説明

圧電薄膜デバイス

【課題】圧電体薄膜の膜厚の変動があっても圧電薄膜共振子が副共振の影響を受けないようにする。
【解決手段】圧電薄膜共振子1は、支持基板11に支持された圧電体薄膜15の両主面に下面電極14及び上面電極16を形成し、圧電体薄膜15を挟んで下面電極14及び上面電極16を対向させた構造を有する。導電体薄膜1601に導電体薄膜1602を付加して部分的に膜厚を厚くした上面電極16は、自由振動領域192において圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を有する。このような膜厚の分布を有する上面電極16を採用すれば、圧電薄膜共振子が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子1が副共振の影響を受けにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振子(FBAR;Film Bulk Acoustic Resonator)は、圧電体薄膜の両主面に電極膜を形成し、圧電体薄膜を挟んで電極膜を対向させた構造を有する。圧電薄膜共振子は、厚み縦振動や厚みすべり振動に由来する電気的な応答を利用した共振子となっている。したがって、圧電薄膜共振子の共振周波数は、圧電体薄膜の膜厚に依存する。
【0003】
なお、特許文献1は、本願発明と関連する先行技術文献であり、電極膜の膜厚が均一ではない圧電薄膜共振子に言及している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−006501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧電薄膜共振子は、異種の材料を積層した構造を有しているので、材料の熱膨張係数や格子定数の差に起因して、圧電体薄膜に反りが発生したり、圧電体薄膜が変形したりしてしまう場合がある。また、圧電体薄膜に加工を加えた場合、加工により圧電体薄膜に生じた残留応力に起因して、圧電体薄膜に反りが発生したり、圧電体薄膜が変形したりしてしまう場合もある。すなわち、圧電薄膜共振子には、圧電体薄膜を完全に平坦にすることが困難であり、圧電体薄膜の膜厚が変動することがあるという問題がある。そして、このような圧電体薄膜の膜厚の変動は、圧電薄膜共振子が複数の共振周波数で共振するようになる、すなわち、圧電薄膜共振子が希望しない副共振の影響を受けるようになるという問題を引き起こす。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、圧電体薄膜の膜厚の変動があっても圧電薄膜共振子が副共振の影響を受けないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイスであって、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の両主面に形成され、対向領域において前記圧電体薄膜を挟んで対向する電極膜と、前記圧電体薄膜と前記電極膜とを積層した振動体を支持する支持基板とを備え、前記振動体が空洞によって前記支持基板から隔てられている自由振動領域において、前記電極膜が前記圧電体薄膜の膜厚分布を相殺する膜厚分布を有している。
【0008】
請求項2の発明は、前記電極膜は、前記自由振動領域において、均一な膜厚の導電体薄膜の一部にさらに導電体薄膜を付加加工することにより形成されている請求項1に記載の圧電薄膜デバイスである。
【0009】
請求項3の発明は、前記電極膜は、前記自由振動領域において、均一な膜厚の導電体薄膜の一部を除去加工することにより形成されている請求項1に記載の圧電薄膜デバイスである。
【0010】
請求項4の発明は、単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイスであって、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の両主面に形成され、対向領域において前記圧電体薄膜を挟んで対向する導電体の電極膜と、前記電極膜に重ねて形成された絶縁体の付加膜と、前記圧電体薄膜と前記電極膜と前記付加膜とを積層した振動体を支持する支持基板とを備え、前記振動体が空洞によって前記支持基板から隔てられている自由振動領域において、前記電極膜と前記付加膜との積層膜が前記圧電体薄膜の膜厚分布を相殺する膜厚分布を有している。
【0011】
請求項5の発明は、前記対向領域が前記自由振動領域を内包している請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電薄膜デバイスである。
【0012】
請求項6の発明は、前記対向領域の平面形状が、長手方向の長さが短手方向の長さの2倍以上の細長形状である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電薄膜デバイスである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧電体薄膜の膜厚の変動があっても圧電薄膜共振子が副共振の影響を受けにくくなる。
【0014】
請求項4又は請求項5の発明によれば、副共振をより強力に抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、単独の圧電薄膜共振子(FBAR;Film Bulk Acoustic Resonator)を例として、本発明の圧電薄膜デバイスの望ましい実施形態について説明する。しかし、以下で説明する実施形態は、本発明の圧電薄膜デバイスが単独の圧電薄膜共振子に限定されることを意味するものではない。すなわち、本発明における圧電薄膜デバイスとは、一般的にいえば、単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイス全般を意味しており、単一の圧電薄膜共振子を含む発振子及びトラップ等並びに複数の圧電薄膜共振子を含むフィルタ、デュプレクサ、トリプレクサ及びトラップ等を包含している。
【0016】
<1 第1実施形態>
<1.1 全体構造>
図1〜図3は、本発明の第1実施形態の圧電薄膜共振子1の模式図である。図1は、圧電薄膜共振子1の斜視図、図2は、圧電薄膜共振子1の平面図、図3は、図2のA-Aで示される切断線における圧電薄膜共振子1の断面図となっている。
【0017】
図1〜図3に示すように、圧電薄膜共振子1は、支持基板11の上に、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16,17をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子1の製造にあたっては、単独で自重に耐え得る圧電体基板195(後述)を除去加工することにより圧電体薄膜15を得ているが、除去加工によって得られる圧電体薄膜15は単独で自重に耐え得ない。このため、圧電薄膜共振子1の製造にあたっては、除去加工に先立って、キャビティ形成膜13及び下面電極14を形成した圧電体基板195を支持体となる支持基板11にあらかじめ接着している。
【0018】
<1.2 支持基板>
支持基板11は、圧電薄膜共振子1の製造途上で圧電体基板195を除去加工するときに、キャビティ形成膜13及び下面電極14が下面に形成された圧電体基板195を接着層12を介して支持する支持体としての役割を有している。加えて、支持基板11は、圧電薄膜共振子1の製造後に、キャビティ形成膜13及び下面電極14が下面に形成され、上面電極16,17が上面に形成された圧電体薄膜15を接着層12を介して支持する支持体としての役割も有している。したがって、支持基板11には、圧電体基板195を除去加工するときに加わる力に耐え得ることと、圧電薄膜共振子1の製造後にも強度が低下しないこととが要請される。
【0019】
支持基板11を構成する材料及び支持基板11の板厚は、このような要請を満足するように、適宜選択することができる。ただし、支持基板11の材料を、圧電体薄膜15を構成する圧電材料と近い熱膨張率、より望ましくは、圧電体薄膜15を構成する圧電材料と同じ熱膨張率を有する材料、例えば、圧電体薄膜15を構成する圧電材料と同じ材料とすれば、圧電薄膜共振子1の製造途上において、熱膨張率の差に起因する反りや破損を抑制することができ、圧電薄膜共振子1の製造後において、熱膨張率の差に起因する特性変動や破損を抑制することができる。なお、熱膨張率に異方性がある材料を用いる場合、支持基板11と圧電体薄膜15とで各方向の熱膨張率がともに同じとなるように配慮することが望ましく、支持基板11と圧電体薄膜15とに同じ圧電材料を用いる場合、支持基板11と圧電体薄膜15とで結晶方位を一致させることが望ましい。
【0020】
<1.3 接着層>
接着層12は、圧電薄膜共振子1の製造途上で圧電体基板195を除去加工するときに、キャビティ形成膜13及び下面電極14が下面に形成された圧電体基板195を支持基板11に接着固定する役割を有している。加えて、接着層12は、圧電薄膜共振子1の製造後に、キャビティ形成膜13及び下面電極14が下面に形成され、上面電極16,17が上面に形成された圧電体薄膜15を支持基板11に接着固定する役割も有している。したがって、接着層12には、圧電体基板195を除去加工するときに加わる力に耐え得ることと、圧電薄膜共振子1の製造後にも接着力が低下しないこととが要請される。
【0021】
このような要請を満足する接着層12の望ましい例としては、有機接着剤、望ましくは、充填効果を有し、接着対象が完全に平坦ではなくても十分な接着力を発揮するエポキシ接着剤(熱硬化性を利用するエポキシ樹脂の接着剤)やアクリル接着剤(光硬化性及び熱硬化性を併用するアクリル樹脂の接着剤)により形成された接着層12を挙げることができる。このような樹脂を採用することにより、支持基板11と圧電体基板195との間に期待しない空隙が生じることを防止し、当該空隙により圧電体基板195の除去加工時にクラック等が発生することを防止可能である。ただし、このことは、これ以外の接着層12によって支持基板11と圧電体薄膜15とが接着固定されることを妨げるものではない。
【0022】
<1.4 キャビティ形成膜>
キャビティ形成膜13は、絶縁材料を成膜することにより得られた絶縁体膜である。キャビティ形成膜13は、自由振動領域192の外側に形成され、自由振動領域192において下面電極14と圧電体薄膜15と上面電極16とを積層した振動体10を支持基板11から隔てるキャビティ(空洞)135を形成している。このようなスペーサとしての役割を有するキャビティ形成膜13により、振動体10を支持基板11で支持しつつ、自由振動領域192において振動体10が支持基板11と干渉することを防止することができるようになる。キャビティ形成膜13を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、二酸化ケイ素(SiO2)等の絶縁材料から選択することが望ましい。
【0023】
<1.5 圧電体薄膜>
圧電体薄膜15は、圧電体基板195を除去加工することにより得られる。より具体的には、圧電体薄膜15は、単独で自重に耐え得る厚み(例えば、50μm以上)を有する圧電体基板195を、単独で自重に耐え得ない膜厚(例えば、10μm以下)まで除去加工で薄肉化することにより得られる。
【0024】
圧電体薄膜15を構成する圧電材料としては、所望の圧電特性を有する圧電材料を選択することができるが、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)及びランガサイト(La3Ga3SiO14)等の粒界を含まない単結晶材料を選択することが望ましい。圧電体薄膜15を構成する圧電材料として単結晶材料を用いることにより、圧電体薄膜15の電気機械結合係数及び機械的品質係数を向上することができるからである。
【0025】
また、圧電体薄膜15における結晶方位も、所望の圧電特性を有する結晶方位を選択することができる。ここで、圧電体薄膜15における結晶方位は、圧電薄膜共振子1の共振周波数や反共振周波数の温度特性が良好となる結晶方位とすることが望ましく、周波数温度係数が「0」となる結晶方位とすることがさらに望ましい。
【0026】
圧電体基板195の除去加工は、切削、研削及び研磨等の機械加工並びにエッチング等の化学加工等により行う。ここで、複数の除去加工方法を組み合わせ、加工速度が速い除去加工方法から、加工対象に生じる加工変質が小さい除去加工方法へと除去加工方法を段階的に切り替えながら圧電体基板を除去加工すれば、高い生産性を維持しつつ、圧電体薄膜15の品質を向上し、圧電薄膜共振子1の特性を向上することができる。例えば、圧電体基板195を固定砥粒に接触させて削る研削及び圧電体基板195を遊離砥粒に接触させて削る研磨を順次行った後に、当該研磨によって圧電体基板195に生じた加工変質層を仕上げ研磨により除去するようにすれば、圧電体基板195を削る速度が早くなり、圧電薄膜共振子1の生産性を向上することができるとともに、圧電体薄膜15の品質を向上することにより、圧電薄膜共振子1の特性を向上することができる。
【0027】
このような圧電薄膜共振子1では、圧電体薄膜15をスパッタリング等により成膜した場合と異なり、圧電体薄膜15を構成する圧電材料や圧電体薄膜15における結晶方位が下地の制約を受けないので、圧電体薄膜15を構成する圧電材料や圧電体薄膜15における結晶方位の選択の自由度が高くなっている。したがって、圧電薄膜共振子1では、所望の特性を実現することが容易になっている。
【0028】
圧電体薄膜15には、圧電体薄膜15の下面と上面との間を貫通し、圧電体薄膜15を挟んで対向する下面電極14と上面電極17とを導通させるバイアホール155が形成されている。バイアホール155は、その内側面に成膜された導電体薄膜により下面電極14と上面電極17とを電気的に接続する。
【0029】
圧電薄膜共振子1では、図3に示すように、圧電体薄膜15の上面はほぼ平坦となっているが、圧電体薄膜15の下面は自由振動領域192において下方に湾曲している。このため、圧電体薄膜15の膜厚は、自由振動領域192の周縁部から中心部へ向かって連続的に厚くなってゆく。このような膜厚の変動が生じるのは、キャビティ形成膜12が成膜されていない自由振動領域192とキャビティ形成膜12が成膜されている固定領域193とでは、圧電薄膜共振子1の製造途上において圧電体薄膜15に加わる応力が異なること等による。
【0030】
<1.6 下面電極及び上面電極>
下面電極14及び上面電極16,17は、それぞれ、圧電体薄膜15の下面及び上面に導電材料を成膜することにより形成された導電体薄膜である。
【0031】
下面電極14及び上面電極16,17を構成する導電材料は、特に制限されないが、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、金(Au)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びタンタル(Ta)等の金属から選択することが望ましい。もちろん、下面電極14及び上面電極16,17を構成する導電材料として合金を用いてもよい。また、複数種類の導電材料を重ねて成膜することにより、下面電極14及び上面電極16,17を形成してもよい。
【0032】
下面電極14の一部を占める細長矩形の駆動部141と、上面電極16の一部を占める細長矩形の駆動部161とは、対向領域191において、圧電体薄膜15を挟んで対向している。下面電極14の駆動部141を除く残余を占める給電部142は、バイアホール155によって、上面電極17に接続されている。
【0033】
駆動部141及び駆動部161の平面形状を細長形状にしたのは、副共振をより強力に抑制するためである。ここで、「細長形状」とは、駆動部141及び駆動部161の長手方向の長さ(矩形の長辺や楕円形の長軸等の長さ)が短手方向の長さ(矩形の短辺や楕円形の短軸等の長さ)の2倍以上、望ましくは4倍以上、さらに望ましくは10倍以上である平面形状をいう。ただし、このことは、平面形状が細長形状でない駆動部141及び駆動部161を採用することを妨げない。
【0034】
このような下面電極14及び上面電極16,17により、圧電薄膜共振子1では、外部に露出している、上面電極16の駆動部161を除く残余を占める給電部162と上面電極17とに励振信号が印加されると、下面電極14の駆動部141と上面電極16の駆動部161とに励振信号が印加され、自由振動領域192に振動が励振される。これにより、圧電薄膜共振子1は、厚み縦振動又は厚みすべり振動を利用したエネルギー閉じ込め型の共振子として機能する。
【0035】
なお、圧電薄膜共振子1では、対向領域191が自由振動領域192を内包するようにしている。このように、対向領域191の周縁部が接着層12及びキャビティ形成膜13を介して支持基板11に固定されるようにすると、圧電薄膜共振子1の副共振をより強力に抑制することができる。ただし、このことは、自由振動領域192が対向領域191を内包するようにすることを妨げない。
【0036】
図3に示すように、上面電極16は、自由振動領域192において、均一な膜厚の導電体薄膜1601の一部にさらに導電体薄膜1602を付加加工することにより形成されている。導電体薄膜1602は、圧電体薄膜15の膜厚が薄くなる自由振動領域192の周縁部に付加されている。導電体薄膜1601を構成する導電材料と導電体薄膜1602を構成する導電材料とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、ウェットエッチングを利用してフォトリソグラフィプロセスにより上面電極16を形成する場合は、選択的なエッチングを行う必要があるので、導電体薄膜1601と導電体薄膜1602とを異なる導電材料で構成することが望ましい。
【0037】
このように、導電体薄膜1601に導電体薄膜1602を付加加工して部分的に膜厚を厚くした上面電極16は、自由振動領域192において圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を有するようになる。このような膜厚の分布を有する上面電極16を採用すれば、圧電薄膜共振子1が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子1が副共振(スプリアス)の影響を受けにくくなる。
【0038】
なお、圧電体薄膜15の膜厚が連続的に変化する場合は、上面電極16の膜厚も連続的に変化させること、すなわち、圧電体薄膜15の膜厚が連続的に厚くなるにつれて上面電極16の膜厚が連続的に薄くなるようにすることが最も望ましいが、図3に示すように、上面電極16の膜厚を段階的に変化させるだけでも実用的な副共振の抑制効果を得ることができる。もちろん、膜厚を2段階に変化させることは必須ではなく、3段階以上に変化させてもよい。このように膜厚が段階的に変化する上面電極16は、膜厚が連続的に変化するものよりも容易に形成することができる。
【0039】
また、自由振動領域192において圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を有する上面電極15を形成することに代えて、又は、自由振動領域192において圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を有する上面電極15を形成することに加えて、自由振動領域192において圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を有する下面電極14を形成してもよい。
【0040】
<1.7 膜厚の分布に関する基本的な考え方>
厚さ方向に分極された膜状の圧電体15aの下面及び上面にそれぞれ膜状の下面電極14a及び上面電極16aを形成した図4の断面図に示す縦効果振動子1aは、図5の回路図に示す等価回路1bでモデリングすることができ、縦効果振動子1aのインピーダンスは、電気ポート153bのインピーダンスとして表すことができる。このモデリングは、周知のメイソンの手法によるものである。
【0041】
等価回路1bは、膜厚を無視できる電極を両主面に形成した圧電体15aをモデリングした3ポート等価回路15bと、下面電極14aをモデリングした2ポート等価回路14bと、上面電極16aをモデリングした2ポート等価回路16bとの結合とみなすことができる。
【0042】
3ポート等価回路15bは2個の機械ポート151b,152bと1個の電気ポート153bとを備え、2ポート等価回路14bは2個の機械ポート141b,142bを備え、2ポート等価回路16bは2個の機械ポート161b,162bを備える。3ポート等価回路15bの機械ポート151bは2ポート等価回路14bの機械ポート142bと接続され、3ポート等価回路15bの機械ポート152bは、2ポート等価回路16bの機械ポート161bと接続されている。また、2ポート等価回路14bの機械ポート141bは、下面電極14aの下方の媒質が音響インピーダンスを実質的に0とみなすことができる空気であることを反映して短絡されている。2ポート等価回路16bの機械ポート162bも、上面電極16aの上方の媒質が音響インピーダンスを実質的に0とみなすことができる空気であることを反映して短絡されている。
【0043】
3ポート等価回路15bは、T型に接続されたリアクタンス素子154b,155b,156bを備える。リアクタンス素子154bの一端とリアクタンス素子155bの一端とリアクタンス素子156bの一端とは接続されている。リアクタンス154bの他端は、理想トランス157bの2次側を介して、機械ポート151bの接地端及び機械ポート152bの接地端に接続されている。リアクタンス素子155bの他端は、機械ポート151bの信号端に接続されている。リアクタンス素子156bの他端は、機械ポート152bの信号端に接続されている。また、3ポート等価回路15bは、逆L型に接続された容量素子158b及び負性容量素子159bを備える。容量素子158bの一端は電気ポート153bの信号端に接続され、容量素子158bの他端は電気ポート153bの接地端及び理想トランス157bの1次側の一端に接続される。負性容量素子159bの一端は電気ポート153bの信号端に接続され、負性容量素子159bの他端は理想トランス157bの他端に接続される。
【0044】
リアクタンス素子154bのインピーダンスZa1及びリアクタンス素子155b、156bのインピーダンスZb1は、圧電体15aの面積S1、圧電体15aの膜厚L1、圧電体15aの中における音速ν1、圧電体15aの密度ρ1、角周波数ω(=2πf)を用いて、それぞれ、式1及び式2で表される。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
また、2ポート等価回路14bは、T型に接続されたリアクタンス素子144b,145b,146bを備える。リアクタンス素子144bの一端とリアクタンス素子145bの一端とリアクタンス素子146bの一端とは接続されている。リアクタンス素子144bの他端は、機械ポート141bの接地端及び機械ポート142bの接地端に接続されている。リアクタンス素子145bの他端は、機械ポート141bの信号端に接続されている。リアクタンス素子146bの他端は、機械ポート142bの信号端に接続されている。リアクタンス素子144bのインピーダンスZa2及びリアクタンス素子145b,146bのインピーダンスZb2は、下面電極14aの面積S2、下面電極14aの膜厚L2、下面電極14aの中における音速ν2、下面電極14aの密度ρ2、角周波数ωを用いて、それぞれ、式3及び式4で表される。
【0048】
【数3】

【0049】
【数4】

【0050】
同様に、2ポート等価回路16bは、T型に接続されたリアクタンス素子164b,165b,166bを備える。リアクタンス素子164bの一端とリアクタンス素子165bの一端とリアクタンス素子166bの一端とは接続されている。リアクタンス164bの他端は、機械ポート161bの接地端及び機械ポート162bの接地端に接続されている。リアクタンス素子165bの他端は、機械ポート161bの信号端に接続されている。リアクタンス素子166bの他端は、機械ポート162bの信号端に接続されている。リアクタンス素子164bのインピーダンスZa3及びリアクタンス素子165b,166bのインピーダンスZb3は、上面電極16aの面積S3、上面電極16aの膜厚L3、上面電極16aの中における音速ν3、上面電極16aの密度ρ3、角周波数ωを用いて、それぞれ、式5及び式6で表される。
【0051】
【数5】

【0052】
【数6】

【0053】
したがって、理想トランス157bの変成比をnとすれば、理想トランス157bの1次側からみたアドミタンスは式7で表され、電気ポート153bからみたアドミタンスYは、容量素子158bのキャパシタンスCdを用いて式8で表される。
【0054】
【数7】

【0055】
【数8】

【0056】
ここで、電気ポート153bからみたインピーダンスは共振周波数frにおいて「0」となるので、共振周波数frは、式8の分母を0として得られた式を周波数fについて解けば得ることができ、共振周波数frは、膜厚L1,L2,L3の関数として、式9で表される。
【0057】
【数9】

【0058】
式9からわかるように、自由振動領域192において下面電極14の膜厚及び上面電極16の膜厚が一定のまま圧電体15の膜厚が増減すれば、自由振動領域192において共振周波数も変動するが、自由振動領域192において圧電体15の膜厚の増減に応じて下面電極14の膜厚や上面電極16の膜厚を減増すれば自由振動領域192における共振周波数の変動を小さくすることができ、副共振を抑制することができる。例えば、自由振動領域192をn個の領域Ri(n=1,2,・・・,n)に分割し、式9により特定される領域Riの共振周波数friの偏差が小さくなるように、領域Riの各々における下面電極14や上面電極16の膜厚を減増すれば、副共振を抑制することができる。
【0059】
なお、容量素子158bのキャパシタンスCdは、圧電体15aの誘電率ε33 、圧電体15aの面積S1、圧電体15aの板厚L1を用いて式10で表され、理想トランス157bの変成比nは、圧電体15aの圧電定数e33 、圧電体15aの面積S1、圧電体15aの板厚L1を用いて式11で表される。
【0060】
【数10】

【0061】
【数11】

【0062】
<1.8 製造方法>
続いて、支持基板11及び圧電体薄膜15を構成する圧電材料としてニオブ酸リチウムの単結晶、接着層12を構成する材料としてエポキシ接着剤、キャビティ形成膜13を構成する絶縁材料として二酸化ケイ素、下面電極14を構成する導電材料としてモリブデン、上面電極16を構成する導電材料として金を用いた場合を例として、圧電薄膜共振子1の製造方法を説明する。ただし、以下で説明する製造方法は例示に過ぎず、所望の特性に応じて材料を変更することを妨げるものではない。また、圧電体薄膜15を圧電体基板195の除去加工により得ることも必須ではなく、従来から行われているように、支持基板の上に下面電極、圧電体薄膜及び上面電極をスパッタリング等の付加加工で順次成膜することにより圧電薄膜共振子1を製造してもよい。
【0063】
なお、以下で説明する製造方法においては、圧電薄膜共振子1は、製造原価の低減のために、多数(典型的には、数100個〜数1000個)の圧電薄膜共振子1を一体化したマザー基板を作製した後に、当該マザー基板をダイシングソーで切断して個々の圧電薄膜共振子1へ分離することによって得られている。
【0064】
以下では、便宜上、当該マザー基板に含まれる1個の圧電薄膜共振子1に着目して説明を進めるが、マザー基板に含まれる他の圧電薄膜共振子1も着目した圧電薄膜共振子1と同時平行して製造されている。
【0065】
圧電薄膜共振子1の製造にあたっては、最初に、圧電体基板195の下面の全面にモリブデン膜をスパッタリングにより成膜し、一般的なフォトリソグラフィプロセスを用いてパターニングを行い、下面電極14を得る(図6)。
【0066】
続いて、圧電体基板195の下面の全面に二酸化ケイ素膜をスパッタリングにより成膜し、一般的なフォトリソグラフィプロセスを用いてパターニングを行い、キャビティ形成膜13を形成する(図7)。
【0067】
さらに続いて、支持基板11の上面に接着層12となるエポキシ接着剤を塗布し、支持基板11の上面と、下面電極14及びキャビティ形成膜13が形成された圧電体基板195の下面とを張り合わせる。そして、支持基板11及び圧電体基板195に圧力を印加してプレス圧着を行う。しかる後に、エポキシ接着剤を硬化させ、支持基板11と圧電体基板195を接着する(図8)。
【0068】
支持基板11と圧電体基板195との接着が完了した後、圧電体基板195を支持基板11に接着した状態を維持したまま、支持基板11の下面を研磨治具に接着固定し、圧電体基板195の上面を固定砥粒の研削機で研削加工し、圧電体基板195を薄肉化する。さらに、圧電体基板195の上面をダイヤモンド砥粒で研磨加工し、圧電体基板195をさらに薄肉化する。最後に、ダイヤモンド砥粒による研磨加工で圧電体基板195に生じた加工変質層を除去するために、遊離砥粒及び不繊布系研磨パッドを使用して圧電体基板195の仕上げ研磨を行い、所望の膜厚の圧電体薄膜15を得る(図9)。なお、図9には、圧電体基板195を除去加工して圧電体薄膜15を得た際に圧電体薄膜15の膜厚の変動が生じた状態が示されている。ただし、他の工程において圧電体薄膜15の膜厚の変動が生じることもありうる。
【0069】
次に、圧電体薄膜15の上面(研磨面)を有機溶剤で洗浄し、クロム膜と金膜とを圧電体薄膜15の上面に順次成膜し、得られた積層膜を一般的なフォトリソグラフィプロセスを用いてパターニングすることにより、圧電体薄膜15の、バイアホール155を形成すべき部分のみを露出させたエッチングマスク196を得る(図10)。
【0070】
エッチングマスク196の形成後、加熱したバッファードフッ酸で圧電体薄膜15のエッチングを行い、圧電体薄膜15の上面と下面との間を貫通するバイアホール155を形成して下面電極14を露出させるとともに、エッチングマスク196をエッチングにより除去する(図11)。
【0071】
そして、圧電体薄膜15の上面の全面に金膜をスパッタリングにより成膜し、一般的なフォトリソグラフィプロセスを用いてパターニングを行い、上面電極16の下層の導電体薄膜1601及び上面電極17を得る(図12)。このとき、バイアホール155の内側面にも導電体薄膜が形成されるので、下面電極14と上面電極17との導通が確保される。
【0072】
さらに、導電体薄膜1601が形成された圧電体薄膜15の上面に金膜をスパッタリングにより成膜し、上面電極16の上層の導電体薄膜1602を得る。これにより、圧電薄膜共振子1が製造されたことになる(図3)。
【0073】
<1.9 副共振の抑制効果>
図13は、駆動部141,161の平面形状を縦200μm×横25μmの矩形、導電体薄膜1602の幅を3μm、導電体薄膜1602の膜厚を0.087μmとした圧電薄膜共振子1の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図であり、図14は、導電体薄膜1602が付加されていない点以外は当該圧電薄膜共振1と同等の圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。図13及び図14からは、導電体薄膜1602を付加し、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を上面電極16に与えることにより、共振周波数より周波数が高い副共振を抑制できることがわかる。
【0074】
<2 第2実施形態>
図15は、本発明の第2実施形態の圧電薄膜共振子2の模式図である。図15は、圧電薄膜共振子2の断面図となっている。
【0075】
図15に示すように、圧電薄膜共振子2は、支持基板21の上に、接着層22、キャビティ形成膜23、下面電極24、圧電体薄膜25及び上面電極26をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子2は、上面電極26を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板21、接着層22、キャビティ形成膜23、下面電極24、圧電体薄膜25及び上面電極26は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0076】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子2との相違は、圧電薄膜共振子1では、均一な膜厚の導電体薄膜1601の一部にさらに導電体薄膜1602を付加加工することにより、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子2では、均一な膜厚の導電体薄膜の一部を除去加工して溝265を形成することにより、自由振動領域292において圧電体薄膜25の膜厚の分布を相殺する上面電極26の膜厚の分布を得ている点にある。具体的には、圧電薄膜共振子2では、均一な膜厚の導電体薄膜を成膜し、圧電体薄膜25の膜厚が厚くなる自由振動領域292の中心部をレーザ加工やイオンビーム(IB)加工等で除去加工することにより、上面電極26を形成している。
【0077】
このような膜厚の分布を有する上面電極26を採用しても、圧電薄膜共振子2が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子2が副共振の影響を受けにくくなる。
【0078】
<3 第3実施形態>
図16は、本発明の第3実施形態の圧電薄膜共振子3の模式図である。図16は、圧電薄膜共振子3の断面図となっている。
【0079】
図16に示すように、圧電薄膜共振子3は、支持基板31の上に、接着層32、キャビティ形成膜33、下面電極34、圧電体薄膜35及び上面電極36をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子3は、圧電体薄膜35、上面電極36を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板31、接着層32、キャビティ形成膜33、下面電極34、圧電体薄膜35及び上面電極36は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0080】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子3との相違は、圧電薄膜共振子1では、圧電体薄膜15の下面が自由振動領域192において下方に湾曲しており、圧電体薄膜15の膜厚が薄くなる自由振動領域192の周縁部に導電体薄膜1602を付加し、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子3では、圧電体薄膜35の下面が自由振動領域392において上方に湾曲しており、膜厚が均一な導電体薄膜3601の上に重ねて、圧電体薄膜35の膜厚が薄くなる自由振動領域392の中心部に導電体薄膜3602を付加し、自由振動領域392において圧電体薄膜35の膜厚の分布を相殺する上面電極36の膜厚の分布を得ている点にある。
【0081】
このような膜厚の分布を有する上面電極36を採用しても、圧電薄膜共振子3が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子3が副共振の影響を受けにくくなる。
【0082】
<4 第4実施形態>
図17は、本発明の第4実施形態の圧電薄膜共振子4の模式図である。図17は、圧電薄膜共振子4の断面図となっている。
【0083】
図17に示すように、圧電薄膜共振子4は、支持基板41の上に、接着層42、キャビティ形成膜43、下面電極44、圧電体薄膜45及び上面電極46をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子4は、上面電極46を除いては、圧電薄膜共振子3と同様の構造を有し、支持基板41、接着層42、キャビティ形成膜43、下面電極44、圧電体薄膜45及び上面電極46は、それぞれ、圧電薄膜共振子3の支持基板31、接着層32、キャビティ形成膜33、下面電極34、圧電体薄膜35及び上面電極36に相当するものとなっている。
【0084】
圧電薄膜共振子3と圧電薄膜共振子4との相違は、圧電薄膜共振子3では、均一な膜厚の導電体薄膜3601の一部にさらに導電体薄膜3602を付加加工することにより、圧電体薄膜35の膜厚の分布を相殺する上面電極36の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子4では、均一な膜厚の導電体薄膜の一部を除去加工することにより、自由振動領域492において圧電体薄膜45の膜厚の分布を相殺する上面電極46の膜厚の分布を得ている点にある。具体的には、圧電薄膜共振子4では、均一な膜厚の導電体薄膜を成膜し、圧電体薄膜45の膜厚が厚くなる自由振動領域492の周縁部を除去加工することにより、上面電極46を形成している。
【0085】
このような膜厚の分布を有する上面電極46を採用しても、圧電薄膜共振子4が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子4が副共振の影響を受けにくくなる。
【0086】
例えば、図18は、駆動部441,461の平面形状を縦200μm×横25μmの矩形、除去加工することにより得られた溝465の幅を4.5μm、イオンビーム(IB)を用いた除去加工により形成した溝の幅を4.5μmの深さを0.15μmとした圧電薄膜共振子4の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図であり、図19は、溝465が形成されていない点以外は圧電薄膜共振1と同等の圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。図18及び図19からは、均一な膜厚の導電体薄膜の一部を除去加工して、圧電体薄膜45の膜厚の分布を相殺する膜厚の分布を上面電極46に与えることにより、共振周波数より周波数が低い副共振を抑制できることがわかる。
【0087】
<5 第5実施形態>
図20は、本発明の第5実施形態の圧電薄膜共振子5の模式図である。図20は、圧電薄膜共振子5の断面図となっている。
【0088】
図20に示すように、圧電薄膜共振子5は、支持基板51の上に、接着層52、キャビティ形成膜53、下面電極54、圧電体薄膜55及び上面電極56をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子5は、圧電体薄膜55、上面電極56を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板51、接着層52、キャビティ形成膜53、下面電極54、圧電体薄膜55及び上面電極56は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0089】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子5との相違は、圧電薄膜共振子1では、圧電体薄膜15の上面がほぼ平坦で圧電体薄膜15の下面が自由振動領域192において下方に湾曲しており、圧電体薄膜15の膜厚が薄くなる自由振動領域192の周縁部に導電体薄膜1602を付加し、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子5では、圧電体薄膜55の下面がほぼ平坦で圧電体薄膜55の上面が下方に湾曲しており、膜厚が均一な導電体薄膜5601の上に重ねて、圧電体薄膜55の膜厚が薄くなる自由振動領域592の中心部に導電体薄膜5602を付加し、自由振動領域592において圧電体薄膜55の膜厚の分布を相殺する上面電極56の膜厚の分布を得ている点にある。
【0090】
このような膜厚の分布を有する上面電極56を採用しても、圧電薄膜共振子5が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子5が副共振の影響を受けにくくなる。
【0091】
<6 第6実施形態>
図21は、本発明の第6実施形態の圧電薄膜共振子6の模式図である。図21は、圧電薄膜共振子6の断面図となっている。
【0092】
図21に示すように、圧電薄膜共振子6は、支持基板61の上に、接着層62、キャビティ形成膜63、下面電極64、圧電体薄膜65及び上面電極66をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子6は、圧電体薄膜65、上面電極66を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板61、接着層62、キャビティ形成膜63、下面電極64、圧電体薄膜65及び上面電極66は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0093】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子6との相違は、圧電薄膜共振子1では、圧電体薄膜15の上面がほぼ平坦で圧電体薄膜15の下面が自由振動領域192において下方に湾曲しており、圧電体薄膜15の膜厚が薄くなる対向領域191の周縁部に導電体薄膜1602を付加し、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子6では、圧電体薄膜65の下面がほぼ平坦で圧電体薄膜65の上面が繰り返し起伏しており、膜厚が均一な導電体薄膜6601の上に重ねて、圧電体薄膜65の膜厚が薄くなる伏部に導電体薄膜6602を付加し、自由振動領域692において圧電体薄膜65の膜厚の分布を相殺する上面電極66の膜厚の分布を得ている点にある。
【0094】
このような膜厚の分布を有する上面電極66を採用しても、圧電薄膜共振子6が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子6が副共振の影響を受けにくくなる。
【0095】
<7 第7実施形態>
図22は、本発明の第7実施形態の圧電薄膜共振子7の模式図である。図22は、圧電薄膜共振子7の断面図となっている。
【0096】
図22に示すように、圧電薄膜共振子7は、支持基板71の上に、接着層72、キャビティ形成膜73、下面電極74、圧電体薄膜75及び上面電極76をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子7は、圧電体薄膜75、上面電極76を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板71、接着層72、キャビティ形成膜73、下面電極74、圧電体薄膜75及び上面電極76は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0097】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子7との相違は、圧電薄膜共振子1では、圧電体薄膜15の上面がほぼ平坦で圧電体薄膜15の下面が自由振動領域192において下方に湾曲しており、圧電体薄膜15の膜厚が薄くなる対向領域191の周縁部に導電体薄膜1602を付加し、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子7では、圧電体薄膜65の下面及び上面がほぼ平坦で下面と上面とが非平行になっており、膜厚が均一な導電体薄膜7601の上に重ねて、圧電体薄膜75の膜厚が薄くなる自由振動領域792の一端から圧電体薄膜75の膜厚が厚くなる自由振動領域792の他端へ向かって膜厚が段階的に薄くなる導電体薄膜7602を付加し、自由振動領域792において圧電体薄膜75の膜厚の分布を相殺する上面電極76の膜厚の分布を得ている点にある。
【0098】
このような膜厚の分布を有する上面電極76を採用しても、圧電薄膜共振子7が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子7が副共振の影響を受けにくくなる。
【0099】
<8 第8実施形態>
図23は、本発明の第8実施形態の圧電薄膜共振子8の模式図である。図23は、圧電薄膜共振子8の断面図となっている。
【0100】
図23に示すように、圧電薄膜共振子8は、支持基板81の上に、接着層82、キャビティ形成膜83、下面電極84、圧電体薄膜85、上面電極86及び付加膜87をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子8は、上面電極86及び付加膜87を除いては、圧電薄膜共振子1と同様の構造を有し、支持基板81、接着層82、キャビティ形成膜83、下面電極84、圧電体薄膜85及び上面電極86は、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、キャビティ形成膜13、下面電極14、圧電体薄膜15及び上面電極16に相当するものとなっている。
【0101】
圧電薄膜共振子1と圧電薄膜共振子8との相違は、圧電薄膜共振子1では、均一な膜厚の導電体薄膜1601の一部にさらに導電体薄膜1602を付加加工することにより、圧電体薄膜15の膜厚の分布を相殺する上面電極16の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子8では、均一な膜厚の導電体薄膜からなる上面電極86の一部にさらに絶縁体薄膜からなる付加膜87を付加加工することにより、自由振動領域892において圧電体薄膜85の膜厚の分布を相殺する上面電極86と付加膜87との積層膜88の膜厚の分布を得ている点にある。付加膜87を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、二酸化ケイ素(SiO2)等の絶縁材料から選択することが望ましい。
【0102】
このような膜厚の分布を有する積層膜88を採用しても、圧電薄膜共振子8が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子8が副共振の影響を受けにくくなる。
【0103】
<9 第9実施形態>
図24は、本発明の第9実施形態の圧電薄膜共振子9の模式図である。図24は、圧電薄膜共振子9の断面図となっている。
【0104】
図24に示すように、圧電薄膜共振子9は、支持基板91の上に、接着層92、キャビティ形成膜93、下面電極94、圧電体薄膜95及び上面電極96をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子9は、圧電体薄膜95、上面電極96を除いては、圧電薄膜共振子3と同様の構造を有し、支持基板91、接着層92、キャビティ形成膜93、下面電極94、圧電体薄膜95及び上面電極96は、それぞれ、圧電薄膜共振子3の支持基板31、接着層32、キャビティ形成膜33、下面電極34、圧電体薄膜35及び上面電極36に相当するものとなっている。
【0105】
圧電薄膜共振子3と圧電薄膜共振子9との相違は、圧電薄膜共振子3では、圧電体薄膜35の上面がほぼ平坦で圧電体薄膜35の下面が自由振動領域392において上方に湾曲しており、膜厚が均一な導電体薄膜3601の上に重ねて、圧電体薄膜35の膜厚が薄くなる自由振動領域392の中心部に導電体薄膜3602を付加し、自由振動領域392において圧電体薄膜35の膜厚の分布を相殺する上面電極36の膜厚の分布を得ているのに対して、圧電薄膜共振子9では、圧電体薄膜95の下面が自由振動領域962において上方に湾曲しているとともに圧電体薄膜95の上面が繰り返し起伏しており、膜厚が均一な導電体薄膜9601の上に重ねて、圧電体薄膜95の膜厚が薄くなる自由振動領域962の中心部の伏部に導電体薄膜9602を付加し、自由振動領域962において圧電体薄膜95の膜厚の分布を相殺する上面電極96の膜厚の分布を得ている点にある。
【0106】
圧電体薄膜95の上面及び下面の両方が非平坦である圧電薄膜共振子9において、このような膜厚の分布を有する上面電極96を採用しても、圧電薄膜共振子9が複数の共振周波数で共振することを防止できるようになり、圧電薄膜共振子9が副共振の影響を受けにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1実施形態の圧電薄膜共振子の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態の圧電薄膜共振子の平面図である。
【図3】図2のA-Aの切断線における圧電薄膜共振子の断面図である。
【図4】縦効果振動子の断面図である。
【図5】縦効果振動子の等価回路を示す回路図である。
【図6】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図7】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図8】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図9】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図10】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図11】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図12】製造途上の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図13】圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。
【図14】圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。
【図15】本発明の第2実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図16】本発明の第3実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図17】本発明の第4実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図18】圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。
【図19】圧電薄膜共振子の周波数−インピーダンス特性の一例を示す図である。
【図20】本発明の第5実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図21】本発明の第6実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図22】本発明の第7実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図23】本発明の第8実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【図24】本発明の第9実施形態の圧電薄膜共振子の断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1,2,3,4,5,6,7,8,9 圧電薄膜共振子
11,21,31,41,51,61,71,81,91 支持基板
12,22,32,42,52,62,72,82,92 接着層
13,23,33,43,53,63,73,83,93 キャビティ形成膜
14,24,34,44,54,64,74,84,94 下面電極
15,25,35,45,55,65,75,85,95 圧電体薄膜
16,26,36,46,56,66,76,86,96 上面電極
87 付加膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイスであって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の両主面に形成され、対向領域において前記圧電体薄膜を挟んで対向する電極膜と、
前記圧電体薄膜と前記電極膜とを積層した振動体を支持する支持基板と、
を備え、
前記振動体が空洞によって前記支持基板から隔てられている自由振動領域において、前記電極膜が前記圧電体薄膜の膜厚分布を相殺する膜厚分布を有している圧電薄膜デバイス。
【請求項2】
前記電極膜は、前記自由振動領域において、均一な膜厚の導電体薄膜の一部にさらに導電体薄膜を付加加工することにより形成されている請求項1に記載の圧電薄膜デバイス。
【請求項3】
前記電極膜は、前記自由振動領域において、均一な膜厚の導電体薄膜の一部を除去加工することにより形成されている請求項1に記載の圧電薄膜デバイス。
【請求項4】
単数又は複数の圧電薄膜共振子を含む圧電薄膜デバイスであって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の両主面に形成され、対向領域において前記圧電体薄膜を挟んで対向する導電体の電極膜と、
前記電極膜に重ねて形成された絶縁体の付加膜と、
前記圧電体薄膜と前記電極膜と前記付加膜とを積層した振動体を支持する支持基板と、
を備え、
前記振動体が空洞によって前記支持基板から隔てられている自由振動領域において、前記電極膜と前記付加膜との積層膜が前記圧電体薄膜の膜厚分布を相殺する膜厚分布を有している圧電薄膜デバイス。
【請求項5】
前記対向領域が前記自由振動領域を内包している請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電薄膜デバイス。
【請求項6】
前記対向領域の平面形状が、長手方向の長さが短手方向の長さの2倍以上の細長形状である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の圧電薄膜デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−306280(P2008−306280A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149336(P2007−149336)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】