説明

半導体デバイス用洗浄剤及びそれを用いた半導体デバイスの洗浄方法

【課題】半導体デバイス製造工程における平坦化研磨工程後の洗浄工程に用いられる洗浄剤であって、半導体デバイス表面、特に、表面に銅配線が施された半導体デバイスの表面に存在する有機物汚染やパーティクル汚染を、銅配線の腐蝕を引き起こすことなく効果的に除去しうる洗浄剤及びそれを用いた洗浄方法を提供すること。
【解決手段】1分子中にカルボキシル基を2つ有する有機酸と1分子中にカルボキシル基を3つ以上有する有機酸を洗浄剤成分として用い、更に特定のアミノポリカルボン酸を用いることにより、銅配線の腐蝕を引き起こすことなく、半導体デバイスの表面に存在する有機物汚染やパーティクル汚染を効果的に除去しうる効果を達成しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造工程における化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:以後「CMP」と呼ぶ)による平坦化工程後の半導体デバイスの洗浄に使用される洗浄剤及びそれを用いた半導体デバイスの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプロセッサー、メモリー、CCDなどの半導体デバイスや、TFT液晶などのフラットパネルディスプレイデバイスの製造工程では、シリコンや酸化シリコン(SiO2)、ガラス等の基板表面に10〜100nm程度の微細な寸法でパターン形成や薄膜形成を行っており、製造の各工程において該基板表面の微量な汚染を低減することが極めて重要な課題となっている。基板表面の汚染の中でも特にパーティクル汚染、有機物汚染及び金属汚染はデバイスの電気的特性や歩留まりを低下させるため、次工程に持ち込む前に極力低減する必要がある。このような汚染の除去には、洗浄液による基板表面の洗浄が一般的に行われている。この洗浄には、高清浄な表面を、副作用なしで、短時間で再現性よく、低コストで洗浄することが求められる。そして、この要求レベルは、近年のデバイスの高集積化、低価格化と共に益々厳しくなっている。
【0003】
半導体集積回路(以下LSIと記す)で代表される半導体デバイスの製造においては、基板上に絶縁膜や金属膜等の層を多層積層した多層積層構造が形成される。近年、デバイスの高速化・高集積化のために、配線として抵抗値の低い新金属材料(Cu等)、層間絶縁膜として低誘電率(Low−k)材料、即ち、比誘電率が3.5〜2.0程度の低誘電率層間膜(例えば、有機ポリマー系、メチル基含有シリカ系、H−Si含有シリカ系、SiOF系、ポーラスシリカ系、ポーラス有機系等)等を含む層間絶縁膜(ILD膜)や配線に用いられる銅などの金属膜を堆積後、生じた凹凸をCMPによって平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな配線を積み重ねて行く工程が一般に行われる。工程間の洗浄には、従来は、酸性若しくはアルカリ性溶液と過酸化水素とを混合したRCA洗浄が用いられてきたが、これらの洗浄剤によれば、絶縁膜上に付着した除去すべき不動態としての酸化銅のみならず、配線の金属銅をも溶解してしまい、配線の腐蝕や断線を引き起こす懸念があり好ましくない。また、低誘電率絶縁膜の多くは表面が疎水性のため、洗浄液をはじいてしまうので洗浄が困難である。さらにCMP工程後の洗浄においては、CMPに使用するスラリー(研磨粒子)が配線や低誘電率絶縁膜の表面に残存し、汚染するという問題があった。
【0004】
研磨工程後に半導体デバイス表面に付着、残存したパーティクルの除去には、半導体表面とパーティクルとが静電的に反発し合うアルカリ性の洗浄剤が一般に有効であるとされており、例えば、特定の界面活性剤とアルカリ又は有機酸を含む洗浄剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、銅配線を施した半導体デバイス表面の腐蝕や酸化の防止には、カルボキシル基を複数有する成分を用いることが有効であるとされており、例えば、カルボキシル基を1以上有する有機酸、有機アルカリ、及び、界面活性剤を添加した洗浄剤(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
しかし、これらの洗浄剤においては、基板表面に付着した被研磨体に起因する金属や基板材料、さらには有機物残渣や砥粒微粒子などを、効率よく除去するといった観点からなお改良の余地があった。
特に、疎水性の低誘電率絶縁膜や、銅配線を施した半導体デバイス表面を、銅配線の腐蝕や酸化を抑制しつつ、かつ、表面の不純物を効果的に除去しうる洗浄剤が求められているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−289060号公報
【特許文献2】特開2005−260213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、半導体デバイス製造工程における平坦化研磨工程後の洗浄工程に用いられる洗浄剤であって、半導体デバイス表面、特に、表面に銅配線が施された半導体デバイスの表面に存在する有機物汚染やパーティクル汚染を、銅配線の腐蝕を引き起こすことなく効果的に除去しうる洗浄剤及びそれを用いた洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のCMP工程後に用いられる洗浄剤に係る問題点について鋭意検討した結果、1分子中にカルボキシル基を2つ有する有機酸と1分子中にカルボキシル基を3つ以上有する有機酸を洗浄剤成分として用い、更に特定のアミノポリカルボン酸を用いることにより、問題を解決できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
表面に銅配線が施された半導体デバイスの化学的機械的研磨工程の後に用いられる洗浄剤であって、
(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸、
(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸、及び
(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸
を含有する上記洗浄剤、
に関する。
【0009】
なお、本発明の洗浄剤が適用される被洗浄物である半導体デバイスは、半導体デバイス製造工程における化学的機械的研磨工程に付された基板であり、基材表面に金属配線が形成された単層基板、その表面に層間絶縁膜などを介して配線が形成されてなる多層配線基板のいずれでもよいが、本発明は、特に金属配線や低誘電率(Low−k)絶縁膜などを表面の一部あるいは全面に有する半導体デバイス用基板の洗浄に有用である。
【0010】
特に(A)1分子中にカルボキシル基2つ有する有機酸は比較的高濃度で高い洗浄効果を有し、(B)1分子中にカルボキシル基3つ以上有する有機酸は比較的低濃度で高い洗浄効果を有し、更に(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸は洗浄効果と腐食抑制効果を併せて有する。本発明では有機酸として、1分子中にカルボキシル基2つ有する有機酸と1分子中にカルボキシル基3つ以上有する有機酸とアミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸を組合わせて用いる事により、希釈後の洗浄液濃度においても、銅配線の腐蝕を引き起こすことなく、半導体デバイスの表面に存在する有機物汚染やパーティクル汚染を効果的に除去しうる効果を達成しうるものと推定している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半導体デバイス製造工程における平坦化研磨工程後の洗浄工程に用いられる洗浄剤であって、半導体デバイス表面、特に、表面に銅配線が施された半導体デバイスの表面に存在する有機物汚染、パーティクル汚染を、銅配線の腐蝕を引き起こすことなく効果的に除去することができ、基板表面を高清浄化しうる洗浄剤及びそれを用いた洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の具体的態様について説明する。
本発明の洗浄剤は、(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸、(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸、及び(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸、を含有することを特徴とし、半導体デバイス製造工程における化学的機械的研磨工程の後に、半導体デバイス、特に表面に銅配線が施されたデバイス表面を洗浄するのに好適に使用される。
以下、本発明の洗浄剤に含まれる各成分について順次説明する。
【0013】
(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸
本発明の洗浄剤に含まれる第一の成分は、1分子中にアミノ基を含まずカルボキシル基を2つ有する有機酸である。アミノ基を含まず、とは
【化1】

で表される構造が分子中に存在しないことを意味する。カルボキシル基は−COOHで表される基を意味する。
【0014】
そのような有機酸としては、従来公知の様々な有機酸を挙げることができるが、本発明において特に有用な1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸は、分子量が160以下程度のものが挙げられる。また、ヒドロキシル基を含有していることもしくは二重結合を含有していることが好ましい。
1分子中にカルボキシル基を2つ有する有機酸としては、以下の群から選ばれたものが特に適しており好ましい:シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸等のジカルボン酸類、酒石酸、リンゴ酸などのオキシポリカルボン酸類、及びそれらのアンモニウム塩や金属塩などが挙げられる。
【0015】
金属塩としては、Na塩、K塩等のアルカリ金属、Ca塩、Mg塩等のアルカリ土類金属の塩などが挙げられる。
本発明の効果の観点から特に好ましくはリンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、シュウ酸または酒石酸が挙げられる。
(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸は、本発明の洗浄剤組成物全容量に対して、0.001〜3.5、好ましくは0.003〜0.1モル/L程度で含まれることが好ましい。
【0016】
(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸
本発明の洗浄剤に含まれる(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸としては、従来公知の様々な有機酸を挙げることができるが、本発明において特に有用なそのような有機酸は、分子量は400以下程度のものが挙げられる。また、他の官能基はヒドロキシル基であることが好ましい。
1分子中にカルボキシル基を3つ以上有し、かつアミノ基を有さない有機酸の好ましい例としては式1で表される有機酸を挙げることができる。
【0017】
【化2】

(1)
ここで、X1及びX2は、水素原子もしくはカルボキシル基を置換基としてもつアルキル基であり、更にX1とX2が結合して環を形成しても良い。R1、R2、及びR3は、水素原子、アルキル基もしくはヒドロキシル基である。
【0018】
上記X1及びX2の表す“カルボキシル基を置換基としてもつアルキル基”としては、少なくとも一つのカルボキシル基を置換基として有する炭素数1〜4の直鎖あるいは分岐鎖アルキル基が挙げられる。好ましくは1〜3のカルボキシル基を置換基として有する炭素数1〜4の直鎖あるいは分岐鎖アルキル基である。
上記R1、R2、及びR3の表すアルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖あるいは分岐鎖アルキル基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜3の直鎖あるいは分岐鎖アルキル基である。
X1とX2が結合して形成する環とは、R1〜R3がそれぞれ結合する3つの炭素原子を含めて形成される環を意味し、好ましくは5〜7員環のシクロアルキル基が挙げられる。前記シクロアルキル基は更にカルボキシル基を置換基として有していてもよい。
【0019】
1分子中にカルボキシル基を3つ以上有し、かつアミノ基を有さない有機酸の具体的な好ましい例としては、以下の群から選ばれたものが挙げられる。
クエン酸、イソクエン酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、トリカルバリン酸、trans−アコニット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、フラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸など、さらには、これらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩などが挙げられる。
特に好ましくはクエン酸である。
【0020】
本発明の洗浄剤に含まれる(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸のモル濃度の、(A)アミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸のモル濃度に対する比(B)/(A)は1.0以下であることが好ましい。銅配線の腐食を引き起こすことなく有機物汚染、パーティクル汚染を効果的に除去することができるからである。これは(A)1分子中にカルボキシル基2つ有する有機酸は比較的高濃度で高い洗浄効果を有するのに対して、(B)1分子中にカルボキシル基3つ以上有する有機酸は比較的低濃度で高い洗浄効果を有するためと考えられる。
更に0.1〜0.7以下であることが好ましく、0.25〜0.7であることが最も好ましい。
【0021】
また、(B)前記1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸の含有量は、1〜20mmol/Lであることが好ましく、5〜15mmol/Lであることがさらに好ましい。(B)1分子中にカルボキシル基3つ以上有する有機酸の添加量をさらに増やしてもさらに得られる洗浄効果は低いためである。
【0022】
<有機酸>
本発明の洗浄剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、及び溶媒としての水に加えて、(A)1分子中にカルボキシル基2つ有する有機酸及び(B)1分子中にカルボキシル基3つ以上有する有機酸以外の有機酸を含有してもよい。
なお、本発明における有機酸とは、水中で酸性(pH<7)を示す有機化合物であって、カルボキシル基、スルホ基、フェノール性ヒドロキシル基、メルカプト基等の酸性の官能基を分子内に少なくとも1つ有する有機化合物を指す。
【0023】
有機酸としては、以下の群から選ばれたものが適している。
ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、乳酸など、さらには、これらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0024】
本発明の洗浄剤において、有機酸は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。本発明の洗浄剤における有機酸の含有量は、化合物の溶解度にもよるが、洗浄液1L中0.001質量%〜30質量%が好ましく、0.01質量%〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜3質量%がさらに好ましい。
【0025】
(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸
本発明の洗浄剤は、洗浄効果と腐食抑制効果を併せて与えるこができる(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸を含有する。
ここで、アミノ基とは
【化3】

で表される構造を意味する
【0026】
アミノポリカルボン酸は好ましくは2つ以上のアミノ基を有することが好ましく、更にカルボキシル基を3つ以上有することが好ましい。錯安定度定数が高く、腐食抑制効果が高いためである。
アミノポリカルボン酸の分子量は300以上であることが好ましく、更に350以上であることが好ましい。分子量300以上のアミノポリカルボン酸は腐食抑制効果が高いためである。分子量の上限は特に無いが、溶解性の観点からは500以下が好ましく、更に好ましくは450以下であり、より好ましくは400以下である。
アミノポリカルボン酸の添加量は洗浄剤中に、5ppm〜10000ppm程度、好ましくは30〜5000ppmである。
【0027】
(C)成分の具体例としては、イミノ二酢酸(IDA)、N-(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA−OH)等を挙げることができ、さらには、これらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩等を挙げることが出来る。
【0028】
特に、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA−OH)が、腐食抑制の観点から好ましい。
【0029】
<その他の成分>
本発明の洗浄剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、目的に応じて種々の化合物を任意成分として併用することができる。以下、任意成分である添加剤について述べる。なお、添加剤としては、界面活性剤、不動態膜形成剤などが挙げられる。
【0030】
(界面活性剤)
本発明の洗浄剤には、界面活性剤を含有することができる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩が挙げられ、カルボン酸塩として、石鹸、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド;スルホン酸塩として、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩;硫酸エステル塩として、硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩;リン酸エステル塩として、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンアルキルアリルエーテルリン酸塩を挙げることができる。
【0031】
また、本発明における好ましいアニオン性界面活性剤としては、分子中に芳香族環構造を少なくとも1つ有するものが挙げられ、芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環等が挙げられる。
【0032】
本発明に好適に用いうるアニオン性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルナフタレンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、フェノールスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、アリールフェノールスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、等が挙げられる。
上記に列挙したアニオン性界面活性剤において、芳香族環に導入されるアルキル基としては、直鎖型及び分岐型のいずれであってもよく、炭素数2〜30(好ましくは、炭素数3〜22)のアルキル基が好ましく、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。該アルキル基は直鎖型及び分岐型のいずれであってもよい。
また、これらのアニオン性界面活性剤が塩構造を採る場合、該塩構造としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
これらアニオン性界面活性剤のより具体的な例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸、ジフェニルエーテルジスルフォン酸、プロピルナフタレンスルフォン酸、プロピルナフタレンスルフォン酸、トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸アンモニウムが挙げられる。
【0033】
本発明に用いうるアニオン性界面活性剤の他の例としては、分子内に芳香環構造に加えて、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、フルオロアルキル基、アセチレン基、水酸基などの置換基をさらに有する界面活性剤が挙げられ、そのより具体的な例としては、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルフォスフェート、フェノールスルホン酸ホルマリン縮合物等が挙げられる。
【0034】
上記したアニオン性界面活性剤の中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルフォスフェートがより好ましい。
【0035】
アニオン性界面活性剤としては市販品を用いてもよく、例えば、ペレックスNBL(アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、花王(株)製)、ネオペレックスGS(ドデシルベンゼンスルホン酸、花王(株)製)、ネオペレックスGS‐15(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、花王(株)製)、ペレックスSS-L(アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、花王(株)製)、デモールNL(β‐ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、花王(株)製)等を好適に用いることができる。
これらアニオン性界面活性剤は、本発明の洗浄剤に1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0036】
本発明に使用しうる界面活性剤の他の好ましい例としてノニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型が挙げられ、エーテル型として、ポリオキシエチレンアルキルおよびアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが挙げられ、エーテルエステル型として、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、エステル型として、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、ショ糖エステル、含窒素型として、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が例示される。
その他に、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
複数種の界面活性剤を含有する場合、2種以上のアニオン性界面活性剤を用いてもよく、また、アニオン性界面活性剤とノニオン系界面活性剤を組み合わせて用いることもできる。
本発明の洗浄剤における界面活性剤の含有量は、総量として、洗浄剤の1L中、0.001〜10gとすることが好ましく、0.01〜1gとすることがより好ましく0.02〜0.5gとすることが特に好ましい。
【0038】
<不動態膜形成剤>
本発明の洗浄剤は、不動態膜形成剤を含有してもよい。
不動態膜形成剤は、腐食速度を制御する不動態膜を形成しうる化合物であり、例えば、複素環化合物が挙げられる。
【0039】
「複素環化合物」とはヘテロ原子を1個以上含んだ複素環を有する化合物である。ヘテロ原子とは、炭素原子、又は水素原子以外の原子を意味する。複素環とはヘテロ原子を少なくとも一つ持つ環状化合物を意味する。ヘテロ原子は複素環の環系の構成部分を形成する原子のみを意味し、環系に対して外部に位置していたり、少なくとも一つの非共役単結合により環系から分離していたり、環系のさらなる置換基の一部分であるような原子は意味しない。
ヘテロ原子として好ましくは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、リン原子、ケイ素原子、及びホウ素原子であり、さらに好ましくは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、及びセレン原子であり、特に好ましくは、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子であり、最も好ましくは窒素原子、及び硫黄原子である。
【0040】
本発明で用いる複素環化合物は、へテロ原子を4個以上有するのが好ましく、3個以上の窒素原子を有するのがより好ましく、4個以上の窒素原子を有するのが特に好ましい。
【0041】
本発明で用いる複素環化合物の複素環の環員数は特に限定されず、単環化合物であっても縮合環を有する多環化合物であっても良い。
単環の場合の員数は、好ましくは5〜7であり、特に好ましくは5である。縮合環を有する場合の環数は、好ましくは2または3である。
【0042】
これらの複素環として、具体的には以下のものが挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
例えば、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ナフトイミダゾール環、ベンズトリアゾール環、テトラアザインデン環等が挙げられ、より好ましくはトリアゾール環、テトラゾール環が挙げられる。
【0043】
複素環化合物に導入しうる置換基としては、例えばハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、ヘテロ環基が挙げられる。
さらに、複数の置換基のうち2以上が互いに結合して環を形成してもよく、例えば、芳香環、脂肪族炭化水素環、複素環などを形成することもできる。
【0044】
本発明で特に好ましく用いることができる複素環化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。
すなわち、1,2,3,4−テトラゾール、5−アミノ−1,2,3,4−テトラゾール、5−メチル−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノ−1,2,3−トリアゾール、4,5−ジアミノ−1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、5−アミノ−ベンゾトリアゾールである。
本発明で用いる複素環化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明で用いる複素環化合物の添加量は、総量として、研磨に使用する際の洗浄剤の1L中、0.0001〜0.5molが好ましく、より好ましくは0.0005〜0.4mol、更に好ましくは0.002〜0.3molである。
【0046】
〔pH〕
本発明の洗浄剤のpHには、特に制限はなく、pH0.5〜12程度の範囲において、洗浄対象となるデバイスの特性、除去しようとする不純物の種類などにより、適宜選択して調整することができるが、酸性であることが好ましく、更に4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下である。有機物残渣除去性に優れ、絶縁層へのダメージが少ないためである。
pH値は、洗浄剤を調整した際に好ましい範囲であればそのまま使用してもよく、洗浄液調製後に目的とするpHに制御する必要がある場合には、有機酸や有機アルカリ剤などを添加することにより容易に調整することができる。なお、洗浄剤のpH調製には、一般的なpH調整剤、例えば、酸では硝酸、硫酸などの無機酸、アルカリでは水酸化カリウム、アンモニアなどを使用することも可能であるが、銅配線や基材表面への影響を考慮すれば、上記の如き一般的なpH調整剤は使用せず、有機酸や有機アルカリ剤、具体的には、例えば、蓚酸、水酸化テトラメチルアンモニウムなどによりpHを調整することが好ましい。
【0047】
本発明の洗浄剤は、表面に金属又は金属化合物層、或いは、これらで形成された配線を有する半導体デバイス用基板の洗浄に好適に使用される。本発明の洗浄剤は、銅配線に対して腐蝕や酸化を生じさせる懸念がないことから、銅配線を表面に有する半導体デバイス用基板の洗浄に特に好適に使用することができる。
【0048】
以下、本発明の半導体デバイスの洗浄方法について説明する。
<洗浄方法>
本発明の半導体デバイスの洗浄方法は、前記本発明の洗浄剤を用いることを特徴とするものであり、半導体デバイス製造における化学的機械的研磨工程(CMP工程)に引き続いて実施されるものである。
【0049】
通常、CMP工程は、研磨液を研磨定盤上の研磨パッドに供給し、被研磨体である半導体デバイス用基板などの被研磨面と接触させて被研磨面と研磨パッドを相対運動させて研磨する工程であり、その後、実施される洗浄工程では、研磨を終了した半導体デバイス用基板を、スピンナーに配置し、洗浄剤を被研磨面及びその裏面に対し流量100〜2000ml/min.の条件で基板表面に供給し、室温にて10〜60秒間にわたり、ブラシスクラブする洗浄方法をとることが一般的である。
洗浄は、市販の洗浄槽を用いて行うこともでき、例えば、MAT社製ウェハ洗浄機(商品名:ZAB8W2M)を使用し、該装置に内蔵しているスクラブ部でPVA製ロールブラシを接触するスクラブ洗浄をすることにより行うこともできる。
【0050】
被研磨体である半導体デバイス用基板に用いられる金属としては、主としてW又はCuが挙げられる。近年、配線抵抗の低い銅を用いたLSIが開発されるようになった。
高密度化を目指す配線の微細化に伴って、銅配線の導電性や電子マイギュレート耐性などの向上が必要となり、これらの高精細で高純度の材料を汚染させることなく高生産性を発揮し得る技術が求められている。
表面にCuを有する基板、さらには、層間絶縁膜として低誘電率絶縁膜を有し、その表面に銅配線を有する基板の洗浄を行う工程としては、特に、Cu膜に対してCMPを行った後の洗浄工程、配線上の層間絶縁膜にドライエッチングによりホールを開けた後の洗浄工程が挙げられるが、これらの洗浄工程においては、表面に存在する不純物金属やパーティクル等を効率的に除去することが配線の純度、精度を保持するため特に重要であり、そのような観点から、これらの洗浄工程において本発明の洗浄剤が好適に使用される。また、既述のごとく、本発明の洗浄剤は、銅配線に対して腐蝕や酸化を生じさせることがないことから、かかる観点からも本発明の洗浄剤が好適に使用される。
また、銅配線表面に吸着した不動態膜形成剤の残渣を効率よく除去するという目的にも本発明の洗浄剤が好適に使用される。
【0051】
なお、洗浄工程における不純物除去効果を確認するため、ウェハ上の異物を検出する必要があるが、本発明においては、異物を検出する装置として、Applied Materials technology社製の欠陥検査装置ComPLUS3およびApplied Materials technology社製Review SEM観察装置、SEM vision G3が好適に用いられる。
【0052】
本発明の洗浄方法によれば、CMP工程を完了した半導体デバイス用基板の表面における不純物金属、基板材料、層間絶縁膜の研磨屑を含む不純物無機材料、不動態膜形成剤の残渣を含む有機材料、砥粒などのパーティクル等を効率よく除去することができ、特に、高精度の配線を要求されるデバイスや、単層基板の平坦化後、新たに層間絶縁膜、及び、配線を形成する多層配線基板などを平坦化する際に、各工程においてそれぞれの不純物を効率よく除去することが必要なデバイスの洗浄に好適である。さらに、半導体デバイス用基板が銅配線を有する場合においても、銅配線に腐蝕や酸化を生じさせることがない。
以下、実施例により本発明を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
<研磨液の調製>
・コロイダルシリカ(砥粒:平均粒子径30nm) 5g/L
・ベンゾトリアゾール(BTA) 1g/L
・グリシン 10g/L
純水を加えて全量1000mLとし、硝酸及びアンモニアを用いてpHを4.5に調整した。
研磨液には、研磨直前に30%過酸化水素(酸化剤)15g/Lを加えた。
【0055】
<Cuウェハの研磨>
研磨速度評価
8inch Wf研磨
研磨装置としてラップマスター社製装置「LGP−612」を使用し、下記の条件で、スラリーを供給しながら各ウェハに設けられた膜を研磨した。
基盤:8inch SEMATECH854BD銅配線パターン付きシリコンウェハ
テ−ブル回転数:64rpm
ヘッド回転数:65rpm
(加工線速度=1.0m/s)
研磨圧力:140hPa
研磨パッド:ローム アンド ハース社製
品番IC−1400(K−grv)+(A21)
スラリー供給速度:200ml/分
【0056】
<洗浄液の調製>
[実施例1]
・クエン酸〔1分子中にカルボキシル基を3つ以上有する有機酸〕 50.00g/L
・シュウ酸〔1分子中にカルボキシル基を2つ有する有機酸〕 125.00g/L
・PDTA〔アミノポリカルボン酸〕 20.00g/L
・テトラゾール〔添加剤〕 2.00g/L
上記成分を混合して洗浄液の濃縮液を調製し、これをさらに純水で希釈して実施例1の洗浄液を得た。希釈倍率は、質量比で、洗浄液:純水=1:40とした。pHは2.1であった。
【0057】
[実施例2〜14、比較例1〜4]
<洗浄液の調製>
実施例1の洗浄液の調製において、A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸、B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸、C)アミノポリカルボン酸、添加剤Bを下記表1の組成で混合し、実施例1と同様の希釈倍率で希釈した他は、実施例1と同様にして、実施例2〜14、及び比較例1〜4の洗浄液を調製した。pHはそれぞれ2.0〜11.3(実施例2〜14)、2.0〜2.3(比較例1〜4)であった。
なお、表1中、DTPAはジエチレントリアミン五酢酸(分子量393)、TTHAはテトラエチレンテトラミン六酢酸(分子量494)、PDTAは1,3−プロピレンジアミン四酢酸(分子量322)、DPTA−OHは1,3−アジミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(分子量322)である。
また、テトラゾールは1H−テトラゾール、BTAはベンズトリアゾールである。
【0058】
<洗浄試験>
上記の処方により調製された実施例1〜実施例14、及び比較例1〜比較例4の洗浄剤を使用して、前記研磨液を用いて前記条件で研磨した銅膜付きシリコン基板を洗浄することにより洗浄試験を行った。
洗浄は、MAT社製ウェハ洗浄装置、ZAB8W2Mに内蔵しているスクラブ部でPVA製ロールブラシを接触するスクラブ洗浄をすることにより行った。洗浄液は、研磨基板上側に400ml/min、下側に400ml/minで25秒間流し、その後、純水(脱イオン水)を研磨基板上側に650ml/min、下側に500ml/minで35秒間流し、更に、上記装置に内蔵しているスピンドライ装置で30秒処理した。
【0059】
<有機物残渣除去性能評価>
前記実施例1〜14及び比較例1〜4の各洗浄剤にて洗浄乾燥したCuウェハの表面に残る有機残渣の除去性能評価を行った。これら表面の状態の確認はApplied Materials technology社製の欠陥検査装置ComPLUS3を用い測定を行い、検出された欠陥からランダムに100個抽出し、Applied Materials technology社製Review SEM観察装置、SEM vision G3を用いてイメージ所得を行い、欠陥種類ごとに分類を行い、それぞれの欠陥種類の割合を求め、それぞれの欠陥種類についてウェハ上の個数を計算した。以下の基準で評価し、結果を下記表1に示す。
【0060】
−評価基準−
◎:1cm2あたりのウェハ上の有機物残渣数または腐食が、0個以上0.03個未満
○:1cm2あたりのウェハ上の有機物残渣数または腐食が、0.03個以上0.1個未満
△:1cm2あたりのウェハ上の有機物残渣数または腐食が、0.1個以上1個未満
×:1cm2あたりのウェハ上の有機物残渣数または腐食が、1個以上
【表1】

【0061】
【化4】

(I−1)(分子量249)


(I−2)(分子量205)


(I−3)(分子量205)
【0062】
表1からわかるように、CMP工程後に、(A)〜(C)の3成分を用いた実施例1〜14の洗浄剤を用いて洗浄した場合には、表面に付着した有機物残渣を効果的に洗浄、除去することができ、更に腐食を効果的に抑制できた。
他方、比較例1〜4の洗浄剤を用いた場合には、実施例1〜14の洗浄剤を用いた場合に比べ、有機物残渣の除去性に劣り、かつ銅の腐食を殆ど抑制することができなかった。このように、成分(A)あるいは(B)単独(比較例1、2)、成分(A)と(B)の組み合わせ(比較例3)では腐食を抑制する効果が殆ど見られないのに対して、(A)〜(C)の3成分を用いると腐食を効果的に抑制することができ、更に、成分(A)あるいは(B)単独(比較例1、2)あるいは成分(A)と(C)の組み合わせ(比較例4)では有機物残渣の除去性が低いのに対して、(A)〜(C)の3成分を用いると有機物残渣の除去性が高いことは、従来の知見から予測できない顕著な効果である。
また、3成分系であっても(A)と(B)のモル比(B/A)により有機物残渣の除去性が異なる現象が見られ、モル比(B/A)が1/1程度より小さいと除去性能が高くなる傾向がある(実施例1〜3)。
また、成分(C)をPDTA,DTPA,TTHA、DPTA−OH等の特定のアミノポリカルボン酸を用いることにより特に腐食抑制において優れた効果を示すことがわかる(実施例10〜14)。
以上のように、実施例1〜14の洗浄剤は、Cuウェハに施された銅配線の腐蝕抑制を維持しつつ、且つ有機物残渣の除去性に優れ、洗浄性に優れるものであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に銅配線が施された半導体デバイスの化学的機械的研磨工程の後に用いられる洗浄剤であって、
(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸、
(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸、及び
(C)アミノ基を含有し、かつカルボキシル基を2個以上有するアミノポリカルボン酸
を含有する上記洗浄剤。
【請求項2】
前記(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸が、式1で表されることを特徴とする請求項1に記載の洗浄液。
【化1】


ここで、X1及びX2は、水素原子もしくはカルボキシル基を置換基としてもつアルキル基であり、更にX1とX2が結合して環を形成しても良い。R1、R2、及びR3は、水素原子、アルキル基もしくはヒドロキシル基である。
【請求項3】
前記(A)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸が、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、シュウ酸または酒石酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸が、クエン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項5】
前記(B)1分子中にアミノ基を含まずかつカルボキシル基を3つ以上有する有機酸のモル濃度の、前記(A)アミノ基を含まずかつカルボキシル基を2つ有する有機酸のモル濃度に対する比(B)/(A)が1.0以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項6】
前記(C)アミノポリカルボン酸が、2つ以上のアミノ基及び3つ以上のカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項7】
前記(C)アミノポリカルボン酸が、分子量300以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項8】
前記(C)アミノポリカルボン酸が、ジエチレントリアミン五酢酸、テトラエチレンテトラミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸及び1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸からなる群より選択されることを特徴とする請求項6または7に記載の洗浄剤。
【請求項9】
pHが4以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の洗浄剤を使用することを特徴とする表面に銅配線の施された半導体デバイスの洗浄方法。

【公開番号】特開2010−87257(P2010−87257A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254929(P2008−254929)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】