説明

噛み合い式係合装置

【課題】解放時に噛み合い部材の位相を調整する電動機のトルクを噛み合い部材の解放後に要求されるトルクに滑らかに変化させることが可能な噛み合い式係合装置を提供する。
【解決手段】ハブ41とブレーキ部材43との係合及び解放をアクチュエータ44によって行うドグクラッチ40において、ハブ41に動力が伝達される第1MG200にドグクラッチ40を解放状態に切り替えるために要求する解放前要求トルクを算出するとともに、ドグクラッチ40を係合状態から解放状態に切り替える際はハブ41が揺動されるように第1MG200のトルクの増加及び減少を行う揺さ振り制御を実行し、この揺さ振り制御の実行時には第1MG200のトルクをドグクラッチ40が解放状態に切り替わった後に第1MG200に要求される解放後要求トルクに近付ける方向に最初に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速機等に用いられ、係合時に一対の噛み合い部にそれぞれ設けられた歯が噛み合う噛み合い式係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドグクラッチを構成する外歯の歯とスリーブの内歯とを係合させる場合、モータジェネレータのトルクを調整してスリーブ及び内歯を回転させることにより、外歯の歯の位相とスリーブの内歯の歯溝の位相とが所定の範囲内で一致するようにこれらの位相を調整する駆動装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−38136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように係合時に歯を噛み合わせるドグクラッチでは、歯の噛み合わせを解放させる解放時においても歯が形成された各部の回転の位相を調整するが、この際モータジェネレータのトルクを適切に制御しないとドグクラッチの解放後にモータジェネレータに要求されるトルクに調整すべくモータジェネレータのトルクの急な変更を行う必要が生じる場合がある。特許文献1の装置では係合時における位相の調整方法については記載されているが、ドグクラッチの歯の噛み合わせを解放させる解放時におけるモータジェネレータの制御については記載されていない。
【0005】
そこで、本発明は、互いに歯列が噛み合っている係合状態の一対の噛み合い部材を迅速に解放状態に切り替えることが可能な噛み合い式係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の噛み合い式係合装置は、同軸に配置され、それぞれに設けられた歯列が互いに噛み合って係合する係合状態と互いの歯列が離間して噛み合いが解除される解放状態とに切り替え可能な一対の噛み合い部材を備えた噛み合い式係合装置において、前記係合状態における前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方を軸線方向に移動させて前記一対の噛み合い部材を前記解放状態に切り替えるアクチュエータ手段と、前記一対の噛み合い部材の一方の噛み合い部材を他方の噛み合い部材に対して相対回転させる回転手段と、前記一対の噛み合い部材を前記係合状態から前記解放状態に切り替える所定の解放条件が成立した場合、前記一方の噛み合い部材を前記他方の噛み合い部材に対して所定方向に回転させる正転制御及び前記一方の噛み合い部材を前記他方の噛み合い部材に対して前記所定方向とは反対の逆方向に回転させる逆転制御の少なくともいずれか一方が実行されるように前記回転手段を制御し、その後前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御するクラッチ解放制御を実行する制御手段と、を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の噛み合い式係合装置によれば、所定の解放条件が成立した場合、一方の噛み合い部材を所定方向及び逆方向の少なくとも一方に回転させるので、回転方向を適切に設定することにより一方の噛み合い部材の歯と他方の噛み合い部材の歯との間に掛かっている荷重を低減することができる。そして、その後にアクチュエータ手段にて一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方を軸線方向に移動させるので、一対の噛み合い部材を迅速に解放状態に切り替えることができる。
【0008】
本発明の噛み合い式係合装置の一形態においては、前記噛み合い式係合装置が車両に搭載され、前記車両の動力伝達機構の回転部材と前記一方の噛み合い部材とが一体回転可能に連結されるとともに前記他方の噛み合い部材が前記車両に回転不可に支持され、前記制御手段は、前記所定の解放条件として前記車両が停止中であり、かつ前記一対の噛み合い部材が前記係合状態の場合に、前記正転制御及び前記逆転制御が実行されるように前記回転手段を制御し、その後前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御してもよい(請求項2)。この形態によれば、一対の噛み合い部材の歯と他方の噛み合い部材の歯との間に荷重が掛かった状態で車両が停止しても車両の停止中に一対の噛み合い部材を解放状態に迅速に切り替えることができる。そのため、次の車両の発進までに噛み合い式係合装置を解放状態に切り替えることができる。
【0009】
本発明の噛み合い式係合装置の一形態において、前記制御手段は、前記クラッチ解放制御において、まず前記正転制御が実行されるように前記回転手段を制御した後に前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御し、その後まだ前記一対の噛み合い部材が前記係合状態に維持されている場合、次に前記逆転制御が実行されるように前記回転手段を制御した後に前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御してもよい(請求項3)。このような順序で回転手段及びアクチュエータ手段を動作させることにより、無駄な制御の実行を防止することができる。そのため、一対の噛み合い部材をさらに迅速に解放状態に切り替えることができる。
【0010】
本発明の噛み合い式係合装置の一形態において、前記制御手段は、前記一対の噛み合い部材が前記解放状態に切り替わるまで前記クラッチ解放制御を繰り返し実行してもよい(請求項4)。この場合、一対の噛み合い部材をより確実に解放状態に切り替えることができる。
【0011】
本発明の噛み合い式係合装置の一形態においては、前記回転手段として電動機が設けられ、前記係合状態において噛み合っている前記一対の噛み合い部材の互いの歯列に作用している荷重を推定する荷重推定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記正転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材が前記所定方向に回転し、かつ前記荷重推定手段が推定した荷重に基づいて設定される正トルクが出力されるように前記電動機を制御し、前記逆転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材が前記逆方向に回転し、かつ前記荷重推定手段が推定した荷重に基づいて設定される負トルクが出力されるように前記電動機を制御してもよい(請求項5)。このように一方の噛み合い部材の歯と他方の噛み合い部材の歯との間に作用している荷重に基づいて電動機から出力するトルクを制御することにより、電動機から無駄なトルクを出力させることなくこの荷重を低減することができる。
【0012】
本発明の噛み合い式係合装置の一形態において、前記制御手段は、前記正転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材の歯列の歯と歯の間に設けられる隙間の距離から前記他方の噛み合い部材の歯列を形成する歯の厚さを引いた所定の長さの半分の距離分前記一方の噛み合い部材が前記所定方向に回転するように前記回転手段を制御し、前記逆転制御を実行する場合、前記所定の長さの半分の距離分前記一方の噛み合い部材が前記逆方向に回転するように前記回転手段を制御してもよい(請求項6)。この場合、正転制御及び逆転制御において一方の噛み合い部材を無駄に回転させることなく一方の噛み合い部材の歯と他方の噛み合い部材の歯との間に掛かっている荷重を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明の噛み合い式係合装置によれば、互いに歯列が噛み合っている係合状態の一対の噛み合い部材を迅速に解放状態に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態と共通の部分を有する参考例に係る噛み合い式係合装置が組み込まれた変速機の概略を示す図。
【図2】図1のドグクラッチを拡大して示す図。
【図3】ドグクラッチが係合状態のときの共線図。
【図4】クラッチ解放制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】O/Dロック解放制御ルーチンを示すフローチャート。
【図6】ドグクラッチを係合状態から解放状態に切り替える際の平衡トルクを説明するための図。
【図7】揺さ振り制御ルーチンを示すフローチャート。
【図8】図7に続くフローチャート。
【図9】ドグクラッチが解放状態に切り替わった後の共線図。
【図10】本発明の一形態に係る噛み合い式係合装置が組み込まれた動力分配機構の概略を示す図。
【図11】図10のドグクラッチの概略を示す図。
【図12】ドグクラッチが係合状態のときの共線図の一例を示す図。
【図13】ドグクラッチが解放状態のときの共線図の一例を示す図。
【図14】図10のMGCUが実行するクラッチ解放制御ルーチンを示すフローチャート。
【図15】係合状態のドグクラッチの一部を拡大して示した図。
【図16】車両が停止中であり、かつドグクラッチが係合状態のときの共線図の一例を示す図。
【図17】係合状態においてハブの歯とブレーキ部材の歯とが周方向に離間しているドグクラッチの一部を拡大して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(参考例)
本発明の実施の形態を説明する前に、まずは本発明の実施の形態と共通の部分を有する参考例を説明する。図1は、本発明の実施の形態に対する参考例に係る噛み合い式係合装置が組み込まれた変速機の概略図である。この変速機10は車両に搭載され、内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)100、第1モータジェネレータ(MG)200、及び第2モータジェネレータ(MG)300のそれぞれで発生した動力を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達するものである。なお、第1MG200及び第2MG300は電動機及び発電機として機能させることが可能な周知のものである。第1MG200のステータ201は車体に固定され、ロータ202が変速機10に接続される。また、第2MG300も同様にステータ301が車体に固定され、ロータ302が変速機10に接続されている。変速機10は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、噛み合い式係合装置としてのドグクラッチ40と、第2MG300のロータ202と変速機10の出力軸11とを接続する第2MG変速部50とを備えている。
【0016】
第1遊星歯車機構20は、第1MG200のロータ202と一体回転するように設けられ、内部をエンジン100のクランク軸101が貫通する中空状のサンギア軸21と、サンギア軸21と一体回転するサンギア22と、サンギア22と噛み合いつつその周囲を公転する複数の遊星ギア(プラネタリギア)23、23と、遊星ギア23と噛み合うリングギア24と、遊星ギア23をサンギア軸21の軸線の回りに回転自在に支持し、エンジン100のクランク軸101と一体回転するキャリア25とを備えている。第2遊星歯車機構30は、ドグクラッチ40の噛み合い部としてのハブ41が一体回転するように設けられ、内部をクランク軸101と同軸に設けられる出力軸11が貫通する中空状のサンギア軸31と、サンギア軸31と一体回転するサンギア32と、サンギア32と噛み合いつつその周囲を公転する複数の遊星ギア33、33と、遊星ギア33と噛み合うリングギア34と、遊星ギア33をサンギア軸32の軸線の回りに回転自在に支持し、第1遊星歯車機構20のリングギア24と一体回転可能に設けられるキャリア35とを備えている。また、図1に示したように第1遊星歯車機構20の遊星ギア23は、第2遊星歯車機構30のリングギア34とこのリングギア34が回転するとその回転と連動してサンギア22の回りを公転するように連結部材36で連結されている。なお、これらの遊星歯車機構20、30は周知の変速機に設けられるものと同じでよいため、詳細な説明は省略する。
【0017】
ドグクラッチ40は、噛み合い部としてのハブ41と、車体に固定される固定部42とを備えている。図2にドグクラッチ40を拡大して示す。図2に示したようにハブ41にはその外周に全周に亘って歯41aが設けられている。固定部42には、ハブ41と同軸に配置され、外周に全周に亘って歯43aを備えた噛み合い部としてのブレーキ部材43が設けられている。ブレーキ部材43は、図2に矢印A、Bで示したように軸線方向に往復動自在に、かつその軸線回りの回転が阻止されるように設けられる。
【0018】
また、ドグクラッチ40は、ブレーキ部材43がハブ41と係合する係合位置とブレーキ部材43とハブ41とが離間する解放位置との間でブレーキ部材を駆動するアクチュエータ44と、ハブ41とブレーキ部材43との間の距離に対応する信号を出力するギャップ検出手段としてのギャップセンサ45と、ハブ41の回転数に対応する信号を出力する回転数差検出手段としての回転数センサ46とを備えている。アクチュエータ44によってブレーキ部材43が係合位置に駆動されるとハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとが噛み合い、これによりブレーキ部材43とハブ41とが係合状態となり、ドグクラッチ40が係合状態に切り替わる。以降、ハブ41とブレーキ部材43とが係合状態になることをドグクラッチ40が係合状態になると称することがある。この際、変速機10は、エンジン100の回転数が出力軸11の回転数より小さくなる、いわゆるオーバードライブ(O/D)状態に切り替わる。一方、アクチュエータ44によってブレーキ部材43が解放位置に駆動されるとハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとが離間して解放状態になり、これによりドグクラッチ40が解放状態に切り替わる。以降、ハブ41とブレーキ部材43とが解放状態になることをドグクラッチ40が解放状態になると称することがある。この場合、変速機10のオーバードライブ状態が解除される。
【0019】
図3は、ドグクラッチ40が係合状態のときの共線図を示している。なお、図3の縦軸は回転数を示している。また、図3の符号S、C、Rは、それぞれ第1遊星歯車機構20のサンギア22、キャリア25、リングギア24を示し、符号S’、C’、R’は、それぞれ第2遊星歯車機構30のサンギア32、キャリア35、リングギア34を示している。図3に示したようにドグクラッチ40が係合状態のときは第2遊星歯車機構30のサンギア32が回転不可に固定いわゆるロックされるので、その部分を中心にエンジン100、第1MG200、及び第2MG300の回転数が変化する。
【0020】
アクチュエータ44の動作は、モータジェネレータコントロールユニット(MGCU)60にて制御される。MGCU60は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、例えば要求される駆動力及び第1MG200、第2MG300に接続されたバッテリ(不図示)の充電状態などに基づいて第1MG200及び第2MG300が電動機又は発電機として機能するようにその動作を切り替える周知のコンピュータユニットである。これらの制御は、アクセル開度に対応する信号を出力するアクセル開度センサ61などMGCU60に接続される各種センサの出力信号を参照して行われる。また、MGCU60には、ギャップセンサ45及び回転数センサ46が接続される。なお、MGCU60に接続される他のセンサについては図示を省略した。
【0021】
エンジン1の制御は、エンジンコントロールユニット(ECU)70にて制御される。ECU70は、マイクロプロセッサ、及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサの出力信号に基づいてエンジン100の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU70に接続されるセンサとしては、例えばクランク軸101の回転速度(回転数)に対応する信号を出力するクランク角センサ71、車両の速度に対応する信号を出力する車速センサ72等がある。その他にもECU70には各種センサが接続されるが、それらの図示は省略した。そして、図1に示したようにMGCU60とECU70とは、互いに情報を共有可能なように接続されている。
【0022】
MGCU60は、運転者から車両に要求された出力及び車両の走行状態等に応じてドグクラッチ40を係合状態及び解放状態のいずれの状態にて動作させるか判定し、状態の切り替えが必要な場合は動作させるべき状態に切り替わるようにアクチュエータ44の動作を制御する。例えば、MGCU60は、ドグクラッチ40を解放状態から係合状態に切り替える条件が成立した場合、第1MG200の回転数及びトルクを制御してハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aの歯溝43bとの位相を一致させ、その後ハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとが噛み合うようにアクチュエータ44の動作を制御する。また、MGCU60は、ドグクラッチ40を係合状態から解放状態に切り替える条件が成立した場合も同様に、第1MG200の回転数及びトルクを制御することによってハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの間に作用するトルクを略ゼロに調整し、その後ハブ41とブレーキ部材43とが離間するようにアクチュエータ44の動作を制御する。この際、MGCU60は、第1MG200を制御して第1MG200のトルクを最初に減少させ、その後トルクの増加及び減少を交互に行い、これによりハブ41を揺動させる揺さ振り制御を実行する。
【0023】
図4は、このようにドグクラッチ40を解放状態に切り替えるためにMGCU60がその動作中に所定の周期で繰り返し実行するクラッチ解放制御ルーチンを示している。なお、このクラッチ解放制御ルーチンは、MGCU60が実行する他のルーチンと並行して実行される。
【0024】
図4の制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS11でドグクラッチ40が係合状態か否か判定する。ドグクラッチ40が解放状態であると判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS12に進み、MGCU60はエンジン1の運転状態及び車両の走行状態を取得する。エンジン1の運転状態としてはクランク軸101の回転数、アクセル開度などが取得される。車両の走行状態としては、例えば車速が取得される。
【0025】
次のステップS13においてMGCU60は運転者が車両に要求するトルク要求値Tdを算出する。このトルク要求値Tdは、取得したアクセル開度に基づいて算出する周知の算出方法で算出すればよい。続くステップS14においてMGCU60は、変速機10をオーバードライブ状態にロックした状態において出力することが可能なトルクの最大値(以下、最大出力トルクと称することがある。)Todmaxを算出する。最大出力トルクTodmaxは車速とギア比から求まるエンジン回転数と、エンジントルク特性によって決定される。
【0026】
次のステップS15においてMGCU60は、トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きいか否か判定する。この処理により、ドグクラッチ40を解放状態に切り替える所定の解放条件が成立したか否かが判定される。トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmax以下と判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きいと判断した場合はステップS20に進み、MGCU60はO/Dロック解放制御ルーチンを実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0027】
図5は、MGCU60が実行するO/Dロック解放制御ルーチンを示すフローチャートである。図5の制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS21で車速及び出力軸11のトルクが一定になるように第1MG200及び第2MG300を制御するとともに、ECU70を介してエンジン100を制御する。次のステップS21においてMGCU60は、ハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの間に作用するトルクが略ゼロに調整されるエンジン100のトルク、第1MG200のトルク、及び第2MG300のトルクを各部の平衡トルクとして算出する。これら平衡トルクは、例えば第1遊星歯車機構20及び第2遊星歯車機構30のそれぞれの変速比に基づいて算出する周知の算出方法で算出すればよい。
【0028】
次のステップS23においてMGCU60は、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300に対してそれぞれ出力する指令トルクを算出する。エンジン100に出力する内燃機関指令トルクには算出したエンジン100の平衡トルクが設定される。また、第2MG300に出力する第2MG指令トルクにも算出した第2MG300の平衡トルクが設定される。一方、第1MG200に出力する第1MG指令トルクには、算出した第1MG200の平衡トルクTbにオフセット値Aを加算した値が設定される。図6に矢印で示したようにエンジン100の平衡トルクは図6の上側に、第2MG300の平衡トルクは図6の下側にそれぞれ作用する。なお、図6中の各符号は図3と同一のものであるため説明は省略する。そして、第1MG200の平衡トルクは図6の下側に向かって作用するが、上述したようにMGUC60は最初に第1MG200のトルクを減少させる、すなわち図6の上側に向かって第1MG200のトルクを変化させる揺さ振り制御を実行する。そのため、第1MG200の平衡トルクTbを第1MG指令トルクとして出力すると、揺さ振り制御によって第1MG200のトルクが平衡トルクTbよりも小さいトルクに制御される。そこで、予め揺さ振り制御で最初に減少させる分のトルクをオフセット値Aとして平衡トルクTbに加算し、このオフセット値Aを加算した平衡トルクTbを第1MG200に指令トルクとして出力する。そのため、オフセット値Aとしては、例えば揺さ振り制御で最初に減少させる分のトルクが設定される。
【0029】
続くステップS24においてMGCU60は算出した指令トルクを出力し、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクがそれぞれに出力した指令トルクに調整されるようにエンジン100、第1MG200、及び第2MG300のトルクの制御を実行する。
【0030】
次のステップS25においてMGCU60は、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクがそれぞれに出力した指令トルクに調整されたか否か判定する。なお、この処理では、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクとそれぞれに出力した指令トルクとの差が予め設定した許容範囲内であれば調整されていると判断される。なお、許容範囲は、ドグクラッチ40の解放に影響がでない程度の範囲に適宜に設定すればよい。エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクがそれぞれに出力した指令トルクに調整されてないと判断した場合はステップS26に進み、MGCU60はエンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクがそれぞれに出力した指令トルクに調整されるようにエンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクに対してフィードバック補正を実行する。その後、ステップS24に処理を戻し、ステップS25が肯定判断されるまで、ステップS24〜S26の処理を繰り返す。
【0031】
一方、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクがそれぞれに出力した指令トルクに調整されたと判断した場合はステップS27に進み、MGCU60はブレーキ部材43が解放位置に駆動されるようにアクチュエータ44の動作を制御する。次のステップS30においてMGCU60は、トルク揺さ振り制御を実行する。
【0032】
図7及び図8を参照してトルク揺さ振り制御について説明する。なお、図7はトルク揺さ振り制御を示すフローチャートであり、図8は図7に続くフローチャートである。図7の制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS31で第1MG200のトルクを揺さ振った回数をカウントするカウンタCをリセットする。次のステップS32においてMGCU60はカウンタCが0又は偶数か否か判定する。カウンタCが0又は偶数であると判断した場合はステップS33に進み、MGCU60は第1MG200のトルクを予め設定した変化速度K1で減少するように低減させる。すなわち、図6に示した共線図において矢印Cで示したように第1MG200のトルクが上側に変化するように第1MG200のトルクを調整する。一方、カウンタCが奇数であると判断した場合はステップS34に進み、MGCU60は第1MG200のトルクを予め設定した変化速度K1で増加するように上昇させる。なお、変化速度は、単位時間当たりの第1MG200のトルク値の変化を示している。また、この変化速度K1で第1MG200のトルクの増加及び減少を行い、これによりハブ41を揺動させる。そのため、変化速度K1にはハブ41を適切な速度で揺動させることが可能な値が設定される。この値はドグクラッチ40の大きさなどに応じて適宜設定すればよい。
【0033】
ステップS33又はステップS34で第1MG200のトルクの減少又は増加を行った後はステップS35に進み、MGCU60は第1MG200のトルク(以下、推算トルクと称することがある。)Tmg1を推算する。このトルクTmg1の推算は、例えば第1MG200の電圧や電流の変化に基づいて行う周知の推定方法で行えばよい。
【0034】
続くステップS36においてMGCU60は、推算トルクTmg1から第1MG200の平衡トルクTbを引いた値の絶対値が所定の判定値α以下か否か判断する。判定値αは、第1MG200のトルクの値が第1MG200のトルクの変化速度を変化速度K1よりも小さい値に変更する変化速度変更領域内か否か判定するためのものである。判定値αは、例えばドグクラッチ40のハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの噛み合いの外れ易さに応じて適宜設定すればよい。推算トルクTmg1から第1MG200の平衡トルクTbを引いた値の絶対値が判定値αより大きいと判断した場合はステップS32に処理を戻し、ステップS36が肯定判断されるまでステップS32〜S36の処理を繰り返し実行する。
【0035】
推算トルクTmg1から第1MG200の平衡トルクTbを引いた値の絶対値が判定値α以下と判断された場合はステップS37に進み、MGCU60は第1MG200のトルクの減少又は増加が変化速度K1よりも小さい所定の変化速度βで減少又は増加が行われるように第1MG200のトルクを変化させる。第1MG200のトルクの増加又は減少の判定はカウンタCに基づいて行い、カウンタCが0又は偶数の場合は第1MG200のトルクを変化速度βで減少させ、カウンタCが奇数の場合は第1MG200のトルクを変化速度βで増加させる。
【0036】
次のステップS38においてMGCU60は、推定トルクTmg1が平衡トルクTbからオフセット値Bを引いた値以下か否か判断する。オフセット値Bは、ハブ41の歯41bとブレーキ部材43の歯43aとの噛み合いが解除すると予想される平衡トルクTbの近くの値まで推定トルクTmg1が変化しているか否か判定するために設定されるものであり、ハブ41及びブレーク部材43の大きさなどに応じて適宜設定される。推定トルクTmg1が平衡トルクTbからオフセット値Bを引いた値以下と判断した場合はステップS39及びS40をスキップしてステップS41に進む。一方、推定トルクTmg1が平衡トルクTbからオフセット値Bを引いた値より大きいと判断した場合はステップS39に進み、MGCU60はドグクラッチ40が解放状態に切り替わったか否かを判定する第1解放判定を実行する。この第1解放判定は、例えばハブ41とブレーキ部材43との間の距離がこれらが確実に離間したと判断可能な所定の判定距離よりも大きいか否かに基づいて行われる。なお、この距離の検出は、ギャップセンサ45の他にアクチュエータ44のストローク量に基づいて検出してもよい。アクチュエータ44が電動式の場合はアクチュエータ44がブレーキ部材43をハブ41と反対方向に移動させている際の電流の変化に基づいて第1解放判定を行ってもよい。続くステップS40においてMGCU60は、第1解放判定の判定結果に基づいてドグクラッチ40が解放状態に切り替わったか否か判断する。ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS38に戻り、ステップS38又はステップS40が肯定判断されるまでステップS38〜S40の処理を繰り返す。
【0037】
一方、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わったと判断した場合はステップS41に進み、MGCU40は第2解放判定を実行する。この第2解放判定は、ハブ41とブレーキ部材43との回転数の差に基づいて行われる。ドグクラッチ40ではブレーキ部材43が回転しないように設けられているため、ハブ41の回転数が所定の回転数以上の場合にドグクラッチ40が解放状態に切り替わったと判断される。続くステップS42においてMGCU60は、第2解放判定の判定結果に基づいてドグクラッチ40が解放状態に切り替わったか否か判断する。ドグクラッチ40が解放状態に切り替わったと判断した場合は制御ルーチンを終了する。
【0038】
一方、ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合は図8のステップS43に進み、MGCU60はカウンタCが0より大きいか否か判断する。カウンタCが0であると判断した場合はステップS44に進み、MGCU60は変化速度βの値を小さくすべく変化速度βから所定値σを減算し、この所定値σを減算した値を新たな変化速度βとして設定する。なお、所定値σは、変化速度βが徐々に小さくなるように適宜設定すればよい。続くステップS45においてMGCU60はカウンタCの数値を1繰り上げる。その後、図7のステップS32に処理を戻す。
【0039】
一方、カウンタCが0より大きいと判断した場合はステップS46に進み、MGCU60はカウンタCが予め設定した上限値Maxより大きいか否か判断する。上限値Maxは、ドグクラッチ40に異常が有るか否か判定する判定値として設定されるものである。上限値Maxとしては、第1MG200のトルクの増加及び減少をこの回数繰り返し行ってもドグクラッチ40が解放状態に切り替わらない場合はドグクラッチ40に異常があると判断可能な回数が設定される。カウンタCが上限値Max以下と判断した場合はステップS47に進み、MGCU60は変化速度変更領域を拡大すべく判定値αに所定値γを加算し、この所定値γを加算した値を新たな判定値αとして設定する。所定値γは、変化速度変更領域が徐々に拡大されるように適宜設定すればよい。次にMGCU60はステップS45の処理を実行し、その後図7のステップS32に処理を戻す。
【0040】
一方、カウンタCが上限値Maxより大きいと判断した場合はステップS48に進み、MGCU60はクラッチ異常処理を実行する。クラッチ異常処理としては、例えば運転者にドグクラッチ40に異常があることを知らせるべくインパネ内に設けられる異常ランプを点灯させる。その後、図4のクラッチ解放制御ルーチンに戻り、今回のクラッチ制御ルーチンを終了させる。
【0041】
図5に戻ってO/Dロック解放制御ルーチンの説明を続ける。ステップS30でトルク揺さ振り制御を実行した後はステップS28に進み、トルク揺さ振り制御で使用した判定値α及び変化速度βの学習を行う。例えばトルク揺さ振り制御において判定値αが変更された場合は、それまで使用していた判定値αに対して一定量増加させた値を新たな判定値αとしてMGCU60のRAMなどに記憶させ、次回のトルク揺さ振り制御から使用する。また、変化速度βが変更された場合は、それまで使用していた変化速度βに対して一定量減少させた値を新たな変化速度βとしてMGCU60のRAMなどに記憶させ、次回のトルク揺さ振り制御から使用する。なお、判定値α及び変化速度βの変更が行われなかった場合は、判定値αを一定量減少させたり、変化速度βを一定量増加させたりしてもよい。その後、O/Dロック解放制御ルーチンを終了する。
【0042】
以上に説明したように、図4のクラッチ解放制御ルーチンでは、カウンタCの値に応じてステップS33又はS34の処理が実行され、第1MG200のトルクの増加及び減少が交互に実行されるので、ハブ41を揺動させてドグクラッチ40を速やかに解放状態に切り替えることができる。また、ドグクラッチ40を解放させる際は、予め第1MG200のトルクを平衡トルクTbからオフセット量Aだけオフセットさせたトルクに制御するので、揺さ振り制御を実行したときに第1MG200のトルクを速やかに平衡トルクTbに近付けることができる。図9は、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わった後の共線図を示している。なお、図9中の各符号は、図3と同一のものであるため説明は省略する。また、図9の各矢印はエンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれのトルクの作用方向を示している。図9に示したようにドグクラッチ40が解放状態に切り替わった後はエンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれの回転方向は同じになる。すなわち、第1MG200の回転方向はドグクラッチ40が解放状態に切り替わる前と切り替わった後とで逆になる。そのため、第1MG200のトルクの作用方向もドグクラッチ40が解放状態に切り替わる前後で逆になる。なお、図9では第1MG200のトルクが図9の下側を向いているが、第1MG200の回転方向が逆転しているため、このトルクはドグクラッチ40が解放状態に切り替わる前とは逆方向に作用するトルクである。そして、揺さ振り制御では、図6で説明したように第1MG200のトルクをまず共線図の上方向に向かって変化させる。すなわち、揺さ振り制御の最初のトルク変化では、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わって回転方向が逆転した際に第1MG200のトルクの作用方向が速やかに反転する方向に第1MG200のトルクを変化させる。これにより、ドグクラッチ40を解放状態に切り替えるときの第1MG200のトルクを、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わった後に第1MG200に要求される解放後要求トルクに近付けることができる。そのため、揺さ振り制御の最初のトルク変化によってドグクラッチ40が解放状態に切り替わった場合は、第1MG200のトルクを滑らかに解放後要求トルクに変化させることができる。
【0043】
また、この揺さ振り制御では、まず変化速度K1で第1MG200のトルクを変化させ、第1MG200のトルクと平衡トルクTbとの差が判定値α以下になった時点で第1MG200のトルクを変化速度K1よりも小さい変化速度βで変化させる。このように変化速度を2段階に調整することにより、揺さ振り制御の終了時における第1MG200のトルクの変化を小さくできるので、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わった後に第1MG200のトルクを解放後要求トルクに精度良く調整することができる。
【0044】
図4のクラッチ解放制御ルーチンでは、第1解放判定及び第2解放判定によってドグクラッチ40の解放判定を行うので、信頼性を向上させることができる。さらに、第1MG200のトルクを変化させてもドグクラッチ40が解放状態に切り替わらない場合は、変化速度βをさらに小さくしたり、判定値αを大きくして変化速度変更領域を拡大したりするので、ドグクラッチ40をより確実に解放状態に切り替えることができる。
【0045】
参考例は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、参考例の噛み合い式係合装置が組み込まれる装置は車両に搭載される変速機に限定されない。動力伝達の許可及び阻止を選択的に切り替える種々の装置に適用してよい。上述した形態では、ブレーキ部材が回転できないように設けられていたが、このブレーキ部材は回転可能なように設けられていてもよい。また、ブレーキ部材及びハブの両方が軸線方向に駆動可能なように設けられていてもよい。
【0046】
(本発明の実施の形態)
図10は、本発明の一形態に係る噛み合い式係合装置が組み込まれた動力分配機構の概略を示している。なお、この実施の形態において参考例と共通の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。この動力分配機構400はハイブリッド車両に搭載され、エンジン100、第1MG200、及び第2MG300のそれぞれで発生した動力を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達するものである。第1MG200のステータ201は車体1に固定され、ロータ202が動力分配機構400に接続される。また、第2MG300も同様にステータ301が車体1に固定され、ロータ302が動力分配機構400に接続されている。動力分配機構400は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、噛み合い式係合装置としてのドグクラッチ40と、第2MG300のロータ202と動力分配機構400の駆動軸11とを接続する第2MG変速部50とを備えている。動力分配機構400から駆動軸11に伝達された動力は、不図示の差動装置を介して駆動輪に伝達される。
【0047】
第1遊星歯車機構20は、参考例と同様であるため説明を省略する。第2遊星歯車機構30は、ドグクラッチ40のハブ41と一体回転するように連結されるサンギア軸31と、サンギア軸31と一体回転するサンギア32と、サンギア32と噛み合いつつその周囲を公転する複数の第1プラネタリギア(遊星ギア)33と、第1プラネタリギア33と噛み合いつつサンギア32の周囲を公転する複数の第2プラネタリギア(遊星ギア)37と、第2プラネタリギア37と噛み合うとともに第1遊星歯車機構20のキャリア25及びエンジン1の出力軸101と一体回転するように連結されるリングギア34と、第1プラネタリギア33及び第2プラネタリギア37を軸線Axの回りに回転自在に支持するとともに第1遊星歯車機構20のリングギア24と一体回転するように連結されるキャリア35とを備えている。また、参考例と同様に、第2遊星歯車機構30のリングギア34と第1遊星歯車機構20の遊星ギア23とは、リングギア34の回転に伴って遊星ギア23がサンギア22の回りを公転するように連結部材36で連結されている。
【0048】
ドグクラッチ40はハブ41と、車体1に固定される固定部42とを備えている。上述したようにハブ41は第2遊星歯車機構30のサンギア軸31と一体回転するように連結されているため、このサンギア軸31が本発明の回転部材に相当する。図11は、ドグクラッチ40の概略図である。図11に示したようにハブ41にはその外周に全周に亘って歯41aが設けられて歯列41bが形成されている。固定部42には、ハブ41と同軸に配置され、図に矢印A、Bで示したように軸線Ax方向に移動可能かつ軸線Ax回りに回転不可に支持されるブレーキ部材43が設けられる。ブレーキ部材43の外周には全周に亘って歯43aが設けられて歯列43bが形成されている。また、ドグクラッチ40は、ハブ41の歯列41bとブレーキ部材43の歯列43bとが互いに噛み合う係合位置と、ハブ41の歯列41bとブレーキ部材43の歯列43bとが離間する解放位置との間でブレーキ部材43を駆動するアクチュエータ手段としてのアクチュエータ44と、ブレーキ部材43の位置に対応する信号を出力する位置センサ47とを備えている。位置センサ47は、MGCU60に接続される。この形態においても参考例と同様にアクチュエータ44の動作は、MGCU60にて制御される。
【0049】
図12は、動力分配機構400においてドグクラッチ40が係合状態のときの共線図の一例を示している。なお、図12の縦軸は回転数を示している。また、図12の符号S、C、Rは、それぞれ第1遊星歯車機構20のサンギア22、キャリア25、リングギア24を示し、符号S’、C’、R’は、それぞれ第2遊星歯車機構30のサンギア32、キャリア35、リングギア34を示している。図12に示したようにドグクラッチ40が係合状態のときは第2遊星歯車機構30のサンギア32が回転不可に固定いわゆるロックされるので、その部分を中心にエンジン100、第1MG200、及び駆動軸11の回転数が変化する。
【0050】
周知のようにエンジン1は、回転数が所定回転数、例えばアイドリング回転数域の下限値未満になると運転状態が不安定になる。一方、車両の発進時は駆動軸11の回転数を抑える必要がある。そのため、車両の発進時には図13に共線図の一例を示したようにドグクラッチ40を解放状態に切り替えてサンギア32のロックを解除し、第1MG200の回転数を高くしてエンジン1の回転数を高くする必要がある。そこで、MGCU60は車両が停止したときにドグクラッチ40を解放状態に切り替えるべく図14に示したクラッチ解放制御ルーチンを実行する。MGCU60は、動作している間この制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行する。これによりMGCU60が本発明の制御手段として機能する。
【0051】
図14の制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS51において車両が停止中か否か判断する。この判断は例えば車速センサ72の出力信号に基づいて行われる。車両が走行中であると判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、車両が停止中であると判断した場合はステップS52に進み、MGCU60は位置センサ47の出力信号に基づいてドグクラッチ40が係合状態か否か判断する。ドグクラッチ40が解放状態であると判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0052】
一方、ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS53に進み、MGCU60はハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの間に掛かる荷重を推定する。ドグクラッチ40が係合状態のままで車両が停止すると、ハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの間には図15に矢印L1、L2で示したように互いに相手の歯を押し合う荷重が発生する。なお、図15は係合状態のドグクラッチ40の一部を拡大して示した図である。ドグクラッチ40は停止しているため、これらの荷重は互いに等しい。そして、この荷重は車両が停止する際の車速の変化や停止時における車両の傾きなどによって変化する。例えば、車両を急停止させたときや車両が坂道で停止しているときなどに荷重が大きくなる。そこで、例えば予め実験などによって車両を停止させる際の車速の変化や車両の傾きと荷重との関係を求めてMGCU60のROMにマップとして記憶させておき、このマップを参照して荷重を推定すればよい。車速の変化は、運転者から車両に対して停止の要求が発せられてから車両が停止するまでの車速をMGCU60のRAMに記憶させておき、この記憶させた車速に基づいて取得すればよい。この処理を実行することにより、MGCU60が本発明の荷重推定手段として機能する。
【0053】
次のステップS54においてMGCU60は、ブレーキ部材43が解放位置に移動するようにアクチュエータ44の動作を制御する解放制御を実行する。そのため、車両が停止中であり、かつドグクラッチ40が係合状態であることが本発明の所定の解放条件に相当する。続くステップS55においてMGCU60は、ドグクラッチ40が係合状態か否か判断する。ハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとの間に互いに相手の歯を押し合う荷重が発生している場合、アクチュエータ44でブレーキ部材44を駆動しようとしてもブレーキ部材44が動かないことがある。そこで、再度ドグクラッチ40が係合状態か否か判断する。ドグクラッチ40が解放状態であると判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0054】
一方、ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS56に進み、MGCU60はハブ41が正方向、すなわち図12の共線図において上方向に所定角度回転するように第1MG200の動作を制御する正転制御を実行する。この正転制御においてMGCU60は、ステップS13で推定した荷重に基づいて第1MG200から出力すべきトルクである正トルクを設定し、その正トルクが第1MG200から出力されるように第1MG200の動作を制御する。なお、正トルクとしては、例えば推定した荷重に抗してハブ41が正方向に所定角度回転するトルクが設定される。所定角度は、例えばハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとが周方向に離間する角度が設定され、ハブ41に設けられる歯41aと歯41aとの間隔及びブレーキ部材43に設けられる歯43aと歯43aとの間隔に応じて適宜設定される。このようにハブ41を回転させることにより、第1MG200が本発明の回転手段及び電動機に相当する。次のステップS57においてMGCU60は、ブレーキ部材43が解放位置に移動するようにアクチュエータ44の動作を制御する解放制御を実行する。続くステップS58においてMGCU60は、ドグクラッチ40が係合状態か否か判断する。ドグクラッチ40が解放状態であると判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。
【0055】
一方、ドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS59に進み、MGCU60はハブ41が負方向、すなわち図12の共線図において下方向に所定角度回転するように第1MG200の動作を制御する逆転制御を実行する。この逆転制御においてMGCU60は、ステップS53で推定した荷重に基づいて第1MG200から出力すべきトルクである負トルクを設定し、その負トルクが第1MG200から出力されるように第1MG200の動作を制御する。負トルクは、正トルクとは逆に推定した荷重に抗してハブ41が負方向に所定角度回転するトルクが設定される。なお、所定角度は正転制御の所定角度と同じ値である。次のステップS60においてMGCU60は、ブレーキ部材43が解放位置に移動するようにアクチュエータ44の動作を制御する解放制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0056】
本発明では、車両の停止中にドグクラッチ40を解放状態に切り替える場合、図16に示したように第1MG200から正トルク及び負トルクを出力し、ハブ41を正方向及び負方向に回転させるので、図17に一部を拡大して示したようにハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとを周方向に離間させることができる。そのため、ドグクラッチ40を迅速に解放状態に切り替えることができる。
【0057】
なお、正転制御では、図17に示した距離α1と距離α2とを足して半分にした距離θ、すなわちハブ41の歯41aと歯41aとの間に設けられる隙間の距離Sからブレーキ部材43の歯43aの厚さTを引いた長さの半分の距離θだけハブ41が正方向に回転するように第1MG200の動作を制御してもよい。また、逆転制御においても同様に、図17に示した距離α1と距離α2とを足して半分にした距離θだけハブ41が負方向に回転するように第1MG200の動作を制御してもよい。正転制御及び逆転制御においてこのような距離θだけハブ41を回転させることにより、無駄にハブ41を回転させることなくハブ41の歯41aとブレーキ部材43の歯43aとを周方向に離間させることができる。
【0058】
また、図14の制御ルーチンにおいてステップS60の後にドグクラッチ40が係合状態か否か判断する処理を設け、この処理でドグクラッチ40が係合状態であると判断した場合はステップS56に処理を戻してもよい。この場合、ドグクラッチ40が解放状態に切り替わるまで正転制御及び逆転制御が繰り返し実行されるので、確実にドグクラッチ40を解放状態に切り替えることができる。
【0059】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明の噛み合い式係合装置は、ハイブリッド車両の動力分配機構に限定されず、一般の車両のトランスミッションに組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0060】
31 サンギア軸(回転部材)
40 ドグクラッチ(噛み合い式係合装置)
41 ハブ(噛み合い部材)
41a 歯
41b 歯列
43 ブレーキ部材(噛み合い部材)
43a 歯
43b 歯列
44 アクチュエータ(アクチュエータ手段)
60 モータジェネレータコントロールユニット(制御手段、荷重推定手段)
200 第1モータジェネレータ(電動機、回転手段)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に配置され、それぞれに設けられた歯列が互いに噛み合って係合する係合状態と互いの歯列が離間して噛み合いが解除される解放状態とに切り替え可能な一対の噛み合い部材を備えた噛み合い式係合装置において、
前記係合状態における前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方を軸線方向に移動させて前記一対の噛み合い部材を前記解放状態に切り替えるアクチュエータ手段と、前記一対の噛み合い部材の一方の噛み合い部材を他方の噛み合い部材に対して相対回転させる回転手段と、前記一対の噛み合い部材を前記係合状態から前記解放状態に切り替える所定の解放条件が成立した場合、前記一方の噛み合い部材を前記他方の噛み合い部材に対して所定方向に回転させる正転制御及び前記一方の噛み合い部材を前記他方の噛み合い部材に対して前記所定方向とは反対の逆方向に回転させる逆転制御の少なくともいずれか一方が実行されるように前記回転手段を制御し、その後前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御するクラッチ解放制御を実行する制御手段と、を備えることを特徴とする噛み合い式係合装置。
【請求項2】
前記噛み合い式係合装置が車両に搭載され、前記車両の動力伝達機構の回転部材と前記一方の噛み合い部材とが一体回転可能に連結されるとともに前記他方の噛み合い部材が前記車両に回転不可に支持され、
前記制御手段は、前記所定の解放条件として前記車両が停止中であり、かつ前記一対の噛み合い部材が前記係合状態の場合に、前記正転制御及び前記逆転制御が実行されるように前記回転手段を制御し、その後前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の噛み合い式係合装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記クラッチ解放制御において、まず前記正転制御が実行されるように前記回転手段を制御した後に前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御し、その後まだ前記一対の噛み合い部材が前記係合状態に維持されている場合、次に前記逆転制御が実行されるように前記回転手段を制御した後に前記一対の噛み合い部材の少なくともいずれか一方が軸線方向に移動するように前記アクチュエータ手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の噛み合い式係合装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記一対の噛み合い部材が前記解放状態に切り替わるまで前記クラッチ解放制御を繰り返し実行することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の噛み合い式係合装置。
【請求項5】
前記回転手段として電動機が設けられ、
前記係合状態において噛み合っている前記一対の噛み合い部材の互いの歯列に作用している荷重を推定する荷重推定手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記正転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材が前記所定方向に回転し、かつ前記荷重推定手段が推定した荷重に基づいて設定される正トルクが出力されるように前記電動機を制御し、前記逆転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材が前記逆方向に回転し、かつ前記荷重推定手段が推定した荷重に基づいて設定される負トルクが出力されるように前記電動機を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の噛み合い式係合装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記正転制御を実行する場合、前記一方の噛み合い部材の歯列の歯と歯の間に設けられる隙間の距離から前記他方の噛み合い部材の歯列を形成する歯の厚さを引いた所定の長さの半分の距離分前記一方の噛み合い部材が前記所定方向に回転するように前記回転手段を制御し、前記逆転制御を実行する場合、前記所定の長さの半分の距離分前記一方の噛み合い部材が前記逆方向に回転するように前記回転手段を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の噛み合い式係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−193851(P2012−193851A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114667(P2012−114667)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【分割の表示】特願2007−307232(P2007−307232)の分割
【原出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】