説明

半導体素子装置

【課題】半導体素子群からの受熱による基板の損傷の抑止と基板の製造に用いる材料の節約とを図る。
【解決手段】冷却器80側から順に第1層52,62,72,第2層54,64,74,第3層56,66,76の三層からなる基板50,60,70の第1層52,62,72の厚みを、対応する半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量が小さいほど薄くなるよう形成する。これにより、半導体素子群41a,42a,46aからの受熱による基板50,60,70の損傷の抑止と基板50,60,70の製造に用いる材料の節約とを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子装置に関し、詳しくは、一以上の半導体素子を有する半導体素子群がn(nは2以上の整数)個と、n個の半導体素子群の各々が各々の一面側に取り付けられたn個の基板と、n個の基板の各々の他面側が取り付けられた冷却器と、を備える半導体素子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の半導体素子装置としては、放熱板,絶縁基板,導電基材,IGBTの順に積層された第1積層体と、放熱板,絶縁基板,導電基材,ダイオードの順に積層された第2積層体とを、それぞれ冷却器に搭載するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、IGBTよりダイオードの方が耐熱性が高い材料で構成され且つIGBTよりダイオードの方が放熱量の多い動作環境で用いられる仕様の場合に、冷却器内を流れる冷却水の流路の方向でみてIGBTより下流側にダイオードを配置することにより、ダイオードからIGBTへの熱伝導を抑制し、IGBTを効率的に冷却できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一以上の半導体素子を有する半導体素子群がn(nは2以上の整数)個と、各半導体素子群がそれぞれ取り付けられるn個の基板と、このn個の基板が取り付けられる冷却器とを備える半導体素子装置において、各基板の厚みを最大発熱量が最も大きな半導体素子群の最大発熱量に応じた値に揃えると、各半導体素子群からの受熱による各基板の損傷を抑制することはできるものの、想定される発熱量が比較的小さな半導体素子群を取り付ける基板については、その厚みが必要以上に厚いものとなり、基板の製造に必要以上の材料を要することになる。
【0005】
本発明の半導体素子装置は、半導体素子群からの受熱による基板の損傷の抑止と基板の製造に用いる材料の節約とを図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体素子装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の半導体素子装置は、
一以上の半導体素子を有する半導体素子群がn(nは2以上の整数)個と、前記n個の半導体素子群の各々が各々の一面側に取り付けられたn個の基板と、前記n個の基板の各々の他面側が取り付けられた冷却器と、を備える半導体素子装置であって、
前記n個の基板の各々の厚みは、取り付けられる半導体素子群である取付半導体素子群で想定される最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向に形成されてなる、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の半導体素子装置では、n(nは2以上の整数)個の一以上の半導体素子を有する半導体素子群の各々が各々の一面側に取り付けられると共に各々の他面側が冷却器に取り付けられたn個の基板の各々の厚みは、取り付けられる半導体素子群である取付半導体素子群で想定される最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向に形成される。一般に、取付半導体素子群の発熱量が大きいほど基板内で一時的に滞留する熱量が大きくなりやすいから、n個の基板の各々の厚みを取付半導体素子群で想定される最大発熱量に応じた値とすることにより、半導体素子群からの受熱による基板の損傷の抑止と基板の製造に用いる材料の節約とを図ることができる。
【0009】
こうした本発明の半導体素子装置において、前記n個の基板の各々は、三層の積層体として構成されてなり、該三層のうち最も前記冷却器側の層の厚みが前記取付半導体素子群で想定される最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向に形成されてなる、ものとすることもできる。
【0010】
また、本発明の半導体素子装置において、前記n個の半導体素子群は、第1の電動機を駆動する第1のインバータ回路の半導体素子群と、第2の電動機を駆動する第2のインバータ回路の半導体素子群と、直流電源からの電力を昇圧して前記第1のインバータ回路および前記第2のインバータ回路に供給する昇圧回路の半導体素子群と、を含む、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としての半導体素子装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】ハイブリッド自動車20が備える電気系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】インバータ41,42や昇圧コンバータ46の半導体素子群41a,42a46aを含む半導体素子装置の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としての半導体素子装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、ハイブリッド自動車20が備える電気系の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図1に示すように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ44と、インバータ41,42が接続された電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)47とバッテリ44が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)48とに接続されて電池電圧系電力ライン48の電力を昇圧して高電圧系電力ライン47に供給可能な昇圧コンバータ46と、を備える。
【0014】
インバータ41は、図2に示すように、6個のトランジスタと、各トランジスタに逆方向に並列接続された6個のダイオードと、により構成されている。6個のトランジスタは、モータMG1の三相コイルのU相,V相,W相からみて高電圧系電力ライン47の正極母線側と負極母線側とに各々接続されている。インバータ42は、12個のトランジスタと、各トランジスタに逆方向に並列接続された12個のダイオードと、により構成されている。12個のトランジスタは、モータMG2の三相コイルのU相,V相,W相からみて高電圧系電力ライン47の正極母線側と負極母線側とに各々2つずつ並列接続されている。昇圧コンバータ46は、4個のトランジスタと、各トランジスタに逆方向に並列接続された4個のダイオードと、リアクトルと、により構成されている。4個のトランジスタのうち2個は高電圧系電力ライン47の正極母線に対して並列接続されており、残余の2個は高電圧系電力ライン47の負極母線に対して並列接続されており、前者の2個のトランジスタ(上アーム)と後者の2個のトランジスタ(下アーム)との接続点とバッテリ44の正極端子とにはリアクトルLが接続されている。
【0015】
図3は、インバータ41の半導体素子群41a(6個のトランジスタおよび6個のダイオード)やインバータ42の半導体素子群42a(12個のトランジスタおよび12個のダイオード),昇圧コンバータ46の半導体素子群46a(4個のトランジスタおよび4個のダイオード)を含む半導体素子装置の断面を示す断面図である。インバータ41,42や昇圧コンバータ46の半導体素子群41a,42a,46aはそれぞれ基板50,60,70の一面側(図中、上面側)に取り付けられており、これらの基板50,60,70は他面側(図中、下面側)が冷却器80に取り付けられている。ここで、冷却器80の内部には、冷却媒体としての冷却水の循環用の循環流路82の一部が形成されている。したがって、図示しない電動ポンプによって圧送される冷却水がこの循環流路82内を流れることによって基板50,60,70を介して半導体素子群41a,42a,46aの冷却が行なわれる。
【0016】
基板50,60,70は、冷却器80側から順に、アルミニウムなどの比較的熱伝導性が高い材料によって構成された第1層52,62,72,窒化アルミニウムなどの絶縁材料によって構成された第2層54,64,74,高電圧系電力ライン47や電池電圧系電力ライン48の負極母線の一部として機能させるためにアルミニウムなどの導電材料によって構成された第3層56,66,76の三層からなる積層体として構成されている。実施例では、第1層52,62,72の厚みについては半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量に応じた値に形成されるものとし、第2層54,64,74の厚みについては予め定められた値(例えば、0.6mmや0.65mmなど)に形成されるものとし、第3層56,66,76の厚みについては予め定められた値(例えば、0.55mmや0.6mmなど)に形成されるものとした。以下、第1層52,62,72の厚みを半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量に応じた値とする理由について説明する。
【0017】
インバータ41,42や昇圧コンバータ46の発熱量が大きくなるとき(例えば、モータMG1,MG2から出力すべきトルクが急増するときや、高電圧系電力ライン47の電圧VHを急上昇させる必要があるときなど)には、半導体素子群41a,42a,46aの温度上昇によって半導体素子群41a,42a,46a側と冷却器80側との温度差(基板50,60,70内での温度勾配)が大きくなり、半導体素子群41a,42a,46aから基板50,60,70を介して冷却器80側に伝達される熱量が大きくなるため、その熱量の一部の一時的な滞留に耐えられるように(基板50,60,70内での温度勾配が急峻になり過ぎないように)、基板50,60,70の厚みを設計する必要がある。このため、従来は、半導体素子群41a,42a,46aのうち最大発熱量が最も大きかったり発熱頻度が最も高かったりする半導体素子群の最大発熱量などに応じて基板50,60,70の厚みの設計が行なわれていた。しかしながら、この場合、最大発熱量が比較的小さな半導体素子群を取り付ける基板については、その厚みが必要以上に厚いものとなり、必要以上の材料を要することになる。実施例では、これらのことと、基板50,60,70の厚みを設計する際には半導体素子群41a,42a,46aから離れていて冷却器80に近い(比較的熱量が滞留しやすい)第1層52,62,72の厚みを調整することが好ましいことと踏まえて、基板50,60,70の第1層52,62,72の厚みを、取り付ける半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量に対応可能な範囲でその最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向にするものとした。例えば、最大発熱量が大きい方から順に半導体素子群46a,半導体素子群41a,半導体素子群42aとなる仕様で用いる場合には、基板50,60,70の第1層52,62,72の厚みD1,D2,D3を厚い方から順に厚みD3(例えば1.6mmなど),厚みD2(例えば1.4mmなど),厚みD1(例えば1.3mmなど)などとすることができる。これにより、半導体素子群41a,42a,46aからの受熱による基板50,60,70の損傷の抑止と基板50,60,70の製造に用いる材料の節約とを図ることができる。なお、基板50,60,70の第2層54,64,74の厚みや第3層56,66,76の厚みはそれぞれ互いに等しいものとしたから、第1層52,62,72の厚みD1,D2,D3が厚いほど基板50,60,70の厚みが厚くなる。
【0018】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20に搭載される半導体素子装置によれば、冷却器80側から順に第1層52,62,72,第2層54,64,74,第3層56,66,76の三層からなる基板50,60,70の第1層52,62,72の厚みを、取り付けられる(対応する)半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量が小さいほど薄くなるよう形成するから、半導体素子群41a,42a,46aからの受熱による基板50,60,70の損傷の抑止と基板50,60,70の製造に用いる材料の節約とを図ることができる。
【0019】
実施例の半導体素子装置では、基板50,60,70の第1層52,62,72の厚みを半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量に応じた値に形成するものとし、第3層56,66,76の厚みについては一定としたが、第3層56,66,76の厚みを半導体素子群41a,42a,46aで想定される最大発熱量に応じた値に形成するものとしてもよい。
【0020】
実施例の半導体素子装置では、インバータ41の12個の半導体素子(6個のトランジスタおよび6個のダイオード)全体を一つの半導体素子群41aとして基板50に取り付けるものとしたが、これらの一部毎に半導体素子群として基板50に取り付けるものとしてもよく、例えば、1個のトランジスタとそのトランジスタに逆方向に並列接続された1個のダイオードとの組み合わせ毎に半導体素子群として基板に取り付けるものとしたり、1個の半導体素子(トランジスタまたはダイオード)毎に半導体素子群として基板に取り付けるものとしたりしてもよい。インバータ42の24個の半導体素子(12個のトランジスタおよび12個のダイオード)や昇圧コンバータ46の8個の半導体素子(4個のトランジスタおよび4個のダイオード)についても同様に考えることができる。
【0021】
実施例では、インバータ41,42や昇圧コンバータ46の半導体素子群41a,42a,46aと、これらの半導体素子群41a,42a,46aが取り付けられる基板50,60,70と、基板50,60,70が取り付けられる冷却器80と、を備える半導体素子装置について説明したが、n(nは2以上の整数)個の半導体素子群と、n個の半導体素子群の各々が取り付けられたn個の基板と、冷却器と、を備える半導体素子装置であればよいから、半導体素子群41aと基板50との組み合わせ,半導体素子群42aと基板60との組み合わせ,半導体素子群46aと基板70との組み合わせのうちいずれか一つを含まないものとしてもよいし、これらの組み合わせの一部または全部に加えて、他の半導体素子群と基板との組み合わせを有するものとしてもよい。
【0022】
また、実施例では、インバータ42は、24個の半導体素子(12個のトランジスタおよび12個のダイオード)を有するものとしたが、12個の半導体素子(6個のトランジスタおよび6個のダイオード)を有するものなどとしてもよい。また、昇圧コンバータ46は、8個の半導体素子(4個のトランジスタおよび4個のダイオード)を有するものとしたが、4個の半導体素子(2個のトランジスタおよび2個のダイオード)を有するものなどとしてもよい。
【0023】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG1,MG2や昇圧コンバータ46の半導体素子群41a,42a,46aが「n個の半導体素子群」に相当し、半導体素子群41a,42a,46aが取り付けられた基板50,60,70が「n個の基板」に相当し、基板50,60,70が取り付けられた冷却器80が「冷却器」に相当する。
【0024】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0025】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、半導体素子装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、41,42 インバータ、41a,42a,46a 半導体素子群、44 バッテリ、46 昇圧コンバータ、47 高電圧系電力ライン、48 電池電圧系電力ライン、50,60,70 基板、52,62,72 第1層、54,64,74 第2層、56,66,76 第3層、80 冷却器、82 循環流路、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の半導体素子を有する半導体素子群がn(nは2以上の整数)個と、前記n個の半導体素子群の各々が各々の一面側に取り付けられたn個の基板と、前記n個の基板の各々の他面側が取り付けられた冷却器と、を備える半導体素子装置であって、
前記n個の基板の各々の厚みは、取り付けられる半導体素子群である取付半導体素子群で想定される最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向に形成されてなる、
ことを特徴とする半導体素子装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体素子装置であって、
前記n個の基板の各々は、三層の積層体として構成されてなり、該三層のうち最も前記冷却器側の層の厚みが前記取付半導体素子群で想定される最大発熱量が小さいほど薄くなる傾向に形成されてなる、
半導体素子装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体素子装置であって、
前記n個の半導体素子群は、第1の電動機を駆動する第1のインバータ回路の半導体素子群と、第2の電動機を駆動する第2のインバータ回路の半導体素子群と、直流電源からの電力を昇圧して前記第1のインバータ回路および前記第2のインバータ回路に供給する昇圧回路の半導体素子群と、を含む、
半導体素子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−156215(P2012−156215A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12424(P2011−12424)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】