説明

半導体基板の製造方法

【課題】半導体基板の製造コストを低減できる半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の第1側面に係る半導体基板の製造方法は、Crで形成された下地基板を準備する準備工程と、前記下地基板の(110)面を窒化してクロム窒化物層の(111)面を形成させる窒化工程とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属窒化物を下地基板として、その上にIII族窒化物半導体の結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の技術では、準備する下地基板として、その上に積層する半導体層に整合する格子定数を有した窒化物材料を用いている。
【特許文献1】特開平9−237938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示される技術では、金属窒化物の単結晶を下地基板として準備する必要がある。例えば、CrZrNの単結晶を下地基板として準備した場合、下地基板自体が高価であるため、その上に成長させる半導体基板(結晶層)の製造コストが増大するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、半導体基板の製造コストを低減できる半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面に係る半導体基板の製造方法は、Crで形成された下地基板を準備する準備工程と、前記下地基板の(110)面を窒化してクロム窒化物層の(111)面を形成させる窒化工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の第2側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面に係る半導体基板の製造方法の特徴に加えて、前記クロム窒化物層の上にIII族窒化物半導体の結晶層を成長させる結晶層成長工程をさらに備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の第3側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面又は第2側面に係る半導体基板の製造方法の特徴に加えて、前記下地基板及び前記クロム窒化物層をエッチングして前記III族窒化物半導体の結晶を前記下地基板から分離する分離工程をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体基板の製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を、図1及び図2を用いて説明する。以下では、結晶層としてIII族窒化物半導体のGaNを例として説明するが、他のIII族窒化物半導体に関しても同様である。他のIII族窒化物半導体は、例えば、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどがある。なお、後述のように結晶層を自立基板として用いてダイオード等に応用することを考えると、結晶層の材質となるIII族窒化物半導体は、GaNであることが好ましい。
【0011】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す工程断面図である。
【0012】
図1(a)に示す工程(準備工程)では、下地基板10を準備する。下地基板10は、Crの単結晶で形成されている。または、下地基板10の少なくとも上面10aは、単結晶面となっている。下地基板10の上面10aは、Crの結晶の(110)面になっている。Crの結晶は、体心立方構造を有する。
【0013】
ここで、下地基板10がCrであるので、下地基板が金属窒化物である場合に比べて、準備工程におけるコスト(下地基板を準備するコスト)が低減されている。下地基板10の厚さは、100μm程度であることが好ましい。
【0014】
また、下地基板をサファイア基板にする場合に比べて、Cr層を形成する工程を省くことができるので、工程を簡略化できる。また、下地基板10の上面10aをCrの結晶の(110)面とすることで、後述のクロム窒化物層30を下地基板10の上面10aに対して好適に(111)配向させることが可能となった。
【0015】
なお、Crの純度は、3N以上(99.9%以上)であることが好ましい。不純物は少ない方が望ましいが、Crの純度は、3N程度で十分である。
【0016】
図1(b)に示す工程(窒化工程)では、下地基板10を、GaNの結晶を成長させるための装置へ移送する。そして、下地基板10の表面近傍を、窒素を含有した還元性ガス雰囲気で加熱窒化処理する。この窒素を含有した還元性ガスは、好ましくはアンモニアもしくはヒドラジンなどである。その際、加熱温度は、1000℃以上1300℃以下であることが好ましく、1040℃以上1300℃以下であることがさらに好ましく、1060℃以上1300℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度1000℃以上1300℃以下で窒化することにより、下地基板10の(110)面が窒化して、クロム窒化物層30が形成される。加熱温度1040℃以上1300℃以下で窒化することにより、後述の結晶層50の表面50aのピット密度が10〜10/cmレベルまで低減する。加熱温度1060℃以上1300℃以下で窒化することにより、後述の結晶層50の表面50aのピット密度が数/cmレベルまで低減する。加熱温度1300℃以上で窒化することは、クロム窒化物層30が溶融するおそれがあり、好ましくない。
【0017】
ここで、準備工程のコストと窒化工程のコストとを合計したコストは、下地基板が金属窒化物を準備するコストに比べて少なくなっている。
【0018】
また、クロム窒化物層30の組成は、CrNであることが好ましい。クロム窒化物層30の上面30aは、ほぼ全面に渡って、概ね平坦に形成されている。クロム窒化物層30の上面30aは、III族窒化物が積層できるように、結晶性がある状態となっている必要がある。このため、クロム窒化物層30の平均層厚は、適宜設定されるが、10nm以上100nm以下の範囲内の値であることが好ましい。ここで、クロム窒化物層30の平均層厚は、断面TEMで凹凸を測定して求めることができ、窒化を行う以前の下地基板10の表面近傍の領域(金属Cr)の平均層厚の1.5倍に相当することが確認された。
【0019】
クロム窒化物層30の平均層厚が10nm未満である場合、III族窒化物を積層する際に、下地基板(金属)からの影響を受ける(反応する)おそれがある。クロム窒化物層30の平均層厚が100nmを超える場合、クロム窒化物層30のコストが増大するおそれがある。
【0020】
下地基板10の少なくとも上面10aがCrの結晶の(110)面になっている。すなわち、クロム窒化物層30の格子間隔(図3に示す正三角形部の黒丸の間隔)は、下地基板(金属Cr)10の格子間隔(図3に示す白丸の間隔)と異なる。これにより、クロム窒化物を構成する原子(図3に示す黒丸)がCrの格子(図3に示す白丸)の間の位置で安定的に存在する。これにより、クロム窒化物層30は、黒丸で示す結晶格子のパタ−ンが繰り返し配列された状態となり、下地基板10の上面10aに対して好適に(111)配向する。クロム窒化物層30の上面30aを(111)配向させると、その上に成長させるIII族窒化物(後述のバッファー層40及び結晶層50)との格子ミスマッチ(格子不整合)が少なくなるので、III族窒化物を結晶性の良好な状態で積層することができる。
【0021】
なお、III族窒化物とCrとの格子ミスマッチ(格子不整合)が大きいので、Cr(110)面(下地基板10の上面10a)の上には、結晶性の良好な状態でIII族窒化物(バッファ層40及び結晶層50)を積層することが困難である。
【0022】
さらに、クロム窒化物層30の上面30aである(111)面を面の水平方向((111)面に平行な方向)からわずかに傾斜させてカットさせてもよい。これにより、見かけの格子間距離(傾斜面に垂直な方向から見た場合の格子間の距離)を調整可能である。例えば、クロム窒化物層30を研磨したり切断したりすることにより上面として傾斜面を形成することができる。傾斜面の傾斜角度は、(111)面に平行な方向に対して数度程度でよい。傾斜面により、クロム窒化物層30とIII族窒化物との見かけ上の格子ミスマッチ(格子不整合)を減少させることができるため、クロム窒化物層30の上に積層されるIII族窒化物層は、極めて、転位等が少ないものとなる。傾斜面の傾斜の方向は、1方向に限らず、複数の方向を含んでもよい。
【0023】
あるいは、このような傾斜面は、下地基板(金属Cr)10の上面10aに形成してもよい。ただし、傾斜面の傾斜角度は、大きすぎるとクロム窒化物の(111)面が生成できないので、クロム窒化物の(111)面を形成可能な範囲内の値にする必要がある。この傾斜面の表面近傍を窒化させることで、クロム窒化物層の上面も同様に傾斜した傾斜面となる。
【0024】
次に、図2(a)に示す工程では、下地基板温度を900℃まで下げ、HVPE法でGaNのバッファ層40を成膜する。バッファ層40の膜厚は、例えば、約10μmとする。
【0025】
ここで、バッファ層40は、(111)配向したクロム窒化物層30の上面30a((111)面)に形成される。すなわち、クロム窒化物層30の上面30aが(111)配向しているので、その上に成長するバッファ層40との格子ミスマッチ(格子不整合)が少なくなる。これにより、バッファ層40を結晶性の良好な状態で積層することができる。すなわち、バッファ層40において、格子不整合に起因した転位が低減する。
【0026】
図2(b)に示す工程では、下地基板温度を1040℃まで昇温し、GaNの結晶層50を成長する。成長時の結晶層50の膜厚は、例えば、約10μmとする。
【0027】
上述のように結晶性が良好なバッファ層40の上に結晶層50を成長するので、結晶層50の結晶性も良好になる。すなわち、結晶層50において、格子不整合に起因した転位が低減する。
【0028】
図2(c)に示す工程では、化学溶液を用いてクロム窒化物層30を選択的にエッチングする。このとき、下地基板10も同時にエッチングされてもよい。GaNの基板SBを下地基板10から分離できる。すなわち、GaNの基板SBを自立基板として得ることができる。ここで、基板SBは、バッファ層40と結晶層50とを含んでいる。
【0029】
以上のように、下地基板として金属Crを用いて基板SBを製造するので、下地基板として金属窒化物を用いた場合に比べて、金属窒化物を得るためのコスト(本発明では、準備工程及び窒化工程のコスト)を低減できる。これにより、半導体基板(GaNの基板SB)の製造コストを低減できる。
【0030】
なお、下地基板は、金属(Cr)であるので、上記で説明した以外にも、表面に予め所望のパターンや、凹凸等自在に設定でき、自由なデザインの半導体基板の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図3】クロム窒化物層の結晶方位を示す図。
【符号の説明】
【0032】
10 下地基板
20 Cr層
30 クロム窒化物層
40 バッファ層
50 結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crで形成された下地基板を準備する準備工程と、
前記下地基板の(110)面を窒化してクロム窒化物層の(111)面を形成させる窒化工程と、
を備えたことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記クロム窒化物層の上にIII族窒化物半導体の結晶層を成長させる結晶層成長工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記下地基板及び前記クロム窒化物層をエッチングして前記III族窒化物半導体の結晶を前記下地基板から分離する分離工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−91730(P2008−91730A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272325(P2006−272325)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(506334160)エピバレー株式会社 (8)
【氏名又は名称原語表記】Epivalley Company Limited
【住所又は居所原語表記】51−2 Neungyeong−Ri Opo−Eup, Kwangju City, Gyunggi−Do, KOREA 464−892
【Fターム(参考)】