説明

半導体装置の製造方法

【課題】SiC半導体基板の裏面電極は、低コンタクト抵抗を実現するために、ニッケル等のシリサイド形成用メタル膜を堆積後、PDAとして摂氏1000度程度の熱処理を必要とする。この熱処理を通常の熱処理やRTAで実行する場合には、ウエハの表面側がアルミニウム等の融点を超えるため、アルミニウム膜等の形成前に実施しなければならないという制約がある。また、既存の紫外線レーザを用いたレーザアニールでは、コンタクト抵抗を十分に下げられないという問題がある。
【解決手段】本願の一つの発明は、SiC基板の表面側にアルミニウム系メタル膜が形成された状態で、裏面にシリサイド形成用メタル膜を成膜し、この裏面に対してレーザビームによってシリサイド化処理を実行する半導体装置の製造方法であって、このレーザビームを、前記シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しない波長域に属する可視光とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置(または半導体集積回路装置)の製造方法におけるシリサイド化技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本特開2011−171551号公報(特許文献1)には、SiC半導体基板を用いたSB(Schottky Barrier)ダイオードにおいて、アルミニウム等により表面電極を形成した後、裏面にニッケル膜を形成し、高真空不活性ガス&還元ガス雰囲気下において、波長355nmの紫外レーザでアニール処理を実行することにより、裏面のシリサイド化を行う技術が開示されている。
【0003】
日本特開2008−85050号公報(特許文献2)または、これに対応する米国特許第7776660号公報(特許文献3)には、FZ(Floating Zone)法によるSi単結晶基板を用いたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)に関して、裏面のNiSi層の形成に、波長527nmのレーザを用い、ダブルパルス方式で、パルス重ね率を50%とする技術が開示されている。
【0004】
日本特開2005−223301号公報(特許文献4)または、これに対応する米国特許第7135387号公報(特許文献5)には、FZ法によるSi単結晶基板を用いたIGBTに関して、裏面のP型不純物層の十分な活性化を図るために、波長300nmから600nmのレーザを用い、ダブルパルス方式でパルス重ね率を調整することにより、パルス長を比較的長くする技術が開示されている。
【0005】
日本特開2011−91100号公報(特許文献6)または、これに対応する米国特許公開2011−92063号公報(特許文献7)には、SiC半導体基板を用いた縦型パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)において、裏面にニッケル膜を形成し、紫外レーザ光でアニール処理を実行することにより、裏面のシリサイド化を行う技術が開示されている。ここで、前記紫外レーザ光は、LD励起固体レーザのTHG(第3高調波生成)による波長が355nmのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−171551号公報
【特許文献2】特開2008−85050号公報
【特許文献3】米国特許第7776660号公報
【特許文献4】特開2005−223301号公報
【特許文献5】米国特許第7135387号公報
【特許文献6】特開2011−91100号公報
【特許文献7】米国特許公開2011−92063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SiC半導体基板の裏面電極は、低コンタクト抵抗を実現するために、ニッケル等のシリサイド形成用メタル膜を堆積後、PDA(Post−Deposition Anneal)として摂氏1000度程度の熱処理を必要とする。この熱処理を通常の熱処理やRTA(Rapid Thermal Anneal)で実行する場合には、ウエハの表面側がアルミニウム等の融点(摂氏660度)を超えるため、アルミニウム膜等の形成前に実施しなければならないという制約がある。また、既存の紫外線レーザを用いたレーザアニール(Laser Anneal)では、コンタクト抵抗を十分に下げようとすると、処理時間が非常に長くなるという問題がある。
【0008】
本願発明は、これらの課題を解決するためになされたものである。
【0009】
本発明の目的は、プロセス自由度の高い半導体装置の製造プロセスを提供することにある。
【0010】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0012】
すなわち、本願の一つの発明は、SiC基板の表面側にアルミニウム系メタル膜が形成された状態で、裏面にシリサイド形成用メタル膜を成膜し、この裏面に対してレーザビームによってシリサイド化処理を実行する半導体装置の製造方法であって、このレーザビームは、前記シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しない波長を有する。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0014】
すなわち、SiC基板の表面側にアルミニウム系メタル膜が形成された状態で、裏面にシリサイド形成用メタル膜を成膜し、この裏面に対してレーザビームによってシリサイド化熱処理を実行する半導体装置の製造方法であって、このレーザビームは、前記シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しない波長を有するので、前記アルミニウム系メタル膜に損傷を与えることなく、効率的に裏面のシリサイド化熱処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオードのチップ上面図(表面)である。
【図2】本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオードのチップ下面図(裏面)である。
【図3】図1のアクティブセル領域切り出し部R1の拡大上面図である。
【図4】図3のX−X’断面に対応するチップ断面図である。
【図5】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスのスターティングマテリアル(Starting Material)であるSiCウエハの全体上面図である。
【図6】図5のY−Y’断面に対応するSiCウエハの断面図である。
【図7】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(ウエハプロセス開始時点)である。
【図8】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(表面保護用酸化シリコン膜成膜工程)である。
【図9】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(N+型カソード領域導入工程)である。
【図10】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(P型不純物領域導入工程)である。
【図11】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(P型不純物領域導入後活性化アニール工程)である。
【図12】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(カーボン膜除去工程)である。
【図13】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(表面バリアメタル膜成膜工程)である。
【図14】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(アルミニウム系表面電極膜成膜工程)である。
【図15】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(ファイナルパッシベーション膜成膜工程)である。
【図16】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(シリサイド膜形成用メタル膜成膜工程)である。
【図17】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(裏面シリサイド化工程)である。
【図18】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(裏面メタル電極成膜工程)である。
【図19】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程に使用するレーザアニール装置の構成を説明するための装置構成図である。
【図20】本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程を説明するためのウエハの表面全体図である。
【図21】図20に対応するウエハの裏面全体図である。
【図22】図19のレーザアニール装置におけるレーザビーム単位ショット領域の1例を示すウエハ裏面図である。
【図23】図22におけるレーザビーム単位ショット領域のY方向への移動状況の1例を示すウエハ裏面図である。
【図24】図22におけるレーザビーム単位ショット領域のX方向への移動状況の1例を示すウエハ裏面図である。
【図25】図19のレーザアニール装置におけるパルスの時間推移を説明するためのタイムチャートである。
【図26】コンタクト抵抗のニッケル厚さ、ビームのエネルギ密度、およびパルス重ね率への依存性を示す試験データ棒グラフである。
【図27】26図のデータのうち、良好なコンタクト抵抗が得られるサンプルの一つの裏面表面からSiC基板にいたるオージェ元素分析の結果を示すデータプロット図である。
【図28】パルス重ね率と照射時間の関係を整理した説明図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施の形態の概要〕
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。
【0017】
1.以下の工程を含む半導体装置の製造方法:
(a)SiCウエハの第1の主面にアルミニウム系メタル表面電極膜を形成する工程;
(b)前記工程(a)の後、前記SiCウエハの第2の主面上のほぼ全面に、シリサイド形成用メタル膜を成膜する工程;
(c)前記工程(b)の後、前記SiCウエハの前記第2の主面側から、前記シリサイド形成用メタル膜に対して、レーザビームを照射することにより、前記シリサイド形成用メタル膜をシリサイド膜とする工程;
(d)前記工程(c)の後、前記シリサイド膜上のほぼ全面に、メタル裏面電極膜を形成する工程、
ここで、前記レーザビームは、前記シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しない波長を有する。
【0018】
2.前記項1の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、可視光に属するものである。
【0019】
3.前記項2の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、パルスの繰り返しから構成されている。
【0020】
4.前記項3の半導体装置の製造方法において、前記パルスは、Qスイッチングによる。
【0021】
5.前記項1から4のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、固体レーザから供給される。
【0022】
6.前記項5の半導体装置の製造方法において、前記固体レーザは、ダイオード励起型である。
【0023】
7.前記項1から6のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、更に以下の工程を有する:
(e)前記工程(d)の後、前記SiCウエハの前記第1の主面上およびアルミニウム系メタル表面電極膜上に、有機系パッシベーション膜を形成する工程。
【0024】
8.前記項1から7のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記工程(c)は、大気圧下で実行される。
【0025】
9.前記項1から8のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記工程(c)は、大気中で実行される。
【0026】
10.前記項1から9のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記工程(b)においては、前記シリサイド形成用メタル膜は、ニッケル、チタン、タングステン、モリブデン又はタンタルを主要な成分とする膜である。
【0027】
11.前記項1から9のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記工程(b)においては、前記シリサイド形成用メタル膜は、ニッケルを主要な成分とする膜である。
【0028】
12.前記項1から11のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記工程(b)の完了時に於いて、前記シリサイド形成用メタル膜の厚さは、30nm以上、100nm以下である。
【0029】
13.前記項3から12のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記パルスの繰り返し周波数は、0.5kHz以上、50kHz以下である。
【0030】
14.前記項3から13のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記パルスは、複数の固体レーザから供給され、合成される。
【0031】
15.前記項3から14のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記パルスの長さは、50ナノ秒から5マイクロ秒である。
【0032】
16.前記項14または15の半導体装置の製造方法において、前記複数の固体レーザから供給されるパルスの相互遅延時間は、ほぼ0である。
【0033】
17.前記項1から16のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、Nd:YAGレーザまたはNd:YLFレーザから供給される2次高調波である。
【0034】
18.前記項1から17のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記レーザビームの波長は、455nmから597nmである。
【0035】
19.前記項3から18のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記レーザビームの重ね率は、66%以上、80%以下である。
【0036】
20.前記項1から19のいずれか一つの半導体装置の製造方法において、前記レーザビームのエネルギ密度は、3.6J/cm以上である。
【0037】
〔本願における記載形式、基本的用語、用法の説明〕
1.本願において、実施の態様の記載は、必要に応じて、便宜上複数のセクションに分けて記載する場合もあるが、特にそうでない旨明示した場合を除き、これらは相互に独立別個のものではなく、単一の例の各部分、一方が他方の一部詳細または一部または全部の変形例等である。また、原則として、同様の部分は繰り返しを省略する。また、実施の態様における各構成要素は、特にそうでない旨明示した場合、理論的にその数に限定される場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、必須のものではない。
【0038】
更に、本願において、「半導体装置」または「半導体集積回路装置」というときは、主に、各種のダイオードまたは各種トランジスタ(能動素子)単体、あるいは、それらを中心に、抵抗、コンデンサ等を半導体チップ等(たとえば単結晶シリコン基板)上に集積したものをいう。
【0039】
2.同様に実施の態様等の記載において、材料、組成等について、「AからなるX」等といっても、特にそうでない旨明示した場合および文脈から明らかに、そうでない場合を除き、A以外の要素を主要な構成要素のひとつとするものを排除するものではない。たとえば、成分についていえば、「Aを主要な成分として含むX」等の意味である。
【0040】
具体的に言えば、「アルミニウム膜」、「ニッケル膜」、「金膜」、「チタン膜」等といっても、特にそうでない旨明示した場合を除き、純粋なこれらの膜を指すものではなく、「アルミニウム系膜」、「ニッケル系膜」、「金系膜」、「チタン系膜」等、すなわち、「アルミニウムを主要な成分とする膜」、「ニッケルを主要な成分とする膜」、「金を主要な成分とする膜」、「チタンを主要な成分とする膜」等を表している。
【0041】
また、「シリコン部材」等といっても、純粋なシリコンに限定されるものではなく、SiGe合金やその他シリコンを主要な成分とする多元合金、その他の添加物等を含む部材も含むものであることはいうまでもない。同様に、「酸化シリコン膜」、「酸化シリコン系絶縁膜」等と言っても、比較的純粋な非ドープ酸化シリコン(Undoped Silicon Dioxide)だけでなく、FSG(Fluorosilicate Glass)、TEOSベース酸化シリコン(TEOS-based silicon oxide)、SiOC(Silicon Oxicarbide)またはカーボンドープ酸化シリコン(Carbon-doped Silicon oxide)またはOSG(Organosilicate glass)、PSG(Phosphorus Silicate Glass)、BPSG(Borophosphosilicate Glass)等の熱酸化膜、CVD酸化膜、SOG(Spin ON Glass)、ナノ・クラスタリング・シリカ(Nano-Clustering Silica:NCS)等の塗布系酸化シリコン、これらと同様な部材に空孔を導入したシリカ系Low-k絶縁膜(ポーラス系絶縁膜)、およびこれらを主要な構成要素とする他のシリコン系絶縁膜との複合膜等を含むことは言うまでもない。
【0042】
また、酸化シリコン系絶縁膜と並んで、半導体分野で常用されているシリコン系絶縁膜としては、窒化シリコン系絶縁膜がある。この系統の属する材料としては、SiN,SiCN,SiNH,SiCNH等がある。ここで、「窒化シリコン」というときは、特にそうでない旨明示したときを除き、SiNおよびSiNHの両方を含む。同様に、「SiCN」というときは、特にそうでない旨明示したときを除き、SiCNおよびSiCNHの両方を含む。
【0043】
なお、SiCは、SiNと類似の性質を有するが、SiONは、むしろ、酸化シリコン系絶縁膜に分類すべき場合が多い。
【0044】
同様に、「ニッケルシリサイド」というときは、通常、ニッケルモノシリサイドを指すが、比較的純粋なものばかりではなく、ニッケルシリサイド(組成の異なるものを含む)を主要な構成要素とする合金、混晶等を含む。また、シリサイドは、ニッケルシリサイドに限らず、モリブデンシリサイド、チタンシリサイド、タングステンシリサイド、タンタルシリサイド等でもよい。また、シリサイド化のための金属膜としては、Ni(ニッケル)膜以外にも、モリブデン、チタン、タングステン、タンタル等がある。なお、ニッケル軽合金としては、例えばNi−Pt合金膜(NiとPtの合金膜)、Ni−V合金膜(NiとVの合金膜)、Ni−Pd合金膜(NiとPdの合金膜)、Ni−Yb合金膜(NiとYbの合金膜)またはNi−Er合金膜(NiとErの合金膜)等がある。なお、これらのニッケルを主要な金属元素とするシリサイドを「ニッケル系のシリサイド」と総称する。
【0045】
3.同様に、図形、位置、属性等に関して、好適な例示をするが、特にそうでない旨明示した場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、厳密にそれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0046】
4.さらに、特定の数値、数量に言及したときも、特にそうでない旨明示した場合、理論的にその数に限定される場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、その特定の数値を超える数値であってもよいし、その特定の数値未満の数値でもよい。
【0047】
5.「ウエハ」というときは、通常は半導体装置(半導体集積回路装置、電子装置も同じ)をその上に形成する単結晶シリコンウエハを指すが、エピタキシャルウエハ、SOI基板、LCDガラス基板等の絶縁基板と半導体層等の複合ウエハ等も含むことは言うまでもない。
【0048】
6.本願においてSBDとは、純粋なショットキバリアダイオードばかりでなく、ショットキバリアダイオードと通常のPN接合ダイオードを組み合わせて集積したものも含むことは言うまでもない。たとえば、以下の実施の形態では、選択的にP型層を配置したJBS(Junction Barrier Controlled Schottky)ダイオードまたはMPS(Merged pin Schottky)ダイオードを例に取り具体的に説明する。
【0049】
7.レーザに関して、可視光または可視領域というときは、光の波長が、390nmから780nmであることを指す。この定義に対応して、本願に於いては、紫外線又は紫外領域とは、光の波長が、390nmよりも短く、50nmよりも長いものを指す。ここで、200nm未満の領域を特に真空紫外領域という。
【0050】
一方、赤外線または赤外領域とは、光の波長が、780nmよりも長く、100マイクロメートル未満のものを指す。この赤外領域は、更に、波長が2.5マイクロメートル以下の近赤外領域、2.5マイクロメートルよりも長く、25マイクロメートルよりも短い中間赤外領域、および、25マイクロメートル以上の遠赤外領域に分けられる。
【0051】
また、「ビームの径」、「ビームの幅」、「ビームの長さ」、「パルスの長さ(パルス継続時間)」、「パルス幅」等というときの、「径」、「幅」、「長さ」等は、FWHM(Full Width Half Maximum)に対応する。
【0052】
更に、ビームの強度分布は、通常、ガウス分布を仮定しているが、照射領域内でより平準化された分布であっても良い。なお、ビームの強度は、エネルギ強度(場の強度の二乗に比例)で表す。
【0053】
なお、本願に於いて「レーザビームのエネルギ密度」とは、レーザパルスの単位ショットに関しての単位面積当たりのエネルギを言う。
【0054】
8.SiC結晶には、多くのポリタイプ(Polytype)が存在するが、デバイスに使用されているのは、事実上4H、3C、6Hの三つに限られている。本願では、主に4H−SiCの場合を具体的に説明するが、その他のポリタイプでもよいことは言うまでもない。
【0055】
〔実施の形態の詳細〕
実施の形態について更に詳述する。各図中において、同一または同様の部分は同一または類似の記号または参照番号で示し、説明は原則として繰り返さない。
【0056】
また、添付図面においては、却って、煩雑になる場合または空隙との区別が明確である場合には、断面であってもハッチング等を省略する場合がある。これに関連して、説明等から明らかである場合等には、平面的に閉じた孔であっても、背景の輪郭線を省略する場合がある。更に、断面でなくとも、空隙でないことを明示するために、ハッチングを付すことがある。
【0057】
1.本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオード等の説明(主に図1から図4)
このセクションでは、SiCダイオードの一例として、JBSダイオードまたはMPSダイオードを例に取り具体的に説明するが、Pinダイオードやその他の形式のダイオードの裏面のシリサイド化にも適用できることは言うまでもない。また、ダイオードに限らず、各種のパワー系トランジスタ、パワー系スイッチ素子等の裏面のシリサイド化にも適用できることは言うまでもない。
【0058】
図1は本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオードのチップ上面図(表面)である。図2は本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオードのチップ下面図(裏面)である。図3は図1のアクティブセル領域切り出し部R1の拡大上面図である。図4は図3のX−X’断面に対応するチップ断面図である。これらにより、本願の一実施の形態の半導体装置の製造方法における対象デバイスの一例であるSiCダイオード等を説明する。
【0059】
図1にSiCダイオードチップ2の上面図を示す。図1に示すように、チップ2の表面1a(第1の主面)の中央部のほとんどの領域は、アクティブセル領域5によって占有されており、これを全面的に覆うように、表面メタル電極6が形成されている。また、チップ2の表面1aのうち、アノードパッド4を除くほとんどの部分は、ファイナルパッシベーション膜3によって被覆されている。
【0060】
次に、チップ2の裏面1b(第2の主面)を図2に示す。図2に示すように、チップ2の裏面1bには、ほぼ全面に裏面メタル電極7が形成されている。
【0061】
次に図1のアクティブセル領域切り出し部R1の拡大平面図を図3に示す。図3に示すように、アクティブセル領域5は、基本的にショットキ接合部15とその間に一定の間隔で格子状に配置されたP型不純物領域8(アノード不純物領域)から構成されている。
【0062】
次に図3のX−X’断面を図4に示す。図4に示すように、チップ2の裏面1b側のSiC基板には、N+型カソード領域11が設けられており、その表面には、裏面シリサイド膜12を介して、裏面メタル電極7が設けられている。N+型カソード領域11の上側は、もともとのN型基板領域1s、すなわち、N型バッファ領域14(この領域はもちろん必須ではない)であり、残余のSiC基板の表面1a側のほとんどの部分は、N−型ドリフト領域9となっている。ショットキダイオード部16sにおけるN−型ドリフト領域9の表面は、そのままショットキ接合部15となっており、一方、Pinダイオード部16pにおけるN−型ドリフト領域9の表面には、P型不純物領域8(アノード不純物領域)が設けられている。チップ2の表面1a側のSiC基板上には、表面バリアメタル膜6bを介してアルミニウム系表面電極膜6aが設けられており、これらで表面メタル電極6を構成している。表面メタル電極6上には、さらに、ファイナルパッシベーション膜3が設けられている。
【0063】
2.本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスの説明(主に図5から図18)
このセクションでは、バックグラインディングを適用しないプロセスを説明するが、必要に応じて、バックグラインディングを適用しても良いことは言うまでもない。以下の実施の形態に説明されるプロセスは、レーザ光が実質的にSiC基板に侵入しないので、どのように薄いウエハにも適用できるメリットがある。
【0064】
図5は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスのスターティングマテリアル(Starting Material)であるSiCウエハの全体上面図である。図6は図5のY−Y’断面に対応するSiCウエハの断面図である。図7は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(ウエハプロセス開始時点)である。図8は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(表面保護用酸化シリコン膜成膜工程)である。図9は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(N+型カソード領域導入工程)である。図10は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(P型不純物領域導入工程)である。図11は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(P型不純物領域導入後活性化アニール工程)である。図12は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(カーボン膜除去工程)である。図13は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(表面バリアメタル膜成膜工程)である。図14は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(アルミニウム系表面電極膜成膜工程)である。図15は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(ファイナルパッシベーション膜成膜工程)である。図16は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(シリサイド膜形成用メタル膜成膜工程)である。図17は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(裏面シリサイド化工程)である。図18は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明するための図4に対応する部分のウエハ断面図(裏面メタル電極成膜工程)である。これらにより、本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法におけるウエハプロセスを説明する。
【0065】
まず、図5および図7に示すように、たとえば、350マイクロメートル程度(好適な範囲としては、たとえば200から1000マイクロメートル程度)の厚さのN型SiC単結晶ウエハ1s上に、たとえば厚さ:8マイクロメートル程度、不純物濃度:2x1016/cm程度(窒素ドープ)のN−型SiCエピタキシャル領域1eを形成したエピタキシウエハ1を準備する。SiCウエハのN型基板領域1sの抵抗率は、たとえば、20mΩcm程度である。このSiCウエハ1(ポリタイプは、たとえば4H)は、たとえば、76φ(なお、ウエハの直径は、100ファイでも、150ファイでも、それ以外のものでも良い)とし、主面の結晶面は、たとえば(0,0,0,1)面または、これと等価な面とする(必要に応じて他の結晶面を使用してもよい)。なお、任意であるが、ここでは、主オリエンテーションフラット31とサブオリエンテーションフラット32を有するものを使用した。結晶方位は、たとえば主オリエンテーションフラット31の方向が、[1,−1,0,0]方向であり、サブオリエンテーションフラット16と反対の方向が、たとえば[1,1,−2,0]方向である。
【0066】
なお、より正確に言うと、各種のプロセス的要求から、たとえば図6に示すように、実際の[0,0,0,1]方向は、ウエハ1の表面1aに立てた法線NLから[−1,−1,2,0]方向にオフアングルθoff分傾斜している。オフアングルθoffとしては、3度から10度程度が一般的であるが、ここでは、例えば、4度とする。なお、オフアングルはなくとも良い。
【0067】
次に、図8に示すように、ウエハ1の表面1a側のほぼ全面に、表面保護用酸化シリコン膜21として、たとえば、TEOS(Tetraethylorthosilicate)を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)により、酸化シリコン膜(例えば、厚さ1000nm程度)を成膜する。以下このような酸化シリコン膜を「TEOS酸化膜」という。
【0068】
次に、図9に示すように、ウエハ1の裏面1bのほぼ全面に、たとえばイオン注入により、N型不純物を導入することにより、N+型カソード領域11を形成する。これによって、N型基板領域1sは、N型バッファ領域14となる。なお、このイオン注入は、たとえば以下の各ステップで実行する(なお、打ち込み方式は、垂直打ち込みであり、ウエハ温度は、常温である)。すなわち、
(1)イオン種:たとえば窒素、ドーズ量:たとえば4x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば240KeV程度、
(2)イオン種:たとえば窒素、ドーズ量:たとえば3x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば190KeV程度、
(3)イオン種:たとえば窒素、ドーズ量:たとえば3x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば150KeV程度、
(4)イオン種:たとえば窒素、ドーズ量:たとえば3x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば110KeV程度、
(5)イオン種:たとえば窒素、ドーズ量:たとえば3x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば70KeV程度を好適なものとして例示することができる。その後、不要になった表面保護用酸化シリコン膜21をたとえば弗酸系エッチング液により除去する。
【0069】
次に、図10に示すように、ウエハ1の表面1a上のほぼ全面に、順次、たとえばCVDにより、P型不純物領域導入用酸化シリコン膜22としてTEOS酸化膜(例えば、厚さ1000nm程度)およびP型不純物領域導入用アモルファスSi膜23(例えば、厚さ1000nm程度)を成膜する。次に、P型不純物領域導入用アモルファスSi膜23上のほぼ全面に、P型不純物領域導入用レジスト膜24(たとえば、厚さ1.5マイクロメートル程度)を塗布し、リソグラフィにより、パターニングする。パターニングされたP型不純物領域導入用レジスト膜24をマスクとして、順次、P型不純物領域導入用アモルファスSi膜23およびP型不純物領域導入用酸化シリコン膜22をパターニングする。次に、これらの膜をマスクとして、P型不純物をイオン注入することにより、選択的に、P型不純物領域8(アノード不純物領域)を形成する。なお、このイオン注入は、たとえば以下の各ステップで実行する(なお、打ち込み方式は、垂直打ち込みであり、ウエハ温度は、常温である)。すなわち、
(1)イオン種:たとえばアルミニウム、ドーズ量:たとえば1.5x1014/cm程度、注入エネルギ:たとえば250KeV程度、
(2)イオン種:たとえばアルミニウム、ドーズ量:たとえば8x1013/cm程度、注入エネルギ:たとえば150KeV程度、
(3)イオン種:たとえばアルミニウム、ドーズ量:たとえば6x1013/cm程度、注入エネルギ:たとえば100KeV程度、
(4)イオン種:たとえばアルミニウム、ドーズ量:たとえば4x1013/cm程度、注入エネルギ:たとえば50KeV程度を好適なものとして例示することができる。その後、不要になったレジスト膜34をたとえばアッシング等により、アモルファスSi膜23を、たとえば弗酸−硝酸系エッチング液により、P型不純物領域導入用酸化シリコン膜22をたとえば弗酸系エッチング液により除去する。
【0070】
次に、図11に示すように、ウエハ1の表面1aおよび裏面1b上のほぼ全面に、それぞれ表面カーボン膜25aおよび裏面カーボン膜25bをたとえば、プラズマCVDにより成膜(膜厚は、例えば、いずれも30nm程度)する。ここで、カーボン膜25a、25bの成膜条件(プラズマCVD)としては、たとえば、ガス流量:CH/Ar=1000sccm程度/100sccm程度、処理気圧:1.3キロパスカル程度、高周波パワー:1キロワット程度、低周波パワー:1キロワット程度を好適にものとして例示することができる。次に、この状態で、これまでに注入したイオンの活性化アニールを実施する。すなわち、たとえば、RTAにより摂氏1700度(不活性ガス雰囲気)で60秒程度の処理を実施する。
【0071】
次に、図12に示すように、たとえば、酸素プラズマ等により、表面カーボン膜25aおよび裏面カーボン膜25bを除去する。
【0072】
次に、図13に示すように、ウエハ1の表面1a(主にアクティブセル領域5)上に、たとえば、スパッタリング成膜により、表面バリアメタル膜6bを成膜する。表面バリアメタル膜6bの具体的構成は、たとえば、下層のチタン膜(たとえば厚さ50nm程度)および上層の窒化チタン膜(たとえば厚さ50nm程度)である。なお、表面バリアメタル膜6bとしては、チタン膜および窒化チタン積層膜のほか、チタン、タングステン、TiW、モリブデン、タンタル等の単層膜または、これらの窒化膜との積層膜等を好適なものとして例示することができる。
【0073】
次に、図14に示すように、表面バリアメタル膜6b上に、たとえば、スパッタリング成膜により、アルミニウム系表面電極膜6a(たとえば厚さ3000nm程度)を成膜し、リソグラフィにより、パターニングする(すなわち、アクティブセル領域5外の不要な部分を除去する)。このように、表面バリアメタル膜6bとアルミニウム系表面電極膜6aで表面メタル電極6が構成されている。
【0074】
なお、この図17の工程に続いて、必要があれば、バックグラインディング(元のN型基板領域1sの厚さを、たとえば、20から150nm程度とする処理)を実行するが、その場合は、図9のN+型カソード領域11の導入工程をバックグラインディングの後に実施して、その活性化熱処理をレーザによる活性化処理とする。
【0075】
次に、図15に示すように、ウエハ1の表面1a上のほぼ全面に、例えば塗布により、ファイナルパッシベーション膜3として、たとえば、感光性ポリイミド膜(たとえば厚さ12マイクロメートル程度)を塗布し、リソグラフィによりパターニングする(すなわち、アクティブセル領域5内外の不要な部分を除去する)。
【0076】
なお、ファイナルパッシベーション膜3としては、有機膜の単層のほか、下層に無機絶縁膜を敷き、上層に有機絶縁膜を形成しても良い。また、無機絶縁膜の単層としてもよい。ただし、有機絶縁膜があると、外部からの機械的ストレスの緩和等に有効である。また、無機絶縁膜は、酸化シリコン系絶縁膜または窒化シリコン系絶縁膜の単層とするほか、これらの積層膜としてもよい。さらに、有機膜としては、ポリイミド系樹脂膜のほか、たとえば、BCB(Benzocyclobutene)系樹脂膜等を好適なものとして例示することができる。
【0077】
次に、図16に示すように、ウエハ1の裏面1bのほぼ全面に、例えばスパッタリング成膜により、シリサイド膜形成用メタル膜20として、たとえば、ニッケル膜(厚さは、たとえば、50nm程度)すなわち、ニッケルを主要な成分とする膜を成膜する。ここで、たとえば、527nmのレーザビームを使用してアニールする場合の好適なニッケル膜の膜厚範囲は、たとえば30nm程度から100nm程度とすることができる。これは、光が実質的にニッケル膜を透過しないという条件とプロセスのばらつきを考慮して、下限は30nm程度となり、上限はニッケル材料の経済性を考慮して、100nm程度と推定される。
【0078】
なお、シリサイド膜形成用メタル膜20の主要材料としては、ニッケルのほか、たとえばチタン、タングステン、モリブデン、またはタンタルを上げることができる。
【0079】
次に、図17に示すように、ウエハ1の裏面1b側から、レーザビームを照射することによって、シリサイド膜形成用メタル膜20をシリサイド膜12(例えば、ニッケルシリサイド膜)に転化する。その後、必要があれば、ウエハ1の裏面に析出したカーボンリッチ層をたとえばアルゴンスパッタにより除去する。表面のカーボンリッチ層を除去するのは、裏面メタル電極7との接着性を向上させる等のためである。
【0080】
次に、図18に示すように、ウエハ1の裏面1b側のほぼ全面に、裏面メタル電極膜7(ウエハ1に近い側から、たとえば、チタン/ニッケル/金など)をたとえばスパッタリングにより形成する。その後、ダイシング等により、ウエハ1をここのチップ2に分割する。
【0081】
3.本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール(Post−Deposition Anneal:PDA)工程に使用するレーザアニール装置の説明(主に図19)
このセクションでは、ポストデポジションアニール装置として、同一出力の二つのNd:YLFレーザおよびそのSHG(Second Harmonic Generation)である波長527nmのパルスを重ね合わせたダブルパルス方式を用いたものを説明する。しかし、これは単なる一例であって、適切な波長、出力、パルス特性等が確保できるものであれば、Nd:YLFレーザに限らず、たとえばNd:YAGレーザのSHGである波長532nm等を用いてもよい。また、共振器ホストへの添加不純物もNdに限らないことは言うまでもない。
【0082】
また、ここでは、複数台のレーザ発信器からのビームを合成して加工用レーザビーム67を合成する方法を具体的に説明するが、単一のレーザ発信器から出る単一のビームを加工用レーザビーム67としても良いことは言うまでもない。
【0083】
更に、以下では、同一種類のレーザ発信器からのビームを合成して加工用レーザビーム67を合成する方法を具体的に説明するが、異なる種類のレーザ発信器からのビームを合成して加工用レーザビーム67を合成するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0084】
また、ここでは、同一種類のレーザ発信器からの同一ビーム特性のビームを合成して加工用レーザビーム67を合成する方法を具体的に説明するが、同一種類のレーザ発信器からの異なるビーム特性のビームを合成して加工用レーザビーム67を合成してもよいことはいうまでもない。
【0085】
図19は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程に使用するレーザアニール装置の構成を説明するための装置構成図である。これにより、本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程に使用するレーザアニール装置を説明する。
【0086】
図19に示すように、ここで説明するレーザ熱処理装置51には、同一の種類で同一の出力の第1のレーザ発信器53aおよび第2のレーザ発信器53bが備えられており、ともにレーザ駆動&制御部52によって制御されている。この例では、第1のレーザ発信器53aおよび第2のレーザ発信器53bは、それぞれ第1のダイオード励起部54aおよび第2のダイオード励起部54bによって励起されるダイオード励起型である。また、第1のレーザ発信器53aおよび第2のレーザ発信器53bは、それぞれ第1のQスイッチ部55aおよび第2のQスイッチ部55bによるQスイッチング方式により、高エネルギのパルスを放出するように構成されている。
【0087】
第1のレーザ発信器53aからのレーザビームは、反射ミラー56a,57a,58aを介して、ビーム合成器63に導かれる。反射ミラー57a,58a間にあるのは、出力強度を調整するための第1の可変減衰器62aである。
【0088】
一方、第2のレーザ発信器53bからのレーザビームは、反射ミラー56b,57bを介して、ビーム合成器63に導かれる。反射ミラー57bとビーム合成器63間にあるのは、出力強度を調整するための第2の可変減衰器62bである。
【0089】
ビーム合成器63で合成されたレーザビーム(ダブルパルス方式)は、反射ミラー59,60を介して、ビームエキスパンダ64に導かれて、そこで拡大され、拡散板65に到達する。拡散板65のレーザビームが照射した部分の全面は、新たな光源面、すなわち、物面として作用し、集光レンズ66(対物レンズ)および反射ミラー61によって、加工用レーザビーム67は、ウエハ1の裏面1bのシリサイド膜形成用メタル膜20(正確には、その表面)が焦点面68(像面)となるように投影される。すなわち、このダブルパルス方式(遅延時間0の場合)では、ビームのエネルギ強度を3.8J/cmとしたい場合には、各レーザのビームのエネルギ強度を1.9J/cmとすればよい。
【0090】
この例では、ウエハ1は裏面1bを上に向けてウエハ吸着テーブル73に真空吸着保持されており、ウエハ吸着テーブル73は、水平調整用の傾き調整機構72を介してXYテーブル71上に固定されている。従って、光軸は固定であり、ウエハの方が2次元的に(XY方向)移動する構造となっている。なお、Z軸方向の調整も可能であることはいうまでもない。
【0091】
なお、第1のレーザ発信器53aおよび第2のレーザ発信器53bは、それぞれNd:YLFレーザ(ダイオード励起の固体レーザ;発振波長は、第2高調波の527nm)であり、個々の出力は、20ワット程度であり、パルス長は100n秒程度であり、パルスの繰り返し周波数は1kHz程度であり、パルスのエネルギ密度は、最大2J/cm程度である。なお、被処理ウエハ1は、特に説明しない限り大気中(大気圧下)で処理される。もちろん、不活性ガス雰囲気とすることは可能である。
【0092】
ここで、波長527nmの光は、可視光に属し、ニッケル膜の厚さが30nmから50nm以上あれば、光がSiC基板に到達した時点で、光強度は、ニッケル膜への侵入した直後の光強度の5%から1%以下程度に減衰していると考えられるので、このような条件では、レーザビームは、シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しないということができる。
【0093】
4.本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール(Post−Deposition Anneal:PDA)工程の説明(主に図20から図25)
このセクションでは、光軸を固定した状態で、ウエハを載せたXYテーブルを2次元的に移動させることによって、ウエハのほぼ全面にレーザビームを照射する方式を説明する。しかし、レーザビームのスキャンニングについては、たとえば、ガルバノミラー等によって、レーザビーム側を走査することも可能であることは言うまでもない。このレーザビーム走査方式は、特に、パルス繰り返し周波数が高くなった際に有利である。また、ウエハとビームの両方を移動させても良い。さらに、ウエハ移動は、直交軸方向の平行移動のみではなく、ウエハを中心の周りに回転させても良い。
【0094】
レーザビームのスキャンニング経路は、以下の例のようにジグザグモードのほか、同一方向への移動を繰り返すものでも良い。また、特定部分をラスタスキャン等するものでも良い。
【0095】
また、この例では、横方向の重ね率と縦方向の重ね率を同一にしているが、異なるものとしてもよいことはいうまでもない。また、本実施の形態の例では、単一のレーザビーム単位ショット領域に着目したとき、レーザビーム単位ショット領域の面積が、隣接するレーザビーム単位ショット領域と重ならない部分の面積の整数倍になるような例を示しているが、そうでないものを排除するものではない。
【0096】
図20は本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程を説明するためのウエハの表面全体図である。図21は図20に対応するウエハの裏面全体図である。図22は図19のレーザアニール装置におけるレーザビーム単位ショット領域の1例を示すウエハ裏面図である。図23は図22におけるレーザビーム単位ショット領域のY方向への移動状況の1例を示すウエハ裏面図である。図24は図22におけるレーザビーム単位ショット領域のX方向への移動状況の1例を示すウエハ裏面図である。図25は図19のレーザアニール装置におけるパルスの時間推移を説明するためのタイムチャートである。図28はパルス重ね率と照射時間の関係を整理した説明図表である。これらにより、本願の前記一実施の形態の半導体装置の製造方法における裏面シリサイド膜形成用メタル膜に対するポストデポジションアニール工程(裏面シリサイド膜形成用メタル膜ポストデポジションアニール工程)を説明する。
【0097】
図20に示すように、裏面シリサイド膜形成用メタル膜ポストデポジションアニール工程の対象であるウエハ1の表面1aには、すでに多数のチップ領域2が形成されている。
【0098】
図21に示すように、裏面シリサイド膜形成用メタル膜ポストデポジションアニール工程におけるレーザビームによるスキャンニング(この例では移動するのはウエハの方)は、通常、ウエハ1の裏面1bのチップ配列領域10の全てをカバーするように、たとえば、レーザスキャン経路41等に沿って行われる。
【0099】
この例では、レーザビームの断面形状(焦点面)すなわちレーザビーム単位ショット領域42の形状は、図22に示すように、ほぼ矩形であり、ビーム照射位置の移動方向43(スキャンニング方向)と直交する方向が長い。たとえば、縦長さLは、0.25ミリメートル程度であり、横長さTは、2.5ミリメートル程度である。
【0100】
次に、図23は一つのレーザビーム単位ショット領域42aとその次のレーザビーム単位ショット領域42bを併記したものである。図23に示すように、両領域は、一般にスキャンニング方向(Y軸方向)に一定の重なり部分(Y方向の重複部分の長さYS)を持っている。
【0101】
次に、図24に示すように、直線状スキャン経路の端まで来ると、スキャン経路は、X軸方向に一定距離シフトして、これまでと逆方向、すなわち、スキャンニング方向43bに沿って移動してゆく。これらを示したのが、レーザビーム単位ショット領域42a,42b,42c,42d,42h,42i,42j,42kである。このとき、レーザビーム単位ショット領域42a,42b,42c,42dとレーザビーム単位ショット領域42h,42i,42j,42kの間には、一定の重なりが有り、横方向(X軸方向)にX方向の重複部分の長さXSだけ重なっている。
【0102】
ここで、図22のレーザビーム単位ショット領域の縦長さLおよびレーザビーム単位ショット領域の横長さT、図23のY方向の重複部分の長さYS並びに図24のX方向の重複部分の長さXSの間には、一般にXS/T=YS/Lの関係があり、この値を百分率で表したものを「パルス重ね率」という。この例では、一例として、パルス重ね率80%とする。
【0103】
次に、図25にこの例のレーザビームの時間推移属性を説明する。図25にしめすように、第1のレーザ発信器53a(図19)からのビーム1と第2のレーザ発信器53bからのビーム2は、ビーム合成器63で合成されるわけであるが、この例では、インフェーズ(パルス間遅延時間D=0)で合成されるが、一般には、このパルス間遅延時間Dは、任意に設定できる。また、先に説明したように、この例では、パルス幅Wは、100n秒程度であり、パルス繰り返しピッチPは、パルス繰り返し周波数が1kHzのとき1ミリ秒(1000マイクロ秒)である。このように、この実施形態で使用するレーザビームは、基本的にパルスの繰り返しから構成されている。パルス幅W(パルス長またはパルス継続時間)の好適な範囲は、たとえば50ナノ秒から5マイクロ秒程度と考えられる。下限は、加熱の効率を確保する観点から決定され、上限は、ウエハ1の表面温度を摂氏200度程度以下に保つ観点から、パルス繰り返しピッチPとの比較から決定される。
【0104】
また、本実施の形態で、パルス間遅延時間D=0としているのは、活性化アニールのように、長いパルス幅が要求されているわけではなく、この加工においては表面の薄膜の急速加熱がキーポイントになっているからである。ただし、加熱効率を下げない範囲で、有限のパルス間遅延時間D(0ではない妥当な正値)とすることを排除するものではない。
【0105】
次に、これらの条件で、実際のウエハのほぼ全域をスキャンニングしたときに所要時間(照射時間)をまとめたのが、図28である。同図に於いて、重ね回数は、ウエハ上の標準的な1点をパルスが照射する回数である。図28に示すように、パルス繰り返し周波数が1kHzの条件では、良好なコンタクト抵抗を得られることを条件として(図26参照)スループットの観点から見ると、一応、パルス重ね率が66%から80%の範囲が、量産上の好適な範囲と見られる。しかし、パルス繰り返し周波数は、0.5kHzから10kHzの範囲で変更することは比較的容易である。また、ウエハの表面の温度を摂氏200度程度以下に保つ条件を考慮しても、最大50kHzあたりまでは、比較的容易にパルス繰り返し周波数を高めることは可能である。従って、パルス重ね率の実用範囲としては、66%から95%とすることができる。
【0106】
なお、パルス重ね率50%で、十分低いコンタクト抵抗を確保するには、たとえば、エネルギ密度を更に大幅に上昇させた上で、パルス長を長くする(遅延時間をパルス長より短い正値にする)等の方法が考えられる。
【0107】
5.本願の各実施の形態(変形例を含む)に関する補足的説明並びに一般的考察(主に図26および図27)
図26はコンタクト抵抗のニッケル厚さ、ビームのエネルギ密度、およびパルス重ね率への依存性を示す試験データ棒グラフである。図27は26図のデータのうち、良好なコンタクト抵抗が得られるサンプルの一つの裏面表面からSiC基板にいたるオージェ元素分析の結果を示すデータプロット図である。これらに基づいて、本願の各実施の形態(変形例を含む)に関する補足的説明並びに一般的考察を行う。
【0108】
(1)試作結果の説明:
図26には、基本的にセクション4で説明したやり方でPDA処理して、裏面電極を形成した場合の裏面コンタクト抵抗を各種の条件(単位パルスのエネルギ密度、ニッケル膜厚、パルス重ね率)について多数測定した結果をグラフ化して示す。図中の水平な点線は、レーザによるPDA処理の代わりに、ニッケル厚さ50nmで摂氏1000度、120分のRTA(Rapid Thermal Annealing)処理した場合のコンタクト抵抗である。図26からわかるように、最も左のデータ群がショットキ接合となっている以外は、RTA処理と同等の良好なオーミック接合となっていることがわかる。これより、レーザビームのエネルギ密度の好適な範囲としては、3.6J/cm以上とすることができる。上限は、装置の上限となるが、理論的には、多数のビームを重ねれば、いくらでも高くできるので、実質的上限は、装置の経済性によって決定される。
【0109】
次に、図26の右から3番目のデータ群(エネルギ密度:3.8J/cm、重ね率:80%、ニッケル膜厚:100nm)のサンプル(PDA処理後)の裏面の深さ方向の元素分布(オージェプロファイル)の一例を図27に示す。図27からわかるように、良好なオーミックコンタクト特性を示すサンプルでは、元のニッケル膜(現在のシリサイド膜)の表面に近い領域(「表面領域」という)に高度にシリサイド化が進んだ層(「表面高度シリサイド化領域」という)が形成されている。また、シリサイド膜のSiC基板に近い側の領域(「内部領域」という)には、高濃度にカーボンが集積した層(「内部高濃度カーボン領域」という)が形成されている。
【0110】
(2)試作結果の考察:
前記(1)の結果は、以下のように説明することができる。すなわち、可視光(たとえば、波長527nm)のニッケル膜への侵入深さ(Penetrating Depth)は、大雑把に言って、10nmであるから、レーザビームのエネルギの大半はニッケル膜表面から深さ20nm程度の間、すなわち表面領域で、熱に転化する。この結果、ニッケル膜全体および、これに接するSiC界面が高温になり、炭素、ニッケルおよびシリコンの移動が開始して、表面領域とSiC界面でシリサイド化が急速に進行する。シリサイド化の進行によって、カーボンは、行き場を失い表面高度シリサイド化領域の両側に蓄積する。これらのカーボンリッチ層のうち、表面カーボンリッチ層は、スパッタエッチ等により除去される。一方、内部カーボンリッチ層は、そのままとして問題ないと考えられる。これは、カーボンの抵抗率がニッケルシリサイドの抵抗率の3倍程度であるからである。
【0111】
このように、ニッケル膜の表面領域でほとんどの熱転化が起こる結果、熱伝導率がSiCの1/5以下であるニッケル膜とSiC界面だけが効率的に加熱される結果となる。なお、空気は熱伝導の観点からは、高い壁として作用する。
【0112】
SiCは、可視光に対してほとんど透明であるから、ニッケル膜を透過したレーザビームは、ほぼそのままの強度で、表面のアルミニウム系電極膜やポリイミド系ファイナルパッシベーション膜に到達するが、ニッケル膜の厚さが30nmから50nm以上あれば、光強度は、ニッケル膜への侵入光の5%から1%以下程度に減衰しているので、アルミニウム系電極膜にダメージを与える可能性はほとんどない。また、ポリイミド系ファイナルパッシベーション膜(他の有機系膜についてもほぼ同じ)は、基本的に可視光全域に関して透明であるので、相互作用(熱転化)は、ほとんどないと考えられる。
【0113】
(3)既存の方法に関する考察:
これに対して、一般的に試みられているSiC基板裏面へのレーザによるシリサイド化PDA処理は、SiC基板を透過しないという束縛条件に沿って、SiC(ポリタイプ4H)の吸収端(3.26eV)に対応して、波長が380nmよりも短い紫外光を使用することが前提となっている。また、シリサイド化のためには、SiC基板側でも、レーザ光エネルギの熱転化が必須であると考えているようである(この点に関しては、SiC内における不純物拡散係数が極めて小さい点を考慮する必要がある)。
【0114】
従って、この目的のためのレーザおよび波長としては、Nd:YAGレーザのTHG(Third Harmonic Generation)による355nmやXeFエキシマ(Excimer)の353nm等が利用され、ニッケル膜の膜厚も比較的薄くされているようである。しかし、これらの波長領域におけるニッケルに対する侵入深さは、20nm程度以上あり、必然的に、光エネルギの相当部分がSiC基板内に侵入した状態でPDA処理が実行される。ここで、これらの波長領域におけるSiCに対する侵入深さは、少なくとも20マイクロメートル程度以上と、桁違いに大きい(1000倍程度)。従って、この広大な領域におけるレーザエネルギの熱転化は、ニッケルよりも5倍以上大きな熱伝導率とあいまって、ニッケル膜およびニッケルSiC界面の加熱に全く寄与しない。すなわち、このようなマクロ的領域でのレーザエネルギの熱転化はウエハ全体の温度上昇を招くばかりで、ミクロな領域の加熱にはほとんど寄与せず、その結果、スループットの大幅な低下を招いているように見える。
【0115】
(4)前記実施の形態に使用するレーザビームの波長について:
レーザ波長は、ニッケル等のメタル膜の反射率があまり高くならないことを考慮すると、紫外線および可視光の全域が実用的な範囲となる。しかし、メタルは一般に波長が短くなると光を透過する傾向が高くなるので、可視光の範囲が有利ということになる。また、使いやすい固体レーザ等の発振波長(高調波を含む)の分布および反射率を考慮すると、ブルーから黄色の範囲、すなわち455nmから597nmの範囲が特に好適である。さらに、紫外線と比較した可視光のメリットは、化学作用が弱いので(大気や加工対象表面との相互作用)、大気中で処理可能なことである。実際、処理後のウエハ裏面は、自然酸化と同レベルである。なお、不活性ガス中で処理するようにしてもよい。
【0116】
ホスト結晶はイットリウムである固体レーザを例にとり説明すると、Nd:YAGレーザの第2高調波(波長:532nm)またはNd:YLFレーザの第2高調波(波長:527nm)が標準的な選択となる。その他の同系統のレーザとしては、Nd:YVOレーザの第2高調波(波長:532nm)やNd:Glassレーザの第2高調波(波長:527nm)等を例示することができる。なお、同一ホストで添加物の異なる固体レーザや異なるホストの固体レーザ等が好適な候補となる。固体レーザは、Qスイッチングが可能なほか、取り扱いが簡単であるメリットがある。これは、Qスイッチングによると、簡単に強力なパルスが得られるからである。特に、ダイオードレーザ励起の固体レーザは、動作が安定しており、量産適用に好適である。
【0117】
また、これらの固体レーザでは、第2高調波の波長が、455nmから597nmの範囲に入ることから特に好都合である。一般に高調波は、次数が上がるほど強度が弱くなるため、第3高調波(たとえばNd:YAGレーザ:355nm)や第4高調波(たとえばNd:YAGレーザ:266nm)と比較して、第2高調波を使用するほうが強度的に有利である。
【0118】
なお、前記実施の形態に於いて、紫外線レーザを使用することは可能である。すなわち、ニッケル膜の厚さをレーザ光が実質的に透過しない程度の厚さとすることで実施可能となる。紫外線レーザ光としては、エキシマレーザ(XeFレーザの351nm)のパルス出力やNd:YAGレーザの第3高調波(波長:355nm)のQスイッチによるパルスビーム等を例示することができる。
【0119】
(5)レーザ照射中の光学特性の変化:
ニッケルとニッケルシリサイドの光学特性は、両方ともメタリックな特性を示し類似しているが、若干異なる。このうち、ニッケルシリサイドの融点は、摂氏992度前後と考えられているので、摂氏1000度以上に加熱されているレーザ照射中は融解していると考えられる。メタルの光吸収は、融解すると、波長に関係なく急速に上昇するので、一端、シリサイド化した部分は、ますます光エネルギが集中することなり、却って好都合である。
【0120】
ニッケルの融点は、摂氏1450度であり、融解しているかどうか不明であるが、仮に融解したとしても、前記と同様に、プロセスの障害とはならない。なお、炭化珪素の融点は、摂氏2730度であり、レーザ照射中に融解する可能性はほとんどない。
【0121】
(6)バックグラインディングを実施する場合について:
SiC素子の順方向抵抗またはオン抵抗は、比較的低いが、ダイオード、トランジスタ、スイッチ素子等の順方向抵抗またはオン抵抗を更に下げようとすると、バックグラインディングが必要となる。すなわち、N型バッファ領域14を薄くしてから、N+型カソード領域11を導入し、裏面のシリサイド化を実施することとなる。そうすると、ニッケル膜を比較的透過しやすい紫外光を使用する方法や、はじめから比較的薄いニッケル膜厚でレーザ光がニッケル膜を透過することを前提とする方法は、実施困難になると考えられる。それは、紫外光のSiCに対する侵入深さは、代表的な可視光(例えば、波長527nm)の侵入深さ1000倍程度(たとえば、355nmで20マイクロメートル程度)あるからである。
【0122】
これに対して、前記実施例のように、実質的にニッケル膜をレーザビームが透過しない条件でアニール処理を実施するのであれば、どのようにSiC基板が薄くなっても、レーザ光がウエハ表面1aに悪影響を与える可能性はない。
【0123】
6.サマリ
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0124】
例えば、前記実施の形態では、主に半導体装置の一例としてショットキダイオードを例にとり、具体的に説明したが、本願発明はそれに限定されるものではなく、Pinダイオード、パワーMOSFET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーJFET(Junction Field Effect Transistor)、パワーBT(Bipolar Transistor)、サイリスタ(Thyristor)その他のパワー系半導体装置等にも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0125】
1 SiCウエハ
1a SiCウエハの表面(第1の主面)
1b SiCウエハの裏面(第2の主面)
1e N−型エピタキシャル領域
1s SiCウエハのN型基板領域
2 SiCデバイスチップ(チップ領域)
3 ファイナルパッシベーション膜
4 アノードパッド
5 アクティブセル領域
6 表面メタル電極
6a アルミニウム系表面電極膜
6b 表面バリアメタル膜
7 裏面メタル電極
8 P型不純物領域(アノード不純物領域)
9 N−型ドリフト領域
10 チップ配列領域
11 N+型カソード領域
12 裏面シリサイド膜
14 N型バッファ領域
15 ショットキ接合部
16p Pinダイオード部
16s ショットキダイオード部
20 シリサイド膜形成用メタル膜
21 表面保護用酸化シリコン膜
22 P型不純物領域導入用酸化シリコン膜
23 P型不純物領域導入用アモルファスSi膜
24 P型不純物領域導入用レジスト膜
25a 表面カーボン膜
25b 裏面カーボン膜
31 長オリエンテーションフラット
32 短オリエンテーションフラット
41 レーザスキャン経路
42,42a,42b,42c,42d,42h,42i,42j,42k レーザビーム単位ショット領域
43,43a,43b ビーム照射位置の移動方向
51 レーザ熱処理装置
52 レーザ駆動&制御部
53a 第1のレーザ発信器
53b 第2のレーザ発信器
54a 第1のダイオード励起部
54b 第2のダイオード励起部
55a 第1のQスイッチ部
55b 第2のQスイッチ部
56a,56b,57a,57b,58a,59,60,61 ミラー
62a 第1の可変減衰器
62b 第2の可変減衰器
63 ビーム合成器
64 ビームエキスパンダ
65 拡散板
66 集光レンズ(対物レンズ)
67 加工用レーザビーム
68 焦点面(像面)
71 XYテーブル
72 傾き調整機構
73 ウエハ吸着テーブル
D パルス間遅延時間
L レーザビーム単位ショット領域の縦長さ
NL ウエハの表面に立てた法線
P パルス繰り返しピッチ
R1 アクティブセル領域切り出し部
T レーザビーム単位ショット領域の横長さ
W パルス幅
XS X方向の重複部分の長さ
YS Y方向の重複部分の長さ
θoff オフアングル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む半導体装置の製造方法:
(a)SiCウエハの第1の主面にアルミニウム系メタル表面電極膜を形成する工程;
(b)前記工程(a)の後、前記SiCウエハの第2の主面上のほぼ全面に、シリサイド形成用メタル膜を成膜する工程;
(c)前記工程(b)の後、前記SiCウエハの前記第2の主面側から、前記シリサイド形成用メタル膜に対して、レーザビームを照射することにより、前記シリサイド形成用メタル膜をシリサイド膜とする工程;
(d)前記工程(c)の後、前記シリサイド膜上のほぼ全面に、メタル裏面電極膜を形成する工程、
ここで、前記レーザビームは、前記シリサイド形成用メタル膜を実質的に透過しない波長を有する。
【請求項2】
請求項1の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、可視光に属するものである。
【請求項3】
請求項2の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、パルスの繰り返しから構成されている。
【請求項4】
請求項3の半導体装置の製造方法において、前記パルスは、Qスイッチングによる。
【請求項5】
請求項4の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、固体レーザから供給される。
【請求項6】
請求項5の半導体装置の製造方法において、前記固体レーザは、ダイオード励起型である。
【請求項7】
請求項6の半導体装置の製造方法において、更に以下の工程を有する:
(e)前記工程(d)の後、前記SiCウエハの前記第1の主面上およびアルミニウム系メタル表面電極膜上に、有機系パッシベーション膜を形成する工程。
【請求項8】
請求項6の半導体装置の製造方法において、前記工程(c)は、大気圧下で実行される。
【請求項9】
請求項7の半導体装置の製造方法において、前記工程(c)は、大気中で実行される。
【請求項10】
請求項6の半導体装置の製造方法において、前記工程(b)においては、前記シリサイド形成用メタル膜は、ニッケル、チタン、タングステン、モリブデン又はタンタルを主要な成分とする膜である。
【請求項11】
請求項6の半導体装置の製造方法において、前記工程(b)においては、前記シリサイド形成用メタル膜は、ニッケルを主要な成分とする膜である。
【請求項12】
請求項11の半導体装置の製造方法において、前記工程(b)の完了時に於いて、前記シリサイド形成用メタル膜の厚さは、30nm以上、100nm以下である。
【請求項13】
請求項12の半導体装置の製造方法において、前記パルスの繰り返し周波数は、0.5kHz以上、50kHz以下である。
【請求項14】
請求項13の半導体装置の製造方法において、前記パルスは、複数の固体レーザから供給され、合成される。
【請求項15】
請求項14の半導体装置の製造方法において、前記パルスの長さは、50ナノ秒から5マイクロ秒である。
【請求項16】
請求項15の半導体装置の製造方法において、前記複数の固体レーザから供給されるパルスの相互遅延時間は、ほぼ0である。
【請求項17】
請求項12の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームは、Nd:YAGレーザまたはNd:YLFレーザから供給される2次高調波である。
【請求項18】
請求項17の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームの波長は、455nmから597nmである。
【請求項19】
請求項18の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームの重ね率は、66%以上、80%以下である。
【請求項20】
請求項19の半導体装置の製造方法において、前記レーザビームのエネルギ密度は、3.6J/cm以上である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2013−105881(P2013−105881A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248613(P2011−248613)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】