化合物半導体単結晶基板およびその製造方法
【課題】水平ボート法を用いて形成されたインゴットから十分な薄さの化合物半導体基板を低コストで得ることが可能な化合物半導体単結晶基板の製造方法および当該化合物半導体単結晶基板を提供する。
【解決手段】化合物半導体単結晶基板の製造方法は、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴット1を準備する工程と、当該インゴット1を治具により固定する工程と、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤ7を(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴット1をワイヤ7の往復方向と直行する方向に上昇させて、ワイヤ7を用いてスライスする工程とを備える。
【解決手段】化合物半導体単結晶基板の製造方法は、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴット1を準備する工程と、当該インゴット1を治具により固定する工程と、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤ7を(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴット1をワイヤ7の往復方向と直行する方向に上昇させて、ワイヤ7を用いてスライスする工程とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化合物半導体単結晶基板およびその製造方法に関し、より特定的には、水平ボート法を用いて形成されたインゴットから製造される化合物半導体単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体単結晶基板を製造するために、半導体からなるインゴットをスライス加工する方法としてワイヤソーを用いた加工方法が知られている(たとえば、特開2007−54909号公報(特許文献1)参照)。特許文献1では、被加工物の切断面における面精度(たとえば平面度や面粗さなど)の低下を抑制するため、ワイヤソーのたわみ量を低減する技術が提案されている。具体的には、2つのローラの間に掛け渡されたワイヤソーについて、被加工物の表面とローラとの間に位置するワイヤソーの長さを短くする(つまり、2つのローラの間の中間点から被加工物の配置を一方のローラ側にずらす)ことにより、最大たわみ量を小さくすることが提案されている。
【0003】
一方、水平ボート法(例えば水平ブリッジマン法など)を用いて形成されたインゴット(たとえばGaAsなどのIII−V族化合物半導体単結晶インゴット)については、加工スペースの制約などにより、当該インゴットをスライスして基板を得るために内周刃切断機やバンドソーを用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−54909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、水平ボート法では以下に説明するような方法によりインゴットを形成する。図15は水平ボート法により化合物半導体のインゴットを形成する工程を説明するための模式図である。図15に示すように、水平ボート法では、たとえば石英製のボート31の内部に化合物半導体の原料を入れ、ヒータ32によって当該ボート31内の原料を融点以上に加熱して原料を融解する。その後、ボート31の長手方向に沿って温度勾配を形成することで、ボート31の端部に配置した種結晶33側から化合物半導体の単結晶34を成長させる。温度勾配の形成方法としては、ボート31の長手方向に並んで配置されるヒータ32の出力を局所的に変更する(たとえば、図15の種結晶33側のヒータ32は低出力とし、反対側(融液35側)に配置されたヒータ32を高出力としてもよい。このような温度条件で、たとえばヒータ32に対してボート31を種結晶33側に徐々に移動させることにより、種結晶33側から融液35が固化し単結晶34が成長する(単結晶34と融液35との固液界面36が徐々に種結晶33から離れる方向に移動する)。このようにして得られたインゴットは、図15からも分かるようにボート31の内周表面に沿った曲面状の表面部分と、平坦なフリー面とを有する。
【0006】
上述した水平ボート法を用いて形成されたインゴットをスライスするためにたとえば内周刃切断機を用いた場合、得られる基板の厚みを薄くすることには限界があり、たとえば300μm以下の厚みの基板を切り出すことは難しかった。これは、このような薄い基板を上述のような内周刃切断機を用いて切出す場合には、インゴットの切断中に基板の欠けや割れが発生する場合が多いためである。シリコンドープのIII−V族化合物半導体インゴットでキャリア濃度が高いもの(例えばキャリア濃度が1.0×1018以上)を切り出すことはさらに難しかった。これは、シリコンのドーピング量が高くなるほど結晶の異方性が強く劈開性が大きくなるためだと考えられる。
【0007】
また、当該インゴットを薄くスライスするために、上述した特許文献1に開示されるようなワイヤソーを用いる方法は適用されていなかった。これは、図15かわも分かるように、水平ボート法を用いて形成されたインゴットが、チョクラルスキー法を用いて形成されたシリコンインゴットのような円柱状といった単純な形状ではないことも一因であると考えられる。つまり、従来は水平ボート法を用いて形成されたインゴットを十分薄くスライスすることは困難であった。さらに、上記のような内周刃切断機などを用いてインゴットをスライスする場合、切り代がワイヤソーなどを用いた場合より大きくなるため、同じ大きさのインゴットから切出せる基板の枚数がワイヤソーなどを用いた場合より少なくなる。この結果、製造コストが増大することになっていた。
【0008】
一方、近年は材料コストの低減要求から、基板の厚みを減少することや、切出し時の切り代の低減が求められている。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、水平ボート法を用いて形成されたインゴットから十分な薄さの化合物半導体単結晶基板を低コストで得ることが可能な化合物半導体単結晶基板の製造方法および当該化合物半導体単結晶基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板の製造方法は、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する工程と、当該インゴットを治具により固定する工程と、治具により固定された前記インゴットを、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤを(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴットをワイヤの往復方向と直行する方向に上昇させてスライスする工程とを備える。
【0011】
このようにすれば、水平ボート法を用いて形成されたインゴットを治具で固定することにより、ワイヤソーを用いて当該インゴットをスライスすることができるので、従来より薄い化合物半導体単結晶基板を得ることができる。また、ワイヤソーを用いてインゴットをスライスするため、従来の内周刃切断機などを用いた場合より切り代を小さくできる。このため、1つのインゴットから切り出せる化合物半導体単結晶基板の枚数を増やすことができるので、当該化合物半導体単結晶基板の製造コストを低減できる。
【0012】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板は、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造されたものである。このようにすれば、従来よりも厚みが薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来より薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図4】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図5】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図6】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図7】本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法により得られた化合物半導体単結晶基板を示す斜視模式図である。
【図8】インゴットを固定する治具の変形例を示す模式図である。
【図9】本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図10】本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図11】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図12】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図13】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図14】実験例の結果を示すグラフである。
【図15】水平ボート法により化合物半導体のインゴットを形成する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0016】
図1を参照して、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法を説明する。
図1に示すように、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法では、まずインゴット準備工程(S10)を実施する。具体的には、図2および図3に示すように、GaAsからなるインゴット1を準備する。なお、このGaAsからなるインゴット1から切出された化合物半導体単結晶基板は赤外LEDなどの製造に用いられる。GaAsからなるインゴット1としては、たとえば面方位が(100)±7°または(511)±7°、キャリア濃度が0.1×1017以上5.0×1018以下のシリコンドープGaAsインゴットを用いることができる。
【0017】
このインゴット1は、水平ボート法によって(111)方向に成長されたものである。インゴット1の外形は、平坦なフリー面13と、このフリー面13に連なり、互いに対向する1組の端面12と、この端面12の間をつなぐ曲面状の側壁11とからなる。端面12においてフリー面13との境界部は直線状の外周線を有しており、また端面12において側壁11との境界部である外周部は曲線状になっている。側壁11は端面12に対して傾斜した方向に延びている。
【0018】
このようなインゴット1を後述する切断工程においてワイヤソーで切断するため、切断用治具2の上部表面上に下部補助板3および側面補助板4を用いてインゴット1を固定する。具体的には、切断用治具2の上部表面上に下部補助板3が配置される。下部補助板3はインゴット1のフリー面13とほぼ同じ幅である。そして、インゴット1の1組の端面12を切断用治具2の上部表面に対して垂直に配置するとともに、フリー面13が切断用治具2の上部表面と対向するように配置する。この場合、下部補助板3の上部表面は、傾斜したフリー面13に沿った方向に延びるように形成されている。下部補助板3の上部表面は、インゴット1のフリー面13と接続固定されている。このようにすることで、スライス後に切出された化合物半導体単結晶基板がばらばらになることを防止できる。
【0019】
また、側面補助板4は、インゴット1の端面12に接触するように、インゴット1を端面12側から挟むように配置されている。側面補助板4の下部は、下部補助板3の側面と接触している。図2から分かるように、側面補助板4の幅はインゴット1の端面12の幅とほぼ同じになっている。このように、切断用治具2の上部表面上に配置された下部補助板3および側面補助板4によりインゴット1が固定される。なお、側面補助板4は、ワイヤ7の断線対策として重要である。なお、側面補助板4は図3からわかるように、下部補助板3側での厚みが相対的に厚く、上部に向かうほどその厚みが薄くなる。つまり、側面補助板4はテーパー状の外周側面を有し、かつ、側面補助板4におけるインゴット1側の内周側面は切断用治具2の上部表面に対して垂直に延びている。
【0020】
次に、図1に示した切断工程(S20)を実施する。具体的には、図4〜図6に示すように、ワイヤソーを用いてインゴット1をスライスすることにより、図7に示すような化合物半導体単結晶基板20を得る。化合物半導体単結晶基板20の厚みはたとえば300μm以下であり、そり量はたとえば15μm以下である。なお、ここで化合物半導体単結晶基板20のそり量とは、ろ波最大うねりWCM(JISB0610に規定される)のことを指す。
【0021】
ワイヤソーとしては、たとえば加工対象物上昇型のワイヤソーを用いることができる。ワイヤソーは、インゴット1を切断するためのワイヤ7と、ワイヤ7を掛け渡してワイヤ7の位置決めを行なうとともにワイヤ7に張力を付加するための1組のガイドローラ5、6と、ガイドローラ5、6を駆動するための駆動部(図示せず)と、加工対象物であるインゴットをワイヤ7に対して相対的に移動させるための移動機構(図示せず)とを備える。インゴット1は、図4および図5に示すように、ガイドローラ5、6の間に張られたワイヤ7によって切断される。このとき、ガイドローラ5の中心線8と、もう一方のガイドローラ6の中心線9との間の中間点にインゴット1の中心軸10が位置するように、インゴット1を配置する。インゴット1のフリー面13(図3参照)と端面12との境界を示す境界線(図4のインゴット1の下端)は、ガイドローラ5、6の間に位置するワイヤ7の延びる方向と平行に配置されている。また、異なる観点から言えば、1対のガイドローラ5、6の間の中間点を通るとともにワイヤ7の延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面(中心軸10を含む図4の紙面に垂直な平面)を対称面とした面対称にインゴット1の外形がなるように、インゴット1は配置されている。
【0022】
このようにすれば、図4に示すように、インゴット1の切断時にインゴット1の表面と、ガイドローラ5側のワイヤ7がガイドローラ5の表面から離れる位置(すなわち上述した中心線8の位置)との間の距離a(すなわちインゴット1のガイドローラ5側に位置するワイヤ7の長さ)は、インゴット1の表面と、ガイドローラ6の表面からワイヤ7が離れる位置(すなわち中心線9の位置)との間の距離b(インゴット1のガイドローラ6側に位置するワイヤ7の長さ)と同じになる。そして、上記のようにインゴット1の位置がワイヤ7に対して設定されていることから、上記のようなインゴット1の左右におけるワイヤ7の長さの関係は切断工程の間維持される。
【0023】
たとえば、図5に示すように、インゴット1の切断工程の別の時点においても、図4に示した距離aに対応する図5の距離cと、図4の距離bに対応する図5の距離dとは同じになる。この結果、インゴット1を挟んで左右に位置するワイヤ7の撓み量がほぼ同じになるため、当該たわみ量がインゴット1の左右で大きく異なるため切り出された化合物半導体単結晶基板20の形状精度が劣化することを抑制で切る。したがって、切り出された化合物半導体単結晶基板20の形状精度や面精度を良好に保つことができる。
【0024】
また、図6に示すように、インゴット1を上側(切断時にインゴット1が移動する方向側)から見た場合に、インゴット1の側壁11の形状は、図4や図5に示した中心軸10を中心としてワイヤ7の延在方向において対称になっている。そのため、図6に示すようにインゴット1を一度に複数枚の基板へとスライスする場合に、インゴット1をスライスしている各ワイヤ7について上述のような関係が成り立つ。具体的には、図4に示した距離aに対応する図6の距離eと、図4の距離bに対応する図6の距離fとは同じに保たれる。また、同様に図6の距離gと距離hとも同一に保たれる。
【0025】
このようにすれば、1回の切断工程(S20)により得られる複数の化合物半導体単結晶基板20において、良好な形状精度を実現できる。そして、上述した切断工程(S20)を実施した後、切り出された各化合物半導体単結晶基板20について端面処理や表面の研摩処理、洗浄処理などを行なうことにより、本発明による化合物半導体単結晶基板を得ることができる。
【0026】
ここで、図2および図3に示したように治具を用いてインゴット1を固定した場合、特に図3に示すようにインゴット1の傾斜した側壁11においてワイヤ7が最初に切込む場合には、ワイヤ7の切込み方向(図3の下向き方向)に対してインゴット1の側壁11が傾斜しているため、ワイヤ7の切込み時にワイヤ7の位置がずれる(ワイヤ7がうねる)場合があった。これは、ワイヤ7の切込み方向とインゴット1の側壁11の方向とが図3に示すように傾斜している(たとえば54.7°だけ傾斜している)ため、ワイヤ7がうまくインゴット1の側壁11に噛み込めないことに起因する。したがって、このようなワイヤ7の切込み時の初期におけるうねりを防止するため、たとえば図8に示すようにインゴット1の側壁11の上部(つまりワイヤ7が最初に接触するインゴット1の表面)に上部補助板15を配置してもよい。図8を参照して、インゴットを固定する治具の変形例を説明する。なお、図8は図3に対応する。
【0027】
図8に示すように、インゴット1の側壁11の上側に、上部補助板15を配置する。上部補助板15は、インゴット1の側壁11と対向する面が、当該側壁11と同じ方向に延びるような傾斜面となっている一方、その上部表面は、インゴット1の上部に配置したときに、切断用治具2の上部表面と平行になる(すなわち水平方向に延びる)ように形成されている。このようにすれば、ワイヤ7が上部補助板15の上部表面に切込む場合には、当該上部表面が水平方向に延びている(傾斜していない)ため、ワイヤ7がうねるといった問題の発生を抑制できる。
【0028】
なお、下部補助板3、側面補助板4、上部補助板15はそれぞれ任意の材料で形成することができるが、好ましくはカーボンを用いることができる。カーボンは、価格が安くまた加工が容易であるためこのような治具の材料として適している。
【0029】
ここで、本発明の実施の形態として上述した化合物半導体単結晶基板の製造方法の効果を説明するため、比較例として、ワイヤソーの切断方向に対してインゴットの向きを90°回転させた場合を考える。図9および図10を参照して、本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法では、図1に示したインゴット準備工程(S10)と同様の形状であるインゴット101を準備する。そして、当該インゴット101を、切断用治具102上に固定する。このとき、切断用治具102の上部表面上には直方体状の下部補助板103が配置され、この下部補助板103上に当該インゴット101が配置されている。インゴット101のフリー面113は、下部補助板103の上部表面に対して垂直な方向に延びるように、インゴット101が配置されている。つまり、インゴット101の側壁が下部補助板103の上部表面に接触するように、インゴット101は配置されている。そして、このインゴット101の端面112を挟むように、側面補助板104が配置されている。
【0030】
このようなインゴット101を、図1に示した切断工程(S20)と同様に、ワイヤソーを用いて切断する。この場合、図11および図12に示すように、切断用治具102上に配置されたインゴット101の、切断時にワイヤ7が延びる方向に沿った方向での中心軸110(具体的には、図9に示したインゴット101の幅方向の中央を通り、切断用治具102の上部表面に垂直な線分)を考える。当該中心軸110が、図4〜図6に示した本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法の場合と同様にガイドローラ5、6の中心線8、9の間の中間点を通るようにインゴット101を配置する。この場合、図11に示すように、インゴット101の切断時にインゴット101の表面と、ガイドローラ5側のワイヤ7がガイドローラ5の表面から離れる位置(すなわち上述した中心線8の位置)との間の距離a(すなわちインゴット101のガイドローラ5側に位置するワイヤ7の長さ)は、インゴット101の表面と、ガイドローラ6の表面からワイヤ7が離れる位置(すなわち中心線9の位置)との間の距離b(インゴット101のガイドローラ6側に位置するワイヤ7の長さ)と比較してインゴット101の切断時においてほとんどの場合その長さが異なった状態となる。たとえば、図12に示すように、インゴット101の切断工程の別の時点においても、図11に示した距離aに対応する図12の距離cと、図11の距離bに対応する図12の距離dとは異なっている。つまり、上記距離aと距離bとの比(a/b)または距離cと距離dとの比(c/d)は、インゴット101の切断が進むにつれて順次変わっていく。
【0031】
このようにインゴット101の左右方向で露出している(自由に移動可能な)ワイヤ7の部分の長さ(たとえば図11の距離aおよび距離b)が異なると、切断された基板の表面形状に悪影響を及ぼす。すなわち、インゴット101の左右方向で露出しているワイヤ7の部分の長さが長いほどワイヤ7のたわみが大きくなり得る。そして、図11に示すようにインゴット101の左右において自由に移動可能なワイヤ7の部分の長さに対応する距離aと距離bとが異なるということは、インゴット101の左右におけるワイヤ7とインゴット101との接触部における接触角度や圧力条件などが異なることを意味する。さらに、図11と図12とを比較すればわかるように、インゴット101の切断が進むにつれて、インゴット101の左右における露出したワイヤ7の長さ(たとえば図11の距離aおよび距離b)が変化することから、上述した接触角度や圧力条件なども切断が進むにつれて順次変化することになる。この結果、切り出された基板の表面性状やそりなどの特性がばらつくことになる。
【0032】
また、図13に示すように、本発明の比較例による化合物半導体単結晶基板の製造方法では、一度にインゴット101を複数枚の基板へスライスする場合においても、インゴット101の左右方向において露出したワイヤ7の長さの比(たとえば距離e/距離f)がインゴットの場所によって異なっている。具体的には、図13のインゴット101の厚み方向における一方端側での距離eと距離fとの比と、当該厚み方向における他方端での距離gと距離hとの比とは異なる値となっている。このため、インゴット101の厚み方向においても、得られる基板の撓みや表面状態が基板ごとに異なる。
【0033】
一方、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法によれば、図4〜図7を参照して説明したように良好な形状精度の化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。
【0034】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
【0035】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板の製造方法は、水平ボート法を用いて形成された化合物半導体単結晶からなるインゴット1を準備する工程(インゴット準備(S10))と、当該インゴット1を治具(切断用治具2、下部補助板3、側面補助板4)により固定する工程(インゴット準備工程(S10))と、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いてスライスする工程(切断工程(S20))とを備える。インゴット準備工程(S10)では、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する。切断工程(S20)では、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤ7を(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴット1をワイヤ7の往復方向と直行する方向に上昇させてスライスする。
【0036】
このようにすれば、水平ボート法を用いて形成されたインゴット1を、切断用治具2、下部補助板3、側面補助板4などの治具で固定したうえで、ワイヤソーを用いて当該インゴット1をスライスするので、従来より薄い化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。また、ワイヤソーを用いてインゴット1をスライスするため、従来の内周刃切断機などを用いた場合より切り代を小さくできる。このため、1つのインゴット1から切り出せる化合物半導体単結晶基板20の枚数を増やすことができるので、当該化合物半導体単結晶基板20の製造コストを低減できる。
【0037】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、スライスする工程(切断工程(S20))では、1対のローラ(ガイドローラ5、6)の間に張られたワイヤソー(ワイヤ7)を用いてもよい。さらに、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法では、1対のガイドローラ5、6の間の中間点を通るとともにワイヤソー(ワイヤ7)の延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面(図4において中心軸10を通り紙面に垂直な平面)を対称面とした面対称にインゴット1の外形がなるように、インゴット1が配置された状態で切断工程(S20)が実施されてもよい。
【0038】
この場合、1対のガイドローラ5、6とインゴット1との間において、インゴット1の左右にそれぞれ位置するワイヤ7の部分の長さ(図4の距離aおよび距離b)を同じにできるので、当該ワイヤ7の部分におけるたわみ量もインゴット1の左右においてほぼ同じにすることができる。この結果、インゴット1から切り出された化合物半導体単結晶基板20の、ワイヤソーのたわみに起因する形状不良(たとえばそり)を低減することができる。
【0039】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、治具により固定する工程(インゴット準備工程(S10))では、スライスする工程(切断工程(S20))の開始時点にてワイヤソー(図8のワイヤ7)と対向するインゴット1の表面上に補助部材(上部補助板15)が配置されてもよい。また、スライスする工程(切断工程(S20))において、インゴット1に対してワイヤ7が近づくように相対的に移動するときに上部補助板15においてワイヤ7と最初に接触する面は、ワイヤ7の延在方向に沿うとともにワイヤ7の移動方向(図7における下向きの方向)に対して垂直な面と平行になっていてもよい。
【0040】
この場合、切断工程(S20)の開始時に、当該上部補助板15にワイヤ7が接触したときに、ワイヤ7が上部補助板15の表面に位置ずれすることなく切り込むことができる。このため、ワイヤ7の切り込み時における位置ずれに起因する化合物半導体単結晶基板20の形状不良(たとえば化合物半導体単結晶基板20の厚みのばらつきやそり)の発生を抑制できる。
【0041】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴット1は、結晶成長時に容器と接触しないフリー面13を含んでいてもよく、スライスする工程(切断工程(S20))において、図2〜図5に示すようにインゴット1の当該フリー面13がワイヤソー(ワイヤ7)の延在方向に沿った方向に伸びるように、インゴット1は配置されていてもよい。この場合、厚みのばらつきやそりの発生が少ない化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。
【0042】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板20は、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造されたものである。このようにすれば、従来よりも厚みが薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板20を実現できる。
【0043】
上記化合物半導体単結晶基板20は、厚みが300μm以下であってもよい。この場合、従来の内周刃切断機を用いてインゴット1をスライスすることにより得られる化合物半導体単結晶基板より化合物半導体単結晶基板20の厚みを薄くできるため、1つのインゴット1から得られる化合物半導体単結晶基板20の数を従来の内周刃切断機を用いた場合より多くできる。つまり、低コストの化合物半導体単結晶基板20が得られる。
【0044】
上記化合物半導体単結晶基板20は、そりが15μm以下であってもよい。この場合、良好な平坦性を有するために、その主表面に高品質な半導体層をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0045】
(実験例)
本発明の効果を確認するため以下のような実験を行なった。
【0046】
(試料)
本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法の実施例として、図2および図3に示すようにGaAs結晶のインゴットを切断用治具2上に固定した。なお、当該インゴットのサイズは、図3に示したインゴットの端面12の高さが70mmであり、図2に示したインゴットの幅が75mmである。
【0047】
また、比較例として、同じ形状およびサイズのGaAs結晶からなるインゴットを、図9および図10に示すような形態で切断用治具102上に固定した。
【0048】
(実験条件)
上述した切断用治具上に固定されたインゴットを、ワイヤソーを用いてスライスした。なお、ワイヤソーによるスライスの条件としては、以下のような条件を用いた。すなわち、設備としては株式会社安永製のU400を用い、ワイヤ(ソーワイヤ)としてはブラスめっきφ120μmソーワイヤを用いた。また、スラリー(砥液)の組成については、含有される砥粒がGC#1200、オイルが油性オイル、砥粒とオイルとの配合比がオイル1リットルに対して砥粒1.111kgとした。また、加工速度を150μm/min、ワイヤ送り量を15m/min、ワイヤ平均線速を320m/minとした。
【0049】
そして、スライスして得られた基板のそり量を測定した。なお、そり量の測定方法は、JISB0610に規定するろ波最大うねりWCMの測定方法に従った。
【0050】
(結果)
測定結果を図14に示す。図14に示したグラフの横軸はインゴットにおいて基板が採取された位置(インゴット位置)を示しており、縦軸はそり量(単位:μm)を示している。また、グラフ中の丸印が本発明の実施例の試料に関するデータであり、四角印が比較例の試料に関するデータである。なお、横軸のインゴット位置は、図3に示したインゴット1(または図10に示したインゴット101)の端面12(図10に示した端面112)の一方からの厚み方向での位置を示している。
【0051】
図14からわかるように、本発明の実施例の試料に関するそりの値は、全体として比較例の試料に関するそりの値より小さくなっていることがわかる。つまり、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法によれば、得られた基板のそりがインゴットの位置のほぼ全体にわたって比較例の方法を用いた場合よりも低減されている。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、特に水平ボート法により形成されたインゴットを用いた化合物半導体単結晶基板の製造方法に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0054】
1,101 インゴット、2,102 切断用治具、3,103 下部補助板、4,104 側面補助板、5,6 ガイドローラ、7 ワイヤ、8,9 中心線、10,110 中心軸、11 側壁、12,112 端面、13,113 フリー面、15 上部補助板、20 化合物半導体単結晶基板。
【技術分野】
【0001】
この発明は、化合物半導体単結晶基板およびその製造方法に関し、より特定的には、水平ボート法を用いて形成されたインゴットから製造される化合物半導体単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体単結晶基板を製造するために、半導体からなるインゴットをスライス加工する方法としてワイヤソーを用いた加工方法が知られている(たとえば、特開2007−54909号公報(特許文献1)参照)。特許文献1では、被加工物の切断面における面精度(たとえば平面度や面粗さなど)の低下を抑制するため、ワイヤソーのたわみ量を低減する技術が提案されている。具体的には、2つのローラの間に掛け渡されたワイヤソーについて、被加工物の表面とローラとの間に位置するワイヤソーの長さを短くする(つまり、2つのローラの間の中間点から被加工物の配置を一方のローラ側にずらす)ことにより、最大たわみ量を小さくすることが提案されている。
【0003】
一方、水平ボート法(例えば水平ブリッジマン法など)を用いて形成されたインゴット(たとえばGaAsなどのIII−V族化合物半導体単結晶インゴット)については、加工スペースの制約などにより、当該インゴットをスライスして基板を得るために内周刃切断機やバンドソーを用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−54909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、水平ボート法では以下に説明するような方法によりインゴットを形成する。図15は水平ボート法により化合物半導体のインゴットを形成する工程を説明するための模式図である。図15に示すように、水平ボート法では、たとえば石英製のボート31の内部に化合物半導体の原料を入れ、ヒータ32によって当該ボート31内の原料を融点以上に加熱して原料を融解する。その後、ボート31の長手方向に沿って温度勾配を形成することで、ボート31の端部に配置した種結晶33側から化合物半導体の単結晶34を成長させる。温度勾配の形成方法としては、ボート31の長手方向に並んで配置されるヒータ32の出力を局所的に変更する(たとえば、図15の種結晶33側のヒータ32は低出力とし、反対側(融液35側)に配置されたヒータ32を高出力としてもよい。このような温度条件で、たとえばヒータ32に対してボート31を種結晶33側に徐々に移動させることにより、種結晶33側から融液35が固化し単結晶34が成長する(単結晶34と融液35との固液界面36が徐々に種結晶33から離れる方向に移動する)。このようにして得られたインゴットは、図15からも分かるようにボート31の内周表面に沿った曲面状の表面部分と、平坦なフリー面とを有する。
【0006】
上述した水平ボート法を用いて形成されたインゴットをスライスするためにたとえば内周刃切断機を用いた場合、得られる基板の厚みを薄くすることには限界があり、たとえば300μm以下の厚みの基板を切り出すことは難しかった。これは、このような薄い基板を上述のような内周刃切断機を用いて切出す場合には、インゴットの切断中に基板の欠けや割れが発生する場合が多いためである。シリコンドープのIII−V族化合物半導体インゴットでキャリア濃度が高いもの(例えばキャリア濃度が1.0×1018以上)を切り出すことはさらに難しかった。これは、シリコンのドーピング量が高くなるほど結晶の異方性が強く劈開性が大きくなるためだと考えられる。
【0007】
また、当該インゴットを薄くスライスするために、上述した特許文献1に開示されるようなワイヤソーを用いる方法は適用されていなかった。これは、図15かわも分かるように、水平ボート法を用いて形成されたインゴットが、チョクラルスキー法を用いて形成されたシリコンインゴットのような円柱状といった単純な形状ではないことも一因であると考えられる。つまり、従来は水平ボート法を用いて形成されたインゴットを十分薄くスライスすることは困難であった。さらに、上記のような内周刃切断機などを用いてインゴットをスライスする場合、切り代がワイヤソーなどを用いた場合より大きくなるため、同じ大きさのインゴットから切出せる基板の枚数がワイヤソーなどを用いた場合より少なくなる。この結果、製造コストが増大することになっていた。
【0008】
一方、近年は材料コストの低減要求から、基板の厚みを減少することや、切出し時の切り代の低減が求められている。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、水平ボート法を用いて形成されたインゴットから十分な薄さの化合物半導体単結晶基板を低コストで得ることが可能な化合物半導体単結晶基板の製造方法および当該化合物半導体単結晶基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板の製造方法は、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する工程と、当該インゴットを治具により固定する工程と、治具により固定された前記インゴットを、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤを(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴットをワイヤの往復方向と直行する方向に上昇させてスライスする工程とを備える。
【0011】
このようにすれば、水平ボート法を用いて形成されたインゴットを治具で固定することにより、ワイヤソーを用いて当該インゴットをスライスすることができるので、従来より薄い化合物半導体単結晶基板を得ることができる。また、ワイヤソーを用いてインゴットをスライスするため、従来の内周刃切断機などを用いた場合より切り代を小さくできる。このため、1つのインゴットから切り出せる化合物半導体単結晶基板の枚数を増やすことができるので、当該化合物半導体単結晶基板の製造コストを低減できる。
【0012】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板は、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造されたものである。このようにすれば、従来よりも厚みが薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来より薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図4】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図5】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図6】本発明による切断工程を説明するための模式図である。
【図7】本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法により得られた化合物半導体単結晶基板を示す斜視模式図である。
【図8】インゴットを固定する治具の変形例を示す模式図である。
【図9】本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図10】本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴットを切断用治具に設置した状態を示す模式図である。
【図11】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図12】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図13】本発明の比較例による切断工程を説明するための模式図である。
【図14】実験例の結果を示すグラフである。
【図15】水平ボート法により化合物半導体のインゴットを形成する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0016】
図1を参照して、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法を説明する。
図1に示すように、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法では、まずインゴット準備工程(S10)を実施する。具体的には、図2および図3に示すように、GaAsからなるインゴット1を準備する。なお、このGaAsからなるインゴット1から切出された化合物半導体単結晶基板は赤外LEDなどの製造に用いられる。GaAsからなるインゴット1としては、たとえば面方位が(100)±7°または(511)±7°、キャリア濃度が0.1×1017以上5.0×1018以下のシリコンドープGaAsインゴットを用いることができる。
【0017】
このインゴット1は、水平ボート法によって(111)方向に成長されたものである。インゴット1の外形は、平坦なフリー面13と、このフリー面13に連なり、互いに対向する1組の端面12と、この端面12の間をつなぐ曲面状の側壁11とからなる。端面12においてフリー面13との境界部は直線状の外周線を有しており、また端面12において側壁11との境界部である外周部は曲線状になっている。側壁11は端面12に対して傾斜した方向に延びている。
【0018】
このようなインゴット1を後述する切断工程においてワイヤソーで切断するため、切断用治具2の上部表面上に下部補助板3および側面補助板4を用いてインゴット1を固定する。具体的には、切断用治具2の上部表面上に下部補助板3が配置される。下部補助板3はインゴット1のフリー面13とほぼ同じ幅である。そして、インゴット1の1組の端面12を切断用治具2の上部表面に対して垂直に配置するとともに、フリー面13が切断用治具2の上部表面と対向するように配置する。この場合、下部補助板3の上部表面は、傾斜したフリー面13に沿った方向に延びるように形成されている。下部補助板3の上部表面は、インゴット1のフリー面13と接続固定されている。このようにすることで、スライス後に切出された化合物半導体単結晶基板がばらばらになることを防止できる。
【0019】
また、側面補助板4は、インゴット1の端面12に接触するように、インゴット1を端面12側から挟むように配置されている。側面補助板4の下部は、下部補助板3の側面と接触している。図2から分かるように、側面補助板4の幅はインゴット1の端面12の幅とほぼ同じになっている。このように、切断用治具2の上部表面上に配置された下部補助板3および側面補助板4によりインゴット1が固定される。なお、側面補助板4は、ワイヤ7の断線対策として重要である。なお、側面補助板4は図3からわかるように、下部補助板3側での厚みが相対的に厚く、上部に向かうほどその厚みが薄くなる。つまり、側面補助板4はテーパー状の外周側面を有し、かつ、側面補助板4におけるインゴット1側の内周側面は切断用治具2の上部表面に対して垂直に延びている。
【0020】
次に、図1に示した切断工程(S20)を実施する。具体的には、図4〜図6に示すように、ワイヤソーを用いてインゴット1をスライスすることにより、図7に示すような化合物半導体単結晶基板20を得る。化合物半導体単結晶基板20の厚みはたとえば300μm以下であり、そり量はたとえば15μm以下である。なお、ここで化合物半導体単結晶基板20のそり量とは、ろ波最大うねりWCM(JISB0610に規定される)のことを指す。
【0021】
ワイヤソーとしては、たとえば加工対象物上昇型のワイヤソーを用いることができる。ワイヤソーは、インゴット1を切断するためのワイヤ7と、ワイヤ7を掛け渡してワイヤ7の位置決めを行なうとともにワイヤ7に張力を付加するための1組のガイドローラ5、6と、ガイドローラ5、6を駆動するための駆動部(図示せず)と、加工対象物であるインゴットをワイヤ7に対して相対的に移動させるための移動機構(図示せず)とを備える。インゴット1は、図4および図5に示すように、ガイドローラ5、6の間に張られたワイヤ7によって切断される。このとき、ガイドローラ5の中心線8と、もう一方のガイドローラ6の中心線9との間の中間点にインゴット1の中心軸10が位置するように、インゴット1を配置する。インゴット1のフリー面13(図3参照)と端面12との境界を示す境界線(図4のインゴット1の下端)は、ガイドローラ5、6の間に位置するワイヤ7の延びる方向と平行に配置されている。また、異なる観点から言えば、1対のガイドローラ5、6の間の中間点を通るとともにワイヤ7の延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面(中心軸10を含む図4の紙面に垂直な平面)を対称面とした面対称にインゴット1の外形がなるように、インゴット1は配置されている。
【0022】
このようにすれば、図4に示すように、インゴット1の切断時にインゴット1の表面と、ガイドローラ5側のワイヤ7がガイドローラ5の表面から離れる位置(すなわち上述した中心線8の位置)との間の距離a(すなわちインゴット1のガイドローラ5側に位置するワイヤ7の長さ)は、インゴット1の表面と、ガイドローラ6の表面からワイヤ7が離れる位置(すなわち中心線9の位置)との間の距離b(インゴット1のガイドローラ6側に位置するワイヤ7の長さ)と同じになる。そして、上記のようにインゴット1の位置がワイヤ7に対して設定されていることから、上記のようなインゴット1の左右におけるワイヤ7の長さの関係は切断工程の間維持される。
【0023】
たとえば、図5に示すように、インゴット1の切断工程の別の時点においても、図4に示した距離aに対応する図5の距離cと、図4の距離bに対応する図5の距離dとは同じになる。この結果、インゴット1を挟んで左右に位置するワイヤ7の撓み量がほぼ同じになるため、当該たわみ量がインゴット1の左右で大きく異なるため切り出された化合物半導体単結晶基板20の形状精度が劣化することを抑制で切る。したがって、切り出された化合物半導体単結晶基板20の形状精度や面精度を良好に保つことができる。
【0024】
また、図6に示すように、インゴット1を上側(切断時にインゴット1が移動する方向側)から見た場合に、インゴット1の側壁11の形状は、図4や図5に示した中心軸10を中心としてワイヤ7の延在方向において対称になっている。そのため、図6に示すようにインゴット1を一度に複数枚の基板へとスライスする場合に、インゴット1をスライスしている各ワイヤ7について上述のような関係が成り立つ。具体的には、図4に示した距離aに対応する図6の距離eと、図4の距離bに対応する図6の距離fとは同じに保たれる。また、同様に図6の距離gと距離hとも同一に保たれる。
【0025】
このようにすれば、1回の切断工程(S20)により得られる複数の化合物半導体単結晶基板20において、良好な形状精度を実現できる。そして、上述した切断工程(S20)を実施した後、切り出された各化合物半導体単結晶基板20について端面処理や表面の研摩処理、洗浄処理などを行なうことにより、本発明による化合物半導体単結晶基板を得ることができる。
【0026】
ここで、図2および図3に示したように治具を用いてインゴット1を固定した場合、特に図3に示すようにインゴット1の傾斜した側壁11においてワイヤ7が最初に切込む場合には、ワイヤ7の切込み方向(図3の下向き方向)に対してインゴット1の側壁11が傾斜しているため、ワイヤ7の切込み時にワイヤ7の位置がずれる(ワイヤ7がうねる)場合があった。これは、ワイヤ7の切込み方向とインゴット1の側壁11の方向とが図3に示すように傾斜している(たとえば54.7°だけ傾斜している)ため、ワイヤ7がうまくインゴット1の側壁11に噛み込めないことに起因する。したがって、このようなワイヤ7の切込み時の初期におけるうねりを防止するため、たとえば図8に示すようにインゴット1の側壁11の上部(つまりワイヤ7が最初に接触するインゴット1の表面)に上部補助板15を配置してもよい。図8を参照して、インゴットを固定する治具の変形例を説明する。なお、図8は図3に対応する。
【0027】
図8に示すように、インゴット1の側壁11の上側に、上部補助板15を配置する。上部補助板15は、インゴット1の側壁11と対向する面が、当該側壁11と同じ方向に延びるような傾斜面となっている一方、その上部表面は、インゴット1の上部に配置したときに、切断用治具2の上部表面と平行になる(すなわち水平方向に延びる)ように形成されている。このようにすれば、ワイヤ7が上部補助板15の上部表面に切込む場合には、当該上部表面が水平方向に延びている(傾斜していない)ため、ワイヤ7がうねるといった問題の発生を抑制できる。
【0028】
なお、下部補助板3、側面補助板4、上部補助板15はそれぞれ任意の材料で形成することができるが、好ましくはカーボンを用いることができる。カーボンは、価格が安くまた加工が容易であるためこのような治具の材料として適している。
【0029】
ここで、本発明の実施の形態として上述した化合物半導体単結晶基板の製造方法の効果を説明するため、比較例として、ワイヤソーの切断方向に対してインゴットの向きを90°回転させた場合を考える。図9および図10を参照して、本発明の比較例である化合物半導体単結晶基板の製造方法では、図1に示したインゴット準備工程(S10)と同様の形状であるインゴット101を準備する。そして、当該インゴット101を、切断用治具102上に固定する。このとき、切断用治具102の上部表面上には直方体状の下部補助板103が配置され、この下部補助板103上に当該インゴット101が配置されている。インゴット101のフリー面113は、下部補助板103の上部表面に対して垂直な方向に延びるように、インゴット101が配置されている。つまり、インゴット101の側壁が下部補助板103の上部表面に接触するように、インゴット101は配置されている。そして、このインゴット101の端面112を挟むように、側面補助板104が配置されている。
【0030】
このようなインゴット101を、図1に示した切断工程(S20)と同様に、ワイヤソーを用いて切断する。この場合、図11および図12に示すように、切断用治具102上に配置されたインゴット101の、切断時にワイヤ7が延びる方向に沿った方向での中心軸110(具体的には、図9に示したインゴット101の幅方向の中央を通り、切断用治具102の上部表面に垂直な線分)を考える。当該中心軸110が、図4〜図6に示した本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法の場合と同様にガイドローラ5、6の中心線8、9の間の中間点を通るようにインゴット101を配置する。この場合、図11に示すように、インゴット101の切断時にインゴット101の表面と、ガイドローラ5側のワイヤ7がガイドローラ5の表面から離れる位置(すなわち上述した中心線8の位置)との間の距離a(すなわちインゴット101のガイドローラ5側に位置するワイヤ7の長さ)は、インゴット101の表面と、ガイドローラ6の表面からワイヤ7が離れる位置(すなわち中心線9の位置)との間の距離b(インゴット101のガイドローラ6側に位置するワイヤ7の長さ)と比較してインゴット101の切断時においてほとんどの場合その長さが異なった状態となる。たとえば、図12に示すように、インゴット101の切断工程の別の時点においても、図11に示した距離aに対応する図12の距離cと、図11の距離bに対応する図12の距離dとは異なっている。つまり、上記距離aと距離bとの比(a/b)または距離cと距離dとの比(c/d)は、インゴット101の切断が進むにつれて順次変わっていく。
【0031】
このようにインゴット101の左右方向で露出している(自由に移動可能な)ワイヤ7の部分の長さ(たとえば図11の距離aおよび距離b)が異なると、切断された基板の表面形状に悪影響を及ぼす。すなわち、インゴット101の左右方向で露出しているワイヤ7の部分の長さが長いほどワイヤ7のたわみが大きくなり得る。そして、図11に示すようにインゴット101の左右において自由に移動可能なワイヤ7の部分の長さに対応する距離aと距離bとが異なるということは、インゴット101の左右におけるワイヤ7とインゴット101との接触部における接触角度や圧力条件などが異なることを意味する。さらに、図11と図12とを比較すればわかるように、インゴット101の切断が進むにつれて、インゴット101の左右における露出したワイヤ7の長さ(たとえば図11の距離aおよび距離b)が変化することから、上述した接触角度や圧力条件なども切断が進むにつれて順次変化することになる。この結果、切り出された基板の表面性状やそりなどの特性がばらつくことになる。
【0032】
また、図13に示すように、本発明の比較例による化合物半導体単結晶基板の製造方法では、一度にインゴット101を複数枚の基板へスライスする場合においても、インゴット101の左右方向において露出したワイヤ7の長さの比(たとえば距離e/距離f)がインゴットの場所によって異なっている。具体的には、図13のインゴット101の厚み方向における一方端側での距離eと距離fとの比と、当該厚み方向における他方端での距離gと距離hとの比とは異なる値となっている。このため、インゴット101の厚み方向においても、得られる基板の撓みや表面状態が基板ごとに異なる。
【0033】
一方、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法によれば、図4〜図7を参照して説明したように良好な形状精度の化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。
【0034】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
【0035】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板の製造方法は、水平ボート法を用いて形成された化合物半導体単結晶からなるインゴット1を準備する工程(インゴット準備(S10))と、当該インゴット1を治具(切断用治具2、下部補助板3、側面補助板4)により固定する工程(インゴット準備工程(S10))と、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いてスライスする工程(切断工程(S20))とを備える。インゴット準備工程(S10)では、(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する。切断工程(S20)では、治具により固定されたインゴット1を、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、ワイヤソーのワイヤ7を(01−1)方向に往復に送りながら、治具により固定されたインゴット1をワイヤ7の往復方向と直行する方向に上昇させてスライスする。
【0036】
このようにすれば、水平ボート法を用いて形成されたインゴット1を、切断用治具2、下部補助板3、側面補助板4などの治具で固定したうえで、ワイヤソーを用いて当該インゴット1をスライスするので、従来より薄い化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。また、ワイヤソーを用いてインゴット1をスライスするため、従来の内周刃切断機などを用いた場合より切り代を小さくできる。このため、1つのインゴット1から切り出せる化合物半導体単結晶基板20の枚数を増やすことができるので、当該化合物半導体単結晶基板20の製造コストを低減できる。
【0037】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、スライスする工程(切断工程(S20))では、1対のローラ(ガイドローラ5、6)の間に張られたワイヤソー(ワイヤ7)を用いてもよい。さらに、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法では、1対のガイドローラ5、6の間の中間点を通るとともにワイヤソー(ワイヤ7)の延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面(図4において中心軸10を通り紙面に垂直な平面)を対称面とした面対称にインゴット1の外形がなるように、インゴット1が配置された状態で切断工程(S20)が実施されてもよい。
【0038】
この場合、1対のガイドローラ5、6とインゴット1との間において、インゴット1の左右にそれぞれ位置するワイヤ7の部分の長さ(図4の距離aおよび距離b)を同じにできるので、当該ワイヤ7の部分におけるたわみ量もインゴット1の左右においてほぼ同じにすることができる。この結果、インゴット1から切り出された化合物半導体単結晶基板20の、ワイヤソーのたわみに起因する形状不良(たとえばそり)を低減することができる。
【0039】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、治具により固定する工程(インゴット準備工程(S10))では、スライスする工程(切断工程(S20))の開始時点にてワイヤソー(図8のワイヤ7)と対向するインゴット1の表面上に補助部材(上部補助板15)が配置されてもよい。また、スライスする工程(切断工程(S20))において、インゴット1に対してワイヤ7が近づくように相対的に移動するときに上部補助板15においてワイヤ7と最初に接触する面は、ワイヤ7の延在方向に沿うとともにワイヤ7の移動方向(図7における下向きの方向)に対して垂直な面と平行になっていてもよい。
【0040】
この場合、切断工程(S20)の開始時に、当該上部補助板15にワイヤ7が接触したときに、ワイヤ7が上部補助板15の表面に位置ずれすることなく切り込むことができる。このため、ワイヤ7の切り込み時における位置ずれに起因する化合物半導体単結晶基板20の形状不良(たとえば化合物半導体単結晶基板20の厚みのばらつきやそり)の発生を抑制できる。
【0041】
上記化合物半導体単結晶基板の製造方法において、インゴット1は、結晶成長時に容器と接触しないフリー面13を含んでいてもよく、スライスする工程(切断工程(S20))において、図2〜図5に示すようにインゴット1の当該フリー面13がワイヤソー(ワイヤ7)の延在方向に沿った方向に伸びるように、インゴット1は配置されていてもよい。この場合、厚みのばらつきやそりの発生が少ない化合物半導体単結晶基板20を得ることができる。
【0042】
この発明に従った化合物半導体単結晶基板20は、上記化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造されたものである。このようにすれば、従来よりも厚みが薄く、低コストの化合物半導体単結晶基板20を実現できる。
【0043】
上記化合物半導体単結晶基板20は、厚みが300μm以下であってもよい。この場合、従来の内周刃切断機を用いてインゴット1をスライスすることにより得られる化合物半導体単結晶基板より化合物半導体単結晶基板20の厚みを薄くできるため、1つのインゴット1から得られる化合物半導体単結晶基板20の数を従来の内周刃切断機を用いた場合より多くできる。つまり、低コストの化合物半導体単結晶基板20が得られる。
【0044】
上記化合物半導体単結晶基板20は、そりが15μm以下であってもよい。この場合、良好な平坦性を有するために、その主表面に高品質な半導体層をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0045】
(実験例)
本発明の効果を確認するため以下のような実験を行なった。
【0046】
(試料)
本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法の実施例として、図2および図3に示すようにGaAs結晶のインゴットを切断用治具2上に固定した。なお、当該インゴットのサイズは、図3に示したインゴットの端面12の高さが70mmであり、図2に示したインゴットの幅が75mmである。
【0047】
また、比較例として、同じ形状およびサイズのGaAs結晶からなるインゴットを、図9および図10に示すような形態で切断用治具102上に固定した。
【0048】
(実験条件)
上述した切断用治具上に固定されたインゴットを、ワイヤソーを用いてスライスした。なお、ワイヤソーによるスライスの条件としては、以下のような条件を用いた。すなわち、設備としては株式会社安永製のU400を用い、ワイヤ(ソーワイヤ)としてはブラスめっきφ120μmソーワイヤを用いた。また、スラリー(砥液)の組成については、含有される砥粒がGC#1200、オイルが油性オイル、砥粒とオイルとの配合比がオイル1リットルに対して砥粒1.111kgとした。また、加工速度を150μm/min、ワイヤ送り量を15m/min、ワイヤ平均線速を320m/minとした。
【0049】
そして、スライスして得られた基板のそり量を測定した。なお、そり量の測定方法は、JISB0610に規定するろ波最大うねりWCMの測定方法に従った。
【0050】
(結果)
測定結果を図14に示す。図14に示したグラフの横軸はインゴットにおいて基板が採取された位置(インゴット位置)を示しており、縦軸はそり量(単位:μm)を示している。また、グラフ中の丸印が本発明の実施例の試料に関するデータであり、四角印が比較例の試料に関するデータである。なお、横軸のインゴット位置は、図3に示したインゴット1(または図10に示したインゴット101)の端面12(図10に示した端面112)の一方からの厚み方向での位置を示している。
【0051】
図14からわかるように、本発明の実施例の試料に関するそりの値は、全体として比較例の試料に関するそりの値より小さくなっていることがわかる。つまり、本発明による化合物半導体単結晶基板の製造方法によれば、得られた基板のそりがインゴットの位置のほぼ全体にわたって比較例の方法を用いた場合よりも低減されている。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、特に水平ボート法により形成されたインゴットを用いた化合物半導体単結晶基板の製造方法に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0054】
1,101 インゴット、2,102 切断用治具、3,103 下部補助板、4,104 側面補助板、5,6 ガイドローラ、7 ワイヤ、8,9 中心線、10,110 中心軸、11 側壁、12,112 端面、13,113 フリー面、15 上部補助板、20 化合物半導体単結晶基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する工程と、
前記インゴットを治具により固定する工程と、
前記治具により固定された前記インゴットを、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、前記ワイヤソーのワイヤを(01−1)方向に往復に送りながら、前記治具により固定された前記インゴットを前記ワイヤの往復方向と直行する方向に上昇させて、スライスする工程とを備える、化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記スライスする工程では、1対のローラの間に張られた前記ワイヤを用い、さらに、
前記1対のローラの間の中間点を通るとともに前記ワイヤの延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面を対称面とした面対称に前記インゴットの外形がなるように、前記インゴットが配置された状態で前記スライスする工程が実施される、請求項1に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記治具により固定する工程では、前記スライスする工程の開始時点にて前記ワイヤと対向する前記インゴットの表面上に補助部材が配置され、
前記スライスする工程において、前記インゴットに対して前記ワイヤが近づくように相対的に移動するときに前記補助部材において前記ワイヤと最初に接触する面は、前記ワイヤの延在方向に沿うとともに前記ワイヤの移動方向に対して垂直な面と平行になっている、請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記インゴットは、結晶成長時に容器と接触しないフリー面を含み、
前記スライスする工程において、前記インゴットの前記フリー面が前記ワイヤソーの延在方向に沿った方向に伸びるように、前記インゴットは配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造された化合物半導体単結晶基板。
【請求項6】
厚みが300μm以下である、請求項5に記載の化合物半導体単結晶基板。
【請求項7】
そりが15μm以下である、請求項5または6に記載の化合物半導体単結晶基板。
【請求項1】
(111)方向に水平ボート法を用いて形成された化合物半導体からなる単結晶インゴットを準備する工程と、
前記インゴットを治具により固定する工程と、
前記治具により固定された前記インゴットを、ワイヤソーを用いて(100)±7°または(511)±7°の面方位で、前記ワイヤソーのワイヤを(01−1)方向に往復に送りながら、前記治具により固定された前記インゴットを前記ワイヤの往復方向と直行する方向に上昇させて、スライスする工程とを備える、化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記スライスする工程では、1対のローラの間に張られた前記ワイヤを用い、さらに、
前記1対のローラの間の中間点を通るとともに前記ワイヤの延在方向に対して垂直な方向に伸びる平面を対称面とした面対称に前記インゴットの外形がなるように、前記インゴットが配置された状態で前記スライスする工程が実施される、請求項1に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記治具により固定する工程では、前記スライスする工程の開始時点にて前記ワイヤと対向する前記インゴットの表面上に補助部材が配置され、
前記スライスする工程において、前記インゴットに対して前記ワイヤが近づくように相対的に移動するときに前記補助部材において前記ワイヤと最初に接触する面は、前記ワイヤの延在方向に沿うとともに前記ワイヤの移動方向に対して垂直な面と平行になっている、請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記インゴットは、結晶成長時に容器と接触しないフリー面を含み、
前記スライスする工程において、前記インゴットの前記フリー面が前記ワイヤソーの延在方向に沿った方向に伸びるように、前記インゴットは配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物半導体単結晶基板の製造方法を用いて製造された化合物半導体単結晶基板。
【請求項6】
厚みが300μm以下である、請求項5に記載の化合物半導体単結晶基板。
【請求項7】
そりが15μm以下である、請求項5または6に記載の化合物半導体単結晶基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−231079(P2012−231079A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99605(P2011−99605)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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