説明

可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置

【課題】可変容量型油圧ポンプモータ式変速機において、シンクロの切り替え動作を伴う変速であっても、違和感のないスムーズな急変速を可能にする制御装置を提供する。
【解決手段】動力源と出力部材との間で複数の変速比を設定可能な2つの動力伝達経路と、圧力流体が相互に授受可能に連通された可変容量型流体圧ポンプモータとを備えた可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、動力伝達経路に作用するトルクを低減するリリーフ弁と、切替機構の切り替えを伴う変速を実行する場合に、リリーフ手段を制御して切り替えが行われる側の動力伝達経路の伝達トルクを低減する切り替え側トルク低減手段(ステップS3,S4)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力の伝達状態を可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積に応じて変更できる少なくとも2つの動力伝達経路を備え、それらの押出容積を最大および最小ならびにその中間の値に設定することにより適宜に変速することのできる可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機が特許文献1に記載されている。その構成を簡単に説明すると、一対の遊星歯車機構のそれぞれにおける反力要素に可変容量型流体圧ポンプモータが連結され、各可変容量型流体圧ポンプモータの吐出口同士、および吸入口同士が互いに連結されて閉回路が形成されている。また、各遊星歯車機構における入力要素にはエンジンなどの動力源が出力した動力が入力されるように構成されている。さらに、各遊星歯車機構の出力要素と一体の中間軸上には、いわゆる固定変速段もしくは固定変速比を設定するための駆動ギヤが配置され、それぞれの駆動ギヤに噛み合っている従動ギヤが出力軸上に配置されている。そして、これらの駆動ギヤと従動ギヤとからなる各ギヤ対をトルクの伝達可能な状態とトルクを伝達しない状態とに切り替える切替機構として同期連結機構(いわゆるシンクロ)が設けられている。
【0003】
したがって、いずれかの可変容量型流体圧ポンプモータをロックして前記反力要素を固定すれば、動力源が出力した動力が、その反力要素を有する遊星歯車機構を介して一方の中間軸に伝達され、さらにその中間軸に対してシンクロによって連結されているギヤ対を介して出力軸に動力が伝達される。その場合の変速比は、動力の伝達に関与している前記ギヤ対のギヤ比に応じた変速比となる。
【0004】
この場合の可変容量型流体圧ポンプモータのロックは、他方の可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積をゼロすなわち最小にすることにより設定される。すなわち、各流体圧ポンプモータは閉回路によって連通されているので、他方の流体圧ポンプモータの押出容積をゼロにすれば、圧力流体の流動が生じなくなるので、一方の流体圧ポンプモータの押出容積を最大にするなど、ゼロより大きい押出容積とすることにより、その一方の流体圧ポンプモータがロックされ、その回転が阻止される。
【0005】
また、各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積をゼロより大きくするとともに、一方の可変容量型流体圧ポンプモータ側のシンクロによって所定のギヤ対をトルク伝達可能な状態とし、かつ他方の可変容量型流体圧ポンプモータ側のシンクロによって他のギヤ対をトルク伝達可能な状態にすると、各ギヤ対のギヤ比に応じて決まる変速比の中間の値の変速比が設定される。すなわち、一方の可変容量型流体圧ポンプモータが圧力流体を発生させ、これが他方の可変容量型流体圧ポンプモータに供給されてこれがモータとして動作し、その動力が他方のギヤ対を介して出力軸に伝達される。その結果、出力軸には、このような流体を介して伝達された動力と、一方の可変容量型流体圧ポンプモータを介して機械的に伝達された動力とを合成した動力が現れる。そのうちの流体を介した動力は、各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積を連続的に変化させることにより連続的に変化させることが可能であるから、結局、変速機の全体としての変速比を連続的に、すなわち無段階に設定することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−266493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている変速機では、いずれかのギヤ対のギヤ比に応じた変速比、すなわち固定変速段(固定変速比)を超えて変速する場合、シンクロを切り替え動作させることにより、動力の伝達に関与するギヤ対を変更することになる。より具体的には、一方の中間軸側のシンクロをいわゆる係合状態に維持したまま、他方の中間軸側のシンクロをニュートラル位置に移動させ、かつ他のギヤ対側に移動させてそのギヤによって動力を伝達するいわゆる係合状態に切り替える。その切り替えの過程では、一旦、固定変速段を設定し、その状態でトルクの伝達に関与していない方のシンクロを切り替えることになる。すなわち、押出容積がゼロの可変容量型流体圧ポンプモータに繋がっているシンクロを切り替え動作させることになる。そして、シンクロの切り替え動作が完了した段階で、押出容積がゼロになっていた方の可変容量型ポンプモータの押出容積が目標変速比に基づいて制御される。
【0008】
すなわち、固定変速段を超えて変速する場合は、上記のようにシンクロの切り替え動作を伴うことになり、そのシンクロの切り替えが完了するまでの間は変速比が固定変速段で固定された状態すなわち変速しない状態になる。したがって、上記のようにシンクロの切り替え動作を伴う変速すなわち固定変速段を跨ぐ変速は、固定変速段で変速比の変化が停滞してしまう分、シンクロの切り替え動作を伴わない連続的な変速すなわち各固定変速段の間での無段変速と比較して変速時間が長くなってしまう。そのため、特に、急発進や急加速の際に実行されるダウンシフトやアップシフトなどの、変速比の迅速な変化が求められる急変速の際に、要求される変速速度を達成できなくなる可能性があった。また、各固定変速段の間での無段変速と固定変速段を跨ぐ変速とで変速速度が変化することに起因して、変速フィーリングに差異が生じ、その結果、運転者に違和感を与えてしまう可能性があった。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、可変容量型流体圧ポンプモータを使用した変速機において、切替機構の切り替え動作を伴う固定変速段を跨いだ変速であっても、変速時間を短縮して迅速な変速を可能にし、また、違和感のないスムーズな変速を可能にする制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源と出力部材との間でそれぞれ互いに異なる複数の変速比を選択的に設定可能な少なくとも2つの動力伝達経路と、それら各動力伝達経路を介して伝達されるトルクを押出容積に応じて変化させるように前記各動力伝達経路毎に設けられかついずれか一方の押出容積がゼロの場合に他方が圧力流体の給排を阻止されてロックされるように相互に連通された可変容量型流体圧ポンプモータと、一方の前記可変容量型流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記動力源からの動力を前記出力部材に伝達する第1伝動機構と、他方の前記可変容量型流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記動力源からの動力を前記出力部材に伝達する第2伝動機構と、前記各伝動機構を選択的に動力伝達可能な状態にする切替機構とを備え、いずれかの前記各伝動機構の変速比で決まる固定変速段と、前記各可変容量型流体圧ポンプモータ同士の間で圧力流体を介して伝達する動力を連続的に変化させることによる無段変速状態とを設定することが可能なように構成された可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、前記各動力伝達経路に作用する伝達トルクをそれぞれ低減するリリーフ手段と、前記切替機構によりいずれかの前記伝動機構の動力伝達状態の切り替えを伴う変速を実行する場合に、前記リリーフ手段を制御して前記動力伝達状態の切り替えが行われる伝動機構が設けられている側の前記伝達トルクを低減する切り替え側トルク低減手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記切り替え側トルク低減手段により前記伝達トルクが低減された後に、前記切替機構を動作させる切替機構制御手段と、前記切替機構制御手段により前記切替機構が動作させられるのと同時に、前記各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積を前記変速後の必要容積へそれぞれ変更するポンプモータ容積制御手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、目標変速比と実変速比とに基づく前記変速機の変速状態を判断する変速状態判断手段を更に備え、前記切り替え側トルク低減手段が、現在の変速が前記変速状態判断手段により目標変速比と実変速比との差が予め定めた閾値以上となる急変速であると判断された場合に、前記伝達トルクを低減する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記各可変容量型流体圧ポンプモータが、それぞれの吸入口同士を結ぶ第1流路と、それぞれの吐出口同士を結ぶ第2流路とにより互いに連通されているとともに、前記リリーフ手段が、前記第1流路と第2流路との間に設けられかつ前記第1流路の圧力を調圧可能な第1リリーフ弁と、前記第1流路と第2流路との間に設けられかつ前記第2流路の圧力を調圧可能な第2リリーフ弁と、これら各リリーフ弁の少なくともいずれか一方のリリーフ弁の設定圧力を制御する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0014】
そして、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記切り替え側トルク低減手段が、前記第1リリーフ弁および第2リリーフ弁の少なくともいずれか一方を開放することにより前記伝達トルクを低減する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、固定変速段を跨いで変速比を変化させる場合、すなわちいずれか一方の切替機構の切り替え動作を伴う変速を実行する場合に、その一方の切替機構が配置されている側の動力伝達経路の伝達トルクが低減される。具体的には、伝達トルクがゼロにされる。そのため、一方の切替機構を動力の伝達に関与しない状態にして、その切り替え動作を実行することが可能な状態にすることができる。その結果、切替機構の切り替え動作を速やかに行うことができ、固定変速段を跨いだ変速であっても、その変速時間を短縮して、固定変速段を跨がない無段変速に対する変速速度の低下を回避もしくは抑制し、違和感のないスムーズな変速を実行することができる。
【0016】
また、請求項2の発明によれば、固定変速段を跨いだ変速、すなわちいずれか一方の切替機構の切り替え動作を伴う変速の際には、その一方の切替機構が配置されている側の動力伝達経路の伝達トルクが低減され、その後、その一方の切替機構の切り替えが行われる。そしてその切り替えの開始とともに、各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積が変速後に設定されるべき必要容積になるように制御される。言い換えると、各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積の制御を待つことなく、切替機構の切り替えが開始される。そのため、切り替えが行われる切替機構が配置されている側のいずれか一方の可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積をゼロにして、その切替機構の伝達トルクを低減することにより切替機構の切り替えを行う従来の変速制御と比較して、変速時間を短縮し、変速速度を速めることができる。
【0017】
また、請求項3の発明によれば、固定変速段を跨いだ変速であって、特に変速比の迅速な変化が求められる急変速の際に、固定変速段での変速比の変化の停滞を解消して、変速速度を速めることができ、違和感のないスムーズで迅速な急変速を実行することができる。
【0018】
また、請求項4の発明によれば、各可変容量型流体圧ポンプモータの吸入口同士を連通させる第1流路と吐出口同士を連通させる第2流路との間に、第1流路の圧力を排圧する第1リリーフ弁、および第2流路の圧力を排圧する第2リリーフ弁が設けられる。そして、各リリーフ弁は設定圧力すなわちリリーフ圧を調圧可能に構成されている。そのため、各リリーフ弁の設定圧力を制御すること、具体的には設定圧力を低下させることにより、各動力伝達経路に作用する伝達トルクを低減することができる。例えば、第1リリーフ弁の設定圧力をゼロにすることにより、その第1リリーフ弁により圧力が調整される第1流路を介して圧力流体が供給される可変容量型流体圧ポンプモータ側の動力伝達経路の伝達トルクをゼロにすることができる。
【0019】
そして、請求項5の発明によれば、固定変速段を跨いだ変速、すなわちいずれか一方の切替機構の切り替え動作を伴う変速の際に、切り替えがおこなわれる切替機構が配置されている側の可変容量型流体圧ポンプモータへ圧力流体を供給している流路の圧力を調圧するリリーフ弁が開放され、その設定圧力がゼロにされる。そのため、上述した動力伝達経路の伝達トルクを低減する(ゼロにする)制御を、リリーフ弁を開くことにより容易に行うことができる。また、この種のリリーフ弁は通常設けられるものであるから、装置の構成を複雑化することなく、上記のような伝達トルクを低減する制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機について説明すると、この発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機は、少なくとも2つの動力伝達経路を備えており、それら両方の動力伝達経路を介して、動力源から出力部材にトルクを伝達できるように構成され、その結果、動力源と出力部材との回転数の比である変速比を連続的に変化させることのできる変速機である。
【0021】
より具体的には、各動力伝達経路は、ポンプおよびモータのそれぞれとして機能する可変容量型流体圧ポンプモータを備えており、この押出容積に応じたトルクを伝達するように構成され、さらにそれぞれの可変容量型流体圧ポンプモータが圧力流体を相互に授受できるように連通されている。したがって、一方の可変容量型流体圧ポンプモータがポンプとして機能することにより、その押出容積に応じたトルクが動力源から出力部材に伝達され、同時に、一方の可変容量型流体圧ポンプモータから他方の可変容量型流体圧ポンプモータに圧力流体が供給されて他方の可変容量型流体圧ポンプモータがモータとして機能する。すなわち、圧力流体を介した動力伝達が並行して行われ、そのトルクが他方の動力伝達経路を介して出力部材に伝達される。その結果、出力部材に伝達されるトルクは、各動力伝達経路を介して伝達されるトルクの合計になり、しかも圧力流体を介して伝達されるトルクは、各押出容積に応じて変化するので、結局は、変速比が連続的に変化することになる。
【0022】
各動力伝達経路は、それぞれ互いに変速比の異なるギヤ対や巻き掛け伝動装置などの伝動機構を備えることができ、一方の動力伝達経路のみを介して出力部材にトルクを伝達する場合には、変速機の全体としての変速比は、その動力伝達経路における伝動機構の変速比で決まる。このような変速比を仮に固定変速段と称すると、固定変速段を設定している状態では、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力の損失が生じにくく、効率の良い伝動状態となる。なお、いずれかの伝動機構のみをトルク伝達に関与させるようにするために、クラッチ機構などの切替機構を各伝動機構に含ませることが好ましく、あるいは動力源もしくは出力部材と伝動機構との間に切替機構を設けることが好ましい。
【0023】
この発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機は、圧力流体を介して動力を伝達するように構成されているので、ハイドロスタティック・トランスミッション(HST)として構成した変速機であってもよいが、上述したように機械的な動力伝達によって変速比を設定する機能を兼ね備えたハイドロスタティック・メカニカル・トランスミッション(HMT)として構成されたものであることが好ましい。そのメカニカルトランスミッションの部分は、必要に応じて適宜の構成とすることができ、常時噛み合っているギヤ対をクラッチ機構もしくは同期連結機構によって選択する構成の機構や、複数の遊星歯車機構もしくは複合遊星歯車機構によって複数の変速比を設定できる構成などを採用することができる。また、可変容量型流体圧ポンプモータは、動力源と出力部材との間に直列に介在させる構成以外に、反力手段として可変容量型流体圧ポンプモータを用いる構成とすることもできる。
【0024】
つぎに、この発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の構成を具体例に基づいて説明する。図1に示す例は、車両用の変速機TMとして構成した例であり、差動機構を動力分配機構として使用するとともに、伝動機構として複数のギヤ対を使用している。したがって、可変容量型流体圧ポンプモータが反力機構となっている例であって、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速段として4つの前進段および1つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、図1において、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2から第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
【0025】
動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。以下の説明では、動力源1として、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはLPGエンジンなどのエンジン1を使用した例を説明する。また、このエンジン1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
【0026】
第1遊星歯車機構3は、入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4は、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を用いることができる。図1に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリア3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
【0027】
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っていて、さらにそのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
【0028】
第1遊星歯車機構3におけるキャリア3Cは出力要素となっており、そのキャリア3Cに第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0029】
第2遊星歯車機構4も同様な構成であって、そのキャリア4Cが出力要素となっており、そのキャリア4Cに第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部をモータ軸11が回転自在に挿入されており、このモータ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0030】
上記のモータ軸9の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量すなわち押出容積を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出口もしくは吸入口から圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはPM1と表示する。
【0031】
また、モータ軸11の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ13は、モータ軸9側の第1ポンプモータ12と同様の構成のものであり、したがって斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量すなわち押出容積を変更可能な流体圧(油圧)ポンプを採用することができる。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはPM2と表示する。
【0032】
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート(吸入口)12S,13S同士が、この発明の第1油路に相当する油路14によって連通され、また吐出ポート(吐出口)12D,13D同士が、この発明の第2油路に相当する油路15によって連通されている。したがって各油路14,15によって閉回路が形成されている。この閉回路での油圧制御のための機構については後述する。
【0033】
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸16が配置されている。そして、この出力軸16と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この伝動機構としては、固定された回転数比(変速比)で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対17,18,19,20が採用されている。
【0034】
具体的に説明すると、第1中間軸8には、第1遊星歯車機構3側から順に、この発明の第1伝動機構に相当する、第4速ギヤ対17の第4速駆動ギヤ17Aと、第2速ギヤ対18の第2速駆動ギヤ18Aとが配置されており、それら第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとは第1中間軸8に対して回転自在に嵌合させられている。その第4速駆動ギヤ17Aに噛み合っている第4速ギヤ対17の第4速従動ギヤ17Bと、第2速駆動ギヤ18Aに噛み合っている第2速ギヤ対18の第2速従動ギヤ18Bとが、出力軸16に一体回転するように取り付けられている。
【0035】
一方、第2中間軸にも、第2遊星歯車機構4側から順に、この発明の第2伝動機構に相当する、第3速ギヤ対19の第3速駆動ギヤ19Aと、第1速ギヤ対20の第1速駆動ギヤ20Aとが配置されている。第3速駆動ギヤ19Aは上記の第4速従動ギヤ17Bに噛み合っていて、第1速駆動ギヤ20Aは上記の第2速従動ギヤ18Bに噛み合っている。そして、それら第3速駆動ギヤ19Aと第1速駆動ギヤ20Aとは第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ17Bが第3速ギヤ対19の第3速従動ギヤ19Bを兼ねており、また第2速従動ギヤ18Bが第1速ギヤ対20の第1速従動ギヤ20Bを兼ねている。ここで、各ギヤ対17,18,19,20の回転数比もしくは変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その回転数比は、第1速用ギヤ対20、第2速用ギヤ対18、第3速用ギヤ対19、第4速用ギヤ対17の順に小さくなるように構成されている。
【0036】
さらに、発進用ギヤ対21が設けられている。この発進用ギヤ対21は、第1速用ギヤ対20と併せて出力軸16に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、第1ポンプモータ12側のモータ軸9に取り付けられた発進駆動ギヤ21Aと、出力軸16に回転自在に取り付けられた発進従動ギヤ21Bとを備えている。
【0037】
上述した各ギヤ対17,18,19,20,21を、いずれかの中間軸8,10と出力軸16との間で選択的にトルク伝達可能な状態とするための機構、すなわちこの発明の切替機構に相当するクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
【0038】
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブと、その回転軸に対して相対回転する他の回転部材に設けられたスプラインと、前記スリーブに押されて他の回転部材側に移動するシンクロナイザーリングとを有している。そして、スリーブを他の回転部材のスプライン側に移動させる過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させ、その状態でスリーブがスプラインに係合することにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。出力軸16上で、発進従動ギヤ21Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)22が設けられている。この第1シンクロ22は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、発進従動ギヤ21Bを出力軸16に連結し、発進用ギヤ対21がモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
【0039】
また、第2中間軸10上で、第3速駆動ギヤ19Aと第1速駆動ギヤ20Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)23が設けられている。この第2シンクロ23は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結し、第1速用ギヤ対20が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、第3速用ギヤ対19が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
【0040】
さらに、第1中間軸8上で、第2速駆動ギヤ18Aと第4速駆動ギヤ17Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)24が設けられている。この第3シンクロ24は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結し、第2速用ギヤ対18が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、第4速用ギヤ対17が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。
【0041】
またさらに、第2ポンプモータ13側のモータ軸11上で、第2中間軸10の軸端に隣接する位置に後進用のシンクロナイザー(以下、Rシンクロと記す)25が設けられている。このRシンクロ25は、そのスリーブを図1の右側に移動させることにより、モータ軸11と第2中間軸10、すなわち第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sとキャリア4Cとを連結して、第2遊星歯車機構4の全体を一体回転させるように構成されている。
【0042】
上記の各シンクロ22,23,24,25は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
【0043】
このように、図1に示す可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機TMは、エンジン1が出力したトルクが、いずれかの中間軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸16に伝達されるように構成されている。すなわち、エンジン1から第1中間軸8もしくはモータ軸9を経由して出力軸16に至る動力伝達経路と、エンジン1から第2中間軸10もしくはモータ軸11を経由して出力軸16に至る動力伝達経路との、エンジン1と出力軸16との間でそれぞれ互いに異なる複数の変速比を、各シンクロ22,23,24,25の切り替え動作によって選択的に設定可能な2つの動力伝達経路が構成されている。そして、出力軸16には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動装置などの伝動手段26を介してデファレンシャル27が連結され、ここから左右の車軸28に動力を出力するようになっている。
【0044】
さらに、変速機TMの動作状態を検出するためのセンサが設けられている。具体的には、前述した入力部材2もしくはこれと一体のカウンタドライブギヤ5の回転数を検出する入力回転数センサ29、車軸28の回転数を検出する出力回転数センサ30、第1ポンプモータ12の回転数を検出する回転数センサ31、第2ポンプモータ13の回転数を検出する回転数センサ32などが設けられている。
【0045】
つぎに、上記の各ポンプモータ12,13を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ12,13を連通させている前記閉回路14,15には、流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)33が設けられている。このチャージポンプ33は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述したエンジン1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン34からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
【0046】
そのチャージポンプ33の吐出口は、閉回路における油路14と油路15とにそれぞれチェック弁35,36を介して連通されている。なお、これらのチェック弁35,36は、チャージポンプ33からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ33の吐出圧を調整するためのリリーフ弁37が、チャージポンプ33の吐出口に連通されている。このリリーフ弁37は、スプリングによる弾性力とパイロット圧もしくはソレノイドによる押圧力との和より高い圧力が作用した場合に開いてオイルをオイルパン34に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ33の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
【0047】
さらに、第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sと油路15との間に、第1リリーフ弁38が設けられている。すなわち、第1ポンプモータ12と並列に、各油路14,15を連通させるように第1リリーフ弁38が設けられている。この第1リリーフ弁38は、第1ポンプモータ12の吸入ポート12S、または第2ポンプモータ13の吸入ポート13Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。言い換えれば、第1リリーフ弁38は、油路14の圧力が予め設定した圧力以上高い場合に開いて排圧するように構成されている。
【0048】
また、第2ポンプモータ13の吐出ポート13Dと油路14との間に、第2リリーフ弁39が設けられている。すなわち、第2ポンプモータ13と並列に、各油路14,15を連通させるように第2リリーフ弁39が設けられている。この第2リリーフ弁39は、第2ポンプモータ13の吐出ポート13D、または第1ポンプモータ12の吐出ポート12Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。言い換えれば、第2リリーフ弁39は、油路15の圧力が予め設定した圧力以上高い場合に開いて排圧するように構成されている。
【0049】
そして、これら各リリーフ弁38,39は、それぞれ、設定圧(すなわちリリーフ圧)をゼロを含む所定の圧力に調圧することができ、前記の各動力伝達経路に作用する伝達トルクをそれぞれ低減(トルクをゼロにすることも含む)することが可能な構成となっている。すなわち、これら第1リリーフ弁38および第2リリーフ弁39が、この発明のリリーフ手段として機能するリリーフ弁である。
【0050】
したがって、いずれかのリリーフ弁38(もしくは39)のリリーフ圧をゼロにすることにより、そのリリーフ弁38(もしくは39)が設けられている側の油路14(もしくは15)の油圧をゼロにして、ポンプモータ12(もしくは13)をフリーの状態、すなわちニュートラルの状態にすることができる。言い換えると、リリーフ弁38(もしくは39)を制御してそのリリーフ圧をゼロにすることにより、そのリリーフ弁38(もしくは39)が設けられている側のポンプモータ12(もしくは13)を、その押出容積がゼロより大きい容積に制御されている場合であっても、出力軸16に対して動力の伝達に関与しない状態にすることができる。
【0051】
上記の各ポンプモータ12,13の押出容積や各シンクロ22,23,24,25の切り替え動作あるいは各リリーフ弁38,39のリリーフ圧などを電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)40が設けられている。この電子制御装置40は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や動作部材のストロークなどの検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
【0052】
つぎに、上述した変速機TMの作用について説明する。図2は、各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)12,13、および各シンクロ22,23,24,25の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のポンプモータ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12(もしくは13)は軸トルクを発生し、対応するモータ軸9,11および中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
【0053】
そして、各シンクロ22,23,24,25についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ22,23,24,25におけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「○」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定することにより引き摺りを低減している状態、「●」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定して中立状態となっていることを示す。
【0054】
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル(N)状態を設定する際には、各ポンプモータ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ22,23,24,25のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対17,18,19,20,21も出力軸16に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各ポンプモータ12,13が、それらの押出容積(ポンプ容量)が実質的にゼロとなるように制御される。その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rにエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しない。そのため、出力要素であるキャリア3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
【0055】
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ22のスリーブが図1の左側に移動させられるとともに第2シンクロ23のスリーブが、図1の左側に移動させられる。したがって、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結されて第1ポンプモータ12と出力軸16とが連結され、また第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結されて第2遊星歯車機構4の出力要素であるキャリア4Cと出力軸16とが連結される。すなわち、固定変速段である第1速を設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ12,13の押出容積がゼロより大きい容積に制御される。
【0056】
したがって、第2ポンプモータ13は第2遊星歯車機構4によって分配されたエンジン1の動力によって駆動されてポンプとして機能する。したがって、第2ポンプモータ13は、油圧を発生させることに伴う反力トルクをモータ軸11およびサンギヤ4Sに与える。これを図2には「油圧発生」と記載してある。そのため、第2遊星歯車機構4の差動作用によってキャリア4Cにトルクが伝達され、そのトルクが第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。
【0057】
一方、第2ポンプモータ13で発生した油圧がその吸入ポート13Sから吐出されて第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ12がモータとして機能する。これを図2には「油圧回収」と記載してある。このようにして第1ポンプモータ12に伝達される動力が発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達される。したがって発進から第1速までの駆動状態では、第2遊星歯車機構4を介したいわゆる機械的な動力の伝達と、油圧を介した動力の伝達との両方が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸16に現れる。また、この過程での変速比は、固定変速段である第1速より大きい値となり、その変速比は連続的に、あるいは無段階に変化する。
【0058】
こうしてエンジン1の回転数や車速が変化して第1速の変速比になると、第1ポンプモータ12の押出容積q1がゼロに設定され、また第2ポンプモータ13の押出容積q2が最大に設定され、その結果、実質上、第2ポンプモータ13の回転がロックされる。すなわちモータ軸11およびこれに連結されている第2ポンプモータ13が固定される。また、併せて第1シンクロ22がOFF状態に設定される。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sが固定され、また第1遊星歯車機構3は出力軸16に対する動力の伝達に関与しなくなるので、エンジン1が出力した動力は、第2遊星歯車機構4および第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。すなわち、第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速段が設定される。なお、この場合、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転するので、第1中間軸8にトルクは現れない。
【0059】
固定変速段である第1速からアップシフトする場合、第3シンクロ24のスリーブを図1の左側に移動させて第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結しておく。なお、Rシンクロ25は中立状態にしておく。また、第3シンクロ24のスリーブを第2速駆動ギヤ18Aに係合させる場合、第3シンクロ24のスリーブの回転数と第2速駆動ギヤ18Aとの回転数を一致させる同期制御を行う。その同期制御は、前記シンクロ22,23,24,25のスリーブを相手部材に係合させる場合にも同様に行われる。
【0060】
この状態で、第1ポンプモータ12の押出容積q1を最大に向けて次第に増大させる。第2速へのアップシフト待機状態では、第1ポンプモータ12は逆回転しているから、その押出容積q1を次第に増大させることによりポンプとして機能する。すなわち、油圧を発生し(図2に「油圧発生」と記してある)、同時にそれに伴う反力トルクがモータ軸9に現れる。その結果、第1遊星歯車機構3および第2速用ギヤ対18を介した動力の伝達が次第に行われる。また、第1ポンプモータ12で発生した油圧が第2ポンプモータ13に供給されてこれがモータとして機能する(図2に「油圧回収」と記してある)ので、第2ポンプモータ13および第2遊星歯車機構4ならびに第1速用ギヤ対20を介した動力の伝達が生じる。そのため、第1速から第2速への変速の過程での変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との間の値となり、かつ連続的に変化する変速比となる。すなわち、変速比が連続的に変化する無段変速状態となる。これは、上述した発進から第1速の変速比に到るまでの間、および各固定変速段の間でも同様であり、したがって上述した変速機は、無段変速機として機能させることができる。
【0061】
固定変速段である第1速を設定している状態では、第1ポンプモータ12の押出容積q1はゼロ(もしくは最小に近い所定値以下)に設定され、また第2ポンプモータ13の押出容積q2は最大もしくはこれに近い所定値以上になっている。したがって、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転し、また第2ポンプモータ13から第1ポンプモータ12に対して圧油が流動することができないので、第2ポンプモータ13はロックされた状態になる。この状態から先ず第1ポンプモータ12の押出容積q1が次第に増大させられる。その結果、第1ポンプモータ12で油圧が発生し、これが第2ポンプモータ13に供給されるので、第2ポンプモータ13がモータとして作用する。すなわち、各ポンプモータ12,13の間で圧油を介した動力の伝達が生じる。
【0062】
こうして第1ポンプモータ12の押出容積q1が最大になると、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が共に最大もしくはこれに近い所定値以上となる。その後、第1ポンプモータ12の押出容積q1を最大もしくはこれに近い所定値以上に維持したまま、第2ポンプモータ13の押出容積q2が次第に低下させられる。そして、第2ポンプモータ13の押出容積q2がゼロ(もしくは最小に近い所定値以下)になることにより、固定変速段である第2速が設定される。すなわち、各ギヤ対のうち第2速用ギヤ対18のみを介して動力の伝達が行われ、第2速用ギヤ対18の回転数比に応じた変速比が設定される。
【0063】
第1ポンプモータ12の押出容積q1がほぼ最大になりその回転が停止し、もしくは停止に近い状態になることにより、モータ軸9が実質的に固定される。また、併せて第2ポンプモータ13がOFF状態に設定される。したがって、第1遊星歯車機構3では、そのサンギヤ3Sが固定されるので、リングギヤ3Rに入力された動力がキャリア3Cから第1中間軸8を経て第2速駆動ギヤ18Aに出力される。一方、第2ポンプモータ13はOFF状態となっており、これと同軸上に配置されているRシンクロ25および第2シンクロ23はOFF状態であってそのスリーブが中立位置にあるので、第2ポンプモータ13や第2遊星歯車機構4は動力の伝達に関与しない。したがって、第2速用ギヤ対18のギヤ比で決まる固定変速段である第2速が設定される。
【0064】
以下、同様にして、第3速は第2シンクロ23のスリーブを図1の右側に移動させて第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、また第2ポンプモータ13の押出容積q2を最大にすることにより、第1速の場合と同様に、モータ軸11および第2ポンプモータ13を固定し、さらに他のシンクロ22,24がOFF状態に設定される。したがって、第3速用ギヤ対19を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速段である第3速が設定される。また、第4速は第3シンクロ24のスリーブを図1の右側に移動させて第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、また第1ポンプモータ12の押出容積q1を最大にすることにより、第2速の場合と同様に、モータ軸9および第1ポンプモータ12を固定し、さらに他のシンクロ23,25がOFF状態に設定される。したがって、第4速用ギヤ対17を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速段である第4速が設定される。
【0065】
さらに、後進段について説明すると、リバースポジションが選択された場合には、第1シンクロ22のスリーブが図1の左側に移動させられ、またRシンクロ25のスリーブが図1の右側に移動させられ、さらに他のシンクロ23,24がOFF状態に設定される。したがって、Rシンクロ25によって第2中間軸10とモータ軸11とが連結されることにより、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリア4Cとが連結されて第2遊星歯車機構4の全体が実質的に一体化される。また、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9すなわち第1ポンプモータ12のロータに連結される。
【0066】
したがって、エンジン1から第2遊星歯車機構4に伝達された動力がそのまま第2ポンプモータ13に伝達されてこれが駆動され、第2ポンプモータ13によって油圧が発生する。なお、第2シンクロ23がOFF状態であるから、第2遊星歯車機構4あるいは第2中間軸10から出力軸16に動力が伝達されることはない。一方、第1ポンプモータ12の押出容積q1がゼロより大きい容積、例えば最大容積に制御される。その結果、第2ポンプモータ13から供給された油圧によって第1ポンプモータ12がモータとして機能し、モータ軸9にトルクを出力する。その場合、第1ポンプモータ12にはその吐出ポート12Dから油圧が供給されるので、第1ポンプモータ12が逆回転する。そして、そのトルクが発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達されるので、後進状態となる。すなわち、後進段では、油圧を介した動力の伝達が生じ、これを図2では、第1ポンプモータ12について「油圧回収」と記し、第2ポンプモータ13について「油圧発生」と記してある。
【0067】
上記のように構成されたこの発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機TMでは、固定変速段を跨いで変速する際にシンクロの切り替え動作を行う必要があり、その切り替え動作が完了するまでの間は変速比の変化が固定変速段の状態で不可避的に停滞してしまう。したがって、固定変速段を跨いで変速する場合は、固定変速段の状態で変速比の変化が停滞する分だけ変速速度が遅くなってしまう。そのため、特に迅速な変速比の変化が要求される急変速時には、固定変速段に到達するまでの無段変速状態と固定変速段で変速比が停滞する状態とで変速速度が変化することに起因して、乗員に違和感やショックを与えてしまう可能性がある。
【0068】
そこで、この発明の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機TMの制御装置では、固定変速段を跨ぐ変速、すなわちシンクロの切り替え動作を伴う変速であっても、変速速度の低下を防止し、違和感のないスムーズな変速を可能にするために、以下に示す制御を実行するように構成されている。その制御例を以下に説明する。
【0069】
図3は、この発明の制御装置による制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。また、ここでは、第2速固定変速段を跨いだダウンシフト、すなわち第2ポンプモータ13側の第2シンクロ23を第3速ギヤ対19から第1速ギヤ対20へ切り替える変速を例に挙げて説明する。
【0070】
図3において、先ず、固定変速段を跨ぐ変速の変速要求の有無が判定される。具体的には、第2シンクロ23に対する切り替え要求があるか否かが判断される(ステップS1)。各シンクロ23,24の切り替えは、例えば、図4に示すように、目標変速比(変速比の指令値)が、シンクロ切り替え判断線を越えた場合に実行される。このシンクロ切り替え判断線は、第2速および第3速の固定変速段を跨ぐ変速毎に設定されていて、図4に示す例では、第2速固定変速段を跨ぐアップシフトの際に第2シンクロ23を第1速ギヤ対20から第3速ギヤ対19へ切り替える「1→3判断線」と、第2速固定変速段を跨ぐダウンシフトの際に第2シンクロ23を第3速ギヤ対19から第1速ギヤ対20へ切り替える「3→1判断線」と、第3速固定変速段を跨ぐアップシフトの際に第3シンクロ24を第2速ギヤ対18から第4速ギヤ対17へ切り替える「2→4判断線」と、第3速固定変速段を跨ぐダウンシフトの際に第3シンクロ24を第4速ギヤ対17から第2速ギヤ対18へ切り替える「4→2判断線」とが設定されている。なお、「1→3判断線」と「3→1判断線」との間、および、「2→4判断線」と「4→2判断線」との間には、制御のハンチングを防止するためにヒステリシスが設けられている。
【0071】
このように、第2シンクロ23に対する切り替え要求の有無は、その時点の実際の変速比(すなわち実変速比)と目標変速比とに基づいて判断することができる。その第2シンクロ23に対して切り替え要求がないことにより、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わずに、このルーチンを一旦終了する。
【0072】
これに対して、第2シンクロ23に対して切り替え要求があったことにより、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進み、これから実行される変速が急ダウンシフトであるか否かが判断される。この制御における急変速(急ダウンシフト、急アップシフト)とは、変速比が大きく変化する変速を示していて、例えば、実変速比と目標変速比との差が所定値以上ある場合の変速のことである。
【0073】
したがって、これから実行される変速が、急ダウンシフトであること、すなわち、実変速比と目標変速比との差が所定値以上となるダウンシフトであることにより、このステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3へ進み、第2シンクロ23が配置されている側の第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにする指令が出力される。
【0074】
第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにする指令が出力されると、そのリリーフ圧がゼロになったか否かが判断される(ステップS4)。リリーフ圧がゼロになったか否かの判定は、例えば、リリーフ圧をゼロにする指令が出力された時点からの待ち時間Tlateを設定しておき、その待ち時間Tlateが経過したことによってリリーフ圧がゼロになったと判定することができる。また、その場合の待ち時間Tlateは、例えば、予め設定された油温によるマップに基づいて設定することができる。
【0075】
第2リリーフ弁39のリリーフ圧が未だゼロでないこと、すなわち、上記の待ち時間Tlateが未だ経過していないことにより、このステップS4で否定的に判断された場合は、前述のステップS3へ戻り、従前の制御が繰り返し実行される。
【0076】
これに対して、第2リリーフ弁39のリリーフ圧がゼロになったこと、すなわち、上記の待ち時間Tlateが経過したことにより、ステップS4で肯定的に判断された場合には、ステップS5へ進み、第2シンクロ23の切り替え指令が出力される。
【0077】
ここで、上記の待ち時間Tlateは、図5のタイムチャートで時刻t1から時刻t2までの期間で表される時間であり、したがって、図5のタイムチャートにおいて、時刻t1の時点で第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにする指令が出力されると、その時刻t1から待ち時間Tlateが経過した時刻t2の時点で、第2シンクロ23の切り替え指令が出力される。
【0078】
前述したように、第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにすることにより、第2ポンプモータ13がフリーの状態にされ、動力の伝達に関与しない状態にされる。言い換えると、第2ポンプモータ13と、その第2ポンプモータ13の側に配置された第2シンクロ23との間の伝達トルクがゼロに低減され、その間の動力伝達が遮断される。その結果、第2ポンプモータ13は第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに対して反力を作用させない状態になり、それに伴って、第2ポンプモータ13側に配置された第2シンクロ23も動力の伝達に関与しない状態にされて、切り替え動作を実行可能な状態になる。したがって、第2ポンプモータ13の押出容積の状態にかかわらず、第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにすることにより、第2シンクロ23の切り替え動作を実行可能な状態にすることができ、そのため、速やかに、言い換えると、押出容積がゼロになるのを待たずに、第2シンクロ23の切り替え動作を開始して、第2シンクロ23の切り替え動作を伴う変速の変速時間を短縮することができ、ひいては、第2シンクロ23の切り替え動作を伴う変速の変速速度を増大することができる。
【0079】
続いて、各ポンプモータ12,13の押出容積が目標値に制御される(ステップS6)。各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2は、変速比をγとして、また各遊星歯車機構3,4のサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとの歯数比(すなわち、「サンギヤ3S,4Sの歯数/リングギヤ3R,4Rの歯数」)を共にρとし、各ポンプモータ12,13側の動力伝達経路におけるギヤ比をそれぞれκ1,κ2とすると、
γ={(1+ρ)×(κ1×Q1+κ2×Q2)}/(Q1+Q2)
に示す押出容積Q1,Q2と変速比γとの関係を満たすようにそれぞれ制御される。
【0080】
例えば図4に示すように、現時点の実変速比R0から第2速固定変速段を超えて目標変速比R1まで急ダウンシフトされる場合、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2は、押出容積Q1が、現時点の容積q10から変速後の必要容積である容積q11になるように、また押出容積Q2が、現時点の容積q20から変速後の必要容積である容積q21になるように制御される。
【0081】
また、エンジン1の回転数制御が実行される(ステップS7)。具体的には、エンジン回転数Neは、出力軸16の回転数をNoutとすると、その出力軸回転数Noutと変速後の変速比すなわち目標変速比R1とにより、
Ne=R1×Nout
となるように制御される。
【0082】
各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2の制御とエンジン1の回転数制御とが実行されると、第2シンクロ23の切り替え動作が完了しかつ各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2が目標値に到達したか否かが判断される(ステップS8)。第2シンクロ23の切り替え動作が完了した条件と、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2が目標値に到達した条件との、少なくともいずれかの条件が未だ満たされていないことにより、このステップS8で否定的に判断された場合は、前述のステップS5へ戻り、従前の制御が繰り返し実行される。
【0083】
これに対して、第2シンクロ23の切り替え動作が完了した条件と、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2が目標値に到達した条件とがいずれも満たされたことにより、ステップS8で肯定的に判断された場合には、ステップS9へ進み、ゼロにされていた第2リリーフ弁39のリリーフ圧を通常の状態に復帰させるリリーフ圧復帰制御が実行される。そして、エンジン1の回転数制御が終了させられ(ステップS10)、そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0084】
一方、これから実行される変速が急ダウンシフトでないこと、すなわち、実変速比と目標変速比との差が所定値より小さい通常のダウンシフトであることにより、前述のステップS2で否定的に判断された場合には、ステップS11へ進み、そのステップS11以降の、通常のダウンシフトにおけるシンクロおよび各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2の制御が実行される。
【0085】
すなわち、ステップS11で、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2が、その時点で動力伝達状態に設定されているギヤ対における低速段側、この例では、第2速固定変速段を設定する状態になるように制御される。具体的には、第1ポンプモータ12の押出容積Q1が最大に設定され、第2ポンプモータ13の押出容積Q2がゼロに設定される。
【0086】
なお、この発明による変速制御を適用する対象がアップシフトの場合は、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2が、その時点で動力伝達状態に設定されているギヤ対における高速段側、例えば第3速固定変速段を跨いだアップシフトの場合には、第3速固定変速段を設定する状態になるように制御される。具体的には、第1ポンプモータ12の押出容積Q1がゼロに設定され、第2ポンプモータ13の押出容積Q2が最大に設定される。
【0087】
続いて、シンクロ切り替え側のポンプモータ、この例では、第2ポンプモータ13押出容積Q2がゼロになったか否かが判断される(ステップS12)。第2ポンプモータ13押出容積Q2が未だゼロにならないことにより、このステップS12で否定的に判断された場合は、前述のステップS11へ戻り、従前の制御が繰り返し実行される。
【0088】
これに対して、第2ポンプモータ13押出容積Q2がゼロになったことにより、ステップS12で肯定的に判断された場合には、ステップS13へ進み、第2シンクロ23の切り替え指令が出力される。
【0089】
そして、第2シンクロ23の切り替え動作が完了したか否かが判断される(ステップS14)。第2シンクロ23の切り替え動作が未だ完了していないことにより、このステップS14で否定的に判断された場合は、前述のステップS13へ戻り、従前の制御が繰り返し実行される。
【0090】
これに対して、第2シンクロ23の切り替え動作が完了したことにより、ステップS14で肯定的に判断された場合には、ステップS15へ進み、前述のステップS6と同様に、各ポンプモータ12,13の押出容積が目標値に制御される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0091】
上記に示したこの発明の制御装置による制御例と、この発明の制御装置による制御を行わない従来の制御例とを比較すると、先ず、図6のタイムチャートで示す従来の制御例では、第2シンクロ23の切り替え動作を伴うダウンシフトの場合、時刻t5の時点で、第2ポンプモータ13の押出容積Q2をゼロにする指令が出力された後に、その押出容積Q2がゼロになった時刻t6の時点で、言い換えると、押出容積Q2がゼロになるのを待って、第2シンクロ23の切り替え指令が出力される。そして第2シンクロ23の切り替えが行われ、その切り替え動作の完了が判定される時刻t7の時点で、ゼロにされていた第2ポンプモータ13の押出容積Q2を変速後の目標値q21、すなわち最大に設定する指令が出力される。そしてその押出容積Q2が目標値の容積q21すなわち最大になった後に、第1ポンプモータ12の押出容積Q1を変速後の目標値q11に設定する指令が出力され、その押出容積Q1が目標値の容積q11になった時刻t8の時点で、このダウンシフトが完了する。
【0092】
このように、従来の制御による第2シンクロ23の切り替え動作を伴うダウンシフトにおける変速時間は、図6において時刻t6から時刻t7の期間で表される第2シンクロ23の切り替え動作に要する切り換え時間Tswに、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2を制御する時間(すなわち時刻t5から時刻t6までの時間および時刻t7から時刻t8までの時間)を加えた時刻t5から時刻t8までの時間になる。
【0093】
これに対して、この発明の制御による第2シンクロ23の切り替え動作を伴うダウンシフトにおける変速時間は、図5において時刻t2から時刻t3の期間で表される第2シンクロ23の切り替え動作に要する切り換え時間Tswに、第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにする待ち時間Tlateと、その第2リリーフ弁39のリリーフ圧を通常のレベルまで復帰させる時刻t3から時刻t4までの時間とを加えた時刻t1から時刻t4までの時間になる。
【0094】
相対的に高圧・大容量となる各ポンプモータ12,13と比較して、第2リリーフ弁39の方が制御応答性がよく、したがって第2リリーフ弁39のリリーフ圧を制御するための時間は、各ポンプモータ12,13の押出容積Q1,Q2を制御するための時間よりも短くて済む。また、第2ポンプモータ13の押出容積Q2がゼロになるのを待って第2シンクロ23の切り替えが開始される従来の制御に対して、この発明の制御では、第2リリーフ弁39のリリーフ圧をゼロにする指令の待ち時間Tlateが経過した時点で、押出容積Q2がゼロになるのを待たずに第2シンクロ23の切り替えを開始することができる。そのため、この発明の制御装置による変速制御を実行することによって、シンクロの切り替え動作を伴う変速の変速時間を従来の変速制御と比べて短縮すること、シンクロの切り替え動作を伴う変速の変速速度を速めることができる。
【0095】
以上のように、この発明の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置によれば、例えば、第2速固定変速段を跨いで変速比を変化させる場合、すなわち第2シンクロ23の切り替え動作を伴う変速を実行する場合に、その第2シンクロ23が配置されている側の動力伝達経路の伝達トルクが低減される。具体的には、第2リリーフ弁39が開放すなわちそのリリーフ圧がゼロにされて、第2シンクロ23が配置されている側の動力伝達経路の伝達トルクがゼロにされる。そのため、第2シンクロ23を動力の伝達に関与しない状態にして、その切り替え動作を実行することが可能な状態にすることができる。その結果、第2シンクロ23の切り替え動作を即座に実行することができ、固定変速段を跨いだ変速であっても、その変速時間を短縮し、すなわち変速速度の低下を回避もしくは抑制して、違和感のないスムーズな変速を実行することができる。
【0096】
そして、上記のような変速制御は、特に変速比の迅速な変化が求められる急変速の判断が成立した場合に実行されるため、その急変速の際に、固定変速段での変速比の変化の停滞を解消し、変速速度を速めることができ、違和感のないスムーズで迅速な急変速を実行することができる。
【0097】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS3の機能的手段が、この発明のリリーフ手段に相当し、ステップS3,S4の機能的手段が、この発明の切り替え側トルク低減手段に相当する。また、ステップS4,S5の機能的手段が、この発明の切替機構制御手段に相当し、ステップS4ないしS6の機能的手段が、この発明のポンプモータ容量制御手段に相当する。
【0098】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、対象とする変速機は、図1に示す構成以外のものであってもよく、例えば、油圧のみによって動力を伝達し、かつ変速を行うように構成した変速機であってもよい。すなわち、前述したような静圧式変速機(ハイドロスタティック・トランスミッション:HST)であってもよい。また、歯車機構を主体とした変速機構と並列にHSTを設けて、全体として無段階に変速できるように構成した変速機であってもよい。また、図1に示す例では、前進4段・後進1段の固定変速段を設定できるように構成されているが、この発明で対象とする変速機は、固定変速段の数がそれよりも多くてよく、あるいは反対に少なくてもよい。
【0099】
また、ポンプモータをシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構などの差動機構に対する反力機構として用いる場合、その押出容積をゼロから一方向にのみ増大できるいわゆる片振り型のものに限らず、正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型のポンプモータを使用することもできる。その場合、歯車機構は、図1と異なる構成とすることができる。
【0100】
また、ポンプモータや差動機構ならびにギヤ対などの伝動機構の配列は、必要に応じて適宜変更することができ、いわゆるFR車に適するように配置した構成としてもよい。またさらに、動力源は一方の差動機構に直接連結する替わりに、前述したカウンタギヤ対のアイドルギヤに連結してもよい。さらに、ギヤ対に替えてベルトやチェーンなどの機構を用いてもよい。そして、この発明における動力源は、エンジンである必要はなく、電気モータであってもよく、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせたハイブリッド駆動装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】この発明で対象とする変速機の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】図1に示す変速機で各変速比を設定する際の各ポンプモータおよび各シンクロの動作状態をまとめて示す図表である。
【図3】この発明の制御装置による制御例を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明の制御装置による制御を実行する際の、変速比およびシンクロの切り替え状態ならびに各ポンプモータの押出容積の状態を模式的に説明する図である。
【図5】この発明の制御装置による制御例を説明するためのタイムチャートである。
【図6】従来の制御例を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0102】
1…動力源(エンジン,E/G)、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 12…可変流体圧ポンプモータ(第1ポンプモータ,PM1)、 13…可変流体圧ポンプモータ(第2ポンプモータ,PM2)、 14…第1油路、 15…第2油路、 16…出力部材(出力軸)、 17,18,19,20…伝動機構(ギヤ対)、 22,23,24,25…切替機構(第1シンクロ,第2シンクロ,第3シンクロ,Rシンクロ)、 38…第1リリーフ弁、 39…第2リリーフ弁、 40…電子制御装置(ECU)、 TM…可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と出力部材との間でそれぞれ互いに異なる複数の変速比を選択的に設定可能な少なくとも2つの動力伝達経路と、それら各動力伝達経路を介して伝達されるトルクを押出容積に応じて変化させるように前記各動力伝達経路毎に設けられかついずれか一方の押出容積がゼロの場合に他方が圧力流体の給排を阻止されてロックされるように相互に連通された可変容量型流体圧ポンプモータと、一方の前記可変容量型流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記動力源からの動力を前記出力部材に伝達する第1伝動機構と、他方の前記可変容量型流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記動力源からの動力を前記出力部材に伝達する第2伝動機構と、前記各伝動機構を選択的に動力伝達可能な状態にする切替機構とを備え、いずれかの前記各伝動機構の変速比で決まる固定変速段と、前記各可変容量型流体圧ポンプモータ同士の間で圧力流体を介して伝達する動力を連続的に変化させることによる無段変速状態とを設定することが可能なように構成された可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、
前記各動力伝達経路に作用する伝達トルクをそれぞれ低減するリリーフ手段と、
前記切替機構によりいずれかの前記伝動機構の動力伝達状態の切り替えを伴う変速を実行する場合に、前記リリーフ手段を制御して前記動力伝達状態の切り替えが行われる伝動機構が設けられている側の前記伝達トルクを低減する切り替え側トルク低減手段と
を備えていることを特徴とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項2】
前記切り替え側トルク低減手段により前記伝達トルクが低減された後に、前記切替機構を動作させる切替機構制御手段と、
前記切替機構制御手段により前記切替機構が動作させられるのと同時に、前記各可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積を前記変速後の必要容積へそれぞれ変更するポンプモータ容積制御手段と
を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項3】
目標変速比と実変速比とに基づく前記変速機の変速状態を判断する変速状態判断手段を更に備え、
前記切り替え側トルク低減手段は、現在の変速が前記変速状態判断手段により目標変速比と実変速比との差が予め定めた閾値以上となる急変速であると判断された場合に、前記伝達トルクを低減する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項4】
前記各可変容量型流体圧ポンプモータは、それぞれの吸入口同士を結ぶ第1流路と、それぞれの吐出口同士を結ぶ第2流路とにより互いに連通されているとともに、
前記リリーフ手段は、前記第1流路と第2流路との間に設けられかつ前記第1流路の圧力を調圧可能な第1リリーフ弁と、前記第1流路と第2流路との間に設けられかつ前記第2流路の圧力を調圧可能な第2リリーフ弁と、これら各リリーフ弁の少なくともいずれか一方のリリーフ弁の設定圧力を制御する手段を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項5】
前記切り替え側トルク低減手段は、前記第1リリーフ弁および第2リリーフ弁の少なくともいずれか一方を開放することにより前記伝達トルクを低減する手段を含むことを特徴とする請求項4に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−30741(P2009−30741A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196461(P2007−196461)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】