説明

取代の評価方法及びウェーハの製造方法

【課題】ウェーハの表裏両面を同時に加工して所定量除去する加工プロセスにおいて、製品となるウェーハを用いて表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価でき、それによって表裏取代がそれぞれ調整されたウェーハの製造を可能にする取代の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】外周が面取りされたウェーハの表裏両面を加工して所定量除去する加工プロセスにおいて、加工後の前記ウェーハの取代を評価する取代の評価方法であって、加工前後の前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価することを特徴とする取代の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの両面を加工するプロセスにおいて、そのプロセスでの表裏両面の取代を評価する評価方法と、該評価方法を用いて品質を安定させて加工するウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般にシリコン鏡面ウェーハ等の半導体ウェーハの製造方法は、単結晶製造装置によって製造された単結晶棒をスライスして薄円板状のウェーハを得るスライス工程と、該スライス工程で得られたウェーハの割れ欠けを防ぐためにその外周のエッジ部を面取りする面取り工程と、面取りされたウェーハをラッピングしてこれを平坦化するラッピング工程と、面取り及びラッピングされたウェーハ表面に残留する加工歪を除去するエッチング工程と、エッチングされたウェーハの表面を鏡面状に仕上げるポリッシュ工程と、ポリッシュされたウェーハを洗浄する洗浄工程からなる。
【0003】
また、平坦化する工程にはラッピング以外にも、砥石を用い両面を同時に研削する両頭研削といわれる技術も用いられる。さらに、ポリッシング工程も両面を同時に研磨する両面研磨と片面を研磨する片面研磨とがある。
ところで、ラッピング工程の目的は、例えば、スライスされたウェーハを所定の厚みに揃えると同時にその平坦度、平行度などの必要な形状精度を得ることである。一般に、このラッピング加工後のウェーハが最も形状精度が良いことが知られており、ウェーハの最終形状を決定するとも言われ、ラッピング工程での形状精度がきわめて重要である。
【0004】
また、ラッピング技術として従来から、同心円形状の定盤の自転運動、円形のウェーハ保持用キャリアの装置本体に対する公転運動、円形のウェーハ保持用キャリアの自転運動の三つの運動を組み合わせ、定盤とウェーハに相対運動を与えることにより、ラップを行うラッピング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このラッピング装置は、例えば、図8(A)(B)に示すように構成される。
【0005】
図8(A)(B)に示すように、ラッピング装置10は上下方向に相対向して設けられた下定盤12及び上定盤11を有している。これら上下定盤11、12は不図示の駆動手段によって互いに逆方向に回転する。下定盤12はその中心部上面にサンギア13を有し、その周縁部には環状のインターナルギア14が設けられている。
また、ウェーハ保持用キャリア15の外周面には上記サンギア13及びインターナルギア14と噛合するギア部16が形成され、全体として歯車構造をなしている。このウェーハ保持用キャリア15には複数個の保持孔17が設けられている。ラップされるウェーハWはこの保持孔17内に配置され、保持される。
【0006】
ウェーハを保持するキャリア15は上下定盤11、12の間に挟み込まれ、対向しながら回転する上下定盤11、12の間で遊星歯車運動、すなわち、自転及び公転する。ラッピングを行うには、スラリーと呼ばれる酸化アルミニウム(Al)、炭化珪素(SiC)等の研磨砥粒と界面活性剤を含む水などの液体の混濁液をノズルから上定盤11に設けられた貫通孔18を介して上下定盤11、12の間隙に流してウェーハWと上下定盤11、12の間に砥粒を送り込み、上下定盤11、12の形状をウェーハWに転写している。
【0007】
ここで高平坦度を得るためには上下定盤の形状を正確にウェーハに転写する必要があり、相対運動を行っているウェーハと上下定盤の間のスラリーの動きは無視できない存在である。スラリー中の砥粒は絶えず磨耗し粒径と切れ味が変化するので、スラリーの動きに偏りがありスラリーの流れの悪いところでは、粒径が小さく切れ味が悪い砥粒でラップする部分ができ、この部分は厚くなってしまう。このため上下定盤には一定間隔で方眼状に溝を設け、ここから不要なスラリーや切りくずを排出している。
また、上下定盤及びキャリアは使用するにつれ磨耗するため、一定期間使用した後に交換する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−180624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したラッピング装置などの両面を同時に加工する加工装置では、全体の取代(或いは、削代)は一定であっても、表裏(上下)の取代のバランスが知らないうちにずれる可能性がある。例えば、上下定盤及びキャリアの磨耗などにより、表裏両面の取代が経時変化していく可能性がある。
一般的に、ラッピング工程などの両面を同時に加工する工程における取代の管理は、加工前後のウェーハの中心厚さを測定し、この厚さの変化などで評価する。しかし、この評価方法では、全体の取代は把握できるものの、表裏取代をそれぞれ区別して評価することはできない。
【0010】
そこで従来では、例えば、図9に示すように、ダミーのウェーハを用意し、両面にレーザーマークなどを印字し、加工前後でそのドット深さがどのように変化したかをレーザー顕微鏡を用いて確認し表裏取代を評価している。
この従来の評価方法では、ウェーハの両面、特に表面(通常デバイスが形成される面)側にレーザーマークを打つ必要があるため、製品そのものを直接評価することができず、ダミーのウェーハで確認する必要がある。
【0011】
また、この方法はレーザーマークの印字やドット深さの測定などに手間がかかるので、簡便に評価することが困難である。従って、測定頻度を増やすことが困難であった。またドットにスラリーが入った場合など、ドット深さの測定精度が悪化する。さらに、ウェーハの加工前も比較的平らな状態でない場合にはレーザー顕微鏡でドット深さを確認する際の測定精度が悪く、ばらつきが大きくなってしまう。例えば、加工前のスライスウェーハにはソーマークと呼ばれる凹凸があり、この凹凸の影響により測定精度が悪くなってしまうことがある。
【0012】
なお、生産性向上や原単位の削減を行う場合、取代は少なくしたほうが好ましいため、品質を維持するためのぎりぎりの取代に設定することが望ましい。
このように取代が少ない場合、特に加工の表裏取代の差などが問題となってくる。例えば、表裏取代の差が大きく変動すると、前工程の履歴(スライス工程のソーマークなど)が取代不足で残ってしまう可能性があるからである。また経時変化して表裏取代差が変動したことに気付かないと大量の不良を出す可能性がある。そこで、取代が少ない場合、表裏取代差の管理も頻度を増やす必要がある。
また、原料のウェーハ形状がフラットでない場合、ウェーハ面内(特に外周部)での取代差や、面内がテーパー状に加工されていないか確認する必要がある。
【0013】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、シリコンウェーハ等のウェーハの表裏両面を同時に加工して所定の取代で除去する、例えばラッピングなどの加工プロセスにおいて、製品となるウェーハを用いて表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価でき、それによって表裏取代がそれぞれ調整されたウェーハの製造を可能にする、取代の評価方法と、ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、外周が面取りされたウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工プロセスにおいて、加工後の前記ウェーハの取代を評価する取代の評価方法であって、加工前後の前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価することを特徴とする取代の評価方法が提供される。
このような評価方法であれば、製品となるウェーハを直接評価することができ、表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価できる。また、測定頻度を容易に増やすことができ、測定時間を増やすことなく測定精度を容易に向上できる。
【0015】
このとき、加工前の前記ウェーハの表面の面取り角をθ1、裏面の面取り角をθ2としたとき、前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を以下の式、表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅―加工後のウェーハ表面の面取り幅)×tanθ1、裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅―加工後のウェーハ裏面の面取り幅)×tanθ2、によって算出することができる。
このようにすれば、それぞれの表裏両面の取代を容易に評価できる。
【0016】
またこのとき、前記加工プロセスを両面ラッピング、両頭研削、両面研磨のいずれかとすることができる。
このように、本発明の評価方法は、ウェーハの表裏両面を同時に加工して所定の取代で除去する様々な加工プロセスに適応できる。
【0017】
また、本発明によれば、少なくとも、ウェーハの外周を面取りする工程と、前記ウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工を施す工程と、加工後の前記ウェーハの取代を評価する工程とを有するウェーハの製造方法において、さらに、前記ウェーハの表裏両面の加工工程の前後に、前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅を測定する工程を有し、前記ウェーハの取代を評価する工程において、前記ウェーハの表裏面の加工前後に測定した前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価することを特徴とするウェーハの製造方法が提供される。
【0018】
このような製造方法であれば、製品となるウェーハを用いて表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価して、その評価結果を基に表裏面それぞれの取代が別々に調整されたウェーハを製造できる。
【0019】
このとき、加工前の前記ウェーハの表面の面取り角をθ1、裏面の面取り角をθ2としたとき、前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を以下の式、表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅―加工後のウェーハ表面の面取り幅)×tanθ1、裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅―加工後のウェーハ裏面の面取り幅)×tanθ2、によって算出して、それぞれの表裏両面の取代を評価する。
【0020】
またこのとき、前記ウェーハの取代の評価工程における評価結果に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を調整するために、次回の前記ウェーハの表裏面の加工工程における加工条件を調整する工程を有することが好ましい。
このような方法であれば、ウェーハの表裏面の取代差を管理しながら安定した品質のウェーハを製造できる。
【0021】
またこのとき、前記ウェーハの表裏両面の加工が、両面ラッピング、両頭研削、両面研磨のいずれかによって行われることができる。
このように、本発明の製造方法は、ウェーハの表裏両面を同時に加工して所定の取代で除去する様々な加工プロセスに適応できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、外周が面取りされたウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工プロセスにおいて、加工前後のウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価するので、製品となるウェーハを直接評価することができ、表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の取代の評価方法を説明する説明図である。
【図2】本発明のウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明のウェーハの製造方法で用いることができるラッピング装置の一例を示す概略図である。
【図4】実施例2−4におけるウェーハの取代評価位置を説明する説明図である。
【図5】実施例2の結果を示す図である。
【図6】実施例3の結果を示す図である。
【図7】実施例4の結果を示す図である。
【図8】一般的に用いられるラッピング装置の概略図である。(A)装置の概略図。(B)装置の上面概略図。
【図9】従来の表裏取代の評価方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ウェーハ両面を所定の取代で除去する加工プロセスにおいて、例えば、ラッピング工程では、前工程のスライス工程で発生した加工変質層(歪み、ダメージ)を除去するため、一定の取代で加工している。この取代は生産性や原材料のコストなどを考慮すると少ないほうが好ましい。
取代が十分多い加工の場合、表裏の取代差が多少あったとしても、加工後の品質には影響がないため、加工前後の厚さ変化から全体の取代を算出する従来の方法を用いることができる。
【0025】
しかし、近年、少ない取代で加工する場合が増えてきており、この場合、全体の取代はもちろん、例えば、デバイスが形成される表面の品質を安定させるために必要な取代量を確保する必要がある。すなわち、表裏両面それぞれで狙った取代を確保し、ソーマークなどのような前工程の履歴を除去するように制御する必要がある。そのため、表裏の取代差を管理することが重要である。
【0026】
しかし、取代を加工前後のウェーハの厚さの変化によって管理する従来の方法では、表裏取代差(バランス)などを簡便に評価することが困難である。
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を簡単に算出できることに想到し、本発明を完成させた。
【0027】
以下に本発明の取代の評価方法について説明する。
図1は、本発明の取代の評価方法を説明する説明図である。
図1に示すように、評価するウェーハの外周は面取りされている。ここで、表面側の面取り幅はX1、面取り角はθ1であり、裏面側の面取り幅はX2、面取り角はθ2である。
本発明の取代の評価方法は、このような外周が面取りされたウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工を施す加工プロセスにおいて、加工後のウェーハの取代を評価する方法である。
【0028】
まず、加工前におけるウェーハの面取り幅X1、X2及び面取り角θ1、θ2を面取り形状測定装置によって測定する。
次に、ウェーハの表裏両面を加工して所定量除去する。そして、加工後におけるウェーハの面取り幅X1、X2を面取り形状測定装置によって再び測定する。
その後、加工前後のウェーハの表裏両面の面取り幅の変化量に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価する。
【0029】
具体的には、以下の式によって取代を算出する。
表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅X1―加工後のウェーハ表面の面取り幅X1)×tanθ1
裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅X2―加工後のウェーハ裏面の面取り幅X2)×tanθ2
【0030】
このような評価方法であれば、ダミーのウェーハを用いることなく、製品となるウェーハを直接評価することができるので、評価精度を向上でき、コストを削減できる。また、表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価できる。また、測定精度を向上するために、複数のウェーハを測定したり、ウェーハ面内の複数の位置の面取り幅に基づいて取代を評価したりして測定頻度を増やすことを容易に行え、これによって多大な評価時間がかかることもない。
ここで、上記した加工プロセスを両面ラッピング、両頭研削、両面研磨のいずれかとすることができる。
このように、本発明の評価方法は、ウェーハの表裏両面を同時に加工して所定の取代で除去する様々な加工プロセスに適応できる。
【0031】
次に本発明のウェーハの製造方法について説明する。
図2に本発明のウェーハの製造方法の一例のフロー図を示す。
図1に示すように、まず、ウェーハの外周を面取りする(図2のA)。この工程は特に限定されず、従来の方法と同様にして面取りを行うことができる。
次に、加工前におけるウェーハの面取り幅X1、X2及び面取り角θ1、θ2を面取り形状測定装置によって測定する(図2のB)。この測定は、面取り品質の評価のために、一般的に面取り後に行われている従来の方法で行うことができる。
【0032】
次に、ウェーハの表裏両面を、例えば両面ラッピングなどの加工を行って所定の取代で除去する(図2のC)。この工程も特に限定されず、従来の方法と同様にして加工を行うことができる。例えば、両面ラッピングを行う場合の例を以下に説明する。
【0033】
図3は本発明のウェーハの製造方法で用いることができるラッピング装置の一例を示す概略図である。図3に示すように、ラッピング装置1は上下方向に相対向して設けられた下定盤12及び上定盤11を有している。上定盤11は停止したままで、下定盤12が不図示の駆動手段によって回転する。下定盤12はその中心部上面にサンギア13を有し、その周縁部には環状のインターナルギア14が設けられている。
また、ウェーハ保持用キャリア15の外周面には上記サンギア13及びインターナルギア14と噛合するギア部16が形成され、全体として歯車構造をなしている。このウェーハ保持用キャリア15には複数個の保持孔17が設けられている。ラップされるウェーハWはこの保持孔17内に配置され、保持される。
【0034】
ウェーハを保持するキャリア15は上下定盤11、12の間に挟み込まれ、回転する下定盤12と停止したままの上定盤11の間で遊星歯車運動、すなわち、自転及び公転する。ラッピングを行うには、スラリーと呼ばれる酸化アルミニウム(Al)、炭化珪素(SiC)等の研磨砥粒と界面活性剤を含む水などの液体の混濁液をノズルから上定盤11に設けられた貫通孔を介して上下定盤11、12の間隙に流してウェーハWと上下定盤11、12の間に砥粒を送り込み、ウェーハWの両面をラッピングする。
【0035】
このようにして表裏両面の所定量が除去された加工後のウェーハの面取り幅X1、X2を面取り形状測定装置によって測定する(図2のD)。
次に、加工後のウェーハの取代を評価する(図2のE)。
この工程では、上記した本発明の取代の評価方法と同様に、加工前後のウェーハの表裏両面の面取り幅の変化量に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価する。
【0036】
具体的には、上記した本発明の取代の評価方法と同様に、以下の式によって取代を算出する。
表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅―加工後のウェーハ表面の面取り幅)×tanθ1
裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅―加工後のウェーハ裏面の面取り幅)×tanθ2
このような製造方法であれば、ダミーのウェーハを用いることなく、製品となるウェーハを直接評価することができるので、測定精度を向上でき、コストを削減できる。その評価結果を基に表裏面それぞれの取代を別々に管理、調整しながらウェーハを製造できる。
【0037】
またこのとき、ウェーハの取代の評価工程における評価結果に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を調整するために、次回のウェーハの表裏面の加工工程における加工条件を調整する工程(図2のF)を有することが好ましい。
例えば、図3に示すようなラッピング装置を用いてラッピングを行う場合を例に説明する。上記したように、ラッピング装置は、上定盤が停止した状態で下定盤が自転し、キャリアが自転公転する。
【0038】
ウェーハから見ると、下定盤の自転速度とキャリアの公転速度の差が、ウェーハの下面をラップする能力になる。また、上定盤は停止しているので、キャリアの公転速度がウェーハの上面をラップする能力になる。そこで、これら回転速度、特にキャリアの公転速度を調整することで、ラッピングにおける表裏取代差を任意に調整できる。また、回転数以外の加工条件、例えばスラリー流量などの条件を組み合わせて調整することもできる。
【0039】
このような方法であれば、ウェーハの表裏面の取代差を管理しながら安定した品質のウェーハを製造できる。
また、様々な加工条件下での表裏取代の変化などを事前に本発明の評価方法で評価しておくことで、例えば定盤の磨耗等による経時変化などによって表裏取代の差が管理値を外れた場合に、表裏取代の差を調整することができる。このように表裏取代の差の事前の評価(日常点検)の頻度増加とフィードバック(調整)の実施により、品質が安定したウェーハを供給できるウェーハ製造方法となる。
【0040】
また、上記したウェーハの表裏両面の加工は、両面ラッピングの他に、両頭研削、両面研磨によって行うこともできる。
このように、本発明の製造方法は、ウェーハの表裏両面を同時に加工して所定の取代で除去する様々な加工プロセスに適応できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図2に示すような本発明のウェーハの製造方法に従ってシリコンウェーハを1枚製造し、本発明の取代の評価方法でその取代を評価した。
まず、ウェーハに面取り加工を施した後、表面側及び裏面側における面取り幅及び面取り角を面取り形状測定装置(KOBELCO社製LEP2200)を用いて測定した。取代を評価したウェーハの位置は、図4に示す90°の位置を評価した。
その結果、表面側の面取り幅X1は326.0μm、面取り角θ1は26.2°、裏面側の面取り幅X2は352.8μm、面取り角θ2は25.19°であった。
【0043】
次に、図3に示すようなラッピング装置を用いてウェーハにラッピング加工を施した。この際、狙い取代を片面25μmとし、表裏両面の取代が均一になるように加工条件を調整した。
次に、加工後のウェーハの表面側及び裏面側における面取り幅を面取り形状測定装置を用いて測定した。
その結果、表面側の面取り幅X1は276.4μm、裏面側の面取り幅X2は299.4μmであった。
【0044】
測定した加工前後の面取り幅を用いて以下の式から取代を算出した。
表面取代=(326.0―276.4)×tan(26.2°)=24.4μm
裏面取代=(352.8―299.4)×tan(25.19°)=25.1μm
また、表裏取代差を以下のように評価できた。
表裏取代差=(表面取代―裏面取代)=(24.4―25.1)=−0.7μm
今回用いたラッピング装置では表裏取代がほぼ均一であり、狙い通りであることが分かった。上記した評価は、後述する比較例における従来の方法に比べ短時間で行うことができた。
【0045】
このように、本発明の取代の評価方法は、製品となるウェーハを用いて表裏両面の取代をそれぞれ別々に短時間で簡便に評価できることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様に本発明の取代の評価方法により4枚のシリコンウェーハの取代を評価した。但し、取代を評価したウェーハの位置を以下のように8箇所とした。すなわち、図4に示すような、ウェーハ面内の9.1、45、90、135、180、225、270、315°の位置を評価した。
その結果を表1に示す。また、全体取代、取代差、取代差の平均値及びばらつき(標準偏差σ)を図5に示す。
【0047】
このように、本発明は複数のウェーハを複数の位置の面取り幅に基づいて取代を容易に評価することができ、例えば平均値を求めることなどによってより信頼性のある評価を行うことができることが分かる。このように測定頻度を増やして評価することによって、加工前のウェーハのスライス形状の影響やウェーハ面内の取代差の分布(σ)なども容易に推測できる。例えば、取代差の平均からは使用したラッピング装置にどの程度表裏取代差が起こりえるかが確認でき、取代差のばらつきからはウェーハが傾いてラッピングされていないかなどの評価ができる。図5の取代差の平均値の結果から、使用したラッピング装置では、表面の取代が裏面の取代に比べ1〜2μm程度多いことが分かる。
【0048】
これに対し、後述する比較例では、測定時間が多くかかり、評価するウェーハ数を増やすことが困難である。
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様に本発明のウェーハの製造方法に従ってシリコンウェーハを製造し、実施例2と同様に本発明の取代の評価方法によりシリコンウェーハの取代を8箇所の位置で評価した。但し、表面の取代が裏面より2μm程度大きくなる条件のラッピング装置を用いた。そして、取代差の平均値と分布(σ)を求めた。この平均値と分布(σ)に管理値を設定し、ウェーハの製造及び評価を繰り返してその推移を確認した。ここで、平均値の管理値を3.5μm、分布(σ)の管理値を2.5μmに設定した。
【0050】
その結果を図6に示す。図6(A)(B)に示すように、平均値と分布(σ)は多少のばらつきはあるものの、全て管理値以下に収まっていることが分かる。このことにより、安定した加工が行われていることが確認できた。
【0051】
(実施例4)
実施例1と同様に本発明のウェーハの製造方法に従ってシリコンウェーハを製造し、実施例2と同様に本発明の取代の評価方法によりシリコンウェーハの取代を8箇所の位置で評価した。そして、取代差の平均値を管理しながらシリコンウェーハの製造及び評価を繰り返した。ここでは、取代差の平均値の管理値を3.5μmに設定した。
これらを繰り返すうち、図7に示すように、平均値が管理値3.5μmを超える場合があったため、その評価結果に基づいてウェーハの表裏面それぞれの取代を調整するために、加工条件を以下のように調整した。具体的には、使用したラッピング装置のサンギアとインターナルギアの回転数を調整してキャリアの公転数を調整した。
【0052】
その結果、図7後半のように、取代差の平均値を管理値3.5μm以下に抑えてウェーハを製造することができた。
このように、本発明のウェーハの製造方法により、表裏両面の取代をそれぞれ別々に評価し、その評価結果を基に表裏面それぞれの取代が別々に調整されたウェーハを製造できる。また、ウェーハの表裏面の取代差を管理しながら安定した品質のウェーハを製造できる。
【0053】
(比較例)
取代の評価工程以外は実施例1と同様な条件でシリコンウェーハを1枚製造し、図9に示すようなウェーハにレーザーマークを印字して評価する従来の方法で取代を評価した。
まず、製造したウェーハの中からダミーのウェーハを用意し、このウェーハの両面にレーザーマークを印字した。ここで、印字はハードレーザーマーカーで50μm程度のドット深さで行った。
【0054】
レーザーマークの印字後、レーザー顕微鏡で任意の位置のドット深さを確認した。その結果、表面側に印字したドットは53.5μm、裏面側に印字したドットは54.5μmであった。
次に、実施例1で用いたものと同一のラッピング装置を用い、実施例1と同様の条件でウェーハにラッピング加工を施した。
【0055】
次に、加工後のウェーハのレーザーマークのドット深さを確認した。ここで、確認位置は加工前に確認した際の位置と同一とした。その結果、レーザーマーク内にスラリーと思われる異物が入っており正確な深さが確認できなかった。そのため、ウェーハを洗浄しその異物を除去してから再度ドット深さを確認した。
その結果、表面側に印字したドットは29.2μm、裏面側に印字したドットは29.6μmであった。これらのドット深さの変化から、表面側の取代は24.3μm、裏面側の取代は24.9μmであることが分かった。また、表裏取代差は−0.6μmであった。
【0056】
このように、レーザーマークを用いた従来の方法によって、実施例1とほぼ同様の取代で加工されていることが確認できたが、この従来の方法では、製品となるウェーハを直接評価できず、またレーザーマークの印字、加工後にレーザーマーク内に入ったスラリーなどの異物除去のための洗浄が必要であり、評価に非常に時間がかかってしまった。
また、ドットを印字した場所でしか測定できないので、評価精度を向上するためにはレーザーマークをたくさん印字する必要があり、この場合には特に長時間を要する。特に、外周部の取代の平均を正確に評価する場合にはより多くのドット深さを測定する必要があるために非常に長時間を要する。このように、従来の評価方法は、容易に実施することができない。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0059】
1、10…ラッピング装置、 11…上定盤、 12…下定盤、
13…サンギア、 14…インターナルギア、 15…ウェーハ保持用キャリア、
16…ギア部、 17…保持孔、 18…貫通孔、 W…ウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周が面取りされたウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工プロセスにおいて、加工後の前記ウェーハの取代を評価する取代の評価方法であって、
加工前後の前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価することを特徴とする取代の評価方法。
【請求項2】
加工前の前記ウェーハの表面の面取り角をθ1、裏面の面取り角をθ2としたとき、前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を以下の式、
表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅―加工後のウェーハ表面の面取り幅)×tanθ1、
裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅―加工後のウェーハ裏面の面取り幅)×tanθ2、
によって算出することを特徴とする請求項1に記載の取代の評価方法。
【請求項3】
前記加工プロセスが、両面ラッピング、両頭研削、両面研磨のいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の取代の評価方法。
【請求項4】
少なくとも、ウェーハの外周を面取りする工程と、前記ウェーハの表裏両面を所定の取代で除去する加工を施す工程と、加工後の前記ウェーハの取代を評価する工程とを有するウェーハの製造方法において、
さらに、前記ウェーハの表裏両面の加工工程の前後に、前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅を測定する工程を有し、
前記ウェーハの取代を評価する工程において、前記ウェーハの表裏面の加工前後に測定した前記ウェーハの表裏面それぞれの面取り幅の変化量に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を算出して評価することを特徴とするウェーハの製造方法。
【請求項5】
加工前の前記ウェーハの表面の面取り角をθ1、裏面の面取り角をθ2としたとき、前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を以下の式、
表面取代=(加工前のウェーハ表面の面取り幅―加工後のウェーハ表面の面取り幅)×tanθ1、
裏面取代=(加工前のウェーハ裏面の面取り幅―加工後のウェーハ裏面の面取り幅)×tanθ2、
によって算出することを特徴とする請求項4に記載のウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記ウェーハの取代の評価工程における評価結果に基づいて前記ウェーハの表裏面それぞれの取代を調整するために、次回の前記ウェーハの表裏面の加工工程における加工条件を調整する工程を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記ウェーハの表裏両面の加工が、両面ラッピング、両頭研削、両面研磨のいずれかによって行われることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39632(P2013−39632A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177094(P2011−177094)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】