説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】水平搬送方式の基板処理装置において、低濃度薬液の滞留によるエッチング速度の低下を抑えることのできる基板処理装置を得ること。
【解決手段】基板処理装置1は、基板106の表面処理を行う薬液102を収容する薬液槽101と、薬液槽101内に回転自在に設けられて基板106を搬送する複数の搬送ローラー103と、搬送ローラーの間に設けられて、薬液槽101に収容された薬液102を攪拌する攪拌手段107と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面を湿式エッチングするための装置およびその処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池の製造工程には、基板表面を薬液処理する、いわゆる湿式エッチング工程がいくつか存在する。主なものは、基板スライス時のダメージを除去するためのダメージエッチ工程、光閉じ込めのための凹凸構造すなわちテクスチャ構造を形成するためのテクスチャエッチ工程、基板表裏に形成されたpn接合のうち、裏面のpn接合を除去するためのpn分離エッチング工程などがある。
【0003】
一般的なエッチングの方法としては、基板ホルダに複数枚の基板を装着し、薬液を満たした薬液槽にホルダごと浸漬して、基板表裏面をエッチング液に接触させる方法がある。基板同士を2mm程度の空隙を設けて、面同士を対向させる配置でホルダに装着し、薬液液面に対して基板面を直交させた状態で浸漬するのが一般的である。以下、この方法を浸漬方式と呼ぶ。
【0004】
浸漬方式では、多数の基板を同時に処理できることが利点であるが、以下に示す課題がある。すなわち、ホルダと接触する基板部分でのエッチングむらが発生する。この部分では薬液の入れ替わりが周囲とは異なるため、その部分のエッチング進行が他の部分と異なりエッチングむらを生ずる。
【0005】
別の課題として、基板上部と下部でのエッチング量の差が挙げられる。シリコン基板をエッチングする際のエッチング液としてNaOHやKOH等のアルカリ水溶液、またはフッ酸硝酸混合液等を使用する場合、反応に応じて気泡が発生する。基板を立てて浸漬すると、基板間の空隙の下部よりも上部のほうの気泡密度が高くなり、エッチング速度が落ちる。このようにして基板上下でエッチングむらが発生する。
【0006】
また、pn分離エッチングでは、裏面のみをエッチングする必要があるが、浸漬方式では、エッチング液は基板表裏に接触するため、表裏ともエッチングされてしまう。これを防止するためには、エッチングを阻止するマスクの表面側への形成が必要となる。
【0007】
以上の課題を解決するために、例えば特許文献1では、薬液を満たした薬液槽の液面近くに略等間隔に基板搬送ローラーを配置し、その上に基板を転がしながら搬送する装置が提案されている。以下、この方式を水平搬送方式と呼ぶ。水平搬送方式は、基板下部が薬液へ接触するよう液面を上昇させているため、表面にはエッチング液が接触しにくい。したがって、pn分離エッチングのように裏面のみをエッチングする必要がある場合に好適である。また水平搬送方式において、液面を基板よりも上部まで上昇させれば、基板表裏ともにエッチングすることが可能である。反応により発生した気泡は、基板上部では液面に向かって浮上し、基板下部では基板搬送ローラーと基板との接触部に導かれて基板外へ排出される。このため、気泡によるエッチングむらは低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−196784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エッチングに用いられる薬液は、基板と反応することでエッチングに寄与する成分の濃度が低下する。以下、エッチングに寄与する成分の濃度が低下した薬液を低濃度薬液といい、エッチングに寄与する成分が低下する前の薬液を高濃度薬液という。水平搬送方式では、基板搬送ローラーと基板とに囲まれた領域に薬液が滞留しやすく、薬液の入れ替えがなされにくい。そのため、エッチングで生じた低濃度薬液が基板搬送ローラーと基板とに囲まれた基板表面付近の領域に滞留し、エッチングの進行にしたがってエッチング速度が低下していくという問題があった。特に、薬液としてHF/HNO3を用いた場合には、基板との反応により薬液の温度が上昇するため、基板搬送ローラーと基板とに囲まれた基板表面付近の領域に、低濃度薬液が滞留しやすいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、水平搬送方式の基板処理装置において、低濃度薬液の滞留によるエッチング速度の低下を抑えることのできる基板処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、基板の表面処理を行う薬液を収容する薬液槽と、薬液槽内に回転自在に設けられて基板を搬送する複数の搬送ローラーと、搬送ローラーの間に設けられて、薬液槽に収容された薬液を攪拌する攪拌手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、攪拌手段により薬液を攪拌することで、低濃度薬液と高濃度薬液との入れ替えを促進して、エッチング速度の低下を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る基板処理装置の断面構造を示す模式図である。
【図2】図2は、薬液槽部分の平面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2に係る基板処理装置の薬液槽部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる基板処理装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る基板処理装置1の断面構造を示す模式図である。薬液槽101には薬液102が満たされている。薬液槽エッジ118からあふれた薬液102はオーバーフロー槽108内にこぼれ落ち、こぼれ落ちた薬液102はドレンライン115を経由して、バッファータンク113へ注入される。バッファータンク113内の薬液102は、循環ポンプ114により循環ライン116を経由して再び薬液槽101へ注入される。循環ライン116からの薬液流れが薬液槽101の薬液面に波立ちを発生させないように整流板117が設けられている。
【0016】
薬液槽101の外側と内側に、複数の搬送ローラー103が回転自在に設けられている。搬送ローラー103は、互いの回転軸が平行かつ略水平な直線に並列されて配置されている。搬送ローラー103を回転させることで、搬送ローラー103上の基板106を搬送することができる。基板106が基板搬送方向105に沿って搬送される間に、基板下面が薬液に接触することで、エッチング処理がなされる。
【0017】
このとき、搬送ローラー103と薬液液面の位置関係を調整すれば、基板下面のみに薬液102を接触させることができ、基板下面のみのエッチング処理が可能となる。具体的には、基板106が載置されない場合の薬液液面から、搬送ローラー103が2mmの高さまで突出する位置関係とする。基板106が搬送ローラー103に載置されると、表面張力によって基板下部まで薬液が持ち上がり、基板下部のみに薬液を接触させることができる。また、基板106に下向きにかかる表面張力は、基板106を搬送ローラー103に押し付ける力に加算され、基板106と搬送ローラー103の間の摩擦力の増大に繋がり、搬送の駆動力を基板106に伝える力の増大に寄与する。
【0018】
薬液槽101中の搬送ローラー103同士の間には攪拌手段としての攪拌羽根107が回転可能に設けられている。攪拌羽根107は、搬送ローラー103上を搬送される基板106に触れない位置に配置されている。攪拌羽根107は、4枚の羽根を備えた十字型の断面形状を呈している。攪拌羽根107は、回転することで、基板106近傍の薬液102、特に基板106と搬送ローラー103とに囲まれた領域の薬液102を攪拌する。
【0019】
図2は、薬液槽部分の平面図である。搬送ローラー103から延びる搬送ローラー用軸205、および攪拌羽根107から延びる攪拌羽根用軸206は、薬液槽101の外側に設けられた軸受け204により固定されており、軸周りの回転動作が可能となっている。
【0020】
搬送ローラー用軸205の一端には搬送ローラー用ヘリカルギア202が同軸に配されており、駆動軸201の回転が搬送ローラー用軸205に伝播し、搬送ローラー103が回転する。搬送ローラー103が回転することで、搬送ローラー103上に載置された基板106が基板搬送方向105に搬送される。
【0021】
同様に、攪拌羽根用軸206の一端に攪拌羽根用ヘリカルギア203が同軸に配されており、駆動軸201の回転が攪拌羽根用軸206に伝播して、攪拌羽根107が薬液102中で回転する。攪拌羽根107が回転することで、薬液102が攪拌される。したがって、駆動軸201を回転させるだけで、基板106の運搬と薬液102の攪拌とを同時に行うことができる。また、図示するように、攪拌羽根用ヘリカルギア203の直径を、搬送ローラー用ヘリカルギア202の直径より小さくすることで、攪拌羽根107の回転速度を搬送ローラー103の回転速度よりも速くすることができ、攪拌能力の向上を図ることができる。
【0022】
図1に戻って、薬液槽101を通過した基板106の表面には薬液102が付着しているが、上下に配置されたエアナイフ109から噴出されるエアにより薬液102がふるい落とされて、オーバーフロー槽108内に落ちる。この構造により、付着した薬液102による基板106表面の変質が防止できる。また、リンス槽111への薬液102の持込みを防止することができる。
【0023】
リンス槽111まで到達した基板106は、上下に配置されたリンスシャワーノズル110から噴出されるリンス液112により十分洗浄される。リンス槽111にはリンス液112が周囲に飛散しないよう上部カバーが設けられている。基板106を洗浄したリンス液112は、下部リンス槽で受けられ、槽外へ排出される。リンス工程を経た基板106は、乾燥槽120に運搬され、上下に配された乾燥用エアナイフ119から噴出されるエアにより十分乾燥される。
【0024】
以上説明したように、搬送ローラー103の間に設けられた攪拌羽根107を回転させることで、搬送ローラー103と基板106とに囲まれた領域の薬液102を攪拌することができるので、低濃度薬液と高濃度薬液の入れ替えが行われやすくなり、エッチング速度の低下を抑えることができる。
【0025】
なお、攪拌羽根107は、断面形状が十字型のものに限られず、羽根数が増加しても減少してもよい。また、羽根に角度がついていてもよい。また、本実施の形態1では、液面が基板下面に接する位置にある場合を例示したが、基板106より上に液面を位置させて、基板106の両面を処理するように構成してもよい。この構成の場合も、攪拌羽根107によってエッチング速度の低下を抑える効果を得ることができる。
【0026】
また、攪拌羽根107が設けられる位置は、搬送ローラー103の間に限られない。攪拌羽根107の回転により、搬送ローラー103と基板106とに囲まれた領域の薬液102を流動させることができる位置であればよく、例えば、図1に示した位置よりも下方に位置させても構わない。攪拌羽根107の回転により、高濃度薬液が搬送ローラー103と基板106とに囲まれた領域に送り込まれてエッチング速度の低下を抑えることができる。
【0027】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る基板処理装置の薬液槽部分の平面図である。実施の形態1と同様の構成については、同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施の形態2では、搬送ローラー103とは独立して攪拌羽根107を回転駆動させる攪拌駆動手段として、攪拌羽根用駆動軸301を備えることを特徴とする。図3に示すように、搬送ローラー103を駆動するための駆動軸201とは別に、攪拌羽根107を駆動するための攪拌羽根用駆動軸301を備える。攪拌羽根用駆動軸301は、薬液槽101を挟んだ駆動軸201の反対側に設けられる。
【0028】
攪拌羽根用ヘリカルギア203は、搬送ローラー用ヘリカルギア202と異なる一端に配され、攪拌羽根用駆動軸301に接続される。これにより、搬送ローラー103と攪拌羽根107を搬送ローラー103から独立して回転させることが可能となる。この場合、攪拌羽根107の回転速度を、搬送ローラー103の回転速度に関係なく定めることができる。また、搬送ローラー103の回転速度に関係なく攪拌羽根107の回転速度を適宜変更することも可能である。
【0029】
薬液102としてフッ酸硝酸混合液を用いてシリコン基板をエッチングする場合、フッ酸硝酸混合液とシリコンとの反応速度が十分速いため、基板近傍での高濃度薬液と低濃度薬液との入れ替えがエッチング速度に大きく影響する。例えば、50%フッ酸と69%硝酸とを、体積比で1:10の比率で薬液槽101に投入して薬液102を構成し、シリコン基板をエッチングする際に、攪拌羽根107の回転速度によってエッチング速度を変化させることができる。すなわち、攪拌羽根107の回転速度を変化させることで、基板106のエッチング速度も変化させることができる。なお、上述したフッ酸硝酸混合液やシリコン基板は、薬液102や基板106の一例を示したに過ぎず、他の種類の薬液や基板を用いてももちろん構わない。
【0030】
本実施の形態2では、搬送ローラー103の回転速度に関係なく攪拌羽根107の回転速度を制御することができるので、攪拌羽根107の回転速度を変化させることで基板106のエッチング速度を制御することができる。したがって、攪拌羽根107の回転速度を調整することで、薬液の温度の変化や薬液の液寿命によるエッチング速度の変動を抑制して、安定したエッチング速度でのエッチング処理を行うことができる。これにより、基板処理装置によって表面処理された基板の品質の安定化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明にかかる基板処理装置は、基板の表面処理に有用であり、特に、エッチング処理に適している。
【符号の説明】
【0032】
1 基板処理装置
101 薬液槽
102 薬液
103 搬送ローラー
105 基板搬送方向
106 基板
107 攪拌羽根
108 オーバーフロー槽
109 エアナイフ
110 リンスシャワーノズル
111 リンス槽
112 リンス液
113 バッファータンク
114 循環ポンプ
115 ドレンライン
116 循環ライン
117 整流板
118 薬液槽エッジ
119 乾燥用エアナイフ
120 乾燥槽
201 駆動軸
202 搬送ローラー用ヘリカルギア
203 攪拌羽根用ヘリカルギア
204 軸受け
205 搬送ローラー用軸
206 攪拌羽根用軸
301 攪拌羽根用駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面処理を行う薬液を収容する薬液槽と、
前記薬液槽内に回転自在に設けられて前記基板を搬送する複数の搬送ローラーと、
前記搬送ローラーの間に設けられて、前記薬液槽に収容された薬液を攪拌する攪拌手段と、を有することを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記攪拌手段は、前記搬送ローラーの回転軸と略平行な軸周りに回転自在に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記攪拌手段を前記搬送ローラーから独立して駆動させる攪拌駆動手段をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
基板の表面処理を行う薬液槽内に回転自在に設けられた複数の搬送ローラーを回転させて基板を搬送し、
前記薬液槽内であって、前記搬送ローラーの間に設けられた攪拌手段を駆動させて薬液を攪拌することを特徴とする基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−82359(P2011−82359A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233692(P2009−233692)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 未来型超薄型多結晶シリコン太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】