説明

反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法

【課題】緻密かつ耐擦傷性等の機械特性が強く、さらに透湿度が高く、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】透明基材フィルムと、透明基材フィルムの一方の面上形成されたハードコート層と、ハードコート層上に形成された反射防止層と、を順次積層してなる反射防止フィルムであって、反射防止層は、高屈折材料層と低屈折率層とを交互に複数積層させた積層体であり、反射防止層の最外層が低屈折率層であり、低屈折率層の膜密度が1.7g/cm以上2.2g/cm以下であることを特徴とする反射防止フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法に関し、特に、高密度で機械強度が強く、更に偏光板保護フィルムの加水分解等の劣化の少ない高耐久性の反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDやCRT、プラズマディスプレイパネル等の光学表示装置においては、太陽光や蛍光灯等の外光の写り込みを防止する反射防止フィルムが使用されることが多い。最近では、屋内での使用のみではなく、デジタルカメラや携帯電話、デジタルビデオカメラ等のモバイル機器やカーナビゲーションの普及により、屋外での使用も増えてきている。
【0003】
外光の写り込みが大きい屋外の使用においては、限りなくゼロに近い反射率を有する反射防止フィルムすなわちAR(Anti Reflection)フィルムが求められている。一般的に、ARフィルムは、数nmレベルの薄膜の多層成膜ができるドライコーティング技術が用いられている。中でも、スパッタリング法は、真空蒸着法やイオンプレーティング法、CVD(化学気相成長)法などの他のドライコーティング方法に比べて、膜厚均一性が高く、ピンホール等の欠陥が少ないため、より視認性に優れた薄膜の形成ができる。また、緻密な膜の形成が可能であることから、機械特性に非常に優れた薄膜の形成ができる。
【0004】
一方、LCD用途では、偏光板の保護フィルムに積層した構成の反射防止層が多く使用されている。近年、偏光板、あるいは、反射防止フィルムは、車載や屋外環境などでの使用の増加に伴い、より高い要求耐久性能が求められている。一般的に、トリアセチルセルロースフィルム(以下、「TACフィルム」という場合がある。)が、その吸湿性の高さから、偏光板の保護フィルムとして使用される。しかし、高温あるいは高温高湿の過酷条件下においては、TACフィルムの加水分解を起こしてしまうことから、耐久性に欠けることが問題となっている。
【0005】
そこで、様々な水蒸気バリア性を付与した反射防止層が開発されており、特許文献1によれば、基材の半分以下のバリア性を有した反射防止層を形成する技術を開示している。特許文献2によれば、プラスチックフィルムの一方の片面に300g/m/day〜1000g/m/dayの光線透過性無機薄膜層を、もう一方の片面に0g/m/day〜10g/m/dayのバリア性薄膜層を形成する技術を開示している。
【0006】
一方、現在の屋外環境下での使用頻度の上昇により、特に車載用途などでは、100℃近い極めて高い温度での耐久性が要求されている。このとき、水蒸気バリア性が高すぎると、外部からの水分の浸入はほとんどないものの、特に、高温環境化においては、偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分が膜中に滞ることから、むしろ耐久性に欠けるという問題がわかってきた。そのため、内部発生した水蒸気の外部への透過性が適度に高い反射防止フィルムの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2004−53797号公報
【特許文献2】特開平10−10317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、緻密かつ耐擦傷性等の機械特性が強く、さらに透湿度が高く、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、透明基材フィルムと、透明基材フィルムの一方の面上形成されたハードコート層と、ハードコート層上に形成された反射防止層と、を順次積層してなる反射防止フィルムであって、反射防止層は、高屈折材料層と低屈折率層とを交互に複数積層させた積層体であり、反射防止層の最外層が低屈折率層であり、低屈折率層の膜密度が1.7g/cm以上2.2g/cm以下であることを特徴とする反射防止フィルムとしたものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、高屈折材料層は酸化ニオブであり、低屈折率層は酸化シリコンであることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルムとしたものである
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、反射防止層はスパッタリング法を用いて形成され、成膜圧力を0.5Pa以上2.0Pa以下としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、ハードコート層と反射防止層との間に、金属、または、2種類以上の金属を有する合金、または、金属化合物、または、それらの混合物よりなり、1層以上からなるプライマー層を形成したことを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0012】
本発明の請求項5に係る発明は、反射防止層上に防汚層を形成したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0013】
本発明の請求項6に係る発明は、防汚層の表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項5に記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0014】
本発明の請求項7に係る発明は、透明基材フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0015】
本発明の請求項8に係る発明は、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m/day以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0016】
本発明の請求項9に係る発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板としたものである。
【0017】
本発明の請求項10に係る発明は、透明基材フィルム、透明基材フィルムの一方の面上にハードコート層、反射防止層、を順次積層し、反射防止層は、高屈折材料層と低屈折率層とを交互に複数積層させた積層体であり、反射防止層の最外層が低屈折率層であり、低屈折率層の膜密度が1.7g/cm以上2.2g/cm以下であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0018】
本発明の請求項11に係る発明は、高屈折材料層は酸化ニオブであり、低屈折率層は酸化シリコンであることを特徴とする請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0019】
本発明の請求項12に係る発明は、反射防止層はスパッタリング法を用いて形成され、成膜圧力を0.5Pa以上2.0Pa以下としたことを特徴とする請求項10又は11に記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0020】
本発明の請求項13に係る発明は、ハードコート層と反射防止層との間に、金属、または、2種類以上の金属を有する合金、または、金属化合物、または、それらの混合物よりなり、1層以上を積層したプライマー層を形成したことを特徴とする請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0021】
本発明の請求項14に係る発明は、反射防止層上に防汚層を形成したことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0022】
本発明の請求項15に係る発明は、防汚層表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項14に記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0023】
本発明の請求項16に係る発明は、透明基材フィルムはトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0024】
本発明の請求項17に係る発明は、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m/day以上であることを特徴とする請求項10乃至16のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法としたものである。
【0025】
本発明の請求項18に係る発明は、請求項10乃17のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、緻密かつ耐擦傷性等の機械特性が強く、さらに透湿性が高く、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルム及びその製造方法並びに反射防止フィルムを用いた偏光板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。実施の形態において、同一構成要素には同一符号を付け、実施の形態の間において重複する説明は省略する。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100を示した概略断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100は、透明基材フィルム1上に、ハードコート層2、プライマー層3、反射防止層4が順次積層されている。さらに反射防止層5上に防汚層5が積層されている。
【0029】
本発明の実施の形態に係る透明基材フィルム1としては、偏光子を吸着させたポリビニルアルコールフィルムの表面保護層となる基材を適用することができる。透明基材フィルム1としては、本発明の効果を奏すれば、材料に制限はないが、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂は特に保護性能が高く、好適に用いることができるが本発明はこれらに限定されるわけではない。更に、これらを使用する場合、その酢化度は問わない。透明基材フィルム1の厚さは、目的の用途に応じて、適宜選択すればよく、通常25μm以上300μm以下程度のものを使用することができる。また、透明基材フィルム1は、可塑剤や紫外線吸収剤、劣化防止剤等の添加物が含まれてもいてもよい。
【0030】
透明基材フィルム1上に反射防止層4の機械強度を十分に発揮させるためのハードコート層2を形成することができる。本発明の実施の形態に係るハードコート層2としては、電離線や紫外線硬化型の樹脂、あるいは、熱硬化性樹脂が使用でき、紫外線硬化型のアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド等のアクリル系樹脂や有機珪素系樹脂やポリシロキサン樹脂が最適であるが本発明はこれらに限定されるわけではない。これらの材料の中には、硬化性を向上させるために、重合開始剤を添加してもよい。ハードコート層2の厚みとしては、物理膜厚0.5μm以上、好ましくは、3μm以上20μm以下である。また、ハードコート層2には、平均粒子0.01μm以上3μm以下の透明微粒子を分散させて、防眩処理を施すことができる。
【0031】
透明基材フィルム1上にハードコート層2を積層した後、アルカリ鹸化処理が施されることが好ましい。特に、透明基材フィルム1にトリアセチルセルロースフィルムを用いた場合、トリアセチルセルロースフィルムはエステル基を加水分解するため、水酸基を付与するアルカリ鹸化処理を施すことが好ましく、これにより、後工程である偏光膜10との貼り合わせにおける密着性が著しく向上する(図2参照)。また、アルカリ鹸化処理は液中の処理であるため、侵食・浸透性が高く、ハードコート層2においても、その後積層する層との密着性が向上する。
【0032】
また、アルカリ鹸化工程の後、透明基材フィルム1と接する面とは反対側のハードコート層2に表面処理を施しても良い。このとき、表面処理方法としては、コロナ放電処理や電子ビーム処理、火炎処理、グロー放電処理及び大気圧プラズマ処理等の処理が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。本発明の実施の形態では特に低温プラズマ表面処理を施すのが好ましい。低温プラズマ処理を行うことで、親水性の向上や、適度に表面を荒らすことにより、その後に積層する薄膜との密着性を向上させることができる。
【0033】
この後、ハードコート層2上にプライマー層3を形成することができる。本発明の実施の形態に係るプライマー層3の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、アルミニウム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム及びパラジウム等の金属、または、これら金属の2種類以上からなる合金、または、これらの酸化物、弗化物、硫化物及び窒化物などが挙げられ、これは混合物であってもよい。また、プライマー層3は2層以上の構成であってもよい。
【0034】
本発明の実施の形態に係るプライマー層3としては、密着性を向上させるために用いることができる。その厚みは、透明基材フィルム1の透明性を損なわない程度あればよく、好ましくは、物理膜厚で、1nm以上10nm以下程度である。これらのプライマー層3は、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びCVD(化学気相成長)法などのドライコーティング方法を用いることが好ましい。特にスパッタリング法が好ましい。
【0035】
本発明の実施の形態に係る反射防止層4としては、波長550nmにおける光の屈折率が1.6未満でかつ波長550nmにおける光の消衰係数が0.5以下の低屈折率透明薄膜層単層からなるものや、波長550nmにおける光の屈折率が1.9以上の高屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6未満の低屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6〜1.9程度の中屈折率透明薄膜層などの屈折率の異なる光学薄膜を積層した複数層からなるものなどが挙げられる。複数層からなる反射防止層は反射率がきわめて低く、反射防止性能が高いため好ましい。複数層からなる反射防止層4としては、基材側より順番に、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層とを積層した構成のものが挙げられる。
【0036】
これらの光学薄膜層からなる反射防止層4は、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びCVD(化学気相成長)法などのドライコーティング方法を用いて形成することができるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。膜厚均一性が高く、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性に優れ、緻密であり、耐擦傷性などの機械特性に優れた薄膜の形成が可能であるスパッタリング法を用いることが好ましい。中でも、より高い成膜速度と高い放電安定性により高生産性とを得ることができることから、中周波領域の電圧印加により成膜を行うデュアル・マグネトロン・スパッタリング(DMS)法が最適である。
【0037】
高屈折率透明薄膜層の材料としては、インジウム、錫、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、カリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム及びハフニウム等の金属、あるいは、これら金属の2種類以上からなる合金、これらの酸化物、弗化物、硫化物及び窒化物などが挙げられる。具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化セリウム等が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。また、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要はなく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。中でも、スパッタリング法を用いる場合は、作製した薄膜のピンホールの少なさから、特に酸化ニオブ(Nb)が最適な材料である。
【0038】
低屈折率透明薄膜層の材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化チタン、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ハフニウム及び弗化ランタン等の材料が、挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。更に、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要なく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。特に、光学特性、機械強度、コスト、成膜適正などの面などから、酸化シリコン(SiO)が最適な材料である。
【0039】
ところで、これらの反射防止フィルムの水蒸気透過量は、基材や機能層の材質、厚み、更には温湿度の影響を受けて変化する。透湿率の温度依存性は以下に示すアレニウス式で表される。
【数1】


P:透湿率(単位厚さ、単位水蒸気圧差あたりの水蒸気透過速度)
:絶対零度の透湿率
E:透湿率の活性化エネルギー
R:気体定数
T:絶対温度
【0040】
図2に示すように、偏光板101の表面保護膜として汎用されているトリアセチルセルロースフィルム(透明基材フィルム1)の場合、厚さ100μmの水蒸気透過速度は温度25℃相対湿度90%で120g/m/day以上160g/m/day以下、温度40℃相対湿度90%で380g/m/dayとなる。このトリアセチルセルロースフィルム上に、様々な層を積層することで、水蒸気はトリアセチルセルロースフィルムを透過しにくくなる。特に、優れた機械特性を有し、緻密な膜を積層してなる反射防止層4の水蒸気透過速度は、ほぼゼロに近く、優れた水蒸気バリア性能を示す。特に、スパッタリング法で作製した膜は、緻密な膜が形成されるため、水蒸気バリア性能の高い膜が形成することができる。
【0041】
この時、反射防止層4の水蒸気バリア性能が高すぎると、反射防止フィルム100内部の水分が外部への逃げ道をなくし、反射防止フィルム100内部に滞り、耐久性を低下させる一要因となることから、環境耐久性を必要とする用途においては、反射防止フィルム100全体の水蒸気透過速度を適度に速めるように性能を改善する必要がある。
【0042】
複数の無機化合物を積層させてなる反射防止層4では、少なくともどれか1層が優れた水蒸気バリア性を有するものであると、その反射防止層4を有する反射防止フィルム100全体の水蒸気バリア性能が高くなる。また、その膜の密度が高くなるほど、水蒸気バリア性能は高くなる傾向にある。
【0043】
すなわち、本発明の実施の形態においては、反射防止層4の酸化シリコンからなる低屈折率層の膜密度を1.7g/cm以上2.2g/cm以下とすることによって、スパッタリング法の大きな利点である緻密な膜の形成が可能な特徴を有したまま、緻密な膜ゆえの特徴であった低い透湿性を改善し、適度な透湿性かつ機械強度や密着性が良い高耐久性能を有した反射防止層4の形成ができる。
【0044】
本発明の実施の形態における反射防止層4の酸化シリコンからなる低屈折率層の膜密度が2.2g/cm以上であると水蒸気透過度が低くなりすぎ、図2に示すように、その後の工程で偏光板101を形成した時、偏光膜10や透明基材フィルム1(TACフィルム)そのものから発生した水分が膜中に滞ってしまうため、耐熱、耐湿熱などの耐久性試験で十分な性能を得ることができない。逆に、膜密度を1.7g/cm以下とすると、十分な耐擦傷性や密着性などの機械特性を得ることができない。
【0045】
また、反射防止層4の酸化シリコンからなる低屈折率層の膜密度を1.7g/cm以上2.2g/cm以下にする方法としては、成膜方法の選定などを挙げることができるが、特にスパッタリング法であれば、成膜圧力を適正化すればよく、容易に実現することができる。スパッタリング法による適正な成膜圧力は、0.5Pa以上2.0Pa以下である。成膜圧力が0.5Pa以上2.0Pa以下の範囲であれば、スパッタリング特有の機械特性を有したままで、ポーラスな膜を作製することができ、高耐久性能を有した反射防止層4の作製ができる。成膜圧力が0.5Pa以下だと、成膜した際に耐熱性及び耐湿熱性が劣化してしまい、成膜圧力が2.0Pa上だと、成膜した際に耐擦傷性が悪くなってしまう。
【0046】
ここで、スパッタリング法は、膜厚の均一制御性に優れ、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性が高く、生産段階においては収率が高い利点を有する。更に、非常に緻密な膜を形成できるため、耐擦傷性等の機械特性に優れた反射防止層の形成ができるという大きな利点を有する。一方で、このスパッタリング法を用いた成膜で形成した薄膜は、その膜の高密度性から、他の成膜方法に比べて、水蒸気のバリア性能が高いという特徴を持つ。
【0047】
必要に応じて、反射防止層4上の最表面層に防汚層5を形成することができる。防汚層5は、反応性官能基と結合している珪素原子を2つ以上有するフッ素含有珪素化合物から得られた層である。本発明の実施の形態における反応性官能基とは、反射防止層4の最上層と反応し、結合しうる基を意味する。また、フッ素含有珪素化合物の反応性官能基同士を反応させることにより形成される層である。これにより、表面に汚れが付きにくく、更に、汚れが付いた場合でも拭き取り性能を上げることができる。
【0048】
反射防止層4の最表面層上に防汚層5を形成した場合には、防汚層5表面の算術平均粗さRaは、1.0nm以上5.0nm以下であることが好ましい。防汚層5表面の算術平均粗さRaが1.0nm以下の場合は、表面に汚れが付き易く、耐擦傷性が低下してしまう。また、防汚層5表面の算術平均粗さRaが5.0nm以上の場合は、表面に汚れが付いた場合の拭き取り性能が低下してしまい、耐熱、耐湿熱などが低下してしまう。
【0049】
本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100は、適度な透湿性を保持し、かつ、良好な密着性を有するために、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m/day以上であることが好ましく、35g/m/day以上250g/m/day以下であることがさらに好ましい。
【0050】
次に、図2を参照して、この反射防止フィルム100を有する偏光板101について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100を有する偏光板101を示した概略断面図である。この偏光板101は、反射防止フィルム100と、ヨウ素により染色した偏光膜(ポリビニルアルコールフィルム)10と、反対面の透明基材フィルム1と同じ材質の透明基材フィルム1と、をこの順に積層し、貼り合わせることにより作製することができる。なお、反射防止フィルム100以外の層構成については、これに限らず、公知の技術を採用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
図1に示すように、透明基材フィルム1に厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)を用い、紫外線硬化型アクリル系樹脂を塗布し、乾燥・紫外線硬化させて5μmのハードコート層2を形成した後、40℃の1.5N−NaOH溶液に透明基材フィルム1とハードコート層2とを2分間浸漬し、水洗し乾燥させた。
【0053】
その後、鹸化処理を施したハードコート層2上にグロープラズマ処理を施し、プライマー層3として、スパッタリング法にて、SiO層を、膜厚3nmで成膜した。その後、反射防止層4をスパッタリング法にて、任意の層構成及び任意の膜厚で積層した。このようにして得られた反射防止フィルム100について、低屈折率層の膜密度及び反射防止フィルムの水蒸気透過量を測定した。
【0054】
[実施例1]
反射防止層4を成膜するときの成膜圧力を、0.8Pa、反射防止層4の層構成をハードコート層2側からNb/SiO/Nb/SiO、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように成膜を実施した。
【0055】
[比較例1]
反射防止層4を成膜するときの成膜圧力を、0.3Pa、反射防止層4の層構成をハードコート層2側からNb/SiO/Nb/SiO、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように成膜を実施した。
【0056】
[比較例2]
反射防止層4を成膜するときの成膜圧力を、2.5Pa、反射防止層4の層構成をハードコート層2側からNb/SiO/Nb/SiO、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように成膜を実施した。
【0057】
このように、作製した反射防止フィルム100のハードコート層2を形成していない面に、図2に示すように、偏光膜10としてヨウ素により染色した厚さ25μmのポリビニルアルコールフィルムを用い、透明基材フィルム1として厚さ80μmのトリアセチルセルロースを偏光膜10上に貼り合わせ、偏光板101を作製した。
【0058】
[評価]
実施例及び比較例で得られたサンプルを以下の方法で評価した。なお、サンプルの裏面とは、偏光膜10と透明基材フィルム1とを形成した面をいう。結果は表1に示す。
【0059】
(1)反射率測定
日立製作所製U4000型の分光光度計を用いて、測定を実施した。サンプルの裏面側は艶消し黒塗りスプレーにより裏面からの反射をカットする処理を施し、測定の際には、正反射5°ユニットを使用した。
【0060】
(2)機械強度
スチールウール#0000を擦傷試験機に固定し、500gfの荷重をかけて、10往復の擦傷試験を各サンプルの反射防止層4に対して行い、サンプルの磨耗状態(傷本数)を目視で観測した。判定基準を以下に示す。
◎:傷無し
○:傷10本未満
×:傷10本以上
【0061】
(3)耐熱性試験
実施例及び比較例で作製した偏光板101を、粘着フィルムを介して、ガラスに貼り付け、温度95℃、相対湿度5%のドライ環境の条件下に設定した恒温恒湿槽内に500時間、保持し、耐久性の評価を行った。トリアセチルセルロースフィルム(透明基材フィルム1)の加水分解などの劣化の有無を、目視にて及び酢酸臭の確認及び赤外分光測定におけるカルボニル基の吸収スペクトルの変化により判断した。
◎:劣化なし
○:一部劣化あり
×:劣化大
【0062】
(4)耐湿熱性試験
実施例及び比較例で作製した偏光板を、粘着フィルムを介して、ガラスに貼り付け、温度60℃、相対湿度95%の環境の条件下に設定した恒温恒湿槽内に500時間、保持し、耐久性の評価を行った。トリアセチルセルロースフィルム(透明基材フィルム1)の加水分解などの劣化の有無を、目視にて酢酸臭の確認及び赤外分光測定におけるカルボニル基の吸収スペクトルの変化により判断した。
◎:劣化なし
○:一部劣化あり
×:劣化大
【0063】
(5)水蒸気透過度
それぞれ、偏光膜10を貼り付ける前の反射防止フィルム100において、温度40℃、相対湿度90%Rhの環境下における、水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度の測定は、JIS Z0208に準ずる方法を用いて測定した。
【0064】
(6)膜密度
反射防止層4の低屈折率層の膜密度を、Rigaku製XRR(X線回折装置)を用いて測定した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1で作製した反射防止フィルム100を備えた偏光板101においては、反射率0.2%以下の極めて低い反射防止機能を持ち、優れた機械特性、優れた環境耐久性を有しており、本発明の効果が確認できる。一方、比較例1では、耐擦傷性は優れているものの、耐熱性及び耐湿熱性にて、劣化が見られた。一方、比較例2では、逆に耐熱性及び耐湿熱性は優れているものの、耐擦傷性が悪いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係る反射防止フィルムの構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る反射防止層を有した偏光板を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 透明基材フィルム
2 ハードコート層
3 プライマー層
4 反射防止層
5 防汚層
10 偏光膜
100 反射防止フィルム
101 反射防止層を用いた偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの一方の面上形成されたハードコート層と、
前記ハードコート層上に形成された反射防止層と、を順次積層してなる反射防止フィルムであって、
前記反射防止層は、高屈折材料層と低屈折率層とを交互に複数積層させた積層体であり、前記反射防止層の最外層が低屈折率層であり、前記低屈折率層の膜密度が1.7g/cm以上2.2g/cm以下であることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
前記高屈折材料層は酸化ニオブであり、前記低屈折率層は酸化シリコンであることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記反射防止層はスパッタリング法を用いて形成され、成膜圧力を0.5Pa以上2.0Pa以下としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層と反射防止層との間に、金属、または、2種類以上の金属を有する合金、または、金属化合物、または、それらの混合物よりなり、1層以上からなるプライマー層を形成したことを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記反射防止層上に防汚層を形成したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記防汚層の表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項5に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記透明基材フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m/day以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項10】
透明基材フィルム、前記透明基材フィルムの一方の面上にハードコート層、反射防止層、を順次積層し、
前記反射防止層は、高屈折材料層と低屈折率層とを交互に複数積層させた積層体であり、前記反射防止層の最外層が低屈折率層であり、前記低屈折率層の膜密度が1.7g/cm以上2.2g/cm以下であることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記高屈折材料層は酸化ニオブであり、前記低屈折率層は酸化シリコンであることを特徴とする請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記反射防止層はスパッタリング法を用いて形成され、成膜圧力を0.5Pa以上2.0Pa以下としたことを特徴とする請求項10又は11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記ハードコート層と前記反射防止層との間に、金属、または、2種類以上の金属を有する合金、または、金属化合物、または、それらの混合物よりなり、1層以上を積層したプライマー層を形成したことを特徴とする請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記反射防止層上に防汚層を形成したことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記防汚層表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項14に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記透明基材フィルムはトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項17】
温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m/day以上であることを特徴とする請求項10乃至16のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項10乃17のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−109850(P2009−109850A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283468(P2007−283468)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】