説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板の状態によらずに処理液の消費量を抑制することができる基板処理方法および基板処理装置を提供する。
【解決手段】処理対象の基板Wは、スピンチャック1によって保持され、密閉可能な処理チャンバ12内に収容される。処理チャンバ12内の空間は、排気/吸気路13、三方弁14および排気路16を介して気体吸引機構17によって、減圧することができる。薬液ノズル2から基板Wに薬液を供給して薬液処理工程を行うときには、処理チャンバ12内は、減圧状態とされる。
【効果】減圧雰囲気中では、基板Wの処理液に対する濡れ性が良くなるので、基板Wの表面が疎水性表面であっても、少量の薬液でその表面全域を覆うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板に処理液(薬液または純水)を供給して当該基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体基板(半導体ウエハ)に対して処理液を用いた処理を施す基板処理装置が用いられる。基板を1枚ずつ処理する枚葉型の基板処理装置は、基板をほぼ水平に保持して回転するスピンチャックと、このスピンチャックに保持された基板に対して処理液(薬液または純水)を供給する処理液ノズルとを備えている。
基板を薬液で処理する場合、スピンチャックを回転させておく一方で処理液ノズルからの薬液の吐出を継続し、スピンチャック上で薬液の流れを形成しながら基板表面の処理を進行させる方法(連続吐出処理)が従来から行われてきた。また、他の方法として、スピンチャックを停止状態または極低速回転状態とする一方で処理液ノズルから基板表面に処理液を供給して当該表面に液盛りし、基板表面で液膜を保持した状態で処理を進める液盛り処理(パドル処理)が知られている。この方法を用いることで、薬液の消費量を少なくすることができる。
【特許文献1】特開2001−237214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、基板上に形成されるパターンの微細化およびデバイスの高性能化に伴って、基板上の膜に形成されるホール径の微細化や膜種の変更が提案され、かつ、実施されている。これに伴い、基板の表面(基板上に形成された薄膜の表面)が疎水状態となる場合がでてきている。
基板表面が疎水状態であると、処理液によって基板の全面を覆うことが難しくなり、これにより、処理の面内不均一を生じるおそれがある。
【0004】
そこで、連続吐出処理を行う場合には、処理液を大流量で基板上に連続供給することによって、基板の全面を覆うようにしているが、これに伴って、処理液の消費量が増加している。
また、液盛り処理を行う場合には、基板全面を覆う液膜が形成されるまで処理液を供給することになるが、そのために必要な処理液量が多くなっている。
【0005】
このように、従来技術では、疎水状態の基板の処理の際には処理液が大量に必要となり、このことが、基板処理コストを増加させている。
そこで、この発明の目的は、基板の状態によらずに処理液の消費量を抑制することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板保持機構(1)によって基板(W)を保持させる基板保持工程と、前記基板保持工程中に、前記基板保持機構によって保持されている基板に処理液を供給する処理液供給工程と、この処理液供給工程中に、前記基板保持機構によって保持されている基板を含む空間を大気圧よりも低い所定気圧以下の減圧状態に保持する減圧工程とを含むことを特徴とする基板処理方法である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0007】
この方法によれば、基板保持機構によって保持されている基板に処理液を供給するとき、この基板を含む空間が大気圧よりも低い所定気圧以下(たとえば930hPa以下。より好ましくは、500hPa以下。さらに好ましくは300hPa以下。最も好ましくは30hPa以下の真空域)に減圧される。本件発明者が検証したところ、前記所定気圧以下の減圧空間内では、基板に対する処理液の見かけ上の接触角が減少し、基板表面が疎水性表面である場合であっても、処理液は、基板表面に対して良好な濡れ性を示す。この発明は、このような知見に基づき、減圧環境下で基板に処理液を供給することにより、基板表面がたとえ疎水性表面である場合であっても、少量の処理液で基板表面の全域を覆うことを可能としている。その結果、基板の状態によらずに処理液の消費量を抑制することができる。
【0008】
さらに、処理液の使用量が減少することにより、基板処理のコストを低減することができる。また、基板に供給された処理液を回収して再利用する場合においては、大気に晒される処理液の量が減少することになるので、処理液の寿命を長くすることができ、やはり、結果として、処理液の使用量が減少する。これにより、コストダウンを見込むことができる。
【0009】
さらにまた、処理液の使用量が減少することによって、処理液から生じるミストを低減することができる。これにより、ミストが基板の表面に再付着することによる欠陥を低減または防止することができる。
さらにまた、処理液に対する基板の濡れ性が向上されることによって、基板上に形成された微細なパターンの間や微細なホール内にも処理液を行き渡らせることができる。これによって、基板表面をくまなく処理液によって処理することができ、たとえば、処理液による基板表面の洗浄を行う場合には、洗浄効率の向上を見込むことができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記処理液は、薬液または純水を含むことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法である。
前記のような減圧環境下では、基板表面がたとえ疎水性表面である場合でも、この基板表面は、薬液および純水のいずれに対しても良好な濡れ性を示す。したがって、処理液が薬液または純水のいずれを含む場合でも、前述のような効果を得ることができる。
【0011】
特に、薬液および純水の両方を処理液として用いる場合に、まず基板表面に薬液を供給して薬液処理工程を行い、その後に、薬液の供給を停止し、代わって基板表面に純水を供給する純水供給工程を行うことができる。この場合、純水の供給により、基板上の薬液を純水に置換するリンス工程が行われることになるが、基板が純水に対して良好な濡れ性を示すことにより、少量の純水によって、基板表面の全域を洗浄することが可能になる。むろん、洗浄用の純水は、基板上の微小なパターン間や微小なホール内にも入り込むから、優れたリンス効率を得ることができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、前記基板保持機構によって基板を水平に保持し、この水平保持された基板の表面に処理液を液盛りして当該処理液の液膜を保持し、この液膜を形成する処理液によって基板の表面を処理する液盛り工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の基板処理方法である。
この方法では、基板が水平に保持され、この基板の表面に処理液が液盛りされる。このような液盛り処理が、前記所定気圧以下の減圧空間内で行われることにより、少量の処理液を基板上に供給すれば、この処理液によって基板表面の全域を覆う液膜を容易に形成することができる。こうして、液盛り処理に要する処理液の量を減少することができるから、基板処理のコストを低減することができる。また、使用後の処理液を回収して再利用する場合においても、大気に晒される処理液の量を減少することができることから、処理液寿命の延命を図ることができ、これによってもコストダウンを実現することができる。
【0013】
なお、前記基板保持機構として基板保持回転機構を用いる場合に、前記液盛り工程においては、基板保持回転機構による基板の回転を停止してもよいし、この基板保持回転機構によって前記液膜が破れない程度の低速回転状態で基板を回転させることとしてもよい。
請求項4記載の発明は、前記基板保持機構は、基板を保持して回転させることができる基板保持回転機構であり、前記処理液による処理の後に前記減圧工程と並行して行われ、前記基板保持回転機構によって基板を回転させて当該基板表面の処理液を排除する乾燥工程をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0014】
この方法では、基板を回転させて、遠心力によって当該基板表面の処理液を排除する乾燥工程においても、当該基板が前記所定気圧以下の減圧雰囲気中に置かれることになる。これにより、酸素濃度が低減された雰囲気中で乾燥工程が行われるから、基板表面における、いわゆるウォーターマークの発生を抑制または防止することができ、良好な乾燥処理を実現することができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記基板保持機構は、密閉可能な処理チャンバ(12)内に収容されており、前記減圧工程は、前記処理チャンバを密閉状態とし、この処理チャンバの内部空間を排気して減圧する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法である。
この方法では、処理チャンバを密閉状態とするとともに、この処理チャンバの内部空間を排気することによって、基板保持機構によって保持されている基板を含む空間を前記所定気圧以下に減圧することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、前記基板保持機構は、基板の一方表面に対向するベース部材(25)を含み、前記減圧工程は、前記ベース部材に前記基板の他方表面側から蓋部材(51)を密接させることにより、前記ベース部材および蓋部材によって密閉された密閉空間(50)内に前記基板を収容する工程と、前記密閉空間を排気して減圧する工程とを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法である。
【0017】
この方法では、基板保持機構に備えられたベース部材とこれに密接する蓋部材とにより、基板を取り囲む密閉空間を形成することができ、この密閉空間を前記所定気圧以下に減圧するようにしている。これにより、減圧が必要な空間の容積が小さくなるから、基板が置かれる空間の気圧の制御が容易になる。
請求項7記載の発明は、基板(W)を保持する基板保持機構(1)と、この基板保持機構に保持されている基板に処理液を供給する処理液供給機構(2〜9,58〜60)と、前記基板保持機構によって保持されている基板を含む空間を大気圧よりも低い所定気圧以下に減圧する減圧機構(13,16,17)とを含むことを特徴とする基板処理装置である。
【0018】
この構成により、前記所定気圧以下の減圧空間において、基板を処理液で処理することができる。その結果、基板表面に対する処理液の見かけ上の接触角が減少し、基板は処理液に対して良好な濡れ性を示す。これにより、基板表面がたとえ疎水性表面であったとしても、処理液による基板処理を良好に行うことができる。さらにまた、必要な処理液量を減少させることができるので、基板処理のコストを低減することができる。加えて、使用する処理液量が減少することにより、処理液から生じるミストを低減することができるので、このようなミストが基板の表面に再付着することを抑制または防止でき、基板処理の品質を向上できる。
【0019】
前記処理液供給機構は、前記処理液としての薬液を供給する薬液供給機構(2,4,5,6,58〜60)を含んでいてもよい。また、前記処理液供給機構は、前記処理液としての純水を供給する純水供給機構(3,7,8,9,58〜60)を含んでいてもよい。
前記基板保持機構は、当該基板保持機構を包囲して密閉可能な処理チャンバ内に収容されていてもよい。この場合に、前記減圧機構は、前記処理チャンバの内部空間を排気して前記所定気圧以下に減圧するものであってもよい。
【0020】
前記基板保持機構は、基板の一方表面に対向するベース部材(25)を含んでいてもよい。この場合に、前記基板の他方表面側から前記ベース部材に密接して、このベース部材と共に密閉空間(50)を形成し、この密閉空間内に基板を収容する蓋部材(51)がさらに設けられていることが好ましい。この構成の場合には、前記減圧機構は、前記ベース部材および蓋部材によって形成される密閉空間内を排気して前記所定気圧以下に減圧するものであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る基板処理装置の基本的な構成を示す図解図である。この基板処理装置は、基板を1枚ずつ処理する枚葉型の装置であり、1枚の基板Wをほぼ水平姿勢で保持して鉛直軸線まわりに回転させるスピンチャック1を備えている。さらに、この基板処理装置は、スピンチャック1に保持された基板Wの表面の回転中心付近に向けて処理液としての薬液を供給する薬液ノズル2と、スピンチャック1に保持された基板Wの上面の回転中心付近に向けて処理液としての純水(脱イオン水)を供給する純水ノズル3とを備えている。薬液ノズル2には、薬液供給源4からの薬液が、薬液供給路5を介して供給されており、この薬液供給路5には、薬液の供給/停止を切り換える薬液バルブ6が介装されている。同様に、純水ノズル3には、純水供給源7からの純水が純水供給路8を介して供給されていて、この純水供給路8には純水の供給/停止を切り換える純水バルブ9が介装されている。
【0022】
スピンチャック1は、液処理時に周囲に飛び散る処理液を受け止める処理カップ11内に収容されている。さらに、この処理カップ11は、基板Wを出し入れするための開閉可能な基板搬入/搬出口(図示せず)を有するとともに、内部を密閉空間とすることができる処理チャンバ12内に収容されている。この処理チャンバ12の内部空間は、排気/給気路13を介して排気することができ、かつ、外部からの気体(窒素ガス等の不活性ガスやクリーンエアー)を導入することができる。より具体的には、排気/給気路13には、三方弁14が介装されており、この三方弁14は、排気/給気路13を気体導入路15と、排気路16とのいずれかに接続するように切り換えられる。気体導入路15は、当該基板処理装置が配置されるクリーンルーム内の空間と連通していて、当該クリーンルーム内のクリーンエアーを導入するようになっていてもよく、また、不活性ガス供給源やクリーンエアー供給源のような気体供給源に接続されていてもよい。排気路16は、真空ポンプ等の気体吸引機構17に接続されている。
【0023】
一方、処理カップ11の内部の雰囲気は、排気路20を介して下方から排気されるようになっている。これにより、処理カップ11内に、その上面の開口から雰囲気を取り込んでその下方に向かうダウンフローを形成することができ、処理カップ11内で生じた処理液のミストを含む雰囲気を排気路20を介して排気することができる。この排気路20は、当該基板処理装置が設置される工場の排気ユーティリティー等の排気設備21に接続されている。排気路20の入口部には、排気路20を開閉するためのダンパ等の開閉機構22が備えられている。
【0024】
スピンチャック1は、基板Wの下面に対向するほぼ円板状のスピンベース25と、このスピンベース25の上面に立設された複数本のチャックピン26と、スピンベース25をほぼ水平姿勢に支持する回転軸27と、この回転軸27に回転力を与える回転駆動機構(モータ)28とを備えている。回転軸27は、鉛直方向に沿って配置されており、その上端にスピンベース25がほぼ水平に固定されている。スピンベース25の上面に立設された複数本のチャックピン26は、基板Wの端面に当接することができ、この基板Wを挟持することができるようになっている。したがって、回転駆動機構28により回転軸27を鉛直軸線まわりに回転させると、基板Wは、水平姿勢を保持して、鉛直軸線まわりに回転されることになる。
【0025】
回転軸27は、この実施形態では、中空軸とされていて、その内部に下面処理液供給管30が挿通されている。この下面処理液供給管の上端は、スピンベース25を貫通して、基板Wの下面の回転中心に臨んでおり、この回転中心に向けて処理液を吐出する下面処理液ノズル31を形成している。下面処理液供給管30には、処理液としての純水が、純水供給源32から純水供給路33を介して供給されるようになっていて、この純水供給路33には純水の供給/停止を切り換える純水バルブ34が介装されている。
【0026】
薬液供給源4は、薬液を貯留する薬液タンク40と、この薬液タンク40から薬液を汲み出して薬液供給路5へと送出する薬液ポンプ41とを備えている。処理カップ11と薬液タンク40との間には、薬液回収路10が設けられていて、基板Wの処理のために使用された後の薬液は、この薬液回収路10を介して薬液タンク40に回収されて再利用可能とされている。
【0027】
図2は、前記基板処理装置の各部の制御のための構成を説明するためのブロック図である。この基板処理装置には、前述の各部の動作を制御するための制御装置45が備えられている。この制御装置45は、薬液バルブ6、純水バルブ9、三方弁14、気体吸引機構17、開閉機構22、回転駆動機構28、純水バルブ34および薬液ポンプ41の各動作を制御する。
【0028】
図3は、前記基板処理装置の動作を説明するためのフローチャートであり、基板処理工程の流れを示す基板処理フロー(図3A)と、処理対象の基板Wの雰囲気の気圧(環境圧)の変化を示す環境圧フロー(図3B)とが対比して表わされている。未処理の基板Wを搬入する基板搬入/搬出工程では、処理チャンバ12の基板搬入/搬出口が開かれ、処理チャンバ12内の気圧は大気圧(1030hPa)となる。このとき、制御装置45は、回転駆動機構28を停止状態とし、薬液バルブ6および純水バルブ9,34を閉状態に制御し、三方弁14は、気体導入路15側に接続するとともに、開閉機構22は開状態に制御する。薬液ポンプ41は、停止状態とされていてもよいが、薬液供給路5から薬液タンク40へと薬液を循環させる循環ラインが設けられている場合には、駆動状態に保持されていてもよい。
【0029】
この状態で、図示しない基板搬送ロボットにより、未処理の基板Wが搬入されてスピンチャック1に受け渡される。もしも、前に処理された処理済みの基板Wがスピンチャック1に保持されているときは、基板搬送ロボットは、まず処理済みの基板Wをスピンチャック1から受け取って処理チャンバ12外に排出した後に、未処理の基板Wを処理チャンバ12内のスピンチャック1に受け渡す。
【0030】
次に、薬液処理工程が行われる。このとき、制御装置45は、回転駆動機構28によって回転軸27を所定の薬液処理回転速度で回転させる。これにより、基板Wが薬液処理回転速度で回転状態となる。この状態で、制御装置45は、薬液バルブ6を開き、薬液供給路5からの薬液を、薬液ノズル2から基板Wの上面の中央に向けて吐出させる。これにより、基板Wの上面では、供給された薬液が遠心力を受けて回転中心から外方側へと広がり、基板Wの上面の全域を覆うことになる。
【0031】
制御装置45は、薬液バルブ6を開いて薬液を供給するのに先立ち、気体吸引機構17を作動させるとともに、三方弁14を排気路16側に接続する。それとともに、制御装置45は、開閉機構22を閉状態とする。処理チャンバ12は、基板Wを搬入した後は、基板搬入/搬出口を閉じて密閉状態とされる。これにより、処理チャンバ12内の空間は密閉空間を形成することになり、この密閉空間が、気体吸引機構17によって、排気/給気路13および三方弁14を介して排気されることになる。こうして、処理チャンバ12内の密閉空間は、930hPa以下の減圧状態とされる。より好ましくは、処理チャンバ12内の空間は、薬液処理工程中、500hPa以下、より好ましくは300hPa以下(さらに好ましくは30hPa以下の真空域)にまで減圧されて保持される。
【0032】
処理チャンバ12内の密閉空間をこのように減圧雰囲気としたうえで、薬液バルブ6を開いて、薬液ノズル2から基板Wの上面に薬液を供給すると、基板Wの表面が疎水性表面である場合であっても、この基板Wは、薬液に対する良好な濡れ性を示し、少量の薬液供給で、基板Wの上面全域が薬液で覆われた状態となる。こうして、所定時間にわたって薬液処理が行われる。
【0033】
薬液処理工程における基板Wの回転速度(スピンチャック1の回転速度)は、たとえば100〜1000rpm程度とされる。このような薬液処理回転速度で基板Wを回転しつつ薬液ノズル2から薬液を連続吐出すると、供給された薬液は、基板Wの上面において速やかに広がり、その周縁部から外方へと排除されていく。こうして、基板Wの上面の各部に次々と新たな薬液を供給しながら、基板Wの上面を効率的に処理することができる。基板Wの外方へと排除された薬液は、処理カップ11の内壁面によって受け止められ、薬液回収路10を通って薬液タンク40へと回収されていく。この回収された薬液は、再び薬液タンク40から薬液供給路5へと導かれて再利用されることになる。
【0034】
基板Wの表面の薬液に対する濡れ性が良好であるので、薬液の供給は少流量で行えばよい。これにより、基板W上において雰囲気と接触することになる薬液の量を少なくすることができるから、薬液の耐久寿命を長くすることができる。その結果、薬液の使用量が削減されるので、基板処理のコストを低減することができる。
また、薬液ノズル2から少流量で薬液を供給すれば足りるので、薬液から生じるミストが少なくなる。これにより、基板Wの表面へのミストの再付着による汚染を抑制できるから、基板処理の品質を向上することができる。
【0035】
さらには、基板Wの表面の薬液に対する濡れ性が良好であるため、基板Wの表面に微細なパターンやホールが形成されている場合でも、このようなパターンやホール内に薬液が良好に行き渡るので、効率的な薬液処理を行うことができる。
薬液処理工程は、いわゆる液盛り処理(パドル処理)によって行うこともできる。この場合には、制御装置45は、回転駆動機構28を制御し、スピンチャック1を回転停止状態に制御するか、または低速回転状態(たとえば、10〜50rpm以下)に制御する。この状態で、制御装置45は、薬液バルブ6を、基板Wの上面全域を覆う薬液の液膜を形成するのに必要な一定時間だけ開成する。これにより、水平姿勢の基板W上に薬液が液盛りされて、基板Wの上面の全域を覆う液膜が形成される。この間、スピンチャック1は、この液膜が破れない程度の前記低速回転状態または回転停止状態に保持される。制御装置45は、基板W上の薬液の液膜を保持するために、必要に応じて、間欠的に薬液バルブ6を開く制御を行ってもよいし、基板W上の液膜を保持するために必要な微少流量で薬液が供給されるように薬液バルブ6の開度を制御してもよい。この場合には、たとえば、薬液バルブ6として、流量調整機能付きのものを用いればよい。
【0036】
このような液盛り処理を行う場合においても、減圧雰囲気中に置かれた基板Wの表面は、薬液に対して見かけ上良好な濡れ性を有することができるので、基板Wの上面の全域を覆う液膜を形成するのに必要な薬液の量が低減される。これにより、薬液使用量を抑制して、基板処理のコストを低減することができる。
こうして薬液処理工程が終了すると、次に、基板W上の薬液を洗い流すためのリンス工程が行われる。このリンス工程では、制御装置45は、薬液バルブ6を閉状態に制御するとともに、純水バルブ9を開いて、純水ノズル3から基板W上に純水を吐出させる。さらに、制御装置45は、気体吸引機構17を停止状態とし、三方弁14を気体導入路15側に接続する。それとともに、制御装置45は、開閉機構22を開状態とする。したがって、リンス工程においては、気体導入路15および排気/給気路13を介して処理チャンバ12内に気体が導入されるので、処理チャンバ12の内部の気圧は大気圧となる。
【0037】
また、制御装置45は、回転駆動機構28を、制御して、スピンチャック1をリンス処理回転速度(たとえば300〜1000rpm)で回転させる。したがって、回転状態の基板Wの上面中央に向けて純水ノズル3から純水が供給されることにより、この純水は遠心力を受けて回転半径外方側へと広がり、基板Wの上面の薬液を純水に置換していく。
一方、制御装置45は、純水バルブ34を開き、下面処理液供給管30へと純水を供給し、下面処理液ノズル31から回転状態の基板Wの下面の回転中心に向けて純水を吐出させる。この純水は、遠心力により、基板Wの外方へと広がり、基板Wの下面の全域を覆うことになる。こうして、基板Wの下面側のリンス処理も行われる。
【0038】
このリンス工程に際しては、薬液回収路10にリンス処理に使用された純水が入り込まないように、図示しない排液案内部材によって、使用済みの純水が排液路18へと導かれる。
なお、リンス工程時においても、制御装置45による制御によって、三方弁14を排気路16側に接続し、気体吸引機構17を作動させるとともに、開閉機構22を閉状態として、処理チャンバ12内の雰囲気(基板Wが置かれた雰囲気)の気圧を930hPa以下(より好ましくは、500hPa以下、さらに好ましくは300hPa以下、最も好ましくは30hPa以下の真空域)の減圧雰囲気としてもよい。このようにすれば、基板Wは、たとえその表面が疎水状態であったとしても、純水ノズル3から供給される純水に対して、見かけ上良好な濡れ性を示す。その結果、少量の純水の供給で基板Wの表面のリンス処理を行うことができるので、基板処理のコストを低減することができる。さらに、純水の供給量の低減に伴って、ミストの発生量が少なくなるから、基板Wへのミストの再付着に起因する汚染を低減できる。それとともに、基板Wの表面に微細なパターンまたはホールが形成されている場合でも、純水がそれらの内部に達するから、効率的なリンス処理が可能になる。
【0039】
リンス工程の後には、基板Wの表面の水分を遠心力によって振り切り、この基板Wを乾燥させる乾燥工程が行われる。すなわち、制御装置45は、純水バルブ9を閉じて、純水ノズル3からの純水の供給を停止するとともに、回転駆動機構28を制御して、スピンチャック1の回転を所定の乾燥回転速度まで加速させる。この乾燥工程において、制御装置45は、三方弁14を気体導入路15側に接続し、気体吸引機構17を停止させ、開閉機構22を開状態とする。これにより、処理チャンバ12の内部空間は大気圧(1030hPa)となる。
【0040】
ただし、この乾燥工程においても、処理チャンバ12の内部を減圧雰囲気に制御してもよい。すなわち、制御装置45による制御によって、三方弁14を排気路16側に接続し、気体吸引機構17を作動させ、開閉機構22を閉状態としてもよい。これにより、処理チャンバ12の内部は、930hPa以下(より好ましくは、500hPa以下、さらに好ましくは300hPa以下、最も好ましくは30hPa以下の真空域)の減圧状態となる。これにより、酸素の少ない雰囲気中で基板Wの乾燥を行うことができるので、いわゆるウォーターマークの発生を抑制または防止することができる。
【0041】
乾燥工程の後には、処理チャンバ12の基板搬入/搬出口を開いて、上記の基板搬入/搬出工程からの処理が繰り返されることになる。むろん、次に処理すべき基板が存在しなければ、処理済みの基板Wの搬出のみが行われることになる。
図4は、この発明の第2の実施形態に係る基板処理装置の基本的な構成を示す図解図である。この図4において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、図1の場合と同一の参照符号を付して示す。この基板処理装置では、前述の第1の実施形態とは異なり、スピンチャック1および処理カップ11を収容する処理チャンバ12Aは密閉可能なものである必要がない。また、排気路20の入口部における開閉機構22も不要である。
【0042】
この実施形態の基板処理装置では、スピンチャック1に保持される基板Wを取り囲む小さな密閉空間50が形成されるようになっている。より具体的には、スピンチャック1の上方には、スピンベース25に近接/離反するように昇降可能な蓋部材51が設けられていて、この蓋部材51をスピンベース25の上面に密接させることにより、スピンチャック1に保持された基板Wを取り囲む密閉空間50が形成されるようになっている。
【0043】
蓋部材51は、スピンベース25に対向する下面を開放するとともに、上面を閉塞した扁平な中空円筒形状を有しており、その側壁の下端には、シール部材(Oリング)52が配置されている。このシール部材52を介して蓋部材51をスピンベース25の上面に押しつけることにより、気密な密閉空間50が形成されることになる。
蓋部材51は、スピンチャック1の回転軸27と同軸に配置された蓋部材回転軸53の下端に支持されており、この蓋部材回転軸53は、昇降駆動機構55によって昇降される支持アーム54に軸受56を介して回転自在に取り付けられている。昇降駆動機構55は、制御装置45によって制御されるようになっている(図2参照)。
【0044】
蓋部材回転軸53は中空軸とされており、その内部には、上面処理液供給管58が挿通されている。この上面処理液供給管58の下端は、蓋部材51の天面壁51aを貫通してスピンチャック1に保持された基板Wの上面の回転中心に対向する上面処理液ノズル60を形成している。この上面処理液ノズル60と天面壁51aの貫通孔の内壁面との間にはシール部材(Oリング)61が配置されており、これにより、密閉空間50の気密性が確保されている。
【0045】
上面処理液供給管58には、処理液供給路59が接続されており、この処理液供給路59に、薬液バルブ6からの薬液および純水バルブ9からの純水を供給できるようになっている。
一方、基板Wの下面側には処理液供給路は設けられておらず、中空の回転軸27の内部空間は、スピンベース25の中央の開口を介して密閉空間50と連通していて、排気/吸気路63として利用される。この回転軸27の下端には、排気/吸気路63と連通する排気/給気路13が接続されている。
【0046】
基板処理フローおよび環境圧フローは、前述の第1の実施形態の場合と同様に、図3Aおよび図3Bに示すとおりとなる。
すなわち、未処理の基板Wを搬入したり、処理済みの基板Wを搬出したりする基板搬入/搬出工程では、制御装置45(図2参照)は、昇降駆動機構55を制御し、蓋部材51をスピンベース25の上方に離間した退避位置に配置させる。したがって、基板Wは大気圧雰囲気中に置かれる。
【0047】
薬液処理工程では、制御装置45は、昇降駆動機構55を制御し、蓋部材51をスピンベース25の上面に密接させる。これにより、スピンベース25と蓋部材51との間に密閉空間50が形成される。この状態で、制御装置45は、気体吸引機構17を作動させるとともに、三方弁14を排気路16側に接続する。これにより、密閉空間50は排気/給気路63,13を介して排気され、その内部は、930hPa以下(より好ましくは、500hPa以下、さらに好ましくは300hPa以下、最も好ましくは30hPa以下の真空域)の減圧雰囲気とされる。
【0048】
このような状態で、制御装置45は、薬液バルブ6を開く。これにより、上面処理液ノズル60から基板Wの上面の中央に向けて薬液が供給されることになる。この実施形態では、基板Wの上面に薬液を液盛りして液膜を形成し、この液膜を構成する薬液によって基板Wの表面の処理を行う液盛り処理(パドル処理)が行われる。したがって、制御装置45は、一定時間にわたって薬液を供給し、基板Wの上面全域を覆う液膜が形成された後には、薬液バルブ6を閉じる。むろん、前述の第1の実施形態の場合と同様に、制御装置45は、基板W上の液膜を保持するために、必要に応じて薬液バルブ6を間欠的に開いたり、微少流量での薬液の供給を継続したりしてもよい。
【0049】
制御装置45はまた、回転駆動機構28を制御し、スピンチャック1の回転を停止させるか、液膜が破壊されることのない低回転速度(たとえば、10〜50rpm)でスピンチャック1の回転を継続させる。このとき、スピンチャック1とともに、蓋部材51および蓋部材回転軸53も回転し、密閉空間50の気密状態が保持される。
リンス工程では、制御装置45は、昇降駆動機構55を制御し、蓋部材51をスピンベース25の上方に離間した退避位置に導く。したがって、基板Wは大気圧雰囲気中に置かれる。この状態で、制御装置45は、薬液バルブ6を閉じ、純水バルブ9を開く。これによって、上面処理液ノズル60からスピンチャック1に保持された基板Wの上面中央に向けて純水が供給される。一方、制御装置45は、スピンチャック1をリンス処理回転速度で回転させる。このようにして、基板Wの表面の薬液が純水に置換されていくことになる。また、制御装置は、気体吸引機構17を停止させるとともに、三方弁14を気体導入路15側に接続する。
【0050】
乾燥工程では、制御装置45は、蓋部材51をスピンベース25の上方に離間した退避位置に保持する。したがって、基板Wは、大気圧雰囲気中に置かれる。そして制御装置45は、スピンチャック1の回転速度を乾燥回転速度まで加速させる。これにより、基板Wの表面の液成分が遠心力によって振り切られることになる。
この実施形態によれば、薬液処理工程では、基板Wが減圧された密閉空間50内に置かれることになる。したがって、基板Wの表面が疎水性表面であったとしても、この基板Wの表面は薬液に対する良好な濡れ性を示す。その結果、少量の薬液を供給すれば、基板Wの上面全域を覆う液膜を形成することができる。これにより、薬液の使用量を少なくすることができるから、基板処理のコストを低減することができる。それとともに、基板Wの表面の薬液に対する濡れ性が改善される結果、基板Wの表面に形成された微細なパターンおよびホールの内部にまで薬液を行き渡らせることができるので、良好な薬液処理が可能になる。
【0051】
以上、この発明の2つの実施形態について説明したが、この発明は他の実施形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、基板処理のために使用した薬液を回収して再利用するようにしているが、使用済みの薬液を使い捨てにする構成の基板処理装置にもこの発明を適用することができる。この場合にも、薬液消費量を低減して、基板処理のコストを低減できる。その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る基板処理装置の基本的な構成を示す図解図である。
【図2】前記基板処理装置の各部の制御のための構成を説明するためのブロック図である。
【図3】前記基板処理装置の動作を説明するためのフローチャートであり、基板処理工程の流れを示す基板処理フロー(図3A)と、処理対象の基板Wの雰囲気の気圧(環境圧)の変化を示す環境圧フロー(図3B)とが対比して表わされている。
【図4】この発明の第2の実施形態に係る基板処理装置の基本的な構成を示す図解図である。
【符号の説明】
【0053】
1 スピンチャック
2 薬液ノズル
3 純水ノズル
4 薬液供給源
5 薬液供給路
6 薬液バルブ
7 純水供給源
8 純水供給路
9 純水バルブ
10 薬液回収路
11 処理カップ
12 処理チャンバ
12A 処理チャンバ
13 排気/給気路
14 三方弁
15 気体導入路
16 排気路
17 気体吸引機構
18 排液路
20 排気路
21 排気設備
22 開閉機構
25 スピンベース
26 チャックピン
27 回転軸
28 回転駆動機構
30 下面処理液供給管
31 下面処理液ノズル
32 純水供給源
33 純水供給路
34 純水バルブ
40 薬液タンク
41 薬液ポンプ
45 制御装置
50 密閉空間
51 蓋部材
51a 天面壁
52 シール部材
53 蓋部材回転軸
54 支持アーム
55 昇降駆動機構
56 軸受
58 上面処理液供給管
59 処理液供給路
60 上面処理液ノズル
63 排気/給気路
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持機構によって基板を保持させる基板保持工程と、
前記基板保持工程中に、前記基板保持機構によって保持されている基板に処理液を供給する処理液供給工程と、
この処理液供給工程中に、前記基板保持機構によって保持されている基板を含む空間を大気圧よりも低い所定気圧以下の減圧状態に保持する減圧工程とを含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記処理液は、薬液または純水を含むことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記基板保持機構によって基板を水平に保持し、この水平保持された基板の表面に処理液を液盛りして当該処理液の液膜を保持し、この液膜を形成する処理液によって基板の表面を処理する液盛り工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記基板保持機構は、基板を保持して回転させることができる基板保持回転機構であり、
前記処理液による処理の後に前記減圧工程と並行して行われ、前記基板保持回転機構によって基板を回転させて当該基板表面の処理液を排除する乾燥工程をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記基板保持機構は、密閉可能な処理チャンバ内に収容されており、
前記減圧工程は、前記処理チャンバを密閉状態とし、この処理チャンバの内部空間を排気して減圧する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板保持機構は、基板の一方表面に対向するベース部材を含み、
前記減圧工程は、前記ベース部材に前記基板の他方表面側から蓋部材を密接させることにより、前記ベース部材および蓋部材によって密閉された密閉空間内に前記基板を収容する工程と、前記密閉空間を排気して減圧する工程とを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項7】
基板を保持する基板保持機構と、
この基板保持機構に保持されている基板に処理液を供給する処理液供給機構と、
前記基板保持機構によって保持されている基板を含む空間を大気圧よりも低い所定気圧以下に減圧する減圧機構とを含むことを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−278955(P2006−278955A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99366(P2005−99366)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】