説明

塗布型シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜の形成方法及びシリカ系被膜を有する電子部品

【課題】 埋め込み性に優れ、かつ凹凸の緩和にも優れ、機械強度の高い電子部品を得るための塗布型シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜の形成方法及びシリカ系被膜を有する電子部品を提供する。
【解決手段】 (a)SiX(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)を加水分解重縮合して得られるシロキサン樹脂、
(b)熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物、
(c)前記(a)及び(b)成分を共に溶解できる溶媒
からなる塗布型シリカ系被膜形成用組成物であって、(b)成分の配合割合が(a)成分のシロキサン樹脂重量に対して3〜15重量%である塗布型シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜の形成方法及びシリカ系被膜を有する電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、半導体デバイスは高性能化のために微細化が進行している。例えば、半導体デバイス中のトランジスタ部分であるSTI層(Shallow Trench Isolation)でも、素子分離間隔が狭くなってきており、最先端デバイスでのSTI層の素子分離間隔は90nm以下となっている。
【0002】
STI層に用いられる絶縁膜としては炭素成分(Si原子に直接結合しているメチルなど有機基)を含まないシロキサン樹脂被膜が用いられている。炭素成分を含まない理由としては、STI層周辺の形成は高温処理(700℃〜)が施されるため、絶縁膜中に炭素成分が含有されていると、高温処理によって炭素が放出され、トランジスタの性能に悪影響を及ぼすためである。
また、耐熱性が高く(〜1100℃)、機械強度が高く(ヤング率70GPa)パッケージプロセス耐性に優れることも挙げられる。
【0003】
STI層用の炭素成分を含まないシロキサン樹脂の絶縁膜を得る形成方法としてはCVD法(Chemical Vapor Deposition)と塗布法が挙げられる。現状、STI層の絶縁膜を得る方法としてはCVD法が多く、これは得られる膜の機械強度が塗布法に比べて高く、パッケージングプロセス等において有効なためである。
【0004】
しかし、CVD法は素子分離の凹凸に対してコンフォーマルに成膜されるため、成膜終了後の絶縁膜は素子分離の凹凸が反映された形状となる(図1)。このため、凸部分を平坦にする研磨工程(CMP)が必要となり、プロセス時間が増大する。
【0005】
また、CVD法による凹部への埋め込み性は、凹部のスペース幅が狭くなるほど困難になり、凹部内部に空洞が形成されてしまう(図2)。このため、近年の半導体デバイスの微細化の進行に伴い、CVD法は埋め込み性の課題が顕著化してきている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、塗布法によるSTI層用の炭素を含まないシロキサン樹脂の代表例としては、シラザン(SiN)が挙げられる。SiNは、微細スペースへの埋め込み性に優れ、凹凸の緩和にも優れている。
【0007】
また、SiN骨格の酸化によるSi−O−Si転換による緻密な骨格が形成できるため、機械強度も比較的高い。
しかし、SiNの酸化を施す工程が必要である(例えば、特許文献2及び3参照)。
また、SiN自身の安全性にも懸念点がある。
【0008】
一方、アルコキシシラン(Si−OR)の加水分解・重縮合から得られるシロキサン樹脂組成物も塗布法に分類される(アルコキシシランのゾルーゲル法と称される)。一般にゾルーゲル法で炭素を含まないシロキサン樹脂組成物を被膜にした場合、凹凸を有する基板での埋め込み性は悪い。
【0009】
これは、ゾルーゲル法で得たシロキサン樹脂を被膜にした際、重縮合反応及び溶媒の揮発により膜の収縮が誘発され、結果、凹部内部のシロキサン樹脂にはひっぱり応力が作用し、凹部内部の各サイドからシロキサン樹脂が剥がれるためと考えられる(図3)。
【0010】
一方、重縮合反応をゆっくり進行させる目的で、シロキサン被膜の硬化時の昇温速度を非常にゆっくりとすることで、埋め込み性を改善することも可能ではあると考えられるが、プロセス時間の増大がネックとなる。
【0011】
以上のようにそれぞれの手法を用いたSTI層用の絶縁膜には課題があるが、安全性及びプロセスの簡便性から、STI層へ適応可能なゾルーゲル法でのシロキサン樹脂組成物の開発が期待されている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−363515号公報
【特許文献2】特開平08−115910号公報
【特許文献3】特開平05−121572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、埋め込み性に優れ、かつ凹凸の緩和にも優れ、機械強度の高い電子部品を得るための塗布型シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜の形成方法及びシリカ系被膜を有する電子部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、炭素成分を含まず、埋め込み性に優れるシロキサン樹脂をゾルーゲル法で得ることを目的に、材料組成及び樹脂骨格の観点から鋭意研究を重ねた結果、ゾルーゲル法で得られる炭素成分を含まないシロキサン樹脂中に熱分解揮発性化合物を添加することで、埋め込み性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明のポイントは、熱分解揮発性物質の添加によって、シリカ被膜の硬化中のひっぱり応力が緩和できることにあると考えている。
【0015】
本発明は、(a)SiX(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)を加水分解重縮合して得られるシロキサン樹脂、
(b)熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物、
(c)前記(a)及び(b)成分を共に溶解できる溶媒
からなる塗布型シリカ系被膜形成用組成物であって、(b)成分の配合割合が(a)成分のシロキサン樹脂重量に対して3〜15重量%である塗布型シリカ系被膜形成用組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、前記(a)成分のシロキサン樹脂を得るのに用いるSiXが、テトラアルコキシシランである上記の塗布型シリカ系被膜形成用組成物に関する。
また、本発明は、前記(a)成分のシロキサン樹脂を得るのに用いる加水分解触媒が、硝酸又はマレイン酸若しくはマロン酸である上記の塗布型シリカ系被膜形成用組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、前記(c)成分の溶媒が、合成中においてはプロトン性溶媒である上記の塗布型シリカ系被膜形成用組成物に関する。
また、本発明は、塗布型シリカ系被膜形成用組成物が、凹凸を有する基板上に塗布される上記の塗布型シリカ系被膜形成用組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、基板上にシリカ系被膜を形成する方法において、上記のいずれかに記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜に含まれる有機溶媒を除去した後、該塗布膜を焼成することを特徴とするシリカ系被膜の形成方法に関する。
【0019】
また、本発明は、塗布型シリカ系被膜形成用組成物が塗布される基板の表面が、凹凸を有する上記のシリカ系被膜の形成方法に関する。
さらに、本発明は、基板上に上記の方法で形成されたシリカ系被膜を有する電子部品に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、埋め込み性に優れ、かつ凹凸の緩和にも優れ、機械強度の高い電子部品を得るための塗布型シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜の形成方法及びシリカ系被膜を有する電子部品を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明を実態するための最良の形態について詳細に説明する。本発明は(a)成分、(b)成分及び(c)成分を必須成分として含むものである。
〈(a)成分〉
(a)成分のシロキサン樹脂を得るのに使用するSiX(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)の加水分解性基Xとしては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アセトキシ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの中では、組成物自体の液状安定性や塗布特性等の観点からアルコキシ基が好ましい。
【0022】
加水分解性基Xがアルコキシ基であるSiXとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。これらの中でも反応性や反応副生成物の点から、テトラエトキシシランを用いるのが好ましい。
【0023】
(a)成分のシロキサン樹脂は、溶液安定性、シリカ被膜形成性、シリカ被膜の機械的強度・電気特性等の観点から、重量平均分子量(Mw)が、500〜20,000であることが好ましく、500〜13,000であることがより好ましい。この重量平均分子量が500未満ではシリカ系被膜の成膜性が劣る傾向があり、この重量平均分子量が20,000を超えると、溶媒との相溶性が低下する傾向がある。
【0024】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定され、かつ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算されたものである。
重量平均分子量(Mw)は、例えば、以下の条件によるGPCにより測定することができる。
【0025】
試料:シリカ系被膜形成用組成物10μL
標準ポリスチレン:東ソー株式会社製、標準ポリスチレン(分子量;190000、17900、9100、2980、578、474、370、266)
検出器:株式会社日立製作所社製、RI−モニター、商品名「L−3000」
インテグレーター:株式会社日立製作所社製、GPCインテグレーター、商品名「D−2200」
ポンプ:株式会社日立製作所社製、商品名「L−6000」
デガス装置:昭和電工株式会社製、商品名「Shodex DEGAS」
カラム:日立化成工業株式会社製、商品名「GL−R440」、「GL−R430」、「GL−R420」をこの順番で連結して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:23℃
流速:1.75mL/分
測定時間:45分
【0026】
〈(b)成分〉
(b)成分は、熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物が好ましい。
また、このポリオキシプロピレン単位を有する化合物中で250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発するものが好ましい。
【0027】
さらに、この化合物の分子量Mwは、溶媒への溶解性、シロキサン樹脂との相溶性などの観点から、300〜5,000であることが好ましく、300〜2,000であることがより好ましい。このような物質としては、例えば、ポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0028】
(b)成分は、ゾルーゲル法で得られる炭素成分を含まないシロキサン樹脂を凹凸基板にシリカ被膜を形成した際の埋め込み性を改善するキーマテリアルである。(b)成分の添加によって、シリカ被膜形成時の膜の応力緩和が誘発され、埋め込み性が改善されると推定している。
【0029】
〈(c)成分〉
(c)成分は、(a)成分のシロキサン樹脂と(b)成分の熱分解揮発性物質を共に溶解可能な溶媒でなければならない。とりわけ、合成中においては、プロトン性溶媒を用いることが好ましい。
【0030】
これは、炭素成分を含まないシロキサン樹脂合成中(SiXの加水分解・重縮合中)の溶媒が非プロトン性溶媒であると、シリカ粒子の沈殿が生じてしまうためである。このため、少なくとも本発明のシロキサン樹脂合成中はプロトン性溶媒を使用することが必須である。一方、合成終了後は、得られたシロキサン樹脂が溶解し、かつ(b)成分が溶解する溶媒であれば、特に限定はない。
【0031】
プロトン性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル等のエステル系溶媒などが挙げられる。
【0032】
この溶媒の配合割合は、シロキサン樹脂の濃度が3〜25重量%となるような量であることが好ましい。この溶媒の配合割合が3重量%未満では成膜性等が劣る傾向があり、25重量%を超えると安定性に問題が生じる。
【0033】
〈その他の成分〉
前記塗布型シリカ系被膜形成用組成物を得るためには加水分解触媒がある方がよい。
さらに、加水分解触媒としては、マレイン酸、マロン酸、硝酸が特に好ましい。この加水分解触媒の添加mol比率はSiXへの反応性、合成後組成物の安定性及び下地への塗布性の観点から、SiXのmol比率をAとしたときに、〔4A/3000〕〜〔4A/10〕の範囲が好ましく、〔4A/1000〕〜〔4A/100〕の範囲がさらに好ましい。
【0034】
前記塗布型シリカ系被膜形成用組成物を得るためには加水分解水がある方がよい。この加水分解水の添加mol比率はSiXへの反応性、合成後組成物の安定性及び下地への塗布性の観点から、SiXのmol比率をAとしたときに、〔4A/2〕〜〔4A×2〕の範囲が好ましく、〔4A/2〕〜〔4A×1〕の範囲がさらに好ましい。
【0035】
〈その他〉
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を電子部品に使用する場合は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含有しないことが望ましく、含まれる場合でも組成物中のそれらの金属イオン濃度が100ppb以下であることが好ましく、20ppb以下であることがより好ましい。
【0036】
これらの金属イオン濃度が100ppbを超えると、組成物から得られるシリカ系被膜を有する半導体素子等の電子部品に金属イオンが流入し易くなって、デバイス性能そのものに悪影響を与えるおそれがある。
【0037】
したがって、必要に応じて、例えば、イオン交換フィルター等を使用してアルカリ金属やアルカリ土類金属を組成物中から除去することが有効である。
しかし、光導波路や他の用途等に用いる際は、その目的を損なわないのであれば、この限りではない。
【0038】
このような本発明の塗布型シリカ系被膜形成用組成物を用いて、基板上にシリカ系被膜を形成する方法について、一般に成膜性及び膜均一性に優れるスピンコート法を例にとって説明する。ただし、シリカ系被膜形成方法はスピンコート法に限定されるものではない。
【0039】
まず、シリカ系被膜形成用組成物をシリコンウエハなどの基板上に、好ましくは500〜5000回転/分、より好ましくは500〜3000回転/分でスピン塗布して被膜を形成する。この回転数が500回転/分未満では膜均一性が悪化する傾向があり、5000回転/分を超えると成膜性が悪化するおそれがある。
【0040】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、0.1〜1.0μmの膜厚に好ましく用いることができ、0.2〜0.5μmの膜厚により好ましく用いることができる。
シリカ系被膜の膜厚を調整するためには、例えば、組成物中のシロキサン樹脂の濃度を調整してもよい。
【0041】
また、スピン塗布法を用いる場合、回転数を調整したり、塗布回数により膜厚を調整することができる。シロキサン樹脂の濃度を調整して膜厚を制御する場合は、例えば、膜厚を厚くする場合にはシロキサン樹脂の濃度を高くし、膜厚を薄くする場合にはシロキサン樹脂の濃度を低くすることにより制御することができる。
【0042】
また、スピン塗布法を用いて膜厚を調整する場合は、例えば、膜厚を厚くする場合には回転数を下げたり、塗布回数を増やしたりし、膜厚を薄くする場合には回転数を上げたり、塗布回数を減らしたりすることにより調整することができる。
【0043】
次いで、好ましくは50〜350℃、より好ましくは100〜300℃でホットプレートなどを用いて塗布膜中の有機溶媒を乾燥させることが好ましい。この乾燥温度が50℃未満では、有機溶媒の乾燥が十分に行われない傾向がある。
【0044】
次いで、有機溶媒が除去された塗布膜を好ましくは450〜1200℃、より好ましくは600〜900℃の加熱温度で焼成して最終硬化を行う。なお、最終硬化は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下で行うのが好ましく、この場合、酸素濃度が1000ppm以下であると好ましい。加熱温度が450℃未満では、十分な硬化が達成されない傾向があり、1200℃を超えるとSTI層プロセスでは使用されない温度域である。
【0045】
また、この硬化の際の加熱時間は15〜360分が好ましく、60〜240分であるとより好ましい。この加熱時間が360分を超えると、プロセス時間が長くなり、歩留まりに悪影響を与えるおれがある。
また、加熱装置としては、石英チューブ炉その他の炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール(RTA)等の加熱処理装置を用いることが好ましい。
【0046】
また、上記のようにして形成されたシリカ系被膜を用いた本発明による電子部品としては、半導体素子、多層配線板等のシリカ系被膜を有する電子デバイス、液晶用部品などが挙げられる。
本発明のシリカ系被膜は、半導体素子においては、表面保護膜(パッシベーション膜)、バッファーコート膜、層間絶縁膜等として使用することができる。
【0047】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物によって形成されるシリカ系被膜は、凹凸内部の埋め込み性が優れるために、基板の表面に凹凸を有する基板にシリカ系被膜形成用組成物を塗布し、凹凸内部の埋め込み性に優れるシリカ系被膜を得ることができる。表面に凹凸を有する基板としては、例えば、基板上に電極や配線のパターンが形成されて表面が凹凸を有する基板や、基板がパターン状にエッチングされて表面が凹凸を有する基板、等が挙げられる。
【0048】
これらの凹凸のパターンについては特に制限はないが、例えば、凸部高さ(又は凹部深さ)が100〜1000nm(より好ましくは250〜500nm)程度のパターンや、凹部幅が10〜3000nm(より好ましくは20〜2000nm)程度のパターンであることが好ましく、これらのパターンを複数有している基板であることが特に好ましい。
【0049】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、これらの基板に塗布することによって、凹凸内部の埋め込み性が良好になるため、所望の絶縁性や機械強度が得られ、パッケージプロセス等での歩留まり低下を防止することが可能となる。
さらに、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は安全性や被膜形成が簡便であることも特徴である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに制限するものではない。
実施例1
(加水分解触媒:硝酸、熱分解揮発性物質:5%添加、溶媒:エタノール)
テトラエトキシシラン32.9gをエタノール56.7gに溶解させた溶液中に、硝酸(60%)0.07gを溶解させた水10.2gを攪拌下で5分間かけて滴下した。
【0051】
滴下終了後2時間反応させ、次いで、熱分解揮発性物質であるポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製 PPG725)0.5gを添加して、0.5時間攪拌し、100gのシリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0052】
実施例2
(加水分解触媒:マレイン酸、熱分解揮発性物質:5%添加、溶媒:エタノール)
テトラエトキシシラン32.9gをエタノール56.7gに溶解させた溶液中に、マレイン酸0.12gを溶解させた水10.2gを攪拌下で5分間かけて滴下した。
【0053】
滴下終了後2時間反応させ、次いで熱分解揮発性物質であるポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製 PPG725)0.5gを添加して、0.5時間攪拌し、100gのシリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0054】
比較例1
(加水分解触媒:硝酸、熱分解揮発性物質:無添加、溶媒:エタノール)
テトラエトキシシラン34.7gをエタノール54.5gに溶解させた溶液中に、硝酸(60%)0.07gを溶解させた水10.8gを攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応させ、100gのシリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0055】
比較例2
(加水分解触媒:マレイン酸、熱分解揮発性物質:無添加、溶媒:エタノール)
テトラエトキシシラン34.7gをエタノール54.4gに溶解させた溶液中に、マレイン酸0.13gを溶解させた水10.8gを攪拌下で5分間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応させ、100gのシリカ系被膜形成用組成物を作製した。
【0056】
〔凹凸埋め込み性評価用被膜作製〕
実施例1〜2及び比較例1〜2で作製したシリカ系被膜形成用組成物を幅90nm及び深さ300nmの凹部を有するパターンウエハー上に、最終加熱過程後の膜厚が300nmになるように、回転数1,000〜4,000min−1で30秒間回転塗布した(すなわち、平らなSiウエハー上にシリカ系被膜形成用組成物を塗布して最終加熱した後にシリカ系被膜の膜厚が300nmになるような塗布条件で塗布した)。
回転塗布後、250℃で3分間加熱した。その後、O濃度が100ppm前後にコントロールされている石英チューブ炉で、600℃で60分間かけて被膜を最終硬化した。
【0057】
〔膜応力測定用被膜作製〕
実施例1〜2及び比較例1〜2で作製したシリカ系被膜形成用組成物をSiウエハー上に滴下後、シリカ系被膜の膜厚が0.5〜0.6μmになるように、回転数1,000〜4,000min−1で30秒間回転塗布した。
【0058】
回転塗布後、250℃で3分間加熱した。その後、O濃度が100ppm前後にコントロールされている石英チューブ炉で、600℃で60分間かけて被膜を最終硬化した。
上記成膜方法により成膜されたシリカ系被膜に対して、以下の方法でシリカ系被膜の凹凸埋め込み性及び膜応力評価を行った。
【0059】
〔凹凸埋め込み性評価〕
ここで、シリカ系被膜の膜厚は、ガートナー製のエリプソメータL116Bで測定された膜厚であり、具体的には被膜上にHe−Neレーザー照射し、照射により生じた位相差から求められる膜厚を用いた。そして、凹凸埋め込み性は、日立製作所社製の走査型電子顕微鏡S4800を用いて凹部の断面を観察することで評価した。
【0060】
すなわち、幅90nm及び深さ300nmの凹部を有するパターンウエハー上に、塗布型シリカ系被膜形成用組成物を塗布する。その後、最終硬化を実施した後、凹部断面を切り出し、SEMによって観察することで凹内部を隙間なく埋め込んでいるかどうか評価した。
【0061】
〔膜応力測定〕
KLA Tencor製、FLX−2320を用い、ウエハーの反りの初期値と硬化膜作製後のウエハーの反りの差から応力を算出した(表中tensileは、引っ張り応力を示す)。
【0062】
〔評価結果〕
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】STI層にCVD法でシロキサン樹脂を成膜した際の凹凸追従性を模式的に示す断面図である。
【図2】幅が狭いSTI層にCVD法でシロキサン樹脂を成膜した際の凹凸内部に空洞が形成される様子を模式的に示す断面図である。
【図3】STI層に塗布法でシロキサン樹脂を成膜した際に、凹凸部のシロキサン被膜が剥がれる様子を模式的に示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SiX(Xは、加水分解性基を示し、同一でも異なっていてもよい)を加水分解重縮合して得られるシロキサン樹脂、
(b)熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であって、ポリオキシプロピレン単位を有する化合物、
(c)前記(a)及び(b)成分を共に溶解できる溶媒
からなる塗布型シリカ系被膜形成用組成物であって、(b)成分の配合割合が(a)成分のシロキサン樹脂重量に対して3〜15重量%である塗布型シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記(a)成分のシロキサン樹脂を得るのに用いるSiXが、テトラアルコキシシランである請求項1記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記(a)成分のシロキサン樹脂を得るのに用いる加水分解触媒が、硝酸又はマレイン酸若しくはマロン酸である請求項1又は2記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項4】
前記(c)成分の溶媒が、合成中においてはプロトン性溶媒である請求項1〜3のいずれかに記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項5】
塗布型シリカ系被膜形成用組成物が、凹凸を有する基板上に塗布される請求項1〜4のいずれかに記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項6】
基板上にシリカ系被膜を形成する方法において、請求項1〜5のいずれかに記載の塗布型シリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜に含まれる有機溶媒を除去した後、該塗布膜を焼成することを特徴とするシリカ系被膜の形成方法。
【請求項7】
塗布型シリカ系被膜形成用組成物が塗布される基板の表面が、凹凸を有する請求項6記載のシリカ系被膜の形成方法。
【請求項8】
基板上に請求項6又は請求項7記載の方法で形成されたシリカ系被膜を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256437(P2009−256437A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105698(P2008−105698)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】