を設け、それ以上の制動力の増大は前輪により行なう制御の実施中にいずれかの車輪に於いてABS制御が開始されたときには、前輪の制動力の増大量を漸減することが提案されている。
【特許文献1】特開平11-192930
【特許文献2】特開2001-39283
【特許文献3】特開2004-306784
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制動力前後輪間配分制御の実行中に前輪に対してアンチスキッド制御が始まるということは、後輪側から前輪側へ制動力を偏倚させた制動力前後輪間配分制御を元に戻すのが望ましいことを意味する。この場合、制動力前後輪間配分制御の戻しは、制動力前後輪間配分の急変により車輌の乗り心地が損なわれないようにする観点からは、上記の特許文献3に記載されている如く徐々に行われるのが好ましいが、前輪に対してアンチスキッド制御が始まるということは、制動力の前後輪間配分がかなり大きく前輪側へ偏倚していることを表わしているので、前輪のアンチスキッド制御により失われる制動力が全制動力に対し占める割合はかなり大きく、従って、前輪のアンチスキッド制御が車輌の制動の効きに及ぼす影響は特に注意すべきものであると考えられる。
【0005】
本発明は、上記の観点に立って、制動力前後輪間配分制御手段と、特に前輪に対するアンチスキッド制御手段とを有する車輌用制動装置に於いて、前輪に対するアンチスキッド制御の作動に対応して制動力前後輪間配分制御を修正するに当たって、車輌の速やかな制動性能と乗り心地の間のより適切な調和を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、制動力前後輪間配分制御手段と、前輪に対するアンチスキッド制御手段とを有する車輌用制動装置にして、前記制動力前後輪間配分制御手段の作動中に前記アンチスキッド制御手段が作動したとき、制動力の増大速度が大きいほどより速く前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせるようになっていることを特徴とする車輌用制動装置を提案するものである。
【0007】
上記の如く制動力の増大速度が大きいほどより速く制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることは、制動力の増大速度が所定の閾値以上であるとき制動力前後輪間配分制御手段の作動を直ちに終わらせることを含んでいてよい。
【0008】
上記の如く制動力の増大速度が大きいほどより速く制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることは、制動力の増大速度が所定の閾値以上でないとき制動力前後輪間配分制御を時間の経過と共に漸減して前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることを含んでいてよい。
【発明の効果】
【0009】
上記の如く、制動力前後輪間配分制御手段と、前輪に対するアンチスキッド制御手段とを有する車輌用制動装置に於いて、前記制動力前後輪間配分制御手段の作動中に前記アンチスキッド制御手段が作動したとき、制動力の増大速度が大きいほどより速く前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせるようになっていれば、制動力の前後輪間配分がかなり大きく前輪側へ偏倚している状態で、前輪がアンチスキッド制御されるとき、制動力の増大速度が大きい程、車輌の速やかな制動性能を確保することの方が乗り心地を確保することに優先する度合が大きいとの観点から、車輌の速やかな制動性能の確保と乗り心地の確保の間の調和を図ることができる。
【0010】
この場合、上記の如く制動力の増大速度が大きいほどより速く制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることが、制動力の増大速度が所定の閾値以上であるとき制動力前後輪間配分制御手段の作動を直ちに終わらせることを含んでいれば、上記の閾値を適切に定めることにより、車輌の速やかな制動性能の確保が或る度合以上に重要であるとき、車輌の速やかな制動性能の確保を乗り心地の確保に対し最大限に優先させることができる。
【0011】
またこの場合、上記の如く制動力の増大速度が大きいほどより速く制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることが、制動力の増大速度が所定の閾値以上でないとき制動力前後輪間配分制御を時間の経過と共に漸減して前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせることを含んでいれば、上記の閾値を適切に定めることにより、車輌の速やかな制動性能の重要度がさほどではないとき、車輌の乗り心地の確保に十分配慮しつつ速やかな制動性能の確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明による車輌用制動装置を電気油圧式の制動装置として実施した場合の一例を示す概略図である。但し、本発明は電気油圧式の制動装置に限られるものではない。尚、本発明は車輌用制動装置の作動に関するソフト的構成にその要旨を有しているので、図1に表れているハード的構成は公知のものである。
【0013】
10にて全体的に示された制動装置の油圧回路部は、運転者によるブレーキペダル12の踏込み操作に応答してブレーキオイルを圧送するマスターシリンダ14を有している。ブレーキペダル12とマスターシリンダ14との間にはドライストロークシミュレータ16が設けられている。マスターシリンダ14は第一のマスターシリンダ室14Aと第二のマスターシリンダ室14Bとを有し、これらのマスターシリンダ室にはそれぞれ左前輪用の油圧導管18Aおよび右前輪用の油圧導管18Bの一端が接続されている。油圧導管18Aおよび18Bの他端にはそれぞれ左前輪および右前輪の制動力を発生するためのホイールシリンダ20FLおよび20FRが接続されている。尚、20RLおよび20RRは左後輪および右後輪のホイールシリンダであり、通常の制動時には、これら4輪のホイールシリンダには以下に記載の電磁開閉弁の開閉制御の下にオイルポンプによる油圧が供給されるようになっている。
【0014】
油圧導管18Aおよび18Bの途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁(マスターカット弁)22Lおよび22Rが設けられている。これらの電磁開閉弁22Lおよび22Rはそれぞれ第一のマスターシリンダ室14Aおよび第二のマスターシリンダ室14Bと対応するホイールシリンダ20FLおよび20FRとの連通を選択的に遮断するする遮断弁として機能する。またマスターシリンダ14と電磁開閉弁22FLとの間のブレーキ油圧供給導管18Aには常閉型の電磁開閉弁24を介してウェットストロークシミュレータ26が接続されている。
【0015】
マスターシリンダ14にはリザーバ28が接続されており、リザーバ28には送油導管30の一端が接続されている。送油導管30には電動機32により駆動されるオイルポンプ34が接続されており、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36には加圧された油圧を蓄圧するアキュムレータ38が接続されている。送油導管30には油戻り導管40の一端が接続されている。リザーバ28、オイルポンプ34、アキュムレータ38等はホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RR内の圧力を増圧するための油圧源として機能する。
【0016】
尚、図1には示されていないが、オイルポンプ34の吸入側の送油導管30と吐出側の油圧供給導管36とを連通接続する導管が設けられ、該導管の途中にはアキュムレータ38内の圧力が基準値を越えた場合に開弁し吐出側の油圧供給導管36より吸入側の送油導管30へ油を戻すリリーフ弁が設けられている。
【0017】
オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36は、常閉型の電磁開閉弁42FLおよび油圧導管44FLを経てホイールシリンダ20FLと接続されている。同様に、オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36は、常閉型の電磁開閉弁42FRおよび油圧導管44FRを経てホイールシリンダ20FRと接続され、常閉型の電磁開閉弁42RLおよび油圧導管44RLを経てホイールシリンダ20RLと接続され、常閉型の電磁開閉弁42RRおよび油圧導管44RRを経てホイールシリンダ20RRと接続されている。
【0018】
ホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRは、またそれぞれ油圧導管44FL、44FR、44RL、44RRおよび常閉型の電磁開閉弁46FL、46FR、46RL、46RRを経て油戻り導管40に接続されている。
【0019】
電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRはそれぞれホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRに対する増圧弁(または油圧保持弁)として機能し、電磁開閉弁46FL、46FR、46RL、46RRはそれぞれホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RRに対する減圧弁(または油圧保持弁)として機能し、従ってこれらの電磁開閉弁は互いに共働してアキュムレータ38内の油圧源に基づいて各ホイールシリンダへ供給される油圧を増減制御する油圧制御弁を構成している。
【0020】
常開型の電磁開閉弁22Lおよび22Rは、駆動電流が供給されない非制御モード時には開弁状態に維持され、常閉型の電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRおよび46FL、46FR、46RL、46RRは、駆動電流が供給されない非制御モード時には閉弁状態に維持される。また電磁開閉弁42FL、42FR、42RL、42RRおよび46FL、46FR、46RL、46RRの何れかが故障し、対応するホイールシリンダ内の圧力を正常に制御できなくなった場合には、これらの電磁開閉弁は非制御モードとされ、これにより左右前輪のホイールシリンダ内の圧力は直接マスターシリンダ14により制御される。
【0021】
第一のマスターシリンダ室14Aと電磁開閉弁22Lとの間の油圧導管18Aには該油圧導管内の圧力を第一のマスターシリンダ圧力Pmaとして検出する第一の油圧センサ48Aが設けられている。同様に第二のマスターシリンダ室14Bと電磁開閉弁22Rとの間の油圧導管18Bには該油圧導管内の圧力を第二のマスターシリンダ圧力Pmbとして検出する第二の油圧センサ48Bが設けられている。ブレーキペダル12には運転者によるブレーキペダルの踏み込みストロークStを検出するストロークセンサ50が設けられている。オイルポンプ34の吐出側の油圧供給導管36には該導管内の圧力をアキュムレータ圧として検出する油圧センサ52が設けられている。ホイールシリンダ20FL、20FR、20RL、20RR内の圧力は、それぞれ油圧センサ54FL、54FR,54RL,54RRにより圧力Pbfl、Pbfr、Pbrl、Pbrrとして検出されるようになっている。左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の回転速度は、それぞれ車輪速センサ56FL、56FR、56RL、56RRにより回転速度Vwfl、Vwfr、Vwrl、Vwrrとして検出されるようになっている。
【0022】
電磁開閉弁22Lおよび22R、電磁開閉弁24、電動機32、電磁開閉弁42FL〜42RR、電磁開閉弁46FL〜46RRは、電子制御装置58により制御される。電子制御装置58はマイクロコンピュータ60と駆動回路62よりなっている。マイクロコンピュータ60には、車速センサから車速を示す信号、油圧センサ48Aおよび48Bよりそれぞれ第一のマスターシリンダ圧力Pmaおよび第二のマスターシリンダ圧力Pmbを示す信号、ストロークセンサ50よりブレーキペダル12の踏み込みストロークSmを示す信号、油圧センサ52よりアキュムレータ圧力を示す信号、油圧センサ54FL〜54RRよりそれぞれホイールシリンダ20FL〜20RR内の圧力Pbi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、車輪速センサ56FL、56FR、56RL、56RRより各車輪の回転速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号が入力される。
【0023】
マイクロコンピュータ60は、制動制御ルーチンを記憶しており、ブレーキペダル12が踏み込まれると電磁開閉弁24を開弁すると共に、電磁開閉弁22Lおよび22Rを閉弁し、その状態にて油圧センサ48A、48Bにより検出されたマスターシリンダ圧力Pma、Pmbおよびストロークセンサ50より検出された踏み込みストロークSmに基づき要求されている制動力を目標値として演算すると共にそれを前後左右の各輪に配分する配分比を演算し、ホイールシリンダ20FL〜20RRの各々に対する目標ホイールシリンダ圧力Pbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各ホイールシリンダの圧力Pbiが目標ホイールシリンダ圧力Pbtiになるよう電磁開閉弁42FL〜42RRおよび46FL〜46RRを制御する。
【0024】
尚、マイクロコンピュータ60には、その他に図には示されていないヨーレートセンサより車体のヨーレートを示す信号、前後加速度センサより車体の前後加速度を示す信号、横加速度センサより車体の横加速度を示す信号等が供給されており、クロコンピュータ60は同時にそれらの信号を参照して車輌の走行制御技術の分野に於いて種々提案されている制御態様にて車輌の走行制御のための各車輪に対する制動制御を行い、その一環として本発明による制動力の前後輪間の配分制御を行う。
【0025】
図2は、本発明による車輌用制動装置に於ける制動力の前後輪間配分制御を一つの実施の形態について示すフローチャートである。かかるフローチャートに沿った演算、判別、指令は、図1のマイクロコンピュータ60によって、車輌の制動時、即ちブレーキペダルが踏み込まれたとき、他の運転支援制御の合間を縫って行われる。
【0026】
制御が開始されると、ステップ(S)10に於いて左右の前輪の回転速度Vwfl,Vwfrの和と左右の後輪の回転速度Vwrl,Vwrrの和の間の差ΔVwが算出される。これは左右の前輪の回転速度の平均値と左右の後輪の回転速度の平均値の差に対応し、このΔVwが正であることは、制動により車体に作用する前向き慣性力によって車輪の接地荷重が後輪側より前輪側へ偏倚することにより、路面に対する後輪のスリップが前輪のスリップに対比して増大していることを示し、ΔVwの値の大きさはその度合を示す。従って、ΔVwの値の大きさは、制動力の増大に応じて前後輪間の制動力配分を前輪側へ偏倚させるのが好ましい度合を表すパラメータとなる。
【0027】
次いで制御はステップ20へ進み、フラグFが1であるか否かが判断される。フラグFは各回の制御の開始時に0にリセットされ、制御が後述のステップ50に至ったとき1にセットされるものである。従って、一先ず答はノー(N)であり、制御はこれよりステップ30へ進む。
【0028】
ステップ30に於いては、ΔVwが或る所定の閾値ΔVw1以上であるか否かが判断される。この閾値ΔVw1は、ΔVwがそれ以上であれば、制動力前後輪間配分制御(EBD)を開始すべきものとするΔVwの値である。尚、ここでは、制動力前後輪間配分制御(EBD)は、後輪の制動力を前輪の制動力に対比して低減する制御であるとし、前輪および後輪の制動力の合計を一定に保って後輪の制動力の一部を前輪へ移す制御、前輪の制動力は増大させるが後輪の制動力は一定に保つ制御、後輪および前輪の制動力を共に増大させるが後輪の制動力の増大割合を前輪の制動力の増大割合より小さくする制御等、種々態様を含んでいてよいものとする。
【0029】
ステップ30の答がイエス(Y)であれば、制御はステップ40へ進み、制動力前後輪間配分制御(EBD)が開始され且つ任意の制御態様にて実行される。EBDが開始されたときには、制御はステップ50へ進み、ここでフラグFが1にセットされる。ステップ30の答がノーであれば、この回の制御はこれにて終了する。
【0030】
制御がステップ40に至り、制動力前後輪間配分制御が開始されると、フラグFが1にセットされるので、次回以降のフローに於いては、ステップ20の答がイエスとなり、制御はステップ20よりステップ60へ進むようになる。
【0031】
ステップ60に於いては、ΔVwがΔVw1より小さい或る所定の閾値ΔVw2以上であるか否かが判断される。この閾値ΔVw2は、ΔVwがそれ以下に下がれば(即ち、ΔVwがそれ以上でなくなれば)、制動力前後輪間配分制御を止めるものとするΔVwの値である。一旦制動力前後輪間配分制御が開始された後、ステップ60に於いて答がノーになるということは、車輌の減速に伴う減速度の低下或は車輪に付与される制動力の低減或は解除等により、車輪接地荷重の前方への偏倚が低減し、制動力前後輪間配分制御が最早必要でなくなったということであり、この時には、制御はこれよりそのまま後述のステップ90へ進み、ここで制動力前後輪間配分制御が解除される。この解除は普通の解除、即ち、即時の解除である。そのような状態に至るまでは、ステップ60の答はイエスであり、制御はステップ70へ進む。
【0032】
ステップ70に於いては、前輪の少なくとも一方にてアンチスキッド制御(ABS制御)が開始されたか或いは実行中であるか否かが判断される。答がノーであれば、制御はこれよりステップ40へ進み、制動力前後輪間配分制御がそのまま続けられる。一方、答がイエスになると、制御はステップ80へ進む。
【0033】
ステップ80に於いては、運転者による制動操作の緩急度が所定の度合以上に急であるか否かが判断される。これは、図示の例では、マスタシリンダ圧の時間的変化率dPm/dtまたはブレーキペダルストロークの時間的変化率dSm/dtがそれぞれについて設定された或る所定の閾値VpoまたはVso以上であるか否かによってなされている。閾値VpoまたはVsoは、車輌の速やかな制動性能の確保を乗り心地の確保に対し最大限に優先させるべきであるような増大速度にて運転者がブレーキペダルを踏み込んでいることを把握するためのマスタシリンダ圧の時間的変化率dPm/dtまたはブレーキペダルストロークの時間的変化率dSm/dtについての閾値である。但し、dPm/dtまたはdSm/dtがVpoまたはVso以上であるか否かは、運転者による制動操作の緩急度判断についての基本的な概念であり、時々刻々の各瞬間に於けるdPm/dtまたはdSm/dtの値そのものの大小のみを問うものではない。即ち、車輌の制動に於けるブレーキペダルの踏み込みは、よほどの急ブレーキの時は別として、多くの場合、制動の緩急にはさ程係わりなく或る深さまで一気にペダルを踏み込み、その踏み込みの終端でのペダルの反力の大きさの度合いにより制動の強さを加減する要領にて行なわれるので、運転者による制動操作の緩急度は、一度のペダル踏み込みの深さ、即ち、ブレーキペダルの一気踏み込みの踏み込み深さ、によって判断されてもよく、この深さが大きい程制動力の増大速度が大きいと判断されてよい。いずれにしても、運転者による制動操作の緩急度が所定の度合以上に急であると判断され、ステップ80の答がイエスのときには、制御はステップ90へ進み、制動力前後輪間配分制御は直ちに解除される。
【0034】
これに対し、ステップ80の答がノーであるときには、制御はステップ100へ進み、制動力前後輪間配分制御を漸減する制御が行われる。ここでの制動力前後輪間配分制御の漸減は、最低2段階以上の段階的低減、一定の勾配による漸減、多勾配を組み合わせた漸減、その他の単純な一度限りの配分変更ではない任意の制動力前後輪間配分制御の低減変更を含んでいてよい。このとき制御はステップ100および110を繰り返すことにより、ステップ110の答がノーである間、制動力前後輪間配分制御を漸減しつつステップ40へ進んで制動力前後輪間配分制御を続け、漸減が終わり、ステップ110の答がイエスとなったところで、ステップ90へ進み、制動力前後輪間配分制御が解除される。制動力前後輪間配分制御が解除されると、ステップ120にてフラグFが0にリセットされる。
以上に於いては本発明を一つの実施の形態について詳細に説明したが、かかる実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による車輌用制動装置を電気油圧式の制動装置として実施した場合の一例を示す概略図。
【図2】本発明による車輌用制動装置に於ける制動力の前後輪間配分制御を一つの実施の形態について示すフローチャート。
【符号の説明】
【0036】
10…制動装置、12…ブレーキペダル、14…マスターシリンダ、16…ドライストロークシミュレータ、18A,18B…油圧導管、20FL,20FR,20RL,20RR…ホイールシリンダ、22L,22R…電磁開閉弁、24…電磁開閉弁、26…ウェットストロークシミュレータ、28…リザーバ、30…送油導管、32…電動機、34…オイルポンプ、36…油圧供給導管、38…アキュムレータ、40…油戻り導管、42FL,42FR,42RL,42RR…電磁開閉弁、44FL,44FR,44RL,44RR…油圧導管、46FL,46FR,46RL,46RR…電磁開閉弁、48A,48B…油圧センサ48、50…ストロークセンサ、52…油圧センサ、54FL,54FR,54RL,54RR…油圧センサ、56FL,56FR,56RL,56RR…車輪回転数センサ、58…電子制御装置、60…マイクロコンピュータ、62…駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動力前後輪間配分制御手段と、前輪に対するアンチスキッド制御手段とを有する車輌用制動装置にして、前記制動力前後輪間配分制御手段の作動中に前記アンチスキッド制御手段が作動したとき、制動力の増大速度が大きいほどより速く前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせるようになっていることを特徴とする車輌用制動装置。
【請求項2】
制動力の増大速度が所定の閾値以上であるとき前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を直ちに終わらせるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車輌用制動装置。
【請求項3】
制動力の増大速度が所定の閾値以上でないとき制動力前後輪間配分制御を時間の経過と共に漸減して前記制動力前後輪間配分制御手段の作動を終わらせるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車輌用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−248575(P2009−248575A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94645(P2008−94645)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】