説明

半導体金属酸化物粒子層において粒子間接触部分を改善するため及び間隙を埋めるための熱的に化学変化の起こり易い前駆体化合物

(A)半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施す工程、(B)工程(A)で生じた前記多孔質層を前記半導体金属酸化物の前駆体化合物を含む溶液で処理する工程、(C)工程(B)で得られた層を熱的に処理する工程、を少なくとも含み、前記工程(B)における半導体金属酸化物の前駆体化合物は、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に少なくとも1種の半導体金属酸化物を含む層を形成する方法であって、(A)少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施す工程、(B)前記多孔質層の細孔の少なくとも一部が前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液で満たされるように、工程(A)で生じた前記多孔質層を当該溶液で処理する工程、(C)前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を半導体金属酸化物に転化するために、工程(B)で得られた層を10〜200℃において熱的に処理する工程、を少なくとも含み、工程(B)における前記少なくとも1種の半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法、これにより製造可能な基材及び電子部品にこの基材を使用する方法に関する。特に、本発明は、適切な前駆体化合物を含む溶液を使用する、適切な基材上に半導体金属酸化物の粒子の多孔質層を処理する方法であって、その金属酸化物の粒子の間の間隙を少なくとも一部埋めるため及びその金属酸化物を互いにより良好に接合するための上記処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子間に当初存在する隙間の少なくとも一部を半導体材料で埋め、あるいは次いで粒子を互いに「溶接」させる半導体金属酸化物層の形成方法は既に従来から知られている。
【0003】
特許文献1(US2006/0284171A1)には、酸化亜鉛を基礎とする半導体材料を含む薄膜トランジスタを製造する方法が開示されている。特許文献1(US2006/0284171A1)に記載の方法によれば、多孔質の酸化亜鉛ナノ粒子層を適当な基材に施し、続いて細孔の少なくとも一部を塞ぐために酸化亜鉛前駆体化合物を含む溶液をこの多孔質層に施す工程が含まれる。次に、形成した層を少なくとも50℃の温度で乾燥させ、対応する半導体材料に転化させる。この方法に好適な前駆体化合物は、亜鉛アセチルアセトネート、臭化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は硝酸亜鉛である。好ましくは酢酸亜鉛が使用される。
【0004】
非特許文献1(B. Sun他、The Journal of Physical Chemistry C Letters, 2007,111, 18831-18835)には、好適な基材上に酸化亜鉛のコーティングを形成する方法が開示されている。この方法は、酸化亜鉛ナノチューブの層を基材に施し、続いてこの第一の層を前駆体化合物を含む溶液でコーティングする工程を含む。最後に、前駆体化合物を加熱によって対応する半導体材料に転化させる。使用される前駆体化合物は酢酸亜鉛である。
【0005】
適当な基材に粒子のシステムを基礎とする半導体層を施す従来公知の方法は一般に、間隙及び僅かな又は貧弱な接合が個々のナノ粒子間に存在する多孔質層がまず得られるので、これらの半導体層の機械的及び/又は電気的性質は不十分であるかあるいは未だ改善の必要性がある。細孔を少なくとも一部埋めるため又は粒子を互いにより良好に接触させるため、続いてこの多孔質層に酸化亜鉛前駆体化合物の溶液を施す従来公知の方法は、使用される前駆体化合物、例えば酢酸亜鉛は、比較的高い温度でしか残留物なしで酸化亜鉛に転化することができないという欠点を有する。熱の影響を受けやすい基材、例えばポリマーを使用可能とするためにも比較的低い温度で実行可能な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2006/0284171A1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. Sun他、The Journal of Physical Chemistry C Letters, 2007,111, 18831-18835
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材上の半導体材料の層を低温度で、例えば200℃未満で対応する金属酸化物に分解可能な前駆体溶液で処理することができ、これにより層の間隙の少なくとも一部を金属酸化物で埋め、そして個々の粒子間の接触面積を増やすことのできる方法を提供することにある。本発明の更なる目的は、特に高い機械的安定性及び特に良好な電子的性質に特徴を有する対応する半導体層をこの方法で得ることにある。このような溶液を事前に形成された多孔質の金属酸化物層に施し、細孔に浸透させ、そこで加熱により対応する金属酸化物に分解する方法を提供する。更に、この方法は実施するのに非常に簡単であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、基材上に少なくとも1種の半導体金属酸化物を含む層を形成する本発明に係る方法であって、
(A)少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施す工程、
(B)前記多孔質層の細孔の少なくとも一部が前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液で満たされるように、工程(A)で生じた前記多孔質層を当該溶液で処理する工程、
(C)前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を半導体金属酸化物に転化するために、工程(B)で得られた層を熱的に処理する工程、
を少なくとも含み、
工程(B)における前記少なくとも1種の半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の結果を示すグラフである。
【図2】実施例の結果を示すグラフである。
【図3】比較例の結果を示すグラフである。
【図4】比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る方法は、少なくとも1種の半導体金属酸化物を含む層を基材上に形成するのに有用である。
【0012】
本発明によれば、「細孔」は、本発明の方法の工程(A)において施される少なくとも1種の半導体金属酸化物の粒子間の窪み、空洞及び隙間の意味と理解される。
【0013】
好ましい実施の形態では、少なくとも1種の半導体金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化イリジウム及びこれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましい実施の形態では、酸化亜鉛を本発明の方法における半導体金属酸化物として使用する。それ故、本発明は、少なくとも1種の半導体金属酸化物が酸化亜鉛ZnOである本発明の方法に関する。
【0014】
通常、当業者に知られている全ての基材、例えば、Siウエハ、ガラス、セラミック、金属、金属酸化物、半金属酸化物、ポリマー、好ましくは軟質ポリマー、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリイミド等にコーティングすることが本発明の方法によって可能である。特に低温度で分解する前駆体化合物を含む溶液を本発明において使用するという事実により、高温において変形及び/又は熱的に損傷し得る基材も使用することが可能である。
【0015】
本発明の方法の特に好ましい実施の形態では、基材は、例えば、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。
【0016】
本発明の方法により基材上に形成され且つ少なくとも1種の金属酸化物を含む層は、通常10〜2000nm、好ましくは30〜500nmの厚さを有する。
【0017】
好ましい実施の形態では、本発明に従って形成される層は、工程(B)及び工程(C)をせずに形成された多孔質の金属酸化物層や従来技術による対応する金属酸化物層よりも、空隙率が低く、良好な電気的特性、例えば薄膜トランジスタ(TFT)において高い移動度を有する。本発明に従って形成される層のより低い空隙率は、例えば、顕微鏡画像により分析することができる。
【0018】
本発明に係る方法の各工程を以下に詳細に説明する。
【0019】
工程(A):
本発明に係る方法の工程(A)は、少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施す工程を含む。好適な半導体金属酸化物及び基材は上記している。
【0020】
通常、工程(A)では、少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施すための当業者に知られている全ての方法、例えば、溶液又は分散体を適当な基材に、例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ドロップキャスティング又は印刷、例えばインクジェット印刷、フレキソ印刷又はグラビア印刷により、施す(塗布)する方法を用いることができる。
【0021】
本発明において、少なくとも1種の半導体金属酸化物それ自体を基材に施すことができる。また、本発明において、少なくとも1種の半導体金属酸化物の適当な前駆体化合物の溶液を基材に施し、次いで半導体金属酸化物に転化させることが可能である。前駆体化合物は、当業者に知られている方法、例えば熱的処理により半導体金属酸化物に転化することができる。
【0022】
更に、適当な粒子状の半導体材料、特に半導体金属酸化物、より好ましくは酸化亜鉛を、粒子状の形態で、適当な基材に、これらの粒子の分散体を、例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ドロップキャスティング又は印刷、例えばインクジェット印刷、フレキソ印刷又はグラビア印刷により塗布することにより施すことが可能である。
【0023】
少なくとも1種の半導体材料は、本発明の方法の工程(A)において、好ましくは粒子状形態で施す。個々の粒子は通常3nm〜1μm、好ましくは5nm〜100nmの径を有する。粒子は、当業者に知られているあらゆる形態で基材に存在してよく、特に球状粒子及び/又は棒状粒子及び/又は板状粒子として存在してよい。それ故、本発明は、工程(A)における少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層が、球状粒子及び/又は棒状粒子及び/又は板状粒子を含む本発明の方法にも関する。
【0024】
本発明の方法の工程(A)において、基材に施される少なくとも1種の半導体金属酸化物には、必要に応じて、例えば、Al3+、In3+、Ga3+、Sn4+及びこれらの混合物からなる群から選択される好適なドーパントをドープしてよい。
【0025】
それ故、本発明は、少なくとも1種の半導体金属酸化物に、Al3+、In3+、Ga3+、Sn4+及びこれらの混合物からなる群から選択される金属カチオンがドープされている本発明の方法にも関する。
【0026】
ドープ用に添加されるこれらの金属カチオンは、少なくとも1種の半導体金属酸化物の結晶格子に組み込まれ、n−又はp−半導体特性をその半導体金属酸化物に与える。
【0027】
工程(A)において施される層をドープする方法は当業者に知られている。前駆体化合物の溶液又は分散体の基材への塗布及びこれに次ぐ熱的処理により工程(A)において層を施す本発明の方法の実施の形態では、ドーパントの適切な前駆体化合物をこの溶液又は分散体に添加することができる。本発明の方法の工程(A)を粒子を施すことにより達成する場合、ドーパントは、粒子の製造の過程で、例えば粒子の製造に使用される溶液又は分散体に適当な塩を添加することによりこれらに導入することができる。
【0028】
上記ドーパントの前駆体化合物は、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属硝酸塩の形態で又は適当なカチオンの可溶性錯体の形態で添加することができる。ドーパントは、本発明に係る方法の工程(A)において、Znに対して0.1〜10mol%、好ましくはZnに対して0.1〜5mol%の量で粒子に添加することができる。
【0029】
工程(A)において、特に球状粒子及び/又は棒状粒子及び/又は板状粒子の形態の、少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層が存在する基材が得られる。
【0030】
工程(B):
工程(B)は、多孔質層の細孔の少なくとも一部が半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液で満たされるように、工程(A)で得られた多孔質層をこの溶液で処理する工程を含む。工程(B)において少なくとも1種の半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物が、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることが本発明に係る方法の特別な特徴である。
【0031】
本発明の方法の工程(B)では、対応する前駆体化合物の溶液を使用することが好ましい。そのため、使用する溶媒は、使用する前駆体化合物が溶液全体に対して少なくとも0.01質量%の程度溶解可能である溶媒が好ましい。
【0032】
特に好適な溶媒は、例えば、水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ケトン、例えばアセトン、エーテル、例えばジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、エステル及びこれらの混合物からなる群から選択される。本発明の方法の工程(B)では、水の、アルコールの又はエーテルの溶液を使用することが好ましく、工程(B)において溶媒として水を使用することが特に好ましい。
【0033】
本発明の方法の工程(B)において、少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液は、それぞれ溶液全体に対して、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%の濃度で使用する。
【0034】
本発明の方法の工程(B)において、少なくとも1種の半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は適当な溶媒中で使用する。少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩、若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0035】
好ましい実施の形態では、通常10〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃、最も好ましくは40〜100℃の温度で半導体金属酸化物及び揮発性生成物(例えば二酸化炭素、酢酸エチル、アセトン、アンモニア等)に分解する前駆体化合物を使用する。これらの前駆体化合物の分解のための最低温度は例えば50℃であり、あるいは触媒活性化のある場合には例えば20℃である。
【0036】
対応する金属の好適なカルボン酸塩は、例えば、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸又はモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体を有する対応する金属の化合物である。本発明によれば、モノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体とは、対応するモノ−、ジ−若しくはポリエステル、又は無水物若しくはアミドを意味するものと理解される。本発明によれば、カルボン酸塩錯体の中心原子として存在する金属原子は通常配位数が3〜6であってよい。
【0037】
本発明に特に好ましい場合において、酸化亜鉛を半導体金属酸化物として基材に施し、工程(B)において、使用する好ましいカルボン酸塩は対応する亜鉛の化合物である。好ましい実施の形態では、本発明において、配位数が3〜6であるカルボン酸亜鉛錯体を使用する。
【0038】
更に好ましい実施の形態において、使用する前駆体化合物は、通常10〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃、最も好ましくは40〜100℃の温度において、酸化亜鉛及び揮発性生成物(例えば二酸化炭素、アセトン等)に分解するカルボン酸亜鉛又はこの誘導体である。これらの前駆体化合物の分解のための最低温度は例えば50℃であり、あるいは触媒活性化のある場合には例えば20℃である。
【0039】
本発明の方法の工程(B)において前駆体化合物として使用される特に好ましいカルボン酸塩は、一般式(I)に相当する。
【0040】
【化1】

【0041】
[但し、
Mは、Znであり、
1は、水素、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−アルキル、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−ヘテロアルキル、置換若しくは非置換のC5−C16−アリール、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アラルキル、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アルカリール、NR67(但し、R6、R7はそれぞれ独立してSi−(C1−C6−アルキル)3又は式−O−C(O)−R2(R2の定義は以下に示す)の基であり、それぞれの例において電子供与性を有する官能基、例えばヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、アミド、エーテル及び/又はオキソで必要に応じて置換されており、
2は、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−アルキル、好ましくはC2−C12アルキル、直鎖状若しくは分岐状C1−C12−ヘテロアルキル、好ましくはC2−C12−ヘテロアルキル、置換若しくは非置換のC5−C16−アリール、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アラルキル、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アルカリールであり、それぞれの例において電子供与性を有する官能基、例えばヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、アミド、エーテル及び/又はオキソで必要に応じて置換されており;あるいは式
【0042】
【化2】

【0043】
(R3は、O及びCH2から選択され、
n、m、cは、それぞれ独立して、0、1、2又は3、好ましくは0、1、2、より好ましくは0又は1であり、
4は、O、C=O、−X4C=CH−、OCH2から選択され、
5は、H、OH、OCH3、OC25、OSi(X1(3-a-b)(X2a(X3b、CO25、OCO25から選択され、好ましくはCO25から選択され、
5は、C1−C4アルキルから選択され、好ましくはメチル、エチル及びtert−ブチルから選択され、最も好ましくはエチル及びtert−ブチルから選択され、
a、bは、それぞれ独立して、0、1、2又は3であり、aとbの合計は3以下であり、
1、X2、X3、X4は、それぞれ独立して、H、C1〜C10アルキルから選択され、好ましくはH及びC1〜C4アルキルから選択され、より好ましくはH、メチル及びエチルから選択され、
dは、1〜100の整数であり、
6は、H、C1〜C10アルキルから選択され、好ましくはH及びC1〜C4アルキルから選択され、より好ましくはメチル及びエチルから選択される。)である。]
一般式(I)の化合物は、溶液中に、好ましくは水溶液中に、凝集体の形態で又は一般式(I)の2つ以上の分子の多環式付加物の形態で存在してよく、これらは同様に本発明に包含される。
【0044】
極めて特に好ましいカルボン酸塩、特にカルボン酸亜鉛に存在する配位子は、3−オキソグルタル酸モノアルキル、例えば3−オキソグルタル酸モノメチル、3−オキソグルタル酸モノエチル、マロン酸モノアルキル、例えばマロン酸モノメチル、マロン酸モノエチル及びこれらの混合物である。
【0045】
本発明の方法の工程(B)において使用される前駆体化合物としてのカルボン酸亜鉛の好ましい例は、式(II)
Zn[(EtOC(O)CH2C(O)CH2COO)2
で表わされる化合物である。
【0046】
本発明において実験式及び/又は構造式として再現される化合物においては、溶媒分子、例えば水が場合によって化合物中に存在していてよい。
【0047】
式(II)の化合物を製造する方法は当業者に知られており、例えば、化学量論量の3−オキソグルタル酸モノエチルとジエチル亜鉛をヘキサン中で0℃において反応させることによる。
【0048】
本発明の方法の工程(B)において前駆体化合物として使用され、一般式(I)の2つの分子の付加物として存在するカルボン酸亜鉛の更なる特に好ましい例は式(III)
【0049】
【化3】

の化合物である。
【0050】
式(III)の化合物は同様に当業者に知られている方法によって製造可能であり、例えば、等モル量の3−オキソグルタル酸モノエチルとビス[ビス(トリメチルシリル)アミド]亜鉛をベンゼン又はトルエン中で室温において反応させることにより製造可能である。
【0051】
本発明の方法の工程(B)において前駆体化合物として使用されるカルボン酸亜鉛の更なる特に好ましい例は式(IV)
【0052】
【化4】

の化合物である。
【0053】
式(IV)の化合物は同様に当業者に知られている方法で製造可能である。
【0054】
カルボン酸亜鉛の更なる好ましい例は、電子供与官能性を有する式(IVa)Zn[(NH2CH2COO)2(H2O)]の化合物である。
【0055】
【化5】

【0056】
本発明の方法の工程(B)において前駆体化合物として使用されるカルボン酸亜鉛の更なる特に好ましい例は、同様にα位においてカルボキシレート基への電子供与性を有する式(IVb)Zn[{R78N−N=C(CH3)CO2}2(H2O)2]の化合物である。
【0057】
【化6】

【0058】
カルボン酸亜鉛の更なる好ましい例は式(IVc)の化合物である。
【0059】
【化7】

【0060】
(但し、R7=R8=メチル、又はR7=HでありR8=C(O)Me)
【0061】
本発明の方法の工程(B)において、更に好ましくは、使用される少なくとも1種の金属酸化物の前駆体化合物は対応する金属のアルコキシドである。
【0062】
前駆体化合物として、金属原子が3〜6の配位数を有する金属アルコキシドを使用することが好ましい。酸化亜鉛を半導体金属酸化物として使用する特に好ましい場合には、特に、少なくとも1つの配位子がアルコキシドである3〜6の配位数を有する亜鉛アルコキシド錯体を使用する。同一の又は異なる分子を互いに加えることにより、本発明に従って使用される前駆体化合物において本発明に従うこれらの配位数が達成される。
【0063】
特に好ましい実施の形態では、使用する前駆体化合物は、通常10〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃、最も好ましくは40〜100℃の温度において半導体金属酸化物と揮発性生成物に分解する亜鉛アルコキシドである。これらの前駆体化合物の分解のための最低温度は例えば50℃であり、あるいは触媒活性化のある場合には例えば20℃である。
【0064】
特に好ましい実施の形態では、本発明の方法の工程(B)における前駆体化合物として使用される金属アルコキシドは以下の一般式(V)
【0065】
【化8】

【0066】
[但し、
MはZnであり、
9は、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−アルキル、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−ヘテロアルキル、置換若しくは非置換のC5−C16−アリール、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アラルキル、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アルカリール、好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC1−C6−アルキル、特にメチル又はエチルであり、それぞれの場合において電子供与性を有する官能基、例えばヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、アミド、エーテル及び/又はオキソで任意に置換されていてよく、
10は、水素、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−アルキル、直鎖状若しくは分岐状のC1−C12−ヘテロアルキル、置換若しくは非置換のC5−C16−アリール、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アラルキル、直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換のC5−C16−アルカリール、NR1112(但し、R11、R12はそれぞれ独立してSi−(C1−C6−アルキル)3である。)、又は式−O−C(O)−R2の基(R2は上記で特定した定義通りである。)であり、各例において電子供与性を有する官能基、例えばヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、アミド、エーテル及び/又はオキソで任意に置換されていてよく;R9はより好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC1−C6−アルキル、特にメチル又はエチルであり、
oは1又は2であり、そして
pは0又は1であり、数値はo+p=2であって電荷を帯びていない一般式(V)の化合物が存在するように選択される。]
又はヘテロクバン、例えば(Et−Zn−OEt)4又はZn78Me14(式(Vb))に相当する。
【0067】
一般式(V)の特に好ましい化合物はメトキシメチル亜鉛又はエトキシエチル亜鉛である。
【0068】
本発明の方法の工程(B)において前駆体化合物として使用される亜鉛アルコキシドの他の好ましい例は、式(Va)、(Vb)及び(Vc)の化合物である。
【0069】
【化9】

【0070】
本発明の方法の他の好ましい実施の形態では、使用する少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属の、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、アミド、ホスフィン、アンモニウム化合物、アジド、硝酸塩若しくはニトリル又はこれらの混合物であり、より好ましくは対応する金属のヒドロキソ錯体である。
【0071】
前駆体化合物として、金属原子が4〜6の配位数を有するヒドロキソ−金属錯体又はその他のアコ錯体を使用することが好ましい。酸化亜鉛を半導体金属酸化物として使用する特に好ましい場合には、配位数が4〜6である亜鉛錯体を使用する。
【0072】
特に好ましい実施の形態では、使用する前駆体化合物は、通常10〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃、最も好ましくは40〜100℃の温度において、半導体金属酸化物及び揮発性生成物(例えばアンモニア)に分解するヒドロキソ−金属錯体である。前駆体化合物の分解のための最低温度は例えば50℃であり、あるいは触媒活性化のある場合には例えば20℃である。
【0073】
特に好ましい実施の形態では、これらの化合物は一般式(VI)
【0074】
【化10】

【0075】
[式中、
A、B、Cは、それぞれ独立して、R133N(但し、各R13は独立して水素、C1−C6−アルキル、C5−C12−アリール、C5−C12−アラルキル、C5−C12−アルカリールである。)、N2134(但し、R13は前記定義通りである。)、NR132OH(但し、R13は上記定義通りである。)、(NR1322C=O(但し、R13は上記定義通りである。)、R13N−CO2-(但し、R13は上記定義通りである。)、N3-、NCO-、アセトヒドラジド、アミドラゾン、セミカルバジド、R143P(但し、各R14は独立して水素、メチル又はエチルである。)、R143As(但し、R14は前記定義通りである。)、オキシム、ウレタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、水、C1−C12−アルコール、2〜12個の炭素原子を有するエーテル、例えば1,2−ジメトキシエタン(DME)、4〜12個の炭素原子を有する環状エーテル、例えばジオキサン、特にNH3であり、
q、r、s、tは、それぞれ独立して0〜10、好ましくは0〜6、より好ましくは0〜4、好ましくはt=2であり、
uは、1〜10、好ましくはu=1であり、
そして、q、r、s、t、uは、電荷を帯びていない一般式(VI)の化合物が存在するように選択する。]
に相当する。
【0076】
本発明の方法の工程(B)において、少なくとも1種の前駆体化合物として使用することが特に好ましいものは、無機錯体[(OH)x(NH3yZn]z(但し、x、y及びzはそれぞれ独立して0.01〜10である。)、最も好ましくは[(OH)x(NH3yZn]z(但し、x=2、y=2又は4及びz=1である。)であり、x、y及びzは、特定される錯体が電荷を帯びないように選択される。
【0077】
本発明によれば、好ましく使用される前駆体化合物は、当業者に知られている全ての方法により製造することができる。例えば、硝酸亜鉛と水酸化ナトリウム溶液との反応及びこれに次ぐアンモニアでの処理であり、例えばS. Meiers et al, J. Am. Chem. Soc., 130(51), 2008, 17603-17609に記載されている。
【0078】
特に好ましい実施の形態では、本発明の方法の工程(B)において、上記無機錯体[(OH)x(NH3yZn]zは少なくとも1種の前駆体化合物として使用され、酸化亜鉛又は水酸化亜鉛とアンモニアとの直接反応により得られる。例えば、欧州特許出願09158896.2に記載されている。
【0079】
そのため、本発明は特に、工程(B)における少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物として、[(OH)x(NH3yZn]z(但し、x、y及びzは、特定される錯体が電荷を帯びないようにそれぞれ独立して0.01〜10である。)を使用する方法に関し、前記錯体はより好ましくは酸化亜鉛又は水酸化亜鉛とアンモニアとの反応により得られる。
【0080】
本発明の方法の工程(B)において工程(A)で得られた多孔質層に施される前駆体化合物の量は、工程(A)で得られた層の厚さ、その空隙率、細孔のサイズ等にもよるが、少なくとも半導体金属酸化物の接続箇所が各々の粒子の間に形成する細孔内に十分な量の適切な前駆体化合物が存在するように、当業者によって決定される。工程(A)で施される粒子は接線接触だけで存在するのが通常である一方、本発明の方法の工程(B)ではより大きな接合が各々の粒子間に形成される。
【0081】
本発明の方法の工程(B)は通常、少なくとも金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液が工程(A)で得られる多孔質層の細孔に少なくとも一部が浸透することができることが可能である温度、例えば5〜120℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは室温において行う。
【0082】
本発明の方法の工程(B)は通常、当業者に知られている全ての方法、例えば、(A)でコーティングされた基材上に前駆体化合物をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ドロップキャスティング(drop casting)又は印刷、例えばインクジェット印刷、フレキソ印刷又はグラビア印刷することにより行うことができる。
【0083】
従って、本発明はまた、工程(A)で生じた多孔質層の処理を、工程(B)においてスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ドロップキャスティング又は印刷により行うことにより達成する本発明の方法に関する。
【0084】
工程(B)は、本発明によれば、連続式又はバッチ式で行うことができる。
【0085】
本発明の方法の工程(B)において好ましく使用される少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を溶媒中に含む溶液は、例えば基材上への選択された沈着挙動を向上させるために、更に添加剤を必要に応じて含んでいてよい(工程B)。
【0086】
本発明の方法の工程(B)において好ましく使用される溶液は、半導体金属酸化物にドープする働きをする更なる金属カチオンを追加的に含んでいてもよい。特に好ましい実施の形態では、これらの金属カチオンは、Al3+、In3+、Ga3+、Sn4+及びこれらの混合物からなる群から選択される。これらは別個に溶液に導入してもよく、本発明の前駆体化合物に既に存在していてもよい。
【0087】
溶液を調製するため、上記ドーパント金属カチオンを工程(B)において、金属酸化物、金属水酸化物、金属アルコキシドの形態で又は可溶性錯体の形態で添加することができる。上記ドーパントは、本発明の方法の工程(B)において、通常Znに対して0.1〜10mol%、好ましくはZnに対して0.1〜5mol%の量で溶液に添加することができる。
【0088】
本発明によれば、同一でも異なっていてもよいドーパントを工程(A)及び(B)で使用することが可能である。また、本発明において、ドーパントは工程(A)でのみ又は工程(B)でのみ使用することが可能である。ドーパントを工程(A)でのみ使用する場合、これらは工程(A)で得られる少なくとも1種の半導体金属酸化物の層に存在することが好ましい。ドーパントを工程(B)でのみ使用する場合、これらは工程(B)において少なくとも一部が埋められる細孔又は隙間に存在することが好ましい。
【0089】
本発明の方法の工程(B)の後、少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層で被覆された基材が通常得られ、この層の細孔は、半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液で少なくとも一部が満たされている。
【0090】
工程(C):
半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を半導体金属酸化物に転化するため、本発明の方法の工程(C)は工程(B)で得られた層を熱的処理することを含む。
【0091】
本発明の方法の好ましい実施の形態では、本発明の方法の工程(C)における熱的処理は、10〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃、最も好ましくは40〜100℃の温度で行う。
【0092】
従って、本発明の方法はまた、工程(C)における熱的処理を10〜200℃の温度で行う本発明の方法に関する。
【0093】
この場合、工程(B)において細孔に少なくとも部分的に導入される明確に選択された前駆体化合物は、比較的低い温度において対応する金属酸化物に転化することができることが本発明において有利である。そのため、例えば、半導体金属酸化物の製造中に低温度のおかげで変形しないかあるいは熱的に分解しないポリマー基材を使用することが可能である。本発明の方法の工程(C)における熱的処理において使用される前駆体化合物のおかげで、ガス形態で放出されて形成される層の中に問題となる不純物として残存しない揮発性の副生成物しか生成しないことが更に利点である。
【0094】
通常、工程(C)は、基材を加熱するための当業者に知られている全ての装置、例えば、熱板、オーブン、乾燥キャビネット、熱風ガン、ベルトか焼炉又は恒温キャビネットで行うことができる。
【0095】
工程(C)において、工程(B)において基材の細孔又は間隙に溶液で導入された半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属酸化物、特に酸化亜鉛に転化する。
【0096】
本発明において使用する前駆体化合物は通常、工程(C)において対応する金属酸化物、特に酸化亜鉛、及び揮発性化合物又はこれらの混合物に転化する。より特に、工程(C)の熱的処理の後、前駆体化合物の副生成物、例えばハライドアニオン、硝酸アニオン等の対イオン、Na+若しくはK+等のカチオン又は非荷電配位子は、形成される金属酸化物層中に残存しない。
【0097】
本発明において使用する前駆体化合物の更なる利点は、これらが本発明の方法の工程(C)において更なる添加剤を添加することなく対応する金属酸化物に転化することであり、その理由はこれらが対応する酸化物への転化に必要な酸素を配位圏内に既に有しているからである。更なる添加剤を添加することを必要としないので、これらの添加剤の副生成物も形成される層の中に残存しない。本方法の工程(A)、(B)及び(C)は周囲環境条件下(大気酸素等)で行うことができる。
【0098】
本発明の方法の工程(C)の後、プラスチックに適する低温度の場合では、少なくとも1種の半導体金属酸化物で被覆された基材が得られ、その細孔は少なくとも一部が半導体金属酸化物で埋められている。また、工程(A)で好ましく施される粒子は、各々の粒子間の接触面積がより大きくなるように、工程(C)において互いに接合する。この働きは「溶接(welding)」又は「フィルミング」として記述され得る。工程(A)の後に粒子間に存在する接線接触点に代わって、工程(C)の後では粒子間により大きな接合部位が存在する。
【0099】
工程(C)の後に得られる被覆された基材を工程(B)及び(C)に従って1回又は1回を超える回数処理することも本発明において可能である。これにより、半導体金属酸化物の前駆体化合物をより多く細孔に導入することができる。
【0100】
そのため、本発明はまた、工程(C)において得られる被覆された基材を再度工程(B)及び(C)に従って処理する本発明の方法に関する。合計で1〜5回、より好ましくは1〜3回、最も好ましくは1又は2回の処理(それぞれ工程(B)及び工程(C)を含む)を行うことが本発明において好ましい。
【0101】
本発明はまた、少なくとも工程(A)、(B)及び(C)を含む、半導体部品、例えば薄膜トランジスタTFTを製造する方法に関する。
【0102】
本発明の金属酸化物の前駆体化合物は、少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層の細孔を少なくとも部分的に埋めるため、特に半導体金属酸化物の粒子層の間隙を少なくとも部分的に埋めるため、及び金属酸化物粒子の接合/「溶接」をより良好とするために使用する。工程(B)で処理された少なくとも1種の半導体金属酸化物の層は、TFTの半導体層を構成する。前駆体化合物の溶液は工程(B)及び(C)について記載した通りに処理することができる。
【0103】
ボトムゲート、トップゲート、トップコンタクト、ボトムコンタクト等のTFT構造に関して制限はない。誘電体は全て可能であってよく、有機、無機又は有機−無機混成材料であってよい。ゲート、ソース及びドレイン接触材料は導電材料(例えば、Al、Au、Ag、Ti/Au、Cr/Au、ITO、Si、PEDOT/PSS等)である。好適な基材はまた特に、低い分解温度を有するポリマーの軟質材料、及び他の熱的に化学変化し易い基材であるが、これらに限定されない。基材、ゲート、ソース及びドレイン接触材料及び誘電体は、あらゆる主な制限を受けず、化学的/物理的適合性、処理動作及び所望の用途に応じて選択することができる。
【0104】
本発明はまた、本発明の方法により得られる、少なくとも1種の半導体金属酸化物の層を含む基材に関する。基材、金属酸化物、前駆体化合物等に関する詳細及び好ましい実施態様は既に上述している通りである。
【0105】
本発明の製造方法によれば、特に半導体金属酸化物、特に酸化亜鉛の特定の前駆体化合物の使用によれば、工程(B)及び(C)で被覆される多孔質の半導体金属酸化物層は、被覆されていない多孔質の半導体金属酸化物層と比較して電子特性が向上している。Si(ドープ済)ゲート、SiO2誘電体、アルミニウムソース/ドレイン接触を含む、半導体層がZnOナノロッドフィルムからなるZnO−TFTの場合には、例えば1×10-3cm2/Vsの移動度が、ZnOナノロッドフィルムを工程(B)及び(C)において[Zn(NH34](OH)2で処理し、工程(C)で焼結温度150℃に処理した場合には、例えば、1×10-2cm2/Vsに改善させることができる。
【0106】
そのため、本発明は、電子部品、例えばTFTに本発明の基材を使用する方法に関し、また、CMOS回路及び他の電子回路、RFIDタグ、ディスプレイ等への適用に関する。プラスチックに適用できる温度で溶液から処理することにより、軟質で、曲げられる基材上での部品製造が可能となる。
【実施例】
【0107】
実施例1:ナノロッドの製造
21.95gの酢酸亜鉛二水和物(Honeywell)を2lの四口フラスコ内で942mlのメタノール(Fluka)に60℃において溶解させた。並行して、1lのボトル内で、9.05gの水酸化カリウム(Riedel−de−Haen)を60℃において516mlのメタノールに溶解させた。溶液両方がその特定の温度であるときに、これらを急速撹拌(425rpm)して混合し、ロータリエバポレーター(油浴温度:40℃)で200mlの体積まで直ちに濃縮した。この溶液を250mlの四口フラスコに移し、60℃及び250rpmで16時間撹拌した。次に、混合物を取り出し、1lのガラスボトルに移した。メタノールを上澄みとして吸い出し可能となるように一晩ZnOを底部に沈殿させた。この生成物をそれぞれ500mlのメタノールで4回洗浄した。各洗浄作業においては、マグネチックスターラーで40分間、ZnOを新たなメタノールと完全に混合した。最後の洗浄作業の後、メタノールを可能な限り吸い出し、ZnOを200mlのジクロロメタンで再分散させた。次に、この溶液を酸化亜鉛の含量が4質量%となるまで希釈により調整した。2.344gの酸化亜鉛を含む溶液の一部を取り出した。0.52gの3−オキソグルタル酸モノエチルを室温でマグネチックスターラーで撹拌しながら徐々に加えた。
【0108】
実施例2:前駆体化合物としての[Zn(NH34](OH)2の調製
初めに、500mlの四口フラスコに6.10gのZnO(薬剤品質、Umicore)を入れた。500mlの6.6mol/lのNH3/H2O溶液をこれに加えた。この懸濁液を室温において300rpmで一晩撹拌した。少量の懸濁した材料を有する透明な溶液が得られ、その懸濁した材量をガラスフリットで除去し、上記錯体の透明な溶液を得た。溶液の元素分析では、溶液100g当たりZn含量が1.0gであることが示された。
【0109】
実施例3:半導体ZnOナノロッド層を有するTFTにおいて間隙を埋めるため及びZnOナノロッドのより良好な接続のための実施例2で生じた溶液の前駆体化合物としての使用
SiO2誘電層(層厚:200nm)とスピンコーティングにより得られた実施例1からのZnOナノロッド層(層厚:70nm、ナノロッドの直径:〜10nm、ナノロッドの長さ:〜50nm)とを有するSiドープ済基材を、30秒間、3000回転/分でスピンコーティングにより施された実施例2からの溶液に浸した。次に、このサンプルを150℃で20分間加熱した。ソース/ドレイン接触(チャネルの幅/長さ比:20)をアルミニウムの熱蒸着により得た。
【0110】
製造されたTFTの代表的な出力曲線(OK)及び伝達曲線(TK)を図1及び2に示す。これらと比較するために、実施例2の溶液で処理をしていない対応するTFTの代表的な出力曲線(OK)及び伝達曲線(T)を図3及び4に示す(VD:ソースとドレイン間の電圧、VG:ソースとゲート間の電圧、ID:ソースとドレイン間の電流)。
【0111】
以下の平均パラメータは、[Zn(NH34](OH)2の処理をした本発明のTFTについて測定されたものである。
【0112】
移動度μ:1*10-2cm2/(V*s)
オン/オフ比:104
VT閾値電圧:30V
以下の平均パラメータは、[Zn(NH34](OH)2の処理をしていない対応するTFTについて測定されたものである。
【0113】
移動度μ:1*10-3cm2/(V*s)
オン/オフ比:104
VT閾値電圧:30V

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも1種の半導体金属酸化物を含む層を形成する方法であって、
(A)少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層を基材に施す工程、
(B)前記多孔質層の細孔の少なくとも一部が前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を含む溶液で満たされるように、工程(A)で生じた前記多孔質層を当該溶液で処理する工程、
(C)前記半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物を半導体金属酸化物に転化するために、工程(B)で得られた層を熱的に処理する工程、
を少なくとも含み、
前記工程(B)における前記少なくとも1種の半導体金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物は、対応する金属の、少なくとも3個の炭素原子を有するモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸のカルボン酸塩若しくはモノ−、ジ−若しくはポリカルボン酸の誘導体、アルコキシド、水酸化物、セミカルバジド、カルバメート、ヒドロキサメート、イソシアネート、アミジン、アミドラゾン、尿素誘導体、ヒドロキシルアミン、オキシム、オキシメート、ウレタン、アンモニア、アミン、ホスフィン、アンモニウム化合物、硝酸塩、ニトリル又はアジド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の半導体金属酸化物が酸化亜鉛ZnOである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(A)における少なくとも1種の半導体金属酸化物の多孔質層が、球状粒子及び/又は棒状粒子及び/又は板状粒子を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(C)における熱的処理を10〜200℃の温度で行う請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の半導体金属酸化物に、Al3+、In3+、Ga3+、Sn4+及びこれらの混合物からなる群から選択される金属カチオンがドープされている請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材が少なくとも1種のポリマーを含む請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(A)で生じた多孔質層の処理を、工程(B)においてスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ドロップキャスティング又は印刷で行う請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(B)で使用する溶液が、半導体金属酸化物にドープする働きをする金属カチオンを更に含む請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(B)における少なくとも1種の金属酸化物の少なくとも1種の前駆体化合物として、[(OH)x(NH3yZn]z(但し、x、y及びzは、特定される錯体が電荷を帯びないようにそれぞれ独立して0.01〜10である。)を使用する請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の方法により得られる少なくとも1種の半導体金属酸化物の層を含む基材。
【請求項11】
請求項10に記載の基材を電子部品に使用する方法。
【請求項12】
請求項1に記載の工程(A)、(B)及び(C)を少なくとも含む半導体部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−530033(P2012−530033A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515463(P2012−515463)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058391
【国際公開番号】WO2010/146053
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】