説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】 格子間のシリコンによるキャリア移動度の劣化を抑制し、トランジスタ性能を向上させることができる半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 Si基板5上にゲート絶縁膜3を形成する前の工程でSi基板5の酸化を行わず、酸化膜が必要な場合はCVD法又はPVD法により成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャネル領域の格子間シリコン密度を改善した半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12は、一般的なMOS型トランジスタの構造及びその動作を示す図である。図に示すように、MOS型トランジスタ1では、ゲート絶縁膜3を介してP(又はN)型シリコン5にゲート電極2から正(又は負)の電圧を加えると、ゲート電極2直下のP(又はN)型シリコン5がN(又はP)型に反転しチャネルと呼ばれる領域が形成される。このチャネルは、ゲート電極2を挟んで形成されたN(又はP)型拡散層領域4と電気的に接続するので、両拡散層4間に加えた電位差により電子(又は正孔)をキャリア6とした電流Idが流れる。一方、チャネルが形成されなければ、この電流は流れない。
【0003】
拡散層4間の電位差が十分に大きければ、この電流Idはある一定値に飽和し、最も簡単には、下記式(1)のように定式化される。
Id=(W/L)・(ε/T)・μ・(Vg−Vt)2/2 ・・・(1)
ここで、Wはチャネル幅、Lはチャネル長さ、εはゲート絶縁膜の誘電率、Tはゲート絶縁膜の物理膜厚、μはチャネル内のキャリア移動度、Vgはゲート電圧、Vtはチャネル形成に必要なゲート電圧の閾値である。
【0004】
例えば、特許文献1に開示される半導体装置の製造方法は、ゲート絶縁膜の誘電率εを大きくしてIdを増加させるため、ゲート絶縁膜に金属酸化物よりなる高誘電膜(High−k膜)を使用する。また、特許文献1では、金属酸化物に起因する汚染物質の低減を図るため、当該金属酸化膜よりなるゲート絶縁膜を他の絶縁膜や半導体膜等により被覆する技術を開示している。
【0005】
【特許文献1】特開2003−297947号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、Idを大きくしてMOS型トランジスタの性能を向上させる検討がなされているが、理論的には上記式(1)により、チャネル幅W、ゲート絶縁膜の誘電率ε、チャネル内のキャリア移動度μ、ゲート電圧の閾値との差(Vg−Vt)を大きくし、チャネル長さL、ゲート絶縁膜の物理膜厚Tを小さくすればよい。
【0007】
しかしながら、信頼性の観点やゲートリーク電流の増加による消費電力の増大のために、ゲート絶縁膜の物理膜厚Tの薄膜化が限界に近づきつつある。また、光学的に微細パターンを形成する必要があることを考慮すると、チャネル長さLの微細化も波長限界に達しつつある。このため、特許文献1のようにゲート絶縁膜の誘電率εを増加させる技術も提案されているが、高誘電膜よりなるゲート絶縁膜を他の絶縁膜や半導体膜等により被覆するなどの汚染物質対策が必要であるという課題があった。
【0008】
また、ゲート絶縁膜の誘電率εやキャリア移動度μを増加させるための研究が精力的に進められているが、材料変更を伴うなどの適用に伴う変更が多く、実現が難しいものとなっている。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ゲート絶縁膜の形成前の全ての工程でチャネル領域を酸化せず、チャネル格子間のシリコン密度を酸化以前のシリコン基板が有していた格子間シリコン密度と同等か、それ以下にすることにより、格子間のシリコンによるキャリア移動度の劣化を抑制し、トランジスタ性能を向上させることができる半導体装置及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る半導体装置の製造方法は、半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する前に半導体基板の酸化を行わず、酸化膜が必要な場合はCVD法又はPVD法により半導体酸化物を成膜するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する前に半導体基板の酸化を行わず、酸化膜が必要な場合はCVD法又はPVD法により半導体酸化物を成膜するので、酸化による格子間シリコンの増加を伴わない。そのためにキャリア移動度の劣化が抑制され、トランジスタ性能を向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
従来の課題を解決すべく、本発明者が研究解析を進めた結果、ゲート絶縁膜の形成以前にチャネル領域を酸化する工程があると、格子間シリコン(以下、格子間Siと称す)の拡散により、本来のキャリア移動度μの値を低下させてしまうことを見出した。
【0013】
具体的に説明する。図1は、チャネル深さ方向の構成種と測定温度の関係を示す図である。従来の酸化工程は、図1に示すように、SiO2を含んだSiを一定温度に保って酸化種をSi表面に接触させることにより行われる。一般的に、Siを酸化すると界面で発生した格子間Siの一部がSi基板中に放出されることが知られている。
【0014】
放出された格子間Siは、Si基板の温度に依存した拡散係数に支配されて基板中を拡散する。図2は、チャネル深さ方向の構成種と格子間Si密度の関係を示す図である。図2より明らかなように、チャネル表面付近では、酸化以前のSi基板が有していた格子間Si密度(図2中に破線で示す値)よりも高密度となる。このような高密度の格子間Siは、キャリア移動度μを低下させる原因となる。
【0015】
そこで、本実施の形態1では、上述のような不具合を生じる酸化を行わないことで、チャネル領域の格子間Si密度の増加を伴うことなく、酸化膜が必要な工程についてはCVD法又はPVD法により半導体酸化物を成膜するものである。
【0016】
次により具体的な内容について説明する。
先ず、本実施の形態1の特徴は、格子間Si密度を小さくするためにゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でチャネル領域を酸化しないことにある。さらに、ゲート絶縁膜を形成する以前で酸化膜が必要な工程に関しては、CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法又はPVD(Physical Vapor Deposition ;物理気相成長)法によりSiO2を堆積することにより代替する。
【0017】
このように酸化膜の形成を後述する成膜条件でCVD法で成膜することにより、図3に示すように、図2に示す従来の酸化処理を行った場合と異なり、チャネル表面付近も酸化以前のSi基板が有していた格子間Si密度と同密度となる。従って、Si基板が本来持っているキャリア移動度μを実現することができる。
【0018】
実施例としては、シリコンの酸化により形成されるSiO2膜として、5nm〜15nm程度が良く用いられる。そこで、このSiO2膜を、よく知られた減圧CVD法を用いて、酸化種SiH2Cl2+N2Oを1Torr、750℃の条件下で、5分〜15分の成膜時間により形成する。
【0019】
以上のように、この実施の形態1によれば、ゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でチャネル領域を酸化する処理を行わず、酸化膜が必要な場合はCVD法又はPVD法を用いて酸化膜を形成することにより、酸化による格子間Siの増加を伴わない。そのためにキャリア移動度μの劣化が抑制され、トランジスタ性能を向上させることができる。
【0020】
実施の形態2.
本実施の形態2では、ゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でSi基板を酸化する場合に、輻射による加熱を行わず、高温の酸化性ガスを表面側のみに接触させるものである。この処理では、図4に示すように、Si基板よりもSiO2側を高温に保ったまま酸化する。このとき、界面近傍では、酸化以前から存在していた格子間Siと酸化時に界面で発生した格子間Siとは共にSiO2側に取り込まれる。これにより、図5に示すように、チャネル表面付近の格子間Si密度は、酸化以前のSi基板が有していた格子間Si密度よりも低密度になる。このように、チャネル領域の格子間Si密度の勾配が少なくともチャネル表面で最低であることにより、キャリア移動度μが向上する。
【0021】
実施例としては、図6に示すように、400℃未満の一定温度に保持したステージ9にシリコンウエハ8を設置して、酸化性ガス加熱装置7にて酸化性ガスを吹き付ける。若しくは、図7に示すように、冷却ガス温度制御装置10により400℃未満の一定温度に保持された水素(H2)ガス等をシリコンウエハ8の裏面に吹き付けてウエハ8裏面を一定温度に保持した状態で、400℃〜1100℃に加熱されたO2、N2O、NO、O3などの酸化性ガスをウエハ8表面に吹き付けることで、酸化を行う。
【0022】
以上のように、この実施の形態2によれば、ゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でSi基板を酸化する場合に、輻射による加熱を行わず、高温の酸化性ガスを表面側のみに接触させるので、チャネル表面付近の格子間Siが、酸化以前のSi基板が有していた格子間Si濃度よりも低濃度になり、キャリア移動度μを向上させることができる。これにより、トランジスタ性能を向上させることができる。
【0023】
実施の形態3.
本実施の形態3では、ゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でSi基板を酸化した後にSi基板裏面よりも表面を高温に保ったまま非酸化性雰囲気中で熱処理するものである。
【0024】
図8は、この発明の実施の形態3によるチャネル深さ方向の構成種と測定温度の関係を示す図である。図8に示すように、本実施の形態3では、Si基板裏面よりも表面を高温に保ったまま非酸化性雰囲気中で熱処理する。これにより、界面近傍では、酸化以前から存在していた格子間Siと酸化時に界面で発生した格子間Siとは共にSiO2側に取り込まれ、且つ、Si基板内に残存する格子間Siは温度勾配に従った拡散係数によって、より裏面側に拡散しやすくなる。
【0025】
従って、図9に示すように、チャネル表面付近の格子間Si密度は、酸化以前のSi基板が有していた格子間Si密度、又は酸化直後の格子間Si密度よりも低密度になる。このように、チャネル領域の格子間Si密度の勾配が少なくともチャネル表面で最低であることにより、キャリア移動度μが向上する。
【0026】
実施例としては、図10に示すように、400℃未満の一定温度に保持したステージ9にシリコンウエハ8を設置し、ウエハ8の表面側のみからランプ加熱装置11で400℃〜1100℃にランプ加熱しながら、N2、Ar、He、Ne、Kr、Xeなどの非酸化性ガスをウエハ8の表面に吹き付ける。若しくは、冷却ガス温度制御装置10により400℃未満の一定温度に保持した水素(H2)ガス等をウエア8裏面に吹き付けた状態で、非酸化性ガス加熱装置12で400℃〜1100℃に加熱したN2、Ar、He、Ne、Kr、Xeをウエハ8の表面に吹き付けることにより、アニールを行う。
【0027】
以上のように、この実施の形態3によれば、ゲート絶縁膜を形成する以前の全ての工程でSi基板を酸化した後にSi基板裏面よりも表面を高温に保ったまま非酸化性雰囲気中で熱処理するので、チャネル表面付近の格子間Siが、酸化以前のSi基板が有していた格子間Si濃度又は酸化直後の格子間Si濃度よりも低濃度になり、キャリア移動度μを向上させることができる。これにより、トランジスタ性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1によるチャネル深さ方向の構成種と測定温度の関係を示す図である。
【図2】従来の熱処理を行った半導体装置におけるチャネル深さ方向の構成種と格子間Si密度の関係を示す図である。
【図3】実施の形態1による処理を行った半導体装置におけるチャネル深さ方向の構成種と格子間Si密度の関係を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるチャネル深さ方向の構成種と測定温度の関係を示す図である。
【図5】実施の形態2による処理を行った半導体装置におけるチャネル深さ方向の構成種と格子間Si密度の関係を示す図である。
【図6】実施の形態2による酸化処理を行うシステムの構成例を概略的に示す図である。
【図7】実施の形態2による酸化処理を行うシステムの他の構成例を概略的に示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3によるチャネル深さ方向の構成種と測定温度の関係を示す図である。
【図9】実施の形態3による処理を行った半導体装置におけるチャネル深さ方向の構成種と格子間Si密度の関係を示す図である。
【図10】実施の形態3による酸化処理を行うシステムの構成例を概略的に示す図である。
【図11】実施の形態3による酸化処理を行うシステムの他の構成例を概略的に示す図である。
【図12】一般的なMOS型トランジスタの構造及びその動作を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 MOS型トランジスタ、2 ゲート電極、3 ゲート絶縁膜、4 拡散層領域、5 シリコン基板、6 キャリア、7 酸化性ガス加熱装置、8 シリコンウエハ、9 ステージ、10 冷却ガス温度制御装置、11 ランプ加熱装置、12 非酸化性ガス加熱装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する前の工程における前記半導体基板に接触する半導体酸化物の形成はCVD法又はPVD法により行う半導体装置の製造方法。
【請求項2】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する前の工程で前記半導体基板を酸化する場合、高温の酸化性ガスを前記半導体基板の表面側にのみに接触させることにより酸化を行う半導体装置の製造方法。
【請求項3】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する前の工程で前記半導体基板を酸化する場合、酸化後に前記半導体基板の裏面よりも表面を高温に保ったまま非酸化性雰囲気中で熱処理する半導体装置の製造方法。
【請求項4】
チャネル領域における格子間シリコン密度が少なくともチャネル表面で最低である半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−319137(P2006−319137A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140242(P2005−140242)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】