説明

加飾樹脂成形品及びその製造方法

【課題】十分な本物感と一層高級な印象を与え得る構造が有利に実現され得る加飾樹脂成形品を提供する。
【解決手段】樹脂成形品からなる基材12の意匠面18に、多数の微細な凹部30,36及び/又は凸部によって形成された模様を有する被加飾模様形成面部32,38の複数種類と、凹凸のない被加飾平滑面部26のうちの少なくとも2種類の被加飾部を、互いに隣り合って設けると共に、それら少なくとも2種類の被加飾部に対して、物理蒸着法や化学蒸着法により金属薄膜20を形成することによって、該意匠面18に、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾を施して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品及びその製造方法に係り、特に、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、外観の異なる複数種類の金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品と、そのような加飾樹脂成形品を有利に製造する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、加飾樹脂成形品の一種として、樹脂成形品からなる基材の意匠面に対して、例えば、メタリック塗装による塗膜や、金属メッキによるメッキ膜、或いは蒸着等による金属薄膜等を形成することにより、金属表面を擬似的に表現する、所謂金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。そして、この加飾樹脂成形品は、本物の金属製品に比して、軽量で、成形性や加工性に優れ、しかも防錆加工も不要であるところから、例えば、自動車内装部品や家具、建築材、家電製品、携帯電子機器等の様々な製品や物品の表皮材や部品等として、多く利用されてきている。
【0003】
ところで、一般に、人の目に触れるような製品や物品等においては、唯一つの部品からなる単調な構造のものよりも、外観が互いに異なる複数の部品が相互に組み付けられてなる構造のものの方が、見る者に対して、より高級な印象を与えることが出来る。
【0004】
そのため、上記の如き金属調の加飾が施された加飾樹脂成形品にあっても、より十分な高級感を得るために、互いに独立した別個の部材からなり、且つ意匠面に、互いに外観が異なる金属調の加飾がそれぞれ施された複数種類の基材同士を一体的に組み付けてなる構造が採用される場合がある。例えば、自動車用内装部品の一部には、意匠面に、金属メッキによる金属調の加飾が施されてなる2種類の基材が、溶着等により一体的に接合されて、組み付けられると共に、それらの2種類の基材のうちの一方におけるメッキ膜の表面のみに、微細な凹部からなるシボ等が形成されることで、立体的な質感のある梨地の金属表面と、ツヤのある鏡面の如き金属表面とが隣り合って位置せしめられるようにしたものがある。
【0005】
ところが、そのような加飾樹脂成形品には、以下の如き幾つかの問題が、内在していた。即ち、一般に、金属メッキにより形成されるメッキ膜は、比較的に厚い膜厚を有する。そのため、そのようなメッキ膜が意匠面に形成されてなる加飾樹脂成形品では、角部やエッジ部がシャープさに欠けるものとなってしまうことが避けられず、それ故、たとえ上記の如きメッキ膜に対するシボ加工等により、意匠面において立体的な質感が表現されていても、金属の「本物感」を十分に得ることが極めて困難であった。この問題は、メタリック塗膜によって金属調の加飾が意匠面に施されてなる加飾樹脂成形品においても、同様に生ずる。
【0006】
また、加飾樹脂成形品が複数種類の基材を一体的に組み付けて構成される場合には、かかる加飾樹脂成形品に対して振動が加えられたときに、互いに組み付けられた基材同士の接触等によって、擦り音等の異音が生ずる恐れがあった。なお、この異音の発生の問題は、例えば、振動入力時に互いに接触する基材の接触部分の何れか一方に、クッション材として不織布等を貼り付けたり、或いはそれらの基材の接触部分同士を固着したり、ねじ止めしたりすること等によって未然に防止され得るようになる。然るに、そうすると、加飾樹脂成形品の製造に際して、作業工数が増加し、またコストが高騰するといった新たな問題が生ずる。
【0007】
さらに、複数種類の基材の一体組付品からなる加飾樹脂成形品では、見栄え等を考慮して、通常、基材同士が、微細な隙間からなる見切り部を間に挟んで、組み付けられるようになるが、そのような見切り部の幅が不均一であると、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾が意匠面に施されることによって得られる高級感が、著しく損なわれることとなる。そのため、基材同士の組付け時において、見切り部の幅を一定とするための面倒で余分な作業を強いられるといった問題も、存していたのである。
【0008】
尤も、複数種類の基材が組み付けられることなく、唯一つの基板のみからなる加飾樹脂成形品にあっても、一つの基材の意匠面の互いに隣り合う箇所に対して、互いに異なる種類のメタリック塗料を用いた塗装を施すことによって、或いは意匠面に1種類の金属メッキを施した後、かかる金属メッキの一部のみに、ツヤ消し塗装やクリヤ塗装を行うこと等によって、意匠面に、色調や風合い等に関する外観が互いに異なる別個の種類の金属調の加飾が施されてなる構造が、実現され得る。しかしながら、そのような構造では、たとえ意匠面や金属メッキに塗装される塗料の種類を変えたしても、それぞれの塗膜の表面が平滑であるために、意匠面に陰影や深みを持たせることが出来なかったのであり、それ故に、立体的な質感のある金属表面を表現する金属調の加飾を施すことが不可能であったのである。
【0009】
【特許文献1】特開2002−262197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、十分な本物感を表現することが出来、しかも、一つの基材の意匠面に、立体的な質感が互いに異なる複数種類の金属調の加飾が隣り合って位置するように施されることで、より一層高級な印象を与え得る構造が、容易に且つ低コストに実現され得る加飾樹脂成形品を提供することにある。また、本発明にあっては、そのような加飾樹脂成形品を有利に製造する方法をも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、加飾樹脂成形品に係る課題の解決のために、その要旨とするところは、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品であって、前記基材の意匠面に、多数の微細な凹部及び/又は凸部によって形成された模様を有する、加飾されるべき被加飾模様形成面部の、該凹部の深さや該凸部の高さ、或いは該模様の種類が互いに異なる複数種類と、凹凸のない、加飾されるべき被加飾平滑面部のうちの少なくとも2種類の被加飾部が、互いに隣り合って設けられると共に、それら少なくとも2種類の被加飾部に対して、物理蒸着法や化学蒸着法により金属薄膜が形成されることによって、該意匠面に、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾が施されていることを特徴とする加飾樹脂成形品にある。
【0012】
なお、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の好ましい態様の一つによれば、前記金属薄膜が、0.001〜1μmの膜厚を有して、構成される。
【0013】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の別の有利な態様の一つによれば、前記金属薄膜が、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成される。
【0014】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の望ましい態様の一つによれば、前記金属薄膜が、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、ニッケル−クロム合金、ステンレス鋼、モリブデンのうちの何れか1種からなる金属材料、又はそれらのうちの何れか2種以上からなる合金材料を用いて形成される。
【0015】
更にまた、本発明に従う加飾樹脂成形品の好適な他の態様の一つによれば、前記基材の意匠面に互いに隣り合って設けられた前記少なくとも2種類の被加飾部同士の間の境界部分に、見切り部が設けられる。
【0016】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の好ましい別の態様の一つによれば、前記見切り部が、前記少なくとも2種類の被加飾部同士の間の境界部分に沿って延びるV溝にて、構成される。
【0017】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の更に別の有利な態様の一つによれば、前記金属薄膜の前記基材の意匠面側とは反対側の面に、該金属薄膜を保護する塗膜層が積層形成されると共に、該基材の意匠面に、前記見切り部によって角部が設けられ、更に、該角部が、0.1〜1mmの曲率半径を有する湾曲状角部とされる。
【0018】
更にまた、本発明に従う加飾樹脂成形品の他の好適な態様の一つによれば、加飾樹脂成形品が、自動車用内装部品として利用される。
【0019】
そして、本発明にあっては、前記せる加飾樹脂成形品の製造方法に係る課題の解決のために、樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品を製造する方法であって、(a)前記基材の意匠面に、多数の微細な凹部及び/又は凸部によって形成された模様を有する、加飾されるべき被加飾模様形成面部の、該凹部の深さや該凸部の高さ、或いは該模様の種類が互いに異なる複数種類と、凹凸のない、加飾されるべき被加飾平滑面部のうちの少なくとも2種類の被加飾部を、互いに隣り合って位置するように設ける工程と、(b)前記基材の意匠面に設けられた前記少なくとも2種類の被加飾部に対して、物理蒸着法や化学蒸着法により金属薄膜を形成して、該意匠面に、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾を施す工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法をも、また、その要旨とするものである。
【0020】
なお、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記樹脂成形品からなる前記基材が、該基材の意匠面を与えるキャビティ面を有し、且つ該キャビティ面に多数の微細な凸部及び/又は凹部が一体的に設けられた成形用金型を用いて成形されることにより、該基材の成形と同時に、該意匠面に対して、前記模様を与える前記多数の微細な凹部及び/又は凸部が、該キャビティ面に設けられる該多数の微細な凸部及び/又は凹部に対応する形状を有して形成されて、前記被加飾模様形成面部が設けられるように構成される。
【0021】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の望ましい態様の一つによれば、前記基材を構成する前記樹脂成形品を成形した後、該基材の前記意匠面に対して、前記模様を与える前記多数の微細な凹部及び/又は凸部を形成することによって、前記被加飾模様形成面部が設けられるように構成される
【発明の効果】
【0022】
すなわち、本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、意匠面に対して、金属薄膜が、物理蒸着法や化学蒸着法によって形成されているため、かかる金属薄膜の膜厚が、例えばメタリック塗装や金属メッキによって形成される塗膜やメッキ膜よりも十分に薄くされ得る。それ故、角部やエッジ部がシャープなものとなり、それによって、金属の「本物感」が、十分に表現され得る。
【0023】
しかも、かかる加飾樹脂成形品では、意匠面に、複数種類の被加飾部が、互いに隣り合って設けられている。また、それら複数種類の被加飾部のうちの少なくとも一つが、多数の微細な凹部と凸部の何れか一方、又はそれら凹部と凸部の両方によって形成された模様を有する被加飾模様形成面部からなっており、更に、2種類以上の被加飾模様形成面部を含む複数の被加飾部が意匠面に設けられる場合には、少なくとも2種類の被加飾模様形成面部が、それらに設けられる凹部の深さや凸部の高さ、或いはそれら凹部や凸部にて形成される模様の種類が互いに異なるものにて構成される。そして、そのような被加飾模様形成面部を含む被加飾部の全てに対して、十分に膜厚の薄い金属薄膜が形成されている。
【0024】
かくして、本発明に係る加飾樹脂成形品においては、意匠面の互いに隣り合う箇所に、金属薄膜が、被加飾模様形成面部の多数の微細な凹部に対応した多数の微細な凹部や、被加飾模様形成面部の多数の微細な凸部に対応した多数の微細な凸部を表面に有して形成されており、それによって、一つの基材の意匠面に対して、立体的な質感が互いに異なる複数種類の金属調の加飾が施されている。そして、それ故に、立体的な質感が互いに異なる金属調の加飾がそれぞれ施された、互いに独立した複数種類の基材を一体的に組み付けてなる従来品とは異なって、振動等が加えられたときに、互いに組み付けられた基材同士の接触等による異音の発生が、効果的に皆無ならしめられ得るのであり、また、それによって、そのような異音対策のために、製造時に余分な作業負担やコスト負担が強いられることも、完全に解消され得る。
【0025】
従って、かくの如き本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、十分な本物感が効果的に表現され得るだけでなく、より一層高級な印象を与え得る構造が、容易に且つ低コストに実現され得るのである。
【0026】
また、かかる本発明に従う加飾樹脂成形品においては、一つの基材の意匠面に対して、互いに隣り合って設けられた複数種類の被加飾部に対して、立体的な質感が互いに異なる複数種類の金属調の加飾が施されているため、例えば、基材の成形に際して、意匠面の互いに隣り合う被加飾部同士の間に、段差や凹溝等を直線的に一定の幅等をもって設けることによって、それらの段差や凹溝等によって、直線的且つ均一の幅の見切り部が形成され得る。その結果、更に十分な高級感が確保され得ることとなる。
【0027】
そして、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法によれば、十分な本物感が効果的に表現され得るだけでなく、より一層高級な印象を与え得る加飾樹脂成形品が、容易に且つ低コストに製造され得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0029】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の一実施形態として、自動車のインストルメントパネルの一部を構成する、自動車用内装部品たるカバーパネルが、その斜視形態と部分断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態のカバーパネル10は、樹脂成形品からなる基材12を有し、この基材12に対して金属調の加飾が施されて、構成されている。
【0030】
より具体的には、カバーパネル10の基材12は、略薄肉長手矩形状の平板の中央部に長手矩形の窓部13が設けられてなる矩形の枠部14と、この枠部14の長手方向両側端部に対して、板厚方向の一方側に延びるようにそれぞれ一体形成された二つの取付部16,16とを有している。
【0031】
また、かかる基材12においては、枠部14における取付部16形成側の面とは反対側の面、つまり、カバーパネル10の表面(インストルメントパネルへの取付状態下で、車室内に露呈する面)となる面が、意匠面18とされている。そして、この意匠面18に対して、極めて膜厚の薄い金属膜20が、意匠面18の全面を覆うように、形成されている。また、この金属膜20と意匠面18との間には、所定の塗膜からなるアンダーコート層22が形成され、更に、金属膜20の意匠面18側とは反対側(上側)には、透明な塗膜からなるトップーコート層24が形成されている。
【0032】
すなわち、本実施形態では、樹脂成形品からなる基材12の意匠面18に対して、下側から順番に、アンダーコート層22と金属膜20とトップーコート層24とが積層形成されている。そして、基材12の意匠面18の全面に金属膜20が形成されていることで、かかる意匠面18に金属調の加飾が施され、以て、カバーパネル10(枠部14)の表面において、金属特有の色や光沢等が発現されて、金属表面が擬似的に表現され得るようになっている。
【0033】
また、かかるカバーパネル10では、トップーコート層24が、金属膜20の保護層として機能せしめられている。更に、アンダーコート層22が、枠部14における基材12の意匠面18上の、成形不良等によって生ずる無用な凹凸や疵等を隠蔽して、意匠面18を平滑化する役割と、基材12から滲み出す基材12の含有成分によって金属膜20が侵されることを阻止する役割と、金属膜20を透過したトップーコート層24の含有成分によって意匠面18が侵されることを防止する役割と、金属膜20の意匠面18への密着性を高める役割とを発揮している。なお、トップーコート層24とアンダーコート層22は、本発明において必須のものではなく、それらのうちの少なくとも何れか一方が省略されても、何等差し支えない。
【0034】
ところで、基材12は、カバーパネル10全体の優れた成形性や加工性、更には軽量性を確保する上で、樹脂成形品にて構成されている。それ故、そのような点からして、基材12の形成材料として用いられる樹脂材料は、金型成形等の容易な成形手法が採用され得るものであれば、その種類が、特に限定されるものではないものの、ここでは、基材12の形成材料として、好ましくは、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、PC、PMMA、PS等の非晶性樹脂、又は結晶性樹脂の中で、融点と降温結晶化温度との差が比較的に大きいPET、PBT等の、所謂微結晶性樹脂のうちの何れか1種類のものが、単独で、或いはそれらのうちの2種類以上が混合されて、使用される。
【0035】
何故なら、それら例示の樹脂材料は、金型成形によって成形された成形品において、成形収縮率が比較的に小さいためにヒケも生じ難いか、或いはウエルドラインが生じ難いといった特性を有している。そのため、例示の樹脂材料のうちの1種類を単独で、若しくは2種類以上を混合した(このときには、ヒケの生じ難い材料とウエルドラインの生じ難い材料とを混合することが、好ましい)混合材料を用いて、基材12を成形したときに、意匠面18に対して、ヒケやウエルドラインによる無用な凹凸部が形成されることが、可及的に回避され得る。そして、それにより、意匠面18に形成された、極めて膜厚の薄い金属膜20に無用な凹凸部分が生ずること、更にはそのような無用な凹凸部分にて、金属膜20により金属調の加飾が施された意匠面18の意匠性が損なわれるようなことが、可及的に防止され得るようになるからである。なお、例示の樹脂材料を基材12の形成材料として用いることは、意匠面18を平滑化せしめる役割を有するアンダーコート層22が省略される場合等において、特に有効となる。
【0036】
そして、本実施形態では、特に、金属膜20が、基材12の意匠面18に対して、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーディング法等の物理蒸着法(PVD法)、又は熱CVD法や、プラズマCVD法、光CVD法等の化学蒸着法(CVD法)等を利用して、形成されている。これによって、かかる金属膜20の膜厚が、例えば、意匠面18に金属メッキやメタリック塗装を施すことで形成されるメッキ膜や塗膜等からなる金属膜の膜厚に比して、極めて薄くされている。そして、そのように、金属膜20の膜厚が極めて薄くされていることで、膜厚の厚いメッキ膜や塗膜が基材12の意匠面18に形成される場合とは異なって、意匠面18の外周縁のエッジ部や角部等が、より角張った形態とされ、以て、見る者に対して、金属が本来有するシャープな印象を与え得るようになっている。
【0037】
なお、金属膜20の具体的な膜厚は、何等限定されるものではないものの、ここでは、0.001〜1μm程度の厚さとされている。何故なら、金属膜20の膜厚が0.001μmを下回る場合には、金属膜20が余りに薄過ぎるために、均一な膜厚が得られないだけでなく、意匠面18において、金属の色や光沢等を発現させることが難しくなり、金属膜20にて、金属の表面を擬似的に表現することが困難となってしまうからである。また、金属膜20の膜厚が1μmを超える厚さとなると、今度は金属膜20が厚く過ぎるために、意匠面18の外周縁のエッジ部や角部等が、Rがかかった丸みを帯びた形態となり、それによって、エッジ部や角部がシャープさに欠けるものとなってしまう恐れがあるからである。即ち、金属膜20の膜厚は、0.001〜1μmの範囲内の値とされることが望ましく、そうすることにより、意匠面18において、より本物感に富んだ金属表面が、確実に表現され得るのである。なお、そのような効果を更に有効に得る上では、金属膜20の膜厚が0.005〜0.1μmの範囲内の値とされていることが、更に望ましい。
【0038】
また、一般に、樹脂の線膨張係数は、金属の線膨張係数の1/10程度であるが、樹脂成形品からなる基材12の線膨張係数と金属膜20の線膨張係数との間に大きな違いがあると、カバーパネル10の急加熱や急冷等によって、基材12が熱膨張したり、熱収縮したりしたときに、金属膜20が、基材12に追従して熱変形することが出来ずに、金属膜20に割れや皺が生ずる恐れがあり、またその逆に、カバーパネル10の急加熱や急冷等による基材12の熱変形が、金属膜20にて阻害乃至は阻止されて、基材12に歪みが生ずるといった懸念もある。そのため、金属膜20の線膨張係数と樹脂成形体からなる基材12の線膨張係数との差が、可及的に小さくされていることが、望ましい。
【0039】
従って、ここでは、金属膜20を形成する金属材料として、例えば、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料が用いられる。これにより、金属膜20と基材12との間の線膨張係数の違いに起因して、カバーパネル10の熱変形時に、金属膜20に割れや皺が生ずることや、基材12に歪みが生ずること等が、効果的に防止され得るようになる。即ち、金属膜20を形成する金属材料の線膨張係数は、6.0×10-6以上とされていることが望ましく、それによって、金属膜20の割れや皺等を可及的に生ぜしめることなく、長期に亘って安定した品質が確保され得ることとなるのである。
【0040】
なお、このような線膨張係数の違いにより金属膜20に割れや皺等が生ずる問題は、金属膜20の膜厚が大きくなる程、顕在化し、特に金属膜20の膜厚が1μm以上となると顕著となる。それ故、金属膜20が6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されている場合にあっても、金属膜20の割れや皺等の発生を防止する点からすれば、金属膜20の膜厚が1μm未満の値となっていることが望ましい。
【0041】
そして、そのような金属膜20を形成する金属材料の種類は、上記の如き物理蒸着法や化学蒸着法によって、金属膜20を形成可能なものであれば、特に限定されるものではないものの、上記の如き利点を得るべく、ここでは、金属膜20の形成材料として、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、ニッケル−クロム合金、ステンレス鋼、モリブデンのうちの何れか1種類の金属材料が、或いはそれらのうちの何れか2種類以上からなる合金材料が使用される。
【0042】
而して、図1及び図2から明らかなように、かくの如き本実施形態のカバーパネル10においては、特に、枠部14の表面となる基材12の意匠面18の外周部が、凹凸のない平滑面からなる、被加飾部としての被加飾平滑面部26とされて、この被加飾平滑面部26に対して、その全面を覆うように、金属膜20が形成されている。これによって、枠部14の表面の外周部に、鏡面加工されてなる如き金属調の加飾が施された平滑な鏡面部28が、該外周部の全周に亘って周方向に延びるように形成されている。
【0043】
また、基材12の意匠面18における被加飾部平滑面部26の内側において、前記長手矩形の窓部12の長手方向両サイド部分には、不均一な長さや幅を有する微細な凹溝30が、多数且つ密に設けられて、それら多数の微細な凹溝30にてヘアライン模様が形成された、被加飾平滑面部26とは別の被加飾部たる第一の被加飾模様形成面部32の複数が、互いに間隔を隔てて設けられている。そして、それら各第一の被加飾模様形成面部32に対しても、それらの全面を覆うように、金属膜20が形成されている。これによって、枠部14の表面における窓部12の両サイドに、ヘアライン模様を有する金属調の加飾が施されたヘアライン模様部34が、互いに間隔をおいて複数形成されている。
【0044】
さらに、基材12の意匠面18には、被加飾部平滑面部26の内側に位置する部分のうち、前記複数の第一の被加飾模様形成面部32を除く全ての部分に、前記凹溝30とは異なる形状を呈する微細なシボ状凹部36が、互いに不均一な深さや大きさを有して、多数且つ密に設けられ、そして、それら多数の微細なシボ状凹部36が設けられた部分が、シボ模様が形成された、被加飾平滑面部26や第一の被加飾模様形成面部32とは更に別の被加飾部たる第二の被加飾模様形成面部38とされている。また、この第二の被加飾模様形成面部38に対しても、それらの全面を覆うように、金属膜20が形成されている。これによって、枠部14の表面における被加飾部平滑面部26の内側部分のうちの複数のヘアライン模様部34を除く全ての部分が、シボ模様を有する金属調の加飾が施されたシボ模様部40とされている。
【0045】
なお、基材12の意匠面18における第一及び第二の被加飾模様形成面部32,38に設けられる微細な凹溝30やシボ状凹部36の深さは、特に限定されるものではないものの、それらの凹溝30やシボ状凹部36が、第一及び第二の被加飾模様形成面部32,38上に形成されるアンダーコート層22と金属膜20とにて埋まってしまわないように、それらアンダーコート層22と金属膜20の合計厚さよりも大きな寸法とされていることが、望ましい。また、勿論、アンダーコート層22が何等設けられない場合には、凹溝30やシボ状凹部36の深さが、金属膜20の厚さよりも大きな寸法とされておれば良い。
【0046】
かくして、本実施形態のカバーパネル10においては、唯一つの基材12からなる枠部14の表面(基材12の意匠面18)に、シボ模様部40とヘアライン模様部34と鏡面部28が互いに隣り合って位置するように形成されている。それによって、枠部14の表面の隣り合う箇所に、模様の違いにより互いに異なる外観とされた2種類の金属調の加飾が施されており、また、そのような2種類の加飾が施された部分と隣り合う箇所に、模様を何等有しないことで、それらとは更に外観の異なる別の金属調の加飾が、更に施されている。そして、その結果として、あたかも、立体的な質感が互いに異なる表面を有する3種類の金属部材が一体的に組み付けられて、枠部14が構成されている如き印象を、見る者に与え得るようになっている。
【0047】
ところで、本実施形態では、意匠面18において隣り合って位置する被加飾平滑面部26と第二の被加飾模様形成面部38との間に、見切り部42が設けられている。この見切り部42は、被加飾平滑面部26と第二の被加飾模様形成面部38との境界部分に沿って連続的に延びる、縦断面V字状のV溝にて構成されている。また、かかる見切り部42を構成するV溝は、その溝幅(開口部の幅)が、延出方向の全長に亘って一定の大きさとされている。
【0048】
かくして、本実施形態のカバーパネル10にあっては、枠部14の表面において、被加飾平滑面部26に金属膜20が形成されてなる鏡面部28と、第二の被加飾模様形成面部38に金属膜20が形成されてなるシボ模様部40との間に、見切り部42が存在せしめられて、それら鏡面部28とシボ模様部40とが、外観上で明確に区別され得るようになっている。そして、それによって、枠部14のうちで、表面が鏡面部28からなる部分とシボ模様部40からなる部分とがそれぞれ別個の部材からなる如き印象を、見る者に対して、更に深く与え得るようになっている。
【0049】
なお、このような見切り部42にあっては、それを構成するV溝の深さが小さいと、目立たなくなり、それによって、見切り部42を間に挟んで両側に位置する鏡面部28とシボ模様部40とを外観上で区別し難くなる恐れがある。それ故、かかる見切り部42は、その深さが可及的に大きくされていることが好ましく、具体的には、0.1mm以上とされていることが望ましいのである。
【0050】
一方、見切り部42の深さが余りに大きいと、カバーパネル10を金型成形する際に使用される金型において、V溝からなる見切り部42を形成するための突部の突出高さが過大となり、そのために、金型の製作性やカバーパネル10の金型からの離型性が低下するといった懸念が生ずる。従って、見切り部42の深さ乃至高さは、1mm以下とされていることが望ましいのである。
【0051】
また、本実施形態のカバーパネル10に設けられる見切り部42は、二つの側面部を有するV溝からなるため、基材12の意匠面18において、それら二つの側面部同士の間に形成される角部(V溝の底部)と、各側面部と前記第一及び第二の被加飾模様形成面部32,38との間に形成される二つの角部を有しているが、ここでは、それら三つの角部が、それぞれ、Rがかかった湾曲角部とされている。そして、それら三つの湾曲角部のそれぞれの曲率半径が、好ましくは0.1〜1mmの範囲内の値とされている。
【0052】
何故なら、見切り部42によって基材12の意匠面18に形成された三つの角部のそれぞれの曲率半径が0.1mm未満とされる場合には、意匠面18に設けられる金属膜20上に厚肉のトップコート層24を塗装により形成する際に、各角部に、トップコート層24を形成する塗料の液溜りが生じ易くなり、そして、このような液溜りがそのまま硬化してしまうと、極めて薄い金属膜20にて表現される意匠面18でのシャープさが損なわれるようになるからである。また、各角部の曲率半径が1mmを超える大きさとされる場合には、金属膜20上のトップコート層24の有無に拘わらず、各角部でのシャープさが著しく損なわれるようになるからである。即ち、ここでは、見切り部42によって基材12の意匠面18に形成された各角部の曲率半径が0.1〜1mmの範囲内の値とされることで、金属が本来有するシャープさが、有利に確保され得るのである。
【0053】
ところで、かくの如き構造を有する本実施形態のカバーパネル10は、例えば、以下の作業手順に従って、製造されることとなる。
【0054】
すなわち、先ず、窓部13を備えた枠部14と二つの取付部16,16とを一体的に有する基材12が、例えば、先に例示した樹脂材料を用いた射出成形等による金型成形を行うことによって、成形される。このとき、射出成形用金型として、成形キャビティ面に、基材12における第一の被加飾模様形成面部32に設けられる微細な凹溝30に対応した微細な突条が多数且つ密に設けられた部分と、第二の被加飾模様形成面部38に設けられる微細なシボ状凹部36に対応した微細な突起が多数且つ密に設けられた部分と、被加飾平滑面部26に対応して鏡面研磨された部分とが、互いに隣り合って位置するように設けられると共に、それら微細な突起が多数且つ密に設けられた部分と鏡面研磨された部分との境界部分に、V溝からなる見切り部42に対応した縦断面V字状の突条が設けられてなるものが、用いられる。これによって、基材12が成形されると同時に、基材12の意匠面18に対して、第一の被加飾模様形成面部32と第二の被加飾模様形成面部38と被加飾平滑面部26とが、互いに隣り合って位置するように形成され、更に、第二の被加飾模様形成面部38と被加飾平滑面部26との間に、見切り部42が形成される。
【0055】
なお、本工程で用いられる金型の成形キャビティ面に、微細な凹溝30に対応した微細な突条や微細なシボ状凹部36に対応した微細な突起を形成する手法としては、例えば、ショットブラストやエッチング、研磨等、金型の成形キャビティ面に対して所定の凹凸部を形成するのに一般的に実施される公知の手法が、何れも採用され得るが、それらの中でも、ショットブラストや研磨等、成形キャビティ面に形成される凹部や凸部の形状や大きさ、深さ等が不均一となる手法が、好適に採用され得る。これによって、成形キャビティ面に形成される凸部等に対応した形状をもって、目的とするカバーパネル10の表面(枠部14の表面)に形成される凹溝や凹部からなるヘアライン模様やシボ模様等が、バラツキのあるものとなり、以て、金属調の加飾が施されて、最終的に得られるカバーパネル10において、より十分な本物感が得られるようになる。
【0056】
また、最終的に得られるカバーパネル10において、更に十分な本物感を得るようにするには、基材12の意匠面18に設けられる被加飾平滑面部26が、より高い平滑性を有していることが望ましい。そのため、ここでは、金型の成形キャビティ面に、例えば、3000番以上で研磨した鏡面にて、被加飾平滑面部26に対応した鏡面研磨部分が設けられ、また、型材質として、精密加工が可能まプリハードン材やピンホールの出難い材質のものが、好適に用いられる。
【0057】
次に、かくして形成された基材12の意匠面18(枠部14の表面)の全面に、例えば、所定の塗料が塗布されて、かかる塗料の塗膜からなるアンダーコート層22が、意匠面18の全面を覆うように、形成される。なお、このアンダーコート層22を与える塗料の種類は、特に限定されるものではなく、樹脂成形体の表面に金属膜を設ける際に、その下地層としての塗膜を形成するのに使用されるもの、例えば、2液型のウレタン塗料や紫外線硬化型、或いは熱硬化型の公知の各種の塗料が、何れも採用され得る。
【0058】
その後、基材12の意匠面18に形成されたアンダーコート層22に、その全面を覆うようにして、金属膜20が、物理蒸着法又は化学蒸着法等により、十分に薄い膜厚をもって形成される。なお、この金属膜20の形成材料としては、例えば、先に例示した幾つかの種類の金属材料の中から、所望の金属色や金属光沢等を有するものが、適宜に選択される。
【0059】
また、金属膜20を形成するのに実施される物理蒸着法や化学蒸着法の実施条件は、特に限定されるものではないものの、前述せる如き理由から、金属膜20の膜厚が0.001〜1μm程度とされていることが望ましいため、本工程では、物理蒸着法や化学蒸着法の実施条件として、有利には、形成されるべき金属膜20の膜厚が0.001〜1μm程度の厚さとされ得るような条件が採用される。なお、アンダーコート層22が省略される場合には、金属膜20上に積層形成されるトップコート層24の含有成分の一部で、基材12を侵食する成分が、金属膜20を浸透することを可及的に阻止する上で、好ましくは、金属膜20が高密度に成膜されるような条件(例えば、スパッタリング法を採用する場合には、比較的に低圧、例えば0.1Pa程度の圧力の雰囲気下で実施する条件)が、採用される。
【0060】
次いで、基材12の意匠面18上の金属膜20の全面に、例えば、透明な塗料が塗布されて、かかる塗料の塗膜からなるトップコート層24が、金属膜20の全面を覆うように、形成される。かくして、目的とするカバーパネル10が得られることとなる。
【0061】
なお、トップコート層24の厚さは、金属膜20を確実に保護し得るように、金属膜20よりも十分に厚くされる。また、トップコート層24を与える塗料の種類は、特に限定されるものではなく、樹脂成形体の表面に金属膜を設ける際に、その保護層としての塗膜を形成するのに使用されるもの、例えば、2液型のウレタン塗料や紫外線硬化型、或いは熱硬化型の公知の各種の塗料のうちの透明なものが、何れも採用され得る。更に、トップコート層24は、透明であれば、必ずしも無色である必要はなく、例えば、金属膜20の色と同系又は異なる有色のものであっても良い。
【0062】
このように、本実施形態のカバーパネル10においては、基材12の意匠面18に、金属膜20が物理蒸着法や化学蒸着法によって十分に薄い膜厚をもって形成されて、金属調の加飾が施されていることで、枠部14の表面において、金属表面が、シャープな印象を与え得るように、より本物感をもって、有利に表現され得る。
【0063】
また、かかるカバーパネル10では、基材12の意匠面18の互いに隣り合う箇所に設けられた第一及び第二の被加飾模様形成面部32,38と被加飾平滑面部26のそれぞれの全面に金属膜20が形成されていることにより、基材12の意匠面18に対して、ヘアラインとシボと鏡面の互いに外観が異なる3種類の金属調の加飾が施され、以て、立体的な質感が互いに異なる表面を有する3種類の金属部材が一体的に組み付けられて、枠部14が構成されている如き印象を、見る者に与え得るようになっている。そして、それによって、十分な高級感が、有利に発揮され得る。
【0064】
しかも、本実施形態のカバーパネル10は、あくまでも、一つの基材12の意匠面18に、互いに外観が異なる3種類の金属調の加飾が施されてなるものであるため、例えば、実際に、3種類の金属部材が一体的に組み付けられてなるものとは異なって、各金属部材同士の接触による異音の発生の問題等が効果的に皆無ならしめられ得るのであり、また、それによって、そのような異音対策のために、製造時に余分な作業負担やコスト負担が強いられることも、完全に解消され得る。
【0065】
従って、かくの如き本実施形態のカバーパネル10にあっては、簡略且つ低コストな構造において、十分な本物感とより上質な高級感とが、効果的に具備せしめられ得るのである。
【0066】
また、かかるカバーパネル10においては、基材12の意匠面18における被加飾平滑面部26と第二の被加飾模様形成面部38との境界部分に見切り部42が設けられて、枠部14のうちで、表面が鏡面部28からなる部分とシボ模様部40からなる部分とがそれぞれ別個の部材からなる如き印象を、見る者に対して、更に深く与え得るようになっている。しかも、そのような見切り部42がV溝にて構成されているため、例えば、見切り部42が縦断面矩形状やU字状を呈する矩形溝やU溝等にて構成される場合とは異なって、見切り部42の底部部位が、外部から視認され難くなっている。そして、それによって、枠部14の表面の鏡面部28とシボ模様部40とが、それぞれ別個の部材からなる如き印象を、見る者に対して、更に一層深く与え得る。それらの結果として、十分な高級感が、より確実に具備せしめられ得るのである。
【0067】
また、本実施形態では、見切り部42を構成するV溝が、延出方向の全長に亘って、一定の幅を有しているところから、見切り部42の幅が不均一となることで高級感が損なわれるようなことが、有利に回避され得る。
【0068】
さらに、本実施形態のカバーパネル10にあっては、金属膜20が0.001〜1μmの範囲内の値の膜厚とされていることにより、意匠面18において、より本物感に富んだ金属表面が確実に表現され得るのであり、また、金属膜20が6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されているところから、基材12の熱変形に起因する金属膜20の割れや皺等の発生が可及的に防止されて、安定した品質が有利に確保され得るのである。
【0069】
更にまた、本実施形態のカバーパネル10を製造する際には、成形キャビティ面に、基材12の意匠面18における第一及び第二の被加飾模様形成面部32,38と被加飾平滑面部26と見切り部42を形成する部分が設けられた成形金型が用いられて、基材12が成形されると同時に、基材12の意匠面18に対して、第一の被加飾模様形成面部32と第二の被加飾模様形成面部38と被加飾平滑面部26とが、互いに隣り合って位置するように形成され、更に、第二の被加飾模様形成面部38と被加飾平滑面部26との間に、見切り部42が形成される。それ故、例えば、カバーパネル10の複数個が、全て同一の加工工程によって、効率的に且つ製作性良く、しかも均一な品質をもって、容易に製造され得ることとなる。
【0070】
ここにおいて、本発明者等が、上述せる如き構造を有するカバーパネル10の品質に対する金属膜20の線膨張係数と膜厚の関係を調べるために実施された試験について、詳述する。
【0071】
すなわち、先ず、縦×横×厚さ=150mm×150mm×3mmの寸法を有するABS樹脂製の平板からなる板状基材を16枚成形して、準備した。また、下記表1に示される線膨張係数をそれぞれ有するモリブデンとクロムとニッケル−クロム合金(Ni:Cr=80:20)とSUS316ステンレス鋼の4種類の金属材料を準備した。
【0072】
そして、準備された16枚の板状基材のうちの4枚とモリブデンとを用いて、4枚の板状基材のそれぞれの表面上に、モリブデンからなる金属膜を、公知のスパッタリング法により、互いに異なる厚さ(0.001μmと0.04μmと1μmと1.2μm)で形成して、モリブデンの金属膜により、表面に金属調の加飾が施された4種類の加飾樹脂成形品を得た。また、それと同様にして、4枚の板状基材の表面上に、クロムからなる金属膜を互いに異なる厚さで形成する一方、別の4枚の板状基材の表面上に、ニッケル−クロム合金(Ni:Cr=80:20)からなる金属膜を互いに異なる厚さで形成し、更に、残りの4枚の板状基材の表面上に、SUS316ステンレス鋼からなる金属膜を互いに異なる厚さで形成した。これによって、金属材料の種類か又は膜厚が互いに異なる金属膜が形成されることにより、表面に金属調の加飾が施された12種類の加飾樹脂成形品を得た。
【0073】
次いで、かくして得られた合計16種類の加飾樹脂成形品を用い、これらを50℃、湿度95%の環境下で240時間放置した後、湿度はそのままで、80℃で15.5時間放置→20℃で0.5時間放置→30℃で7.5時間放置→20℃で0.5時間放置→49℃で15.5時間放置→20℃で0.5時間放置→30℃で7.5時間放置→20℃で0.5時間放置を4サイクル行った。そして、その後、16種類の加飾樹脂成形品に設けられる各金属膜に割れ(クラック)の有無を目視により確認する外観検査を行った。その結果を下記表1に示した。また、そのような外観検査とは別に、16種類の加飾樹脂成形品のそれぞれに対して、碁盤目のテープ剥離試験をJIS K5400に準拠して実施し、そのときの金属膜の剥がれの有無を調べた。この結果も、下記表1に併せて示した。なお、下記表1においては、外観試験でクラック無しと確認され、且つ碁盤目のテープ剥離試験で金属膜の剥がれが無かったものを○で示し、また、各試験でクラックが認められるか又は金属膜の剥がれが生じたものを×で示した。
【0074】
【表1】

【0075】
かかる表1の結果から明らかなように、線膨張係数が6.0×10-6以上である金属材料を用いて金属膜が形成されて、金属調の加飾が施された加飾樹脂成形品においては、膜厚が薄い方が好ましいといった傾向はあるものの、概して、周囲の温度変化、つまりそれに伴う基材の熱変形によって金属膜に割れが生じたり、金属膜の基材との密着性が低下したりするようなことが有利に防止され得ることが、認められる。また、金属膜の膜厚の薄いもの程、周囲の温度変化に伴う基材の熱変形よる金属膜の割れや金属膜の基材との密着性の低下が防止され得ることが、認識され得る。そして、周囲の温度変化に伴う基材の熱変形による金属膜の割れや金属膜の基材との密着性の低下を、より有利に防止する上において、金属膜が6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料が用いて形成されると共に、金属膜の膜厚が0.001μm以上且つ1μm未満の範囲内の値を有していることが望ましいことが、認められるのである。
【0076】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0077】
例えば、前記実施形態では、基材12の意匠面18に、凹凸部がなく、模様を何等有しない被加飾平滑面部26と、互いの模様の種類が異なる第一及び第二の二つの被加飾模様形成面部32,38の3種類の被加飾部が設けられていたが、この基材12の意匠面18に設けられる被加飾部は、同一のものでない2種類以上のものであれば、その組合せが、特に限定されるものではない。
【0078】
すなわち、例えば、基材12の意匠面18に設けられる被加飾部を、互いの模様の種類が異なる2種類だけ、若しくは3種類以上のものにしたり、模様を有しないものと、模様を有するものの1種類以上を組み合わせたりすることが出来る。また、模様を有する複数種類の被加飾部を基材12の意匠面18に設ける場合には、それらの被加飾部の模様が互いに同様な形状とされるものの、各被加飾部の模様を形成する凹部や凸部の深さ、高さ、幅、長さ等が互いに異なることによって、模様の種類が異なるようにされたもの同士を組み合わせることも出来る。
【0079】
さらに、被加飾部に設けられる模様を、単に、多数の微細な凹部のみによって形成するだけでなく、多数の微細な凸部のみによって形成したり、或いは多数の微細な凹部と多数の微細な凸部とを組み合わせて形成したりしても良い。
【0080】
また、そのようにして、被加飾部に設けられる模様も、前記実施形態において例示されたヘアライン模様やシボ模様等に限らず、その他に、幾何学模様や無定形状の模様、各種の文字や記号等からなる模様等、公知の各種の模様が採用され得る。なお、幾何学模様には、例えば、円や楕円、長円、多角形、線分(直線や屈曲線、湾曲線、波線等を含む)のうちの1種類のものの同一の大きさのものや互いに異なる大きさのものにて形成される模様や、それらのうちの2種類以上が組み合わされて形成される模様等が含まれる。また、円や楕円、長円、多角形を含んで形成される幾何学模様には、それらの形状の外形線のみが、凹溝や突条にて構成されるものや、外形線の内側の全体乃至は一部が凹陥乃至は突出せしめられてなるものも含まれる。
【0081】
さらに、一つの被加飾部に、必ずしも1種類の模様のみが設けられている必要はなく、一つの被加飾部(被加飾模様形成面部)に複数種類の模様が設けられていても、何等差し支えない。
【0082】
更にまた、一つの被加飾部に設けられた模様を与える凹部や凸部の深さや高さは、必ずしも一定である必要はなく、全体としてバラツキを有するように、或いは一部が他の部分と異なるように、更には一部分のみにおいて不均一となるようにしても良い。
【0083】
また、前記実施形態では、基材12の意匠面18における被加飾平滑面部26と第二の被加飾模様形成面部38との間に、V溝からなる見切り部42が設けられていたが、この見切り部42は、互いに隣り合う被加飾部同士の間に設けられるのであれば、それらの被加飾部の種類が、何等限定されるものではない。
【0084】
さらに、かかる見切り部42の構造も、例示のV溝からなるものに、特に限定されるものではなく、各種の構造が採用され得る。例えば、図3及び図4に示されるように、見切り部42を、縦断面矩形状の矩形溝や縦断面U字状のU溝等にて構成することも出来る。また、図5に示されるように、互いに隣り合う二つの被加飾部(ここでは、被加飾平滑面部26と第二の被加飾模様形成面部38)の間に、それら二つの被加飾部のうちの一方を他方よりも一段低くする段差を設けて、この段差にて、見切り部42を構成しても良い(ここでは、第二の被加飾模様形成面部38が被加飾平滑面部26よりも一段低くされているが、その逆でも良い)と。更に、図6乃至図8に示されるように、互いに隣り合う二つの被加飾部の間に、それら二つの被加飾部のうちの一方を他方よりも一段低くする段差を設けると共に、この段差の一部を側面の一部とするV溝や矩形溝、U溝等を設け、それら段差付きV溝や段差付き矩形溝、段差付きU溝等にて、見切り部42をそれぞれ構成することも出来る。
【0085】
なお、上記のように、見切り部42を単純なV溝以外の構造をもって構成する場合にあっても、見切り部42の深さや高さ(見切り部42がU溝や矩形溝からなる場合には、それらの溝の深さであって、見切り部42が段差からなる場合には、その段差の高さ、或いは見切り部42が段差付きV溝や段差付きU溝、段差付き矩形溝等からなる場合には、段差の高さと各溝の深さとの合計値)が、0.1〜1mm程度とされていことが望ましく、また、見切り部42によって、基材12の意匠面18に形成される角部が、好適には、0.1〜1mmの曲率半径を有する湾曲角部にて構成されることとなる。
【0086】
さらに、基材の複数の面が、それぞれ意匠面とされていても良い。
【0087】
また、前記実施形態では、複数種類の被加飾部に形成される多数の微細な凸部や凹部に対応した凹凸部が設けられた成形キャビティ面部分を有する成形金型が用いられ、この成形金型にて基材を成形すると同時に、基材の意匠面に複数種類の被加飾部(被加飾模様形成面部)が形成されるようになっていたが、凹凸部が何等設けられていない成形キャビティ面を有する成形金型を用いて、基材を成形した後、かかる基材の意匠面に対して、多数の微細な凸部や凹部を形成することによって、被加飾模様形成面部を設けるようにしても良い。これによって、複数の加飾樹脂成形品が、個々に異なる質感や風合いを有する、高いオリジナリティをもって、有利に製造され得る。なお、基材の意匠面に、多数の微細な凸部や凹部を形成する手法としては、例えば、サンドブラストなどのショットブラストやエッチング、研磨等、樹脂成形品の表面に所定の凹凸部を形成するのに一般的に実施される公知の手法が、何れも採用され得る。
【0088】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品の一種たるインストルメントパネルに取り付けられるカバーパネルとその製造方法に適用したものの具体例を示したが、本発明は、かかるカバーパネル以外の自動車用内装部品とその製造方法、或いは自動車用内装部品以外の加飾樹脂成形品とその製造方法の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0089】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、各種の形態において実施され得るものである。従って、当業者の知識に基づいて採用される本発明についての種々なる変更、修正、改良に係る各種の実施の形態が、何れも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の一実施形態を示す斜視説明図である。
【図2】図1のII−II断面における部分拡大説明図である。
【図3】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【図4】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1及び図3に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【図5】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1、図3及び図4に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【図6】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1、図3乃至図5に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【図7】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1、図3乃至図6に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【図8】本発明に従う構造を有する加飾樹脂成形品の図1、図3乃至図7に示されるものとは別の例を示す図2に対応する図である。
【符号の説明】
【0091】
10 カバーパネル 12 基材
18 意匠面 20 金属膜
22 アンダーコート層 24 トップコート層
26 被加飾平滑面部 28 鏡面部
30 凹溝 32 第一の被加飾模様形成面部
34 ヘアライン模様部 36 シボ状凹部
38 第二の被加飾模様形成面部 40 シボ模様部
42 見切り部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品であって、
前記基材の意匠面に、多数の微細な凹部及び/又は凸部によって形成された模様を有する、加飾されるべき被加飾模様形成面部の、該凹部の深さや該凸部の高さ、或いは該模様の種類が互いに異なる複数種類と、凹凸のない、加飾されるべき被加飾平滑面部のうちの少なくとも2種類の被加飾部が、互いに隣り合って設けられると共に、それら少なくとも2種類の被加飾部に対して、物理蒸着法又は化学蒸着法により金属薄膜が形成されることによって、該意匠面に、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾が施されていることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項2】
前記金属薄膜が、0.001〜1μmの膜厚を有している請求項1に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項3】
前記金属薄膜が、6.0×10-6以上の線膨張係数を有する金属材料を用いて形成されている請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項4】
前記金属薄膜が、金、銀、白金、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、チタン、ニッケル−クロム合金、ステンレス鋼、モリブデンのうちの何れか1種からなる金属材料、又はそれらのうちの何れか2種以上からなる合金材料を用いて形成されている請求項3に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項5】
前記基材の意匠面に互いに隣り合って設けられた前記少なくとも2種類の被加飾部同士の間の境界部分に、見切り部が設けられている請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項6】
前記見切り部が、前記少なくとも2種類の被加飾部同士の間の境界部分に沿って延びるV溝である請求項5に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項7】
前記金属薄膜の前記基材の意匠面側とは反対側の面に、該金属薄膜を保護する塗膜層が積層形成されると共に、該基材の意匠面に、前記見切り部によって角部が設けられ、更に、該角部が、0.1〜1mmの曲率半径を有する湾曲状角部とされている請求項5又は請求項6に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項8】
自動車用内装部品である請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項9】
樹脂成形品からなる基材の意匠面に、金属調の加飾が施されてなる加飾樹脂成形品を製造する方法であって、
前記基材の意匠面に、多数の微細な凹部及び/又は凸部によって形成された模様を有する、加飾されるべき被加飾模様形成面部の、該凹部の深さや該凸部の高さ、或いは該模様の種類が互いに異なる複数種類と、凹凸のない、加飾されるべき被加飾平滑面部のうちの少なくとも2種類の被加飾部を、互いに隣り合って位置するように設ける工程と、
前記基材の意匠面に設けられた前記少なくとも2種類の被加飾部に対して、物理蒸着法又は化学蒸着法により金属薄膜を形成して、該意匠面に、互いに外観が異なる複数種類の金属調の加飾を施す工程と、
を含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂成形品からなる前記基材が、該基材の意匠面を与えるキャビティ面を有し、且つ該キャビティ面に多数の微細な凸部及び/又は凹部が一体的に設けられた成形用金型を用いて成形されることにより、該基材の成形と同時に、該意匠面に対して、前記模様を与える前記多数の微細な凹部及び/又は凸部が、該キャビティ面に設けられる該多数の微細な凸部及び/又は凹部に対応する形状を有して形成されて、前記被加飾模様形成面部が設けられるようにした請求項9に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記基材を構成する前記樹脂成形品を成形した後、該基材の前記意匠面に対して、前記模様を与える前記多数の微細な凹部及び/又は凸部を形成することによって、前記被加飾模様形成面部が設けられるようにした請求項9に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−45841(P2009−45841A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214375(P2007−214375)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】