印字方法、印字装置および毛管力シート
【課題】互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる印字方法、印字装置および毛管力シートを提供することにある。
【解決手段】被印字物Pの少なくとも低い毛管力を有する領域に対し、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を前処理部1が付与し、印字ヘッド6がインクジェット法でインクを被印字物Pの各領域に向けて打滴し、被印字物Pの全体にインクが定着した後に、還元洗浄装置8が被印字物Pから毛管力層を除去する。
【解決手段】被印字物Pの少なくとも低い毛管力を有する領域に対し、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を前処理部1が付与し、印字ヘッド6がインクジェット法でインクを被印字物Pの各領域に向けて打滴し、被印字物Pの全体にインクが定着した後に、還元洗浄装置8が被印字物Pから毛管力層を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印字方法および印字装置に係り、特に、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物をインクジェット方式で印字を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
布、織物などは広く日用品に使用されており、その形態や素材も多様化している。この多様化に伴い、全体を一様に染色し難い織物が増えている。
このような織物としては、例えば、織物の地組織にポリエステルからなるファスナーを取り付けたもの、または、地組織の表面を毛羽立てた起毛織物などが存在する。ファスナーのフック、起毛部分は独立の繊維・ワイヤから構成されて凸形状を有しており、低い毛管力しか働かない。一方、地組織は、細い繊維が撚り合わさって糸が形成され、さらに織りあるいは編み物になっており、近接した繊維の働きにより高い毛管力を発現する。
これらの織物では、高い毛管力によりインクが留まり易い領域(地組織)と、この領域より低い毛管力によりインクが留まり難い領域(ファスナーのフックまたは起毛部分等の凸領域)とが隣接して配置されている。このため、低い毛管力を有する領域に打滴したインクは高い毛管力を有する領域に移動し易く、所定のインク量を低い毛管力の領域に留めて目標とする色に染色することは困難であった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、起毛織物において一様に染色し難い起毛部分の根元と先端でノズル口径を変えて異色に着色することで、その全体を目標とする色に染色することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−69631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル口径の変更やインクの調整などに多大な労力を要する。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる印字方法および印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る印字方法は、インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与し、インクジェット法でインクを被印字物の各領域に向けて打滴し、被印字物にインクの色材を定着し、定着後に被印字物から前記毛管力層を除去するものである。
【0008】
ここで、前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与された無機微粒子の凝集体あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子を含むことが好ましい。また、前記毛管力層は、被印字物への前記無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維の付着量を粘性により向上させる水溶性高分子をさらに含むことができる。また、前記毛管力層は、無機微粒子、水不溶性有機繊維あるいは有機多孔性粒子の塗布液中での分散性を向上させるための、あるいは被印字物との濡れ性を向上させるための界面活性剤、水性ポリマー等をさらに含むこともできる。
【0009】
また、被印字物に前記毛管力層を付与する前に、放電処理により被印字物の濡れ性を向上させてもよい。
また、前記毛管力層の被印字物への付与は、前記無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維を分散させた前処理液にディップ法により被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域を浸けて行うことができる。あるいは前処理液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に定量供給するディスペンサーにより供給することも可能である。
【0010】
また、前記被印字物は、低い毛管力を有する領域を高い毛管力を有する地組織に取り付けて構成されるものであって、低い毛管力を有する領域に前記毛管力層を付与した後、低い毛管力を有する領域が前記地組織に取り付けられ、一体とされた被印字物の各領域にインクジェット法でインクが供給されてもよい。
インクの印字後、加熱定着処理が行われる。定着処理ではインク中の色材が加熱により被印字物に強固に付着する。色材が分散染料の場合は色材分子が非印字物の繊維あるいは樹脂内に移動することにより行われる。色材が酸性染料、反応性染料の場合は加熱時に水蒸気を加え繊維・樹脂表面と化学反応させることで行われる。
被印字物からの前記毛管力層の除去は、定着処理終了後、インクが定着した被印字物をアルカリ洗浄することにより行うことができる。
【0011】
また、前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなるものであってもよい。また、前記シートの被印字物への貼り付けは、水溶性高分子が溶解されて粘性を有する付着溶液を介して行うことができる。また、前記シートは、被印字物にインクを定着させる加熱処理時に気化等による色材の移動距離の範囲内に被印字物の表面が位置するように配置することができる。また、被印字物からの前記毛管力層の除去は、被印字物から前記シートをはぎ取ることにより行われてもよい。
【0012】
また、前記毛管力層は、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を少なくとも被印字物の低い毛管力を有する領域に予め供給しておき、前記被凝集体と高い毛管力を付与するための無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子とを含む毛管力付与液を供給し、前記被凝集体と前記凝集剤の凝集反応により前記毛管力付与液をゲル化することで、低い毛管力を有する領域に付与することができる。
【0013】
また、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された液滴が低い毛管力を有する領域上に留まるよう、大きさ及び量を調整して供給されることが好ましい。また、前記凝集剤は、気中分散微粒子として供給することができる。
また、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給される前記毛管力付与液及び前記凝集剤を短い時間間隔で供給することで、前期毛管力付与液あるいは凝集剤が高い毛管力を有する領域に移動してしまう前にゲル化させることが出来る。また、前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することができる。また、前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給してもよい。
【0014】
また、前記毛管力付与液は、無機微粒子、水不溶性有機繊維あるいは有機多孔性粒子を分散安定化させるための界面活性剤、アクリル系あるいはポリエステル系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギンサン等の水性ポリマー溶液を含むことが好ましい。また凝集反応を加速するため溶解性水性ポリマー等を添加しても良い。
また、毛管力付与液は、前記被凝集体として水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集して粘度が上昇されることが好ましい。また、前記凝集体としてアニオン性界面活性剤を用いると共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことができる。また、前記被凝集体として有機カチオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体として有機アニオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。
また、前記凝集剤を供給する前に、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することで毛管力層の付与が望ましくない領域で凝集反応が起こらないようにすることが出来る。失活剤としては凝集反応が起こりにくいPh領域にシフトさせる、酸、アルカリ等が使用できる。たとえば凝集剤として有機酸を用い酸性領域で凝集を起こさせるアニオン性活性剤を主成分とする被凝集分散液の場合、アルカリ剤が失活剤として使用できる。
【0015】
また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることができる。また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維の直径より大きなサイズのポリエステル構造物からなることもできる。
【0016】
また、本発明に係る印字装置は、インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与する毛管力層付与装置と、インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴するインク供給装置と、被印字物にインクを定着させる定着装置と、被印字物から前記毛管力層を除去する除去装置とを有するものである。
【0017】
ここで、前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する微粒子の凝集体あるいは水不溶性有機繊維を含んでもよい。また、前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなるものであってもよい。
【0018】
また、前記毛管力層付与装置は、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、前記被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する微粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する毛管力付与液供給装置と、前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応によりゲル化した前記毛管力付与液を乾燥する乾燥装置とを含むことができる。
【0019】
また、前記毛管力付与装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することが好ましい。
また、前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーあるいは塗布装置により被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することができる。また、前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサー、塗布装置により被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給することもできる。
【0020】
また、本発明に係る毛管力シートは、インクジェット法で打滴されたインクを高い毛管力によって保持して留めるインク受容空隙を有し、インクが留まり難い領域を含む被印字物の印字面に貼り付けられ、前記インク受容空隙で保持されたインクが加熱処理により気化されることで被印字物にインクを定着させた後に剥離されるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)〜(D)は、実施形態1において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図3】(A)〜(D)は、実施形態1の変形例において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図4】(A)および(B)は、実施形態1で用いられた他の被印字物を模式的に示す図である。
【図5】実施形態2に係る印字装置で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】(A)および(B)は、図5に示した前処理部により毛管力層が付与された被印字物を示す図である。
【図7】実施形態2で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図8】実施形態2の変形例において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図9】実施形態2の変形例で用いられた加熱装置を模式的に示す図である。
【図10】実施形態3で用いられた塗布液が塗布された被印字物を示す図である。
【図11】実施形態6で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図12】実施形態4で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図13】実施形態4の変形例で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図14】実施形態5で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図15】実施形態5で用いられた毛管力付与液供給装置のノズルの構成を示す斜視図である。
【図16】実施形態5の変形例で用いられた毛管力付与液供給装置のノズルの構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0024】
実施形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示す。印字装置は、被印字物Pの前処理を行う前処理部1と被印字物Pに印字を行う印字部2とを有する。
ここで、被印字物Pは、例えば、細い繊維が撚り合わさり、さらに織り物となった高い毛管力を有してインクが留まり易いポリエステル繊維質の地組織と、この地組織より太い独立のワイヤから構成され、低い毛管力を有して地組織よりもインクが留まり難いポリエステルからなるファスナーフックとから構成されるものとする。なお、毛管力とは、被印字物Pの各領域におけるインクを留める能力を示すものとし、高い毛管力を有する領域は、相対的に低い毛管力を有する周辺の領域から毛管力によりインクを集めることができ、低い毛管力を有する領域は、相対的に毛管力の強い周辺の領域からの引力でインクを保持することができない。
【0025】
前処理部1は、被印字物Pの濡れ性を改善させるプラズマ照射器3と、被印字物Pに毛管力層を付与する塗布装置4と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置5とを有する。
プラズマ照射器3は、図示しない一対の電極を有し、電極の間でプラズマを発生させる。発生したプラズマは、一定の方向に移動する被印字物Pのファスナーフックに順次照射され、ファスナーフックの表面を親水化処理する。
塗布装置4は、被印字物Pの移動方向に対してプラズマ照射器3の下流側に配置され、インク受容空隙を有する粒子として無機微粒子、水不溶性有機繊維、あるいは有機多孔性粒子を所定の濃度で水を主体とするインク中に分散させた塗布液を被印字物Pの表面に薄層状に塗布する。塗布液に含まれるインク受容空隙を有する粒子は毛管力を発生させるものであり、塗布液は地組織の有する毛管力とほぼ同等の毛管力を発生させるようにインク受容空隙を有する粒子の濃度を調整したものである。例えば、地組織やインク受容空隙を有する粒子のように物質間(繊維間や粒子の凝集体間)でインクを保持する際の毛管力は、次式(1)で示される。
p=aγcosθ/r ・・・(1)
なお、pは単位面積あたりの毛管力(圧力)、aは比例定数、γはインク液体の表面張力、θはインクと対象物質の間の濡れ性を示す接触角、rはインクを保持する物質間の距離である。
【0026】
このように、毛管力pはインクを保持する物質間の距離r(空隙のサイズ)に大きく依存するため、地組織の繊維間の距離とインク受容空隙を有する粒子の凝集体間の距離とがほぼ同等になるように塗布液を調整することで両者の毛管力をほぼ同等とすることができる。また、インクの色素が加熱処理時に目的とする被印字物への染色の効率を高めるため、インク受容空隙を有する粒子は、被印字物Pの加熱処理時にインクの色素で染色されず且つ融解・変形・反応しないものが好ましく、例えば、数nmから数十nmの粒子径を有するアルミナ、シリカ、酸化チタン等の無機微粒子、あるいはパルプ、セルロース等の水不溶性有機繊維が使用できる。
【0027】
塗布装置4は、塗布液をローラ塗布、ディップ塗布等の方法でファスナーフックに供給することが出来る。あるいはフック表面で塗布液が流れずに留まるように液の粘度を高め、ディスペンサーにより必要領域に付与することも可能である。
乾燥装置5は、被印字物Pの移動方向に対して塗布装置4の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥させる。これにより、被印字物Pの表面が乾燥され、被印字物Pの表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。毛管力層は、塗布液におけるインク受容空隙を有する粒子の濃度調節により、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有する。
【0028】
被印字物Pの移動方向に対して乾燥装置5の下流側には、印字部2が配置されている。印字部2には、被印字物Pの移動方向に向かって、印字ヘッド6と、加熱装置7と、還元洗浄装置8と、乾燥装置9が順次配置されている。
印字ヘッド6は、毛管力層が付与された被印字物Pにインクジェット法によりインクを打滴するものである。最終発色目標に応じ複数の色材を印字できる印字ヘッドを配置することが出来る。加熱装置7は、インクが打滴された被印字物Pを加熱処理してインクの色素を被印字物Pに染色するものである。還元洗浄装置8は、染色された被印字物Pを洗浄するものである。この時、被印字物Pに付与された毛管力層も除去される。乾燥装置9は、洗浄された被印字物Pを乾燥して仕上げるためのものである。
【0029】
次に、図1に示した印字装置の動作を説明する。
まず、図1に示されるように、被印字物Pが、図示しない移動装置により一定方向に移動される。被印字物Pには、例えば図2(A)に示されるような、高い毛管力を有する地組織10に低い毛管力を有するファスナーフック11を取り付けたものが用いられる。このように、被印字物Pは、地組織10とファスナーフック11が隣接して存在するため、そのままの状態でファスナーフック11にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織10に移動し、ファスナーフック11を所定のインク量で染色させることが困難なものである。
被印字物Pが移動されて前処理部1に設置されたプラズマ照射器3に到達すると、プラズマ照射器3は被印字物Pのファスナーフック11に対してプラズマを順次照射することで、その濡れ性を向上させる。
【0030】
プラズマ処理された被印字物Pがプラズマ照射器3から塗布装置4に到達すると、塗布装置4から例えば無機微粒子を所定の濃度で分散させた塗布液が被印字物Pの表面に薄層状に塗布される。この時、プラズマ処理によりファスナーフック11の濡れ性が向上しているため、その表面に塗布液が均一に留まることができる。続いて、被印字物Pは乾燥装置5で乾燥され、図2(B)に示すように、被印字物Pの表面に無機微粒子が薄層状に広がる毛管力層12が形成される。
毛管力層12が形成された被印字物Pには、図2(C)に示すように、印字ヘッド6からインクが打滴される。地組織10に向かって打滴されたインクは、ファスナーフックに捕獲されずに直接あるいは、毛管力層12を介して地組織10に供給される。地組織に印字されたインクは地組織の浸透性により裏面まで浸透される。
また、ファスナーフック11に向かって打滴されたインクは、無機微粒子の凝集体が地組織10の毛管力とほぼ同等の毛管力を有するため、地組織10に移動することなく保持される。
【0031】
このように、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pにおいて、低い毛管力を有する領域に打滴されたインクを毛管力層12が領域内に留めることにより、その領域を染色するインクの減少を抑制することができる。また、毛管力層12は無機微粒子の凝集体から構成され、あらかじめ微細な空隙が存在し、この空隙にインクを保持する。
インク液に溶解、あるいは膨潤することでインク保持力を発揮するポリビニルアルコール、アルギン酸、等の水溶性高分子の皮膜から構成されるインク保持剤に比べて短時間にインクを保持することができ、インク保持力が発揮される前にインクがファスナーフック11から地組織10に移動するのを抑制することができる。
【0032】
被印字物Pは毛管力層12にインクが保持された状態で加熱装置7により加熱処理され、インクの色素が地組織10およびファスナーフック11に染色される。インクが加熱定着された被印字物Pは還元洗浄装置8により洗浄されると共にその表面に形成されている毛管力層12も除去され、乾燥装置9により乾燥されて、図2(D)に示すように、被印字物Pの染色が仕上げられる。
例えば、ファスナーフック11がポリエステルからなる場合には、加熱装置7により180〜200℃で色素が被印字物Pに加熱定着された後、還元洗浄装置8により被印字物Pを加熱アルカリ水で洗浄し、乾燥装置9で被印字物Pを乾燥させて仕上げることができる。
【0033】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pに対し毛管力層12を付与するだけで目標とする色に染色することができるため、容易に被印字物Pの染色を行うことができる。
【0034】
なお、毛管力層12は、被印字物Pのファスナーフック11にのみ形成してもよい。例えば、塗布装置4により被印字物Pのファスナーフック11にのみ塗布液を薄層状に塗布して毛管力層12を形成することができる。
また、地組織10にファスナーフック11を取り付ける前に、図3(A)に示すように、ファスナーフック11にのみ塗布液を薄層状に塗布して毛管力層12を形成し、図3(B)に示すように、毛管力層12が形成されたファスナーフック11を地組織10に取り付けてもよい。その後、図3(C)に示すように、印字ヘッド6から地組織10およびファスナーフック11にインクが打滴され、図3(D)に示すように、加熱定着処理および洗浄処理されることで被印字物Pを染色して仕上げることができる。
【0035】
また、塗布液は、粘性を高める水溶性高分子を含んでもよい。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性アクリル、水性ポリエステルなどが使用できる。このように、塗布液の粘性を高めることにより、被印字物Pの低い毛管力を有する領域へのインク受容空隙を有する粒子の付着量を向上させることができると共に低い毛管力を有する領域におけるインク受容空隙を有する粒子の付着量調整を容易に行うことができる。
また、塗布液は、被印字物Pの濡れ性を向上させる処理剤を含んでもよい。処理剤としては、アルコール類や界面活性剤などが使用できる。これにより、塗布液が被印字物Pの低い毛管力を有する領域においても留まり易くなり、低い毛管力を有する領域へのインク受容空隙を有する粒子の付着量を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態において、プラズマ照射器3により被印字物Pのファスナーフック11をプラズマ処理することでその濡れ性を向上させているが、例えば、コロナ処理等他のドライ放電処理により被印字物Pの濡れ性を向上させてもよい。また、塗布液の調整により濡れ性改善処理することを省略することも出来る。
【0037】
また、被印字物Pとして、図4(A)および(B)に示すような、高い毛管力を有する地組織13に低い毛管力を有するスナップ14を取り付けたものを用いてもよい。地組織13とスナップ14が隣接して存在するため、そのままの状態でスナップ14にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織13に移動し、スナップ14を所定のインク量で染色することが困難な被印字物Pに対しても、本実施形態の印字装置により容易に目標とする色に染色することができる。この場合ディスペンサーによりスナップ部のみに塗布液を供給しても良い。
【0038】
実施形態2
図5に実施形態2に係る印字装置で用いられる前処理部21の構成を示す。この前処理部21は、毛管力層として糸、布、不織布、紙などの繊維束で構成されるインク受容空隙を有する毛管力シート22を被印字物Pに貼り付けるもので、実施形態1における前処理部1の代わりに用いられる。前処理部21は、被印字物Pに毛管力シート22を供給する供給ローラ23と、被印字物Pに毛管力シート22を貼り付けるウエットスポンジローラ24と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置25とを有する。ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する繊維質の地組織とポリエステル樹脂から構成される凸形状で低い毛管力を有するスナップとから構成されるものとする。
【0039】
供給ローラ23には、毛管力シート22が巻き付けられており、被印字物Pの移動に合わせて毛管力シート22を送り出すことで被印字物Pに毛管力シート22が供給される。毛管力シート22としては、被印字物Pの表面において地組織の毛管力とほぼ同等の毛管力を発生させるようなインク受容空隙を有するもの、例えば、地組織の繊維間隔とほぼ同等の繊維間隔を有するものが使用できる。また、毛管力シート22は、被印字物Pの加熱処理時にインクの色素で染色されないものが好ましく、例えば、セルロース系の繊維が織られた布、不織布、または薄紙等が使用できる。ウエットスポンジローラ24は、被印字物Pの移動方向に対して供給ローラ23の下流側に配置され、供給ローラ23から供給された毛管力シート22を粘着性溶液で湿らせつつ被印字物Pに押しつけることで、被印字物Pの表面に毛管力シート22を貼り付ける。粘着性溶液としては、例えば、PVA、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性ポリエステルなどの水溶性高分子を溶解させて粘性を有した溶液が使用できる。乾燥装置25は、被印字物Pの移動方向に対してウエットスポンジローラ24の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥させる。これにより、被印字物Pの表面には、図6(A)および(B)に示すように、乾燥した毛管力シート22が付着して毛管力層が形成される。
なお、被印字物Pへの毛管力シート22の貼り付けは、別の剥離性のフィルム状支持体に毛管力シート22を設けたものを用い、スポンジローラで貼り付ける際にフィルム状支持体から毛管力シート22が剥がれて被印字物上に残るようにしてもよい。
【0040】
なお、毛管力シート22は、加熱処理により毛管力シート22から気化したインクの染料が移動する距離の範囲内に被印字物Pの表面が位置するように配置される。毛管力シート22の配置位置は、例えば、被印字物Pから数mm、好ましくは0.5mmの範囲内に設定することができる。なお、被印字物Pに対する毛管力シート22の配置位置を気化したインクの移動距離範囲内にすることができれば、粘着性溶液は粘性のない水などの溶液を用いてもよい。
【0041】
また、図7に本実施形態に係る印字装置で用いられる印字部26を示す。この印字部26は、図1に示した実施形態1の印字部2において、被印字物Pの進行方向に対し乾燥装置9の下流側に、毛管力シート22を被印字物Pからはぎ取るためのはぎ取り装置27を新たに配置したものである。
【0042】
まず、図5に示されるように、一定方向に移動する被印字物Pに合わせて供給ローラ23から送り出される毛管力シート22が、被印字物Pの表面に順次供給される。被印字物Pに供給された毛管力シート22は、ウエットスポンジローラ24により粘着性溶液で湿らせつつ被印字物Pに押しつけられ、粘着性溶液を介して被印字物Pの表面に沿って貼り付けられる。続いて、被印字物Pは、乾燥装置25により乾燥され、図6(A)および(B)に示すように、地組織13およびスナップ14から構成された被印字物Pの表面に沿って付着する毛管力シート22からなる毛管力層が形成される。
【0043】
毛管力シート22が付着された被印字物Pには、実施形態1と同様にして、印字部26の印字ヘッド6からインクが打滴される。この時、毛管力シート22は地組織13の毛管力とほぼ同等の毛管力を有するため、スナップ14に向かって打滴されたインクは、地組織13に移動することなく、スナップ14の表面上に位置する毛管力シート22の繊維間で保持される。
続いて、被印字物Pは、毛管力シート22にインクが保持された状態で加熱装置7により加熱処理される。この加熱処理により毛管力シート22に保持されたインクが気化されて移動し、この移動距離範囲内に配置された被印字物Pの地組織13およびスナップ14に定着する。このようにして、染色された被印字物Pは、還元洗浄装置8により洗浄された後、乾燥装置9により乾燥される。乾燥された被印字物Pは、図7に示すように、はぎ取り装置27により表面上に付着している毛管力シート22が除去され、被印字物Pの染色が仕上げられる。
【0044】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pに対し毛管力シート22からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に染色することができるため、容易に被印字物Pの染色を行うことができる。
【0045】
なお、還元洗浄装置8の洗浄処理において、毛管力シート22が溶解などにより被印字物Pの表面から除去される場合には、印字部26にはぎ取り装置27を設けなくてもよい。
また、本実施形態において、毛管力シート22は、繊維間でインクを保持するものが用いられているが、地組織とほぼ同等の毛管力を有してインクを保持できればよく、例えばフィルムまたは布などにインク受容空隙を有する粒子(無機微粒子など)を多数凝集させて設けたものを用いてもよい。
【0046】
また、被印字物Pとしては、図8に示すように、高い毛管力を有する地組織28と低い毛管力を有する起毛組織29からなる起毛織物を用いてもよい。
被印字物Pには、前処理部21により起毛組織29の先端に毛管力シート22が付着される。毛管力シート22が付着された被印字物Pは、印字部26の印字ヘッド6からインクが打滴される。なお、被印字物Pの地組織28側に新たな印字ヘッド36を設け、毛管力シート22を介さずに、印字ヘッド36から地組織28に直接インクを打滴してもよい。インクが打滴された被印字物Pは、加熱装置7で加熱処理される。加熱装置7としては、例えば図9に示すように、熱ロール30を毛管力シート22に接触させて加熱するものを用いることで、毛管力シート22と起毛組織29の距離を一定に保って色素が被印字物Pに加熱定着する位置を安定させると共に、インクが定着し難い起毛組織29の先端側から色素を加熱定着させる。加熱処理された被印字物Pは、還元洗浄装置8、乾燥装置9、およびはぎ取り装置27を介して仕上げられる。
なお、加熱処理の温度を高温にするほど気化したインクの移動距離は長くなり色素の定着する距離が起毛組織29の先端部分から根元部分に向かって伸びるため、被印字物Pに加熱定着される色素の位置は、加熱処理の温度と印字されるインク量によって制御することができる。また、印字ヘッド6および36により被印字物Pの両面側からインクを打滴した場合は、毛管力層側からの印字量と、地組織側からの印字量および加熱条件を制御することで起毛組織29の地組織近傍と先端との発色程度あるいは色を異なるようにすることも可能である。
このように、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についても毛管力シート22からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0047】
実施形態3
上述した実施形態1で使用される被印字物Pとして、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織からなる起毛織物を用いてもよい。この場合、例えば、塗布装置4が押圧用のローラ等を内蔵し、図10に示されるように、塗布装置4から、インク受容空隙を有する粒子(無機微粒子など)に加え、粘性を高めるための水溶性高分子を含む塗布液31を被印字物Pの起毛組織29に塗布すると同時にローラ等により起毛組織29を押圧して地組織28とほぼ平行になるように寝かせた状態に固定することが好ましい。
すなわち、被印字物Pには、インク受容空隙を有する粒子を含み且つ高い粘性を有する塗布液31が塗布装置4から塗布されると共に塗布装置4のローラ等により押圧されて起毛組織29が横に倒される。なお、塗布前に起毛組織の濡れ性を改善するため、プラズマ処理等をあらかじめ行うことも可能である。この押圧と塗布液31の高い粘性により、被印字物Pの起毛組織29は地組織28に対して横に寝た状態で固定される。続いて、被印字物Pは乾燥装置5により乾燥され、起毛組織29が寝た状態で地組織28に固定された被印字物Pの表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。このようにして、被印字物Pの起毛組織全体に毛管力層を付与することができる。なお、水溶性高分子としては、例えば、PVA、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性ポリエステルなどが用いられる。
【0048】
毛管力層が付与された被印字物Pには、印字部2の印字ヘッド6からインクが打滴される。打滴されたインクは、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有するインク受容空隙を有する粒子の凝集体により起毛組織の表面で保持される。被印字物Pは、実施形態1と同様にして、毛管力層にインクが保持された状態で加熱処理され、洗浄および乾燥されて染色が仕上げられる。
【0049】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についてもインク受容空隙を有する粒子からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0050】
実施形態4
図12に実施形態4に係る印字装置で用いられる前処理部61の構成を示す。この前処理部61は、被印字物Pへの毛管力層の付与効率を向上させるためのもので、実施形態1における前処理部1の代わりに用いられる。前処理部61は、被印字物Pに失活剤を供給する失活剤供給装置62と、被印字物Pに凝集剤を供給する凝集剤供給装置63と、被印字物Pに毛管力付与液を供給する毛管力付与液供給装置64と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置65とを有する。
【0051】
ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織とから構成されるものとする。また、毛管力付与液とは凝集によりゲル化するアクリル系またはポリエステル系等の水性ポリマー、高分子活性剤からなる被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する粒子(無機微粒子、水不溶性有機繊維、または有機多孔性粒子)とからなるものであり、凝集剤とは毛管力付与液に含まれる被凝集体の凝集反応を促進させるものであり、失活剤とは凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を抑制するものである。
【0052】
失活剤供給装置62は、被印字物Pの起毛織物がない裏面側に配置され、例えばインクジェット法により被印字物Pの地組織に失活剤を供給する。
凝集剤供給装置63は、被印字物Pの進行方向に対し失活剤供給装置62の下流側で且つ被印字物Pの起毛織物がある表面側に配置され、被印字物Pの表面側に凝集剤を供給する。凝集剤供給装置63により供給される凝集剤は、起毛織物の表面においてそれぞれの液滴が集合して被印字物Pの地組織に移動しないように、大きさ及び量が調整されている。例えば、起毛織物に供給する凝集剤の大きさを下記式(2)で示される毛管力長よりも小さくすることで、起毛織物の表面において凝集剤の液滴が移動せずに安定に留まるよう調整することができる。
1/κ=(γ/ρ・g)1/2 ・・・(2)
なお、1/κは毛管力長、γは表面張力、ρは比重、gは重力加速度を示す。
凝集剤供給装置63には、例えば、凝集剤を数ミクロン〜百ミクロンほどのミスト状(気中分散粒子)にして供給する超音波霧化器またはエアースプレー等が利用できる。
【0053】
毛管力付与液供給装置64は、被印字物Pの進行方向に対し凝集剤供給装置63の下流側で且つ被印字物Pの表面側に配置され、所定の濃度で拡散させた無機微粒子等のインク受容空隙を有する粒子を含む毛管力付与液を被印字物Pに供給する。毛管力付与液供給装置64としては、例えば、インクジェットまたはディスペンサー、塗布器などが利用できる。起毛織物に供給された毛管力付与液は、被凝集体と凝集剤が凝集反応することでゲル化して起毛織物の表面に留められる。なお、毛管力付与液と凝集剤が地組織に移動した場合は、地組織に供給されている失活剤が両者の反応を未然に回避し、地組織における毛管力付与液のゲル化を生じさせない。
乾燥装置65は、被印字物Pの進行方向に対し毛管力付与液供給装置64の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥する。これより、起毛織物の表面に留まるゲル状の毛管力付与液のうち分散媒成分が揮発され、毛管力付与液に含まれるインク受容空隙を有する粒子が起毛織物の表面に薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0054】
まず、図12に示されるように、失活剤供給装置62により被印字物Pの裏面側から失活剤が地組織に供給される。供給された失活剤は、地組織の表面側まで浸透する。次に、被印字物Pの表側から凝集剤供給装置63によりミスト状(気中分散粒子)の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置63は凝集剤の粒子サイズ及び量を調整して供給するため、起毛織物に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が集合して被印字物Pの地組織に移動しない所定の間隔で位置する。
続いて、毛管力付与液供給装置64が、所定濃度のインク受容空隙を有する粒子と被凝集体とを含む毛管力付与液を被印字物Pの表側から供給する。毛管力付与液が供給されると、毛管力付与液に含まれる被凝集体が起毛織物の表面上に存在する凝集剤と凝集反応することによりゲル化する。このようにゲル状となることで、毛管力付与液が起毛織物に付着され、毛管力付与液に含まれるインク受容空隙を有する粒子が起毛織物の表面に留められる。なお、毛管力付与液と凝集剤が地組織に移動した場合は、失活剤供給装置62から地組織に供給された失活剤が両者の凝集反応を未然に回避するため、地組織に毛管力付与液がゲル化して留まることはない。
起毛織物にゲル状態で留められた毛管力付与液は、乾燥装置65により乾燥される。これにより、ゲル状の毛管力付与液のうち分散媒成分が揮発され、起毛織物の表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。このようにして形成された毛管力層は、毛管力付与液の濃度調節により、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有している。
【0055】
このように、毛管力付与液をゲル状にすることにより所定量のインク受容空隙を有する粒子を起毛織物に留めることで、起毛織物に供給されたインク受容空隙を有する粒子が地組織に移動することなく、所定量の毛管力層を起毛織物の表面に形成することができる。
【0056】
起毛織物に毛管力層が形成された被印字物Pは、実施形態1と同様にして、印字部2により印字される。
【0057】
本実施形態の印字装置によれば、毛管力付与液をゲル状にすることでインク受容空隙を有する粒子を被印字物の低い毛管力を有する領域に留めるため、被印字物の低い毛管力を有する領域に十分な厚みの毛管力層を形成してインクを留めることができる。
【0058】
なお、凝集剤供給装置63および毛管力付与液供給装置64が凝集剤および毛管力付与液を被印字物Pの表側から供給する際に、それらが被印字物Pの低い毛管力を有する領域に供給されると共に高い毛管力を有する地組織にも直接供給されてよい。例えば、図13に示すように、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有するスナップとから構成される被印字物Pを用い、その表側から凝集剤および毛管力付与液が供給される。毛管力付与液と凝集剤はスナップと地組織にそれぞれ直接供給されるが、スナップでは毛管力付与液に含まれる被凝集体と凝集剤とが凝集反応するのに対し、地組織では失活剤供給装置62から地組織に供給された失活剤が凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を未然に回避する。これにより、スナップの表面のみにおいて、毛管力付与液をゲル化して留めることができる。
【0059】
また、被印字物Pの地組織において被凝集体と凝集剤とを凝集反応させてゲル化した毛管力付与液を留めてもその後の印字処理に影響しなければ、失活剤供給装置62により被印字物Pの地組織に失活剤を供給しなくてもよい。被印字物Pの表側から凝集剤と毛管力付与液が供給され、ゲル状となった毛管力付与液がスナップと地組織に留められる。その後、乾燥装置65で乾燥され、被印字物Pの表面全体にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0060】
また、失活剤供給装置62は、被印字物Pの裏面側で且つ凝集剤供給装置63と毛管力付与液供給装置64の間に配置してもよい。失活剤は、被印字物Pに凝集剤が供給された後で地組織に供給され、地組織に供給された凝集剤を失活させる。
また、失活剤供給装置62は、供給した失活剤により地組織に供給された凝集剤を失活させることができれば被印字物Pの表面側に配置することができる。
【0061】
実施形態5
図14に実施形態5に係る印字装置で用いられる前処理部71の構成を示す。この前処理部71は、被印字物Pの低い毛管力を有する領域にのみ毛管力付与液を供給するためのもので、実施形態4の前処理部61において、失活剤供給装置62を除くと共に毛管力付与液供給装置64の代わりに毛管力付与液供給装置72を用いたものである。ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有するスナップとから構成されるものとする。
毛管力付与液供給装置72は、被印字物Pのスナップの上面にのみ毛管力付与液を供給するような、例えばノズル73を介して毛管力付与液を供給するディスペンサーから構成されている。ノズル73は、図15に示すように、先端部に微細な孔74が形成されており、孔74を介して被印字物Pのスナップの上面に一定量の毛管力付与液が供給される。スナップの上面に供給された毛管力付与液は、凝集剤と凝集反応してゲル化し、スナップの上面に留められる。一方、被印字物Pの地組織には毛管力付与液が供給されないため、地組織において毛管力付与液のゲル化は生じない。被印字物Pは乾燥装置65により乾燥され、スナップに留められたゲル状の毛管力付与液の分散媒成分が揮発してスナップの上面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0062】
本実施形態によれば、失活剤を使用せずに被印字物Pの低い毛管力を有する領域に十分な厚みの毛管力層を形成してインクを留めることができる。
【0063】
なお、毛管力付与液供給装置72は、図16に示すような、ノズル75を介して毛管力付与液を被印字物Pのスナップに供給してもよい。ノズル75は、その先端部に被印字物Pのスナップの形状に応じた凹部76を有し、上下に移動することで各スナップを凹部76で覆っていく。凹部76を構成する側面には孔77が形成されており、孔77を介してスナップの上面および側面に一定量の毛管力付与液が共有される。このようにして、スナップ全体に供給された毛管力付与液は、凝集剤と凝集反応してゲル化し、スナップ全体に留められる。これにより、被印字物Pのスナップ全体にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層を形成することができる。
【0064】
また、実施形態4および5における被凝集体は、インク受容空隙を有する粒子(無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子)を分散安定化させるための界面活性剤、アクリル系あるいはポリエステル系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギン酸等の水性ポリマー溶液を含むことが好ましい。また、凝集反応を加速させるための水性ポリマー等を添加しても良い。
また、実施形態4および5における凝集反応には、被凝集体が分散された分散液(被凝集分散液)としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に凝集剤として有機酸を用いることで凝集反応を行うことができる。アニオン性界面活性剤は、中性あるいはアルカリ性に調整された状態で分散しているが、凝集剤として有機酸が加えられて酸性となるとその解離度が低くなって凝集する。これに伴い、凝集剤に含まれる水性ポリマーが凝集してゲル化される。なお、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが利用でき、有機酸としてはマロン酸、クエン酸、酢酸などが利用できる。また、失活剤としては有機酸による酸性化を抑制する炭酸ソーダ、炭酸水素ソーダ、または苛性ソーダなどのようなアルカリ剤が利用できる。
【0065】
また、凝集反応には、安定化したアニオン界面活性剤からなる被凝集分散液と有機カチオン性高分子からなる凝集剤による反応、または、安定化したカチオン界面活性剤からなる被凝集分散液と有機アニオン性高分子からなる凝集剤による反応が利用できる。例えば、アニオン界面活性剤は、マイナスに帯電して分散しているが、凝集剤として有機カチオン性高分子が加えられると電荷を中和し、凝集してゲル化される。ここで、凝集剤として用いられるカチオン界面活性剤には、アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。一方、被凝集体として用いられる安定化したアニオン界面活性剤は、ポリアクリルアミドの部分加水分解したものまたはアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合したものなどが利用できる。
【0066】
また、凝集反応には、特許0879782号に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体とで処理する方法、特許0946869号に記載されたようなアルカリ性物質の存在下でフェノール類とアルデヒド類との初期縮合物と無機被凝集体とを併用する方法、特許1125326号に記載されたようなフェノール性水酸基を有する有機物質と無機又は有機被凝集体とを併用する方法、特開昭57−019084号公報に記載されたようなタンニンおよびタンニン酸にて処理する方法、特開昭60−238193号公報に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体およびカチオン性高分子被凝集体とで処理する方法が利用できる。これに伴い、凝集剤に含まれるアクリル樹脂またはポリエステル樹脂が凝集してゲル化される。
また、凝集反応には凝析を利用してもよい。被凝集分散液において電気的に同じ符号を帯びて互いに反発することで拡散する疎水コロイドまたは親水コロイドに対し、これらのコロイド粒子と反対の符号を帯びた中和剤(電解質またはアルコールなど)からなる凝集剤を加えることで電気的中性となり、コロイド粒子間の反発が消滅することで凝集する。これに伴い、コロイド粒子が凝集してゲル化される。なお、疎水コロイドおよび親水コロイドとしては、アルミニウム塩(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム)や鉄塩(ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄)が用いられる。
【0067】
また、凝集反応には、架橋性ポリマー(モノマー、オリゴマー)を含む被凝集分散液と架橋開始剤からなる凝集剤による架橋反応を利用して毛管力塗布液の粘度を上昇させてもよい。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂溶液とホウ酸による架橋反応、末端に水酸基を持つポリオールと末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールを混合することで化学反応を起こすウレタン樹脂系の反応、またはエポキシ樹脂プレポリマーにアミンなどの硬化剤による反応を起こすエポキシ樹脂系の反応等が利用できる。
【0068】
実施形態6
図11に示されるように、実施形態1〜5に係る印字装置で用いられた印字部は、入力データに基づいて被印字物Pの各領域を印字すると共に被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正し目的の発色を実現するような構成にすることができる。
【0069】
本実施形態の印字部41は、供給条件演算部42と、印字特性データベース(DB)43と、制御部44と、印字駆動部45と、印字ヘッド46〜48とを有する。
供給条件演算部42には、互いに異なる発色特性を有する複数の領域(例えば、地組織の領域および起毛組織の領域)からなる被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報が入力データとしてオペレータにより入力される。被印字物Pの情報としては、被印字物の領域ごとに素材・厚み、毛管力層付与の有無、毛管力層の種類・厚み等の情報が含まれる。再現目標色の情報には、被印字物Pの各領域における再現目標色の色度などに関する情報が含まれる。
供給条件演算部42は、印字特性DB43と接続されている。供給条件演算部42は、被印字物Pの情報および再現目標色の情報に基づいて印字特性DB43を検索し、被印字物Pの領域ごとに再現目標色に最も近い発色を示す印字ヘッド46〜48のインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを抽出する。ここで、インクおよび浸透液の供給パラメータとしては、印字ヘッド46〜48に出力する電圧、周波数、波形などが含まれる。印字特性DB43には、領域ごとに各色のインクの印字量と発色処理完了後の発色特性の関係が含まれる。このとき毛管力層の付与の有無、あるいは毛管力層の塗布量等に応じた発色特性の関係が含まれる。
ここで、「浸透液」は、印字後のインクを適切に被印字物内に浸透させるための浸透を促進するための液でありインクを構成する分散媒であることが好ましい。「浸透液」の印字により少量印字時にもインクが被印字物の裏面、毛管力層内部にまで到達することが可能となる。
【0070】
供給条件演算部42は、制御部44と接続されている。制御部44は、供給条件演算部42で抽出された領域ごとに必要なインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを示す電気信号を印字駆動部45に入力することで、被印字物Pへの印字を制御する。
制御部44は、印字駆動部45と接続されている。印字駆動部45は、制御部44から入力された電気信号に応じて印字ヘッド46〜48及び前処理部の凝集剤供給装置あるいは毛管力付与液供給装置が制御可能な場合は前処理部をそれぞれ駆動する。
印字駆動部45は、印字ヘッド46〜48と接続されている。印字ヘッド46〜48は、いわゆるインクジェット方式の印字ヘッドであり、4種類のインクY,M,C,Kまたは浸透液を打滴する。印字ヘッド46は被印字物Pの表側から、印字ヘッド47は被印字物Pの裏側からそれぞれインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド48は、被印字物Pの表側から浸透液を打滴するものである。
【0071】
被印字物Pの移動方向に対し、印字ヘッド46〜48の下流側には、加熱装置49、還元洗浄装置50、および乾燥装置51が配置され、インク中の色材を被印字物Pに定着させる。
【0072】
また、被印字物Pの進行方向に対し、乾燥装置51の下流側には凸領域計測装置52および地組織計測装置53が配置され、凸領域計測装置52に凸領域印字結果計測値入力部54を地組織計測装置53に地組織印字結果計測値入力部55をそれぞれ接続すると共に、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を供給条件演算部42に接続する。
凸領域計測装置52および地組織計測装置53は、被印字物Pの起毛部のような凸領域および地組織からそれぞれ光学特性を計測し、発色量を測定するためのものであり、積分球を有する分光測色器または分光測色器で校正した光学センサなどから構成される。凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55は、凸領域計測装置52および地組織計測装置53において得られた計測値を供給条件演算部42に入力することで、被印字物Pの印字結果をフィードバックするものである。供給条件演算部42は、印字結果計測値入力部54から入力された計測値が再現目標色と同様の発色を実現するように補正した打滴すべきインクおよび浸透液の供給条件値を被印字物Pの各領域について求めるものである。
【0073】
次に、図11に示した印字部41の動作を説明する。
まず、供給条件演算部42が、オペレータにより入力された被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報に基づき、印字特性DB43を検索する。供給条件演算部42は、印字特性DB43の被印字物の領域種の情報から被印字物Pにおける各領域(例えば地組織および毛管力層を付与された起毛組織の各領域)と同様の種類を示すものをそれぞれ検索する。
供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、被印字物Pの各領域の発色情報が発色情報目標となるような、印字ヘッド46及び47の全インク種(YMCK×2=8種)および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを求める。
なお、供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、印字ヘッド46及び47の全インク種および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを与えたときの発色を予測し、発色情報を計算し、発色情報が発色情報目標になるような供給パラメータの組み合わせを最適化手法で求めることも出来る。具体的には下記式(3)および(4)を使用してK/Sを利用し、印字量と発色情報の関係を求め、シンプレックス法による線形計画法、逐次近似法、遺伝的方法等の最適化手法が使用できる。また、供給条件演算部42は、印字特性DB43の中の発色再現目標に近い供給パラメータの組み合わせを複数求めそれらの補間により最適な供給パラメータを求めることも出来る。
【0074】
K/S=(1−Rc)2/2Rc ・・・ (3)
(K/S)mix
=Jy(K/S)y+Jm(K/S)m+Jc(K/S)c+Jk(K/S)k ・・・ (4)
【0075】
なお、式(3)は各波長において、色材による吸収強度K、被印字物からの光散乱強度S、反射率Rcの関係を示す。また、式(4)において、(K/S)mixは複数の色材が印字され混合された領域のK/Sを示し、(K/S)y、(K/S)m、(K/S)c、(K/S)kはそれぞれ4色の色材が単位量付着したときのK/Sを示し、Jy、Jm、Jc、Jkはそれぞれ4色の色材の被印字物への付着量を示す。
【0076】
このようにして供給条件演算部42で抽出された被印字物Pの領域ごとのインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータは、制御部44に出力される。制御部44は、印字駆動部45にインクおよび浸透液の供給パラメータを出力すると、印字駆動部45は、これら供給パラメータに応じた駆動信号をインク種または浸透液に対応する印字ヘッド46〜48のヘッド部にそれぞれ出力し、被印字物Pの各領域にインクおよび浸透液を打滴する。
これにより、毛管力層の付与の無い地組織、毛管力層を付与したファスナーフック、起毛部等の領域に対しても、再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向に均一に発色させることができる。例えば、被印字物Pの地組織とその裏側に形成された起毛組織のように、被印字物Pの表側と裏側とで互いに異なる毛管力を有する場合であっても、被印字物Pを再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向に均一に発色させることができる。
【0077】
被印字物Pの移動に連動し、被印字物Pの領域ごとに抽出されたインクおよび浸透液の供給パラメータでインクおよび浸透液の打滴が全ての領域について繰り返し行われていく。印字された被印字物Pは、加熱装置49で加熱された後、還元洗浄装置50で還元洗浄され、乾燥装置51で乾燥される。乾燥された被印字物Pは凸領域計測装置52および地組織計測装置53により測色され、その計測値が凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を介して供給条件演算部42に入力される。
【0078】
入力された計測値が再現目標色の色度の許容範囲外の場合、供給条件演算部42は、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55から入力された計測値が再現目標色の色度に一致するように、印字ヘッド46〜48の各ヘッド部から打滴すべきインクおよび浸透液の供給パラメータをそれぞれ補正する。供給条件演算部42により補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータは制御部44に出力され、制御部44がこれらの供給パラメータに基づいて印字駆動部45による印字ヘッド46〜48の各ヘッド部の駆動を制御し、被印字物Pに印字される。なお、1度の補正で再現目標色の色度の許容範囲内に入らない場合には、許容範囲内に入るまで上記の補正を繰り返すことが好ましい。
【0079】
このように、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータに基づき再び被印字物Pに印字するため、初期の計算精度が悪い場合、あるいはインク、被印字物P等の物性が経時あるいは環境で変化した場合であっても、発色量のズレあるいは変動を効果的に抑制することができる。
【0080】
なお、供給条件演算部42は、印字結果のフィードバックにより補正された供給パラメータを、補正の都度、印字特性DB43に蓄積する、あるいは、補正された供給パラメータにより印字特性DB43に既に格納されている供給パラメータを更新することによって、学習機能を持たせることもできる。このように印字を繰り返すごとに学習させることで印字特性DB43に格納されている情報の精度を高めていくことができる。
【符号の説明】
【0081】
1,21,61,71 前処理部、2,26,41 印字部、3 プラズマ照射器、4 塗布装置、5,9,25,51,65 乾燥装置、6,36 印字ヘッド、7,49 加熱装置、8,50 還元洗浄装置、10,13,28 地組織、11 ファスナーフック、12 毛管力層、14 スナップ、22 毛管力シート、23 供給ローラ、24 ウエットスポンジローラ、27 はぎ取り装置、29 起毛組織、30 熱ロール、31 塗布液、42 供給条件演算部、43 印字特性データベース、44 制御部、45 印字駆動部、46〜48 印字ヘッド、52 凸領域計測装置、53 地組織計測装置、54 凸領域印字結果計測値入力部、55 地組織印字結果計測値入力部、62 失活剤供給装置、63 凝集剤供給装置、64,72 毛管力付与液供給装置、73,75 ノズル、74,77 孔、76 凹部、P 被印字物。
【技術分野】
【0001】
この発明は、印字方法および印字装置に係り、特に、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物をインクジェット方式で印字を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
布、織物などは広く日用品に使用されており、その形態や素材も多様化している。この多様化に伴い、全体を一様に染色し難い織物が増えている。
このような織物としては、例えば、織物の地組織にポリエステルからなるファスナーを取り付けたもの、または、地組織の表面を毛羽立てた起毛織物などが存在する。ファスナーのフック、起毛部分は独立の繊維・ワイヤから構成されて凸形状を有しており、低い毛管力しか働かない。一方、地組織は、細い繊維が撚り合わさって糸が形成され、さらに織りあるいは編み物になっており、近接した繊維の働きにより高い毛管力を発現する。
これらの織物では、高い毛管力によりインクが留まり易い領域(地組織)と、この領域より低い毛管力によりインクが留まり難い領域(ファスナーのフックまたは起毛部分等の凸領域)とが隣接して配置されている。このため、低い毛管力を有する領域に打滴したインクは高い毛管力を有する領域に移動し易く、所定のインク量を低い毛管力の領域に留めて目標とする色に染色することは困難であった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、起毛織物において一様に染色し難い起毛部分の根元と先端でノズル口径を変えて異色に着色することで、その全体を目標とする色に染色することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−69631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル口径の変更やインクの調整などに多大な労力を要する。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる印字方法および印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る印字方法は、インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与し、インクジェット法でインクを被印字物の各領域に向けて打滴し、被印字物にインクの色材を定着し、定着後に被印字物から前記毛管力層を除去するものである。
【0008】
ここで、前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与された無機微粒子の凝集体あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子を含むことが好ましい。また、前記毛管力層は、被印字物への前記無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維の付着量を粘性により向上させる水溶性高分子をさらに含むことができる。また、前記毛管力層は、無機微粒子、水不溶性有機繊維あるいは有機多孔性粒子の塗布液中での分散性を向上させるための、あるいは被印字物との濡れ性を向上させるための界面活性剤、水性ポリマー等をさらに含むこともできる。
【0009】
また、被印字物に前記毛管力層を付与する前に、放電処理により被印字物の濡れ性を向上させてもよい。
また、前記毛管力層の被印字物への付与は、前記無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維を分散させた前処理液にディップ法により被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域を浸けて行うことができる。あるいは前処理液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に定量供給するディスペンサーにより供給することも可能である。
【0010】
また、前記被印字物は、低い毛管力を有する領域を高い毛管力を有する地組織に取り付けて構成されるものであって、低い毛管力を有する領域に前記毛管力層を付与した後、低い毛管力を有する領域が前記地組織に取り付けられ、一体とされた被印字物の各領域にインクジェット法でインクが供給されてもよい。
インクの印字後、加熱定着処理が行われる。定着処理ではインク中の色材が加熱により被印字物に強固に付着する。色材が分散染料の場合は色材分子が非印字物の繊維あるいは樹脂内に移動することにより行われる。色材が酸性染料、反応性染料の場合は加熱時に水蒸気を加え繊維・樹脂表面と化学反応させることで行われる。
被印字物からの前記毛管力層の除去は、定着処理終了後、インクが定着した被印字物をアルカリ洗浄することにより行うことができる。
【0011】
また、前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなるものであってもよい。また、前記シートの被印字物への貼り付けは、水溶性高分子が溶解されて粘性を有する付着溶液を介して行うことができる。また、前記シートは、被印字物にインクを定着させる加熱処理時に気化等による色材の移動距離の範囲内に被印字物の表面が位置するように配置することができる。また、被印字物からの前記毛管力層の除去は、被印字物から前記シートをはぎ取ることにより行われてもよい。
【0012】
また、前記毛管力層は、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を少なくとも被印字物の低い毛管力を有する領域に予め供給しておき、前記被凝集体と高い毛管力を付与するための無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子とを含む毛管力付与液を供給し、前記被凝集体と前記凝集剤の凝集反応により前記毛管力付与液をゲル化することで、低い毛管力を有する領域に付与することができる。
【0013】
また、前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された液滴が低い毛管力を有する領域上に留まるよう、大きさ及び量を調整して供給されることが好ましい。また、前記凝集剤は、気中分散微粒子として供給することができる。
また、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給される前記毛管力付与液及び前記凝集剤を短い時間間隔で供給することで、前期毛管力付与液あるいは凝集剤が高い毛管力を有する領域に移動してしまう前にゲル化させることが出来る。また、前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することができる。また、前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給してもよい。
【0014】
また、前記毛管力付与液は、無機微粒子、水不溶性有機繊維あるいは有機多孔性粒子を分散安定化させるための界面活性剤、アクリル系あるいはポリエステル系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギンサン等の水性ポリマー溶液を含むことが好ましい。また凝集反応を加速するため溶解性水性ポリマー等を添加しても良い。
また、毛管力付与液は、前記被凝集体として水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集して粘度が上昇されることが好ましい。また、前記凝集体としてアニオン性界面活性剤を用いると共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことができる。また、前記被凝集体として有機カチオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体として有機アニオン性高分子を含む分散液を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。また、前記被凝集体として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行ってもよい。
また、前記凝集剤を供給する前に、前記被凝集体と前記凝集剤との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することで毛管力層の付与が望ましくない領域で凝集反応が起こらないようにすることが出来る。失活剤としては凝集反応が起こりにくいPh領域にシフトさせる、酸、アルカリ等が使用できる。たとえば凝集剤として有機酸を用い酸性領域で凝集を起こさせるアニオン性活性剤を主成分とする被凝集分散液の場合、アルカリ剤が失活剤として使用できる。
【0015】
また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることができる。また、被印字物において低い毛管力を有する領域は、繊維の直径より大きなサイズのポリエステル構造物からなることもできる。
【0016】
また、本発明に係る印字装置は、インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与する毛管力層付与装置と、インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴するインク供給装置と、被印字物にインクを定着させる定着装置と、被印字物から前記毛管力層を除去する除去装置とを有するものである。
【0017】
ここで、前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する微粒子の凝集体あるいは水不溶性有機繊維を含んでもよい。また、前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなるものであってもよい。
【0018】
また、前記毛管力層付与装置は、凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、前記被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する微粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する毛管力付与液供給装置と、前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応によりゲル化した前記毛管力付与液を乾燥する乾燥装置とを含むことができる。
【0019】
また、前記毛管力付与装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することが好ましい。
また、前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーあるいは塗布装置により被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することができる。また、前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサー、塗布装置により被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給することもできる。
【0020】
また、本発明に係る毛管力シートは、インクジェット法で打滴されたインクを高い毛管力によって保持して留めるインク受容空隙を有し、インクが留まり難い領域を含む被印字物の印字面に貼り付けられ、前記インク受容空隙で保持されたインクが加熱処理により気化されることで被印字物にインクを定着させた後に剥離されるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、互いに異なる毛管力を有する複数の領域からなる被印字物全体を目標とする色で容易に染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)〜(D)は、実施形態1において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図3】(A)〜(D)は、実施形態1の変形例において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図4】(A)および(B)は、実施形態1で用いられた他の被印字物を模式的に示す図である。
【図5】実施形態2に係る印字装置で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】(A)および(B)は、図5に示した前処理部により毛管力層が付与された被印字物を示す図である。
【図7】実施形態2で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図8】実施形態2の変形例において被印字物を印字する様子を示す図である。
【図9】実施形態2の変形例で用いられた加熱装置を模式的に示す図である。
【図10】実施形態3で用いられた塗布液が塗布された被印字物を示す図である。
【図11】実施形態6で用いられた印字部の構成を示すブロック図である。
【図12】実施形態4で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図13】実施形態4の変形例で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図14】実施形態5で用いられた前処理部の構成を示すブロック図である。
【図15】実施形態5で用いられた毛管力付与液供給装置のノズルの構成を示す斜視図である。
【図16】実施形態5の変形例で用いられた毛管力付与液供給装置のノズルの構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0024】
実施形態1
図1に、本発明の実施形態1に係る印字装置の構成を示す。印字装置は、被印字物Pの前処理を行う前処理部1と被印字物Pに印字を行う印字部2とを有する。
ここで、被印字物Pは、例えば、細い繊維が撚り合わさり、さらに織り物となった高い毛管力を有してインクが留まり易いポリエステル繊維質の地組織と、この地組織より太い独立のワイヤから構成され、低い毛管力を有して地組織よりもインクが留まり難いポリエステルからなるファスナーフックとから構成されるものとする。なお、毛管力とは、被印字物Pの各領域におけるインクを留める能力を示すものとし、高い毛管力を有する領域は、相対的に低い毛管力を有する周辺の領域から毛管力によりインクを集めることができ、低い毛管力を有する領域は、相対的に毛管力の強い周辺の領域からの引力でインクを保持することができない。
【0025】
前処理部1は、被印字物Pの濡れ性を改善させるプラズマ照射器3と、被印字物Pに毛管力層を付与する塗布装置4と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置5とを有する。
プラズマ照射器3は、図示しない一対の電極を有し、電極の間でプラズマを発生させる。発生したプラズマは、一定の方向に移動する被印字物Pのファスナーフックに順次照射され、ファスナーフックの表面を親水化処理する。
塗布装置4は、被印字物Pの移動方向に対してプラズマ照射器3の下流側に配置され、インク受容空隙を有する粒子として無機微粒子、水不溶性有機繊維、あるいは有機多孔性粒子を所定の濃度で水を主体とするインク中に分散させた塗布液を被印字物Pの表面に薄層状に塗布する。塗布液に含まれるインク受容空隙を有する粒子は毛管力を発生させるものであり、塗布液は地組織の有する毛管力とほぼ同等の毛管力を発生させるようにインク受容空隙を有する粒子の濃度を調整したものである。例えば、地組織やインク受容空隙を有する粒子のように物質間(繊維間や粒子の凝集体間)でインクを保持する際の毛管力は、次式(1)で示される。
p=aγcosθ/r ・・・(1)
なお、pは単位面積あたりの毛管力(圧力)、aは比例定数、γはインク液体の表面張力、θはインクと対象物質の間の濡れ性を示す接触角、rはインクを保持する物質間の距離である。
【0026】
このように、毛管力pはインクを保持する物質間の距離r(空隙のサイズ)に大きく依存するため、地組織の繊維間の距離とインク受容空隙を有する粒子の凝集体間の距離とがほぼ同等になるように塗布液を調整することで両者の毛管力をほぼ同等とすることができる。また、インクの色素が加熱処理時に目的とする被印字物への染色の効率を高めるため、インク受容空隙を有する粒子は、被印字物Pの加熱処理時にインクの色素で染色されず且つ融解・変形・反応しないものが好ましく、例えば、数nmから数十nmの粒子径を有するアルミナ、シリカ、酸化チタン等の無機微粒子、あるいはパルプ、セルロース等の水不溶性有機繊維が使用できる。
【0027】
塗布装置4は、塗布液をローラ塗布、ディップ塗布等の方法でファスナーフックに供給することが出来る。あるいはフック表面で塗布液が流れずに留まるように液の粘度を高め、ディスペンサーにより必要領域に付与することも可能である。
乾燥装置5は、被印字物Pの移動方向に対して塗布装置4の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥させる。これにより、被印字物Pの表面が乾燥され、被印字物Pの表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。毛管力層は、塗布液におけるインク受容空隙を有する粒子の濃度調節により、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有する。
【0028】
被印字物Pの移動方向に対して乾燥装置5の下流側には、印字部2が配置されている。印字部2には、被印字物Pの移動方向に向かって、印字ヘッド6と、加熱装置7と、還元洗浄装置8と、乾燥装置9が順次配置されている。
印字ヘッド6は、毛管力層が付与された被印字物Pにインクジェット法によりインクを打滴するものである。最終発色目標に応じ複数の色材を印字できる印字ヘッドを配置することが出来る。加熱装置7は、インクが打滴された被印字物Pを加熱処理してインクの色素を被印字物Pに染色するものである。還元洗浄装置8は、染色された被印字物Pを洗浄するものである。この時、被印字物Pに付与された毛管力層も除去される。乾燥装置9は、洗浄された被印字物Pを乾燥して仕上げるためのものである。
【0029】
次に、図1に示した印字装置の動作を説明する。
まず、図1に示されるように、被印字物Pが、図示しない移動装置により一定方向に移動される。被印字物Pには、例えば図2(A)に示されるような、高い毛管力を有する地組織10に低い毛管力を有するファスナーフック11を取り付けたものが用いられる。このように、被印字物Pは、地組織10とファスナーフック11が隣接して存在するため、そのままの状態でファスナーフック11にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織10に移動し、ファスナーフック11を所定のインク量で染色させることが困難なものである。
被印字物Pが移動されて前処理部1に設置されたプラズマ照射器3に到達すると、プラズマ照射器3は被印字物Pのファスナーフック11に対してプラズマを順次照射することで、その濡れ性を向上させる。
【0030】
プラズマ処理された被印字物Pがプラズマ照射器3から塗布装置4に到達すると、塗布装置4から例えば無機微粒子を所定の濃度で分散させた塗布液が被印字物Pの表面に薄層状に塗布される。この時、プラズマ処理によりファスナーフック11の濡れ性が向上しているため、その表面に塗布液が均一に留まることができる。続いて、被印字物Pは乾燥装置5で乾燥され、図2(B)に示すように、被印字物Pの表面に無機微粒子が薄層状に広がる毛管力層12が形成される。
毛管力層12が形成された被印字物Pには、図2(C)に示すように、印字ヘッド6からインクが打滴される。地組織10に向かって打滴されたインクは、ファスナーフックに捕獲されずに直接あるいは、毛管力層12を介して地組織10に供給される。地組織に印字されたインクは地組織の浸透性により裏面まで浸透される。
また、ファスナーフック11に向かって打滴されたインクは、無機微粒子の凝集体が地組織10の毛管力とほぼ同等の毛管力を有するため、地組織10に移動することなく保持される。
【0031】
このように、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pにおいて、低い毛管力を有する領域に打滴されたインクを毛管力層12が領域内に留めることにより、その領域を染色するインクの減少を抑制することができる。また、毛管力層12は無機微粒子の凝集体から構成され、あらかじめ微細な空隙が存在し、この空隙にインクを保持する。
インク液に溶解、あるいは膨潤することでインク保持力を発揮するポリビニルアルコール、アルギン酸、等の水溶性高分子の皮膜から構成されるインク保持剤に比べて短時間にインクを保持することができ、インク保持力が発揮される前にインクがファスナーフック11から地組織10に移動するのを抑制することができる。
【0032】
被印字物Pは毛管力層12にインクが保持された状態で加熱装置7により加熱処理され、インクの色素が地組織10およびファスナーフック11に染色される。インクが加熱定着された被印字物Pは還元洗浄装置8により洗浄されると共にその表面に形成されている毛管力層12も除去され、乾燥装置9により乾燥されて、図2(D)に示すように、被印字物Pの染色が仕上げられる。
例えば、ファスナーフック11がポリエステルからなる場合には、加熱装置7により180〜200℃で色素が被印字物Pに加熱定着された後、還元洗浄装置8により被印字物Pを加熱アルカリ水で洗浄し、乾燥装置9で被印字物Pを乾燥させて仕上げることができる。
【0033】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pに対し毛管力層12を付与するだけで目標とする色に染色することができるため、容易に被印字物Pの染色を行うことができる。
【0034】
なお、毛管力層12は、被印字物Pのファスナーフック11にのみ形成してもよい。例えば、塗布装置4により被印字物Pのファスナーフック11にのみ塗布液を薄層状に塗布して毛管力層12を形成することができる。
また、地組織10にファスナーフック11を取り付ける前に、図3(A)に示すように、ファスナーフック11にのみ塗布液を薄層状に塗布して毛管力層12を形成し、図3(B)に示すように、毛管力層12が形成されたファスナーフック11を地組織10に取り付けてもよい。その後、図3(C)に示すように、印字ヘッド6から地組織10およびファスナーフック11にインクが打滴され、図3(D)に示すように、加熱定着処理および洗浄処理されることで被印字物Pを染色して仕上げることができる。
【0035】
また、塗布液は、粘性を高める水溶性高分子を含んでもよい。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性アクリル、水性ポリエステルなどが使用できる。このように、塗布液の粘性を高めることにより、被印字物Pの低い毛管力を有する領域へのインク受容空隙を有する粒子の付着量を向上させることができると共に低い毛管力を有する領域におけるインク受容空隙を有する粒子の付着量調整を容易に行うことができる。
また、塗布液は、被印字物Pの濡れ性を向上させる処理剤を含んでもよい。処理剤としては、アルコール類や界面活性剤などが使用できる。これにより、塗布液が被印字物Pの低い毛管力を有する領域においても留まり易くなり、低い毛管力を有する領域へのインク受容空隙を有する粒子の付着量を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態において、プラズマ照射器3により被印字物Pのファスナーフック11をプラズマ処理することでその濡れ性を向上させているが、例えば、コロナ処理等他のドライ放電処理により被印字物Pの濡れ性を向上させてもよい。また、塗布液の調整により濡れ性改善処理することを省略することも出来る。
【0037】
また、被印字物Pとして、図4(A)および(B)に示すような、高い毛管力を有する地組織13に低い毛管力を有するスナップ14を取り付けたものを用いてもよい。地組織13とスナップ14が隣接して存在するため、そのままの状態でスナップ14にインクを打滴すると毛管力の差によりインクが地組織13に移動し、スナップ14を所定のインク量で染色することが困難な被印字物Pに対しても、本実施形態の印字装置により容易に目標とする色に染色することができる。この場合ディスペンサーによりスナップ部のみに塗布液を供給しても良い。
【0038】
実施形態2
図5に実施形態2に係る印字装置で用いられる前処理部21の構成を示す。この前処理部21は、毛管力層として糸、布、不織布、紙などの繊維束で構成されるインク受容空隙を有する毛管力シート22を被印字物Pに貼り付けるもので、実施形態1における前処理部1の代わりに用いられる。前処理部21は、被印字物Pに毛管力シート22を供給する供給ローラ23と、被印字物Pに毛管力シート22を貼り付けるウエットスポンジローラ24と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置25とを有する。ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する繊維質の地組織とポリエステル樹脂から構成される凸形状で低い毛管力を有するスナップとから構成されるものとする。
【0039】
供給ローラ23には、毛管力シート22が巻き付けられており、被印字物Pの移動に合わせて毛管力シート22を送り出すことで被印字物Pに毛管力シート22が供給される。毛管力シート22としては、被印字物Pの表面において地組織の毛管力とほぼ同等の毛管力を発生させるようなインク受容空隙を有するもの、例えば、地組織の繊維間隔とほぼ同等の繊維間隔を有するものが使用できる。また、毛管力シート22は、被印字物Pの加熱処理時にインクの色素で染色されないものが好ましく、例えば、セルロース系の繊維が織られた布、不織布、または薄紙等が使用できる。ウエットスポンジローラ24は、被印字物Pの移動方向に対して供給ローラ23の下流側に配置され、供給ローラ23から供給された毛管力シート22を粘着性溶液で湿らせつつ被印字物Pに押しつけることで、被印字物Pの表面に毛管力シート22を貼り付ける。粘着性溶液としては、例えば、PVA、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性ポリエステルなどの水溶性高分子を溶解させて粘性を有した溶液が使用できる。乾燥装置25は、被印字物Pの移動方向に対してウエットスポンジローラ24の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥させる。これにより、被印字物Pの表面には、図6(A)および(B)に示すように、乾燥した毛管力シート22が付着して毛管力層が形成される。
なお、被印字物Pへの毛管力シート22の貼り付けは、別の剥離性のフィルム状支持体に毛管力シート22を設けたものを用い、スポンジローラで貼り付ける際にフィルム状支持体から毛管力シート22が剥がれて被印字物上に残るようにしてもよい。
【0040】
なお、毛管力シート22は、加熱処理により毛管力シート22から気化したインクの染料が移動する距離の範囲内に被印字物Pの表面が位置するように配置される。毛管力シート22の配置位置は、例えば、被印字物Pから数mm、好ましくは0.5mmの範囲内に設定することができる。なお、被印字物Pに対する毛管力シート22の配置位置を気化したインクの移動距離範囲内にすることができれば、粘着性溶液は粘性のない水などの溶液を用いてもよい。
【0041】
また、図7に本実施形態に係る印字装置で用いられる印字部26を示す。この印字部26は、図1に示した実施形態1の印字部2において、被印字物Pの進行方向に対し乾燥装置9の下流側に、毛管力シート22を被印字物Pからはぎ取るためのはぎ取り装置27を新たに配置したものである。
【0042】
まず、図5に示されるように、一定方向に移動する被印字物Pに合わせて供給ローラ23から送り出される毛管力シート22が、被印字物Pの表面に順次供給される。被印字物Pに供給された毛管力シート22は、ウエットスポンジローラ24により粘着性溶液で湿らせつつ被印字物Pに押しつけられ、粘着性溶液を介して被印字物Pの表面に沿って貼り付けられる。続いて、被印字物Pは、乾燥装置25により乾燥され、図6(A)および(B)に示すように、地組織13およびスナップ14から構成された被印字物Pの表面に沿って付着する毛管力シート22からなる毛管力層が形成される。
【0043】
毛管力シート22が付着された被印字物Pには、実施形態1と同様にして、印字部26の印字ヘッド6からインクが打滴される。この時、毛管力シート22は地組織13の毛管力とほぼ同等の毛管力を有するため、スナップ14に向かって打滴されたインクは、地組織13に移動することなく、スナップ14の表面上に位置する毛管力シート22の繊維間で保持される。
続いて、被印字物Pは、毛管力シート22にインクが保持された状態で加熱装置7により加熱処理される。この加熱処理により毛管力シート22に保持されたインクが気化されて移動し、この移動距離範囲内に配置された被印字物Pの地組織13およびスナップ14に定着する。このようにして、染色された被印字物Pは、還元洗浄装置8により洗浄された後、乾燥装置9により乾燥される。乾燥された被印字物Pは、図7に示すように、はぎ取り装置27により表面上に付着している毛管力シート22が除去され、被印字物Pの染色が仕上げられる。
【0044】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる被印字物Pに対し毛管力シート22からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に染色することができるため、容易に被印字物Pの染色を行うことができる。
【0045】
なお、還元洗浄装置8の洗浄処理において、毛管力シート22が溶解などにより被印字物Pの表面から除去される場合には、印字部26にはぎ取り装置27を設けなくてもよい。
また、本実施形態において、毛管力シート22は、繊維間でインクを保持するものが用いられているが、地組織とほぼ同等の毛管力を有してインクを保持できればよく、例えばフィルムまたは布などにインク受容空隙を有する粒子(無機微粒子など)を多数凝集させて設けたものを用いてもよい。
【0046】
また、被印字物Pとしては、図8に示すように、高い毛管力を有する地組織28と低い毛管力を有する起毛組織29からなる起毛織物を用いてもよい。
被印字物Pには、前処理部21により起毛組織29の先端に毛管力シート22が付着される。毛管力シート22が付着された被印字物Pは、印字部26の印字ヘッド6からインクが打滴される。なお、被印字物Pの地組織28側に新たな印字ヘッド36を設け、毛管力シート22を介さずに、印字ヘッド36から地組織28に直接インクを打滴してもよい。インクが打滴された被印字物Pは、加熱装置7で加熱処理される。加熱装置7としては、例えば図9に示すように、熱ロール30を毛管力シート22に接触させて加熱するものを用いることで、毛管力シート22と起毛組織29の距離を一定に保って色素が被印字物Pに加熱定着する位置を安定させると共に、インクが定着し難い起毛組織29の先端側から色素を加熱定着させる。加熱処理された被印字物Pは、還元洗浄装置8、乾燥装置9、およびはぎ取り装置27を介して仕上げられる。
なお、加熱処理の温度を高温にするほど気化したインクの移動距離は長くなり色素の定着する距離が起毛組織29の先端部分から根元部分に向かって伸びるため、被印字物Pに加熱定着される色素の位置は、加熱処理の温度と印字されるインク量によって制御することができる。また、印字ヘッド6および36により被印字物Pの両面側からインクを打滴した場合は、毛管力層側からの印字量と、地組織側からの印字量および加熱条件を制御することで起毛組織29の地組織近傍と先端との発色程度あるいは色を異なるようにすることも可能である。
このように、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についても毛管力シート22からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0047】
実施形態3
上述した実施形態1で使用される被印字物Pとして、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織からなる起毛織物を用いてもよい。この場合、例えば、塗布装置4が押圧用のローラ等を内蔵し、図10に示されるように、塗布装置4から、インク受容空隙を有する粒子(無機微粒子など)に加え、粘性を高めるための水溶性高分子を含む塗布液31を被印字物Pの起毛組織29に塗布すると同時にローラ等により起毛組織29を押圧して地組織28とほぼ平行になるように寝かせた状態に固定することが好ましい。
すなわち、被印字物Pには、インク受容空隙を有する粒子を含み且つ高い粘性を有する塗布液31が塗布装置4から塗布されると共に塗布装置4のローラ等により押圧されて起毛組織29が横に倒される。なお、塗布前に起毛組織の濡れ性を改善するため、プラズマ処理等をあらかじめ行うことも可能である。この押圧と塗布液31の高い粘性により、被印字物Pの起毛組織29は地組織28に対して横に寝た状態で固定される。続いて、被印字物Pは乾燥装置5により乾燥され、起毛組織29が寝た状態で地組織28に固定された被印字物Pの表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。このようにして、被印字物Pの起毛組織全体に毛管力層を付与することができる。なお、水溶性高分子としては、例えば、PVA、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、水性ポリエステルなどが用いられる。
【0048】
毛管力層が付与された被印字物Pには、印字部2の印字ヘッド6からインクが打滴される。打滴されたインクは、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有するインク受容空隙を有する粒子の凝集体により起毛組織の表面で保持される。被印字物Pは、実施形態1と同様にして、毛管力層にインクが保持された状態で加熱処理され、洗浄および乾燥されて染色が仕上げられる。
【0049】
本実施形態の印字装置によれば、互いに異なる毛管力を有する領域からなる起毛織物についてもインク受容空隙を有する粒子からなる毛管力層を付与するだけで目標とする色に容易に染色することができる。
【0050】
実施形態4
図12に実施形態4に係る印字装置で用いられる前処理部61の構成を示す。この前処理部61は、被印字物Pへの毛管力層の付与効率を向上させるためのもので、実施形態1における前処理部1の代わりに用いられる。前処理部61は、被印字物Pに失活剤を供給する失活剤供給装置62と、被印字物Pに凝集剤を供給する凝集剤供給装置63と、被印字物Pに毛管力付与液を供給する毛管力付与液供給装置64と、被印字物Pを乾燥させる乾燥装置65とを有する。
【0051】
ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有する起毛組織とから構成されるものとする。また、毛管力付与液とは凝集によりゲル化するアクリル系またはポリエステル系等の水性ポリマー、高分子活性剤からなる被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する粒子(無機微粒子、水不溶性有機繊維、または有機多孔性粒子)とからなるものであり、凝集剤とは毛管力付与液に含まれる被凝集体の凝集反応を促進させるものであり、失活剤とは凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を抑制するものである。
【0052】
失活剤供給装置62は、被印字物Pの起毛織物がない裏面側に配置され、例えばインクジェット法により被印字物Pの地組織に失活剤を供給する。
凝集剤供給装置63は、被印字物Pの進行方向に対し失活剤供給装置62の下流側で且つ被印字物Pの起毛織物がある表面側に配置され、被印字物Pの表面側に凝集剤を供給する。凝集剤供給装置63により供給される凝集剤は、起毛織物の表面においてそれぞれの液滴が集合して被印字物Pの地組織に移動しないように、大きさ及び量が調整されている。例えば、起毛織物に供給する凝集剤の大きさを下記式(2)で示される毛管力長よりも小さくすることで、起毛織物の表面において凝集剤の液滴が移動せずに安定に留まるよう調整することができる。
1/κ=(γ/ρ・g)1/2 ・・・(2)
なお、1/κは毛管力長、γは表面張力、ρは比重、gは重力加速度を示す。
凝集剤供給装置63には、例えば、凝集剤を数ミクロン〜百ミクロンほどのミスト状(気中分散粒子)にして供給する超音波霧化器またはエアースプレー等が利用できる。
【0053】
毛管力付与液供給装置64は、被印字物Pの進行方向に対し凝集剤供給装置63の下流側で且つ被印字物Pの表面側に配置され、所定の濃度で拡散させた無機微粒子等のインク受容空隙を有する粒子を含む毛管力付与液を被印字物Pに供給する。毛管力付与液供給装置64としては、例えば、インクジェットまたはディスペンサー、塗布器などが利用できる。起毛織物に供給された毛管力付与液は、被凝集体と凝集剤が凝集反応することでゲル化して起毛織物の表面に留められる。なお、毛管力付与液と凝集剤が地組織に移動した場合は、地組織に供給されている失活剤が両者の反応を未然に回避し、地組織における毛管力付与液のゲル化を生じさせない。
乾燥装置65は、被印字物Pの進行方向に対し毛管力付与液供給装置64の下流側に配置され、被印字物Pを乾燥する。これより、起毛織物の表面に留まるゲル状の毛管力付与液のうち分散媒成分が揮発され、毛管力付与液に含まれるインク受容空隙を有する粒子が起毛織物の表面に薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0054】
まず、図12に示されるように、失活剤供給装置62により被印字物Pの裏面側から失活剤が地組織に供給される。供給された失活剤は、地組織の表面側まで浸透する。次に、被印字物Pの表側から凝集剤供給装置63によりミスト状(気中分散粒子)の凝集剤が供給される。この時、凝集剤供給装置63は凝集剤の粒子サイズ及び量を調整して供給するため、起毛織物に供給された凝集剤はそれぞれの液滴が集合して被印字物Pの地組織に移動しない所定の間隔で位置する。
続いて、毛管力付与液供給装置64が、所定濃度のインク受容空隙を有する粒子と被凝集体とを含む毛管力付与液を被印字物Pの表側から供給する。毛管力付与液が供給されると、毛管力付与液に含まれる被凝集体が起毛織物の表面上に存在する凝集剤と凝集反応することによりゲル化する。このようにゲル状となることで、毛管力付与液が起毛織物に付着され、毛管力付与液に含まれるインク受容空隙を有する粒子が起毛織物の表面に留められる。なお、毛管力付与液と凝集剤が地組織に移動した場合は、失活剤供給装置62から地組織に供給された失活剤が両者の凝集反応を未然に回避するため、地組織に毛管力付与液がゲル化して留まることはない。
起毛織物にゲル状態で留められた毛管力付与液は、乾燥装置65により乾燥される。これにより、ゲル状の毛管力付与液のうち分散媒成分が揮発され、起毛織物の表面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。このようにして形成された毛管力層は、毛管力付与液の濃度調節により、被印字物Pの地組織とほぼ同等の毛管力を有している。
【0055】
このように、毛管力付与液をゲル状にすることにより所定量のインク受容空隙を有する粒子を起毛織物に留めることで、起毛織物に供給されたインク受容空隙を有する粒子が地組織に移動することなく、所定量の毛管力層を起毛織物の表面に形成することができる。
【0056】
起毛織物に毛管力層が形成された被印字物Pは、実施形態1と同様にして、印字部2により印字される。
【0057】
本実施形態の印字装置によれば、毛管力付与液をゲル状にすることでインク受容空隙を有する粒子を被印字物の低い毛管力を有する領域に留めるため、被印字物の低い毛管力を有する領域に十分な厚みの毛管力層を形成してインクを留めることができる。
【0058】
なお、凝集剤供給装置63および毛管力付与液供給装置64が凝集剤および毛管力付与液を被印字物Pの表側から供給する際に、それらが被印字物Pの低い毛管力を有する領域に供給されると共に高い毛管力を有する地組織にも直接供給されてよい。例えば、図13に示すように、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有するスナップとから構成される被印字物Pを用い、その表側から凝集剤および毛管力付与液が供給される。毛管力付与液と凝集剤はスナップと地組織にそれぞれ直接供給されるが、スナップでは毛管力付与液に含まれる被凝集体と凝集剤とが凝集反応するのに対し、地組織では失活剤供給装置62から地組織に供給された失活剤が凝集剤を失活させて凝集剤と被凝集体との凝集反応を未然に回避する。これにより、スナップの表面のみにおいて、毛管力付与液をゲル化して留めることができる。
【0059】
また、被印字物Pの地組織において被凝集体と凝集剤とを凝集反応させてゲル化した毛管力付与液を留めてもその後の印字処理に影響しなければ、失活剤供給装置62により被印字物Pの地組織に失活剤を供給しなくてもよい。被印字物Pの表側から凝集剤と毛管力付与液が供給され、ゲル状となった毛管力付与液がスナップと地組織に留められる。その後、乾燥装置65で乾燥され、被印字物Pの表面全体にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0060】
また、失活剤供給装置62は、被印字物Pの裏面側で且つ凝集剤供給装置63と毛管力付与液供給装置64の間に配置してもよい。失活剤は、被印字物Pに凝集剤が供給された後で地組織に供給され、地組織に供給された凝集剤を失活させる。
また、失活剤供給装置62は、供給した失活剤により地組織に供給された凝集剤を失活させることができれば被印字物Pの表面側に配置することができる。
【0061】
実施形態5
図14に実施形態5に係る印字装置で用いられる前処理部71の構成を示す。この前処理部71は、被印字物Pの低い毛管力を有する領域にのみ毛管力付与液を供給するためのもので、実施形態4の前処理部61において、失活剤供給装置62を除くと共に毛管力付与液供給装置64の代わりに毛管力付与液供給装置72を用いたものである。ここで、被印字物Pは、例えば、高い毛管力を有する地組織と低い毛管力を有するスナップとから構成されるものとする。
毛管力付与液供給装置72は、被印字物Pのスナップの上面にのみ毛管力付与液を供給するような、例えばノズル73を介して毛管力付与液を供給するディスペンサーから構成されている。ノズル73は、図15に示すように、先端部に微細な孔74が形成されており、孔74を介して被印字物Pのスナップの上面に一定量の毛管力付与液が供給される。スナップの上面に供給された毛管力付与液は、凝集剤と凝集反応してゲル化し、スナップの上面に留められる。一方、被印字物Pの地組織には毛管力付与液が供給されないため、地組織において毛管力付与液のゲル化は生じない。被印字物Pは乾燥装置65により乾燥され、スナップに留められたゲル状の毛管力付与液の分散媒成分が揮発してスナップの上面にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層が形成される。
【0062】
本実施形態によれば、失活剤を使用せずに被印字物Pの低い毛管力を有する領域に十分な厚みの毛管力層を形成してインクを留めることができる。
【0063】
なお、毛管力付与液供給装置72は、図16に示すような、ノズル75を介して毛管力付与液を被印字物Pのスナップに供給してもよい。ノズル75は、その先端部に被印字物Pのスナップの形状に応じた凹部76を有し、上下に移動することで各スナップを凹部76で覆っていく。凹部76を構成する側面には孔77が形成されており、孔77を介してスナップの上面および側面に一定量の毛管力付与液が共有される。このようにして、スナップ全体に供給された毛管力付与液は、凝集剤と凝集反応してゲル化し、スナップ全体に留められる。これにより、被印字物Pのスナップ全体にインク受容空隙を有する粒子が薄層状に広がる毛管力層を形成することができる。
【0064】
また、実施形態4および5における被凝集体は、インク受容空隙を有する粒子(無機微粒子あるいは水不溶性有機繊維、有機多孔性粒子)を分散安定化させるための界面活性剤、アクリル系あるいはポリエステル系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギン酸等の水性ポリマー溶液を含むことが好ましい。また、凝集反応を加速させるための水性ポリマー等を添加しても良い。
また、実施形態4および5における凝集反応には、被凝集体が分散された分散液(被凝集分散液)としてアニオン性界面活性剤を含む分散液を用いると共に凝集剤として有機酸を用いることで凝集反応を行うことができる。アニオン性界面活性剤は、中性あるいはアルカリ性に調整された状態で分散しているが、凝集剤として有機酸が加えられて酸性となるとその解離度が低くなって凝集する。これに伴い、凝集剤に含まれる水性ポリマーが凝集してゲル化される。なお、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが利用でき、有機酸としてはマロン酸、クエン酸、酢酸などが利用できる。また、失活剤としては有機酸による酸性化を抑制する炭酸ソーダ、炭酸水素ソーダ、または苛性ソーダなどのようなアルカリ剤が利用できる。
【0065】
また、凝集反応には、安定化したアニオン界面活性剤からなる被凝集分散液と有機カチオン性高分子からなる凝集剤による反応、または、安定化したカチオン界面活性剤からなる被凝集分散液と有機アニオン性高分子からなる凝集剤による反応が利用できる。例えば、アニオン界面活性剤は、マイナスに帯電して分散しているが、凝集剤として有機カチオン性高分子が加えられると電荷を中和し、凝集してゲル化される。ここで、凝集剤として用いられるカチオン界面活性剤には、アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。一方、被凝集体として用いられる安定化したアニオン界面活性剤は、ポリアクリルアミドの部分加水分解したものまたはアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合したものなどが利用できる。
【0066】
また、凝集反応には、特許0879782号に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体とで処理する方法、特許0946869号に記載されたようなアルカリ性物質の存在下でフェノール類とアルデヒド類との初期縮合物と無機被凝集体とを併用する方法、特許1125326号に記載されたようなフェノール性水酸基を有する有機物質と無機又は有機被凝集体とを併用する方法、特開昭57−019084号公報に記載されたようなタンニンおよびタンニン酸にて処理する方法、特開昭60−238193号公報に記載されたようなリグニンスルホン酸と無機被凝集体およびカチオン性高分子被凝集体とで処理する方法が利用できる。これに伴い、凝集剤に含まれるアクリル樹脂またはポリエステル樹脂が凝集してゲル化される。
また、凝集反応には凝析を利用してもよい。被凝集分散液において電気的に同じ符号を帯びて互いに反発することで拡散する疎水コロイドまたは親水コロイドに対し、これらのコロイド粒子と反対の符号を帯びた中和剤(電解質またはアルコールなど)からなる凝集剤を加えることで電気的中性となり、コロイド粒子間の反発が消滅することで凝集する。これに伴い、コロイド粒子が凝集してゲル化される。なお、疎水コロイドおよび親水コロイドとしては、アルミニウム塩(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム)や鉄塩(ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄)が用いられる。
【0067】
また、凝集反応には、架橋性ポリマー(モノマー、オリゴマー)を含む被凝集分散液と架橋開始剤からなる凝集剤による架橋反応を利用して毛管力塗布液の粘度を上昇させてもよい。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂溶液とホウ酸による架橋反応、末端に水酸基を持つポリオールと末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールを混合することで化学反応を起こすウレタン樹脂系の反応、またはエポキシ樹脂プレポリマーにアミンなどの硬化剤による反応を起こすエポキシ樹脂系の反応等が利用できる。
【0068】
実施形態6
図11に示されるように、実施形態1〜5に係る印字装置で用いられた印字部は、入力データに基づいて被印字物Pの各領域を印字すると共に被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正し目的の発色を実現するような構成にすることができる。
【0069】
本実施形態の印字部41は、供給条件演算部42と、印字特性データベース(DB)43と、制御部44と、印字駆動部45と、印字ヘッド46〜48とを有する。
供給条件演算部42には、互いに異なる発色特性を有する複数の領域(例えば、地組織の領域および起毛組織の領域)からなる被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報が入力データとしてオペレータにより入力される。被印字物Pの情報としては、被印字物の領域ごとに素材・厚み、毛管力層付与の有無、毛管力層の種類・厚み等の情報が含まれる。再現目標色の情報には、被印字物Pの各領域における再現目標色の色度などに関する情報が含まれる。
供給条件演算部42は、印字特性DB43と接続されている。供給条件演算部42は、被印字物Pの情報および再現目標色の情報に基づいて印字特性DB43を検索し、被印字物Pの領域ごとに再現目標色に最も近い発色を示す印字ヘッド46〜48のインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを抽出する。ここで、インクおよび浸透液の供給パラメータとしては、印字ヘッド46〜48に出力する電圧、周波数、波形などが含まれる。印字特性DB43には、領域ごとに各色のインクの印字量と発色処理完了後の発色特性の関係が含まれる。このとき毛管力層の付与の有無、あるいは毛管力層の塗布量等に応じた発色特性の関係が含まれる。
ここで、「浸透液」は、印字後のインクを適切に被印字物内に浸透させるための浸透を促進するための液でありインクを構成する分散媒であることが好ましい。「浸透液」の印字により少量印字時にもインクが被印字物の裏面、毛管力層内部にまで到達することが可能となる。
【0070】
供給条件演算部42は、制御部44と接続されている。制御部44は、供給条件演算部42で抽出された領域ごとに必要なインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータを示す電気信号を印字駆動部45に入力することで、被印字物Pへの印字を制御する。
制御部44は、印字駆動部45と接続されている。印字駆動部45は、制御部44から入力された電気信号に応じて印字ヘッド46〜48及び前処理部の凝集剤供給装置あるいは毛管力付与液供給装置が制御可能な場合は前処理部をそれぞれ駆動する。
印字駆動部45は、印字ヘッド46〜48と接続されている。印字ヘッド46〜48は、いわゆるインクジェット方式の印字ヘッドであり、4種類のインクY,M,C,Kまたは浸透液を打滴する。印字ヘッド46は被印字物Pの表側から、印字ヘッド47は被印字物Pの裏側からそれぞれインクを打滴するものである。一方、印字ヘッド48は、被印字物Pの表側から浸透液を打滴するものである。
【0071】
被印字物Pの移動方向に対し、印字ヘッド46〜48の下流側には、加熱装置49、還元洗浄装置50、および乾燥装置51が配置され、インク中の色材を被印字物Pに定着させる。
【0072】
また、被印字物Pの進行方向に対し、乾燥装置51の下流側には凸領域計測装置52および地組織計測装置53が配置され、凸領域計測装置52に凸領域印字結果計測値入力部54を地組織計測装置53に地組織印字結果計測値入力部55をそれぞれ接続すると共に、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を供給条件演算部42に接続する。
凸領域計測装置52および地組織計測装置53は、被印字物Pの起毛部のような凸領域および地組織からそれぞれ光学特性を計測し、発色量を測定するためのものであり、積分球を有する分光測色器または分光測色器で校正した光学センサなどから構成される。凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55は、凸領域計測装置52および地組織計測装置53において得られた計測値を供給条件演算部42に入力することで、被印字物Pの印字結果をフィードバックするものである。供給条件演算部42は、印字結果計測値入力部54から入力された計測値が再現目標色と同様の発色を実現するように補正した打滴すべきインクおよび浸透液の供給条件値を被印字物Pの各領域について求めるものである。
【0073】
次に、図11に示した印字部41の動作を説明する。
まず、供給条件演算部42が、オペレータにより入力された被印字物Pの情報および被印字物Pに印字しようとする印字画像の再現目標色の情報に基づき、印字特性DB43を検索する。供給条件演算部42は、印字特性DB43の被印字物の領域種の情報から被印字物Pにおける各領域(例えば地組織および毛管力層を付与された起毛組織の各領域)と同様の種類を示すものをそれぞれ検索する。
供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、被印字物Pの各領域の発色情報が発色情報目標となるような、印字ヘッド46及び47の全インク種(YMCK×2=8種)および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを求める。
なお、供給条件演算部42は、印字特性DB43のデータを用い、印字ヘッド46及び47の全インク種および印字ヘッド48の浸透液についての供給パラメータを与えたときの発色を予測し、発色情報を計算し、発色情報が発色情報目標になるような供給パラメータの組み合わせを最適化手法で求めることも出来る。具体的には下記式(3)および(4)を使用してK/Sを利用し、印字量と発色情報の関係を求め、シンプレックス法による線形計画法、逐次近似法、遺伝的方法等の最適化手法が使用できる。また、供給条件演算部42は、印字特性DB43の中の発色再現目標に近い供給パラメータの組み合わせを複数求めそれらの補間により最適な供給パラメータを求めることも出来る。
【0074】
K/S=(1−Rc)2/2Rc ・・・ (3)
(K/S)mix
=Jy(K/S)y+Jm(K/S)m+Jc(K/S)c+Jk(K/S)k ・・・ (4)
【0075】
なお、式(3)は各波長において、色材による吸収強度K、被印字物からの光散乱強度S、反射率Rcの関係を示す。また、式(4)において、(K/S)mixは複数の色材が印字され混合された領域のK/Sを示し、(K/S)y、(K/S)m、(K/S)c、(K/S)kはそれぞれ4色の色材が単位量付着したときのK/Sを示し、Jy、Jm、Jc、Jkはそれぞれ4色の色材の被印字物への付着量を示す。
【0076】
このようにして供給条件演算部42で抽出された被印字物Pの領域ごとのインク種、インク供給パラメータおよび浸透液供給パラメータは、制御部44に出力される。制御部44は、印字駆動部45にインクおよび浸透液の供給パラメータを出力すると、印字駆動部45は、これら供給パラメータに応じた駆動信号をインク種または浸透液に対応する印字ヘッド46〜48のヘッド部にそれぞれ出力し、被印字物Pの各領域にインクおよび浸透液を打滴する。
これにより、毛管力層の付与の無い地組織、毛管力層を付与したファスナーフック、起毛部等の領域に対しても、再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向に均一に発色させることができる。例えば、被印字物Pの地組織とその裏側に形成された起毛組織のように、被印字物Pの表側と裏側とで互いに異なる毛管力を有する場合であっても、被印字物Pを再現目標色と同様に発色させることができると共に被印字物Pの厚み方向に均一に発色させることができる。
【0077】
被印字物Pの移動に連動し、被印字物Pの領域ごとに抽出されたインクおよび浸透液の供給パラメータでインクおよび浸透液の打滴が全ての領域について繰り返し行われていく。印字された被印字物Pは、加熱装置49で加熱された後、還元洗浄装置50で還元洗浄され、乾燥装置51で乾燥される。乾燥された被印字物Pは凸領域計測装置52および地組織計測装置53により測色され、その計測値が凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55を介して供給条件演算部42に入力される。
【0078】
入力された計測値が再現目標色の色度の許容範囲外の場合、供給条件演算部42は、凸領域印字結果計測値入力部54および地組織印字結果計測値入力部55から入力された計測値が再現目標色の色度に一致するように、印字ヘッド46〜48の各ヘッド部から打滴すべきインクおよび浸透液の供給パラメータをそれぞれ補正する。供給条件演算部42により補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータは制御部44に出力され、制御部44がこれらの供給パラメータに基づいて印字駆動部45による印字ヘッド46〜48の各ヘッド部の駆動を制御し、被印字物Pに印字される。なお、1度の補正で再現目標色の色度の許容範囲内に入らない場合には、許容範囲内に入るまで上記の補正を繰り返すことが好ましい。
【0079】
このように、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることにより補正されたインクおよび浸透液の供給パラメータに基づき再び被印字物Pに印字するため、初期の計算精度が悪い場合、あるいはインク、被印字物P等の物性が経時あるいは環境で変化した場合であっても、発色量のズレあるいは変動を効果的に抑制することができる。
【0080】
なお、供給条件演算部42は、印字結果のフィードバックにより補正された供給パラメータを、補正の都度、印字特性DB43に蓄積する、あるいは、補正された供給パラメータにより印字特性DB43に既に格納されている供給パラメータを更新することによって、学習機能を持たせることもできる。このように印字を繰り返すごとに学習させることで印字特性DB43に格納されている情報の精度を高めていくことができる。
【符号の説明】
【0081】
1,21,61,71 前処理部、2,26,41 印字部、3 プラズマ照射器、4 塗布装置、5,9,25,51,65 乾燥装置、6,36 印字ヘッド、7,49 加熱装置、8,50 還元洗浄装置、10,13,28 地組織、11 ファスナーフック、12 毛管力層、14 スナップ、22 毛管力シート、23 供給ローラ、24 ウエットスポンジローラ、27 はぎ取り装置、29 起毛組織、30 熱ロール、31 塗布液、42 供給条件演算部、43 印字特性データベース、44 制御部、45 印字駆動部、46〜48 印字ヘッド、52 凸領域計測装置、53 地組織計測装置、54 凸領域印字結果計測値入力部、55 地組織印字結果計測値入力部、62 失活剤供給装置、63 凝集剤供給装置、64,72 毛管力付与液供給装置、73,75 ノズル、74,77 孔、76 凹部、P 被印字物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与し、
インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴し、
被印字物にインクの色材を定着し、
被印字物から前記毛管力層を除去することを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する粒子の凝集体を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記毛管力層は、被印字物への前記インク受容空隙を有する粒子の付着量を粘性により向上させる水溶性高分子をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記毛管力層は、被印字物との濡れ性を向上させる処理剤をさらに含むことを特徴とする請求項2または3に記載の印字方法。
【請求項5】
被印字物に前記毛管力層を付与する前に、放電処理により被印字物の濡れ性を向上させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項6】
前記毛管力層の被印字物への付与は、前記インク受容空隙を有する粒子を分散させた前処理液にディップ法により被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域を浸けて行われることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の印字方法。
【請求項7】
前記被印字物は、低い毛管力を有する領域を高い毛管力を有する地組織に取り付けて構成されるものであって、
低い毛管力を有する領域に前記毛管力層を付与した後、低い毛管力を有する領域が前記地組織に取り付けられ、一体とされた被印字物の各領域にインクジェット法でインクが供給されることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の印字方法。
【請求項8】
被印字物からの前記毛管力層の除去は、インクが定着した被印字物をアルカリ洗浄することにより行われることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項9】
前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項10】
前記シートの被印字物への貼り付けは、水溶性高分子が溶解されて粘性を有する付着溶液を介して行われることを特徴とする請求項9に記載の印字方法。
【請求項11】
前記シートは、被印字物にインクを定着させる加熱処理により気化するインクの移動距離の範囲内に被印字物の表面が位置するように配置されることを特徴とする請求項9または10に記載の印字方法。
【請求項12】
被印字物からの前記毛管力層の除去は、被印字物から前記シートをはぎ取ることにより行われることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の印字方法。
【請求項13】
前記毛管力層は、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給し、
前記被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、
前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応により前記毛管力付与液をゲル化させることで、付与されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項14】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された液滴が低い毛管力を有する領域上に留まるよう、大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項13に記載の印字方法。
【請求項15】
前記凝集剤は、気中分散微粒子として供給されることを特徴とする請求項14に記載の印字方法。
【請求項16】
被印字物の低い毛管力を有する領域に供給される前記毛管力付与液及び前記凝集剤は、低い毛管力を有する領域上に留まるうちにゲル化するように供給されることを特徴とする請求項13に記載の印字方法。
【請求項17】
前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給されることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の印字方法。
【請求項18】
前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給されることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の印字方法。
【請求項19】
前記毛管力付与液は、前記被凝集体として水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集して粘度が上昇されることを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の印字方法。
【請求項20】
前記被凝集体としてアニオン性界面活性剤を用いると共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項21】
前記被凝集体として有機カチオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体として有機アニオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項22】
前記被凝集体として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項23】
前記被凝集体として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項24】
前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することを特徴とする請求項13〜23のいずれかに記載の印字方法。
【請求項25】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の印字方法。
【請求項26】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、ポリエステルからなることを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の印字方法。
【請求項27】
インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、
高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与する毛管力層付与装置と、
インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴するインク供給装置と、
被印字物にインクの色材を定着させる定着装置と、
被印字物から前記毛管力層を除去する除去装置と
を有することを特徴とする印字装置。
【請求項28】
前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する微粒子の凝集体を含むことを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項29】
前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられた前記インク受容空隙を有するシートからなることを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項30】
前記毛管力層付与装置は、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、
前記被凝集体と高い毛管力を付与するための前記インク受容空隙を有する粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する毛管力付与液供給装置と、
前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応によりゲル化した前記毛管力付与液を乾燥する乾燥装置と
を含むことを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項31】
前記毛管力付与装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することを特徴とする請求項30に記載の印字装置。
【請求項32】
前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーにより被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することを特徴とする請求項30または31に記載の印字装置。
【請求項33】
前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーにより被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給することを特徴とする請求項30または31に記載の印字装置。
【請求項34】
インクジェット法で打滴されたインクを高い毛管力によって保持して留めるインク受容空隙を有し、
インクが留まり難い領域を含む被印字物の印字面に貼り付けられ、前記インク受容空隙で保持されたインクが加熱処理により気化されることで被印字物にインクを定着させた後に剥離されることを特徴とする毛管力シート。
【請求項1】
インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字方法であって、
高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与し、
インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴し、
被印字物にインクの色材を定着し、
被印字物から前記毛管力層を除去することを特徴とする印字方法。
【請求項2】
前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する粒子の凝集体を含むことを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項3】
前記毛管力層は、被印字物への前記インク受容空隙を有する粒子の付着量を粘性により向上させる水溶性高分子をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の印字方法。
【請求項4】
前記毛管力層は、被印字物との濡れ性を向上させる処理剤をさらに含むことを特徴とする請求項2または3に記載の印字方法。
【請求項5】
被印字物に前記毛管力層を付与する前に、放電処理により被印字物の濡れ性を向上させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の印字方法。
【請求項6】
前記毛管力層の被印字物への付与は、前記インク受容空隙を有する粒子を分散させた前処理液にディップ法により被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域を浸けて行われることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の印字方法。
【請求項7】
前記被印字物は、低い毛管力を有する領域を高い毛管力を有する地組織に取り付けて構成されるものであって、
低い毛管力を有する領域に前記毛管力層を付与した後、低い毛管力を有する領域が前記地組織に取り付けられ、一体とされた被印字物の各領域にインクジェット法でインクが供給されることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の印字方法。
【請求項8】
被印字物からの前記毛管力層の除去は、インクが定着した被印字物をアルカリ洗浄することにより行われることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の印字方法。
【請求項9】
前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられたインク受容空隙を有するシートからなることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項10】
前記シートの被印字物への貼り付けは、水溶性高分子が溶解されて粘性を有する付着溶液を介して行われることを特徴とする請求項9に記載の印字方法。
【請求項11】
前記シートは、被印字物にインクを定着させる加熱処理により気化するインクの移動距離の範囲内に被印字物の表面が位置するように配置されることを特徴とする請求項9または10に記載の印字方法。
【請求項12】
被印字物からの前記毛管力層の除去は、被印字物から前記シートをはぎ取ることにより行われることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の印字方法。
【請求項13】
前記毛管力層は、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給し、
前記被凝集体と高い毛管力を付与するためのインク受容空隙を有する粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給し、
前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応により前記毛管力付与液をゲル化させることで、付与されることを特徴とする請求項1に記載の印字方法。
【請求項14】
前記凝集剤は、被印字物の低い毛管力を有する領域に供給された液滴が低い毛管力を有する領域上に留まるよう、大きさ及び量を調整して供給されることを特徴とする請求項13に記載の印字方法。
【請求項15】
前記凝集剤は、気中分散微粒子として供給されることを特徴とする請求項14に記載の印字方法。
【請求項16】
被印字物の低い毛管力を有する領域に供給される前記毛管力付与液及び前記凝集剤は、低い毛管力を有する領域上に留まるうちにゲル化するように供給されることを特徴とする請求項13に記載の印字方法。
【請求項17】
前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給されることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の印字方法。
【請求項18】
前記毛管力付与液は、被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給されることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の印字方法。
【請求項19】
前記毛管力付与液は、前記被凝集体として水性ポリマーを含み、前記凝集剤により凝集して粘度が上昇されることを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の印字方法。
【請求項20】
前記被凝集体としてアニオン性界面活性剤を用いると共に前記凝集剤として酸を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項21】
前記被凝集体として有機カチオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてアニオン界面活性剤を用いて、または、前記被凝集体として有機アニオン性高分子を用いると共に前記凝集剤としてカチオン界面活性剤を用いて凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項22】
前記被凝集体として疎水コロイドまたは親水コロイドを分散させたものを用いると共に前記凝集剤として前記疎水コロイドまたは前記親水コロイドの中和剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項23】
前記被凝集体として架橋性ポリマーを含むものを用いると共に前記凝集剤として前記架橋性ポリマーの架橋開始剤を用いることで凝集反応を行うことを特徴とする請求項19に記載の印字方法。
【請求項24】
前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給することを特徴とする請求項13〜23のいずれかに記載の印字方法。
【請求項25】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、起毛組織からなることを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の印字方法。
【請求項26】
被印字物において低い毛管力を有する領域は、ポリエステルからなることを特徴とする請求項1〜24のいずれかに記載の印字方法。
【請求項27】
インクが留まり難い領域を含む被印字物にインクジェット法により印字を行う印字装置であって、
高い毛管力によってインクを保持して留める毛管力層を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に付与する毛管力層付与装置と、
インクジェット法でインクを被印字物に向けて打滴するインク供給装置と、
被印字物にインクの色材を定着させる定着装置と、
被印字物から前記毛管力層を除去する除去装置と
を有することを特徴とする印字装置。
【請求項28】
前記毛管力層は、薄層状に被印字物へ付与されたインク受容空隙を有する微粒子の凝集体を含むことを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項29】
前記毛管力層は、被印字物に貼り付けられた前記インク受容空隙を有するシートからなることを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項30】
前記毛管力層付与装置は、
凝集によりゲル化する被凝集体の凝集反応を促進させる凝集剤を被印字物の低い毛管力を有する領域に供給する凝集剤供給装置と、
前記被凝集体と高い毛管力を付与するための前記インク受容空隙を有する粒子とを含む毛管力付与液を被印字物の少なくとも低い毛管力を有する領域に供給する毛管力付与液供給装置と、
前記凝集剤と前記被凝集体の凝集反応によりゲル化した前記毛管力付与液を乾燥する乾燥装置と
を含むことを特徴とする請求項27に記載の印字装置。
【請求項31】
前記毛管力付与装置は、前記凝集剤供給装置により前記凝集剤を供給する前に、前記凝集剤と前記被凝集体との凝集反応を失活させる失活剤を被印字物の高い毛管力を有する領域に供給する失活剤供給装置をさらに有することを特徴とする請求項30に記載の印字装置。
【請求項32】
前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーにより被印字物の低い毛管力を有する領域全体に供給することを特徴とする請求項30または31に記載の印字装置。
【請求項33】
前記毛管力付与液供給装置は、インクジェットまたはディスペンサーにより被印字物の低い毛管力を有する領域の上面のみに供給することを特徴とする請求項30または31に記載の印字装置。
【請求項34】
インクジェット法で打滴されたインクを高い毛管力によって保持して留めるインク受容空隙を有し、
インクが留まり難い領域を含む被印字物の印字面に貼り付けられ、前記インク受容空隙で保持されたインクが加熱処理により気化されることで被印字物にインクを定着させた後に剥離されることを特徴とする毛管力シート。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−86211(P2012−86211A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117273(P2011−117273)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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