説明

塗布方法および塗布装置並びに液晶ディスプレイ用部材の製造方法

【課題】回転ロールを用いたスリットノズルの初期化手段において、スリットノズルの定期洗浄の周期が長く、かつ乾燥しやすい塗布液を使用しても、塗布開始部にパーティクル欠点やすじ欠点等の塗布欠点を発生させず、さらに予備塗布された回転ロールの洗浄を独立した最適な洗浄条件で行えるようにする手段を具現化することによって、繰り返して安定した高い塗布品質を、高い生産性で実現する塗布装置及び塗布方法を提供する。さらには、それによって低コストで高品質の液晶ディスプレイ用部材を製造できる液晶ディスプレイ用部材の製造方法を提供する
【解決手段】塗布液を吐出する吐出口を有する塗布器から回転ロールに向かって塗布液を吐出して予備塗布を行い、引き続いて被塗布部材に塗布を行う塗布方法において、少なくとも2回以上予備塗布を行うことを特徴とする塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルタやTFT用アレイ基板等の液晶ディスプレイ用部材を製造する分野に主として使用されるものであり、詳しくはガラス基板などの被塗布部材表面に均一な塗布膜を多数枚にわたって形成するために必要な塗布器の初期化に関わる塗布方法及び塗布装置並びに液晶ディスプレイ用部材の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶用ディスプレイは、カラーフィルタ、TFT用アレイ基板などにより構成されているが、カラーフィルタ、TFT用アレイ基板ともに、低粘度の液体材料を塗布して乾燥させ、塗布膜を形成する製造工程が多く含まれている。たとえば、カラーフィルタの製造工程では、ガラス基板上に黒色のフォトレジスト材の塗布膜を形成し、フォトリソ法により塗布膜を格子状に加工した後に、格子間に赤色、青色、緑色のフォトレジスト材の塗布膜を同様の手法により順次形成していく。その他にも、フォトレジスト材を塗布して塗布膜を形成後、カラーフィルタとTFT用アレイ基板との間に注入される液晶のスペースを確保する柱を形成したり、カラーフィルタ上の表面の凹凸を平滑化するためのオーバーコート塗布膜を形成する製造工程や、TFT用アレイ基板に所定のパターンを形成するためにフォトレジスト材の塗布膜を形成する製造工程などもある。
この塗布膜形成のための塗布装置としては、塗布液の消費量や消費電力の削減、さらに2m角以上という超大型基板に対応して塗布装置を大型化するのが比較的容易であるなどの理由により、近年に至ってスリットコータ(例えば特許文献1)の使用が増加してきている。この公知のスリットコータは塗布器としてスリットノズルを有し、このスリットノズルに設けられたスリット状の吐出口から塗布液を吐出しながら、一方向に走行するガラス基板などの被塗布部材上に塗布膜を形成するものとなっている。
【0003】
このスリットコータで多数枚の被塗布部材に続けて塗布する場合には、どの被塗布部材に対してもスリットノズルの吐出口とその周辺の状態を同じにする、すなわち初期化をしてから塗布を始めないと、塗布開始部の塗布膜の膜厚プロファイルが再現せず、同じ品質を維持できない。そのために塗布前には一枚一枚の被塗布部材ごとに、スリットノズルの初期化が必ず行われる。このスリットノズルの初期化を非接触の状態で行うのが、回転ロールにスリットノズルで予備塗布を行うものである(例えば特許文献2、3)。この予備塗布では、被塗布部材への塗布の時と同じように、スリットノズルを回転ロールに近接させてから塗布液を吐出して塗布を行い、一定厚さの塗布膜を回転ロール上に形成した後に塗布液の吐出を終了して、スリットノズルを回転ロールから引き離す。この時、引き離されたスリットノズルは、スリットノズルでの塗布液の出口である吐出口を含む吐出口面に、一定量の塗布液が付着して残存するが、スリットノズルの吐出口面の両隣に隣接する両隣接面は塗布液は付着していない状態になっている。この状態を初期化された状態と称している。両隣接面に塗布液が付着していると、塗布開始時に付着塗布液も塗布されるので、塗布開始部が厚くなったり、付着塗布液を起点としてすじ状の欠点が発生したりする。また吐出口面に付着している塗布液がいつも一定でないと、塗布開始部の膜厚分布が再現されない。
【0004】
スリットノズルは、常に同じ条件で回転ロールに予備塗布を行って、予備塗布終了後にスリットノズルを引き離せば、毎回同じ初期化された状態になる。回転ロールにスリットノズルで予備塗布を行う手段はスリットノズルの初期化には有効であるが、回転ロールを常に清浄にして同じ状態で予備塗布を行えるようにする必要がある。そうしないと同じように予備塗布膜を形成できず、その結果スリットノズルは一定の初期化された状態とならない。したがって、回転ロールの清浄状態を常に維持することが必要となり、そのために特許文献2に示されるように、回転ロールの回転方向の上流側から順番に、回転ロール上に塗布された塗布液に対して洗浄液を付着させ、次いで塗布液と洗浄液の混合物をブレードでかき落とし、最後に残存液体を窒素ガス等を噴きつけて乾燥させる、という洗浄が行なわれる。
【0005】
また回転ロールを使用して非接触でスリットノズルの初期化を行う手段では、塗布開始部にパーティクル欠点や、パーティクルが起因のすじ欠点が生じることがある。これは、スリットノズルを何回も連続して塗布を行っていると、スリットノズル吐出口先端部に塗布液が薄く乾燥した固化物が次第に形成され、これが以降の塗布時に塗布液を吐出したときに一部溶出したり、一部が吐出口先端部から分離したりしてパーティクルとなり、それが塗布開始部に付着してパーティクル欠点となったり、このパーティクルを起点としてすじ欠点となるためである。さらに非常に乾燥しやすい塗布液を使用すると、1回の塗布後でもスリットノズルの吐出口先端部に塗布液が乾燥した固化物が付着し、同様のメカニズムでパーティクル欠点やすじ欠点を発生させる。以上のことを防止するために、塗布を一定回数行うごとに、スリットノズルの吐出口周辺を洗浄液やエアーで洗浄を行い(例えば特許文献2)、スリットノズルの吐出口先端部に付着した塗布液が乾燥した固化物を除去するようにしている。しかしながら、非常に乾燥しやすい塗布液を使用する時は、毎回の塗布後にこのスリットノズルの吐出口先端部の洗浄を実施せねばならず、これのためにタクトタイムが長くなって、生産性が低下するという問題があった。また現在生産している以上に塗布開始部のパーティクル欠点数やすじ欠点数を減らして塗布品質をさらに向上させるには、スリットノズルの吐出口先端部の洗浄周期を短くすることが必要となり、塗布品質を向上させるためにタクトタイムが長くなって生産性が低下するという不都合もあった。
【0006】
さらにまた繰り返し安定して初期化を行って高い塗布品質を維持するには、塗布液が予備塗布された回転ロール面上から塗布液が完全に除去されて、次の予備塗布が行われる回転ロール表面の清浄度が高いレベルに保たれることが必要である。しかしながら、従来の回転ロールの洗浄手段では、予備塗布を行いながら予備塗布された塗布液の除去、洗浄を行うために、洗浄のための最適なロール回転速度で洗浄を行えない結果、繰り返し高い塗布品質を保証するために回転ロール清浄度を高いレベルにするのが、非常に困難という問題があった。すなわち、従来の回転ロールを使用したスリットノズルの初期化手段では、繰り返して高い塗布品質を維持するのが非常に困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開平6-339656号公報(第5欄18行目〜第8欄1行目、第10欄9行目〜43行目、図1、図3、図4)
【特許文献2】特開2005−254090号公報(第0036欄〜第0047欄、第0053欄、第0061欄〜第0067欄、図2〜図4)
【特許文献3】特開2004−167476号公報(第0023欄〜第0035欄、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、回転ロールを用いたスリットノズルの初期化手段において、1)スリットノズルの吐出口先端部の定期洗浄の周期を長くし、かつ乾燥しやすい塗布液でも塗布開始部にパーティクル欠点やすじ欠点等の塗布欠点を発生させない、2)塗布品質をより高めるために予備塗布された回転ロールの洗浄を独立した最適な洗浄条件で行える、手段を具現化することによって、繰り返して安定した高い塗布品質を、高い生産性で実現する塗布装置及び塗布方法を提供することにある。さらには、それによって低コストで高品質のカラーフィルターやTFTアレイ基板等の液晶ディスプレイ用部材を製造できる液晶ディスプレイ用部材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、以下に述べる手段によって達成される。
本発明になる塗布方法は、塗布液を吐出するために一方向に伸びる吐出口を有する塗布器から回転ロールに向かって塗布液を吐出して予備塗布を行い、引き続いて被塗布部材に塗布を行う塗布方法において、少なくとも2回以上予備塗布を行うことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記予備塗布は、断続的に配置された予備塗布領域で行うこと、前記回転ロールに少なくとも2箇所以上予備塗布された塗布液の除去は、全ての予備塗布終了後に行うこと、が好ましい。
本発明になる塗布装置は、塗布液を吐出するために一方向に伸びる吐出口を有する塗布器と、塗布器から塗布液が回転ロール上に吐出されて予備塗布を行う予備塗布装置と、塗布器の初期化後に引き続いて被塗布部材に塗布膜の形成を行う本塗布装置と、回転ロールに予備塗布された塗布液を除去する洗浄装置と、を備えた塗布装置において、回転ロールは長手方向に伸びる複数の溝を備え、溝間の回転ロール表面が予備塗布領域となることを特徴とする。
ここで、前記洗浄装置は、全ての予備塗布が終了してから洗浄が行える位置に配置されていることが好ましい。
本発明になる液晶ディスプレイ用部材の製造方法は、請求項1〜3に記載のいずれかの塗布方法を用いて液晶ディスプレイ用部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明になる塗布方法および塗布装置を用いれば、断続的に少なくとも2回以上予備塗布を行うのであるから、スリットノズルの吐出口先端部の洗浄周期を長くしたり、乾燥しやすい塗布液を使用したりして、塗布器の吐出口部に塗布液が乾燥した固化物が付着していても、少なくとも2回以上の予備塗布によってこれらの固化物が溶出したり、吐出口部より分離したりすることでパーティクルとなり、これを予備塗布をした回転ロール表面上に全て付着させることができる。その結果、被塗布部材への塗布時には塗布開始部にこのようなパーティクルが付着せず、パーティクルを起因としたすじ欠点も発生しない。したがってスリットノズルの吐出口先端部の洗浄周期を非常に長くすることが可能となり、タクトタイムを短くして生産性が大幅に向上する。さらには、乾燥しやすい塗布液でも、パーティクル欠点やすじ欠点等の塗布欠点が発生しないので、塗布品質を向上させることができるとともに、使用できる塗布液の自由度が拡大する。
また少なくとも2回以上の予備塗布によって、回転ロール上にそれぞれの予備塗布長さを短くしても、被塗布部材へのパーティクルの付着や塗布欠点が発生しないので、予備塗布が完全に終了してから回転ロールの洗浄を行うことが可能となり、回転ロールの速度等最適な洗浄条件下で塗布液の除去、洗浄が行える。その結果、回転ロール表面から予備塗布された塗布液が完全に除去され、回転ロール表面の清浄度を高いレベルに保つことが可能となる。これにより、繰り返し予備塗布をおこなっても、回転ロール表面の清浄度を高いレベルに維持できるので、繰り返して被塗布部材の高い塗布品質を実現することができる。
【0011】
本発明になる液晶ディスプレイ用部材の製造方法によれば、上記の優れた塗布方法を用いて液晶ディスプレイ用部材製造するのであるから、低コストで、塗布膜の均一性や再現性、ならびに塗布品質に極めて優れた高品質の液晶ディスプレイ用部材を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明に係るスリットコータ1の概略正面図、図2は回転ロール202の詳細を示す拡大概略正面図、図3は予備塗布装置200による予備塗布状況を段階的に示した概略正面図、図4は予備塗布装置200を用いた別の予備塗布方法による予備塗布状況を段階的に示した概略正面図である。
【0014】
まず図1を参照すると、本発明の予備塗布装置装置200を装備したスリットコータ1が示されている。このスリットコータ1は基台2を備えており、基台2上には、被塗布部材である基板Aの載置台、すなわちステージ6が配置されている。ステージ6の上面は図示しない吸着孔からなる真空吸着面となっており、基板Aを吸着保持することができる。基台2上には、さらに一対のガイドレール4が設けられており、このガイドレール4上には、門型ガントリー10が図1に矢印で示されているX方向に案内自在に搭載されている。門型ガントリー10には、昇降ユニット70を介して、塗布器であるスリットノズル20がステージ6の上方の位置にくるように取り付けられている。門型ガントリー10は図示しないリニアモータで駆動されるので、これに搭載されているスリットノズル20は、塗布方向であるX方向に自在に往復動することができる。
【0015】
スリットノズル20は、X方向に直交する方向(紙面に垂直な方向)にのびているフロントリップ22、及びリアリップ24を、シム32を介してX方向に重ね合わせ、図示しない複数の連結ボルトにより一体的に結合されている。スリットノズル20内の中央部にはマニホールド26が形成されており、このマニホールド26もスリットノズル20の長手方向(X方向に直交する方向)にのびている。マニホールド26の下方には、これに連通してスリット28が形成されている。このスリット28もスリットノズル20の長手方向にのびており、その下端がスリットノズル20の最下端面である吐出口面36で開口して、吐出口34を形成する。なおスリット28はシム32によって形成されるので、スリット28の間隙(X方向に測定)は、シム32の厚さと等しくなる。吐出口面36の両隣には、斜め上方に切り上がっているリップ斜面38が設けられている。リップ斜面38は吐出口面36の両隣にあり、吐出口面36に連なる両隣接面となる。
【0016】
このスリットノズル20を昇降させる昇降ユニット70は、スリットノズを吊り下げる形で保持する吊り下げ保持台80、吊り下げ保持台80を昇降させる昇降台78、昇降台78を上下方向に案内するガイド74、モータ72の回転運動を昇降台78の直線運動に変換するボールねじ76より構成されている。昇降ユニット70はスリットノズ20の長手方向の両端部を支持するよう左右1対あって、各々が独立に昇降できるので、スリットノズル20長手方向の水平に対する傾き角度を任意に設定することができる。これによってスリットノズル20の吐出口面36と基板Aを、スリットノズル20の長手方向にわたって略並行にすることができる。さらに、この昇降ユニット70によって、ステージ6上の基板Aとスリットノズ20の吐出口面36の間にすきま、すわなち、クリアランスを、任意の大きさに設けることができる。
【0017】
再びスリットノズル20を見ると、スリットノズル20のマニホールド26の上流側は、塗布液供給装置40に連なる供給ホース60に、内部通路(図示しない)を介して常時接続されており、これにより、マニホールド26へは塗布液供給装置40から塗布液を供給することができる。マニホールド26に入った塗布液はスリットノズル20の長手方向に均等に拡幅されて、スリット28を経て、吐出口34から吐出される。
【0018】
なお、塗布液供給装置40は、供給ホース60の上流側に、フィルター46、供給バルブ42、シリンジポンプ50、吸引バルブ44、吸引ホース62、タンク64を備えている。タンク64には塗布液66が蓄えられており、圧空源68に連結されて任意の大きさの背圧を塗布液66に付加することができる。タンク64内の塗布液66は、吸引ホース62を通じてシリンジポンプ50に供給される。シリンジポンプ50では、シリンジ52、ピストン54が本体56に取り付けられている。ここでピストン54は図示しない駆動源によって上下方向に自在に往復動できる。シリンジポンプ50は、一定の内径を有するシリンジ52内に塗布液を充填し、それをピストン54により押し出して、スリットノズル20に基板Aを一枚塗布する分だけ供給する定容量間欠供給型のポンプである。シリンジ52内に塗布液66を充填するときは、吸引バルブ44を開、供給バルブ42を閉として、ピストン54を下方に移動させる。またシリンジ52内に充填された塗布液をスリットノズル20に向かって供給するときは、吸引バルブ44を閉、供給バルブ42を開とし、ピストン54を上方に移動させることで、ピストン54でシリンジ52内部の塗布液を押し上げて排出する。
【0019】
さらに図1で基台2の左側端部を見ると、予備塗布装置200が基台2上に取り付けられている。スリットノズル20は、破線で示される回転ロール202の上方にあるスタンバイ位置Dまで、門型ガントリー10の移動によって移動することができる。
【0020】
予備塗布装置200の構成を見てみると、矢印で示される時計方向に回転する回転ロール202が、フレーム236の内部の中央に配置されている。回転ロール202はX方向と直交する長手方向、すなわち塗布幅方向の両端でフレーム236に回転自在に支持され、さらに図示されない回転モータで駆動されて、自在に回転する。回転ロール202には、図2に詳細が示されているように、回転ロールの長手方向に伸びる溝250が同じ断面形状で8個設けられており、これによって回転ロール202の表面は矢印で示される回転方向に分断されて8個の予備塗布面252A〜Hを形成する。予備塗布面252A〜Hは、スリットノズル20から吐出される塗布液が予備塗布される断続的に配置された予備塗布領域となる。各予備塗布面252A〜Hの回転方向の下流側が予備塗布を開始する開始エッジ256A〜H、回転方向の上流側が予備塗布を終了する終了エッジ254A〜Hを形成する。溝250の断面形状については、幅L1は好ましくは5mm以上、深さL2は好ましくは1mm以上である。幅L1も深さL2も上記の数値より小さいと、塗布液が予備塗布面間に橋渡しをすることがあり、好ましくない。溝250の回転ロール202長手方向の長さについては、スリットノズル20の吐出口34の長手方向長さよりも長いことが好ましい。
【0021】
再び図1を見ると、回転ロール202の回転方向に沿って上流側から順に、洗浄液吐出ノズル204、ブレード206、ガスノズル208が回転ロール202の左側に配置されている。洗浄液吐出ノズル204、ガスノズル208は、回転ロール202の長手方向の両端部でフレーム236に支持されている。またブレード206はブラケット210を介して、回転ロール202の長手方向の両端部でフレーム236に支持されている。ここで洗浄液吐出ノズル204は洗浄液220を回転ロール202の長手方向にわたって吐出するもの、ブレード206は回転ロール202の長手方向にわたって洗浄液や汚れをかきとるもの、ガスノズル208は窒素ガス等の気体を回転ロール202の長手方向にわたって噴出して残存した洗浄液を除去・乾燥させるもの、である。洗浄液吐出ノズル204には洗浄液源224から、洗浄液配管226、洗浄液切換バルブ228を介して洗浄液が供給され、所定量の洗浄液がスリットノズル20の吐出口36の長手方向長さよりもわずかに長い洗浄幅にわたって、回転ロール202に向かって吐出される。洗浄液の吐出と吐出停止は洗浄液切換バルブ228を動作させて行う。ブレード206はブラケット210に固定されており、ブラケット210を反時計方向に回転させると、ブレード206の回転ロール202への押しつけ力が高まり、液体のかき取り能力が向上する。ブレード206の材質は、耐薬品性、強度を考慮してステンレス等の金属や、PET等の合成樹脂が好ましい。ガスノズル208にはガス供給源230から、ガス配管232、ガス切換バルブ234を介してガスが供給され、所定量のガスが上記の洗浄幅にわたって、回転ロール202に向かって吐出される。ガスの吐出と吐出停止はガス切換バルブ234を動作させて行う。
【0022】
回転ロール202の予備塗布面252A〜H上にスリットノズル20から予備塗布された塗布液と、洗浄液吐出ノズル204より吐出される洗浄液は、ブレード206によるかきとりや、ガスノズル206による吹き飛ばし等により、回転ロール202から離れて、フレーム236に内蔵されるトレイ212に向かって落下する。トレイ212に落下した塗布液や洗浄液は、トレイ212に設けられた排出管214から配管216を介して図示されない液回収装置に回収される。またガスノズル208より吐出されたガスは、回転ロール202に衝突後、ガスノズル208近くに配置されているガス吸引管218から、吸引配管222を介して図示されていないガス回収装置に回収される。スリットノズル20で回転ロール202上に予備塗布された塗布液は、洗浄液吐出ノズル204から吐出される洗浄液で薄められると共に押し流されて、ブレード206でかき取られ、ブレード206でかき取られなかったわずかな塗布液と洗浄液の混合液体が、最後にガスノズル208から吐出されるガスで除去・乾燥される。したがって回転ロール202上には、ガスノズル208の位置を通過すると何も残されておらず、常に同じ何もない状態で予備塗布を続けて行うことが可能となる。
【0023】
なお制御信号にて動作するリニアモータ、モータ72、塗布液供給装置40、予備塗布装置200等はすべて制御装置100に電気的に接続されている。そして、制御装置100に組み込まれた自動運転プログラムにしたがって制御指令信号が各機器に送信されて、あらかじめ定められた動作を行う。なお条件変更時は操作盤102に適宜変更パラメータを入力すれば、それが制御装置100に伝達されて、運転動作の変更が実現できる。特に塗布液供給装置40や予備塗布装置200では、シリンジポンプ50、供給バルブ42、吸引バルブ44、洗浄液切換バルブ228、ガス切換バルブ234、回転ロール202等が、制御装置100に電気的に接続されており、制御装置100にその電気的信号をとりこんだり、制御装置100からの指令により、任意の動作をさせることができる。
【0024】
次に本発明のスリットコータ1を用いた第1の塗布方法について詳述する。
【0025】
まず準備作業として、タンク64〜スリットノズル20まで塗布液66はすでに充満されており、タンク64以降のスリットノズル20までの残留エアーを排出する作業も既に終了している。この時の塗布液供給装置40の状態は、シリンジ52に塗布液66が充填、吸引バルブ44は閉、供給バルブ42は開、そしてピストン54は最下端の位置にあり、いつでも塗布液66をスリットノズル20に供給できるようになっている。さらに予備塗布装置200についても準備動作として、洗浄液源224〜洗浄液吐出ノズル204に洗浄液が充填されてエアー抜きも十分行われ、ガスについてもガス供給源230から閉となっているガス切換バルブ234まで充填されている。ここで、洗浄液切換バルブ228もガス切換バルブ234と同じように閉となっている。ブレード206については、回転ロール202の表面には接触せず、一定のすきまだけ離れた初期位置に置かれている。また、溶剤を湿潤させたクリーンワイパー(布)による回転ロール202の予備塗布面254A〜Hの清掃も、同じく準備作業として完了している。
【0026】
つづいてスリットコータ1の動作開始が操作盤102から制御装置100に伝えられると、門型ガントリー10は図1の左部にある予備塗布装置200の回転ロール202上部のスタンバイ位置Dにスリットノズル20を移動させて停止させる。これと同時に回転ロール202も回転して、予備塗布面252Hの中央部が最上点、すなわち回転ロール202の上下方向の中心線上に来たところで停止させる。つづいて昇降ユニット70を駆動してスリットノズル20を下降させ、回転ロール202の上下方向の中心線上で予備塗布面252Hとスリットノズル20の吐出口面36の間のすきまが第1クリアランスC1になる位置で停止させる(図3(a)の状態)。
【0027】
次に、ステージ6の表面には図示しないリフトピンが上昇し、図示しないローダから基板Aがリフトピン上部に載置される。そしてリフトピンを下降させて基板Aをステージ6上面に載置し、同時に吸着保持する。
【0028】
この状態でスリットノズル20から回転ロール202に予備塗布を開始するが、予備塗布方法は図3を用いて説明する。スリットノズル20と回転ロール202は図3(a)に示す状態にあり、まず第1回目の予備塗布を行うために、回転ロール202を矢印方向に回転させて、予備塗布面252Gの開始エッジ256Gを含む予備塗布開始部が、スリットノズル20の吐出口34の直下となる位置で停止させる。これと並行してシリンジポンプ50を駆動して、初期出し量Q1だけ塗布液をスリットノズル20から吐出し、吐出完了後から同じ姿勢のまま待機時間T1だけ待ってスリットノズル20の吐出口面36と回転ロール202の予備塗布面252Gの間にビード、すなわち塗布液のたまりを形成する。スリットノズル20から初期出し量Q1の塗布液を吐出完了してからT1秒後に、昇降ユニット70を駆動してスリットノズル20を上昇させ、スリットノズル20の吐出口面36と回転ロール202の予備塗布面252Gの間のすきまが第2クリアランスC2になる位置で、スリットノズル20の上昇を停止させる。スリットノズル20の上昇が停止したら、再びシリンジポンプ50を駆動してスリットノズル20から塗布液を一定吐出速度にて吐出開始し、シリンジポンプ50の再駆動開始から待機時間T2後に回転ロール202を矢印方向に周速度V1で駆動し、予備塗布面252Gに塗布液を予備塗布開始する(図3(b)の状態)。なお待機時間T1、T2はゼロであってもよい。また周速度V1は、予備塗布面252A〜Hでの周速度である。終了エッジ254Gから長さS1だけ手前にある位置が吐出口34の直下に達したら、シリンジポンプ50の減速を開始して停止させる。一方回転ロール202は同じ周速度V1のまま回転させ、終了エッジ254Gが吐出口34の近傍に来た時に、スリットノズル20を上昇させて、スリットノズル20の吐出口面36と予備塗布面252G間に形成されたビードを断ち切り、第1回目の予備塗布を終了する。第1回目の予備塗布が終了しても回転している回転ロール202は、予備塗布面252Gから1つおいた予備塗布面252Eの開始エッジ256Eを含む予備塗布開始部が、スリットノズル20の吐出口34の直下となる位置に来たときに停止させる。予備塗布面252Gから1つおいた予備塗布面252Eを使用するのは、予備塗布面252Gでの予備塗布を終了してから、余裕をもって予備塗布面252Eの開始エッジ256Eでスリットノズル20を停止させるためである。つづいて昇降ユニット70を駆動してスリットノズル20を下降させ、スリットノズル20の吐出口面36と予備塗布面252Eの間のすきまが第1クリアランスC1となる位置で、スリットノズル20の下降を停止させる。以降は第1回目の予備塗布と全く同じ手順で、予備塗布面252Eに第2回目の予備塗布を行う(図3(c)の状態)。第2回目の予備塗布では、終了エッジ254E近傍で昇降ユニット70を駆動してスリットノズル20を上昇させてビードを断ち切り、予備塗布を終了させる。
【0029】
第2回目の予備塗布が終了して、スリットノズル20の上昇が完了した時点で、回転ロール202を停止させるとともに、門型ガントリー10を右側方向に駆動し、スリットノズル20を基板Aの塗布開始部の真上に移動させて停止させる。これらの動作の間、基板Aが図示しない厚さセンサーによって基板Aの厚さが測定される。測定した基板Aの厚さデータを用い、昇降ユニット70を駆動して基板Aの塗布開始部上で静止しているスリットノズル20を下降させ、スリットノズル20の吐出口面36を基板Aからあらかじめ与えたクリアランス分離れた位置まで近接させて停止させる。そしてシリンジポンプ50のピストン54を所定速度で上昇させ、スリットノズル20から塗布液66を吐出して吐出口面36と基板Aの塗布開始部との間に液だまりであるビードBを形成してから、門型ガントリー10を所定速度でX方向に移動開始し、塗布液66の基板Aへの塗布を始めて、塗布膜Cを形成する。基板Aの塗布終了位置がスリットノズル20の吐出口34の位置にきたらピストン54を停止させて塗布液66の供給を停止し、つづいて昇降ユニット70を駆動して、スリットノズル20を上昇させる。これによって基板Aとスリットノズル20の間に形成されたビードBが断ち切られ、塗布が終了する。塗布終了後も門型ガントリー10は動きつづけ、終点位置にきたら一旦停止する。
なお上記の第2回目の予備塗布を終了して回転ロール202が停止してから、基板Aにスリットノズル20で塗布液の塗布が行われるのと並行して、回転ロール202に予備塗布された塗布液の除去、洗浄を行う。第2回目の予備塗布を終了して回転ロール202が停止した時点で、それに続いて洗浄液切換バルブ228、ガス切換バルブ234をそれぞれ開として、洗浄液、ガスを洗浄液吐出ノズル204、ガスノズル208より所定条件にて吐出する。さらにブレード206は、ブラケット210を反時計方向に回転させて、回転ロール202の表面に接触させて適切な力で押しつける。このような準備が完了してから、回転ロール202を洗浄用の周速度V2で図3の矢印で示される回転方向(時計方向)に再駆動し(図3(d)の状態)、予備塗布面252Gと予備塗布面252Eに予備塗布された塗布液を順番に除去して、予備塗布面252G、252Eの洗浄を行う。なお予備塗布面252G、252Eの塗布液の除去、洗浄が終わってからも回転ロール202を駆動しつづけ、さらに繰り返して予備塗布面252G、252Eの洗浄を行ってもよい。予備塗布面252G、252Eの塗布液の除去、洗浄が終わったら、洗浄液切換バルブ228、ガス切換バルブ234をそれぞれ閉として、洗浄液吐出ノズル204、ガスノズル208よりそれぞれ洗浄液、ガスの吐出を停止し、トレイ212に落下した塗布液と洗浄液や、ガスを回収する。つづいてブラケット210を時計方向に回転させて、ブレード206を回転ロール202から引き離して、一定すきま離れた初期位置にもどす。そして回転ロール202は、予備塗布面252Hの中央部が最上点、すなわち上下方向の中心線上にきたら、そこで停止させる。
上記の回転ロール202の予備塗布面252Hが所定位置で停止したのを確認してから、回転ロール202の方に向かって門型ガントリー10をX方向に移動させる。そしてスリットノズル20がスタンバイ位置D、すなわち回転ロール202の上方に来たら、門型ガントリー10の移動を停止させるとともに、基板Aの吸着を解除し、リフトピンを上昇させて基板Aを持ち上げる。この時図示されないアンローダによって基板Aの下面が保持され、次の工程に基板Aを搬送する。
スリットノズル20がスタンバイ位置Dで停止した時には、昇降ユニット70も駆動してスリットノズル20を下降させ、スリットノズル20の吐出口面36と回転ロール202の予備塗布面との間のすきまを第1クリアランスC1にする。この状態で、塗布液供給装置40の供給バルブ42をまず閉とし、つづいて吸引バルブ44は開としてから、ピストン54を一定速度で下降させ、タンク64の塗布液66をシリンジ52に充填する。充填完了後、ピストン54を停止させ、吸引バルブ44を閉にしてから、供給バルブ42を開とする。つづいて次の基板Aが来るのを待ち、同じ動作をくりかえす。
【0030】
なお以上の塗布方法で詳細を示した第1回目と第2回目の予備塗布方法はあくまでも一例であって、予備塗布面252A〜Hのいずれか2箇所以上に塗布液が予備塗布されるなら、どのような予備塗布方法を適用してもよい。例えば、スリットノズル20と予備塗布面252Hとの間のすきまを第2クリアランスC2に固定し、回転ロール202を一定周速度V1で回転させ、スリットノズル20の吐出口34の直下に予備塗布面252G、252Eが来たときに塗布液を吐出して、予備塗布面252G、252Eに塗布液を予備塗布してもよい。ポイントは2回以上の予備塗布を行ことによって、第1回目の予備塗布でスリットノズル20の吐出口34周辺に残存している塗布液が乾燥した固化物を溶出させるとともに吐出口34周辺から分離し、つづく第2回目の予備塗布で溶出または/および分離した固化物をパーティクルとして回転ロール202に付着させることができるところにある。これによって、予備塗布に続く基板Aへの塗布では、パーティクルは基板に付着せず、パーティクル起因のすじ欠点も発生しない。この予備塗布方法によれば、スリットノズル20の吐出口面36の洗浄周期を長くしたり、乾燥しやすい塗布液を使用したりして、吐出口面36に塗布液が乾燥した固化物が付着していても、少なくとも2回以上の予備塗布によって、これらの固化物が溶出したり、吐出口面36より分離したりすることでパーティクルとなり、それを予備塗布をした回転ロール202の予備塗布面252A〜Hに全て付着させることができる。その結果、基板Aの塗布時には塗布開始部にこのようなパーティクルが付着せず、パーティクルを起因としたすじ欠点も発生しない。したがってスリットノズル20の吐出口34付近の洗浄周期を非常に長くすることも可能となり、乾燥しやすい塗布液でも容易に使用することができる。予備塗布面252A〜Hのいずれか2箇所以上に塗布液が予備塗布されれば上記の効果がえられるのであるから、予備塗布面252A〜Hの隣り合う予備塗布面で2箇所以上に塗布液を予備塗布しても同様の効果がえられることはいうまでもない
なお予備塗布回数が多ければ多いほど不要なパーティクルが回転ロール202に付着するので、その後の本塗布での基板Aの塗布品質は向上するが、予備塗布を含むスリットノズル20の初期化に時間がかかるので、予備塗布回数は2回以上3回以下が好ましい。予備塗布回数を1回にして予備塗布長さをいくら長くしても、複数回断続的に予備塗布を行うのと同じ効果はえられない。これは塗布開始する時にのみ、スリットノズル20の吐出口20付近や吐出口面36付近に付着している液状物や固化物が予備塗布面に塗布、すなわち転写され、一方塗布中はスリットノズル20の吐出口34から吐出されるものしか予備塗布面に塗布されないことによる。このように好ましくは2〜3回の断続的な予備塗布を行うことによって、従来の1回の予備塗布よりも、パーティクル排除やすじ欠点防止に必要なトータルの予備塗布長さをはるかに短くできるので、回転ロール202上に予備塗布された塗布液が洗浄液吐出ノズル204、ブレード206、ガスノズル208より構成される塗布液除去、洗浄手段に達する前に予備塗布を終了することができる。その結果予備塗布された塗布液の除去、洗浄をそれに最適な条件下で行うことができる。例えば上記したように、塗布液の除去、洗浄時の回転ロール202の周速度V2を、予備塗布時の回転ロール202の周速度V1とは全く独立して定めることができる。いい方を変えると、本発明による予備塗布方法では、予備塗布長さを短くできるので、全ての予備塗布を終了してから洗浄が行える位置に、洗浄液吐出ノズル204、ブレード206、ガスノズル208より構成される塗布液除去、洗浄手段が配置できるともいえる。またさらには、以上のように少なくとも2回以上の予備塗布を行うことによって、基板Aの塗布品質を高く維持するための予備塗布長さが短くなるので、回転ロール202の洗浄に使用される洗浄液や窒素ガス等のガスの量を著しく少なくすることもできる。
【0031】
また上記で示したように、予備塗布は終了エッジ254で終了して、スリットノズル20と予備塗布面252の間のビードを断ち切る方が好ましい。これは終了エッジ254により、ビードがスリットノズル20の長手方向にわたって一様に断ち切られ、スリットノズル20の吐出口面36に塗布液が一様に残るので、次の塗布開始部の膜厚が安定化し、膜厚分布が不均一が原因のすじ欠点も生じないことによる。すなわち終了エッジ254を活用することで、塗布品質の向上が図られる。この終了エッジ254を形成するために回転ロール202は、溝250によっての回転方向に区切られた複数の予備塗布面252A〜Hを有する構成にしており、単一の連続表面からなる通常の回転ロールよりも塗布品質の向上が図れるので、好ましい。
【0032】
予備塗布を2回以上行うことによって、塗布される基板Aにパーティクルやすじ欠点を発生させない効果は、区分けされた予備塗布面252がなく、表面が同じ直径の連続円筒面である従来の回転ロールであっても同じである。したがって、基板Aにパーティクルやすじ欠点を発生させない目的のために、予備塗布を2回以上行う本発明を、表面が連続した円筒面である回転ロール260に適用してもよく、この適用例を図4を用いて説明する。
【0033】
まず予備塗布装置200で、複数の予備塗布面252A〜Hを有する回転ロール202を、単一の連続した予備塗布面262を有する回転ロール260に置き換える。ここで洗浄液は洗浄液吐出ノズル204まで充填されて、洗浄液切換バルブ228は閉となっており、ガスも閉となっているガス切換バルブ234まで充填されている。ブレード206については、回転ロール260の表面には接触せず、一定のすきまだけ離れた初期位置にある。そして予備塗布を行うために、スリットノズル20を回転ロール260の直上位置に移動させ、つづいて昇降ユニット70を駆動してスリットノズル20を下降させて、回転ロール260の上下方向の中心線上で予備塗布面262とスリットノズル20の吐出口面36の間のすきまが第2クリアランスC2になる位置で停止させる(図4(a)の状態)。
【0034】
つづいてシリンジポンプ50を駆動して、一定吐出速度で塗布液をスリットノズル20から吐出するとともに、シリンジポンプ50の駆動開始から待機時間T2秒後に回転ロール260を一定の周速度V1で回転開始する。ここで周速度V1は予備塗布面262での速度である。スリットノズル20からの塗布液の吐出と回転ロール260の周速度V1での回転により、予備塗布面262には一定厚さで塗布液が予備塗布され、第1回目の予備塗布が行われる(図4(b)の状態)。第1回目の予備塗布が長さLcだけ行われた時点で、シリンジポンプ50を停止してスリットノズル20から塗布液の吐出を終了させ、第1回目の予備塗布を終了する。この時点で回転ロール260は周速度V1で回転しつづけているが、次の第2回目の予備塗布開始位置がスリットノズル20の吐出口34の直下に来たときに、回転ロール260を停止させる。そして第1回目の予備塗布と同じく、シリンジポンプ50を駆動して一定吐出速度で塗布液をスリットノズル20から吐出するとともに、シリンジポンプ50の駆動開始から待機時間T2秒後に回転ロール260を一定の周速度V1で再度回転開始する。これによって予備塗布面262には一定厚さで塗布液が予備塗布され、第2回目の予備塗布が行われる(図4(c)の状態)。第2回目の予備塗布が長さLcだけ行われた時点で、シリンジポンプ50を停止してスリットノズル20の吐出を終了させ、第2回目の予備塗布を終了する。第2回目の予備塗布が終了して一定時間後に、周速度V1で回転している回転ロール260も停止させる。
それに続いて洗浄液切換バルブ228、ガス切換バルブ234をそれぞれ開として、洗浄液、ガスを洗浄液吐出ノズル204、ガスノズル208より所定条件にて吐出する。さらにブレード206は、ブラケット210を反時計方向に回転させて、回転ロール260の表面に接触させて適切な力で押しつける。このような準備が完了してから、回転ロール260を洗浄用の周速度V2で矢印で示される回転方向(時計方向)に再駆動し(図4(d)の状態)、予備塗布面262に2回予備塗布された塗布液を順番に除去して、予備塗布面262の洗浄を行う。予備塗布面262の塗布液の除去、洗浄が終わったら、洗浄液切換バルブ228、ガス切換バルブ234をそれぞれ閉として、洗浄液吐出ノズル204、ガスノズル208よりそれぞれ洗浄液、ガスの吐出を停止し、トレイ212に落下した塗布液と洗浄液や、ガスを回収する。またブラケット210を時計方向に回転させて、ブレード206を回転ロール260から引き離して、一定すきま離れた初期位置にもどす。
なお回転ロール202に対して行った予備塗布方法を、回転ロール260に適用してもよい。
【0035】
以上の回転ロール202、260に対する予備塗布で、予備塗布時の回転ロール202、260の回転周速度V1は、好ましくは10〜500mm/s、より好ましくは20〜200mm/sである。この範囲より小さいと予備塗布に時間がかかりすぎてタクトタイムが長くなり、この範囲より大きいと膜切れが生じて予備塗布が行えない。また長さLc等の予備塗布の長さは好ましくは10〜100mm、より好ましくは20〜60mmである。長さLcが短すぎると塗布液がスリットノズル20に乾燥して付着した固化物を溶出させたり、スリットノズル20から分離させたりする時間的な余裕がないので、2回目以降の予備塗布で溶出したり分離した固化物をパーティクルとして付着させることができない。長さLcが長すぎると予備塗布に時間がかかってタクトタイムが長くなってしまうのと、洗浄液吐出ノズル204等の塗布液除去、洗浄手段に予備塗布された塗布液が達するまでに、予備塗布を終了できない。以上の好ましい予備塗布長さにあわせて、回転ロール202の予備塗布面252A〜Hの回転方向の長さを定めることが好ましい。
【0036】
さらに回転ロール202への予備塗布を開始する時の第1クリアランスC1の大きさは好ましくは40〜200μm、より好ましくは50〜100μmとする。このすきまが小さすぎるとスリットノズル20と回転ロール202が衝突するおそれがあり、すきまが大きすぎるとビード、すなわち塗布液のたまりが形成されないので、予備塗布を行うことができない。また第2クリアランスC2は通常の塗布を行うのに最適な大きさにし、好ましくは50〜300μm、より好ましくは80〜200μmであり、第1クリアランスC1よりも大きくすることが好ましい。第1クリアランスC1にスリットノズル20の吐出口面36〜予備塗布面252G、E間のすきまを設定したときに、スリットノズル20から吐出する初期出し量Q1については、吐出口面36〜予備塗布面252G、E間に液たまりができるならばいかなる大きさでもよいが、好ましくは1mあたり20〜500μl、より好ましくは50〜150μlである。この範囲より小さいと液たまりが形成されず、この範囲より大きいと、吐出口面36〜予備塗布面252G、E間のすきまから塗布液があふれだしてしまい、正常な予備塗布が行えない。
【0037】
さらに予備塗布面252に予備塗布された塗布液を除去、洗浄するときの回転ロール202の回転周速度V2は、好ましくは2〜100mm/s、より好ましくは5〜50mm/sであり、予備塗布を行う周速度V1とは関係なく独立して選定される。周速度V2が低すぎると塗布液の除去、洗浄のタクトタイムが長くなり、周速度V2が高すぎると十分な塗布液の除去、洗浄が行えない。洗浄液は、塗布液が乾燥した固化物を溶解させる必要があることから、塗布液の構成溶剤が好ましいが、その他塗布液が乾燥した固化物を溶解させるものであれば、構成溶剤以外の有機溶剤やアルカリ液でもあってもよい。洗浄液吐出ノズル204から吐出される吐出量は、1mあたり0.5〜5cc/sが好ましい。この範囲より小さいと洗浄能力が低く、この範囲より大きいと使用洗浄液量が多くなって製造コストが大きくなる。ガスノズル208から吐出するガスについては、液体を吹き飛ばす気体ならいかなるものでも使用できるが、爆発の心配がないことから、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、コストや簡便さからクリーン化処理された乾燥エアーであってもよい。
ガスノズル208から吐出される窒素ガス、エアー等のガスの吐出量は、吐出口の平均風速で表して、好ましくは5〜100m/s、より好ましくは20〜50m/sである。この範囲よりも遅いと、除去・乾燥能力が不足し、この範囲よりも早いと、エネルギーコストが増大して望ましくない。
【0038】
以上説明した本発明が適用できる塗布液としては粘度が1〜100mPaS、より望ましくは1〜50mPaSであり、ニュートニアンであることが塗布性から好ましいが、チキソ性を有する塗液にも適用できる。とりわけ溶剤に揮発性の高いもの、たとえばPGMEA、酢酸ブチル、乳酸エチル等を使用している塗布液を塗布するときに有効である。具体的に適用できる塗布液の例としては、上記にあげたカラーフィルター用のブラックマトリックス、RGB色画素形成用塗布液の他、レジスト液、オーバーコート材、柱形成材料、TFTアレイ基板用のポジレジスト等がある。基板である被塗布部材としてはガラスの他にアルミ等の金属板、セラミック板、シリコンウェハー等を用いてもよい。さらに予備塗布速度や塗布速度は好ましくは2〜500mm/s、より好ましくは10〜200mm/s、スリットノズル20のスリット間隙は好ましくは50〜1000μm、より好ましくは80〜200μm、塗布厚さがウェット状態で1〜50μm、より好ましくは2〜20μmである。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
1100×1300mm で厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を洗浄装置に投入した。ウェット洗浄によって基板上のパーティクルを除去後、スリットコータ1でブラックマトリックス材を、スリットノズル20からの吐出速度0.55cc/s、塗布速度50mm/s、スリットノズル20と基板間のクリアランスは100μmで、タクトタイム60秒で基板全面に塗布した。ブラックマトリックス材には、遮光材にカーボンブラック、バインダーにアクリル樹脂、溶剤にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を使用し、さらに感光剤を添加して、固形分濃度15%、粘度4mPasに調整したペーストを用いた。この時のスリットノズル20は吐出口の間隙が100μmで、長さが1100mm、吐出口面36の幅が1mm、吐出口面36と斜面38のなす角度が45度のものを使用した。塗布前には毎回必ず予備塗布装置200でスリットノズル20の予備塗布を行って、スリットノズル20の初期化を行った。なお塗液供給装置40で、吸引バルブ44、供給バルブ42ともにダイヤフラムバルブを用いた。また予備塗布装置200で、回転ロール202には直径180mm、長手方向の長さ1300mm、溝250が幅L1=10.7mm、深さL2=2mm、長手方向長さ1300mmで8個あり、同じく8個ある予備塗布面252A〜Hの回転方向の長さが60mmで表面に0.5mm厚のセラミックスコーティングが施工されたものを用いた。また洗浄液吐出ノズル204には、直径0.4mmの吐出口がピッチ5mmで1120mmの長さに渡って一直線上に配置されたもの、ブレード206にはSUS420製の厚さ0.3mmで長さ1200mmのもの、ガスノズル208には直径0.5mmの吐出口がピッチ5mmで1120mmの長さに渡って一直線上に配置されたもの、を用いた。洗浄液にはPGMEAを用い、ガスノズル212から吐出するガスは窒素ガスを用いた。予備塗布を行う時の回転ロール202の周速度は100mm/s、スリットノズル20から吐出される塗布液であるブラックマトリックス材の吐出速度は0.55cc/s、スリットノズル20の吐出口面36と予備塗布面252の間の第1クリアランスC1は80μm、第2クリアランスC2は150μmにした。予備塗布中の塗布液吐出量は0.66ccであり、これにより予備塗布は10μmの厚さで長さ60mmだけ行った。この予備塗布を予備塗布面252Gと252Eに対して同じ条件で2回行った。この予備塗布を行う時の待機時間T1=0.5秒、待機時間T2=0.05秒にし、シリンジポンプ50の減速は終了エッジ254G、254EからS1=5mm手前の地点から開始した。2回の予備塗布が完了してから、回転ロール202上に10μmの厚さで予備塗布された塗布液を除去するために、回転ロール202を周速度V2=20mm/sで回転させながら、洗浄液を洗浄液吐出ノズル204から吐出流量15cc/sで、窒素ガスをガスノズル208の各吐出口から流速50m/sで吐出した。この条件で塗布液であるブラックマトリックス液と洗浄液は除去でき、ガスノズル208の下流側には何も残存しなかった。そのため以降の基板に塗布する前のどの予備塗布でも同じ状態でスリットノズル20を初期化することができた。また2回の予備塗布が終了してスリットノズル20の初期化が終わった時に、スリットノズル20を基板の塗布開始部に移動させ、上記の塗布条件でブラックマトリックス材を塗布した。
【0040】
以上のブラックマトリックス塗布工程で塗布された基板を、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行った後、260℃のホットプレートで30分加熱して、キュアを行い、基板の幅方向にピッチが254μm、基板の長手方向にピッチが85μm、線幅が20μm、RGB画素数が4800(基板長手方向)×1200(基板幅方向)、対角の長さが20インチ(基板幅方向に305mm、基板長手方向に406mm)となる格子形状で、厚さが1μmとなるブラックマトリックス膜を、9面分作成した。
【0041】
次にウェット洗浄後、R色用塗布液をスリットノズル20からの吐出速度1.1cc/s、スリットノズル20と基板との間のクリアランス100μm、門型ガントリー移動速度50mm/sにてタクトタイム60秒で塗布した。R色用塗布液はアクリル樹脂をバインダー、PGMEAを溶媒、ピグメントレッド177を顔料にして固形分濃度12%で混合し、さらに粘度を5mPaSに調整した感光性のものであった。塗布した基板は、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、90℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行って、R画素部にのみ厚さ2μmのR色塗膜を残し、260℃のホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。つづいてブラックマトリックス、R色の塗膜を形成した基板に、G色用塗布液をスリットノズル20からの吐出速度1.0cc/s、スリットノズル20と基板との間のクリアランス120μm、門型ガントリー移動速度50mm/sにてタクトタイム60秒で塗布後、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行って、G色画素部にのみ厚さ2μmのG色塗膜を残し、260度のホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。
【0042】
さらにブラックマトリックス、R色、G色の塗膜を形成した基板に、B色用塗布液をスリットノズル20からの吐出速度1.0cc/s、スリットノズル20と基板との間のクリアランス100μm、門型ガントリー移動速度50mm/sにてタクトタイム60秒で塗布し、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行って、B色画素部にのみ厚さ2μmのB色塗膜を残し、260℃のホットプレートで30分加熱して、キュアを行なった。なお、G色用塗布液はR色用塗布液で顔料をピグメントグリーン36にして固形分濃度14%で粘度を3mPaSに調整したもの、B色用塗布液にはR色用塗布液で顔料をピグメントブルー15にして固形分濃度15%で粘度を4mPaSに調整したものであった。R、G、B色塗布液の塗布はいずれも、ブラックマトリックス塗布工程と同じ形状のスリットノズル20と予備塗布装置200、塗布液供給装置40を用い、特に予備塗布装置200についてはブラックマトリックスと同じ条件で予備塗布と塗布液、洗浄液の除去・乾燥を行って、スリットノズル20の初期化を行った。
以上ブラックマトリックスにRGB色を着色したものに、柱材とオーバーコート材を塗布後、最後にITOをスパッタリングで付着させた。この製造方法にて、1000枚のカラーフィルターを作成した。得られたカラーフィルターは、塗布開始部にパーティクルやすじ欠点がないのはもちろんのこと、塗布むらもなく色度も基板全面にわたって均一で、品質的に申し分ないものであった。
【0043】
さらに、このカラーフィルターをTFTアレイを形成した基板と重ね合わせ、オーブン中で加圧しながら160℃で90分間加熱して、シール剤を硬化させた。このセルに液晶注入を行った後、紫外線硬化樹脂により液晶注入口を封口した。次に、偏光板をセルの2枚のガラス基板の外側に貼り付け、さらに、得られたセルをモジュール化して、液晶表示装置を完成させた。得られた液晶表示装置は混色がなく、色度も基板全面に渡って、均一で品質的に申し分ないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るスリットコータ1の概略正面図である。
【図2】回転ロール202の詳細を示す拡大概略正面図である。
【図3】予備塗布装置200での予備塗布状況を段階的に示した概略正面図である。
【図4】予備塗布装置200を用いた別の予備塗布方法による予備塗布状況を段階的に示した概略正面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 スリットコータ
2 基台
4 ガイドレール
6 ステージ
10 門型ガントリー
20 スリットノズル(塗布器)
22 フロントリップ
24 リアリップ
26 マニホールド
28 スリット
32 シム
34 吐出口
36 吐出口面
38 斜面
40 塗布液供給装置
42 供給バルブ
44 吸引バルブ
46 フィルター
50 シリンジポンプ
52 シリンジ
54 ピストン
56 本体
60 供給ホース
62 吸引ホース
64 タンク
66 塗布液
68 圧空源
70 昇降ユニット
72 モータ
74 ガイド
76 ボールネジ
78 昇降台
80 吊り下げ保持台
100 制御装置
102 操作盤
200 予備塗布装置
202 回転ロール
204 洗浄液吐出ノズル
206 ブレード
208 ガスノズル
210 ブラケット
212 トレイ
214 排出管
216 配管
218 ガス吸引管
222 吸引配管
224 洗浄液源
226 洗浄液配管
228 洗浄液切換バルブ
230 ガス供給源
232 ガス配管
234 ガス切換バルブ
236 フレーム
250 溝
252A〜H 予備塗布面
254A〜H 終了エッジ
256A〜H 開始エッジ
260 回転ロール
262 予備塗布面
A 基板(被塗布部材)
B ビード
C 塗布膜
D スリットノズル20のスタンバイ位置
L1 溝250の幅
L2 溝250の深さ
Lc 予備塗布長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出するために一方向に伸びる吐出口を有する塗布器から回転ロールに向かって塗布液を吐出して予備塗布を行い、引き続いて被塗布部材に塗布を行う塗布方法において、少なくとも2回以上予備塗布を行うことを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記予備塗布は、断続的に配置された予備塗布領域で行うことを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記回転ロールに少なくとも2箇所以上予備塗布された塗布液の除去は、全ての予備塗布終了後に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の塗布方法。
【請求項4】
塗布液を吐出するために一方向に伸びる吐出口を有する塗布器と、塗布器から塗布液が回転ロール上に吐出されて予備塗布を行う予備塗布装置と、塗布器の初期化後に引き続いて被塗布部材に塗布膜の形成を行う本塗布装置と、回転ロールに予備塗布された塗布液を除去する洗浄装置と、を備えた塗布装置において、回転ロールは長手方向に伸びる複数の溝を備え、溝間の回転ロール表面が予備塗布領域となることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
前記洗浄装置は、全ての予備塗布が終了してから洗浄が行える位置に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の塗布装置
【請求項6】
請求項1〜3に記載のいずれかの塗布方法を用いて液晶ディスプレイ用部材を製造することを特徴とする液晶ディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−154106(P2009−154106A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335864(P2007−335864)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】