説明

半導体装置用リードフレームとその製造方法

【課題】半導体装置用リードフレームとその製造方法において、複数のめっき層を積層する場合におけるめっき層同士の密着性を向上させ、半導体装置の製造工程におけるワイヤーボンド性の低下や実装の際の半田付け性の悪化を抑制するとともに、製造コストの効果的な削減を図る。
【解決手段】 導体基材20上に下地めっき層21を形成し、当該下地めっき層21の上に金属結合性を有する有機被膜22を介して最表めっき層23を積層することで、リードフレーム2a、2bを構成する。有機被膜22は、主鎖部B1の両末端に金属結合性の官能基A1、A1を持つ機能性有機分子11を自己組織化させた単分子膜として構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のめっき層が積層された半導体装置用リードフレームに関し、特にめっき層同士の密着性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
LED、LSIなどの半導体素子との電気的接続用部品として、金属板体からなるリードフレームが用いられている。この半導体素子をワイヤーボンディングにより電気的に接続されたリードフレームは、半導体素子とともに樹脂封止された状態で製品化され、半田等によって半導体装置の基板等に接合される。
半導体装置の製造工程において、良好なワイヤーボンディング性、半田付け性を確保するため、これらの電気的接続部品には各種貴金属のめっきが施されている。しかし、めっきの剥がれといった欠陥によって、基材や下地めっきの腐食や酸化が生じ、ワイヤーボンディング性、半田付け性が悪化してしまう。そのため、これらの電気的接続部品において優れためっきの密着性を有することが要求される。
【0003】
そこで図6(a)の断面図に示すように、導体基材300上にニッケルの下地めっき層301と銀の最表めっき層303のめっきを順次形成する場合、これらの層間に中間めっき層302として銅のめっきを介設することで、下地めっき層301と最表めっき層303との密着性を確保する技術が知られている。これはニッケルと銀の両方と互いに固溶する銅の存在により、銅を相互拡散させて密着性を向上させようとするものである。
【0004】
また図6(b)の断面図に示すように、半導体装置用リードフレームとして、導体基材400上にニッケルの下地めっき層401、パラジウム又はパラジウム合金の中間めっき層402、金の最表めっき層403といっためっき被膜を順次形成する構成が知られている。この構成でも中間めっき層402を利用することで優れためっきの密着性を確保し、良好なワイヤーボンディング性や半田付け性が発揮されるように図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/119522号公報
【特許文献2】特許3998703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで最表めっき層に銀を利用する場合、導体基材501の上に下地めっき層501、最表めっき層503を順次形成した図7(a)に示すように、大気中の酸素が最表めっき層503の銀の中に侵入する。このため下地めっき層501のめっきが酸化され、最表めっき層503との界面付近に酸化物膜501aが形成される。酸化物膜501aの存在により、最表めっき層503と下地めっき層501の界面における互いの密着性が弱くなり、両めっき層501、503が剥がれる問題が生じうる。
【0007】
また、図6(a)に示した構成では、次第に図7(b)に示すように、中間めっき層602中の銅が層の厚み方向に拡散する。このような銅が最表めっき層603に拡散し、その最表面にまで達すると、銅は大気中の酸素成分と反応して酸化され、酸化膜603aが形成される。形成された酸化膜603aはワイヤーボンディング性や半田付け性を低下させるほか、接触抵抗を増大させる原因になる。
【0008】
この課題を解決するために、中間めっき層602の膜厚を薄くして銅の拡散を抑制しようとすると、中間めっき層602の膜厚が不足してめっき被膜に孔が発生する。そして、孔を通じて導体基材600や下地めっき層601の腐食や酸化を誘発するといった問題が生じうる。
一方、図6(b)に示すように、最表めっき層403として利用される金は非常に安定な貴金属であり、耐腐食性に優れているので、良好なワイヤーボンディング性や半田付け性が得られる。しかしながら高価な貴金属であるために、めっきの膜厚を大きくすると非常にコストがかかる。また、コスト削減するためにめっきの膜厚を小さくすると、最表めっき層403をなす金めっき被膜に孔が発生して、孔を通じて導体基材400や下地めっき層401の腐食、酸化を引き起こす原因になる。
【0009】
さらに、製造に係る問題として、下地めっき層、中間めっき層、最表めっき層を形成するための各めっき層形成工程が必要である他、所定のめっき処理を行う設備や装置を用意するために多大な製造コストが必要である。
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、半導体装置用リードフレームとその製造方法において、複数のめっき層を積層する場合におけるめっき層同士の密着性を向上させ、半導体装置の製造工程におけるワイヤーボンド性の低下や実装の際の半田付け性の悪化を抑制するとともに、製造コストの効果的な削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体装置用リードフレームは、導体基材上に下地めっき層が施され、当該下地めっき層が金属結合性を有する有機被膜を介して最表めっき層と積層されている構成とした。
ここで、下地めっき層、或いは下地めっき層と最表めっき層の両方を貴金属で構成することもできる。
【0011】
また、前記有機被膜は、構造中に極性基を2つ以上有する有機分子で構成され、下地めっき層を構成する金属と結合した状態で下地めっき層を被覆している構成とすることもできる。
また、前記有機被膜は、自己組織化する有機分子で構成され、当該有機分子は、両末端に金属結合性の官能基を有する構成とすることもできる。
【0012】
さらに、前記有機分子の主鎖部は窒素を2原子以上含有する含窒素複素環、またはアリール骨格、アセン骨格、ピレン骨格、フェナントレン骨格、フルオレン骨格の少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体で構成されている構成とすることもできる。
ここで前記含窒素複素環には、イミダソール、トリアゾール、テトラゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジンの少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体を用いることもできる。
【0013】
また前記金属結合性の官能基は、チオール化合物、スルフィド化合物、含窒素複素環化合物の内の一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体で構成することもできる。
また本発明は、導体基材上に下地めっき層を施すための下地めっき層形成工程と、前記下地めっき層の表面に有機被膜を形成するための有機被膜形成工程と、前記有機被膜層の表面に最表めっき層を施すための最表めっき層形成工程を備えた半導体装置用リードフレームの製造方法であって、有機被膜形成工程では、下地めっき層と最表めっき層に対して金属結合性を有する有機被膜を形成するものとした(図3)。
【0014】
ここで前記有機被膜形成工程は、前記有機化合物を溶媒に分散させて分散液を作製する分散液作製工程と、前記下地めっき層を施したリードフレームを前記分散液に浸漬する浸漬サブ工程とを経ることもできる(図4)。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体装置用リードフレームの製造方法では、有機被膜形成工程で、下地めっき層被膜表面に、有機被膜を有機分子の自己組織化によって形成させる。この有機分子には両末端に金属結合性を有する官能基を備えているので、下地めっき層の金属と有機分子の一方の金属結合性の官能基とが結合する。一方、有機被膜の表面には前記有機分子の他方の金属結合性の官能基が露出する。
【0016】
従って、最表めっき層形成工程を実施する際には、有機分子における前記他方の金属結合性の官能基と最表めっき層の金属が結合する。このように有機被膜は、下地めっき層と最表めっき層の双方と金属結合するので、当該両めっき層の密着性を強固に確保することができる。このため、従来のように中間めっき層を用いなくても良好なめっき層同士の密着性が得られ、構成の簡素化を図ることができる。
【0017】
また、有機被膜を形成する有機分子は、両末端に有する結合基において下地めっき層と最表めっき層に対する金属結合性を呈するともに、主鎖部において分子間相互作用に係る特性を発揮する。この分子間相互作用により、有機被膜では複数の有機分子が互いに緻密に配列され、自己組織化によって有機被膜を構成する。これにより有機被膜は安定した形態を維持できる。よって本発明のリードフレームでは、長期にわたり、下地めっき層由来の金属の拡散が有機被膜によって遮断されるとともに、大気中の酸素成分の侵入によって下地めっき層が酸化し、ワイヤーボンディング性や半田付け性が低下したり、接触抵抗が増大するという問題を解決することができる。
【0018】
また、有機被膜は大気中の酸素だけでなく、腐食性のガス、湿気、水分等に対しても良好な遮断効果を発揮する。このため、基材や下地めっき層の腐食や酸化を抑制して、めっき界面に酸化膜が形成されるのを防止できる。これによりめっき層同士の密着性を向上させ、両者間の剥がれを防止できる。従って、たとえ最表めっき層にめっきされた金属に孔が発生したとしても、有機被膜の配設により、基材や下地めっきが腐食や酸化を発生する問題を解決できる。
【0019】
また、このように下地めっき層の腐食や酸化、さらに基材の金属の拡散を防ぐことが図れるため、最表めっき層の膜厚を従来よりも薄くすることが可能であり、材料コストの削減を図ることができる。また、薄いめっき層を形成させることでめっき処理時間が短縮されるため、製造のリードタイム短縮によってもコスト削減を図ることができる。
また本発明の製造方法によれば、従来技術のように中間めっき層を形成するための設備や装置が不要になり、製造コストの大幅な削減を図れるので、低コスト且つ優れた製造効率で、良好な電気接続性を持つ半導体装置用リードフレームを実現する事ができる。
【0020】
このように本願発明は、機能性、構成等の点において、一般的なめっき処理方法、表面処理方法等とは全く異なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る半導体装置用リードフレームの構成を示す部分的な断面図である。
【図3】実施の形態2に係る半導体装置用リードフレームの製造方法における工程フローを示す図である。
【図4】実施の形態2に係る機能性有機分子の合成反応過程例を示す図である。
【図5】実施の形態2に係る機能性有機被膜の成膜工程を示す図である。
【図6】従来の半導体装置用リードフレームの構成を示す部分的な断面図である。
【図7】従来の半導体装置用リードフレームの問題点を説明するための構成を示す部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施の形態を添付の図面を参照しながら説明する。本発明はこれらの実施形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1における半導体装置1の構成を示す断面図である。
【0023】
半導体装置1はリードフレーム(2a、2b)を利用し、インナーリード部2aに半導体素子3をマウントし、ボンディングワイヤー4で半導体素子3とアウターリード2bを接合し、これらを封止樹脂5でパッケージングした構成を有する。
図2(a)は、半導体装置1のリードフレーム(2a、2b)の部分的な断面図を示す。リードフレーム(2a、2b)は、導体基材20の上に下地めっき層21を形成し、当該下地めっき層21が金属結合性を有する有機被膜22を介して最表めっき層23と積層された構成を有している。
【0024】
導体基材21はリードフレーム(2a、2b)のベース部分であり、銅または銅合金、鉄または鉄合金のいずれかの金属板体を用いて構成される。
下地めっき層21はニッケルまたはニッケル合金、銅または銅合金、或いはパラジウムまたはパラジウム合金等の貴金属のいずれかを用いて構成される。
最表めっき層23は銀または銀合金、パラジウムまたはパラジウム合金、或いは金または金合金等の貴金属のいずれかを用いて構成されている。
【0025】
なお、下地めっき層21は必須の構成ではなく、導体基材20上に有機被膜22を直接形成し、有機被膜22に最表めっき層23を積層しても良い。
下地めっき層21、最表めっき層23は、電解めっき法、無電解めっき法、蒸着めっき法、スパッタリング法等、いずれの方法で形成することも可能である。
有機被膜22は本発明の主たる特徴部分であり、所定の機能性有機分子11(以下、単に「有機分子11」と称する。)の分子間相互作用に基づく自己組織化による単分子膜として構成される。ここでは、有機被膜22を下地めっき層21及び最表めっき層23の間に介設することで、金属材料からなる各層21、22を強固に結合させ、互いに密着維持させるように図られている。
【0026】
図2(b)は、図2(a)と同様の構成について、有機被膜22中の有機分子11の模式的な化学構造と配向を示したものである。
図2(b)に示すように、具体的な有機分子11の化学構造としては、2つ以上の極性基を構造中に有するものとする。具体的に有機分子11は、主鎖部B1に対し、その両末端に極性基(官能基A1、A1)を結合させて構成される。
【0027】
両末端の官能基A1、A1には、金属材料に対する親和性、金属結合性(配意結合を含む)を有することが要求される。この特性を有するものであれば官能基A1、A1は一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体のいずれで構成しても良い。
例えば、チオール、及びチオール化合物、スルフィド化合物(ジスルフィド化合物)、含窒素複素環化合物(アゾール化合物、アジン化合物等)、またはこれらの一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体のいずれであれば、金属原子に対して水素結合性又は配位結合性を有するので好適である。
【0028】
このうち官能基A1、A1がチオール基やジスルフィド基を有する場合、金、銀、ニッケル、銅、アルミニウム、パラジウム、白金などの金属に配位して共有結合がなされ、強固な結合構造が形成される。
一方、主鎖部B1には、窒素を2原子以上含有する含窒素複素環、またはアリール骨格、アセン骨格、ピレン骨格、フェナントレン骨格、フルオレン骨格の少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体の何れかを利用できる。芳香族等で主鎖部B1を構成する場合は、分子間で互いに会合し、特に超分子的に緻密な配列を形成できるので好適である。
【0029】
このうち前記含窒素複素環は、イミダソール、トリアゾール、テトラゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジンの少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体であることが好ましい。
また、主鎖部B1としては、炭化水素鎖の緻密な炭素鎖形成が期待できる一般的なメチレン系有機分子及びその類型種(メチレン鎖、フルオロメチレン鎖、シロキサン鎖、グリコール鎖の少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体、若しくは誘導体のいずれか)等を用いることも好適である。
【0030】
このうち主鎖部B1にフルオロメチレン鎖を用いた場合、疎水性がメチレン鎖よりも強いため、下地めっき層21と有機被膜22との間や有機被膜22と最表めっき層23との間への水分の侵入が強く抑制される。その結果、下地めっき層21と有機被膜22、有機被膜22と最表めっき層23の各間の良好な結合が保たれ、熱履歴による被膜の剥離が生じにくくなるので、めっきの密着性を確保することができる。
【0031】
また主鎖部B1にシロキサン鎖を用いた場合、耐熱性および耐候性に優れる特性が発揮される。このため、例えば半導体素子等の実装工程において、有機被膜22が比較的高温環境下にあっても変質・損傷されにくいため、下地めっき層21及び表面層23の間における安定した密着性を確保することができる。
主鎖部B1にグリコール鎖を用いた場合には、親水性の相互作用による有機被膜22を形成でき、水等の極性溶媒に簡単に溶解させることができる。従って、主鎖部B1にはグリコール鎖またはメチレン鎖、フルオロメチレン鎖、シロキサン鎖、グリコール鎖の少なくとも一種以上とグリコール鎖とで構成されたものを用いても良い。
【0032】
以上の特徴を有する有機分子11を利用してなる有機被膜22は、下地めっき層21と最表めっき層23の各々に対し、有機被膜22中の有機分子11の両末端の官能基A1、A1が強固に結合する。これによりリードフレーム2a、2bでは、下地めっき層21と最表めっき層23が優れた密着性で積層された構造を維持できるため、当該めっき層21、23のいずれかが若干の変質劣化を生じても、めっき層21、23間の剥離を防ぐことができる。
【0033】
このような効果を奏することから、本発明では従来のように中間めっき層を形成しなくても、良好なめっき層同士の密着性を得ることも期待できる。
また、有機分子11の主鎖部B1には分子間相互作用という性質があり、これを利用することで有機分子11が緻密に配列され、安定した形態の有機被膜22が形成される。緻密な有機被膜22によって、下地めっき層21を構成する金属成分が最表めっき層23側に外部拡散し、当該金属成分が外気に触れて酸化被膜を形成する問題を効果的に抑制できる。
【0034】
また、緻密な構成を有する有機被膜22が外部から酸素、各種腐食性ガス、湿気、水分等の侵入を効果的に遮断するため、たとえ最表めっき層23に孔が発生しても、孔を通じて上記成分が侵入し、下地めっき層21や導体部材20が酸化・腐食したり、めっき界面に酸化物膜が形成される等の問題を抑制できる。これにより、導体部材20及び下地めっき層21において安定しためっき層及び導電性を維持できる。また、下地めっき層21の酸化によるワイヤーボンディング性や半田付け性の低下、また接触抵抗の増大に関する問題の解決を期待することもできる。
<実施の形態2>
次に、本発明のリードフレームの製造方法について例示する。
【0035】
図3は、本発明の半導体装置用リードフレームの製造方法における工程フローを示している。当図に示すように、製造方法は導体基材に対し、下地めっき層を形成し、その後有機被膜の形成を経た後、最表めっき層を形成する。以下、各工程を順次説明する。
[下地めっき層形成工程]
まず、プレスまたはエッチングなどの成型技術を用いて形成された銅または銅合金からなる導体基材を用意する。この導体基材上に、下地めっき層形成工程によってニッケルまたはニッケル合金を施す。下地めっきの厚みは0.2〜5.0μmが望ましい。例えば電解めっき法により形成することが好適である。
【0036】
なお、下地めっきの材料は銅または銅合金、パラジウムまたはパラジウム合金であっても良く、そのめっき法は無電解めっき法、蒸着めっき法、スパッタリング法などで形成することも可能である。
[有機被膜形成工程]
有機被膜形成工程では、まず機能性有機分子を所定の合成過程を経て得る(図4)。その後、分散液調整サブ工程と、成膜サブ工程と、洗浄サブ工程とを、この順で行なう(図5(a))。
(機能性有機分子の合成)
図4は、両末端の官能基A1、A1をチオール化合物とし、主鎖部B1を含窒素複素環化合物の一種のトリアジン環骨格とした分子構造を持つように、有機分子11を構成する場合の合成過程例を示す図である。
【0037】
合成方法としては、まずシアヌル酸クロライドを水硫化チオールで処理し、クロライドの2つの官能基のみチオール化し、その後、当該チオールを保護する(特開2007−176848号公報を参照)。なお、図中「R」で示される保護基としては、2−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)エチルを用いることができる。
次に、既に公知である(ORGANIC LETTERS,2008,VOL.10,NO.5,709−712)の記載に基づいて、チオールを保護したシアヌル酸クロライド誘導体を有機ニッケル触媒を用いて、テトラヒドロフラン(THF)溶媒中で反応させ、ホモカップリングさせる。そして、これを水酸化ナトリウムと反応させることによって、有機被膜22を構成するための有機分子11を得る。
【0038】
なお、この合成過程は一例にすぎず、実施の形態1に示した各種バリエーションで有機分子11を構成することも勿論可能である。
(分散液調整サブ工程)
次に、図5(b)のように上記得られた有機分子11を所定の溶媒に分散させ、分散液を作製する。前記所定の溶媒としては、有機溶媒,水またはその混合物が用いられる。溶媒に水を用いる際には、有機分子11の分散性を得るため、必要に応じてアニオン系、カチオン系またはノニオン系の界面活性剤を添加することが好適である。さらに有機分子11を安定化させるため、ホウ酸系やリン酸系のpH緩衝剤、酸化防止剤等を添加しても良い。
【0039】
(成膜サブ工程)
次に、図5(c)のように、上記で作製した分散液中に、下地めっき層が施された金属材料からなるフレーム201を浸漬する。
分散液中では、各有機分子11は図5(b)中のS1拡大部分に示すように、比較的高いギブス自由エネルギーを有し、単分子同士で互いに反発するように相互作用し、ランダムな運動(所謂ブラウン運動)をしている。
【0040】
この分散液中にフレーム201を浸漬すると、各有機分子11はより安定な状態に移行しようとして、一方の金属結合性の末端官能基A1をフレーム201表面の金属と結合する。これにより各有機分子11は、図中のS2拡大部分に示すように、他方の金属結合性の末端官能基A1を最表面に整列させた状態で膜状に安定化する。
以上の過程を経ることで、有機分子11が自己組織化し、単分子膜が形成される。フレーム201を分散液から引き上げれば、金属表面上に有機被膜22が形成された部材20Xが得られる。
【0041】
なお、ここでは有機被膜22を形成するのにフレーム201を分散液に浸漬する浸漬法を例示したが、これに限定されず、例えばフレーム201に対して分散液を噴き付ける方法等、他の方法を用いても同様の有機被膜22を形成できる。
(洗浄サブ工程)
有機溶媒,水または両者の混合物を洗浄媒体として部材20Xを洗浄し、余分な有機分子11を含む分散液を除去する。この洗浄処理で、両末端のいずれの官能基A1、A1も金属結合していない機能性有機分子11を容易に除去できる。以上で有機被膜形成工程を終了する。
[最表めっき層形成工程]
形成された有機被膜22の上に、銀または銀合金、パラジウムまたはパラジウム合金、金または金合金の少なくともいずれか用い、膜厚0.002〜5.0μmの範囲で最表めっき層を形成する。この形成法としては電解めっき法が好適であるが、その他、無電解めっき法、蒸着めっき法、スパッタリング法のいずれかを利用することも可能である。
【0042】
最表めっき層形成工程を経ることにより、本発明のリードフレームを得ることができる。
上記した実施の形態2の製造方法によれば、下地めっき層の上に有機被膜22を形成することで、下地めっき層の腐食や酸化、さらに基材の金属の拡散を防ぐことができる。このため、最表めっき層23の膜厚を比較的薄くすることができ、材料コストの削減が図れる。また、より薄いめっき層を形成することで、めっき処理時間の短縮が図れるため、製造のリードタイム短縮によってもコスト削減を図ることができる。
【0043】
また本発明の製造方法によれば、従来技術のように中間めっき層を形成するための設備や装置等に掛かる多大な製造コストを削減でき、低コスト且つ優れた製造効率で、良好な電気接続性を持つ半導体装置用リードフレームを実現する事ができる。
<その他の事項>
各実施の形態では、機能性有機分子を自己組織化させた単分子膜として有機被膜を構成したが、有機被膜は単分子膜に限定されない。たとえば最表めっき層との結合強度が不足しない程度であれば、複数層で有機被膜を形成しても構わない。
【0044】
なお、このように複数層で有機被膜を形成する場合、機能性有機分子からなる第一層と第二層との間で、厚み方向で隣接する分子の結合性が要求される。従って、両末端の官能基として、金属結合性を有し、且つ第一官能基同士の結合性を有する化合物・構造体を用いればよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、IC、LSI、VLSI等、封止樹脂によりパッケージングされた半導体装置、LED素子を実装したLED照明装置等とその製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
A1 末端官能基
B1 主鎖部
1 半導体装置
2a、2b リードフレーム
3 半導体素子
4 ボンディングワイヤー
5 封止樹脂
11 機能性有機分子(有機分子)
20、300、400、500、600 導体基材
21、301、401、501 下地めっき層
22 有機被膜
23、303、403、503、603 最表めっき層
201 フレーム
302、402、602 中間めっき層
501a、603a 酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体基材上に下地めっき層が施され、当該下地めっき層が金属結合性を有する有機被膜を介して最表めっき層と積層されている
ことを特徴とする半導体装置用リードフレーム。
【請求項2】
前記下地めっき層は貴金属からなる
ことを特徴とする請求項1記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項3】
前記下地めっき層および最表めっき層が貴金属からなる
ことを特徴とする請求項1記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項4】
前記有機被膜は、構造中に極性基を2つ以上有する有機分子で構成され、下地めっき層を構成する金属と結合した状態で下地めっき層を被覆している
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項5】
前記有機被膜は、自己組織化する有機分子で構成され、
当該有機分子は、両末端に金属結合性の官能基を有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体リードフレーム。
【請求項6】
前記有機分子の主鎖部は窒素を2原子以上含有する含窒素複素環、またはアリール骨格、アセン骨格、ピレン骨格、フェナントレン骨格、フルオレン骨格の少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体で構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項7】
前記含窒素複素環は、イミダソール、トリアゾール、テトラゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジンの少なくとも一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体である
ことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項8】
前記金属結合性の官能基は、チオール化合物、スルフィド化合物、含窒素複素環化合物の内の一種以上を含む化合物、化学構造体若しくは誘導体で構成されている
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の半導体装置用リードフレーム。
【請求項9】
導体基材上に下地めっき層を施すための下地めっき層形成工程と、前記下地めっき層の表面に有機被膜を形成するための有機被膜形成工程と、前記有機被膜層の表面に最表めっき層を施すための最表めっき層形成工程を備えた半導体装置用リードフレームの製造方法であって、
有機被膜形成工程では、下地めっき層と最表めっき層に対して金属結合性を有する有機被膜を形成する
半導体用リードフレームの製造方法。
【請求項10】
前記有機被膜形成工程は、前記有機化合物を溶媒に分散させて分散液を作製する分散液作製工程と、前記下地めっき層を施したリードフレームを前記分散液に浸漬する浸漬サブ工程とを経る
ことを特徴とする請求項9に記載の半導体装置用リードフレームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−187687(P2011−187687A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51465(P2010−51465)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】