説明

周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の再生方法、及び周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法

【課題】周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に用いられる反応容器等の部材は、繰り返し及び/又は長時間の使用によって、変質及び/又は劣化が進行することがあり、交換することが必要となるが、頻繁に新しい部材に交換することとなると製造コストの増大を招くことになる。
【解決手段】変質及び/又は劣化した部材を、色彩値(L*値)及び/又は膨張率が特定
の範囲の数値になるように処理することによって、第13族窒化物半導体結晶の製造に再利用できるように部材に再生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の再生方法、及び周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムに代表される周期表第13族金属窒化物半導体は、大きなバンドギャップを有し、さらにバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子として実用化されている。これらの素子は、同種の材料からなり、かつ転位密度の少ない高品質な基板を用いて製造されることが好ましく、このような基板となり得る周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造技術が盛んに研究されている。代表的な製造方法としては、ハライド気相成長法(HVPE法)や有機金属化学蒸着法(MOCVD法)等の気相エピタキシャル成長法が一般的に知られているが、最近では品質向上及び経済性の観点等から、ナトリウムフラックス法等の液相エピタキシャル成長法の検討も進められている。
【0003】
ナトリウムフラックス法等の液相エピタキシャル成長法については、製造に使用する反応容器が、膨潤・浸潤し、劣化するという課題が報告されており、かかる課題を解決する方法として窒化チタンや窒化ジルコニウムからなるセラミックス製の反応容器を使用することが提案されている(特許文献1参照)。また、セラミックス製の反応容器が加工性や機械的耐久性に劣ることから、表面に窒化物層を形成した周期表第4〜6族元素を含む金属製の部材(反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管およびバルブ等)を使用することが提案されている(特許文献2参照)。耐食性・加工性に優れるかかる部材を使用することによって、製造コストを大幅に下げることができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265069号公報
【特許文献2】国際公開第2010/140665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に用いられる反応容器等の部材は、耐食性に優れる材質が選択されているが、繰り返し及び/又は長時間の使用によって、変質及び/又は劣化が進行することがある。このような状態に至った部材は半導体結晶の成長に悪影響を及ぼす可能性があるため、交換が必要となるが、頻繁に新しい部材に交換することとなると製造コストの増大を招くことになる。
かかる問題に対しては、部材の耐久性を高めることが1つの対策として考えられるが、変質及び/又は劣化した部材を簡易的に再生することができれば、これもまた製造コストの低減を図る有効な手段となり得る。
即ち、本発明は、変質及び/又は劣化した周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材を再利用できるように再生する方法、並びに再生した部材を利用した周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、変質及び/又は劣化が
進行した部材を、色彩値(特にL*値)及び/又は膨張率が特定の範囲の数値になるよう
に処理することによって、結晶成長に悪影響を及ぼさず、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に再利用できるようになることを見出した。
【0007】
即ち本発明は以下のとおりである。
(1)周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する変質及び/又は劣化した部材の再生方法であって、色彩値(L*値)が40未満及び/又は未使用の状態からの膨張
率が1.0%以上である変質・劣化部を含む部材を準備する準備工程、及び前記変質・劣化部の色彩値(L*値)を40以上及び/又は膨張率を1.0%未満にする処理工程を含
むことを特徴とする、部材の再生方法。
(2)前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含むものである、(1)に記載の部材の再生方法。
(3)前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金でその90重量%以上が構成されているものである、(2)に記載の部材の再生方法。
(4)前記部材が表面に被膜が形成されているものである、(1)〜(3)の何れかに記載の部材の再生方法。
(5)前記被膜が周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含む窒化物である、(4)に記載の部材の再生方法。
(6)前記部材が反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブから選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(5)の何れかに記載の部材の再生方法。
(7)前記処理工程が真空加熱処理を含むものである、(1)〜(6)の何れかに記載の部材の再生方法。
(8)前記処理工程が被膜の再形成処理を含むものである、(4)〜(7)の何れかに記載の部材の再生方法。
(9)前記周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造が、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法である、(1)〜(6)の何れかに記載の部材の再生方法。
(10)(1)〜(9)の何れかに記載の部材の再生方法によって再生した部材及び/又は前記部材を含む装置を使用して製造することを特徴とする、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
(11)原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程、並びに前記溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程を含む(10)に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記融液又は溶液を作製する工程及び/又は前記成長工程が、(1)〜(9)の何れかに記載の部材の再生方法によって再生した部材及び/又は前記部材を含む装置を用いて行われる、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
(12)反応系中に水素元素を含む成分が存在する、(10)又は(11)に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する変質及び/又は劣化した部材について、結晶成長に悪影響を与えない状態まで再生することができ、さらに部材を再利用することによって、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】部材表面を窒化する装置の概念図である。
【図2】本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法に使用する製造装置の概念図である。
【図3】部材を真空加熱処理する装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の再生方法、及び周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法ついて以下詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0011】
<周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の再生方法>
本発明は、周期表第13族金属窒化物半導体結晶(以下、「第13族窒化物半導体結晶」という場合がある)の製造に使用する部材であって、使用によって変質及び/又は劣化した状態にある部材を、結晶成長に悪影響を与えない状態まで再生する方法である。
本発明者らは、第13族窒化物半導体結晶の製造方法に係る検討を進める中で、製造に使用する部材についての以下の(a)〜(c)の内容を明らかにした。
(a)第13族窒化物半導体結晶の製造に繰り返し及び/又は長時間使用することによって、部材の色彩が変化していくこと及び/又は部材が累積的に膨張すること(加熱等による一時的な膨張ではなく、室温状態における観測で、未使用の状態から膨張している)
部材の膨張については、反応系中に存在する成分を吸収することによって生じており、反応系中に水素元素を含む成分(H2、NH3、CH4等)が存在する製造方法に使用した
場合には、特に水素を取り込むことが明らかとなった。部材の色彩変化については、部材や部材表面に形成された被膜が劣化したり、ミクロなクラックやボイドが表面に生じたりすることに起因していることが明らかとなった。
(b)色彩値(L*値)が特定の値に至るまで変色した及び/又は特定の大きさまで膨張
した部分が存在する部材を使用して結晶成長を行うと、第13族窒化物半導体結晶の成長速度が著しく低下すること
結晶成長の速度が低下する原理については、充分に明らかとされていないが、部材又は部材表面に形成された被膜が劣化する或いは部材が膨張することによって、部材から不純物が放出され易くなり、放出された不純物によって結晶成長が阻害されるためであると考えられる。
(c)色彩値(L*値)及び/又は膨張率が特定の範囲内になるように部材を処理するこ
とによって、部材が結晶成長に悪影響を与えなくなること
即ち、変質及び/又は劣化した状態にある部材を、結晶成長に悪影響を与えない状態まで再生することが可能であり、さらに色彩値(L*値)や膨張率を、部材を再生するため
の指標として用いることができることを明らかとしたのである。
【0012】
本発明は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の再生方法であるが、本発明が対象とする第13族窒化物半導体結晶の製造方法は特に限定されず、ハライド気相成長法(HVPE法)、有機金属化学蒸着法(MOCVD法)等の気相エピタキシャル成長法、或いは融液成長、高圧溶液法、フラックス法、安熱法等の液相エピタキシャル成長法の何れの成長方法に対しても適用可能である。ただし、前述したように、部材の膨張に関して、水素を取り込む影響が大きいため、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法に対して特に好適である。「水素元素を含む成分」としては、例えばH2、NH3のほか、CH4、C26、C38等の炭化水素類、HF、HCl、HBr、HI等のハロゲン
化水素等が挙げられる。特にH2を反応系中に含む液相エピタキシャル成長法に利用する
場合、本発明の部材の再生方法を好適に利用することができる。また、製造する第13族窒化物半導体結晶の種類も特に限定されず、GaN、AlN、InN等の1種類の第13族金属からなる窒化物のほかに、GaInN、GaAlN等の2種類以上の第13族金属からなる複合窒化物が挙げられる。
【0013】
本発明の再生方法が対象とする部材は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用するものであれば特に限定されないが、結晶の成長工程における雰囲気ガス或いは溶液又は融液
等に曝される可能性のある部材を挙げることができる。具体的には、反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管、バルブ等が挙げられる。
【0014】
本発明の再生方法が対象とする部材の材質は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用可能なものであれば特に限定されないが、前述したように部材が水素を取り込む場合があるため、水素との親和性が高く、特に水素化物を形成し得る金属元素を含む部材に対して好適である。具体的には、周期表第4〜6族元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む部材、好ましくは周期表第4〜6族元素、より好ましくは周期表第4族元素(Ti、Zr、Hf)から選ばれる少なくとも1種を含む部材が挙げられる。その中でも、その水素化物の標準生成エネルギーΔGf0が0未満である元素を含む部材が好ましい。特にTi及びZrは、その水素化物の標準生成自由エネルギーΔGf0がそれぞれ−80.3kJ/mol、−128.8kJ/molであり、水素との親和性が高いことから本発明の再生方法に特に好適である。
【0015】
第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材としては、加工性や機械的耐久性に富む材質であることが好ましく、部材は主に金属(バルク金属)によって構成されていることがより好ましい。具体的には部材の90重量%以上が、さらに好ましくは99重量%以上が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金で構成されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の再生方法が対象とする部材は、部材表面に被膜が形成されたものであってもよい。被膜は、部材の耐食性を高めるために意図的に形成させた被膜であっても、或いは曝される環境に対して安定化し形成された被膜であってもよい。被膜の厚みも特に限定されず、通常10nm〜1mm程度であり、好ましくは100nm〜100μm、さらに好ましくは1μm〜10μmである。被膜の成分としては、金属層、酸化物層、又は窒化物層等を挙げることができるが、その中で特に第13族窒化物半導体結晶の製造条件に対して優れた耐食性を示す窒化物層が形成されていることが好ましく、周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含む窒化物層が形成されていることが特に好ましい。この中でも、Ti、Zr等の周期表第4族元素を含む窒化物層が形成されている部材は、部材の変質及び/又は劣化状況と、本発明の再生方法の指標となる色彩値(L*値)との
相関性が極めて高い特徴を有する。
【0017】
部材表面に被膜を形成する方法としては、PVD法(Physical Vapor Deposition)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等の蒸着法、被膜となる層を別途作製しておき、これを部材表面に張り合わせる方法、さらに部材表面の組成そのものを被膜の組成に変換する方法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの内、部材の形状が制限されず、かつ比較的容易に被膜を形成できることから、部材表面の組成そのものを被膜の組成に変換する方法が好適なものとして挙げられる。
【0018】
前述した部材表面の組成そのものを被膜の組成に変換する方法として、窒化物層を形成する方法を例に挙げて説明する。部材表面の組成そのものを窒化する方法は、例えば、100〜1500℃、好ましくは700℃以上の窒素雰囲気下において加熱保持することで、安定な窒化物層を形成することができる。この場合、常温常圧に換算した量で1〜10000cm3/minのN2ガスを流通させることが好ましく、10〜1000cm3/minのN2ガスを流通させることがより好ましい。また、アルカリ金属窒化物やアルカリ土類金属窒化物等を窒化剤として用いる方法が挙げられる。かかる方法の条件としては、窒化剤の存在下、通常200〜1500℃、好ましくは600〜800℃の温度で部材を加熱保持することで安定な窒化物層を形成することができる。
【0019】
本発明は、変質及び/又は劣化した状態にある部材を再利用できるように再生する方法であるが、部材の変質及び/又は劣化した状態を把握する上で、「色彩値(L*値)」及
び/又は「膨張率」を指標として用いることを特徴とする。
「色彩値(L*値)」とは、国際照明委員会(CIE)が推奨するL***表色系に基づいて測定される明度指数を意味しており、本発明における「色彩値(L*値)」は、特
にJIS Z8722に準拠する交照測光方式によって測定された値を意味するものとする。部材の色彩は、部材又は部材表面の化学的な組成に主に起因するものであるが、部材表面の構造、例えばミクロサイズの凹凸構造等によっても大きく影響される。本発明者らは、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用し、変質及び/又は劣化が進行することによって、部材の表面にミクロなクラックやボイドが生じることを確認し、さらにかかる変質及び/又は劣化が、部材の色彩、特に明度(L*値)と相関性が高いことを見出した。即ち、部材の色彩値の中でも特にL*値を観測することによって、簡易的に部材の変質及び/又は劣化の程度を把握することができるのである。
また「膨張率」とは、本発明において、縦、横、高さ等の寸法の変化率を意味するものとする。具体的には、未使用の状態の寸法と、現在の状態(膨張した後)の寸法を測定し、下記計算式[1]に当てはめることによって算出される数値がこれに該当する。対象となる寸法は、縦、横、高さのほか、円筒形等の形状をもつ部材等の場合には、内径や外径、奥行き等も用いることができ、特定の寸法に限定されない。なお、「未使用の状態」とは、結晶成長における雰囲気ガス又は融液若しくは溶液に、部材が一切曝されていないことを意味することとする。第13族窒化物半導体結晶の製造に実際に使用されていなくとも、雰囲気ガスや融液等に曝されることによって部材は劣化する、或いは反応系中に存在する成分を吸収することが考えられる。なお、後述する被膜の形成処理(例えば、窒化処理)は、使用されたことには含まれないこととする。
【数1】

【0020】
色彩値の測定方法は、公知の装置、例えば、測色色差計、分光色差計、色度計を用いて測定することができる。また、測定の際にはJIS Z8722に準拠する交照測光方式を用いて色彩値を測定することが望ましい。
【0021】
膨張率の算出に使用する寸法の測定方法は、例えば、定規、メジャー、ノギス、レーザー変位計、或いは画像撮影・画像処理装置を用いて測定することができる。
【0022】
本発明の部材の再生方法は、「色彩値(L*値)が40未満及び/又は未使用の状態か
らの膨張率が1.0%以上である変質・劣化部を含む部材を準備する準備工程」を含むことを特徴とする。「色彩値(L*値)が40未満及び/又は未使用の状態からの膨張率が
1.0%以上である」とは、即ち、結晶成長に悪影響を与える可能性があるところまで変質及び/又は劣化が進行した状態を意味しており、「変質・劣化部」とはかかる状態まで変質及び/又は劣化が進行した部材内の領域を意味している。本発明は変質及び/又は劣化が進行した部材を、結晶成長に悪影響を与えない状態まで再生する方法であるため、再生する前提としてこのような部材を実際に用意することが必要となる。即ち、「部材を準備する準備工程」には、結晶成長に悪影響を与える可能性があるところまで変質及び/又は劣化した部材を、再生する目的で用意する行為が該当する。また、かかる工程には、変質及び/又は劣化の状態が未知である部材について、「色彩値(L*値)が40未満」で
ある領域及び/又は部材の「膨張率が1.0%以上」である領域が存在するか否かを確認する作業が含まれてもよい。
【0023】
なお、色彩値(L*値)については、部材の材質や表面の被膜の種類等によって、その
閾値を適宜設定し直してもよい。「色彩値(L*値)」は、周期表第4族元素を含む窒化
物層が形成されている部材において特に変質及び/又は劣化の状態と相関性が高く、「色彩値(L*値)が40未満」という閾値によって変質及び/又は劣化の状態を精度よく見
極めることが可能である。また、周期表第4族元素以外の元素を主に含む窒化物層が形成されている部材を用いた場合も、上記色彩値(L*値)の閾値を適用することは十分可能
であるが、部材の材質や表面の被膜の種類等によって、別途好適な色彩値(L*値)の範
囲を定めることにより、さらに精度良く部材の変質及び/又は劣化の状態を見極めることができる。
【0024】
また、色彩値(L*値)を直接用いる代わりに、下記計算式[2]によって算出される
色彩値(L*値)の変化率を利用してもよい。
【数2】

色彩値(L*値)の変化率を指標とする場合、通常、変化率が30%以上で、結晶成長
に悪影響を与える可能性があるところまで変質及び/又は劣化が進行した状態と判断することができる。なお、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に用いる部材として、表面に被膜が形成された部材を用いる場合には、「未使用の状態の部材」とは、被膜形成前の部材ではなく、被膜形成後の部材を意味する。従って、「色彩値(L*値)の変化率
が30%以上である変質・劣化部を含む部材」を準備する工程であってもよい。
【0025】
本発明の部材の再生方法は、また、「変質・劣化部の色彩値(L*値)を40以上及び
/又は膨張率を1.0%未満にする処理工程」を含むことを特徴とする。「色彩値(L*
値)を40以上及び/又は膨張率を1.0%未満」とは、即ち、結晶成長に悪影響を与える可能性が低い状態であることを意味しており、「処理工程」とはかかる状態まで再生させるために部材に対して適宜処理を施す工程であることを意味している。かかる処理工程は、変質・劣化部の色彩値(L*値)及び/又は膨張率を、上記特定の範囲にする工程で
あれば、その他については特に限定されず、具体的な処理方法は特に限定されない。また、処理を施した後の部材について、「色彩値(L*値)が40未満」である領域及び/又は部材の「膨張率が1.0%以上」である領域が存在するか否かを確認する作業が含まれていてもよい。
【0026】
結晶成長に悪影響を与える可能性が低い状態としては、色彩値(L*値)が45以上で
あることが好ましく、50以上であることがより好ましく、膨張率については0.8%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。従って、処理工程では、色彩値(L*値)及び/又は膨張率が、
上記範囲になるように行うことがさらに好ましい。色彩値(L*値)の上限は特に限定さ
れないが、通常は100以下とすることが挙げられる。また、膨張率の下限も特に限定されないが、通常は0.0%以上とすることが挙げられる。
また、前述した「部材を準備する準備工程」と同様に、色彩値(L*値)の閾値を、部
材の材質や表面の被膜の種類等によって適宜設定し直してもよく、さらに色彩値(L*
)を直接用いる代わりに、上記計算式[2]によって算出される色彩値(L*値)の変化
率を利用してもよい。前述のように、周期表第4族元素以外の元素を主に含む窒化物層が形成されている部材を用いた場合も、上記色彩値(L*値)の閾値を適用することは十分
可能であるが、部材の材質、表面の被膜の種類等によって、別途好適な色彩値(L*値)
の範囲を定めることにより、さらに精度良く部材の変質及び/又は劣化の状態を見極めることができる。色彩値(L*値)の変化率を指標とする場合、通常、色彩値(L*値)の変
化率が30%以上で、結晶成長に悪影響を与える可能性があるところまで変質及び/又は劣化が進行した状態と判断することができる。従って、色彩値(L*値)の変化率を30
%未満にする処理工程を含むことが好ましい。さらに、結晶成長に悪影響を与えない状態としては、色彩値(L*値)の変化率が20%以下であることが好ましく、10%以下で
あることがより好ましい。下限は特に限定されないが、通常は0.0%以上とすることが挙げられる。
【0027】
本発明に係る上記処理工程は、「変質・劣化部の色彩値(L*値)を40以上及び/又
は前記膨張率を1.0%未満にする」工程であれば、具体的な処理方法は特に限定されないが、被膜の再形成処理及び/又は真空加熱処理を含む工程が好適なものとして挙げられる。
【0028】
真空加熱処理とは、即ち、吸収した成分を部材から取り除くために、部材を減圧(真空)かつ高温条件に曝す処理である。前述のように、第13族窒化物半導体結晶の製造に繰り返し及び/又は長時間使用することによって、反応系中に存在する成分、特に反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法に使用された場合には、水素を吸収することが確認されている。真空加熱処理は、部材が吸収した成分、特に水素を効果的に除去することができ、膨張した部材の体積を減少させるために特に有効な手段である。
【0029】
真空加熱処理を行うための装置及び条件は、部材を減圧かつ高温条件に曝すことができるものであれば、詳細は特に限定されないが、例えば図3に示されるような装置を利用することにより実施することができる。また、真空加熱処理における圧力条件は、限りなく真空に近い条件であれば特に限定されないが、好ましくは1.0×10-2Torr以下、より好ましくは1.0×10-3Torr以下である。また、真空加熱処理における温度条件は、通常100〜1500℃、好ましくは500〜1200℃、より好ましくは700〜1000℃である。さらに真空加熱処理の処理時間は、通常12時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは48時間以上である。
【0030】
被膜の再形成処理とは、部材の耐食性を高めるために部材表面に意図的に形成させた被膜、或いは曝される環境に対して安定化して部材表面に形成された被膜が、第13族窒化物半導体結晶の製造に部材を使用したことによって、剥離又は劣化してしまう場合があり、これらを修復し、耐食性を回復することを目的として行われる処理である。被膜を再形成させる方法は、使用する前の被膜と同様の操作で再形成することができれば、その方法は特に限定されないが、被膜を再形成する前段階として、残存した被膜を除去する工程が含まれることが好ましい。変質及び/又は劣化した被膜が残存した状態では、被膜の再形成が不均一になり、かつ残存した被膜から不純物が放出され、結晶成長が阻害される場合があるためである。被膜を除去する具体的な方法としては、例えばTiN等の金属窒化物層を除去する場合、塩酸等の酸性溶液に曝すことによって行うことができる。被膜の再形成処理は、部材の耐食性を高めるとともに、部材表面に生じたミクロなクラックやボイドを取り除くことができるため、色彩値(L*値)を高めるために特に有効な手段である。
【0031】
<本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法>
本発明の部材の再生方法によって、結晶成長に悪影響を与えない状態まで部材を再生することができるが、かかる再生方法によって再生された部材及び/又は再生された部材を含む装置を用いて第13族窒化物半導体結晶を製造する製造方法も本発明の1つである。本発明の部材の再生方法を利用することにより、結晶成長に悪影響を与えない状態まで正確に部材を再生することができ、かかる部材を再利用することによって、第13族窒化物半導体結晶の製造コストの低減を図ることができる。
【0032】
本発明の第13族窒化物半導体結晶の製造方法は、前述した本発明の部材の再生方法に
よって再生された部材及び/又は再生された部材を含む装置を用いて行われるものであれば、結晶成長の手法、原料、条件等は特に限定されず、第13族窒化物半導体結晶の製造方法として代表的なハライド気相成長法(HVPE法)等の公知の方法を適宜採用することができる。
特に以下の工程を含む製造方法、即ち液相エピタキシャル成長法を利用した製造方法が好適なものとして例示することができる。液相エピタキシャル成長法では、液相を介して部材の変質及び/又は劣化が生じ易いため、本発明の再生方法を効果的に利用することができる。
(1)原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程
(2)溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程
【0033】
(1)原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程とは、成長工程の前段階として、エピタキシャル成長に使用する液相用の溶液又は融液を調製する工程を意味し、(2)溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程とは、即ち、液相エピタキシャル成長方法を利用した成長工程であることを意味する。液相エピタキシャル方法を利用した成長工程とは、具体的には、フラックス法で主に用いられている温度差(Gradient Transport)法、徐冷(Slow Cooling)法、温度サイクル(Temperature Cycling)法、るつぼ加速回転(Accelerated Crucibl Rotation Technique)法、トップシード(Top−Seeded Solution Growth)法、溶媒移動法及びその変形である溶媒移動浮遊帯域(Trabeling−Solvent Floating−Zone)法並びに蒸発法等、さらにはこれらの方法を任意に組み合わせた方法が挙げられる。これらの工程の詳細については特に限定されず、公知の条件を適宜採用して実施することができるが、これらの工程で用いる反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管、バルブ等の部材については、本発明の部材の再生方法を利用して再生したものを用いることとする。なお、原料及び溶媒を含む溶液又は融液とは、原料が溶媒に完全に溶解されている必要はなく、固体原料が分散又は固形物として溶液中に存在する不均一系であってもよい。また、成長工程における「溶液又は融液である液相」とは、溶液又は融液を作製する工程における「溶液又は融液」と必ずしも同一のものを意図するものではない。溶液又は融液を作製する工程における「溶液又は融液」は、成長工程に使用するために作製されるが、成長工程における「溶液又は融液」には、エピタキシャル成長の反応によって生じた副生成物等が含まれる場合があり、初期(エピタキシャル成長開始前)の組成と同一とは限らないためである。
【0034】
本発明の製造方法は、本発明の部材の再生方法によって再生された部材及び/又は再生された部材を含む装置を用いて行われるものであれば、(2)の成長工程における条件は特に限定されないが、前述したように反応系中に水素元素を含む成分が存在する条件において、部材が水素を取り込んで結晶成長に悪影響を及ぼす場合があるため、かかるような条件を有する製造方法において特に有効である。以下に、反応系中に水素が存在する液相エピタキシャル法の製造方法を例に挙げる。
【0035】
図2は、反応系中に水素が存在する液相エピタキシャル法の製造方法に使用する製造装置の概念図である。図2中の204は反応容器、201は原料となるLi3GaN2複合窒化物(固体)、202は溶媒であるLiCl溶融塩、200は種結晶である窒化ガリウム結晶を表している。かかる製造方法では、気相に水素が含まれていることを特徴とし、かかる水素を利用して結晶成長を行うことを特徴とする。(気相中には窒素も含まれる)
【0036】
かかる製造方法の成長工程では、液相中に一部溶解したLi3GaN2複合窒化物が、同じく液相中に存在する種結晶表面に到達し、下記反応式[3]に示される反応を起こして
結晶成長が進行する。
【化1】

【0037】
また、気相中の水素及び窒素が、直接又は液相中に溶解して、上記式[3]で生成したLi3Nを水素化及び/又は窒化し、水素化リチウム、リチウムイミド、又はリチウムア
ミドを生成させる。例えばリチウムアミド(LiNH2)は、下記式[4]に示される反
応によって生成する。窒化ガリウム結晶近傍のLi3N濃度の上昇は、成長速度の低下を
招き、また急激なLi3N濃度の低下も急激なGaN生成に繋がり、雑晶の発生や結晶性
の低下を招く。水素及び窒素は成長速度を適度に調節する役割を果たし、結晶性の高い半導体結晶を得るために特に重要である。なお、水素化リチウム、リチウムイミド、リチウムアミドが生成する反応は何れも平衡反応であり、水素及び窒素の濃度によってLi3
濃度を調節することができる。
【化2】

【0038】
[原料]
本発明の製造方法に使用する原料は、目的とする第13族窒化物半導体結晶に応じて適宜設定することができるが、例えば、前述したLi3GaN2複合窒化物のように、周期表第13族金属と周期表第1族金属及び/又は周期表第2族金属とを含有する複合窒化物が好適なものとして例示することができる。第13族金属としては、GaのほかにAl、In、GaAl、GaIn等が、第1族金属及び/又は第2族金属としては、LiのほかにNa、Ca、Sr、Ba、Mg等が挙げられる。第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属とを含有する複合窒化物としては、Li3GaN2のほかに、Ca3Ga24、B
3Ga24、Mg3GaN3、等が挙げられる。第13族金属と第1族金属及び/又は第
2族金属とを含有する複合窒化物は、例えば第13族金属窒化物粉体と第1族金属及び/又は第2族金属窒化物粉体(例えばLi3N、Ca32)とを混合した後、温度を上げて
固相反応させる方法;第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属とを含む合金を作製し、窒素雰囲気中で加熱する方法;等により調整することができる。例えばLi3Ga
2は、Ga−Li合金を窒素雰囲気中で600〜800℃で加熱処理することによって
作製することができる。
【0039】
第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属を含有する複合窒化物以外の原料としては、第13族金属窒化物そのものを用いることができる。その他に、例えば第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属との合金からなるターゲットを用い、反応性スパッター法によって窒素プラズマと反応させて合成した混合窒化物膜を挙げることもできる。かかる混合窒化物膜は、化学的に合成が難しいような窒化物を用いる場合に好適である。
【0040】
原料が成長工程における条件下で固体である場合には、かかる固体原料は溶媒に完全に溶解している必要はない。一部が溶解せずに反応容器内に存在する場合であっても、結晶成長により消費された分が、随時、溶媒中に供給されることとなる。また、溶媒に対する原料の量は、特に限定されず目的に応じて適宜設定することができるが、5〜50重量%の範囲内であると連続生産のための効率性を高めることができ、さらに反応容器内のスペースを確保できる。
【0041】
[溶媒]
本発明の製造方法に使用する溶媒は、特に限定されないが、金属塩を主成分とする溶媒が好ましい。金属塩の含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。特に金属塩を融解した溶融塩を溶媒として用いることが好ましい。
【0042】
金属塩の種類は、結晶成長を阻害しないものであれば特に限定されないが、Li、Na、K等のアルカリ金属および/またはMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属のハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、イオウ化物等を挙げることができる。具体的には、LiCl、KCl、NaCl、CaCl2、BaCl2、CsCl、LiBr、KBr、CsBr、LiF、KF、NaF、LiI、NaI、CaI2、BaI2等の金属ハロゲン化物が好ましく、LiCl、KCl、NaCl、CsCl、CaCl2、BaCl2がより好ましい。金属塩の種類は1種類に限定されず、複数種類の金属塩を適宜組み合わせて用いてもよい。なかでも、ハロゲン化リチウムとこれ以外の金属塩を併用することがより好ましい。ハロゲン化リチウムの含有率は金属塩の全体量に対して30%以上が好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0043】
また、第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属の金属元素を含有する複合窒化物の溶解度を増加させるために、例えばLi3N、Ca32、Mg32、Sr32、Ba32などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の窒化物が溶媒に含まれていることが好
ましい。
【0044】
金属塩は、一般的に吸湿性が強いため、多くの水分を含んでいる。本発明の第13族窒化物半導体結晶を製造するためには、水分等の酸素源となり得る不純物をできるだけ取り除いておくことが必要であり、即ち溶媒を予め精製しておくことが好ましい。精製方法は特に限定されないが、例えば特開2007−084422号に記載されている装置を用い、溶媒に反応性気体を吹き込む方法が挙げられる。例えば、常温で固体の金属塩を溶媒とする場合には、加熱して融解し、塩化水素、ヨウ化水素、臭化水素、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩素、臭素、又はヨウ素等の反応性気体を吹き込みバブリングすることによって水分等の不純物を取り除くことができる。塩化物の溶融塩に対しては、特に塩化水素を用いることが好ましい。
【0045】
[種結晶(下地基板)]
エピタキシャル成長を進行させる液相には、工業的に十分なサイズの結晶を得るために、種結晶を設置することが好ましい。種結晶は、GaN、InGaN、AlGaN等の目的とする第13族窒化物結晶と同種のものを用いる他、サファイア、ZnO、BeO等の金属酸化物、SiC、Si等の珪素含有物、又はGaAs等を用いることができる。本発明で成長させる第13族窒化物半導体結晶との整合性を考えると、最も好ましいのは第13族窒化物である。種結晶の形状も特に制限されず、平板状であっても、棒状であってもよい。棒状の種結晶を用いる場合には、最初に種結晶部分で成長させ、次いで水平方向にも結晶成長を行いながら、垂直方向に結晶成長を行うことによってバルク状の結晶を作製することもできる。種結晶上に効率よく第13族窒化物半導体結晶を成長させるためには、種結晶周辺に雑晶を成長させたり、付着させたりしないことが好ましい。雑晶とは種結晶上以外に成長する粒子径の小さい結晶であり、雑晶が種結晶付近に存在すると液相中の第13族窒化物成分を種結晶上の成長と雑晶の成長で分け合うことになり、種結晶上の第13族窒化物半導体結晶の成長速度が十分に得られない。
【0046】
[温度・圧力その他の条件]
反応容器内において第13族窒化物結晶を成長させる際の温度は、通常200〜1000℃であり、好ましくは400〜850℃、より好ましくは600〜800℃である。また、第13族金属窒化物結晶を成長させる際の反応容器内の圧力は、条件によって適宜選択することができ特に限定されないが、製造装置が簡便になり工業的に有利に製造できることから、通常10MPa以下であり、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.11MPa以下であって、通常0.01MPa以上、より好ましくは0.09MPa以上である。
【0047】
成長工程における水素は、気相中に逐次供給してもあるいは反応容器内に予め必要な量を準備しておいても良いが、気相中に逐次供給することが好ましく、供給する際の水素ガスの流量は常温常圧に換算した量で通常0.1〜10000cm3/min、好ましくは
1〜5000cm3/min、より好ましくは10〜1000cm3/minである。また、成長工程における窒素は、気相中に逐次供給してもあるいは反応容器内に予め必要な量を準備しておいても良いが、気相中に逐次供給することが好ましく、供給する際の窒素ガスの流量は常温常圧に換算した量で通常0.1〜10000cm3/min、好ましくは1〜5000cm3/min、より好ましくは10〜1000cm3/minである。水素及び窒素の流量が上記範囲である場合、副生成物の濃度を適度に保つことができる。気相中の水素濃度は通常0.001〜99.9mol%、好ましくは0.1〜99mol%、より好ましくは1〜90mol%であり、この濃度範囲に入るように水素及び窒素の流量を適宜調節することができる。
【0048】
気相から液相に溶存する水素を溶液又は融液内に均一に分布させるためには、溶液又は融液内を攪拌することが望ましい。攪拌方法は特に限定されないが、基板を回転させて攪拌する方法、攪拌翼を入れ回転させて攪拌させる方法、ガスを溶液又は融液内にバブリングすることで流動を与え攪拌する方法、送液ポンプで流動を作成し攪拌させる方法などが挙げられる。
【0049】
結晶成長の成長速度は、上記温度、圧力等によって調節することが可能であり、特に限定されないが、通常0.1μm/h〜1000μm/hの範囲であり、1μm/h以上が好ましく、10μm/h以上がより好ましく、100μm/h以上であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明に係る第13族金属窒化物結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に紫外〜青色の発光ダイオード又は半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子、及び緑色〜赤色の比較的長波長側の発光素子を製造するための基板として、さらに電子デバイス等の半導体デバイスの基板としても有用である。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<参考例1>
(部材の被膜の形成工程(窒化処理工程))
以下に説明する被膜の形成工程については、図1を参照して説明する。
(1)Arボックス内にて、Ti製反応容器103(外径34mm、内径30mm、高さ200mm)内に、窒化作用を有する原料(窒化剤)101であるLi3GaN2 1.5
g、及び溶媒102としてLiCl 15.0gを、順次投入した。
(2)Ti製反応容器103を石英製反応管104に投入し、これをArボックスから取り出した。
(3)石英製反応管104を電気炉109に固定した後、真空ポンプを用いてガス導入管108を通して石英製反応管内を0.1Torr未満の減圧状態とした。
(4)バルブ107を開き、ガス導入管108からN2ガスを導入し、石英製反応管内を
2雰囲気とした後、バルブ106を開き、ガス排気管105を介して、N2ガスを100
ccm/minで流通させた。
(5)電気炉109を用いて、Ti製反応容器103の内温が室温から750℃になるまで1時間かけて昇温し、LiClを溶融させた後、745℃で60時間保持しTi製反応容器103の内壁表面を窒化した。
(6)窒化を行った後、電気炉109による加熱を停止して自然冷却し、内壁表面を窒化させたTi製反応容器103を石英製反応管104から取り出した。
(7)反応容器の内部に固着しているLiClを温水で溶かし、純水で反応容器内を洗浄した後、容器を乾燥させた。Ti製反応容器103の内壁表面には強固な窒化物が形成されており、腐食などは全くないことを確認した。
【0053】
(被膜の形成後(窒化処理後)の部材の色度測定)
被膜の形成後(窒化処理後)のTi製反応容器103の容器底部を切り出し、測色色差計(日本電色工業株式会社製)を用いて交照測光方式により窒化物が形成された部分の色度を測定したところ、L*値が53.36、a*値が8.53、b*値が30.82であっ
た。
【0054】
(結晶成長工程)
以下に説明する結晶成長工程については、図2を参照して説明する。
(1)上記被膜の形成工程(窒化処理工程)と同一の手法で別途被膜(窒化物層)を形成したTi製反応容器204(外径34mm、内径30mm、高さ200mm)をArボックス内に入れ、Ti製反応容器204内に、GaN結晶成長の原料201であるLi3
aN2 1.44g、及び溶媒202としてLiCl 14.4gを順次投入した。
(2)Ti製反応容器204を石英製反応管205に入れ、タングステン(W)製の種結晶保持棒208に、Ta製のワイヤー203を用いてGaN種結晶200(縦5mm×横10mm、厚み300μm。非極性面)を結び付けたものを、石英製反応管205内に差し込んだ後、石英製反応管205をArボックスから取り出した。
(3)石英製反応管205を電気炉211に固定した後、真空ポンプを用いてガス導入管210を通して石英製反応管内を0.1Torr未満の減圧状態とした。
(4)バルブ209を開き、ガス導入管210からH2濃度10vol%のH2/N2混合
ガスを導入し、石英製反応管内を復圧した後、バルブ207を開き、ガス排気管206を介して、H2/N2混合ガスを100ccm/minで流通させた。
(5)電気炉211を用いて、Ti製反応容器204の内温が室温から745℃になるまで1時間かけて昇温してLiClを溶融させ、745℃でさらに1時間保持した後、種結晶200を融液中に入れた。その際に、種結晶保持棒208を介して種結晶200を100rpmの速度で回転させながら、745℃にて7hr保持し、種結晶200上でのGaN結晶成長を行った。
(6)結晶成長後、GaN結晶が成長した種結晶200を融液から抜き出し、電気炉211による加熱を停止してから、石英製反応管205を自然冷却した。
(7)種結晶200を石英反応管内205から取り出し、表面に付着したLiClを温水で溶かしてから純水で洗浄した後、これを乾燥させた。乾燥後の種結晶200の重量を測定したところ、+3.4mgの重量増加が認められ、融液中での保持時間7hrでの平均結晶成長速度が37.8μm/dayであることが確認された。
【0055】
(部材の膨張率測定)
上記、結晶成長方法にて同一のTi製反応容器204を複数回使用していったところ、積算使用時間が約300hrを超えたところで、種結晶200上でのGaN結晶成長がほとんど生じなくなった。このとき、Ti製反応容器204の高さを測定したところ、204mm(膨張率2.0%)までTi製反応容器が膨張していることが確認された。
【0056】
<実施例1>
以下に説明する真空加熱処理工程については、図3を参照して説明する。
(部材の真空加熱処理工程)
(1)参考例にて示した、膨張したTi製反応容器301(高さ204mm、重量168.1249g)を石英反応管302に入れ、これを電気炉304に固定した後、真空ポンプを用いてガス導入管303を通して石英製反応管内を0.1Torr未満の減圧状態とした。
(2)石英反応管内を減圧状態のままに保ちながら、電気炉304を用いてTi製反応容器301の内温が室温から750℃になるまで1時間かけて昇温し、750℃にて20時間、真空加熱処理を行なってTi製反応容器301に吸収されている成分を取り除いた。(3)真空加熱処理後、電気炉304による加熱を停止して、石英反応管302を自然冷却し、Ti製反応容器301を取り出した。Ti製反応容器301の高さと重量をそれぞれ測定したところ、高さは201mm、重量は167.1320gであり、真空加熱処理に伴うTi製反応容器の収縮(膨張率2.0%から0.5%へ減少)が確認された。Ti製反応容器は主に水素を吸収していることが確認された。
【0057】
(部材の被膜を再形成させる工程(再窒化処理工程))
(1)真空加熱処理を施した上記Ti製反応容器301に35%塩酸水溶液を入れ、これをホットプレート上にて100℃で3時間加熱保持し、Ti製反応容器内表面に形成された窒化物層を剥離除去した。
(2)このTi製反応容器301を純粋で洗浄後、乾燥し、参考例に示した被膜の形成工程(窒化処理工程)と同様の手法にて、再度Ti製反応容器の内表面を窒化させた。
その結果、内壁表面には強固な窒化物が再度形成されていることが確認された。
【0058】
(結晶成長工程)
上記再生処理を施したTi製反応容器301を用いて、参考例と同様の条件にて、GaN結晶成長を行なったところ、成長後の種結晶には+5.4mgの重量増加が認められ、融液中での保持時間7hrでの平均結晶成長速度が73.7μm/dayであることが確認された。以上の結果により、膨張し、内壁表面に形成された窒化物層が劣化したTi製反応容器301は、真空加熱処理と内壁表面の被膜再形成処理(再窒化処理)によって再生され、GaN結晶成長が再度実施できるようになることが確認された。
【0059】
(再生処理後の部材の色度測定)
再生処理後のTi製反応容器301の容器底部を切り出し、測色色差計(日本電色工業株式会社製)を用いて交照測光方式により窒化物が形成された部分の色度を測定したところL*値が45.63、a*値が6.73、b*値が31.04であった。
【0060】
<実施例2>
(部材の被膜を再形成させる工程、および結晶成長工程)
実施例1で使用したTi製反応容器と同程度の使用履歴を持ち、同じように膨張したTi製反応容器(高さ203.9mm、膨張率1.95%)について、実施例1に示した真空加熱処理を施さず、被膜再形成処理(再窒化処理)のみを行ったTi製反応容器を用いて、参考例と同じ条件にてGaN結晶を成長させた。その結果、成長後の種結晶には+2.8mgの重量増加が認められ、融液中での保持時間7hrでの平均結晶成長速度が35.7μm/dayであることが確認された。これにより、膨張し内壁表面に形成された窒化物層が劣化したTi製反応容器は、内壁表面の被膜再形成処理(再窒化処理)だけでも、ある程度再生され、GaN結晶成長が再度実施できるようになることが確認された。
【0061】
<比較例1>
(結晶成長工程)
実施例1で使用したTi製反応容器と同程度の使用履歴を持ち、膨張したTi製反応容
器(膨張後高さ202mm、膨張率1.0%)について、実施例で示したような再生処理を全く施さずにGaN結晶成長を行なったところ、種結晶上へのGaN結晶成長は全く観察されなかった。
【0062】
(変質及び/又は劣化した部材の色度測定)
変質及び/又は劣化したTi製反応容器の容器底部を切り出し、変質及び/又は劣化した面を観察したところ、窒化処理直後の色味よりもくすんでおり、色度を測定したところL*値が29.22、a*値が4.67、b*値が10.23であった。L*値とb*値につ
いては窒化処理直後の値から大きく乖離しており、内壁表面が劣化していたことが確認された。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から、色彩値(L*値)が40未満であり、膨張率が1.0%以上である反
応容器(部材)を用いると、結晶成長が十分に進行しないことが確認された(比較例1)。一方、真空加熱処理及び/又は再窒化処理を施し、色彩値(L*値)が40以上及び膨張率が1.0%未満である反応容器(部材)を用いた場合には、未使用の状態の反応容器を用いた場合と同様に高い成長速度で結晶成長が進行することが明らかである。
【符号の説明】
【0065】
101 原料(Li3GaN2
102 融液もしくは溶媒(LiCl)
103 反応容器
104 石英製反応管
105 ガス排気管
106 バルブ
107 バルブ
108 ガス導入管
109 電気炉
200 種結晶(GaN)
201 原料(Li3GaN2
202 融液もしくは溶媒(LiCl)
203 Ta製ワイヤー
204 反応容器
205 石英製反応管
206 ガス排気管
207 バルブ
208 タングステン製種結晶保持棒
209 バルブ
210 ガス導入管
211 電気炉
301 反応容器
302 石英製反応管
303 ガス導入管
304 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する変質及び/又は劣化した部材の再生方法であって、
色彩値(L*値)が40未満及び/又は未使用の状態からの膨張率が1.0%以上である
変質・劣化部を含む部材を準備する準備工程、及び
前記変質・劣化部の色彩値(L*値)を40以上及び/又は膨張率を1.0%未満にする
処理工程を含むことを特徴とする、部材の再生方法。
【請求項2】
前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載の部材の再生方法。
【請求項3】
前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金でその90重量%以上が構成されているものである、請求項2に記載の部材の再生方法。
【請求項4】
前記部材が表面に被膜が形成されているものである、請求項1〜3の何れか1項に記載の部材の再生方法。
【請求項5】
前記被膜が周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含む窒化物である、請求項4に記載の部材の再生方法。
【請求項6】
前記部材が反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5の何れか1項に記載の部材の再生方法。
【請求項7】
前記処理工程が真空加熱処理を含むものである、請求項1〜6の何れか1項に記載の部材の再生方法。
【請求項8】
前記処理工程が被膜の再形成処理を含むものである、請求項4〜7の何れか1項に記載の部材の再生方法。
【請求項9】
前記周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造が、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法である、請求項1〜8の何れか1項に記載の部材の再生方法。
【請求項10】
請求項1〜8の何れか1項に記載の部材の再生方法によって再生した部材及び/又は前記部材を含む装置を使用して製造することを特徴とする、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程、並びに前記溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程を含む請求項10に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法であって、
前記融液又は溶液を作製する工程及び/又は前記成長工程が、請求項1〜8の何れか1項に記載の部材の再生方法によって再生した部材及び/又は前記部材を含む装置を用いて行われる、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
反応系中に水素元素を含む成分が存在する、請求項10又は11に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100207(P2013−100207A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245855(P2011−245855)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】