説明

半導体装置の製造方法

【課題】電流コラプスを抑制することが可能な半導体装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、窒化物半導体からなるチャネル層14と、前記チャネル層14上に設けられた窒化物半導体からなる電子供給層16と、前記電子供給層16上に設けられた窒化ガリウムからなるキャップ層18と、を形成する成長工程と、前記キャップ層18の上面に、パワー密度が0.0125〜0.15W/cmである酸素プラズマ処理を行う工程と、を有する半導体装置の製造方法である。本発明によれば、酸素をゲッタリングすることで、電流コラプスを抑制することが可能な半導体装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の製造方法に関し、特に窒化物半導体層を有する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置、例えばFET(Field Effect Transistor:電界効果型トランジスタ)等の半導体装置は、高周波用出力増幅用素子として用いられることがある。特許文献1には、屈折率の異なるSiN(窒化シリコン)膜を形成して、半導体層表面の不純物を除去する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−200306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、半導体層表面に存在する、酸素等の不純物に電子等のキャリアが捕獲され、電流コラプス等が発生することがある。電流コラプスが発生すると、半導体装置の出力が低下する。本発明は上記課題に鑑み、電流コラプスを抑制することが可能な半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられた窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられた窒化ガリウムからなるキャップ層と、を形成する成長工程と、前記キャップ層の上面に、パワー密度が0.0125〜0.15W/cmである酸素プラズマ処理を行う工程と、を有する半導体装置の製造方法である。本発明によれば、電流コラプスを抑制することが可能となる。
【0006】
上記構成において、前記酸素プラズマ処理を行う工程の後に、前記キャップ層の上面に、絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層を形成する工程の後に、熱処理を行う工程と、を有する構成とすることができる。この構成によれば、効果的に酸素のゲッタリングが行われ、電流コラプスの発生が抑制される。
【0007】
上記構成において、前記絶縁層を形成する工程は、窒化シリコンからなる前記絶縁層を形成する工程である構成とすることができる。この構成によれば、効果的に酸素のゲッタリングが行われ、電流コラプスの発生が抑制される。
【0008】
上記構成において、前記酸素プラズマ処理を行う工程は、酸素ガスと窒素ガスとを供給して酸素プラズマ処理を行う工程である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電流コラプスを抑制することが可能な半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)から図1(c)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を例示する断面図である。
【図2】図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を例示する断面図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
上記のように、電流コラプスは、電子等のキャリアが半導体層表面の不純物、特に酸素に捕獲されることにより発生する。実施例1では、プラズマ処理を行うことで、酸素のゲッタリングを行う。図1(a)から図2(c)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を例示する断面図である。
【0013】
図1(a)に示すように、例えばMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により、基板10上に、バリア層12、チャネル層14、電子供給層16、及びキャップ層18をエピタキシャル成長させ、半導体基板を形成する。バリア層12、チャネル層14、電子供給層16及びキャップ層18が下から順に積層され、窒化物半導体層11は形成される。キャップ層18は、チャネル層14及び電子供給層16の上に形成されている。基板10は例えばSiC(炭化シリコン)、Si(シリコン)又はサファイア等からなる。バリア層12は、例えば厚さ300nmのAlN(窒化アルミニウム)からなる。チャネル層14は例えば厚さ1000nmのi−GaN(窒化ガリウム)からなる。電子供給層16は、例えば厚さ20nmのAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)からなる。キャップ層18は、例えば厚さ5nmのn−GaNからなる。
【0014】
さらに、キャップ層18の上面に、酸素プラズマ処理を行う。酸素プラズマ処理により、キャップ層18上面の酸素がゲッタリングされる。酸素プラズマ処理の条件は以下の通りである。なお、パワー密度とは、アッシャーが備える電極の単位面積あたりのパワーである。またガスの比率は流量比である。
装置:対向型バレルアッシャー
アッシャーの電極面積:4000cm
プラズマのパワー:50〜600W(パワー密度0.0125〜0.15W/cmに相当)
炉内温度:25〜50℃
処理時間:2〜10分
炉内に供給したガス、及び比率:
酸素:窒素=1:0〜10
【0015】
図1(b)に示すように、酸素プラズマ処理の後に、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、キャップ層18の上面にSiN層20を形成する。SiN層20の厚さは例えば20nmであり、屈折率は例えば2.05〜2.45である。SiN層20の成長条件は、以下の通りである。
装置:平行平板型プラズマCVD装置
炉内温度:250〜350℃
気圧:0.8〜1.0Torr(106.64〜133.3Pa)
電力:25〜75W
材料及び流量:
SiH(モノシラン):NH(アンモニア):窒素:ヘリウム=3〜6:0〜2:200〜600:500〜900sccm
(5.07×10−3〜10.14×10−3:0〜3.38×10−3:338×10−3〜1014×10−3:845×10−3〜1520.9×10−3Pa・m/sec)
【0016】
図1(c)に示すように、SiN層20上にレジスト21を形成し、SiN層20のパターニングを行う。パターニングにより露出したキャップ層18上に、ソース電極24及びドレイン電極26を形成する。ソース電極24及びドレイン電極26は、例えば下から順にTi/AlやTa/Al等の金属を積層してなるオーミック電極である。ソース電極24及びドレイン電極26を形成する工程は、良好なオーミック接触を得るため、例えば400〜800℃の温度、窒素雰囲気中で熱処理を行う工程を含む。つまり、SiN層20を形成する工程の後に、熱処理を行う。
【0017】
図2(a)に示すように、例えばプラズマCVD法により、キャップ層18、SiN層20、ソース電極24及びドレイン電極26上に、例えば厚さ40nmのSiN層22を形成する。SiN層22の屈折率は例えば2.05〜2.45である。SiN層22の成長条件は、SiN層20の成長条件と同じであるため説明を省略する。
【0018】
図2(b)に示すように、SiN層22上にレジスト23を形成し、SiN層20及び22をパターニングする。パターニングにより露出したキャップ層18上にゲート電極28を形成する。ゲート電極28は、例えば下から順にNi/Al等の金属を積層してなる。
【0019】
図2(c)に示すように、ソース電極24及びドレイン電極26上に配線層30を形成する。配線層30は、例えばAu等の金属からなる。以上で、実施例1に係る半導体装置の製造方法は終了する。半導体装置は、チャネル層14、電子供給層16、及びGaNからなるキャップ層18を含むHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)構造である。
【0020】
次に実験について説明する。実験では、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光)分析、及び半導体装置の特性の測定を行った。
【0021】
まずXPS分析について説明する。これは、SiN層20及び22中のSi−O結合強度(シリコン−酸素結合強度)を測定することで、酸素プラズマ処理のゲッタリングの効果を評価したものである。キャップ層18表面の酸素は、熱処理によりSiN層20及び22中に吸収される。つまり、熱処理後のSiN層20及び22中のSi−O結合強度が大きいほど、キャップ層18表面に酸素が残留していることを意味する。言い換えれば、Si−O結合強度が小さいほど、酸素プラズマ処理によるキャップ層18表面の酸素のゲッタリングが強く行われたことを意味する。
【0022】
XPS分析に用いたサンプルについて説明する。サンプルAは酸素プラズマ処理を行わなかったものであり、サンプルB及びCは酸素プラズマ処理を行ったものである。なお各サンプルには、オーミック電極形成時の熱処理を行った。酸素プラズマ処理及び熱処理の条件は以下の通りである。
パワー:400W(パワー密度0.1W/cm
サンプルBの酸素プラズマ処理時間:1分
サンプルCの酸素プラズマ処理時間:3分
炉内に供給したガス、及び比率:
酸素:窒素=1:4
熱処理の温度:550℃
熱処理の処理時間:5分
また、各サンプルにおいて、熱処理前のSi−O結合強度は0.11であった。
【0023】
次にXPS分析の結果について説明する。表1は、XPS分析の結果を示す表である。表1に示すように、サンプルAでは熱処理前と熱処理後とでは、Si−O結合強度が0.11から0.2へ、0.09上昇した。サンプルBでは、Si−O結合強度が0.11から0.16へ、0.05上昇した。サンプルCでは、Si−O結合強度が0.11から0.14へ、0.03上昇した。
【0024】
サンプルB及びCは、サンプルAと比較して、熱処理後のSi−O結合強度の上昇幅が小さかった。また、酸素プラズマ処理時間が長いサンプルCは、サンプルBよりも、熱処理後のSi−O結合強度の上昇幅が小さかった。Si−O結合強度の上昇幅が小さいことは、キャップ層18に残留する酸素が少ないことを意味する。このことから、酸素プラズマ処理により、キャップ層18の酸素のゲッタリングが行われたことがわかった。
【表1】

【0025】
次に特性の測定について説明する。まずサンプルについて説明する。酸素プラズマ処理を行わなかったサンプルDと、酸素プラズマ処理を行ったサンプルEとを用いた。サンプルEの作成において適用した酸素プラズマ処理の条件は、以下の通りである。既述した条件と同じものについては、説明を省略する。
パワー:400W(パワー密度0.1W/cm
処理時間:3分
炉内に供給したガス、及び比率:
酸素:窒素=1:4
【0026】
半導体装置の特性は、ドレイン−ソース間電圧Vds=0V,ゲート−ソース間電圧Vgs=0Vとした場合、及びVds=50V,Vgs=−3Vのピンチオフ状態の場合、それぞれの場合にVds及びVgsのパルス信号を入力した際の、各サンプルのDC特性を3端子法で測定した。信号のゲート電圧は、−2V〜2Vまで0.4V刻みで変動させた。信号のパルス幅は4μsec、デューティー比は1%とした。ゲート電極28の幅(ゲート幅)は1mm、長さ(ゲート長)は0.9μmとした。なお幅方向は図2(c)の奥行き方向であり、長さ方向は図2(c)の横方向である。
【0027】
図3(a)及び図3(b)は、実験の結果を示す図である。図3(a)は酸素プラズマ処理を行わなかったサンプルDの測定結果、図3(b)は酸素プラズマ処理を行ったサンプルEの測定結果、をそれぞれ表す。横軸はドレイン−ソース間電圧、縦軸はドレイン−ソース間電流である。図中の破線はVds=0V,Vgs=0Vの場合の測定結果、実線はVds=50V,Vgs=−3Vの場合の測定結果を表す。破線と実線との差異が大きいほど、電流コラプスが強く発生している。
【0028】
図3(b)に示すサンプルEの方が、図3(a)に示すサンプルDよりも、破線と実線との差異が小さい。このことから、酸素プラズマ処理を行うことで、電流コラプスが抑制されていることが分かった。
【0029】
実施例1によれば、理由は不明であるが、キャップ層18に、酸素プラズマ処理を行うことにより、キャップ層18上面の酸素がゲッタリングされる。チャネル層14の電子を捕獲する酸素がゲッタリングされるため、電流コラプスの発生が抑制される。
【0030】
酸素プラズマ処理のパワー密度は、酸素のゲッタリングが十分に行われる程度の大きさとすればよい。ただし、パワーが高すぎると、窒化物半導体層11に与えるダメージが大きくなる。このためパワー密度は、0.0125〜0.15W/cmとすることが好ましい。また、パワー密度を0.0125W/cmより大きく、かつ0.15W/cm未満としてもよい。さらにパワー密度を0.02〜0.13W/cmとしてもよい。また、酸素プラズマ処理は酸素ガスのみを供給してもよいし、酸素ガス及び窒素ガスの両方を供給してもよい。窒素ガスは、高周波信号に対して高インピーダンスを示す。このため、窒素ガスを供給することで、プラズマインピーダンスをコントロールすることができる。つまり窒素ガスを供給することによって、酸素プラズマをよりコントロールしやすくし、ゲッタリングエネルギーを調節することができる。
【0031】
酸素プラズマ処理を行う工程だけでなく、SiN層20を形成した後、熱処理を行うことによっても、酸素のゲッタリングは行われる。つまり、実施例1によれば、酸素プラズマ処理と、SiN層20及び熱処理と、によって効果的に酸素のゲッタリングが行われ、電流コラプスの発生が抑制される。SiN層20以外に、別の絶縁層を形成して熱処理を行ってもよい。ただし、電流コラプスの発生をより効果的に抑制するためには、SiN層20を形成することが好ましい。
【0032】
熱処理を行う工程は、例えば筒型の炉を用いて、300℃以上の温度で、30分程度の時間、半導体基板の熱処理を行う工程である。温度が低いとゲッタリングが十分に行われない可能性がある。その一方で、温度が高すぎると、窒化物半導体層11の結晶が破壊される可能性がある。このため熱処理の温度は400〜800℃が好ましく、さらに好ましくは450〜700℃が好ましい。
【0033】
実施例1では、熱処理を行う工程は、オーミック電極(ソース電極24及びドレイン電極26)を形成する工程に含まれる。このため、工程を簡略化することができる。なお、熱処理を行う工程は、オーミック電極を形成する工程に含まれず、別の工程であってもよい。
【0034】
窒化物半導体層11は、AlN、GaN、AlGaN以外の窒化物半導体から形成してもよい。窒化物半導体とは、窒素を含む半導体であり、例えばInN(窒化インジウム)、InGaN(窒化インジウムガリウム)、InAlN(窒化インジウムアルミニウム)、及びAlInGaN(窒化アルミニウムインジウムガリウム)等がある。
【0035】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
基板 10
窒化物半導体層 11
バリア層 12
チャネル層 14
電子供給層 16
キャップ層 18
SiN層 20,22
ソース電極 24
ドレイン電極 26
ゲート電極 28
配線層 30

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられた窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられた窒化ガリウムからなるキャップ層と、を形成する成長工程と、
前記キャップ層の上面に、パワー密度が0.0125〜0.15W/cmである酸素プラズマ処理を行う工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸素プラズマ処理を行う工程の後に、前記キャップ層の上面に、絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層を形成する工程の後に、熱処理を行う工程と、を有することを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁層を形成する工程は、窒化シリコンからなる前記絶縁層を形成する工程であることを特徴とする請求項2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記酸素プラズマ処理を行う工程は、酸素ガスと窒素ガスとを供給して酸素プラズマ処理を行う工程であることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−33688(P2012−33688A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171681(P2010−171681)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000154325)住友電工デバイス・イノベーション株式会社 (291)
【Fターム(参考)】