説明

塗工装置、塗工方法、および、プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】塗工液を長期間安定して吐出可能な塗工装置を提供する。
【解決手段】PDPの結晶MgO層の形成工程において、スプレー法にて、MgO粉体を溶剤に分散させた塗工液501を貯溜する塗工液タンク511に、塗工液501の温度が溶剤の沸点より30℃以上低い温度に冷却する冷却装置511Aを設ける。貯溜する塗工液501をスプレーガン514Bから吐出して、焼成により結晶MgO層となる単結晶MgO粉体層を形成する。流通する塗工液501は、吐出するまで溶剤の沸点より30℃以上低い温度状態となり、温度上昇によりMgO粉体が凝集・分離しやすくなることを簡単な構成で防止でき、吐出量が安定した適切な塗工ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉粒物が溶剤中に分散された塗工液を吐出する塗工装置、塗工方法、および、プラズマディスプレイパネルの保護層を酸化マグネシウム粉末を含有する塗工液を塗布して形成するプラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、放電空間を介して互いに対向配置された一対の平面ガラス基板である前面基板および背面基板を備えており、背面基板の内面上に井桁状などの隔壁を設けて前記放電空間を複数個の放電セルに区画し、これら複数個の放電セル内で選択的に放電発光させることにより画像表示を実施する。
【0003】
このようなプラズマディスプレイパネルの前面基板の内面側には、放電ギャップを介して対向する複数の透明電極およびこれら透明電極の一端部に積層するバス電極を備えた複数の表示電極対と、これら表示電極対間に設けられた複数のブラックストライプと、これら表示電極対およびブラックストライプ上を被覆する誘電体層と、この誘電体層上を被覆する保護層と、などがそれぞれ設けられている。
【0004】
上記保護層は、誘電体層が放電によりスパッタリングされることを防ぐとともに、低電圧で放電を発生させるための二次電子の放出層としての役割も持っている。また、発光は保護層を通して前面基板側から観察されるため可視光に対する透明性も必要とされる。このため、保護層の材料としては、低スパッタ率、高二次電子放出係数、可視光に対する透明性などの特性により酸化マグネシウム(以下MgOと記す)が広く用いられている。
【0005】
従来、このようなMgOによる保護層の形成方法として、スプレーガンを用いたスプレー法により、MgOの微結晶粉末を溶剤に分散させた塗工液を基板に対して吹き付けるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1に記載の構成では、直径が1〜2μmのMgOの微結晶粉末をエチルアルコールを分散溶媒として分散させ、吹き付けに用いる懸濁液としている。そして、スプレーガンに懸濁液と霧化用の高圧エアを供給し、懸濁液をガラス基板上にスプレー塗布した後、ガラス基板を200℃に加熱しエチルアルコールを充分に蒸発させ、MgO微結晶が積層したMgO膜を得る構成が採用されている。
【0007】
このようなスプレー法による塗布を実施する塗工装置としては、従来、図1および図2に示すものが知られている。ここで、図1は従来の塗工装置を示す模式図である。図2は従来の三方弁を備えた塗工装置を示す模式図である。
【0008】
図1に示す塗工装置800は、単結晶MgO粉末を溶剤に分散させた塗工液LQをガラス基板Kに対してスプレー塗布する装置である。この塗工装置800は、塗工液LQを貯溜する塗工液タンク810と、この塗工液タンク810に配管811を介して接続されて塗工液タンク810内の塗工液LQを吸引する液送ポンプ820と、この液送ポンプ820に配管821を介して接続されて塗工液LQをガラス基板K上に対してスプレー塗布するスプレーガン830とを備えている。
このような塗工装置800では、スプレー塗布を実施する場合にのみ、液送ポンプ820を駆動させて、塗工液LQをスプレーガン830に供給する。
【0009】
図2に示す塗工装置900は、図1に示す塗工装置800と同様に、単結晶MgO粉末を溶剤に分散させた塗工液LQをガラス基板Kに対してスプレー塗布する装置である。この塗工装置900は、塗工液LQを貯溜する塗工液タンク910と、この塗工液タンク910に配管911を介して接続されて塗工液タンク910内の塗工液LQを吸引する液送ポンプ920と、この液送ポンプ920に配管921を介して接続された三方弁930と、この三方弁930に配管931を介して接続されて塗工液LQをガラス基板K上に対してスプレー塗布するスプレーガン940とを備えている。また、三方弁930は、配管932を介して塗工液タンク910内に接続されている。
【0010】
このような塗工装置900では、液送ポンプ920は常に駆動させておき、スプレー塗布を実施する場合にのみ、三方弁930をスプレーガン940側に切り換えて塗工液LQをスプレーガン940に供給する。一方、スプレー塗布を実施しない間は、塗工液タンク910、配管911、液送ポンプ920、配管921、三方弁930、配管932、塗工液タンク910と順に塗工液LQを循環させる。このようにして、スプレー塗布の実施の有無に関わらず、塗工液LQを絶えず循環させているので、装置の各部において単結晶MgO粉末が沈降することを防げる。
【0011】
ここで、塗工装置800,900の各配管内で塗工液LQの流速が遅い場合、または、塗工液LQが滞留する部分や各配管の傾斜部分、弁などで流速差が生じる部分にて単結晶MgOが沈降・固着しやすい。
【0012】
具体的には、溶剤中に分散した粒子の沈降速度は以下に示す式(1)にて与えられる。
この式(1)からも分かるように、単結晶MgOは真比重が約3でかつ溶剤の比重が通常1以下であるため、MgO粉体の沈降速度vは大きくなる、すなわち、MgO粉体が溶剤中で沈降しやすい。特に、沈降速度vは粒径の2乗に比例するため、MgO粉体の粒径dが大きくなる程沈降しやすくなる。
【0013】
〔数式〕
v∝d×(ρ−ρ)×g/μ…(1)
v:終末沈降速度
d:粒子の粒径
ρ:粒子の密度
ρ:溶剤の密度
g:重力加速度
μ:溶剤粘度
【0014】
また、MgO粉体は凝集性が高いために、塗工液タンク810,910内部や、各配管内で沈降が生じたときに、MgO粉体同士が凝集して成長する。これにより、塗工液LQの流路にMgO粉体の凝集物が付着し、固着や閉塞を引き起こす。
【0015】
このように、塗工液LQの流路におけるMgO粉体の固着や閉塞が生じた場合、塗工液LQの流れが妨げられ、スプレーガン830,940からの吐出量が減少しあるいは不安定となる。これにより、ガラス基板K上に付着するMgO量が一定とならず、塗工ムラが生じるおそれがある。
【0016】
プラズマディスプレイパネルにおいては、所定の量の単結晶MgOが保護層として充分な厚さをもって堆積していない場合、放電遅れが大きくなり、選択不良などの問題を引き起こすおそれがある。また、局所的にMgOの塗布量にバラツキが生じた場合、輝度ムラなどの特性不良を引き起こすおそれがある。
【0017】
【特許文献1】特開平7−296718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そして、上記特許文献1に記載の構成では、MgOの微結晶粉末をエチルアルコールに分散させて懸濁液を構成しているので、上記のようにMgOが沈降・凝集し易くなってしまう。これにより、懸濁液の流路において、MgO粉体の固着や閉塞が生じ易く、基板上への吐出が不安定となり散布されるMgOの量がばらついてしまうおそれがある。
【0019】
そして、図1に示す塗工装置800の場合、スプレー塗布を実施しないときには塗工液LQの流れがないために、MgO粉体が沈降しやすく、液経路内で固着・閉塞が発生しやすい。
また、図2に示す塗工装置900の場合、塗工液LQは絶えず循環しているので循環している液経路内で固着・閉塞が発生することは少ないが、上述した特許文献1および図1に示す塗工装置800も同様に、MgOを分散させるためには高い剪断力を塗工液LQに作用させる大きなエネルギが必要で、MgO粉体と溶剤との摩擦により塗工液LQの温度が上昇することにより、MgO粉体の沈降・凝集が発生しやすい。そして、塗工装置800,900の双方とも、塗工液LQの滞留が起き易い部分では、MgO粉体の固着が生じ、それが成長して詰まりやすい状態となっている。このようなことにより、従来の特許文献1および図1に示す塗工装置800や図2に示す塗工装置900などでは、液送ポンプ820,920や三方弁930などの流路内で詰まりなどが発生し、基板上への吐出が不安定となるおそれがある。
そして、上記のように、塗工液LQの塗布量にムラが生じた場合、製造されたプラズマディスプレイパネルにおいては、放電遅れ・放電確率がセルにより異なってしまう。このため、輝度の不均一、スキャン不良を引き起こしてしまうおそれがある。
【0020】
本発明は、上述したような問題点に鑑みて、塗工液を長期間安定して吐出可能な塗工装置、塗工方法、および、プラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1に記載の発明は、無機粉粒物が溶剤中に分散された塗工液を貯溜する塗工液タンクと、この塗工液タンクに接続され前記塗工液を流通する流通経路と、この流通経路に接続され前記流通する塗工液を吐出する吐出手段と、前記塗工液タンクから前記吐出手段までを流通する前記塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整する液温調整手段と、を具備したことを特徴とした塗工装置である。
【0022】
請求項6に記載の発明は、無機粉粒物が溶剤中に分散された塗工液を吐出手段へ供給して吐出させる塗工方法であって、前記塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整して前記吐出手段へ供給させることを特徴とする塗工方法である。
【0023】
請求項7に記載の発明は、放電空間を介して対向配置された一対の基板と、これら一対の基板のうち一方の基板の内面上に形成された複数の電極対と、これら電極対上を被覆する誘電体層と、この誘電体層上を被覆する保護層とを備えたプラズマディスプレイパネルを製造するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前記保護層を形成する保護層形成工程は、酸化マグネシウム(MgO)粉体を溶剤に分散させた塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整して吐出させて塗布し、前記保護層を形成するMgO粉体層を形成する塗布工程を含むことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について図面に基づいて説明する。
なお、本実施の形態では、前面基板の保護層が薄膜MgO層および結晶MgO層からなる2層構造となったプラズマディスプレイパネルを製造する構成を例示するが、当該保護層は結晶MgO層からなる1層構造であってもよい。
【0025】
〔プラズマディスプレイパネルの構成〕
以下、製造するプラズマディスプレイパネルの構成について、図面を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの内部構造を示した分解斜視図である。図4は、プラズマディスプレイパネルを模式的に示した正面図である。図5は、図4のV−V線における断面図である。図6は、図4のVI−VI線における断面図である。
【0026】
本実施形態において、図3に示すように、1はプラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:PDP)であり、このPDP1は、例えば略平面長方形状に形成され、プラズマ放電による発光を利用して画像を表示する装置である。このPDP1は、画像表示領域を構成する放電空間Hを介して、互いに対向配置された一対の基板である背面基板2および前面基板3を備えている。
【0027】
これら背面基板2および前面基板3は、それぞれの外周縁部に図示しないシールフリットが設けられて封着されている。そして、封着された当該空間内部は例えば6.7×10Pa(500Torr)程度の減圧状態とされ、当該空間にはHe−Xe(ヘリウム−キセノン)系やNe−Xe(ネオン−キセノン)系の不活性ガスが充填されている。
【0028】
背面基板2は、例えば板状ガラス材にて平面長方形状に形成されている。この背面基板2の内面上には、図3に示すように、複数の直線状のアドレス電極21と、これらアドレス電極21上を覆うアドレス電極保護層22と、このアドレス電極保護層22上に一体的に設けられた隔壁23と、この隔壁23の放電セル231内部に充填された蛍光体層(24R,24G,24B)と、などがそれぞれ設けられている。
【0029】
具体的には、アドレス電極21は、例えばAl(アルミニウム)などにて形成され、図3および図4に示すように、背面基板2の長手方向に略直交して一定の間隔で配設されている。それぞれのアドレス電極21の一端には図示しないアドレス電極引出部が形成されて、このアドレス電極引出部を介して各アドレス電極21に図示しない列電極駆動部からの電圧パルスが印加されるようになっている。
【0030】
アドレス電極保護層22は、例えばガラスペーストなどにて形成され、図3、図5および図6に示すように、背面基板2の内面上におけるアドレス電極引出部を除いた略全面に亘り設けられている。このアドレス電極保護層22は、パネル駆動時において、放電によるアドレス電極21の損耗を防止するとともに、駆動に必要な電荷を蓄積する誘電体層として機能する。なお、アドレス電極保護層22の外周縁部上には前述のシールフリットが設けられている。
【0031】
隔壁23は、図3および図5に示すように、例えばアドレス電極保護層22と同一成分のガラスペーストにて略梯子状に形成されている。そして、アドレス電極保護層22上において、アドレス電極21と略直交する複数の直線状の隙間S(図5参照)をそれぞれ間に挟んで、複数並列して設けられている。この隔壁23により放電空間Hが複数に区画され、これにて複数の矩形状の放電セル231が形成されている。そして、隔壁23は、その基端部から頂部までの高さがそれぞれ所定の高さ寸法に設定されており、背面基板2と前面基板3との間隙寸法を規定する。
【0032】
蛍光体層(24R,24G,24B)は、図3、図5および図6に示すように、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の蛍光体ペーストが放電セル231内部に順に充填され、これが焼成されることにより形成される。これら蛍光体層(24R,24G,24B)は、それぞれの放電セル231で発生した紫外光により励起され、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の可視光を発光する。
【0033】
前面基板3は、PDP1の表示面を構成し、例えば背面基板2と同一材料にて略同一形状に形成されている。この前面基板の内面上には、図3に示すように、アドレス電極21と略直交して一定の間隔で配列された複数の表示電極対31と、これら表示電極対31間にそれぞれ設けられた複数のブラックストライプ32と、これら表示電極対31およびブラックストライプ32上を覆う誘電体層33と、この誘電体層33を覆う保護層34と、などがそれぞれ設けられている。
【0034】
具体的には、表示電極対31は、図4および図5に示すように、放電ギャップG(図4参照)を介して対向する複数対の透明電極311a,311bと、これら透明電極311a,311bの一端部に積層する一対の直線状のバス電極312a,312bとを備えて構成されている。
【0035】
透明電極311a,311bは、図4に示すように、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜で略T字形状に形成されており、所定の放電セル231に対応して一対ずつ設けられている。
【0036】
バス電極312a,312bは、一対の透明電極311a,311bにおける放電ギャップG(図4参照)に対して反対側の端部に、それぞれ積層して設けられている。これらバス電極312a,312bのそれぞれの一端には図示しないバス電極引出部が形成され、このバス電極引出部を介して各透明電極311a,311bに図示しない行電極駆動部からの電圧パルスが印加されるようになっている。
このようなバス電極312a,312bは、図5に示すように、透明電極311a,311b上に積層して設けられた黒色無機顔料などからなるバス電極黒層313a,313bと、これらバス電極黒層313a,313bに積層して設けられたAg(銀)などを主成分とする金属材料からなる主導電層314a,314bとを備えた2層構造となっている。
【0037】
ブラックストライプ32は、図4および図5に示すように、バス電極黒層313a,313bと同質の材料にて、直線状に形成されている。このブラックストライプ32およびバス電極黒層313a,313bにて、前面基板3の外方から照射された可視光が吸収されるようになっている。
【0038】
誘電体層33は、図5および図6に示すように、例えばガラスペーストなどにて形成され、背面基板2のアドレス電極保護層22と対向して設けられている。この誘電体層33は、パネル駆動時において、放電による表示電極対31の損耗を防止するとともに、駆動に必要な電荷を蓄積する。
【0039】
保護層34は、図3、図5および図6に示すように、誘電体層33の内周面の全面を被覆するMgO(酸化マグネシウム)からなる薄膜MgO層341と、この薄膜MgO層341を被覆する結晶MgO層342とを備えた2層構造となっている。
【0040】
薄膜MgO層341は、例えば蒸着法やスパッタリング法などにより形成される。結晶MgO層342は、後述する塗工装置500を用いたスプレー法にて形成される。
このような保護層34は、誘電体層33が放電によりスパッタリングされることを防ぐとともに、低電圧で放電を発生させるための二次電子の放出層として機能する。
【0041】
〔塗工装置の構成〕
以下、上述したプラズマディスプレイパネルにおける結晶MgO層を形成するための塗工装置の構成について、図面を参照して説明する。
図7は、塗工装置の概略構成を示す概念図である。
【0042】
{塗工装置の構成}
図7において、500は塗工装置で、この塗工装置500は、スプレー法により、上述した薄膜MgO層341に詳細は後述する所定の組成の塗工液501を塗布し、焼成によりPDP1の結晶MgO層342となる単結晶MgO粉体層を形成する装置である。そして、塗工装置500は、塗工装置としても機能する塗工部510と、制御装置520と、を備えている。
【0043】
塗工部510は、塗工液501を塗布する構成である。この塗工部510は、塗工液タンク511と、流通経路512と、切替弁513と、吐出手段514と、返送管515と、を備えている。
【0044】
塗工液タンク511は、詳細は後述する塗工液501を貯溜するタンクである。なお、この塗工液タンク511は、例えば外面側に冷却液としての冷却水などの流通により貯溜する塗工液501を冷却する液温調整手段としての冷却装置511A、貯溜する塗工液501を攪拌しMgO粉体を分散させる分散機などの攪拌手段としての図示しない攪拌装置などを備えている。
なお、冷却装置511Aは、冷却液として冷却水を流通させる構成に限らず、例えばペルチェ素子などの電力の供給により冷却する構成や冷却液として冷媒を循環させて熱交換する熱交換器を備えた構成など、各種冷却する構成が適用できる。また、冷却装置511Aは、塗工液タンク511の外面側を冷却する構成に限らず、冷却液を流通する冷却管を塗工液タンク511内に配設して塗工液501を直接的に冷却する構成としてもよい。
また、塗工液タンク511には、塗工液501の温度を検出し検出信号を制御装置520へ出力する図示しない温度センサが配設されている。
【0045】
また、塗工液タンク511には、塗工液501を調製し、この調製した塗工液501を塗工液タンク511へ供給する調製装置600が接続されている。
この調製装置600は、調製タンク610と、攪拌翼621を有しMgO粉体と溶剤とを分散混合させる駆動機622を備えた分散機620と、調製した塗工液501を塗工液タンク511へ流入させるポンプ631を備えた移送管630と、を備えている。なお、調製タンク610にも塗工液タンク511と同様に、冷却装置511Aを備えた構成としてもよい。
【0046】
流通経路512は、一端が塗工液タンク511に接続され、他端に切替弁513に接続され、塗工液タンク511に貯溜する塗工液501を切替弁513へ流通する流通管512Aを備えている。
この流通管512Aには、液送ポンプ512Bが設けられている。液送ポンプとしては、ギヤポンプ、チューブポンプ、プランジャーポンプなどの定量ポンプや、インベラポンプなどの定圧ポンプなど、各種ポンプが利用できる。
【0047】
切替弁513は、例えば三方弁などが用いられる。この切替弁513には、流通管512Aと、吐出手段514と、返送管515と、が接続され、流通管512Aおよび吐出手段514を連通して塗工液501を吐出手段514へ流通させる塗布状態と、流通管512Aおよび返送管515を連通して塗工液501を返送管515へ流通させて塗工液タンク511へ返送させる循環状態と、に切り替える。この切替弁513としては、ベローズ式三方弁、ピストン式三方弁、さらには二方弁を組み合わせて流路制御できる構成など、各種構成が適用できる。
なお、切替弁513の切り替えは、例えば作業者の操作による手動切替、タイマなどによる自動切替など、いずれの方法が適用できる。
【0048】
吐出手段514は、切替弁513に一端が接続された吐出管514Aと、この吐出管514Aの他端に接続されたスプレーガン514Bと、を備えている。スプレーガン514Bは、塗工液501や洗浄液502と空気とを2液化状態に霧化して吐出する、いわゆる2流体エア霧化方式のものが用いられる。なお、これに限らず、ベル方式、塗工液501の圧力のみで霧化する方式の1流体方式など、各種構成が適用できる。
そして、吐出手段514は、切替弁513から流出される塗工液501を、吐出管514Aを介してスプレーガン514Bへ流通し、スプレーガン514Bから吐出させる。
【0049】
返送管515は、一端が切替弁513に接続され、他端が塗工液タンク511に接続され、切替弁513から流出される塗工液501を塗工液タンク511へ流通して循環させる。
【0050】
制御装置520は、切替弁513、液送ポンプ512Bを動作制御する。また、制御装置520は、塗工液タンク511の冷却装置511Aや攪拌装置を駆動制御可能としてもよい。そして、制御装置520による動作制御としては、液送ポンプ512Bへ電力を適宜供給して駆動させる動作制御、切替弁513の切替動作などが例示できる。
なお、本実施の形態では、液送ポンプ512Bは、塗工液501の塗布工程において、常時駆動する構成を例示するが、適宜駆動させて液送する構成としてもよい。また、切替動作としては、例えば制御装置520に設けられた図示しないタイマにより切替タイミングを制御する構成を例示するが、例えばクロックに基づく計時する装置などの各種計時手段で設定したプログラムにより切替タイミングを制御するなどしてもよい。
【0051】
{塗工液の組成}
そして、上述の塗工装置500で塗布する塗工液501は、以下の組成となっている。
塗工液501は、無機粉粒物であるMgO粉体を含有する無機物含有スラリである。この塗工液501は、溶剤にMgO粉体を分散して調製される。なお、分散剤を適宜添加することが好ましい。
【0052】
(MgO粉体の構成)
MgO粉体には、例えば、BET法によって測定した平均粒径が500Å以上(好ましくは2000Å以上)の気相法酸化マグネシウム単結晶粉体(以下、単結晶MgO粉体と称す)が用いられる。なお、MgO粉体としては、これに限らない。
このような単結晶MgO粉体を用いて結晶MgO層342を形成することにより、PDP1の放電特性が改善(放電遅れの減少、放電確率の向上)されることになる。すなわち、放電によって発生する電子線の照射によって、結晶MgO層342に含まれる粒径の大きな単結晶MgO粒から、300〜400nmにピークを有するCL発光に加えて、波長域200〜300nm(特に、235nm付近、230〜250nm内)にピークを有するCL発光が励起される。そして、当該単結晶MgO粒は、そのピーク波長に対応したエネルギ準位を有し、そのエネルギ準位によって電子を長時間(数msec以上)トラップすることができる。この電子が電界によって取り出されることで、放電開始に必要な初期電子が得られ、結果として、放電遅れが減少し、放電確率が向上する。
【0053】
(溶剤の構成)
MgO粉体を分散させる溶剤は、極性が強いものほど分散に対して有利に働くため、強い分散を示すものが好ましい。強い分散を示す溶液としては、グリコールやIPA(2−プロパノール)などのアルコールなどが挙げられる。スプレー法においては、早く揮発することが条件となるために、沸点が低く分散させやすいアルコールが特に好ましい。
また、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル化合物、ジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物、ジメチルホルムアミドなどの窒素化合物においても分散が可能である。無極性の溶剤(炭化水素系)ではMgO粉体を分散させることはできない。
MgO粉体の溶剤に対する分散は、MgOの酸素またはマグネシウムと親水基(水酸基、カルボキシル基、スルホン基、アミン基など)とによる水素結合もしくは静電引力(極性によるもの)により行なわれる。
【0054】
(分散剤の構成)
分散剤は、親水基および疎水基を有したものである。すなわち、疎水基ならびに親水基を有する分散剤を用いることにより、MgO粉体の分散性の向上が可能である。これは、親水基とMgOとが引き付け合うことと、分子量の大きい疎水基が存在することによる見掛け比重の低下により、分散性の向上が図れる。
そして、分散剤の塗工液501中における濃度は、0.1wt%以上3wt%以下であることが好ましい。このような分散剤濃度とすれば、MgO粉体の沈降が発生することを防止でき、好適にMgO粉体を分散させることができる。
親水基としては、水酸基(−OH)が特に強い分散性を示す。アルデヒド基、アミン基、スルホン基などでも分散は可能であるが、分散剤機能としては弱いので、分散性の観点から水酸基が好ましい。なお、カルボキシル基(カルボン酸)を持つもの(酢酸など)ではMgOを溶解させてしまうので好ましくない。
【0055】
特に分散剤は、水酸基を溶剤と同数以上の価数分含有することが好ましい。また、分散剤は、水酸基が1価の場合は分子量が100以上であり、水酸基が2価の場合は分子量が62以上であり、水酸基が3価の場合は分子量が64以上であることが好ましい。水酸基を持つ分散剤として効果が高いものは、グリセリン、エチレングリコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールなどが挙げられる。水酸基の場合では水酸基の価数が多い程、分散性が良好となる。そのため、水酸基が3価のグリセリンがこの中では最も分散性能が高い。
このようなグリセリン、エチレングリコール、アセチレングリコールを分散剤として使用した場合では、配管などの液流路の表面を分散剤がコーティングする作用があり、それによりMgO粉体の液経路内での付着を減少させ、液経路での圧損が低減することで、安定した吐出が可能となる。
疎水基としてはアルカン、アルケン、脂肪酸などが挙げられ、水酸基と疎水基を組み合わせた分散剤を用いることにより、MgO粉体の分散性が向上する。
【0056】
以上を踏まえ、分散剤としては、例えば、アセチレンアルコール、1−ヘプタノール(ヘプチルアルコール)、1−オクタノール(オクチルアルコール)、1−ノナノール(ノニルアルコール)、1−デカノール(デシルアルコール)、1−ウンデカノール(ウンデシルアルコール)、1−ドデカノール(ドデシルアルコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、アセチレングリコール、グリセリンのいずれかを適宜採用できる。
【0057】
また、親水基および疎水基を有する分散剤として、アニオン界面活性剤およびアニオンポリマの少なくともいずれか一方を用いてもよい。
すなわち、アニオン界面活性剤およびアニオンポリマは、負電荷を発生するため、MgO(Mg2+)の静電引力によりMgOに吸着する。そして、コロイドを形成し、見かけ比重を下げるとともに、アニオン界面活性剤またはアニオンポリマ同士でのクーロン斥力により粒子間の距離が離れる。これによりMgO粉体の凝集・沈降が発生し難く、MgO粉体の分散性が向上する。
また、アニオン界面活性剤およびアニオンポリマを混合して用いることで、見掛け比重をさらに大きく下げることができるために、分散性がより一層向上する。
なお、強い負電荷を発生するアニオンポリマを使用すると、MgOとポリマの結合が強くなり、ポリマが凝集剤の役割を果たしてしまうことで、MgOが凝集し沈降を促進してしまい、分散が行われないおそれがあるので好ましくない。
そして、アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸系、硫酸エステル系、スルホン酸系、アクリル酸系などのアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0058】
カルボン酸系のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸ナトリウム(R-O(CH2CH2O)nCH2COONa)が挙げられる。構造式中のRはアルキル基である。特に、R部分の炭素数が12のラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム、R部分の炭素数が14のミリスチル酸エーテルカルボン酸ナトリウム、R部分の炭素数が16のバルミチルエーテルカルボン酸ナトリウム、R部分の炭素数が18のステアリルエーテルカルボン酸ナトリウムが好ましい。
この他にもカルボン酸系のアニオン界面活性剤としては、アクリル酸塩、脂肪酸塩、多価カルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマ酸塩、ポリマ酸塩などが挙げられ、中でもカルボン酸塩(アクリル酸塩を含む)は好ましい。
【0059】
硫酸エステル系のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(R-O(CH2CH2O)nSO3Na)が挙げられる。構造式中のRはアルキル基である。特に、R部分の炭素数が12のラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム、R部分の炭素数が14のミリスチルエーテル硫酸エステルナトリウム、R部分の炭素数が16のバルミチルエーテル硫酸エステルナトリウム、R部分の炭素数が18のステアリルエーテル硫酸エステルナトリウムが好ましい。
この他にも硫酸エステル系のアニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩などが挙げられる。
【0060】
スルホン酸系のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム(R-SO3Na)が挙げられる。構造式中のRはアルキル基である。特に、R部分の炭素数が12のラウリルスルホン酸ナトリウム、R部分の炭素数が14のミリスチルスルホン酸ナトリウム、R部分の炭素数が16のバルミチルスルホン酸ナトリウム、R部分の炭素数が18のステアミルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
この他にもスルホン酸系のアニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0061】
アニオンポリマとしては、カルボン酸系のポリアクリルアミド・アクリル酸塩が挙げられ、特にアクリルアミド・アクリル酸ナトリウム(-(CH2CHCONH2)m-(CH2-CH-COONa)n-)が好適である。構造式中のmはアクリルアミドであり、nはアクリル酸ナトリウムである。
〔PDPの製造方法〕
次に、上述した構成のPDP1の製造方法における製造動作について説明する。
図8は、スプレー法による単結晶MgO粉体層の形成工程を示した模式図である。
【0062】
PDP1の製造に際して、PDP1の背面基板2の製造ラインにおいて、ガラス基板の内面側を超音波洗浄処理や中性洗剤を用いた水洗処理などにより十分に洗浄しておく。この後、当該ガラス基板の内面側の全面に金属薄膜を形成して、フォトリソグラフィ法によりアドレス電極21のパターンを形成する。このアドレス電極21上にガラスペーストを塗布して、当該ガラスペーストを成形・焼成することによりアドレス電極保護層22および隔壁23を形成する。そして、放電セル231内部にスクリーン印刷法などにより赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の蛍光体ペーストを塗布し、これを焼成して蛍光体層(24R,24G,24B)を形成する。これにより、PDP1の背面基板2が完成する。
【0063】
一方、PDP1の前面基板3の製造ラインにおいて、ガラス基板の内面側を超音波洗浄処理や中性洗剤を用いた水洗処理などにより十分に洗浄しておく。この後、当該ガラス基板の内面側の全面に透明電極材料層を形成して、フォトリソグラフィ法などにより複数の透明電極311a,311bを形成する。この透明電極対上にスクリーン印刷法などにより黒色無機顔料のペーストパターンを積層形成し、更にこのパターン上にAgペーストのパターンを積層形成する。そして、これらのパターンを焼成して、バス電極黒層313a,313bおよび主導電層314a,314bからなる2層構造のバス電極312a,312bを形成する。この後、これらバス電極312a,312b間にスクリーン印刷法などにより黒色無機顔料のペーストパターンを塗布して、これを焼成して複数のブラックストライプ32を形成する。さらに、透明電極311a,311b、バス電極312a,312bおよびブラックストライプ32を被覆する状態にダイコータなどによりガラスペーストを塗布して誘電体層33を形成する。そして、この誘電体層33の上に蒸着法やスパッタリング法などにより薄膜MgO層341を成膜形成する。さらに、図8に示すように、この薄膜MgO層341上に、図7に示す塗工装置500を用いたスプレー法にて単結晶MgO粉体層を形成し(以下に詳述)、これを焼成して結晶MgO層342を形成する。これにより、PDP1の前面基板3が完成する。
【0064】
すなわち、図7に示す塗工装置500による塗布工程としては、あらかじめ調製した塗工液501を塗工液タンク511に貯溜しておく。また、制御装置520に塗工液501を塗布する条件および洗浄する条件を設定しておく。
そして、これら各種運転条件が設定された制御装置520に塗布工程を実施する設定入力を作業者が実施すると、制御装置520は、切替弁513の切替状態を適宜設定する。
具体的には、まず、流通管512Aが返送管515に接続する状態に切替弁513を切替制御し、塗工液501が流通管512A、切替弁513および返送管515を介して循環する塗布待機状態である循環状態とする。この状態で、制御装置520が所定の駆動条件で液送ポンプ512Bを駆動させることで、塗工液501が流通管512Aから切替弁513内を通って返送管515へ流通し、塗工液タンク511に返送されて循環する循環状態となる。この循環および塗工液タンク511の攪拌装置により、塗工液501は固液分離することなく略均一な組成が維持される。
【0065】
そして、塗工液501の塗布に際して、例えば薄膜MgO層341が成膜形成された前面基板3が所定位置に搬入されたことをセンサからの検出信号に基づいて認識するなどにより、制御装置520は流通管512Aがスプレーガン514Bに連通して塗工液501を吐出する状態、すなわち流通管512Aが吐出管514Aに接続する塗布状態に、切替弁513の切替状態を適宜設定する。
この切替制御により、流通管512Aが吐出管514Aに接続する状態となり、循環していた塗工液501は、流通管512Aから切替弁513内を通って吐出管514Aへ流通し、スプレーガン514Bから空気と2液体化された霧化状態で薄膜MgO層341上に塗布される。この塗布の際、前面基板3は加温され、溶剤が直ちに乾燥され、MgO粉体が薄膜MgO層341上に付着する状態とすることが好ましい。
この塗布が完了、例えば薄膜MgO層341の前面に所定量の塗工液501が塗布されたことを時間経過などにより制御装置520が認識すると、制御装置520は再び切替弁513を切替制御して、上述した循環状態とする。
【0066】
〔塗工装置の作用〕
{実験}
次に、上記本実施の形態における塗工装置500における塗工処理効果を確認するための実験について、図面を参照して説明する。
図9は、本実施の形態における塗工処理効果を確認するための実験用装置の概略構成を示す概念図である。
なお、図9は、冷却装置511A、調製装置600および制御装置520の構成を省略した塗工部510の構成を示す。
【0067】
(実験装置の構成)
確認実験における本実施の形態の塗工装置500としては、塗工部510におけるスプレーガン514Bを洗浄する洗浄部550を設けている。
すなわち、図9に示すように、塗工部510における切替弁513とスプレーガン514Bとの間の吐出管514Aに、二方弁951を設け、この二方弁951に洗浄液502を貯溜する洗浄液タンク952に一端が接続する洗浄管953を接続している。そして、二方弁951は、塗工液501をスプレーガン514Bから吐出する塗布状態と、洗浄液502が洗浄液タンク952から洗浄管953を介して吐出管514Aに流入してスプレーガン514Bから吐出される洗浄状態と、を切替可能となっている。
そして、実験用装置は、上記図7に示す構成における塗工液タンク511に、直径寸法が50mmの2枚の攪拌翼を有し300rpmの回転速度で攪拌翼を回転させる攪拌装置を設けた。
液送ポンプ512Bとしては、ギヤポンプを用い、インバータ周波数を変化させてギヤポンプに接続されているモータ回転数を変化する構成とした。
そして、塗工液タンク511から切替弁513までの流通管512Aを10m、切替弁513から塗工液タンク511までの返送管515を10m、切替弁513からスプレーガン514Bまでの吐出管514Aを20mとして、内径が2mmでMgO粉体の付着性が比較的に低いPFAチューブを用いて配管した。
また、塗工液タンク511内にヒータを設けてフィードバック制御により塗工液501の温度が目的温度±1℃以内となるように構成した。
【0068】
(実験方法)
実験方法としては、塗工液501の吐出の変化状況と、切替弁513における粉体付着状況と、ガラス基板に塗布した塗布状態と、放電遅れの測定と、について実験した。
そして、各実験において、塗工液501として、粉体平均粒径が1μmの酸化マグネシウム粉末を用い、メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール:IPA)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)を用い、それぞれ5wt%の濃度で超音波分散機にて分散させて調製したものを用いた。
また、洗浄液502としては、塗工液501と同質の溶剤を主要成分、すなわち同一組成の溶剤とした。
そして、塗工液501の塗布条件としては、15ml/分の流量で循環および塗布する状態で液送ポンプ512Bを駆動させた。また、洗浄液502の流通は、50ml/分とした。
さらに、スプレーガン514Bは、塗工液501の塗布時に、エア霧化圧を0.2MPaとした。
【0069】
(1)吐出変化状況の実験
塗布工程として、塗工液501を吐出する塗布状態を1分間、塗工液501を循環させる循環状態で1分間を1サイクルとし、それぞれ200回繰り返した。また、洗浄工程としては、塗布工程を実施した後に毎回10秒間実施した。
そして、塗工液501の温度を15℃から70℃までの範囲で適宜設定し、塗工装置500による各溶剤を用いた塗工液501の吐出時の吐出量をそれぞれ測定し、吐出量のばらつき、すなわち標準偏差を演算した。洗浄液502の温度は常温とした。なお、塗工液501のスプレーガン514Bから吐出される温度は、流通過程で冷却され、塗工液タンク511内の塗工液501を70℃に設定しても、30℃以下であった。
また、この吐出変化状況の実験後に、塗工装置500を分解し、内部状況を観察した。この分解観察部位としては、液送ポンプ512Bおよび切替弁513とした。
この塗工液501の吐出量のばらつきである標準偏差の結果を図10に示す。
【0070】
(2)切替弁における粉体付着状況の実験
この切替弁513におけるMgO粉体の付着状況の実験として、上述した(1)吐出変化状況の実験で分解した切替弁513の乾燥重量を測定し、付着した不純物、すなわちMgO粉体量を測定した。切替弁513の乾燥は、50℃に設定した温風循環炉で1時間乾燥し、その後の重量を測定した。そして、塗布実験の実施前にあらかじめ切替弁513の乾燥重量を測定しておき、測定後の乾燥重量との重量差をMgO粉体の付着量として演算した。
その結果を図11に示す。
【0071】
(3)塗布状態の実験
この塗布状態の実験としては、塗布工程を200回実施した後に、1辺が1000mmの略正方形のソーダガラス上に塗工液501を塗布し、透過率について比較評価した。透過率の測定は、ソーダガラスの面内領域の20カ所とした。
そして、塗工液501としては、溶剤にメタノールおよびエチレングリコールを用いた2種類とした。そして、エチレングリコールを溶剤に用いた塗工液501を塗布したガラス基板は、溶剤の乾燥のために、80℃に設定した温風循環炉で10分間乾燥した。なお、空気の透過率を100%としたとき、塗布後のガラス基板の透過率が70%となる状態に設定して塗工液501を塗布した。
この透過率の測定結果を図12および図13に示す。なお、図12は溶剤にメタノールを用いた場合の透過率を示すグラフで、図13は溶剤にエチレングリコールを用いた場合の透過率を示すグラフである。
【0072】
(4)放電遅れの実験
この放電遅れの実験としては、塗工液501として溶剤にメタノールおよびエチレングリコールを用いて調製した塗工液501の温度を、室温である23℃と、40℃と、60℃にそれぞれ設定し、(1)吐出変化状況の実験と同様に塗工液501の塗布を200サイクル実施した後に、塗工液501を塗布してPDP1を製造した。すなわち、PDP1の製造に利用される基板の誘電体層33上に塗工液501を塗布して単結晶MgO粉体層を形成し、焼成して結晶MgO層342を形成した基板をそれぞれ用い、PDP1を製造した。なお、塗工液501に用いるMgO粉体としては、フォトルミネセンス強度が十分に大きく放電確率特性が高い単結晶MgO粉体を利用した。
そして、製造したPDP1における放電遅れをパネル面内の20カ所で測定した。放電遅れは、放電を発生させるための電圧を印加してから実際に放電が起きるまでの時間であって、結晶MgO層342を設けないPDPにおける平均値で規格化した。
この放電遅れの測定における各測定箇所のばらつき結果を、図14および図15に示す。なお、図14は溶剤にメタノールを用いた場合の放電遅れの測定結果を示すグラフで、図15は溶剤にエチレングリコールを用いた場合の放電遅れの測定結果を示すグラフである。
【0073】
(実験結果)
(1)吐出変化状況の実験
図10に示す結果から、スプレーガン514Bからの吐出量の標準偏差は、塗工液501の塗工液タンク511における温度が上がるにしたがって、指数関数的に増大することが認められた。特に、溶剤がメタノールの場合では、温度が約30℃から吐出量の標準偏差が急激に増大した。溶剤がエタノールおよびIPAの場合では、約50℃から吐出量の標準偏差が急激に増大した。溶剤がエチレングリコールの場合では、温度が70℃まで、吐出量の標準偏差の増大はほとんどなく、吐出量が安定していた。
すなわち、メタノール、エタノール、IPAおよびエチレングリコールの沸点が、それぞれ65℃、78℃、82℃、198℃であり、塗工液501の沸点より30℃低い温度よりも高くなると、吐出量が不安定となり、吐出量の標準偏差が増大したものと考えられる。
そして、200回の吐出後の分解観察では、塗工液501の塗布実験における塗工液501の温度設定が高くなるにしたがって、液送ポンプ512Bおよび切替弁513内でのMgO粉末の付着が多いことが認められた。
【0074】
(2)切替弁における粉体付着状況の実験
図11に示す結果から、溶剤にメタノールを使用した場合では、30℃付近から切替弁513へのMgO粉体の付着量が増大し始め、50℃でほぼ飽和した。また、溶剤にエタノールおよびIPAを使用した場合では、溶剤にメタノールを使用した場合と同様の傾向を示したが、付着量が増大し始める温度はメタノール、エタノールおよびIPAの順で高くなることが認められた。また、溶剤にエチレングリコールを使用した場合では、塗工液501を70℃に加温した場合でも、付着量が急激に増大せず、安定していた。
なお、温度が30℃より低い状態でも、0.2g強で付着量が認められたが、これは塗布を実施してスプレーガン514Bを洗浄した後に切替弁513を塗工部510から取り外して乾燥したため、切替弁513内に残留する塗工液501に含まれるMgO粉体と考えられる。
【0075】
(3)塗布状態の実験
図12に示す結果から、溶剤にメタノールを用いた場合では、塗工液501の温度が40℃以上となると透過率の範囲が広がり、塗工液501の温度が高くなるに従って透過率の範囲がより大きくなることが認められた。そして、(1)吐出力変化状況の実験における図10に示す結果と比較すると、温度の上昇に対応して吐出量のばらつきが増大することがわかる。
また、図13に示す結果から、溶剤にエチレングリコールを用いた場合では、塗工液501の温度を高くしても、透過率のばらつきの偏差が安定しており、図10に示す結果と対応していることがわかった。
(4)放電遅れの実験
図14に示す結果から、溶剤にメタノールを用いた場合では、塗工液501の温度が40℃以上となると、温度が高くなるにしたがって、放電遅れのばらつきが大きくなることが認められた。これは、MgO粉体が均一に塗布されずにむらのある単結晶MgO粉体層が形成され、この単結晶MgO粉体層におけるMgO粉体が存在しない、もしくは存在しても少ないなどのために、放電遅れに十分に寄与できなかったためと考えられる。
また、図15に示す結果から、溶剤にエチレングリコールを用いた場合では、室温から60℃に塗工液501の温度を上昇させても、放電遅れのばらつき範囲はほとんど変動していなかった。すなわち、安定した塗工が得られ、MgO粉体が均一に塗布されたものと考えられる。
【0076】
そして、上述したように、塗工液501として、分散性が良好な水酸基を有する溶剤を用いるので、MgO粉体の分散はMgOの酸素と水酸基による水素結合によるものと考えられる。このMgOとその周囲に付着した溶剤で1つの大きな塊状となることにより、見掛け比重が低下し、分散することとなる。
また、分散したMgO粉体は、粒径が数千nm〜数μmであるため、コロイドの振動であるブラウン運動が起きている。
そして、温度が高い状態では、活発なブラウン運動により、MgO粒子のゼータ電位の絶対値が高くなる。そして、金属などの導電性の物質と近接すると、静電付着が生じることとなる。
また、MgO粒子が活発なブラウン運動により表面が活性化すると、凝集が生じやすくなる。MgO粒子の周囲に付着する荷電粒子によりゼータ電位が発生するが、このゼータ電位はMgO粒子の逆極性となるため、MgOの活性面が現れ、静電引力によりコロイドを引き付けやすくなる。
これらのことから、塗工液501の温度が溶剤の沸点に近くなる、さらにはより高い温度となるにしたがって、塗工液501の流路における特に液送ポンプ512Bや切替弁513にMgO粉体の付着が増大し、吐出量がばらつきやすくなるものと考えられる。
【0077】
{作用効果}
上述したように、上記実施の形態では、MgO粉体を溶剤中に分散した塗工液501をスプレーガン514Bから吐出する際、塗工液501を貯溜する塗工液タンク511からスプレーガン514Bまでを流通する塗工液501の温度を溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整している。
このため、MgO粉体が溶剤中に適切に分散する状態が得られ、塗工液501の流路で凝集・固着が生じず、安定して塗工液501を吐出できる。したがって、略均一にMgO粉体を塗布できることから、安定した特性のPDP1が得られる。
【0078】
そして、塗工液501を貯溜する塗工液タンク511に塗工液501が溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整する構成、すなわち塗工液501を冷却する冷却装置511Aを設けている。
また、上述した(1)吐出変化状況の実験でも確認したように、塗工液501を70℃に加温して流通させてもスプレーガン514Bから吐出される温度は30℃以下となる。このため、塗工液501の流路における最上流側となる塗工液タンク511の塗工液501を溶剤の沸点より30℃以上低い温度となるように冷却することで、吐出されるまでの流通する塗工液501の温度は、溶剤の沸点より30℃以上低い温度で維持されることとなり、流路全体を冷却する構成を設ける場合に比して、簡単な構成で安定した吐出が得られる。
そして、塗工液タンク511には、MgO粉体の沈降を防止すべく攪拌手段を設けている。このような構成に冷却装置511Aを設けているので、分散状態の維持のために大きな剪断力が作用して温度が上昇してしまうおそれがある塗工液タンク511で冷却する構成を設けることで、効率よく簡単な構成で塗工液501の温度を調整できる。
【0079】
また、塗工液501を調製する調製装置600が接続する塗工液タンク511に冷却装置511Aを設けている。このため、調製装置600における塗工液501の調製時に大きな剪断力の作用により高い温度の塗工液501が塗工液タンク511へ供給されても、吐出する前に冷却装置511Aで冷却されることとなり、十分に安定した塗工が得られる。
さらに調製装置600にも冷却装置511Aを設けることにより、塗工液タンク511に供給される以前に塗工液501が冷却されていることから、特に有効である。
【0080】
そして、冷却装置511Aとして、冷却水を流通させることにより塗工液501を冷却するので、簡単な構成で冷却のためのコストも低く抑制でき、効率的な塗工が得られる。
すなわち、溶剤の沸点より30℃以上低い温度に設定すればよいので、例えば水道水や地下水、海水などを流通させる簡単な構成でよく、また塗工液501の温度を溶剤の沸点より30℃以上低い温度に設定すればよいことから室温程度に冷却すれば十分であり、塗工液501と熱交換された冷却水もあまり温度は上昇しないことから、そのまま流出させても環境に悪影響を与えるおそれもなく、容易に冷却できる。
さらに、例えば水道水や地下水などを流通させるのみで塗工液501を安定して吐出できる温度に調整されるので、制御装置520などにて設定する必要がなく、構成の簡略化が容易にできる。
なお、温度センサなどを設けて、温度が上昇した際に冷却液を流通させる構成としてもよい。この構成により、必要時のみ冷却液を流通させればよく、より運転コストの低減が得られ、効率的な塗布が得られる。
【0081】
また、塗工装置500として、無機粉粒物であるMgO粉体を溶剤中に分散した無機物含有スラリの塗工液501を塗布する構成としている。
このため、沈降分離しやすく流路内の閉塞が生じやすい無機物含有スラリの塗工液501でも、溶剤の沸点より30℃以上低い温度に設定することで凝集や固着を防止できることから、塗工液501が流通する経路を洗浄する構成を設けなくとも、安定した吐出が得られ、構成のより簡略化が容易に得られる。
そして、図9に示す実験用装置のように、洗浄部550を設けることにより、循環状態で吐出管514Aやスプレーガン514B中に残留する塗工液501中のMgO粉体が分離して凝集・固着を生じる不都合を防止でき、より長期間安定した吐出が得られる。
また、洗浄に利用する洗浄液502として、塗工液501と同質の溶剤を主要成分としている。特に、同一の溶剤を洗浄液502として用いている。
このため、容易に塗工液501を洗い流すことができ、洗浄液502の必要量の低減や洗浄時間の短縮などが容易に得られる。さらに、塗工液501とともに洗浄液502が混合して廃液として回収されても、廃液の処理が容易にできる。また、誤って塗工液501に混入しても、塗布工程に影響を生じず、洗浄工程の処理制御がより容易にできる。
さらに、塗工液501を塗布する状態より洗浄液502の流量が多くなるようにしている。
このため、制御の容易性や構成の簡略化の観点でタイマ制御する構成でも、確実に洗浄できるとともに、切替弁513の凹凸により残留しやすいMgO粉体も十分に洗い流すことができ、閉塞や固着を長期間防止でき、安定した塗布が長期間得られるとともに、洗浄の頻度も低減でき、塗布効率の向上も容易に図れる。
【0082】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、上述した一実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
【0083】
すなわち、PDP1における結晶MgO層342を形成するために単結晶MgO粉体層をスプレー法で形成するための構成を例示して説明したが、これに限らず、各種被塗布物へ各種塗工液を塗布する塗工装置に適用できる。例えば、MgO粉体を含有するスラリに限らず、有機顔料を含有する液状物、無機顔料を含有するスラリ、表面処理剤や抗菌剤など、各種塗工液を塗布する構成に適用できる。
【0084】
そして、製造するPDP1の構成としても、上述した構成に限らず、各種構成が適用できる。
例えば、上記実施の形態のPDP1を、前面基板3に表示電極対31を形成し誘電体層33によって被覆しかつ背面基板2側に蛍光体層(24R,24G,24B)とアドレス電極21を形成した反射型交流PDPとするとしたが、これに限らない。すなわち、本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法は、前面基板側に表示電極対とアドレス電極を形成して誘電体層によって被覆し、背面基板に蛍光体層を形成した反射型交流PDPや、前面基板側に蛍光体層を形成し背面基板側に表示電極対とアドレス電極を形成して誘電体層によって被覆した透過型交流PDP、放電空間の表示電極対とアドレス電極との交差部分に放電セルが形成される三電極型交流PDP、放電空間の表示電極とアドレス電極との交差部分に放電セルが形成される二電極型交流PDPなどの種々の形式のPDPに適用することができる。さらには、プラズマディスプレイパネルに限らず、液晶パネルや有機ELパネルなど、各種表示装置の製造における各種材料を塗布する構成にも適用できる。
さらには、上記実施の形態では隔壁23を梯子状に形成するとしたが、これに限らず、井桁状やストライプ状の隔壁としてもよい。
また、上記実施の形態では、薄膜MgO層341は、薄膜MgO層341の全面を被覆するとしたが、これに限らず、例えば、透明電極311a,311bに対向する部分や逆に透明電極311a,311bに対向する部分以外の部分などのように、部分的にパターン化して形成するようにしてもよい。
【0085】
そして、制御装置520を設けて自動的に塗工液501の流通状態を制御する構成について説明したが、例えば作業者が切替操作するなどしてもよい。さらに、制御装置520で一元制御する構成に限らず、切替弁513にタイマなどを設け、独立して切替動作する構成とするなどしてもよい。すなわち、制御装置520を設けない構成としてもよい。
また、塗工装置500として、図9に示す実験用装置のように、洗浄部550を設けるなど、塗工液501が流通する経路内を洗浄する構成を設けてもよい。
さらに、塗工液501を冷却する構成として説明したが、上述したように、例えば塗工液501が室温より上昇しないなどの場合など、積極的に冷却する場合に限らず、ある程度温度が上昇した場合に冷却するなど、溶剤の沸点より30℃以上低い温度となっていれば冷却しない構成とするなどしてもよい。
【0086】
また、塗工液タンク511に調製装置600を接続した構成を例示したが、例えば別途調製した塗工液501をポンプ631を用いずに手動により塗工液タンク511へ流入させる構成としてもよい。
さらに、攪拌装置として、図16に示すように、塗工液501を塗工液タンク511と分散機700とで循環させる構成としてもよい。すなわち、ポンプ631を有した移送管630を塗工液タンク511に接続し、ポンプ631の駆動により塗工液タンク511内の塗工液501を吸い上げて移送管630を流通させ、移送管630から再び塗工液タンク511内に流入されて循環する状態とする。この移送管630に、例えば超音波などを発生して流通する塗工液501のMgO粉体を分散させる分散機700を設ける。このような構成でも、塗工液501がMgO粉体の沈降分離などを生じることなく均一な組成で安定して貯溜させることができる。そして、このように循環させつつ分散させる構成では、分散エネルギにより次第に塗工液501の温度が上昇しやすくなるため、この図16に示すような構成についても冷却装置511Aを設けることで、上述したような安定した吐出が得られるので好ましい。
【0087】
本発明は、上述した一実施の形態および実施形態の変形のみに限ることなく、その他、本発明の目的を逸脱しない範囲で様々な応用が可能である。
【0088】
〔実施の形態の作用効果〕
上記実施の形態では、MgO粉体を溶剤中に分散した塗工液501をスプレーガン514Bから吐出する際、塗工液501を貯溜する塗工液タンク511からスプレーガン514Bまでを流通する塗工液501の温度を溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整している。
このため、MgO粉体が溶剤中に適切に分散する状態が得られ、塗工液501の流路で凝集・固着が生じず、安定して塗工液501を吐出できる。したがって、略均一にMgO粉体を塗布できることから、安定した特性のPDP1が得られる。
【0089】
また、放電空間Hを介して対向配置された一対の前面基板3および背面基板2と、これら一対の前面基板3および背面基板2のうちいずれか一方の内面上に形成された複数の表示電極対31と、これら表示電極対31上を被覆する誘電体層33と、この誘電体層33上を被覆する保護層34とを備えたPDP1を製造する製造工程における保護層34を形成する工程で、MgO粉体を溶剤中に分散した塗工液501を、溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調製して吐出させて塗布し、焼成により保護層34を構成する結晶MgO層342となる単結晶MgO粉体層を形成している。
このため、MgO粉体が溶剤中に適切に分散する状態が得られ、塗工液501の流路で凝集・固着が生じず、安定して塗工液501を吐出できることから、略均一にMgO粉体を塗布できるので、安定した特性のPDP1が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】従来の塗工装置を示す模式図である。
【図2】従来の三方弁を備えた塗工装置を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るプラズマディスプレイパネルの内部構造を示した分解斜視図である。
【図4】前記実施の形態におけるプラズマディスプレイパネルを模式的に示した正面図である。
【図5】図4のV−V線における断面図である。
【図6】図4のVI−VI線における断面図である。
【図7】前記実施の形態における塗工装置の概略構成を示す概念図である。
【図8】前記実施の形態におけるスプレー法による単結晶MgO粉体層の形成工程を示した模式図である。
【図9】塗工処理効果を確認するための実験用装置の概略構成を示す概念図である。
【図10】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験での吐出変化状況の実験結果を示すグラフである。
【図11】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験での切替弁におけるMgO粉体の付着状況の実験結果を示すグラフである。
【図12】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験でのメタノールを溶剤に用いた場合の塗布状態の実験結果を示すグラフである。
【図13】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験でのエチレングリコールを溶剤に用いた場合の塗布状態の実験結果を示すグラフである。
【図14】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験でのメタノールを溶剤に用いた場合の放電遅れの実験結果を示すグラフである。
【図15】前記実施の形態における塗工処理効果確認実験でのエチレングリコールを溶剤に用いた場合の放電遅れの実験結果を示すグラフである。
【図16】本発明の他の実施の形態における塗工装置の塗工部の概略構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0091】
1……プラズマディスプレイパネル(PDP)
2……背面基板
3……前面基板
31……表示電極対
33……誘電体層
34……保護層
500……塗工装置
501……塗工液
511……塗工液タンク
511A…温度調整手段としての冷却装置
512……流通経路
514……吐出手段
600……調製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉粒物が溶剤中に分散された塗工液を貯溜する塗工液タンクと、
この塗工液タンクに接続され前記塗工液を流通する流通経路と、
この流通経路に接続され前記流通する塗工液を吐出する吐出手段と、
前記塗工液タンクから前記吐出手段までを流通する前記塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整する液温調整手段と、
を具備したことを特徴とした塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工装置であって、
前記塗工液タンクは、前記塗工液を攪拌する攪拌手段を備え、
前記液温調整手段は、前記塗工液タンクに貯溜する前記塗工液の温度を調整する
ことを特徴とした塗工装置。
【請求項3】
請求項1に記載の塗工装置であって、
前記塗工液タンクは、前記無機粉粒物および前記溶剤を混合して前記塗工液を調製する調製装置が前記調製された塗工液を供給可能に接続され、
前記液温調整手段は、前記塗工液タンクに貯溜する前記塗工液の温度を調整する
ことを特徴とした塗工装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の塗工装置であって、
前記液温調整手段は、冷却液の流通により前記塗工液を冷却して温度を調整する
ことを特徴とした塗工装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の塗工装置であって、
前記塗工液は、前記無機粉粒物が酸化マグネシウム(MgO)であり、
前記吐出手段は、放電空間を介して対向配置された一対の基板と、これら一対の基板のうち一方の基板の内面上に形成された複数の電極対と、これら電極対上を被覆する誘電体層と、この誘電体層上を被覆する保護層とを備えたプラズマディスプレイパネルにおける前記誘電体層上に前記塗工液を塗布し、前記保護層が形成されるMgO粉体層を形成するものである
ことを特徴とした塗工装置。
【請求項6】
無機粉粒物が溶剤中に分散された塗工液を吐出手段へ供給して吐出させる塗工方法であって、
前記塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整して前記吐出手段へ供給させる
ことを特徴とする塗工方法。
【請求項7】
放電空間を介して対向配置された一対の基板と、これら一対の基板のうち一方の基板の内面上に形成された複数の電極対と、これら電極対上を被覆する誘電体層と、この誘電体層上を被覆する保護層とを備えたプラズマディスプレイパネルを製造するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記保護層を形成する保護層形成工程は、酸化マグネシウム(MgO)粉体を溶剤に分散させた塗工液を前記溶剤の沸点より30℃以上低い温度に調整して吐出させて塗布し、前記保護層を形成するMgO粉体層を形成する塗布工程を含む
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−103276(P2007−103276A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294506(P2005−294506)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】