説明

反射材およびそれを用いた反射体

【課題】紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射することができ、しかも、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない反射材を提供する。
【解決手段】原料粉体と、有機質バインダーとを混合したものを成形した後、焼成して成るセラミックス焼結体から成る反射材であって、原料粉体は、セラミックス原料と、セラミックス焼結体の内部において可視光領域の光の散乱を促進する散乱体とを含有し、セラミックス原料は、ホウ珪酸ガラス原料と、アルミナとを含有し、散乱体は、五酸化ニオビウム,酸化ジルコニウム,五酸化タンタル,酸化亜鉛から選択される少なくとも1種であり、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、散乱体を5wt%以上含有し、反射材は、その内部にホウ珪酸ガラス原料から析出したアノーサイトを含有することを特徴とする反射材による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することのできる反射材に関する。
【背景技術】
【0002】
光源から発せられる光の発光効率を高めたり、特定波長域にピークを有する光を高効率で伝達させるには、反射材の反射率を向上させる必要があり、高反射材や高反射性塗料、あるいは高反射ミラーに関する発明がいくつか開示されている。
【0003】
以下に、従来技術に係る「発光ダイオード用パッケージ及び発光ダイオード」について説明する。
特許文献1に記載される「発光ダイオード用パッケージ及び発光ダイオード」は、アルミナセラミックスを用いた発光ダイオード用パッケージ及び発光ダイオードに関するものであり、具体的には、発光ダイオード素子を実装するためのベース体の上部に、反射面を有する開口を形成したカバー体を貼着された発光ダイオード用パッケージにおいて、ベース体及びカバー体を気孔直径が0.10〜1.25μmのアルミナセラミックス又は気孔率が10%以上のアルミナセラミックスを用いて形成したことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に記載の発明によれば、特に原料中におけるアルミナの重量比率を96%以上とすることで、製造されるアルミナセラミックスの表面における反射率を、測定基準であるBaSO4を塗布した球体の表面における反射率に近似させることができるという効果を有する。
【0004】
また、特許文献2には「高反射性白色粉体塗料及びその塗料を用いた照明器具用反射板」という名称で、水銀灯などに用いられる、耐熱、耐光性反射板に使用する粉体塗料に関する発明が開示されている。
特許文献2に記載の発明は、酸価20〜200の酸基含有ポリエステル樹脂を95〜25重量部とエポキシ当量200〜1000のグリシジル基含有アクリル樹脂を5〜75重量部とを必須の成分とする基本樹脂100重量部に対し、屈折率2.7以上で平均粒径が0.2〜0.3μmの酸化チタンを50〜200重量部含む粉体塗料を構成し、照明器具の反射板に塗着焼成してなるものである。
上記構成の特許文献2に記載の発明によれば、反射面における可視光領域の光の平均全反射率が90%以上の塗膜を形成することができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、「高反射ミラーおよび高反射ミラー光学系」という名称で、カメラ、複写機、プリンタ等の高機能な光学機器に好適な高反射ミラーおよび高反射ミラー光学系に関する発明が開示されている。
特許文献3に記載の発明は、基板側から第1層がSiOx膜、第2層がAl膜、第3層が金属酸化物、第4層が金属反射膜としてのAg膜、さらにその上に保護膜ないし増反射膜がこの順に積層されて構成されていることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献3に記載の発明によれば、金属膜の高い反射率を生かしつつ、密着性、耐腐食性ならびに耐光性に優れた高反射ミラーおよび高反射ミラー光学系を提供することができ、しかも、高反射ミラーの分光反射率特性を、波長400〜700nmの領域で略97%以上とすることができるという効果を有する。
【0006】
【特許文献1】特開2006−287132号公報
【特許文献2】特開2007−217629号公報
【特許文献3】特開2003−121623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、セラミックスであるため成形性がよく、可視光領域の光を高効率で反射するという利点を有するものの、一般にアルミナセラミックスは、焼成温度が1000℃前後のガラスセラミックスに比べて焼成温度が1500℃程度と高く、製造コストがかさむという課題があった。
【0008】
特許文献2に記載の発明は、白色顔料である酸化チタンと樹脂からなる塗膜であるため、反射体の形状は、塗膜の形成が可能なものに限定されてしまうことから、その形状及び用途が限られるという課題があった。
また、特許文献2に記載の発明は、紫外光領域の光の反射率が低いので、紫外光によって発光体を励起して可視光領域の光を放射するような発光装置には適さないという課題があった。
さらに、反射体を構成する場合、反射板に特許文献2に記載の発明を塗着焼成するのであるが、少なくとも2種類の熱膨張係数の異なる材質により構成されるため、長期間にわたってこの反射体を使用した場合、光源の点灯や消灯に伴う昇降温によって塗膜が反射板から剥離する恐れがあった。
また、特許文献2に記載の発明は、樹脂を含有するため耐光性を有していたとしても紫外線による劣化は避けられないという課題もあった。
【0009】
特許文献3に記載の高反射性ミラーは、5層からなる高反射被膜であり、反射面が平坦でない場合には、均質な高反射被膜を形成することが難しいという課題があった。
また、特許文献2に記載の発明の場合と同様に、例えば、発光時に発熱を伴う光源の近傍で使用した場合に、基板と被膜から構成される反射体に昇降温が繰り返されることで、基体から被膜が剥離する恐れもあった。
さらに、特許文献3に記載の高反射性ミラーは、基板上に被膜を複数層積層する必要があり製造工程が煩雑であるという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射することができ、しかも、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない反射材及びそれを用いた反射体を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明である反射材は、原料粉体と、有機質バインダーとを混合したものを成形した後、焼成して成るセラミックス焼結体から成る反射材であって、原料粉体は、セラミックス原料と、セラミックス焼結体の内部において可視光領域の光の散乱を促進する散乱体とを含有し、セラミックス原料は、ホウ珪酸ガラス原料と、アルミナとを含有し、散乱体は、五酸化ニオビウム,酸化ジルコニウム,五酸化タンタル,酸化亜鉛から選択される少なくとも1種であり、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、散乱体を5wt%以上含有し、反射材は、その内部にホウ珪酸ガラス原料から析出したアノーサイトを含有することを特徴とするものである。
上記構成の反射材において、原料粉体と、有機質バインダーとを混合して焼成したものは、高反射性を有するセラミックス焼結体(反射材)を形成するという作用を有する。
また、粉体原料を構成する散乱体は、700℃〜1100℃の低温条件下において焼成された場合でも白色が維持されるので、請求項1に記載のセラミックス焼結体の内部において可視光領域の光を含む紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を拡散反射させるという作用を有する。
特に、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、この散乱体を5wt%以上含有させることで、請求項1に記載の反射材の内部において粒界の形成を促進して、可視光領域の光に加えて、紫外領域の光や、赤外領域の光も良好に拡散反射させるという作用を有する。
また、粉体原料を構成するセラミックス原料において、ホウ珪酸ガラス原料は焼成時に溶融して骨材であるアルミナ及び散乱体をその内部に内在させると同時に、セラミックス焼結体の内部において散乱体と同様に可視光領域の光の拡散反射を促進するアノーサイトを析出するという作用を有する。また、ホウ珪酸ガラス原料は、焼結助剤としても作用する。
よって、請求項1に記載のセラミックス焼結体は、その内部に白色度が高い状態で維持された散乱体、及びアノーサイトを内包することで、これらが共同して請求項1に記載の反射材の内部において紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に拡散反射させるという作用を有する。
さらに、請求項1に記載の反射材は、粒子状のアルミナと散乱体とアノーサイトとが、結晶化しなかったガラス質成分により互いに結合されたものであり、屈折率の異なる2種類の粒子の接触面は、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を反射する反射面(粒界)として作用する。
そして、請求項1に記載の反射材を、アルミナ粒子と散乱体とアノーサイトの少なくとも3種類で構成することで、1種類の粒子(例えば、アルミナ粒子のみ)により反射材を構成する場合に比べて、請求項1に記載の反射材の内部における粒界の面積を増大させるという作用を有する。
この結果、請求項1に記載の反射材の表面における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率を高めるという作用を有する。
また、アノーサイトは、衝撃に強く、かつ、熱膨張係数が小さいので、請求項1に記載の反射材の機械的強度を高めると同時に、請求項1に記載の反射材昇降温が繰り返された場合でも亀裂の発生等の不具合が生じるのを妨げるという作用を有する。
【0012】
請求項2記載の発明である反射材は、請求項1に記載の反射材であって、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、アルミナを15wt%以上含有することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1に記載の発明と同様の作用に加え、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、アルミナを15wt%以上含有させることで請求項2に記載の反射材に十分な機械的強度を付与するという作用を有する。
また、請求項2に記載の反射材の内部において粒界の形成を促進して、紫外領域の光、及び、赤外領域の光の反射率を可視光領域の光の反射率と同程度にするという作用を有する。
【0013】
請求項3記載の発明である反射材は、請求項1又は請求項2に記載の反射材であって、ホウ珪酸ガラス原料又はアルミナ又はこの両方の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えたことを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1又は請求項2に記載のそれぞれの発明と同様の作用を有する。
また、請求項3に記載の反射材を構成するセラミックス焼結体の焼成温度を700〜1100℃の範囲内において変化させた場合、セラミックス焼結体の内部に析出するアノーサイトの量が増減して、請求項4に記載の反射材の表面における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率が変動する可能性がある。
よって、請求項3に記載の発明においては、反射材を製造する際に用いる原料粉体中に結晶化済のアノーサイトを予め含有させておくことで、焼成された請求項3に記載の反射材中におけるアノーサイトの量を一定以上にするという作用を有する。
従って、焼成温度の変動に伴う請求項3に記載の反射材の、反射率の変動を抑制するという作用を有する。
【0014】
請求項4記載の発明である反射材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の反射材であって、反射材は、その熱膨張係数を測定した際にガラス転移点がない状態であることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1乃至請求項3に記載のそれぞれの発明と同様の作用に加え、反射材を形成するセラミックス焼結体を、その熱膨張係数を測定した際にガラス転移点がない状態とすることで、すなわち、その結晶化率をほぼ100%とすることで、請求項4に記載の反射材を一旦焼成した後に再焼成した際の、寸法変化を抑制するという作用を有する。
また、請求項4に記載の反射材は、一旦焼成した後、酸化雰囲気中又は還元雰囲気中又は真空中において、かつ、この反射材の焼成温度以下の温度条件下において再焼成した場合でも黄変等の変色が生じない。すなわち、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射することができる。
よって、請求項4に記載の反射材を、Au系、Ag系、Cu系の低融点金属を主成分とする金属ろう材による接合を可能にするという作用を有する。
【0015】
請求項5記載の発明である反射体は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の反射材からなり、プレス成形法により成形されることを特徴とするものである。
上記構成の反射体は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の反射材からなるものであり、請求項1乃至請求項4のそれぞれの発明と同様の作用を有する。
また、プレス成形法を用いることで、請求項5記載の反射体を、例えば凹凸を有する形状であっても容易に成形させるという作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の発明においては、セラミックス原料の母材としてLTCC(低温焼成セラミックス基板)の原料であるホウ珪酸ガラス原料を用いることで、700℃〜1100℃の温度条件下において焼成させることができるので、高反射材料として知られるアルミナセラミックスに比べて、その製造コストを安価にすることができるという効果を有する。
また、請求項1に記載の反射材の内部分散された状態で内包される散乱体とアノーサイトは、いずれも高い屈折率を有することから、請求項1に記載の反射材の内部における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の拡散反射を促進するという効果を有する。
さらに、散乱体を5wt%以上含有することで請求項1に記載の反射材の内部における粒界の面積が増大し、請求項1に記載の反射材の内部に入射した紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)が反射材の表面にもどる可能性が高められ、請求項1に記載の反射材の表面における反射率を向上することができるという効果を有する。
また、アノーサイトの熱膨張係数は一般に5.0×10-6〜3.2×10-6程度であり、アルミナセラミックスや窒化アルミニウム焼結体に比べて小さいので、請求項1に記載の反射材にこのようなアノーサイトを含有させることで、反射材に昇降温が繰り返された場合でも、反射材に亀裂の発生等の不具合が生じるのを防止することができるという効果を有する。また、請求項1に記載の反射材の機械的強度を高めることができるという効果も有する。
従って、請求項1に記載の発明によれば、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することができ、しかも、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない反射材を安価に提供することができるという効果を有する。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明と同様の効果に加え、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、アルミナを15wt%以上含有させることで、請求項2に記載の反射材の機械的強度を向上させることができると同時に、反射面として作用する粒界の形成を促進して、請求項2に記載の反射材の表面において、紫外領域の光、及び、赤外領域の光の反射率を可視光領域の光の反射率と同程度にすることができるという効果を有する。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のそれぞれの発明と同様の効果に加え、原料粉体を構成するホウ珪酸ガラス原料又はアルミナ又はこの両方の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えることで、すなわち、セラミックス原料の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えることで、請求項3に記載の反射材の焼成温度を700〜1100℃の範囲内において変動させた場合に、その内部に析出するアノーサイトの量が変動して、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率が低下するのを防止することができるという効果を有する。
よって、品質にバラツキの少ない高品質な反射材を提供することができるという効果を有する。
また、請求項3に記載の反射材を形成するセラミックス焼結体の焼成温度が低くなるにつれアノーサイトの析出量が減少する傾向が認められるのであるが、予め原料粉体を構成するアルミナの一部を結晶化済アノーサイトに置き換えておくことで、低い温度で焼成した場合でも請求項3に記載の反射材に十分な高反射性を付与することができるという効果を有する。
よって、請求項3に記載の反射材に十分な反射性を付与しながらその製造コストを安価にすることができるという効果を有する。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3に記載のそれぞれの発明と同様の効果に加え、請求項4に記載の反射材の結晶化率をほぼ100%とすることで、再焼成した場合に寸法変化が生じるのを防止することができるという効果を有する。
従って、例えば、発光素子搭載用基板、又は、発光素子収納用パッケージの基板上に接合して用いる反射体を請求項4に記載の反射材により構成した場合、焼成済みの基板上に接合材となる導電ペーストを印刷しておき、この導電ペースト上に請求項4に記載の反射材からなる反射体を仮止めしておくことによれば、接合材の焼成と反射体の接合を同時に行うことができるという効果を有する。
さらに、基板上に印刷される別の導電ペースト上に発光素子を仮止めしておくことによれば、接合材の焼成と、反射体の接合と、発光素子の接合とを同時に行うことができるという効果を有する。
よって、発光素子搭載用基板又は発光素子収納用パッケージを製造する際に、基板上に反射体と発光素子とを別々に接合する場合に比べて製造工程を簡略化することができるという効果を有する。
また、金属ろう材を用いて請求項4に記載の反射材を被接合対象に接合した場合、合成樹脂製の接着剤で接合した場合に比べて、その接合強度を大幅に向上させることができるという効果を有する。
従って、請求項4に記載の発明によれば製品の製造コストを削減することができるという効果を有する。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の反射材からなるものであり、請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載の発明と同様の効果を有する。
また、反射体をプレス成形法により成形することで、請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載の反射材を様々な形状に容易に成形することができるという効果を有する。
よって、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することができ、かつ、反射体を構成する部材が1種類のみであり、しかも、使用目的に応じた適切な形状を有する反射体を安価に提供することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る反射材およびそれを用いた反射体の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
以下に、本発明の実施例1に係る反射材の内部において、可視光領域の光を含む紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)が拡散される仕組みについて図1を参照しながら説明する。(特に請求項1乃至請求項4に対応。)
一般にLTCC(低温焼成セラミックス)として知られるホウ珪酸ガラスは、高い機械的強度を備えると同時に、熱膨張率が小さいので昇降温が繰り返された場合でも破損する恐れが少ない。このため、エレクトロニクス分野における基板用材料等として注目されている。
また、ガラスセラミックスを含むセラミックス焼結体は、一般に樹脂に比べて紫外線を照射した際の劣化が起こらず、金属材料のように酸化や、大気中の化合物との化学反応により変色する恐れがないという長所を有する。
そこで、本発明の実施例1に係る反射材は、このようなガラスセラミックス(ホウ珪酸ガラス)の特性を利用しつつ、その内部に光を散乱させる作用を有する粒子を少なくとも2種類含有させることで、その表面における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率を向上させたものである。
【0023】
このような実施例1に係る反射材は、より具体的には、ホウ珪酸ガラス原料とアルミナとを含有するセラミック原料に、五酸化ニオビウム(Nb25),酸化ジルコニウム(ZrO2),五酸化タンタル(Ta25),酸化亜鉛(ZnO)から選択される少なくとも1種を散乱体として添加した原料粉体に、有機質バインダーを混合したものを成形した後に焼成してなるセラミックス焼結体であり、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、散乱体を5wt%以上含有し、さらに、実施例1に係る反射材はその内部に、焼成時にホウ珪酸ガラス原料から析出するアノーサイトを内包するものである。
【0024】
図1は本発明の実施例1に係る反射材の内部において光が散乱する様子を示す概念図である。
図1に示すように、反射材1の上面1aに可視光領域の光3が照射されると、光3の一部は反射材1の上面1aにおいて反射光5として反射される一方で、反射材1の上面1aから入射光4として内部に侵入し、反射材1の下面1bにおいて反射されなかった入射光4は透過光7として反射材1の下面1bから外部に放射されてしまう。
このように、光3の一部が反射材1の内部を通過して透過光7として外部に放射されてしまうことで光3の減衰が起こるのである。
そこで、実施例1に係る反射材1においては、その内部に、常温下において比較的高い屈折率を有する五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛から選択される少なくとも1種から成る散乱体2及び、反射材1の焼成時にホウ珪酸ガラス原料から析出するアノーサイト8を内包させることで、入射光4を散乱させている。
つまり、実施例1に係る反射材1の内部に分散する散乱体2やアノーサイト8によって入射光4の散乱が繰り返される過程において、入射光4の大部分を散乱光6として再び反射材1の上面1a側に向わせているのである。
この結果、実施例1に係る反射材1の下面1bから外部に放射される透過光7が少なくなり、反射材1の上面1aにおける可視光領域の光を含む紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率を高めることができるという効果を有するのである。
【0025】
ここで、実施例1に係る反射材1の内部に含有される散乱体2について詳細に説明する。
実施例1に係る反射材1に含有される五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛は、いずれも室温条件下では白色を有する粒子であり、比較的高い屈折率を有している。
そして、これらは1000℃程度の温度条件下であれば大気中で白色が維持される。すなわち、五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛は、酸化雰囲気中において1000℃程度まで加熱した場合でも白色が維持されるのであるが、これらを一般的なアルミナセラミックスの焼結温度と同程度にまで、すなわち、1500℃を超えて加熱した場合、散乱体2自体が変色してしまい、出来上がった反射材1の白色度が低下して、高反射性が失われてしまうおそれもあった。
そこで、実施例1に係る反射材1においては、通常、酸化雰囲気中において890℃の温度条件下において焼結させることのできるホウ珪酸ガラス原料を、実施例1に係る反射材1の母材として用いることで、その焼成温度を700℃〜1100℃としている。
一般に高反射材用として知られるアルミナセラミックスの焼成温度は1500℃以上であるため、高反射性を有する実施例1に係る反射材1の焼成温度を大幅に低減することができるという効果を有する。
従って、五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛から選択される少なくとも1種を実施例1に係る反射材1に含有させた場合に、焼成時に散乱体2が変色するのを防止することができるので、焼成後も実施例1に係る反射材1の高反射性を維持することができるという効果を有する。
【0026】
また、本実施例に係る反射材1は、先にも述べたように、化学式:CaO・Al23・SiO4又はCaAl2Si28で示されるガラス成分微結晶の結晶体であるアノーサイト8を含有している。
このアノーサイト8は、実施例1に係る反射材1を製造する際に用いる原料粉体の母材としてホウ珪酸ガラス原料を用いることで、その焼成時に反射材1を構成するセラミックス焼結体の内部に析出するものである。
その一方で、アノーサイト8は、実施例1に係る反射材1の焼成温度を変動させたり、あるいは、原料粉体中に含有されるアルミナの含有量を変動させたりして製造条件が変わった場合に、その析出量が大幅に増減する場合がある。
そして、万一、反射材1の内部に十分な量のアノーサイト8が析出されない場合には、反射材1の内部において、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の拡散反射が不十分となり、その表面における反射率が向上されない。
【0027】
よって、このような事態を回避する目的で、実施例1に係る反射材1を製造する際に用いるホウ珪酸ガラス原料又はアルミナ又はこの両方の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えてもよい、つまり、原料粉体を構成するセラミックス原料の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えておいてもよい。
このように、実施例1に係る反射材1を製造する際に、原料粉体中に予め結晶化済アノーサイトを含有させておくことで、焼成温度等の製造条件が変動した場合でも実施例1に係る反射材1の内部に一定量のアノーサイト8を確実に含有させることができるという効果を有する。
なお、本願明細書においては、実施例1に係る反射材1を製造する際に用いる原料粉体中に予め含有させる結晶化済のアノーサイトを「アノーサイトA」とし、また、実施例1に係る反射材1の焼成時に、その内部に自然に析出するアノーサイトを「アノーサイトB」として区別している。
さらに、本願明細書中において単に「アノーサイト」と記載する場合には、「アノーサイトA」と「アノーサイトB」の両方を包含した広義のアノーサイトを指し示しているものとする。以下に示す他の実施例においても同様である。
【0028】
また、このようなアノーサイトAとしては、例えば、ホウ珪酸ガラス原料を予め850℃の温度条件下において焼成してなる結晶化ガラスを粉体状に粉砕した焼粉(この焼粉はその大部分がアノーサイトにより構成されている)や、あるいは、天然鉱物である灰長石等を用いることが可能である。
このように、実施例1に係る反射材1の製造に用いられるセラミックス原料の一部を、予めアノーサイトAに置き換えておくことで、実施例1に係る反射材1の内部に含有されるアノーサイトの量が、製造条件の変動に伴って大幅に増減するのを防止することができるという効果を有する。
従って、実施例1に係る反射材1の内部に自然に十分な量のアノーサイトBが析出した場合と同様に、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を拡散させることができる。
この結果、高反射性を有し、かつ、品質のバラツキの少ない反射材1を一層確実に提供することができるという効果を有する。
【0029】
言い換えると、実施例1に係る反射材1の製造に用いられるセラミックス原料の一部を、予めアノーサイトAに置き換えておくことで、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射する反射材1の焼成温度を低く設定した場合でも、反射材1の内部に紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の拡散反射効果を有するアノーサイトを確実に含有させることができることを意味しており、この結果、散乱体2の添加量を最小限度にすることができるという効果を有する。
加えて、実施例1に係る反射材1を焼成するための熱量を低減することができると同時に、散乱体2の添加量を削減することができる。
よって、実施例1に係る反射材1の製造コストを大幅に削減することができるので、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射することのできる反射材1を安価に提供することができるという効果を有する。
【0030】
さらに、実施例1に係る反射材1を製造する際に用いるホウ珪酸ガラス原料は、例えば、シリカ(SiO2),アルミナ(Al23),酸化ホウ素(B23),カルシア(CaO)からなり、これらの総重量を100wt%とした場合に、それぞれが81wt%,2wt%,13wt%,4wt%ずつ配合されたものである。なお、ここに示すホウ珪酸ガラス原料の配合比率はあくまでも一例であり、これらの配合比率はホウ珪酸ガラスの主要な特性、すなわち、五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛から選択される少なくとも1種から成る散乱体2を含有して焼成した際に、その変色を防止して高反射性を維持させるという特性を有するものであれば、どのようなホウ珪酸ガラス原料であっても使用可能である。
【0031】
実施例1に係る反射材1において紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)が高効率で反射される仕組みについて図2を参照しながらさらに詳細に説明する。
図2は、本発明の実施例1に係る反射材の内部断面を示す概念図である。
図2に示すように、実施例1に係る反射材1は、アノーサイト8(アノーサイトA及びアノーサイトB、又は、アノーサイトB)、アルミナ粒子9、散乱体2、及び、これらの3種類の粒子同士の空隙により形成される気孔10により形成されている。
このような反射材1の内部には、異なる屈折率を有する2種類の物質(粒子−粒子、または、粒子−気体)が接触する面、すなわち、紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を反射させる反射面が無数に形成されている。
このような実施例1に係る反射材1の内部に形成される反射面は、大きく2種類に大別することができ、一方は反射材1の固体部分を形成する粒子、すなわち、アノーサイト8又はアルミナ粒子9又は散乱体2と、気孔10とが接触する境界面11であり、もう一方は、アノーサイト8とアルミナ粒子9、アノーサイト8と散乱体2、アルミナ粒子9と散乱体2の接触面である粒界12である。
すなわち、屈折率の異なる3種類の粒子により実施例1に係る反射材1の固形部分を構成することで、セラミックス焼結体を構成する粒子を1種類とした場合に比べて(特に、アルミナのみからなるアルミナセラミックスに比べて)、反射面として作用する粒界12の面積を大幅に増大させることができるという効果を有する。
この結果、実施例1に係る反射材1の内部における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の拡散反射を大幅に促進することができるのである。
【0032】
さらに発明者らは、セラミックス焼結体12を構成する粒子である、散乱体2や、アルミナ粒子9や、アノーサイト8の粒子径、及び気孔10の直径が小さくなるにつれて紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)が粒子や気孔10の内部への光の透過が起こり難くなると同時に、その境界面11や粒界12における反射性が高まることを見出した。
従って、実施例1に係る反射材1を製造する際に用いられる原料粉体中の散乱体2やアルミナ、及びアノーサイト8の平均粒径を1μm以下とすることで、反射材1の内部における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の拡散反射を促進することができる。
よって、実施例1に係る反射材1の表面における紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)の反射率を高めることができるのである。
また、反射材1を形成するセラミックス焼結体は、その固体部分を構成する粒子の平均粒径が小さくなるほどその内部における粒子同士の結合構造が緻密になり、その機械的強度が高められるので、この点からも原料粉体中のアルミナや散乱体2、アノーサイトAの平均粒径は1μm以下であることが望ましい。
【0033】
実施例1に係る反射材1を製造する際に用いる原料粉体の配合例について詳細に説明する。
紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することのできる反射材1を製造するには、原料粉体を以下の配合例1に示すような割合で配合することが望ましい。
(配合例1)
原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、ホウ珪酸ガラス原料を54wt%、アルミナを36wt%、散乱体15として、例えば、五酸化ニオビウムを10wt%加えてもよい。
この場合、ホウ珪酸ガラス原料又はアルミナ又はこれら両方の一部をアノーサイトAに置き換えても良い。
また、原料粉体の総重量を100wt%とした場合、散乱体2の添加量は5wt%以上であることが望ましい。
これは、散乱体2の添加量が5wt%よりも少ないと、反射材1の内部に粒界12が十分に形成されず、反射材1の表面において紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射させることができない。なお、以下に示す他の配合例においても同様である。
また、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、アルミナの添加量は15〜40wt%の範囲内であることが望ましい。
これは、アルミナの添加量が15wt%よりも少ないと、反射材1の内部に粒界12が十分に形成されず、反射材1の表面において紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射させることができない。
他方、アルミナの添加量が40wt%よりも多いと、やはり反射材1の内部における粒界12の形成が促進されないためである。なお、以下に示す他の配合例においても同様である。
【0034】
一般に、アルミナの熱膨張係数は7.5×10-6程度であり、ホウ珪酸ガラスの熱膨張係数は3.2×10-6〜6.5×10-6の範囲内である。また、アノーサイト8の熱膨張係数は通常、3.2×10-6〜5.0×10-6程度であり、散乱体2の熱膨張係数はいずれもホウ珪酸ガラス原料の熱膨張係数の上限値よりも大きいので、実施例1に係る反射材1の内部におけるアノーサイト8の含有量を多くすることで、反射材1の熱膨張係数を縮減させる側にシフトさせることができる。
よって、実施例1に係る反射材1においては、その内部にアノーサイト8を含有させることで、反射材1の熱膨張係数を低減させることができ、反射材1に昇降温が繰り返された場合でも、亀裂が生じる等の不具合が生じるのを防止することができるという効果を有する。
【0035】
また、実施例1に係る反射材1においては、その高反射性が損なわれない程度に、原料粉体中のアルミナ、ホウ珪酸ガラス原料、散乱体2の配合比率を、あるいは、アルミナ、ホウ珪酸ガラス原料、散乱体2、アノーサイトAの配合比率をそれぞれ変動させることで、その熱膨張係数を所望の値に調整することが可能である。
この場合、実施例1に係る反射材1を、例えば、発光素子搭載用基板や、発光素子収納用パッケージに用いる反射体として用いる場合、反射材1の高反射性を維持しながら熱膨張係数を被接合対象である基板の熱膨張係数に近似させることができる。
従って、このような反射材1から成る反射体を用いた発光素子搭載用基板や、発光素子収納用パッケージが、発光素子の発光や消灯に伴って昇降温が繰り返しされた場合であっても、基板と反射体の接合部分に亀裂が生じたり、基板から反射体が剥離するといった不具合が生じるのを防止することができる。
【0036】
例えば、以下に示す配合例2,3のように原料粉体を配合した場合、反射材1の高反射性を保ちながら熱膨張係数を窒化アルミニウム焼結体や、窒化アルミニウム系化合物に近似させることができる。
(配合例2)
原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、熱膨張係数が4.0×10-6程度のホウ珪酸ガラス原料を60wt%とし、残りの40wt%をアルミナと散乱体2とにより構成すればよい。
この場合、散乱体2の添加量は、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、10〜20wt%の範囲内であることが望ましい。
(配合例3)
原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、熱膨張係数が4.0×10-6程度のホウ珪酸ガラス原料を60wt%とし、残りの40wt%をアルミナと散乱体2とアノーサイトAにより構成してもよい。
この場合、散乱体2の添加量は、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、10〜20wt%の範囲内であることが望ましい。
また、アノーサイトAの添加量は、原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、5wt%以下であることが望ましい。
【0037】
実施例1に係る反射材1の製造工程について図4を参照しながら説明する。
図3は実施例1に係る反射材の製造工程を示すフローチャートである。
図3に示すように、実施例1に係る反射材1を製造するには、ホウ珪酸ガラス原料とアルミナからなるセラミックス原料と、五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛から選択される少なくとも1種からなる散乱体2とを混合して原料粉体を調合する(ステップS1)。
このとき、粉体原料の総重量を100wt%とした場合に、散乱体2を5wt%以上となるよう、また、アルミナは15〜40wt%の範囲内となるよう配合することが望ましい。
また、セラミックス原料の一部をアノーサイトAに置き換えてもよい。この場合、アノーサイトAとして、例えば、上述の焼粉や灰長石、あるいは、これらの組み合わせを用いることが可能である。
【0038】
この後、例えば、ボールミル等によりステップS1において調合された粉体原料の平均粒径が1μm以下になるまで粉砕混合し(ステップS2)、次に、この混合物に、有機質バインダーとして、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等を、また、溶剤としてキシレン、トルエン、ブタノール等をそれぞれ単体で、あるいはこれらのうちの2種類又は3種類を混合して添加して(ステップS3)スラリー状物質を形成させる(ステップS3)。
なお、図3においては、原料の調合工程(ステップS1)において散乱体15を添加する場合を例に挙げて説明しているが、粉砕及び混合工程(ステップS2)の後に予め所望の平均粒径に調整した散乱体2を添加してもよい。
【0039】
続いて、ステップS3においてそれぞれの粒子の平均粒径が所定の範囲内となるよう調整されたスラリー状物質を、噴霧乾燥機を用いて顆粒状粉末にした後(ステップS4)プレス成形法により所望の形状に成形する(ステップS5)。
例えば、有機質バインダーを加えて噴霧乾燥した粒状体を、面圧800〜1500kgf/cm2の押圧力を加えてプレス成形して、例えば、平板状に形成したり、環状のセラミックス成形体とする。あるいは、中空部を有する容器のように形成することによれば、外形上厚みが不均一であるような形状にも成形することが可能である。
このように、プレス成形法を用いることによれば、様々な形状を有する反射材1を容易に製造することができるという効果を有する。
この工程の後に、上述のような工程を経て作製したセラミックス成形体を、例えば、酸化(O2)雰囲気中において、700〜1100℃の温度条件下で焼成すればよい(ステップS6)。
【0040】
なお、この焼成工程において反射材1を構成するセラミックス焼結体の結晶化率をほぼ100%とすることで、より具体的には反射材1を構成するセラミックス焼結体の結晶化率をほぼ100%とすることで、すなわち、反射材1を構成するセラミックス焼結体の熱膨張係数を測定した際にガラス転移点がない状態とすることで、実施例1に係る反射材1をその後の工程において再焼成した場合に寸法変化が生じるのを防止することができる。
また、実施例1に係る反射材1は、一旦焼成した後、酸化雰囲気中又は還元雰囲気中又は真空中において、かつ、この反射材1の焼成温度以下の温度条件下において再焼成した場合でも黄変等の変色が生じない。つまり、酸化雰囲気中又は還元雰囲気中又は真空中において再焼成した場合でも紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射させることができるという優れた性質を備えている。
従って、例えば、発光素子搭載用基板や、発光素子収納用パッケージの基板上に、反射材1から成る反射体を低融点金属から成る導電ペーストを用いて接合する際に、導電ペーストの焼成と反射材1から成る反射体の接合を同時に行うことができるという効果を有する。
あるいは、導電ペーストの焼成と、反射材1から成る反射体の接合と、この導電ペーストを用いた発光素子の基板上への接合を同時に行うことができるという効果を有する。
なお、発光素子搭載用基板や、発光素子収納用パッケージの基板への反射体の接合と、導電ペーストを焼成するための焼成工程を酸化雰囲気中で行うには、導電ペーストの主成分に、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、Ag、Auを用いればよい。また、この焼成工程を還元雰囲気中で行うには、導電ペーストの主成分にCuを用いればよい。さらに、この焼成工程を真空中で行うには、導電ペーストの主成分に、Ag−Cu−Ti合金、Ag−Cu−Zr合金を用いればよい。
このように、反射材1から成る反射体を低融点金属を主成分とする金属ろう材を用いて被接合対象に接合することで、例えば、合成樹脂製からなる接着剤を用いて接合した場合に比べてその接合強度を大幅に向上させることができるという効果を有する。
【0041】
よって、実施例1に係る反射材1によれば、可視光領域の光を含む紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することができるという効果を有する。
また、実施例1に係る反射材1は、ガラスセラミックスの一種であるセラミックス焼結体であるため、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない高耐久性を有する反射材を提供することができるという効果も有する。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の実施例2に係る反射体について図4を参照しながら詳細に説明する。(特に請求項5に対応。)
図4は本発明の実施例2に係る反射体の一例を示す概念図である。
図4に示すように、実施例2に係る反射体13は、上記のような実施例1に係る反射材1をプレス成形法により、例えば、環状に形成したものである。
なお、本願でいう「環状」とは、必ずしも「円形」のみを意味しているのではなく、多角形などの角を有するものでもよく、端部を備えることなく連続してつながっている状態を示すものである。また、実施例2に係る反射体13は必ずしも環状である必要はなく、光源から発せられる紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)をその表面において良好に反射することができるよう構成されるものであれば、必ずしも環状でなくともよい。すなわち、光源の外側面を、例えば、角柱状の部材を複数組み合わせて取り囲んで実施例2に係る反射体13を形成してもよい。
なお、図4では、例えば、発光素子搭載用基板上に接合したり、あるいは、発光素子収納用パッケージに用いる反射体13を例に挙げて説明しているが、上記目的以外の光学系機器に反射体13を用いる場合には、その成形工程においてプレス成形法を採用することで、使用目的に応じた適切な形状に容易に反射体13を成形することができるという効果を有する。
例えば、中空部を有する容器のような形状に実施例2に係る反射体13を成形することで、外形上厚みが不均一であるような形状に反射体13を成形することができる。また、この時、反射体13の製造に要する原材料を節約することができる。しかも、焼成時に焼成むらの発生を防止することができ、焼成に伴う変形等の不具合の発生を抑制することができるという効果も有する。
そして、実施例2に係る反射体13は、上述の実施例1に係る反射材1と同じ効果を有する。つまり、実施例2に係る反射体13によれば、その反射面13aにおいて可視光領域の光を含む紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を良好に反射することができ、しかも、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない高耐久性を有する反射体を提供することができるという効果を有する。
【0043】
また、実施例2に係る反射体13を発光素子搭載用基板上に接合したり、あるいは、発光素子収納用パッケージに用いる場合で、かつ、これらの基板上に250〜400nmにピーク波長を有する紫外光を発する発光素子が搭載され、さらに、250〜400nmにピーク波長を有する紫外光により励起されて可視光領域の光を放射する蛍光体を備える場合、反射体13は発光素子から放射され蛍光体に未到達の紫外光の集光性を高めると同時に、蛍光体から発せられた可視光領域の光の集光性をも高めることができるという効果を有する。
よって、上述のような紫外光を発する発光素子と、紫外光により励起される蛍光体を備える発光素子搭載用基板、あるいは、発光素子収納用パッケージの発光効率を向上することができるという効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明は紫外光から赤外光(250〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することができ、しかも、紫外線による劣化や、酸化による変色が生じない反射材及びそれを用いた反射体に関するものであり、照明装置や光学系機器に関する分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に係る反射材の内部において光が散乱する様子を示す概念図である。
【図2】実施例1に係る反射材の内部の様子を示す概念図である。
【図3】実施例1に係る反射材の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】実施例2に係る反射体の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0046】
1…反射材(セラミックス焼結体) 1a…上面 1b…下面 2…散乱体 3…光 4…入射光 5…反射光 6…散乱光 7…透過光 8…アノーサイト(ガラス成分微結晶) 9…アルミナ粒子 10…気孔 11…境界面(反射面) 12…粒界(反射面) 13…反射体 13a…表面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉体と、有機質バインダーとを混合したものを成形した後、焼成して成るセラミックス焼結体から成る反射材であって、
前記原料粉体は、セラミックス原料と、前記セラミックス焼結体の内部において可視光領域の光の散乱を促進する散乱体とを含有し、
前記セラミックス原料は、ホウ珪酸ガラス原料と、アルミナとを含有し、
前記散乱体は、五酸化ニオビウム,酸化ジルコニウム,五酸化タンタル,酸化亜鉛から選択される少なくとも1種であり、
前記原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、前記散乱体を5wt%以上含有し、
前記反射材は、その内部に前記ホウ珪酸ガラス原料から析出したアノーサイトを含有することを特徴とする反射材。
【請求項2】
前記原料粉体の総重量を100wt%とした場合に、前記アルミナを15wt%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の反射材。
【請求項3】
前記ホウ珪酸ガラス原料又はアルミナ又はこの両方の一部を結晶化済アノーサイトに置き換えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の反射材。
【請求項4】
前記反射材は、その熱膨張係数を測定した際にガラス転移点がない状態であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の反射材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の反射材からなり、プレス成形法により成形されることを特徴とする反射体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−162950(P2009−162950A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341374(P2007−341374)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(391039896)株式会社住友金属エレクトロデバイス (276)
【Fターム(参考)】