堆積物中の結晶の統合的分析方法
原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出し、試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法と、試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析との少なくとも1つを行うことをも含む、原子力発電所の伝熱面の表面上の堆積物中の結晶を分析する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積物形成の同定に関する。より詳細には、本発明は、発電所において直面する、原子力蒸気発生器の中等の構成要素上、および核燃料上の堆積物中の結晶を、総合的に特性評価するための統合的方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の操業中に、様々な物質が、原子力一次系の伝熱面に堆積し、それにより、伝熱面の変化を引き起こす。ほとんどの場合において、物質は伝熱面上に積もり、それにより、伝熱面と一次系の冷却材との間に隔離作用をもたらす。いくつかの場合においては、伝熱面に堆積した物質は、局所的な腐食、および/またはこの面の点食を引き起こすことがある。
【0003】
原子力発電システムの操業者は、伝熱面上の堆積物の量を最少化して、それにより、制御された条件下で、反応炉系から可能な最善の性能を引き出すことができるように試みている。伝熱面上の物質の堆積は、時間と共に、原子力反応炉の総体的な経済的操業可能性に影響を及ぼすことがある。原子力発電所の経済的実行可能性を増大させるためには、伝熱面上に堆積する物質の正確な性質を確認することと共に、これらの堆積物の原因を明らかにすることが望まれる。
【0004】
現在、原子力蒸気発生器の堆積物または他の放射性結晶の構造等の堆積物を、設備の表面における凹凸の中でのそれらの「発見時の」状態で研究する、系統的で明確な取組み法はない。チョークリバー未確認堆積物(CRUD)、原子力蒸気発生器の堆積物、または他の放射性堆積物等の物質に関する情報を最大限得るために、分析電子顕微鏡および/または試料調製における様々な電子顕微鏡法を組合せ、発見された設備の表面における凹凸の中に位置する堆積物の純粋な部分について、それらの「発見時の」状態で、これらの堆積物の成分を測定する方法は知られていない。
【0005】
そのため、原子力蒸気発生器の堆積物、およびCRUD等の堆積物を研究する総合的な方法を発達させ、堆積物の結晶構造を測定する必要がある。
【0006】
経済的で安全な方法で、これらの堆積物の研究を可能にする方法がさらに求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、本発明の目的は、原子力蒸気発生器の堆積物、または燃料のCRUD等の堆積物を総合的に研究し、堆積物の結晶構造を測定する統合的方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、経済的で安全な方法で、これらの堆積物を研究する方法を提供することにもある。
【0009】
本発明の他の目的は、マルチイメージングモードを利用した、高解像度の分析走査および分析透過の他に、選択領域の電子線回折、およびエネルギー分散型X線分光法を含む、電子顕微鏡(EM)法の適合および他に類を見ない組合せである。これらの方法は、主にCRUDおよび蒸気発生器縁部の堆積物の中に見出される結晶をそれらの「発見時」の状態でより良好に分析するように組み合わせることができ、標準結晶からの選択した電子顕微鏡法信号を、対象領域からの信号および同一の放射性条件下で、設備の表面における凹凸の中に位置する堆積物の純粋な部分の信号と比較する。これらの方法は、凹凸の中における結晶成長現象をより良く理解するために、モルフォロジー的および分析的な特性評価の結果を、粉末回折結晶データベースと結びつける。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願によれば、10から50ミクロン大(マクロ構造分析)から、0.1から10ミクロン(ミクロ構造分析)、0.02から400ナノメートル(ナノ構造分析)に至るまで、異なるスケールの範囲について、主に原子力蒸気発生器および核燃料の中に堆積するCRUD薄片に対し、堆積物中の結晶の特性を評価するための方針案を提供する。
【0011】
本発明は、原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出することと、この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびにこの試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析のいずれか1つを行うことと、次いで、この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うことと、次いで、この試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の後に、内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の少なくとも1つを行うこととを含む、原子力発電所の伝熱面の表面上における堆積物中の結晶を分析する方法を提供する。3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つの後に、電子ビーム-試料相互作用のモンテカルロシミュレーションを行う。この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、化学組成の定量、ならびにモンテカルロシミュレーションの結果を、構造データベース内に記憶させる。内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の結果を、結晶データシステム内に記憶させる。
【0012】
この方法を、モンテカルロシミュレーションが、特定の操業条件下で予想される試料の挙動を予測するように行うこともできる。
【0013】
原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出するステップが、濾紙上に置かれたTEMグリッドの上に直接CRUD試料を集めることと、この試料の上に標準的なカーボン支持フィルムの試料を置き、この物質試料の薄片の表面からいくつかの結晶を除去することとの1つを含むように、この方法を行うこともできる。
【0014】
この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後の、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つ行うステップを、イメージングモードを交互に替え、20から50kVの高電圧から0.2から5kVの低電圧で供給される電圧を変化させ、分析中に発生する放射性磁場に起因する帯電効果を除去することにより行うように、この方法を行うこともできる。
【0015】
さらにこの方法を、3次元モルフォロジーおよび相分離の1つを、走査電子顕微鏡のマルチモードイメージングにより測定して達成することもできる。
【0016】
この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の少なくとも1つを行うステップの間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、試料表面の幾何学的影響を補償し、この方法を達成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、CRUD薄片堆積物中の結晶を分析する方法のフロー図である。
【図2】図2は、非コーティングCRUD薄片試料の1000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図3】図3は、非コーティングCRUD薄片試料の5000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図4】図4は、非コーティングCRUD薄片試料の10000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図5】図5は、非コーティングCRUD薄片試料の50000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図6】図6は、非コーティングBHC CRUD薄片のSE/BSE混合信号画像による高解像度電界放射型SEMである。
【図7】図7Aは、LEI画像により×10000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Bは、SEI画像により×11000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Cは、SEI/BSEI混合により×12000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Dは、SEI/BSEI混合により×30000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Eは、×45000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Fは、SEI/BSEI混合およびExBフィルタリングにより×100000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。
【図8A】図8Aは、BHC薄片の高解像度電界放射型SEMである。
【図8B】図8Bは、BHC薄片の2点から収集した「スポット」EDXスペクトルである。
【図9A】図9Aは、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9B】図9Bは、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9C−1】図9C-1は、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9C−2】図9C-2は、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図10A】図10Aは、100000×で分析したBHC薄片のBF-TEM /SAEDである。
【図10B】図10Bは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図10C】図10Cは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図10D】図10Dは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図11】図11は、凝集したBHC CRUD薄片粒子の高解像度電界放射型SEMスポットEDXスペクトル、および標準不使用のZAF補正に基づく定量結果である。
【図12】図12は、それぞれのBHC薄片粒子のスポットEDXスペクトル、およびクリフロリマー薄膜比率法を用いた、標準不使用の定量結果である。
【図13】図13は、BHC CRUD薄片から得た、Fe K、Cu K、O K、Ni K、Al K、Mn KおよびCa Kピークを用いたデジタルX線元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明は、一貫して用いられる以下の用語とともに提示される。
EM-電子顕微鏡:すべての種類および構成の電子顕微鏡を含んで用いられる用語。
SEM-走査電子顕微鏡(または顕微鏡法):試料の微小な特徴を見るために用いられる調査装置であり、この装置は、一般に40kV未満の加速電圧で操作される。走査電子顕微鏡は、試料表面に小さい電子プローブを用いることに依存しており、電界放射型走査電子顕微鏡においては、約1nmの解像度をもつ信号(画像)を生成する。同一のプローブを、約1μmの空間分解能をもつ、同一領域のエネルギー分散型X線分光法のためにX線を発生させ励起させるのに用いることができる。
SE-二次電子:評価の間に試料表面から放射された電子であり、この電子は、50eV未満のエネルギーを有する。放射された電子は、SEMにより検出されたとおりSEM画像を形成する。
SEI-二次電子画像:試料表面から放射された二次電子から形成される画像であり、SEMに供された試料のモルフォロジーを測定するために用いられる。
BSE-後方散乱電子:原子との弾性衝突により試料から後方に反跳/反射した入射電子である。
BSEI-後方散乱電子画像:組成的およびトポグラフィー的な情報をもたらす後方散乱電子から形成される画像である。
EBCP-電子後方散乱画像-組成的およびトポグラフィー的な情報をもたらす後方散乱電子から形成される画像である。
LEI-下部電子イメージング:試料面に近い対物レンズの下に位置する下部の二次電子検出器(SED)を用い、二次電子から形成される画像である。
EDXS-エネルギー分散型X線分光法:電子ビームにより衝撃を与えたときに、試料から放射されるX線の特性エネルギーの数を分析することにより、試料組成を測定する方法である。
TEM-透過電子顕微鏡法(または顕微鏡):一般に100kV超の加速電圧で操作される研究装置であり、この装置は、試料の広範な領域を照射し0.1nmに迫る解像度をもつ画像を形成する、またはプローブの焦点を合わせ小さな領域からのEDXSスペクトルを得る能力を有する。それは、同一の領域から電子線回折データを提供する能力も有する。
BF-明視野:透過電子により形成される、TEMにおける画像モード。
SAED-制限視野電子線回折:選択領域絞りを用い、TEM中の試料の、制限された領域から得られる電子線回折パターンである。
EDXS-スポット分析および元素マッピング分析:試料上に小さな固定プローブ(スポット)を置く、または試料を横切ってステップを踏んでプローブを進めそれぞれの点でX線分析を得て、この領域のマップを構築することによりX線分析を行う。
内部ET検出器すなわち下部SED:ビーム相互作用(SE1)および周辺領域(SE2)の点からの二次電子を収集する検出器であり、研究者が試料表面上の凹凸を強調して側面から試料を観察し、凸部に沿った帯電効果をほとんど示さないことを可能にする。
レンズ介在ET検出器すなわち上部SED-主に試料表面からの二次電子(SE1)を収集する検出器であり、上からの画像を観察することができ、試料の、孔、隙間、不規則性またはトポロジー/モルフォロジーの観察を可能にする。
STEM-走査透過電子顕微鏡:SEMで行うように試料を横切って収束ビームを走査する一式のコイルをもち、二次電子、後方散乱電子および/または透過電子の検出器を有し、試料の画像を形成するTEMである。
(S)TEM-走査透過電子顕微鏡:TEMまたはSTEMのいずれかとして動作することが可能な機器である。
FIB-収束イオンビーム:SEMに類似した電子顕微鏡の種類であるが、電子ビームの代わりに収束ガリウムイオンビームを試料上に加速するものである。収束ビームを用いて、ナノメートルの解像度で試料を削り取り、SEMの場合と同様に放射二次電子から画像を形成することができる。
ナノマニピュレータシステム:試料のサブミクロン形状を拾上げまたは取扱うための用いられるマイクロピンセットのような機械的システム。
組成(すなわちコンポ)モード:得られた画像が試料組成(原子番号)に対応するように、後方散乱電子から形成される画像をいう。
トポグラフィー(すなわちトポ)モード:画像が試料のトポグラフィーを反映するように、後方散乱電子から形成された画像をいう。
SED-二次電子検出器:二次電子を収集し画像を形成するために用いられる検出器である。
SE1-二次電子:一次電子ビーム-試料の相互作用の結果として、試料の表面から放射される二次電子である。反射一次電子ビームの強度ISE1は二次放射の係数に比例し、研究者は上からの画像を観察でき、試料の、孔、隙間、不規則性またはトポロジー/モルフォロジーを観察することができる。
SE2-二次電子:高エネルギー後方散乱電子により、ビーム相互作用の点からではなく周辺領域から放射される二次電子である。電子強度ISE2は、後方散乱係数nに比例する。SE2の信号は、画像のコントラストに寄与する、二次電子と後方散乱電子との組合せである。
EsB-エネルギーおよび角度選択型の後方散乱電子検出器:検出器が収集する二次電子および後方散乱電子の、エネルギーおよび角度を制御する導電性グリッドを使用し、二次電子および後方散乱電子の制御可能な混合を使用し画像を形成する積分型電子検出器の種類である。
【0019】
図1を参照して、主に原子力蒸気発生器および核燃料の堆積物の中において直面する、放射性の煮沸の堆積物の結晶の特性を評価するための方法10を示す。方法10は、電子顕微鏡法と薄片の調製方法とを組み合わせている。
【0020】
方法10において、第1のステップ20は、発生源からの試料の摘出および取扱いである。この例においては、試料の走査電子顕微鏡(SEM)および走査透過電子顕微鏡((S)TEM)による調査からの技術が行われる。試料の摘出および取扱いは、試験される試料を、カーボンテープを用いて標準的なカーボンのSEM試料台に接着することを伴う。第2の代わりの摘出技術は、(S)TEM分析のための標準的なカーボンの支持フィルム上に砕いた試料の一部を散らすことを伴う。試料として提供される物質は、試験される表面から、削り取りおよび/または他の除去方法によりもたらされてよい。試料は、原子力蒸気発生器または核燃料棒等の原子力システムの伝熱面から得ることができる。
【0021】
方法10においては、堆積物の、それらの「発見時」の状態での使用がもたらされる。これは、堆積物の迅速な処理(迅速な分析)を可能とするだけでなく、「発見時」の状態の結晶を扱うことと関連する結果の変わりやすさを低減させもする。あるいは、同定される対象の相を分析するべく選択できるように、有限の数の相/結晶から構成されるCRUD薄片を処理する。所望の結果(すなわち、特定の構成についての観察可能な結果)が達成されるまで手順を繰り返すことにより、研究者が対象となる相の分析を連続的に行うことができる。
【0022】
方法10において、TEMおよび/または代わりに(S)TEMでの調査のためにカーボングリッド上にそれぞれの粒子を収集することにより、TEM分析のための手順の繰り返しを行うことができる。TEMにおいて、試料を全体に薄くすると、より正確なエネルギー分散型X線分光法EDXS分析が得られる。その結果、プローブの拡がり(TEM分析で問題を引き起こす既知の誤り)が制限され、軽元素の吸収が低減される。そのうえ、制限視野電子線回折(SAED)のパターンを、その相の結晶分析のために得ることができる。例えば、相の同定を、その格子面間隔を測定し、これらを(結晶データベース中等の)集計値と比較し、存在する結晶の同定を助けることにより行うことができる。
【0023】
本発明によれば、TEMのための相選択工程は、正確な相選択、例えば、SEMにおける、収束イオンビーム(FIB)および/またはナノマニピュレータを用いた、CRUD薄片に対する位置選択の基本工程である。試料は、CRUD結晶を、濾紙上に置かれた、反応炉燃料切削工程から収集されたCRUDを保持するTEMグリッド上に、直接収集することによって調製することもできる。
【0024】
さらに、薄片の表層からいくらかの結晶を取り除く(S)TEM分析のための標準的なカーボン支持フィルムの表面に試料を置き、対象の結晶がその上に固定されるカーボン紙の上に対象のCRUD表面の鏡像を作り出すことにより、試料を調製することができる。
【0025】
図1のように、それぞれの試料の、トポロジー的、モルフォロジー的、および組成定量的な情報を測定するために、主に2種類の分析が用いられる。
【0026】
図1のように、試料は、SEM/EDXS(走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)特性評価方法100を用いて同定されるが、ここで高解像度電界放射型走査電子顕微鏡のマルチモード試験は、上部および下部の二次電子検出器ならびに後方散乱電子イメージングを組み合わせている。本発明の代表的な実施形態における、このような調査の結果を図2から5に図解する。さらに、図6に示されるように、評価試料に関する、総合的なトポグラフィー的、モルフォロジー的および組成定量的な情報を図解する。3次元モルフォロジーは、マルチモード二次電子イメージング/下部電子イメージング/後方散乱電子イメージングを用いることにより測定される。これは、図1に記載される分析の左の経路に従って0.10から10ミクロン大、図1に記載される分析の右の経路に従うと100から0.02ナノメートル大に至るまでの、マクロスケール、ミクロスケールおよびナノスケールでの、試料中の、異なる相の相対的な存在および割合の測定と、表面トポグラフィー凝集とを可能にする。
【0027】
図6において、原子力発電システム中で見られるスピネルの構造の様々な相を示す。組み入れられた相の化学組成とともにスピネルの組成も、エネルギー分散型X線分光法により得ることができる。3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、薄片の形状/大きさのすべて120からの結果を得て、コンピュータ等の記憶装置に記録し、構造的/分析的データベース490と比較する。
【0028】
平均原子番号Zに従って相分離150を確認するために、マルチモードイメージングを用い、組成的情報を提供する。マルチモードイメージングに由来する画像強度は、平均原子番号に比例する。本発明において、マルチモード電子イメージングは、試料の組成的情報を測定するために、二次電子イメージングモードと、下部電子イメージングモードと、後方散乱電子イメージングモードとの間を交互に切り替え、放射性領域に特有の帯電効果を除去することにより用いられる。この種のイメージングを利用することにより、このイメージングは、画像中の信号および解像度の制御を改善することにつながる、二次電子イメージング信号、下部電子イメージング信号、および後方散乱電子画イメージング信号を、分離または混合する能力を有する。これらの様々な信号を用いるマルチモードイメージングを、×1000から×50000の範囲の倍率でのCRUD薄片BHC試料について、図2から5に図解する。
【0029】
図2から5のそれぞれにおいて、左上4分の1は、上部二次電子画像(SEI)を示す。左下4分の1は、下部電子画像(LEI)(SE1+SE2)を示す。右上4分の1は、後方散乱電子画像を示し、これは、平均原子番号(Z)に比例する画像強度に組成的情報を与える。右下4分の1は、後方散乱電子画像である(強度は試料のトポグラフィーを反映するので、「topo」と標識した)。上述のように、評価の間、モードを切り替え、試料の帯電の問題を取り除いた。
【0030】
図2を参照すると、右上4分の1の後方散乱電子画像は、試料表面上のより大きな原子番号、すなわちより明るい面の位置を示す。より低い原子番号の物質は、見た目に、より明るさの少ない面を有する。左上4分の1に提示される二次電子画像は、全倍率での表面モルフォロジーの高解像度イメージングを提供する。左下4分の1に提示される下部電子画像は、より低い倍率での良好な解像度の他に、組成的情報、または相の識別をもたらす。後方散乱電子および二次電子は、表面の帯電に、より依存しないので、これらの画像は、表面の帯電に、より敏感ではない。画像の倍率が増加するにつれ、トポグラフィー情報画像は、基本的な走査電子顕微鏡画像から徐々に異なってくることに注意すべきである。
【0031】
走査電子顕微鏡の場合、画像中の高解像度の信号を得るために、20から30kVの加速電圧が走査電子顕微鏡画像に用いられる。20から30kVの間等の、高い加速電圧は、スポット分析および元素マッピング分析での特性X線を励起するために最適である。放射性堆積物について、または帯電が問題である状況において、低電圧走査電子顕微鏡法イメージングにより、重元素については信号強度が犠牲になるものの、試料表面の不要な帯電は低減され、イメージング性能は大きく改善される。
【0032】
放射性である、または二次電子/後方散乱電子の混合ならびに二次電子モードをフィルタリングするエネルギーおよび角度選択の後方散乱電子検出器における低電圧(例えば、0.5から5kV)で、エネルギー分散型X線分光法で化学的情報を得るときの高電圧(20〜30kV)で激しく帯電した試料の画像捕捉(モルフォロジーおよびトポグラフィー)のために、走査電子顕微鏡を使用する。
【0033】
低電圧イメージングの利点を例証するために、CRUD薄片の選択領域内に1キロボルトの低電圧を用いて撮影された高解像度電界放射型走査電子顕微鏡画像の例を図7B、7Cおよび7Dに例示して提示する。図7B、7Cおよび7Dのように、これらの画像は、時々特徴的な結晶の「花」を形成する、細長い100から300nmの、針状および薄い板状の結晶と、ねじ曲がった長い数珠状の長さ8nm以下の針状結晶の糸状構造と、凝集した粒子のより小さい部分との混合物を含む、珍しいモルフォロジーをもついくつかの種類の結晶を示す。これらの結晶は、原子炉の伝熱面の中に見られる。
【0034】
×30000から×100000の倍率での試料の観察により、階層的な薄片の構造の構造的な詳細が示される。明確に見える境界をもつ、直径100から300nmの粒の密集した集合、およびその表面上の直径3から5nmの超微粒沈殿物を示す、密集した凝集粒子を、例えば図7Dの中央近辺に見ることができる。
【0035】
代表的な評価試料において、凝集し、ファセットで、四面体および八面体の形状の結晶は、図7Eのように、20から50nmの大きさの結晶核をもつ部位特異的な単結晶成長の証拠を示している。そのうえ、図7Fのように、薄い板状の結晶クラスターの厚さは、3から10nmであることがわかった。
【0036】
与えられた画像は、電界放射型走査電子顕微鏡により低電圧でCRUD結晶について得られる解像度を示している。二次電子/後方散乱電子の場合、ならびに二次電子をフィルタリングする、エネルギーおよび角度選択型の後方散乱電子検出器により、この画像の解像度が可能となる。
【0037】
図1の方法のように、スポット分析および元素マッピング分析(EDXSイメージング)をステップ150で行う。様々な結晶モルフォロジーを測定してから、本願に係る次のステップで、選択した結晶からイメージングしたEDXSを得て、さらにその結晶の化学組成を同定する。選択部位(すなわちスポットモード)の分析は、マルチモードの走査電子顕微鏡下で行われる。この選択部位の分析により、CRUDの薄片試料の相の定量的な同定が提供される。図8Aのように、2つのスポット分析位置をもつ、BHC試料の走査電子顕微鏡画像は、位置の1つ目は(1)、2つ目は(2)で与えられる。1つ目の位置(1)は、比較的暗いミクロン大の粒子上に位置するが、2つ目の位置(2)は、より小さい粒子の凝集体上にある。図8Bに重ねた、得られたEDXSスペクトルは、2種類の粒子の組成における明確な違いを示しており、2つ目の位置は、より多くの鉄の他に、マンガン、ニッケルおよび亜鉛を含む。これらの成分はいずれも、1つ目の位置では検知できるほどの量は存在していない。本発明によれば、3μm以上の大きさをもつ、対象の結晶を提供する堆積物については、マルチモード走査電子顕微鏡/部位特異的EDXSが代表的な迅速な分析モードである。
【0038】
定量EDXS分析において、スペクトルが、X線検出器に呼応する既知の幾何学をもつ大きな領域にわたる「研磨」面である試料から得られたのでなければ、(スポットスペクトルおよび元素マップからの)定量の正確さは疑わしいかもしれない。明確に定義されていない測定条件のためにこうしたことが生じ、幾何学的な質量および吸着の発生は、不規則な試料表面の印象に影響を与える。
【0039】
本願に係る不規則な表面(純粋な薄片の分析表面)から得られたデータの、解釈および定量を改善するために、加速電圧、プローブ直径、プローブ電流、検出器効率および取込角、傾斜角、計数統計ならびに(電気的および熱的な伝導性、「熱い」試料により引き起こされる蛍光、ビーム放射下での試料安定性、基材の材料等の)試料に関連する課題等の、顕微鏡についての操作条件が、分析の一部として明記される。
【0040】
標準不使用の、原子番号、吸収蛍光についての補正(ZAF補正と呼ばれる)に基づいて、不規則な表面から得られるEDXSデータの定量、またはX線深さ分布(Phi-Rho-ZまたはPRZと呼ばれる)の間に、誤差が生じることがある。この誤差は、明確に定義されていない測定条件、および/または幾何学的な質量の効果の発生、すなわち定義された測定条件によるものである。そのうえ、幾何学的な質量の効果(すなわち、複雑な表面トポグラフィーによる放射X線信号の変化、ひいてはX線が検出器に達しようとするときの経路の変化により)の発生、および吸収効果(主に、重金属濃度の過大評価につながる、O K軟X線の強い吸収による)が生じうる。
【0041】
本発明によれば、誤差の解決に取り組むために、それぞれの具体的な堆積物(例えば、Fe2O3、CuO、ZnO)についての、対象となる一式の標準試料は、測定される堆積物170と同様のよく定義された条件下での、この標準試料について得られたEDXSデータを有する。試料の放射性が強ければ、EDXSスペクトルのための標準を、そのすぐ近くのグリッド上に置く。これにより、同一の放射性条件で特定の走査電子顕微鏡からのスポット分析データおよび元素マッピング分析データを正確に定量するために必要な補正手順の決定が可能となる。これらの手順は、未知のCRUD結晶からのEDXSスペクトルに適用され、より定量的にそれらの組成を測定する。
【0042】
試料は、構成が異なるので、構成から生じる幾何学的影響を考慮に入れなければならない。本発明によれば、試料の幾何学から生じる、分析への影響を補償するために、ピークトゥバックグラウンド法を用いることができる。この方法は、試料の同一領域に生成する、特性X線ピークおよび連続的バックグラウンド放射は、同一の吸収および後方散乱の条件を受けることがあることを特定する。対象の元素についてのピークトゥバックグラウンド比の測定を、試料と同様に、確定した標準の中の他の元素と比較し、重要な吸収および/または蛍光が生じているかどうかを測定することができる。このような測定は、それぞれの顕微鏡および検出器に特有である。この測定は、特性X線が生成するのと同一の領域内の局所的なバックグラウンドを測定することによっているので、重要な散乱が試料の他の部分から生じているならば、この方法に信頼性がないことがある。重要な散乱が生じているならば、左右誤差の大きさを評価するために、モンテカルロシミュレーションが用いられる。複雑な幾何学のために、近似値は、顕微鏡の設定をいかなるバラメータに調節すべきかという一般的な目安に過ぎない。
【0043】
EDXS分析の間に、特定の物質に期待される達成可能な方位分解能と、特定の操作条件、試料の厚さ、密度、ならびに図9Cのような放射および吸収されるX線の強度からの化学的組成の影響とを評価するため、図9Aおよび9Bのように、試料に対してモンテカルロシミュレーション500を行う。
【0044】
モンテカルロ法により提示される、これらの代表的な実施形態は、試料の予想される挙動の目安を提供する。これらのモンテカルロシミュレーションは、未知の試料との定量的比較のためというより、特定の種類の試料のために顕微鏡の条件を最適化するための指針として用いられる。構造的/分析的なデータベース490を、上記分析の記憶および/または比較のために用いることができる。
【0045】
行われた、高解像度走査電子顕微鏡SEM/EDXS、および部位特異的EDXS分析の他に、代替的な方法のステップを、試料の分析のために行うことができる。ステップ400のように、従来の高解像度のイメージング/電子線回折、および高空間分解能EDXSを用いる、走査透過電子顕微鏡(S)TEM/SAEDおよびEDXSを行う。ステップ400に提示される方法において、線走査、マップおよびスペクトルイメージングの他に、スポットスペクトルが用いられる。上記のように、問題の試料のモルフォロジーを測定するために、走査電子顕微鏡およびEDXSのユーティリティを用いる。スポット分析および元素マッピング分析を利用する分析透過電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡法に対し非常に補完的であり、特に、研究者が、結晶の内部構造402を調査し、概して吸収および蛍光の影響/補正406がない他に、電子線回折情報、すなわち、それらの格子面間隔および格子タイプ等の、その相についての結晶情報404を提供するEDXS分析を得ることを可能にする。そのうえ、これらの分析を、最適操作条件下で直径1nmほどの小さい領域から得ることができる。したがって、分析透過電子顕微鏡についての空間分解能は、分析範囲を通過するエネルギー電子(一般に200kV)と比較して、倍率を3桁上回る桁数であり、すなわち、厚さにおいて数百ナノメートル未満である。透過電子顕微鏡法は、走査電子顕微鏡法に対して非常に補完的であり、スポット分析および元素マッピング分析の空間分解能は、一般に1000nmより良いことはない。
【0046】
図10のように、カーボンフィルム上に固定された3つのCRUD粒子の明視野(BF)透過電子顕微鏡法画像を図解する。結晶を、試料から選択し、矢印により指し示した。この結晶は、走査電子顕微鏡により前に試料中を観察したが(例えば、ファセットの傾斜したシース(右上)、微細な凝集体のクラスター(左上)および不規則な板(左下))、一般的なサブミクロンの結晶と同様のモルフォロジーを有する。したがって、これらの結晶は、原子炉一次反応炉系の伝熱面からのものである。
【0047】
それぞれの結晶から得られた制限視野電子線回折(SAED)パターンは、問題の結晶の隣に示される。右上の結晶は、単結晶のスポットパターンを示すが、他の2つの相は、環状パターンを示す。これらの環状パターンは、それらが多くのより小さなナノ結晶から構成されることを示す。
【0048】
相を同定するために、この相の格子面間隔を、これらのSAEDパターンから測定し、結晶データベース中に様々な化合物について記録されている格子面間隔と比較する。
【0049】
図10の3つのEDXスペクトルにより示し、それぞれの相、すなわち凝集体のすぐ隣に再度示したように、結晶の相の同定は、それらの組成406の同時測定によっても促進される。
【0050】
SEMに存在する、幾何学的な問題、および吸着の問題は、TEMにおいて大部分は緩和されるので、これらのEDXスペクトルは、実際の粒子の組成を反映している。
【0051】
3つのEDXスペクトルの調査により、右上のファセットの結晶は、多量のFe、ZnおよびCuの他に、Ni、Mnならびに少量のAlおよびSnを含有することが示される。これは、主にFe、CuおよびOを含有する、左上の粒子、ならびにFe、CuおよびOを含有するが実質的な量のAlおよびSiも含有する、左下の粒子とは対照的である。
【0052】
結論として、図10は、TEMの手順が、SEM/EDXSによる特性評価の経路とは異なる一義的な解釈をもつ、サブミクロンのCRUD粒子についての、モルフォロジー的情報402、結晶情報404および組成情報406をどのように提供するかを説明している。このような分析をより大きな結晶について行うことができるが、この結晶を、単離し、このような分析をするための電子透過性のために薄肉化する必要がある。より大きい結晶について、SEM/EDXSによる特性評価の経路は、経済的な視点からより適切であるかもしれない。
【0053】
スペクトルを、異なる種類の測定の間で比較してもよい。例えば、20kV(図11)の加速電圧をもつ電界放射型SEMで得られたBHC CRUD薄片からのスポットEDXスペクトルを、200kVでのTEMで得られたもの(図12)と比較することにより、後者の場合のピークトゥバックグラウンド比が、著しく高いことが示される。この比率は、過電圧、すなわち加速電圧と試料中の特性X線を励起させるのに必要な電圧との間の比率が、10倍、20から200kVと、増加することにより高いのである。結果として、O K軟X線の吸収は、著しく低く、FeとO、すなわちFe K/O Kのピーク強度比は、SEMからTEMにすることで13.32から2.71に減少する。これらのデータは、付随する表1および2の他に、図11および12に示されるように、電界放射型SEMでのZAFベースの標準不使用の定量手順により推定される、酸素32.9%と比べて、試料中の酸素濃度が、TEMから得られた57%に近いことを示している。スペクトルおよび表の他に図12は、図10の左下端に見られる粒子から得られたものであることに留意されたい。酸素が生成するX線に関する同様の結論が、図10のスペクトルに当てはまる。
【0054】
図13を参照すると、サブミクロン大のCRUD薄片粒子から得られるX線元素マップは、走査透過電子顕微鏡によりもたらされる。このサブミクロン大の粒子の凝集体は、図8中の位置2のように示される凝集体の他に、図7Eのような類似のサブミクロン大の粒子の凝集体にも類似している。
【0055】
図12における様々な元素の分布は、
1)Fe-Cu-Ni-Oと、
2)Al-Mn-Oと、
3)Ca-Oと
に富む粒子からなる凝集体中の異なる相の混合物が存在することを示す。
【0056】
Feリッチな相(約800nm幅)は、Fe Kマップから、左上端から広がっていることが明らかであり、Caリッチな相(400から600nm大)は、Ca Kマップから明らかなように、右下の領域に存在し、Al、Mn含有相(これもマップ中約800nm大)はAl KおよびMn Kのマップのとおりである。
【0057】
より高い加速電圧、および試料の厚さのために、本発明において、STEMのX線マッピングは、研究者に、1nmに迫る空間解像度を得ることを可能にし、この空間解像度は、分析電界放射型走査電子顕微鏡の空間解像度よりも、倍率でほぼ3桁良好である。そのうえ、研究者は、化学組成の局所的変化に対して増大した感度(少なくとも10倍)と、前述のような軟X線の歪の減少とを手にする。
【0058】
図13を参照すると、走査透過電子顕微鏡での元素マッピングの方法のステップを行い、試料の中の凝集体中の相の分布を確認する。この方法のステップは、前の段落に示すスポットモードを用い、特定の領域すなわち相の定量分析を得ることに対し補完的である。これは、それぞれ20キロボルトまたは200キロボルトでの、走査電子顕微鏡法および走査透過電子顕微鏡法の両者に当てはまる。
【0059】
化学組成の定量標準406は、(S)TEM/SAED/EDXSデータの分析を助けるために用いられることもある。
【0060】
分析電子顕微鏡法と結晶データベースとの関係付け
走査電子顕微鏡法/EDXS 100または(S)TEM/SAED/EDXS 400により収集されたデータを、本願において上述のように、モルフォロジー情報402、結晶格子長404等の、分析から引き出される1つまたは複数の情報群を用い、結晶学的な物質の相と関係付ける。これにより、結晶構造の迅速な同定が可能となる。同定を容易にするために、分析から得られた結果を標準と比較する。
【0061】
得られた結果を、国際回折データセンター(ICDD)からの粉末回折ファイル(PDF)の結晶データベースの中に見出される結晶構造410と比較し、代表的な実施形態において以下に議論する28個のスペクトルのいくつかについての堆積物に関してあり得るスピネル、ヘマタイトおよびケイ酸塩の結晶の、構造およびモルフォロジーを決定する。
【0062】
今日までに、PDFデータベースの最新版では、エンドユーザは、データ読み出しとデータ分析とを統合することができるので、SEMからの結果、および上述のような他の方法は、データベースと比較される。すべての入力は、関連するデータベースフォーマットの中に入れられる。このフォーマットの中で、回折特性、結晶特性、書誌的特性および物理的特性のデータのためのすべての入力欄は、それぞれの表の中に置かれている。
【0063】
代表的な実施形態において、放射性堆積物からの28個のエネルギー分散型X線分析を調査し、最もあり得る化合物、すなわちモルフォロジー、元素比、およびPDF結晶データベースからの情報に基づく化合物を決定した。走査電子顕微鏡では、スポットおよび元素マッピング、ならびにスペクトルも得られるが、透過電子顕微鏡では、いくつかが得られた。分析結果を、PDFデータベースの検索からの結果とともに、付随する表1に提示する。この表は、スペクトルの同定(欄1および8)、標準不使用のスポット分析および元素マッピング分析に基づく、試料のおよその組成(欄2)、試料の同定(欄3)、モルフォロジーまたは組成のいずれかの、結晶に関する特筆すべき特徴(欄4)、組成分析のPDFデータとの比較に基づく化合物種候補(欄5)、スポット分析および元素マッピング分析において得られた金属/酸素比(欄6)、ならびに鉄/銅の元素を含有する結晶中におけるこれらの比率(欄7)を含む。
【0064】
【表1A】
【0065】
【表1B】
【0066】
【表1C】
【0067】
表2に示すように、代表的な実施形態について、ほとんどの化合物は、いくらかの変化のあるFe3O4、すなわちFeまたはお互いと置換する、Cu、Mn、AlおよびZn(ならびにより少ない程度で時折Ni、Cr、Ti)をもつ、類似のスピネルベースの構造であると思われる。明らかに、FeおよびFe、Cuのベースのこの構造の変化物、例えばスペクトル#1〜11の他に、Cu、AlおよびAl、Znの変化物、例えばスペクトル#21〜24がある。
【0068】
【表2A】
【0069】
【表2B】
【0070】
表2の中の化合物の報告は、上記結果と一致して、Cu、Fe、Mn、AlおよびZn等の元素は互いと容易に置換することと、これらのスピネルベースの構造とを示す。Fe3O4ベースの結晶についての格子パラメータの調査により、約0.84nmのいくらかの格子パラメータをもつ、幅広い範囲の立方晶の化合物、すなわちFe3O4相のものであることが示される。このことは、これらの元素が容易にお互いと置換することと、そのうえ、組成物が有することがあるスピネル型の面の化合物候補がほとんど無限に列記されることを示す。このことは、標準不使用の組成分析に基づく、他に類を見ない同定を困難なものとする。
【符号の説明】
【0071】
10 結晶の特性評価の方法
20 堆積物の摘出/取扱い
100 SEM/EDXS
120 モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、薄片の大きさ/形状
150 相分離
170 化学組成の定量
400 (S)TEM/SAED/EDXS
402 内部構造、モルフォロジー、結晶の大きさ/形状
404 結晶情報
406 化学情報
410 結晶学的物質相データベース
490 構造の分析データエース
500 モンテカルロシミュレーション
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積物形成の同定に関する。より詳細には、本発明は、発電所において直面する、原子力蒸気発生器の中等の構成要素上、および核燃料上の堆積物中の結晶を、総合的に特性評価するための統合的方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の操業中に、様々な物質が、原子力一次系の伝熱面に堆積し、それにより、伝熱面の変化を引き起こす。ほとんどの場合において、物質は伝熱面上に積もり、それにより、伝熱面と一次系の冷却材との間に隔離作用をもたらす。いくつかの場合においては、伝熱面に堆積した物質は、局所的な腐食、および/またはこの面の点食を引き起こすことがある。
【0003】
原子力発電システムの操業者は、伝熱面上の堆積物の量を最少化して、それにより、制御された条件下で、反応炉系から可能な最善の性能を引き出すことができるように試みている。伝熱面上の物質の堆積は、時間と共に、原子力反応炉の総体的な経済的操業可能性に影響を及ぼすことがある。原子力発電所の経済的実行可能性を増大させるためには、伝熱面上に堆積する物質の正確な性質を確認することと共に、これらの堆積物の原因を明らかにすることが望まれる。
【0004】
現在、原子力蒸気発生器の堆積物または他の放射性結晶の構造等の堆積物を、設備の表面における凹凸の中でのそれらの「発見時の」状態で研究する、系統的で明確な取組み法はない。チョークリバー未確認堆積物(CRUD)、原子力蒸気発生器の堆積物、または他の放射性堆積物等の物質に関する情報を最大限得るために、分析電子顕微鏡および/または試料調製における様々な電子顕微鏡法を組合せ、発見された設備の表面における凹凸の中に位置する堆積物の純粋な部分について、それらの「発見時の」状態で、これらの堆積物の成分を測定する方法は知られていない。
【0005】
そのため、原子力蒸気発生器の堆積物、およびCRUD等の堆積物を研究する総合的な方法を発達させ、堆積物の結晶構造を測定する必要がある。
【0006】
経済的で安全な方法で、これらの堆積物の研究を可能にする方法がさらに求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、本発明の目的は、原子力蒸気発生器の堆積物、または燃料のCRUD等の堆積物を総合的に研究し、堆積物の結晶構造を測定する統合的方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、経済的で安全な方法で、これらの堆積物を研究する方法を提供することにもある。
【0009】
本発明の他の目的は、マルチイメージングモードを利用した、高解像度の分析走査および分析透過の他に、選択領域の電子線回折、およびエネルギー分散型X線分光法を含む、電子顕微鏡(EM)法の適合および他に類を見ない組合せである。これらの方法は、主にCRUDおよび蒸気発生器縁部の堆積物の中に見出される結晶をそれらの「発見時」の状態でより良好に分析するように組み合わせることができ、標準結晶からの選択した電子顕微鏡法信号を、対象領域からの信号および同一の放射性条件下で、設備の表面における凹凸の中に位置する堆積物の純粋な部分の信号と比較する。これらの方法は、凹凸の中における結晶成長現象をより良く理解するために、モルフォロジー的および分析的な特性評価の結果を、粉末回折結晶データベースと結びつける。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願によれば、10から50ミクロン大(マクロ構造分析)から、0.1から10ミクロン(ミクロ構造分析)、0.02から400ナノメートル(ナノ構造分析)に至るまで、異なるスケールの範囲について、主に原子力蒸気発生器および核燃料の中に堆積するCRUD薄片に対し、堆積物中の結晶の特性を評価するための方針案を提供する。
【0011】
本発明は、原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出することと、この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびにこの試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析のいずれか1つを行うことと、次いで、この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うことと、次いで、この試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の後に、内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の少なくとも1つを行うこととを含む、原子力発電所の伝熱面の表面上における堆積物中の結晶を分析する方法を提供する。3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つの後に、電子ビーム-試料相互作用のモンテカルロシミュレーションを行う。この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、化学組成の定量、ならびにモンテカルロシミュレーションの結果を、構造データベース内に記憶させる。内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の結果を、結晶データシステム内に記憶させる。
【0012】
この方法を、モンテカルロシミュレーションが、特定の操業条件下で予想される試料の挙動を予測するように行うこともできる。
【0013】
原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出するステップが、濾紙上に置かれたTEMグリッドの上に直接CRUD試料を集めることと、この試料の上に標準的なカーボン支持フィルムの試料を置き、この物質試料の薄片の表面からいくつかの結晶を除去することとの1つを含むように、この方法を行うこともできる。
【0014】
この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後の、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つ行うステップを、イメージングモードを交互に替え、20から50kVの高電圧から0.2から5kVの低電圧で供給される電圧を変化させ、分析中に発生する放射性磁場に起因する帯電効果を除去することにより行うように、この方法を行うこともできる。
【0015】
さらにこの方法を、3次元モルフォロジーおよび相分離の1つを、走査電子顕微鏡のマルチモードイメージングにより測定して達成することもできる。
【0016】
この試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の少なくとも1つを行うステップの間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、試料表面の幾何学的影響を補償し、この方法を達成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、CRUD薄片堆積物中の結晶を分析する方法のフロー図である。
【図2】図2は、非コーティングCRUD薄片試料の1000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図3】図3は、非コーティングCRUD薄片試料の5000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図4】図4は、非コーティングCRUD薄片試料の10000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図5】図5は、非コーティングCRUD薄片試料の50000×高解像度SEMマルチモード画像である。
【図6】図6は、非コーティングBHC CRUD薄片のSE/BSE混合信号画像による高解像度電界放射型SEMである。
【図7】図7Aは、LEI画像により×10000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Bは、SEI画像により×11000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Cは、SEI/BSEI混合により×12000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Dは、SEI/BSEI混合により×30000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Eは、×45000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。図7Fは、SEI/BSEI混合およびExBフィルタリングにより×100000で抽出した高解像度低電圧電界放射型SEMである。
【図8A】図8Aは、BHC薄片の高解像度電界放射型SEMである。
【図8B】図8Bは、BHC薄片の2点から収集した「スポット」EDXスペクトルである。
【図9A】図9Aは、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9B】図9Bは、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9C−1】図9C-1は、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図9C−2】図9C-2は、カーボン基材上の2μm厚Fe3O4層に関する相互作用量のモンテカルロシミュレーションのグラフおよびデータである。
【図10A】図10Aは、100000×で分析したBHC薄片のBF-TEM /SAEDである。
【図10B】図10Bは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図10C】図10Cは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図10D】図10Dは、100000×で分析したBHC薄片から放出された3つの粒子からのスポットEDXスペクトルである。
【図11】図11は、凝集したBHC CRUD薄片粒子の高解像度電界放射型SEMスポットEDXスペクトル、および標準不使用のZAF補正に基づく定量結果である。
【図12】図12は、それぞれのBHC薄片粒子のスポットEDXスペクトル、およびクリフロリマー薄膜比率法を用いた、標準不使用の定量結果である。
【図13】図13は、BHC CRUD薄片から得た、Fe K、Cu K、O K、Ni K、Al K、Mn KおよびCa Kピークを用いたデジタルX線元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明は、一貫して用いられる以下の用語とともに提示される。
EM-電子顕微鏡:すべての種類および構成の電子顕微鏡を含んで用いられる用語。
SEM-走査電子顕微鏡(または顕微鏡法):試料の微小な特徴を見るために用いられる調査装置であり、この装置は、一般に40kV未満の加速電圧で操作される。走査電子顕微鏡は、試料表面に小さい電子プローブを用いることに依存しており、電界放射型走査電子顕微鏡においては、約1nmの解像度をもつ信号(画像)を生成する。同一のプローブを、約1μmの空間分解能をもつ、同一領域のエネルギー分散型X線分光法のためにX線を発生させ励起させるのに用いることができる。
SE-二次電子:評価の間に試料表面から放射された電子であり、この電子は、50eV未満のエネルギーを有する。放射された電子は、SEMにより検出されたとおりSEM画像を形成する。
SEI-二次電子画像:試料表面から放射された二次電子から形成される画像であり、SEMに供された試料のモルフォロジーを測定するために用いられる。
BSE-後方散乱電子:原子との弾性衝突により試料から後方に反跳/反射した入射電子である。
BSEI-後方散乱電子画像:組成的およびトポグラフィー的な情報をもたらす後方散乱電子から形成される画像である。
EBCP-電子後方散乱画像-組成的およびトポグラフィー的な情報をもたらす後方散乱電子から形成される画像である。
LEI-下部電子イメージング:試料面に近い対物レンズの下に位置する下部の二次電子検出器(SED)を用い、二次電子から形成される画像である。
EDXS-エネルギー分散型X線分光法:電子ビームにより衝撃を与えたときに、試料から放射されるX線の特性エネルギーの数を分析することにより、試料組成を測定する方法である。
TEM-透過電子顕微鏡法(または顕微鏡):一般に100kV超の加速電圧で操作される研究装置であり、この装置は、試料の広範な領域を照射し0.1nmに迫る解像度をもつ画像を形成する、またはプローブの焦点を合わせ小さな領域からのEDXSスペクトルを得る能力を有する。それは、同一の領域から電子線回折データを提供する能力も有する。
BF-明視野:透過電子により形成される、TEMにおける画像モード。
SAED-制限視野電子線回折:選択領域絞りを用い、TEM中の試料の、制限された領域から得られる電子線回折パターンである。
EDXS-スポット分析および元素マッピング分析:試料上に小さな固定プローブ(スポット)を置く、または試料を横切ってステップを踏んでプローブを進めそれぞれの点でX線分析を得て、この領域のマップを構築することによりX線分析を行う。
内部ET検出器すなわち下部SED:ビーム相互作用(SE1)および周辺領域(SE2)の点からの二次電子を収集する検出器であり、研究者が試料表面上の凹凸を強調して側面から試料を観察し、凸部に沿った帯電効果をほとんど示さないことを可能にする。
レンズ介在ET検出器すなわち上部SED-主に試料表面からの二次電子(SE1)を収集する検出器であり、上からの画像を観察することができ、試料の、孔、隙間、不規則性またはトポロジー/モルフォロジーの観察を可能にする。
STEM-走査透過電子顕微鏡:SEMで行うように試料を横切って収束ビームを走査する一式のコイルをもち、二次電子、後方散乱電子および/または透過電子の検出器を有し、試料の画像を形成するTEMである。
(S)TEM-走査透過電子顕微鏡:TEMまたはSTEMのいずれかとして動作することが可能な機器である。
FIB-収束イオンビーム:SEMに類似した電子顕微鏡の種類であるが、電子ビームの代わりに収束ガリウムイオンビームを試料上に加速するものである。収束ビームを用いて、ナノメートルの解像度で試料を削り取り、SEMの場合と同様に放射二次電子から画像を形成することができる。
ナノマニピュレータシステム:試料のサブミクロン形状を拾上げまたは取扱うための用いられるマイクロピンセットのような機械的システム。
組成(すなわちコンポ)モード:得られた画像が試料組成(原子番号)に対応するように、後方散乱電子から形成される画像をいう。
トポグラフィー(すなわちトポ)モード:画像が試料のトポグラフィーを反映するように、後方散乱電子から形成された画像をいう。
SED-二次電子検出器:二次電子を収集し画像を形成するために用いられる検出器である。
SE1-二次電子:一次電子ビーム-試料の相互作用の結果として、試料の表面から放射される二次電子である。反射一次電子ビームの強度ISE1は二次放射の係数に比例し、研究者は上からの画像を観察でき、試料の、孔、隙間、不規則性またはトポロジー/モルフォロジーを観察することができる。
SE2-二次電子:高エネルギー後方散乱電子により、ビーム相互作用の点からではなく周辺領域から放射される二次電子である。電子強度ISE2は、後方散乱係数nに比例する。SE2の信号は、画像のコントラストに寄与する、二次電子と後方散乱電子との組合せである。
EsB-エネルギーおよび角度選択型の後方散乱電子検出器:検出器が収集する二次電子および後方散乱電子の、エネルギーおよび角度を制御する導電性グリッドを使用し、二次電子および後方散乱電子の制御可能な混合を使用し画像を形成する積分型電子検出器の種類である。
【0019】
図1を参照して、主に原子力蒸気発生器および核燃料の堆積物の中において直面する、放射性の煮沸の堆積物の結晶の特性を評価するための方法10を示す。方法10は、電子顕微鏡法と薄片の調製方法とを組み合わせている。
【0020】
方法10において、第1のステップ20は、発生源からの試料の摘出および取扱いである。この例においては、試料の走査電子顕微鏡(SEM)および走査透過電子顕微鏡((S)TEM)による調査からの技術が行われる。試料の摘出および取扱いは、試験される試料を、カーボンテープを用いて標準的なカーボンのSEM試料台に接着することを伴う。第2の代わりの摘出技術は、(S)TEM分析のための標準的なカーボンの支持フィルム上に砕いた試料の一部を散らすことを伴う。試料として提供される物質は、試験される表面から、削り取りおよび/または他の除去方法によりもたらされてよい。試料は、原子力蒸気発生器または核燃料棒等の原子力システムの伝熱面から得ることができる。
【0021】
方法10においては、堆積物の、それらの「発見時」の状態での使用がもたらされる。これは、堆積物の迅速な処理(迅速な分析)を可能とするだけでなく、「発見時」の状態の結晶を扱うことと関連する結果の変わりやすさを低減させもする。あるいは、同定される対象の相を分析するべく選択できるように、有限の数の相/結晶から構成されるCRUD薄片を処理する。所望の結果(すなわち、特定の構成についての観察可能な結果)が達成されるまで手順を繰り返すことにより、研究者が対象となる相の分析を連続的に行うことができる。
【0022】
方法10において、TEMおよび/または代わりに(S)TEMでの調査のためにカーボングリッド上にそれぞれの粒子を収集することにより、TEM分析のための手順の繰り返しを行うことができる。TEMにおいて、試料を全体に薄くすると、より正確なエネルギー分散型X線分光法EDXS分析が得られる。その結果、プローブの拡がり(TEM分析で問題を引き起こす既知の誤り)が制限され、軽元素の吸収が低減される。そのうえ、制限視野電子線回折(SAED)のパターンを、その相の結晶分析のために得ることができる。例えば、相の同定を、その格子面間隔を測定し、これらを(結晶データベース中等の)集計値と比較し、存在する結晶の同定を助けることにより行うことができる。
【0023】
本発明によれば、TEMのための相選択工程は、正確な相選択、例えば、SEMにおける、収束イオンビーム(FIB)および/またはナノマニピュレータを用いた、CRUD薄片に対する位置選択の基本工程である。試料は、CRUD結晶を、濾紙上に置かれた、反応炉燃料切削工程から収集されたCRUDを保持するTEMグリッド上に、直接収集することによって調製することもできる。
【0024】
さらに、薄片の表層からいくらかの結晶を取り除く(S)TEM分析のための標準的なカーボン支持フィルムの表面に試料を置き、対象の結晶がその上に固定されるカーボン紙の上に対象のCRUD表面の鏡像を作り出すことにより、試料を調製することができる。
【0025】
図1のように、それぞれの試料の、トポロジー的、モルフォロジー的、および組成定量的な情報を測定するために、主に2種類の分析が用いられる。
【0026】
図1のように、試料は、SEM/EDXS(走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)特性評価方法100を用いて同定されるが、ここで高解像度電界放射型走査電子顕微鏡のマルチモード試験は、上部および下部の二次電子検出器ならびに後方散乱電子イメージングを組み合わせている。本発明の代表的な実施形態における、このような調査の結果を図2から5に図解する。さらに、図6に示されるように、評価試料に関する、総合的なトポグラフィー的、モルフォロジー的および組成定量的な情報を図解する。3次元モルフォロジーは、マルチモード二次電子イメージング/下部電子イメージング/後方散乱電子イメージングを用いることにより測定される。これは、図1に記載される分析の左の経路に従って0.10から10ミクロン大、図1に記載される分析の右の経路に従うと100から0.02ナノメートル大に至るまでの、マクロスケール、ミクロスケールおよびナノスケールでの、試料中の、異なる相の相対的な存在および割合の測定と、表面トポグラフィー凝集とを可能にする。
【0027】
図6において、原子力発電システム中で見られるスピネルの構造の様々な相を示す。組み入れられた相の化学組成とともにスピネルの組成も、エネルギー分散型X線分光法により得ることができる。3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、薄片の形状/大きさのすべて120からの結果を得て、コンピュータ等の記憶装置に記録し、構造的/分析的データベース490と比較する。
【0028】
平均原子番号Zに従って相分離150を確認するために、マルチモードイメージングを用い、組成的情報を提供する。マルチモードイメージングに由来する画像強度は、平均原子番号に比例する。本発明において、マルチモード電子イメージングは、試料の組成的情報を測定するために、二次電子イメージングモードと、下部電子イメージングモードと、後方散乱電子イメージングモードとの間を交互に切り替え、放射性領域に特有の帯電効果を除去することにより用いられる。この種のイメージングを利用することにより、このイメージングは、画像中の信号および解像度の制御を改善することにつながる、二次電子イメージング信号、下部電子イメージング信号、および後方散乱電子画イメージング信号を、分離または混合する能力を有する。これらの様々な信号を用いるマルチモードイメージングを、×1000から×50000の範囲の倍率でのCRUD薄片BHC試料について、図2から5に図解する。
【0029】
図2から5のそれぞれにおいて、左上4分の1は、上部二次電子画像(SEI)を示す。左下4分の1は、下部電子画像(LEI)(SE1+SE2)を示す。右上4分の1は、後方散乱電子画像を示し、これは、平均原子番号(Z)に比例する画像強度に組成的情報を与える。右下4分の1は、後方散乱電子画像である(強度は試料のトポグラフィーを反映するので、「topo」と標識した)。上述のように、評価の間、モードを切り替え、試料の帯電の問題を取り除いた。
【0030】
図2を参照すると、右上4分の1の後方散乱電子画像は、試料表面上のより大きな原子番号、すなわちより明るい面の位置を示す。より低い原子番号の物質は、見た目に、より明るさの少ない面を有する。左上4分の1に提示される二次電子画像は、全倍率での表面モルフォロジーの高解像度イメージングを提供する。左下4分の1に提示される下部電子画像は、より低い倍率での良好な解像度の他に、組成的情報、または相の識別をもたらす。後方散乱電子および二次電子は、表面の帯電に、より依存しないので、これらの画像は、表面の帯電に、より敏感ではない。画像の倍率が増加するにつれ、トポグラフィー情報画像は、基本的な走査電子顕微鏡画像から徐々に異なってくることに注意すべきである。
【0031】
走査電子顕微鏡の場合、画像中の高解像度の信号を得るために、20から30kVの加速電圧が走査電子顕微鏡画像に用いられる。20から30kVの間等の、高い加速電圧は、スポット分析および元素マッピング分析での特性X線を励起するために最適である。放射性堆積物について、または帯電が問題である状況において、低電圧走査電子顕微鏡法イメージングにより、重元素については信号強度が犠牲になるものの、試料表面の不要な帯電は低減され、イメージング性能は大きく改善される。
【0032】
放射性である、または二次電子/後方散乱電子の混合ならびに二次電子モードをフィルタリングするエネルギーおよび角度選択の後方散乱電子検出器における低電圧(例えば、0.5から5kV)で、エネルギー分散型X線分光法で化学的情報を得るときの高電圧(20〜30kV)で激しく帯電した試料の画像捕捉(モルフォロジーおよびトポグラフィー)のために、走査電子顕微鏡を使用する。
【0033】
低電圧イメージングの利点を例証するために、CRUD薄片の選択領域内に1キロボルトの低電圧を用いて撮影された高解像度電界放射型走査電子顕微鏡画像の例を図7B、7Cおよび7Dに例示して提示する。図7B、7Cおよび7Dのように、これらの画像は、時々特徴的な結晶の「花」を形成する、細長い100から300nmの、針状および薄い板状の結晶と、ねじ曲がった長い数珠状の長さ8nm以下の針状結晶の糸状構造と、凝集した粒子のより小さい部分との混合物を含む、珍しいモルフォロジーをもついくつかの種類の結晶を示す。これらの結晶は、原子炉の伝熱面の中に見られる。
【0034】
×30000から×100000の倍率での試料の観察により、階層的な薄片の構造の構造的な詳細が示される。明確に見える境界をもつ、直径100から300nmの粒の密集した集合、およびその表面上の直径3から5nmの超微粒沈殿物を示す、密集した凝集粒子を、例えば図7Dの中央近辺に見ることができる。
【0035】
代表的な評価試料において、凝集し、ファセットで、四面体および八面体の形状の結晶は、図7Eのように、20から50nmの大きさの結晶核をもつ部位特異的な単結晶成長の証拠を示している。そのうえ、図7Fのように、薄い板状の結晶クラスターの厚さは、3から10nmであることがわかった。
【0036】
与えられた画像は、電界放射型走査電子顕微鏡により低電圧でCRUD結晶について得られる解像度を示している。二次電子/後方散乱電子の場合、ならびに二次電子をフィルタリングする、エネルギーおよび角度選択型の後方散乱電子検出器により、この画像の解像度が可能となる。
【0037】
図1の方法のように、スポット分析および元素マッピング分析(EDXSイメージング)をステップ150で行う。様々な結晶モルフォロジーを測定してから、本願に係る次のステップで、選択した結晶からイメージングしたEDXSを得て、さらにその結晶の化学組成を同定する。選択部位(すなわちスポットモード)の分析は、マルチモードの走査電子顕微鏡下で行われる。この選択部位の分析により、CRUDの薄片試料の相の定量的な同定が提供される。図8Aのように、2つのスポット分析位置をもつ、BHC試料の走査電子顕微鏡画像は、位置の1つ目は(1)、2つ目は(2)で与えられる。1つ目の位置(1)は、比較的暗いミクロン大の粒子上に位置するが、2つ目の位置(2)は、より小さい粒子の凝集体上にある。図8Bに重ねた、得られたEDXSスペクトルは、2種類の粒子の組成における明確な違いを示しており、2つ目の位置は、より多くの鉄の他に、マンガン、ニッケルおよび亜鉛を含む。これらの成分はいずれも、1つ目の位置では検知できるほどの量は存在していない。本発明によれば、3μm以上の大きさをもつ、対象の結晶を提供する堆積物については、マルチモード走査電子顕微鏡/部位特異的EDXSが代表的な迅速な分析モードである。
【0038】
定量EDXS分析において、スペクトルが、X線検出器に呼応する既知の幾何学をもつ大きな領域にわたる「研磨」面である試料から得られたのでなければ、(スポットスペクトルおよび元素マップからの)定量の正確さは疑わしいかもしれない。明確に定義されていない測定条件のためにこうしたことが生じ、幾何学的な質量および吸着の発生は、不規則な試料表面の印象に影響を与える。
【0039】
本願に係る不規則な表面(純粋な薄片の分析表面)から得られたデータの、解釈および定量を改善するために、加速電圧、プローブ直径、プローブ電流、検出器効率および取込角、傾斜角、計数統計ならびに(電気的および熱的な伝導性、「熱い」試料により引き起こされる蛍光、ビーム放射下での試料安定性、基材の材料等の)試料に関連する課題等の、顕微鏡についての操作条件が、分析の一部として明記される。
【0040】
標準不使用の、原子番号、吸収蛍光についての補正(ZAF補正と呼ばれる)に基づいて、不規則な表面から得られるEDXSデータの定量、またはX線深さ分布(Phi-Rho-ZまたはPRZと呼ばれる)の間に、誤差が生じることがある。この誤差は、明確に定義されていない測定条件、および/または幾何学的な質量の効果の発生、すなわち定義された測定条件によるものである。そのうえ、幾何学的な質量の効果(すなわち、複雑な表面トポグラフィーによる放射X線信号の変化、ひいてはX線が検出器に達しようとするときの経路の変化により)の発生、および吸収効果(主に、重金属濃度の過大評価につながる、O K軟X線の強い吸収による)が生じうる。
【0041】
本発明によれば、誤差の解決に取り組むために、それぞれの具体的な堆積物(例えば、Fe2O3、CuO、ZnO)についての、対象となる一式の標準試料は、測定される堆積物170と同様のよく定義された条件下での、この標準試料について得られたEDXSデータを有する。試料の放射性が強ければ、EDXSスペクトルのための標準を、そのすぐ近くのグリッド上に置く。これにより、同一の放射性条件で特定の走査電子顕微鏡からのスポット分析データおよび元素マッピング分析データを正確に定量するために必要な補正手順の決定が可能となる。これらの手順は、未知のCRUD結晶からのEDXSスペクトルに適用され、より定量的にそれらの組成を測定する。
【0042】
試料は、構成が異なるので、構成から生じる幾何学的影響を考慮に入れなければならない。本発明によれば、試料の幾何学から生じる、分析への影響を補償するために、ピークトゥバックグラウンド法を用いることができる。この方法は、試料の同一領域に生成する、特性X線ピークおよび連続的バックグラウンド放射は、同一の吸収および後方散乱の条件を受けることがあることを特定する。対象の元素についてのピークトゥバックグラウンド比の測定を、試料と同様に、確定した標準の中の他の元素と比較し、重要な吸収および/または蛍光が生じているかどうかを測定することができる。このような測定は、それぞれの顕微鏡および検出器に特有である。この測定は、特性X線が生成するのと同一の領域内の局所的なバックグラウンドを測定することによっているので、重要な散乱が試料の他の部分から生じているならば、この方法に信頼性がないことがある。重要な散乱が生じているならば、左右誤差の大きさを評価するために、モンテカルロシミュレーションが用いられる。複雑な幾何学のために、近似値は、顕微鏡の設定をいかなるバラメータに調節すべきかという一般的な目安に過ぎない。
【0043】
EDXS分析の間に、特定の物質に期待される達成可能な方位分解能と、特定の操作条件、試料の厚さ、密度、ならびに図9Cのような放射および吸収されるX線の強度からの化学的組成の影響とを評価するため、図9Aおよび9Bのように、試料に対してモンテカルロシミュレーション500を行う。
【0044】
モンテカルロ法により提示される、これらの代表的な実施形態は、試料の予想される挙動の目安を提供する。これらのモンテカルロシミュレーションは、未知の試料との定量的比較のためというより、特定の種類の試料のために顕微鏡の条件を最適化するための指針として用いられる。構造的/分析的なデータベース490を、上記分析の記憶および/または比較のために用いることができる。
【0045】
行われた、高解像度走査電子顕微鏡SEM/EDXS、および部位特異的EDXS分析の他に、代替的な方法のステップを、試料の分析のために行うことができる。ステップ400のように、従来の高解像度のイメージング/電子線回折、および高空間分解能EDXSを用いる、走査透過電子顕微鏡(S)TEM/SAEDおよびEDXSを行う。ステップ400に提示される方法において、線走査、マップおよびスペクトルイメージングの他に、スポットスペクトルが用いられる。上記のように、問題の試料のモルフォロジーを測定するために、走査電子顕微鏡およびEDXSのユーティリティを用いる。スポット分析および元素マッピング分析を利用する分析透過電子顕微鏡は、走査電子顕微鏡法に対し非常に補完的であり、特に、研究者が、結晶の内部構造402を調査し、概して吸収および蛍光の影響/補正406がない他に、電子線回折情報、すなわち、それらの格子面間隔および格子タイプ等の、その相についての結晶情報404を提供するEDXS分析を得ることを可能にする。そのうえ、これらの分析を、最適操作条件下で直径1nmほどの小さい領域から得ることができる。したがって、分析透過電子顕微鏡についての空間分解能は、分析範囲を通過するエネルギー電子(一般に200kV)と比較して、倍率を3桁上回る桁数であり、すなわち、厚さにおいて数百ナノメートル未満である。透過電子顕微鏡法は、走査電子顕微鏡法に対して非常に補完的であり、スポット分析および元素マッピング分析の空間分解能は、一般に1000nmより良いことはない。
【0046】
図10のように、カーボンフィルム上に固定された3つのCRUD粒子の明視野(BF)透過電子顕微鏡法画像を図解する。結晶を、試料から選択し、矢印により指し示した。この結晶は、走査電子顕微鏡により前に試料中を観察したが(例えば、ファセットの傾斜したシース(右上)、微細な凝集体のクラスター(左上)および不規則な板(左下))、一般的なサブミクロンの結晶と同様のモルフォロジーを有する。したがって、これらの結晶は、原子炉一次反応炉系の伝熱面からのものである。
【0047】
それぞれの結晶から得られた制限視野電子線回折(SAED)パターンは、問題の結晶の隣に示される。右上の結晶は、単結晶のスポットパターンを示すが、他の2つの相は、環状パターンを示す。これらの環状パターンは、それらが多くのより小さなナノ結晶から構成されることを示す。
【0048】
相を同定するために、この相の格子面間隔を、これらのSAEDパターンから測定し、結晶データベース中に様々な化合物について記録されている格子面間隔と比較する。
【0049】
図10の3つのEDXスペクトルにより示し、それぞれの相、すなわち凝集体のすぐ隣に再度示したように、結晶の相の同定は、それらの組成406の同時測定によっても促進される。
【0050】
SEMに存在する、幾何学的な問題、および吸着の問題は、TEMにおいて大部分は緩和されるので、これらのEDXスペクトルは、実際の粒子の組成を反映している。
【0051】
3つのEDXスペクトルの調査により、右上のファセットの結晶は、多量のFe、ZnおよびCuの他に、Ni、Mnならびに少量のAlおよびSnを含有することが示される。これは、主にFe、CuおよびOを含有する、左上の粒子、ならびにFe、CuおよびOを含有するが実質的な量のAlおよびSiも含有する、左下の粒子とは対照的である。
【0052】
結論として、図10は、TEMの手順が、SEM/EDXSによる特性評価の経路とは異なる一義的な解釈をもつ、サブミクロンのCRUD粒子についての、モルフォロジー的情報402、結晶情報404および組成情報406をどのように提供するかを説明している。このような分析をより大きな結晶について行うことができるが、この結晶を、単離し、このような分析をするための電子透過性のために薄肉化する必要がある。より大きい結晶について、SEM/EDXSによる特性評価の経路は、経済的な視点からより適切であるかもしれない。
【0053】
スペクトルを、異なる種類の測定の間で比較してもよい。例えば、20kV(図11)の加速電圧をもつ電界放射型SEMで得られたBHC CRUD薄片からのスポットEDXスペクトルを、200kVでのTEMで得られたもの(図12)と比較することにより、後者の場合のピークトゥバックグラウンド比が、著しく高いことが示される。この比率は、過電圧、すなわち加速電圧と試料中の特性X線を励起させるのに必要な電圧との間の比率が、10倍、20から200kVと、増加することにより高いのである。結果として、O K軟X線の吸収は、著しく低く、FeとO、すなわちFe K/O Kのピーク強度比は、SEMからTEMにすることで13.32から2.71に減少する。これらのデータは、付随する表1および2の他に、図11および12に示されるように、電界放射型SEMでのZAFベースの標準不使用の定量手順により推定される、酸素32.9%と比べて、試料中の酸素濃度が、TEMから得られた57%に近いことを示している。スペクトルおよび表の他に図12は、図10の左下端に見られる粒子から得られたものであることに留意されたい。酸素が生成するX線に関する同様の結論が、図10のスペクトルに当てはまる。
【0054】
図13を参照すると、サブミクロン大のCRUD薄片粒子から得られるX線元素マップは、走査透過電子顕微鏡によりもたらされる。このサブミクロン大の粒子の凝集体は、図8中の位置2のように示される凝集体の他に、図7Eのような類似のサブミクロン大の粒子の凝集体にも類似している。
【0055】
図12における様々な元素の分布は、
1)Fe-Cu-Ni-Oと、
2)Al-Mn-Oと、
3)Ca-Oと
に富む粒子からなる凝集体中の異なる相の混合物が存在することを示す。
【0056】
Feリッチな相(約800nm幅)は、Fe Kマップから、左上端から広がっていることが明らかであり、Caリッチな相(400から600nm大)は、Ca Kマップから明らかなように、右下の領域に存在し、Al、Mn含有相(これもマップ中約800nm大)はAl KおよびMn Kのマップのとおりである。
【0057】
より高い加速電圧、および試料の厚さのために、本発明において、STEMのX線マッピングは、研究者に、1nmに迫る空間解像度を得ることを可能にし、この空間解像度は、分析電界放射型走査電子顕微鏡の空間解像度よりも、倍率でほぼ3桁良好である。そのうえ、研究者は、化学組成の局所的変化に対して増大した感度(少なくとも10倍)と、前述のような軟X線の歪の減少とを手にする。
【0058】
図13を参照すると、走査透過電子顕微鏡での元素マッピングの方法のステップを行い、試料の中の凝集体中の相の分布を確認する。この方法のステップは、前の段落に示すスポットモードを用い、特定の領域すなわち相の定量分析を得ることに対し補完的である。これは、それぞれ20キロボルトまたは200キロボルトでの、走査電子顕微鏡法および走査透過電子顕微鏡法の両者に当てはまる。
【0059】
化学組成の定量標準406は、(S)TEM/SAED/EDXSデータの分析を助けるために用いられることもある。
【0060】
分析電子顕微鏡法と結晶データベースとの関係付け
走査電子顕微鏡法/EDXS 100または(S)TEM/SAED/EDXS 400により収集されたデータを、本願において上述のように、モルフォロジー情報402、結晶格子長404等の、分析から引き出される1つまたは複数の情報群を用い、結晶学的な物質の相と関係付ける。これにより、結晶構造の迅速な同定が可能となる。同定を容易にするために、分析から得られた結果を標準と比較する。
【0061】
得られた結果を、国際回折データセンター(ICDD)からの粉末回折ファイル(PDF)の結晶データベースの中に見出される結晶構造410と比較し、代表的な実施形態において以下に議論する28個のスペクトルのいくつかについての堆積物に関してあり得るスピネル、ヘマタイトおよびケイ酸塩の結晶の、構造およびモルフォロジーを決定する。
【0062】
今日までに、PDFデータベースの最新版では、エンドユーザは、データ読み出しとデータ分析とを統合することができるので、SEMからの結果、および上述のような他の方法は、データベースと比較される。すべての入力は、関連するデータベースフォーマットの中に入れられる。このフォーマットの中で、回折特性、結晶特性、書誌的特性および物理的特性のデータのためのすべての入力欄は、それぞれの表の中に置かれている。
【0063】
代表的な実施形態において、放射性堆積物からの28個のエネルギー分散型X線分析を調査し、最もあり得る化合物、すなわちモルフォロジー、元素比、およびPDF結晶データベースからの情報に基づく化合物を決定した。走査電子顕微鏡では、スポットおよび元素マッピング、ならびにスペクトルも得られるが、透過電子顕微鏡では、いくつかが得られた。分析結果を、PDFデータベースの検索からの結果とともに、付随する表1に提示する。この表は、スペクトルの同定(欄1および8)、標準不使用のスポット分析および元素マッピング分析に基づく、試料のおよその組成(欄2)、試料の同定(欄3)、モルフォロジーまたは組成のいずれかの、結晶に関する特筆すべき特徴(欄4)、組成分析のPDFデータとの比較に基づく化合物種候補(欄5)、スポット分析および元素マッピング分析において得られた金属/酸素比(欄6)、ならびに鉄/銅の元素を含有する結晶中におけるこれらの比率(欄7)を含む。
【0064】
【表1A】
【0065】
【表1B】
【0066】
【表1C】
【0067】
表2に示すように、代表的な実施形態について、ほとんどの化合物は、いくらかの変化のあるFe3O4、すなわちFeまたはお互いと置換する、Cu、Mn、AlおよびZn(ならびにより少ない程度で時折Ni、Cr、Ti)をもつ、類似のスピネルベースの構造であると思われる。明らかに、FeおよびFe、Cuのベースのこの構造の変化物、例えばスペクトル#1〜11の他に、Cu、AlおよびAl、Znの変化物、例えばスペクトル#21〜24がある。
【0068】
【表2A】
【0069】
【表2B】
【0070】
表2の中の化合物の報告は、上記結果と一致して、Cu、Fe、Mn、AlおよびZn等の元素は互いと容易に置換することと、これらのスピネルベースの構造とを示す。Fe3O4ベースの結晶についての格子パラメータの調査により、約0.84nmのいくらかの格子パラメータをもつ、幅広い範囲の立方晶の化合物、すなわちFe3O4相のものであることが示される。このことは、これらの元素が容易にお互いと置換することと、そのうえ、組成物が有することがあるスピネル型の面の化合物候補がほとんど無限に列記されることを示す。このことは、標準不使用の組成分析に基づく、他に類を見ない同定を困難なものとする。
【符号の説明】
【0071】
10 結晶の特性評価の方法
20 堆積物の摘出/取扱い
100 SEM/EDXS
120 モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、薄片の大きさ/形状
150 相分離
170 化学組成の定量
400 (S)TEM/SAED/EDXS
402 内部構造、モルフォロジー、結晶の大きさ/形状
404 結晶情報
406 化学情報
410 結晶学的物質相データベース
490 構造の分析データエース
500 モンテカルロシミュレーション
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出するステップと、
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに前記試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の少なくとも1つを行うステップと、
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うステップと、
前記試料の前記走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の後に、内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の少なくとも1つを行うステップと、
3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つの後に、電子ビーム-試料相互作用のモンテカルロシミュレーションを行うステップと、
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、前記3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、化学組成の定量、ならびにモンテカルロシミュレーションの結果を、構造データベース内に記憶させるステップと、
前記内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の結果を、結晶データシステム内に記憶させるステップと
を含む、原子力発電所の伝熱面の表面上の堆積物中の結晶を分析する方法。
【請求項2】
前記モンテカルロシミュレーションにより、特定の操業条件下で予想される前記試料の挙動を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原子力発電所の伝熱面の前記表面から物質の試料を摘出するステップが、
濾紙上に置かれたTEMグリッドの上に直接CRUD試料を集めることと、標準的なカーボン支持フィルムの試料を置き、前記物質の試料の薄片の表面からいくつかの結晶を除去することと
の1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うステップを、イメージングモードを交互に替え、分析中に発生する放射性磁場に起因する帯電効果を除去することにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記3次元モルフォロジーおよび前記相分離の1つを、走査電子顕微鏡のマルチモードイメージングにより測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の少なくとも1つを行うステップの間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、前記試料表面の幾何学的影響を補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに前記試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素分析の両方を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料の平均原子番号に従って相分離を確認するために、前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
放射性試料および帯電試料の1つのための0.2から5kVの間の電圧と、前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法で化学的情報を得るときの20から50kVの間の電圧との両方で、走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エネルギー分散型X線分光法を、放射性試料のための標準により行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記試料の前記走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、前記堆積物の幾何学的影響を補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記試料の透過電子顕微鏡法を行うステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
透過電子顕微鏡法の前記ステップの間に、制限視野電子線回折を行い、前記試料の結晶相の格子面間隔を測定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の1つの、記憶された結果を、結晶学的物質相データシステムと比較するステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
原子力発電所の伝熱面の表面から物質の試料を摘出するステップと、
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに前記試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の少なくとも1つを行うステップと、
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うステップと、
前記試料の前記走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の後に、内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の少なくとも1つを行うステップと、
3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つの後に、電子ビーム-試料相互作用のモンテカルロシミュレーションを行うステップと、
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、前記3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、化学組成の定量、ならびにモンテカルロシミュレーションの結果を、構造データベース内に記憶させるステップと、
前記内部構造、モルフォロジー、および結晶の大きさ/形状の測定、結晶学的調査、ならびに化学組成の調査の結果を、結晶データシステム内に記憶させるステップと
を含む、原子力発電所の伝熱面の表面上の堆積物中の結晶を分析する方法。
【請求項2】
前記モンテカルロシミュレーションにより、特定の操業条件下で予想される前記試料の挙動を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原子力発電所の伝熱面の前記表面から物質の試料を摘出するステップが、
濾紙上に置かれたTEMグリッドの上に直接CRUD試料を集めることと、標準的なカーボン支持フィルムの試料を置き、前記物質の試料の薄片の表面からいくつかの結晶を除去することと
の1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料の前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の後に、3次元モルフォロジー、表面トポグラフィー凝集、および薄片の大きさ/形状の測定、相分離、ならびに化学組成の定量の少なくとも1つを行うステップを、イメージングモードを交互に替え、分析中に発生する放射性磁場に起因する帯電効果を除去することにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記3次元モルフォロジーおよび前記相分離の1つを、走査電子顕微鏡のマルチモードイメージングにより測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の少なくとも1つを行うステップの間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、前記試料表面の幾何学的影響を補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに前記試料の走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素分析の両方を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料の平均原子番号に従って相分離を確認するために、前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
放射性試料および帯電試料の1つのための0.2から5kVの間の電圧と、前記高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法で化学的情報を得るときの20から50kVの間の電圧との両方で、走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エネルギー分散型X線分光法を、放射性試料のための標準により行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記試料の前記走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法の間に、ピークトゥバックグラウンド法を用い、前記堆積物の幾何学的影響を補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記試料の透過電子顕微鏡法を行うステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
透過電子顕微鏡法の前記ステップの間に、制限視野電子線回折を行い、前記試料の結晶相の格子面間隔を測定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試料の高解像度走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法、ならびに走査透過電子顕微鏡/制限視野電子線回折/スポット分析および元素マッピング分析の1つの、記憶された結果を、結晶学的物質相データシステムと比較するステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9C−1】
【図9C−2】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図9C−1】
【図9C−2】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【公表番号】特表2010−504503(P2010−504503A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520740(P2009−520740)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/012471
【国際公開番号】WO2008/013597
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508330076)アレバ・エヌピー・インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/012471
【国際公開番号】WO2008/013597
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508330076)アレバ・エヌピー・インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
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