説明

半導体基板の洗浄方法

【課題】溶剤の取り扱い上の危険性を解決し、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上する半導体基板の洗浄方法の提供。
【解決手段】本発明の半導体基板の洗浄方法は、炭化水素化合物、グリコールエーテル、アニオン界面活性剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(A)により、半導体基板を洗浄する第1の洗浄工程と、水により、前記半導体基板を洗浄する第2の洗浄工程と、水酸化第4級アンモニウム、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(B)により、前記半導体基板を洗浄する第3の洗浄工程と、を少なくとも含み、前記第1の洗浄工程、前記第2の洗浄工程、前記第3の洗浄工程の順に、前記半導体基板を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨処理後の半導体基板、特にGaAs、サファイアのような化合物半導体に用いられる基板から、研磨後の汚れを洗浄するための予備洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体基板は、その基板上に薄膜を形成させたものを加工し、利用されており、前記薄膜形成のためには、半導体基板表面の平坦性、及び清浄性が求められている。
【0003】
特に、発光ダイオード(LED)は、半導体基板であるサファイア基板の上に、GaN、GaAs等の薄膜結晶を形成させ、製造されている。前記薄膜結晶は、平坦、及び均一でなければ、LEDの歩留まり低下の原因となるため、前記薄膜結晶を、平坦、及び均一に成長させる必要があり、ベースとなる半導体基板であるサファイア基板の表面について、平坦性、及び高い清浄性が求められている。
【0004】
半導体基板表面の平坦性は、ワックス(蝋のような油脂の固形物)を用いて、基板を一時固定し、コロイダルシリカ等の研磨剤を用いて研磨加工することにより得られる。
また、半導体基板表面の清浄性は、前記研磨加工後の半導体基板に付着しているワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)などを洗浄することにより得られる。
【0005】
高い清浄目標を達成するために、研磨後の半導体基板の表面は、予備洗浄(プレ洗浄)、及び精密洗浄する仕上げ洗浄(ファイナル洗浄)が行われる。
例えば、半導体基板として、シリコン基板を洗浄する際には、プレ洗浄で有機溶剤を使用し、ファイナル洗浄(RCA洗浄)でアルカリ、酸、過酸化水素を使用することが提案されている。しかしながら、前記提案では、有機溶剤を使用するプレ洗浄において、半導体基板への汚れの再付着が発生するという問題や、作業安全性への不安といった問題がある。
また、ワックス除去を目的とする半導体基板洗浄剤、及び洗浄方法が提案されている(特許文献1、及び2参照)しかしながら、前記提案では、主成分が溶剤、及び界面活性剤のみからなる洗浄剤だけでは、粒子洗浄性が乏しいという問題がある。
更に、パーティクル除去を目的とする精密洗浄剤、及び洗浄方法が提案されている(特許文献3、及び4参照)。しかしながら、前記提案では、溶剤を含まない洗浄剤の使用では、ワックス除去性に乏しく、ワックスと混ざり付着しているパーティクルの除去は不十分となる問題がある。
【0006】
したがって、これらの提案(特許文献1〜4参照)では、十分満足できるレベルの清浄度を付与することは困難であり、速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−112451号公報
【特許文献2】特開平9−36078号公報
【特許文献3】特開2003−289060号公報
【特許文献4】特開2002−69492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、溶剤の取り扱い上の危険性を解決し、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上する半導体基板の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、研磨処理された半導体基板に対する仕上げ洗浄前の予備洗浄方法であって、炭化水素化合物、グリコールエーテル、アニオン界面活性剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(A)により、半導体基板を洗浄する第1の洗浄工程と、水により、前記半導体基板を洗浄する第2の洗浄工程と、水酸化第4級アンモニウム、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(B)により、前記半導体基板を洗浄する第3の洗浄工程と、を少なくとも含み、前記第1の洗浄工程、前記第2の洗浄工程、前記第3の洗浄工程の順に、前記半導体基板を洗浄することにより、溶剤の取り扱い上の危険性を解決し、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。即ち、
<1> 研磨処理された半導体基板に対する仕上げ洗浄前の予備洗浄方法であって、炭化水素化合物、グリコールエーテル、アニオン界面活性剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(A)により、半導体基板を洗浄する第1の洗浄工程と、水により、前記半導体基板を洗浄する第2の洗浄工程と、水酸化第4級アンモニウム、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(B)により、前記半導体基板を洗浄する第3の洗浄工程と、を少なくとも含み、前記第1の洗浄工程、前記第2の洗浄工程、前記第3の洗浄工程の順に、前記半導体基板を洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法である。
<2> 炭化水素化合物が、引火点100℃以上のパラフィン系炭化水素であり、アニオン界面活性剤が、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩であり、水酸化第4級アンモニウムが、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドであり、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸、及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩の少なくともいずれかである前記<1>に記載の半導体基板の洗浄方法である。
<3> 化合物半導体基板が、サファイア基板である前記<1>から<2>のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、溶剤の取り扱い上の危険性を解決し、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上する半導体基板の洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の半導体基板の洗浄方法の概要の一例を示す図である。
【図2】図2は、実施例1の半導体基板の洗浄方法の概要の一例を示す図である。
【図3】図3は、比較例1の半導体基板の洗浄方法の概要の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(半導体基板の洗浄方法)
本発明の半導体基板の洗浄方法とは、研磨処理直後の化合物半導体基板を組成の異なる2つの洗浄剤組成物で、段階的に洗浄することを特徴とする、研磨後残渣物を除去するプレ洗浄方法である。
本発明の半導体基板の洗浄方法は、少なくとも第1の洗浄工程、第2の洗浄工程、第3の洗浄工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0014】
<第1の洗浄工程>
前記第1の洗浄工程は、洗浄剤組成物(A)により、前記半導体基板を洗浄する工程である。
【0015】
<<洗浄剤組成物(A)>>
前記洗浄剤組成物(A)は、少なくとも炭化水素化合物、グリコールエーテル、アニオン界面活性剤、及び水を含み、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
【0016】
−炭化水素化合物−
前記炭化水素化合物は、飽和炭化水素化合物、又は不飽和炭化水素化合物から選ばれる1種以上の炭化水素化合物である。
【0017】
前記炭化水素化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラフィン系炭化水素化合物、オレフィン系炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、アルキルベンゼン系炭化水素化合物、アルキルナフタレン系炭化水素化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記パラフィン系炭化水素化合物の炭素数(n)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜18が好ましい。
【0019】
前記オレフィン系炭化水素化合物の炭素数(n)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜18が好ましい。
【0020】
前記炭化水素化合物としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、ドデカン(カクタスノルマルパラフィンN12D 株式会社ジャパンエナジー製)が挙げられる。
【0021】
前記炭化水素化合物の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%〜10質量%が好ましい。
【0022】
−グリコールエーテル−
前記グリコールエーテルは、C〜Cの脂肪族炭化水素或いは芳香族炭化水素に任意のエチレンオキサイド、又はプロピレンオキサイドを付加したものである。
【0023】
前記グリコールエーテルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルジグリコール)、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、エチレングリコール−n−2−エチル−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール−n−2−エチル−ヘキシルエーテル(2―エチルヘキシルジグリコール)、トリアルキレングリコールモノブチルエーテル、ジブチルジグリコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、エチレンオキサイド付加系グリコールエーテルであるブチルジグリコール、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルジグリコール、ジブチルジグリコールが、洗浄剤安定化の点で、好ましい。
【0024】
前記グリコールエーテルとしては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、ブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製、商品名「ブチルジグリコール」)、ジブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製、商品名「ジブチルジグリコール」)などが挙げられる。
【0025】
前記グリコールエーテルの配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜60質量%が好ましい。前記グリコールエーテルの配合量が前記好ましい範囲内であると、第1の工程で使用する洗浄剤組成物の可溶化、保存安定性向上、汚れ除去性のブースターとしての役割を発揮させることが可能となる点で有利である。
【0026】
−アニオン界面活性剤−
前記アニオン界面活性剤は、界面活性剤のうち、水中で電離して有機陰イオンとなるものである。
【0027】
前記アニオン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩が挙げられる。
【0028】
前記ジアルキルスルホコハク酸塩としては、アルキル基、塩の種類に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸アンモニウム塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩が、安価で入手し易い点で、好ましい。
【0029】
前記アニオン界面活性剤としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩(ライオン株式会社製、商品名「リパール870P」)が挙げられる。
【0030】
前記アニオン界面活性剤の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1質量%〜15質量%が好ましい。
【0031】
−水−
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、イオン交換水などが挙げられる。
【0032】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH安定剤が挙げられる。
【0033】
前記pH安定剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
<<洗浄剤組成物(A)の調製方法>>
前記洗浄剤組成物(A)の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも前記炭化水素化合物、前記グリコールエーテル、前記アニオン界面活性剤、及び前記水を攪拌混合し、前記水で全量を調製する方法が挙げられる。
【0035】
<第1の洗浄工程における洗浄方法>
前記第1の洗浄工程における洗浄方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄剤組成物(A)を用いて、前記半導体基板を十分に入れることのできる洗浄槽で、前記半導体基板を、機械的攪拌により洗浄する方法、超音波により洗浄する方法などが挙げられる。
これらの中でも、超音波により洗浄する方法が、洗浄する半導体基板に対し、均一に機械力を加えることができる点で、好ましい。
【0036】
前記洗浄する際の超音波装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、UO300FB−PY(株式会社日立国際電気製)が挙げられる。
【0037】
前記洗浄する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃〜60℃が好ましい。
【0038】
前記洗浄する際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5分間〜20分間とすることができる。
【0039】
<第2の洗浄工程>
前記第2の洗浄工程は、水により、前記半導体基板を洗浄する工程である。
【0040】
<第2の洗浄工程における洗浄方法>
前記第2の洗浄工程における洗浄方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の洗浄工程により洗浄された半導体基板を取り出して、純水を用いて、前記半導体基板を機械的攪拌により洗浄する方法、前記半導体基板を超音波により洗浄する方法などが挙げられる。
これらの中でも、半導体基板を超音波により洗浄する方法が、洗浄する半導体基板に対し、均一に機械力を加えることができる点で、好ましい。
【0041】
前記洗浄する際の超音波装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、UO300FB−PY(株式会社日立国際電気製)が挙げられる。
【0042】
<第3の洗浄工程>
前記第3の洗浄工程は、洗浄剤組成物(B)により、前記半導体基板を洗浄する工程である。
【0043】
<<洗浄剤組成物(B)>>
前記洗浄剤組成物(B)は、少なくとも水酸化第4級アンモニウム、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び水を含み、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
【0044】
−水酸化第4級アンモニウム−
前記水酸化第4級アンモニウムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化第4級アンモニウムの有機アルカリが挙げられる。
なお、水酸化ナトリウムといった無機アルカリは、洗浄液が蒸発した際に、固形物を形成する場合があり、それが新たな汚れとなる場合がある点で、好ましくない。
【0045】
前記水酸化第4級アンモニウムの有機アルカリとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルアンモニウムオキサイド系有機アルカリ、アルカノールアミン系有機アルカリなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記水酸化第4級アンモニウムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炭素数1〜4のアルキル基、又はヒドロキシアルキル基を有するものが好ましい。これらの置換基は、全て同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
前記水酸化第4級アンモニウムにおけるアルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの低級アルキル基が挙げられる。
前記水酸化第4級アンモニウムにおけるヒドロキシアルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基などが挙げられる。
【0048】
前記水酸化第4級アンモニウムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(コリン)、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記水酸化第4級アンモニウムとしては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(東洋合成工業株式会社製、商品名「TMAH−20H」)が挙げられる。
【0050】
前記水酸化第4級アンモニウムの配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2質量%〜6質量%が好ましい。
【0051】
−ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤−
前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ドナー原子である窒素とカルボキシル基との結合を含むキレート剤が挙げられる。
【0052】
前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基との結合を含むキレート剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラ酢酸(TTHA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、1,3−プロパン−2−ジアミン四酢酸(PDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸(HIDA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、プロピレンジアミンテトラ酢酸、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、シクロヘキサン−1,2−ジアミンテトラ酢酸、イミノジコハク酸、アスパラギン酸ジ酢酸、β−アラニンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸などの酸、又はその塩が挙げられる。
これらの中でも、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)又はその塩、ニトリロトリ酢酸(NTA)又はその塩が、好ましく、また、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、又はその塩が、より好ましい。
【0053】
前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤における塩を形成する場合の塩基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0054】
前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(アクゾノーベル社製、商品名「ディゾルビンZ」)が挙げられる。
【0055】
前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜3質量%が好ましい。
【0056】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、浸透剤、乳化剤、アルカリ剤(pH調整剤)、液安定剤、消泡剤などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記浸透剤又は前記乳化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオキシエチレンノナノールエーテルが挙げられる。
前記アルカリ剤(pH調整剤)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエタノールアミンが挙げられる。
前記液安定剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オクタン酸が挙げられる。
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ライオン株式会社製、商品名「レオコン1020H」)が挙げられる。
【0058】
<<洗浄剤組成物(B)の調製方法>>
前記洗浄剤組成物(B)の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも前記水酸化第4級アンモニウム、前記ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び前記水を攪拌混合し、前記水で全量を調製する方法が挙げられる。
【0059】
前記洗浄剤組成物(B)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄剤組成物(B)の原液、洗浄剤組成物(B)の希釈液などが挙げられる。
これらの中でも、pHが12以上である洗浄剤組成物(B)が、パーティクル(研削屑等の異物)除去性に優れる点で、好ましい。
【0060】
<第3の洗浄工程における洗浄方法>
前記第3の洗浄工程における洗浄方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記洗浄剤組成物(B)を用いて、前記洗浄槽で、前記第2の洗浄工程により洗浄された半導体基板を、機械的攪拌により洗浄する方法、超音波により洗浄する方法などが挙げられる。
これらの中でも、超音波により洗浄する方法が、洗浄する半導体基板に対し、均一に機械力を加えることができる点で、好ましい。
【0061】
前記洗浄する際の超音波装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、UO300FB−PY(株式会社日立国際電気製)が挙げられる。
【0062】
前記洗浄する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、35℃〜45℃が好ましい。
【0063】
<その他の工程>
前記その他の工程は、第3の洗浄工程による洗浄からファイナル洗浄へ移行する前に、図1で示したように再度、すすぎ、及び流水すすぎを行う工程である。
なお、前記その他の工程における洗浄方法については、本願発明の課題解決に対する解決手段が、第1の洗浄工程〜第3の洗浄工程であるので、第3の洗浄工程洗浄後の工程である、その他の工程における洗浄方法については、記載を省略する。
【0064】
<用途>
本発明の半導体基板の洗浄方法は、研磨処理後の半導体基板、特にGaAs、サファイアのような化合物半導体に用いられる基板から、研磨後の汚れを洗浄するためのプレ洗浄方法に好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各配合量は純分換算した質量(g)である。
【0066】
<洗浄剤組成物(A)の調製>
洗浄剤組成物(A)の調製を下記に示す。なお、実施例、及び比較例における洗浄剤組成物(A)は、原液を使用した。
(1)精製水45g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム8g、及び2−エチルヘキシルジグリコール12gを攪拌混合した。
(2)(1)の混合液に、ブチルジグリコール20g、ジブチルジグリコール5g、及び炭化水素化合物(カクタスノルマルパラフィンN12D)10gを攪拌混合し、可溶化させた。
【0067】
<純水の調製>
純水は、イオン交換膜通液により水道水中の金属イオン、塩素、異物等を除去することにより、調製した。
【0068】
<洗浄剤組成物(B)の調製>
洗浄剤組成物(B)の調製を下記に示す。なお、実施例、及び比較例における洗浄剤組成物(B)は、精製水にて10倍に希釈して使用した。
(1)精製水70g、及びジエタノールアミン3gを攪拌混合した。
(2)(1)の混合液に、エチレンジアミンテトラ酢酸2gを攪拌混合した。
(3)(2)の混合液に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(20%品)20gを攪拌混合した。
(4)精製水にて、全量を100gとした。
【0069】
<溶剤(1)>
溶剤(1)は、アセトン(関東化学株式会社製、ELグレード試薬)を用いた。
【0070】
<溶剤(2)>
溶剤(2)は、イソプロピルアルコール(関東化学株式会社製、ELグレード試薬)を用いた。
【0071】
(実施例1、及び比較例1〜6)
<半導体基板>
半導体基板は、株式会社斉藤光学製作所製の2インチサイズのサファイア基板を、最終研磨した後、1枚抜き出したものを使用した。
【0072】
<半導体基板の洗浄方法>
<<洗浄装置>>
洗浄は、実洗浄装置に近いモデル洗浄装置を作製して実施した。モデル洗浄装置は、洗浄液が5リットル程度入るガラス製洗浄槽を洗浄工程ごとに準備し、実際には4リットルの洗浄液、すすぎ液を装填して洗浄した。
【0073】
<<洗浄条件>>
各洗浄工程についての洗浄条件を以下に示す。なお、後述のオーバーフローとは、洗浄槽に純水を満たし、その中に前記半導体基板を入れ、洗浄槽に純水を流し込み洗浄槽から溢れさせることによるすすぎ操作のことをいう。
【0074】
−第1の洗浄工程の洗浄条件−
・洗浄剤組成物(A)の原液使用(液温:50℃)
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間10分
【0075】
−第2の洗浄工程のすすぎ条件−
・純水使用(液温:室温(約25℃))
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間5分
【0076】
−第3の洗浄工程の洗浄条件−
・洗浄剤組成物(B)の原液を10%希釈して使用(液温:40℃)
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間5分
【0077】
−第3の洗浄工程後のすすぎ条件−
・純水使用(液温:室温(約25℃))
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間5分
【0078】
−第3の洗浄工程後の流水すすぎ条件−
・純水使用(液温:室温(約25℃))
・オーバーフロー
・洗浄時間5分
【0079】
−溶剤(1)の洗浄条件−
・溶剤(1)使用(液温:室温(約25℃))
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間10分
【0080】
−溶剤(2)の洗浄条件−
・溶剤(2)使用(液温:室温(約25℃))
・超音波使用(周波数:36kHz)
・洗浄時間5分
【0081】
<半導体基板の乾燥>
洗浄後の半導体基板の表面の1立方フィートあたりに、0.5μm以上の大きさの粒子数が、1,000個以下になるよう管理されたクリーンルーム内で、回転数1,000rpmで前記半導体基板を回転させ、乾燥させた(スピン乾燥)。
【0082】
<評価>
実施例1、及び比較例1〜6の予備洗浄工程、及び清浄度評価結果を表1に示す。また、図2に実施例1の概要を、図3に比較例1の概要を示す。なお、表1中の数字は洗浄工程の順序を示す。
予備洗浄工程の乾燥後の半導体基板表面に残留している0.3μm以上の大きさのパーティクルの数を、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、商品名「Candela CS10」)を用いて測定した。Candela CS10は、半導体基板の清浄度評価に使用される装置として、半導体分野では標準的な装置である。この測定結果から、予備洗浄後の清浄度評価を行った。
【0083】
−評価基準−
◎:予備洗浄後の残留パーティクル数5千未満
○:予備洗浄後の残留パーティクル数5千以上〜1万未満
△:予備洗浄後の残留パーティクル数1万以上〜10万未満
×:予備洗浄後の残留パーティクル数10万以上
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1の結果から、2種の洗浄剤を用いた予備洗浄は、洗浄剤の使用順序が洗浄性に影響しており、第1の洗浄工程での洗浄、第2の洗浄工程での洗浄を経て、第3の洗浄工程での洗浄を実施することにより、高い洗浄性を発揮することがわかった。
【0086】
比較例1〜3の結果から、一旦除去されたワックスやパーティクルの再付着があるために、ファイナル洗浄後の仕上がり清浄度は、目標清浄度を大きく下回った。なお、比較例で用いた溶剤(1)、溶剤(2)以外の一般的な有機溶剤を用いた場合についても、同様にワックスやパーティクルの再付着があることが確認された。
【0087】
比較例4及び5の結果から、第1の洗浄工程、又は第3の段階工程のいずれか一方のみを実施しても、洗浄性は不十分であることがわかった。
【0088】
比較例6の結果から、第3の洗浄工程を実施した後に第1の洗浄工程を実施した場合を示したが、洗浄の順番を逆にするとファイナル洗浄後の基板清浄度の向上がもたらされないことからも洗浄の順序が重要であり、洗浄機構はそう単純なものではないことがわかった。
【0089】
以上より、本発明の構成とすることにより、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、低い引火点を有する溶剤の取り扱い上の危険性を解決し、半導体基板に付着したワックス、研磨剤、パーティクル(研削屑等の異物)等に対し高い洗浄性を発揮し、ファイナル洗浄後の基板清浄度が飛躍的に向上するため、例えば、研磨処理後の半導体基板、特にGaAs、サファイアのような化合物半導体と呼ばれる基板から研磨後の汚れを洗浄するための予備洗浄方法に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨処理された半導体基板に対する仕上げ洗浄前の予備洗浄方法であって、
炭化水素化合物、グリコールエーテル、アニオン界面活性剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(A)により、半導体基板を洗浄する第1の洗浄工程と、
水により、前記半導体基板を洗浄する第2の洗浄工程と、
水酸化第4級アンモニウム、ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤、及び水を少なくとも含有する洗浄剤組成物(B)により、前記半導体基板を洗浄する第3の洗浄工程と、を少なくとも含み、
前記第1の洗浄工程、前記第2の洗浄工程、前記第3の洗浄工程の順に、前記半導体基板を洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
【請求項2】
炭化水素化合物が、引火点100℃以上のパラフィン系炭化水素であり、
アニオン界面活性剤が、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩であり、
水酸化第4級アンモニウムが、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドであり、
ドナー原子である窒素とカルボキシル基とを含むキレート剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸、及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩の少なくともいずれかである請求項1に記載の半導体基板の洗浄方法。
【請求項3】
半導体基板が、サファイア基板である請求項1から2のいずれかに記載の半導体基板の洗浄方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−104671(P2012−104671A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252138(P2010−252138)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(509060464)株式会社 斉藤光学製作所 (1)
【Fターム(参考)】