説明

剥離性評価方法および剥離性評価装置

【課題】剥離速度を考慮できる剥離性評価方法および剥離性評価装置を提供すること。
【解決手段】被着体に貼付された接着シートから被着体を剥離するときの剥離性を評価するにあたり、被着体および接着シート間の剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出して剥離性を評価する。例えば、接着シートが貼付された測定用部材または被着体から接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させたときの剥離力を測定し、測定した剥離力および測定時の剥離速度に基づいて、測定時とは別の剥離装置で接着シートから被着体を剥離させるときの評価用剥離速度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性評価方法および剥離性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、半導体ウェハ(以下、単にウェハと称する)に接着シートが貼付された状態でウェハを半導体素子に個片化するダイシング工程と、個片化された半導体素子を剥離装置で剥離して1個毎に取り出すピックアップ工程と、取り出した半導体素子を半導体素子搭載用の支持部材に接合するダイボンド工程などがある。
【0003】
このうちのダイシング工程で使用される接着シートは、ダイシング時には半導体素子を保持し、ピックアップ時には容易に半導体素子を剥すことができるという特性を備えている必要がある。従来、接着シートがこれらの特性を備えているか否かは、製造ラインで用いられる剥離装置での実際の剥離力を測定して評価していた。
【0004】
これに対し、近年では、製造ライン用の剥離装置を用いない簡易的な評価方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の評価方法では、接着シートのウェハ貼付面とは反対側の面を押し、半導体素子が剥離した時の押し込み力を測定してピックアップ時の剥離性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−124120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載のものを含め、従来の剥離性評価方法では、何れも剥離する際の剥離強度を求めており、剥離速度を考慮した評価は行われていなかった。しかしながら、剥離工程の成功の有無は、決められた時間内に剥離が完了するか否かよって決定されるため、剥離性の評価にあたっては、剥離速度を考慮することが必要となる。
【0007】
本発明の目的は、剥離速度を考慮できる剥離性評価方法および剥離性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の剥離性評価方法は、被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性を評価する剥離性評価方法であって、前記被着体および前記接着シート間の前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出して前記剥離性を評価することを特徴とする。
【0009】
本発明の剥離性評価方法において、前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させたときの剥離力を測定し、前記測定した剥離力および前記測定時の前記剥離速度に基づいて、前記測定時とは別の剥離装置で前記接着シートから前記被着体を剥離させるときの前記評価用剥離速度を算出することが好ましい。
【0010】
本発明の剥離性評価方法において、前記評価用剥離速度を算出するにあたっては、前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出し、前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させ、前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出し、前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記評価用剥離速度を算出することが好ましい。
【0011】
本発明の剥離性評価方法において、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを、貼付面積に対する剥離面積の比率である剥離面積率ごとに算出し、前記剥離面積率ごとに前記評価用剥離速度を算出し、算出した前記評価用剥離速度のうちの最小の前記評価用剥離速度を最終的な前記評価用剥離速度とすることが好ましい。
【0012】
本発明の剥離性評価方法において、前記破壊力学パラメータは、エネルギ解放率であることが好ましい。
【0013】
本発明の剥離性評価方法において、各算出値は、有限要素解析により算出されることが好ましい。
【0014】
本発明の剥離性評価方法において、前記被着体は、前記接着シートに半導体ウェハが貼付された状態で前記半導体ウェハがダイシングされた半導体素子であり、当該剥離性評価方法は、前記接着シートにおける前記半導体素子の貼付面とは反対側の面をニードル先端で突き上げることにより、前記接着シートから前記半導体素子を剥離させる場合に適用されることが好ましい。
【0015】
一方、本発明の剥離性評価装置は、被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性評価装置であって、前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させて測定した剥離力を取得するデータ取得手段と、前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出する測定時パラメータ算出手段と、前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させる測定時パラメータ関連付手段と、前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出するモデル対応パラメータ算出手段と、前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出する剥離速度算出手段とを備えていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の剥離性評価装置は、被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性評価装置であって、前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させるとともに、剥離時の剥離力を測定する剥離力測定装置と、前記剥離力測定装置における前記測定した剥離力を取得するデータ取得手段と、前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出する測定時パラメータ算出手段と、前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させる測定時パラメータ関連付手段と、前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出するモデル対応パラメータ算出手段と、前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出する剥離速度算出手段とを備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明の剥離性評価装置において、前記モデル対応パラメータ算出手段は、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを、貼付面積に対する剥離面積の比率である剥離面積率ごとに算出し、前記剥離速度算出手段は、前記剥離面積率ごとに前記評価用剥離速度を算出し、算出した前記評価用剥離速度のうちの最小の前記評価用剥離速度を最終的な前記評価用剥離速度とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明によれば、被着体および接着シート間の剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出するので、剥離性の評価において、剥離速度を考慮することができる。従って、剥離工程において、決められた時間内に剥離が完了するか否かを判断することができる。
【0019】
また、前記測定時とは別の剥離装置で前記接着シートから前記被着体を剥離させるときの評価用剥離速度を、測定した剥離力および測定時の剥離速度に基づいて算出するため、評価用剥離速度の算出にあたっては、測定用の剥離装置による簡易的な剥離力測定を行うだけですむ。従って、実際の剥離装置での剥離試験を行う必要がなく、剥離力評価を効率的に行うことができる。
【0020】
さらに、測定用の剥離装置により得られた測定結果は汎用性が高いため、実際の剥離装置の種類にかかわらず、測定用の剥離装置で剥離させて測定した剥離力を、評価用剥離速度の算出に用いることができる。従って、汎用性を有する剥離性評価方法が得られる。
【0021】
本発明における評価用剥離速度の算出にあたり、前記測定した剥離力を介して、前記測定時の剥離速度に破壊力学パラメータの算出値を対応させ、実際の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の破壊力学パラメータを算出し、前記測定時の剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の演算モデルに基づく破壊力学パラメータの算出値とを用いて、評価用剥離速度を算出するようにすれば、精度の高い評価用剥離速度を算出することができる。
【0022】
すなわち、破壊力学パラメータは、剥離界面の端部の状態を示す物理量であり、接着シートおよび被着体の他の部分の状態や、剥離装置の種類に依存しない。従って、破壊力学パラメータを介して評価用剥離速度を算出することで、剥離力測定値および剥離力測定時の剥離速度から評価用剥離速度を算出する過程での種々の影響を極力排除することができるため、評価用剥離速度を精度よく算出することができる。
【0023】
また、本発明における剥離速度の算出にあたり、実際の剥離装置での剥離時の破壊力学パラメータを、貼付面積に対する剥離面積の比率である剥離面積率ごとに算出し、剥離面積率ごとに評価用剥離速度を算出し、算出したうちの最小の評価用剥離速度を最終的な評価用剥離速度とするようにすれば、最も条件の厳しい評価用剥離速度で剥離性を評価することになるので、剥離性の評価を確実に行うことができる。
【0024】
さらに、本発明における評価用剥離速度の算出にあたり、有限要素解析により剥離速度の算出を行うようにすれば、接着シートおよび被着体の材料特性や剥離状態の特性が非線形の場合や、剥離装置の機構が複雑な場合のように、一般方程式での剥離速度の算出が困難な状況でも、複雑な手順を要することなく、容易に評価用剥離速度を算出することができる。従って、剥離力評価の汎用性および効率性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るウェハのダイシング工程を説明するための図。
【図2】前記第1実施形態に係るウェハのピックアップ工程を説明するための図。
【図3】前記第1実施形態に係る剥離力測定装置を示す側面図。
【図4】前記第1実施形態に係る剥離力測定装置の保持装置を示す斜視図。
【図5】前記第1実施形態に係る剥離力測定装置の引張装置を示す斜視図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る剥離性評価装置の構成を示すブロック図。
【図7】前記第2実施形態に係る剥離性評価装置の作用を説明するためのフローチャート。
【図8】剥離速度と剥離力との関係を示す図。
【図9】剥離力とエネルギ解放率の算出値との関係を示す図。
【図10】剥離速度とエネルギ解放率の算出値との関係を示す図。
【図11】剥離面積率とエネルギ解放率との関係を示す図。
【図12】剥離面積率と剥離速度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の各実施形態を、図面に基づいて説明する。
なお、後述する第2実施形態において、次説する第1実施形態と同一の構成部分には、第1実施形態の構成部分と同じ符合を付すとともに、それらの説明を省略または簡略化する。
【0027】
〔第1実施形態〕
本実施形態では、被着体に貼付された接着シートから被着体を剥離するときの剥離性評価方法について説明する。具体的には、半導体装置のピックアップ工程において、被着体としてのウェハに貼付された接着シートから、ウェハをダイシングして得られた半導体素子を剥離させる場合の適用例について説明する。
【0028】
先ず、ピックアップ工程における半導体素子の剥離方法について説明する。
図1に示すように、ウェハWは、ピックアップ工程の前工程であるダイシング工程において、接着シートSに貼付された状態でダイシングされ、半導体素子Dに個片化される。ここでは、接着シートSとして、ウェハ固定機能およびダイ接着機能を備えたダイシング・ダイボンド用シートを用いる。このダイシング・ダイボンド用シートは、基材シートS1の一方の面に接着剤層S2が積層されたシートであり、半導体素子Dの剥離時には、接着剤層S2が半導体素子Dと共に基材シートS1から剥離する。
【0029】
図2(A)および図2(B)に示すように、ウェハWは、ダイシング工程で半導体素子Dにダイシングされた後、ピックアップ工程において、後述する剥離力測定時のものとは別の剥離装置10により剥離される。剥離装置10は、スチール製のホルダ11と、ニードル12が取り付けられてホルダ11の内部に収容された台座13とを備えている。
【0030】
ピックアップ工程において、ウェハWは、ホルダ11上に吸着固定される。ウェハWがホルダ11上に吸着固定された状態で、ホルダ11内の台座13が上昇することにより、ニードル12がホルダ11の表面の孔を貫通して、基材シートS1のウェハWの貼付面とは反対側の面を突き上げる。これにより、半導体素子Dは、接着剤層S2とともに基材シートS1から剥離される。
【0031】
このようなピックアップ工程における半導体素子Dの剥離性評価にあたっては、算出した評価用剥離速度を用いる。本実施形態では、以下の工程(A)〜(E)を経て評価用剥離速度を算出する。
(A)後述する剥離力測定により接着シートSの剥離速度と剥離力との関係を求める工程
(B)剥離力測定時の剥離力と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
(C)工程(A)(B)の結果から剥離速度と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
(D)剥離面積率と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
(E)工程(C)(D)の結果から評価用剥離速度を求める工程
【0032】
以下、各工程について、詳説する。
(A)剥離力測定により、接着シートSの剥離速度と剥離力との関係を求める工程
図3に示すように、本工程では、測定用部材Mから接着シートSを複数の異なる剥離速度で剥離させたときの剥離力を測定し、接着シートSの剥離速度と剥離力との関係を求める。測定用部材Mには、例えば、ガラス板が用いられる。測定用部材MのかわりにウェハWを使用して、ウェハWからの接着シートSの剥離力を測定してもよい。
【0033】
接着シートSがダイシング・ダイボンド用シートであれば、ピックアップ工程では接着剤層S2が半導体素子Dと共に剥離されるため、剥離する界面は、接着剤層S2および基材シートS1間となる。これに対し、接着シートSが従来のダイシングテープであれば、剥離する界面は、測定用部材Mおよび接着剤層S2間となる。
【0034】
何れの接着シートSの場合でも、剥離力測定においては、安定した数値を得る上で、測定用部材Mの貼付面と引張装置3の引張り方向Yとがなす剥離角度θを一定に保つことが望ましい。このため、剥離力測定にあたっては、例えば、図3に示すような、測定用部材M側を基材シートS1側と同じ速度で移動させることができる剥離力測定装置1を用いることが望ましい。
【0035】
図3において、剥離力測定装置1は、接着シートSの剥離力を測定する装置であり、保持装置2および引張装置3を備えている。なお、剥離力測定装置1の全体の統括制御は、図示しない制御部で行われる。
【0036】
図4に示すように、保持装置2は、ベース21、シャフトモータ22、取付部材23、リニアエンコーダ取付台24、リニアエンコーダ25、およびガイドレール26を備えている。
ベース21は、シャフトモータ22を固定する台である。ベース21の両端には、取付台座21Aが設けられ、この取付台座21Aに、シャフトモータ22が取り付けられている。
【0037】
直動モータであるシャフトモータ22は、両端が取付台座21Aに固定されたシャフト22Aと、シャフト22Aに沿って移動自在に設けられたスライダ22Bとを備えている。図示を略するが、シャフト22Aには磁石が、スライダ22Bにはコイルが、それぞれ設けられており、スライダ22Bのコイルに電流を流すことでスライダ22Bに電磁力が与えられ、スライダ22Bが移動する。
【0038】
取付部材23は、シャフトモータ22のスライダ22Bに取り付けられ、スライダ22Bとともにベース21上を往復動自在に構成されている。剥離力の測定時には、測定用部材Mに接着シートSが貼付された状態の被測定片Pが、取付部材23に取り付けられ保持される。このような取付部材23には、リニアエンコーダ取付台24が取り付けられている。
【0039】
リニアエンコーダ25は、ベース21に取り付けられて磁気的または光学的に読取可能な位置情報を記録したリニアスケール25Aと、リニアエンコーダ取付台24に取り付けられてリニアスケール25Aを読取る検出ヘッド25Bとを備えている。この検出ヘッド25Bからの信号は、図示しない制御部に送られる。
【0040】
ガイドレール26は、シャフトモータ22のシャフト22Aと平行にベース21上に延設されている。このガイドレール26は、スライダ22Bと共に移動するリニアエンコーダ取付台24の図示しないガイド溝と係合して、スライダ22Bの動きをシャフト22Aの軸方向に沿った往復運動に規制する。
【0041】
図5に示すように、引張装置3は、挟持部31と、挟持部31を取付部材23に対して回転自在に支持する剥離角度調節部32と、接着シートSの剥離力を測定する測定部33とを除き、保持装置2と同様の構造を有している。このため、ここでは保持装置2との相違点のみ説明し、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
挟持部31は、接着シートSを挟持可能に構成されている。このような挟持部31としては、例えば、ワニ口クリップが挙げられる。
剥離角度調節部32は、図示しない回転軸がベアリング等で支持されることにより、取付部材23に回転自在に設けられている。この剥離角度調節部32は、時計回りおよび反時計回りの何れの方向にも回転自在に構成され、かつ剥離角度θ(図3参照)を任意に設定可能に構成されている。
【0043】
測定部33は、挟持部31に接続されて挟持部31の引張荷重を測定可能な力センサを内部に備えている。この測定部33は、検出した力の値を剥離力として電気信号に変換し、この電気信号を外部または図示しない表示部に出力する。
【0044】
以上のような剥離力測定装置1では、図3に示すように、測定用部材Mに接着シートSが貼付された被測定片Pを取付部材23に取り付けた後、基材シートS1のみ、または基材シートS1および接着剤層S2を、引張装置3の挟持部31に挟持させた状態で、保持装置2および引張装置3における各シャフトモータ22のスライダ22Bを移動させる。すると、挟持部31に引張荷重が作用するため、この際の力を測定部33で測定することにより、接着シートSの剥離力を測定することができる。
【0045】
また、剥離力測定装置1では、保持装置2および引張装置3における各シャフトモータ22のスライダ22Bを同じ速度で移動させることができる。このため、接着シートSの剥離角度θを一定に保ったままで、接着シートSの剥離力を測定することができる。このような各スライダ22Bの動作制御は、保持装置2および引張装置3の双方に電気的に接続された制御部が、リニアエンコーダ25からの信号に基づいて行う。
【0046】
このような剥離力測定装置1では、保持装置2および引張装置3の両スライダ22Bを同速移動させるときの速度を任意に設定することができる。このため、剥離速度をかえて接着シートSの剥離力を測定することができるので、剥離速度と剥離力との関係を求めることができる。なお、剥離力測定装置1において、保持装置2および引張装置3の両スライダ22Bを同速で移動させる場合、接着シートSの剥離速度は、保持装置2および引張装置3の両スライダ22Bの移動速度となる。
【0047】
(B)剥離力測定時の剥離力と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
本工程では、演算により、剥離力測定時の剥離力と破壊力学パラメータとの関係を求める。破壊力学パラメータとしては、エネルギ解放率、応力拡大係数、き裂先端開口変位などがある。この際の演算モデルは、前述した工程(A)の剥離力測定に準じたものとする。すなわち、本工程で用いる演算モデルは、図3〜図5に示す剥離力測定装置1の機構や、接着シートSの特性および寸法等、剥離力測定時の測定状態をモデル化したものであり、この演算モデルに与える剥離力としては、工程(A)で測定して得られた剥離力を用いる。
【0048】
演算方法としては、例えば、有限要素解析によるものがあげられる。解析は、簡便さの観点から線形弾性解析が望ましく、解析に用いる特性値としては、接着シートSにおける基材シートS1および接着剤層S2のヤング率ならびにポアソン比が挙げられる。このような解析方法としては、平面ひずみの2次元解析がある。
【0049】
(C)工程(A)(B)の結果から剥離速度と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
本工程では、前述した工程(A)および(B)の結果から、接着シートSの剥離速度と破壊力学パラメータとの関係を求める。例えば、工程(A)において剥離速度α[mm/秒]において剥離力β[N/25mm]の値が得られ、工程(B)において剥離力β[N/25mm]においてエネルギ解放率γ[MPa・mm]の値が得られたとする。その場合にはどちらも剥離力の値が同じであることから、剥離速度α[mm/秒]において、エネルギ解放率はγ[MPa・mm]と導くことができる。
【0050】
(D)剥離面積率と破壊力学パラメータとの関係を求める工程
本工程では、演算により、剥離面積率と破壊力学パラメータとの関係を求める。ここで、剥離面積率とは、貼付面積のうちの剥離された部分の面積の割合をいう。この際の演算モデルは、実際の剥離装置10の機構に準じたものとする。すなわち、本工程で用いる演算モデルは、剥離装置10の機構、ウェハWの特性および寸法、接着シートSの特性および寸法等、実際のピックアップ工程での剥離時の状態をモデル化したものであり、図2(A)および図2(B)に示すホルダ11に収容された台座13のニードル12の配置や、ニードル12の突上げ量なども考慮している。
【0051】
演算方法としては、例えば、有限要素解析によるものがあげられる。簡便さの観点から線形弾性解析が望ましく、解析に用いる特性値としては、接着シートSにおける基材シートS1および接着剤層S2のヤング率ならびにポアソン比が挙げられる。モデル形状が2次元近似に適さない場合には、3次元で解析を行うことが望ましい。なお、ニードル12等で基材シートS1に与える変形は、ニードル12等のジグをモデル化せず、基材シートS1に直接変位を与えてもよい。
【0052】
(E)工程(C)および(D)の結果から評価用剥離速度を求める工程
本工程では、前述した工程(C)および(D)の工程の結果から、評価用剥離速度を求める。その際の方法としては、工程(C)の考え方を用いることができる。具体的には、工程(C)で得られた剥離速度と破壊力学パラメータとの関係、および工程(D)で得られた剥離面積率と破壊力学パラメータとの関係から、剥離速度と剥離面積率との関係を求める。本実施形態では、剥離面積率ごとに得られた評価用剥離速度の中から、最小となる評価用剥離速度を選び、最終的な評価用剥離速度とする。
【0053】
ピックアップ工程での剥離性は、以上のようにして算出した評価用剥離速度を用いて評価することができる。すなわち、後述する実施例の結果のように、算出した評価用剥離速度が高い場合には、実際の剥離装置10での剥離速度も高く、優れた剥離性を有する。従って、例えば、実際のピックアップ工程で要求される半導体素子Dあたりの剥離速度の値を予め設定しておき、評価用剥離速度の算出値が設定値を下回れば、ピックアップ工程を成功させることができる程度の剥離性を有していると判断できる。また、例えば、ピックアップ工程におけるニードル12位置や突き上げ高さを変化させて評価用剥離速度を算出し、これらの評価用剥離速度を比較して最も評価用剥離速度が高い条件を選択することで、最適な剥離条件を設定することができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、図6に示す剥離性評価装置4を用いた剥離性評価方法について説明する。一例として、前述した第1実施形態と同様に、半導体装置のピックアップ工程において、接着シートSから半導体素子Dを剥離させる場合の適用例について説明する。
【0055】
図6において、剥離性評価装置4は、操作手段41、記憶手段42、データ取得手段43、演算処理手段44、および出力手段45を備えている。
操作手段41は、剥離性評価装置4の操作を行うための部分である。操作手段41としては、例えば、キーボードやタッチパネル等が挙げられる。前述した剥離力測定装置1での接着シートSの剥離力測定時の剥離速度および剥離力は、この操作手段41の操作を介して、剥離性評価装置4に入力される。
【0056】
記憶手段42は、メモリやハードディスク等の記憶装置として構成されている。この記憶手段42は、演算処理手段44で実行される各種プログラムや、プログラムの実行に必要な種々のパラメータを記憶している。
【0057】
データ取得手段43は、操作手段41にて入力されたデータやコマンド、記憶手段42に記憶されているデータ等、演算処理手段44での演算処理に必要なデータやコマンドを取得する。また、データ取得手段43は、外部端子46に電気的に接続されており、剥離力測定装置1から出力される剥離力や剥離速度などの外部データを直接取得することもできる。操作手段41や外部端子46から入力された剥離力測定時の剥離速度および剥離力は、このデータ取得手段43により取得され、演算処理手段44に送られる。
【0058】
演算処理手段44は、CPU(Central Processing Unit)等で構成され、各種演算処理を行う。この演算処理手段44は、測定時パラメータ算出手段44A、測定時パラメータ関連付手段44B、モデル対応パラメータ算出手段44C、および剥離速度算出手段44Dを備えている。
【0059】
測定時パラメータ算出手段44Aは、データ取得手段43が取得した剥離力に基づいて、剥離時の破壊力学パラメータを、測定した剥離力ごとに算出する。この測定時パラメータ算出手段44Aで算出された破壊力学パラメータは、測定時パラメータ関連付手段44Bに送られる。
【0060】
測定時パラメータ関連付手段44Bは、測定した剥離力を介して、剥離速度に破壊力学パラメータの算出値を対応させて関連付ける。この測定時パラメータ関連付手段44Bで関連付けられた剥離力測定時の剥離速度と、破壊力学パラメータの算出値とは、剥離速度算出手段44Dに送られる。
【0061】
モデル対応パラメータ算出手段44Cは、剥離装置10での剥離動作に対応した演算モデルを用いて、剥離装置10により接着シートSから半導体素子Dを剥離させるときの破壊力学パラメータを算出する。モデル対応パラメータ算出手段44Cで算出された破壊力学パラメータは、剥離速度算出手段44Dに送られる。
【0062】
剥離速度算出手段44Dは、剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係と、剥離装置10の演算モデルに基づく破壊力学パラメータの算出値とから、剥離装置10で剥離させるときの評価用剥離速度を算出する。剥離速度算出手段44Dで算出された評価用剥離速度は、出力手段45に送られる。
【0063】
出力手段45は、操作手段41の操作状態や演算処理手段44の演算処理結果を含め、剥離性評価装置4の作動状態を表示可能に構成されている。この出力手段45としては、例えば、ディスプレイやプリンタ等が挙げられる。
【0064】
次に、図7に示すフローチャートに基づいて、剥離性評価装置4の作用について説明する。
先ず、剥離性評価装置4のデータ取得手段43は、剥離力測定時の剥離速度と剥離力とを取得する(ステップST1)。また、データ取得手段43は、取得した剥離速度および剥離力を、互いに関連付けて記憶手段42に記憶させる。
【0065】
次に、測定時パラメータ算出手段44Aは、データ取得手段43が取得した剥離力に基づいて、剥離力測定時の剥離速度に対応する破壊力学パラメータを算出する(ステップST2)。すなわち、測定時パラメータ算出手段44Aは、剥離力測定装置1での剥離動作に対応した演算モデルに測定した剥離力を与えて、剥離力測定時の破壊力学パラメータを算出する。また、測定時パラメータ算出手段44Aは、測定した剥離力と算出された破壊力学パラメータとを、互いに関連付けて記憶手段42に記憶させる。
【0066】
続いて、測定時パラメータ関連付手段44Bは、測定した剥離力を介して、剥離速度に破壊力学パラメータの算出値を対応させて関連付ける(ステップST3)。具体的に、測定時パラメータ関連付手段44Bは、記憶手段42の記憶値の中から、共通の剥離力に関連付けられている剥離速度と破壊力学パラメータの算出値と対応させて関連付け、記憶手段42に記憶させる。
【0067】
この際、測定時パラメータ関連付手段44Bは、関連付けられている剥離速度と破壊力学パラメータの算出値とから、例えば、最小2乗法により、剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係式を求める。この対応関係式は、剥離速度算出手段44Dでの剥離速度の演算に用いられる。
【0068】
ステップST3の後、モデル対応パラメータ算出手段44Cは、剥離装置10の演算モデルを用いて、剥離装置10により接着シートSから半導体素子Dを剥離させるときの破壊力学パラメータを算出する(ステップST4)。すなわち、モデル対応パラメータ算出手段44Cは、剥離装置10での剥離動作に対応した演算モデルに、ウェハWの厚さやニードル12の突き上げ高さ等、剥離装置10で剥離させようとする際の条件を与えて、剥離装置10での剥離時の破壊力学パラメータを剥離面積率ごとに算出する。また、モデル対応パラメータ算出手段44Cは、剥離面積率と算出された破壊力学パラメータとを、互いに関連付けて用いて記憶手段42に記憶させる。
【0069】
剥離速度算出手段44Dは、剥離装置10で接着シートSから半導体素子Dを剥離させるときの評価用剥離速度を算出する(ステップST5)。具体的に、剥離速度算出手段44Dは、測定時パラメータ関連付手段44Bにより得られた剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係と、モデル対応パラメータ算出手段44Cにより得られた剥離装置10の演算モデルに基づく剥離時の破壊力学パラメータの算出値とを用いて、剥離装置10での評価用剥離速度を剥離面積率ごとに算出する。
【0070】
すなわち、剥離速度算出手段44Dは、測定時パラメータ関連付手段44Bで求めた剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係式に剥離装置10の演算モデルに基づく破壊力学パラメータの算出値を代入し、剥離面積率ごとに評価用剥離速度を算出する。本実施形態では、剥離面積率ごとに得られた評価用剥離速度の中から、最小となる評価用剥離速度を最終的な評価用剥離速度とする。
【0071】
演算処理手段44は、このようにして算出した評価用剥離速度を、出力手段45に出力する(ステップST6)。
以上の剥離性評価装置4を用いた場合でも、前述した第1実施形態と同様に、出力手段45に出力された評価用剥離速度を用いて、ピックアップ工程における剥離性を評価することができる。
【実施例】
【0072】
以下、前述した剥離性評価方法により評価した例を示す。なお、以下の例において、接着シートSの基材シートS1は、表面張力が35[mN/m]、ヤング率が140[MPa]、ポアソン比が0.45であり、接着剤層S2は、乾燥膜厚が20μm、23[℃]でヤング率が30[MPa]でポアソン比が0.4となっている。また、ウェハWとしては、径150[mm]、ヤング率190000[MPa]、ポアソン比0.28のシリコンウェハを用いた。
【0073】
工程(A)に関し、剥離力測定では、幅25[mm]×100[mm]のサイズの接着シートSの剥離力を、図3〜図5に示す剥離力測定装置1で測定した。先ず、23[℃]にて接着シートSをウェハWに貼付し、紫外線照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000)を用いて基材シートS1側から紫外線を350[mW/cm]、190[mJ/cm]で照射した。
【0074】
その後、剥離力測定装置1において、保持装置2の取付部材23にウェハWの全面を両面テープで固定した。続いて、基材シートS1を引張装置3の挟持部31に挟持させ、ウェハWおよび接着剤層S2の積層体から基材シートS1を剥離する試験を、保持装置2および引張装置3のスライダ22Bの速度を変えて行った。この際の剥離角度θは90度とした。このような試験により得られた剥離速度および剥離力間の関係を、図8に示す。
【0075】
工程(B)に関しては、有限要素解析ソフトABAQUS STANDARD(バージョン6.7−1)を用いた。また、解析は2次元で線形弾性解析を行った。要素としては4節点4角形平面ひずみ要素を用いた。解析では、接着シートSの全長を60[mm]、剥離される長さを20[mm]とした。材料定数としては各部材のヤング率とポアソン比を用いた。破壊力学パラメータとしては、エネルギ解放率を用い、エネルギ解放率の算出には、解析ソフトに組み込まれている算出方法を用いた。この解析では、工程(A)の測定で得られた剥離力を与え、エネルギ解放率を算出した。工程(B)で得られた剥離力およびエネルギ解放率間の関係を、図9に示す。
【0076】
工程(C)では、工程(A)および(B)の結果から、接着シートSの剥離速度とエネルギ解放率との関係を求めた。すなわち、共に剥離力の値が共通する剥離速度とエネルギ解放率とから、剥離速度に対応するエネルギ解放率を得た。工程(C)で得られた剥離速度およびエネルギ解放率間の関係を、図10に示す。
【0077】
図10において、剥離速度がある値以下の領域では、エネルギ解放率はほぼ一定値となっており、このエネルギ解放率以下では、剥離がほとんど進行しないと考えられる。一方、剥離速度が前記値以上の領域では、剥離速度の対数とエネルギ解放率が比例する傾向が見られたため、剥離速度が前記値以上の領域において、剥離速度およびエネルギ解放率間の関係を最小2乗法で近似した以下の式1で定義した。なお、Gはエネルギ解放率、Vは剥離速度、C1およびC2は定数である。
【0078】
[式1]
G=C1×Log(V)+C2 …(1)
【0079】
工程(D)に関しては、工程(B)と同じ有限要素解析ソフトABAQUS STANDARD(バージョン6.7−1)を用いた。また解析は3次元で形弾性解析を行い、要素としては8節点6面体要素を用いた。半導体素子Dのサイズは10[mm]×10[mm]とし、ニードル12が取り付けられた台座13を収容しているホルダ11に、基材シートS1が吸着する圧力として0.6[MPa]を与えるものとした。
【0080】
また、4方(8[mm]×8[mm])の位置にニードル12を4ピン設け、ニードル12の突上げ量に相当する変位を与えるものとした。ニードル12の突き上げによる剥離は、ニードル12を中心に同心円状に発生するものとし、剥離面積率50〜100[%]の領域を評価した。エネルギ解放率は、解析ソフトに組み込まれている方法を用いて算出した。工程(D)で得られた剥離面積率およびエネルギ解放率間の関係を、図11に示す。
【0081】
工程(E)では、工程(C)および(D)の結果から、ピックアップ工程における剥離面積率と剥離速度との関係を求めた。すなわち、工程(C)で得られた剥離面積率に対応するエネルギ解放率の値を上記式(1)に代入した後、式(1)を変形して、剥離面積率に対応する評価用剥離速度の値を算出した。工程(E)で得られた剥離面積率および剥離速度間の関係を、図12に示す。このようにして剥離面積率ごとに得られた評価用剥離速度の中から、最小となる評価用剥離速度をピックアップ工程における最終的な評価用剥離速度とした。
【0082】
図12において、ピックアップ工程における条件ごとの最小の剥離速度に注目した場合、剥離速度は、半導体素子Dの厚さ/ニードル突き上げ変位が200[μm]/0.25[mm]、300[μm]/0.35[mm]、200[μm]/0.15[mm]の順に小さくなる。従って、この順にピックアップ工程で剥離が完了すると考えられる。このように、上記工程(A)〜(E)によって、ピックアップ時の剥離離速度を求めることで、接着シートSの剥離性を評価し、半導体素子Dのピックアップ性能を見積ることができる。
【0083】
以下、今回の評価の妥当性を検証するために、実際の半導体製造工程における剥離装置を用いて行った半導体素子Dのピックアップ適性の結果について説明する。
【0084】
前述したウェハWの研磨面に、テープマウンター(リンテック社製、Adwill RAD2500)により、23[℃]にて接着シートSの貼付を行い、ウェハダイシング用リングフレームに固定した。その後、紫外線照射装置(リンテック社製、Adwill RAD2000)を用いて、基材シートS1側から紫外線を350[mW/cm]、190[mJ/cm]で照射した。
【0085】
次いで、ダイシング装置(株式会社ディスコ製、DFD651)を使用して、10[mm]×10[mm]の半導体素子Dのサイズにダイシングした。ダイシングの際の切り込み量は、基材を20[μm]切り込むようにした。次いで、図2に示すような4ピンのダイボンダー(キャノンマシナリー製BESTEM−D02)を用いて、異なった設定の突き上げ高さまで突き上げスピード1.0[mm/秒]で突き上げた際の半導体素子Dの剥離が完了する時間を求めた。なお、ウェハWの厚さ、およびニードル12の突き上げ高さを、以下の表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
以上のような試験条件下でのウェハWの評価結果を、表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から、評価用剥離速度の算出値が大きいと、実際のピックアップ時の剥離時間が小さくなることから、ピックアップ時の剥離速度が高いことがわかる。つまり、実施形態の評価方法で求めた評価用剥離速度は、実際の剥離装置での剥離性と同じ傾向を示している。
【0090】
さらに、上記の試験条件に対して、ニードル12の突き上げスピードのみを10[mm/秒]に変更して、半導体素子Dを25個突き上げたときに、半導体素子Dがピックアップできずに装置が停止した回数を求めた結果を、表3に示す。なお、表3におけるピックアップ成功数/試験投入総数とは、半導体素子Dにクラックが発生することなく、ダイボンダーにて所定の時間内に取り上げられた半導体素子Dのピックアップ成功数/試験投入された総個数をいう。
【0091】
【表3】

【0092】
表3からもわかるように、評価用剥離速度が速いとピックアップ成功性が高くなり、ピックアップに要する時間は、ピックアップ工程で要求される時間内に収まっていることから、前述した実施形態の評価方法で求めたピックアップ工程時の評価用剥離速度は、実際の生産試験でのピックアップ適性と同じ傾向を示していることがわかる。
【0093】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。また、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0094】
例えば、前記各実施形態では、被着体がウェハWである場合を示したが、被着体はウェハWに限定されるものではなく、ガラス板、鋼板、または、樹脂板等、その他の板状部材などや、板状部材以外のものも対象とすることができる。そして、ウェハWとしては、シリコンウェハや化合物ウェハ等が例示できる。そして、このような被着体に貼付する接着シートは、前記実施形態で示した接着シートSに限らず、保護シートやその他の任意のシート、フィルム、テープ等、被着体に貼付する任意の用途、形状の接着シートが適用できる。
【0095】
前記各実施形態では、接着シートSとして、ウェハ固定機能およびダイ接着機能を備えたダイシング・ダイボンド用シートを用い、半導体素子Dが、接着剤層S2とともに基材シートS1から剥離されていたがこれに限られない。要するに、基材シートS1の一方の面に接着剤層S2が積層された接着シートSであればよく、接着シートSは、被着体が接着剤層S2とともに基材シートS1から剥離されるものでも、接着剤層S2が基材シートS1に接着されたまま被着体のみが接着剤層S2から剥離されるものでもよい。
【0096】
前記各実施形態では、剥離速度および破壊力学パラメータの算出値間の対応関係として、最小2乗法により求めた対応関係式を用いていたがこれに限られず、必ずしも両者の対応関係を式の形で表す必要はない。要するに、互いに対応する剥離速度および破壊力学パラメータの算出値がわかっていればよく、例えば、隣接する剥離速度間および隣接する破壊力学パラメータの算出値間で補間演算を行うことで、剥離装置10の演算モデルに基づく破壊力学パラメータの算出値に対応した剥離速度を算出することができる。
【0097】
前記各実施形態では、破壊力学パラメータにエネルギ解放率を用いたがこれに限らない。要するに、破壊力学パラメータとしては、接着シートおよび被着体の他の部分の状態や、剥離装置の種類に依存せず、接着シートSの剥離界面の端部の状態を示すことができるパラメータであればよく、例えば、応力拡大係数やき裂先端開口変位を用いてもよい。
【0098】
前記各実施形態では、剥離力測定にあたり、図3〜図5に示すような剥離力測定装置1を用いていたが、剥離力測定において安定した数値を得ることができるものであれば、他の装置を用いてもよい。
【0099】
例えば、剥離力測定装置1は挟持部31を備え、挟持部31に接着シートSを挟持させていたがこれに限られない。要するに、剥離力測定にあたって接着シートSを保持できればよく、例えば、挟持部31のかわりに保持部を設け、接着シートSを保持部に吸着させたり、粘着させたりするようにしてもよい。
【0100】
また、剥離力測定装置1では、シャフトモータ22を用いていたがこれに限られない。要は、接着シートSの剥離角度θを一定に保つために、保持装置2および引張装置3の各スライダ22Bを同じ速度で移動させることができればよく、例えば、ボールねじなどを用いてもよい。
【0101】
前記第2実施形態では、剥離性評価装置4のデータ取得手段43は、操作手段41にて入力された剥離力測定時の剥離速度および剥離力を取得していたがこれにかぎられず、例えば、剥離力測定時の剥離速度および剥離力を剥離力測定装置1から直接取得するようにしてもよい。すなわち、剥離性評価装置4が剥離力測定装置1を備えるように構成し、データ取得手段43が、剥離速度および剥離力を剥離力測定装置1から直接取得してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 剥離力測定装置
2 保持装置
3 引張装置
4 剥離性評価装置
41 操作手段
42 記憶手段
43 データ取得手段
44 演算処理手段
44A 測定時パラメータ算出手段
44B 測定時パラメータ関連付手段
44C モデル対応パラメータ算出手段
44D 剥離速度算出手段
45 出力手段
10 剥離装置
S 接着シート
S1 基材シート
S2 接着剤層
W ウェハ
M 測定用部材
θ 剥離角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性を評価する剥離性評価方法であって、
前記被着体および前記接着シート間の前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出して前記剥離性を評価することを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の剥離性評価方法において、
前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させたときの剥離力を測定し、
前記測定した剥離力および前記測定時の前記剥離速度に基づいて、前記測定時とは別の剥離装置で前記接着シートから前記被着体を剥離させるときの前記評価用剥離速度を算出することを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載の剥離性評価方法において、
前記評価用剥離速度を算出するにあたっては、
前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出し、
前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させ、
前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出し、
前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記評価用剥離速度を算出することを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の剥離性評価方法において、
前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを、貼付面積に対する剥離面積の比率である剥離面積率ごとに算出し、
前記剥離面積率ごとに前記評価用剥離速度を算出し、算出した前記評価用剥離速度のうちの最小の前記評価用剥離速度を最終的な前記評価用剥離速度とすることを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の剥離性評価方法において、
前記破壊力学パラメータは、エネルギ解放率であることを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の剥離性評価方法において、
各算出値は、有限要素解析により算出されることを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の剥離性評価方法において、
前記被着体は、前記接着シートに半導体ウェハが貼付された状態で前記半導体ウェハがダイシングされた半導体素子であり、
当該剥離性評価方法は、前記接着シートにおける前記半導体素子の貼付面とは反対側の面をニードル先端で突き上げることにより、前記接着シートから前記半導体素子を剥離させる場合に適用されることを特徴とする剥離性評価方法。
【請求項8】
被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性評価装置であって、
前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させて測定した剥離力を取得するデータ取得手段と、
前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出する測定時パラメータ算出手段と、
前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させる測定時パラメータ関連付手段と、
前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出するモデル対応パラメータ算出手段と、
前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出する剥離速度算出手段とを備えていることを特徴とする剥離性評価装置。
【請求項9】
被着体に貼付された接着シートから前記被着体を剥離するときの剥離性評価装置であって、
前記接着シートが貼付された測定用部材または前記被着体から前記接着シートを複数の異なる剥離速度で剥離させるとともに、剥離時の剥離力を測定する剥離力測定装置と、
前記剥離力測定装置における前記測定した剥離力を取得するデータ取得手段と、
前記測定した剥離力に基づいて、前記測定した剥離力ごとに剥離時の破壊力学パラメータを算出する測定時パラメータ算出手段と、
前記測定した剥離力を介して、前記測定時の前記剥離速度に前記破壊力学パラメータの算出値を対応させる測定時パラメータ関連付手段と、
前記別の剥離装置での剥離時の状態をモデル化した演算モデルに基づいて、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを算出するモデル対応パラメータ算出手段と、
前記測定時の前記剥離速度および前記破壊力学パラメータの前記算出値間の対応関係と、前記別の剥離装置での剥離時の前記演算モデルに基づく前記破壊力学パラメータの算出値とを用いて、前記剥離性の評価に用いる評価用剥離速度を算出する剥離速度算出手段とを備えていることを特徴とする剥離性評価装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の剥離性評価装置において、
前記モデル対応パラメータ算出手段は、前記別の剥離装置での剥離時の前記破壊力学パラメータを、貼付面積に対する剥離面積の比率である剥離面積率ごとに算出し、
前記剥離速度算出手段は、前記剥離面積率ごとに前記評価用剥離速度を算出し、算出した前記評価用剥離速度のうちの最小の前記評価用剥離速度を最終的な前記評価用剥離速度とすることを特徴とする剥離性評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−103373(P2011−103373A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257723(P2009−257723)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】