説明

可変圧縮比エンジン

【課題】圧縮比変化に起因するノッキングの発生を抑制することができる可変圧縮比エンジンを提供する。
【解決手段】ピストン11とクランクシャフト12とを複数のリンクで連結し、コントロールシャフト20を回転させ、コントロールシャフト20に形成された偏心軸21の位置を変えてリンクの姿勢を制御することで、ピストン上死点位置を変更して圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジン1において、コントロールシャフト20を回転させる駆動モータ35と、駆動モータ35の回転を減速してコントールシャフト20に伝達する減速機構と、を備え、減速機構は、高圧縮比時の駆動モータ36とコントロールシャフト20との間の減速比を中間圧縮比時よりも小さくする。そのため、車両が高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速した場合であっても、圧縮比を速やかに変更でき、ノッキングの発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの可変圧縮比機構に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの可変圧縮比機構として、ピストンとクランクとを複数のリンクを介して連結するものが知られている。例えば、特許文献1には、ピストンとクランクとがアッパリンク及びロアリンクを介して連結され、ロアリンクの姿勢を制御することで圧縮比を可変に制御している。具体的には、一端がロアリンクに連結され、他端がクランクシャフトと略平行に延びるコントロールシャフトに設けた偏心軸に連結されたコントロールリンクを備え、コントロールシャフトの回転角を変化させることによりコントロールリンクを介してロアリンクの姿勢を制御している。
【0003】
このコントロールシャフトの回転角は、コントロールシャフトに一体に設けたフォークと、そのフォークに連結ピンを介して連結されるアクチュエータロッドと、アクチュエータロッドをコントロールシャフトに直交する方向に進退させる駆動モータとを備えるシャフト制御機構により制御される。
【特許文献1】特開2005−163740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにフォークを用いた連結機構(以下「フォーク式連結機構」という)では、フォークがコントロールシャフトの回転軸に対して左右対称に揺動するように構成され、アクチュエータロッドの進退位置に応じて駆動モータとコントロールシャフトとの間の減速比が変化する。この場合には、高圧縮比時に減速比が大きくなるので、高圧縮比から中間圧縮比に圧縮比を変化させるときのコントロールシャフトの応答性が悪化する。そのため、高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速すると、圧縮比を高圧縮比から中間圧縮比に速やかに変化させることができず、ノッキングの発生が増加するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、圧縮比変化に起因するノッキングの発生を抑制することができる可変圧縮比エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0008】
本発明は、ピストン(11)とクランクシャフト(12)とを複数のリンクで連結し、コントロールシャフト(20)を回転させ、コントロールシャフト(20)に形成された偏心軸(21)の位置を変えてリンクの姿勢を制御することで、ピストン上死点位置を変更して圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジン(1)において、コントロールシャフト(20)を回転させる駆動モータ(35)と、駆動モータ(35)の回転を減速してコントールシャフト(20)に伝達する減速機構と、を備え、減速機構は、高圧縮比時の駆動モータ(35)とコントロールシャフト(20)との間の減速比を中間圧縮比時よりも小さくする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、高圧縮比時の減速比を中間圧縮比時よりも小さく設定するので、車両が高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速した場合であっても、圧縮比を高圧縮比から中間圧縮比に速やかに変化させることができ、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0010】
また、中間圧縮比時には、減速比が高圧縮比時及び低圧縮比時よりも大きくなるので、圧縮比変更時に駆動モータがコントロールシャフトを回転させるのに必要な駆動トルクを低減することができ、中間圧縮比において圧縮比を変更するときに、駆動モータの負荷が増加するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、クランクシャフト軸方向から見た複リンク式可変圧縮比エンジンの概略構成図である。
【0012】
可変圧縮比エンジン1は、ピストン上死点位置を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を備える。圧縮比可変機構10は、ピストン11とクランクシャフト12とをアッパリンク13、ロアリンク14で連結して、コントロールリンク15でロアリンク14の姿勢を制御することで圧縮比を変更する。
【0013】
アッパリンク13は、上端でピストンピン13aを介してピストン11に連結する。アッパリンク13の下端は、連結ピン14aを介してロアリンク14の一端に連結する。ロアリンク14の他端は、連結ピン14bを介してコントロールリンク15に連結する。ロアリンク14は連結孔14cを有し、この連結孔14cにクランクシャフト12のクランクピン12aが挿入される。そして、ロアリンク14は、クランクピン12aを中心軸として揺動する。
【0014】
クランクシャフト12は、クランクピン12a、ジャーナル12b及びカウンターウェイト12cを備える。クランクピン12aの中心はジャーナル12bの中心から所定量偏心する。カウンターウェイト12cは、クランクアームに一体形成されて、ピストン運動の回転1次振動成分を低減する。
【0015】
コントロールリンク15の上端は、連結ピン14bを介してロアリンク14に対して回動自在に連結する。コントロールリンク15の下端は、コントロールシャフト20に連結する。
【0016】
コントロールシャフト20は、クランクシャフト12と平行に配置される。このコントロールシャフト20は、偏心軸21と、シャフト制御軸22とを備える。
【0017】
偏心軸21は、コントロールシャフト20の回転軸から所定量偏心する。そして、コントロールリンク15が、偏心軸21に対して揺動する。
【0018】
シャフト制御軸22は、軸心がコントロールシャフト20の回転軸と一致するように設けられる。このシャフト制御軸22に、シャフト制御機構30の第1リンク31が連結する。本実施例では、第1リンク31がコントロールシャフト20に組み付けられる別体構造としたが、コントロールシャフト20と一体形成されるものであっても構わない。すなわち請求項のコントロールシャフトは、シャフト制御機構30の第1リンク31まで含むものと解することができる。
【0019】
シャフト制御機構30は、第1リンク31と、第2リンク32と、アクチュエータロッド33と、ボールネジナット部34と、駆動モータ35とを備え、コントロールシャフト20の回転角を制御する。
【0020】
第1リンク31の一端は、コントロールシャフト20と一体に回転するようにシャフト制御軸22に固定されている。また、第1リンク31の他端は、第2リンク32の一端に連結ピン36を介して回転可能に連結される。第2リンク32の他端は、アクチュエータロッド33の先端に連結ピン37を介して回転可能に連結される。請求項の中間制御リンクは、本実施例の第2リンクに相当し、コントロールシャフトに対しては、その回転中心からオフセットした位置に連結されている。
【0021】
アクチュエータロッド33は、基端側(図中右側)の外周に雄ネジが形成されたボールネジ部33aを有する。このボールネジ部33aは、ボールネジナット部34の内部に形成された雌ネジと螺合する。アクチュエータロッド33は、ボールネジナット部34に進退可能に設けられる。駆動モータ35によってボールネジナット部34が駆動モータ35によって軸周りに回転駆動されると、アクチュエータロッド33はボールネジナット部34に対して相対的に往復動する。
【0022】
また、駆動モータ35は、コントロールシャフト20に回転の許可、禁止を切換える機構(以下「保持機構」という)を有しており、コントロールシャフト20を所定の回転角に保持する。コントロールシャフト20には、筒内の燃焼圧やピストン11の慣性力等がアッパリンク13、ロアリンク14、コントロールリンク15を介して伝達される。この伝達された荷重は、偏心軸21がコントロールシャフト20の回転軸から偏心しているため、コントロールシャフト20を回転させるトルク(以下、「コントロールシャフトトルク」という。)として作用する。駆動モータ35は、駆動時とは逆方向の電流を流すことで、上記コントロールシャフトトルクに抗してコントロールシャフト20を所定の回転角に保持する。
【0023】
可変圧縮比エンジン1は、エンジン運転状態に応じて圧縮比を変化させるためにコントローラ40を備える。コントローラ40はCPU、ROM、RAM及びI/Oインタフェースを有する。コントローラ40は、エンジン運転状態に応じて圧縮比を変化させるために、シャフト制御機構30の駆動モータ35の駆動を制御する。
【0024】
上記のように構成される可変圧縮比エンジン1では、コントローラ40によって駆動モータ35の駆動を制御し、エンジン運転状態に応じてアクチュエータロッド33を直線的に進退させることでコントロールシャフト20の回転角を制御し、圧縮比を変化させる。
【0025】
シャフト制御機構30のアクチュエータロッド33が図中右側に後退すると、第2リンク32、第1リンク31を介してコントロールシャフト20がシャフト制御軸22を回転軸として図中反時計回り方向に回転する。そうすると、コントロールリンク15が連結する偏心軸21の位置が下降する。このように偏心軸21が下降すると、ロアリンク14がクランクピン12a周りに図中反時計回り方向に傾いて連結ピン14aの位置が上昇するので、ピストン11の上死点位置が上昇して圧縮比が高くなる。
【0026】
これに対して、アクチュエータロッド33が図中左側に前進すると、第2リンク32、第1リンク31を介してコントロールシャフト20がシャフト制御軸22を回転軸として図中時計回り方向に回転する。そうすると、偏心軸21の位置が上昇し、ロアリンク14が傾いて連結ピン14aの位置が下降するので、ピストン11の上死点位置が下降して圧縮比が低下する。
【0027】
このように可変圧縮比エンジン1では、運転状態に応じて圧縮比を最適に制御し、例えば低回転速度・低負荷運転領域では圧縮比を高くして燃焼効率の向上(膨張比を高くすることによる排気損失の低減)を図り、高回転速度・高負荷運転領域では圧縮比を低くしてノッキングの防止を図る。
【0028】
一方、上記したシャフト制御機構30では、駆動モータ35の回転が第1リンク31と第2リンク32とを介してコントロールシャフト20に伝達されるが、駆動モータ35の回転速度はこれらリンクの配置(以下「リンクジオメトリ」という)によって減速される。アクチュエータロッド33の進退位置が変化すると、リンクジオメトリが変化し、コントロールシャフト20が回転する。このようにリンクジオメトリが変化すると駆動モータ35とコントロールシャフト20との間の減速比も変化する。このようにシャフト制御機構30では、第1リンク31と、第2リンク32と、アクチュエータロッド33とによって減速機構を構成する。
【0029】
図2(A)は、リンクジオメトリによって変化する減速比の一例を示す図である。横軸がコントロールシャフト20の回転角度(以下「コントロールシャフト角度」という)θcsを示し、縦軸が駆動モータ−コントロールシャフト間の減速比との関係を示す。なお、コントロールシャフト角度θcsは、所定位置からの回転角度であって、図1においてコントロールシャフト20が反時計回り方向に回転するときの角度を正とする。
【0030】
リンクジオメトリが変化してコントロールシャフト20が回転すると、減速比は図2(A)に示すように変化する。特に、コントロールシャフト角度θcsがθ1からθ3の範囲にある場合、θ1からθ2までは減速比が大きくなり、θ2からθ3までは減速比が小さくなる。本実施形態では、減速比が上に凸となるθ1〜θ3の範囲でコントロールシャフト角度θcsを変化させて可変圧縮比エンジン1の圧縮比を制御する。具体的には、コントロールシャフト角度θcsがθ1のときに圧縮比が最低圧縮比となり、θ3のときに圧縮比が最高圧縮比となるように設定する。
【0031】
図2(B)〜図2(D)は、コントロールシャフト角度θcsがθ1〜θ3である場合の第1リンク31と第2リンク32とアクチュエータロッド33とのリンクジオメトリを、コントロールシャフト軸方向から見たときの模式図である。
【0032】
コントロールシャフト角度θcsがθ1となる最低圧縮比時には、図2(B)に示すように、第1リンク31と第2リンク32とのなす角度θaは90°よりも小さくなり、第2リンク32とアクチュエータロッド33とのなす角度θbは180°よりも小さくなる。
【0033】
また、コントロールシャフト角度θcsがθ2となる中間圧縮比時には、図2(C)に示すように、第1リンク31(コントロールシャフトの回転中心から、コントロールシャフトと中間制御リンクとの連結点を結ぶ直線)と第2リンク32(中間制御リンクの連結点中心を結んだ直線)とのなす角度θaがほぼ90°となり、第2リンク32とアクチュエータロッド33とのなす角度θbはほぼ180°となる。
【0034】
そして、コントロールシャフト角度θcsがθ3となる最高圧縮比時には、図2(D)に示すように、第1リンク31と第2リンク32とのなす角度θaは90°よりも大きくなり、第2リンク32とアクチュエータロッド33とのなす角度θbは180°よりも小さくなる。
【0035】
次に、駆動モータ35とコントロールシャフト20とを連結する連結機構と、減速比特性との関係について図3を参照して説明する。
【0036】
従来手法のフォーク式連結機構では、フォークがコントロールシャフト20の回転軸に対して左右対称に揺動するように構成され、図3の破線Bに示すように低圧縮比時及び高圧縮比時において中間圧縮比時よりも減速比が大きくなる。そのため、高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速した場合に、圧縮比を高圧縮比から中間圧縮比に速やかに変化させることができず、ノッキングが発生しやすくなるという問題がある。また、低圧縮比時においても圧縮比変化の応答性が悪いため、エンジン運転状態に応じて速やかに圧縮比を変化させることができず、低圧縮比化による燃費性能の向上の効果が小さくなる。
【0037】
一方、コントロールシャフト20と駆動モータ35とを従来手法のラックアンドピニオン式の連結機構(以下「ラックアンドピニオン式連結機構」という)で連結する場合には、図3の一点鎖線Cに示すように駆動モータ35とコントロールシャフトとの間の減速比は一定となる。このラックアンドピニオン式連結機構では、低圧縮比時及び高圧縮時の減速比はフォーク式連結機構よりも小さくすることができるが、コントロールシャフトトルクが最大となる中間圧縮比時においても減速比が小さいままであるので、コントロールシャフトトルクに起因して駆動モータ35に入力するトルクが大きく、そのトルクに抗するために、駆動モータの負荷が増加するという問題がある。
【0038】
本実施形態では、上記問題を解決するため、図3の実線Aに示すように中間圧縮比時よりも高圧縮比時及び低圧縮比時において減速比を小さく設定する。そのため、駆動モータ35の回転速度があまり減速されずに、回転がコントロールシャフト20に伝達されるので、高圧縮比時及び低圧縮比時において圧縮比を速やかに変化させることができる。
【0039】
したがって、車両が高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速した場合であっても、圧縮比を高圧縮比から中間圧縮比に速やかに変化させることができるので、ノッキングの発生を抑制することができる。そして、低圧縮比時においても、エンジン運転状態に応じて速やかに圧縮比を変化させることができるので、低圧縮比化による燃費性能の向上の効果も大きくなる。
【0040】
また、中間圧縮比時には、減速比が高圧縮比時及び低圧縮比時よりも大きくなるので、圧縮比変更時に、駆動モータ35がコントロールシャフト20を回転させるのに必要な駆動トルクTmが低減する。この駆動モータ35の駆動トルクTmは次式により算出される。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、中間圧縮比時は駆動モータ35とコントロールシャフト20との間の減速比が大きくなるので、コントロールシャフト20が単位角度回転するときの駆動モータ回転数Nは増加する。そのため、可変圧縮比エンジン1の圧縮比によらずモータ仕事量Wが一定であるとした場合には、減速比が大きくなる中間圧縮比時において駆動モータ35の駆動トルクTmが最も小さくなる。実際のモータ仕事量Wは圧縮比に応じて変化するが、筒内圧力や圧縮比可変機構10のリンクの配置等によって中間圧縮比時にモータ仕事量Wが最大となる場合であっても、本実施形態では上記の通り中間圧縮比時の減速比を大きく設定することができるので、駆動モータ35の駆動トルクTmが増加することを抑えることができ、中間圧縮比において圧縮比を変更するときに駆動モータ35の負荷が増加するのを抑制することができる。
【0043】
一方、減速比が大きくなる中間圧縮比時には、シャフト制御機構30は図2(C)に示したようなリンクジオメトリとなるので、コントロールシャフトトルクに起因してアクチュエータロッド33に生じる曲げ荷重を低減することができ、コントロールシャフトトルクに抗してコントロールシャフト20を保持するときの駆動モータ35の負荷の増加を抑制できる。
【0044】
図4は、アクチュエータロッド33に生じる曲げ荷重の低減効果を説明する。
【0045】
図4(A)はコントロールシャフトトルクについて説明する図である。本実施形態では、図4(A)に示すように、コントロールシャフト20の偏心軸21が、位置Aにある場合に最低圧縮比となり、位置Cにある場合に最高圧縮比となる。そして、偏心軸21が位置Bにある場合に中間圧縮比となる。そのため、圧縮比が最低低圧縮比(位置A)から中間圧縮比(位置B)になるほどコントロールリンク15から伝達される荷重F0をシャフト制御軸22周りのコントロールシャフトトルクTcsに変換する有効腕長さLが長くなり、圧縮比が中間圧縮比(位置B)から最高圧縮比(位置C)になるほど有効腕長さLが短くなる。したがって、有効腕長さLが最も長くなる中間圧縮比時においてコントロールシャフトトルクTcsが最も大きくなる。
【0046】
ここで、中間圧縮比時のシャフト制御機構30のリンクジオメトリが、図4(B)に示すように、第1リンク31と第2リンク32とのなす角度θaが90°よりも大きく、第2リンク32とアクチュエータロッド33とのなす角度θbが180°よりも小さくなるように設定する場合を考える。この場合には、第1リンク31には、コントロールシャフトトルクTcsに起因して、第1リンク軸方向の荷重F1と第1リンク直交方向の荷重F2が生じる。この荷重F1と荷重F2とによって、第2リンク32には第2リンク軸方向に引っ張り荷重F3が作用する。そうすると、アクチュエータロッド33には、第2リンク32からの引っ張り荷重F3が生じ、アクチュエータロッド33の軸方向に引っ張り荷重F4が作用するとともに軸方向と直交する方向(図中上向き)に曲げ荷重F5が作用する。コントロールシャフトトルクTcsが最大となる中間圧縮比時には、アクチュエータロッド33に曲げ荷重F5も大きくなるので、アクチュエータロッド33とボールネジナット部34との間のフリクションが非常に大きくなる。そのため、図4(B)のようなシャフト制御機構30のリンクジオメトリでは、コントロールシャフト20を保持するときの駆動モータ35の負荷が増加してしまう。
【0047】
これに対して、本実施形態では、図4(C)に示すように、コントロールシャフトトルクTcsが最大となる中間圧縮比時に、第1リンク31と第2リンク32とのなす角度θaがほぼ90°となるので、第2リンク32には、コントロールシャフトトルクTcsに起因して第2リンクの軸方向に引っ張り荷重F2が作用する。そして、第2リンク32とアクチュエータロッド33とのなす角度θbはほぼ180°となるので、アクチュエータロッド33にも引っ張り荷重F2がそのまま作用する。このように本実施形態では、中間圧縮比時のコントロールシャフトトルクTcsに起因してアクチュエータロッド33に生じる荷重は、アクチュエータロッド33の軸方向にのみ作用する。したがって、コントロールシャフトトルクTcsが最大となる中間圧縮比時であっても、アクチュエータロッド33には曲げ荷重は発生しない。このように、第2リンク32とアクチュエータロッド33との角度が180°に近づくと、アクチュエータロッド33に作用する曲げ荷重は低減する。
【0048】
以上により、第1実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0049】
本実施形態によれば、高圧縮比時の減速比を中間圧縮比時よりも小さく設定するので、車両が高圧縮比状態である低回転速度・低負荷運転領域から急加速した場合であっても、圧縮比を高圧縮比から中間圧縮比に速やかに変化させることができる。これにより、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、低圧縮比時の減速比を中間圧縮比時よりも小さく設定するので、低圧縮比時においてもエンジン運転状態に応じて速やかに圧縮比を変化させることができ、低圧縮比化による燃費性能の向上の効果が大きくなる。
【0051】
さらに、中間圧縮比時には、減速比が高圧縮比時及び低圧縮比時よりも大きくなるので、圧縮比変更時に駆動モータ35がコントロールシャフト20を回転させるのに必要な駆動トルクTmを低減することができる。そのため、中間圧縮比において圧縮比を変更するときに、駆動モータ35の負荷が増加するのを抑制することができる。
【0052】
さらに、中間圧縮比時には、シャフト制御機構30のリンクジオメトリは第2リンク32とアクチュエータロッド33とが平行に近づくので、アクチュエータロッド33に作用する曲げ荷重を低減することができる。そのため、コントロールシャフトトルクTcsが最大となる中間圧縮比時であっても、コントロールシャフトトルクTcsに抗してコントロールシャフト20を保持するときの駆動モータ35の負荷の増加を抑制できる。
【0053】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の複リンク式可変圧縮比エンジンのシャフト制御機構30を示す図である。
【0054】
第2実施形態の可変圧縮比エンジン1の基本構成は第1実施形態とほぼ同様であるが、シャフト制御機構30の構成において相違する。つまり、シャフト制御機構30は、コントロールシャフト20に形成された楕円形状のシャフト側ピニオンギア23と、シャフト側ピニオンギア23と噛合する楕円形状の駆動ギア50とによって減速機構を構成するようにしたもので、以下にその相違点を中心に説明する。
【0055】
図5に示すように、シャフト制御機構30は、コントロールシャフト20と、駆動ギア50と、ラックギア60とを備える。
【0056】
コントロールシャフト20は、楕円形状のシャフト側ピニオンギア23を有する。このシャフト側ピニオンギア23は、コントロールシャフト20と一体に回転し、コントロールシャフト20の軸心Pを中心に回転する。コントロールリンク15と連結する偏心軸21は、コントロールシャフト軸方向から見てシャフト側ピニオンギア23の長軸上に位置するように、コントロールシャフト20の軸心Pから所定量偏心する。
【0057】
駆動ギア50は、楕円形状の駆動側ピニオンギア51と、円形状の円形ピニオンギア52とを有する。この駆動側ピニオンギア51が、シャフト側ピニオンギア23と噛合する。駆動側ピニオンギア51と円形ピニオンギア52とは軸心が一致するように形成されており、軸心Qを中心に回転する。そして、円形ピニオンギア52は、ラックギア60と噛合する。
【0058】
ラックギア60は、平板形状のロッドに円形ピニオンギア52と噛合するギアが形成されたものであって、駆動モータ35によって図中左右に進退可能に設けられる。
【0059】
上記のように構成されるシャフト制御機構30は、エンジン運転状態に応じてラックギア60を直線的に進退させることでコントロールシャフト20の回転角を制御し、圧縮比を変化させる。このシャフト制御機構30の作動について、図6を参照して説明する。図6(A)は中間圧縮比時のシャフト側ピニオンギア23と駆動側ピニオンギア51との配置を示す。また、図6(B)は高圧縮比時のシャフト側ピニオンギア23と駆動側ピニオンギア51との配置を示し、図6(C)は低圧縮比時のシャフト側ピニオンギア23と駆動側ピニオンギア51との配置を示す。
【0060】
中間圧縮比においては、図6(A)に示すように、シャフト側ピニオンギア23の長軸と駆動側ピニオンギア51の短軸とが一致するように配置される。シャフト制御機構30では、駆動モータ35の回転がラックギア60と駆動ギア50とを介してコントロールシャフト20に伝達されるが、中間圧縮比時には駆動側ピニオンギア51の短軸がシャフト側ピニオンギア23の長軸と一致するように配置されているので、駆動モータ35の回転速度は駆動側ピニオンギア51とシャフト側ピニオンギア23との間で大きく減速される。
【0061】
そして、ラックギア60が図中左側に前進すると、図6(B)に示すように円形ピニオンギア52が図中時計回りに回転するので、駆動側ピニオンギア51も図中時計回りに回転する。そうすると、シャフト側ピニオンギア23が図中反時計回りに回転するので、偏心軸21の位置が下降する。このように偏心軸21が下降すると、図示しないピストンの上死点位置が上昇して圧縮比が高くなる。このように圧縮比が中間圧縮比から高圧縮比に変化する場合には、駆動側ピニオンギア51とシャフト側ピニオンとが噛合する位置が、駆動側ピニオンギア51では短軸側から長軸側に変化し、シャフト側ピニオンギア23では長軸側から短軸側に変化するので、駆動モータ35とコントロールシャフト20との間の減速比は中間圧縮比時よりも小さくなる。
【0062】
これに対して、ラックギア60が図中右側に後退すると、図6(C)に示すように円形ピニオンギア52が図中反時計回りに回転するので、駆動側ピニオンギア51も図中反時計回りに回転する。そうすると、シャフト側ピニオンギア23が図中時計回りに回転するので、偏心軸21の位置が上昇する。このように偏心軸21が上昇すると、図示しないピストンの上死点位置が下降して圧縮比が高くなる。このように圧縮比が中間圧縮比から低圧縮比に変化する場合には、駆動側ピニオンギア51とシャフト側ピニオンとが噛合する位置が、駆動側ピニオンギア51では短軸側から長軸側に変化し、シャフト側ピニオンギア23では長軸側から短軸側に変化するので、駆動モータ35とコントロールシャフト20との間の減速比は中間圧縮比時よりも小さくなる。
【0063】
一方、減速比が大きくなる中間圧縮比時には、図4(A)で説明したようにコントロールシャフトトルクTcsが最大となるが、本実施形態では図6(A)のように駆動側ピニオンギア51の短軸がシャフト側ピニオンギア23の長軸と一致するように配置するので、コントロールシャフトトルクTcsに起因して駆動ギア50に生じるトルクTdの増加を抑制することができる。つまり、シャフト側ピニオンギア23と駆動側ピニオンギア51とが噛合する位置には、コントロールシャフトトルクTcsに起因して、図6(A)の太矢印で示すように荷重F6が生じるが、その荷重F6を駆動側ピニオンギア51の軸周りのトルクTdに変換する有効腕長さL1は、シャフト側ピニオンギア23の有効腕長さL2よりも短いので、駆動ギア50に生じるトルクTdはコントロールシャフトトルクTcsよりも小さくなるのである。
【0064】
以上により、第2実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0065】
本実施形態では、中間圧縮比時に駆動側ピニオンギア51の短軸がシャフト側ピニオンギア23の長軸と一致するように配置することで、高圧縮比時の減速比を中間圧縮比時よりも小さくすることができるので、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
また、中間圧縮比時には、コントロールシャフトトルクTcsに起因して駆動ギア50に生じるトルクTdの増加を抑制することができるので、コントロールシャフトトルクTcsに抗してコントロールシャフト20を保持するときの駆動モータ35の負荷の増加を抑制できる。
【0067】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】複リンク式可変圧縮比エンジンの概略構成図である。
【図2】リンクジオメトリによって変化する減速比を示す図である。
【図3】駆動モータとコントロールシャフトとを連結する連結機構と、減速比特性との関係を示す図である。
【図4】アクチュエータロッドに生じる曲げ荷重の低減効果を説明する図である。
【図5】第2実施形態の複リンク式可変圧縮比エンジンのシャフト制御機構を示す図である。
【図6】シャフト制御機構の作動を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 可変圧縮比エンジン
10 圧縮比可変機構
11 ピストン
12 クランクシャフト
13 アッパリンク
14 ロアリンク
15 コントロールリンク
20 コントロールシャフト
21 偏心軸
23 シャフト側ピニオンギア
30 シャフト制御機構
31 第1リンク
32 第2リンク(中間制御リンク)
33 アクチュエータロッド
35 駆動モータ
51 駆動側ピニオンギア
52 円形ピニオンギア
60 ラックギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとクランクシャフトとを複数のリンクで連結し、コントロールシャフトを回転させ、前記コントロールシャフトに形成された偏心軸の位置を変えて前記リンクの姿勢を制御することで、ピストン上死点位置を変更して圧縮比を可変にする可変圧縮比エンジンにおいて、
前記コントロールシャフトを回転させる駆動モータと、
前記駆動モータの回転を減速して前記コントールシャフトに伝達する減速機構と、を備え、
前記減速機構は、高圧縮比時の前記駆動モータと前記コントロールシャフトとの間の減速比を中間圧縮比時よりも小さくする、
ことを特徴とする可変圧縮比エンジン。
【請求項2】
前記減速機構は、低圧縮比時の減速比を中間圧縮比時よりも小さくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比エンジン。
【請求項3】
前記コントロールシャフトに対して、その回転中心からオフセットした位置に連結される中間制御リンクと、
前記中間制御リンクに対して回転可能に連結され、前記駆動モータによって前記コントロールシャフトと直交する方向に進退するアクチュエータロッドと、を備え、
エンジン運転状態に応じて前記アクチュエータロッドを進退させ、前記中間制御リンクを介して前記コントロールシャフトを回転させて圧縮比を可変にする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可変圧縮比エンジン。
【請求項4】
中間圧縮比時に、前記コントロールシャフトの回転中心から前記コントロールシャフトと前記中間制御リンクとの連結点とを結ぶ直線と、前記中間制御リンクとのなす角度がほぼ90°となり、
かつ、前記中間制御リンク及び前記アクチュエータロッドは、前記中間制御リンクと前記アクチュエータロッドとのなす角度がほぼ180°となるように配置される、
ことを特徴とする請求項3に記載の可変圧縮比エンジン。
【請求項5】
前記コントロールシャフトと一体に回転するように、前記コントロールシャフトに形成される楕円形状のシャフト側ピニオンギアと、
前記シャフト側ピニオンギアと噛合し、前記駆動モータによって回転する楕円形状の駆動側ピニオンギアと、を備え、
エンジン運転状態に応じて前記駆動側ピニオンギアを回転させ、前記シャフト側ピニオンギアを介して前記コントロールシャフトを回転させて圧縮比を可変にする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可変圧縮比エンジン。
【請求項6】
前記シャフト側ピニオンギア及び前記駆動側ピニオンギアは、中間圧縮比時に、シャフト側ピニオンギアの長軸と駆動側ピニオンギアの短軸とがほぼ一致するように配置される、
ことを特徴とする請求項5に記載の可変圧縮比エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108730(P2009−108730A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280370(P2007−280370)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】