説明

半導体基板、半導体基板の製造方法および垂直共振器面発光レーザ

【課題】垂直共振器面発光レーザ用の半導体基板の製造において、原料ガスのコストを低減する。垂直共振器面発光レーザ用の半導体基板におけるp型半導体層中のO原子混入量を適切な範囲とする。
【解決手段】p型結晶層を有する半導体基板であって、前記p型結晶層が、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなり、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む半導体基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体基板の製造方法および垂直共振器面発光レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、GaAs基板と、n型の下部DBR(Distributed Bragg Reflector)と、活性領域と、活性領域上に形成されたp型の電流狭窄層と、電流狭窄層上に形成されたp型の高濃度DBRおよびp型のDBRとを有するVCSEL(Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser)が記載されている。また特許文献1には、n型の下部DBR、p型の高濃度DBRおよびp型のDBRは、AlGaAs層からなる高屈折率層と低屈折率層の対をそれぞれ含むことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、Si単結晶基板上に、低温成長GaAs層、Si原子の拡散を抑止するためのAlGa1−xAs(x=0〜0.3)拡散抑止層、および高温成長GaAs層をこの順に積層させたGaAs基板が記載されている。ここでAlGa1−xAs拡散抑止層は、MOCVD法を用い、原料ガスのアルシン/トリメチルガリウムの圧力比を10以下として成長させることが記載されている。
特許文献1 特開2009−194103号公報
特許文献2 特開平5−234907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)の層構成に適合した半導体基板の製造において、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。MOCVD法によりGaAs層、AlGaAs層、InGaAs層、InGaAsP層等の3−5族化合物半導体結晶層を成長させる場合、3族原料ガスとして、Al、Ga、In等の3族原子を含む有機化合物が用いられる。また、5族原料ガスとして、As、P等の5族原子を含む水素化合物が用いられる。3族原料ガス供給量に対する5族原料ガス供給量のモル比(V/III比)を大きくすると、表面が平坦な結晶層を得ることができるので、一般にV/III比を大きくして結晶層を成長させる。
【0005】
しかし、V/III比が大きいと、未反応のまま排気される5族原料ガスが多くなるので、原料ガスのロスが大きくなることがある。また、Alを含む3−5族化合物半導体においてAl組成を大きくすると、p型不純物のドーピング量の制御が難しくなる。ここで、V/III比に応じて3−5族化合物半導体にp型不純物がドーピングされることがあるので、V/III比を制御してp型不純物のドーピング量を制御することも考えられる。しかし、p型不純物量のドーピング量が制御しやすい条件においては、Alを含む3−5族化合物半導体中に酸素(O)原子が混入する場合がある。
【0006】
本発明の目的は、垂直共振器面発光レーザ用の半導体基板の製造において、原料ガスのコストを低減することにある。また、本発明の目的は、垂直共振器面発光レーザ用の半導体基板におけるp型半導体層中のO原子混入量を適切な範囲とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、p型結晶層を有する半導体基板であって、前記p型結晶層が、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなり、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む半導体基板を提供する。
【0008】
前記半導体基板が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合にp型ミラー層として機能するp型積層結晶層を有してもよく、前記p型積層結晶層として、p型AlGa1−mAs(0<m≦1)からなる第1結晶層と、p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)からなる第2結晶層とを含む積層結晶層が挙げられ、前記第1結晶層が、前記p型結晶層であってもよい。前記第1結晶層として、p型AlGa1−mAs層(0.50≦m≦1.0)が挙げられる。
【0009】
本発明の第2の態様においては、p型ミラー層の少なくとも一部として機能するp型結晶層を有し、前記p型結晶層が、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなり、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む垂直共振器面発光レーザを提供する。
【0010】
本発明の第3の態様においては、半導体基板の製造方法であって、3族原料ガスと5族原料ガスとを用いたMOCVD法により垂直共振器面発光レーザに用いられた場合にp型ミラー層の少なくとも一部として機能するp型結晶層を成長する段階を有する方法を提供する。3族原料ガスは、3族原子に少なくとも1つのアルキル基が結合した3族原子のアルキル化物を含み、5族原料ガスは、5族原子の水素化物を含み、p型結晶層を成長する段階において、3族原料ガスのモル供給量に対する5族原料ガスのモル供給量の比(V/III比)を0.01以上15以下に制御する。
【0011】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】半導体基板100の断面例を示す。
【図2】垂直共振器面発光レーザ200の断面例を示す。
【図3】実施例1の半導体基板のSIMSプロファイルを示す。
【図4】比較例の半導体基板のSIMSプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、半導体基板100の断面例を示す。半導体基板100は、ベース基板102、バッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114を有する。
【0014】
ベース基板102は、その上に形成されるエピタキシャル成長層を支持する支持基板である。ベース基板102としてn型GaAs基板が挙げられる。ベース基板102にn型GaAs基板を用いる場合、n型GaAs基板の(100)面または(100)面と適当なオフ角を有する面にエピタキシャル成長層が形成される。オフ角は、たとえば2°〜10°の範囲、好ましくは5°が挙げられる。n型GaAs基板にドーピングされる不純物原子としてSi、Se、Sが挙げられる。n型GaAs基板のキャリア濃度は、1×1017cm−3〜1×1019cm−3の範囲、好ましくは1×1018cm−3〜4×1018cm−3の範囲が挙げられる。
【0015】
ベース基板102は、サファイア基板、シリコンカーバイド基板、酸化亜鉛基板、または、表面がシリコンである基板であってもよい。ここで、「表面がシリコン」とは、少なくとも基板の表面の一部がシリコンで構成されることを意味する。たとえばSiウェハのように基板全体がシリコンで構成されていてもよく、SOI(silicon−on−insulator)基板のように絶縁層の上にシリコン層を有する構造であってもよい。あるいはサファイア基板、ガラス基板、シリコンカーバイド基板、酸化亜鉛基板、GaAs基板等シリコン以外の材料からなる基板上にシリコン層が形成されたものでもよい。エピタキシャル成長層と接するベース基板102の材料が半導体である場合には、当該半導体材料にn型不純物がドーピングされていることが好ましい。ベース基板102の全部または一部がn型の伝導型を有することにより、ベース基板102に電極を接続できる。例えば半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、ベース基板102にレーザのカソード側電極を接続できる。
【0016】
バッファ層104は、ベース基板102の上にエピタキシャル成長により形成されたn型3−5族化合物半導体結晶層である。バッファ層104は、ベース基板102中の欠陥に応じて、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108などにも欠陥が形成されることを抑制する。バッファ層104としてn型GaAs層が挙げられる。バッファ層104にn型GaAs層を用いる場合、n型GaAs層の厚さは、10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。n型GaAs層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型GaAs層のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜5×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0017】
n型積層結晶層106は、バッファ層104の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のn型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。n型積層結晶層106は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、共振器の一方のミラーであるn型ミラー層として機能する。n型積層結晶層106は、例えば分布ブラッグ反射器(DBR)である。n型積層結晶層106は、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層した積層構造を複数含んでもよい。高屈折率層と低屈折率層を複数繰り返して配置することで、所定の波長の光の反射率を高くできる。
【0018】
n型積層結晶層106に含まれる低屈折率層として、n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層が挙げられる。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、当該低屈折率層に用いるn型AlGa1−qAs(0<q≦1)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)は、0.8〜1.0の範囲内であることが適切である。n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜3×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0019】
n型積層結晶層106に含まれる高屈折率層として、n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層が挙げられる。n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層のAl組成(r)をn型AlGa1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)より小さくすることで、n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層の屈折率をn型AlGa1−qAs(0<q≦1)層の屈折率より大きくできる。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、当該高屈折率層に用いるn型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層のAl組成(r)は、0.0〜0.2の範囲内(ただしn型AlGa1−qAs(0<q≦1)層のAl組成(q)より小さい)であることが適切である。n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層にドーピングされる不純物原子として、Si、Se、Sが挙げられる。n型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜3×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0020】
n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層とn型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層との間に、AlGa1−sAsのAl組成(s)を当該層の厚さ方向に連続的に変えたn型AlGa1−sAs(0≦s≦1)層を配置してもよい。n型AlGa1−qAs層とAlGa1−sAs層との界面において、Al組成(s)はAl組成(q)と略等しくてよい。n型AlGa1−rAs層とAlGa1−sAs層との界面において、Al組成(s)はAl組成(r)と略等しくてよい。Al組成(s)を連続的に変えることで、n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層およびn型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層の間の電気抵抗を低減できる。n型AlGa1−qAs(0<q≦1)層およびn型AlGa1−rAs(0≦r<1、q>r)層の繰り返し回数は、30〜60が好ましい。
【0021】
i型積層結晶層108は、n型積層結晶層106の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のi型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。i型積層結晶層108は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、活性層として機能する。i型積層結晶層108は、2つのi型AlGaAs層120がi型GaAs/AlGaAs層122を挟んで構成した積層結晶層を含む。
【0022】
i型AlGaAs層120は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、クラッド層として機能する。半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、i型AlGaAs層120の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。i型AlGaAs層120のAl組成は、0.1〜0.9の範囲内であることが適切である。厚さ方向のAl組成を連続的に変化させることによって、i型AlGaAs層120のバンドギャップエネルギが厚さ方向に連続的に変化する。
【0023】
i型GaAs/AlGaAs層122は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、発光層として機能する。i型GaAs/AlGaAs層122は、GaAs層およびAlGaAs層が交互に複数配置された量子井戸構造(MQW)を含む。量子井戸構造(MQW)は、GaAs/AlGaAs構造に代えて、InGaAs/GaAs構造、InGaAs/AlGaAs構造、GaAs/GaAsP構造、InGaAs/GaAsP構造、またはGaInNAs/GaAs構造であってもよい。
【0024】
半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、量子井戸構造(MQW)に含まれるGaAs層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。量子井戸構造(MQW)に含まれるAlGaAs層の厚さは、5nm〜12nmの範囲内であることが好ましい。当該AlGaAs層のAl組成は、0.1〜0.4の範囲内であることが適切である。GaAs層およびAlGaAs層の積層構造の繰り返し数は、2〜6の範囲内であることが適切である。
【0025】
p型AlGaAs層110は、i型積層結晶層108の上にエピタキシャル成長により形成される。p型AlGaAs層110は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に一部が酸化され、酸化狭窄層として機能する。p型AlGaAs層110の厚さは、20nm〜40nmの範囲内であることが好ましい。p型AlGaAs層110のAl組成は、0.95〜1.0の範囲内であることが適切である。p型AlGaAs層110にドーピングされる不純物原子として、C(炭素)、Znが挙げられる。p型AlGaAs層110のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜3×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0026】
p型積層結晶層112は、p型AlGaAs層110の上にエピタキシャル成長により形成された、複数のp型3−5族化合物半導体結晶層からなる積層結晶層である。p型積層結晶層112は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、共振器の他方のミラーであるp型ミラー層として機能する。p型積層結晶層112は、例えば分布ブラッグ反射器(DBR)である。p型積層結晶層112は、低屈折率層である第1結晶層130と高屈折率層である第2結晶層132とを積層した積層結晶層を含む。第1結晶層130と第2結晶層132を積層した積層構造を複数回繰り返して配置することで所定の波長の光の反射率を高くできる。
【0027】
本明細書において、第1結晶層130は、例えばp型AlGa1−mAs(0<m≦1)で表される3−5族化合物半導体からなる。第1結晶層130が本発明のp型結晶層に相当する場合、第1結晶層130は、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む。一方で、第2結晶層132は、p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)で表される3−5族化合物半導体からなる。第2結晶層132は、p型結晶層であればよく、p型不純物原子としての炭素原子、水素原子、酸素原子を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0028】
半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合、第1結晶層130に用いられるp型AlGa1−mAs(0<m≦1)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。p型AlGa1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)は、0.5〜1.0の範囲内であることが適切であり、特に0.8〜1.0の範囲内であることが好ましい。p型AlGa1−mAs(0<m≦1)層にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型AlGa1−mAs(0<m≦1)層のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜4×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0029】
第2結晶層132としてのp型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層のAl組成(n)をp型AlGa1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)より小さくすることで、p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層の屈折率をp型AlGa1−mAs(0<m≦1)層の屈折率より大きくできる。第2結晶層132にp型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層を用いる場合、p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層の厚さは、レーザに要求される発光波長帯に応じて設計される。p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層のAl組成(n)は、0.0〜0.2の範囲内(ただしp型AlGa1−mAs(0<m≦1)層のAl組成(m)より小さい)であることが適切である。p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)層のキャリア濃度は、1×1018cm−3〜4×1018cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0030】
第1結晶層130は、本発明におけるp型結晶層の一例である。すなわち、第1結晶層130は、半導体基板100に含まれる結晶層であり、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなる。第1結晶層130は、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む。第1結晶層130に含まれる水素原子の濃度は、好ましくは、4×1017cm−3以上、7×1018cm−3以下、さらに好ましくは、6×1017cm−3以上、5×1018cm−3以下である。第1結晶層130に含まれる酸素原子の濃度は、好ましくは、2×1017cm−3以上、2×1019cm−3以下、さらに好ましくは、1×1018cm−3以上、6×1018cm−3以下である。第1結晶層130に含まれる炭素原子の濃度は、通常5×1016cm−3以上、5×1020cm−3以下、好ましくは、1×1017cm−3以上、1×1020cm−3以下、さらに好ましくは、1×1018cm−3以上、1×1019cm−3以下である。
【0031】
第1結晶層130は、第2結晶層132に含まれる水素原子より多くの水素原子を含む。後に製造方法に関連して説明するように、第1結晶層130は、3族原料ガスのモル供給量に対する5族原料ガスのモル供給量の比(V/III比)が小さい条件でエピタキシャル成長させる。3族原料ガスとしてアルキル基を有する有機金属ガスを用いれば、第1結晶層130には多くの炭素が不純物としてドーピングされ、アルキル基由来の炭素とともに水素も同時に導入される。その結果、第1結晶層130には多くの水素原子を含むようになる。
【0032】
上記した製造方法により第1結晶層130を形成した場合、第1結晶層130は、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含むようになる。また、第1結晶層130は低屈折率に形成する必要からp型AlGa1−mAs層(0.50≦m≦1.0)として形成され、このようなAl組成が高い結晶層を形成する場合には第1結晶層130は酸素原子を含むようになる。すなわち、第1結晶層130は、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む。
【0033】
第1結晶層130と第2結晶層132との間に、AlGa1−sAsのAl組成(s)を連続的に変えたp型AlGa1−sAs(0≦s≦1)層を配置してもよい。Al組成(s)を連続的に変えることで、第1結晶層130と第2結晶層132の間の電気抵抗を低減できる。第1結晶層130および第2結晶層132の繰り返し回数は、10〜30が好ましい。
【0034】
p型GaAs層114は、p型積層結晶層112の上にエピタキシャル成長により形成されたp型3−5族化合物半導体結晶層である。p型GaAs層114は、他のp型半導体層を含んでもよい。p型GaAs層114は、半導体基板100が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合に、コンタクト層として機能する。p型GaAs層114の厚さは、10nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。p型GaAs層114にドーピングされる不純物原子として、C、Znが挙げられる。p型GaAs層114のキャリア濃度は、4×1019cm−3〜1×1020cm−3の範囲内であることが好ましい。
【0035】
半導体基板100の製造方法は、以下のとおりである。ベース基板102を用意し、ベース基板102上にバッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114を順次エピタキシャル成長により形成する。
【0036】
エピタキシャル成長にはMOCVD法を用いる。MOCVD法に用いる3族原料ガスは、3族原子に少なくとも1つのアルキル基が結合した3族原子のアルキル化物を含む。3族原料ガスとして、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)が挙げられる。5族原料ガスは、5族原子の水素化物を含む。5族原料ガスとして、AsH(アルシン)、PH(ホスフィン)が挙げられる。n型不純物ガスとしてSi(ジシラン)が挙げられる。エピタキシャル成長温度は、400℃〜800℃の範囲内で制御する。
【0037】
3族原料ガスおよび5族原料ガスの供給量を制御することで各結晶層の組成が制御できる。n型不純物ガスの供給量を制御することでn型不純物のドーピング量が制御できる。3族原料ガスのモル供給量に対する5族原料ガスのモル供給量の比(V/III比)が小さい場合には、3族原料ガスのアルキル基に由来する炭素原子がエピタキシャル成長層に混入する。炭素原子はp型不純物として機能するので、このようなアルキル基由来の炭素原子の混入を利用し、V/III比を制御することでエピタキシャル成長層への炭素原子すなわちp型不純物のドーピング量が制御できる。
【0038】
V/III比を小さくすれば、高価な5族原料ガスが節約でき、製造コストが低減できる。つまり、p型結晶層をエピタキシャル成長させる段階においてV/III比を小さくすることで、製造コストを低減するとともにp型不純物をドーピングすることができる。p型結晶層を成長する段階において、V/III比は、0.01以上、15.0以下に制御する。p型結晶層を成長する段階におけるV/III比は、好ましくは1.0以上、13.0以下に、さらに好ましくは5.0以上、10.0以下に制御するのがよい。また、p型結晶層を成長する段階におけるV/III比を、それぞれのn型3−5族化合物半導体結晶層を成長する段階におけるいずれのV/III比より小さくしてもよい。また、p型結晶層を成長する段階におけるV/III比を、それぞれのi型3−5族化合物半導体結晶層を成長する段階におけるいずれのV/III比より小さくしてもよい。
【0039】
なお、p型結晶層を成長する段階において、アルキル基由来の炭素原子をドーピングすることに加え、p型不純物ガスを供給することによりp型不純物をドーピングすることもできる。p型不純物ガスとしてCX4−y(ただし、Xはハロゲン原子であり、yは0以上3以下の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的にはCBrClが挙げられる。他のp型不純物ガスとしてジエチル亜鉛(DEZn)が挙げられる。p型不純物ガスを添加することにより、p型結晶層の抵抗値を小さくすることができる。
【0040】
p型結晶層として、p型積層結晶層112内の第1結晶層130が挙げられる。第1結晶層130は第2結晶層132よりAl組成を大きくする必要性があるが、Al組成を大きくするエピタキシャル条件では不純物ガスによるp型不純物のドーピング量の制御が難しくなる。しかしV/III比を小さくしてエピタキシャル成長すれば、アルキル基由来の炭素原子が第1結晶層130にドーピングされ、当該炭素原子がp型不純物として作用するので、V/III比を制御することによりp型不純物のドーピング量を容易に制御することができる。
【0041】
図2は、垂直共振器面発光レーザ200の断面例を示す。垂直共振器面発光レーザ200は、ベース基板102、バッファ層104、n型ミラー層206、活性層208、酸化狭窄層210、p型ミラー層212、コンタクト層214、電極216および酸化層218を有する。活性層208は、クラッド層220および発光層222を有する。
【0042】
n型ミラー層206、活性層208、酸化狭窄層210、p型ミラー層212およびコンタクト層214の各々は、半導体基板100のn型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114の各々がメサ加工されて形成されたものである。電極216は、コンタクト層214に接してドーナツ状に形成された金属層であり、垂直共振器面発光レーザ200のアノード電極として機能する。酸化層218は、メサ加工されたp型AlGaAs層110を横方向酸化した酸化層である。活性層208は、クラッド層220および発光層222を含み、クラッド層220および発光層222の各々は、i型AlGaAs層120およびi型GaAs/AlGaAs層122の各々がメサ加工されて形成されたものである。なお、図示は省略したが、ベース基板102の上面または下面にはカソード電極が形成される。メサ加工は、n型ミラー層206の途中、たとえばn型ミラー層206の上部数層程度の深さで停止してもよい。
【0043】
垂直共振器面発光レーザ200の製造方法は以下の通りである。半導体基板100を製造した後、バッファ層104、n型積層結晶層106、i型積層結晶層108、p型AlGaAs層110、p型積層結晶層112およびp型GaAs層114をメサ加工する。その後、メサ加工した半導体基板100を酸化雰囲気に置き、p型AlGaAs層110を横方向酸化して酸化層218を形成する。さらに電極216となる金属層を蒸着法またはスパッタ法で形成し、フォトリソグラフィ法またはリフトオフ法により金属層をパターニングして電極216を形成する。
【0044】
上記した半導体基板100によれば、V/III比を0.01以上、15.0以下に制御して第1結晶層130をエピタキシャル成長するので、第1結晶層130には、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含むとともに、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含むようになる。
【0045】
(実施例1)
ベース基板102上に、表1に示す結晶層をエピタキシャル成長させた。3族原料ガスとしてTMGおよびTMAを用いた。5族原料ガスとしてアルシンを用いた。n型不純物ガスとしてジシランを用いた。層番号2〜5のp型結晶層ではV/III比が15以下と小さいので、3族原料ガスのメチル基に由来するC原子がp型不純物になるが、p型不純物ガスも併用した。p型不純物ガスとしてCBrClを用いた。エピタキシャル成長の反応温度は、570℃〜680℃の範囲で制御した。なお、層番号3のp型AlGaAs層が第1結晶層130に相当する。層番号2のp型AlGaAs層が第2結晶層132に相当する。
【表1】

【0046】
なお、表1において水素濃度あるいは酸素濃度を(1〜2)×1018のように示しているのは、指数表記における仮数部の範囲を括弧内に示したものであり、1×1018〜2×1018の意味である。また、繰り返し数が複数である結晶層における水素濃度あるいは酸素濃度の範囲は、複数繰り返して形成した各結晶層の水素濃度あるいは酸素濃度が当該範囲内にあることを示している。表2において同様である。
【0047】
図3は、上記のようにして形成した半導体基板のSIMS(2次イオン質量分析)プロファイルを示す。図3のSIMSプロファイルは、半導体基板の表面から4500nm程度の深さ(n型ミラー層の途中)までの、Ga、Al、C、HおよびOの各濃度の深さプロファイルである。p型ミラー層における高Al組成な領域でのO濃度は、1×1018〜2×1018atoms/ccの高い値を示した。
【0048】
上記のようにして形成した半導体基板にメサ加工を施し、電極を形成して垂直共振器面発光レーザを作成したところ、正常にレーザ発振が観測された。発振のしきい値電流は0.6mAであった。スロープ効率は0.79W/Aであった。
【0049】
(比較例)
比較例として、ベース基板102の上に、表2に示す結晶層をエピタキシャル成長させた。番号2の結晶層のエピタキシャル成長におけるV/III比を31とし、番号3〜5結晶層のエピタキシャル成長におけるV/III比を106としたので、メチル基由来のC原子がp型不純物として機能する程度に混入することはない。このためp型不純物をp型不純物ガスにより供給することが必要であり、p型不純物ガスとしてDEZnを用いた。その他のエピタキシャル成長条件は実施例1の場合と同様である。
【表2】

【0050】
図4は、比較例の半導体基板のSIMS(2次イオン質量分析)プロファイルを示す。図4のSIMSプロファイルは、半導体基板の表面から4500nm程度の深さ(n型ミラー層の途中)までの、Ga、Al、C、HおよびOの各濃度の深さプロファイルである。実施例1の場合とは異なり、p型ミラー層における高Al組成な領域でのO濃度は、4×1016〜8×1016atoms/ccであり、実施例1の場合より低かった。
【0051】
上記のようにして形成した半導体基板に、実施例1と同様にメサ加工を施し、電極を形成して垂直共振器面発光レーザを作成したところ、電流上昇に伴い急速にレーザ出力が低下する不具合が多発した。また、発振のしきい値電流は0.8mAと実施例1より高く、スロープ効率は0.59W/Aと実施例1より低下した。
【符号の説明】
【0052】
100 半導体基板、102 ベース基板、104 バッファ層、106 n型積層結晶層、108 i型積層結晶層、110 p型AlGaAs層、112 p型積層結晶層、114 p型GaAs層、120 i型AlGaAs層、122 i型GaAs/AlGaAs層、130 第1結晶層、132 第2結晶層、200 垂直共振器面発光レーザ、206 n型ミラー層、208 活性層、210 酸化狭窄層、212 p型ミラー層、214 コンタクト層、216 電極、218 酸化層、220 クラッド層、222 発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型結晶層を有する半導体基板であって、
前記p型結晶層が、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなり、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む
半導体基板。
【請求項2】
前記半導体基板が垂直共振器面発光レーザに用いられた場合にp型ミラー層として機能するp型積層結晶層を有し、
前記p型積層結晶層が、p型AlGa1−mAs(0<m≦1)からなる第1結晶層と、p型AlGa1−nAs(0≦n<1、m>n)からなる第2結晶層とを含む積層結晶層であり、
前記第1結晶層が、前記p型結晶層である
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記第1結晶層が、AlGa1−mAs層(0.50≦m≦1.0)である
請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
p型ミラー層の少なくとも一部として機能するp型結晶層を有し、
前記p型結晶層が、3族原子としてアルミニウム原子を含む3−5族化合物半導体からなり、p型不純物原子として炭素原子を含み、1×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下の濃度の水素原子を含み、かつ、2×1017cm−3以上、2×1020cm−3以下の濃度の酸素原子を含む
垂直共振器面発光レーザ。
【請求項5】
半導体基板の製造方法であって、
前記方法は、3族原料ガスと5族原料ガスとを用いたMOCVD法により、垂直共振器面発光レーザに用いられた場合にp型ミラー層の少なくとも一部として機能するp型結晶層を成長する段階を有し、
前記3族原料ガスが、3族原子に少なくとも1つのアルキル基が結合した3族原子のアルキル化物を含み、
前記5族原料ガスが、5族原子の水素化物を含み、
前記p型結晶層を成長する段階において、前記3族原料ガスのモル供給量に対する前記5族原料ガスのモル供給量の比(V/III比)を0.01以上15以下に制御する
半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−134473(P2012−134473A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260379(P2011−260379)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】