説明

半導体製造用下地板および製造方法、板状半導体、太陽電池セル

【課題】半導体融液に板状半導体製造用下地板を浸漬し作製した板状半導体において、板状半導体作製時の割れを減少させ、板状半導体の反りを小さくする方法を提供する。
【解決手段】成長面を有する下地板を半導体融液に浸漬させて、下地板に半導体を成長させる半導体の製造方法に使用する半導体製造用下地板において、半導体製造用下地板の結晶成長面S1が浸漬方向前方部から後方部に延びる溝を有する。さらに、溝は浸漬方向と略平行である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造用下地板および半導体製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多結晶シリコンはシリコン融液を鋳型に流し込んで徐冷し、得られた多結晶インゴットをスライスして製造されていたため、スライスによるシリコンの損失やスライスにかかるコストが問題となっていた。
【0003】
特許文献1には、スライスを必要とせず、低コストで多結晶シリコンウェハの大量生産が可能な方法が提案されている。この方法は、シリコン融液から直接太陽電池用のシリコンシートを作製する方法であって、凹凸部を有する基板を冷却し、冷却された前記基板の凹凸部の表面を、シリコン融液に接触させ、凹凸部をもった基板における凸部の先端に、優先的に結晶核を発生・成長させて、隣り合った先端部から成長してきた結晶がつながって成長することで、シリコンシートを得るものである。
【0004】
特許文献2に記載の方法は、成長面を有する基体を、シリコン融液に接触させ、シリコンを基体に成長させることで、シリコンの固相シートを製造する方法であって、基体表面は周縁溝により周辺部と周縁溝で囲まれた内側部に区画されており、周縁溝によって、周縁溝の外側に位置する周辺部と固相シートの凝固成長面は互いに分離された状態で得られるため、内側部に形成される製品シートには、均一な厚みのシートを得ることが可能になるというものである。
【0005】
特許文献3に記載の方法は、シリコンの融液に基板を浸漬し、その基板の浸漬表面に結晶成長される板状シリコンであって、基板の浸漬される主要面に結晶成長される第一面と、それと連続し、基板の側面等に結晶成長される少なくとも一つのその他の面を有し、その他の面の法線ベクトルが第一面の法線ベクトルと反平行、あるいは鈍角をなし、第一面とその他の面は基板との間に係合部を形成することで、板状シリコンを製造する際に、板状シリコンが基板から落下するのを防止するものである。
【特許文献1】特開2001−223172号公報
【特許文献2】特開2002−0237465号公報
【特許文献3】国際公開第04/016836号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコンの融液に基板を浸漬し、この基板上に成長した板状シリコンをチャンバーの外に取り出したところ、浸漬方向前方側が割れている板状シリコンがあった。また、基板の大きさが大きくなるほど、割れやすい傾向にあった。割れている場合、太陽電池用のシリコン基板とするための所定のサイズに切り出すことが出来ないことがあり、歩留りの低下を招くため、割れの低減が望まれていた。また、所定のサイズに切り出した板状シリコンの反りが大きいと、太陽電池セル作製プロセスが困難になるため、反りの低減が望まれていた。
【0007】
本発明は、割れおよび反りを低減した板状半導体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、成長面を有する下地板を半導体融液に浸漬させて、該下地板に半導体を成長させる半導体の製造方法に使用する半導体製造用下地板において、該半導体製造用下地板の結晶成長面が浸漬方向前方部から後方部に延びる溝を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る半導体製造用下地板は、前記溝が浸漬方向と略平行であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る半導体製造用下地板は、前記溝が2本以上あることが好ましい。
本発明は、成長面を有する下地板を半導体融液に浸漬させて、該下地板に半導体を成長させる半導体の製造方法において、該下地板として前記の半導体製造用下地板を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る板状半導体は、前記半導体製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0012】
本発明はさらに、前記板状半導体のスリット部を切り落として作製された太陽電池セルに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、板状半導体の作製時、プロセス時に発生する割れを減らすことができる。また、板状半導体の反りを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<半導体製造用下地板および板状半導体>
本発明の半導体製造用下地板(以下、下地板ともいう)について図1を用いて説明する。図1(A)は図2(A)の板状半導体を製造するための下地板である。該下地板は主面S1が結晶成長面を有しており、該結晶成長面には、浸漬方面の側面から連続する溝が形成されている。図1(B)は(A)の溝を通る一点鎖線X1aで切断した時の下地板の断面図である。
【0015】
図2(A)は前記下地板を半導体融液に浸漬し作製される板状半導体の概略斜視図であり、S2は板状半導体の主面である。図2(B)は(A)のスリットを通る一点鎖線X2aで切断した時の板状半導体の断面図である。半導体製造用下地板の溝の部分で板状半導体のスリットが形成される。図2に示すように板状半導体の下地板進行方向前方部分が分割された板状半導体を作製することよって板状半導体の反りが減少する。
【0016】
本発明に係る板状半導体の反りが減少する理由としては、板状半導体の進行方向前方部分に集中している残留応力がスリットにより分割させられるためと推測される。
【0017】
残留応力が板状半導体の進行方向前方部分に集中する理由としては、板状半導体の進行方向前方部分の方が他の部分に比べ板厚が厚くなるためと考えられる。
【0018】
板厚が厚くなる理由の1つとして、半導体製造用下地板の進行方向前方部分から半導体融液に突入するため、浸漬方向後方部に比べ、進行方向前方部分が浸漬するときの半導体製造用下地板の温度が低く、板状半導体の成長速度が速いことが考えられる。
【0019】
また、半導体融液から下地板が引き上げられる時に、板状半導体に半導体融液が着いたまま板状半導体が半導体融液から引き上げられるが、板状半導体の進行方向前方部分の方が他の部分に比べ板状半導体に付着したまま引き上げられる半導体融液の量が多い。引き上げられる融液の量が多いほど、凝固収縮の影響が大きくなり、残留応力も大きくなると考えられる。また、結晶化した板の上にある融液が坩堝内の融液から出た後で凝固する場合、融液は急冷凝固し、ひずみを生む原因となるので、坩堝内の融液から出た後で凝固する量が多いほど、凝固する際の表面温度が下がりひずみが大きくなり、残留応力が大きくなると考えられる。
【0020】
これらの推測から半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬する板状半導体の作製方法では、板状半導体の面内の浸漬方向前方側をスリットにより分割することで、残留応力の発生部分のサイズを小さくし、残留応力を分割することで、反りを小さくでき、さらに割れも防止できると考える。これは、半導体作製用下地板のサイズが小さい場合は反りや割れが問題にならなかったように、残留応力はサイズに大きく依存しているためである。
【0021】
図1の溝は1本である必要性はない。むしろ複数あることにより、製造される板状半導体の残留応力は小さくなるため、溝は2本以上であることが好ましい。また、溝の位置は等間隔であることが望ましい。また、図1の溝の長さは長ければ長いほど板状半導体の残留応力は減少し、反りも減少する。しかし、溝の長さが長くなると、板状半導体のスリットの長さも長くなるため、切れ目のない製品とする場合は、製品として利用できる面積が小さくなる。したがって、スリットによる応力緩和および反りの減少と製品として利用できる面積から溝の長さを決定することが好ましい。
【0022】
図1の溝は浸漬方向前方の側面からつながっている事が好ましい。成長する板状半導体の応力緩和がより大きくなるからである。
【0023】
図1の溝は浸漬方向に対し平行であることが望ましい。溝が浸漬方向に対し大きな角度であると溝周辺に半導体融液がたまり不良の原因となるからである。
【0024】
溝の幅W1は0.5mm以上5mm以下が望ましい。溝の幅が0.5mm以下であると、溝部の両側から成長した板状半導体により、板状半導体の分割ができないからである。また、5mm以上の場合、半導体融液が溝部に入り込み、板状半導体の分割ができないからである。また、溝の深さD1は1mm以上が望ましい。溝の深さが1mm以下では、半導体融液が溝部に入り込み、板状半導体の分割ができないからである。また、溝の本数は多いほうが得られる板状半導体の残留応力が小さくなるが、溝と溝の間隔が1mm未満では下地板の耐久性に問題がでるため、溝と溝の間隔は1mm以上が必要である。
【0025】
次に半導体製造用下地板の浸漬方向前方側の側面について説明する。図3、図5、図6は本発明の半導体製造用下地板の概略斜視図である。成長した板状半導体を半導体融液から引き上げる時に板状半導体が落下しないように該側面は、前記特許文献3に記載されている形状を有することが好ましく、本発明によれば、さらに好ましくは、該側面F3にも板状半導体を分割するための溝があることが好ましい。
【0026】
図4(A)は図3記載の半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬して得た板状半導体の主面の図である。図4(B)は図3の半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬し、板状半導体が半導体製造用下地板上に成長した様子を図3にある点線X3aの位置で切断した時の板状半導体と半導体製造用下地板の断面図である。図4(C)は図3の半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬し、成長した板状半導体を図3にある点線Y3aの位置で切断した時の断面図である。図4に示す板状半導体の下地板進行方向前方部分が分割された板状半導体とすることによって反りが減少する。より好ましくは、板状半導体の主面に連続している浸漬方向前方の側面部に成長する板状半導体もスリットで分割されていることが好ましい。板状半導体の進行方向前方部分に残留応力が集中している理由としては図1、2を用いて説明した理由に加え、図4ように板状半導体の面内に連続する側面のうち、浸漬方向前方の側面を有する板状半導体では、立体構造となるため、板状半導体の進行方向前方部分の残留応力がさらに大きくなると考えられる。また、図3には周辺の板状半導体と周辺部を分離するための溝V3があるが、これにより成長する板状半導体の主面と側面部を分離することができ、周辺部が熱収縮することによる割れを防止することができる。
【0027】
比較のため従来の板状半導体について説明する。図7は従来の板状半導体の概略斜視図であり、図8(A)は図7の半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬し、板状半導体が半導体製造用下地板上に成長した様子を図7にある点線X7aの位置で切断した時の板状半導体と半導体製造用下地板の断面図である。図8(B)は図7の半導体製造用下地板を半導体融液に浸漬し、成長した板状半導体を図7にある点線Y7aの位置で切断した時の断面図である。
【0028】
次に半導体製造用下地板の主面について説明する。図1、図3、図5、図6、図7の半導体製造用下地板の板状半導体成長面は、少なくとも微細な凹凸が形成されていることが好ましい。これは下地板の表面に、半導体の結晶核が発生しやすいように規則性のある凹凸をあらかじめ設けておくことで、得られる板状半導体の形状の安定化を図ることができるようになるためである。隣り合う凸部から成長した結晶同士がつながって板状半導体となる。その凸部間の距離は0.2mm以上3mm以下が望ましい。0.2mm未満であると得られる板状半導体の結晶粒が小さくなり、半導体としての特性が悪くなるためである。一方、3mmよりも大きくなると、貫通している穴の無い板状半導体を作製しようとした場合、板状半導体の平均化した板の厚みが非常に厚くなり、材料の無駄が多いためである。また、この凸部の先端角度は90°から170°が好ましい。90°未満の先端角では凹部にも半導体融液が入りこみやすく、得られる板状半導体の凹凸が大きく、170°より大きな先端角では凸の周縁部にも結晶核が形成され好ましくない。
【0029】
<板状半導体の製造装置>
板状半導体の製造装置について説明する。本発明の板状半導体を得る装置は、図9に示した装置を用いる場合に、特に効果がある。しかしながら、本発明を実現する装置は、これに限定されることはない。本発明の板状半導体を作製するための製造装置内の概略断面図を図9に示す。
【0030】
図9の板状半導体の製造装置は、半導体製造用下地板C(以下、下地板Cともいう)、坩堝111、加熱用ヒータ112、原料融液113、坩堝台114、断熱材115、坩堝昇降用台116、下地板に固定された軸117、下地板を保持するための固定台118を備えており、下地板C上に板状半導体Sが形成される。
【0031】
図9に示すように、原料融液温度以下の下地板Cが、図中左側から、坩堝111中にある原料融液113に浸漬される。このとき、原料融液113は、ヒータ112により融点以上に保持されている。安定して板状半導体Sを得るためには、融液温度の調節と、チャンバー内の雰囲気温度と、下地板Cの温度を厳密に制御できるような装置構成にする必要がある。
【0032】
下地板Cには、温度制御が容易に制御できる構造を設けることが好ましい。下地板の材質は、特に限定されないが、熱伝導性の良い材料や耐熱性に優れた材料であることが好ましい。例えば、高純度黒鉛、炭化ケイ素、石英、窒化硼素、アルミナ、酸化ジルコニウム、窒化アルミ、金属などを使用することが可能であるが、目的に応じて最適な材質を選択すれば良い。高純度黒鉛は、比較的安価であり、加工性に富む材質であるためより好ましい。下地板の材質は、工業的に安価であること、得られる板状半導体の下地板品質などの種々の特性を考慮し、適宜選択することが可能である。さらに、下地板に金属を用いる場合、常に冷却し続けるなど、下地板の融点以下の温度で使用し、得られた板状半導体の特性にさほど影響を与えなければ、特に問題はない。
【0033】
温度制御を容易にするには、銅製の下地板を保持するための固定台118を用いると都合がよい。固定台118とは、軸117と下地板Cを連結する部分のことを指す。固定台118や下地板Cは冷却する手段と連結されていても良い。冷却機構と連結されていることで、下地板Cの温度調節がより容易になるためである。さらに、下地板Cを加熱する加熱機構を有していても良い。すなわち、下地板Cは、冷却機構ならびに加熱機構を備えていても良い。原料融液中へ進入した下地板は、その下地板表面に板状半導体Sが成長する。その後、下地板は原料融液から脱出するが、下地板側は原料融液から熱を受け、下地板の温度が上昇する傾向にある。しかし、次に同じ下地板を同じ温度で原料融液へ浸漬させようとすると、下地板の温度を下げるための冷却機構が必要となる。すなわち、一度原料融液から脱出した下地板は、冷却機構で冷却され、次に原料融液に浸漬される前までに、加熱機構を用いて、成長下地板の温度制御を行う方が良い。加熱機構は、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式、ランプ加熱方式でも構わない。
【0034】
このように、下地板に冷却機構と加熱機構を併用することで、板状半導体の安定性は、格段に上昇する。
【0035】
下地板の温度制御と共に重要なのは、原料融液の温度管理である。融液の温度を融点近傍で設定していると、下地板が融液に接することで原料融液の湯面が凝固を起こす可能性があるため、融液の温度は、融点以上であることが好ましい。これは複数の熱電対もしくは、放射温度計などを用いて厳密に制御することができる。
【0036】
融液温度を厳密に制御するには、熱電対を融液中に浸漬させるのが直接的で好ましいが、熱電対の保護管などからの不純物が融液に混入する恐れがあるために、汚染を防止する構造にする必要がある。制御方法は、坩堝などに熱電対を挿入するなどして、間接的に制御するか、放射温度計によりシリコン融液の温度を測定できるような構造にすることが好ましい。
【0037】
融液の入った坩堝111は、坩堝台114を介して断熱材115の上に設置されている。これは、融液温度を均一に保持するためと、坩堝底からの抜熱を最小限に抑制するために用いられている。その断熱材115の上には、坩堝台114が設置されており、坩堝昇降台116が接続されており、昇降機構が設けられている。これは、下地板C上で板状半導体が成長するため、常に下地板Cが、原料融液の湯面から同じ深さで浸漬できるように上下動させるためである。湯面から同じ深さで浸漬できるようにする方法は、これに限定されない。湯面位置を一定に保つ、すなわち、板状半導体として取り出された分の原料を補充する方法なども適用可能である。これは、原料の多結晶体(塊)を溶融させて投入したり、融液のまま順次投入したり、粉体を順次投入する方法などを用いることが可能である。但し、できるだけ融液の湯面を乱さないようにすることが好ましい。融液の湯面を乱すと、そのときに発生する波形状が得られる板状半導体の融液面側に反映され、得られる板状半導体の均一性を損ない、品質の安定性を損なう可能性があるためである。
【0038】
次に、別の板状半導体の製造装置を図10を用いて説明する。
図10において、坩堝昇降台126および坩堝保持部124,125に付設された坩堝121上に熱遮蔽板132の開口部133を有し、その開口部133を移動することが可能な固定台128と半導体製造用下地板Cが固定脚127に接続され、その固定脚127は、冷却器129に接続されている。また、この冷却器129は、角度が変更できる関節部130を有するアーム131に接続されている。ただし、この図において、アームや関節部を移動させる手段、真空排気ができるようなチャンバーなどの装置は示していない。本装置においては、坩堝121上には、熱遮蔽板132が開口されており、下地板Cは任意の軌道を描けるような構成になっている。その下地板C上で結晶が成長し、板状半導体Sが形成されるのである。このとき、下地板Cの温度、半導体融液123の温度などを制御することにより、形成される板状半導体の厚みを制御することが可能になる。この装置においては、アーム131が関節部130を有することにより、下地板Cが移動する構成であるが、アーム131ごと移動する構成であっても構わない。このように、アームごと移動させるような機構を設けることで、基板Cを半導体融液の湯面から同じ深さで浸漬させることが可能となる。
【0039】
<板状半導体の製造方法>
図9に示す板状半導体の製造装置に、本発明の下地板を用いた場合の板状半導体の製造方法について説明する。特に、ここでは、原料にシリコンを用いた場合について、説明する。
【0040】
まず、得られる板状シリコンの比抵抗が0.5〜5Ω・cmになるようにボロンの濃度を調整したシリコン塊(原料)を、高純度黒鉛製坩堝111に一杯になるまで充填する。その坩堝を、図9に示すような装置内に設置する。次に、チャンバー内の真空引きを行い、チャンバー内を所定の圧力まで減圧する。その後、チャンバー内にArガスを導入し、常に10L/minの流速で、チャンバー上部よりArガスを流したままにする。このように常にガスを流し続けるのは、清浄なシリコン湯面を得るためである。
【0041】
次に、シリコン溶融用のヒータ112の温度を1500℃に設定し、坩堝111内のシリコン塊を完全に溶融状態にする。このとき、シリコン原料は溶融することで液面が低くなることから、シリコン融液の湯面が、坩堝111の上面から1cm下の位置になるように、新たにシリコン粉末を投入する。シリコン溶融用のヒータは、一度に1500℃に上げるのではなく、約1300℃まで5〜50℃/minの昇温速度で加熱し、その後、所定温度まで上げるのが好ましい。これは、急激に温度を上げると、坩堝の角部に熱応力が集中的にかかり、坩堝の破損に繋がるためである。
【0042】
その後、シリコンが完全に溶融したのを確認したのち、ヒータ温度を1425℃に設定し、30分間そのまま保持し、融液温度の安定化を図る。次に、坩堝昇降台116を用いて、坩堝111を所定の位置まで移動させる。このときのヒータ温度は、1400℃以上、1500℃以下が好ましい。シリコンの融点が1410℃付近であるため、1400℃以下に設定すると、坩堝壁から徐々に湯面が固まってくるためである。また、1500℃以上に設定すると、得られる板状シリコンの成長速度が遅くなり、生産性が悪くなるため余り好ましくない。
【0043】
次に、板状シリコンを成長させるが、図3に示すような下地板を図9中の左側から右側へ矢印Zの軌道のように進行させる。このとき、下地板の表面、例えば図3の成長面である主面S3側をシリコン融液に接触させ、下地板の前方部F3が進行方向側になるように、下地板を移動させる。このように、下地板の表面がシリコン融液に接することで、板状シリコンが、主面S3側に形成される。板状シリコンを下地板上に成長させる軌道は、特に限定されない。例えば、円軌道や、楕円軌道や、それらの組み合わせた軌道など、任意の軌道を実現できるような構造にしておく方が好ましい。
【0044】
図3において、下地板Cの進行方向部分Fの形状は、特に限定されないが、主面S3に成長した板状シリコンが落下しないような形状にすることが好ましい。
【0045】
シリコン融液への進入時の下地板Cの表面温度は、シリコン融液の凝固点以下であることが必要である。より好ましくは、1100℃以下である。これは、下地板Cの温度が1100℃以上であると、板状シリコンの成長速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。下地板Cは、冷却機構と加熱機構の両方を備えているために温度調整ができることから、生産性が向上するだけでなく、製品の歩留まり向上、さらには、品質の安定化を図ることができる。
【0046】
また、下地板Cの表面温度を再現性よく制御する方法として、シリコン融液からの輻射熱の届かない、もしくは、その影響が少ない位置で、固定台への下地板の装着を行い、その後、直ぐにシリコン融液へ進入させる方法を採用することで、下地板の温度を制御しない装置構成も可能である。
【0047】
ここでは、板状シリコンの製造方法について説明を行ってきたが、前述のように、成長に使用する下地板の材質や形状などを適宜変更することで、金属や、IV族(IV−IV族)半導体や、III−V族半導体や、II−VI族半導体などの、板状半導体の作製などにも容易に転用することが可能である。
【0048】
さらに、ここでは、図9に示した製造装置を用いて説明しているため、下地板Cの下側に板状シリコンが成長する。しかしながら、図9とは、違った装置構成で、下地板の上下を逆さまにすることで、下地板Cの上側にも板状シリコンを作製することも可能となる。
【0049】
次に、図10に示す板状半導体製造装置を用いて、本発明による板状半導体の製造方法について説明する。ここでは図10の板状半導体製造装置を用いた板状半導体を製造方法の一例を示すが、本発明は製造装置にかかわらず前記基板を、融液に接触させることに特徴がある。また、本発明は基板の材質、坩堝材質等にも限定されない。
【0050】
得られる板状シリコンの比抵抗が1Ω・cmになるようにボロンの濃度を調節したシリコン原料を、高純度カーボン製坩堝に保護された石英坩堝121内に充填し、図10にあるような装置内に設置する。その後、本体チャンバー内の圧力を300Paになるまでロータリーポンプを用いて排気を行い、その後、6Paになるまで、メカニカルブースターポンプを用いてさらに排気を行う。
【0051】
次に、坩堝を坩堝加熱用ヒータ122に周波数4kHz、電力80kWのインバーターを用いて、4℃/minの昇温レートにて500℃まで昇温する。本体チャンバー内の圧力を6Pa、坩堝温度を500℃を維持した状態で90分間保持することにより、カーボン製坩堝に含まれている水分を除去する。また、一度に昇温しないのは、坩堝の角部などに熱応力が集中的にかかり、坩堝の破損を防止するのが目的である。
【0052】
このようなベーキングを経た後、一旦インバーターの出力を停止し、坩堝の加熱を停止する。この状態で、本体チャンバーの圧力を800hPaになるまでArガスを充填する。本体チャンバー内が800hPaに達した時点で、再び坩堝を昇温レート10℃/minにて加熱し、坩堝温度が1550℃になるまで昇温する。坩堝温度を1550℃で安定させることにより、坩堝内のシリコン塊はやがて全て溶融して、シリコン融液となる。シリコン塊が完全に溶解したのを確認し、シリコン湯面の高さが坩堝上端より15mm下になるように、シリコン塊もしくはシリコン粉末を追加投入する。追加投入したシリコン塊が全て溶融したことを確認したのち、坩堝の設定温度を1425℃まで落として、シリコン融液の温度安定化のため30分間その状態を保持する。
【0053】
次に、板状シリコンを下地板C上に成長させるが、下地板の成長面が、シリコン融液に接触するように移動させる。このように、下地板の成長面がシリコン融液に接することで、下地板の表面に板状シリコンSが成長する。下地板C上に板状シリコンSを作製するための軌道は、円軌道、楕円軌道であってもよい。特に、任意の軌道を実現できるような図10のような装置構造にすることで、得られる板状シリコンSの歩留まりを向上させることができる。
【0054】
図10にあるように、下地板Cと板状シリコンSはチャンバー内で剥離してもいいし、チャンバー外へ搬出しても構わない。特に、生産速度を上げるのであれば、チャンバー内で、下地板Cから剥離し、板状シリコンSだけをチャンバー外へ搬出するのが好ましい。このようにすることで、下地板Cをチャンバー外へ搬出することがなくなるだけでなく、Arガスの消費量も大幅に低減することが可能となり、より安価な板状シリコンを提供することが可能となる。
【0055】
<太陽電池セルの製造方法>
作製した板状半導体は、たとえば図4(A)に示すように、スリット部や板状半導体の主面に連続している浸漬方向前方の側面部に成長する板状半導体があるため、そのまま太陽電池セルに使用した場合、従来の太陽電池セル製造プロセスが適用できない。そこで、製造した板状半導体をウエハ状に切断する必要がある。
【0056】
図11は板状半導体のスリット部を切断している図である。この時レーザを用いることで短時間で切断を行なうことができる。また、発電に寄与しないスリット部を含んでいると太陽電池特性が低下するため、切断することで同一の面積内で高い出力を得ることができる。
【0057】
以下、図12を用いて、板状半導体のスリット部を切り落として得られたウエハを用いて太陽電池セルを作製する工程を説明する。
【0058】
(a)板状半導体のスリット部を切り落として得られたウエハ30を水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性のエッチング液を用いて洗浄する。
【0059】
(b)受光面となるウエハ30の表面にリン(P)系の化合物を含有したn型の不純物を塗布し、熱拡散によりn型拡散層32を形成する。
【0060】
(c)ウエハ30の受光面に反射防止膜33としてSiN膜をプラズマCVD法で形成する。
【0061】
(d)ウエハ30の裏面にアルミニウムペーストをスクリーン印刷法により印刷し、乾燥させた後、焼成し、不純物となるアルミニウムを拡散させてP+層からなるBSF層(図示せず)を形成するとともに、裏面集電極36を形成するための開口部34aを形成しておく。
【0062】
(e)ウエハ30の表面上に銀ペーストをスクリーン印刷法で印刷し、受光面電極35を形成する。
【0063】
(f)裏面集電極34の開口部34(a)に銀ペーストをスクリーン印刷法で印刷し、乾燥させたあと、焼成して裏面配線用電極36を形成する。
【0064】
(g)はんだディップを行い、受光面電極35および裏面配線用電極36の表面電極をはんだ層37で被覆し、太陽電池セル40が完成する。
【0065】
本発明の板状半導体を切断して得られるウエハは、スリット部を形成することにより反りが低減されているため、スリット部がないものに比べて、バッチ処理を行う洗浄において一度に洗浄できる枚数が増えるなど、生産性が向上する。またウエハの取り扱いが容易になり、生産性が向上する。
【実施例】
【0066】
<実施例1〜3、比較例1>
(板状シリコンの作製)
比抵抗が2Ω・cmになるようにボロン濃度を調整したシリコン原料を、高純度カーボン製坩堝に保護された石英製坩堝内に入れ、図9に示すような装置内に固定した。
【0067】
まずチャンバー内を10-5torr程度まで真空引きし、常圧までArガスで置換し、その後Arガスを10L/minでフローしたままにした。次に、シリコン原料をヒータにより溶融するが、シリコン溶解用ヒータを10℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温し、シリコン原料が完全に溶解したことを確認したのち、坩堝温度を1425℃に保持し、安定化を図った。図3の下地板の成長面である主面S3の温度を200℃に制御し、成長面が湯面から8mm下の部分を通過するように浸漬し、板状シリコンを成長させた。
【0068】
用いた下地板の成長面は、縦180mm、横160mm、下地板の厚み30mmであり、溝の長さを10mm、20mm、30mmとした場合をそれぞれ実施例1、2、3とした。溝の幅W3は3mmとし、深さD3を10mmとした。溝の本数は5本とし、等間隔にした。図8の下地板を用い、溝の無い下地板を用いた場合を比較例1とした。
【0069】
次に、成長させた板状シリコンにおいて、下地板の成長面から成長した部分の分割されていない部分を140mm角にレーザで切断し、切断後の割れていない板状シリコンの反り量を測定した。
【0070】
その後、太陽電池のプロセスに通し、太陽電池を作製した。はじめに得られた板状シリコンの洗浄のため、水酸化ナトリウムによるアルカリエッチングを行った後、POCl3拡散によりp型下地板にn+層を形成した。板状シリコン表面に形成されているPSG膜をフッ酸で除去した後、太陽電池の受光面側となるn+層上にプラズマCVDを用いてシリコン窒化膜を形成した。次に、太陽電池の裏面側となる面に形成されているn+層を硝酸とフッ酸との混合溶液でエッチング除去し、p下地板を露出させ、その上に裏面電極およびp+層を同時に形成した。次に、受光面側の電極をスクリーン印刷法を用いて形成した。その後、半田ディップを行い、太陽電池を作製した。AM1.5、100mW/cm2の照射下にて、「結晶系太陽電池セル出力測定方法(JIS C 8913(1988))」に従って、太陽電池の特性評価を行った。
【0071】
各条件100回浸漬した時の結果を表1に示す。ここで、140mm角の板状シリコンの枚数とは、割れによって140mm角のサイズを確保できなかった板状シリコンを除いた枚数である。表から分かるように本発明の溝を入れることにより割れが少なくチャンバーの外に取り出した時に140mm角のサイズを確保できる枚数が多いことが分かる。また、溝の長さが長いほどこの効果は大きいことが分かる。また、140mm角に切断後の反りにおいても本発明の溝を入れることにより反り量が小さくなっていることが分かる。反り量の少ない板状シリコンは、太陽電池作製プロセスが容易であった。
【0072】
【表1】

【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の半導体製造用下地板を示す図である。
【図2】図1の半導体製造用下地板を用いて作製された板状半導体を示す図である。
【図3】本発明の半導体製造用下地板を示す図である。
【図4】図3の半導体製造用下地板を用いて作製された板状半導体を示す図である。
【図5】本発明の半導体製造用下地板を示す図である。
【図6】本発明の半導体製造用下地板を示す図である。
【図7】従来の半導体製造用下地板を示す図である。
【図8】図7の半導体製造用下地板を用いて作製された板状半導体を示す図である。
【図9】本発明の板状半導体を製造するための製造装置の一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の板状半導体を製造するための製造装置の一例を示す模式図である。
【図11】本発明の太陽電池セルの製造工程を示す模式図である。
【図12】本発明の太陽電池セルの製造工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0075】
30 ウエハ、32 n型拡散層、33 反射防止膜、34 裏面集電極、35 受光面電極、36 裏面配線用電極、37 はんだ層、40 太陽電池セル、111,121 坩堝、112,122 ヒータ、113 原料融液、114 坩堝台、115 断熱材、116,126 坩堝昇降用台、117 軸、118,128 固定台、123 半導体融液、124,125 坩堝保持部、127 固定脚、129 冷却器、130 関節部、131 アーム、132 熱遮蔽板、133 開口部、F1,F3 半導体製造用下地板の浸漬方向側前方の側面、S2,S4,S8 板状半導体の主面、S1,S3,S7 半導体製造用下地板の主面、W1,W3 溝の幅、D1,D3 溝の深さ、V3,V7 周辺と主面を分離する溝、C 半導体製造用下地板、S 板状半導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長面を有する下地板を半導体融液に浸漬させて、該下地板に半導体を成長させる半導体の製造方法に使用する半導体製造用下地板において、該半導体製造用下地板の結晶成長面が浸漬方向前方部から後方部に延びる溝を有する、該半導体製造用下地板。
【請求項2】
前記溝が浸漬方向と略平行である請求項1記載の半導体製造用下地板。
【請求項3】
前記溝が2本以上ある請求項1〜2いずれか記載の半導体製造用下地板。
【請求項4】
成長面を有する下地板を半導体融液に浸漬させて、該下地板に半導体を成長させる半導体の製造方法において、該下地板として請求項1〜3いずれか記載の半導体製造用下地板を用いる半導体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の半導体製造方法を用いて製造された板状半導体。
【請求項6】
請求項5記載の板状半導体のスリット部を切り落として得られたウエハを用いて作製された太陽電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−50339(P2010−50339A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214186(P2008−214186)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】