説明

化学的固着のための方法

本発明は、化学的固着のための樹脂組成物の使用であって、樹脂組成物が、少なくとも以下:a.チオール含有成分、ならびにb.以下:i.非芳香族炭素二重結合部分、およびii.エポキシド部分からなる群より選択される1つ以上の反応性部分を含有する樹脂、ならびに開始剤を含む、使用に関する。好ましくは、樹脂組成物は、希釈剤、より好ましくは反応性希釈剤をさらに含む。さらに、本発明はまた、常温硬化による化学的固着のための、多成分系、好ましくは、その1成分がチオール基含有成分を含有する二成分系の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、化学的固着のための方法に関する。より詳細には、本発明は、チオール基含有成分を含有する樹脂組成物を使用する化学的固着のための方法に関する。さらに、本発明はまた、化学的固着システムにおけるこのような樹脂組成物の使用、および常温硬化による化学的固着システムにおける、その1つの成分がチオール基含有成分を含有する二成分系の使用に関する。
【0002】
本明細書中で意味される場合、化学的固着は、固着要素(anchoring element)、例えば、タイバー(tie bar)、ダボ(dowel)、ロックボルト(rock bolt)、ネジ、例えばボアホール(bore hole)中のアンカーロッド(anchor rod)、天然石および人工石の化学的固定を指す。エポキシドに基づきそしてアミンで硬化される樹脂組成物を使用する化学的固着方法が公知である。例えば、EP 1118628号明細書およびEP 0974610号明細書が参照され得る。このような従来技術の樹脂組成物は、硬化されると、低収縮等の多くの望ましい特性を示し、このためそれらは特大の穿孔について有用である。さらに、硬化時に、抽出物の量は少ない。しかし、これらの樹脂は、室温では非常にゆっくりとしか硬化せず、そして低温では全く硬化しない。これらの樹脂組成物のさらなる欠点は、使用されるアミンが毒性であると一般的に考えられているという事実である。
【0003】
室温および室温未満の温度での不十分な速さでの硬化というこの問題は、メタクリレートに基づく樹脂組成物を使用することによって克服されている。例えば、EP 0713015号明細書およびEP 0761792号明細書が参照され得る。EP 0761792号明細書によれば、室温で、数分程度での迅速な硬化ゲル化時間が達成され得る。しかし、化学的固着のためのこれらのメタクリレートに基づく樹脂組成物は、硬化時に、相当な収縮および比較的多い量の抽出物を示す。
【0004】
したがって、迅速に硬化し、低収縮を与え、かつ、少量の抽出物を生じさせる樹脂組成物を使用しての化学的固着方法についての長年にわたる切実な要求がある。
【0005】
化学的固着におけるこれらの問題は、今回、意外にも、少なくとも以下を含む樹脂組成物の使用によって克服された:
a.チオール含有成分、ならびに
b.以下:
(i)非芳香族炭素二重結合部分、
(ii)エポキシド部分、
からなる群より選択される1つ以上の反応性部分を含有する樹脂、ならびに
c.開始剤。
【0006】
このような樹脂組成物は、有利なことに、固着要素、例えば、タイバー、ダボ、ロックボルト、ネジ、例えばボアホール中のアンカーロッド、天然石および人工石の化学的固定のための結合剤として使用され得ることがわかった。
【0007】
好ましくは、樹脂組成物は、希釈剤、より好ましくは反応性希釈剤をさらに含む。希釈剤は、例えば、その取り扱いをより容易にするために、樹脂組成物の粘度の調節に適用される。さらに、希釈剤が樹脂中の反応性部分と反応性である基を含有する場合、硬化生成物における架橋の調節が達成され得る。このような場合、希釈剤は反応性希釈剤と呼ばれる。反応性希釈剤は、全ての種類のこのような反応性基を含有し得るが、反応性基はまた樹脂中の反応性部分と同一であってもよい。
【0008】
本発明の文脈において使用され得る好適な反応性希釈剤の例は、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、ノルボルナジエン、エポキシシクロヘキサン、エポキシシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エポキシエチルノルボルネン、シクロヘキサンジエポキシド等である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、化学的固着のために使用される樹脂組成物は、多成分系、好ましくは二成分系(A+B)として適用される。
【0010】
多成分系、特に二成分系の使用は、現在、化学的固着適用において周知である。しかし、本特許出願においてこのような使用について今回教示されるような樹脂系は、そこで使用されていない。
【0011】
種々の官能基(即ち、チオール含有成分中に存在するようなチオール官能基、ならびに樹脂中および必要に応じて反応性希釈剤中に存在するような反応性部分)は、多成分系にわたって種々の様式で分離され得る。二成分系について、以下の実施形態が、即ち、以下のいずれかであるものが、本発明によれば好ましい:
a.A成分がチオール含有成分および樹脂を含有し、そしてB成分が開始剤を含有する、または
b.A成分がチオール含有成分を含有し、そしてB成分が開始剤および樹脂を含有する、または
c.A成分が樹脂を含有し、そしてB成分が開始剤およびチオール含有成分を含有し、
ここで、任意の希釈剤が、樹脂を含有する成分中に存在する。
【0012】
多くのチオール含有成分が、本発明に従って適切に使用され得る。これらの成分は、芳香族フェノール、例えば、チオフェノールおよびその誘導体であり得るが、脂肪族チオールもまた使用され得る。好ましくは、樹脂組成物のチオール含有成分中のチオールは、脂肪族チオールである。
【0013】
特に有用であるのは、モノアルコール、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオールおよび他のポリオールとのα−メルカプトアセテートまたはβ−メルカプトプロピオネートのエステルである。α−メルカプトアセテートまたはβ−メルカプトプロピオネートで官能化されているアルコール基は、ポリマーの一部であり得る。アルコールの混合物もまた使用され得る。
【0014】
最も好ましくは、脂肪族チオールは、α−メルカプトアセテートまたはβ−メルカプトプロピオネート、あるいはそれらの誘導体または混合物である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、樹脂組成物中のチオール含有成分のチオール官能基は、≧2、より好ましくは≧3である。
【0016】
3つ以上のチオール官能性を有する、特に好適なチオールは、トリメチロールプロパントリス−メルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリス−メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラ−メルカプトアセテート、ペンタエリスリトールテトラ−メルカプトプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサ−(3−メルカプトプロピオネート)、グリセロールトリス−(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ−メルカプトアセテート、トリビニルシクロヘキシルポリメルカプタン、トリチオシアヌル酸、およびそれらのエトキシ化またはプロポキシ化誘導体である。
【0017】
チオール含有成分と組み合わせて使用される樹脂は、多種多様の樹脂より選択され得る。樹脂が240〜10,000、好ましくは<7,000、より好ましくは<5,000の分子量Mnを有する場合、化学的固着において良好な結果が達成される。樹脂が500〜7,000、より好ましくは1,000〜5,000の分子量Mnを有する場合、なおより好ましい。
【0018】
チオール含有成分中のチオールと樹脂中に含有される反応性部分との分子比(molecular ratio)が、3:1〜1:5、好ましくは1.5:1〜1:2、より好ましくは約1:1の範囲内にあることがさらに好ましい。当業者は、化学的固着において本発明に従って適用される任意の所定の組成物についてのこのような比の最適条件を容易に決定し得る。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、樹脂組成物中の反応性部分は、非芳香族炭素二重結合部分である。
【0020】
本発明に従う化学的固着のために使用される樹脂組成物中のこのような非芳香族炭素二重結合部分を含有する成分は、当業者に公知の全てのエチレン性不飽和ポリマー、例えば、アクリレート官能性樹脂、メタクリレート官能性樹脂、アリル官能性樹脂、ビニル官能性樹脂、ノルボルネン官能性樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択され得る。
【0021】
構造的適用のための不飽和ポリエステル樹脂の例は、M.Malikら、J.M.S.−Rev.Macromol.Chem.Phys.、C40(2および3)、139−165頁(2000年)による総説において見られ得、彼らは、それらの構造に基づいて、5つのグループでのこのような樹脂の分類を記載している:(1)オルト樹脂;(2)イソ−樹脂;(3)ビスフェノール−A−フマレート;(4)クロレンド酸系(chlorendics)、および(5)ビニルエステル樹脂。これらの種類の樹脂に加えて、いわゆるジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂も区別され得る。多くのこのような不飽和ポリエステルは、大規模に市販されている。
【0022】
好ましくは、非芳香族炭素二重結合部分は、アリル、ビニル、(メタ)アクリル酸性、フマル酸性、マレイン酸性、イタコン酸性、クロトン酸性、または桂皮酸性二重結合部分、またはそれらのディールス・アルダー付加物の群より選択されるか、あるいはノルボルネン誘導体または任意の他の二環式二重結合分子中に存在する。
【0023】
ディールス・アルダー付加物がブタジエンまたはシクロペンタジエンとの付加物である場合、特に良好な結果が達成される。これらの中でも、シクロペンタジエンとのディールス・アルダー付加物が最も好ましい。非芳香族炭素二重結合部分を含有する成分がディールス・アルダー付加物である場合、それは、非芳香族炭素二重結合部分を含有する出発樹脂に対してディールス・アルダー付加物形成反応を行うことによって調製され得る。しかし、あるいは、それは、樹脂調製のための出発材料としてのモノマー化合物由来のディールス・アルダー付加物を使用することによって調製され得る。特に、ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(マレイン酸およびシクロペンタジエンのディールス・アルダー付加物)、または樹脂中のマレイン酸基と形成される対応のディールス・アルダー付加物が適用される。その場合、このような樹脂は、HIMIC樹脂と呼ばれ得る。最も好ましくは、ディールス・アルダー付加物は、樹脂の骨格中に組み込まれる。
【0024】
本発明の最も好ましい実施形態の1つにおいて、非芳香族炭素二重結合は、アリル性二重結合部分であるか、またはノルボルネン誘導体中に存在する。
【0025】
わかりやすくするために、ノルボルネン誘導体の好適な例は、好都合なことに式1によって記載され得、
【化1】


式中、基R、R、RおよびRの各々は、独立して、例えば、水素、カルボキシレート、ニトリル、アルキル基、アルケニル基、アリール基、および/またはこのような基の置換された誘導体の群より選択され得、あるいはこのような基の2つ以上がさらなる環構造を形成してもよく、あるいはこのような基のいずれもがポリマー残基の一部である。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、樹脂はエポキシド部分を含有し、そして開始剤はpK≧11を有する塩基を含む。
【0027】
pK≧11を有する塩基は、好ましくはアミンである。本発明の文脈において適用され得る好適なアミンは、例えば、1,4−ジアザビシクロ−[2,2,2]−オクタン(DABCO)、テトラキスジメチルアミノエチレン;アミジン類、例えば、アミジン、アミジノベンズアミド、1,8−ジアザビシクロ−[5,4,0]−ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ−[4,3,0]−ノナ−5−エン(DBN)、グアニジン類、例えば、カルバミジン、テトラメチルグアニジン、ホスファゼン類(例えば、P−t−BuおよびP−t−Octとして公知の化合物)、ならびにそれらの誘導体である。
【0028】
したがって、本発明のこの好ましい実施形態において、pK≧11を有する塩基は、アミン、より好ましくはアミジン類およびグアニジン類およびホスファゼン類の群より選択されるアミンである。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、樹脂は非芳香族炭素二重結合部分を含有し、そして開始剤はラジカル発生剤である。
【0030】
より好ましくは、ラジカル発生剤は過酸化物を含有する。化学的固着を達成するための反応の開始のために使用される過酸化物は、不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂の硬化において使用されることについて当業者に公知の任意の過酸化物であり得る。このような過酸化物としては、固体または液体に関わらず、有機および無機化酸化物が挙げられ;過酸化水素も適用され得る。好適な過酸化物の例は、例えば、ペルオキシカーボネート(式−OC(O)O−のもの)、ペルオキシエステル(式−C(O)OO−のもの)、ジアシルペルオキシド(式−C(O)OOC(O)−のもの)、ジアルキルペルオキシド(式−OO−のもの)等である。それらはまた、性質がオリゴマー性またはポリマー性であり得る。好適な過酸化物の例の多数のシリーズは、例えば、米国特許出願公開第2002/0091214−A1号明細書、段落[0018]に見られ得る。当業者は、過酸化物製造者によって与えられる指示書において、過酸化物を扱う際に払われるべき注意点および過酸化物についての情報を容易に得ることができる。
【0031】
好ましくは、過酸化物は、有機過酸化物の群より選択される。好適な有機過酸化物の例は以下である:第3級アルキルヒドロペルオキシド(例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド等)、および他のヒドロキシペルオキシド(例えば、クメンヒドロペルオキシド等)、ケトンペルオキシドの群によって形成される特定のクラスのヒドロペルオキシド(例えば、メチルエチルケトンペルオキシドおよびアセチルアセトンペルオキシド等)、ペルオキシエステルまたは過酸(例えば、t−ブチルペルエステル、過酸化ベンゾイル、ペルアセテートおよびペルベンゾエート、ラウリルペルオキシド、((ジ)ペルオキシエステルを含む)等)、ペルエーテル(例えば、ペルオキシジエチルエーテル等)。しばしば、硬化剤として使用される有機過酸化物は、第3級ペルエステルまたは第3級ヒドロキシペルオキシド、即ち、−OO−アシルまたは−OOH基へ直接結合された第3級炭素原子を有するペルオキシ化合物)である。明らかなことに、これらの過酸化物と他の過酸化物との混合物もまた、本発明の文脈において使用され得る。過酸化物はまた、混合過酸化物(mixed peroxides)、即ち、1つの分子に任意の2つの異なる過酸素(peroxygen)保有部分を含有する過酸化物であり得る。固体過酸化物が硬化のために使用される場合、該過酸化物は、好ましくは過酸化ベンゾイル(BPO)である。
【0032】
好ましくは、過酸化物は、好ましくは、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルエーテル(perether)、ペルエステル(perester)またはペルアンヒドリド(peranhydride)である。
【0033】
本発明に従う化学的固着のために使用される樹脂組成物の保存安定性は、樹脂組成物が1つ以上の阻害剤をさらに含む場合(そしてこれが好ましい)に改善される。好ましくは、阻害剤の少なくとも1つは、フェノール化合物、N−オキシル化合物またはニトロソ化合物より選択される。
【0034】
本発明に従う化学的固着のための方法において使用され得る阻害剤の好適な例は、例えば以下である:2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリス−ジメチルアミノメチルフェノール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−メチレンジ−p−クレゾール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、カテコール、4−t−ブチルカテコール、4,6−ジ−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、メチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、ナフトキノン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(TEMPOLとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン(TEMPONとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−カルボキシル−ピペリジン(4−カルボキシ−TEMPOとも呼ばれる化合物)、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチル−3−カルボキシルピロリジン(3−カルボキシ−PROXYLとも呼ばれる)、アルミニウム−N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、フェノチアジンならびに/あるいはこれらの化合物の誘導体または任意の組み合わせ。
【0035】
本発明に従う化学的固着のために使用される樹脂組成物中において、充填剤もまた存在し得る。これらの充填剤は、化学的固着における使用のための多成分系の成分のいずれか中に存在し得る。したがって、本発明の別の実施形態によれば、成分の少なくとも1つは、1つ以上の充填剤をさらに含む。
【0036】
これらに限られないが、例えば、シリカ、砂、セメント、顔料等の、多種多様の充填剤が、適用され得る。セメントが充填剤として使用される場合、希釈剤として水を使用することも好ましく、そしてその場合、水は、特に、セメントを含有しない成分中に存在するべきである。
【0037】
本発明は、さらに、常温硬化による化学的固着のための、その1つの成分がチオール基含有成分を含有する二成分系の使用に関する。
【0038】
本明細書中で意味される場合、用語「常温硬化」は、周囲温度での硬化、およびまた、室温よりも低い(例えば、約−15℃まで下がる)温度での硬化に関する。
【0039】
最後に、本発明は、上述の樹脂組成物を孔、例えばボアホールに挿入すること、および固着要素をそこに挿入することを含む、化学的固着のための方法に関する。
【0040】
本発明は、以下の実施例によって、それらに限定されることなく、さらに例示される。
【0041】
[実験パート]
標準的なゲル化時間装置によって硬化をモニタリングした。このモニタリングは、ゲル化時間(Tgel=それぞれ、大抵の実施例についてのT25−>35℃、実施例2におけるT−10−>35℃)およびピーク時間(Tpeak=それぞれ、T25−>peak、実施例2におけるT−10−>peak)の両方が、実施例および比較例において示される開始系での樹脂の硬化の際に、DIN 16945の方法に従う発熱測定によって測定されたことを意味するように意図される。したがって、使用した装置は、PeakproソフトウエアパッケージおよびNational Instrumentsハードウエアを備える、Soformゲルタイマーであった。使用した水浴およびサーモスタットは、それぞれ、Haake W26、およびHaake DL30であった。5℃未満の温度では、水浴の代わりにクライオスタットを使用した。
【0042】
硬化前後の密度の測定のために50mlピクノメーターを使用して、収縮測定を行った。
【0043】
5gのサンプルを粉砕し、そして粉砕されたサンプルを60時間THFでのSoxhlet抽出へ供することによって、抽出測定を行った。
【0044】
コンクリート(B35)中130mmの設定深さで、M14穿孔(直径14mm)およびM12アンカー(クラス10.6スチール、直径12mm)を用い、ETAG 001に従って、破壊荷重(fail load)の測定を行った。1日後、室温(20℃)でアンカーを引き抜いた。
【0045】
実験パートにおいて使用される略語:
TAIC=イソシアヌル酸トリアリル(TAICROSS,Degussa,Hanau,Germany)
TAIC−M=トリメタリルイソシアヌレート(TAICROSS−M,Degussa,Hanau,Germany)
V=促進剤VN−2(Akzo Nobel,Arnhem,NL)
Mn=ミネラルスピリット中のエチルへキサン酸マンガン(6%Mn)Elementis,Delden,NL)
TC=Trigonox C(Akzo Nobel,Arnhem,NL)
T239= Trigonox 239(Akzo Nobel,Arnhem,NL)
M50=Butanox M50(Akzo Nobel,Arnhem,NL)
CH50=Perkadox CH50 L(Akzo Nobel,Arnhem,NL)
DIPT=ジイソプロパノール−p−トルイジン(BASF,Germany)
SH=ペンタエリスリトールテトラメルカプトプロピオネート(Bruno Bock,Marschacht,Germany)
TEMPOL=4−ヒドロキシ−2,2,6,6 テトラメチルピペリジン−1−オキシル(Degussa,Hanau,Germany)
HPMA=ヒドロキシプロピルメタクリレート
BDDMA=ブタンジオールジメタクリレート
DCPD=ジシクロペンタジエン
DBU=ジアザビシクロウンデセン
TMG=テトラメチルグアニジン
DETA=ジエチレントリアミン
DMPT=ジメチル−パラ−トルイジン
CD540=エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(Cray Valley,France)。
【0046】
[樹脂Aの合成]
メカニカルスターラーおよびDean Stark設備を備えた2l反応容器に、335gトリメチロールプロパン、742gクロトン酸、2g Fascat 4101および55gトルエンを入れた。反応混合物を加熱還流し、そして水を26時間共沸除去した(removed azeotropic)。次に、トルエンおよび過剰量のクロトン酸を蒸留除去し、2の酸価を有する樹脂が得られた。この樹脂を165℃へ加熱し、そして反応温度を165〜180℃に維持しながら、570g DCPDを5時間徐々に添加した。添加完了後、反応をさらに2時間170℃で維持し、その後、2時間真空を適用し(15mbar)、その後、1の酸価を有する樹脂Aが得られた。
【0047】
[樹脂Bの合成]
メカニカルスターラーおよびDean Stark設備を備えた2l反応容器に、272gペンタエリスリトール、10.6g p−トルエンスルホン酸、1.1gジ−tert−ブチルヒドロキノン、1.1g Ultranox 626(Ciba,Basel,Switzerland)、791gクロトン酸および213gトルエンを入れた。反応混合物を加熱還流し、そして水を26時間共沸除去した。次に、7.5gトリメチロールプロパンオキセタンを添加し、そして反応混合物を100℃でさらに1時間撹拌し、その後、トルエンおよび過剰量のクロトン酸を蒸留除去した。この樹脂を170℃へ加熱し、そして反応温度を165〜180℃に維持しながら、630g DCPDを5時間徐々に添加した。添加完了後、反応をさらに2時間170℃で維持し、その後、2時間真空を適用し(15mbar)、その後、1の酸価を有する樹脂Bが得られた。
【0048】
[樹脂Cの合成]
メカニカルスターラーおよびDean Stark設備を備えた1l反応容器に、134gトリメチロールプロパンおよび29g無水マレイン酸を入れた。この混合物を14時間200℃へ加熱した後、混合物を100℃へ冷却し、そして60gトルエンおよび3g Fascat 4101を添加し、その後、混合物をさらに2時間還流温度に維持した。次に、260gのクロトン酸を添加した。反応混合物を加熱還流し、そして水を26時間共沸除去した。次に、トルエンおよび過剰量のクロトン酸を蒸留除去し、3の酸価を有する樹脂が得られた。この樹脂を165℃へ加熱し、そして反応温度を165〜180℃に維持しながら、180g DCPDを5時間徐々に添加した。添加完了後、反応をさらに2時間170℃で維持し、その後、2時間真空を適用し(15mbar)、その後、1の酸価を有する樹脂Cが得られた。
【0049】
[樹脂Dの合成]
300g DCPDおよび700g TAICを、2l高圧反応容器(Premex HPM−P)に入れた。閉じる前に反応容器を窒素で3回洗い流した。反応容器を閉じ、そして180℃へ加熱し、その間、圧力は2.5barへ上昇した。反応混合物をさらに6時間180℃で撹拌し、その後、反応混合物を室温まで冷却させた。樹脂を1lフラスコへ移し、そして過剰量のDCPDを真空下160℃で除去し、0の酸価を有する樹脂Dが得られた。
【0050】
[樹脂Eの合成]
メカニカルスターラーおよび還流凝縮器(reflux condensor)を備えた反応フラスコへ、125gトリメチロールプロパンジアリルエーテル(TMPDE80,Perstorp)および0.15gジブチル錫ジラウレートを入れ、そして60℃へ加熱した。次に、温度を75℃未満に維持しながら、72.7gイソホロンジイソシアネートを徐々に添加した。次に、反応混合物をさらに2時間撹拌し、その後、それを室温まで冷却し、0の酸価を有する樹脂Eが得られた。
【0051】
[樹脂Fの合成]
メカニカルスターラーおよび還流凝縮器を備えた反応フラスコへ、150gトリメチロールプロパンジアリルエーテル(TMPDE90,Perstorp)および0.2gジブチル錫ジラウレートを入れ、そして60℃へ加熱した。次に、温度を75℃未満に維持しながら、58gイソホロンジイソシアネートを徐々に添加した。続いて、反応混合物をさらに2時間撹拌し、その後、それを室温まで冷却し、0の酸価を有する樹脂Fが得られた。
【0052】
[樹脂Gの合成]
400g DCPDおよび500g TAICを、2l高圧反応器(Premex HPM−P)へ入れた。閉じる前に反応容器を窒素で3回洗い流した。反応容器を閉じ、そして180℃へ加熱し、その間、圧力は2.5barへ上昇した。反応混合物をさらに6時間180℃で撹拌し、その後、反応混合物を室温まで冷却させた。樹脂を1lフラスコへ移し、そして過剰量のDCPDを真空下160℃で除去し、0の酸価を有する樹脂Gが得られた。
【0053】
[樹脂Hの合成]
メカニカルスターラーおよびDean Stark設備を備えた2l反応容器に、402gトリメチロールプロパン、147g無水マレイン酸および1.1gジブチルヒドロキノンを入れた。この混合物を2時間100℃へ加熱した後、218gトルエン、10.9g p−トルエンスルホン酸および541gクロトン酸を添加した。反応混合物を加熱還流し、そして水を28時間共沸除去した。次に、7.7gトリメチロールプロパンオキセタンを添加し、そして混合物を100℃でさらに1時間撹拌した。次いで、トルエンおよび過剰量のクロトン酸を蒸留除去し、黄色がかった樹脂が得られた。この樹脂を165℃へ加熱し、そして反応温度を165〜180℃に維持しながら、550g DCPDを8時間徐々に添加した。添加完了後、反応をさらに2時間170℃で維持し、その後、2時間真空を適用し(15mbar)、その後、約4の酸価を有する樹脂Hが得られた。
【0054】
[メタクリレート樹脂Iの合成(EP 0713015号明細書の方法と類似する方法による)]
575g MDIおよび0.3gジブチル錫ジラウレートが入れられた撹拌されている反応容器へ、温度が60℃を超えない速度で71gジプロピレングリコールを添加した。60℃で30分間撹拌した後、792g HPMAを添加し、そして温度が90℃へ上昇した。90℃で2時間撹拌した後、混合物を室温へ冷却し、そして767g BDDMAを添加した。
【0055】
[硬化実験]
[実施例1.1〜1.28]
表1に示されるように、所定量の樹脂を所定量のチオールおよび阻害剤と混合した。5分間撹拌した後、開始系を添加し、そして硬化をゲルタイマーでモニタリングした。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
これらの実施例は、種々の過酸化物と共に、そして種々の促進剤および広範囲の量の多くの阻害剤を使用して、本発明に従う多種多様の樹脂組成物が使用され得ることを実証している。
【0060】
実施例1.8は、過酸化物を添加しなくても、開始が達成され得ることをさらに実証している。実施例1.5は、促進剤を添加しなくても硬化がまた行われ得ることを実証している。
【0061】
[実施例2.1および2.2]
チオールとしてペンタエリスリトールテトラメルカプトプロピオネートを使用し、かつ阻害剤を含む樹脂組成物を調製し、そして−10℃へ冷却した。その後、同様に−10℃へ冷却された促進剤溶液および過酸化物を添加した。−10℃の浴温でゲルタイマー装置を使用して、硬化をモニタリングした。
【0062】
結果を表2に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
これらの実施例は、本発明に従う組成物が低温での硬化のために適用され得ることを示している。
【0065】
[実施例3]
200ppm Tempolで阻害された、120g SHおよび80g TAICの組成物を調製し、そして各々100gの2つの部分へ分けた。これらの100g部分の1番目を1% Vおよび2% TCで硬化させ、以下の硬化特徴が得られた:Tgel=53分、Tpeak=56分、ピーク温度=192℃。他方の部分へ、5gの水を添加し、続いて5分間撹拌し、その後、1% Vおよび2% TCを添加し、以下の硬化特徴が得られた:Tgel=38分、Tpeak=41分、ピーク温度=165℃。
【0066】
これらの結果は、十分な硬化が湿潤条件下でも行われ得ることを明確に示している。
【0067】
[実施例4.1〜4.5]
ペンタエリスリトールテトラメルカプトプロピオネートおよびEpon 828(Resolution,Amsterdam,NL)の組成物を調製した。5分間混合後、開始系を添加し、そして硬化をゲル化時間装置でモニタリングした。結果を表3に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
これらの実施例は、チオールが、エポキシドと組み合わせての硬化について、本発明に従って使用され得ることを明確に実証している。
【0070】
[実施例5および比較例A]
実施例5において、一連の4mmキャスティングを、100ppm TEMPOLを含有する60/40 チオール/TIAC混合物から調製し、これを1% VN−2および2% Trigonox Cで硬化した。
【0071】
比較例Aにおいて、一連の4mmキャスティングを、0.45% Tempolを含有するメタクリレート樹脂Iから調製し、これを4% CH50および1.7% DIPTで硬化した。
【0072】
キャスティングの結果(5つのキャスティングについての平均値)を以下の表に示す。
【0073】
【表6】

【0074】
この実施例および比較実験は、本発明に従いそしてチオールを含有する組成物を使用する場合、より少ない量の抽出物およびより少ない量の収縮を明確に実証している。
【0075】
[実施例6.1〜6.7]
下記の組成物を引き抜き試験(pull−out tests)のために調製した。
【0076】
【表7】

【0077】
比較のために、EP 0713015号明細書に従う25℃での破壊荷重は約50kNであると引用されることが注意されるべきである。
【0078】
さらなる比較のために、市販の化学的固着システム(HILTIHIT−HY150)を評価し、そして破壊荷重は約65kNであった。
【0079】
さらに、約70kNの破壊荷重で、コンクリートは完全に破壊されたことが注意されるべきであり、コンクリートはアンカーの強度よりも弱いことを示している。
【0080】
これらの実験は、本発明に従う組成物が化学的固着に好適であることを明確に実証している。
【0081】
引き抜かれたアンカーの外観検査によって、本発明に従う化学的固着システムを使用した場合、アンカーはコンクリートで完全にカバーされ、一方、市販のシステムにおいて、アンカーは、約70%までしかカバーされず、残りの30%はアンカーの露出したスチールであったことが明らかとなった。この事実は、本発明に従うシステムが、スチールならびにコンクリートの両方に対してより十分な接着を有することを示している(現在の市販のシステムと比較した場合)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的固着のための樹脂組成物の使用であって、前記樹脂組成物が、少なくとも以下:
a.チオール含有成分、ならびに
b.以下:
i.非芳香族炭素二重結合部分、および
ii.エポキシド部分、
からなる群より選択される1つ以上の反応性部分を含有する樹脂、ならびに
c.開始剤
を含む、使用。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、希釈剤、好ましくは反応性希釈剤をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、多成分系、好ましくは二成分系(A+B)として適用される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
a.前記A成分が前記チオール含有成分および前記樹脂を含有し、そして前記B成分が前記開始剤を含有する、または
b.前記A成分が前記チオール含有成分を含有し、そして前記B成分が前記開始剤および前記樹脂を含有する、または
c.前記A成分が前記樹脂を含有し、そして前記B成分が前記開始剤および前記チオール含有成分を含有し、
d.前記任意の希釈剤が、前記樹脂を含有する成分中に存在する
のうちのいずれかである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記樹脂組成物の前記チオール含有成分のチオールが脂肪族チオールである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記脂肪族チオールが、α−メルカプトアセテートまたはβ−メルカプトプロピオネート、あるいはそれらの誘導体または混合物である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記樹脂組成物中の前記チオール含有成分のチオール官能基が、≧2、より好ましくは≧3である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記樹脂が、240〜10,000、好ましくは<7,000、より好ましくは<5,000の分子量Mnを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記樹脂が、500〜7,000、より好ましくは1,000〜5,000の分子量Mnを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記チオール含有成分中のチオールと前記樹脂中に含有される反応性部分との分子比(molecular ratio)が、3:1〜1:5、好ましくは1.5:1〜1:2、より好ましくは約1:1の範囲内にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記樹脂組成物中の反応性部分が非芳香族炭素二重結合部分である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記非芳香族炭素二重結合部分が、アリル、ビニル、(メタ)アクリル酸性、フマル酸性、マレイン酸性、イタコン酸性、クロトン酸性、または桂皮酸性二重結合部分、またはそれらのディールス・アルダー付加物の群より選択されるか、あるいはノルボルネン誘導体または任意の他の二環式二重結合分子中に存在する、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記非芳香族炭素二重結合部分が、アリル性二重結合部分であるか、またはノルボルネン誘導体中に存在する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
a.前記樹脂がエポキシド部分を含有し、そして
b.前記開始剤がpK≧11を有する塩基を含む、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記pK≧11を有する塩基が、アミン、より好ましくはアミジン類およびグアニジン類およびホスファゼン類の群より選択されるアミンである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
a.前記樹脂が非芳香族炭素二重結合部分を含有し、そして
b.前記開始剤がラジカル発生剤である、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記ラジカル発生剤が過酸化物を含有する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記過酸化物が、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルエーテル、ペルエステルまたはペルアンヒドリドである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記樹脂組成物が1つ以上の阻害剤をさらに含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記阻害剤の少なくとも1つが、フェノール化合物、N−オキシル化合物またはニトロソ化合物より選択される、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記成分の少なくとも1つが1つ以上の充填剤をさらに含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
常温硬化による化学的固着のための、その1つの成分がチオール基含有成分を含有する二成分系の使用。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれか一項に記載の樹脂組成物を孔に挿入すること、および固着要素をそこに挿入することを含む、化学的固着のための方法。

【公表番号】特表2009−510240(P2009−510240A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533936(P2008−533936)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009637
【国際公開番号】WO2007/042199
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】