説明

垂直磁気記録媒体および垂直磁気記録装置

【課題】 記録媒体の基板と垂直磁気記録層の間に設ける軟磁性層を、短時間で厚く皮膜形成が可能でかつ、錯体の錯化状態が変化せず安定して連続めっきが可能な合金めっき法を用いて形成させることにより、スパイクノイズや軟磁性層ノイズが低減された垂直磁気記録媒体を高生産性で安定して得る。
【解決手段】 アルミニウム板またはアルミニウム合金板に非晶質Ni−P合金めっき層を設けた基板またはガラス基板に、下から順に、Co−Ni−P合金めっき層からなる軟磁性裏打ち層、Ni−Fe合金とCo−Feの2層からなる軟磁性バッファー層、反強磁性層、下地層、垂直磁気記録層を順次形成せて垂直磁気記録媒体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性裏打ち層に起因するノイズ、特にスパイクノイズの抑制が可能で、ハードディスクや磁気テープなどに好適に適用できる垂直磁気記録媒体およびそれを用いた垂直磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク装置(HDD)等の磁気記録装置に搭載されている磁気記録媒体として、記録媒体の表面に平行な方向、すなわち磁気記録層の面内方向に磁化方向を固定してデータを記録する面内記録方式が使用されている。この面内記録方式においては、単位面積あたりの記録密度をさらに高めることが求められ、保磁力を高めることで対応してきた。しかし、保磁力が高くなり過ぎるとリングヘッドを用いるデータの書き込みが不可能になるなどの弊害が認められる。
【0003】
一方、単磁極ヘッドを用いて、記録媒体の表面に垂直な方向にデータを記録する垂直磁気記録方式においては、高保磁力を有する記録媒体であっても記録することが可能であり、面内記録方式よりも高い記録密度が得られる。そのため垂直磁気記録方式を用いる記録媒体の研究開発も従来より行われている。垂直磁気記録媒体としては、記録媒体の基体上に軟磁性層とその上に垂直磁気記録層との2層を設けてなる構造の垂直磁気記録媒体が用いられている。この2層構造の垂直磁気記録媒体においては、垂直磁気記録層の10倍以上の厚さのパーマロイ系結晶質材料やCoZrNbなどの非晶質材料からなる軟磁性層をスパッタリング法を用いて設けているが、軟磁性層中に形成される磁壁から磁束が漏洩することに起因するスパイクノイズが多発する欠点を有している。
【0004】
上記のスパイクノイズの発生を抑制することを目的として、以下に示すような技術が提案されている。例えば、基体と非晶質のCo合金からなる軟磁性層の間に、Coを含むMn合金またはIrを含むMn合金からなる反強磁性薄膜を形成し、交換結合を利用して軟磁性層の磁化を固定することにより、軟磁性層における磁壁形成を阻止してスパイクノイズの発生を抑制する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、基体上にスパッタリング法を用いて反強磁性薄膜層、軟磁性層、磁気記録層などを形成しているが、軟磁性層の厚さは反強磁性薄膜層や磁気記録層などの厚さの10倍近くまで厚く形成する必要があり、長時間のパッタリング処理が余儀なくされ、生産性に乏しい。
【0005】
また、垂直磁化膜と裏打ち軟磁性層の間に垂直磁化膜から100nm以下の距離を隔てて反強磁性層を設け、垂直磁化膜と反強磁性層の間に非磁性中間層を配置し、垂直磁化膜と反強磁性層の間に非磁性中間層と強磁性層(軟磁性膜)からなる層を設けることにより、裏打ち軟磁性層から発生するスパイク状ノイズを低減する方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。この方法においても、これらの各層はスパッタリング法を用いて形成されるが、軟磁性層の厚さは各層の厚さの10倍以上の厚さで形成する必要があり、長時間のパッタリング処理が余儀なくされ、生産性に乏しい。
【0006】
厚い軟磁性層を得る方法として、Ni−Fe系合金のパーマロイを、B化合物やP化合物を還元剤とする無電解めっき法を用いて製膜する方法があるが、めっき浴中のFe2+イオンが大気中では容易に酸化してFe3+イオンとなり浴組成が経時変化してしまうために、安定して連続めっきすることが困難である。
【0007】
無電解めっき法を用いて軟磁性層を成膜する方法としてNi、Fe、Coの中から選ばれた2種以上の金属とPを含有する皮膜を成膜する方法が開示されている(例えば特許文献3参照)が、めっき浴中にアンモニウムイオンを含有させためっき浴を用いた場合は、長時間のめっきによりアンミン錯体を構成するアンモニウムイオンがアンモニアガスとして揮発散逸するが、失われたアンモニウムイオンを補給しても、アンミン錯体の錯化状態が変化し、めっき析出速度が低下してしまうために、安定して連続めっきすることが困難になる。
【0008】
上記のように、本出願に関する先行技術情報として、以下のものがある。
【特許文献1】特開2001−291224号公報
【特許文献2】特開2002−298326号公報
【特許文献3】特開平09−171925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、記録媒体の基板と垂直磁気記録層の間に設ける軟磁性層を、短時間で厚く皮膜形成が可能でかつ、浴組成が計時変化せず安定して連続めっきが可能な合金めっき法を用いて形成させることにより、スパイクノイズや軟磁性層ノイズが低減された垂直磁気記録媒体を高生産性で安定して得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の垂直磁気記録媒体は、軟磁性裏打ち層を介して垂直磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体であって、基板と無電解めっき法によって成膜するCo−Ni−P合金めっきからなる前記軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に成膜してなる反強磁性層と、該反強磁性層上にスパッタ法を用いて成膜してなる下地層と、該下地層上にスパッタ法を用いて成膜してなる垂直磁気記録層とを備えてなる垂直磁気記録媒体(請求項1)であり、
上記(請求項1)の垂直磁気記録媒体において、前記Co−Ni−P合金めっきからなる軟磁性裏打ち層において、Co+Ni+Pの総和を100重量%とした場合に、Coの含有量が60〜73重量%、Niの含有量が20〜30重量%、Pの含有量が7〜13重量%であること(請求項2)を特徴とし、また
上記(請求項1または2)の垂直磁気記録媒体において、前記Co−Ni−P合金めっきが、アミノ酸イオンを含むめっき浴を用いた無電解めっきにより形成されてなること(請求項3)を特徴とし、さらに
上記(請求項3)の垂直磁気記録媒体において、前記アミノ酸イオンは化合物がグリシンであること(請求項4)を特徴とし、また
上記(請求項1〜4)のいずれかの垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、研磨後の厚さが100〜1000nmであり、表面粗さRa(JIS B 0601)が0.5nm以下であること(請求項5)を特徴とし、また
上記(請求項1〜5)のいずれかの垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層の飽和磁束密度が1.0T以上、保磁力が5Oe以下であること(請求項6)を特徴し、また
上記(請求項1〜6)のいずれかの垂直磁気記録媒体において、アルミニウム基板に非晶質Ni−P合金めっき層を形成した基板またはガラス基板からなること(請求項7)を特徴し、また
上記(請求項1〜7)のいずれかの垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層と反強磁性層との間に、軟磁性バッファー層を設けてなること(請求項8)を特徴し、さらに
上記(請求項8)の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性バッファー層が、下層のNi−Fe合金層と上層のCo−Fe合金層との2層からなること(請求項9)を特徴とする。
また、本発明の垂直磁気記録装置は、上記(請求項1〜9)のいずれかの垂直磁気記録媒体を用いてなる垂直磁気記録装置(請求項10)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の垂直磁気記録媒体は、記録媒体の基板と垂直磁気記録層の間に設ける軟磁性裏打ち層を、無電解めっき法により短時間で厚膜に成膜して構成するので、スパッタ法のみで厚膜の軟磁性裏打ち層を設ける場合に比べて高生産性で垂直磁気記録媒体を得ることができる。また無電解めっき浴として、錯化剤としてアミノ酸イオンを含有しアンモニウムイオンを含有しないCo−Ni−P合金めっき浴を用いるので、めっき析出速度を低下させることなく、安定して高生産性を維持して軟磁性皮膜を形成させることができる。特に、アルミニウム板またはアルミニウム合金板に湿式皮膜形成法である無電解合金めっきにより表面硬度確保のためのNi−P合金めっき層を形成させた基板を用いる場合は、引き続いて皮膜形成法を変更することなく、湿式皮膜形成法である無電解合金めっきにより軟磁性裏打ち層を形成させるので、極めて効率がよく高生産性で皮膜形成することが可能となる。また、無電解めっき法を用いて形成した軟磁性裏打ち層の上にスパッタ法を用いて軟磁性バッファー層を設け、さらにその上に反強磁性層を設けることにより、スパイクノイズの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の垂直磁気記録媒体とそれを備えた磁気記録装置の一実施形態について図面に基づき説明する。なお、これらの実施形態は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り本発明を限定するものではない。
【0013】
図1は本発明の垂直磁気記録媒体の実施例の一例を示す、概略断面図である。垂直磁気
記録媒体10は、基板1上に図面上で下から順に、軟磁性裏打ち層3、Ni−Fe合金層4aおよびCo−Fe合金層4bの2層からなる軟磁性バッファー層4、反強磁性層5、下地層6、垂直磁気記録層7、および保護膜8、潤滑膜9を形成して構成される。図2は本発明の垂直磁気記録媒体の実施例の他の一例において、基板としてアルミニウム基板からなる基板1aに非晶質Ni−P合金めっき層1bを形成したものを用いた場合を示す概略断面図である。
【0014】
基板1としては、磁気ディスク用に非磁性の金属や樹脂からなる円板またはその上に他の非磁性の皮膜を形成させたものが上げられる。非磁性の金属や樹脂からなる円板としては、アルミニウム、チタン、またはそれらを主成分とする合金、ガラス、シリコン、カーボン、セラミックス、樹脂、またはこれらの2種以上からなる複合体からなる円板を用いることができる。ガラス基板としては、結晶化ガラスやイオン交換法などを用いて表面に圧縮応力を付与した強化ガラスなどからなるガラス基板を用いることがより好ましい。これらの円板上に形成させる皮膜は、高温に加熱しても磁性を帯びず、導電性を有し、熱伝導性に優れ、研磨などの機械加工が容易に実施可能で、かつ取扱に際して疵が付きにくい適度な硬度を有している非磁性皮膜が用いられ、Ni−P、Ni−Ta、Ni−Ti、Ni−Alなどの合金からなる皮膜があり、スパッタ法、蒸着法、めっき法などを用いて成膜することができる。基板1aに形成する非晶質Ni−P合金めっき層1bも非磁性皮膜である。
【0015】
本発明においては、軟磁性裏打ち層3を湿式皮膜形成法である無電解めっき法により形成することを特徴としている。そのため、同様に湿式皮膜形成法を用いて磁気ディスク基板として広汎に製造されている、図2に示すようなアルミニウム基板1a(アルミニウム合金板も含む、以下同様)上に非晶質Ni−P合金めっき層1bを形成した基板1を用いると、構造が共通しためっき装置やめっき廃液処理設備等を利用できるので、生産性の観点から好ましい。
【0016】
本発明においては、特にCo−Ni−P合金を無電解めっき法により軟磁性裏打ち層3として形成することを特徴とする。軟磁性層はFe、Ni、Coなどの強磁性金属で構成されるが、無電解めっき法を用いて強磁性金属を析出させる場合、Feは大気中で酸化されやすく、典型的な軟磁性皮膜であるパーマロイなどのNi−Fe合金皮膜を湿式めっき法で形成させる場合、めっき浴中のFeの供給源としてのFe2+イオンがめっき中において容易にFe3+イオンに変化するので、連続的に安定した組成の軟磁性皮膜を得ることが困難である。そのため、本発明においては、大気中でめっき浴中の金属イオンが酸化しないCo−Ni合金を、P化合物を還元剤として無電解めっき法により、Co−Ni−P合金からなる軟磁性皮膜として形成させる。
【0017】
Co−Ni−P合金を無電解めっき法により形成させるためのめっき浴としては、金属イオンとして硫酸コバルトや硫酸ニッケルなどのCoイオンおよびNiイオン、還元剤として次亜リン酸ナトリウムや亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸イオンまたは/および亜リン酸イオン、錯化剤としてクエン酸ナトリウムや酒石酸ナトリウムなどの有機酸のアルカリ金属塩、αアラニン、βアラニン、グリシン、グルタミン酸などのアミノ基とカルボキシル基の両方を有するアミノ酸イオンの1種または2種以上を含むめっき浴を用いることが好ましく、特に錯化剤としてアミノ酸イオンを供給するグリシンを含むめっき浴を用いることがより好ましい。さらに浴のpHを調整するためには水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。めっき浴のpH調整用にアンモニア水を用いたり、まためっき浴の安定剤として硫酸アンモニウムなどのアンモニウムイオンを含む物質をめっき浴に添加すると、加温しためっき浴からアンモニウムイオンがアンモニアガスとして揮発散逸してアンミン錯体の錯化状態が変化し、めっき皮膜の析出速度が低下して、高速で安定した皮膜組成を有する軟磁性皮膜を得ることが困難になり、好ましくない。
【0018】
図3に、グリシンを含みアンモニアを含まないめっき浴(グリシン浴)を用いて連続めっきした場合と、グリシンを含まずアンモニアを含むめっき浴(アンモニア浴)を用いて連続めっきした場合の、連続めっきの経時変化によるめっき析出速度の影響を示す。グリシン浴を用いた場合は、めっき浴を建浴して80℃まで昇温した後17時間以上経過してもめっき析出速度はほぼ一定の2μm/Hであるのに対して、アンモニア浴を用いた場合は、めっき開始から4時間を経過するとめっき速度が低下し始め、15時間以上経過するとめっきが全く析出しなくなる。このように、めっき浴にアンモニウムイオンを用いず、アンモニウムイオンの代替の錯化剤としてアミノ酸イオンを供給するグリシンを含有させることにより、めっき皮膜の析出速度を低下させることなく、安定した皮膜組成を有する軟磁性皮膜が得られる。
【0019】
一般に、垂直磁気記録媒体の場合、磁気ヘッドが該垂直磁気記録媒体に書き込まれた信号を良好に読みとるためには、磁気ヘッドと該垂直磁気記録媒体の空隙は小さい方が好ましい。特に、磁気ヘッドが垂直磁気記録媒体上を浮上しながら記録再生する場合には、その浮上量は出きるだけ小さい方が好ましい。さらに、磁気ヘッドを浮上させずに垂直磁気記録媒体の表面に接触させて記録再生することができればより好ましい。したがって、垂直磁気記録媒体用の基体としては、優れた表面平滑性を有するものが好ましく、さらには、基体の表裏両面の平行性、および基体の円周方向のうねりが適切に制御されたものが好ましい。
【0020】
基板1上に設ける軟磁性裏打ち層3は、ヘッド系磁気回路の一部として機能するため、膜厚は50〜500nmのように厚く堆積し、その後表面を研磨して用いられる。そのため、生産性の観点からはスパッタ法、蒸着法などの皮膜形成方法を用いるよりも無電解めっきなどの湿式皮膜形成法を用いる方が有利である。特に、基板1としてNi−P合金めっき層を形成したアルミニウム板を用いる場合は、上記のように、構造が共通しためっき装置や、共通のめっき廃液処理設備等を利用できるのでより有利になる。
【0021】
軟磁性裏打ち層3としては、スパッタ法によって成膜するNi−Fe、Ni−Fe−Co、Co−Zr−Nb、Fe−Al−Si、Co−Ta−Zr、Fe−Ta−C、Fe−Nなどの合金を用いることができるが、本発明においては、上記のように湿式皮膜形成法である無電解めっき法を用いてP化合物を還元剤とするCo−Ni−P合金めっき層を軟磁性裏打ち層3として適用する。基板1に非晶質Ni−P合金めっき層を形成したアルミニウム板を用いる場合は、非晶質Ni−P合金めっき層上に無電解めっき法を用いてCo−Ni−P合金めっき層を形成する。
【0022】
Co−Ni−P合金めっき層を軟磁性裏打ち層3として適用する場合、Co−Ni−P合金めっき層においてCo+Ni+Pの総和を100重量%とした場合、Coの含有量を60〜73重量%、Niの含有量を20〜30重量%、Pの含有量を7〜13重量%とすることにより、飽和磁束密度を1.0T以上、保磁力を5Oe以下とすることが可能となり、結晶構造は結晶質となる。Co−Ni−P合金めっきにおいて、Co、Ni、Pのそれぞれの含有量を上記の範囲とするためには、合金めっきにおいてめっき浴の温度を変えてめっき層の析出速度を加減したり、めっきのpHを変化させて適宜調整する。
【0023】
これらの軟磁性裏打ち層2の厚さは研磨後の厚さで100〜1000nmであることが好ましく、300〜500nmであることがより好ましい。100nm未満であると、研磨に際して十分な研磨精度の確保が困難になり、1000nmを超えても記録密度向上の利点が向上せず、経済的に有利でなくなる。
【0024】
また、これらの軟磁性裏打ち層3の表面粗さRa(JIS B 0601)は0.5nm以下とする必要がある。表面粗さRa(JIS B 0601)が0.5nmを超えるとノイズパワースペクトル中に観測されるノイズパワーが増加するばかりではなく、ヘッドクラッシュが生じやすくなる。そのためには、基板1として非晶質Ni−P合金めっき層を形成したアルミニウム板を用いる場合は、非晶質Ni−P合金めっき後に表面粗さRa(JIS B 0601)が0.2nm以下となるように表面を研磨した非晶質Ni−P合金めっき層上にCo−Ni−P合金めっき層を上記の厚さで形成した後、表面を再研磨することにより表面粗さRa(JIS B 0601)を0.5nm以下とすることができる。また、アルミニウム板上に非晶質Ni−P合金めっき層を形成した後に行う表面研磨を省略してCo−Ni−P合金めっき層を形成させた後、表面研磨を行って表面粗さRa(JIS B 0601)を0.5nm以下とすることもできる。
【0025】
一般に、垂直磁気記録媒体においては、基板上に軟磁性層を設けた後にその上に反強磁性層を設ける。反強磁性層は、軟磁性層との交換結合作用により、軟磁性層にブロッホ磁壁を形成させずにスパイクノイズを抑制するために設ける層である。特に軟磁性裏打ち層の磁化を基板(円板)の径方向に固定し、残留磁化状態で単磁区化させることは、ブロッホ磁壁からの漏洩磁束を完全に排除できる結果スパイクノイズの発生を抑制できるため好ましい。軟磁性層との交換結合により大きな一方向磁気異方性を誘導するために、反強磁性層の結晶成長ならびに結晶配向制御を目的として、軟磁性層と反強磁性層の間に軟磁性バッファー層を設けてもよい。本発明においては、上記のように基板1上に軟磁性裏打ち層3としてCo−Ni−P合金めっき層を形成し、その上に軟磁性バッファー層4を形成する。軟磁性バッファー層4としては、特に限定するものではないが、反強磁性層の構造をめっき軟磁性層の構造に依存せずに制御できるような軟磁性材料、また、軟磁性バッファー層4の上に形成する反強磁性層5との組み合わせにより大きな一方向磁気異方性を誘導できるような軟磁性材料、あるいはそれらの積層構成を用いてもよい。具体的には、Co−Fe合金からなる単層、または図1に示すように基板側からNi−Fe合金4aとCo−Fe合金4bからなる2層を用いることが好ましい。軟磁性バッファー層4の厚さは生産性の観点から1〜20nmであることが好ましい。軟磁性バッファー層4の形成には湿式皮膜形成法、乾式皮膜形成法のいずれも適用できるが、膜厚の厳密制御の観点からは、スパッタリング法等の乾式皮膜形成が好ましい。
【0026】
反強磁性層5としては、Mn−Ir、Co−Mn、Ni−Mn、Pt−Mn等の合金およびこれらの合金に反強磁性層としての特性に悪影響を与えない範囲で他の金属1種以上を添加したものを用いることができる。厚さは、ヘッド系磁気回路の観点からスペーシングロスとなるため、一方向磁気異方性を誘導する機能を損ねない程度に薄いことが好ましい。具体的には1〜10nmの厚さの層を設けることが好ましい。反強磁性層5の形成には湿式皮膜形成法、乾式皮膜形成法などのいずれも適用できるが、膜厚の厳密制御の観点からは、スパッタリング法等の乾式皮膜形成法がより好ましい。
【0027】
次いで反強磁性層5の上にスパッタ法を用いて、下地層6を設けてもよい。この下地層6としては、その上に形成する垂直記録層7を垂直磁化膜化させる材料であればいかなる材料であっても差し支えない。例えば、Ru、Hf、非磁性CoCr、Pt及びPdを用いることができる。また、下地層6の構成としては、これらの単層構造の他、2層またはそれ以上の多層構造であってもよい。
【0028】
スパッタ法を用いて形成する垂直磁気記録層7は、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に一方向に磁気異方性を有して配向した強磁性材料であればよく、特に組成を限定するものではないが、例えば、CoとCrを主たる成分とし、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に一方向に磁気異方性を有して配向した六方稠密構造(hcp:hexagonal closest packed structure)を有するCo−Cr系強磁性材料が好適に用いられる。このCo−Cr系強磁性材料は、必要に応じて他の元素を添加したものであっても良い。
【0029】
CoCr系強磁性材料の具体例としては、Co−Cr(Cr<25原子%)、Co−Cr−Ni、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Cr−Pt−Ta、Co−Cr−Pt−B等のCo−Cr系合金が挙げられる。また、この垂直磁気記録層7の結晶粒の粒径制御や粒間の偏析制御、結晶粒の結晶磁気異方性定数(Ku)、結晶粒径の制御、耐食性の制御、低温プロセスへの対応等を目的として、これら合金にO、SiO、MgO、TaO、ZrO、Fe、Mo、V、Si、B、Ir、W、Hf、Nb、Ru、希土類元素等を適宜添加してもよい。
【0030】
また、上記のCo−Cr系合金以外の強磁性材料、例えば、Co−Pt、Co−Pd、Fe−Pt等の熱擾乱耐性に優れた材料や、それらを微細化するためにB、N、O、SiO、MgO、TaO、ZrO、Zr等を添加した材料を用いてもよい。さらに、Co層とPt層を多数積層した多層構造の垂直記録層も適用可能である。このような多層構造の垂直記録層としては、Co層とPd層、あるいはFe層とPd層等を組み合わせた多層構造の垂直記録層、またはこれらの各層にB、N、O、Zr、SiO等を添加したものも適用可能である。これらいずれの記録層材料を選定した場合も、垂直磁気記録層7の厚さは5〜100nmであることが好ましい。
【0031】
このようにして本発明の垂直磁気記録媒体が得られるが、実際にドライブに組み込んで使用する場合は、垂直磁気記録層7の上に保護膜8および保護膜8上に潤滑膜9を設ける必要がある。保護層8は、垂直磁気記録層7の表面を保護するためのもので、保護膜として必要な機械的強度、耐熱性、耐酸化性、耐腐食性等を備えたものであればよく、特に材料組成を限定するものではないが、例えば、カーボンが好適に用いられる。潤滑膜は基体が回転している際に、磁気ヘッドを安定して浮上させるためのものであり、例えばパーフルオロポリエーテルが好適に用いられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
(基板の作成)
磁気ディスク用のアルミニウム合金からなる、中心に孔を有する直径:2.5インチ規格の円板(直径:65mm)に非晶質のNi−P合金めっきを施した後、アルミナ系の研磨液を用いて粗研磨した後、コロイダルシリカ研磨液を用いて仕上げ研磨し、表面粗さRa(JIS B 0601)を0.2nmにポリッシュし、基板とした。
【0033】
(軟磁性裏打ち層の形成)
この基板上に、以下に示す浴組成のCo−Ni−P合金めっき浴を用いてCo(68.8重量%)−Ni(24.2重量%)−P(7.0重量%)の組成を有するCo−Ni−P合金層を形成した。次いでコロイダルシリカ研磨液を用いて表面を研磨し、表面粗さ(Ra):0.29nmおよび厚さ:300nmを有する軟磁性裏打ち層とし、試料番号1の試料とした。このようにして得られた試料番号1の試料の軟磁性裏打ち層の軟磁気特性を振動試料型磁力計(VSM:理研電子社製BHV−35)を用いて測定したところ、保磁力:0.5Oe、飽和磁束密度:1.1Tであった。
【0034】
[Co−Ni−P合金めっき浴]
硫酸コバルト 10g/L
硫酸ニッケル 3g/L
クエン酸三ナトリウム 30g/L
酒石酸ナトリウム 30g/L
グリシン 7.5g/L
次亜リン酸ナトリウム 25g/L
pH(水酸化ナトリウム水溶液で調整) 9.0
浴温 80℃
【0035】
(軟磁性バッファー層の形成)
上記のようにして基板にCo−Ni−P合金めっき層を形成して表面を研磨した試料番号1の試料に、スパッタリング法を用いて表面に基板から順にNi(81重量%)−Fe(19重量%)の組成を有する厚さ:6nmのFe−Ni合金層およびCo(70重量%)−Fe(30重量%)の組成を有する厚さ:4nmのCo−Fe合金層を設け、厚さ:10nmの軟磁性バッファー層を形成した。
【0036】
(反強磁性層の形成)
この軟磁性バッファー層の上にスパッタリング法を用いて、厚さ:6nmのMnIrからなる反強磁性層を形成し、径方向へ磁化容易軸を誘導させた。比較用に、試料番号1の試料に反強磁性層を設けない試料(試料番号2)も作製した。
【0037】
(スパイクノイズの有無の判定)
反強磁性層を形成させた後の試料番号1および反強磁性層を設けない試料番号2の試料について、オプティカル・サーフェス・アナライザを用いディスク状の軟磁性層の磁区構造を評価することにより、スパイクノイズの有無を判定した。結果を図4および図5に示す。図4は試料番号2の磁区構造を示したものであり、磁壁の生成を示す縞状模様が認められ、したがってスパイクノイズが発生する。一方、図5は試料番号1の磁区構造を示したものであり、磁壁の生成を示す縞状模様16が認められず、スパイクノイズは発生しない。
【0038】
(下地層および垂直磁気記録層の形成)
次いで試料番号1の試料の反強磁性層の上にスパッタ法を用いて、下地層として厚さ20nmを有するRu層を形成させた後、この下地Ru層の上に、Co(65重量%)−Cr(20重量%)−Pt(15重量%)の組成を有する厚さ:22nmのCo−Cr−Pt合金からなる垂直磁気記録層を形成した。
【0039】
(保護膜および潤滑膜の形成)
次いで垂直磁気記録層の上にスパッタ法を用いて、厚さ:7nmのカーボンからなる保護膜を形成し、次いで、浸漬法を用いて厚さ:2nmのパーフルオロポリエーテルからなる潤滑膜を形成した。以上のようにして本発明の垂直磁気記録媒体を作成した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の垂直磁気記録媒体は上記のように構成されており、軟磁性裏打ち層を湿式皮膜形成法である無電解めっき法により形成するので、乾式皮膜形成法あるスパッタリング法などに比べて簡便に短時間で厚い軟磁性裏打ち層を成膜できる。また、錯化剤としてアミノ酸イオンを含有しアンモニウムイオンを含有しないCo−Ni−P合金めっき浴を用いて軟磁性裏打ち層を形成するので、めっき析出速度を低下させることなく、安定して高生産性を維持して軟磁性皮膜を形成させることができる。さらに、スパッタリング法によるコラム状に成長する結晶質軟磁性裏打ち層に比べ、高生産性でスパイクノイズが低減した垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の実施例の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の垂直磁気記録媒体に用いる基板の一例を示す、概略断面図である。
【図3】本発明のグリシンを含みアンモニウムオンを含まないめっき浴(グリシン浴)を用いて連続めっきした場合と、比較用のグリシンを含まずアンモニウムイオンを含むめっき浴(アンモニア浴)を用いて連続めっきした場合の、連続めっきの経時変化によるめっき析出速度の影響を示すラフ。
【図4】比較用の反強磁性層を形成させない場合の磁区構造を示す図である。
【図5】本発明の反強磁性層を形成させた場合の磁区構造を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
1a 基板(アルミニウム板)
1b 非晶質Ni−P合金めっき層
3 軟磁性裏打ち層
4 軟磁性バッファー層
4a Ni−Fe合金
4b Co−Fe合金
5 反強磁性層
6 下地層
7 垂直磁気記録層
8 保護膜
9 潤滑膜
10 垂直磁気記録媒体
15 反強磁性層を設けない試料
16 磁壁の生成を示す縞状模様
20 反強磁性層を形成させた後の試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性裏打ち層を介して垂直磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体であって、基板と無電解めっき法によって成膜するCo−Ni−P合金めっきからなる前記軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に成膜してなる反強磁性層と、該反強磁性層上にスパッタ法を用いて成膜してなる下地層と、該下地層上にスパッタ法を用いて成膜してなる垂直磁気記録層とを備えてなる垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記Co−Ni−P合金めっきからなる軟磁性裏打ち層において、Co+Ni+Pの総和を100重量%とした場合に、Coの含有量が60〜73重量%、Niの含有量が20〜30重量%、Pの含有量が7〜13重量%である、請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記Co−Ni−P合金めっきが、アミノ酸イオンを含むめっき浴を用いた無電解めっきにより形成されてなる、請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記アミノ酸イオンは化合物がグリシンである、請求項3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記軟磁性裏打ち層は、研磨後の厚さが100〜1000nmであり、表面粗さRa(JIS B 0601)が0.5nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記軟磁性裏打ち層の飽和磁束密度が1.0T以上、保磁力が5Oe以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
アルミニウム基板に非晶質Ni−P合金めっき層を形成した基板またはガラス基板からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記軟磁性裏打ち層と反強磁性層との間に、軟磁性バッファー層を設けてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記軟磁性バッファー層が、下層のNi−Fe合金層と上層のCo−Fe合金層との2層からなる、請求項8に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体を用いてなる垂直磁気記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−66477(P2007−66477A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254376(P2005−254376)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】